Coolier - 新生・東方創想話

従者達の夏休み

2006/07/26 22:17:52
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時刻は、午後五時を回ろうとしていた。
夏の日は高く、この時刻となっても今だ太陽はその姿を隠そうとはしない。
もっとも、そんな事知ったこっちゃ無いとばかりに、存分に薄闇に包まれた捻くれた場所も存在する。
日本家屋は品の無い明かりなど付けないものらしいが、いくら何でも暗すぎる。
ここ、永遠亭とは、そういう場所だった。



そんな薄暗い屋敷の一室にて向かい合っていたのは、永琳と鈴仙。
二人の間にある机に置かれているのは、特賞とでかでかと書かれた熨斗袋。
永琳は、その中身である紙切れを眺めつつ、ひらひらと振ってみせる。

「『ぶらり湯けむり常磐スパリゾート連続密室殺人事件漫遊記』……ねぇ」
「ちょっと……というか、かなり怪しい匂いがするんですけど」
「まあ、温泉宿のキャッチフレーズなんてこんなものよ。少し先走りすぎではあるけど」

本日、買い物当番であった鈴仙が、帰り際に福引を引いたところ、見事引き当ててみせた賞品である。
日頃、己のツキの無さを良く知っている鈴仙は、容易にそれを信じる事は出来なかったが、
一人ロシアンルーレットという荒業を経て、ようやく事実であると認識したものだ。
死ぬだろそれ。という突っ込みは鼻で笑い飛ばしておきたい。
幻想郷において、不幸の量と体の頑丈さの度合いは比例しているものなのだ。多分。

「……でも、数が半端なんですよね」
「そうねぇ……」

貰った招待券は、都合三枚。
それこそ両手かつ二進法で数えても足りない程の人口を誇る永遠亭に、この数は些か頼りなかった。
主だった面子だけで行くというのも気まずいし、かといって全員引き連れていくのも無理がある。

「捨てるのも勿体無いし、誰かにあげましょうか。妹紅さんとか」
「それも良いんだけど……」

永琳は頬に手を当てるポーズを取る。
他に使いこなせる人物がおらず、今や伝説を超えて神話の域にまで達したとまで言われる『私、考えてます』のポーズだ。
大袈裟だと思うのなら、試しに取ってみると良い。
まず間違いなく、虫歯が痛むのかね? というリアクションが帰ってくるだろう。
しかし、それが神話とどういう関係があるのかと問われると、こちらとしても旗色が悪いので、
ここは丁重に流させていただきたい。



「……んー、それじゃ、こうしましょうか」

永琳は一人納得したかのように小さく頷くと、招待券を鈴仙へと握らせた。

「へ? どういう事ですか?」
「元々、これはウドンゲが当てたものでしょ。だからこれは貴方の所有物よ。
 三日くらいお休みあげるから、誰か誘って行ってらっしゃい。皆には内緒にしておくわ」
「……え」

予期せぬ言葉に、鈴仙は戸惑いを隠せなかった。
休みをくれた事に対してではない。
永遠亭における鈴仙の立ち位置は、輝夜のペット兼永琳の弟子ということになってはいるが、
実際には永琳の腹一つでどうにでもなるからだ。
早い話、割と甘い。
だが、問題はその続きにある。

「どうしたの、難しい顔をして」
「ええと、その、誰かを誘えと言われても……」
「心当たりが無いと? ……そりゃまた寂しい告白ねえ」
「うう……」

永琳の言葉は、鈴仙の頑強そうで実は繊細なハートをいたく傷つけた。
もっとも、それも仕方の無い事である。
ここ最近まで、事実上隔離された生活を送っていた鈴仙に、外部の知り合いが多い筈も無いのだ。
世間には、隔離も何もされてないのに、百年単位で孤独という輩も存在するらしいが、
それはこの話とは関係が無いので、誰であるかなど、アゴが外れても言えない。

「んー、それなら、辻斬り侍さんでも誘ってみたら?」
「え、妖夢ですか?」
「ええ。何でもこのところ、あの子も鬱屈してるらしいし、良い気晴らしになるんじゃないかしら」

言われて見れば、といった感じだった。
昨年の永夜事変で出会って以来、お互いに境遇が似通っている事も相まって、話をする機会も多かったし、
何と言っても、ストライパーズの同志だ。
……とは鈴仙が一方的に思っているだけで、妖夢にそのつもりは無いのだが。
そもそもストライパーズって何だ。という疑問に関しては華麗にスルーさせて頂きたい。
それはともかくとして、永遠亭の関係者を除けば、鈴仙にとって友人と名言できる唯一の相手だろう。
しかし、今をもってもそう言えるかどうかは微妙だ。
というのも、妖夢は今春を境目に、冥界から出る事が殆ど無くなってしまったのだ。
曰く、閻魔様からお叱りを受けたから、という噂は耳にしていたが、現実として交流が途絶えていたのは確かである。

だが、他に主だった心当たりが無いのも事実だった。
毒人形との温泉ツアーは別の意味で殺人事件を引き起こしかねないし、
妹紅や慧音を誘えば、漏れなく姫様までくっ付いてくるという、心の洗濯とは程遠い情景が生まれるだろう。
そういう意味では、妖夢ほどうってつけの人材は無い。
それに、永遠亭の面々以外との外出というのは、不安である以上に心躍るものがあったりする。
名言で現すならば、オラわくわくしてきたぞ、といったところか。

「そうですね、誘ってみます」

鈴仙は、細かい疑念を場外へと放り出し、答えた。
弟子の回答に満足したのか、永琳は笑顔で返す。

「ならばよし。……あ、閻魔様の事なら気にしないでいいわよ。
 流石に、こんな些細な事まで咎めて来るほど暇人でも無いとは思うけど……」
「……だと良いんですけど」

ただひとつ、土俵際で粘りを見せていた疑念が、しぶとく蘇る。
事後観察の為だけに、軽く幻想郷を縦断して見せる輩だけに、歯切れが悪くなるのも仕方の無いところだった。
が、続けて永琳の口から放たれた言葉により、鈴仙の懸案事項はあっさりと解消される事になる。

「まあ、その時は成層圏までの片道切符でもプレゼントしておくわ」
「あ、ありがとうございます」

左の握り拳が、鈍く輝いていたのは気のせいだろうか。
とりあえず礼は言っておいたが、内心では閻魔様が別の意味で三途を越えない事を祈っていた。
ビッグバンパンチで地球ごと吹き飛ばない事を願うのみだ。

「そ、それじゃ私は冥界に行きますので」

一見すると、まるで自殺宣言だが、普通のお出かけの挨拶である。

「あー、待ちなさい。その前に一つ忠告よ」
「はい?」
「ストライパーズとやらへの勧誘は止めておきなさい。その選択肢はサッドエンド一直線よ」
「な、何で知ってるんですか! というかバッドですら無いんですか!」

勧誘なんてしない。とは言わないのが流石である。
しかし、そんな鈴仙の突っ込みは、別の意味で波乱を呼んだ。


「誰がパッドだって!? クラァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


品の無さにかけては全一レベルです。と評価されても不思議ではない怒声が響き渡った。
声の主が誰であるのか、もはや語るのも面倒なので勝手に想像して頂きたい。
多分、それで正解だ。







「……前々から思ってたんだけど、貴方、瀟洒って言葉の意味を履き違えてない?」

鈴仙は、精一杯の狂気のジト目を作っては、隣を飛ぶ咲夜を見やる。
が、悲しいかな、この相手には、自慢の魔眼がまったく通用しない。
曰く、鍛えているからだそうだが、どこをどう鍛えればそうなるのか教えて欲しかった。

「あら、何の事かしら」

明らかにとぼけているのに、仕草から負の感情がまったく垣間見えない。
そういう意味では、確かに瀟洒なのだろう。
単に図太いだけかもしれないが。

「……何でもないわ。で、どうして付いて来るのよ」
「偶然目的地が同じだけよ」

咲夜は、その言葉が事実である、と示すかのように、手にした包みを振って見せた。

時を遡ることおよそ半刻。
永遠亭へと来訪……というか襲来した咲夜の目的は、何の事は無い、ただの暑中見舞いであった。
随分とバイオレンスかつ失礼な暑中見舞いやな。と当然の疑問が浮かんだが、
何故か永琳がごく当たり前のように対応していた為に、口を出せなかったのだ。
なお、その場に輝夜が一度として姿を見せなかった事は言うまでもない。
そろそろ、本格的に当主の座が怪しい思っているのは、鈴仙一人ではないだろう。

今、咲夜が手にしている包みは、永遠亭に届けられたものとほぼ同種のものに見えた。
即ち、冥界……白玉楼への暑中見舞いであると思われる。

「(……ま、どうせ食べ物だろうなぁ)」
「何か言ったかしら?」
「別に。紅魔館って、そんなに社交的な集団だったかな、って」
「んー……社交的にならざるを得ない事情があった。とでも言っておくわ」
「ふぅん……」

深く追求はしない。
したところで、楽しくなるような答えが帰ってくるとは思えなかったからだ。

「ところで、貴方はどうして冥界に?」
「え? あ、うん。個人的に社交的にならざるを得ない事情があった。とでも言うか……」
「人の台詞を取るんじゃないの。……個人的?」
「そ、個人的」

あえて詳細に関しては言及しなかった。
今の鈴仙にとって、咲夜はまったく無関係の人物であるとの認識があったためだ。

……現時点では。















「あれ、随分と珍しい組み合わせですね」

遥かなる距離を滑空し、不必要に雄大な結界を飛び越え、
そして、果てしなく長い石段を登り切ったところに、目的の人物はいた。
毎度お馴染みの緑のベストとスカートに、最近になってようやく真っ直ぐ結べるようになったと噂のタイ。
そんな学生っぽい格好とはまこと不釣合いな、年季の入った竹箒を両の手で操っている。

「久し振りね、元気してた?」
「はい、それだけが取り得ですから」

鈴仙が手を上げると、花の咲いたような笑顔と共に妖夢が返す。
その様子からは、鬱屈とかそういうキーワードはまるで無縁のように感じられた。

「良かった、心配してたのよ。何か悪い病気にでも見舞われたんじゃないかって」
「あはは。私は生まれてこの方、目以外を患った記憶はありませんよ」
「……ぐぅ」

思わず呻き声が漏れた。
どうやら皮肉を返す余裕もあったらしい。



「……楽しそうな所を申し訳ないんだけど」

そこに、二人の間に割って入るように、咲夜が口を開く。
気のせいか、どこか硬質なイメージを漂わせる口調だった。

「あ、す、すみません。無視していた訳では無いんですが」
「良いわよ、気にしないで。それより、幽々子いるかしら」
「ええと、今の時間なら書斎のほうかと」
「有難う。少しお邪魔するわね」

そう言うと、咲夜は一人、屋敷に向けて歩みを進める。
取り残された形となった妖夢と鈴仙は、どちらともなしに視線を合わせると、軽く首を傾げた。

「……何か気に障るような事言ったかな?」
「さあ、どうなんでしょう。私にも良く分かりません……あの人は」

いくらか咲夜との付き合いが多いであろう、妖夢の発言である。
無論、鈴仙に分かる筈も無い。
ついでに言うならば、深く追求するつもりも無かったが。

「まあ、冥界の辛気臭い空気にあてられたって事にしとこっか」
「む。辛気臭くて悪かったですね」
「あー、怒らない怒らない。今日はそんな妖夢に、気分転換のお誘いに来たのよ」



鈴仙は、来訪の理由を簡潔に語って見せる。
といっても、それほど奥深い経緯がある訳でもなく、説明はごく短い時間で済んでいた。

「へぇ、温泉ですか」
「うん。どうかな?」
「私としては、是非行きたいんですけど……仕事がありますし、ちょっと難しいです。
 それに……」
「それに?」
「……いえ。ともかく、お誘いは嬉しいんですけど、お断りします。申し訳ありません」

ある意味、予想通りの返答ではあった。
言い淀んだのは恐らく、閻魔に諭された内容に関してだろう。
しかし、だからといって、ここで引き下がるくらいなら、最初から冥界くんだりまで尋ねたりはしない。
もはや鈴仙の脳は、行楽気分で埋まっており、後戻りという言葉など、とうに弾き飛ばされているのだ。

「駄目。私はもう行くって決めてるの。それとも妖夢は、私に一人旅をしろって言うの?」
「そうは言いませんけど。別に私じゃなくても、他の誰かを誘えば良いじゃないですか」
「や。私は妖夢と行きたいの。大体、貴方だって行きたいって言ったじゃないの。
 あの亡霊さんは、ほんの数日空ける事も許さないような矮小なご主人様なの?」
「それは聞いてみないと分かりません……でも、私がいないと幽々子様の世話をする人がいなくなっちゃいますから」
「そうやって、至れり尽くせりを当たり前にしてるから、あの人も増長しちゃってるんじゃないの?」
「……そうなのかなぁ」 

行ける。と確信したのか、鈴仙はひたすらに言葉を並べ立てる。
何故ここまで意地になって誘いをかけているのか、自分でも良く分からなかったが、それは後で考える事にした。

「そうなの! ここで少し我侭を言うくらいが、あの生活不能者に現実を教える良い薬になるのよ!」
「生活不能者……酷い言われようねぇ」

そこに、最悪のタイミングで声が届いた。
間延びしている癖に、恐ろしいまでに耳通りが良く、なおかつ、ずしりと心の臓まで響き渡るような重さの声だった。
恐る恐るその方向へと視線を送ると、リスのように頬を膨らませている亡霊さんが一人。
突っついたら口から食べ物でも転がり出してきそうだが、本当に出てきたら洒落にならないので実行は差し控えられた。

「あ、ゆ、幽々子さん。どうも、お邪魔してます」
「お邪魔なのはむしろ私のほうみたいだけどー」

初っ端から拗ねていた。
本気で怒っている訳では無さそうだが、それでも扱いに困る事は確かである。
そのやり取りが可笑しかったのか、同時に姿を見せた咲夜が、笑いを噛み殺していたりする。
どうしたものか、と言葉を探していると、先に妖夢のほうが口を開いていた。

「幽々子様。一つお願いしたい事があるのですが」
「あら、奇遇ね。私からも妖夢に頼み……いえ、命令があるのよ」
「え? あ、はい、何でしょうか」

先に言い出したにも関わらず、即座に聞き手へと回るその姿勢。
従者とはかくあるべし、と漏らした推定五百歳の妖怪がいたとかいなかったとか。

「温泉饅頭」
「……はい?」
「温泉饅頭が食べたいの。買ってきて」
「……はあ」

言葉の意味する所が飲み込めていないのか、妖夢は呆けた表情で生返事を返す。

「今日はもう遅いから良いけど、明日からはこの命令を最優先事項として動きなさい。
 無事に完了するまでは、他の仕事の事は忘れて良いわ」
「そうですか……って、え? あれ?」

ここでようやく、ニブチン妖夢にも理解が至った。
要するに、良いから温泉でも何処でも行って来い。と言っているのだと。

「あ、ありがとうございます! 命じられた任務、この命に変えても達成してみせます!」
「薄皮よ、間違えないでね」

たかだか、一泊二日の温泉旅行でここまで大袈裟にする必要があるのか、だの。
こうも遠回しにして言う必要があったのか、だのといった疑問が鈴仙の脳裏に浮かんだが、
結果的に良い方向に進んだということもあり、突っ込みは差し控えられた。
ぶっちゃけ、彼女は冥界クオリティの波に飲まれる事の恐ろしさを知っていたのだ。

「でも、本当に良いんでしょうか。その……閻魔様に忠告されてから、まだ半年も経ってませんが」
「忠告?」
「はい。冥界の者として自覚を持った行動を取れ、と」
「あー、そういえば、そんな事を仰ってたわねぇ」
「はい……」
「ならばこうしましょう。霊体は私が預かるから、妖夢は体一つで任務に赴きなさい。
 これなら、人間が温泉に行くというごく普通の行動に過ぎないわ」
「……」

詭弁のガイドラインに載りそうな提案だった。

「それでも干渉してくるようなら、私が責任持って調教……もとい、説得しておくわ。
 だから、貴方は命令をこなす事だけを考えなさい」
「幽々子様……」

感動的となるはずの光景も、たった一つの言い間違いで台無しだった。
ともあれ、殺しても死なない人間と、既に死んでいる人間を敵に回した閻魔様には、同情を禁じ得ない。
何しろ、究極にして最後の切り札であるお裁きが、まったく通用しない相手なのだから。



「(まあ、とりあえずこれで面子は……あ)」

そこで、鈴仙は驚愕の事実に気が付いた。
招待券が、もう一枚余っていたという事に。
妖夢を誘う、という一点のみに集中して行動していた為に、他の要素が忘却の彼方へと置き去られていたのである。

