この小説は、ゲーム「アーマードコア」の世界を東方っぽく置き換えたパロディです。でもかなりオリジナルな部分も入っています。
息をひそめて妖怪から身を隠す人間の集団、容赦なく襲い掛かる妖怪の群れ。
人間たちは自らの運命を呪う。
死を意識した瞬間、舞い降りたのは天使か否か。
「弾幕少女か、助かった」
「ご無事で何よりです。・・・・・・あと・・・・・・、報酬、早めにお願いしますね」
「これで、ミッション終了、っと」
アーマード こあ
リトル、小悪魔はその日、いつもと変わりなく、パチュリーの世話をしながら本の整理を行っていた。
「リトル、この本を探して持ってきて頂戴。けほっけほっ」
「はい、パチュリー様。でも、あまり無理をなさらずに」
彼女はパチュリーに召還されて以来数十年、ずっとこのヴワル魔法図書館で働いている。
外の世界は見た事がないが、彼女はこの職場をたいへん気に入っていたし。パチュリーや他の紅魔館メンバーとの仲も良好だ。
指定された本を集め、主のところへ持っていく。
「どうぞ」
「ありがと」
リトルは主の顔を横から見つめ、微笑んだ。いぶかしむパチュリー。
「何よ」
「お忘れですか?」
「何が?」
「う~ん、じゃあいいです」
もうすぐパチュリーの誕生日だ、でも本人は忘れてしまっているらしい。あるいは照れて気付かない振りをしているだけなのか。ともあれリトルはもうプレゼントを用意していた。その日が来たら普段と変わりない雰囲気で渡してびっくりさせてやろうと思っている。
ちょっとしたいたずらを心に秘めつつ、図書館奥の書庫で整理作業をする。喘息もちの主が咳き込むのが聞こえる。いつもより咳の回数が少し多い気がしたが、リトルは特に気にしなかった。
次の日の昼、パチュリーはリトルに、今日の仕事はこれで終わりにしてよいと告げた。
「も、もしかして、解雇通告ですか?」
「ううん、勘違いしないの、どうも今日は気分がすぐれないからもう寝るわ」
だるそうな表情で司書室のベッドに横たわった。リトルは少し不安に思い、魔法の知識を活かして作った薬草茶を主に振舞った。
こんなことは自分が召還されてから一度も無い。咲夜やレミリアに知らせようとも思ったが、ただの風邪だろうと思い、とくに誰かに伝えなかった。夕方、パチュリーのベッドへおかゆと林檎を持っていった。リトルがスプーンに載ったおかゆをフウフウ吹きながら食べさせる。食欲はそこそこある。昼間に比べて幾分元気になったようなので安心した。
さらに翌日、パチュリーは今日はいつものように一日中本を読んで過ごす。咳の回数も、ページをめくる音のペースも平常どおり。リトルはうきうきした気分で本の整理に勤しむ。明日は主の誕生日だ。
いつもの勤務終了の時刻になる。
「リトル、もう仕事はいいわ、ご苦労様」
「はい、お疲れ様です。パチュリー様」
「それから、いつも済まないわね、あなたほど役立つものは紅魔館には存在しないわ」
「そんな、私はただお勤めを果たしているだけです」
「ううん、あなたと過ごせて、ほんとうに良かったわ」
「そんな、おおげさですよぅ」
パチュリーは笑顔だった。こんな可愛らしい笑顔が出来たのかとリトルは失礼ながら思う。
明日、誕生日プレゼントを渡したらどんな顔をするだろうか。それを想像するのが楽しくてなかなか寝付けなかった。
誕生日の朝、リトルはいつものように身支度を整えて食堂に出向いた。ここ紅魔館では、当主、メイド長、ほか十数人のメイドたちが一緒になって食事をとる。勤務時間によっては門番の紅美鈴もこれに加わる。パチュリーも例外ではない。が紅魔館のメンバーが勢ぞろいしたのに彼女の姿だけ見えない。
「あれ、パチェはどうしたのかしら」
「きっと、パチュリー様のことですから、また本を読みふけっておられるのかと」
「咲夜さん、それなら私が呼んできます」
リトルはそう言ってパチュリーを探しに行く。図書館、司書の部屋にはいない。トイレも探し、庭へ散歩にでも出かけたのではないかと外も見回ったが、それらしい人影は無かった。最後にパチュリーの自室へ行く。きっとまだ寝ているのだろう、そう考え、部屋のドアをノックしてみるが返事が無い。
「パチュリー様、ご飯ですよぅ~」
返事が無い。でも確かに部屋の中に人の気配がする。
