Coolier - 新生・東方創想話

ようこそ『裏・兎角同盟』に

2006/08/22 09:55:34
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「―――であるからして」

鈴仙が侵入者襲来時のフォーメションをホワイトボードを使って説明していた。

そう今は兎角同盟のミーティング中である、兎角同盟とは鈴仙・優曇華院・イナバを中心とした兎達の組合である。
主たる活動は『兎食禁止運動』であり、兎を食べる事を止めるようにと広めている、それでかつては博麗神社などと真っ向から対立したりした。

そして現在はそんな活動を進めつつ戦闘技術や弾幕ごっこのルールなどを教えている、これは兎が自分の身は自分で守れるようにするためのものでいわば護身術、食べられないようにするためだった。

兎達は鈴仙が言う事をある者は正座、ある者は体育座りで真剣な面持ちで聞いている。
鈴仙は月の兎であるが意外と地上の兎にも人気があり、思いの外好かれていた。

「ええ、なかなか統率力あっていいリーダーですよ」
「鈴仙様見かけによらず強いんですよ、ばらまき弾とあの瞳はなかなか手強いですしね」
「ウサミミブレザーハァハァ」
と因幡達が語る。関係ないっぽいのが混ざってるって?気のせいじゃないですか?



……話を戻そう。



そんな鈴仙が話している間も居眠りをしたり、人語が理解できないため頭の上にクエスチョンマークを出しながら聞いている者、最悪な者はうまく隠れるように部屋の隅で寝転がっている。

同じ同盟にいようと所詮兎の団結力なんてこんな程度だ。

「今日の兎角同盟のミーティングは終了!解散!」
そんな中、今回の集会も無事終了した。
『お疲れさまでした!!』
「じゃあ、今度は一週間後ね」
そう言うと鈴仙は資料をファイルにしまって出ていった、それに続いて兎達がゾロゾロと外に出ていく。






しかし、他の兎が出ていく中、席を立とうとしない者達がいた。


それらの者以外の兎が全て部屋から出ていって部屋が静まりかえったころ、全ては始まる。

「それじゃあ始めましょうか……」
その声に残っている兎達が反応する。


「これより裏・兎角同盟のミーティングを始めるわよ」
部屋の隅っこでやる気無く寝転がっていたてゐが立ち上がって号令をかけた。








―――さて、裏・兎角同盟とは何か?

裏・兎角同盟とはその名の通り兎角同盟の裏の組織、別名『兎円卓会議』とも呼ばれる。
裏・兎角同盟に入れる者達は人語が理解でき、また妖力も普通の兎達よりも高い兎達。
まずは議長である因幡てゐを中心とした10人の兎界のVIP達、
そして法的措置を司っている裁判委員が5名、
最後は因幡隊の隊長5名の総勢20名で構成されている。。
ちなみに鈴仙・優曇華院・イナバがメンバーとして入っていないのは兎語が通じない上に永遠亭のトップの二人に近すぎる存在であるためだからだ。




てゐの号令と共に兎達は円状にサークルを作り座る。

「あれ?なんか少なくないですか?」
兎の一匹がそう言った。よく数えてみると二羽足りない。

すると裁判側の兎が手を挙げた。
「後の二人は先ほどのミーティングの時からいませんでした」
「そう……じゃあ2人いないけど始めるわよ」
まあ、2人いようといまいと関係ないと考えたてゐは会議を続行する事に決めた。

「ちょっと待ってください!」
バンッ!とドアが開かれて一羽の兎が入ってきた。

「さあ入れ!」
そしてもう一羽の兎に引かれて入ってきたのはすでにボロボロになった一羽の兎だった。

「そいつは誰なの?」
「こいつはですね……食糧配給係という地位を利用して毎月ニンジンを何本も着服し、またそれを横流ししていたんですよ!」
「これが証拠の資料です」
「ふむ……」
「先ほどのミーティングの際に部屋に強制立ち入りを行い発見しました」

資料は他の裁判委員、そして他の兎にも渡されみんなぺらぺらと捲って見た。
そして裁判委員5名はヒソヒソと何分か話し合った後、その中の一羽が立ち上がっててゐに近づいてなにやら耳打ちをした。

「………被告人を再教育室に連れて行きなさい」
「!!」
「他に意見のある人は?」

てゐは周りを見渡すが挙手をする者はいない。よってこの判決は享受された。

「そんな!いやだ助けて!俺にはまだやりたい事がたくさ――――」
泣いて命乞いする兎を連れてきた2匹の裁判委員が引きずって連れて行く。
何名かは耳を両手でふさいで聞くまいとしている。


―――再教育室とは所謂拷問室とかではなく死刑囚が収容され死刑を執行する所である。分かりやすく言うなら屠殺場である。
かつて兎角同盟と博霊神社が兎鍋事件で対立した。そしてしばらく確執は続いていたのであるが今では『兎鍋半分、鳥鍋半分』で妥協されておりなんとか落ち着いている。


しかし、困った事が起きた。

つい数週間前、裏・兎角同盟のメンバーの一羽が食われたのだった。

いくら兎鍋を容認したと言っても兎界でのVIPが食べられたのでは元も子もない。

で、残された円卓会議のメンバーは考えた、『重度の犯罪を犯した者、規律を破った者を兎肉として差し出す法令』を可決したのだ。
その話は表には広まっていないが犯罪を犯すことの制止力には十分になった。
それより犯罪を犯す者はグッと減ったのだ。

しかし、今だに犯す者はいる。そんな者たちは更正室へ連れて行かれ捌かれる、そして鍋に放り込まれる運命を辿るのだ、死刑執行猶予は次の宴会が開催されるまで。



そもそも裏・兎角同盟はこんな殺伐としたモノではなかった。
元々は甘っちょろく統率の取れていない兎達をまとめ上げ自治・管理を行い兎達にとってより住みやすい理想郷を作ることでが目的であった。
しかしながら、実際あまり犯罪も行われず、鈴仙のお陰かは知らないが何となく丸く収まっていたので裏・兎角同盟が主だって行動する事はなかった。あっても「今年の冬は温泉でも行こうね~」とか「ニンジンの美味しい調理法」とかを話し合ったりする程度だった。