「どうしたの? 鈴仙ちゃん」
「あ、いえ、その、実は……」

別段答える必要は無かったのだが、動揺していたせいか、鈴仙は事実をそのまま口にした。
が、それに対して、幽々子の反応はというと。

「え、ここにいるじゃないの」

というものだった。
ここ、とは即ち、一人傍観の形を取っていた咲夜を指しての言葉である。
考えてみれば、連れ立って尋ねてきたのだから、そう思われるのも当然だろう。。
しかし、鈴仙からすると、その言葉はまったく予想の範疇外だった。
元々、数える程度にしか接点が無い咲夜は、最初から対象として挙げられていなかったのだ。

もっとも、困惑しているのは咲夜も同じだった。
鈴仙と共に訪れたのは、単なる偶然の産物であり、温泉云々は、今始めて聞いた話である。
故に、咲夜はありのままの事実を口にする。

「別に私は「そうだ、咲夜さんも一緒に行きましょう。出かけるなら大勢の方が楽しいですし」

が、そんな台詞は、妖夢の無垢な提案の前に塗りつぶされた。

「い、いえ、私は館の仕事があるから……」
「少しくらいお休みしたって良いじゃないですか。毎日働いてばかりじゃ体を悪くしますよ」

なんという変わり身。
なんという二面性。
つい先程まで頑なに拒んでいた人物の台詞とはとても思えなかった。

「で、でも、妖夢が良くっても、鈴仙はそうは思ってないでしょう?」
「え? 別に良いわよ。二人きりってのも何だし、他に心当たりも無いしね」

これは別段、心変わりをした訳では無かった。
良く分からない奴。との認識があるだけで、別段嫌ってはおらず、
むしろ、これを切っ掛けにして交流を深めるのも良い。と思っているくらいだった。

「偶には従者三人ぶらり旅ってのも良いんじゃない? 貴方達、ただでさえ社交性に欠けてるんだし」

そして、止めとばかりに幽々子の暴言が放たれる。
亡霊に社交性云々言われたくは無いわい。という率直な突っ込みが浮かんだが、
それはいかにも瀟洒ではない、との理由から却下されていた。

「まあ……偶にはそういうのも悪くないとは思うけど、無理よ。お嬢様が許される筈が無いわ」
「なら、本人に聞いてご覧なさいな」
「え?」

幽々子が投げ渡した塊を、本能的に受け止める咲夜。
その塊が何であるかを理解するよりも早く、現実という名の波が彼女を襲う。


『咲夜ー、聞こえてるー?』
「お、お嬢様!?」
『あ、本当に聞こえるのね。スキマの奇行もたまには役立つって事かしら』
「い、いけません、携帯電話はまだ幻想の存在にはなっていないのです!」
『大丈夫よ、じぇいふぉんって書いてあるから。ともかくそういう事に決まったから』
「ど、どういう事なのですか、私には分かりかねますわ」
『相変わらず、自分の事になると鈍いのね。休暇あげるから硫黄臭くなってこいって言ってるのよ』
「ですが……」
『デスもノートも無い。それとも何? 私の気遣いなんて不要とでも言いたい訳?』
「め、滅相も無い。お嬢様の意向は私の意向と同意義です。私情の差し挟まれる余地は有りませんわ」
『……微妙な言い回しね。ま、分かったなら、さっさと帰って引き継ぎと支度をしなさい』
「かしこまりました。直ちに帰還致します」
『宜しい。あ、幽々子に一つ伝えておいてくれる?』
「はい?」
『西洋妖怪は治外法権だから問題無い。ってね』
「……はあ」


それを最後に、レミリアの言葉は途切れた。
……と思いきや、しばらく経った後も、何やら会話らしきものが僅かに聞こえてくる。
音量からして、咲夜宛の言葉ではなく、単に電源が切られていないだけと思われた。

『ねぇ、パチェ。これ、どうやって止めるの?』
『確か電化製品の類いは、強く叩けば直ると聞いた事があるわ』
『へえ……よい、せっと』

携帯の向こうから響き渡ったのは、ぐしゃり、という鈍い音。
それは、幻想郷の危機がギリギリの所で回避された証明であった。



しばし携帯片手に、呆然と立ち竦んでいた咲夜だったが、やがてゆっくりと振り返ると、観念したかのように口を開く。

「ええと、そういう訳で……よろしくね」
「あ、はい、楽しい旅行にしましょう」
「……なんだかなぁ」

かくして、『ぶらり湯けむり常磐スパリゾート連続密室殺人事件漫遊記』の参加者は決定したのである。















夏の陽射しは厳しい。
季節を無視した猛吹雪がやってきただの、超大型の台風が都合三日間も居座っておりますだのといった、
おおよそ有り得ない特殊な事情でも無い限り、この大前提に抗う術は無い。
特に本日は、雲一つ無い好天である。
ただ歩くだけで体力を根こそぎ奪われそうな、そんな状況であったが、
こと彼女においてはまったく無用の心配であったようだ。

「ウサミミモード~ ウサミミモードで~す」

既に使い古されたフレーズを憶測もなく垂れ流しつつ、優雅なステップで闊歩する鈴仙。
彼女の行く先は、モーゼの十戒のワンシーンの如く人垣が割れてゆく、と言いたい所であるが、
生憎として幻想郷の人口密度は高くは無いので、最初から道は開かれっぱなしである。

「フルフルフルムーン デスデスデストローイ 殺せ~殺せ~殺せ~ Yeah!」

途中から方向性が変わっているが、それはそれ。
ともかく、彼女が上機嫌である事だけは疑いようのない事実だった。

元々、鈴仙はこの旅行……『ぶらり湯けむり(ry』には、いくらか懐疑的な見解を持っていた。
いくらなんでも事が仕組まれすぎている。というのがそれだ。
既に鈴仙の中では、半ば結論は出ている。
偶には寛大な所でも見せてあげましょう。との理由から、
ご主人様一同が結託して、この旅行を仕込んだと考えれば、まったく辻褄は合うのだ。
もっとも、それ自体は悪い事でも何でもなく、むしろ有り難い気遣いなのだが、
常日頃から騙され続け、慢性的な疑心暗鬼に陥っている鈴仙には、どうしても素直に納得する事が出来なかった。

……筈なのだが、それも昨晩までの事。
不思議なことに、いざ当日になってみると、鈴仙の思考回路は行楽気分で埋め尽くされていたのだ。
もしや精神安定剤と称されたクスリでも盛られたか。とでも言いたくなる浮かれ具合ではあったが、
そこに本人が思いを馳せる事は無い。





「遅かったじゃないの」

十三曲目の歌を唄い終え、次なるテーマソングを脳内iPodから検索していた鈴仙の耳に、声が届く。
どうやら、何時の間にか待ち合わせ場所まで辿り着いていたらしい。
顔を上げると、道端の木に背中を預けて腕組みをする咲夜の姿が見えた。
表情こそ平静だが、視線は虚空へと向けられており、やや不機嫌っぽいオーラも醸し出されていた。
鈴仙は慌てて時間を確認する。
はて、幻想郷に腕時計は普及していたのか。
その謎はまた別の機会に解き明かす予定なので、今日は体内時計なり日時計なりで確認したとでも思っていただきたい。
え? 無理? 知らんよ。

「(……って、まだ一時間も前じゃない)」

待ち合わせ時間を間違えた、という線は無かった。
その証拠に、妖夢はまだ姿を見せていない。
となると、咲夜が自主的に早く姿を見せたという事になるのだが……。

「……ぷ」
「……? 何よ」
「なんでもなーい」

思わず笑みが込み上げてしまうのも無理からぬ所。
何しろ、あのクールビューティー咲夜が、時間まで待ち切れぬ程にドキワクしていたという事なのだから。
不機嫌っぽく見えるのも、気恥ずかしさを隠す為なのだと思えば、微笑ましく思えよう。

「暑いわね……」

咲夜はわざとらしく呟きつつ、再び視線を虚空へと戻す。
ノースリーブのブラウスに、大きめの麦藁帽子を被っている。
別段珍しい服装でも何でもないが、日頃、メイド服姿しか見た記憶が無いこともあり、とても新鮮に映る。

もっとも、それは鈴仙のほうも同じである。
ウドンゲと言えばミニスカブレザー、という概念を根底から覆すジーンズ姿なのだ。
が、それが悪なのかと言われるとまことに悩ましいところであり、むしろ脚線美を演出する効果のほうが大きかったりする。
しかも、上はチビT。紛うことなきチビT。
当然ながら、秘密の花園……と表現すると卑猥なので普通に言うが、ヘソが露出されているのである。
それはそれで素晴らしい。との感想が某E・Y氏及びT・E氏からもたらされたとか何とか。
え? K・H氏? 興味無いんじゃないかな。

「……その、ね」
「ん?」
「今朝から皆、私を送り出す気に満ち溢れてて、居心地が悪かったのよ」
「それで、一時間以上も前から待ってたって事?」
「そ、そうよ」

気まずかったのか、咲夜は聞いてもいないのに自ら言い出していた。
無論、墓穴である。

「ふぅん。じゃあ別に楽しみにしてた訳じゃなかったんだ」
「そ、それも無いとは言わないけど……」
「私は凄く楽しみだったけどな。こんな機会、初めてだし」
「……ぐぅ」
「多分、妖夢も同じだと思う。
 ……だからさ、この旅行の間くらいは、気取らなくても良いんじゃない?」
「別に普段だって気取ってるつもりは無いけど……まあ、言いたい事は分かったわ」

咲夜は、はあ、と息を吐き出すと、帽子を被り直す。
何処か魔理沙を思わせる仕草だった。

「私もね、幻想郷に来て以来、友人と旅行に出かけるなんて初めての経験なのよ。
 だから、その、気恥ずかしかったというか……」
「どういう態度を取っていれば良いのか分からなかったって事?」
「……ええ」

やや頬を赤く染めつつ、俯きがちに答える咲夜。
その仕草に、鈴仙の中で何かが目覚めた。

「ああ、もう! 可愛いなあ、こんちくしょう!」
「きゃ、ちょ、な、何!?」

草食獣でありながら肉食獣の如き俊敏な動きで咲夜に抱きつくと、有無を言わさず頬擦り開始。
当然というか、咲夜も嫌がる素振りは見せるのだが、それでも強引に振り払ったりはしない。
むしろ、単に戸惑っているだけで、受け入れているとも解釈できよう。

「それ以上属性増やしてどうするつもりなのよ、この完璧超人が!」
「ぞ、属性って何よー!」

属性の数なら、それこそどっこいなのだが、突っ込める勇気のあるものは存在しなかった。



「ご、ごめんなさい、お邪魔しました」



が、勘違いする少女はいた。
やや戸惑いがちではあったが、間違えようのないソプラノボイスに、咲夜と鈴仙が同時に視線を向ける。
そこには、旅行用の鞄を両手に提げて突っ立っている妖夢の姿。
彼女もまた、ライトグリーンのキャミソールに、ピンクのミニスカートという、実に女の子っぽい服装だった。
その言い方では普段が女の子っぽくないみたいではないか。という突っ込みに対しては、素直に謝罪しておきたい。

「こら、帰るな! お邪魔でも何でもないから!」

鈴仙は瞬時に咲夜から飛び退くと、踵を返そうとしていた妖夢を捕らえにかかる。
この組み合わせになると、鈴仙のほうが長身なので、文字通り捕獲であった。

「で、でも、私がここにいても良いんですか?」
「良いも悪いも無いでしょ! あんたここまで何しに来たのよ!?」
「えーと……汎用人型兵器に乗るため?」
「……ネタを返す余裕はあるのね」
「はい。鈴仙さんの魂の叫びを復唱する余裕もありますよ」
「ぐぅ……」

ニヤニヤと、らしからぬ笑みを浮かべつつ言ってのける妖夢。
どうやら最初から全部見ていたらしい。
幽々子という枷から解き放たれた妖夢は、思いの他手ごわい相手のようだ。

「咲夜さん、おはようございます。遅くなって済みませんでした」
「別に謝らないで良いわよ、私達が早く来すぎただけだもの」

妖夢が現れた事により精神の均衡を取り戻せたのか、咲夜は落ち着いた様子で答える。
もっとも、先程の光景を見られていたこともあり、内心はドキドキ物なのだが。




ともあれ、全員集合したという事で、やや時間的には早いものの、出発と相成った。
各々の手には、『旅のしおり』と書かれた小冊子。
変なものが同封された賞品だな。と思いきや、その筆跡にどこか見覚えがあった為に、追求への道は完全に閉ざされていた。
今の彼女達からは、日常に関する事柄は封印されているのだ。

「『劫火温泉 女塾』ね……何を考えて、こんな名前にしたのかしら」
「ツアー名からしてアレですし、余り気にしないほうが良いんじゃないでしょうか」
「到着したら既に燃え尽きてた。とかだと困るんだけどね」
「まあ、名前はともかくとして、中身は普通のようだし……」

ぱらぱらと頁をめくっていた咲夜の動きが、突然止まる。

「ちょっと、妖夢」
「はい?」

促された妖夢は、咲夜の指差す箇所へと視線を送る。
が、旅館の歴史だの温泉の効能だのが記されている、何の変哲もない紹介頁としか映らなかった。

「……? これがどうかしましたか?」
「良くご覧なさい。この説明、どう見ても人間向けでしょう」
「はあ、それが一体……あ」

そこでようやく、咲夜の危惧する所に思いが至る。
少しばかり常識外の能力こそ持つものの、咲夜は基本的に人間である。
それに、半分ほど死んではいるが、妖夢も一応は人間の範疇だ。
だが、もう一人……鈴仙はどうだろうか。
極め付けに偽物っぽくはあるが、それがウサ耳である事に変わりは無く、
それは即ち、彼女が妖怪変化の一種であるとの証明なのだ。
このところ、境界が曖昧になっていて忘れかけていた事象だが、
基本的に人間と妖怪は相容れない存在である。
無論、鈴仙が人間を襲う事など無いと二人は知っているが、それを周囲までも理解してくれるかどうかは別の問題なのだ。

が、当人である鈴仙は、何事も無かったかのように、あっさりと答えた。

「あ、うん、それなら大丈夫」
「大丈夫って、本当に?」

咲夜はいかにも怪訝そうに問い返す。
せっかく和んだ空気を崩しかねない行為だが、到着してから悶着を起こす事を思えば止むを得ない所と判断したのだ。
仮にそうなった場合、一番傷つくのは鈴仙なのだから。

「こんな事もあろうかとって、師匠が秘策を授けてくれたのよ」
「……師匠、ねぇ」
「……秘策、ですか」

途端に場は、胡散臭い空気で包まれた。
どうやら、永琳に対する心象には、鈴仙とその他では多大な隔たりがあるようだ。
が、私は全幅の信頼を置いております。とでも言いたげな笑みを見せつつ、
ポケットからメモ書きを取り出す鈴仙を姿を前にすると、とても口に出せなかった。

「えーと、まずは同封したカチューシャを身に付けること。……これね」

鈴仙が取り出したのは、何の変哲も無い地味なカチューシャ。
少し変わった所と言えば、天辺近くに二つほど穴が開けられている事くらいか。
恐らくは、ウサ耳を通す為の工夫なのだろう。

「そして、装着が完了したら、くるりと一回転しつつ、きゃぴるん♪ とポーズを決める」
「「……」」

突っ込みたいが、突っ込めない。
感情を押し殺して耐える二人を余所に、鈴仙は指示通り、何処かで見たような腰骨を痛めそうなポーズを決める。

儚かった。
故に、美しかった。

「以上で全項目は終了。ウサ耳カチューシャを付けたイタい女の子のでき……あ……ひっく」

最後まで読み上げる事は出来なかった。
鈴仙は人目を憚らず涙を溢れさせると、糸の切れた人形の如く崩れ落ちる。
だが、希望までもが失われた訳ではない。
そう、彼女は一人ではないのだ。

「泣かないで! 貴方は何も悪く無いわ!」
「そうですよ鈴仙さん! 何もかも、この荒みきった世界が原因なんです!」

倒れ伏す直前で、二人の手が鈴仙を抱き止めた。
心の傷を消し去るのは不可能だ。
だが、彼女らの友情をもってすれば、その痛みを和らげる事は出来る。
そんな事を思わせる、麗しき光景であった。

「……ありがとう、咲夜、妖夢。
 私、負けない。この荒れ果てた大地に、いつかきっと、新しい息吹を芽生えさせてみせる!」

鈴仙の宣言をもって、友情の再確認という名のコントはフィナーレを迎えた。
それにしても、一応幻想郷は楽園のはずなのに、落ちぶれたものだ。















日も高くなり、強烈に差し込む陽射しの下を、てくてくと歩む凸凹三人娘。
目的地である旅館までの距離は、時間にしておよそ三時間弱。
勿論、有事の時のように全力で飛行をすれば、それこそ数十分程度で到着してしまうのだが、
それは旅行ではなく任務遂行に過ぎない。と理解するくらいの心の余裕は、全員が持ち合わせている。
故に、交わされる会話も、自然と仕事の愚痴のようなものは避けられていた。

