それは遠い過去のお話。
幻想郷のとある上空。3人がそこにいた。
「紫!早くしなさい!」
そういっているのは美鈴。
「うるさいわよっ!こっちだってやってるんだから、何とか持たせなさい!」
そして紫。
「博麗の!まだなの!?」
「もうちょっとだから頑張りなさい!」
もう1人は巫女服を着た少女である。
「こっちの身にもなって欲しいわよっ!くそっ!こんなの聞いてないわよ!」
「近距離で、しかもそいつを押さえつけられるのは、貴女しかいなかったのよ!」
「そんなこと言っても、本体を見れるようにするのは貴女の役でしょう!」
「それを今やってるのよ!」
3人は何かと戦っていた。
しいて言えば闇…いや、夜と戦っているのである。
「お前らぁ!ごちゃごちゃ言ってないでこれでも食らいなさいっ!」
戦っている相手は夜その物…そう、ルーミアであった。
「来たっ!藍!」
「お任せを!」
「半分は任せたわよ!間に合え!境符『四重結界』!」
「な!?結界の中に結界!?」
「よしっ!今よっ!」
紫は攻撃の位置を特定し能力を発動させる。
「隙ありっ!やっと捕まえたわよ!」
そして美鈴は、ルーミアの姿がはっきりと現れたところを羽交い絞めにした。
「くそっ!な!?逃げられない!?」
「お生憎様!わたしは気を使えるのよっ!」
気を使い、ルーミアを押さえつける美鈴。
「く…離れろおぉ!」
ルーミアは負けじと、力の限り美鈴をはがそうとした。
「博麗の!は、早く…!」
美鈴は何とかルーミアを押さえつけている。
「紫ぃ!」
そのとき、巫女服を着た少女が紫に赤いリボンを手渡した。
「間に合った!封印!」
そして、そのリボンを紫がルーミアの髪に結びつける。
それは…。
「な!?が、があああぁぁぁっ!」
ルーミアの力を封じる、封印の赤いリボンであった。
夜と吸血鬼
時はたち、現在。紅魔館廊下にて。
「って魔理沙?そっちは図書館じゃないでしょ?」
アリスと魔理沙は、いつも通り紅魔館へ来ていた。
魔理沙は図書館へ行く廊下の途中で止まり、他の場所へ行こうとしたのでアリスが止めた。
「あ?あぁ、フランのところに行くんだよ。」
「…パス。行きたくないわ。」
「…てか付いて来いなんて言ってないんだが。」
「…まぁいいわ。それで、何処まで教えたの?」
魔理沙は少し前から、フランの教師役を買って出ていた。
といっても、魔理沙が勝手にやっているだけであり、パチュリーや小悪魔も教えたりしているのだが。
「えーっと…とりあえず他の遊びと…。」
「と?」
「『死』について少しだけな…。」
「…そう。」
「それを教えるのは、あそこから引っ張り出したわたしの役目だ。」
「『壊す』のと『殺す』ことは違うからね。」
「分かってる…。」
「それじゃわたしは本を返しに先に行ってるわよ。」
「あぁ。任せた。」
そういって、アリスは図書館へ、魔理沙はフランの部屋へと向かっていった。
図書館に入ると、パチュリーはいつもの場所で本を読んでいた。
「あら?貴女1人?」
「魔理沙ならフランのところに行ってるわよ。」
「なるほど…しかし貴女も大変ね?」
「ん?何かしら?」
本を机の上に置き、アリスはパチュリーの目の前の椅子に座った。
「魔理沙と一緒に住んでて大変でしょ?」
「…そうでもないわ。」
「そうなの?」
「魔理沙は…わたしの目標であり、ライバルだったのよ。」
「過去形?」
「いつの間にか…それが『好き』という感情に変わってたわ。」
「…。」
「魔理沙の生き方、性格、全てをわたしは好きになっていた。そしてあの永夜と宴会…。」
そこまで言ったとき、図書館に誰か入ってきたのでそっちを向くと…。
「その話は後でな。」
魔理沙が。そして傍にもう1人。
「魔理沙?」
「よ。フランもつれてきたぜ。」
「妹様?」
「本読みたいから、付いてきたの。」
フランも珍しく部屋を出て、図書館に来たのだ。
「本ね…小悪魔!」
「はいはい!ってフランドール様?珍しいですね…。」
「妹様が本を読みたいそうなの、付いていってあげて。」
「分かりましたー。それでは行きましょう。」
「うん。」
小悪魔と何かを話しつつ、フランは奥へと飛んでいった。
「…ちょっと大人しくなってる?」
「行ったときからあんな感じだ…たぶん悩んでるんだと思う。」
「…悩んでる?」
「死についてちょっと教えたんだが…色々と考えてるんだろ。」
「なるほどね…それで本を読みたい、か。」
どかっと魔理沙も椅子に座った。
「で、永夜では一緒に行ったことは知ってるけど。宴会で何があったの?」
「ん?あぁ…ちょっと鬼に負けたり、実験に失敗したりして落ち込んでてな。アリスに慰めてもらったんだよ。」
「へぇ…。」
「あのあとも魔理沙のところに行ってね。色々話したのよ。それこそ過去のことから色々とね…。」
「それでわたしも素直になっただけだ。」
「素直に…ね。」
「まぁ元々可愛いやつとは思ってたからな。」
「ほんとに?」
「…性格意外はいいやつだってな。」
「う、うるさいわね…。」
顔を真っ赤にしつつ、アリスはそっぽを向いた。それを見つつパチュリーはというと。
「そうね…わたしも…。」
何かを決心したように、考え込んでいた。
「ん?パチュリー…どうした?」
「何でもないわ。さてと…わたしも実験しないとね。」
「実験?」
「内容は教えないわよ。」
「ちっ。」
「こらこら魔理沙…。」
「分かってるよ。」
「ふふ。それじゃ、何か借りたければ小悪魔に言っておいてね。」
「あぁ。」
「分かったわ。」
「またね。」
そういってパチュリーは実験室へと消えていった。
「本を借りて帰るか…。」
「小悪魔さんは…と。」
「フランドール様?」
「…。」
小悪魔とフランはある本棚の前にいた。
フランは本を読んでいて、小悪魔が話しかけるが、反応しないほどに集中してその本を読んでいる。
「…すごい集中してますね。」
「何を読ませてるんだ?」
「あ、魔理沙さんにアリスさん。」
魔理沙とアリスは、フランと小悪魔の気配をたどってここまで来ていた。
「ここは…教典とかそういうのよね?」
「えぇ。『死についての本』なんて難しいですから…とりあえずそういうのが書いてあるのといえばこれですし。」
「そりゃそうだが…偏ってるのもあるからな。てか…これ何語だ?読めないぞ。」
「簡単な翻訳魔法をかけてあるので…読んでる人は分かってますよ。」
「なるほどな。」
そのとき。
「妹様ー!何処ですかー!」
と、図書館の入り口の方から美鈴の声が聞こえてきた。