―――しかし、最近状況は一変した

最近、兎の数が日に日に増え一部では食糧難を起こし始めているのである。
それに伴いニンジンやキャベツなどの野菜の物価も上昇し、手に入れる事の出来ない者も出てきた。
確かにニンジンを横領したくらいで死刑とは少し酷すぎるのではないか、と言う意見もあるが、野菜の値上がりに目をつけた者が野菜を盗んで転売したり、大根を赤く塗って偽物を売りつける者などが出てきた。それを見据えた円卓会議は『野菜に関わる犯罪を犯した者は即死罪』とした。今や野菜にまつわる犯罪は重罪なのだ。

「議長!」
「なに?」
「今日は犯罪の対策について話し合いませんか!」
「そうです!最近の因幡達の犯罪には耐え難いものがあります!」
「そう言えば……最近あまりニンジンも食べて無いねぇ……」
「くそっ!なんて時代だ!」


ざわざわ       ざわざわ      ざわざわ
       ざわざわ                    ざわざわ
                   ざわざわ              ざわざわ


「静粛に!」
てゐの言葉に静まる兎達。

「みんな安心しなさい。実はある計画を近々決行するつもりなの」

「ほ、本当ですか議長!?」
「ええ、ホントよ」


ざわざわ       ざわざわ      ざわざわ
       ざわざわ                    ざわざわ
                   ざわざわ              ざわざわ

「静粛に!」
てゐの一言で再び静まる兎達。
「しばらく猶予を頂戴、私が何とかするわ。何か意見は!?」
すると一羽の兎が手を挙げた。
「えっと、その計画とはどのようなことなのですか?」

しばしの沈黙、皆の視線はてゐに集中した。

「それは……教えられないわ。みんなを巻き込みたくないもの……」
「そんな!私達協力します!」
「ダメ!これは私一人で実行するわ!」
そのてゐの威圧に押されてみんな黙ってしまった。

「他には!?」
挙手をする者はいなかった。
「いないわね。それじゃあ解散!」
てゐが再び号令をかける。
『お疲れさまでした!!』



その後は定例通りのキャロットキャンディの掴み取り大会が行われた。




◆ ◆




所変わって、ここは魔法の森。


森の奥深くの一本の大木に3匹の妖精達が住んでいた。


「今日も暑かったわね~」
妖精――サニーミルク。

「そうね、今は夜だから涼しいけど、昼間はなんかジメジメして蒸し暑いのよねぇ……」
同じく妖精――ルナチャイルド


「いいじゃないサニーは……日光を浴びた方が調子がいいんでしょう?」
「確かにそうなんだけど、さすがに暑いのには耐えられないわ」
そう言って再び暑さにうだる二人だった。

「そうだ!!」
サニーミルクは机をバンッと叩いて立ち上がった。
「ねえねえ!前みたいにまた引っ越しするってのはどう?何処か涼しい所へ」
「う~ん、紅魔館で働くのも嫌だし―…だからといっていい場所を知ってるわけでもないのよねぇ……いい不動産屋でもないかしら?」
そう言うとルナチャイルドは読みかけの本を開いた。
「そうなのよね……」
サニーミルクはため息をついて再び椅子にもたれ掛かった。

「ところで、スターは何処へ行ったの?」
「知らないわ。昼くらいから何処かへ出かけちゃたみたいよ」
「へぇ~どこにいってるのかしら?」
「と、噂をすれば帰ってきたわよ」
外から階段を駆け上がる音がした。

バァン!
そして次の瞬間、ドアがけたたましく開かれた。

「ただいま! みんな!明日引っ越すから支度しなさい!」
スターサファイアはドアを開けて入って来るなりそう叫んだ。

「なによ唐突に!?」
ルナチャイルドは読みかけていた本を閉じた。
「何処に?何処に?」
かたやサニーミルクは既に引っ越しする気は満々だった。

「まあ、焦らないでよ。何処に行くかは後のお楽しみよ」
「なによもったいぶっちゃって」
そう言いながら荷物をまとめるサニーミルク。
「ああ、あと明日は早く起きないと計画が実行できないから朝六時起きね。そのぐらいに迎えの人が来るわ」
「案内人までいるの?」
「まあ、それも明日のお楽しみよ」

大丈夫なのだろうか?
そんなふうに思いながらも支度するルナチャイルドも実は心の中では楽しみだった。











~次の日の早朝~


「今日もいい天気ね」
グッと背伸びをするスターサファイア。

「そうねスター。……でその兎は誰?」
スターの隣には一羽の妖怪兎が立っていた。


するとスターから思いがけない言葉が出た。

「この人はね、道案内兼スポンサーよ」
「「スポンサー?」」
「そう私達に悪戯の場を提供してくれるの」

「ちょっと、信用できる人……兎なの?」
「ちなみにサスペンスとスペクタクルに富んだあの出会いを語るにはまる一日ほどかかるわよ」
「いえ……もういいわ。でもなんで今回はそんなスポンサーまでつけてやるの?」
「そうよ!それよ需要なのは!」
「え!?」
「最近私は気付いたわ、私達の悪戯は効率が悪いと……。ばれちゃうのは仕方ないけどあくまでもローリスクハイリターンでいきたいじゃない?」
「って、いつもスターだけが楽して、ばれそうになったら逃げるくせに」
「そうよ、そうよ」
「そんな過去にとらえられていたら進歩は無いわ、前を向かなきゃ、道は前に開けているのよ」
「(なんかうまく誤魔化された気がするわ……)」