「でもまさか、あの多村が試合中の怪我で長期離脱だなんて……」
「ゲーム中は極めて頑丈というのがセールスポイントだったのに、上手く行かないものね」

何の話題やねん。と突っ込まれても困る。
天気と野球の話は当たり障りのない話題の基本。というのは幻想郷においても通用するのだ。多分。

そんなこんなで、行程もあと半分弱といった所に、妖夢から一つの提案が口にされた。

「少し休憩して行きませんか?」
「え、ご休憩?」

鈴仙の返答には、一文字余分に付与されていた為、途端に怪しい雰囲気となった。
三人で利用だと別料金がかかるではないか。等と考えつつ周囲を見渡すが、それらしき建物も看板も無い。
せいぜいが、やたらと枝葉が広がっている、この木が何の木か気になる木が植わっているくらいである。
背景に、企業リストが流れているような気がしたが、恐らくは夏の蜃気楼だ。

「ええと、どういう誤解をしてるのか知りたくもありませんけど、今日は陽射しも強いですし、
 そこの木陰で小休止と行きましょう。と言いたかったんですが」
「あ、そ、そういう事ね。ようやく理解したわ」
「他にどんな解釈があるのか教えて欲しいものね」

どうやら、出立時の騒動の反動で、鈴仙の頭の中は春になってしまったらしい。
が、他の二人も似たようなものなので、さしたる問題は無い。
それはともかく、休憩という提案に関しては異論は出なかった。
体力に自信のある面々とは言え、炎天下を歩き続ければ消耗もするのだろう。

巨木の根元にビニールシートを敷くと、三人は思い思いの体勢で休息に入る。
と言っても、ヨガのポーズを取ったり、魔方陣を描き出したりといった奇抜な行動は無く、
せいぜいが、女の子座りか体育座りか胡坐をかくかの違いくらいだ。
誰がどれなのかはご想像にお任せしよう。

「そうだ。皆さん、お腹空いてませんか?」
「ん? 空いてると言えば空いてるけど」
「良かった。実は、お弁当作ってきたんです」

最初からそのつもりだったのか、既に妖夢はバッグの中から、布に包まれた箱を取り出していた。
封を解き蓋を開けると、お目見えしたのは稲荷寿司と太巻き。
俗に言う助六寿司というものだ。
三人の腹を満たすには十分な量であろう。

「歩きで行くんなら、途中でお腹も空くんじゃないかと思いまして……」
「……」

それに対する咲夜と鈴仙の反応は、あまり芳しいものではなく、
少し困ったような表情を浮かべつつ、時々顔を見合わせるというものだった。
不安になったのか、妖夢は戸惑いがちに口を開く。

「……あの、お嫌いでしたか?」
「ううん、そんな事無いけど……ほら」

鈴仙は返答の代わりに、肩に掛けていたバッグをごそごそと漁り出す。
ややあって、ビニールシートの上には、竹で編まれた大振りなランチボックスが置かれていた。
その中身はというと、赤に黄色に緑にと色とりどりの具材が挟まれたサンドイッチ。
量的に見て、これまた一人分ではないのは確実と言えた。

「……成る程。考える事は同じって奴でしょうか」
「そうね。まあ、頑張って食べれば何とか……」

鈴仙の呟きは中途にて押し止められた。
なぜならば……。

「……えーと、私もなんだけど」

どでん。と音を立て、一際大きな重箱が、現世に光臨する。
召喚したのは、やや気まずそうな表情の咲夜だった。
ちなみに、その中身は中華風であったそうな。




かくして、休息の場は一転して、開戦直前の物々しい雰囲気に包まれた。
面子が三人で、弁当が三つ。と数的には丁度良く見えるが、それぞれが三人前を想定して作ってきたとなると話は別。
彼女らは皆、外見相応の極めて普通の食欲しか持ち合わせていないのだ。

「……とりあえず頂きましょうか。いくら考えたところで減りはしないもの」

年長者の矜持か、咲夜が率先して動き出す。
実際のところ、年齢では一番下という可能性が大きいのだがそれはそれ。
そもそも、彼女が実年齢を明かす機会は、未来永劫無いだろう。

「こんな時に幽々子様さえいたら……」
「妖夢、それは言いっこなしよ。
 今ここにいるのは、大物に仕える従者じゃなくて、ただのドジっ娘達なんだから」

自分でドジっ娘とか言うな。との突っ込みをする余裕も無い。
彼女等は皆、己のノルマをこなすことに必死だった。
これがもし、普通の量であったならば、弁当の出来栄えへの感想を述べ合ったり、
今後の行程へと想いを馳せたりも出来たのだろうが、今はただ黙々と食べ続ける事しか許されなかった。
のっけからこんな調子で、果たして無事旅館まで辿り着けるのかという疑念が各々を支配し出した頃、
救いの手は現れた。


「あむあむ……五目御飯って事は関西風かあ。
 あたいはクドいくらいに甘辛い関東風が好きなんだけど、これはこれで味わい深いものがあるね」


救いの手、というよりはつまみ食いの手だった。
三人の視線は、瞬間的にそちらへと集まる。
幻想郷広しとは言え、あたい、という一人称を活用する人物の心当たりは二人しかなく、
その内の一人は、このような講釈を述べられるような知識を持ち合わてはおらず、
結果として、目視するよりも早く、人物の特定は成し得た。

「……ようやく職務怠慢のかどで解雇されたの?」
「よ、ようやくって何さ! 普通、ついに、とか、もしかして、とかじゃないの!?」
「日頃の行いって大切よね」
「本当ですね」

非難の声を上げる小町に対し、一同の反応は至って冷淡だった。
彼女らはその立場上、働かぬ者に対しては厳しいのだ。

「ふふ……いいさいいさ。どうせあたいは反社会的行動に身をやつす時代の反逆児で、
 気紛れに労働組合を作ろうと掛け合ったら、上司の環境のほうがもっと酷かったという最悪の結果に、
 涙を流しつつ安酒を煽りすぎて翌日も遅刻する、どうしようもないゴミクズなのさ……」
「誰もそこまで言ってないでしょ。で、見た所、貴方もお休みみたいだけど、どうしてここに?」

仕事を抜け出したという訳では無いのは、小町の姿を見れば直ぐに分かった。
トレードマークとも言える鎌を携えていないし、何よりその服装が、
ハーフパンツにタンクトップ、薄手のジャケットという、普段の和装からは程遠いものだったからだ。
加えて、やや大手のバッグを肩に下げていることから、その目的も想像が付く。
が、何故そうなったのかまでは分からなかった。
もっとも、特定出来ないというだけで、大体の目安は付いていたが。

「んー、良く分からないんだよね。今朝、四季様が突然、
 『ただちに身支度を整えて指定する場所へ向かいなさい。それが貴方に出来る善行よ』
 とか言い出したもんだからさ。
 んで、出向いてみたら、お前さんたちが昼食タイムだったって訳」
「……その、閻魔様、妙にお疲れの様子じゃありませんでした?」
「そうだったかな? まあ、疲れてでもいなければ、あの方がこんな事言い出す筈も無いとは思うけどさ。
 あたいも死神稼業初めて長いけど、有給貰ったのなんて初めてだよ」
「完全歩合制の仕事に、有給も何もあるのかしら……」

一同は大体の事情を理解した。 
恐らくは昨晩、提案という名の脅迫が幻想郷の最高裁判官に向けて行われたのだろう。
そこにどのような思惑が含まれていたかは定かではないが、それは考えるだけ無駄である。

「ま、そういう訳だから、あたいも同行させて貰うけど、構わないよね?」
「勿論良いけど。急に一人増えたりして、旅館は大丈夫なのかな」
「平気じゃないですか? この分だと、そっちの方も都合付けてるような気がしますし」
「道理ね」

三人の意見は、賛成で一致していた。
昨日の時点でこうなるような予感があった。というのもあるが、
それ以上に彼女等は、死神の癖にやけに世俗慣れした雰囲気を持つ小町を、心強い存在と捉えていたのだ。

ともあれ、小町の登場によって、一人当たりのノルマは三人前から二人前強へと軽減された。
依然として多い事には変わり無いのだが、これなら何とかなる。と思わせるには十分であった。
分からんという人は想像してもらいたい。
二杯のラーメンを食べきった後に、熱々の三杯目が運んで来た店員が放つ台詞を。
『完食しないと罰金ですよ』と、『少しでも箸を付ければOKです』では、
精神的な余裕において大いなる差異があるのが分かるだろう。
そもそも二杯も食べませんと言われては返す言葉に困るので、この話はここまでという事で。

なお、都合九人前の弁当は、なかなかの健啖家であった小町の力もあり、無事完食されたと追記しておく。















さて、女三人寄れば姦しいとは言うが、四人寄ればどうなるのだろう。
戦闘バランス的に丁度良いのではないか。等というRPG的な意見もある。
成る程。近接タイプ二人に遠距離が一人に万能が一人と、実にバランスの取れたパーティー構成だ。
だが、MMO的に見ると、ヒーラー不在が後々まで響きそうという不安が掲げられる。
もっとも、幻想郷のヒーラーは大体が攻撃性能も際立って高いという壊れたバランスだが。

「別にあたいは近接攻撃職って訳じゃないんだけどなあ」
「鎌なんて持ち歩いてたら誰だってそう思うでしょ……って、今日は持って来てないのね」
「何処の世界に、温泉旅行に行くのに刃物を持ち歩く馬鹿がいるのさ」
「そ、そうですよね。そんなのは馬鹿のやる事ですよね」
「ま、まったくだわ。平時と休日との区別はきちんと付けるものよ」
「……どうして二人とも慌ててるの?」
「大方、鞄の中でも漁ってみれば分かると見たね」
「ああー! 止めてー! 乙女の秘密がー!」
「普通の乙女は、旅行鞄に短刀を忍ばせたりしないものよ」
「靴底にナイフが仕込んである咲夜もどうかと思うけど」

まあ、概ねこんな感じだった。
そんな騒がしい一同であったから、気が付けば到着していた。という感想も無理からぬところである。






「へぇ……思ったより立派ね」
「そうね。少し世界観を無視してる気もするけど」

鈴仙の言葉が示す通り、劫火温泉女塾は、その怪しすぎる名称とは裏腹に、まこと豪奢な外観だった。
それはむしろ、温泉旅館というよりは、リゾートホテルと呼んだほうが正しいかもしれない。
幻想郷に鉄筋コンクリート作りの建物が存在していいのか疑問ではあるが、
実際に建っているものにケチを付けても仕方が無いのである。

「でも、この辺りに温泉宿ってここだけっぽいし、きっと採算取れてないだろうね」
「今日明日の間だけ潰れなければそれで良いですよ。さ、入りましょう」

さりげなく辛辣なコメントを残しつつ、妖夢が率先して玄関へと向かう。

「……なんか今日の妖夢、妙に行動的だと思わない?」
「自覚してないというだけで、内心はかなり鬱屈してたんでしょう。
 あの子、元々は結構自己中心的なタイプだし」
「だろうね。まったく、四季様ももう少し言葉を選べばいいのに」

続けて、小町と咲夜が後を追う。
が、鈴仙はというと、少し呆けた様子でその場へと立ち尽くしてた。


「(……全然気付かなかった……)」

ショック。と言うのはやや大袈裟だが、いくらか精神的な動揺を覚えたのは事実である。
咲夜はともかくとして、小町まで一目で気付いていたことに、まったく思いが至らなかったのだから。
単純に、元々冥界で暮らしてたんだから大した問題でもなかったのだろう。と思っていた自分が情けなかった。

「鈴仙さーん、どうしました?」
「あ、うん、今行く」

生まれた自責の念を振り払うかのように、鈴仙は駆け足で後を追う。
見れば、妖夢は既に自動ドアをくぐろうとしているところだった。
と、その時。

「ぎみゃっ!」

透明な壁にぶつかった妖夢が、みょんな呻き声と共に弾き返される。
丁度その背後にいた小町は、それを受け止めつつ、玄関口に視線を走らせた。

「うわあ……これ、自動ドアっぽく見えるだけで、普通の引き戸だよ」
「うう……先に言って欲しかったです」
「さては、外観に気と予算を使いすぎて、細部まで手が回らなかったって口かしら」


「……ふふっ」

突如として眼前にて展開された光景に、鈴仙は軽く笑いを漏らす。
何の事はない、皆いつも通りだったからだ。
たった一泊二日の、それでも貴重な時間を、些細な思い込みで雰囲気を暗くしてしまっては本末転倒。
この旅行は、そんな後ろ暗い考えを忘れる為にあるのだから。

「ふぎゃっ!」

数秒後、鈴仙はみょんな呻き声と共に、見えない壁の襲撃を受けていた。





「なんだって私が入る前に閉めちゃうのよっ!」
「ご、ごめんなさい、つい癖で」

約二名の顔面打撲という悲しき犠牲を背負いつつ、一同は受付へと向かう。
内装はというと、これまた豪奢な高級ホテル風であったのだが、玄関口からしてアレだったために油断はならない。
もっとも、他にもちらほらと宿泊客の姿を見受けるに、普通に営業しているものとは思われた。
宿泊客なのか被害者なのかは聞いてみないと分からないのだが。

「うどんげー、例の招待券とやらを出しなー」
「カツアゲ?」
「馬鹿、手続きしてくるって言ってるんだよ。あたいは別料金だから、その方が手間が無いでしょ?」
「あ、そうか。……でも、良いの?」
「ん? 何がさ」
「ほら、その……」

死神の仕事が、完全歩合制かつ超の付く低賃金であることは鈴仙も良く知っていた。
だが、流石にそれをストレートに言ってしまうのは咎められたのだ。
しかし、この辺りは流石に小町は聡かった。

「あー、大丈夫大丈夫。それも四季様が支給してくれたから」
「「「マジでっ!?」」」

三人はほぼ同時に、別の意味で驚愕の声を上げた。
何故なら、閻魔の仕事が(以下略)。
いや、略されても分からない。という人は、九行ほど上の文章を貼り付けると良いだろう。
私には、とてもではないが、その事実を書き記すような勇気が無いのだ。

「ありゃ? 何か驚くような事言ったかな?」
「ぜ、全然そんな事は無いズラ。ただの斧使いへの賛歌ズラ」
「そ、そうダスよ。今や主人公にもなった斧使いも、彼等の礎があってのものダスよ」
「は、早く手続きのほうお願いするクポ、従業員が変な目で見てるクポ」
「……まあ、良いけどさ」

平静を装うも、動揺がしっかりと語尾に現れていた。
お前さんたちがそんなんだから変な目で見られるんじゃないか。といった突っ込みを押さえつつ、
小町は一人、受付カウンターへと向かう。
大人だった。

なお、台帳の名前欄には、しっかりと『ペドメイド』『ツジギリ』『エロウサギ』と記されていたらしい。
それで通してしまう受付も受付だが。














晴れて……かどうかは知らないが、チェックインを済ませた従者ご一行は、指定の部屋への入室に成功していた。
と表現すると、まるで犯罪行為のようだが、彼女等は正規の手続きを経た、れっきとした客である。
故に、客は客らしくということで、各々が口々に勝手な感想を述べていた。

「うんうん、結構立派な部屋じゃないか」
「確かに立派だけど……どうして和室なんだろ」
「そうですねぇ、折角の機会だし、洋間でも良かったんですけど」
「だったら今度うちに泊まりに来なさいな。私は和室で良かったわ」

こうして書いていて疑問に思うのは、それぞれが誰の台詞であるか果たして通じているのかという点である。
が、世の中には二十人以上の登場キャラを自在に書き分ける強者もいることだし、四人くらいでめげてはいけない。
そもそもにして、作者の愚痴など誰も見たくないだろうし、ここは諦めて本編に戻らせていただこう。

さて、この従者様ご一行であるが、約一名を除いては、幻想郷でも有数の大家を住処としている。
したがって、いかな立派な部屋だろうと、自宅と比べると見劣りしてしまうのではないかという懸念があったが、
何処の知り合いの家でもない対価を払って宿泊する場所というのは、それなりに魅力に溢れていたようだ。

「この掛け軸は唐の時代のものね。身の引き締まる思いがするわ」
「それは茶道の作法だって」

床の間に佇んでは、適当極まりない感想を述べた鈴仙に、小町の鋭い突っ込みが入る。

「こ、この冷蔵庫は東芝製ですね。身の引き締まる思いがします」
「だから真似しないで良いってば。というか、それは当たり前だから」

何故か対抗して、冷蔵庫に頭を突っ込んだ妖夢に、更なる小町の突っ込みが炸裂する。
ちなみに、冷蔵庫は氷を入れて使用するタイプであるし、
メーカー名も自称発明家の東山芝衛門氏(83)の直筆というだけである。
もっとも、その中身が赤マムシだの玉龍だのといった物々しい瓶で埋まっていたせいで台無しだが。

