*前書き
*著者前作、「暑い夏の乱痴気騒ぎ」の続きかも知れません。
*設定など、引き継いでいる部分がかなり御座います。
*一部、プチ東方創想話「妹紅さんはスペル製作の時、名前から入ります」よりスペルカードネタを持ってきています。
一度はおいで、夏でも快適白玉楼。
さてさて、皆様も良くご存知の此処は白玉楼で御座いまして。
当主、西行寺の幽々子さんと其の従者、魂魄の妖夢さんが住んでおります。
来訪する客は殆ど居らず、二人きりで変わらぬ生活を続けていまして。
まァ、現状に関して特に不満がある訳ではなく、寧ろ此の生活こそが求むべき日常。と云った感じでしょうか。
「よーむー」
「はい、ただいまー」
縁側でお茶を飲みながら此れでもか、とばかり大福を頬張っていた幽々子さんが唐突に声を上げまして。
呼ばれた本人、庭の手入れをしていた妖夢さんはとててと小走りに主人のトコロに向かいますれば。
「何の御用ですか?幽々子様」
今日も今日とて変わらぬ容姿、背には名高き楼観剣と白楼剣。頭にはちょこんときくらげリボン。
幼い顔をきりりと引き締めて、主人の前で姿勢正しく。
「今日の昼食ですか?良い八目鰻をミスティアさんから戴いたので、其れにしようと思ってますが」
「あら、其れは美味しそう。でもご飯の件じゃないのよぅ」
え?と、妖夢さんは固まりまして。
幽々子様が、あの幽々子様が私を呼び付けておいて「ご飯の件じゃない」と言う。
誰だろうコレ。偽幽々子?
多分目から光線出したり、尻から死蝶霊を出したりするんだ。
だってだって、幽々子様はご飯の件じゃないなんて言わない。
そんなの幽々子様じゃない!
妖夢さんの脳内ではそいやそいやと大量のちび萃香さんが阿波踊りを繰り広げる始末。
「幽々子さん=食欲の権化」の式が成り立っていた妖夢さんからすれば当然の事態。
「……失礼ですが幽々子様でいらっしゃいますよね?」
動揺しながらも、其れを表向きには出さない様心掛けて訊ねてみまして。
あ、斬った方が早かったかも。斬るか。
「なぁに?貴女のご主人様の幽々子さまよぅ?本人を目の前にして失礼しちゃうわぷんぷん」
まるで童女の様な仕草でぷぅ、と頬を膨らませるは白玉楼のご主人様。威厳?何それ。美味しい?
妖夢さんは小さく溜息を吐きまして、安堵。
良かった。此の飛び抜けて春爛漫な物言い。ずば抜けて春爛漫な脳味噌の持ち主は幽々子様以外に有り得ない。
もし斬っていたら文々。新聞の三面トップは間違いなく私のモノだった。
「失礼しました。其れで、御用向きは何でしょうか?」
「んっとねぇ、コレなんだけど」
ぴらり、と一枚の神。歩いてお帰り。失礼、紙。
妖夢さんが差し出された其れを手に取り、まじまじと見まして。
紙面には見出しにでかでかと「人物絵画コンテスト!」と書かれておりました。
次いで「豪華商品!食料もあるよ?」と。
妖夢さんは小首を傾げ、暇人もいるモノだなぁ。とぼんやり。
そうしてそのまま内容を黙読するので御座いました。
~少女、黙読中~
人 物 絵 画 コ ン テ ス ト !
~豪華賞品!食料もあるよ?~
宴会以外にイベントがないのは寂しいと思わないか?
折角だから善意の第三者がコンテストを開催するぜ。
賞品は私だけじゃ用意出来ないから、一人一品。提供をして貰う。
此れがそのままコンテストの参加資格になると思ってくれ。
賞品に関しては上位三名に贈呈と云った形式を採るから其のつもりでな。
例えどんな結果になっても弾幕ごっこは禁止だ。
コンテストが終わった後で宴会も開催する予定だから、宴会用の材料も頼むぜ。
詳しいルールとかは会場でするから、挙って参加してくれ。
涼しい場所で絵を描くなんてのも、たまにはいいだろ?