「でも安心して。今回は私が頑張るから」
「本当?」
「本当よ、と言うか私じゃないと出来ないのよ、今回の作戦はね♪」


「もう準備は整ってるわ、早く早く~」
そう言っててゐは先に歩き出した。

「さあ行きましょう♪」
「本当に大丈夫なのかしら?」
「さあ……」
それを追いかけてスターが歩き出した、そしてその後ろを半信半疑のサニーミルクとルナチャイルドがついていく形となった。

「ほらぁ早く早く!」
「あぁっ!待ってよ!」
「待ってってば!」

こうして3匹の妖精と一羽の兎は魔法の森を後にした。




◆ ◆




チュン チュン

どこかで鳥が鳴いている……私は布団の中でそう思った。
寝返りをうち布団から頭を出すとそこは私――蓬莱山輝夜の部屋だ、いつもと変わりない。
もう一度眠りに落ちようと何度も寝返りをうつが何故か眠る気が起きない。
そんな事を5セットほど行った後、ようやく私は起きる事を決意した。

布団から体を起こし、ん~、と背伸びをし完全にまどろみから覚醒した。

それにしても……今何時くらいだろう?
永遠亭の周りは竹林で覆われているため太陽の光があまり射してこない。
よって今が何時なのかがよく掴めないところがある。
私は枕元に置いてある時計に目をやる。

00:24

幻想郷では珍しいデジタル表示の時計には見事に上二桁がゼロゼロと刻銘に刻まれていた。
もうお昼って事ですか、そうですか。
そりゃ寝られないわよねぇ……。

あと、さっきから体に覚える倦怠感は空腹感からきたものだったのね、納得。
とりあえず布団をすっ飛ばし朝食……いや昼食を食べに私は部屋を出た。
私の部屋から今は多少距離がある、廊下をしばらく歩かなければならない。もっと居間に近い部屋に移ろうかしらと思った。

居間に着き、障子を開けると永琳と鈴仙が後かたづけをしていた。
てゐは見あたらないところを見るとどうせ逃げてしまったのだろう、あの子めんどくさがり屋だし。
まあ、そんな事はどうでもいい。
いま現在での最優先事項は昼食を取る事、それ一つのみだ。

そう思って、私は自分の席に行ってみた、私の席は上座で私だけ座布団が豪華な感じなのですぐに分かる。



しかしどう見ても私のご飯は用意されていなかった。

が、困った事があったら永琳に聞く』がモットーの私だ。

「永琳、私のご飯~」
近くにを歩いていた永琳を捕まえて、そう言った。

すると永琳は驚いた顔をしておかしな事を言った。
「え?さっき食べたばかりではないですか」、と。

「え?」
次は私が驚く番だ、私が食べただって……?
私は部屋から出ていない、なのに永琳は私が既に昼食を食べたという。

「それは本当なの?」
「いえ確かに姫様で……あ、てゐ丁度良かった。姫先ほどお昼ご飯食べてたよねぇ?」
永琳は偶然にも近くを通りかかったてゐに聞いた。

「? ええ、確かに食べていましたよ永琳様」
「そうよねぇ……」
「どうかしたのですか?」
「ええ、姫様がまだお昼ご飯食べてないって……」
「え~!?輝夜様あんなに食べてらしたのに覚えてないんですか?おっと私はやる事があるのでお先に」
てゐはそう言って再びどこかへ行ってしまった。

あれ……?あれれ? 確かに私今まで寝てて……。

「食べてしまってすぐに寝てしまったのではないですか?姫様食べに来るの早かったですし」
今だに不思議そうな顔をしている私を見て永琳はそう言った。
「う~ん、そう言われてみればそんなん気もしてきたような、しないような……」
「きっとそうですよ」
「う~ん」
私は疑問と空腹感をを持ったまま居間を後にして部屋に戻った。

私ボケたのかしら?




◆ ◆




今だに空腹感があるので部屋でのんびりして体力を温存していた。
そして待ちに待った夕食を食べに居間に向かった。さすがに夕食まで無くなっていることはあるまいと思いつつ。


しかし、その思いは無情にもうち砕かれた。私の席には何も置かれていない。
その上、永琳、鈴仙、てゐ達に聞いて回ったのだが、みんな口を揃えて言った「姫が食べていたのを見た」と。
さすがに二回立て続けに起こると私も怪しんでくる。
と、いえどこれほどの人が私を目撃しているのだ一体何が起こってるのかさっぱり分からない。


……まあそれは置いておいて。

「ねえ、永琳お腹空いたよ~」
朝と同じくして、歩いている永琳をとっ捕まえる。まずは、何か食べるものを探すのが先決だ。

「え~とですね、申し上げにくいのですがもう何も残ってないんです……」
永琳は申し訳なさそうにそう言った。

「……何も?」
「ええ、残ってるモノと言えば人参くらいしか……」
「いえ、もういいわ……」

そうして再び私はふらふらとした足取りで部屋に戻った。

部屋に戻ると何が起きているか考えることもなく布団に倒れ込んだ。
不老不死といえどお腹はすくのよ……。

もう寝よう―――。




◆ ◆




朝、私は空腹で目が覚めた。そしてふらつきながらも急いで朝ご飯を食べに居間に向かった。


やっぱり私の分のご飯がない……。

そして相変わらず『私』の目撃証言。

「ちょっと、永琳!もしかしてみんなで私を餓死させようって魂胆?いや死なないけど。何これ?新手のイジメ?」
「いえ、そんなつもりは……」
「それに何!?なんでいつも何も残ってないの?余分にいくらか作るでしょ!?」
「いえ、少しばかり余分に作っているのですが、姫の友人の方の分になってしまっていて残らないんですよ」


……ちょっと待て。

「永琳……今なんて言った?」
「いえ、ですから、姫のご友人の方が……」

「いい? 永琳。私は友人なんて招いて―――」

「どうしました?」


「……ううん、何でもないわ。後片づけ頑張ってね」
「? 分かりました」
永琳は不思議そうに首を傾げているのを後目に私は居間を出た。





私は再び廊下を歩いて部屋に戻り、障子をピシャリと閉めた。







もうお終いにしよう、こんなことは。

私はようやく気がついた『誰かが私になりすましている』と。

でも、それも今日で終わり、私の偽物は今日でお終い。

たとえ、それが私の分身だろうとドッペルゲンガーだろうとね。

ジワジワとなぶり殺しにしてくれるわ!

