オリジナルキャラがでますが、彼女が東方作品に与える影響など微塵もございません。
ただ十六夜咲夜をレミリアさまが育てた。というのに首をかしげた結果、生まれただけでございます。
そこそこの長さでございます。
――――――――――――――――――――――――――――――――
金髪の髪に金の目。横の毛だけがみつあみで、残りはアップにまとめていた。
おきざまにハァとため息をついてしまう。
マリーベル。
苗字を持っておらず、低級妖怪といわれてもおかしくない程度の身体能力でしかない彼女が紅魔館のメイド長とは誰が信じるだろう。
誰もが一目見た瞬間『スカーレットデビルもこんなのをメイド長にするとは!』と嘲笑してもおかしくない。
だが、それを言った瞬間後悔の念にとらわれるだろう。
紅魔館メイド長マリーベル。どこにでもいる低級妖怪であり金と銀を生み出す程度の能力を持つ少女。いや、少女というにはすこし年を
とってしまっているが、どこか若々しさにあふれている。
やはり完全無欠の従者だからだろう。
話を戻そう。純銀というのは最も魔に対抗しやすい物体である。純銀のナイフ、純銀の槍、純銀の矢を作り出し魔力を用いて敵に放つ、
斬る、打つ。それらによって彼女は低級妖怪でありながら、スカーレットデビルの支配する館のメイド長となれたのだ。
もちろんメイドとして優秀。先ほど行ったとおり完全無欠。ナイフのように冷徹。そしてクール。
そんな彼女がため息をはいている。
これは非常に珍しいことであった。
先日の夜中。
主であるレミリア・スカーレットは吸血鬼だ。吸血鬼が活動するのは夜。
十六夜の夜なれど、あまりの月の美しさと何かの予感を感じ一人で外出をした。
もちろんお供しようとしたのだが、レミリアにきつく付いて来ないように言われたのだ。
運命を操る程度の能力といえど毎回毎回操れるわけではない。魔法と同じであらゆる条件がそろいはじめて成功するのだと、レミリアが
自虐的に笑ってた。
そして、一刻するかしないかの時間でレミリアは館へ帰宅したのだ。
非常に珍しい。月夜の散歩を好むレミリアにしては本当に珍しいことなのだ。
階段を降りホールへ足を運ぶ途中、働くメイドたちが頭を下げ礼を行う。
どこか恐れているその様を見てマリーベルは安心した。
ある程度の恐怖で押さえつけるのが一番全体をまとめられると信じているからだ。
実際に彼女らはマリーベルを恐れていえる。レミリア・スカーレットというあまりにも遠い世界の恐怖よりも、すぐ近くにある恐怖のほ
うが恐ろしかったのだ。
帰ってきたレミリアを見てマリーベルの冷徹な仮面が一瞬だけ床へ落ちる。
ボロボロの汚らしい布切れをまとい、髪はあっちこっちへのび、体中が傷とアカにまみれた少女。
人間かと思ったが人間なら吸血鬼のレミリアがほうっておくわけがない。第一銀色の髪である。妖怪をわざわざ館へ招きいれたことに驚
きを隠せず、マリーベルは彼女はと思わず問いかけてしまう。
「珍しいわね。貴女が疑問を口に出すなんて」
驚いたような、だが、絶対に驚くぞと予想していたのかクスクスと笑う。
普通ならムッとするのだろうが、マリーベルはそのような感情を持たなかった。
「申し訳ありません」
「いいのよ、何故疑問に思ったのかしら」
「はい。妖怪であればたいていの者がレミリア様の『夜の王』の名を欲して愚かにもレミリアさまに襲い掛かります」
まぁねぇとレミリアが苦笑した。見た目が幼く、最近では夜の王またスカーレットデビルと言われるほどの恐怖を見せてはいない。その
ため力が衰えたのだと思いいくつかの妖怪はレミリアに襲い掛かった。
力のあるもの、集団で襲うもの。
忘れたころにやってくる、それを全て全滅させ夜の王の名の恐ろしさを周りが理解する、忘れる、襲い掛かる。そんな循環がいつしか生
まれていた。また、陽光にさえ当たれば気化する彼女を吸おうとギリギリの時間に進入する者だっていた。
瞬発力のある吸血鬼にとって三十分もあれば百の妖怪くらい赤子の手をひねるかのよう。
これがかのスキマ妖怪やウワサの楽園の巫女ならばそうはいかないだろう。
だが、スキマ妖怪は神出鬼没。楽園の巫女は調和を優先し人の味方でもない。
わざわざ何か騒ぎを起こす気は毛頭なかった。
「ですので妖怪を何故館へ招きいれたのか。そう疑問を持ちました」
「妖怪?ええ、私も妖怪と思ったわ」
「失礼ですが、どういうことでしょうか」
「この子は私を畏れず私を驚かせた人間ということよ」
そんな馬鹿なと一瞬思うが主のする事にメイドが口を出す必要などない。
頷き理解したということを口に出すと、レミリアはこの子供を綺麗にしろと命令を下した。
銀髪の少女名前は十六夜咲夜。
メイドたちに指示を与えながら長い廊下を歩き後ろを振り返ることなくマリーベルは歩いていた。
十二くらいだろうか?
