夏は暑い。
竹林に囲まれ、差し込む日の光の少ない永遠亭も、例外では無く暑い。
それでも、他の場所よりは格段に涼しく過しやすいのだけれど。
縁側に水を張った大き目の桶を用意し、長いスカートをたくし上げる。
透き通るような白い足を露出させて、桶の冷たい水の中に入れる。
「んぅ、冷たくて気持ち良いわ……」
桶の中で足を遊ばせると、ちゃぷりと水が涼しげに跳ねる。
「永琳も一緒に涼まない?」
涼を取っていた永遠亭の姫――蓬莱山 輝夜は傍らに佇む永琳も誘う。
いくら姫と呼ばれても、輝夜にとって永琳は単なる従者では無く、大切な友人という事だった。
「ふふ、それではお言葉に甘えて私も……」
永琳も裾をあげて、水の中に足を入れると、丁度背後の襖が開いて、鈴仙が冷えたお茶を持ってきてくれた。
「お茶を持ってきました」
「うん、ありがとう。 イナバも入る?」
二人の傍らにお茶を置く鈴仙に、輝夜が涼に誘うが、鈴仙はこれを丁重に断る。
「いえ、流石に三人も入ると水も温くなってしまうと思うので……」
「あら、それならもう一個桶を用意すればいいでしょ? ほら、てゐも呼んで早く準備しなさい」
「……は、はいッ」
永琳は至極単純な解決策を与えると、鈴仙は喜んで飛んでいった。
§ § §
静かな縁側にちゃぷ、ちゃぷと涼しげな音が奏でられる。
「そういえば師匠、気になってる事があるんですが」
「あら、何かしら?」
「あの日、夜が永かった日の事なんですが、紅魔館のメイドを見て驚いてましたよね?」
「あら、永琳が驚くなんて珍しいわね」
「ふふ……、んー……、どうして私が驚いたと思う?」
クスクスと笑いながら、永琳はその場に居る三人に逆に問いかける。
「え……、月に居たころの知人にそっくりだったとか、その時間が操れるから本人だったとかですか?」
鈴仙がそう答える。
自分ならきっと驚くだろうと。
しかし、それに笑いながら反論したのはてゐだった。
「あははは、鈴仙みたいにそんな単純じゃないわよ」
確かにそうだ。
知人なら能力も知っているだろうし、使者として目の前に現れる事も予測ができる。
「む、じゃあてゐは何だと思うの?」
「私だったら……、隠し子とか。永遠亭で育ててもらえず、紅魔館に捨てられた子供が復讐に……」
「ちょ、ちょっと、てゐ!」
あまりに飛躍しすぎた答えに、鈴仙が狼狽する。
「それは無いわよ、流石に隠し子なんて居たら私が気がつくわよ」
冷静に考えれば、永琳は献身的に輝夜の世話を、年中付き添ってしているのだ。
子供なんて育てている暇なんて無いだろう。
「そうよ、てゐ。 もし居たとしても、師匠だったらそれ位予想してると思うし」
鈴仙は暗殺犯の中にブルータスを見つけたカエサルの事を引き合いに出した。
同じ天才でも、月の頭脳とまで言われた永琳なら、隠し子なんて扱いをされた子供が復讐に来る事位予想がつくといいたいのだ。
「じゃあ姫様は何だと思います?」
「私だったら……、あの時間と空間を操るという能力が私の能力に近いから、かなぁ?」
確かに、時間を操れれば須臾の如く一瞬で事を成せる。
空間を操って、永遠に到達できなくする事も可能だ。
「でも、師匠が驚いてたのはあのメイドを見て一瞬の事でしたよ?」
「あらそうなの……、流石に永琳でも一目見ただけで能力の看破は難しそうね……」
三人がうーん、うーん、と悩んでいると、永琳がクスクスと笑い出す。
「ふふふ、もう無いですか?」
「わかりませんー」
「私もー」
「で、実際はどうだったの?」
「うーん、てゐや鈴仙には悪いんだけど……」
いったいどんな高尚な理由だったんだろうと、ゴクリと三人が喉を鳴らす。
「あの時、一瞬だけ驚いたのはね……、永遠亭に来たからなの」
「へ……?」
「永遠亭に」
「来たから……?」
呆気に取られ、三人の口は開いたままになっていた。
「ちょ、ちょっと師匠! ちゃんと説明してくださいよぉ!」
「そーだそーだ! 説明!」
二人の憤慨に、永琳はたじろきながら答える。
