Coolier - 新生・東方創想話

副メイド長 十六夜咲夜(後)

2006/08/21 08:23:35
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久々の弾幕ごっこだ。
最後にやったのはいつだっけ?
もう覚えてないや。
手加減するつもりだけど、久しぶりだから加減できないかも。


「さ~て、楽しませてちょうだいね。『禁忌 クランベリートラップ』」


四方から紫色の弾幕が襲い掛かる。だが、

(速さはそれほどでもない・・・上手く隙間を抜ければ)

迷わず後方の一角、最も弾幕が薄いところに飛び込んだ。
逃げ込んだ先へ収束してくる弾幕。
どうやらこれは自分を追ってくる性質を持つらしい。ならば上手く誘導すれば問題ない。



へぇ~、さすがにこの程度は余裕か。

「まあこれくらいは避けてもらわないとね~。」


避けられても焦るどころか、さも当然と言わんばかりの余裕。
しかし、こっちからしてみれば冗談じゃない。
ただの弾幕ごっこならともかく、当たれば死亡なんてもはやごっこではない。
しかし当の本人はそれを理解していないようだ。


「じゃ、次行くよ。『禁忌 レーヴァテイン!』」


全てを破壊する力、それが集約され、剣となって具現化された。
どれくらい距離を離せば見えなくなるだろう、そんなことを考えたが、


「ぼーっとしてたら負けだよ!」


その言葉で我に返る。
気がつけばフランドールが目前に迫ってきている。力任せに剣を振り回して。

(っ左!!)

とっさに左に逃げるが、フランドールもそれを見逃すはずはない。


「逃がさないよ!」


ん?言葉とは裏腹に、すぐに追って来ない。
よく見ると切り返しのスピードが思っているよりも遅い。

(変ね。でも速さがこれくらいなら、いくらでもやりようがあるわ)

結界の左端にたどり着く直前、体を沈める。
体の真上を通り過ぎるレーヴァテインのプレッシャーに恐怖を覚えつつ、右に移動。


「こ、このっ!」


だが、さっきと同じ様に回避、左に移動しかけたところで、不意にプレッシャーが消えた。


「一人じゃ捕まえられないね。じゃあこれはどう?『禁忌 フォーオブアカインド!』」


目の錯覚だろうか。錯覚だと思いたい。

目の前には4人のフランドール。
8個の瞳が同時に咲夜を捉える。

(ああもう!!)

毒づきたくもなる。
いきなり弾幕が4倍になったのだ。そのくせ破壊力は変わっていないのだからズル過ぎる。
こっちを狙って撃ってくるならまだしも、狙いもせず適当にばら撒かれるあたり、かなりタチが悪い。
どうする?
選択肢は2つ。このまま避け続けるか、それとも・・・
迷ってる暇はない。本物に当たる可能性は1/4だ。仮に1に当たっても相手は吸血鬼。
死にはしないだろう・・・多分。

ならば。


「フランドール様、手を出すことをお許しください。『幻符 殺人ドール』」


数えるのも馬鹿馬鹿しく思える量のナイフが展開する。
狙うは左端の一人。
一人分の弾幕が消えるだけでもかなり楽になる。そう睨んでの攻撃は、見事に成功した。

(良かった、フランドール様には当たらなかったみたいね)


フランドールは楽しんでいた。

これまで来たメイドはみんなここで終わった。しかしこのメイドは抜けた。
しかも私に当たるかもなんて考えもせずに、容赦なくナイフを投げまくってくれた。

・・・面白い。
なら、こちらも相応に実力を出していこう。
今までのは遊びですらない。単なる準備運動だ。


「あーあ、やられちゃった。でも偽者だったとはいえ、私を倒すなんてあなた凄いじゃない。
 だからちょっとだけ本気だすね。『禁忌 カゴメカゴメ!』」


規則正しく現れる弾幕。当てる気がないその弾幕が、緑の檻を作り上げる。
気がつけば閉じ込められた形になってしまった。だが。

(・・・これだけ?そんなはずがない。何かあるはず)

と、フランドールが大弾を放つ。崩れる檻。その檻を、形を変えて修復する弾幕。

(そういう・・・こと!)