あまりにも体の線は細いため確信がもてないが、少女の足の速度にあわせる気はなく、マリーベルはすたすたとあるく。
だが、おかしいのだ。
マリーベルの速度からいけば、必ず走らなければならない筈。いや、第一足音が小さくなったと思えばすぐ足音は大きくなっていた。
ぴたぴた
かつかつ
ぴた
かつかつ
ぴたぴた
おかしいと思いつつも風呂場まで直行した。
あまりにも汚く普段門番隊員やメイドたちが使う大浴場に連れることができなかったため、昔は何かで使っていたらしい風呂場は連れて
行った。
何故作ったのか、何故必要なのか、誰も知らなかった。
まあ、あるなら使うだけだ。
「服…布きれを脱ぎなさい」
浴場へ足を運ぶなり、マリーベルは一言言った。
少女は暗い蒼い目をマリーベルへむけのろのろと布きれをぬぐ。
マリーベルは絶句した。
人間という種族は理解不能、理解不能。
「呆れた、いえ、それは風習かしら?」
「…」
汚れた体傷だらけの体があらわになる。
まさか布切れからやたらと太ももが見えたりするとは思っていたが、布切れ一枚だけだったとは思わなかったのだ。
また大きくため息をつき、少女を風呂の中へ入れ魔女が作りだした自動水流魔法だとか何だかを浴びせる。
何でも水の魔法であり、魔方陣を起動させるだけで小さな雨を作り出すという魔法だった。
大浴場では間に合わず、とりあえず此処に置いておいただけだが役に立った。いちいち水を汲むのも面倒くさい。
水を浴びる間少女は傷の痛みなどないのか、ただじっとしていた。
洗う気はないのだろうかと思い、清潔なタオルと石鹸を渡すが、持つだけで何もしない。
「ああ、もう」
少し乱暴な手つきでタオルと石鹸を奪う。
それにさえ無感情。
マリーベルは厄介な拾い物に対するイラつきを石鹸を泡立てることに注いだ。
泡立てすぎたミルクのように泡がタオルに盛大に生まれていた。
石鹸が心なしか一回り以上小さくなったように思える。
少女の体を洗おうと手を伸ばした瞬間だった。
パッと少女がいない。
どこだ。
足音に気付き手を伸ばす。
背後にいた少女に驚きながらもメイドとしての勤めを果たすのはやはりメイド長。完全無欠であるからだ。
冗談じゃない。
珍しく肩を張らせたマリーベルに周囲は数秒硬直する。
とまらず働けという一喝を聞きメイドは慌てて動きを再開する。それでもメイドはマリーベルをチラリチラリと見ていた。
純銀の鎖で巻き取られた少女。服はメイドたちと同じものをきこませれていた。
じたばたと暴れることなく、少女は顔をゆがませていた。
この館ではじめての別の表情であった。
「レミリアさま」
「何かしらマリーベル」
自室へ入ってきたメイド長に対し笑みを浮かべながら問う。イタズラっこのような笑い。
レミリアはテーブルに両膝をつきあごを持ち上げていた。ティーカップからは紅茶の湯気。
隣では珍しくもパチュリー・ノーレッジが本を読むことなく座っている。
「私がこの少女」
「十六夜咲夜よ。私が付けたんだもの、ちゃんとよんであげて頂戴」
「はい。十六夜咲夜は私が洗おうと手を伸ばした瞬間。廊下へ出ようとしていました」
「逃げられただけじゃないの」
「いいえ。パチュリーさま。
瞬きしないうちにですわ」
クスクスとレミリアが笑う。
そしてパチュリーにほらねと言うが、パチュリーはまさかと小馬鹿にしたような顔で反論する。