「ん?門番の声?」
「あぁ!そうでした。美鈴さんは最近、フランドール様に力の使い方を教えてるんですよ。」
「力の使い方を?」
「美鈴さんは『気を操る』程度の能力を持っているんですよ?」
「…なるほど。それでか。フラン?」
魔理沙はフランの肩を叩く。
「…え?あれ?魔理沙?アリスも?いつの間に?」
フランはやっと魔理沙とアリスに気がつき、びっくりしていた。
「すっごい集中してたのね。」
「あはは…ごめん。」
「妹様ー!稽古の時間ですよー!」
「あ、そうだった!あとでまた見に来るからっ!それじゃっ!」
そしてフランは小悪魔に持っていた本を渡すと、入り口のほうへと飛んでいった。
「熱心だな。」
「そのようね。」
「さてと…御二人とも、何か必要な本はありますか?」
「あー…えっと。」
紅魔館、室内運動場。
「さてと…今日もやりますか!」
美鈴とフランはいつもそこで稽古をしていた。
フランは何か考えていたようだが、意を決して美鈴に話し始めた。
「ねぇ…美鈴?」
「ん?どうしました?」
「魔理沙も…死んじゃうの?」
「どうしてですか?」
「だって人間は…わたしたちより先に死んじゃうんでしょ?」
「それはそうですけど…まだ何年も先の話ですよ。」
「少しの衝撃で死んじゃうんでしょ?」
「妹様…?」
美鈴はその質問の意味がやっと分かり、少しびっくりしていた。
何せフランドールは、暴れればものすごい破壊力を秘めているのだ。
つい最近まではこんな表情を見せたことすらなかった。
「わたしを置いて行っちゃうんでしょ…。」
フランはすごい悲しそうな目をしている。
「…死は誰にでも訪れますよ。」
「…美鈴にも?」
「わたしもそのうち死ぬでしょうね。何年かかるかは分かりませんけど。」
「そうなんだ。」
「でもそれは妹様もですよ?お嬢様だってそうです。」
「そう…なの?」
「誰にでもそれぞれ寿命がありますから。それが尽きれば…死にます。」
「それを『壊したら』どうなるの?」
「それはいけません。」
「何で?」
「妹様も…前こっちに来た妹紅さんを見たでしょう?」
「…うん。」
一時期、神社以外の他の場所でも宴会をすることになり、こっちに来たことがあったのだ。
「あの人は…すごい辛い思いをしてるんですよ。それこそわたしたちが想像できないような経験を。」
「…。」
「でも、妹紅さんは不死人になってよかったって言ってることがあるんですよ。」
「え?」
「好きな人が出来たこと、だそうです。」
「好きな人?」
「慧音さんのことですね。」
「美鈴だと咲夜?」
「あは。そうなりますね。」
「好きな人…。」
「好きな人のためなら、何でも出来るものなんですよ。」
「そうなの?」
「お互いを認め合い、慰め合い、そして愛し合うことが出来る。それは素晴らしいですよ。」
「…わたしにも、好きな人が出来るかな。」
「きっと出来ますよ。」
「…うん。」
「さてと、この話は終わりにして。今日の稽古やりますよ!」
美鈴は気合を入れて、構えを取る。
「うんっ!」
そしてフランも元気いっぱいに返事をして、構えを取った。
それから数日後の夜のこと。
美鈴はあることを思い立ち、それを実行していた。
「今日は外に行って見ましょうか?」
それは紅魔館の外に出ること。
紅魔館の外のことを知ってもらいたいと思い、それを実行しようと考えていた。
「え?いいの!?」
「えぇ。でも内緒ですよ?」
しかしまだ早いとレミリアから言われるだろうと思い、こっそりと外に出よう、そう思っていた。
「うんっ!」
そして紅魔館の外、湖の上。
「うわぁ…。」
快晴なために、月の光によって湖や森が幻想的になっていた。
フランは初めてそんな風景を見ているため、かなりはしゃいでいる。
「あまり遠くへ行かないでくださいね~!」
美鈴は危険な妖怪はいないか、気を張って探っていた。
「分かってるよー!」
そしてフランは森の方へと飛んでいった。
数分後。森の中にて。
「ん?あれは…。」
フランは暗闇の中に、人影を見つけたので近づいてみた。
「いただきまーす。」
「ひいぃっ!」
そこにはまさに、人間を食べようとしているルーミアがいた。
「人…を、食べようとしてる?…待って!」
フランは咄嗟に声をかけ、ルーミアを止めた。
「ん?だーれ?」
ルーミアは声に気がつき、フランのほうに振り向く。
「貴女は誰?」
「わたしはルーミア。貴女はだぁれ?」
「わたしはフランドール。」
「ひー!」
そのやり取りを聞いていた人間はというと、恐怖のあまりに一目散に逃げていってしまった。
「あ。逃げちゃった。」
「ねぇ?貴女は何故人を食べようとしてたの?」
「えー?妖怪は人を食べるんじゃないの?」
「え…?」
フランは人を食べたことがない、というのはちょっと違った。
フランは…調理された人なら食べたことはあったのだ。
だがそれをフランは知らない。閉じ込められていたから、知らないのは当たり前なのだが。
「あぁ、こんなところにいましたか。ってルーミア?」
「めーりんさん?」
「また人を襲ってたのね。こんなところで襲うと霊夢さんが怒るわよ?」
ルーミアは紅魔館湖の近くの森を住処にしているため、美鈴とは顔見知りである。
「ねぇ…美鈴。」
「何ですか?」
「妖怪は…人を食べるの?」
「それは…そうですね。食べない妖怪もいますが…大抵の妖怪は人を襲い、食べます。」
「…お姉様も?」
「お嬢様は人の血を飲みますね。それに…妹様も飲んでますよ。」
「え…?嘘…。」
「いつも食事に入れています。」
「嘘…。」
「嘘じゃないですよ。それに吸血鬼は…人の血がないと生きていけません。」
「…ぅ。」
それを聞いたフランはうずくまり…。
「妹様?」
「うげえぇっ!」
吐いた。
「妹様!?だ、大丈夫ですかっ!?」
「え?だ、大丈夫?」
ルーミアも急にフランが吐いたので驚き、近くに寄り、心配そうにフランを見つめた。
「げほっ!げほっ!ぅ…。」
しかしフランは吐いた後、気絶してしまったのだ。
「妹様!?」
「…気絶してるみたいだよ?」
「…ルーミア。食事を作ってあげるから、ちょっと運ぶのを手伝って?」
「…うん。」
美鈴はフランを背負うと、ルーミアと一緒に紅魔館へと飛んで行った。
フランが倒れたことを聞いたレミリアとパチュリー、そして美鈴がフランの寝ている部屋の外で話をしていた。
ちなみにルーミアは心配なのかフランの傍にいるといい、部屋の中にいる。
「吐いたっていうの?」
「吐いただけ、のようだから他に異常はないわ。」