壊れた檻の欠片が襲い掛かってくる。そして、それを壊した大弾も。
だが、さっきの4人がかりの弾幕に比べれば隙間も多い。
予め大弾の方向と、その先の檻の状態さえ確認しておけば避けるのは容易い。


「なんか余裕だね。どんどん行くよ~。これは門番が抜けられなかったからがんばってね~。『禁忌 恋の迷路!』」


門番が抜けられなかった。
その言葉が咲夜を驚愕させた。門番といえばおそらく美鈴だろう。
美鈴とは何度か弾幕ごっこをしている。最近でこそ互角に渡り合えるようになってきたが、通算戦績は圧倒的に負け越しだ。
フランドール様がいつ美鈴とこのような戯れを行ったのかわからないが、そのときの美鈴より自分が強くなければこれは超えられない。
・・・嫌な汗が背中を伝わる。

放たれた弾幕は、これまでのどの弾幕よりも美しかった。

しかし、一切の妥協を許さないその弾幕は、狂気に満ちていた。
絶え間なく全方位に放射される弾幕の前に、咲夜は死を半ば覚悟した。が・・・

(ん?)

よく見ると全方位ではない。
幾重にも放たれる弾幕のうち、不自然な隙間ができている。

(あそこに飛び込めれば・・・)

そうだ。レーヴァテインのときに感じた違和感。
その正体がわかった。
フランドール様は力を制御できていないんだ。
威力にものをいわせた戦い方に慣れすぎたせいなのだろう。
彼女の戦い方は単純なパターンの繰り返し。そこに戦術は存在していない。

ならば、それを見切ればよい。
時間と空間を操る手品師に、不可能はない。



フランドールは驚愕していた。

これまでこの弾幕に挑んだものは3人。
いずれも真正面から強引に避けようとしていた。
結果、門番は最後に詰めを誤って撃沈したのだが、このメイドは。
あろうことか全方位に放射する弾幕のうち、どうしてもできてしまう空間を移動しながら避けたのだ。
ときどき不自然な移動を見せていたが、あれがこのメイドの力なのだろうか?

ちょっとだけイライラしてきた。


「・・・ここから折り返し。どこまでついてこれる?『禁弾 スターボウブレイク!』」


早い弾、遅い弾、不規則に降り注ぐ七色の弾幕を避けながら、咲夜は考えていた。


『これで折り返し。』


ということは、スペルカードはあと5枚あるのだろう。
念のためと言われて用意しておいたスペルカードは4枚。
そのうち殺人ドールはフォーオブアカインドに、そしてフランドール様は気づいていないだろうが、
さっきの恋の迷路でプライベートスクウェアを使った。
残り2枚。
最後まで持つのか。
弾幕ごっこが始まってどれくらいの時間がたったかわからない。
体力・集中力はいずれ限界がくる。
それまでに残る全てのスペルカードを避け続けることが、果たしてできるだろうか。


「っ!!なんでそんなに余裕があるのよ!!『禁弾 カタディオプトリック!』」


(・・・!!)

しまった、考え事をしていたら反応が遅れた。
大弾、小弾、それらをあわせた塊が5方向から迫ってくる。
隙間は・・・あった。
だが、怒りに震えるフランドール様の表情を見てしまった。
目を見開き、今まさに獲って食わんとせんばかりの表情。
見なければ良かった・・・本能が恐怖で凍りつき、体が動いてくれない。

・・・仕方がない。
できればもう少し温存しておきたかったが、スペルカードで相殺するしかない。


「間に合って!『奇術 エターナルミーク!』」


単純な高速弾による攻撃。
しかし、今必要なのは威力よりもその単純な速さだ。
大弾は無視、狙うは小弾のみ。それさえ弾ければ十分だ。


怖い。
フランドールは恐怖を覚え始めていた。

過去にここまで抜けたものは自身の姉、レミリアのみ。
体調が万全ではなかったとはいえ、図書館の魔女もここで力尽きている。
それを、ただのメイドが・・・
スターボウブレイクを使ったとき、このメイドは明らかに何か考え事をしながら回避していた。
カタディオプトリックも初弾の反応こそ遅れていたものの、このメイドは結果的に回避している。

怖い怖い怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

相手はただのメイドだ。
でも、ただのメイド風情がここまで自分のスペルカードを撃破してきているのが現実。


怖い怖い壊せ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い壊せ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
怖い怖い怖い怖い怖い怖い壊せ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い壊せ怖い怖い怖い!
怖い怖い怖い怖い壊せ怖い怖い怖い怖い壊せ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
怖い壊せ怖い怖い怖い怖い怖い壊せ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!



そこまで考えて、何かが切れた。

・・・何を恐れる必要がある。

私は偉大なる夜の王、レミリア・スカーレットの妹、フランドール・スカーレット!