「レミィ、人間ごときが時間を操作できるとでも?」
「なら何故咲夜はマリーベルの手から逃れられ、私の攻撃を逃れたのかしら。
七曜の魔女」
「にわかには信じがたいのよ。
所詮は人間よ。
永遠に幼き紅い月」
どこかゲームのような会話だ。長いときを生きた者だけができるのだろうか。
マリーベルには理解ができないものだった。
ならば証明してあげるわとレミリアが立ち上がる。
しばし置いてけぼりだったが、証明と言われマリーベルは黙ってそれを見届ける。
純銀の鎖の縛り目を壊し、手足を自由にしてやる。
「咲夜。
やってみせてちょうだい」
コクリと頷いたとたん、少女はパチュリーの真横にいた。
あの動かぬ大図書館といわれるパチュリーが思わずイスから落ちたというウワサが広まればある種おもしろいかもしれない。
パチュリーには残念なのはニヤニヤと笑うのがレミリアだけで、他の二人は無表情であることだろう。
逆に恐ろしいわ言い、恥ずかしさを隠すようにイスに座った直後紅茶を飲み干した。
「…レミィ、その子」
「だめ、あげないわよ。
この子は私のもの」
「欲しいなんていってないわ。興味をもっただけよ」
ふふっと笑い、パチュリーがむくれる。そして、レミリアは何故咲夜がマリーベルから逃げたのか聞いた。
顔を迷う動かし、言葉を選ぶように口だけが動き、数分たち答えをだした。
「変な泡…怖い」
「変な泡?」
「石鹸でしょう、石鹸を泡立てましたので」
「石鹸が怖い。人間は興味深いわね」
「パチェ、それは違うと思うわ。
石鹸が怖い。ねぇ?」
うーんと腕を組みながらレミリアは唸る。
ああ、そうかと思いついたことをそのまま口に出した。
これがマリーベルの悩みの種だった。
この十六夜咲夜を教育することだった。
レミリアは咲夜にマリーベルの指示に従いなさいとだけ言う。
彼女の部屋にしばらく寝泊りし、行動を共にせよと。
冗談じゃないといいそうになったのをしっかりと覚えている。
マリーベルのベッドには小さなベッドが一つ運ばれ、すやすやと咲夜が眠っていた。
よっぽど疲れていたのかまさにドロのように眠っている。
あの後、ぼうぼうの伸び放題の髪を短く切り揃え、伸びたり欠けたりしている爪を切り歯磨きを教え…。
これでは保母ではないか。私は完全無欠の従者だというのに。
朝は着替えから教えた。
同じメイド服ではなく、大分昔に着たというのにいまだに覚えていることに少し驚いた。
次に朝食だった。主が洋食のため紅魔館では洋食がメインだった。
だが、人間の食事などわかるはずもなく、パンと水だけだった。
ヴワル図書館で調べなければならない。
会う者たちが十六夜咲夜を見た。人間がおいしそうと思っているのだろう。
彼女の教育ということを考えた。
人間は食事のしたく・清掃・勉学ができ一人前とどこかで聞いた。
メイドではないか。
食事はメイドの仕事、清掃もメイド、勉学は違うかもしれないが人数把握や食料費計算は勉学だろう。
そうと決まれば昼食後から十六夜咲夜をメイドとしてしつけた。
だが、皿洗いを命じれば皿を割りかけると思ったとたん、皿は割れていない。
ああ、コレが時間をとめるという力。
バケツが転がると思い目を光らせればバケツはずれた位置。
案外大丈夫かもしれないと思った。
だが、やはり人間。
美味そうな匂いに誘われ血走った目で見る妖怪妖怪。
あんな細い腕で何ができる?
