盆。
すでに三途の河を越えた霊が現世に帰ることができる四日間を指す。
現世の人間は火を焚いて霊を迎え、送る。
他にも茄子やら胡瓜やらで作った馬と牛も供えるらしい。
が、そんなことは死神の私には全く関係が無い。
というか仕事が無くなる。
裁きが済んだ霊も、済んでない霊も一気に幻想郷に帰るからだ。
自由奔放である。
「暇ですねぇ」
「あなたはいつも暇してるでしょう。全くサボってばかりで・・・」
「あ、休みの間くらい説教は無しでお願いします」
「こっ・・・この・・!」
あたいは映姫様の執務室にいた。
裁判官の資格のある閻魔の執務室は空調があるらしく、外が炎天下であってもひんやりとしている。
幽霊のバイトを雇っているという噂もあるが、涼しいことに文句はない。
多分客人用であろうソファーにはあたいが陣取り、部屋の主は机について書類整理っぽいことをしている。
ちなみにあたいの部屋はこんな快適ではなく、南向きの灼熱地獄である。
死神が死に掛けるなんて冗談にもならない。
「せっかくの休みなのに仕事ですか?よく飽きませんね」
「というかあなたも渡し賃の計上の仕事があるはずですが・・・終わってるのですか?」
「今は休みですよ」
「休み明けに泣きついてきても知りませんからね」
あたいはそんなガキじゃない、と否定しようと思ったがまた説教が始まりそうな予感がしたのでやめておいた。
毎年そんな事態になってるような気がしなくもないし。
まぁ明日からやれば終わるだろう、多分。
「映姫様は盆の間も仕事ですか?」
「いえ、一応明日から休みの予定ですよ。斎日以外で休み取れるのはここぐらいですから、幻想郷に行こうかと」
「去年は休みの間中解放されなかったですもんね。巫女の所ですか?」
「あそこほど押しかけるのに都合がいい場所もありませんしね」
すこし映姫様の黒い部分が見えた気がした。
あそこなら人も妖怪も集まるから、宿をそこで探そうということだろう。
もし見つからなくとも神社に泊まればいい。
映姫・・・恐ろしい子・・・!
と、意識の片隅で考えてみた。
「あ、そういえば映姫様はアレを見に行くんですか?」
「ええ、行きますよ?年に一回ですから」
「こんなイベントだとあっち側の連中も来そうですねえ」
「・・・すごく目に浮かぶのは気のせいでしょうか」
多分それは気のせいじゃないです。
絶対白黒とか来ます。
紅白とか死に全く関係が無いのが山のように来ます。
それから数刻くらい後。
もう陽はほとんど沈み、空は群青から宵色に移行しつつある。
ここは距離をいじっていない三途の河のちょうど真ん中。
あたいは船をここに止めた。
映姫様は向かい合いように座っている。
仕事が終わっても帽子を取らないのはどうかと思います。
「あ、来ましたよ」
あたいは背後、今来たほうを振り返る。
遠く水平線から白いモノがたくさん空を流れてくる。
裁きが済み、極楽や地獄に振り分けられた霊たちだ。
本来魂は三途の河を私たち死神の渡しなしには渡れない。
だが盆の時期だけは、送り火迎え火に導かれて三途の河を渡ることができる。
そして瞬く間に空は霊に覆われた。
音はなく、空気がゆっくりと冷えていく。
先ほどまで薄暗い宵であったが、霊の淡い光
魂川とあたいは勝手に呼んでいる。
別にアザラシは関係ない。
覆ったときと同様に、すぐ霊の群れは現世のほうに消えていった。
次に見れるのは三日後。
野菜でつくった乗り物で帰ってくるときだ。
映姫様とあたいは、しばし魂が消えた先を眺めていた。
そのうちあたいは魂を追うように、船を漕ぎ出した。
映姫様は対岸に着くまで呆けていたようだった。
静かにしていると充分可愛いのに、説教がだらだらと長いからなぁ・・・
三途の河の現世側。
「・・・」
「予感が当たりましたね」
河の距離を限界まで縮めてみたが、視界に入った時にはもう酒盛りが始まっているようだった。
中央に大きなかがり火が一つ、あとは勝手に陣取っているようだ。
「よぉ、勝手に始めてるぜ」
「あなたというか、幻想郷の住人は行動力がありすぎる・・・生者が彼岸にいるとはどういうことですか」
「いいじゃない、お酒がおいしいわよ」
「あ、もらうもらう。たっぷりついでおくれ」
「あなたは手が早すぎる」
「その表現は誤解を招くわ」
彼岸の河原の宴会にいたのは人間だけではない。
これも予感的中だったが、吸血鬼の姉妹やら亡霊の姫やら蓬莱人やらがいた。
お前らここに縁が絶対無いだろ。
「いやーでもすごかったな、さっきの白いの」
「あれのはぐれたのを連れて行くのがまたしんどいんですよ・・・」
「妖夢はまだまだねえ。放っておけばそのうち帰るわよ」
「前は帰ってこなかったんですよ!」
「アレは何見酒っていうんだ?」
幻想郷の住人は死んでも自由奔放だ。
だからこそ船の上での話も面白いわけだが。
「こまちぃ~・・・飲んでますかぁ~?」
「え?映姫様、もう出来上がってるんですか?!ちょっ酒くさっ!」
手には「鬼殺し」とかいう銘の酒瓶が。
映姫様は酔うのが異様に早く、周囲の誰かに絡み始める。
いつもはあたい以外にその役をなすりつけるのに・・・!