アハハハハッハハッハハッハハッハハハハハハハッハハハハッハハ―――……。





◆ ◆




私のミッションは永琳が昼食を作り始めたときから始まった。


・ミッションその1
居間に潜伏せよ。
まずは食事前に居間に潜伏する必要がある。
頭の中で居間の見取り図を思い浮かべる、机の配置と死角の角度、それによりある場所を私の脳のコンピュータはうちだした。

『それは机の下である』

居間の机は大きく高さも丁度人が入れるくらいである、かつて鈴仙や兎達がかくれんぼで使って永琳にこっぴどく叱られていた記憶がある、それで思いついた。
単純なようで最も身近な死角、灯台もと暗しとはこのような事を言うのだ。


・ミッションその2
私の偽物を確認せよ。
これは簡単だ。偽物が席についた途端飛び出ればよい、机をぶっ飛ばしてサプライズ的登場も可。


・ミッションその3
私の偽物をSATSUGAIせよ。
確認したら即座に排除フェイズに移行する。
おそらく突然の出来事についてこれないだろう標的をまず左フック、そしてふらついた所に側頭部にハイキックをぶち込み相手がマットに沈んだ所にマントポジションからの神技『君が泣くまで殴るのを止めない!』を発動、この連携コンボにより開始数秒にして相手は再起不能。

やった!偽輝夜編完!

こいつでミッションコンプリート、最後にその場にガッツポーズで立っているのは私。
ミッションランクSSは確定なわけだ。

我ながら完全な作戦、スキマは何処にも見あたらない、グレイズなんて絶対に許さないわよ。


そんな事を考えながら廊下を歩き居間に向かう。

「ククク、腕が鳴るわぁ」
踊る気持ちを心に隠しつつ、居間に向かう足が自然と速くなる。

そのため私が曲がり角から現れた人影に気付くわけもなかった。

ドン

居間まで後少しの所であった、次のコーナーを曲がればすぐそこであったのだが。
上の空になっていた私は曲がってきたその人影に気づくことなく進んでしまったため、その人物とオフセット衝突してしまったのだ。

「痛つつ……まったく、こんなんでフラグ立つのはゲームの中だけでじゅうぶ――」
私は吹っ飛び尻餅をついてしまった。
ぶつかったヤツの面を拝んでやろうとその人物を見た。


そう何故かそいつは私にそっくりなのだ。


―――その長い黒髪

―――そして雰囲気

―――そしてその服装



―――そしてその羽



ん?羽?



「痛った~い」
その人物はどうやらぶつけたらしい頭を手で押さえつつ悶絶していた。

「うん?」
そしてゆっくりと私の方に顔を上げた。

「……あら?」
その人物は額に汗をかいて目を宙に泳がせた。明らかに動揺している。

「それじゃあ私はこの辺で~」
そして、そそくさとその場を退散しようとした。




ど う 見 て も




「お前が犯人だろぉぉっっ!」
私のドロップキックが炸裂した。






◆ ◆






「貴方ね!?私のご飯食べたのは!」
計画とは少し違うがまあいい、見るからにこいつが犯人なのは明確だ。

「(∩ ゚д゚) <アーアーアー きこえなーい」
「ふ~ざ~け~る~な~!」
そいつの襟首を掴んで激しく揺する。
こいつ……ここまできてまだしらばっくれるつもり?

「何?何事?」
「なんか凄い音しましたけど、大丈夫ですか?」
その騒ぎを聞きつけみんなが集まってきた。

そしてしばしの間


『え~!?姫が二人いる!?』
みんなの叫び声が永遠亭中に響き渡った。







ってオイ

「ちょっと!こいつの背中よく見なさいよ!羽はえてるじゃない!」
つーか羽生えてる時点で間違えんなと。みんな注意力が散漫すぎるわよ。


「え?輝夜様って羽生えてませんでしたっけ?」
「ん~と、確か生えてたような……」
「つ~か既に顔も忘れた」


オイ

「よ~しみんなそこに並びなさい み ん な ブ ッ コ ロ し て あ げ る か ら」

「やめなさい!」
すると突然その偽物は両手を広げみんなの前に立ちふさがった。

「貴方が何者か知らないけど、みんなを傷付けるなら容赦しないわ!」
「この~!偽物の分際で!私に楯突くつもり?」
「あら偽物はそっちじゃないのさ」
「え?」

ヒソヒソ
「やっぱりこっちの方が輝代様じゃない?」
「そうよね」
「って言うかこっちの方がいいわね」

「コラーー!!」
「ほらみんなそう言ってるじゃない」
「私が本物!本 物 な の !」
「そう……じゃあ、みんなに決めてもらえばいいじゃない」
「そんなことしなくても私が本物よ」
「ふ~ん、なんだ自信ないんだ」
「な、なにを!」
「もしかしたら偽物の方が選ばれちゃうほど本物の輝代さんはカリスマが無い存在なのかしら~?」
「ぐっ!ぐぐぐ……」
「で、どうするの?」
くそっ!人を小馬鹿にしやがって~!

「そんなの――……望む所よ!!」
私が本当のカリスマと言うモノを見せてあげるわ!!