参加資格:賞品になりそうなモノ、一品提供。
おやつ:300ルピーまで
開催時間:七月☆日、正午
会場:白玉楼
~少女、黙読終了~
…………………
……………
………
…
はて?
「ゆゆこさま?」
「なぁに妖夢。平仮名喋りなんかしちゃって。お布団敷く?」
どういう意味だ。
「私の目が悪くなっていなければ、会場に白玉楼と書かれているようですが」
「そうね、妖夢の目は確かよ?」
「私の頭が悪くなっていなければ、つまり此処で此のコンテストとやらが開催されると」
「ええ、妖夢の頭は大丈夫」
「しかも七月☆日って今日ですよね。許可なさったんですか?」
「いいえ?」
其処まで訊いて、妖夢さんは大きく溜息を吐きまして。
「もう、驚かさないでくださいよ。また庭が荒らされたり料理作りに奔走したり後始末をしたりで苦労するの「来たらするけど」するのかよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
大・絶・叫。
妖夢さんは神速で幽々子さんの肩を掴むとがっくんがっくん揺さ振りまして。
決して、ちょっとシェイクしてやれば此の春色ギャストリドリームな脳味噌もまともになるんじゃないかと思ってやっている訳ではなく。……訳ではなく。多分。
「何でですかどうしてですか来たらするってコトは魔理沙さんは許可なく勝手にこんなイベントを多分きっと暇だからとか面白そうだからとかそう云う臍で茶が沸くドコロか腋で茶が沸くくらいくだらない理由で此処白玉楼で開催しようとしてそうすれば私がてんてこ舞いになって腕とか足とかがくがくになって疲れ果てるのが目に見えてるって云うのに半人半霊だから疲れも半分大丈夫なんて想像でモノ言ってたら何時か刺されますよ主に私にというか大変になるのは否どう考えたって大変になるじゃないですか私は巫女みたいに暇じゃないんですそうですよ博麗神社で開催すればいいじゃないですか何時も通り宴会もそのまま博麗神社あでも此の前壊しちゃったんですっけまァいいやそんなコトそれよりそうすれば私の負担は減るのにそれなのに幽々子様は許可すると言うあ解った此れがいじめですね庭師いじめ知ってますよ私知ってますでももう限界なんです胃がキリキリ舞いキリキリ舞いなんです無理です無理なんですって無理っつってんだろ一目瞭然だろ一目瞭然⑨でも理解できあー出来るかな出来ないかな出来ないかもなぁもういいや斬っていいかないいよね斬っちゃううん斬ろう最近人斬ってないし斬れば少しは楽になるよねあははうふふくるくるクルクルくるクル来る来る繰る繰るくるりんそりゃ曹操もこやつめハハハって言いますよこう云う冗談を言う軍師が居たのが昔の魏なんだよな今のゲームでは司馬懿が扇子もって暴れるらしいから困るってつまり私が言いたいのは訊きたいのは問いたいのはどうしてこう馬鹿げたイベントを軽々しく許可しようとするんですかぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁ!!!!」
心からの大・絶・叫で御座いまして。
妖夢さんの溜めに溜めたストレスがついに爆発。
言い終えるなり、ぜい、と息を吐いて揺さ振っていた腕を止め。
泡を吹いている主人を目にしまして。
「ゆ、幽々子様ーーーーーーーーーーーー!?」
本日三度目の大・絶・叫。
***
「ええと、何が起こったのかしら?」
「突如西の空より銀色に輝く円盤が飛来して参りまして、幽々子様は其れの直撃を」
顔色一つ変えずに淡々と大法螺を吐く妖夢さん。此の庭師、潜在能力が計り知れない。