「ごめんなさい…わたしが付いていながら…。」
「全く…何で外に?」
「湖の近くならまだいいと思ったんですよ…。」
「まぁ無事だったからいいわ。」
「すみません…。」
「とりあえず…あとのことは頼んだわよ。」
「はい。」
「分かったわ。」
症状を聞いて安心したのか、レミリアは自室の方へと飛んでいった。
「とりあえずわたしもちょっと休みますね…。」
「ルーミアで大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。あぁ見えていい子ですから。」
「貴女がそういうなら…。」
そしてパチュリーも美鈴も、自室の方へと飛んでいった。
それから数分後。
「…ん。」
「あ、気がついた。」
「あれ…?ここは…。」
フランは起き上がり、周りを見回した。
「紅魔館の部屋だよ。」
「貴女は…ルーミア?」
「うん。あの…ごめんね?」
ルーミアはフランを見ると、誤った。
「え?」
フランは何で?という感じでルーミアを見たのだが。
「わたし…何か嫌なこといったからかな?」
どうやらルーミアは、フランが倒れた理由が自分にあると思っているようだ。
「…違うよ。」
「え?でも…。」
「違うの…。」
「でもなんで気絶なんか…。」
ルーミアは心配そうにフランを見ている。それを見つつ、フランは話し始めた。
「…わたしね。姉が2人いるの。」
「2人?」
「うん。1人は本当の姉様。もう1人は…姉さんみたいな人、かな。」
「みたいな人?」
「うん。わたしを…あの部屋から引っ張り出して、色々教えてくれたから。」
「部屋?」
「わたしね…すごい力があるんだけど、操りきれなくて。それで閉じ込められてたの。百年以上…ずっとね。」
「百年以上も?」
「そこから引っ張り出してくれたのが…魔理沙なんだ。」
「魔理沙って…あの人間?」
「そう…人間。」
「人間のこと…好きなの?」
「うん。姉のように大切な人だよ。」
「そーなのか…。」
「だからさっき、人間の血を飲んでるって聞いたとき…その人間を魔理沙と重ねちゃった。」
「…。」
フランはすごい悲しそうな目をしていた。
「だから…気持ち悪くなって、それで…。」
「…そーなのか。」
「だからルーミアは悪くないよ。」
フランはにっこりと笑い、ルーミアを見た。
そしてルーミアはというと…。
「じゃぁ、わたしも人間を食べない。」
と言ったのだ。
「え?」
フランはびっくり。
「フランドールが悲しむの、見たくないから食べない。」
「ルーミア…でも何で?」
「目の前でわたしが人を食べて、あんな反応されたら…嫌だもん。」
「ルーミア…ありがとう…。」
「うんっ!」
にっこりとルーミアは笑って見せた。
部屋の外。
「…友達が出来ましたね。」
「心配のし過ぎか。ってかまさかフランがあんなことを考えてくれたとはな。」
美鈴と魔理沙がそこにいて、聞き耳を立てていた。
「嬉しい?」
「そりゃ嬉しいさ。」
「さてと…妹様とルーミア用に料理を考えないとね。」
「はは…頑張れ。」
「貴女も先生頑張りなさいよー?」
「あぁ。」
それから数週間後。
「気合入ってますねー?」
「うんっ!」
フランは、いつも通り美鈴と稽古をしていた。
「力の使い方もだいぶマスターしてきましたし。」
「情緒不安定も、友達が出来たりしてだいぶ良くなってきたわね。」
パチュリーは診断結果を持ってその場所に来ていた。
「わーいっ!」
「これなら…友達と遊ぶくらいは外出してもいいかな?」
「えっ!?ほ、ほんとっ!?ほんとにいいの!?」
あれから数回、フランは外に出ていた。
そのときルーミアに紹介され、チルノ、ミスティア、リグルなどと友達になったのだ。
だがいつも美鈴が付き添いで、フランと一緒に外に行っていたのである。
「でも力の使い方は…。」
「分かってるよ~。」
「ふふ…本当に嬉しいようね。」
そして数日後の夜のこと。
ルーミアにつれられ、ある場所にフランは来ていた。
「うわぁ…。」
「えへへ。すごいでしょ?」
「綺麗…。」
そこはちょうど滝になっており、月の光に照らされた滝が綺麗な、ルーミアのお気に入りの場所であった。
「いつもはミスティアとかリグルとかいるんだけどね。今日は何かしてるのかな?みんないないや。」
「へー…。」
そして、そこにあった岩の上に2人は座って話し始めた。
「ねぇルーミア?」
「なぁに?」
「あの部屋で…人を食べないって言ってくれたときは嬉しかったんだけど。」
「あれから美鈴さんがいっぱい料理を作ってくれるしねー。」
「うん。それで…何で急にあんなことを言ったのかなーって。」
そういってフランはルーミアを見つめた。
「うーんと…。」
「ね、ね。どうして?」
「え、えっとね…あのね…フランドールのこと…。」
ルーミアはと言うと、少し顔を赤くしてフランのほうを向くと…。
「わたしのこと?」
「一目惚れ…しちゃったから…。」
と、言った。
「へ…?」
フランはびっくりしている。
「フランドールを最初見たときね…すごい綺麗だなぁって…。」
「あぅ…。」
フランは、顔を真っ赤にしてうつむいた。
「でも、それに気がついたのは、人を食べないって言ったときだけどね。」
「どうして?」
「最初何であんなこと言ったのか、分からなかったんだ。」
「そうなの?」
「うん。で、住処に戻ってもどきどきしてて…そのあと大妖精に聞いたの。」
「大妖精?」
「ここら辺の妖精を仕切ってる人だよ。それで、それは『恋』だって言われて…。」
「そっか…。」
「フランドールは…どう?」
ルーミアはちょっと不安げにフランを見つめた。
「わたしもルーミアのこと…。」
フランは、ルーミアのほうを向くと。
「好きだよ。」
と、にっこりと笑って言った。
「ほんとに?」
「うん。」
「そーなのかぁ…。」
笑いながらルーミアはそういうのだが。
「ルーミア、顔真っ赤だよ?」
「フランドールこそ真っ赤だよっ!」
2人とも顔を真っ赤にして。
「あははっ。」
「あはは~。」
笑いあっていた。
それからさらに数日後のこと。
いつもの場所で、いつもの通り2人は会っていた。
ここ数日は、2人で会う機会が増えていっていたのだ。
「そういえば…ルーミアっていつもそのリボンしてるよね?」
フランは、ルーミアがいつも同じ赤いリボンをしていることが気になっていた。
「ん?これ?」
「うん。他のリボンはないの?」
「え?あー…これはね、封印なんだ。」
「封印…?」
