Coolier - 新生・東方創想話

Mの悲劇

2006/08/06 06:25:38
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「あ゛ー。あーあーあー……」
 普通の魔法使い、霧雨魔理沙は、自室のベッドの上を転がり悶えていた。
「暑いし、暇だ……」
 からである。
 近頃、夏の幻想郷は暑い。夏なんだから暑くて当たり前だが、何年か前と比べると明らかに今のほうが暑い。気がする。
 ここ数年の間、幻想郷の外では「ちきゅうおんだんか」が進んでいる。ヴワル図書館から盗んだ、もとい借りた本にはそう記されていた(もっとも、外の言語は魔理沙にはわからないので、パチュリーに翻訳して読み聞かせてもらい得た知識であるが。なので、正確には「進んでいるらしい」と表すのが最も適当かもしれない)。「ちきゅうおんだんか」は、要するに世界中の気温が上がってしまうという事象らしく、隔離された幻想郷にも、その余波が迫ってきているのかもしれない。魔理沙は悶えながら、そんなふうに考えていた。
 ああ、そうだ。それに、世界全体には億年単位での四季が存在する。曰く、ここ何億年かの間、世界はずっと春だったのだが、最近、もうすぐで夏、という時期に差し掛かっている。これもパチュリー翻訳の受け売りだ。悪いか。閑話休題、なので、世界全体が春から夏になるのだから、「ちきゅうおんだんか」も自然なことなのではないか、つまり、その発生を危惧する以上に、我々はどうやってその夏を乗り切るかを考える必要があり、さらに要約すれば、近いうちに人類は焼かれ滅亡するぜベイベー。
 意外と複雑で誰にも理解できそうにない思考回路で、そこまで考えた魔理沙は、複雑な思考回路を経て、ちょっと慌てるという結論に達した。
「ohベイベー! このままでは人類は滅亡してしまう!」
 瞬間的にアメーリカンな亡霊に取り憑かれる。よくわからない危機感を覚えた魔理沙withジョニー(仮名)は、何を思ったのか唐突に箒に跨り、全開の窓から光の速さで家の外へと飛び出していった。
 彼女は、この暑さゆえに、頭がちょっとおかしくなっていたのだ。


「あ゛ー。あーあーあー……」
 真夏の博麗神社で、ふわふわ巫女さんの博麗霊夢は、畳の上で暑さにふやけていた。
 障子という障子を全て開けても、暑かった。霊夢はさらにふやけた。
 今は午の刻。この晴天であるから、もう少し時間が過ぎれば気温はさらに高くなるだろう。それを考えて、霊夢はさらにさらにふやけた。
「紅白!!」
「うわっ!?」
 ふやけていた霊夢は、突然耳元で叫ばれ、驚いて後ろに吹き飛び、空中で三回転を加え三倍の六百万パワーだ!
 要するにびっくりして飛んでいた。
「お、脅かさないでよ! 死ぬかと思ったわもう!」
「紅白、大変だ! 世界が滅亡してしまう! デンジャラース!!」
 文句をぶつける霊夢の声は、魔理沙withジョニー(仮名)には届かなかったらしい。彼女は霊夢を無視して、はしょりすぎたセリフを、緊迫した様子で放っていた。
「はぁ?」
 もちろん、霊夢には意味がわからない。霊夢は、魔理沙withジョニー(仮名)とはうって変わって、再びふやけていた。
「霊夢、私は君を孤独のまま見殺しにはしない。私と一緒に来てくれ。できるなら二人あの丘で最期を迎えよう」
 やはり霊夢の声は聞こえていないようで、魔理沙withジョニー(仮名)はふやけた霊夢の両手を取り一人特急列車のまま、且つ優しく甘い声で囁いた。
 セリフの意味は、魔理沙withジョニー(仮名)にしか、わからない。少なくとも、霊夢には通じていない。
「元々あんたは変で卑猥な生き物だと思ってたけど、頭がここまで病に冒されているとは想像もしなかったわ。したくもないし」
 尤もな指摘である。だが、それでも、魔理沙withジョニー(仮名)は動じることなく――というか、聞こえていないだけだと思われるが――、会った始めの緊張した口調で言った。
「時間がないんだ! 頼むぜ霊夢! 頼むぜマイハニー!」
「誰がハニーよっ」
 そろそろ言っても無駄だと気づき始めていた霊夢であったが、どうしてもここだけは突っ込まずにいられなかったようだ。それ以外の部分については、よくどころか全くわからないので無視を決め込むことにした。
 まあ、暑さにやられたんだろう、なんて霊夢は考え、そしてふやけた。
「あと、お参りならお賽銭入れていきなさいって、いつも言ってるでしょ」
「いや、今日は、というか今日も違うんだ」
「そこだけ素になるのね」
 いきなりいつも通り話し始める魔理沙に、霊夢はちょっとだけ拍子抜けした。
 が、次の瞬間には、魔理沙には再びジョニー(仮名)が取り憑いていた。
「神様の結婚式に、神の嫁である巫女を颯爽とさらいに現れたんだ」
「あっそう」
 魔理沙withジョニー(仮名)を見ていると、なんとも言えない溜息をつかざるを得ない霊夢だった。また面倒ごとにならなきゃいいけど、と思っていた。霊夢はどんどんふやけていく。


