Coolier - 新生・東方創想話

のんびり帰ろう東海道~Old Super-Express~

2006/08/08 01:34:53
最終更新
サイズ
16.2KB
ページ数
1
閲覧数
1182
評価数
9/60
POINT
3150
Rate
10.41

分類タグ


注)卯酉東海道のネタばれがあります、というよりも卯酉東海道を知らないと話がわからないと思われます。
  どうか、上の二点をご了解の上でお読み下さい。


















































 六輌編成の電車が止まる人気のないホーム、ちなみに、『人気』はひとけと読んでもにんきと読んでも問題はない。
 さて、私は、そんなのんびりとした時が流れる駅のホームで、それ以上にのんびりとした友人の方を見て…言った。

「メリー!まだ~?」

「あ、ちょっと待って…これとあれと…え~とこれも下さい」
 でも返ってくるのはのんびりとした友人の声だけ…

 発車時間まで、あと3分だってのにもう…

 私は天を仰いで慨嘆した。





                  のんびり帰ろう東海道~Old Super-Express~





 大学の休みを利用しての東京旅行は、いつも通り問題だらけで無事に終わり、私たちは帰路につくべく駅のホームにやってきていた。
 とは言っても、『駅』はいつもの卯東京駅ではなく、ただの東京駅だ。

 そう、私たちは皆が使う卯酉新幹線ではなく、のんびりと旧東海道新幹線で帰ろうとしているのだった。



 さて、だけどそのなにもかものんびりとした時間の中で、たった一人のんびりできない私。私の『のんびりとした時間』はのんびり屋の友人に持って行かれてしまっていたのだ。
 頭の中では『のんびり』の単語が散々漂っているのに、その『のんびり』が『私』にかからないのはなんたる皮肉だろうか?

 ちなみに、焦る私をよそに、売店の前で未だお土産を買いあさる友人は、ずもももという効果音がつきそうなほどのお土産を足元に積み上げつつ、なおもその高度を上げようと企む。

 一体何を考えてるんだか…呆れる私を後目に、メリーはようやくお勘定に入った。

「こちら18点で22150円になります」
「はい、…ん?蓮子5000円ある?」
 のんびりとお財布を覗き、そしてこちらを振り向くメリー、どうやらお金が足りなかったとみた。



「だ~!!!」
 思わず叫ぶ私。

 後ろでは車掌さんが苦笑いをしつつ発車ベルを鳴らそうとしている。私は売店に突進すると、眼下のお土産から適当にいくつか返し、言った。
「これとこれはなしで、いくらですか?」
「あ…はい、15300円になりますね」
 何故か少し怯えた表情の店員さんが答える。
「ちょっと、蓮子~」
「うるさい」
 涙目のメリーからお財布をひったくると、とっとと支払いを済ませて荷物を抱える。もう発車時間だ。





ジリリリリ…





 大昔の発車ベルを再現したらしい合成音が鳴る。私は慌てて(メリーの)荷物を左手でつかみ、ついでにくわえ、でもって一番大きな『お荷物』を右手でひっつかまえると電車へと駆けだした。
「いた…痛いってば蓮子!」
 引きずられたメリーが悲鳴を上げたけど…
「ふるひゃい!!」
 黙らせた。荷物が苦情を言わないの!





 私たちが駆け込むと同時に、背後で扉が閉じた。ちょうど時間になったというよりは、多分発車時間を過ぎていたのに車掌さんが待っていてくれたのだろう。
 もはや『ローカル線』となったこの東海道新幹線、少々の遅れは問題ないのかも知れない。
 電車は足元からモーターのうなりを上げながら動き出し、ホームが後ろへと進んでいく。



 卯酉新幹線が出来て以来、こっちの『旧』東海道新幹線に乗る人は激減し、数分毎に発車していく卯酉新幹線とは対照的に、各駅停車が一時間に一本ずつ運転されるだけとなっていた。
 地元の人間以外で乗る人間なぞ、余程の暇人か余程の変人位。両方ともあてはまるじゃないかと言った人には、もれなくヴァルハラ行きの片道切符を進呈しよう。