と思ったら背中から衣擦れの音が。
「ちょっそれはやばいです!待って!落ち着け!脱ぐなああああああああああああああ!」
さらに脱ぎ上戸だった。
どこかで「テンコー!」と叫ぶ声が聞こえたような気がしたが、弾幕の音に埋もれていった。
周りは笑うばかりで助けてくれる気配もない。
今夜の宴会は映姫様のお守りで終わりか。
背中ではまだ映姫様が暴れていて、目の前では他の面子が騒ぎ立てる。
ああうるさいことこの上ない。
だけど、あたいはこれが大好きだ。
「よし!一番小野塚小町、酒をラッパで行きます!」
盆になって魂が現世に戻っても、幻想郷の彼岸は騒がしい。
その日の宴会は月が沈み、朝日が空を白く染め始めるまで続いた。
すでに三途の河を越えた霊が現世に帰ることができる四日間を指す。
現世の人間は火を焚いて霊を迎え、送る。
他にも茄子やら胡瓜やらで作った馬と牛も供えるらしい。
が、そんなことは死神の私には全く関係が無い。
というか仕事が無くなる。
裁きが済んだ霊も、済んでない霊も一気に幻想郷に帰るからだ。
自由奔放である。
「暇ですねぇ」
「あなたはいつも暇してるでしょう。全くサボってばかりで・・・」
「あ、休みの間くらい説教は無しでお願いします」
「こっ・・・この・・!」
あたいは映姫様の執務室にいた。
裁判官の資格のある閻魔の執務室は空調があるらしく、外が炎天下であってもひんやりとしている。
幽霊のバイトを雇っているという噂もあるが、涼しいことに文句はない。
多分客人用であろうソファーにはあたいが陣取り、部屋の主は机について書類整理っぽいことをしている。
ちなみにあたいの部屋はこんな快適ではなく、南向きの灼熱地獄である。
死神が死に掛けるなんて冗談にもならない。
「せっかくの休みなのに仕事ですか?よく飽きませんね」
「というかあなたも渡し賃の計上の仕事があるはずですが・・・終わってるのですか?」
「今は休みですよ」
「休み明けに泣きついてきても知りませんからね」
あたいはそんなガキじゃない、と否定しようと思ったがまた説教が始まりそうな予感がしたのでやめておいた。
毎年そんな事態になってるような気がしなくもないし。
まぁ明日からやれば終わるだろう、多分。
「映姫様は盆の間も仕事ですか?」
「いえ、一応明日から休みの予定ですよ。斎日以外で休み取れるのはここぐらいですから、幻想郷に行こうかと」
「去年は休みの間中解放されなかったですもんね。巫女の所ですか?」
「あそこほど押しかけるのに都合がいい場所もありませんしね」
すこし映姫様の黒い部分が見えた気がした。
あそこなら人も妖怪も集まるから、宿をそこで探そうということだろう。
もし見つからなくとも神社に泊まればいい。
映姫・・・恐ろしい子・・・!