 表向きは魔理沙の叫び声を聞きつけた人形師、アリス・マーガトロイドは、お供の上海人形と蓬莱人形を連れ、博麗神社の中を木陰からこっそり観察していた。目当てはもちろん、愛する(?)魔理沙。右手には、いざという時のハリセンを握り締め。
「っていうか避暑行こうぜ避暑。今日は風がないから、博麗神社も暑いし」
「やーよ、面倒くさい。動くのが」
 魔理沙は霊夢の左手を引いて立ち上がった。対する霊夢は、ふやけきった表情で寝そべったまま動こうとしない。一見、微笑ましい姿。よく見れば、いつもの風景。よく見なくても、いつもの風景。つまり、いつもの風景。
「しかーし!! しかしだ! 我々は行かねばならない! 悲しみに負けてはならない! 自由のため、国家のため! さあ諸君、立ち上がろう! そして共に戦おう! 我々の自由のために! 我々の国家のために!!」
 いつもの風景は壊れた。魔理沙が叫んだ。霊夢は慣れたのか無視してふやけている。アリスは戸惑った。誰の演説かちょっと気になりもした。
「グレープフルーツって、なんで名前にグレープってつくか知ってるか?」
「知らないわよ」
 魔理沙withジョニー(仮名)のあまりの唐突さに、拍子抜けしてずっこけそうになるアリス。蓬莱人形は既に混乱して目が回っている。上海はかろうじて耐えた。霊夢はやはり慣れたようで、適当にあしらおうとしている。
「それは、私も知らん」
「あっそう」
 知らんのかい! とアリスは心の中で叫んだ。ちょっと期待してたのに。蓬莱がついに転んでいた。空中で。
「家に一週間ほど置きっぱなしだったグレープフルーツがあるんだが、一緒に食べないか?」
「いらない」
 さっさと喰えよ。アリスはまた心中叫び倒した。性格上か、突っ込みたくてうずうずし始めていた。だけど、そう、どう言ったらいいか、例えば今、自分が姿を現せば、魔理沙withジョニー(仮名)に食べられてしまうのではないか。違う、むしろ愛が芽生えてハッピーエンドなんじゃないか。なんだそれ。つまり、既に私の脳も感化され始め危険な状態だというのに、ここで直接彼女と対峙すれば、それはまさに破滅の一途。ああ魔理沙好きよ。え、あ、いや、別にあいつの事なんか、そ、その、なんでもないわよっ! 忘れなさいよね! とりあえず何とか帰ってきて。魔理沙も私も。
 アリスは考えていた。本人は真剣である、もはや彼女の頭も危険な状態なのは、唯一かろうじて無事な上海人形が見れば明白であった。
「霊夢、いいのか? 君がこんなにしょぼしょぼしている間にも、刻一刻と世界は変化している。それでも君はこんなにも無意義にしょぼしょぼするのか? このままでいいのか? 年に一度しかない夏を、しょぼしょぼしたまま過ごしていいのか!?」
「いいわよ。今のあんたみたいになるよりはずっといい」
「だから羽ばたこうぜ、大空に」
「面倒」
 会話になっていない。いや、霊夢は一応はきちんとした対話をしているか。適当だが。
 問題はこの魔理沙withジョニー(仮名)inシャンプー&フラミンゴだ。こいつはどうなってしまったのか、未だアリスにはわかりかねる。というか、霊夢もよく理解していないが、もうどうでもいいらしい。ほぼ寝ている。
 常人には到達し得ない領域…! ざわ……ざわ……。アリスは戦慄した。もはや、手に持ったハリセンでは魔理沙withジョニー(仮名)inシャンプー&フラミンゴ+ウルトラ兄弟を止めることなどできやしない。そう感じ始めていた。
「逃げたほうが……いいんでしょうね、これ……」
 アリスは、魔理沙withジョニー(仮名)inシャンプー&フラミンゴ+ウルトラ兄弟たちに気付かれないように小声で呟いた。
 わかっているのだ、この異様な光景は、私の手が出せるほど甘いものではないことぐらい。でも、なぜかそれができないのは――。
 自身で気付いたその理由に、アリスは自嘲の意味を含め苦笑いをした。それを見た上海は、ついに私のご主人の脳も消滅してしまったようだ、と心の中で嘆いた。
 蓬莱は、木に自分の頭を打ち付けていた。彼女の中で、何かが崩壊したようだった。
「れっーむーーー。キャシャーン」
 魔理沙withジョニー(仮名)inシャンプー&フラミンゴ+ウルトラ兄弟 or dieは、既に思考中枢が破壊され、言語として成立していない戯言を吐き続ける謎の物体と化していた。「れっーむー」って、そもそもどう発音しているのかもわからない。
「アッー! わたし、にんじんたべれるよ」
 魔理沙withジョニー(仮名)inシャンプー&フラミンゴ+ウルトラ兄弟 or die for ミキオは尚も単語の羅列を並べ続ける。霊夢は寝ていた。
 アリスは、いや、やはり、これ以上見ていても埒が明かないと思い直した。というか、頭が痛い。未だ木に頭を打ちつけ続けていた蓬莱人形をそっと抱き寄せ宥め、何も見なかったことにして去ろうと決意した。
「れっーむー」
 魔理沙withジョニー(仮名)inシャンプー&フラミンゴ+ウルトラ兄弟 or die for ミキオビームは、まだ、ひとり空しく叫び続けている。