 さて、それはさておき、何故私たちがこんな妙な行動をとるようになったのかというと、その理由は簡単。





 『メリーのわがまま』だった。





 こっちに来るときに、私はごく常識的に往復ともに卯酉新幹線を使うことにしていたのだけど、彼女にはそれがお気に召さなかったらしい。
 やれ本物の富士山が見たかっただの、やれ道中の景色を楽しみにしていたのにだの、あげく物足りないだの言いたい放題、東京に着いた当初は「ま、東京見物出来る時間が増えたから良いか」なんて言っていたのだけど、いざ帰るという時になって「やっぱり『旧』東海道新幹線で帰りたい!!」とか駄々をこね…もとい言い出したのだ。
 卯酉新幹線なら一時間もかからず帰れるところを、何故好きこのんで三時間以上かけて帰らないといけないのか。私は非常に疑問に思ったのだけど…

「ねぇ蓮子…駄目かな?」

 勝てない…素直に真っ正面からうるうる目で頼まれると勝てなかった…

 

 かくて、私はメリーと一緒に東海道新幹線各駅停車の旅を楽しむ羽目になったのだった。








 さて、がらがらの車内に席を占めた私たちは、隣の座席にお土産の山を作り(勿論大半はメリーのだ)、二人向かい合わせで座った。

「蓮子…お土産買えなかったじゃない~」

 そして、私が落ち着く間もなく聞こえてくるメリーの恨めしげな声…



「あのね…」
 はぁ…とため息をつきながら私はメリーに向き直る、腹立たしいけどここは冷静にいこう、冷静に…







「あんたが発車間際までお土産買いあさるからでしょ~!」
「いたいっ!いたいってば蓮子!!ぐりぐりはいや~!!!」
 無理だった…っていうかつい手まで出てしまった。
 のしかかるようにメリーの頭をぐりぐりとする私の姿は、うらわかき乙女的に非常に問題がある気がするのでここらへんでやめておこう。



 そして頭を押さえてうずくまるメリー、自業自得よ。



 さて、私は眼前で「いたいのいたいの~」とかわざとらしく言っているメリーをよそに、さっきから隣で声をかけようかどうしようか迷っていたっぽい車掌さんに向き直る。
「車内改札ですか?」
「は…はい、ご協力ありがとうございます」
 戸惑う車掌さん、私の美貌にたじたじなのかしら?



「蓮子、それはあなたがか弱い私に散々暴力を振るった挙げ句、ころっと表情を変えて何事もなかったかのように車掌さんの方を振り向いて、自然な表情でお財布から切符を出しているから『なんだよこの変なの』とか思っているのよ」
 そんな私に突っ込みを入れるメリー、いつの間に復活したのよあんたは…しかも前半私を悪役にしすぎ!誰が原因だと思っているのよ?
「わかってるわよそれくらい…っていうか心を読むな!あんたいつの間に『人の心を読む程度の能力』まで手に入れたの?」
 憮然とする私に、メリーは笑って言った。

「だって私と蓮子は仲良しこよしな秘封倶楽部のメンバーよ?以心伝心ですぐに伝わるわ」
「はぁ、もういいわ」
 ほわほわと言うメリーには、何を言っても勝てない気がしてきた。残念ながらいつも通りの結末ね。



 その時、再び遠慮がちな声が聞こえてきた。
「あ…あの、切符を拝見してもよろしいでしょうか?」
「「あ、忘れてた」」
「…」



 ごめんなさい車掌さん…







 かつての超特急は、速度を上げきる間もなく駅に止まり、そして再びのんびりゆっくり先を目指す。現在の技術ならば、卯酉新幹線ほどとはいかなくても十分高速化が図れるのだろうけど、卯酉新幹線の開業以後、いわば『見捨てられた』形になった旧東海道新幹線は、新型車を投入されることもなくただただ静かに時を過ごしてきたのだ。