「やっぱり、効能云々よりも名前のインパクトで効き目が変わると思わない?」
「いや、やっぱりとか言われても……」

流石に咲夜のこれには突っ込めなかった。



そんな入室の儀式を終えた一同は、荷物を置くと、とりあえず一服とばかりに座卓を囲む。
もっとも実際には、お茶を啜り、用意された菓子を頬張りつつ、今後の方針を検討する、という目的がある。
温泉旅行とは形が大事なのだ。と言ったのは果たして誰であったか。

なお、ここでもまた、誰がお茶を入れるのかという、アホな騒ぎが起きていた。
嫌がって押し付け合うのではなく、入れる役目を争い合うという、なんとも従者らしい一悶着であったが、
これまた空気の読める女、小野塚小町が強引に注ぎ入れる形へと落ち着いていた。
恐らく、小町がいなかったら、まだ入室すらままなっていない事だろう。

「さて……どうしよっか」
「温泉宿なんだから、まずは温泉じゃないですか?」
「それも良いけど、少し散策してみない? この旅館、色々な意味で興味深いわ」
「確かに負の面が気になる所だね」

今のところ、玄関扉の一件を除いては、別段変わったところは見受けられない。
前面だけが完成していて、後ろ半分が断崖絶壁だったなどという怖い光景もなかったし、
廊下にトラップも仕掛けられてはいない。
ついでに言うなら、強壮剤の類も、水で入れ替えられていたという事はなかった。
試したのは、無論咲夜だ。
ともあれ、一同の意見は、散策で一致した。



メイドと庭師と兎と死神が連れ立って歩いている。と表現すると、道行くもの皆が頭を抱える難解な光景のようだが、
今の彼女等からは、そうした雰囲気が醸しだされる事は無く、少し風変わりな少女四人組というだけである。
繰り返す。
少女、四人組である。
もう一度だけ繰り返す。
少 女 四人組だ。
決して追求してはならない。君と僕との約束だ。
なお、この先も少女という描写をすることに関して、一切の躊躇いはないと宣言するものである。

「……このナレーション。殺意が沸いてくるわ」
「第一声を放っちゃったら、自分から認めてる事になるんじゃないの?」
「それでも、私は戦わないといけないのよ」
「というか、あたいの事じゃないのかなぁ」
「って、あっさり!?」

訳の分からない会話を交わしつつ、一同は旅館を散策する。
と言っても、それほど多岐に渡る施設が備わっていた訳でもなく、四人の興味は自然と、ある一箇所へと集まっていた。



「まあ、温泉街っていったら、やっぱりこれでしょ」
「そうなんですか?」
「そうなの。卓球にスマートボール……そして、射的。温泉における三大伝統遊戯さ」
「スマートボールなんて言葉、初めて聞いたわ……」

一同がやって来たのは、女塾名物油風呂……ではなく、射的場だった。
どこら辺が名物なのかと言うと、恐らくはその規模であろう。
一般的な射的とは、せいぜいが射程3メートル程で、身を乗り出せば銃口が景品に隣接してしまうような代物である。
が、ここの射的場は一味違った。
何しろ、景品までの射程。およそ40メートル。
視力の悪い者は、挑戦する事すらままならないであろう。
しかも音による非難を避ける為に、わざわざ地下へと設えられている本格派だ。

「(……これって、射的場じゃなくて射撃場じゃないのかな)」

そんな感想を抱いた鈴仙であったが、口には出さない。
用意された銃が、射的専用のものではなく、本物を改造したものであるとも見抜いたが、それも言わない。
この旅行中に、血生臭いワードを出すのが控えられた為だ。

「それじゃ、私から行くわ」

率先して名乗りを上げたのは、咲夜だった。
もっとも、本日においては誰も疑問には思わない。
今ここにいるのは、完全で瀟洒なメイドではなく、ただの少女なのだ。
……が。



「……この距離で、最初から全弾当てるかね、普通」

呻きとも取れる、小町の呟きが、一同の感想を集約していた。
六発中、六発が命中。
落とした景品の数、四つ。
彼女は、遊びにおいても完璧だった。

「ありがと。でも、あれが落ちなかったのが悔やまれるわ……」

恨めしそうな視線の先には、可愛げの欠片もないウサギのぬいぐるみ。
だが、見る人によっては感想も異なるのか、咲夜は心底悔しそうな表情を浮かべていた。

「多分、アレは客引き用じゃないかな。まぁ、引かれる客がいるとも思えないけど……」
「……」
「そ、そいつはともかくとして、この銃の威力じゃ、とても落ちそうに無いね」
「……面白い。なら、私が試してみましょう」

続けて名乗りを挙げたのは、妖夢。
その眼光には、確固たる決意と、どこにぶつけるつもりなのか謎な殺意が多大に滲んでいた。

「鈴仙さん。アレ、どうすれば落ちると思います?」
「え、え? どうして私に聞くの?」
「いえ……何だか、こういうの得意そうに思えたんで、勘違いだったら済みません」

分かっていて聞いてるのか、と一瞬頭に血が昇りかけたが、妖夢にそんな腹芸が出来るとも思えなかった。

「(……そもそも、こんな時にシリアスな思考してる私のほうがおかしいか)」

鈴仙は、進歩の無い自分を叱り付けつつ、素早く目標の視認に入る。
標的そのものは非常に大きいため、狙いを付けるのは容易。
だが、これはあくまでも射的。
いかにして転倒させるのかが課題なのだ。

「んー、多分、重心が下のほうにあるから動き辛いんだと思う。
 狙うなら、頭部。それも一点に集中して、数で力を稼ぎ出すしか無いかな」
「……成る程、了解です」

妖夢は、神妙に頷きながら、銃を構える。
身に纏う張り詰めた雰囲気は、見守る者たちに否応無しに期待感を抱かせるものだった。

 


「うう……私は駄目な庭師です。いくらでも蔑んで頂いて結構です。むしろ罵って下さい!」
「い、いえ、妖夢。貴方は頑張ったわ」
「そ、そうさ。努力する姿勢には素晴らしいものがあったよ」

暗に、姿勢以外には褒める点が見当たらないと言っているのだが、それも無理はない。
悲しいかな、妖夢にはアドバイスを実行に移せる技量に欠けていたのだ。
六発中、命中は僅かに一発。
それも、狙いとはまるで明後日の方向に飛んで行った弾が、偶然他の景品に当たっただけである。

「ま、まぁ、気にしないほうが良いわよ。軽く当てる咲夜のほうがおかしいんだから」
「何よそれ、まるで私が変人みたいじゃない」
「ほらほら、喧嘩するなって。妖夢の敵はあたいが取ってやるからさ」
「まだ半分は生きてます……」

どんよりとした空気を背負いつつ、体育座りを始めた妖夢を余所に、小町が勢い込んで台座へと付く。
物言いからして、射的という遊戯への習熟度は高いと見受けられるが、
それがこの特殊な舞台で通用するのかどうかは定かではなく、腕の見せ所といった所である。

「最初は試し射ち……っしょっと」

ぱぁん、と実弾の香り漂う音と共に放たれた銃弾が、遥か前方の菓子の箱を直撃した。
箱は、横から加えられた力に、重力による支配を一時的に解き放たれ、宙を舞う。
見事な一発に、一同から歓声が上がる。

「って、待ちなさい! 小町、貴方今何したの!?」
「何って、別に何もしてないよ。ちょっとばかり、射程が近くなればいいなあって思っただけさ」
「……ああ、そういう事ね」

……事はなく、代わりに非難の声が出迎えた。
要するに、小町は距離を操る程度の能力を使ったのだ。
彼女にとっては、視認できる限り、距離が何メートルあろうが同じという訳である。

「なあに、こんな馬鹿みたいな射程の射的を運営する阿漕な経営側が悪いのさ」

悪びれた風もなく、堂々と言ってのける小町。
もっとも、咲夜も鈴仙も、その意見には同意だった。
今もなお、昭和枯れすすきを唄いつつ、地面に「の」の字を書いている妖夢を思えば、なんと些細なイカサマか。
嗚呼、友情って素晴らしい。

「よーっしゃ。こっからが本番。あの不細工な兎は頂くよ!」

小町は、勢いもそのままに、立て続けに四発の銃弾を放つ。
無論、その狙いは外れる訳もなく、全弾一ミリの狂いもなく、ぬいぐるみの頭部へと直撃した。




……が、それだけだった。

「うどんげっ! 何で倒れないのさ、あれ!」
「い、いや、私にも何が何だか……」

例のぬいぐるみは、立て続けに加えられた衝撃に、ぐらりとその体を揺らしたものの、
不自然なまでの安定感で、持ち直していたのだ。

「四発じゃ威力が足りなかったのかしら……」
「……いえ、多分。何十発打ち込んでもアレは倒れません」

咲夜の呟きに答えたのは、今だ人生のどん底に沈んでいた筈の妖夢だった。

「んぁ? どういう事さ、それ」
「チラッと見えたんですが、あのぬいぐるみ。紐か何かで台に固定されてます。
 それこそ、水平になるまで打ち込んでも、落ちません」
「……本当に?」
「ええ。私、射的は下手ですけど、視力には自信ありますから」

まだ多少、後遺症が残ってるようである。
それはともかくとして、妖夢の告げた真実は、一同を憤慨させるに十分だった。
 
「かー、そこまでするかねぇ。あんな不細工なぬいぐるみが、そんなに惜しいかなあ」
「だから、不細工って言うんじゃないのっ!」
「……」

益体も無いやり取りを繰り返す小町と咲夜を余所に、鈴仙は静かに銃を取る。

「鈴仙さん。まさか、まだ狙うつもりですか?」
「ええ。このまま泣き寝入りじゃ目覚めが悪いもの」
「無理ですってば。括りつけてあるだけならまだしも、二本使って完全に固定されてるんですよ?」
「って、良くそこまで見えたわね。……ま、二本なら何とかなるでしょ」
「何とかなるって……」


妖夢の言葉は、既に鈴仙の耳には入っていなかった。

照準が狂っていないことは、既に前の三人……もとい、二人が証明済み。
ならば、後は、計算力と、それを実行に移す腕の問題だ。

標的は、極めて不細工な、兎という種族を舐めているとしか思えないぬいぐるみ。
だが、そんなものでも、確実にそれを欲している友人が存在するのだ。
その為に、これまで自分が身に付けた技量を使う事に、何の異存があろうか。

落とす。
自然、鈴仙の思考は、その言葉へと集中された。




一発目。
鈴仙の放った銃弾は、狙い違わず頭部へとヒット。
加えられたエネルギーにより、その体はぐらりと揺れる。
このまま二発三発と打ち込めば、更に揺れは大きくなるだろう。
だが、実際には、そこまでである。

「(……そこっ!)」

故に鈴仙は、同じ轍を踏まなかった。
最初の銃弾により、僅かに浮いたぬいぐるみの足元……即ち、固定された紐こそが、狙いだったのだ。
40メートル先にある細い紐を打ち抜くなど、それこそ冗談のような話なのだが、現実にそれは達成されていた。


そして、間髪入れず、頭部へと三発目が当たる。
既に一方の支えを失っていたそれは、明らかに不自然な形で、ぐらりと揺らぐ。
鈴仙は、そのタイミングを外すことなく、四発目の射撃にて、残った一本の紐を打ち抜く。


ぬいぐるみは最後の力を振り絞り……いや、振り絞れるはずもないのだが、
そんな感想を抱かせるような執念深さで、元の安定した体勢への帰還を図る。
だが、そんな無機物の儚い願いは、止めとばかりに放たれた、最後の二発によってかき消された。





「……ふぅ」

ぽてり、と地面へと落下したぬいぐるみを見届けると、鈴仙は銃を下ろし、軽く息を吐く。
任務完了である。

「(……引いちゃったかな?)」

しん、と静まり返った場に、鈴仙は僅かに顔を曇らせる。
別段、自慢する為にやったものではないが、それでも少し悲しいものがあった。

「凄いっ! 感動したっ!」
「うきゃっ!?」

そのせいか、鈴仙はダイブしてくる小町の存在に反応出来なかった。
勢いそのままに床に転がされたかと思うと、続けざまに頭を撫で回される。

「いやあ、まさかこんな神業が見られるだなんて思わなかったよ。
 阿漕な経営者も、偶には役に立つことがあるんだね」
「お、大声出したら聞こえちゃうってばっ」

それでも、小町による賞賛のスキンシップが止まる事は無い。
どうしたものか、と考えていると、今度は咲夜が正面へと立つ。
その手には、例のぬいぐるみがしっかと抱えられている。
紐を貫通するような銃弾の直撃により、一般的にはボロボロと評されるような姿になっていたが、
それでも咲夜の嗜好から逸脱してはいなかったらしい。

「見事な腕前だったわ。射的の銃であんな事が出来るだなんて考えも付かなかったもの。
 ……そ、それで、お願いがあるんだけど、この兎さん……」
「あ、うん、あげるわよ。元々そのつもりだったから」
「本当に!? ありがとっ!」

咲夜は、お前誰だ。と言われそうな喜びの声を口にしつつ、鈴仙へと飛び付いた。
自分よりも体格の大きい二人に抱き付かれた鈴仙は、それこそぬいぐるみのように揉みくちゃにされる。
そこに、最後の一人の襲来があった。

「うう……鈴仙さん、ごめんなさい。私が間違ってました……」

何故か、妖夢は泣いていた。

「ちょ、ちょっと妖夢、なんで泣いてるのよ」
「その、私は常々、銃なんて素人でも使える邪道な武器だと思っていたんです。
 でも、それはとんでもない勘違いだと気付かされました。
 過ちを正すべく、私はただちに腹を切りますので、介錯はお願いします」
「そ、そんな風に思ってたのね……じゃなくて、そんな事で死ななくてもいいから」

そう、そんな事、だ。
妖夢がどう考えているかは知らないが、鈴仙にとっては銃も剣も、さして違いはない。
たまたま自分は銃を選ぶ事になり、そして、必要に駆られて習熟した。それだけの話である。
だが、その程度の事でも、今においてはいくらか感謝していた。
何故なら、これまで経験してきた、いかなる仕事においても感じた事のない、達成感を得る事が出来たから。
傍目には温泉旅行という行楽においての遊びの一コマでしか無くとも、鈴仙にとっては、掛け替えの無いものだった。




「お客さーん。まだ続けられるんですかー」

投げやり気味に掛けられた声の前に、感動の場はあっさりとお開きになったが。
















阿漕な経営者らしく、いまひとつ教育のなってない従業員ではあったが、一同から不平が漏れる事は無い。
何しろ、この旅行は、一泊二日の強行日程。
こなさねばならない恒例行事は、それこそ山のように控えているのだ。
そして、今彼女達が来ている場所は、最優先事項に数えられるものであった。

「やっぱり温泉に来たからには温泉に入らないとね」
「でも、こういうのって、夕食の前でも良いものなんですか?」
「良いもなにも、最低でも三回は入るのが温泉の掟さ。未達成者はファスティトカロンの餌の刑に処されるに違いない」
「体、ふやけそう……」
「元からふやけてるじゃないの」
「それは耳っ!」
「……ふやけてる事は否定しないんですね」

相も変わらず益体もない会話を交わしつつ、生まれたままの姿へと還ってゆく少女達。
いや、中には服を着たまま光臨する稀有な種族も存在するかもしれないが、
流石にそこまで気を使っては描写できないので、ここはどうか勘弁して頂きたい。



「「「「おー……」」」」

脱衣所を抜けると、そこは別世界だった。
湯に煙るは、野球とサッカーが同時に敢行できそうな広大な敷地。
もっとも、実際にプレーするとなると、豪快に足を滑らせた結果、
負傷者二十三名、死者四名という悲しい事件が起きそうなので、ただの例えである。

そして、底から怪獣でも浮かび上がって来そうな露天風呂。
重ねて言うが、ただの例えだ。
それも一つではなく、大小さまざまなものが用意されており、中には天然の打たせ湯もあった。
もっとも、特異な形状からして、元々存在した地形を、そのまま利用したものなのだろうと思われた。

「やー、広い広い。畳三畳の浴槽一畳だったらどうしようかと思ったよ」
「まさか。そんな温泉なんて無いでしょ?」
「……」
「……あるの?」
「まあ、温泉にも色々あるってね」

悟ったような締めを行いつつ、湯船へと足を踏み入れる小町。
続けて咲夜も、浴槽の縁へと腰掛けるように、足を濡らして行く。

「あー、ずるいー、先に入るなーっ」
「鈴仙さんってば、そんなに急ぐと転……んきゃっ」

お約束通り、言いながら転倒する妖夢を尻目に、鈴仙が勢い良く湯船へと飛び込む。
ばしゃーんと豪快な水音は、瞬間的な高波を巻き起こし、当然ながら咲夜や小町へと降りかかった。