あれからてんやわんやの大騒ぎ。揺さ振っても起きませんし頬を叩いても目覚めない主人に業を煮やした妖夢さん。
最初は必死だったんですが、なんか面倒臭くなったので首元を横から思い切りチョップしたら「モルスァ」みたいなこと言いながら凄い勢いで飛んで行きまして。
其れで漸く幽々子さんも気が付かれて、不思議そうに周りをきょろきょろ見回しながら何時もの縁側にすとんと腰を下ろした次第。
「そう、其れなら仕方ないわね」
「ええ。仕方ありません」
仕方なくはないのですが。もしも本当にその様な事態が起こったならば、従者である妖夢さんは身体を張って止めるべきではないのかと。
まァ、夏真っ盛り!なのにも関わらず春爛漫なオツムのお嬢様。気にも留めずに話を続けまして。
「それでね、此のコンテストなんだけど」
「ええ、大変糞戯けた内容ですね。胃潰瘍も真っ青の」
コトバに棘がある。と、云うか棘しかない妖夢さん。
然しながら相手は天下の幽々子さん。華の咲いた様な笑顔を見せて、妖夢さんの毒気を抜くのです。
此れを無意識の内に出来るのが幽々子さんの幽々子さん足る所以。「華胥の亡霊」と云う二つ名は伊達ではないので御座いまして。
「私も何も考えずに許可する訳ではないの」
「と、申されますと?」
「此処は冥界。冥界の白玉楼。外界と隔離し、そも空気が違う」
幽々子さんが扇子をぱんっ、と広げ優雅に口元を隠して結論。
「つまりね、涼しいのよ」
「ええ、確かに涼しいですね」
其れが何か?と云った表情で妖夢さん、幽々子さんを見やりまして。
「外は暑いみたいね。ちょっと前に一騒動在ったでしょう?」
「え、あ、はい。ありました」
妖夢さんはふ、と思い出して。
アレはつい先日。主人の我儘に応える為、氷精のチルノさんを探しに行こうとしたトコロ、普通の魔法使い、魔理沙さんが現れて「チルノなら博麗神社に居るぜ」と情報をくれまして。
まァ、そのまま「面白いコトになるぜ」と言うなり飛び去って、再会したのは博麗神社。ぼろ雑巾の様になっている魔理沙さんと、チルノさん目的の面々。そして暑さにやられたのか、とても正気とは思えない博麗の巫女。
開幕、乱戦。
取り敢えず白楼剣で斬れば元に戻るか?と神速の斬撃。が、通じない。
どうにも、口上で情念、劣情以外は多分斬れる。と言ったのはいいが当の博麗さん、まさに其の塊だったようで。
其処からが酷かった。
牽制は全て倍返しにされ、しかも何故かやけに肉体派な博麗さん。
先ず鈴蘭の毒を撒こうとしていた永琳さんに、力任せに殴り付ける「お払い棒スマッシュ」からの「お払い棒居合い抜き」。硬直キャンセルでスペルカード、「無題『空に飛ばす不思議なお払い棒』」で空中に吹っ飛ばし、続けて「激情『博麗神社の怒り』」発動。安置されていた賽銭箱が空中の永琳さん目掛け飛来、爆砕と云う非情コンボを喰らい昏倒。
拙い、まともに戦っては負ける。ぶっちゃけまともに戦わなくても勝てる気がしないのが不思議。
自身を奮い立たせ最高の踏み込み、速度、力、気力ともに充分と横薙ぎに刀を振れば、「真剣白刃腋」で止められもうどうしろと。
其処へ妹紅さんの新スペル「颶風曇天 -サクラジマヴォルケイノ-」。大規模に炸裂する熱波と小弾が多段で飛び交い、弾幕の向こうから現れるのは魔弾。無骨な大根弾。
博麗さんが飛び退き、妖夢さんも自由になった白楼剣を手に距離を取る。下手をすればあの暑苦しいスペルの巻き添えを喰いますし。
当の博麗さん、落ち着いた様子で弾幕を見やり。
ピコーン。
頭の上に電球が見えた様な。
見切ったぁぁぁぁぁぁ!!と叫び初見のスペルを完璧に避ける!避ける!カスる!