そうだ。
壊せばいいのだ。
私を恐れさせるものなど。
メイドが運ぶものは食事と飲み物だけ。


恐怖を運ぶメイドなど、いらない。


「壊れろ・・・壊れろ・・・壊れろ!!『禁弾 過去を刻む時計!』」


巨大な十字の光の針が現れた。
時を刻むように、ゆっくりと回りだす。
避けるだけなら問題ない。だが、このまま避け続けていても、何も解決しないのだ。


理由はわからないが、フランドール様が壊れ始めている。
このままでは彼女の精神がもたないかもしれない。

だが。

彼女の精神を今すぐに戻す方法がないわけではないが、それは自分が壊れることを意味する。
なんとかならないか。
フランドール様も自分も、壊れることなく元に戻る方法が、何かないのか。

不意に弾幕が止んだ。
見上げると、フランドールが何か呟いている。


「みんな・・・みんな・・・いなくなればいいんだ!!」


(え?)

突然、フランドールの姿が消えた。
その代わりに、青い弾幕がこちらに向かってくる。

(これもスペルカード?)

カード宣言はなかったはずだ。しかしこれは明らかにスペルカードの力だ。
どちらにしろ、相手が見えないなら避け続ける以外に道は無い。ひとまず結界内を飛び回っていると

(弾幕が・・・増えた?)

新しい青い弾幕が現れた。
振り返ってみると、同じような弾幕がいくつも増えている。
なんとか隙間を見つけて移動したが、このままではいずれ押しつぶされる。

・・・最後の1枚。これで・・・

「くっ!『ジャック・ザ・ルビドレ!』」

無数のナイフを上下前後左右あらゆる方向に投げる。
狙う必要はない。どうせいないんだし。

きれいさっぱり弾幕は相殺できたが、フランドール様は現れない。
が、代わりにさっきとは違う弾幕が現れた。
帯状の弾幕。それが徐々に隙間を狭めてこちらに向かってくる。

(って、ぼうっとしてんじゃないわよ、咲夜!)

息つく間もなく、今度は斜めにゆっくり移動する緑の壁。それを抜けたら再び黄色の帯。続いて青の壁。そして赤と黄色の帯。
繰り返される弾幕の帯と壁の間隔が、徐々に短くなってくる。
まだフランドールは姿を見せない。

このままではダメだ。どうする。
待っていても出てこないなら、こちらから呼びかけてみるか・・・?


「フランドール様!何処にいらっしゃるのですか!姿を見せてください!」


何か従者らしくない言い方だった気もするが、今だけ考えないようにしよう。
とりあえず・・・あれ?

(ええと、何話そう・・・)

話す内容考えていなかった。
お願い、呼んだけどしばらく出てこないで下さい、フランドール様。


「・・・何?」


願いもむなしく、すぐに姿を現した。
このまま黙っていても埒があかない。
何か話しかけないと・・・


「フランドール様。もう止めませんか?これ以上続けても「うるさい!」」


ひっ
あの幼い容姿のどこにこんな迫力と威圧感があるのだろう。
足が震える。
ナイフを持つ掌に汗が溜まる。
体が硬直する。

それでも。

今フランドール様を説得するのは、私しかいないのだ。

「わ、私はフランドール様お付の従者です。ですから、どんな命令にも従います。その代わりもしフランドール様が
 何か間違いを犯したら、それを正すのもまた私の役目です。」
「・・・私が何か間違いを犯したの?」
「フランドール様はこれまでに、何人のメイドとこのような弾幕ごっこを行ったのですか?そして、その結果はどうなったのですか?」
「人数は覚えてない。最後はみんな壊れた。お姉さまと魔女と門番は壊れなかったけど。」


やはり。
私は相当に粘った方なのだろう。
美鈴が5番目で墜ちた事実を考えると、ここまで粘ったメイドは私が最初かもしれない。


「フランドール様、私が怖いですか?」
「・・・!!ただのメイドを怖がる私じゃない!!
「そうですか。私は怖いです。フランドール様も、お嬢様も、この館に住む一番下っ端のメイドも皆一様に。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私は・・・お嬢様に連れられてこの館に来ました。でも、人の姿をしていても周りは皆妖怪。1日中、気が休まることもなく、
 ただその日を無事に過ごすことだけを考えて今日まで生きてきました。」
「・・・そんなに強いのに、なんで?」
「私だって、最初から強かったわけではありません。お嬢様やパチュリー様や美鈴から戦い方を学び、実戦を重ねて生き延びることで、
 私より強い他のメイドからも少しづつ認められていったのです。」

「・・・しは・・・」

え?