 でも、併走する高速道路の路面を覆っているのは、自動車ではなく草だった。

 もはや道としての役割を終えているそれに比べれば、いまだ輸送機関としての役割を果たしているこの旧東海道新幹線はまだ恵まれているのかもしれなかった。







 電車はモーターの音と、そして線路を走る音を立てて先を目指す。両方とも卯酉新幹線では聞こえない音だ。
 でも、昔の人はこんな音を未来への扉だと思っていたのかも知れない。



「ねぇ蓮子」
「ん?」
 私がぼんやりとそんなことを考えていたら、メリーが声をかけてきた。
「あれが富士山?カレイドスクリーンの偽物の富士山よりは綺麗じゃないけど、でも見るならやっぱり実物の方がいいわね」
 
 メリーが指さした先には、国内外にその優美な姿を知られる富士山が見えた。ヒロシゲのような半パノラマビューとは違い、昔ながらの『車窓』から眺める富士山は、視界に入る高架橋やビルの間で少し窮屈そうに見えた。
 これでも富士山復興会の努力でずいぶんと綺麗になったそうなのだけど、やはりカレイドスクリーンに映されていた『広重が見た富士』よりは、いくぶん落ちる気がしないでもない。



 でも、そんな私の気持ちなど気にすることはなく、メリーは大はしゃぎだった。



「日本に来たからには一度は見ないとね、フジヤマ,テンプラ,ゲイシャ,ハラキリは」
 そう言ってうんうんと頷くメリー。
「あのね…前三つはともかくとして一番最後は見られないわよ、滅多な事じゃ」
 はしゃぐメリーに私は言う、観光客目当てにハラキリなんかされたら困る。まぁやる奴なんかいないだろうけど。
「そうなの、残念。楽しみにしていたのに」
 そう言って手に持った扇子で切腹の真似をするメリー、ご丁寧に『ぐえ~』とか声を出しているけど知ってる?江戸時代の切腹って大体が扇子で切腹の真似だけして、後は介錯してもらっていたそうよ、痛いから。

 いっそ私が介錯してあげようかしら?この子。ハラキリ体験ツアー、ハラキリはセルフサービスね。







 電車はそんな間にもゆっくり、だけど着実に京都を目指している。 







「ねぇ蓮子、お弁当食べよう。蓮子の分も買ってあるから」
 しばらくすると、ちょっと落ち着いたらしいメリーがお土産の山の中からごそごそと駅弁を取り出す。
「あ…ありがとう。私の分も…」
 一個、そして二個と取り出される駅弁を見て、私はお礼を言いかけたが…



 三個、四個、五個…次々と取り出される駅弁たち。いくらなんでもそれはちょっと多くありませんかメリーさん?







「あはは、駅弁って私の国にはないから。包装も珍しくてついつい買い込んじゃって…」
 最終的に11個ばかり積み重ねられた駅弁を前に、そう言って微笑む友人に悪意は感じられない。少なくとも私を太らせようなどという魂胆はなさそうだった。
「はぁ、あのね…」

 本日何回目かのため息をつきながら、私は目の前の駅弁達を見回した。

「いや、いい、腐る物でもあるからとっとっと食べましょう」
「お願いね蓮子」
 お箸を手に取る私に、メリーはほわほわ笑いながら言う。

「こら、私に全部食べろっての?」
「蓮子ならでき…」
「ない!断じて出来ない!!」
 まったく、私の事をどう思ってるんだか。
「でも断じて行えば鬼神もこれを避くっていう言葉が…」
「うるさい」

 さて、まぁ全部食べるのは無理として、せっかく(メリーが)買ったお弁当はなるべく多く食べたい。
 まぁ残ったのは家についたら冷凍すればいいのだろうけど、今の技術ならば味が落ちることあんまりないし。

 私は、早速包装をとりお弁当に箸を伸ば…

「あ、包装紙は全部取っておくから破かないでね」

 したのだった。





 電車は、やがて左手に海を見ながら走り続ける。かつての美しさを取り戻しつつある富士とは対照的に、カレイドスクリーンでは白砂青松の海岸線であった左手の景観は、家並みに覆われその姿を大きく変貌させていた。