「だ、だってね、永遠亭にあのメイド長が来たのよ?」
この一言で、輝夜は驚いた理由に気がつく。
「あ、なるほど……、それは永琳も驚くわね……」
「えぇー、どういう意味なんですか?」
「だって、永遠亭って兎ばっかりでしょ?」
「うん、うん」
二人は真剣に頷く。
輝夜も永琳も月に住んでいたせいか、可愛らしい兎が好きで、てゐを捕まえ他の兎を統制させている。
鈴仙に至っては輝夜のペットである。
「そこに、メイド長――犬が来たら……」
ウサギ小屋に凶暴な犬が入ってきたらそこの飼育係は驚くのは当然。
つまり、そういう事。
「な、なにそれ……」
「見た感じで驚いたって事じゃないですかぁ、すごい理由だと思ってたのに……」
はぁ、と二人の兎が同時に溜息を吐いた。
「み、見た感じで驚いて何が悪いのよ……、一瞬てゐが食べられちゃったと思ったんだから……」
永琳が軽く拗ねると
「天才なのに……」
「天才なのに……」
二人はジト目で永琳を見ると、聞こえるように呟く。
「姫ぇ、私虐められてますよ」
ヨヨヨ、と永琳は輝夜にしなだれる。
「あらあら、可哀想ね……」
クスクスと輝夜が笑みを零す。
「でも、永琳のそういう所が可愛くて好きよ」
暑い夏。
竹林に囲まれ、涼しく静かな永遠亭から、楽しげな笑い声が聞こえてきた。
竹林に囲まれ、差し込む日の光の少ない永遠亭も、例外では無く暑い。
それでも、他の場所よりは格段に涼しく過しやすいのだけれど。
縁側に水を張った大き目の桶を用意し、長いスカートをたくし上げる。
透き通るような白い足を露出させて、桶の冷たい水の中に入れる。
「んぅ、冷たくて気持ち良いわ……」
桶の中で足を遊ばせると、ちゃぷりと水が涼しげに跳ねる。
「永琳も一緒に涼まない?」
涼を取っていた永遠亭の姫――蓬莱山 輝夜は傍らに佇む永琳も誘う。
いくら姫と呼ばれても、輝夜にとって永琳は単なる従者では無く、大切な友人という事だった。
「ふふ、それではお言葉に甘えて私も……」
永琳も裾をあげて、水の中に足を入れると、丁度背後の襖が開いて、鈴仙が冷えたお茶を持ってきてくれた。
「お茶を持ってきました」
「うん、ありがとう。 イナバも入る?」
二人の傍らにお茶を置く鈴仙に、輝夜が涼に誘うが、鈴仙はこれを丁重に断る。
「いえ、流石に三人も入ると水も温くなってしまうと思うので……」
「あら、それならもう一個桶を用意すればいいでしょ? ほら、てゐも呼んで早く準備しなさい」
「……は、はいッ」
永琳は至極単純な解決策を与えると、鈴仙は喜んで飛んでいった。
§ § §
静かな縁側にちゃぷ、ちゃぷと涼しげな音が奏でられる。
「そういえば師匠、気になってる事があるんですが」
「あら、何かしら?」
「あの日、夜が永かった日の事なんですが、紅魔館のメイドを見て驚いてましたよね?」
「あら、永琳が驚くなんて珍しいわね」
「ふふ……、んー……、どうして私が驚いたと思う?」
クスクスと笑いながら、永琳はその場に居る三人に逆に問いかける。
「え……、月に居たころの知人にそっくりだったとか、その時間が操れるから本人だったとかですか?」
鈴仙がそう答える。
自分ならきっと驚くだろうと。
しかし、それに笑いながら反論したのはてゐだった。
「あははは、鈴仙みたいにそんな単純じゃないわよ」
確かにそうだ。
知人なら能力も知っているだろうし、使者として目の前に現れる事も予測ができる。
「む、じゃあてゐは何だと思うの?」
「私だったら……、隠し子とか。永遠亭で育ててもらえず、紅魔館に捨てられた子供が復讐に……」
「ちょ、ちょっと、てゐ!」
あまりに飛躍しすぎた答えに、鈴仙が狼狽する。
「それは無いわよ、流石に隠し子なんて居たら私が気がつくわよ」
冷静に考えれば、永琳は献身的に輝夜の世話を、年中付き添ってしているのだ。
子供なんて育てている暇なんて無いだろう。
「そうよ、てゐ。 もし居たとしても、師匠だったらそれ位予想してると思うし」
