Coolier - 新生・東方創想話

夏休み前

2006/07/25 07:34:03
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注)オリキャラが出てきます。ラブ分はありません。初ssなので、ご指導の程ヨロシクおねがいします。


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■ プロローグ
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生きている事に疲れた。

僕の口癖。口癖と言っても、実際には口にしない。頭の中で思うだけだ。
日本の首都京都でもそれなりに名の通った、私立の学校の生徒。
そんな肩書きしか、僕を形づくってくれるものはない。
学校へ行って、塾へ行って、帰る。両親は共働きで、帰ってくる時間は明日になっている。
特に趣味もなく、友人はいるけど、深い付き合いは無い。そもそも趣味が合わない。

ささやかな楽しみは、時代遅れのホログラフィック格闘ゲームを寂れたゲームセンターで遊ぶこと。
こんな何世代も前の筐体を置いているゲームセンターは日本でも此処くらいなんじゃないだろうか、それくらい古いものだから、なんとなく惹かれてしまう。

親の言うとおりに生きることは嫌いではない。楽だから。
でも、なにか釈然としない気持ちもあった。ずっと、胸に落ちない塊があった。
そんな気持ちを少しでも晴らしてくれるのがそのゲームだった。

「…あれ?」
その日、いつも通りにゲームセンターに行くと、いつもの筐体がなくなっていた。
「おっちゃん、あれ、撤去されたん?」
「あー…すまんなぁ…流石に赤字続きなんで縮小したんだよ」
「そうなんだ…」
少しがっかりした様子をしてみせてはいたが、内心では死ぬほどにがっかりしていた。
正直な話、僕にはアレ以外に趣味といえる趣味もなかったのだ。
これからどうやって憂さを晴らそう…そう考えていた時、

「あー…そうだ、お前さんが好きそうなゲームをやるよ」
「え?」
「少しでかいが、気にならんだろ、お前さんなら」
そう言っておっちゃんが僕に渡したのはあの筐体よりさらに前世代の家庭用ゲーム機。
博物館モノの古いものだ。確か、前時代に景気の良かった電気メーカーの作ったゲーム機の何代目か。
「…おっちゃん、嬉しいけど、うちのディスプレイにはこんな端子ないよ」
「ほらよ」
「あっ、と…お…」
「まぁ、お得意様だからな、お前さんは」
そういって、おっちゃんが投げて寄越したのは、アダプタだった。
「…いや、でもおっちゃん、ソフトが」
「はいっとる」
「は?」
「もう、その箱に何個か入れといたわ。他のが欲しくなったら…まぁ、さがすんじゃな」
「ありがと」
僕はどっちかというと無愛想な方だ。愛想笑いも、普通の笑顔も苦手だ。
だから、本当はおっちゃんにお礼を言いたかったけど、そんな一言しかいえなかった。
結局、続く言葉もなく、僕はそれだけ言うとくるりと後ろを向いてそのまま走って帰った。
おっちゃんは、僕をみて笑っていた。


「んーっと…」
家に帰って、早速ディスプレイに繋いでソフトを吟味してみる。今日は塾は無い。ゆっくり遊ぼうと思う。
「どれがいいかな」
基本的に僕は手っ取り早く勝敗のつくものが好きだ。
格闘とか、アクションとか、シューティングとか。

「…これかな」
『東方紫結界』それが僕に与えられた、チケットの名前だった。

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■ トンネルを抜けると…
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「あれ?」

気が付くと、見知らぬ神社の境内に寝ていた。
確か僕はあのゲームを起動して…。
あぁ、あのゲームは空間創造型の3Dシューティングだったのか。

「………」
ありえない。
あの時代のゲーム機がそんな今最新のゲームを再現できるわけがない。
どういうことだろう。僕は、一体何処にきてしまったんだろう…。

「あら?」
途方に暮れていた所為か、すぐ後ろで女の子の声がした時、ビックリして飛び上がってしまった。
心臓を落ち着けて振り向いてみると、其処には僕よりいくらか年下に見える巫女さんらしき女の子が立っていた。

「何よ、そんな妖怪…は普通ね。幽霊…も最近よく見かけるし…。宇宙人…そうね、宇宙人を見たような顔をして」
「……すいません、ぼーっとしてたもので」
「それで、うちの神社に何か用?ちなみに賽銭箱はそこ」
「えーっと、此処はどこなんですか?」
「何を言ってるか良く分からないけど、此処は博霊神社。幻想郷の博霊神社よ…それと、お参りなら賽銭箱はそこ」
「幻想郷。博霊神社」
「それで私は博霊霊夢」
「博霊霊夢」
「貧乏巫女でいいぜ」
僕が女の子の名前を復唱した直後に唐突に後ろで声がしたので、またしてもビックリして飛び上がってしまった。