「霊夢……好きだぜ」
「なによそれ!?」
 しばらく魔理沙withジョニー(仮名)inシャンプー&フラミンゴ+ウルトラ兄弟 or die for ミキオビームアルファmk-IIの一人暴走列車状態が続いていたが、彼女はなぜか急に素に戻り、霊夢の耳元で囁いた。これには、さすがの霊夢も飛び起きて叫んだ。さすがに、立ち去ろうとしていたアリスも慌てて振り返った。
「言葉通りだぜ。霧雨魔理沙は、おまえ、博麗霊夢が好きだぜーってことだ」
「なっ、ばっ、バカじゃないのあんた!? ていうか、なに、え、ああっ!? アッー!」
 霊夢は顔を真っ赤にして、しどろもどろしていた。手をパタパタさせて、完全に動揺を隠し切れずにいる。
「霊夢……」
 そう甘い吐息とともに囁いて、魔理沙は霊夢の首と腰に手を回して抱きしめた。
「ちょっ!?」
 霊夢とアリスが声を合わせて叫んだ。誰もいないはずの方向からの声に、魔理沙と霊夢は同時に振り向く。
 アリスはすぐに己の失態に気付いた。声を上げたせいで、魔理沙たちに見つかったのだ。だが、今さら、そんなことに構いはしない。人形たちの静止も聞かず、木の陰から姿を現してしまう。
「……この………」
 最初に、人形たちが主人の異変に気が付いた。明らかにどす黒いオーラが、アリスの全身に漂っている。
「馬鹿魔理沙―――!!」
 魔理沙たちがその危ないオーラに気付いた頃には時既に遅く、アリスは既に、声にならない声で、適当なスペルカードを宣言していた。魔理沙と霊夢は一秒後、遠くに飛ばされた。
 嫉妬する乙女は何より強い。
「おぼえてやがれー」
 魔理沙は、飛ばされながら楽しそうに悪役の基本的捨てゼリフを吐いていた。
(なんで私まで…)
 そんな魔理沙を尻目に、全ての被害者である霊夢は、心の中で悲しみに負けようとしていた。