「パチュリー様、いい加減に起きましょうよぉ~」
どさり、と何かがベッドから落ちる音がした。
「パチュリー様!」
ドアを開けようとするがカギがかかっている。失礼します、と一言いい、思い切り蹴破る。部屋の中でパチュリーが床に倒れていた。苦しそうな息をしている。
「パチュリー様、しっかりしてください、今誰か呼んできます」
「大丈夫・・・・・・、少し寝ていれば・・・・・・、治るわ」
「無理なさらないで、・・・・・・いやよ。誰か来て! メイド長! 咲夜さん!」
リトルは半狂乱になって助けを求めた。
私がついていながら、誰よりもパチュリー様のそばにいたこの私が、パチュリー様の変調に気付いてあげられなかったなんて。
「で、容態は?」 レミリアが冷静さを装う声で聞いた。
「薬が効いて眠っているわ、おそらくこれは魔法使い特有の病気ね」
紅魔館からの要請で駆けつけた永琳が言う。
「パチェは、助かるの?」
「結論から言うと、決して助からない病気ではないわ」
「よかった」
「ただ・・・・・・」
ほっとした空気が再び張り詰める。
「あくまでも文献の知識だけど、魔法使いの一族は普通の人間と比べて、本来かなり長命なの、それは魔法の力が肉体の老化を防いでいるからなのよ。でも場合によっては、風邪を引いたとかの理由で急速に魔力を消耗した結果、肉体が衰弱してしまうこともあるようなのよ」
「じゃあ、どうすれば直るんですか?」
レミリアの代わりにリトルが詰問する。
「魔法力を補充してやればいいんだけど、これが難しい」
「なぜですか」
「この子は言うまでもなく、人間ではなく『魔法使い』という種の生き物。魔理沙みたいな人間の魔法使いに比べて、細胞の生命活動までその多くを魔法力に頼ってる。それで魔法力を補充してやろうとしても、いきなり力を吹き込んだら肉体が崩壊してしまうかもしれない。なにかマジックアイテムはあるかしら」
「あります、なんなら私の身体も使ってください」
主の笑顔をもう一度見られるのなら、自分の心臓をささげても構わないとリトルは思った。
三ヵ月後、永琳の治療のかいあって、パチュリーはすっかり全快したが・・・・・・。
「お嬢様、紅魔館の家計は全壊です」
「なんと!!」
レミリアはその時、ティーカップを取り落とした。
「パチュリー様の治療費、かなり膨大な額になってしまいました」
「大切な友人を助けるためよ、金とはこういう時のためにあるものだろう」
「おっしゃるとおりですわ、お嬢様。しかしお嬢様自身にも原因はあります」
レミリアの瞳孔が爬虫類のように閉じた。
「この私に原因だと、申してみよ」
咲夜は臆せず言う。
「ええ、八意永琳は分割払いでも良い、と言ったのに、お嬢様ったら、
『分割払い? ハッ、そんなけちなことがこのレミリアに出来るか、一括で払ってやれ』
とおっしゃるもんですから、あらゆる家財道具を売り払ってお金を作りました」
「それで?」
「それで、永琳の滞在中、最大限の待遇をするようにお嬢様がおっしゃりましたので、
お金が足りなくなりました。」
「咲夜、なぜ止めなかったのだ?」
「なんども家計がピンチだと申しました。でもお嬢様、友を助けるために金に糸目はつけるな、
と言ったじゃないですか」
「うう・・・・・・」
「変に見栄を張らず、治療費は分割でコツコツ払えば良かったですのに」
「・・・・・・仕方ないじゃない、友達が死にそうだったのよ、で、どうすんのよ? 紅魔館はもう滅亡?」
「お嬢様、滅亡を回避するためには、しばらく出費は控えなければなりません、紅魔館主催の宴会も、
その他のお金のかかるイベントも中止しましょう」
「仕方ないわね、でもパチェは助かったんだし、当然の代償ということで我慢するわ」
「ありがとうございます、私たちがなんとか食べていく分には困らないと思います
それから小悪魔が、パチュリー様を連れて療養のためにしばらくここを出たいと言っておりますが。」
「何を考えているのかしら、でも食費も浮くし、許可するわ」
「そのように伝えます」
「それじゃあ霖之助さん、しばらくご厄介になりますね」
「ああ、家賃を払ってくれるのなら問題ないよ」
「今日からこんな部屋で寝泊りするの?」
「図書館よりは綺麗ですよ」