「おいおい、何だよそんな宇宙人…は、竹林に生息してるな。妖精…はそこらじゅうにいるし…閻魔、そうだ、閻魔を見たような顔をして」
僕の後ろに立っていたのはいかにも魔女といった風貌の…またしても僕よりいくらか年下に見える女の子だった。
黒い三角帽子とエプロンドレスっぽい服に、でっかい箒を持っている。
「すいません…唐突に後ろにいるとは思わなかったもので…」
「ちょっと魔理沙、貧乏巫女ってなによ」
「事実を言ったまでだぜ」
「貧乏だと知ってるならご飯をたかりに来ないでよ」
「霊夢のご飯の味は私が保証する。幽霊も美味いって言ってたぜ」
「あれは何でも食べるでしょうに」
何だか放っておくといつまでも続きそうだったので、失礼かとは思ったが割り込ませてもらうことにした。
「あの…すいません…それで、ここは日本ですか?」
「「は?」」

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■ 異邦人
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「なるほどねぇ」
ずぞー。
霊夢さんの入れてくれたお茶を豪快に飲みながら魔理沙さんが意味深に頷いた。
「あんた、何も考えてないでしょ」
「考えてるぜ。まんじゅうか、それとも煎餅か」
「それで、ヒカルは外の世界に帰りたい、と」
魔理沙さんを軽く無視して、霊夢さんが僕に尋ねてきた。
「あ、はい、日本の京都へ帰りたいのですが」

二人の説明を一通り聞いてわかった事が幾つかある。
曰く、幻想郷には外の世界から消えたものがやってくる。
曰く、時々外の世界から迷い込む人がいる。
ここから導き出せる仮説は幾つかある。
一。僕は外の世界から消えた存在である。
ニ。ちょっとした拍子で迷い込んでしまった。
三。その両者。

僕の答えは、二だ。
外の世界からは消えたはずの古いゲーム機を使用したのがきっかけで、幻想郷に迷い込んでしまった。
二人が言い難そうにしてたもう一つの原因とやらが気になってはいたが、多分これであってると思う。

「それで、帰れる方法はあるんでしょうか」
「うーん…幾つか思いつくことは思いつくけど…」
「どれもおすすめできないぜ。特に紫は」
「やっぱりそうよねぇ…」
「幽霊じゃ食われちまうし、医者は実験に使っちまいそうだ」
「珍しく魔理沙がマトモな事を言っているわ…」
「マトモじゃない連中の事を言ってるからだぜ」
「あとは…」
二人の会話は果てしなく理解できない。
個人名が分からないのは当然として、幽霊とか妖怪とか宇宙人とか妖精とか閻魔とか医者とか。
まるで、当たり前にいるように会話に登場している。医者は知ってるけど。

「あのー…もしかして幻想郷には幽霊とか、妖怪とかそういうのがいるんですか?」
「いるわよ」
「いるぜ」
「うわぁ…」
感動、とはこういう感情だろうか。久しく味わってなかった、精神の高揚を感じた。
「あの、みてみt」
「食べられるわよ」
「食われるぜ」
「え」
恐怖、とはこういう感情だった。久しく味わってなかった、背筋が凍る感覚を得た。
「食べられちゃうんですか?」
「食べる奴もいるわよ」
「って、それじゃあ、お二人はそんな身軽に歩いてて大丈夫なんですか?」
「幻想郷には幻想郷のルールがあるのよ。そのルールを守れば大体は食べられたりしないわ」
「大体はな」
「ルール?」
「まぁ、あなたには関係ないことよ。下手に関わると余計まずいし」
「不味いとか言いながら食っちゃう幽霊もいるけどな」
「はぁ…」

その時、僕は確かに恐怖を感じていた。弱肉強食の世界。外には無い、厳しい世界だ。
しかし、恐怖と共に言い知れぬ期待も抱いていたのだ。
そう、僕は、最高に「カッコイイ」ステージに立つことに成功したのだ、と。