「こーら、あんまり派手にやるな。他のお客さんに迷惑だよ」
「良いじゃない。誰もいないんだし」
「……まあ、そういやあ、そうかな」
「何で納得してるのよ」
「ほらっ、咲夜もそんなとこにいないで、さっさと入るっ」
「ひ、引っ張らないで。急に深く浸かると心臓に悪いんだから」

ここに来て鈴仙は、元気すぎるくらいに快活さを取り戻していた。
恐らくは、射的場での一件が功を奏したのだろう。
普段と違いアップにした髪などは、何処か色気をかもし出している筈なのだが、
こうも無邪気に振舞われては台無しであった。
無論、それは悪いことでも何でも無いのだが。

「うー……腰打った……」
「大丈夫か? 腰は女と騎手の命だよ?」
「はあ、騎手じゃありませんけど肝に銘じます」

そして、遅ればせながら、妖夢も湯へと浸かる。
先程鈴仙が言った通り、他に客の姿はなく、実質的に四人の貸切状態であった。
もっとも、この広大な浴場の事。視界外の所に入っているだけなのかもしれないが。

「んー……良い湯だ。効能は知らないけど、多分良い湯だ」
「腰痛の湯治に通わない事を祈りたいですが、良い湯であることには同意します」
「でも、妖夢や鈴仙はこれくらいのお風呂なんて見慣れてるんじゃないの?」
「そんな事無いですよ。広さは対して変わりませんけど、露天風呂ではありませんし……」
「うちは一応小さいのがあるけど……姫専用になってるから、入るのは初めてかな」
「……」

小町は、このブルジョワどもが! と叫びたい衝動を必死に押さえ込む。
彼女等が金持ちなのではない。彼女等の仕えている場所が金持ちなだけなのだ。
実際、この面々の中で正当……かどうかは微妙だが、給金を得ている者は小町一人である。

「んで、咲夜はどうなんだい。その口振りだと、自分は違うって言ってるようだけど」
「その通りよ。紅魔館は従業員も多いから、それなりに大きい浴場はあるけど……そういう意味じゃないでしょ?」
「あー、納得したよ」

要は、銭湯のようなもの。と言っているのだろう。
流石にそれは羨ましいとは思わなかった。
実際に紅魔館を訪ねてみれば、また別の感想も生まれるのであろうが。

「ね、妖夢、あっちは竜の湯だって。行ってみよっ」
「だ、だから急がないで下さいってば。私はもう走りませんよ。走りませんか……はうっ」

五分としないうちに鈴仙と妖夢は湯から上がると、湯煙の向こう側へと消えていった。
残された二人に出来るのは、妖夢の腰が本格的に大変な事にならないのを祈るのみであった。

「やれやれ、忙しないこったね」
「あの子達はあれで良いんじゃないかしら。神妙にされてるほうがずっと心配よ」
「……や、それは違いないんだけど、お前さんも妙に老成した事を言うねえ」
「……そう?」
「そうだよ。別に老け込むような歳じゃあるまいに。……と、これは禁句だったかな?」
「変な事を気にしないでよ、気持ち悪い。
 どこまで行ったところで私は人間なんだし、貴方達よりも先に老け込むのは当たり前よ」
「そ、そっか」

思った以上にあっけらかんとした受け答えに、返って小町は調子を崩される。
故に、あえて話題にする必要もないような事柄を、自ら口にしてしまっていた。
 
「……にしても、荒れたりしないんだね。聞いた話とは偉い違いだ」
「……? 何の事よ」
「アレだよ。その、あたいから言うのも何だけど、紅魔館のメイド長は巨乳を敵視してるとか何とか」
「ああ……それね」

実のところ、小町が実際に耳にした噂は、これの五十倍増しに辛辣なものだった。
それこそ、咲夜より一ミリでもサイズが大きい者は、無条件で狩られるだの、
最近は独自の調査法によって、将来的に大きくなりそうなものも排除対象としているだの、
だから今の紅魔館の門番はクローン技術による賜物であり、実は十二人目だのといった、
東スポでも書かないような突飛なもので満ち溢れていたのである。

「根も葉もない噂……とは言わないわ。
 私にそういうコンプレックスがあるのは確かだし、ちょっと取り乱した記憶も何回かあるもの。
 ……でも、何故か今日は、そういう感情が沸いて来ないのよ」
「はあ、そりゃまたどうして?」
「そんなのこっちが聞きたいわよ。
 大方、貴方のそれが常軌を逸し過ぎてて、私の対象から外れてるんじゃないかしら」

淡々と語る咲夜の視線の先には、『貴方のそれ』と称された小町のツインウェポンが湯船に浮いていた。
繰り返す。
見えたのではない。浮かんでいるのだ。
夕張メロンか大玉スイカか、いや地球儀だ。そうだ、おっぱいは世界だ! との錯乱気味の議論が巻き起こり、
かの有名……らしい巨乳四天王ですら、彼女の前では膝を着くという、正に神の作りたもうし芸術品である。
もっとも、今の咲夜には、どういう食生活を送ればそんなに育つのだろうかという、
至って普通の感想しか浮かんでいなかった。

「ま、真の護身とは戦わない事である。って所かしらね」
「……あー、ごめん。変な事聞いて悪かった」
「謝らないでってば、別に怒ってないんだから」
「いや、今のはあたいが悪い。人の肉体的コンプレックスを示唆するなんて最低の行為だ」
「……なんか、強調されると逆に腹立たしいわね」
「ご、ごめん。……でも、言い訳するつもりじゃないけど、お前さん、そんなに小さくも無いんじゃ?」
「……そう?」
「ああ、むしろあたいから見たら、理想的で羨ましいくらいさ。
 そりゃ、大きいってのは他人から見たら良いことかもしれないけど、
 実際は重いわ肩は凝るわ服は合わせ辛いわで、あんまり良い事は無いもんだよ」
「へぇ……」

普段ならば皮肉と受け取ってしまうであろう体験談だが、
今の咲夜にはそれを素直に聞き入れる心の余裕があった。
自然、咲夜の視線は、自らの胸元へと下りて行く。
余り見慣れたくもないが、十二分に見慣れてしまった、やや物足りない双丘。

「(羨ましい、ねぇ。そういうものなのかしら)」

だがそれも、受け取り方一つで、まったく違うものに映るのだから、不思議なものである。



「……まぁ、それでも大きくしたいって言うんなら、方法が無いわけでも無いけど」
「本当にっ!? 教えなさい! 是非に! 今更嘘とか言っても遅いわよ!」

悲しいかな、心の余裕とやらは、バーチャルボーイよりも早く消え去っていた。
現実の前には、いかなる精神的防壁も無意味であると気付かされるワンシーンである。

なお、それから数分の間、奇声とも嬌声ともつかない声が響き渡っていたとの噂があるが、
毎度の如く、真相の程は定かではない。













一方その頃。

「これが渦潮の湯ね……」
「……鈴仙さん。これはもう、温泉じゃありません。引き返しましょう」

鈴仙と妖夢の二人は、延々と温泉巡りを続けていた。
いくつの湯を通過したかは、10より先は数えていない。
はっきりしているのは、この温泉、只者ではないわ。という鈴仙の感想と、
ここ、何処なんだろう。という妖夢の悲痛な感想のみである。

「駄目よ。全湯踏破するまで、私達に退却の二文字は存在しないわ」
「それなら、後ろに向かって前進でも何でもいいです……というか、何でそんなに元気なんですかぁ」
「さあ。温泉パワー?」
「私は疲弊しまくりなんで、多分違うと思います」
「あー、もう、ごちゃごちゃうるさいっ。さっさと入るっ!」
「だから何で私がああああああああああああああ」

突き飛ばされた妖夢は、語尾をそのまま断末魔としつつ、神経痛に良く利くらしい渦巻きへと飲み込まれていった。

「そんな大袈裟に騒がないでも大丈夫でしょー? 所詮は温泉なんだし」

……。

「湯加減どう? 熱い? 冷たい?」

……。

「声が出ないくらい体の芯まで染み渡るのー?」

……。

「妖夢ー?」

……。

「……妖夢?」

……。

一向に返事を返さない妖夢に、鈴仙はようやく現実を見た。
このままでは、地元に帰る頃には、全幽霊に進化した妖夢が出来上がってしまう、と。
いや、悔いの残りまくる死に方だろうから亡霊か。
おめでとう、これでご主人様と一緒だね。

「って、馬鹿な事考えてる場合じゃないわ!」

鈴仙は一息に渦潮の湯へと飛び込むと、マーメイドの如き優雅な動きで泳ぎ進む。
勝手にハッピーエンドにするなよアメリカネズミの元締め。という感想も一部から出たが、
生憎として鈴仙はリトルと称されるほどは幼く無いし、この話とは何の関係も無い。
ついでに言うと、色々な意味で危険なので、ここまでにしておきたい。

「妖夢っ! 何処っ!?」

中心部に近づくにつれ、その水流は勢いを増してゆく。
兎らしくもなく、泳ぎに自信のある鈴仙だったが、流石に姿勢を維持するのが困難である。

「んもう、こんなトラップみたいな温泉作るんじゃないわよっ!」

憤りを言葉に乗せる鈴仙だが、そんな湯へと妖夢をぶちこんだのは、他ならぬ彼女だ。
が、当然ながら、こんな状況で突っ込みを入れる輩が存在する筈もない。
むしろ、突込みがある事が、最大の救いなのだが、依然として声は無い。

「……!?」

そろそろ自分も厳しい、と思ってきた矢先、ようやく待ち望んでいた姿が鈴仙の視界へと飛び込んできた。
丁度、渦の中心部分に見える、僅かに水面から飛び出している手。
それはまるで、最後の力を振り絞って伸ばしたもののように、鈴仙には感じられた。

「妖夢っ!」

鈴仙は、迷わずその手を掴み取ると、力強く引き上げた。



……つもりだったのだが。

「よいせ、っと」
「へ?」

途端、視界が暗転する。
掴み取った筈の手に、逆に沈められたのだと気が付いたのは、おおよそ全身が沈没した頃だった。
普段の鈴仙であれば、さしたる問題ではなかったのだが、
全速力で泳いできた上に頭まで混乱している身に、この状況は厳く、
結果、無事水面上に顔を出すまで、およそ二十秒という時間を要していた。


「……ぷはぁっ!!」
「あ、早かったですね」
「よ、妖夢、あんたねぇ、早かったじゃないでしょっ! 私を殺す気!?」
「その台詞、そのままお返しします」
「……う」
「もう……中心部は渦巻いていないって気付かなかったら、本当に危なかったんですよ?」
「え? あ、本当だ」

妖夢の言うとおり、今二人が浮かんでいる場所……渦の中心部にあたる地点は、殆ど湯に流れが無かった。
故にこうして暢気に会話などを交わせているのである。

「一応、旅館側が取った、安全対策なのかな」
「さあ……単に台風と同じようなものだと思っただけかもしれませんよ」
「……在り得る話ね」

そもそも、真っ当な旅館なら、このような温泉を公開などしないのだが、
いくらか感性が麻痺しつつある二人が、そこに思いを馳せる事はなかった。

「で、鈴仙さん。何か私に言う事があるんじゃないですか?」
「……うー、その、ごめん。少しはしゃぎすぎたかも」
「宜しい。……でも別にはしゃぐのは構わないんですよ、私も似たようなものですし。
 ただ、流石に死の危険性を感じさせるようなものは勘弁して下さい。
 私はまだ全幽霊になるつもりはありませんから」
「……うん」
「さて、戻りましょうか……って」
「ん、どしたの?」

くるりと反転した妖夢の動きが、突如として止まる。
その理由は、直ぐに鈴仙の知る所となった。

「これ、どうやって戻ればいいんでしょう……」
「……」

知りたくもない、絶望的な理由だったが。






「……」
「……」
「……妖夢ー……」
「……何ですかー……」
「……生きてる?……」
「……半分ほど……」
「……そう……」
「……」
「……」

何ら打開策が見出せぬまま、十分が経過した。
二人は、背中合わせの状態で、立ち泳ぎの状態を維持している。
むしろ、流れに飲まれない為には、それ以外の体勢の取り様が無かったというのが正解か。
日頃の訓練の賜物か、まだ体は動くし、精神状態もはっきりしている。
が、それもいつまで持つかは分からない。
となると、咲夜や小町に気付いて貰うしか無いのだが、それも望み薄と言わざるを得ない。
というのも、先程から何度となく大声を出しているのだが、一向に反応が無いからだ。
げに恐ろしきは、劫火温泉女塾の露天風呂なり。

「……妖夢ー……」
「……何ですかー……」
「……前から思ってたんだけど、どうして私相手にも敬語で話すようになったの?」
「……はい?」

予期せぬ質問に、闇に沈みそうになっていた妖夢の意識は、急激に引き戻された。
今はそんな話をしてる場合じゃない。と言うのは簡単だが、黙っていたところで事態が好転する訳でもなし。
そう判断した妖夢は、鈴仙の話題に乗る事にした。

「初めて会ったころは、もっと砕けてたじゃない。霊夢や魔理沙には今でもそうみたいだけど」
「うーん、別に理由なんて無いんですけど……強いて言うなら、礼儀、でしょうか」
「……礼儀?」
「はい。目上の方に対等な口調で話すのは失礼に当たるのではないかと。
 まあ、霊夢や魔理沙は、そんな事微塵も考えてないみたいなので、こっちもつい適当に……」
「目上ねぇ。そりゃ歳は上かもしれないけど」

言い換えれば、それまでは目上であるかどうかの判別を着ける必要もない、どうでもいい関係だったのだろう。
そして、今はそうではないのだ、と。

「……もしかして、嫌だったんですか?」
「うーん……理由も分かったし、別に嫌とは言わないけど、やっぱり、もっと普通にして欲しいかな」
「普通……ってどんな感じだったっけ」
「そんな感じ」
「……あ」

背中越しにも、妖夢が赤面する様子が目に浮かんだ。

「じゃ、決まりね」
「……うん。努力する」
「普通にすることを努力するってのものねぇ。まぁ、妖夢らしいとは思うけど」
「む、それじゃ、まるで私が単純馬鹿みたいじゃない」
「違ったの?」
「……ふん。それなら、今の発言が誤りであることを、体に教えてやるわ」
「え? ま、待った、今動いたらまた渦に……」

静止も空しく、妖夢の水中タックルが炸裂する。
当然、二人は再び渦潮へと飲み込まれ、哀れ人間洗濯物と……。


「……ありゃ?」
「……水流、止まってるね」


ならなかった。
どうやら、この渦潮風呂は、一定の間隔で動いているだけの代物だったらしい。
二人は、今は平穏となった湯船から顔を上げると、どちらともなく目を合わせる。

「あはは、非常時は下手に動かないのが一番良いってのは本当だったのね」
「ふふっ、本当は助けを待つって意味なんだけど、ま、今日はそれでも良いかな」

そして、同時に笑い声を上げた。

「そろそろ上がろっか。これ以上浸かってたらのぼせちゃいそう」
「賛成。いい加減、咲夜さんや小町さんも心配してそうだし」
「……あ、そうだ。妖夢」
「ん、何?」
「私の名前、何て言うか知ってるよね?」
「え? 鈴仙でしょ?」
「……」
「ち、違うの? うどんげって呼んだ方が良かった?」
「ん……鈴仙で良いよ。これからも、ね」

そう言うと、鈴仙はお先とばかりに、湯船から立ち上がる。
細かな心情の動きを追える程に、妖夢の観察眼は発達してはいない。
故に、ただ慌てて、鈴仙の後を追う事しか出来なかった。



なお、この後、四人が顔を合わせるまでは、およそ三十分の時を要しており、
それに加え、何故か妖夢と鈴仙は疲弊し切っていたらしいが、やはり真実の程は定かではない。















風呂が終われば、次に待ち受けているのは、当然、食事である。
当然ではない。私は食後以外に風呂は入らん。と宣言されても困るので、ここはどうか私の顔に免じて折れて欲しい。

ともかく、食事だ。
一般的な旅館の夕食と言えば、宿泊客全員が大広間に集まるタイプと、
部屋ごとに分かれて取るタイプに分けられているが、この女塾は後者であった。
話の都合上、そちらのほうが良かったんだろうとかいう深読みは、頼むから勘弁して下さい。

「あー、腹ぺこ腹ぺこ。お昼あんなに食べたのに、一体何処に消えちゃうんだろうねぇ」
「ん? 具体的に説明してあげましょうか?」
「止めてよ。食欲無くなっちゃうでしょ」
「そう? カロリー消費の仕組みってそんなに難しい話かしら」
「あ、ああ、そっちね」
「……何を想像したの?」
「お黙りっ!」

あれだけの長風呂の後だというのに、彼女等の元気さは一向に衰えを見せない。
当然、食欲に関しても、小町に限らず、すこぶる旺盛である。
若いって素晴らしい。とぼやいたのは、果たして誰であったのか。