 時は過ぎ、魔理沙が見知らぬ花畑で目を覚ました頃には、気温は恐るべき高さになっていた。
 ゆっくりと起き上がる。見渡せば、後ろで霊夢が座り込んで俯いているのが見えた。
 なんとなく記憶が蘇る。起き抜けだからか全ては思い出せないが、霊夢とアリスに、とても申し訳ないことをしていたような気がした。
「あー、霊夢…」
 謝りたいような、なんだかわからない感情を胸に、霊夢に近寄る魔理沙。だが、待っていたのは不穏な匂い。
「ふふふ、ふふふふふふ」
 嘲笑うように低く笑う霊夢。俯いているので、表情はよく見えないが、きっと怖い顔をしていると、魔理沙は直感で思った。
 霊夢は暑さと悲しみに負けてしまったのだ。不吉な笑みを浮かべて擦り寄ってくる。
 照りつけるような暑さが再び魔理沙に襲い掛かってきていた。そして、それよりも恐ろしいものが、襲い掛かってこようとしている。
 魔理沙は、なんだか嫌になったので全てを諦め、考えるのをやめた。一瞬、アメリカンな幽霊が見えたのは、気のせいだろうか。

 あ、それと、なんだか小さくて可愛い女の子が見えた気がした。


 その日、鈴蘭畑に住む人形Mさん(年齢不詳)が、竹林の奥の花畑で、二人の人間に(性的な意味で)襲われるという事件が起きたと、翌日の「文々。新聞」には記されていた。同時に、「加害者らは当日のあまりの暑さに、頭が変になってしまったのだろうと思われる」とも記述されている。

「ついカッとなってやってしまった。今では反省している」
あつさであたまがしにます
あと初投稿です まだまだ未熟ですがよろしくお願いします
私のノリが皆さんに受け入れてもらえるのか不安ですが

追記:誤字修正しました
oblivion
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コメント



0.1060簡易評価
2.50名前が無い程度の能力削除
最後のトコロを詳しく。
5.無評価名前が無い程度の能力削除
主に性的な部分を。
8.無評価名前が無い程度の能力削除
カオス具合がなかなか素敵でした。

あと最初のほう、幻想「卿」になってしまってますよ
正しくは「郷」です。よくあるミスですが
11.70名前が無い程度の能力削除
…暑さがいけないんだよな。うん
13.60名前が無い程度の能力削除
イかれ具合が面白かったです。でもタイトルになってるのにメディの出番が… (つД`)
19.無評価oblivion削除
ご読了ありがとうございます。
コメントへのレスです(下の片から)

>最後のトコロ
>主に性的な部分を。
ついカッとなって巻き込みました

>カオス
世界の人がみんなカオスなれば世界は平和なのです 嘘にもほどがありました
あと誤字の指摘ありがとうございます 辞書登録が既に間違ってました…orz

>暑さがいけないんだよな。
帝国万歳

>メディの出番
メディ周りを詳しく書くとネチョ行きになるのでこうなりました 許してください 許してよ 許してね?
タイトルは「魔理沙さんの頭の悲劇」の略だったり「メディスンの悲劇」だったり「森近は忘却」の略だったり