レミリアからの許可をもらって、パチュリーとリトルはしばらく紅魔館を離れることにした。
永琳から、パチュリーは図書館に閉じこもってないで、外に出て幻想郷の精気をもっと吸うほうがいい、
と言われ、その養生のためというのが理由だが、リトルには別の目的もあった。
香霖堂の部屋を借り、1日かけて作った看板を屋根に取り付ける。かんかんかん、という釘を打つ音が
暗い森に響き渡る。
困ったこと、できる範囲で何でも解決します リトル&パチュリー
「これでよし、っと」
「リトル、本当にやるの」
「ええ、紅魔館の家計を助けるためです」
「それって私への皮肉? 私のせいでお金がなくなったから」
「そんな、パチュリー様は悪くありません、でも実際紅魔館の家計はもともと苦しかったですし、
パチュリー様ももっと外の空気に触れたほうがいいですよ、ほら、永琳先生も言ったでしょう」
「・・・・・・分かった、ためしに違う生活もしてみようかしら、その代わりリトル、フォローお願いね」
「勿論ですっ」
リトルは胸を張って答える。
「なによこの看板」
巫女の怒った声が軒先から聞こえる、早速来た、これから行う『仕事』の性格上、この人と仕事内容がかち合うのは覚悟していたが、それでも実際怒鳴り声を聞くと怖い。
「霊夢さん、でしたっけ、これには事情がありまして・・・・・・」
リトルが勇気を振り絞って説明する。
「あんたたちが困りごとの解決? それじゃ私の仕事がへっちゃうでしょ、
この博麗の同業者になろうなんて不届きね」
「リトル、そいつは言葉で説得できる相手じゃないわよ」
パチュリーがため息をつく。これからの展開を予期し、スペル詠唱の準備にかかる。
「でも、私はこれをやると決めたんです、紅魔館も、霊夢さんが思うほど裕福じゃないんです。
わかったかこのぐうたら巫女」
「言うわね、リトルも」
「失礼じゃない、まるで私が紅魔館にたかりに来ているみたいじゃないのよ」
「ぐうたら巫女の所は否定しないのか?」
「・・・・・・わかった、そんなに言うならそれで商売してみなさい、ただし、あなたが巫女の代役に
ふさわしいか、この私が直々にテストしてあげる」
リトルたちに緊張が走る。
「分かったわ、相手しようじゃないの」
「パチュリーはいいの、十分強いから。リトルといったっけ、受験するのはあんたよ」
「へっ、私?」
「そうよ、あんたいっぱしの弾幕少女だと言えるの?」
「・・・・・・分かりました、これから一人でパチュリー様をお守りしなければならない事ですし。
お相手します」
「よろしい」
霊夢とリトルは店から出ると、いつものように宙に浮き、向かい合う。
「じゃあ試験開始」
空を光の奔流が埋め尽くす。光に包まれる両者。
パチュリーは閃光に目を顰めながらリトルの姿を探す。
光が消えた後、あちこちに御札が刺さったリトルと、一本のクナイが額に刺さった霊夢が立っていた。
「なかなかしぶといじゃない」
「はあはあ、霊夢さん、やっぱ強い」
全身傷だらけで、肩で息をしているリトル。
かたや頭部にささったクナイを抜き、血を袖で拭きながらゆったり構える霊夢。
あれ人間だろ? 明らかに脳に達してるじゃん。何で生きてる?
心の中でツッコミを入れるパチュリー。
「なるほど、それなりの力はあるようだ。認めよう、君の力を。今この瞬間から、君は弾幕少女だ」
霖之助が宣言した。
「ちょっと、美味しい所持っていかないで・・・・・・でも、まあいいか」
かくして、リトルとパチュリーの『巫女サポート』業による出稼ぎが始まった。
香霖堂の朝、霖之助は目が覚めたとたん、二階に人外の気配を感じて護身用の霊剣に手をかけたが、
住人が増えたことを思い出し、安心して二度寝。
「パチュリー様、おはようございます。」
持参のティーポットでハーブ入り紅茶を淹れ、ちゃぶ台に置く。
一口すすり、うん、とうなずいて飲み干した。
「布団で眠る西洋悪魔と魔女、滑稽ね」
「修学旅行を思い出します」
「魔界にもそんなものが」
「あるんですよ。それよりこれを見てください、今朝飛んできたカラスの足に縛り付けてあったんですよ」
リトルは目覚めの悪いパチュリーに手紙を見せる。
始めまして、私はAYAと申します。
新聞業の傍ら、情報網を生かして異変解決依頼の仲介も始めました。