妹紅さんは何故当たらない、とばかりに必死な形相でスペル展開。
幻想の巫女は、屁のツッパリはいらんですよ!などと意味不明な言葉を口にして身を躍らせる。
違和感。
ザァ!と一面の銀光。鋭い刃。ナイフ。
見れば咲夜さんが「サクラジマヴォルケイノ」に重なる様に「幻符『殺人ドール』」。
成る程、先程の違和感は時間を止めたモノか。
此れなら、と妖夢さんは博麗さんに視線をやり――――――戦慄。
恐怖と云うモノは誰にでもあるモノ。特に人間であれば、其の感情は否定出来ない筈で御座いまして。
だが、然し。
博麗さんは三日月の口を更に深くして、そう、妖夢さんには其れが狂気の代弁者に見えて。
―――人鬼「未来永劫斬」。
三重スペル。
弾幕ごっこに於いては最早反則の域。
流石の博麗さんも大根とナイフと刀の同時攻撃には耐えられない筈。
そう思っていた時期が、私にもありました。
社殿が三重スペルの直撃を喰らい、粉砕。ばらばらになる木造家屋と宙を舞うチルノさん。
……チルノさん?そう云えばチルノさん目的で来たんじゃなかったっけ、私。などと妖夢さん、今更ながらに思いますが時既に遅し。
朦々と粉塵が舞い、辺り一面砂埃で視界が利きませどさり。
どさり?
何かが倒れる音。社殿を前にして妖夢さんの左後方。
其処は、咲夜さんが居た位置では?
ぽたりぽたりと頬を伝い流れ落ちる汗。あまりの暑さで下着までぐっしょりと濡れてしまっていて。
びゅう、と一陣の風。晴れる視界。倒れ付す完全で瀟洒な従者。
そして、腋。否、巫女。腋巫女。
妙に晴れやかな顔をした博麗さん。まるで一仕事終えた様ないい笑顔。
巫女はメイドよりも強し。ンッンー、名言だなコレは。と妖夢さんには理解不能なコトバを口走る。
妖夢さんに理解出来たのは博麗さんが何らかの手段を用いて、回避不能の三重スペルを完璧に避けたコトだけ。
幻想空想穴か。と、ぽつり呟いた声の主はすきま妖怪の式、八雲藍。
今日も今日とて立派な尻尾。だが、此の暑さに其の尻尾は逆効果の様で声に元気がありませぬ。
妹紅さんの新スペルに因って巻き起こった熱波の影響で、此処一帯の気温は更に上昇。式の藍さんでも意識が朦朧としてくる段階でありまして。
そう云えば、と博麗さんの向こう、妹紅さんに視線をやれば熱波の中心に居たせいか、ぐったりとして動かない。
コレで、残存戦力は三名。
此処に居れば魔理沙はあんし……ああ、あァ、柔らかいわ魔理沙の手ぇ。こ、こんなに暑いんだから少し脱がせてあげないといけないわよね。ま、ま、先ずは上着からそっと優しく奏でる様に!あァ、素敵、素敵だわ魔理沙……。こんなにぐっしょり濡らしちゃって誘ってるの!?誘ってるのよね!そうよ!そうに決まってる!!だって魔理沙だもの!!私の魔理沙だもの!!うふふふふ、うふ、うふふふふふ。い、いいわ、魔理沙だったら、私、その、捧げちゃう!キャッ!言っちゃった!さ、さァ次はシャツを脱がして、脱がして、それから、それからぁあぁぁぁああァァぁァブッシュゥァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!
ぱたり。
残存戦力、二名。
最初に牽制を繰り出したアリスさん。どうやらそのまま魔理沙さんの安全確保に向かった様で。そして自滅した様で。
妖夢さんは朦朧とする頭で必死に考えますが、暑さのせいかどうにもならず。
いい笑顔の博麗さんもふらふらと足取り頼りなく、そろそろ限界のご様子。
これなら、と隣に立つ藍さんを見ます。コレだけ暑く、更にふわもふの尻尾をお持ちの藍さんも限界に近いご様子ですが、それでも藍さんなら、藍さんならきっと何とかしてくれる!