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■ 妖怪と人間
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「まぁ、霖之助さんなら問題ないでしょ」
「あー、あいつなら大丈夫かもなー」
二人の意見が一致したらしい。
なんでも幻想郷にある香霖堂というお店の経営者で、外の世界(つまり私のいる日本だ)に詳しいらしい。
「成る程、外から消えた道具とかを扱ってるというわけですね」
「そういうこと」
「大体ゴミになってるけどなー」
「最近来た道具とか、なんかないんですか?」
「私はあんまり香霖堂には行かないから…どうなの、魔理沙?」
「んー…そうだな…あぁ、あれだ。四角くて…四角いのが一杯あって…なんだろうな、あれ」
「私に訊かないでよ」
「これっくらいでさぁ」
「知らないってば」
二人は仲良さげに談笑しながら道を歩いていく。
魔理沙さんのいう四角いのってなんだろう…まぁ、きっと古い物なんだろうな…。
そんなことを考えて、ふと前を見ると、

「あれ?」
なんだか今日は、あれ?ばっかり使っている気がする。しかし、無意識のうちに出てきてしまうのだ、あれ?
そう、私は気づくと真っ暗闇の中にいた。
何も見えない真っ暗闇。こんな暗闇は見た事が無い。目をつぶったときでさえ、もっと明るいのではないか。
「あなたは~」
そして、またもや後ろから声が聞こえてきた。やはり少女のソレだ。
三度目ともなると私も慣れたもので、飛び上がることはなかった。驚いた事に違いはないが。
そして、三度振り返って、
「え?」
本当の驚きというものを得た。
その少女は金髪で、赤いリボンをし、黒い服を着て、そして空を飛んでいた。
―――空を飛んでいた。
「えーっと…こんにちわ」
「こんにちわー」
「僕はヒカル。ちょっと幻想郷に迷い込んでしまって」
「私はルーミア。あなたは食べてもいい人類?」
「は?」
「巫女と魔法使いと一緒のあなたは食べてもいい人類?」
「ひ」

少女は、いや、少女に見えたものは、妖怪だった。
見た目が人間とか、そういうことではなくて、本能、そう、本能でわかったのだ。これは人間じゃないと。
少女の内に、僕では太刀打ちできない闇を、永い時間の流れを感じた。
そしてつまり、彼女の言っている事は冗談でもなんでもなくて―――

「食べてもいーのかー」
「だ、ダメです!僕は食べられません!」
「食べてみないとわからないー」
「うわあぁあぁぁぁぁ!!」
ルーミアは空を駆け、僕に近づいてくる。
特別急いでるようにも見えないその仕草だけれど、僕には避けれないスピードだった。
僕は、さっき思った事を早々に否定する事が出来た。ここはカッコイイステージなんかじゃない。
ここは――――――

「いただきまーす」
ルーミアの手が伸びる。避けられない。
僕は学校帰りのゲームセンターで貰ったゲームで入り込んだ異邦の地で骨まで食べられてしまう。
こんな馬鹿げた話があるか。僕は―――
「た、たすけ」

空間が、裂けた。

「あらあら、ちょっとお待ちなさいな」

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■ 神隠しの元凶
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ルーミアの手が届く直前に目の前の空間が裂けて、中からまたもや少女(…少女…?)少女が現れた。
「この子は私のお客様。食べて良い訳無いじゃない」
そうしてその少女はルーミアの手を手に持った扇子で軽く払い、周りの闇を吹き飛ばし、ルーミアを空間に出来たスキマに叩き込んで、僕に振り返って、
「ようこそようこそ、幻想郷へ。ここは素敵な所でしょう?」
微笑んだ。


「さっきは、その、ありがとうございました」
「いえいえ」
紫さんは、たおやかに微笑むと、無造作に急須と茶碗をスキマから取り出してお茶を入れてくれた。
一見西洋のお嬢様風の格好をしている紫さんだが、日本茶が好きなようだ。
此処は博霊神社。あの後、紫さんが連れてきてくれたのだ。
ルーミアに襲われてから止まらなかった僕の震えも、この神社まできてようやく収まってくれたようだった。
―――幻想郷。妖怪と人間と、色々な外から消えたモノの集まるところ。僕は、この地において異邦人だ。
改めて僕の置かれた状況を確認して、紫さんに訊かなければならないことが有る事に思い至った。
「あの」
「そう、私。あなたを此処へ招待したの」
僕が全部言い終わる前に紫さんが答える。
度々出しているスキマといい、この人も妖怪か何かなのかもしれない。
「そう、私。ルーミアと同じ妖怪よ」
「心が読めるんですか?」
「あなたの顔に書いてあるのよ」
「え?!」
「勿論嘘」
どうやら、見た目の通り、曲者らしい。というか此処でまともだったのは霊夢さんくらいだった気がする。
「あの巫女が一番おかしいのよ」
「そ、そうなんですか?」
「ちょっと紫。その子に変なこと吹き込まないでよね」
「そうだぜ紫。霊夢は二番目くらいにおかしいぜ」
「魔理沙。あんたにご飯はもう作ってあげない」
「それはないぜ…」
「遅かったわね」
「あ、霊夢さんに魔理沙さん、おかえりなさい」