「何の封印かは分からないんだけど…。」
「分からない?」
「うん。霊夢が封印って言ってたから、そうなのかーって。」
「封印かぁ…それは取れないの?」
「うん…どうやっても取れないんだ。」
「そうなの?」
そういいつつルーミアのそのリボンに手を伸ばし、触ってみると…。
「構っても取れないよ?」
「これくらいなら簡単に…ほら。」
フランは少し力を発動し、そのリボンに触った。
そしてその赤いリボンはするっと解け、地面に落ちた。
「ぅ…。」
解けた途端ルーミアはうつむき、苦しそうにしている。
「ルーミア!?」
フランは慌ててリボンを手に取り、ルーミアの髪の毛に結ぼうとするのだが。
「だ、ダメ…もう効力がなくなってる!」
するりと髪の毛から解け、地面に落ちてしまった。
「フラ、ン…逃げて…。」
「ルーミア!ダメ!気をしっかり持って!」
「ダメ…意識が…あぅっ!」
「ぐぅっ!?」
少しだけ力の解放が始まってしまい、その衝撃でフランは少し吹っ飛ばされた。
「ルーミア!?ルーミアぁ!」
「…ぐ。ぁ…ぐ…。」
ルーミアは、何とか意識を保とうと頑張っていた。
「…まだ意識を保ってる?!それにまだ完全に力を解放されてないみたい!」
「フラ…逃げ…。」
「やだっ!絶対やだっ!大好きなルーミア置いてなんていけないっ!」
「ぐ…ぅ…。」
「で、でもどうすれば…!?かなり強力みたいだし…まだ抑えてはいるけど…。」
「がっ!」
「やばい…力の封印が少し解け始めてる…。」
フランは少し考えると…。
「ダメ…迷ってなんかいられない!」
そう言ってルーミアのところに突っ込んだ。
「ルーミア!」
そしてルーミアを抱きしめる。
「フラン…。」
ルーミアは、苦しそうにフランを見つめていた。
「全部受け止めるから!わたしに向かって全部力を解放して!」
「そ…んな…。」
「いいから!早くっ!お願い…っ!」
その言葉が引き金となり。
「う…うわあぁっ!」
ルーミアはフランに向けて、力を解放してしまった。
「ぐ…すご…があぁっ!」
「あああぁぁぁっ!」
ルーミアは力を解放し続け、それをフランはどうにか受け止めていた。
「ぐううぅぅっ!ま、負けるもんかぁっ!」
「あああっ!」
「る、るーみあ…ぐっ。」
「ぅぁ…。」
「ぁ…。」
そして2人は力が抜けたように、その場に倒れこんでしまった。
それから数分後。
「フラン!フラン!」
「…あ。」
「フランっ!」
ルーミアが心配そうにフランを見つめていた。
「…るー…みあ?」
フランはおぼろげにルーミアを見る。
「馬鹿っ!馬鹿っ!何であんなことしたのよっ!」
「あは…良かった。元のルーミアだぁ…。」
フランは元気そうなルーミアを見て、にっこりと笑った。
「フラン…。」
「中に入ってきた力を…わたしの力で壊したの…。」
そう、フランは自分の力で入ってきたルーミアの力を破壊し続けたのだ。
そのためルーミアは力を一度使い果たした状態になり、ルーミアは何とか意識を保った。
そして完全に力と意識を取り戻したルーミアは、傍に倒れているフランを揺り起こしたのだ。
しかし…。
「成功してよかった…。」
「…フラン!?やばい…力の使いすぎで肉体が崩壊を…!?」
あまりにもすごい質と量の力を破壊し続けたため、フランの肉体までもが崩壊し始めていた。
「ごめんね…。」
「フラン!絶対貴女を死なせないっ!すうぅ…んっ。」
ルーミアは力を口の方へ集中させ、フランにキスをした。
「ん…。」
そして。
「あれ…?」
「良かった…。」
「ルーミア…?」
「わたしの力は夜、吸血鬼の力も夜。だからわたしの力を直接送り込んだの。」
ルーミアは力の一部をフランに移し、フランの肉体崩壊を止めたのである。
「あ…。」
「何とかなったわね…良かった。」
「ルーミア…。」
フランはルーミアを見つめ、にっこりと笑った。
「あー…よしよし。」
ルーミアはそれを見ると、フランを抱きしめ、頭を撫でた。
「んぐ…。」
「しかし変な感じね…まぁそのうちばれるだろうけど、退治されないで済みそうね。」
「…。」
「フラン?寝ちゃったか。とりあえず明日の夜まで…わたしの住処で我慢してね。」
そしてフランを抱きかかえ、ルーミアは住処へと飛んでいった。
「んぅ…ルーミア!?」
がばっと跳ねるように、フランは起き上がった。
「ここにいるわよ。」
ルーミアはフランの傍に座っていた。
「あ、あれ?ここは?」
フランは見慣れない場所なので、周りを見渡す。
「わたしの住処。」
「そっか…わたしあのまま寝ちゃったのか。」
「そうよ。大丈夫?」
心配そうにフランを見つめる。
「うん。ルーミア?」
「なぁに?」
「…見た目と性格が少し変わってる?」
「それは仕方ないわね…元の見た目と性格が少し入っちゃってるから。」
「そか。」
フランはルーミアのほうを見ると。
「フラン?」
「それでもルーミアのこと、好きなのは変わらないからっ。」
と、すごい笑顔をしたのだ。
「ぅ…その笑顔は反則…。」
ルーミアはそれを見て真っ赤になってしまった。
「えへへ。」
「ありがと…フランのお陰ね。力も抑えていられるし…それに『愛』ってことを知ったわ。」
「うんっ!わたしもだよっ!」
「フラン…大好きよ。」
「わたしもルーミアのこと、大好き。」
そして2人はぎゅっと抱きしめあい、しばらくそうやって過ごしていた。
「ふーん…そんなことがあったのか。」
「うん。えっと…言うの恥ずかしくて。」
あれから数週間後のこと、ルーミアがパチュリーを攫った数日後、フランはレミリアにルーミアのことを好きということを言っていた。
「いや…まぁフランがそう思ってるならそれでいいよ。」
「うん。あ、ルーミアが待ってるから!」
「気をつけてな。」
「うんっ!」
そういってフランは飛んでいった。
「…。」
「どうしたのよ?そんな目で。」
隣でその話を一緒に聞いていたパチュリーが、レミリアに話しかける。
「いや…子供を送り出す親ってこんな感じなのかしらね?」
「…なるほど。そうかもね。」
「はー…。」
レミリアは大きくため息をして、ぐっと背筋を伸ばした。
「お疲れのようね。」
「それもあるけど…結局はあの霧の事件を起こしてなかったら、そう考えるとね。」
「ふむ。妹様もあぁはなっていなかったでしょうね。」
「それとわたしたちも、ね。」
「ん…そうね。」
今日も紅魔館は平和である。
幻想郷のとある上空。3人がそこにいた。
「紫!早くしなさい!」
そういっているのは美鈴。