鈴仙は暗殺犯の中にブルータスを見つけたカエサルの事を引き合いに出した。
同じ天才でも、月の頭脳とまで言われた永琳なら、隠し子なんて扱いをされた子供が復讐に来る事位予想がつくといいたいのだ。
「じゃあ姫様は何だと思います?」
「私だったら……、あの時間と空間を操るという能力が私の能力に近いから、かなぁ?」
確かに、時間を操れれば須臾の如く一瞬で事を成せる。
空間を操って、永遠に到達できなくする事も可能だ。
「でも、師匠が驚いてたのはあのメイドを見て一瞬の事でしたよ?」
「あらそうなの……、流石に永琳でも一目見ただけで能力の看破は難しそうね……」
三人がうーん、うーん、と悩んでいると、永琳がクスクスと笑い出す。
「ふふふ、もう無いですか?」
「わかりませんー」
「私もー」
「で、実際はどうだったの?」
「うーん、てゐや鈴仙には悪いんだけど……」
いったいどんな高尚な理由だったんだろうと、ゴクリと三人が喉を鳴らす。
「あの時、一瞬だけ驚いたのはね……、永遠亭に来たからなの」
「へ……?」
「永遠亭に」
「来たから……?」
呆気に取られ、三人の口は開いたままになっていた。
「ちょ、ちょっと師匠! ちゃんと説明してくださいよぉ!」
「そーだそーだ! 説明!」
二人の憤慨に、永琳はたじろきながら答える。
「だ、だってね、永遠亭にあのメイド長が来たのよ?」
この一言で、輝夜は驚いた理由に気がつく。
「あ、なるほど……、それは永琳も驚くわね……」
「えぇー、どういう意味なんですか?」
「だって、永遠亭って兎ばっかりでしょ?」
「うん、うん」
二人は真剣に頷く。
輝夜も永琳も月に住んでいたせいか、可愛らしい兎が好きで、てゐを捕まえ他の兎を統制させている。
鈴仙に至っては輝夜のペットである。
「そこに、メイド長――犬が来たら……」
ウサギ小屋に凶暴な犬が入ってきたらそこの飼育係は驚くのは当然。
つまり、そういう事。
「な、なにそれ……」
「見た感じで驚いたって事じゃないですかぁ、すごい理由だと思ってたのに……」
はぁ、と二人の兎が同時に溜息を吐いた。
「み、見た感じで驚いて何が悪いのよ……、一瞬てゐが食べられちゃったと思ったんだから……」
永琳が軽く拗ねると
「天才なのに……」
「天才なのに……」
二人はジト目で永琳を見ると、聞こえるように呟く。
「姫ぇ、私虐められてますよ」
ヨヨヨ、と永琳は輝夜にしなだれる。
「あらあら、可哀想ね……」
クスクスと輝夜が笑みを零す。
「でも、永琳のそういう所が可愛くて好きよ」
暑い夏。
竹林に囲まれ、涼しく静かな永遠亭から、楽しげな笑い声が聞こえてきた。
それにしても涼しそうな光景ですなぁ。
・・・長さも、話そのものも。
誤字の指摘をば。
それならもう一個桶を持って"こ"ればいいでしょ?
氏のお書きになるらぶりーな上海蓬莱作品のファンなのですが、
あちらは今後お書きになるご予定などはいかがなものでしょうか。
期待しております。
面白い理由ですが、不思議と説得力があるきもします。
しかし何より、師匠いいよ師匠!!
>涼しそうな光景
水の張った桶じゃなくて、たくしあげと生足がきっと涼しさの秘訣!
>「ぬるいな」長さも話そのものも
幻想郷はほのぼのとしたイメージなんで、ぬるく感じるかもしれませんね。
長さに関しては、永夜抄の回想を入れるかどうか迷ったんですが、無くても問題なさそうだったんで省きましたー
>そう来たか。
そう来ました。
>狐と神の犬
霊夢は犬属性よりも見た目が巫女なのと、藍ちゃんは道具扱いなのできっと気にならなかったんでしょう。
>誤字
音読すると「持ってこれば」ってなるんですよねー
後で「桶を用意すれば」に変更したいと思います。
>人形ss
実は書いてる途中だったりします。
でも詰まってたり(´・ω・`)
>面白い理由
ありがとうございます~
>師匠いいよ師匠!!
永遠亭住人は仲が良いイメージがあるので、偶に弄られて姫に泣き付いてそうだなぁって思いました。
うまいw