と、意識の片隅で考えてみた。
「あ、そういえば映姫様はアレを見に行くんですか?」
「ええ、行きますよ?年に一回ですから」
「こんなイベントだとあっち側の連中も来そうですねえ」
「・・・すごく目に浮かぶのは気のせいでしょうか」
多分それは気のせいじゃないです。
絶対白黒とか来ます。
紅白とか死に全く関係が無いのが山のように来ます。
それから数刻くらい後。
もう陽はほとんど沈み、空は群青から宵色に移行しつつある。
ここは距離をいじっていない三途の河のちょうど真ん中。
あたいは船をここに止めた。
映姫様は向かい合いように座っている。
仕事が終わっても帽子を取らないのはどうかと思います。
「あ、来ましたよ」
あたいは背後、今来たほうを振り返る。
遠く水平線から白いモノがたくさん空を流れてくる。
裁きが済み、極楽や地獄に振り分けられた霊たちだ。
本来魂は三途の河を私たち死神の渡しなしには渡れない。
だが盆の時期だけは、送り火迎え火に導かれて三途の河を渡ることができる。
そして瞬く間に空は霊に覆われた。
音はなく、空気がゆっくりと冷えていく。
先ほどまで薄暗い宵であったが、霊の淡い光
魂川とあたいは勝手に呼んでいる。
別にアザラシは関係ない。
覆ったときと同様に、すぐ霊の群れは現世のほうに消えていった。
次に見れるのは三日後。
野菜でつくった乗り物で帰ってくるときだ。
映姫様とあたいは、しばし魂が消えた先を眺めていた。
そのうちあたいは魂を追うように、船を漕ぎ出した。
映姫様は対岸に着くまで呆けていたようだった。
静かにしていると充分可愛いのに、説教がだらだらと長いからなぁ・・・
三途の河の現世側。
「・・・」
「予感が当たりましたね」
河の距離を限界まで縮めてみたが、視界に入った時にはもう酒盛りが始まっているようだった。
中央に大きなかがり火が一つ、あとは勝手に陣取っているようだ。
「よぉ、勝手に始めてるぜ」
「あなたというか、幻想郷の住人は行動力がありすぎる・・・生者が彼岸にいるとはどういうことですか」
「いいじゃない、お酒がおいしいわよ」
「あ、もらうもらう。たっぷりついでおくれ」
「あなたは手が早すぎる」
「その表現は誤解を招くわ」
彼岸の河原の宴会にいたのは人間だけではない。
これも予感的中だったが、吸血鬼の姉妹やら亡霊の姫やら蓬莱人やらがいた。
お前らここに縁が絶対無いだろ。
「いやーでもすごかったな、さっきの白いの」
「あれのはぐれたのを連れて行くのがまたしんどいんですよ・・・」
「妖夢はまだまだねえ。放っておけばそのうち帰るわよ」
「前は帰ってこなかったんですよ!」
「アレは何見酒っていうんだ?」
幻想郷の住人は死んでも自由奔放だ。
だからこそ船の上での話も面白いわけだが。
「こまちぃ~・・・飲んでますかぁ~?」
「え?映姫様、もう出来上がってるんですか?!ちょっ酒くさっ!」
手には「鬼殺し」とかいう銘の酒瓶が。
映姫様は酔うのが異様に早く、周囲の誰かに絡み始める。
いつもはあたい以外にその役をなすりつけるのに・・・!
と思ったら背中から衣擦れの音が。
「ちょっそれはやばいです!待って!落ち着け!脱ぐなああああああああああああああ!」
さらに脱ぎ上戸だった。
どこかで「テンコー!」と叫ぶ声が聞こえたような気がしたが、弾幕の音に埋もれていった。
周りは笑うばかりで助けてくれる気配もない。
今夜の宴会は映姫様のお守りで終わりか。
背中ではまだ映姫様が暴れていて、目の前では他の面子が騒ぎ立てる。
ああうるさいことこの上ない。
だけど、あたいはこれが大好きだ。
「よし!一番小野塚小町、酒をラッパで行きます!」
盆になって魂が現世に戻っても、幻想郷の彼岸は騒がしい。
その日の宴会は月が沈み、朝日が空を白く染め始めるまで続いた。
と言うのは冗談にしても、羽目を外す四季様と構いすぎない程度に世話焼きな小町、
とてもいい感じの距離感だと思いました。