マリーベルは十六夜咲夜に戦う知識を与えた。
細い腕で刀は使えぬ。
細い体でやりは使えぬ。
ただ、ナイフだけは天性の腕前。
ふぅむと唸る。
ほうっておくか口に出すべきか。
時間をとめればナイフはいくらでも投げれるというのに。
一週間、二週間と経ち十六夜咲夜のナイフは非常に命中率の高く数も圧倒的になった。
いつしか十六夜咲夜は大分喋るようになった。
ただ不満があると無表情になり、マリーベルの手を煩わせた。
「ねぇ、咲夜」
「はい?」
「貴女最初に此処に来たとき、石鹸から逃げたわよね」
「やめてくださいよ。そんな大昔のこと」
「そう昔でもないわ。四ヶ月前よ」
「むぅ」
思わず笑ってしまう。
最近柔らかくなったと言われたのは十六夜咲夜のせいだろう。
わずらわしい咲夜が一つずつ覚えていく度、言い表せぬ感動を覚えた。
こうなることが分かりレミリアは彼女を招いたのか、この能力に興味を持ったのか。
「貴女石鹸から逃げたかったらずっと時を止めればよかったなじゃないの」
「ああ、それですか。
実は私。三十分も時を止めれるようになったのは最近です」
「あら、そうなの」
「ええ、以前は一分が限界でした」
「何故そんなにとめれるようになったのかしら」
ああと忘れ物を思い出すような何気ない声で咲夜は言った。
時間をとめる時間が短い。それは時折襲うメイドたちから逃れる際に思ったのだ。
どうすれば良いかと思ったところ、自分を救ったレミリアの親友が動かぬ大図書館といわれることを思い出したのだ。
大図書館、図書館といわれるほどの魔女ならばと思い、ヴワル魔法図書館の門をたたく。
「難しいわね」
予想ハズレの答えに咲夜は顔を伏せた。
「ねぇ、貴女はどうやって時を止めるのかしら」
「どうって止まれとしか思っていません」
「ふぅん、ならイメージを広げる」
「はぁ?」
「イメージよ、止まるというイメージよりも大きなイメージ。
より高度かつ現実的なイメージにより時を止める能力を拡大するのよ」
「えっと」
「考えて時間とは何か、時間の象徴」
答えは時計。丸二日かかりようやく導き出した答えにパチュリーはまあまあねと言い本へと顔を戻したという。
「ああ、時計」
「ええ、時計」
また時間が流れる。
今度は一年。
気付けば十六夜咲夜はメイドとして優秀になっていた。
とはいえ正式なメイドではない。
人間のメイドといわれれば、妖怪は黙らない。
だが、咲夜に手を出すものはもういない。
咲夜はもう大きい。
しなやかな体つき、ナイフの腕前、短くカットされた銀髪と横のみつあみ。
その力量はすさまじく時間を止めてお皿を全て片付け時間を止めてホコリ一つない空間を作り上げた。
そして時を止めてのナイフ乱舞。気付けば紅美鈴に体術を習っており、肉弾戦でも引けをとらない。
マリーベルは年をとった。
もう能力も低下していた。
最近イスに座ることが多いマリーベルに変わり咲夜はメイド長の仕事を隠れて手助けしていた。
自分がメイド長のように振舞えればもっとマリーベルの負担が減ることを知っていた。
だから、十六夜咲夜はレミリアの自室を叩いたのだ。
その日マリーベルはメイド長ではなくなった。
十六夜咲夜というメイド長が生まれた。
それに反対する者は多かったが、大体はレミリアの命令に従った。気性の荒い何十人かは紅美鈴ののん気な宥めに落ち着いた。
何十人かは反対した、無視をした。
何十人かは無理やり引きおろそうと襲い掛かった。返り討ちにあう。
だんだんと反対する者は減っていったが、それでも反対する者はいた。
「咲夜」
「どうしましたか」
「貴女何故メイド長になったのかしら」
「下克上ですわ」
「あら、失礼。下克上された気は毛頭ないわ」
「したつもりでしたのに」
「そんな愚かな貴女にプレゼントよ。元メイド長として貴女を育てた妖怪として」
金色の懐中時計。
「?」
「やっぱり馬鹿ねぇ」
「どう馬鹿なのですか」
「貴女時計をイメージして時を止めるのよ。
時計を使って時を止めたらいいだけの話しじゃない」
「そんな簡単に…」
「できるわよ」
できるわよ。
珍しくニコリと笑うマリーベル。
素直に礼を言い上げ懐中時計を大切そうにしまった。
また時がたった。
マリーベルの予想どおり。
時計を媒介とし十六夜咲夜の時を操る力は強くなった。
いつしか空間さえ操り、時間と空間を歪ませるようになった。
時空間を操る程度の能力を持つ紅魔館ただ一人人間にしてメイド長。
完全無欠で瀟洒メイド。それが彼女。
紅の霧を用いて、自らの支配する領域を作り上げ、妹様を外へ出そうとしたレミリア・スカーレットとパチュリー・ノーレッジの計画は失敗したが、自称普通の魔法使いと博麗の巫女により妹様の精神が安定したことを咲夜から聞いた。
いまマリーベルの金色の髪は白髪だらけ。
マリーベルの日記より
メイド長の代が変わった。
わたしが変わった。
レミリアさまが変わった。
パチュリーさまが変わった。
フランドールさまが変わった。