どちらが本物かどのよう決めるかしばらく話し合った結果、永遠亭で最も輝夜と話す存在である、永琳、鈴仙、てゐの3人に選んでもらう事にした。
この3人の内より多くの人が選んだ方が本物の輝夜と言う事になる。

「さあ最初はてゐよ」
まずはてゐに決めさせる。
てゐとはまあまあのつき合いだ、きっと私を選んでくれるだろう。

「え~っと私はこっちが本物の姫様だと思います」
そう言っててゐは偽物の方を指差した。

「よし殺す」
私は音速のスピードでてゐを殴りにかかった。
「ほらほら、落ち着いて。まだ一人目よ。まだ挽回の余地はあるわ」
そう言って偽物は私の肩を押さえた。
「そ、そうよね……」
私は振り上げた手を引っ込めた。
そうだ、まだ一人目だ、ここで取り乱しては今後の投票に響く。
そうよ所詮てゐだし仕方ないじゃないか。まだ焦る時間じゃない、あと二人がキッチリ私を選べば私が勝利だ。


「さあ、次は鈴仙よ」

「あ、はい」
二人の輝夜を見比べる鈴仙。
二人目は鈴仙か……まあ鈴仙なら間違えないだろう、でももし間違えたら……。

「え~っと……ヒィッ!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

輝夜の周囲にはフォースの暗黒面に取り憑かれたような負のオーラが某サイヤ人ばりに出ている。
そして『間違ったら今晩の兎鍋に入れる』ってな目をしていた。

「わ、わ、私はこっちが姫だと思いますっ!!」
そして鈴仙は凄い勢いで私に投票した、私のカリスマに引かれたのね、うんきっとそうに違いない。

「流石よ鈴仙!貴方は昔からやれば出来る子だと思ってたわ」
私は鈴仙に抱きついて頭を撫でてやった。何故か鈴仙はガタガタと震えていたけど。
でも、これで勝敗は五分五分よ、というか負ける意味が分からない。
本物は私。私が負ける筈が無いのだから。



そして運命を分ける最後の一人となった……。

「さあ最後は永琳よ、貴方が決めた方が本物よ」
ふふ……私と永琳は何千年ものつき合いだ、流石に永琳が間違える訳ないだろう。

「そうですね……本物の姫は……」
そう言って永琳は指を私の方に向けた、ふふこれでこれでこの茶番も終了よ!


すると突然偽物の方が永琳の方に歩み寄った。

そして永琳に抱きついてこう言った。

「え~りんだ~いすき!」

「こちらが姫様でございます」
この間、1秒もかからなかった。
永琳は偽物の方を選んでしまった。


って


「おいコラ、明らかに騙されてるって!」

「永琳ってあったか~い」
「そうですか~うふふふふ……」
既に偽者に抱きつかれ骨抜きにされていた。
必死の私の言葉も偽者の術中にはまった永琳に届かなかった。

「ねえ!ちょっと!」
「おっと失礼鼻血が」
「鼻血拭いてないで私の話を聞けぇ!」

「でも、これで本物は私に決定ね。貴方はただのそっくりさんってことよ」
「私が本物だって!」
「五月蠅いわね~。ねえ、え~りん。イナバ達が最近人参が少ないって言ってて可哀想なの、私の持ってる蒐集品売っていいから買ってあげて~」
「なんという優しさ!感激です!そうですねそういたしましょう!」
「やめてー!!」
「あら偽物が何か言ってるわ」
「ホントですね」
そう言ってニヤニヤ笑いながら私の方に侮蔑のまなざしを向ける二人。
「ぐぐぐ……」
既にこの二人には完全に何も通じそうになかった。

くっ!こうなったら実力行使しかないわ!ってかそもそもそうするつもりだったしね!
私は袂に手を入れた、向こうに永琳がいては分が悪い、計画にはなかったがスペルカードを使うしかない!

ゴソゴソ

あれ?

ゴソゴソ ゴソゴソ

あれあれ?

「もしかして、お探しのモノはこれかしら?」
そう言って偽物が取り出したのは蓬莱の玉の杖のスペルカード。

「な、なんでアンタが持ってるのよ!?」
「そりゃ、本物だし」

「くっ!盗んだわね!龍の頸の玉!仏の御石の鉢!火鼠の皮衣!燕の……」
全身くまなく探してみたけれど、どれ一つとして持っていなかった。そう肉弾戦でぶち殺すことしか頭に無かったのでスペルカードの所持を確認せず来たのが敗因だった。

ポン
そして私の偽物は私の肩を叩いてこう言った。

「ほうらいさんてるよさんでしたっけ?」


「うわーん!!」

そうして私は永遠亭を逃げ出した。




◆ ◆




「あ~大漁大漁」
私、藤原妹紅は川で魚釣りをして帰路につく所だった。
手に持ったバケツには十匹程の魚。今日は大漁だった、余りにも多すぎて食べれ無そうだったので今しがた慧音に何匹かお裾分けしてきた。それでも余りそうなので今日食べた残りは干物にするつもりだ。


そしてもう少しで私の家だという所であるモノに気がついた。

「何だありゃ?」
私の前方数十メートル先の道ばたに何か黒い物体が横たわっていた。
私は歩く足を速めてその物体を確認しに行った。






「何だ輝夜か」
てっきりゴミか何かか、動物の死骸かと思ったのだが。近づいて見ると一発で分かった。状況を言ってみるなら輝夜がぶっ倒れているだけだ。
どうしよう?このまま埋めようか?

しかし、何故輝夜が道中で倒れているのか気になる。
よって真相を確かめるべく、嫌だが起こしてみる事にした。

「お~い、生きてるか~。いやむしろ死んでて欲しいんだがな」
輝夜の体を揺さぶって声を掛けてみる。

「も、もこ う……」
すると輝夜の口からかすかな声が漏れた。

「生きてたか……、どうした?」
「最後に一つお願いが ある の……」

「まあ、最後くらい聞いてやってやらなくもないが」
どうせ死ぬ事はないんだろうけどな……。









「私のために毎朝みそ汁を作って頂戴」


……ふむ。


「不死『火の鳥 鳳翼天翔』!」
「のわー!!」

やっぱりこいつは殺しとこう、その方が世のため人のため……そして主に私のためだ。














ガツガツガツ
輝夜は白米を出来る限り口に詰め込み、それをみそ汁で流し込むというリスとかハムスターもビックリの食べ方で快調に爆食していた。それにしても既に上品さなどからはかけ離れてる食べっぷりだ。
最初の頃は「ぁ・・ぁぁ・・・」とか言って手をつけていなかったんだが食べ始めたらとんでもなかった、っていうか焼き魚を手で掴んで食べるな!貧しい農民かよ!