霊夢さんの承認を得ていますので、喧嘩になることはない・・・・・・はず。
まず、簡単な依頼を幾つか見つけてきました。もし受ける場合はそこら辺のカラスを捕獲後、
その旨を記した手紙を足に縛り付けて放してください。そのうち着きます。あるいは、直接依頼人の所まで出向いていただいても結構です。詳細はおいおい説明します。
お付き合いが長くなるかどうかは貴女がた次第です。それでは、また。
ブンヴンズネスト AYAより
「依頼がもう来てるんですね」
リトルが同封のリストを読み上げる。
「人形捕獲と図書館修復、あと、妹様お守り、の依頼です」
「はあ、最初のやつ以外はいつものことじゃないの、じゃあ人形捕獲にしましょう」
依頼人 博麗霊夢
報酬 --------
最近神社の周りをストーキングしている人形を捕まえて欲しい。
大きさは普通の人形ぐらいで、小型カメラを持ち、私の生活を覗いているようなの。
数は5~6対ほど、一体私の写真をナニに使うつもりなのか、考えただけでもぞっとするわ。
私が捕まえて持ち主に抗議してもいいんだけど、ちょうどあんたらの仕事始めに良さそうだから
お願いね。なお報酬は玉露一缶、現物支給で。
博麗神社の鳥居をくぐる瞬間、リトルは身体に電流が走った様な気がした。
やはり神聖な場所に自分のような存在は似合わないのだろう。パチュリーには、こんな仕事は楽勝ですといって一人で来たが、うかつだったかもしれないと後悔する。だが仕事そのものは困難ではなかった。
霊夢が掃き掃除をしている間、境内を駆けずり回って小さな人形を捕まえる。目標達成。
「霊夢さ~ん。全部捕まえましたよ~」
皮製の袋がもぞもぞと動いている、中に5体の人形がもがいている。
「ありがと、こいつ等がどこからきたのか、だいたい当たりはついてるけど、後は私がやるわ」
玉露をもらって香霖堂の部屋へ戻ると、パチュリーがエプロンをつけて、魔法の火のついたかまどで朝食を作っている。美味しそうなにおい。
ご飯と焼き魚、そしてみそ汁に漬物。霖之助と一緒に三人で食べる。
「初めて作ってみたんだけど、どうかしら」
「う~ん、悪くは無いけれど、ちょっとみそ汁がしょっぱ過ぎかな?」
「でも、お魚美味しいですよ」
「ふむ、やはり理論と実践は違うわね」
パチュリーがうんうんとうなずく。きっと主にとっていい刺激になるだろう、とリトルは思った。
(ただ、紅魔館の財政難解決には程遠いですけどね)
「あのう、困ったこと、解決してくれるって本当ですか?」
朝食後、香霖堂の整理整頓を手伝ったり、店を物色していた魔理沙をあしらったりしながら過ごしていると、一体の妖怪が二人のもとにやって来た。
リグルと名乗るその妖怪は、二本の触覚を不安そうにあちこちの方向に動かしながら。おずおずと口を開いた。白いYシャツに半ズボンと言ったいでたちは育ち盛りの少年のように見える。
応対したのはパチュリーだった。普段はめったに会わない来客に興味を示したのだろう。
「ええ、相応の代価がいるけれど」
「どうか、寄生蜂に襲われそうな仲間の蟲妖怪を助けて欲しいんです。群れはほぼ全滅で、
最後にのこった子たちだけでも蝶に羽化させてやりたいの。そりゃあ、その寄生蜂だって同じ蟲の仲間、
私だって生態系のバランスを保つためには仕方がないことだって分かるけど、今年は数が尋常じゃないの」
「やってあげなくてもないけど、ただ、正直私たちも館の財政が・・・・・・」
「じゃあもし守ってくれたら、蜂蜜と、貝殻虫の染料で染めた絹の反物をあげる、これは前金」
そう言って、リグルは牛乳瓶ぐらいの大きさの瓶に詰められた蜂蜜を差し出した。パチュリーは差し出された瓶を受け取る。
「現物支給か、でも貴重なものだから引き受けるわ、リトル、仕事よ」
リグルに案内されて二人は秘密の場所にやって来た。見た所ただの野原にしか見えないが、ここは彼女しか知らない聖域である。普通の人間が入ろうとしても知らぬ間に外へ出てしまうのだとリグルは言った。
人間の子供ぐらいの大きさをした緑色の芋虫、―といっても着ぐるみを着た稚児にしか見えないが―が木につかまって身体をくの字に折り曲げている、さなぎになる準備をしているのだろう。
「想像してたよりかわいいわね」
「ですねー」
「やあ、リグル、生き残りはもう僕一匹だけだよ」 芋虫が言った。