人間という存在はわれわれ妖怪が考える以上に影響を与える存在やもしれぬ。
実質わたしはレミリアさまに仕えるよりも十六夜咲夜を育てることに、言い知れぬ充実感を覚えていたのだ。
今になりようやくわかる。
彼女のおかげで私の生涯は色をもつことができたと、私は思う。
ただ十六夜咲夜をレミリアさまが育てた。というのに首をかしげた結果、生まれただけでございます。
そこそこの長さでございます。
――――――――――――――――――――――――――――――――
金髪の髪に金の目。横の毛だけがみつあみで、残りはアップにまとめていた。
おきざまにハァとため息をついてしまう。
マリーベル。
苗字を持っておらず、低級妖怪といわれてもおかしくない程度の身体能力でしかない彼女が紅魔館のメイド長とは誰が信じるだろう。
誰もが一目見た瞬間『スカーレットデビルもこんなのをメイド長にするとは!』と嘲笑してもおかしくない。
だが、それを言った瞬間後悔の念にとらわれるだろう。
紅魔館メイド長マリーベル。どこにでもいる低級妖怪であり金と銀を生み出す程度の能力を持つ少女。いや、少女というにはすこし年を
とってしまっているが、どこか若々しさにあふれている。
やはり完全無欠の従者だからだろう。
話を戻そう。純銀というのは最も魔に対抗しやすい物体である。純銀のナイフ、純銀の槍、純銀の矢を作り出し魔力を用いて敵に放つ、
斬る、打つ。それらによって彼女は低級妖怪でありながら、スカーレットデビルの支配する館のメイド長となれたのだ。
もちろんメイドとして優秀。先ほど行ったとおり完全無欠。ナイフのように冷徹。そしてクール。
そんな彼女がため息をはいている。
これは非常に珍しいことであった。
先日の夜中。
主であるレミリア・スカーレットは吸血鬼だ。吸血鬼が活動するのは夜。
十六夜の夜なれど、あまりの月の美しさと何かの予感を感じ一人で外出をした。
もちろんお供しようとしたのだが、レミリアにきつく付いて来ないように言われたのだ。
運命を操る程度の能力といえど毎回毎回操れるわけではない。魔法と同じであらゆる条件がそろいはじめて成功するのだと、レミリアが
自虐的に笑ってた。
そして、一刻するかしないかの時間でレミリアは館へ帰宅したのだ。
非常に珍しい。月夜の散歩を好むレミリアにしては本当に珍しいことなのだ。
階段を降りホールへ足を運ぶ途中、働くメイドたちが頭を下げ礼を行う。
どこか恐れているその様を見てマリーベルは安心した。
ある程度の恐怖で押さえつけるのが一番全体をまとめられると信じているからだ。
実際に彼女らはマリーベルを恐れていえる。レミリア・スカーレットというあまりにも遠い世界の恐怖よりも、すぐ近くにある恐怖のほ
うが恐ろしかったのだ。
帰ってきたレミリアを見てマリーベルの冷徹な仮面が一瞬だけ床へ落ちる。
ボロボロの汚らしい布切れをまとい、髪はあっちこっちへのび、体中が傷とアカにまみれた少女。
人間かと思ったが人間なら吸血鬼のレミリアがほうっておくわけがない。第一銀色の髪である。妖怪をわざわざ館へ招きいれたことに驚
きを隠せず、マリーベルは彼女はと思わず問いかけてしまう。
「珍しいわね。貴女が疑問を口に出すなんて」
驚いたような、だが、絶対に驚くぞと予想していたのかクスクスと笑う。
普通ならムッとするのだろうが、マリーベルはそのような感情を持たなかった。
「申し訳ありません」
「いいのよ、何故疑問に思ったのかしら」
「はい。妖怪であればたいていの者がレミリア様の『夜の王』の名を欲して愚かにもレミリアさまに襲い掛かります」
まぁねぇとレミリアが苦笑した。見た目が幼く、最近では夜の王またスカーレットデビルと言われるほどの恐怖を見せてはいない。その
ため力が衰えたのだと思いいくつかの妖怪はレミリアに襲い掛かった。
力のあるもの、集団で襲うもの。
忘れたころにやってくる、それを全て全滅させ夜の王の名の恐ろしさを周りが理解する、忘れる、襲い掛かる。そんな循環がいつしか生
まれていた。また、陽光にさえ当たれば気化する彼女を吸おうとギリギリの時間に進入する者だっていた。
瞬発力のある吸血鬼にとって三十分もあれば百の妖怪くらい赤子の手をひねるかのよう。
これがかのスキマ妖怪やウワサの楽園の巫女ならばそうはいかないだろう。
だが、スキマ妖怪は神出鬼没。楽園の巫女は調和を優先し人の味方でもない。
わざわざ何か騒ぎを起こす気は毛頭なかった。
「ですので妖怪を何故館へ招きいれたのか。そう疑問を持ちました」
「妖怪?ええ、私も妖怪と思ったわ」
「失礼ですが、どういうことでしょうか」
「この子は私を畏れず私を驚かせた人間ということよ」
そんな馬鹿なと一瞬思うが主のする事にメイドが口を出す必要などない。
頷き理解したということを口に出すと、レミリアはこの子供を綺麗にしろと命令を下した。
銀髪の少女名前は十六夜咲夜。
メイドたちに指示を与えながら長い廊下を歩き後ろを振り返ることなくマリーベルは歩いていた。
十二くらいだろうか?