「失礼致します、お食事をお持ちしました」

騒がしい小童どもめ。と思っていたのかどうかは知らないが、
十分に年季の入った仲居が、手馴れた動作で膳を運び込んで行く。
が、一同の興味は勿論そこではなく、膳の上の料理にのみある。
そんな中でも、特に目を引いたのは、ある一つの食材であった。

「……何かしら、これ」
「そう言えば……聞いた事があるわ」
「何ーっ! 知っているのか鈴仙っ!」
「いや、普通知ってるって。幻想郷じゃ珍しい代物ではあるけどさ」
「女塾名物、キョウキノジョテイタカアシガニで御座います」

コントをまるで無視しつつ、仲居が整然と答えを述べた。

「名物って……こういうカニって海でしか取れないんじゃないの?」
「その辺りはどうか企業秘密でお願い致します。勿論、味のほうは保障致しますわ」
「……余計に怪しいんですが」
「追加がありましたらいつでもお呼び立て下さいまし。では、ごゆっくり」

当然の如く、妖夢の質問もスルーすると、流れるような動きで姿を消す仲居。
最後まで影に徹する、まさにプロの仕事であった。
別の意味では、失格だが。

「あの仲居といい温泉といい、やっぱりこの旅館は普通じゃないね。でも、カニだ」
「そもそも、ここって旅館なのかホテルなのか、未だに分からないんだけど。まあ、カニだけど」
「……ま、平気じゃないかしら。向こうも商売なんだし、毒なんて出さないでしょう。何よりも、カニよ」
「ともかく、カニなんです」

カニカニやかましいが、カニなんだから仕方ないカニ。



「……」
「……」
「……」
「……」

人はカニを食べる時は無口になる。
人間一人しかいねーじゃんよ。と突っ込まれても困る。
実際問題、妖夢は半霊がいなければ人間そのものであるし、
鈴仙は今日の昼のやりとりを経た結果、少し痛くはあるがもう人間だ。
小町に至ってはどの辺りに人間との差異を導き出して良いのか分からない。
ともかく、一同は皆、押し黙ってひたすらカニとのランデブーに浸っていた。
そこに、『何時もは給仕に忙しくて、このような食すに手間のかかる代物とは縁が無かった』だの、
『全部ご主人様が食べてしまうんです』だの、『基本的にうちは菜食主義だから……』だの、
『缶詰ですら高嶺の花なのに、現物なんてそれこそ夢の話だ』といった、各々の複雑な事情も絡んでいたりする。
少しややこしい事になってきたので、要約しよう。

1、カニは美味しい。
2、カニは食べるのに手間取る。

まったく複雑ではなかった。
だが、それもカニの魅力がなせる業であろう。
というか、このままでは、カニの話なのか旅行の話なのか分からなくなるので、涙ながらに打ち切らせていただく。



「……あれ? 私達、今何を食べてたんだっけ?」
「さあ……何だったかな。とても、魅力的なものだったような気はするんだけど」

鈴仙の手は、何故かびしょ濡れだったし、妖夢は右手にハサミを持っていたが、
不思議と答えが思い出される事なかった。
この出来事は後に、幻想郷七不思議として出版され、歴代一位の大ヒットとなるのだが、
残りの六つを考えるのが面倒なのでやはり無かったことに。

ともあれ、一同は空白の時間を埋めるかのように、旬の食材とアルコールを摂取する事に努めた。
温泉旅館の伝統に従い、料理の出るペースは時間が経つにつれて加速。
もうお腹一杯。と思う頃になって、ステーキと鍋物が同時に出てくるという、いやがらせのようなメニュー構成だった。
もっとも、彼女等とっては障害どころか有り難いものだったようだが。

「何か、大事な行事を忘れてる気がするんだよなぁ……」
「行事って……温泉には入ったし、射的もしたし、今は夕食で他に何かあるの?」
「マッサージは違うわよね。アレって寝る前だもの」
「あと想像出来るものと言えば……芸者さんくらいですか」

ぼそり、と放たれた妖夢の台詞に、三人の視線が一斉に集まる。

「「「それだーーーーーーーーっ!!」」」
「ふぇ!?」

スシもテンプラもメニューに含まれていたし、サムライやハラキリは約一名の活躍で出っ放しである。
となると、残されたのはもう、フジヤマとゲイシャくらいのものだ。
どういう理論構成でそういう結論に落ち着くのか、という点に関しては、これからの研究課題にしておきたい。

「フジヤマとゲイシャか……あの死なない人間が芸者に扮して出てきたら完璧ね」
「妹紅さん、ぜったいしないと思うけどなぁ」
「まあ、フジヤマはいいよ。確か内風呂の壁画が富士山だったし」
「それもそうね」

フジヤマの扱いは軽かった。
というか、幻想郷でこれ以上フジヤマの扱いを良くすることは不可能である。
即ち、残されたゲイシャに全てを賭けるしか無いのだが……。

「でも、呼んでも困るだけじゃない? 何か、色々作法があるみたいだし」
「そうさねぇ……今から頼んで空きがあるかも分からないしなぁ」
「というか、実際芸者さんなんて呼べませんよ。何しろ私たち、予算がまったく無いですし」
「「「……」」」

妖夢の発言は、ここにきて辛辣を極めていた。
家が金持ちでも、住人までも金持ちとは限らないとは既に語られた項目であったが、
事実、彼女らの自由になる金銭は、限りなくゼロに近い。
いくら招待券とは言え、芸者遊びの代金も込みとは考え辛い以上、完全に道は閉ざされたと言って良い。
……ある一つの手段を除けば。

「呼べないのなら、誰かにやらせれば良いじゃないの」

とん、と杯を膳に叩きつけつつ、マリー・アントワネットの如き響きで、咲夜が言い放った。

「やらせるって……お前さんも大概無茶言うなぁ。アレって本格的に稽古を積まないとなれない職だよ?」
「別に細かい事はどうだって良いわよ。どうせ私達だって分からないんだし」
「それならば、恰好のプランが御座いますよ」

気配、ゼロ。
それでも、仲居はそこにいた。
もしここが戦場であったなら、08従者小隊は生還者皆無の大惨敗は必至だったろう。

「プ、プランって何ですか?」
「ええ、お恥ずかしい話で御座いますが、昨今の不景気の影響もありまして、
 当館のほうでも芸者の手配に一苦労しており、此度も置屋が質屋へと転業する始末……。
 そこで我々は考えました。成り手が居ないのなら、勝手にやらせれば良いのではないか、と」

相変わらず突っ込みどころ満載だったが、この仲居は霊夢以上に当たり判定が小さい事を皆は知っていた。

「そんな訳でして、衣装一式をご用意いたしました。お客様の方でご自由にお使い下さいませ。
 なお、期間限定サービスということで料金のほうはロハになりますのでご安心を」

そして、シャドウシフトで消える仲居。
恐らく彼女はアンバーの王族なのだろう。



「……だそうだけど、どうするの?」
「どうするもなにも、用意してくれたんだからやるしかないでしょう」
「やるって、誰がですか」
「ジャンケンか何かで適当に決めるとか……」
「あー、いや、そういやもう一つ伝統行事があったし、そいつで決めようじゃないか」
「まだあるの……?」

げんなりと耳と肩を落とす鈴仙を余所に、小町は旅行鞄をごそごそと漁り出す。
ややあってお目見えしたのは、十分に古びた緑色のマットと、薄茶色の箱。

「……温泉の夜と来たら麻『ああああああああああああああああああああああああああああ!!』

格好よく決めるところを、絹どころか強化レザーを引き裂くような叫び声がかき消した。

「……何、今の」
「悲鳴というよりは、嘆きの慟哭って感じですね」
「この旅館、本格的に本性を現して来たって所かしら」
「……ったく、文庫本なら挿絵の入りそうなシーンだってのに、何なんだありゃ」

聞こえた感じによれば、音の発生源は恐らく隣室。
一同の聴覚の指向が、自然とそちらの方向へと傾けられる。



『うう……何故私がこんな目に……』
『残念ね。でもこれが勝負の世界なのよ……タンヤオのみ』
『って、それ、世間的には四暗刻って言うのよ。いいかげん、自力で理牌出来るようになりなさい』
『なのに強いのが不思議な所だけどね」



「「「「……」」」」

何故かは知らないが、四人は一斉に人生に絶望した。

「……ええと、麻雀はやめようか」
「そうですね……別の話になっちゃいますし」
「芸者ももう良いわ……何だか、疲れちゃった」
「今夜は飲みましょう……」

この先、隣室に彼女等の興味が注がれることは一切無く、ただひたすらにアルコールを摂取するに止められた。
が、後日悟る事となる。
むしろ、逆効果だったのではないか、と。






「……おう、もう空じゃねぇか。酒持って来い、酒!」
「は、はい、ただちにお持ち致します。愚鈍で惰弱な私をどうかお許し下さいませ……」
「一秒だけ待つ。……一秒経ったぞコラぁ! どないなっとるんじゃい!」
「申し訳ありません! 私が全部悪いんですっ! ぶって! なじって! しばき倒してっ!」

「……何でこうなるのかなぁ」
「そんなのあたいが聞きたいよ……アイツはいける口じゃなかったのか?」
「だと思ってたんだけど……知らずの内に限界ラインを超えちゃったのかも」

部屋の隅に縮こまるようにして、ひそひそと会話を交わすのは、鈴仙と小町。
そして、真ん中で怒鳴り散らしているのは妖夢。虐げられているのが咲夜である。

しばらくの間は普通に酒宴は進んでいた。
だが、前述の悲しい……どこが悲しいのか良く分からないが、ともかくそういうイベント通過すると、
一同のアルコール消費ペースは急増した。
それこそ、日本酒に留まらず、麦酒に焼酎、ワインにウイスキー、ブランデーにシャンパンと、やりたい放題。
タダ酒だからって景気良く飲んでんじゃねぇよ小娘ども。と視線で語りつつ、それでも次から次へと酒を運び込む仲居。
飛び交う徳利、舞う座布団、生き返るカニ。
もしや酒宴の場は、カオスを超えて終末を迎えるのかと思われたその時。
妖夢は暴君へと豹変し、そして示し合わせたかのようなタイミングで、咲夜もまた壊れたのだった。
なお、何時の間にか咲夜は、件の芸者セットを着用しており、咲奴と名を新たにしていたりする。
誰もそう呼んではいなかったが。


「一見したところは攻めで、実際に付き合ってみると受けで、その奥底はやはり攻めだった。
 んで、咲夜はその逆か。息が合ってるというか何と言うか」
「冷静っぽく分析してる場合じゃないでしょ……どうするのよコレ。
 咲夜はともかくとして、妖夢、明らかに酒乱よ?」
「おい、うどん。何コソコソしてんだコラ。泣かすぞ? ヒィヒィ言わせたるぞ?」
「ひ、ひぃっ!」

補足から確保まで、およそ0.2秒。
鈴仙は、泣かされるよりも早く鳴きつつ、ずるずると浴衣の襟首を引き摺られて行く。

「い、いけません! その方には何の罪もありません! 悪いのはすべて私なんです! 
 だから、私を苛めて! もっと! 強く! 壊してっ!」
「やかましいわズンダレがっ! 何様の分際で偉そうに主張してんだコラぁ!
 芸者なら芸者らしく花電車でもしてみやがれってんだ偽乳っ!」
「そうです! 私は乳を偽って生きるような駄目な女なんです! 
 こんな卑しい心を、どうか叩き直して下さいませっ!」
「い、今のうちに……」
「……うーどーんー。逃げるたぁおもしれぇジョークだなぁ。
 どーやら、てめぇにゃ覚悟ってモンを教えてやる必要がありそうだ」
「そ、そんなのいらな……もがっ、むがっ」

愚かしくも反論の為に開かれた鈴仙の口に、妖夢が無遠慮に酒瓶を叩き込む。
気のせいでなければ、その酒は、アルコール度数96%という、かの有名な代物である。
それを一瓶丸ごと。しかも強制一気だ。
常人であれば、それこそ殺人事件に成りかねない事態であるが、
幸運にも鈴仙は、常人よりはいくらか丈夫な体を持ち合わせていた。
故に、こうなった。

「……醜いな」
「ああん?」
「醜い、といったのだよ。
 嗚呼、今の君からは腐臭以外の何も感じ取る事が出来ない。私はそれが悲しくてならないのだ。
 考えてもみたまえ、生まれも育ちも、ましてや種族すらもまったく異なる我々が、こうして一つの座を囲んでいるのだ。
 その事実が示す回答すら見付からないのであれば、それを汚物と評する意外に何の……ふがっ」
「グダグダと訳の分かんねぇ事抜かすな! 女なら拳一つでかかってこんかい!」
「ふ、ふふ……酒瓶で殴りつつ言える辺りは流石だよ。
 宜しい、そうまで言うのであれば、私とて手段を変更せざるを得まい。
 暴力が生み出す悲しみの深さ、君の貧相な体に刻み込んでやろうではないか!」
「貧相は余計じゃ! 犯したる!」
「止めて! 争うくらいなら私にその怒りをぶつけて! 一人一人は火に過ぎなくても、二人合わされば炎!
 その煉獄の火炎で、私を焼き尽くしてぇえええええ!!!」



「……あー、どうしたもんかな、こりゃ」

良くも悪くも、一人蚊帳の外に置かれた小町は、手酌で酒を煽りつつ、狂乱の舞台を眺めていた。
無論、止める気は無い。
というか、止められる気もしなかったのだが。

「ったく、ストレスの抜き方を知らない連中は、これだから困る」

嘆息すると、徳利に残った最後の一滴を飲み干し、静かに席を立つ。
三人はというと、今だコントなのかガチンコなのか良く分からない格闘を繰り広げており、
小町に視線を送る余裕も無いようだった。

「ま、後は若い人達に任せるとしますか。……って、実際どうなんだろうなぁ」

そして、自問するような呟きを残しつつ、部屋の外へと消えていった。
こう表現すると、何か深い意味がありそうだが、実のところは単純そのもの。
小町は、逃げただけである。




 













「……んー……ん!?」

妖夢は、がばり、と勢い良く顔を上げる。
が、すぐに、その行動がいかに愚かであったか、身を持って知る事となった。

「ぐぁ……あー……うー」

割れるような頭痛と全身を包む倦怠感。そして、強烈な圧迫感の前に、妖夢は強制的に布団の人へと戻される。

「うー……ええと……何処だろ、ここ」

依然としてぐわんぐわんと軋みを上げる頭蓋を根性で押さえ込みつつ、寝転がったままでゆっくりと周囲を見渡す。
どこか見覚えがあるようで、それでいて始めて見るような内装の和室。
布団の周辺には、飲み散らかしたであろう酒瓶が、無数に散乱しており、目を覆わんばかりの光景となっている。
何故か、芸者の着物やら麻雀牌やらまでもが散乱していたのは、見なかった事にした。

「あー、そうか……皆で温泉に来て……」

思い出せたのは、そこまでだった。
別に記憶が飛んだという訳ではない。
記憶を遡るよりも大きな問題……今だ自分の体を圧迫している物体に気付いたからだ。
薄暗くて良く分からないが、何やら肌色の塊のようなものが、全身に覆い被さっているようだった。
それの正体を探るべく、更に観察を続けると、丁度真正面に、何やら拳程度の大きさの、白いボールらしきものが見えた。

「……?」

妖夢は迷うことなく、それを力強く摘み上げた。
……正確には、迷えるほどに思考が定まっていなかった。だろう。
でなければ、こんな行動を取る筈もない。

「んぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

途端、響き渡る絶叫。
驚いた妖夢も、対抗するように絶叫。
そして、二重となった叫びは、当然ながら頭蓋へと良く響いた為、再び妖夢は頭を抱える羽目に陥っていた。
駄目だこりゃ。



「うー……何すんのよぅ、尻尾は兎の命なのに」
「ご、ごめん。暗くて良く見えなかったの」
「だからって全力で引っ張る事無いでしょ。千切れるかと思ったんだから」

目覚めた……というか、強制的に目覚めを迎えさせられた二人は、痛む頭を抑えつつ、着崩れた浴衣を直していた。
さて、先程妖夢が摘み上げたのは何かと言うと、鈴仙の尻尾というのが答えである。
何故に、顔のまん前に、そんなものがあったのか?
具体的に言うとやや問題なのだが、数字二桁で現すあの体勢だった。と思っていただければ幸いだ。
まあ、別に、崩れ上四方固めでも良いのだが。

「……ねぇ、鈴仙」
「何?」
「昨日の夜の事、何処まで覚えてる?」
「んー、お風呂を出るまでははっきりしてるんだけど、そこからは良く分かんない。
 何だか、靄がかかってるみたいで」
「そっちもか。一体何があったんだろ……」

いくら記憶を探ろうとも、部屋に入ってからの情景は映し出されない。
それは果たして、彼女にとって幸運だったのか、不運だったのか……。
……間違いなく、幸運だろう。

「頭がガンガンするし、多分、浴びるように飲んで、そのまま寝ちゃったんだとは思うけど」
「かな。……あれ、そういえば咲夜さんと小町さんは?」
「知るわけないじゃない。私、さっきのアレで起きたんだから」
「……それもそっか」