お茶を飲んで落ち着いたときに二人が帰ってきた。
僕は紫さんと先ほどまでの状況を説明して、これからのことを話した。
つまり、紫さんが僕を「外」へ送ってくれるという事を。

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■ 幻想の郷
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「分かってたんならさっさと来なさいよね」
と、少し怒り気味の霊夢さんが紫さんと話している。
二人は仲がいいようで、先ほどからずっと話しているので、ちょっと手持ち無沙汰だ。
なので、
「博霊神社は中々風情があっていいと思わないか?」
という、魔理沙さんの博霊神社案内を断る理由は何も無かった。

博霊神社は風情があったが、少し手狭で少し…ボロかった。

「外と幻想郷のどっちが好きなんだ?」
魔理沙さんと歩きながら、何気なく尋ねられた。
外。
僕になんの価値もなく、回りつづけて死につづける世界。
人と人との繋がりは希薄で、のんべんだらりと流れていく時間。
「外ですね」
「へぇ」
魔理沙さんは意外そうに僕の顔を覗き込んだ。
「私はお前は外が嫌なんだと思ってたぜ」
「僕も外は嫌いです」
「幻想郷もえらく嫌われたもんだな」
はははっと笑い飛ばした魔理沙さんに、僕はいう。
「いいえ、幻想郷の方が素敵ですよ。紫さんのいう通りです」
は、と、笑いを止めて不思議そうに、本当に悩ましそうに魔理沙さんがクビを傾げる。
「人にはその人の居場所ってのがあるんじゃないでしょうか。この幻想郷に、僕の居場所は、ない」
「なるほどなー」
「えぇ、それにこんな危ない場所じゃ僕はすぐに食べられちゃいますよ」
「そーなのかー」
「やめて下さいよ!本当に怖かったんだから!」
「悪い悪い」

そう、僕は自分の立場を作ってもらいすぎていたのだ。両親に、先生に、友人に、おっちゃんに。
外の世界は確かにここより味気ないかもしれない。でも、僕にはまだみてない外の部分があるはずだ。
そして、それは今の僕を満足させるに十分なはずだ。だって、それはいつか此処に来るはずの物の集まりなんだから。
此処がこんなに素敵なのは、外が素敵だったから。素敵なこの幻想郷が続くってことは、外も素敵ってことだ。
僕には、暗闇を払う力は無いけれど、目がある。見よう。世界を。

「お~ま~た~せ~」
そして鳥居の辺りから間延びした少女の声が、その時神社に響いたのだった。

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■ 境界
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「もー、一匹の幽霊なんて探すの苦労しちゃったわよ~」
「…探したのは私なんですが…」
「ご苦労様、妖夢。助かったわ」
「い、いえ、紫様、そんな」
「ちょっとー紫ー私にお礼はないの~?」

聞く所によると、彼女たちは幽霊らしい。
着物風の格好をした人が幽々子さんで、制服のような格好をして刀を差しているのが妖夢さんだという。
紫さんは二人に頼みごとをしていて、その所為で時間が余っていたんだそうだ。

「で、例の霊は何処かしら?」
「紫ったら駄洒落なんていって~」
あははと笑う幽々子さんを全員が無視した。
「えぇ、此方に」
妖夢さんが差し出した、いかにもな人魂が紫さんの前にふよふよと飛んでいく。
「それじゃ、準備はいいかしら?」
誰に訊くともなく、紫さんは一言呟いた。
「幽霊と人間の見た目の境界を操作するわ」

「…おっちゃん?」
そして、一瞬の後、その場にいたのはあのゲームセンターのおっちゃんだった。
「よう。幻想郷は楽しかったか?」
「なんでおっちゃんが此処にいるんだよ」
「そりゃおめぇ、死んだからだろ」
「は?」
「俺は本当に死んじまったが、お前さんはいっつも死んだような目ぇしてたなぁ…どうだ?人生は面白いか?」
「おっちゃん。意味がわからないよ」
「言いたい事は言ったかしら?」
「まって!紫さん待って!」
「あぁ」
「それじゃあ、冥界に戻りなさい。あまり此処にいる事はいい事ではないわ」
「すまねぇな。恩にきるぜ」