あまりにも体の線は細いため確信がもてないが、少女の足の速度にあわせる気はなく、マリーベルはすたすたとあるく。
だが、おかしいのだ。
マリーベルの速度からいけば、必ず走らなければならない筈。いや、第一足音が小さくなったと思えばすぐ足音は大きくなっていた。
ぴたぴた
かつかつ
ぴた
かつかつ
ぴたぴた
おかしいと思いつつも風呂場まで直行した。
あまりにも汚く普段門番隊員やメイドたちが使う大浴場に連れることができなかったため、昔は何かで使っていたらしい風呂場は連れて
行った。
何故作ったのか、何故必要なのか、誰も知らなかった。
まあ、あるなら使うだけだ。
「服…布きれを脱ぎなさい」
浴場へ足を運ぶなり、マリーベルは一言言った。
少女は暗い蒼い目をマリーベルへむけのろのろと布きれをぬぐ。
マリーベルは絶句した。
人間という種族は理解不能、理解不能。
「呆れた、いえ、それは風習かしら?」
「…」
汚れた体傷だらけの体があらわになる。
まさか布切れからやたらと太ももが見えたりするとは思っていたが、布切れ一枚だけだったとは思わなかったのだ。
また大きくため息をつき、少女を風呂の中へ入れ魔女が作りだした自動水流魔法だとか何だかを浴びせる。
何でも水の魔法であり、魔方陣を起動させるだけで小さな雨を作り出すという魔法だった。
大浴場では間に合わず、とりあえず此処に置いておいただけだが役に立った。いちいち水を汲むのも面倒くさい。
水を浴びる間少女は傷の痛みなどないのか、ただじっとしていた。
洗う気はないのだろうかと思い、清潔なタオルと石鹸を渡すが、持つだけで何もしない。
「ああ、もう」
少し乱暴な手つきでタオルと石鹸を奪う。
それにさえ無感情。
マリーベルは厄介な拾い物に対するイラつきを石鹸を泡立てることに注いだ。
泡立てすぎたミルクのように泡がタオルに盛大に生まれていた。
石鹸が心なしか一回り以上小さくなったように思える。
少女の体を洗おうと手を伸ばした瞬間だった。
パッと少女がいない。
どこだ。
足音に気付き手を伸ばす。
背後にいた少女に驚きながらもメイドとしての勤めを果たすのはやはりメイド長。完全無欠であるからだ。
冗談じゃない。
珍しく肩を張らせたマリーベルに周囲は数秒硬直する。
とまらず働けという一喝を聞きメイドは慌てて動きを再開する。それでもメイドはマリーベルをチラリチラリと見ていた。
純銀の鎖で巻き取られた少女。服はメイドたちと同じものをきこませれていた。
じたばたと暴れることなく、少女は顔をゆがませていた。
この館ではじめての別の表情であった。
「レミリアさま」
「何かしらマリーベル」
自室へ入ってきたメイド長に対し笑みを浮かべながら問う。イタズラっこのような笑い。
レミリアはテーブルに両膝をつきあごを持ち上げていた。ティーカップからは紅茶の湯気。
隣では珍しくもパチュリー・ノーレッジが本を読むことなく座っている。
「私がこの少女」
「十六夜咲夜よ。私が付けたんだもの、ちゃんとよんであげて頂戴」
「はい。十六夜咲夜は私が洗おうと手を伸ばした瞬間。廊下へ出ようとしていました」
「逃げられただけじゃないの」
「いいえ。パチュリーさま。
瞬きしないうちにですわ」
クスクスとレミリアが笑う。
そしてパチュリーにほらねと言うが、パチュリーはまさかと小馬鹿にしたような顔で反論する。