「うるさいわよっ!こっちだってやってるんだから、何とか持たせなさい!」
そして紫。
「博麗の!まだなの!?」
「もうちょっとだから頑張りなさい!」
もう1人は巫女服を着た少女である。
「こっちの身にもなって欲しいわよっ!くそっ!こんなの聞いてないわよ!」
「近距離で、しかもそいつを押さえつけられるのは、貴女しかいなかったのよ!」
「そんなこと言っても、本体を見れるようにするのは貴女の役でしょう!」
「それを今やってるのよ!」
3人は何かと戦っていた。
しいて言えば闇…いや、夜と戦っているのである。
「お前らぁ!ごちゃごちゃ言ってないでこれでも食らいなさいっ!」
戦っている相手は夜その物…そう、ルーミアであった。
「来たっ!藍!」
「お任せを!」
「半分は任せたわよ!間に合え!境符『四重結界』!」
「な!?結界の中に結界!?」
「よしっ!今よっ!」
紫は攻撃の位置を特定し能力を発動させる。
「隙ありっ!やっと捕まえたわよ!」
そして美鈴は、ルーミアの姿がはっきりと現れたところを羽交い絞めにした。
「くそっ!な!?逃げられない!?」
「お生憎様!わたしは気を使えるのよっ!」
気を使い、ルーミアを押さえつける美鈴。
「く…離れろおぉ!」
ルーミアは負けじと、力の限り美鈴をはがそうとした。
「博麗の!は、早く…!」
美鈴は何とかルーミアを押さえつけている。
「紫ぃ!」
そのとき、巫女服を着た少女が紫に赤いリボンを手渡した。
「間に合った!封印!」
そして、そのリボンを紫がルーミアの髪に結びつける。
それは…。
「な!?が、があああぁぁぁっ!」
ルーミアの力を封じる、封印の赤いリボンであった。
夜と吸血鬼
時はたち、現在。紅魔館廊下にて。
「って魔理沙?そっちは図書館じゃないでしょ?」
アリスと魔理沙は、いつも通り紅魔館へ来ていた。
魔理沙は図書館へ行く廊下の途中で止まり、他の場所へ行こうとしたのでアリスが止めた。
「あ?あぁ、フランのところに行くんだよ。」
「…パス。行きたくないわ。」
「…てか付いて来いなんて言ってないんだが。」
「…まぁいいわ。それで、何処まで教えたの?」
魔理沙は少し前から、フランの教師役を買って出ていた。
といっても、魔理沙が勝手にやっているだけであり、パチュリーや小悪魔も教えたりしているのだが。
「えーっと…とりあえず他の遊びと…。」
「と?」
「『死』について少しだけな…。」
「…そう。」
「それを教えるのは、あそこから引っ張り出したわたしの役目だ。」
「『壊す』のと『殺す』ことは違うからね。」
「分かってる…。」
「それじゃわたしは本を返しに先に行ってるわよ。」
「あぁ。任せた。」
そういって、アリスは図書館へ、魔理沙はフランの部屋へと向かっていった。
図書館に入ると、パチュリーはいつもの場所で本を読んでいた。
「あら?貴女1人?」
「魔理沙ならフランのところに行ってるわよ。」
「なるほど…しかし貴女も大変ね?」
「ん?何かしら?」
本を机の上に置き、アリスはパチュリーの目の前の椅子に座った。
「魔理沙と一緒に住んでて大変でしょ?」
「…そうでもないわ。」
「そうなの?」
「魔理沙は…わたしの目標であり、ライバルだったのよ。」
「過去形?」
「いつの間にか…それが『好き』という感情に変わってたわ。」
「…。」
「魔理沙の生き方、性格、全てをわたしは好きになっていた。そしてあの永夜と宴会…。」
そこまで言ったとき、図書館に誰か入ってきたのでそっちを向くと…。
「その話は後でな。」
魔理沙が。そして傍にもう1人。
「魔理沙?」
「よ。フランもつれてきたぜ。」
「妹様?」
「本読みたいから、付いてきたの。」
フランも珍しく部屋を出て、図書館に来たのだ。
「本ね…小悪魔!」
「はいはい!ってフランドール様?珍しいですね…。」
「妹様が本を読みたいそうなの、付いていってあげて。」
「分かりましたー。それでは行きましょう。」
「うん。」
小悪魔と何かを話しつつ、フランは奥へと飛んでいった。
「…ちょっと大人しくなってる?」
「行ったときからあんな感じだ…たぶん悩んでるんだと思う。」
「…悩んでる?」
「死についてちょっと教えたんだが…色々と考えてるんだろ。」
「なるほどね…それで本を読みたい、か。」
どかっと魔理沙も椅子に座った。
「で、永夜では一緒に行ったことは知ってるけど。宴会で何があったの?」
「ん?あぁ…ちょっと鬼に負けたり、実験に失敗したりして落ち込んでてな。アリスに慰めてもらったんだよ。」
「へぇ…。」
「あのあとも魔理沙のところに行ってね。色々話したのよ。それこそ過去のことから色々とね…。」
「それでわたしも素直になっただけだ。」
「素直に…ね。」
「まぁ元々可愛いやつとは思ってたからな。」
「ほんとに?」
「…性格意外はいいやつだってな。」
「う、うるさいわね…。」
顔を真っ赤にしつつ、アリスはそっぽを向いた。それを見つつパチュリーはというと。
「そうね…わたしも…。」
何かを決心したように、考え込んでいた。
「ん?パチュリー…どうした?」
「何でもないわ。さてと…わたしも実験しないとね。」
「実験?」
「内容は教えないわよ。」
「ちっ。」
「こらこら魔理沙…。」
「分かってるよ。」
「ふふ。それじゃ、何か借りたければ小悪魔に言っておいてね。」
「あぁ。」
「分かったわ。」
「またね。」
そういってパチュリーは実験室へと消えていった。
「本を借りて帰るか…。」
「小悪魔さんは…と。」
「フランドール様?」
「…。」
小悪魔とフランはある本棚の前にいた。
フランは本を読んでいて、小悪魔が話しかけるが、反応しないほどに集中してその本を読んでいる。
「…すごい集中してますね。」
「何を読ませてるんだ?」
「あ、魔理沙さんにアリスさん。」
魔理沙とアリスは、フランと小悪魔の気配をたどってここまで来ていた。
「ここは…教典とかそういうのよね?」
「えぇ。『死についての本』なんて難しいですから…とりあえずそういうのが書いてあるのといえばこれですし。」
「そりゃそうだが…偏ってるのもあるからな。てか…これ何語だ?読めないぞ。」
「簡単な翻訳魔法をかけてあるので…読んでる人は分かってますよ。」
「なるほどな。」
そのとき。
「妹様ー!何処ですかー!」
と、図書館の入り口の方から美鈴の声が聞こえてきた。
「ん?門番の声?」
「あぁ!そうでした。美鈴さんは最近、フランドール様に力の使い方を教えてるんですよ。」
「力の使い方を?」