「う~ん、この雑然とした町並みもなかなかいいわねぇ」
 でもそんな景観にもメリーはご満悦のようだ。窓を楽しげに見つめる彼女のお弁当はさっぱり減っていない。
 私の隣には既に食べ終わったお弁当箱が出来ているのだから、これじゃあまるで私が大食らいみたいじゃない。



「あのねメリー…お弁当食べないの?」
 急かすように言った私に、メリーは首を傾げるとこう答えた。
「あ、もっと欲しいの?それならいくらでも…」
「いや、違うから」
 そう言って、私は自分のお弁当を差し出すメリーの手を止めた、なんだってお弁当が山になっているこの状況で、さらにメリーのお弁当までもらわにゃならんのだ。

「う~ん、私はおなか一杯だけど蓮子ならお弁当の十や二十は食べられるかなぁって思ったんだ」
「…」
 そう言いながらお弁当を引っ込めるメリーに、私は言いたい事がいろいろあったのだけど、逆に多すぎて諦めた。





「はぁ、それにしてもメリー、なんで食べられない位大量の駅弁なんか買い込むのよ?珍しいからっていくらなんでも買いすぎよ」
 しばらくしてお弁当を三つばかり片づけた私は、メリーの方を振り向いて言う。ちなみに、メリーはまだ一個も食べきっていない。
 私の方が多く食べているはずなのに、なぜか負けた気がするのはなぜだろう…



「え、日本のお弁当は見た目にも綺麗だしね、特に駅弁とかはレトロな雰囲気が大好きなの。食べられなくても家で冷凍しておけばいつでも見た目が楽しめるじゃない。あ~あ蓮子三つも食べちゃったの?」
「はぁ」
 食べろって言ったのあんたじゃない…本当にどこからつっこめばいいのやら。勝手な事を言い続けるメリーに、私は再びため息をつき、ふと気付く。
 


 もしかしてあのお土産って…



「ねぇメリー、あの『お土産』誰に買ってあるの」
 おそるおそる聞いた私に、メリーはほわほわ笑ってこう言った。



「もちろん自分に!」



 ああやっぱり、東京でメリーが買いあさっていた怪しげなお土産の数々と、それでもあきたらずに駅で大量に買い込んでいた用途不明なお土産群はメリーのだった。
 ほんと、自分にお土産買い込む人間がどこにいるのよ、それもあんなに大量に…

 まぁ逆にあんなお土産を送りつけられたら、私は迷わず嫌がらせと受け取るけどね。





 呆れる私と、幸せそうなメリーを乗せて電車は走る。ゴーっという騒々しい音が車内に響いていた。
 何十年か前の設計らしいこの電車は、遮音装置だのなんだのはついていない。メリーに言わせれば音が聞こえる電車のほうが味があるらしいけど。
 ほとんど人がいないこの車内で、聞こえるのは私たちの声と、そしてその音だけ、だけど不思議と『静か』に感じる。音がするのに静かなのは不思議ね。





 やがて電車は左手から近付いてきた東海道本線を横目に進む、そして、そこを走る短い電車はメリーの好奇心をいたく刺激したらしい。





「蓮子、あれは何?」
「何って…あれが昔の東海道線よ、いわば卯酉新幹線のご先祖様ね」
 かつて、戦争の痛手から立ち直りつつあったこの国で、オリンピックに合わせて造られたのが、私たちが今乗っている『夢の超特急』東海道新幹線。その後、ただでさえその輸送力と高速化が限界している時に行われた遷都によりその輸送力は破綻、その結果造られたのが卯酉新幹線だ。
 そして、明治以降その東海道新幹線が開業するまで、東海道の交通路としての役割を担っていたのが今真横を走る東海道線だった。
「ふ~ん、あれがねぇ…教科書でしか見たこと無かったわ」
 感心したように呟くメリーの視界から、東海道線の電車はあっと今に姿を消した。



「こうしてみると東海道新幹線も速いわね、古くてもさすがは超特急といったところかしら」





 再び感心しているメリーは、しばらく何か考えて口を開く。
「ねぇ蓮子、今度は行くときは東海道線で…」
「却下」
 即座に却下する私、東海道線なんかでいったら東京まで一体何時間かかることか…それこそ丸一日かかってしまうわ。