「せめて君だけは守るよ、だから安心して蛹化に専念して、応援も呼んだ」
遠くのほうからぶんぶんという羽音を響かせて、不吉な黒いもやが迫ってくる。蜂の群れだ。
「この寄生蜂っていうのも妖怪なのよ。あいつらは使い魔みたいなもの。この子は動けないから気をつけて」
「パチュリーさま、援護をお願いします。さあて、戦闘モード起動と行きますか」
「来るわよ」
リトルが大玉の弾幕を放つ、数十匹のメガニューラほどもある大きさの蜂が一度に消滅する。
蜂たちはひるまず、芋虫の周りを旋回しながら機をうかがい、何匹かが魔力弾を放って三人を牽制。
「後ろよ」 パチュリーがリトルの背後に迫った一匹を魔道書で叩き落とす。
「す、すみません」
「気をつけなさい」
二人は互いを背にして蜂を迎え撃つ。無数の蟲の死骸が、野原に不気味なまだら模様を形作っていた。
「埒があかない、私がスペルで焼き払うから、あなた達は残りを!」
リグルがスペルカードを取り出し、詠唱する。
パチュリーとリトルは言われるまでもなく後退して、巻き添えを避ける。
「灯符 ファイアフライフェノメノン」
弾幕の渦が蜂の群れに向かって放たれる。
芋虫も渦の中にいるが、そこだけ絶妙に計算された安地となり、かすりもしない。
「きっと昆虫にも、きっと私たちの概念とは違う『知性』があるのよ」
「パチュリー様、のんきに感心しないで下さい」
「分かってるわ、生き残った少数を始末するのが一番難しいのよ」
クナイ弾を細かく狙って撃ち、ようやく最後の蜂を破壊する。芋虫はほとんど蛹化を終えていた。
「やっと終わり、ですか」
「そうもいかないみたい、気をつけて」 リグルが緩んでいた空気を引き締める。
「なかなかの手際だが、そこまでだ」 一陣の風とともに、見慣れぬ風体の妖怪が降り立つ。
「真打登場、ってわけね。グリモワールよ、あいつの事を教えて」
パチュリーの魔道書が怪しく発光し、言葉を発する。
ランカー弾幕使い、オリキャラアリーナ所属、宿木・蜂助(ヤドリギハチスケ)を確認。種族、蟲の妖怪。
芋虫妖怪に卵を産みつけようと狙ってます。幻想郷にはべつにいてもいなくてもいい存在です。力はリグルより下ですが、寄生に失敗してもめげません。虫だから。
「どこかのゲーム会社のマスコットみたいな名前ね」
「おい、そこのネグリジェ娘、俺を甘く見てると卵産み付けるぞ」
「うるさいわね 、この寄生虫野郎」
「悪口にならんぞ、俺寄生虫だし」
「パチュリー様の悪口を言うのは許しません」
「いずれにせよ、もう疲れたし、退いてくれない?」
「ううむ、あんたらと争っても意味なさそうだし」
蜂助という妖怪は、蛹を見つめ、リグルにこう問い掛けた。
「蛹はこいつだけか」
「そうよ」
「じゃあ、卵産み付けるのは遠慮しとく、ほらあれだ、農家がりんごの実を一つだけ残してやる、
それと同じさ、また来年勝負しようぜ」
そう言って、蜂助は去っていった。リグルもパチュリーもリトルも追わなかった。
「ふう、一応終わったか」 リグルが安堵のため息をつく。もう陽が暮れていた。
次の日、パチュリーはまた体調を崩して寝込んでしまった、おそらく昨日の疲れが出たのだろうが、病気がぶり返したのではないかとリトルは不安になる。しかし、自分のことはいいから、紅魔館の財政のため、出来るだけ仕事を続けるようにと言われたので、霖之助に看病を任せて外に出る。
外に出るのを見計らったかのように、とさり、と新聞がリトルの足元に落ちてきた。あの烏天狗が作ったのだろう。文々。新聞とある。
新聞によると、人間のなかに、妖怪排斥を唱える過激な結社というのが存在するらしい。彼らは妖怪の生態を調べるため、妖怪の跋扈する夜間や人里離れた場所にまで調査を行い、命を落とすものもいるという。
また結社の人間のインタビューも載っており、巫女であるにも関わらず、妖怪と酒を酌み交わす者がいたり、ある吸血鬼の館(無論紅魔館のことだ)に人間のメイドが仕えているというが、奴らはみな裏切り者だ。と言っていた。
「そりゃ、人を襲う妖怪もいるけれど、妖怪一緒くたに抹殺なんて・・・、紅魔館は、なんだかんだで咲夜さんとか、人間のメイドもいて、それで仲良くやってるのに・・・。」