三重スペル回避の絡繰りを見抜いてから無言だった藍さんが、何かを口にしまして。
妖夢さんが作戦を立てたのかと耳を澄ませば、暑い、我慢、我慢だ。何故我慢する必要があるんだ。脱げ。暑い。脱ぐんだ。駄目だ。我慢だ。自分に正直に。暑い。正直に?脱ぐべきだ。暑い。そうか、ならば脱ごう。そうだ、それが最後のいちじくの葉だ。暑い。ならば私は打って出るぞ。全裸で。などと聞こえて参りまして。
ざ、と藍さんが一歩を踏み出し、着衣に手を掛け宙を舞う。
刹那よりも短い時間、行われた行為。
其れは完璧なスッパテンコー。解き放たれた崇高なる魂。
嗚呼、何て素敵な笑顔なんだろう。満ち足りた表情。そして落下。ぐしゃあ。撃沈。
どうやら衣服だけでなく、意識までも手放したようで。
……残存戦力、一名。
妖夢さんは、ふ、と微笑むと空を仰いで眩しいなァ、なんてコトを思いつつ。
ぱたり。
限界で御座いました。肉体的にも精神的にも。
辛うじて残った意識で確認出来たのは、博麗さんがコレでチルノは私のモノぉ……?ぱたり、と云った光景だけ。
気付けば三途の川の畔で、あの場に居たメンバー全員「よーむ?」
メンバー全員私?なにその悪夢。
「あ、は、はい?」
敬愛する主人からの声で、唐突に現実に引き戻された妖夢さん。
つぅ、と嫌な汗が背中を流れまして。
「急に遠くを見て七面相を始めるんだもの、大丈夫?」
「え、ええ。ご心配をお掛けしました」
そして私は心労を掛けられてる訳ですが。
「それでね、話を戻すんだけど」
「はい」
「あの騒動、結局原因は暑さだったでしょう?」
「そう、ですね。何方かは素麺の氷がどうとか仰っていましたけど」
「妖夢」
静かになる世界。そう、其処は完全な「死んだ世界」。
幽々子さんが目を細くして従者を見やり、言う。
「素麺の氷を馬鹿にしてはならないわ。素麺は素麺、氷は氷。単体では個としての意味しか持たない。勿論『意味』なんて後付けされるモノ。意味を追い求めるなんて其れこそ『意味のない』コト」
幽々子さんは真剣其のモノ。未だ半人前の従者に、理を説く。
「だけれど、素麺と氷。掛け合わせた時にこそ、掛け値なしの『意味』が付加されるのよ。其れは崇高。其れは奇跡。個としての意味合いしか持ち得ぬモノが、掛け合わせたコトで至上の存在へと昇華する。相乗効果。此れは真理よ」
「…………」
「其処に『意味』が存在するのならば、其れを『死』なさぬ様、適した解を用意し昇華させる。いいえ、導くのよ」
其処まで説いて、幽々子さんの雰囲気がぽわん、とした春爛漫に。
世界に色彩が戻れば其処はいつもの白玉楼。
「解った?妖夢」
「はい、解りました。ですが幽々子様」
妖夢さんは話を聞いた上で、にこやかに微笑んで言うのです。
「結局幽々子様が食べたかっただけですよね」
「いゃん、よーむのいけずー」
先程の内容、適当に言っただけの様で御座いました。
***
「それで、結論は何なんですか?」
「あむ?」
幽々子さん、先程の説明で満足してしまっていたのか、大福を五つ口の中に頬張って幸せそう。
「あむ、うむむ、あむうむむむあむあむうむむー」
「喋るか食べるかどちらかにしてください。行儀が悪いですから」
「あむむ」
言われて幽々子さん、六つ目の大福に手を伸ばしてぱくり。
食った。説明そっちのけで食った。
コレはアレか、私に対する挑戦か。いつものコトだけど。
でも本当に美味しそうに食べますね。幽々子様はどうしてこんな幸せそうな顔が出来るのでしょうか。
此の顔が見たくて、私も美味しい料理をお出し出来るように努力するんですけれど。
「幽々子様、其れを食べたら説明してくださいね」
仕方ない、とばかりに苦笑して妖夢さんは幽々子様の隣、お盆に手を伸ばして急須を取りまして、ゆっくりと空になった湯飲みにお茶を注いで。
幽々子さんはこくこくと頷くと、もぐもぐもぐもぐ幸せそうなお顔。
ごくんと飲み込んで妖夢さんから湯飲みを受け取りずずーっと啜ってぷはぁと一息。
「つまりね、外が暑いなら少しの間でも涼んで貰いたいのよ。私達だけ涼しいなんて、ズルいでしょう?」
「はぁ、ズルくはないと思いますけど」
「例年に比べて今年は猛暑みたいだし、生者が此方側に来るのはあまり喜ばしいコトではないけれど」
夏でも快適白玉楼。たまには騒がしいのもいいじゃない。
にっこり笑って幽々子さん。此の笑顔を見る為なら、多少の苦労は厭うまい。
全くもう。
溜息こそ吐きますが、気分は晴れやか。
太陽はそろそろ中天。開催時間の正午も近い。
「それでは、取り敢えず昼食にしましょうか」
「わーい、よーむのごはんー」
童女の様にきゃっきゃと喜ぶ幽々子さん。
何だか嬉しくなって妖夢さん、つい微笑んでしまいまして。
でも、また一騒動起きるんだろうなァ、なんて。
胸に去来する一抹の不安感。色々と忙しくなりそうですし、気合を入れなければ。
ふ、と主人を見ればふにゃふにゃと可愛らしい笑顔。
此の笑顔があれば私は頑張れる。此の笑顔があるから私は此処に居る。
さて、先ずは美味しいご飯を作りましょうか!