 そんな私に、諦めきれないらしいメリーが泣き落としにかかってきた。

「酷いよ蓮子~」
「涙目作っても駄目」
「ねぇねぇ蓮子~」
「甘えても駄目」
「蓮子のばかぁ~」
「怒っても駄目」
「蓮子嫌いになっちゃうよ?」
「どうぞ」
「…」
 ふぅ、やっと大人しく…



「…そういえば今回の旅行でとった蓮子の寝顔と、あと酔ってあられもない姿でいる写真と、着替えてる時の写真が…」
 なってなかった…脅迫してきたよこいつ。
「こら待て…あんた一体いつの間に…」
「さぁいつでしょう♪」
「こいつめ…」
 追求する私にほわほわと笑うメリー、途中下車して青木ヶ原樹海に生き埋めにしてやろうかしらなんてことが思い浮かんだけど、さすがに頭をふって打ち消す。



「ね、いいよね蓮子?」
 打ち消したよ?本当に。







 わいわいと騒ぐ私たちを乗せて電車は走る。たぶん外から見たらとても楽しそうに見えるんだろうなぁ私たち…

 楽しいことは否定しないけどね。







 騒ぎ疲れた私たちが、ようやく大人しくなった頃、電車は浜名湖と遠州灘を両側に見て先に進んでいた。
 ちなみに、写真のデータと引き替えに、今度来るときには東海道線を使うという約束をさせられてしまった…一体どれくらい時間がかかるのかしら。

 メリーはのんびり屋だから大丈夫かもしれないけどさ。





 そして、だんだんと日が傾いてくるにつれて、私を睡魔が襲ってきた。
 さっきまでの大騒ぎに加え、メリーとの東京見物での疲労(主に精神的な)、でもって突然の予定変更で昨晩は3時間しか寝てなかったこと、そんなことがいろいろと積み重なってきてだんだんと瞼が重たくなってきていたのだ。

「ねぇ蓮子、眠いの?」
「ええ、とっても…」
 主としてあなたのせいで。



「やれやれ、蓮子ったら仕方ないわね。ほら、もたれかかっていいから寝てなよ」
 そんな私にメリーは微笑む。はぁ、遠足帰りのバスの中で寝てしまう小学生みたいね、格好悪いけどまぁいいや。

「ん~悪いけどお願い。着いたら起こしてね」
 そう言って容赦なくメリーにもたれかかる私、単調な音と振動、そして猛烈な眠気が私を眠りの国へと引き込もうとしてくる。



「おやすみ蓮子、たまには蓮子ものんびりしていなよ」
 頭上からメリーの優しげな声が聞こえてきた。ならのんびりさせてよ…の声は出せなかった、そのまま、私の意識は夢の世界へと旅立っていった。












ゴー

 単調な音を立てて電車は走る、午後の日射しが窓から射し込む。



 夢も見ずに眠る少女と、起きながら夢を見ている少女、そんな二人を乗せて古の『夢の超特急』は西を目指して走っていった…







『おしまい』




















































追記

「蓮子~着いたよ」
 ぐらぐらと体が揺すられ、私の意識が戻ってきた。
「へ?あ…急いで降りなきゃ!?」
 降り遅れては大変とばかりに慌てる私に、メリーはのんびり言う。
「大丈夫だよ、ここ終点だから」
「あ…そっか、なら大丈夫だね」
 終点ならばそう慌てずともあらぬ所に連れ去られる可能性はない。
「うん、落ち着いてやっても大丈夫だよ、車庫に入るにはまだ時間があるみたいだから」
「そっか、ありがとう」



 と、そこまで言って気付く、この列車京都行きだったっけ?窓の外を見るとずいぶん暗いまさかっ!?