「ああもう!落ち着いて食え、見てるこっちが胸焼けしてくる!」

って言うか、なんで結局コイツ(輝夜)に飯を食わせてやってるのが意味が分からない。
あの後小一時間弾幕ったが最終的に私が輝夜の鬼気迫るアタックに根負けしてしまった。と言うかノーガード戦法よろしく神風タックルしてくるのは非常に怖かった、つーか符を使え。

「それで一体どうしたんだ?こんな所で行き倒れて」
「ふぉれがね みんやったら ふぃどいゆのよ」
「分かった、分かったから飲み込んでから言え。そうじゃないと何言ってるのかさっぱりだ」

ごくん

「ごちそうさまでした」
「ああ…で、何があった?」

しばしの沈黙が流れた。

「ねえ、私が誰だか分かる?」
その沈黙を破ったのは輝夜の意外な一言だった。

「はあ!?」
「ねえ私は誰?」
「へっ!そんなのとおの昔に忘れちまったね」
私は冗談かと思って適当に答えた。
「真面目に答えて!」
ビクッ!突如大声を出して来たので驚いてしまった。どうやら輝夜は本気らしい。

「そりゃあ……蓬莱山輝夜だろ……」

そして再びの沈黙。
よく見ると輝夜の体がブルブルと震えている。

「私を本物だって言ってくれるのは貴方だけよ妹紅―!!」
輝夜は私に向かってダイブしてきた。
「どわぁっ!なんだ一体!?」
「ああ、妹紅~」
「こら!くっつくな!」
くっついてくる輝夜を力ずくで引っぺがし、それでもなお近づいてくるのを足を使って遠ざける。

「で!結局何があったんだと聞いてるんだ!」
「そう!それよ!」
輝夜は私の足をすり抜けずいっと顔を近づける。

「お、おお……」
真剣な顔つきで見つめる輝夜に私は少し圧倒された、おそらくとんでもないことがあったんだろう……。

「……」
「……」

「ん~」
しばらくの沈黙の後、どさくさに紛れて輝夜は私に接吻をしようとしてきた。
「ってコラぁっ!」
瞬時に後ろに顔を引きカウンターで右ストレートをぶち込む。
やっぱさっき殺しとくべきだった。

「痛い! そう……妹紅も私を見捨てるのね……」
よよよ、と旦那に見捨てられた未亡人のように泣き崩れる輝夜。

「ああ、もう!話が進まないだろ!いいからさっさと話せ!どうせそんなんだからみんなに見捨てられたとかだろうが!」

「……」
「??」


「きぃー!今考えてもねたましいぃ!!」
急にどたばたと暴れだしポケットから出したハンカチをギリギリと噛む輝夜……あ、破れた、って食うなよ。
「なによ!なんなのよ!どうせみんな私がカリスマ度が少ないからって馬鹿にしてるんでしょ!『紅魔館とか白玉楼とかマヨイガの連中はあんなにもカリスマに溢れてるってのに永遠亭の主人ときたら……』とか思ってるんでしょ!」
「ふ~む、そのリアクションから見るにマジで見捨てられたっぽいな」
「そうよ私は捨てられたのよ!なによみんな私の偽物なんかにうつつになっちゃって!」

ん?偽物?

「おい『偽物』とはどういう事だ!?……っていうかまず落ち着け」
私は涙と鼻水を垂れ流している輝夜にちり紙を渡した。




~一時間後~




「本当か?その話」
「ええ……」
あの後、茶を飲んでようやく落ち着いた輝夜から事件の全貌を聞き出した。

「羽が生えてるからおそらく妖精のたぐいだと思うわ、スペルカードがあればあんな奴らなんか何とかなるのに……」
「永遠亭は今どんな感じになってるんだ?」
「既に永遠亭のみんな騙されてると思うわ……そして偽物が好き勝手してる」
「ふ~ん」

私は輝夜の話を聞きながら適当に相づちをうっていた。



それにしてもこいつの偽物ねぇ



そいつは……










ひどく面白そうじゃないか。





◆ ◆





そのころ三妖精達は部屋の中でゴロゴロとしていた。

「いや~それにしても大成功ね」
「ホントホント」
まさかここまで成功するとは思わなかった。
ちなみにさっきの行動はてゐから教えられた『もし本人と鉢合わせしてしまったときの対処法』だ。
挑発すれば十中八九乗ってくるし、乗ってきたら先ほどのように永琳を味方につけてしまえばよいとも聞いていたので余裕だった。

「それにしても……誰も気づかないわねぇ」
「そりゃあさ……さっき本物の主人を見てわかったけど、そっくりなんだもん」
「そうそう、うり二つだったじゃない」
「そう?ふふふ、よ~しこのままこの館を乗っ取っちゃうわよ~」
「「お~」」
このままずっと居座れるんじゃないだろうかと思った。
そうすれば夏でも冬でも快適に過ごせるだろう、しばらくふりを続けようと思った。



そんな時だった。

ビー!ビー!ビー!
突如けたたましく鳴る警報音。
「な、何この音!」




「不死『火の鳥 鳳翼天翔』!!」



そしてメキメキと音を立てぶち破られる天井。
「きゃー!」
「な、何事?」




スッ

そして土煙と埃の中から一人の少女が現れた。

「あ、あんた誰よ……?」
「ん?惚けたのか?私の名前を忘れるなんて」
「え?え?」
今だに状況がまったく掴めない三妖精達。

「さあ輝夜!今日も殺し合おうじゃないか!」
そう言ってファイティングポーズをとる妹紅。
「ちょっと待って!こんなシナリオは無かったわよ!」
「何言ってるんだ?そっちが来ないならこっちから行くよ!」