狂乱は、乱痴気騒ぎは直ぐ其処で御座いました。
*著者前作、「暑い夏の乱痴気騒ぎ」の続きかも知れません。
*設定など、引き継いでいる部分がかなり御座います。
*一部、プチ東方創想話「妹紅さんはスペル製作の時、名前から入ります」よりスペルカードネタを持ってきています。
一度はおいで、夏でも快適白玉楼。
さてさて、皆様も良くご存知の此処は白玉楼で御座いまして。
当主、西行寺の幽々子さんと其の従者、魂魄の妖夢さんが住んでおります。
来訪する客は殆ど居らず、二人きりで変わらぬ生活を続けていまして。
まァ、現状に関して特に不満がある訳ではなく、寧ろ此の生活こそが求むべき日常。と云った感じでしょうか。
「よーむー」
「はい、ただいまー」
縁側でお茶を飲みながら此れでもか、とばかり大福を頬張っていた幽々子さんが唐突に声を上げまして。
呼ばれた本人、庭の手入れをしていた妖夢さんはとててと小走りに主人のトコロに向かいますれば。
「何の御用ですか?幽々子様」
今日も今日とて変わらぬ容姿、背には名高き楼観剣と白楼剣。頭にはちょこんときくらげリボン。
幼い顔をきりりと引き締めて、主人の前で姿勢正しく。
「今日の昼食ですか?良い八目鰻をミスティアさんから戴いたので、其れにしようと思ってますが」
「あら、其れは美味しそう。でもご飯の件じゃないのよぅ」
え?と、妖夢さんは固まりまして。
幽々子様が、あの幽々子様が私を呼び付けておいて「ご飯の件じゃない」と言う。
誰だろうコレ。偽幽々子?
多分目から光線出したり、尻から死蝶霊を出したりするんだ。
だってだって、幽々子様はご飯の件じゃないなんて言わない。
そんなの幽々子様じゃない!
妖夢さんの脳内ではそいやそいやと大量のちび萃香さんが阿波踊りを繰り広げる始末。
「幽々子さん=食欲の権化」の式が成り立っていた妖夢さんからすれば当然の事態。
「……失礼ですが幽々子様でいらっしゃいますよね?」
動揺しながらも、其れを表向きには出さない様心掛けて訊ねてみまして。
あ、斬った方が早かったかも。斬るか。
「なぁに?貴女のご主人様の幽々子さまよぅ?本人を目の前にして失礼しちゃうわぷんぷん」
まるで童女の様な仕草でぷぅ、と頬を膨らませるは白玉楼のご主人様。威厳?何それ。美味しい?
妖夢さんは小さく溜息を吐きまして、安堵。
良かった。此の飛び抜けて春爛漫な物言い。ずば抜けて春爛漫な脳味噌の持ち主は幽々子様以外に有り得ない。
もし斬っていたら文々。新聞の三面トップは間違いなく私のモノだった。
「失礼しました。其れで、御用向きは何でしょうか?」
「んっとねぇ、コレなんだけど」
ぴらり、と一枚の神。歩いてお帰り。失礼、紙。
妖夢さんが差し出された其れを手に取り、まじまじと見まして。
紙面には見出しにでかでかと「人物絵画コンテスト!」と書かれておりました。
次いで「豪華商品!食料もあるよ?」と。
妖夢さんは小首を傾げ、暇人もいるモノだなぁ。とぼんやり。
そうしてそのまま内容を黙読するので御座いました。
~少女、黙読中~
人 物 絵 画 コ ン テ ス ト !