「・・・私は、誰からも認められていない!」
「フランドール様?」
「みんなそうだ!みんなお姉さまお姉さま。誰も私なんて見てくれない!私が居ていいのはこの地下室だけ!外どころか、
 この館の中にさえ私が居ていい場所はない!私は一人だ!お姉さまだって本当は私を見てくれてないんだ!偶にメイドをよこして、
 それでご機嫌を伺ってるのよ!」

 
そんなことはない。
お嬢様がフランドール様を心配していないはずがない。
しかしたとえどんな理由であっても、地下室に閉じ込め続けているのがお嬢様である事実も、変わることはない。


「だから私は壊すの。お姉さまが私を忘れないように。メイド達が私を忘れないように。私が私でいられるように。」


・・・ダメだ。
これでは堂々巡りにしかならない。

壊さないようになるまで、地下室から出さない姉。
忘れて欲しくないからと、壊し続ける妹。

どちらもお互いを想い、その結果歪んでしまっている。

このままではいけない。
お嬢様とフランドール様を、誰かが繋がなくてはいけない。


誰が?私が。


そのためにも、今壊れるわけにはいかない。


「・・・フランドール様。次が最後なのでしょう?」
「え?」
「フランドール様のこれまでの全てを、私が受けましょう。その上で、壊れないところを見せて差し上げます。
 ですから、これが終わったら私の言うことを聞いてくださいね。」

覚悟は決めた。
絶対に避けてみせる。



『壊れないところを見せる。』

あのメイドは確かにそう言った。
私の全てを受けるとも。

いいだろう。
私の490年はそんなに甘くない。
孤独に過ごした490年。
ただのメイドが受けきれるはずもない。

(でも、本当に受けきったら?)

お姉さまも最後は墜ちた。
まだ誰も、私の全てを受けたものはいない。

このメイドは受けられるだろうか。


「最後よ。これが避けられたら、貴女の言うこと聞くわ。『QED 490年の波紋!』」


すでに体力は限界にきている。
スペルカードも4枚全て使い果たした。
それでも、これを突破しなければならない。


最後、というにはいささか拍子抜けするほど簡単な弾幕だ、そう思ったのは間違っていた。
変則的な動きも意地悪な速度差も無い代わりに、ゆっくりと確実に動ける範囲を狭めて
くるその弾幕は、まさに波紋という名に相応しい形で襲い掛かってきた。

(避ける場所が・・・ない!)

隙間はある。
しかし、その隙間は別角度の弾幕が通る道。
思い切って踏み込めない状態が続く。

直撃の一歩手前、そんなギリギリの避けを繰り返しながらも、咲夜はまだ避けていた。

命を拾ってくれた主と、その主の妹と、この先の紅魔館のため。
その思いだけで。



もやもやが晴れない。
自分に意見してきたメイドなんて初めてだ。
だが、ことさら不愉快というわけでもない。

思えば私のもとへ来るメイドは、皆怯えていた。
ろくに話もせず、パニックを起こしたメイドも一人や二人ではない。
でもこのメイドは臆することなく接してくれた。
それだけでも感謝できる。


でも。


このメイドは最初から印象が違っていた。
何が違う?
私は誰からも認めてもらえない存在。

これまで来たメイド達は、みな最初に何をした?

そしてこのメイドは、最初に何をした?




「・・・ああっ!」
「え?」




突然のフランドールの叫び声に、咲夜の集中力が途切れた。













その瞬間。















―咲夜の右腕が吹き飛んだ―

















やっぱり、私の全てなんて受けてくれなかったじゃない。

決着はついた。
お姉さまと同じく、最後で被弾。


あの最後の弾幕最中に思い出した。

今まで来たメイド達はみな、自分のことを「妹様」と呼んでいた。
でもこのメイドはずっと自分のことを「フランドール様」と呼んでくれた。

この館でお嬢様といえば、誰に聞いても姉、レミリアのことを指している。
私はレミリア・スカーレットの妹。だから「妹様」
特に気にしていたつもりはない。だが、姉以外の誰も自分の名前を呼ばなくなって、一体どれほどの年月が流れただろう。

・・・忘れてほしくないのは存在だけだったのだろうか?
・・・私は名前を呼んでほしかったのではないのか?