「美鈴さんは『気を操る』程度の能力を持っているんですよ?」
「…なるほど。それでか。フラン?」
魔理沙はフランの肩を叩く。
「…え?あれ?魔理沙?アリスも?いつの間に?」
フランはやっと魔理沙とアリスに気がつき、びっくりしていた。
「すっごい集中してたのね。」
「あはは…ごめん。」
「妹様ー!稽古の時間ですよー!」
「あ、そうだった!あとでまた見に来るからっ!それじゃっ!」
そしてフランは小悪魔に持っていた本を渡すと、入り口のほうへと飛んでいった。
「熱心だな。」
「そのようね。」
「さてと…御二人とも、何か必要な本はありますか?」
「あー…えっと。」
紅魔館、室内運動場。
「さてと…今日もやりますか!」
美鈴とフランはいつもそこで稽古をしていた。
フランは何か考えていたようだが、意を決して美鈴に話し始めた。
「ねぇ…美鈴?」
「ん?どうしました?」
「魔理沙も…死んじゃうの?」
「どうしてですか?」
「だって人間は…わたしたちより先に死んじゃうんでしょ?」
「それはそうですけど…まだ何年も先の話ですよ。」
「少しの衝撃で死んじゃうんでしょ?」
「妹様…?」
美鈴はその質問の意味がやっと分かり、少しびっくりしていた。
何せフランドールは、暴れればものすごい破壊力を秘めているのだ。
つい最近まではこんな表情を見せたことすらなかった。
「わたしを置いて行っちゃうんでしょ…。」
フランはすごい悲しそうな目をしている。
「…死は誰にでも訪れますよ。」
「…美鈴にも?」
「わたしもそのうち死ぬでしょうね。何年かかるかは分かりませんけど。」
「そうなんだ。」
「でもそれは妹様もですよ?お嬢様だってそうです。」
「そう…なの?」
「誰にでもそれぞれ寿命がありますから。それが尽きれば…死にます。」
「それを『壊したら』どうなるの?」
「それはいけません。」
「何で?」
「妹様も…前こっちに来た妹紅さんを見たでしょう?」
「…うん。」
一時期、神社以外の他の場所でも宴会をすることになり、こっちに来たことがあったのだ。
「あの人は…すごい辛い思いをしてるんですよ。それこそわたしたちが想像できないような経験を。」
「…。」
「でも、妹紅さんは不死人になってよかったって言ってることがあるんですよ。」
「え?」
「好きな人が出来たこと、だそうです。」
「好きな人?」
「慧音さんのことですね。」
「美鈴だと咲夜?」
「あは。そうなりますね。」
「好きな人…。」
「好きな人のためなら、何でも出来るものなんですよ。」
「そうなの?」
「お互いを認め合い、慰め合い、そして愛し合うことが出来る。それは素晴らしいですよ。」
「…わたしにも、好きな人が出来るかな。」
「きっと出来ますよ。」
「…うん。」
「さてと、この話は終わりにして。今日の稽古やりますよ!」
美鈴は気合を入れて、構えを取る。
「うんっ!」
そしてフランも元気いっぱいに返事をして、構えを取った。
それから数日後の夜のこと。
美鈴はあることを思い立ち、それを実行していた。
「今日は外に行って見ましょうか?」
それは紅魔館の外に出ること。
紅魔館の外のことを知ってもらいたいと思い、それを実行しようと考えていた。
「え?いいの!?」
「えぇ。でも内緒ですよ?」
しかしまだ早いとレミリアから言われるだろうと思い、こっそりと外に出よう、そう思っていた。
「うんっ!」
そして紅魔館の外、湖の上。
「うわぁ…。」
快晴なために、月の光によって湖や森が幻想的になっていた。
フランは初めてそんな風景を見ているため、かなりはしゃいでいる。
「あまり遠くへ行かないでくださいね~!」
美鈴は危険な妖怪はいないか、気を張って探っていた。
「分かってるよー!」
そしてフランは森の方へと飛んでいった。
数分後。森の中にて。
「ん?あれは…。」
フランは暗闇の中に、人影を見つけたので近づいてみた。
「いただきまーす。」
「ひいぃっ!」
そこにはまさに、人間を食べようとしているルーミアがいた。
「人…を、食べようとしてる?…待って!」
フランは咄嗟に声をかけ、ルーミアを止めた。
「ん?だーれ?」
ルーミアは声に気がつき、フランのほうに振り向く。
「貴女は誰?」
「わたしはルーミア。貴女はだぁれ?」
「わたしはフランドール。」
「ひー!」
そのやり取りを聞いていた人間はというと、恐怖のあまりに一目散に逃げていってしまった。
「あ。逃げちゃった。」
「ねぇ?貴女は何故人を食べようとしてたの?」
「えー?妖怪は人を食べるんじゃないの?」
「え…?」
フランは人を食べたことがない、というのはちょっと違った。
フランは…調理された人なら食べたことはあったのだ。
だがそれをフランは知らない。閉じ込められていたから、知らないのは当たり前なのだが。
「あぁ、こんなところにいましたか。ってルーミア?」
「めーりんさん?」
「また人を襲ってたのね。こんなところで襲うと霊夢さんが怒るわよ?」
ルーミアは紅魔館湖の近くの森を住処にしているため、美鈴とは顔見知りである。
「ねぇ…美鈴。」
「何ですか?」
「妖怪は…人を食べるの?」
「それは…そうですね。食べない妖怪もいますが…大抵の妖怪は人を襲い、食べます。」
「…お姉様も?」
「お嬢様は人の血を飲みますね。それに…妹様も飲んでますよ。」
「え…?嘘…。」
「いつも食事に入れています。」
「嘘…。」
「嘘じゃないですよ。それに吸血鬼は…人の血がないと生きていけません。」
「…ぅ。」
それを聞いたフランはうずくまり…。
「妹様?」
「うげえぇっ!」
吐いた。
「妹様!?だ、大丈夫ですかっ!?」
「え?だ、大丈夫?」
ルーミアも急にフランが吐いたので驚き、近くに寄り、心配そうにフランを見つめた。
「げほっ!げほっ!ぅ…。」
しかしフランは吐いた後、気絶してしまったのだ。
「妹様!?」
「…気絶してるみたいだよ?」
「…ルーミア。食事を作ってあげるから、ちょっと運ぶのを手伝って?」
「…うん。」
美鈴はフランを背負うと、ルーミアと一緒に紅魔館へと飛んで行った。
フランが倒れたことを聞いたレミリアとパチュリー、そして美鈴がフランの寝ている部屋の外で話をしていた。
ちなみにルーミアは心配なのかフランの傍にいるといい、部屋の中にいる。
「吐いたっていうの?」
「吐いただけ、のようだから他に異常はないわ。」
「ごめんなさい…わたしが付いていながら…。」
「全く…何で外に?」
「湖の近くならまだいいと思ったんですよ…。」