~豪華賞品!食料もあるよ?~
宴会以外にイベントがないのは寂しいと思わないか?
折角だから善意の第三者がコンテストを開催するぜ。
賞品は私だけじゃ用意出来ないから、一人一品。提供をして貰う。
此れがそのままコンテストの参加資格になると思ってくれ。
賞品に関しては上位三名に贈呈と云った形式を採るから其のつもりでな。
例えどんな結果になっても弾幕ごっこは禁止だ。
コンテストが終わった後で宴会も開催する予定だから、宴会用の材料も頼むぜ。
詳しいルールとかは会場でするから、挙って参加してくれ。
涼しい場所で絵を描くなんてのも、たまにはいいだろ?
参加資格:賞品になりそうなモノ、一品提供。
おやつ:300ルピーまで
開催時間:七月☆日、正午
会場:白玉楼
~少女、黙読終了~
…………………
……………
………
…
はて?
「ゆゆこさま?」
「なぁに妖夢。平仮名喋りなんかしちゃって。お布団敷く?」
どういう意味だ。
「私の目が悪くなっていなければ、会場に白玉楼と書かれているようですが」
「そうね、妖夢の目は確かよ?」
「私の頭が悪くなっていなければ、つまり此処で此のコンテストとやらが開催されると」
「ええ、妖夢の頭は大丈夫」
「しかも七月☆日って今日ですよね。許可なさったんですか?」
「いいえ?」
其処まで訊いて、妖夢さんは大きく溜息を吐きまして。
「もう、驚かさないでくださいよ。また庭が荒らされたり料理作りに奔走したり後始末をしたりで苦労するの「来たらするけど」するのかよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
大・絶・叫。
妖夢さんは神速で幽々子さんの肩を掴むとがっくんがっくん揺さ振りまして。
決して、ちょっとシェイクしてやれば此の春色ギャストリドリームな脳味噌もまともになるんじゃないかと思ってやっている訳ではなく。……訳ではなく。多分。
「何でですかどうしてですか来たらするってコトは魔理沙さんは許可なく勝手にこんなイベントを多分きっと暇だからとか面白そうだからとかそう云う臍で茶が沸くドコロか腋で茶が沸くくらいくだらない理由で此処白玉楼で開催しようとしてそうすれば私がてんてこ舞いになって腕とか足とかがくがくになって疲れ果てるのが目に見えてるって云うのに半人半霊だから疲れも半分大丈夫なんて想像でモノ言ってたら何時か刺されますよ主に私にというか大変になるのは否どう考えたって大変になるじゃないですか私は巫女みたいに暇じゃないんですそうですよ博麗神社で開催すればいいじゃないですか何時も通り宴会もそのまま博麗神社あでも此の前壊しちゃったんですっけまァいいやそんなコトそれよりそうすれば私の負担は減るのにそれなのに幽々子様は許可すると言うあ解った此れがいじめですね庭師いじめ知ってますよ私知ってますでももう限界なんです胃がキリキリ舞いキリキリ舞いなんです無理です無理なんですって無理っつってんだろ一目瞭然だろ一目瞭然⑨でも理解できあー出来るかな出来ないかな出来ないかもなぁもういいや斬っていいかないいよね斬っちゃううん斬ろう最近人斬ってないし斬れば少しは楽になるよねあははうふふくるくるクルクルくるクル来る来る繰る繰るくるりんそりゃ曹操もこやつめハハハって言いますよこう云う冗談を言う軍師が居たのが昔の魏なんだよな今のゲームでは司馬懿が扇子もって暴れるらしいから困るってつまり私が言いたいのは訊きたいのは問いたいのはどうしてこう馬鹿げたイベントを軽々しく許可しようとするんですかぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁ!!!!」
心からの大・絶・叫で御座いまして。
妖夢さんの溜めに溜めたストレスがついに爆発。
言い終えるなり、ぜい、と息を吐いて揺さ振っていた腕を止め。