「博多~博多~」
 外から聞こえてくるどう考えても『京都』とは聞こえないアナウンスに、私はメリーの方をゆっくりと振り向く。



「だ~れが、『終点に着いたら起こせ』って言ったのよ~!!!」
「痛い痛い、だってあんまり気持ちよさそうに寝てるもんだからついっ!!ごめんなさ~い」
 思わずメリーの頭をぐりぐりしてしまった、メリーを信じた私がバカだったわ…





 秘封倶楽部の東京旅行…未だ終わらず。





 最終が発車した後の博多駅で私たちは一夜を過ごし、家に着いたのは翌日の午前だった…





今度こそ『おしまい』
 ここまで読んでいただいてありがとうございました、またまた秘封倶楽部です。今回は卯酉新幹線がある時代の東海道新幹線の旅を想像して書いてみました。ちなみに、卯酉東海道で二人が東京に行った帰り…という設定です。
 今回は別段テーマがあるわけでもなく、強いてテーマをあげるとすれば『二人のどたばたほんわか道中』という所でしょうか?読み終わったときになんとなくほんわかとした気持ちになっていただけたなら幸いです。
 ちなみに、私は東海道新幹線には一度しか乗った事がありません。いつも在来線を鈍行or夜行でのんびり行っているもので…
 卯酉東海道を読んで、登場した時は『化け物』と言われた陸蒸気の時代から、電車特急、新幹線、そして卯酉新幹線、今自分たちが『速い』と思っている速度も、多分何十年か後には『のんびり』になっているんでしょうね。なんてことを考えていました。

 例によってご意見ご感想等よろしくお願いします。それではまた次回作で。



おまけ、翌朝の二人

「ねぇ蓮子、これが日本の『伝統食品』なのね。なんともいえないこの色合いが芸術的ねぇ。他にも興味深いお土産が一杯あって大満足だわ」

 翌朝目を覚ますと目の前に幸せそうな表情で立つメリーの姿、勝手に満足するな。本当は昨日の内に家についていたはずなのに…っていうか、その両手一杯に抱えているのは全部お土産!?いつの間に買ってきたのよ!!

「あ、そうそう、蓮子があんまり起きるの遅いからちょっとうろうろしてきたんだ」
 いや、話す順序逆だから。普通こっちから言うわよメリー?

「でもね、買いすぎて重いの。半分持って」
 ほんわか言うメリー、だが、そこでどうにか敵の『朝襲』で混乱状態になっていた私の頭脳が回転を始める。

「なんで私がそんなの持たなきゃ…」
 そして速やかなる反撃を加えようとしたのだけど…
「…そういえば昨日の夜、蓮子が寝言で『おかぁさん…唐揚げ怖いの…助けて~』とか言っているの録音していたんだけど?意味が分からないけど、聞けば面白がる人が一杯いるかも♪」
 いや待て、あんたどうやってそんな言葉を録音…私はそう言いかけて思い出す。そういえば昨日の夜妖怪化したメリーに唐揚げにされる夢を見た気が…
 どうやって録音したかは知らないけど、でたらめと言い切る自信がないわ。

「…わかったわ。要求はのむ」
「よろしい」
 そっくりかえってそう言うメリーをボタ山に埋めてきたくなった私を責める人間はいないと思うわ。そんな私にメリーは言った。

「ほら、今日のお昼ご飯は私がおごるから…ね」
「仕方ないわねぇ」



 私に片目をつぶっておがんでくるメリーを見て、私はそう言って着替えを始めたのだった。





~博多駅~

「…ねぇメリー、これは何?」
 そう言う私の目の前には山と積まれた駅弁の山、昨日買ったはずの駅弁よりさらに多い。
「駅弁だよ?蓮子わからないの?」
 いや、わからないんじゃなくてわかりたくないの…結末も予想できるし。



「たっぷり食べてね朝ごはん♪」
「やっぱり…」





 にっこり微笑むメリーを見ながら、私は胃腸薬を持ってこなかったのを後悔したのだった。

『おしまい』

 このおまけ部分は、無銘様のご感想で頭に思い浮かんでつい書いてしまったものです。無銘様ありがとうございました。そして、もし不愉快でしたら申し訳ありませんでした、ご連絡して下さればいつでも削除いたします。
 それでは、今度こそ『おしまい』
アッザム・de・ロイヤル
[email protected]
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.2430簡易評価
24.60名前が無い程度の能力削除
ぜひ東海道線ver読みたいです!!
27.100SETH削除
ちょちょちょーーーーおえーーーメリー可愛すぎるわーw