「まぁ無事だったからいいわ。」
「すみません…。」
「とりあえず…あとのことは頼んだわよ。」
「はい。」
「分かったわ。」
症状を聞いて安心したのか、レミリアは自室の方へと飛んでいった。
「とりあえずわたしもちょっと休みますね…。」
「ルーミアで大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。あぁ見えていい子ですから。」
「貴女がそういうなら…。」
そしてパチュリーも美鈴も、自室の方へと飛んでいった。
それから数分後。
「…ん。」
「あ、気がついた。」
「あれ…?ここは…。」
フランは起き上がり、周りを見回した。
「紅魔館の部屋だよ。」
「貴女は…ルーミア?」
「うん。あの…ごめんね?」
ルーミアはフランを見ると、誤った。
「え?」
フランは何で?という感じでルーミアを見たのだが。
「わたし…何か嫌なこといったからかな?」
どうやらルーミアは、フランが倒れた理由が自分にあると思っているようだ。
「…違うよ。」
「え?でも…。」
「違うの…。」
「でもなんで気絶なんか…。」
ルーミアは心配そうにフランを見ている。それを見つつ、フランは話し始めた。
「…わたしね。姉が2人いるの。」
「2人?」
「うん。1人は本当の姉様。もう1人は…姉さんみたいな人、かな。」
「みたいな人?」
「うん。わたしを…あの部屋から引っ張り出して、色々教えてくれたから。」
「部屋?」
「わたしね…すごい力があるんだけど、操りきれなくて。それで閉じ込められてたの。百年以上…ずっとね。」
「百年以上も?」
「そこから引っ張り出してくれたのが…魔理沙なんだ。」
「魔理沙って…あの人間?」
「そう…人間。」
「人間のこと…好きなの?」
「うん。姉のように大切な人だよ。」
「そーなのか…。」
「だからさっき、人間の血を飲んでるって聞いたとき…その人間を魔理沙と重ねちゃった。」
「…。」
フランはすごい悲しそうな目をしていた。
「だから…気持ち悪くなって、それで…。」
「…そーなのか。」
「だからルーミアは悪くないよ。」
フランはにっこりと笑い、ルーミアを見た。
そしてルーミアはというと…。
「じゃぁ、わたしも人間を食べない。」
と言ったのだ。
「え?」
フランはびっくり。
「フランドールが悲しむの、見たくないから食べない。」
「ルーミア…でも何で?」
「目の前でわたしが人を食べて、あんな反応されたら…嫌だもん。」
「ルーミア…ありがとう…。」
「うんっ!」
にっこりとルーミアは笑って見せた。
部屋の外。
「…友達が出来ましたね。」
「心配のし過ぎか。ってかまさかフランがあんなことを考えてくれたとはな。」
美鈴と魔理沙がそこにいて、聞き耳を立てていた。
「嬉しい?」
「そりゃ嬉しいさ。」
「さてと…妹様とルーミア用に料理を考えないとね。」
「はは…頑張れ。」
「貴女も先生頑張りなさいよー?」
「あぁ。」
それから数週間後。
「気合入ってますねー?」
「うんっ!」
フランは、いつも通り美鈴と稽古をしていた。
「力の使い方もだいぶマスターしてきましたし。」
「情緒不安定も、友達が出来たりしてだいぶ良くなってきたわね。」
パチュリーは診断結果を持ってその場所に来ていた。
「わーいっ!」
「これなら…友達と遊ぶくらいは外出してもいいかな?」
「えっ!?ほ、ほんとっ!?ほんとにいいの!?」
あれから数回、フランは外に出ていた。
そのときルーミアに紹介され、チルノ、ミスティア、リグルなどと友達になったのだ。
だがいつも美鈴が付き添いで、フランと一緒に外に行っていたのである。
「でも力の使い方は…。」
「分かってるよ~。」
「ふふ…本当に嬉しいようね。」
そして数日後の夜のこと。
ルーミアにつれられ、ある場所にフランは来ていた。
「うわぁ…。」
「えへへ。すごいでしょ?」
「綺麗…。」
そこはちょうど滝になっており、月の光に照らされた滝が綺麗な、ルーミアのお気に入りの場所であった。
「いつもはミスティアとかリグルとかいるんだけどね。今日は何かしてるのかな?みんないないや。」
「へー…。」
そして、そこにあった岩の上に2人は座って話し始めた。
「ねぇルーミア?」
「なぁに?」
「あの部屋で…人を食べないって言ってくれたときは嬉しかったんだけど。」
「あれから美鈴さんがいっぱい料理を作ってくれるしねー。」
「うん。それで…何で急にあんなことを言ったのかなーって。」
そういってフランはルーミアを見つめた。
「うーんと…。」
「ね、ね。どうして?」
「え、えっとね…あのね…フランドールのこと…。」
ルーミアはと言うと、少し顔を赤くしてフランのほうを向くと…。
「わたしのこと?」
「一目惚れ…しちゃったから…。」
と、言った。
「へ…?」
フランはびっくりしている。
「フランドールを最初見たときね…すごい綺麗だなぁって…。」
「あぅ…。」
フランは、顔を真っ赤にしてうつむいた。
「でも、それに気がついたのは、人を食べないって言ったときだけどね。」
「どうして?」
「最初何であんなこと言ったのか、分からなかったんだ。」
「そうなの?」
「うん。で、住処に戻ってもどきどきしてて…そのあと大妖精に聞いたの。」
「大妖精?」
「ここら辺の妖精を仕切ってる人だよ。それで、それは『恋』だって言われて…。」
「そっか…。」
「フランドールは…どう?」
ルーミアはちょっと不安げにフランを見つめた。
「わたしもルーミアのこと…。」
フランは、ルーミアのほうを向くと。
「好きだよ。」
と、にっこりと笑って言った。
「ほんとに?」
「うん。」
「そーなのかぁ…。」
笑いながらルーミアはそういうのだが。
「ルーミア、顔真っ赤だよ?」
「フランドールこそ真っ赤だよっ!」
2人とも顔を真っ赤にして。
「あははっ。」
「あはは~。」
笑いあっていた。
それからさらに数日後のこと。
いつもの場所で、いつもの通り2人は会っていた。
ここ数日は、2人で会う機会が増えていっていたのだ。
「そういえば…ルーミアっていつもそのリボンしてるよね?」
フランは、ルーミアがいつも同じ赤いリボンをしていることが気になっていた。
「ん?これ?」
「うん。他のリボンはないの?」
「え?あー…これはね、封印なんだ。」
「封印…?」
「何の封印かは分からないんだけど…。」
「分からない?」
「うん。霊夢が封印って言ってたから、そうなのかーって。」
「封印かぁ…それは取れないの?」