「蓬莱『凱風快晴 フジヤマヴォルケイノ』!!」

「きゃー!」
逃げまどう三妖精達。

「あはははは!なんだ輝夜!今日は張り合いが無いじゃないか!」
そう言いながら妹紅は周りに火の粉を撒き散らす。

「ここままではまずいわ!みんな一時撤退するわよ!」
「分かったわ!」
突然の出来事によりパニックに陥っていた三妖精達はスターの合図を受けて逃げ出そうとした。

「おいおい逃げるなよ」
そう言ってスターサファイアの頭を掴む妹紅。
「離してよ~助けてえーりん!!」

「姫!大丈夫ですか!?」
その時ようやく永琳が到着した。
その後ろから大勢の兎達が部屋を包囲した。

「さあ、あなたに勝ち目はないわ。降参しなさい」
永琳はそう言った。
危うく殺されるとろだったが何とか助かったようだ。
頭を捕まれたままのスターは胸をなで下ろした。


「はたしてそうかねぇ?」
「え?」
スターは妹紅が口元に笑みを浮かべながらそう言うのを逃さなかった。


そして妹紅はこう言った。


「あれ?」


「何だコイツ輝夜じゃないじゃないか」
ギリギリとリンゴを潰す要領で頭を締め付ける。

「痛い!痛い~!そうよ私は偽物よ~!だから離して~!」




◆ ◆




輝夜は自室である人物を待っていた、隣には永琳も座っている。

妖精達に白状させた後、永琳は妹紅と共に輝夜を迎えに行った。

そう輝夜は永遠亭に戻って来ることが出来た。

妖精達を問いつめたらこの騒動の全貌をしゃべり出した。
自分達が輝夜のふりをしてご飯を食べていた事。

そして


てゐが黒幕だという事を。


ヒタヒタ
廊下を歩く音が聞こえ、部屋の障子の前に一つの影が現れた。

「失礼します……」
がらっと障子を開けててゐが入ってきた。


「さあ、てゐ そこに座りなさい」
「はい……」
しょげた様子でいつもとは違って素直に言う事を聞くてゐ。
どうやら自分が悪いことをしたという自覚はあるらしい。

てゐは確かに嘘をついたり悪戯をよくしたりするが今回は悪質過ぎた、それはどうしてなのか?
そう今から何故こんな事をしたのか聞くためにてゐを呼んだのだ。

「で、どうしてこんな事をしたの?」
「……」

「黙っていても――」

ポタ

「え?」

ポタ ポタ
「うっ…ううっ…」
見るとてゐは大粒の涙を零していた。

「……」
それを見て輝夜は黙った。きっと大きな訳があるのだろう。


そして数分後ようやく落ち着いたてゐが口を開いた。


「実は……最近兎達が食べるものが無いって困ってるんです」

「……」

「それはもう酷い状況で……」

てゐは続けた。

「ですから私がやるしかなかったんです。姫にそっくりな人を連れて来て兎達に野菜を与えるように命令させました……」

目に涙を浮かべながらそう言うてゐを輝夜は黙って見ていた。

そしてこう言った。

「確かに貴方の行動は立派な事ね、でも今回あなたがやった事は許されない事よ……」

「……」

「ねえ永琳」
「何でしょう?」
「今日の晩ご飯は何かしら?」
「いえまだ決めてませんが……なにかリクエストはありますか?」

「そうね……今日の晩ご飯は兎鍋よ」
輝夜は袂で口元を隠し微笑を浮かべててゐを見る。
「……っ」
みるみる青ざめるてゐ。


















「と、思ったけど止めたわ」
急に輝夜は笑ってそう言った。
「え?」

「永琳!」
「はい」
「私が月から持ってきた物、いくつか売って因幡達に野菜を買ってあげないさい」
「はい」
「え!」
「で、来月から因幡達の給金を少し増やしてあげなさい」
「かしこまりました」
「!! 輝夜様!」

「別にあんた達の為じゃないわよ、ちょっとでもカリスマ度上げないとかないとね~ほら紅魔館とか白玉楼の主人に負けたくないじゃない」
「う…うぅ…輝夜様ぁ…」
「あ~もういいから下がりなさい」




◆ ◆



そんな事があって後、しばらくして私は部屋から出た。

すると障子を通り抜けて中の会話が聞こえてきた。

(何よ永琳?ニコニコしちゃって)
(いえすみません、姫があんな風に言うなんて少し驚いてしまって)
(失礼ね私だって、一応みんなには感謝してるんだから)
(はいはい分かりました)
(もう!ホントに分かってる?ああ、後今日の晩ご飯は豪勢にしてよね)
(かしこまりました、と言うか今日は因幡隊みんな集めて食事にしませんか?)
(あら?宴会ってこと?)
(そうです、もちろん他の方達も呼びましょう)
(それはナイスアディアね、もちろん採用よ)
(分かりました、では姫も料理を手伝ってください)
(なんで私がそんなことしなくちゃいけないのよ!?)
(あれ?私達に感謝してるんじゃなかったですか?)
(ぐぅ……あんなこと言うんじゃなかった……)
(さあ行きましょう)
(あ~もう分かったわよ!行けばいいんでしょ行けば!)