あとハラキリはセルフサービス これいい言葉ですねっ
37.60変身D削除
蓮子とメリーの立ち位置(ボケツッコミ)が私のイメージと逆なのが新鮮でした……そんな訳でメリー可愛いよメリー(何
38.90無銘削除
ラスト、さらに明太子と福岡の駅弁を買って帰るメリーを幻視
44.無評価アッザム・de・ロイヤル削除
ご感想ありがとうございます!
>名前が無い程度の能力様
 >ぜひ東海道線ver読みたいです!!
 ちょっと今の所ネタが思い浮かばず…orzただ書けるほどのネタがたまりましたら是非書かせていただきます。

>SETH様
 >ちょちょちょーーーーおえーーーメリー可愛すぎるわーw
 そう言っていただけると筆者大満足大感激です、大のお気に入りなので。ちなみに『この』メリーと蓮子、書き出すと勝手に漫才(?)を始めてくれるのですよ。手が乗っ取られてる?

>変身D様
 >蓮子とメリーの立ち位置(ボケツッコミ)が私のイメージと逆なのが新鮮でした
 他の方が書かれている漫画,SSでも逆のパターンが多いですしね、私はショートストーリーを読んで受けた印象が他の方と正反対だったようで…しかも卯酉東海道の『ま、メリーは東北人並にのんびりしているかも知れないけどね』by蓮子にとどめをさされて、これからも天然メリーとふりまわさ蓮子コンビで猛進しようかと…こんなのですが、どうかこれからもよろしくお願いします。

>無銘様
 >ラスト、さらに明太子と福岡の駅弁を買って帰るメリーを幻視
 うわぁ…やりそうですね、っていうか…書きたいかも…っていうか書かせてください。
46.70名前が無い程度の能力削除
>「…そういえば昨日の夜、メリーが寝言で
最後の最後だからこそ惜しい。
魘される蓮子かわいいよかわいいよ蓮子。
47.無評価アッザム・de・ロイヤル削除
>二人目の名前が無い程度の能力様
 ご感想とご指摘ありがとうございました、直ちに訂正いたしましたorz
 >魘される蓮子かわいいよかわいいよ蓮子。
 メリーに振り回される蓮子…そんな蓮子が大好きなのですよ♪
51.90虚堰削除
東海道自動車道…悲しいことになってる。
さて、名古屋はどうなってるかな。
因みに現在の新幹線技術では、

新幹線のぞみ「東京~京都」所要時間2時間30分前後
新幹線ひかり「東京~京都」所要時間3時間00分前後

新幹線のぞみ「東京~博多」所要時間5時間40分前後
新幹線ひかり「東京~博多」所要時間6時間20分前後

新幹線のぞみ「博多~京都」所要時間3時間15分前後
新幹線ひかり「博多~京都」所要時間3時間40分前後

ついでに
東海道線  「東京~熱海~浜松~豊橋~大垣~米原~京都」
所要時間8時間45分前後 乗換5回

乗換多すぎ!これではのんびりできませんね。
52.無評価アッザム・de・ロイヤル削除
>虚堰様
ご感想ありがとうございましたww
名古屋…どうなっているんでしょうか。
ちなみに、選択肢一番下でばかり行動している私はどうしたら…(鈍行派orz)
54.80鍋焼きうどん削除
なかなか面白い作品でした。
最近、東海道本線を利用するようになりました。ラッシュアワー時なんか物凄い事になってますが(苦笑
30年40年先には、もっとすいているかもしれませんね。
あと、現実では、卯酉“中山道”が出来そうですね(笑
56.70山本削除
面白かったです。
ぜひ、続編を読んでみたいです。

>↑東海道自動車道
東名高速道路(第一東海自動車道)ですよね?www
61.100名無し程度の能力削除
つい先週京都→横浜間を在来線で乗り通しましたよ。
鈍行はそれ自体が旅の目的になるから楽しいですよね。