そうして、おっちゃんは元の人魂になると、ふよふよと何処かへ飛んで行ってしまった。
紫さんは簡潔に説明してくれた。
幻想郷と冥界はとても近い場所にあるということ、人の死と、モノが幻想郷へ来るのは似てるという事。
紫さんが境界を操作すること。おっちゃんが紫さんに偶然会ったこと。おっちゃんが紫さんに頼んだ事。

「僕は、おっちゃんにすっかりハメられた」
「そうみたいね」
「中々粋なおっちゃんだぜ」
「見込みあるわねぇ。うちの使用人にしよう…なんちゃって~」
「あの者の心意気には関心します」
「ガンコ爺、江戸っ子っていうのも、外から消えたモノの一つなのよ」
幻想郷の面々がそれぞれに感想を述べている。

僕は、おっちゃんの事を思い出し、外のことを思い出し、幻想郷の事を思い出していた。

「ありがとう」

誰にともなく、そう呟いた。自然と笑顔が出ていた…涙は止められなかったけれど。

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■ エピローグA
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―――翌日。

僕は、おっちゃんのゲームセンターを覗いてみた。
でもそのゲームセンターだった場所には、重機が沢山止まっていて、既に筐体などは無かった。

あの日、幻想郷から帰ってきた僕は居間のディスプレイの前に倒れていた。
ゲームを始めた時間から6時間ほど経っていたが、幻想郷を歩き回った時間はもう少しあったような気がする。
ちょっとした浦島太郎の気分だった。

おっちゃんに貰ったゲーム機は壊れていた。だから、動くあの機体はこっちの世界には無い。
きっと、幻想郷との境界を緩くしたのは、本当にあのゲーム機だったんだろう。
あのシューティングゲームは無くなっていた。他のソフトも跡形もなく消えていた。

夢だったんだろうか。そう、思わなくもなかった。
僕はゲームセンターの跡地から踵を返して家に向かった。塾は辞めさせて貰った。
大学は、親の勧めるところも視野には入れるが、先輩の行った大学を受験しようと思う。
あの風変わりな先輩なら、きっと今回の話を聞いてくれると思う。
なんてったって星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かるとか言ってた位だし。
そう話したら、意外に両親はすんなりと認めてくれ、これからの夏休みに一人で旅行に行くことも賛成してくれた。

結局、僕は自分から進んで何かをしようとしなかっただけなんだと思い知らされた。
世界は楽しい。
これからも楽しい事があるだろうし、なければならない。
だって、あの幻想の郷は、いつまでも素敵でなければならないから。

僕は、いつもより少し上を向いて家に向かって走り出した。
ポケットにある、あのスキマを留めていたリボンを握り締めて。

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■ エピローグB
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「ふぅ。久々の異邦人だったわね」
「やれやれ。疲れたぜ」
「あんたは何もやってない」
第一発見者の霊夢は一息ついていた。
なんだかんだで、やっぱり境界を見守ってきた神社の巫女としての責任を感じていたのだろう。
ルーミアの件の時も、実は相当焦っていたようである。

「妖夢、おやつは持ってきたかしら?」
「すいません幽々子様」
一方の冥界サイドは暢気なものだ。基本的に今回の件には関わっていないという雰囲気である。

「ふふ」
「で、結局なんであの子を幻想郷に神隠ししたのよ」
あまりのまとまりの無さ、突拍子も無かったので、霊夢が代表してまとめに入ろうとした。

「あれか?あぁいう男が好みなのか、紫は」
「「「は?」」」
「な、なんだよみんなして。私なんか変な事言ったか?」
「あのねぇ…魔理沙…」
「意外と抜けてるのねぇ…」
「ヒカルさんて、女の子ですよね」
「な、なにぃ!!」
「やれやれ。それくらい気づきなさいよ」
そして魔理沙が全く関係ないところで抜けているのが発覚した。
人をみる目の無い人間のレッテルが貼られて、普通の魔法使いは箒で飛んで行ってしまった。
晩御飯はハンバーグを所望する!と、捨て台詞を残して。

「あら、いいわねハンバーグ。うちもハンバーグにしましょう妖夢」
「幽々子様。今日は魚の日です」
「あら、いいわね魚肉ハンバーグ」
「…わかりました」
そう言って冥界の二人も白玉楼へと帰っていった。