「うん…どうやっても取れないんだ。」
「そうなの?」
そういいつつルーミアのそのリボンに手を伸ばし、触ってみると…。
「構っても取れないよ?」
「これくらいなら簡単に…ほら。」
フランは少し力を発動し、そのリボンに触った。
そしてその赤いリボンはするっと解け、地面に落ちた。
「ぅ…。」
解けた途端ルーミアはうつむき、苦しそうにしている。
「ルーミア!?」
フランは慌ててリボンを手に取り、ルーミアの髪の毛に結ぼうとするのだが。
「だ、ダメ…もう効力がなくなってる!」
するりと髪の毛から解け、地面に落ちてしまった。
「フラ、ン…逃げて…。」
「ルーミア!ダメ!気をしっかり持って!」
「ダメ…意識が…あぅっ!」
「ぐぅっ!?」
少しだけ力の解放が始まってしまい、その衝撃でフランは少し吹っ飛ばされた。
「ルーミア!?ルーミアぁ!」
「…ぐ。ぁ…ぐ…。」
ルーミアは、何とか意識を保とうと頑張っていた。
「…まだ意識を保ってる?!それにまだ完全に力を解放されてないみたい!」
「フラ…逃げ…。」
「やだっ!絶対やだっ!大好きなルーミア置いてなんていけないっ!」
「ぐ…ぅ…。」
「で、でもどうすれば…!?かなり強力みたいだし…まだ抑えてはいるけど…。」
「がっ!」
「やばい…力の封印が少し解け始めてる…。」
フランは少し考えると…。
「ダメ…迷ってなんかいられない!」
そう言ってルーミアのところに突っ込んだ。
「ルーミア!」
そしてルーミアを抱きしめる。
「フラン…。」
ルーミアは、苦しそうにフランを見つめていた。
「全部受け止めるから!わたしに向かって全部力を解放して!」
「そ…んな…。」
「いいから!早くっ!お願い…っ!」
その言葉が引き金となり。
「う…うわあぁっ!」
ルーミアはフランに向けて、力を解放してしまった。
「ぐ…すご…があぁっ!」
「あああぁぁぁっ!」
ルーミアは力を解放し続け、それをフランはどうにか受け止めていた。
「ぐううぅぅっ!ま、負けるもんかぁっ!」
「あああっ!」
「る、るーみあ…ぐっ。」
「ぅぁ…。」
「ぁ…。」
そして2人は力が抜けたように、その場に倒れこんでしまった。
それから数分後。
「フラン!フラン!」
「…あ。」
「フランっ!」
ルーミアが心配そうにフランを見つめていた。
「…るー…みあ?」
フランはおぼろげにルーミアを見る。
「馬鹿っ!馬鹿っ!何であんなことしたのよっ!」
「あは…良かった。元のルーミアだぁ…。」
フランは元気そうなルーミアを見て、にっこりと笑った。
「フラン…。」
「中に入ってきた力を…わたしの力で壊したの…。」
そう、フランは自分の力で入ってきたルーミアの力を破壊し続けたのだ。
そのためルーミアは力を一度使い果たした状態になり、ルーミアは何とか意識を保った。
そして完全に力と意識を取り戻したルーミアは、傍に倒れているフランを揺り起こしたのだ。
しかし…。
「成功してよかった…。」
「…フラン!?やばい…力の使いすぎで肉体が崩壊を…!?」
あまりにもすごい質と量の力を破壊し続けたため、フランの肉体までもが崩壊し始めていた。
「ごめんね…。」
「フラン!絶対貴女を死なせないっ!すうぅ…んっ。」
ルーミアは力を口の方へ集中させ、フランにキスをした。
「ん…。」
そして。
「あれ…?」
「良かった…。」
「ルーミア…?」
「わたしの力は夜、吸血鬼の力も夜。だからわたしの力を直接送り込んだの。」
ルーミアは力の一部をフランに移し、フランの肉体崩壊を止めたのである。
「あ…。」
「何とかなったわね…良かった。」
「ルーミア…。」
フランはルーミアを見つめ、にっこりと笑った。
「あー…よしよし。」
ルーミアはそれを見ると、フランを抱きしめ、頭を撫でた。
「んぐ…。」
「しかし変な感じね…まぁそのうちばれるだろうけど、退治されないで済みそうね。」
「…。」
「フラン?寝ちゃったか。とりあえず明日の夜まで…わたしの住処で我慢してね。」
そしてフランを抱きかかえ、ルーミアは住処へと飛んでいった。
「んぅ…ルーミア!?」
がばっと跳ねるように、フランは起き上がった。
「ここにいるわよ。」
ルーミアはフランの傍に座っていた。
「あ、あれ?ここは?」
フランは見慣れない場所なので、周りを見渡す。
「わたしの住処。」
「そっか…わたしあのまま寝ちゃったのか。」
「そうよ。大丈夫?」
心配そうにフランを見つめる。
「うん。ルーミア?」
「なぁに?」
「…見た目と性格が少し変わってる?」
「それは仕方ないわね…元の見た目と性格が少し入っちゃってるから。」
「そか。」
フランはルーミアのほうを見ると。
「フラン?」
「それでもルーミアのこと、好きなのは変わらないからっ。」
と、すごい笑顔をしたのだ。
「ぅ…その笑顔は反則…。」
ルーミアはそれを見て真っ赤になってしまった。
「えへへ。」
「ありがと…フランのお陰ね。力も抑えていられるし…それに『愛』ってことを知ったわ。」
「うんっ!わたしもだよっ!」
「フラン…大好きよ。」
「わたしもルーミアのこと、大好き。」
そして2人はぎゅっと抱きしめあい、しばらくそうやって過ごしていた。
「ふーん…そんなことがあったのか。」
「うん。えっと…言うの恥ずかしくて。」
あれから数週間後のこと、ルーミアがパチュリーを攫った数日後、フランはレミリアにルーミアのことを好きということを言っていた。
「いや…まぁフランがそう思ってるならそれでいいよ。」
「うん。あ、ルーミアが待ってるから!」
「気をつけてな。」
「うんっ!」
そういってフランは飛んでいった。
「…。」
「どうしたのよ?そんな目で。」
隣でその話を一緒に聞いていたパチュリーが、レミリアに話しかける。
「いや…子供を送り出す親ってこんな感じなのかしらね?」
「…なるほど。そうかもね。」
「はー…。」
レミリアは大きくため息をして、ぐっと背筋を伸ばした。
「お疲れのようね。」
「それもあるけど…結局はあの霧の事件を起こしてなかったら、そう考えるとね。」
「ふむ。妹様もあぁはなっていなかったでしょうね。」
「それとわたしたちも、ね。」
「ん…そうね。」
今日も紅魔館は平和である。
遠い過去と書いておきながら、その後に数年後って。
こっちが読み違えてました。
平にご容赦を。
すげーポイントをついた文章やほのぼのしさはすばらしいと思います。
期待を込めてこの点数
珍しい組み合わせだと思いますが、
素直に楽しめました。
2人ともかあいいよ!