リトルは悲しんだ、しかし同時に、そう思える自分自身を滑稽だとも感じるのだった。
もともと、私たち人外は人に恐れられる存在、むしろ今までこういう人間たちが現れなかったこと自体が異常なのかも知れない。だいいち、私は小の字がついても悪魔には違いない。そんな私たちが人と仲良くしたいなんて・・・・・・。でも・・・・・・。
「ああ、私もずいぶん丸くなったものね」 リトルはひとり自嘲した。
改めて依頼文を読み返す。
調査隊救出
依頼主 九郎義明
前払い報酬 コインいっこ
成功報酬 コインいっぱい
わが結社のメンバーを助け出して欲しい。愛作村北方の阿鼻須山に向かった調査隊が予定時刻を過ぎても戻らず、弾幕使いの力を借りることとなった。できれば人間の弾幕使いに頼みたいが、引き受けるものがいなければ人外の者でもこの際仕方がない。これ以上仲間に被害が出るとわれわれの士気に関わる。必ず助け出してくれ。
なおこれまでの調査によると、阿鼻須山付近には夜になると人肉食性の妖怪が出没するので気をつけてくれ。
パチュリー様はこの依頼を、自業自得だ、ほっとけばよい。別の誰かが引き受けるだろうと一蹴したが、
リトルはあえてこの依頼を選んだ。
彼らを助けることで、人間を救う妖怪もいるのだと教えたい。そして、妖怪嫌いの結社が事もあろうに妖怪の助けを受けたとなれば、組織の求心力をそぐことにもなる。これが結社の過激さを変えるきっかけになってくれればいいと思う。
依頼文で指定された場所に行くと、結社の人間がリトルを迎えた。リトルはひとまず人間を装うことにした。少し遅れて霊夢もやって来た。新聞のインタビュー記事であんなことを言われていたが、やっぱり人間の危機を放置して置けないのだろう。霊夢はリトルの正体を見抜いたらしいが、彼女の気持ちを察したのか、何も言わなかった。
「はっきり言って、こうなったのはあなた方の無謀さにあるわ。妖怪を根絶やしなんてどだい不可能なのよ、こんな事が続けば私も助けきれないわ」
霊夢の非難に、九郎義明と名乗った結社のリーダーは、紳士的な口調でこう答えた。
「我々は妖怪絶滅など望んでいるのではありません、ただ我々の生活領域から出て行って欲しいだけだ。
私の両親は・・・・・・妖怪に殺された、ただ同じ哀しみを持つ人々を増やしたくないのです。あなた方も人間なら分かっていただけるかと」
「に、人間に友好的な妖怪も含めてですかっ?」
リトルが若干感情的になって問いかける。
「人間と妖怪のハーフも存在するのは知っています、しかしながら、やはり異なる生物種が対等のパートナーとして生きていくことなど出来ないのです。出来れば、ハーフたちも魔法使いのようにどこか森にでもこもってくれるとありがたいのです」
リーダーの九郎を護衛する武器をもった男たちが、こんな小娘が・・・・・・などと陰口を叩く。霊夢はそれを気にも留めてないないようだったが、リトルは悲しかった。
「この式神の後をついて行ってください、彼らが生きていればその場所へ案内してくれます」
九郎が籠の中の鳥を放つ。
出発しようとして、誰かが『妖怪なんて皆殺しにしちまえばいいのに』とつぶやくのが聞こえた。
ほんの小さな声だったが、リトルの耳は聞き逃さなかった。だがリトルも霊夢も声のした方向を振り向くことなく、調査隊が消息をたった阿鼻須山へ向かう。
何匹かの妖怪を倒しながら、式神に導かれて山奥を目指す。すでに人間の立ち入るような場所ではなくなっている。山の中腹ほどに、朽ち果てる寸前の洋館が見えた。
「どうやらあそこにいるみたいね、妖怪に襲われて、どうにかあの館へ逃げ込んだみたいね」
霊夢は臆せず洋館のドアを開けた。リトルも後に続く。巨大な蜘蛛が二人に襲い掛かるが、こともなげに蹴散らす。結社の人間が見たら、どっちも妖怪じみているように見えるだろう。
式神があるドアの前で床に降りた。この中なのか・
「誰かいませんか? 弾幕使いです。あなた方を助けにきました」
リトルの呼びかけにすぐ反応が返ってきた。安堵の声。
「弾幕少女か、助かった、ドアにかけられた術を解いてくれ、それで開くはずだ」
調査隊10人のうち、3人が妖怪と戦って死亡、5人が何らかの怪我を負っていたが、リトルの魔法で手当てして回復させた。調査隊の護衛をしながら山を降りる。