「レミィ、人間ごときが時間を操作できるとでも?」
「なら何故咲夜はマリーベルの手から逃れられ、私の攻撃を逃れたのかしら。
七曜の魔女」
「にわかには信じがたいのよ。
所詮は人間よ。
永遠に幼き紅い月」
どこかゲームのような会話だ。長いときを生きた者だけができるのだろうか。
マリーベルには理解ができないものだった。
ならば証明してあげるわとレミリアが立ち上がる。
しばし置いてけぼりだったが、証明と言われマリーベルは黙ってそれを見届ける。
純銀の鎖の縛り目を壊し、手足を自由にしてやる。
「咲夜。
やってみせてちょうだい」
コクリと頷いたとたん、少女はパチュリーの真横にいた。
あの動かぬ大図書館といわれるパチュリーが思わずイスから落ちたというウワサが広まればある種おもしろいかもしれない。
パチュリーには残念なのはニヤニヤと笑うのがレミリアだけで、他の二人は無表情であることだろう。
逆に恐ろしいわ言い、恥ずかしさを隠すようにイスに座った直後紅茶を飲み干した。
「…レミィ、その子」
「だめ、あげないわよ。
この子は私のもの」
「欲しいなんていってないわ。興味をもっただけよ」
ふふっと笑い、パチュリーがむくれる。そして、レミリアは何故咲夜がマリーベルから逃げたのか聞いた。
顔を迷う動かし、言葉を選ぶように口だけが動き、数分たち答えをだした。
「変な泡…怖い」
「変な泡?」
「石鹸でしょう、石鹸を泡立てましたので」
「石鹸が怖い。人間は興味深いわね」
「パチェ、それは違うと思うわ。
石鹸が怖い。ねぇ?」
うーんと腕を組みながらレミリアは唸る。
ああ、そうかと思いついたことをそのまま口に出した。
これがマリーベルの悩みの種だった。
この十六夜咲夜を教育することだった。
レミリアは咲夜にマリーベルの指示に従いなさいとだけ言う。
彼女の部屋にしばらく寝泊りし、行動を共にせよと。
冗談じゃないといいそうになったのをしっかりと覚えている。
マリーベルのベッドには小さなベッドが一つ運ばれ、すやすやと咲夜が眠っていた。
よっぽど疲れていたのかまさにドロのように眠っている。
あの後、ぼうぼうの伸び放題の髪を短く切り揃え、伸びたり欠けたりしている爪を切り歯磨きを教え…。
これでは保母ではないか。私は完全無欠の従者だというのに。
朝は着替えから教えた。
同じメイド服ではなく、大分昔に着たというのにいまだに覚えていることに少し驚いた。
次に朝食だった。主が洋食のため紅魔館では洋食がメインだった。
だが、人間の食事などわかるはずもなく、パンと水だけだった。
ヴワル図書館で調べなければならない。
会う者たちが十六夜咲夜を見た。人間がおいしそうと思っているのだろう。
彼女の教育ということを考えた。
人間は食事のしたく・清掃・勉学ができ一人前とどこかで聞いた。
メイドではないか。
食事はメイドの仕事、清掃もメイド、勉学は違うかもしれないが人数把握や食料費計算は勉学だろう。
そうと決まれば昼食後から十六夜咲夜をメイドとしてしつけた。
だが、皿洗いを命じれば皿を割りかけると思ったとたん、皿は割れていない。
ああ、コレが時間をとめるという力。
バケツが転がると思い目を光らせればバケツはずれた位置。
案外大丈夫かもしれないと思った。
だが、やはり人間。
美味そうな匂いに誘われ血走った目で見る妖怪妖怪。
あんな細い腕で何ができる?