「・・・こんな力、いらない・・・」
「壊す気なんてないのに・・・また・・・壊しちゃった・・・」


「・・・壊れてませんよ。だから泣かないでください。」
「え?」


メイドが目を開けている。話しかけてきている。
壊れて・・・なかった。








記憶が曖昧だ。


あの最後の弾幕戦、フランドール様の声に驚いて、右腕に被弾したのは・・・うん、覚えている。
被弾したことと、右腕の痛みでそれまで張り詰めていた緊張感が途切れ、落下したのは・・・覚えている。
その後、目を覚ましたらフランドール様が泣いていたので何か言葉をかけたのだが・・・そこからよく思い出せない。

気がついたら、自分の部屋のベッドだった。


話を伝え聞くに、フランドール様がメイド長のところへ私を連れて行って、なんとか治してほしいと泣きながら頼んでくれたらしい。
すぐさまパチュリー様のもとへ運ばれた私は、その場で即効性の治癒魔法をかけてもらいなんとか命を拾った。
パチュリー様には一切の事情を説明しなかったものの、何も聞かれることはなかった。
右腕は跡形もなく吹き飛んでしまったため、髪の毛からパチュリー様が作ってくれた。
新しい右腕が出来るまで半年ほど片腕で過ごしたが、今ではすっかり元通り。


結局あの後も、フランドール様は地下室から出してはもらえていない。
しかし、力のコントロールは徐々に出来るようになってきている。
それさえしっかりできるようになれば、地下室から出られる日もそう遠くはないだろう。


副メイド長になって2年。
私はお嬢様から昇進を直々に言い渡された。


今度はメイド長。


フランドール様にそのことを告げると、始めはがっかりされたがすぐに自分のことのように大喜びしてくれた。

私がメイド長になるということは、フランドール様付きの仕事は外れるということ。
新しい副メイド長も新たに任命されている。
私が付くことはもうないのだ。
それをわかっていて、それでも笑顔をつくってくれている。


「ありがとうございます、フランドール様。貴女にお使えできて本当に良かった。」
「やーね、何言ってるのよ。同じ館に住んでるだし、いつでも会えるでしょ。お姉さま付きだからなかなかそうもいかないけど。」
「ええ、でもなるべく時間をつくって行きますわ。」
「だ~め、お姉さまに付くんだから今度はお姉さまにしっかり付かなきゃ。お姉さまは私より我侭だから、
 咲夜がしっかりしないとダメだよ。」
「・・・はい。」
「・・・泣かないでよ、咲夜。私だって泣きたいの我慢してるんだから。ね?」
「・・・はい。」


そうだ。
私が泣いていてどうする。
これからは私がこの紅魔館を事実上仕切らなければいけないのだから。


「では、これからメイド達の前で挨拶しなければなりませんので、失礼します。」
「うん、頑張ってね、咲夜。」


メイド長は任命された後、全てのメイドに対する規律を新たに作り直す仕事がある。
それを全員の前で発表することが、メイド長の最初の仕事だ。

いろいろ悩んだが、最初の規律だけはもう決めてある。


【紅魔館においてメイドは主・客を問わず互いを名前で呼ぶこととする】


-END-
2回目の投稿になりますASTです。

今回は「紅EXを咲夜さんがやったらどうなるんだろう」という電波を受信したところから始まりました。
長くなってしまったので前後編になりましたが、いかがだったでしょうか?

ここで補足。本文中でフランが言う門番ですが、実は美鈴ではなく名無しのオリキャラです。
ここでの美鈴はフランを知らない設定で書いています(でないと前編の飲んでるときの会話に矛盾が生まれる)
一応、ここでネタばらしということで。

ご意見・ご感想お待ちしております。
AST
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コメント



0.1110簡易評価
5.20名無し削除
所々で、いきなり地の文の視点が変わるのが不自然というか、もうちょっと何がしかの区切りが欲しいかな、と。
フランのスペカのラストが年数足りないのは、紅魔郷より5年前ということでしょうか?
10.70名前が無い程度の能力削除
下の方の仰ってる視点切り替えは確かに初めは分かりにくかったですが、慣れればスラスラ行けました。
ところで5+2+3で10年経ってる計算だと、咲夜さんが10歳で紅魔館に来たとしてもハタch(とすっ
13.10名前が無い程度の能力削除
急に視点が変わるのはいただけないなー
もう少しわかりやすくしてほしい
14.50名前が無い程度の能力削除
あまり必要性を感じない演出でしたが、全体的に読みやすかったので迷うことはなかったかと。>視点
22.30名前が無い程度の能力削除
視点の混乱もさることながら、エピローグの分かり辛さもどうかと。
時間と状況の経過が読み取りにくかったです。
話は前後しますが、視点について。行間の開け方を(例えば同一視点の文をまとめて、行間を開けすぎないようにしたり)工夫するのも一案かと思います。