「いやあ、君は素晴らしい。魔法で怪我も回復させてくれたし、やっぱり人間の味方は人間に限るな」
「そうとも、妖怪はこんなことはしめぇ」
「これで妖怪撲滅に一歩近づいたな」
と口々に調査隊メンバーたちが言った。
うつむくリトルの腕を、霊夢がニヤニヤしながらコンコンと肘で小突いた。まるで子供が大人にいたずらを仕掛けて成功寸前というような表情だ。
~さあ、こいつらに目にもの見せてやりなさい~
リトルは無言でうなずき、人間たちの前に立つと、隠していた蝙蝠の翼を思い切り広げた。
辺り一体につむじ風が巻き起こり、男たちが手で目を覆う。
「き、君はまさか・・・・・・」
「そう、私は妖怪。あなた達は私たちを追い払うか、殺そうとしている。でも私はあなた方を助けた」
無数の大玉やクナイ弾を空に向けて放つ。男たちが再び驚愕する。
「これが最後、もう生きていくための必要を超えた妖怪排斥などおやめなさい。でなければ、いずれ、
人間自身をさいなむ事になるわ」
男たちは、ぽかんとした表情で霊夢のほうを見やった。霊夢は肩をすくめる。
「まあ、ああいう親切なやつもいるってことよ」
「お金は先に頂いたコインいっこで十分です。ではさようなら」
リトルは去っていった。これで結社の人間も妖怪を見直すだろうか?
霊夢はそんなことを考えながら・・・・・・、もちろん、報酬を独り占めする。
パチュリーは布団から上半身を起こしてリトルを出迎えた。身体は完全に回復したとはいえないが、
それでも『普段の病弱さ』にまで戻ったように見える。『病弱さ』こそ彼女の標準値みたいなものなのだ。
「パチュリー様、お仕事終わりました。でも報酬、結局コインいっこでしたけれど」
「ひとりでそこまで出来たのなら上出来よ、それで、奴らは考え方を変えたかしら?」
「まだ・・・・・・分かりません。でも、こういう小悪魔、妖怪もいるのだと知ってもらえたと思います」
「まあ、人間も一枚岩ではないし、私たちのような人外も人間に滅ぼされるほどヤワではないわ
それより、はやく紅魔館の財政を立て直さなきゃ」
リトルは気を取り直す。本来の目的は出稼ぎと主パチュリーの療養だ。
人間の問題は最終的に人間が解決するしかないだろう。
風呂を借りて汗と心のわだかまりを流し、パジャマに着替えて遅い夕食をとる。
ひょんなことから始まった新しい生活。ここにもさまざまな苦労や、心配事があるのだろう。
だが、それに負けない楽しいことや幸せなこともあると信じて、リトルは眠りについた。
んで偉そうに言わせて頂くと、パロディに際して文をネスト役に置いたのは面白いと思います。そこはかとなくMOA風味なのも個人的には嬉しいです。MOAはシリーズ最高傑作だと思う。次回作以降がどのように展開していくか楽しみにしています。
もっとアツくて細かい戦闘描写があっても良いかも知れませんね。
いい響きだ……。
各キャラの口調に少し違和感を覚えつつも、このパロディをここに持って来た
アイディアには感服いたします。
途中でにやりとさせる描写も含まれていてなかなか面白いと思う。
点数は次回への期待を込めてこの点数で。
続きを楽しみに待っていますね。
続き、楽しみにしてます。
3とか3SLも出るでしょうか?
こっそり同棲してるこーりん許すまじ
中々の手際だが、そこまでだって誰の台詞だっけかなー
確かマスターオブアリーナの誰かだったような気がするんだが…
レギュリナかトニトルスか…んーむ
是非シリーズモノにしてくだされ!
MOAを彷彿とさせるネタはメイン、サブのアリーナ共に全員飛び剣で叩き切った記憶が蘇ってきます(ぇ
>名無しその7の人
その時ちょうどプレイしてたので確認してみたらトニトルスでした。
余談ですがレギュリナに関しては「やはりACが勝ったか」だそうで。
かなり無関係な感想ですが、次も期待してます。
MOAはやったことないけどACファンとして続きを楽しみにしてます。
各キャラの口調に多少違和感はあるけどパロディだと思えばアリかな、と。
ネクサスから入った自分は、セリフパロはわかりませんでしたが。
これを機会に、旧作探してみようか。
わかっていても期待してしまう!
今は何とも言えませんがACファンとして次作も期待してます。
…次こそ、やつが出るのか?