「二人ともありがとねー」
「で?結局理由は?」
「あら、こだわるわね。珍しい」
「あんたが何かするのは珍しくないわ。けど、外の事を巻き込むのは珍しい」
「そうねぇ…ただの気紛れよ」
「気紛れねぇ…」
「あら、なぁに?疑うのかしら?」
「…ふぅ。なーんかどうでもよくなっちゃった。ごはんつくろーっと」
そう言って霊夢は笑いながら勝手口に向かっていった。
ハンバーグ♪とか口ずさみながら。食費はきっと魔理沙からせびるのだろう。

そして、霊夢が建物の角を曲がって見えなくなったと思ったら、
「紫はおせっかいねぇ」
と、見えなくなった霊夢が角から「したり顔」でにゅっと出てきて、紫を見た。

「ふふ」
誰も居なくなった境内で一番星を見ながら紫は笑う。
「おせっかい、かしら?」
そうかしら?と、誰もいない空間に問う。当然答えはない。
答えの代わりにスキマが開いた。

「消えるものはただ消えるのではないわ。足跡を残して消えるの。そう、立つ鳥は跡を濁すの。なんでって?それは―――」
何処にもあって何処にもない、そんな場所、マヨヒガ行きのスキマは消えて。

―――今日も幻想郷に夜が訪れる。




えー、前書きにも書きましたが初投稿です。

オリキャラは結構タブーくさい雰囲気だったので敢えて頑張ってみました。

あと魔理沙が言ってた四角いのは携帯電話。
主人公のいる時代に無くなってるであろうゲーム機は、PS6くらいを念頭にしましたw

もし楽しんで頂けたのなら幸いです|ω゚)ノシ
tohato
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コメント



0.400簡易評価
6.70なのかー削除
気になったことひとつー。
『普』段僕としゃべってて、妖怪そーなのかーあたりのとこだけ『私』になってるのは意図してなのかー?
7.無評価なのかー削除
あ、マチガイ。普段『僕』 ね
8.無評価tohato削除
ヒィ!

誤字です。指摘ありがとうございます。
書いてる途中にもすごい勢いで 「わたs BS*3 僕」
ってやってましたので…見落としでした。
11.無評価名前が無い程度の能力削除
博麗霊夢○
博霊霊夢×
これは…
12.60MIM.E削除
博霊→博麗 だと思いました。

とても楽しく読ませていただきました。
台詞が面白く、くすりと笑った場所もたくさんありました。
こういったテーマは大好きなのですが、もう少し主人公の心情の変化の切っ掛けや理由が丁寧に描かれていたらさらに良かったと私個人的には思いました。
オリキャラ自体に違和感はあまり感じませんでしたが、何故紫や幽々子たちがここまで動いたのか、その辺が少し気になりました。
14.70SETH削除
たのしめました~

先輩ってのはあの倶楽部の片割れの人なんでしょうかw
16.無評価tohato削除
博麗…首を吊らねばならないくらいの間違いでした(´・ω・`)
皆様ご指摘ありがとうございます。

主人公の心情の変化や、紫さんの動機については、確かに言葉足らずだと思いました。
うぅむ。難しいです。
また書くような事があったら、もう少し練ってみたいと思います。
ご感想ありがとうございました。

あと、ゆゆさまは紫さんに頼まれたので仕方なく動いただけ、という事です。
先輩は…例の倶楽部の先輩ですw
19.80煌庫削除
淡々と静かな感じで気付いたら随分と馴染めました。
や、良い感じで読ませていただきました。
20.無評価tohato削除
ありがとうございます~(n'∀')η

シリアスともギャグとも違う、平叙なSSを目指したのでとても嬉しいです。
日々精進したいとおもいます。
21.80紫苑削除
外の世界と幻想郷の、平凡な日常を垣間見させてくださってありがとうございました。

江戸っ子も幻想の物となってしまったんですね、多分。

無関係ですが私もオリジナル使う派です、万人に受け入れられるとは考えてませんが。
22.無評価tohato削除
感想ありがとうございます~

外の人をオリジナルで作る場合は、能力を付けなければそこそこ馴染めますが、
幻想郷のオリジナルを作った場合、能力を考えて、既存の人たちと馴染ませるのは大変だなぁ、とおもいました。

オリキャラのいいところは、既存のキャラが今までとは違う動きをしてくれるところにあると思います。
あぁ、こんな奴がいたらこう動くのかぁ、みたいな。
そういう面白さを目指したかったですねぇ…。

やたら長くなってしまいましたが(´・ω・`)

それでは~