それを聞いた後、私は自分の部屋に向かった。


ガサガサ

すると突然草むらから数羽の因幡が出てきた。そしてよく見ると周囲には大勢の因幡達が隠れていた、おそらく先ほどの話を聞いていたんだろう、兎は耳がいいし。

「てゐ様!」
「何?」

「これ……」
そして私の前に出てきた一羽の兎は私におずおずと手を差し出した、その手には1本のニンジンが握られていた。

「何これ?くれるの?」
そう言うとその兎はブンブンと首をたてに振った。

「そう……でも、貰えないわ」
その子を無視して私は再び歩き出した。

「そんなこと言わないで貰ってください!」
するとその兎は私の前に回り込み再び差し出した。

「でも……」

「てゐ様!」
近くの草むらから出てきた兎がそう言って同じようにニンジンを差し出してきた。

「え……?」
「私感動しました、てゐ様が私達のためにあそこまでしてくれるなんて!」

「てゐ様!私のも!」
「え?」
『てゐ様!』
すると一斉に兎達が草むらより出てきててゐの元に駆け寄った。


「あ、ありがとみんな」

『てゐ様!』『てゐ様!』『てゐ様!』『てゐ様!』


そのコールは永遠亭中に響き渡った。





◆ ◆






もう日も落ちかける頃

私はようやく部屋の前までたどり着いた。

私の部屋は少し狭いが一人部屋だ。
まあ他の兎達は二人で一部屋であったり、中にはもっと大人数で住んでいるから文句は言えない。
ドアを開けると狭い部屋にキャベツだのニンジンだの野菜が積まれていた、おそらく他の兎達が持ち寄ったのだと思う。

「ふう……」
私はニンジンで一杯になったカゴを床に置き一息をついた。
















そして思った。








―――『 計画通り 』、と。







そう全てはこの状況を作り出すためのプロセスだったに過ぎない。


事の発端はニンジン不足でイナバ達が困っていたことから始まる。


因幡達の食糧不足……正直そんな事はどうでも良かった。何とかした所で私にはプラスにはなんともならないしね。

しかし因幡達が暴れると火の粉が私にも降りかかる、それは困る。

それを解決する策は輝夜様に直接願い出るしか無いのだが、どうせあのわがままな姫のことだ、「ニンジンが無いなら雑草を食べればいいじゃない」とか「別に兎なんて代わりは一杯いるし~」とか言ってまともに取り合ってくれないだろう、もしくは逆上してぶち殺しに来かねない、私は義民になるつもりはない。

私は悩んだ、どんな方法を使えたものかと。

そしてある日、一匹の妖精に出会った。その妖精こそがスターサファイアだった。

彼女に出会った瞬間、一つの計画を考えついた。

その妖精を使う――つまりその妖精をけしかけて輝夜様のふりをさせ永遠亭を裏から乗っ取る。

妖精なら後ぐされしそうにないし、なんせ向こうもそんな場所を求めていたから好都合だった。

『輝夜様どうにかして動かすには一度輝夜様自身も飢餓の状態に陥れるしかない』と思って妖精達を行動させていたのだが、意外とうまく動いてくれてトントン拍子で話は進んだ。

最終的にせっぱ詰まった輝夜様は誰かに助けを求めるだろう。

しかし友好関係のしょぼい輝夜様だ、助けを求めるだろうと予測できるのは藤原妹紅くらいだ。

藤原妹紅は此処に十中八九乗り込んで来る、もちろん妖精がヤツにかなうわけもなくやられてしまうだろう、倒されてしまった妖精は私が黒幕だとばらすだろうか?それとも逃げるだろうか?そんなことはどちらでもいい。

ばれなくても自分から名乗り出ればいい、そしてそこからお芝居の始まりだ。

ああ、無論さっきのは全てお芝居よ、泣いたのも、台詞もね。


え? もし輝夜様が心変わりしなかったらどうしていたのかって?




ふふふ……


―――実は今回の作戦にはもう一人バックについていたのよ。


おっと何か甘い物が食べたくなってきたわね。

私はおもむろにポケットの中を探りそれを取り出す。


そして―――『 永琳様特製 キャロットキャンディ 』を頬張った。


―――そう、裏・兎角同盟のメンバーの一人が鍋にされて食べられたとき私は後継者を決めなければならなかった。

そして私はある人物に目をつけた。それが永琳様だった。

そこで頼み込んだ所、二つ返事でOKだった。

これは裏・兎角同盟の他のメンバーにすら秘密で『目下探し中』と言う事にしている。

永琳様には最初からこの作戦の全容は伝えていた、『鈴仙&輝夜様の秘蔵盗撮写真』を握らせてね。

つまり輝夜様が心変わりしなくても永琳様に何とかしてもらうという切り札を私は残していたのだ。

まあもっとも使う程ピンチな場面は無かったけどね。

お芝居は全て成功、私は賞賛とニンジンの山を受ける。


そう全ては大成功だ。


今日の宴会は私の為の宴会と言っても過言では無い。

私は勝利の余韻に浸りながら布団に横たわった。

眠い、宴会が始まるまで一眠りするとしよう……。

兎は可愛く、そしてズルくないと生きていけない。

まったく……兎も楽じゃない。


ウサウサウサ。





お久しぶり、もしくは初めましてサブです。

極東から愛を込めてハートフルな心温まるお話をお送りしました(生まれてきてすみません)


22日気付く限りの誤字訂正、ご報告有り難うございます。

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コメント



0.1880簡易評価
6.70名前が無い程度の能力削除
流石はてゐだ…
16.無評価名前が無い程度の能力削除
計画通り   某新世界の神顔のてゐを幻視しましたが間違ってないはず。
最高だ! てゐ様!
17.100名前が無い程度の能力削除
ああ、点入れそびれましたごめんなさい
19.70名前が無い程度の能力削除
兎詐欺はいつか皮を剥がれると信じてる
28.90名前が無い程度の能力削除
ま さ に 外 道 !


あと誤植。「輝代」→「輝夜」?
31.50悠祈文夢削除
う~ん。
面白かったけど、最後の独白が事細かなのが微妙。
悪事をペラペラばらすのは、やられ役の特権だ。って、えーりんが言ってた。
ニヤリとほくそ笑むだけのほうが大物っぽいです。
35.60名前が無い程度の名前削除
ん~~、序盤からオチが大体読めてたから微妙だったかな。
でも『 計画通り 』はニンジン吹いたw
いっそウドンゲも巻き込んで
「ウドンゲが一晩でやってくれました。」とかあれば最高。
43.50名前が無い程度の能力削除
うん 面白かったけどオチが弱いというか纏まりにかけている印象があります