今、部屋にいるのは妖夢と鈴仙のみ。
一応、人数分の布団が敷かれている事から、他の二人もここで寝たものとは思われたが、
何しろ当人の姿が無いために、どうにも判別のしようが無かった。

「朝風呂かな……私、入って来るけど、鈴仙はどうする?」
「ん、もう少し休んでからにする。誰かさんのせいで尻尾が痛いし」
「だから、それはごめんってば」

妖夢は苦笑を浮かべつつ、タオルを手に取り立ち上がる。
やはりというか、まだ頭が割れるように痛むが、慣れもあるのか、動けない程ではなかった。
どうしてもふらついてしまう体を何とか持ち直しつつ、襖に手を掛けた所に、背後から声が飛ぶ。

「妖夢」
「ん、何?」
「良かった。お風呂での事までは、忘れてなかったね」
「……当たり前でしょ」





浴場へと向かう廊下の途中で、妖夢は目的の人物の一人と遭遇した。
逆方向から来ていた事から、丁度風呂から上がった所と推測されるが、
推理などせずとも、濡れた髪と、全身から立ち上る湯気を見れば一目瞭然である。

「や、おはよ。……って、酷い面してるねぇ」
「おはようございます小町さん。……そんなに酷いですか?」
「酷い。今のお前さんなら、実は幽霊だって言われても何の疑いも無しに信じられるね」
「いや、それはただの事実ですから」

小町の様子からは、普段と何ら変わった所は見受けられなかった。
無論それは、一人だけ修羅場から抜け出していたせいなのだが、妖夢がその事実を知る事は無い。
故に、やっぱり芯はしっかりしてるんだなぁ。と良く分からない感心を覚えるくらいだった。

「ま、一風呂浴びれば、少しはしゃっきりするさ」
「はい、そうします……あ」
「ん?」
「その、昨晩の事なんですが……」
「あー、悪い。あたいも殆ど覚えてないんだよ。
 丁度今、咲夜も入って行ったところだから、あいつに聞いてみな」
「……そうですか、分かりました」

流石にわざとらしいと感じたのか、妖夢の言葉には、いくらか怪訝そうなものが含まれていた。
もっとも、この時の小町の言葉は、概ね真実である。
元々、一部始終を観察していた訳ではないし、部屋を退出してからの出来事はそれこそ闇の中。
言える事はせいぜい、三人とも飲みすぎて激しく荒れていた。という程度である。
それならば、わざわざ伝える事もないだろう。と小町は判断したのだ。






「失礼します」

がらり、という戸の音が、静かな早朝の浴場に良く響く。
露天風呂なのにそんなに響かねぇだろ。という意見に関しては反論させて頂きたい。
ここは、昨日入った巨大露天風呂とは別に設えられた、屋内の温泉なのだ。
あの風呂は、色々な意味で体力を消耗し過ぎる。というのが皆の一致した見解であり、
故に、長くも無い朝風呂ならば、この場所を選ぶのは道理である。

流石に、あの露天風呂とは比較にもならないが、この内風呂もそれなりに広い。
畳敷きにして、およそ二十畳といった所だろうか。
妖夢は軽く体を流すと、そろりと湯船に足を踏み入れる。

「咲夜さん……?」

返答は無い。
が、咲夜がここに入っていることは、脱衣場にあった浴衣から確認済みだ。
腰まで湯船へと沈めつつ、少しずつ場所をずらすと、やがて浴槽に横たわる一つの人影が見えた。
そう、文字通り、全身を湯の底に沈め、完全に横になっていたのだ。

「さ、咲夜さん! 気を確かに持って下さい! 傷は浅いです!」

妖夢は頭痛を忘れたかのような勢いで駆け寄ると、一気に咲夜の体を引き上げた。

「くそっ、忘れてた……温泉宿に殺人事件は付き物だっていうのにっ……!」
「……誰か死んだの?」
「はい、咲夜さんが犠牲に……って、あれ?」

顔を上げるとそこには、きょとんとした様子の咲夜の姿。
そうか、怨念が実体化して、現世へと留まっているんだな。と強引に解釈出来ないこともなかったが、
どう考えても、ただ寝てただけとしておくほうが話は楽である。
風呂の中で寝るのもどうかと思うが、何しろ咲夜のやる事だ。

「お、脅かさないで下さいよ……本当に推理ドラマが始まるのかと思ったじゃないですか」
「流石に今からそんなものを始める気力は無いでしょ……というか、妖夢」
「はい?」
「その、下ろしてくれる?」

咲夜は今だ、妖夢にお姫様抱っこをされたままだった。




「やっぱり、鍛えてるだけあって力あるのね。貴方の体格で一人を抱えるのって、かなり苦しい筈なのに」
「……なんだか、褒められてる気がしないんですけど」
「深読みしないの。素直に喜んでおきなさい」
「はあ……」

妖夢と咲夜は、二人並ぶようにして湯船へと浸かる。
十分な広さがあるのだから、そんなに引っ付く必要も無さそうなものだが、
何故かどちらも、その件に関して触れる事はなかった。
先ほどの肉体の一時的な接触によって、そういった感情が曖昧になっているのだろうか。

「ところで、咲夜さん。昨晩の事なんですが……」
「昨晩? どうかしたの?」
「いえ、どうかしてしまったのか。を聞きたいんです」
「……はあ?」

日本語とは、かくも難しいものである。

「済みません、言い方が悪かったです。
 多分飲みすぎのせいでしょうけど、私、昨晩部屋に戻ってからの記憶が無いんです。
 それで、咲夜さんのほうは何か覚えていないかと思いまして」
「ああ、そういう事ね。……でも、期待に答えられそうには無いわ」
「すると、咲夜さんも?」
「ええ。お腹も膨れてきた辺りで、お酒が入りだしたのは覚えてるけど……そこまでね」
「……そうですか」

これで、真相は完全に藪の中となった。
勿論、誰かが嘘を吐いているという可能性はあるのだが、それはもはや妖夢の知り得るものではない。

「ま、結果として、こうして皆が五体満足で朝を迎えてるんだもの。
 それを思えば、何があったところで大した問題でもないわ」
「……楽観的なんですねぇ」
「妖夢が悲観的過ぎるのよ」

そう言うと咲夜は、妖夢の頭に手を乗せると、ぐりぐりと撫で始めた。

「わ、何をするんですかっ」
「さあ、何かしらね……。
 ともかく、貴方は細かい事を一々気にしすぎ。
 ただでさえ小さな身体なのに、そんなに溜め込んだら破裂しちゃうわよ?」
「ぐぅ……」
「……あんなに荒れるくらい、ね」
「……え?」

声を受け流しつつ、咲夜は妖夢の頭を撫で続ける。

「(……ま、私も人の事は言えないか)」





「……えーと、お邪魔だった?」
「「!?」」

二人は同時に視線を上げる。
見ればそこには、タオルで身体を隠しつつ、戸惑いがちに覗き込む鈴仙がいた。
それは、ほんの二十時間ほど前に、一部キャストを入れ替えて展開されていた光景でもあった。

「べ、別に、邪魔なんかじゃ無いわよ」
「でも、今驚いてたじゃないの」
「き、急に声が来たから……」
「声が急に来るのは当たり前でしょ」

都合二人分の言い訳を軽く受け流しては、湯船へと身体を沈める鈴仙。
それは、妖夢と咲夜がいかに戸惑っていたのかの証明である。

「……やっぱり邪魔だったかなぁ」
「だから、そんな事無いってば」
「ううん、そうじゃなくて……」

鈴仙の視線が、咲夜と妖夢へと交互に、何度も投げかけられる。
二人はというと、訳も分からず顔を見合わせるだけであった。

「……髪の色が同じなのもあるのかな。さっきの貴方達、凄く姉妹っぽく見えたの」
「「姉妹!?」」
「驚くようなこと? てっきり、何度も言われてるのかと思ったけど」
「そ、そんな事言われたの初めてよ。ねえ?」
「え、ええ。そもそも、私と咲夜さんって、二人で行動した機会なんて殆ど無かったし……」
「ならこれからはそうすれば良いさ……っと」

そこに現れる、第四の黙示録……ではなく、人物。
小町は、ざんぶ、と水飛沫を上げつつ湯船へと飛び込んだ。

「って、貴方、さっき上がったばかりじゃない」
「だから、もう一度入りに来たんだよ。これでノルマ達成さ」
「……呆れた。あれ、本気だったのね」
「ふふん、何とでも言いな。お前さん達にゃまだ温泉の道ってものが分かってないだけさ」
「別に、分からないままでも良いかな……」

小町の登場は、良くも悪くも、場の空気を弛緩させた。
そして、それは同時に、皆にある一つの事を思い起こさせる原因ともなっていた。
この、下らなくも楽しい時間は、もうすぐ終わるのだと。



だからこそ、彼女等はあえて、何時も通りに動く事に決めた。

「……どうにも、昨日から気になってたのよね」
「咲夜も? 奇遇ね、私もよ」
「私もです。考える事は同じですね」
「??? 何だってお前さん達の会話、主語が無いのさ」 
「「「必要無いからよ」」」

三人は、まるで入念にリハーサルを行ったかのような統率の取れた動きで小町を取り囲む。
途端、嫌な予感……というよりは確信を得た小町は、即座に退散に走る。
だが、時既に遅し。

「ちょ、ちょっと待った、何だか知らないけど待てってば!」
「はい、準備完了です」

非難の声も空しく、小町は妖夢に肩車をされる形で固定された。
ぺしぺしと頭を叩いてみるも、微動だにしない。
咲夜のお墨付きだけはある、見事な膂力だった。

「こっちも完了よ。いつでも良いわ」

背後からは咲夜の声が聞こえたが、そちらに視線を送る余裕は無い。
何故なら、前方の背丈程のある岩の上に、狂気の表情を浮かべた鈴仙が立っていたからだ。

「小町。お祈りは済ませた? ガタガタと震えて命乞いをする心の準備はOK?」
「す、済んでないってば。というか、済ませたくない! 止めろ、いや、止めて下さい。
 何だか分からないけどあたいが悪かった! だから飛ぶなって!」
「だが、それが良い!」

鈴仙は飛んだ。
それと同時に、背後から小町の脅威の胸囲とは裏腹な細腰へと腕が巻き付く。

「へぶらっしゃ!!」

まこと美しくない断末魔と水音が、周囲に響き渡る。
スリープラトン奥義『ダブルインパクトで私ごと刈れ』の前には、いかな小町とて抵抗の仕様も無く、
意識は否応無しに闇の底へと沈んで行ったのであった。













「ったく……お前さん達はもう少し、加減って言葉を覚えるべきだと思うよ」
「ぼやかないの。自業自得よ」
「だから、あたいが一体何をしたってのさ」
「何もしなかった……いえ、何もされてなかったからですかね」
「正解。ご褒美に塩鮭の皮を進呈しまーす」
「それ、単に鈴仙が嫌いなだけでしょ」
「……うう、理不尽だ。でも、いいさ。理不尽な事には慣れきってるから……」

膨れ上がった後頭部を摩りつつ、味噌汁を啜り込む小町。
言動は卑屈そのものだし、表情も明確な膨れっ面であったが、そこに邪な感情は見えない。
実際、慣れきっているとの言葉も真実なのだろう。

「おかわり、いる?」
「あ、はい、お願いします」
「朝から良く食べるわね……私はもういいわ」
「運動したから、お腹が空いたのよ」
「アレは運動じゃなくて虐待だろ……おかわり」

普通、二日酔いの朝というものは、食欲など欠片も存在しないはずなのだが、
彼女等においてはその法則は当てはまらなかった。
むしろ、あの朝風呂を経て、すっかり健康体に戻った感すらある。
実に羨ましい身体の持ち主達だ。



朝食を終えると、もうこなすべき行程はあと僅か。
チェックアウト及び土産物の検分である。
という訳で、四人娘が向かったのは、館内に設えられた土産物屋だった。
一泊二日で土産も何も無いだろう。という雅を解さない輩は無視。
温泉と土産は、タングステン製のワイヤーよりも固い、切っても切れない仲なのだ。
切らずに外せ? そこまで責任持てんよ。

「ええと、薄皮薄皮……って、ここのお饅頭、全部普通だー!」
「大方、無い事を知ってて頼んだんじゃないかしら。幽々子のやりそうな事よ」

咲夜からかけられたフォローとも追い打ちともつかない言葉に、妖夢は頭を抱える。
別に幽々子とて、本気で薄皮饅頭を欲した訳では無い……と言い切れないのが怖い所である。
妖夢がこんな性格になった理由も、然るべきか。

「まあ、いざとなったら、皮だけ剥がしちゃえば……小町? 何を見てるの?」
「ん? ああ……」

小町が眺めていたのは、土産物の定番、提灯。
しかし、何故この商品が定番となってしまったのかと言うと多いに疑問の残る、そんな代物である。
故に、鈴仙の声も、自然と懐疑的なものが含まれてしまう。

「……まさか、買うつもり?」
「いや、違う、違うさ、あたいは違う……!」

言葉こそ否定だが、まるで血を吐くような苦渋に満ちている。
それはまるで、巨大な枷を背負わされた聖者の如き姿であった。

「でも……でも! どうしてか、こいつを見ると手を伸ばしてしまうんだ……!
 買っても意味なんて無いのに……! 実用性ゼロなのに……! 邪魔なだけなのに……!」
「……」

鈴仙は見たこともない小町の自室を、明確に幻視していた。
襖の上は、きっと提灯で埋まってるんだろうな、と。
そして、もう一つ。
ここの提灯も買っちゃうんだろうな、と。



「……」
「気を落とさないで。誰も貴方を責めたりはしないから」
「……もしもあたいが死んだら、棺桶には提灯を入れといてくれ……」
「分かったわ……私のほうが先に死にそうだけど」

幻視、的中。
そして、まったく嬉しく無い的中だった。

「……ど、どうしたの? 二人ともゾンビみたいな顔しちゃって」
「妖夢……戦いに生き、そして戦いに死んだ、一人の女がいたことを忘れないで……」
「まあ、まだ死んでないけどさ」
「って、立ち直り早いのね」
「……?」

当然ながら、妖夢には何の事だか、まったく伝わってはいなかった。

「こっちの事よりも、見つかった? 薄皮饅頭」
「あ、うん。特設コーナーに置いてあったから気付かなかっただけみたい」

妖夢が掲げる袋には、饅頭の箱が山のように詰め込まれていた。
何処の仕入れ業者ですか。という野暮な突っ込みはしない。
箱の説明に、『厚さ0.03ミリ、超極薄タイプ』と書かれていることは大変に気になったが、
もしも勘違いだった場合を考えると、とても口には出せなかった。
言わない事も優しさの一つ。
そう無理やりに結論付けつつ、鈴仙は当たり障りのない言葉を振った。

「そっか、良かった。これで無事、お役目は果たせたって訳ね」
「そうなる……のかな」
「……」
「……」

当たり障りない話題のつもりが、果てしない墓穴となっていた。
妖夢が幽々子に命じられた仕事はただ一つ。
『薄皮の温泉饅頭を買ってくること』だ。
勿論それが、幽々子なりの妖夢を送り出す方便であることは分かっていたが、
それでも、いざこうして言葉通りに役目を終えてみると、
これまであえて考えずにいた、終わりの時間というものが、否応なしに浮かび上がってしまったのだ。

「……さ、咲夜はどうしたの?」
「あ、うん。何か、気になるものあるとかで、ずっとにらめっこしてる」
「気になるもの……?」

話題を逸らすべく適当に振った言葉だったが、その答えは鈴仙の好奇心を十分に刺激した。
この旅行を通じて、咲夜に対するイメージは大幅に豊かになったものの、
根底となっている『完全で瀟洒なメイド』という部分までもが激変した訳ではない。
故に、土産物屋に気になるものがある。と言われても、明確な想像が出来なかったのだ。

「(でも、まあ。あのぬいぐるみの件もあるからなぁ……)」



買い物を終えて暇になったのか、それとも皆興味があったのか、三人は咲夜の元へと向かう。
が、タイミングの悪い事に、丁度咲夜は会計を済ませた所だった。

「あら、皆もう済ませたの?」
「うん。私は別にお土産とか必要無いし」

冷たいね、鈴仙さん。と言うなかれ。
食べ物となると、永遠亭の驚異的な人口密度が問題となるし、
置物関係ともなると、この土産物屋の品揃えは、彼女の美的センスを通過できなかったのだ。

「それで、お前さんは何を買ったんだい? 随分と悩んでたらしいけど」
「ん? ペナントよ」
「「「……ペナント……?」」」

三人が同時に放った声は、限りない絶望感で溢れていた。
ペナント。
キーホルダーや提灯と並んで、土産物の三大巨頭の一つであり、
同時に、買って後悔する土産物ベスト三にもノミネートされる代物である。
それを厳選して購入したとあっては、絶望を覚えるのも無理のないところだろう。
加えて言うなら、提灯の衝撃が今だ残る鈴仙と小町には、更に厳しいものがあった。