あの最強とうたわれた⑨が…w
個人的にはこあ強化人間(妖怪)化があってもいいなぁ…と(ぇ
やはり奴が出るのか?ある意味最強のランカーが・・・
というか、こーりん試験官の役似合い過ぎだ。続編期待
いやナインボールは見たことすらないけど(暴
リトルの活躍よりむしろこーりんの出現にびっくり
ちなみに原作は殆どやったー
ACファンの自分としては続編を楽しみにしております。
あとMOAの前の作品だけど、ACPPのヴィクセンとかも出てきて欲しいー。
ヴィクセン(=雌狐)だから出てくるとしたら彼女になるのかな・・・?
我が愛銃「カラサワ」をモチーフにした符とか登場しないかな~~と期待してみたり
そしてやはり気になるのは⑨
よもや熾天使は出ないと思うが・・・AC1~MOAの強さか、はたまたAAの強さか
あるいは登場しないのかが非常に気になります
「借金の嵩んだ小悪魔が強化悪魔にされるんじゃないか」と同じくらいに気になります
>阿鼻須山
アビス→ABYSS・・・ファンタズマな妖怪がいるんですか?
>ミサイル信奉者さん
私は赤マシンガンでちまちまAPを削ぐのが好きです。MOAはEDは何度か見ましたが、DISK2はほとんど未プレイなんですよ。あいつら強すぎ。
>弾さん
戦闘シーンは苦手ですが、がんばって書いてみます。
>TNK.DSさん
なるべく自然なタイミングで元ネタのセリフを入れたいです。はやく「イレギュラーなんだよ」とか「何も変わらないのかよ、結局」のくだりにたどり着きたい。
>紫苑さん
月光を装備してジャンプ斬り。それでしか倒せない敵もいました。なるべくご期待に添えるような作品を作ります。
>Afさん
キャラクターの口調については、おっしゃるとおり原作を振り返ってみたほうがいいかもしれません。東方である事が第一ですしね。
>煌庫さん
香霖は別に試験官のつもりで書いたのではありません、どちらかというとゲームには登場しないショップの店長みたいな役でしょうか? あとあの氷精さんをどうしよう。
>名無しのみなさん
元ネタを知らない方でも、こんな私の作品を読んで下さるとは光栄です。
もし第二部を作るとしたら、任務斡旋は「テウィブスコンコード」なんてどうでしょうか? いろいろ中間搾取ありそう。
言われてみると霖之助はうらやましい同棲生活。でも二人は二階で寝泊りしており、一緒の部屋で寝たりはしていないはず。ヴィクセンが「雌狐」という意味だったとは気がつきませんでした。そのネタも出そうかな。あとカラサワの登場の仕方はだいたいの構想があります。
>借金の嵩んだ小悪魔が強化悪魔に・・・・・・はギャグとして面白そうです。笑いを取るのってやはり難しいですね。
⑨はホントにどうしようか。実はものすごく強い設定にするべきか、「ハッスルワン」にしてしまおうか迷います。
じつはACはPS1の三部作と無印の2しかやった事が無いので、他作品のネタを期待している方はどうかご容赦を。
これだけコメントや点数を頂いたのはとても嬉しいですが。でもラル大尉が私にこう呼びかけているんですよ。
「これはお前の筆力で取ったのではない。元ネタの性能のおかげだということを忘れるな」と。オリジナルの文章で高得点を取れる方はまさに実力者。精進したいものです。それでは。
3だか2からの任務斡旋所はレイブンズアークになっていたので。○○アークもいいかもしれません。
「おまえはやりすぎたんだよ」とか原作のセリフが飛ぶのはうれしいですねぇww
後は九郎義明の結社と、その対抗組織との話になっていくのかな?かな?
元ネタがよくても結局腕が悪ければ扱えないのですから、あまり気にする必要ないと思いますよ。ただ、そう考える姿勢は大事ですが。
えらそうなこと書いてスンマセン;;
無理の無い範囲できちんとACと東方が混ざりあった作品だと思います。
戦闘描写が少ないのは…次回以降に期待か、暢気な妖怪が多いからって事にしますっ
あと、霊夢の所業に泣いた。りとる、うしろうしろー!
レイヴンと言うと鴉天狗の文が真っ先に思い浮かべられたのですが、あえてレイヴンでなくネストのナビゲーター役に持ってきたのは、彼女の性格を考えるととてもハマリ役だと思います。また、同じ愛称を持ちながらその実力には天と地程の差があるあの⑨もどんな形で登場するのか、あるいはしないのか・・・とても気になります。ただ、「ハスラーワン」の方だとチルノは量産されてる事に・・・(笑)
続編期待してます!!