マリーベルは十六夜咲夜に戦う知識を与えた。
細い腕で刀は使えぬ。
細い体でやりは使えぬ。
ただ、ナイフだけは天性の腕前。
ふぅむと唸る。
ほうっておくか口に出すべきか。
時間をとめればナイフはいくらでも投げれるというのに。
一週間、二週間と経ち十六夜咲夜のナイフは非常に命中率の高く数も圧倒的になった。
いつしか十六夜咲夜は大分喋るようになった。
ただ不満があると無表情になり、マリーベルの手を煩わせた。
「ねぇ、咲夜」
「はい?」
「貴女最初に此処に来たとき、石鹸から逃げたわよね」
「やめてくださいよ。そんな大昔のこと」
「そう昔でもないわ。四ヶ月前よ」
「むぅ」
思わず笑ってしまう。
最近柔らかくなったと言われたのは十六夜咲夜のせいだろう。
わずらわしい咲夜が一つずつ覚えていく度、言い表せぬ感動を覚えた。
こうなることが分かりレミリアは彼女を招いたのか、この能力に興味を持ったのか。
「貴女石鹸から逃げたかったらずっと時を止めればよかったなじゃないの」
「ああ、それですか。
実は私。三十分も時を止めれるようになったのは最近です」
「あら、そうなの」
「ええ、以前は一分が限界でした」
「何故そんなにとめれるようになったのかしら」
ああと忘れ物を思い出すような何気ない声で咲夜は言った。
時間をとめる時間が短い。それは時折襲うメイドたちから逃れる際に思ったのだ。
どうすれば良いかと思ったところ、自分を救ったレミリアの親友が動かぬ大図書館といわれることを思い出したのだ。
大図書館、図書館といわれるほどの魔女ならばと思い、ヴワル魔法図書館の門をたたく。
「難しいわね」
予想ハズレの答えに咲夜は顔を伏せた。
「ねぇ、貴女はどうやって時を止めるのかしら」
「どうって止まれとしか思っていません」
「ふぅん、ならイメージを広げる」
「はぁ?」
「イメージよ、止まるというイメージよりも大きなイメージ。
より高度かつ現実的なイメージにより時を止める能力を拡大するのよ」
「えっと」
「考えて時間とは何か、時間の象徴」
答えは時計。丸二日かかりようやく導き出した答えにパチュリーはまあまあねと言い本へと顔を戻したという。
「ああ、時計」
「ええ、時計」
また時間が流れる。
今度は一年。
気付けば十六夜咲夜はメイドとして優秀になっていた。
とはいえ正式なメイドではない。
人間のメイドといわれれば、妖怪は黙らない。
だが、咲夜に手を出すものはもういない。
咲夜はもう大きい。
しなやかな体つき、ナイフの腕前、短くカットされた銀髪と横のみつあみ。
その力量はすさまじく時間を止めてお皿を全て片付け時間を止めてホコリ一つない空間を作り上げた。
そして時を止めてのナイフ乱舞。気付けば紅美鈴に体術を習っており、肉弾戦でも引けをとらない。
マリーベルは年をとった。
もう能力も低下していた。
最近イスに座ることが多いマリーベルに変わり咲夜はメイド長の仕事を隠れて手助けしていた。
自分がメイド長のように振舞えればもっとマリーベルの負担が減ることを知っていた。
だから、十六夜咲夜はレミリアの自室を叩いたのだ。
その日マリーベルはメイド長ではなくなった。
十六夜咲夜というメイド長が生まれた。
それに反対する者は多かったが、大体はレミリアの命令に従った。気性の荒い何十人かは紅美鈴ののん気な宥めに落ち着いた。
何十人かは反対した、無視をした。
何十人かは無理やり引きおろそうと襲い掛かった。返り討ちにあう。
だんだんと反対する者は減っていったが、それでも反対する者はいた。
「咲夜」
「どうしましたか」
「貴女何故メイド長になったのかしら」
「下克上ですわ」
「あら、失礼。下克上された気は毛頭ないわ」
「したつもりでしたのに」
「そんな愚かな貴女にプレゼントよ。元メイド長として貴女を育てた妖怪として」
金色の懐中時計。
「?」
「やっぱり馬鹿ねぇ」
「どう馬鹿なのですか」
「貴女時計をイメージして時を止めるのよ。
時計を使って時を止めたらいいだけの話しじゃない」
「そんな簡単に…」
「できるわよ」
できるわよ。
珍しくニコリと笑うマリーベル。
素直に礼を言い上げ懐中時計を大切そうにしまった。
また時がたった。
マリーベルの予想どおり。
時計を媒介とし十六夜咲夜の時を操る力は強くなった。
いつしか空間さえ操り、時間と空間を歪ませるようになった。
時空間を操る程度の能力を持つ紅魔館ただ一人人間にしてメイド長。
完全無欠で瀟洒メイド。それが彼女。
紅の霧を用いて、自らの支配する領域を作り上げ、妹様を外へ出そうとしたレミリア・スカーレットとパチュリー・ノーレッジの計画は失敗したが、自称普通の魔法使いと博麗の巫女により妹様の精神が安定したことを咲夜から聞いた。
いまマリーベルの金色の髪は白髪だらけ。
マリーベルの日記より
メイド長の代が変わった。
わたしが変わった。
レミリアさまが変わった。
パチュリーさまが変わった。
フランドールさまが変わった。
人間という存在はわれわれ妖怪が考える以上に影響を与える存在やもしれぬ。
実質わたしはレミリアさまに仕えるよりも十六夜咲夜を育てることに、言い知れぬ充実感を覚えていたのだ。
今になりようやくわかる。
彼女のおかげで私の生涯は色をもつことができたと、私は思う。
美鈴はおいしいオチですね・・・。
そんなイメージが湧いてきました。