「……ええと、何を誤解してるのか知らないけど、別に私が欲しくて買ったんじゃないのよ」
「いいよ、嘘吐かなくても。私はそんな事で嫌ったりしないから……」
「シリアスに同情しないで! 本当に違うのよ! これはお嬢様……」
「「「お嬢様?」」」
「……」
「「「……」」」
「……」
「「「……」」」
「……その、実は私、ペナント集めが趣味だったの。ええ、そうなのよ。そうなんだってば」
「そ、そう。なかなか高尚な趣味じゃないの」
「ま、まったくです。知的かつ実に優雅だと思います」
「や、やあ、良い物が手に入ったね。本当、羨ましいなあ」
「……ありがとう、皆」

彼女等は、優しすぎた。










従者様ご一行、チェックアウト。
それも、規程の時刻よりも、かなり余裕を持っての出立である。
今更もう一度温泉に浸かるというのもかえって疲れそう。というのもあるが、
仮に追加料金を請求された場合、支払える者が誰もいないという切実な理由もあったりする。
無論、この面々は、幻想郷でも有数の武力を備えた集団ではあり、いざとなれば強行突破も容易なのだが、
それによって失われる物……威厳や面子といったものは、果てしなく大きいのだ。

「結局、この旅館って何だったんでしょうね」
「怪しそうに見えて、割と普通で、でも見えないところではやっぱり怪しかった。って所かしら」
「……誰かさんの批評みたい」

前日に歩んだ道をそのまま引き返すという、捻りのない行程。
それでも彼女等は、これまで通りに他愛の無い会話を交わしつつ、のんびりと歩む。
極力、のんびりと。

「それにしても、普通、温泉って身体を休めに行くものよね」
「ある意味、行く前より疲弊してる気はします……身体は」
「んだね。まあ、こんな疲れなら大歓迎だけどさ」
「本気で湯治をするんなら、あの旅館は厳しいわね……」
「あら、持病でもあるの?」
「例えよ、例え。そもそも私は、どんな病気にかかっても湯治の必要なんて無いわ」
「……凄い自信。永琳さんもこれだけ慕われれば本望よね」
「本望って、アレに一番似合わない言葉じゃない?」
「アレって言うなっ!!」





それでも、いつかは辿り着く。
四人の視界に入ったのは、つい先日、大量の弁当との格闘を繰り広げた、巨大な樹木。
どこで決めたという訳でもないか、ここが解散の場所であるというのは既に暗黙の了解となっていた。





「じゃ、私はここで失礼させて貰うわね。……楽しかったわ。さよなら」

口火を切ったのは咲夜。
未練をその場に残すことなく、颯爽と飛び去って行くその姿は、いかにも昨日以前の彼女らしくあり、
それでいて、しっかと抱えられた不細工なぬいぐるみが、いかにもこの旅行中の彼女らしかった。
矛盾しているようだが、その実、答えは簡単。
どちらも、十六夜咲夜なのだ。




「あー、お休みもここまでか。もう少し遊びたかったんだけどなぁ」
「何時もだって、十分遊んでるじゃないですか」
「……ま、まあ、それを言われると困るんだけどさ」

小町は、やや照れたように顔を背けると、一息に地面を蹴る。

「んじゃ、またなっ。
 でも、客として会うのは御免だよ。自殺なんてするんじゃないぞー」
「誰もしないわよっ」

それでも、やはり最後にはペースを握り返す。
いつだってマイペース、それが彼女の性分である。





「……」
「……」

残されたのは、妖夢と鈴仙の二人。
言葉を交わすこともなく、ただなんとなく、空を見上げていた。
無論、ずっとこうしている訳には行かない。
妖夢は、ただ一人の冥界の従者として、右へ左へと走り回るのだろうし、
鈴仙もまた、月の頭脳の弟子として、家事に修行に勉強にと忙しい日々を送るのだろう。
それは、つい先日まで、ごく普通の日常として送ってきたものである。
無論、今でも変わらない。
そうした日常があってこそ、このような非日常が存在するのだから。

「……帰ろっか」
「……そうね。きっと幽々子様も、これを楽しみに待ってるし」

たっぷりと饅頭の詰まった袋を抱え上げ、苦笑いを貼り付けつつ浮かび上がる妖夢。
それに合わせるように、鈴仙もまた重力へと抵抗を試みる。
この旅行の間、一度として使う事のなかった飛行能力。
それは真に、ほんの短い夏休みの終わりを告げる合図でもあった。

「暇があったら、また永遠亭にも遊びに来て頂戴。
 師匠も、姫も、てゐも、妖夢なら歓迎する筈よ」

そう言い残すと、鈴仙はくるりと踵を返す。
これで終わり。と内心で呟きつつ。

「……鈴仙さん」
「え?」

だが、妖夢から放たれた言葉は、その場に鈴仙を繋ぎ止めるに、十分な力を持っていた。

「その、あえてこの口調で話させて頂きます。
 ……旅行、誘っていただいて、本当にありがとうございました」
「べ、別に良いってば、そんな大袈裟な話じゃないでしょ」
「いえ、少なくとも私にとっては、とても重大な転機だったんです。
 もしも一昨日、鈴仙さんが誘って下さらなかったら、
 きっと私は、二度と皆さんに会う機会は無かった筈ですから」
「そんな事……」

無い、とは言えなかった。
妖夢が思いのほか、深刻に自分の環境について考えていたことは、この二日間で十分に理解していたからだ。

「済みません、これじゃ脅迫みたいですね。
 要するに、これからはもう少し柔軟に考えてみるって言いたかったんです。
 そして、そんな風に考えられる切っ掛けを頂いた事に対するお礼を言いたかった……それだけです」
「……うん、分かった。お礼されとく」

別段、鈴仙は、それほど深い考えがあって妖夢を誘った訳でも無い。
だが、結果として、妖夢がそう感じたのならば、その選択はとても素晴らしいものだったのだろう。

「……まあ、また色々と間違えて、閻魔様に説教されるかも知れないけど」
「あー、それなら大丈夫。私もだから」
「違いないわね」
「って、否定してよ」

妖夢の口調は、何時の間にか元に戻っていた。
即ちそれは、今日という一日が、再び動き出した証明である。


二人は、軽く笑い合うと、どちらともなしに踵を返す。
妖夢は、冥界に向けて。鈴仙は、永遠亭に向けて。
 
「それじゃ……」
「うん」

そして、一言。


「「またね」」 









こうして、従者達の短い夏休みは終わった。
この先、再び四人が揃って遊びに行く機会があるのかどうかは分からない。
それこそ、あの全く先が読めないご主人様達の事。
明日にはもう敵対関係に陥ってるかも知れないし、それこそ生涯出会わない可能性だってある。
だが、それでも、彼女達が共に過ごしたこの二十四時間は、確かに存在したのだ。



勤労少女達に、幸多からんことを。




























「あー、疲れた疲れた……って、ちょっと、どうしたのよ。
 最近の式のトレンドは、泣きながらご主人様を出迎える事なの?
 え? 最初から最後まで完全に存在を忘れられた? 訳の分からない事を言うんじゃないの。
 温泉? 地球の中心まで掘ればいずれは温泉脈まで到達するんじゃない?
 意味が違うって? だったらどうしろって言うのよ。
 あー、もう、五月蝿いわね。私は疲れてるのよ。
 ん? ああ、それは私だって日焼けくらいするわよ。何処でだって? 余計なお世話。
 はあ? 閻魔様? 何で私がわざわざ、あの方に会いに行かないといけないのよ。
 あんまり寝惚けた事言ってると、単走一杯で追い切るわよ。
 じゃ、私は寝るから、後は宜しくね。おやすみー」



ども、YDSです。

この話はタイトルで分かるように、絵板6126番、EKI氏の絵にインスパイヤされて出来上がったものです。
無断でアイデアを拝借してしまった事を謝罪すると共に、妄想力を極限まで高めてくれた氏の匠の技に感謝を。
本当、あの絵を見てから、他の話すべてが停滞したくらい衝撃でした。

……まあ、初っ端から俺設定で埋めてしまいましたが、そこはYDSのやる事だからという訳でご勘弁を。
やたらと長い上に、取り止めの無い話ではありますが、僅かでも楽しんでいただけたなら幸いです。


……そして、またしてもオチに使ってしまった藍様には、焼き土下座にて謝罪を。
YDS
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コメント



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7.90名前が無い程度の能力削除
タイトル見た瞬間に「絵板のアレktkr!」
と心の中で叫びました。
小町も加えた従者4人の夏休み、堪能させていただきました。

藍様は……まぁ、多分温泉入れないだろうし、ね……イ㌔


>「以上で全項目は終了。ウサ耳カチューシャを付けたイタい女の子のでき……あ……ひっく」
師匠テラヒドスwww
12.90あさ削除
 プチの方で似たような事をやっている者です。どうも初めまして。いえ、YDSさんと違ってオリジナリティがないので比べるべくもないのですが。
 個人的には前半に出ている主人’sがお気に入りです。後半の1人大人なこまっちゃんもグッドですけど。それは兎も角、とても楽しく読ませて頂ました。ありがとうございます。
14.90名前が無い程度の能力削除
やばい、最後の藍様の出番の意味が分からないくらい藍様の存在を忘れた。
そういやこの人も従者だったねぇ…
16.100ドク削除
ひでえよ師匠・・・w
んでもって一体何買った妖夢w
18.80翔菜削除
>『大丈夫よ、じぇいふぉんって書いてあるから。ともかくそういう事に決まったから』

ちょwwwwレミ様wwwwww
最初から最後まで、よき従者達でした。

あと多村は……うん、そのままでいてください。
19.90幻想と空想の混ぜ人削除
ぬぅぅ、誰も考えるネタは一緒かぁぁぁぁ!! orz
24.90あふぅぁ削除
良き温泉旅行を堪能させてもらいました。ほんとに楽しそうでしたねー
……うん藍さまドンマイw
勤労少女達に、幸多からんことを!

25.90名前が無い程度の能力削除
私が今も使ってるじぇいふぉんと書いてある携帯電話を使えば、お嬢様と通話できますか。

良い従者連合でした。でも藍様も加わってたらもっとカオスだったろうなぁ。見たかった。
27.100紫音削除
一見ほのぼの、しかしその中に相変わらず小ネタをしこたま積み込むYDS氏の技量に感服です。
やっぱり温泉は宿に着いてから1度、夕食後に1度、朝に1度の最低3回は欠かせませんよねっ!(力説) まあ、私の場合は夕食後1回の後に一眠りして夜中にもう1回プラスってコトもたまにありますが(星が綺麗に見えたりすると最高です。YDS氏も皆さんも是非!)
温泉宿での従者4人組のんびり紀行、楽しませていただきました。ご馳走様。



・・・よかった、藍の存在完璧に忘れ去ってたの私だけじゃなくて(ぉ)
35.90名前が無い程度の能力削除
おもしぇー!!!111!1!!

うさぎのぬいぐるみってガボゲちゃん?
38.100名前が無い程度の能力削除
我々にとっては日常。
彼女達にとっては非日常。
そんなささやかな時間を楽しませて頂きました。

素晴らしい情景を生み出してくれたEKI氏に心より感謝を。
そしてそこからこれだけの作品を生み出したYDS氏には感服致します。

つまり何が言いたいかというと……。
師匠GJwww
39.90名前が無い程度の能力削除
げんそーのけーたいはつーかーの方が相応しい気がしたり。
43.100ライネア削除
>じぇいふぉん
私のところでは今だに現役です。
いい加減機種変かな…
44.100名前が無い程度の能力削除
ちょwwwwwスペランカー先生wwwwwwwww

いや、期待していた以上にいい話でした。

55.90名前が無い程度の能力削除
昔した旅を思い出しました。
楽しかった旅が終わるあの空気を思い出しました。
GJ!

藍さまぁぁぁあぁぁああ!!!
62.80変身D削除
どの温泉イベントも彼女達らしくて良かったです。
と、言うか妖夢の買った温泉饅頭、どう考えても殆ど餡子ですありが(略
あと、藍さまは……い、いつか橙と一緒に来れる日が(泣
63.80名前が無い程度の能力削除
>鈴仙にとって友人と名言できる唯一の相手だろう。
「名言」でなく「明言」の誤字のような。

>大丈夫よ、じぇいふぉんって書いてあるから。
漏れの携帯は幻想の品…だよなぁ。orz

何はともあれ、ハマの最下位脱出をお祈りしております。
72.60名前が無い程度の能力削除
妖夢、花電車なんて言葉をどこでぇぇぇ
74.100名前が無い程度の能力削除
08小隊、brjw…
これはひどい。いいぞもっとやれ
77.100煌庫削除
・・・・・・・・あ、藍様。ごめん、忘れてた。
余談(メイン)ですが鈴仙、色々お疲れ。カチューシャとか射撃とかやっぱカチューシャとか・・・
80.100EKI削除
わー楽しく読ませていただきました!
私の拙い絵がこういった素晴しい作品に繋がるのは大変嬉しい!!
YDSさん、ありがとうございました~。
84.90名前が無い程度の能力削除
従者四人組の楽しくもほのぼのとしたお話、堪能させていただきました。
読んでるこっちも温泉に行きたくなってきましたよ(何年行ってないやら…)

ところで仲居さんや姿を見せることがなかった隣室のお客、
正体はやっぱりあの人たちなんでしょうかね?
85.90某の中将削除
絵板ネタで繋げるなら、隣室の麻雀はひょっとすると脱衣真っ最中だったりするのだろうかとか思ったり。

あぁ、そうだ藍様だ。すっかり忘れてました。うん、ごめん。
87.100名前が無い程度の能力削除
>『大丈夫よ、じぇいふぉんって書いてあるから。ともかくそういう事に決まったから』
この前ぼーだふぉんも幻想になりましたっけ?

何はともあれ面白かったです
お姫様抱っこするみょん萌え
91.100名前が無い程度の能力削除
さり気なきバーチャルボーイに反応したのは自分だけでry
温泉旅館の伝統ちうか宿命ちうか。後からバンバン出てきますよね…w
(T.E氏って言われて頭に浮かばないですごめんなさいorz)
92.80秘密の名無し削除
>キョウキノジョテイタカアシガニ
え?これってダライアス外伝のZONE-Xにでてくるアレっすか!?
95.70T削除
(´・ω・`)妖夢たんスカートで体育座りはいろいろと良くないと思うんだ
102.100削除
何であなたの私服選択はこんなに絶妙なのですか。
104.100名前が無い程度の能力削除
本当にスバラシイ従者達ですね。
117.100名前が無い程度の能力削除
やべぇ、思考パターンが師匠と同じだ。>ウサ耳カチューシャ
そして姉御肌の小町がツボでした。
随所のネタ(スペ様とかVBとか)も素晴らしい!

藍さまは……まぁ今回はしょうがないかと。
耳はともかく、あの尻尾は流石にごまかせないでしょうし。
125.90名前が無い程度の能力削除
ゆかりんヒドスww
127.50 削除
最後まで藍さまが出てくるのを今か今かと待ち続けた私は
オチを見て号泣しました
139.80名前が無い程度の能力削除
未だ三和音が限界なじぇいぽん使いの俺が来ましたよ

鬼っ……鬼っ……紫は悪鬼っ……!
しかし……辛いのは閻魔も同様っ……!
162.90名前が無い程度の能力削除
面白かったです。

作者の声が所々くどいとは思ったけど。
167.100時空や空間を翔る程度の能力削除
妖夢・・・
咲夜さんに花電車は~・・・
まずいだろ~・・・(汗
171.100名前が無い程度の能力削除
藍様カワイソスw
196.100名前が無い程度の能力削除
藍様をもっとッ・・・
213.80名前が無い程度の能力削除
面白かった!
219.80名前が無い程度の能力削除
>生き返るカニ。
....え?
222.100S_Kawamura削除
ペナントなんて今はもうないんじゃないかなぁ...。自分の父が子どもの頃、修学旅行に買っていたという話を聞くぐらい。

それよりもYDSさん。あなたは ネタの王様 と認定されるべきです。本当にこのssのボケと突っ込みのテンポ。展開の店舗。
すばらしい。こんなssを私も書いてみたいです。いいssありがとうございました。
224.90名前が無い程度の能力削除
「生き返るカニ」

!?
234.100非現実世界に棲む者削除
従者少女の温泉旅行、とても良かったです。
妖夢は荒れっぷりが半端ないなあ(笑)。それに従う咲夜も咲夜だが。
鈴仙も射的の腕が凄い。銃弾の弾幕を撃ってくるからまあ当然といやあ当然だな。小町は災難でしたね。
和やかな作品でした。
では失礼いたします。