泡を吹いている主人を目にしまして。
「ゆ、幽々子様ーーーーーーーーーーーー!?」
本日三度目の大・絶・叫。
***
「ええと、何が起こったのかしら?」
「突如西の空より銀色に輝く円盤が飛来して参りまして、幽々子様は其れの直撃を」
顔色一つ変えずに淡々と大法螺を吐く妖夢さん。此の庭師、潜在能力が計り知れない。
あれからてんやわんやの大騒ぎ。揺さ振っても起きませんし頬を叩いても目覚めない主人に業を煮やした妖夢さん。
最初は必死だったんですが、なんか面倒臭くなったので首元を横から思い切りチョップしたら「モルスァ」みたいなこと言いながら凄い勢いで飛んで行きまして。
其れで漸く幽々子さんも気が付かれて、不思議そうに周りをきょろきょろ見回しながら何時もの縁側にすとんと腰を下ろした次第。
「そう、其れなら仕方ないわね」
「ええ。仕方ありません」
仕方なくはないのですが。もしも本当にその様な事態が起こったならば、従者である妖夢さんは身体を張って止めるべきではないのかと。
まァ、夏真っ盛り!なのにも関わらず春爛漫なオツムのお嬢様。気にも留めずに話を続けまして。
「それでね、此のコンテストなんだけど」
「ええ、大変糞戯けた内容ですね。胃潰瘍も真っ青の」
コトバに棘がある。と、云うか棘しかない妖夢さん。
然しながら相手は天下の幽々子さん。華の咲いた様な笑顔を見せて、妖夢さんの毒気を抜くのです。
此れを無意識の内に出来るのが幽々子さんの幽々子さん足る所以。「華胥の亡霊」と云う二つ名は伊達ではないので御座いまして。
「私も何も考えずに許可する訳ではないの」
「と、申されますと?」
「此処は冥界。冥界の白玉楼。外界と隔離し、そも空気が違う」
幽々子さんが扇子をぱんっ、と広げ優雅に口元を隠して結論。
「つまりね、涼しいのよ」
「ええ、確かに涼しいですね」
其れが何か?と云った表情で妖夢さん、幽々子さんを見やりまして。
「外は暑いみたいね。ちょっと前に一騒動在ったでしょう?」
「え、あ、はい。ありました」
妖夢さんはふ、と思い出して。
アレはつい先日。主人の我儘に応える為、氷精のチルノさんを探しに行こうとしたトコロ、普通の魔法使い、魔理沙さんが現れて「チルノなら博麗神社に居るぜ」と情報をくれまして。
まァ、そのまま「面白いコトになるぜ」と言うなり飛び去って、再会したのは博麗神社。ぼろ雑巾の様になっている魔理沙さんと、チルノさん目的の面々。そして暑さにやられたのか、とても正気とは思えない博麗の巫女。
開幕、乱戦。
取り敢えず白楼剣で斬れば元に戻るか?と神速の斬撃。が、通じない。
どうにも、口上で情念、劣情以外は多分斬れる。と言ったのはいいが当の博麗さん、まさに其の塊だったようで。
其処からが酷かった。
牽制は全て倍返しにされ、しかも何故かやけに肉体派な博麗さん。
先ず鈴蘭の毒を撒こうとしていた永琳さんに、力任せに殴り付ける「お払い棒スマッシュ」からの「お払い棒居合い抜き」。硬直キャンセルでスペルカード、「無題『空に飛ばす不思議なお払い棒』」で空中に吹っ飛ばし、続けて「激情『博麗神社の怒り』」発動。安置されていた賽銭箱が空中の永琳さん目掛け飛来、爆砕と云う非情コンボを喰らい昏倒。
拙い、まともに戦っては負ける。ぶっちゃけまともに戦わなくても勝てる気がしないのが不思議。
自身を奮い立たせ最高の踏み込み、速度、力、気力ともに充分と横薙ぎに刀を振れば、「真剣白刃腋」で止められもうどうしろと。
其処へ妹紅さんの新スペル「颶風曇天 -サクラジマヴォルケイノ-」。大規模に炸裂する熱波と小弾が多段で飛び交い、弾幕の向こうから現れるのは魔弾。無骨な大根弾。
博麗さんが飛び退き、妖夢さんも自由になった白楼剣を手に距離を取る。下手をすればあの暑苦しいスペルの巻き添えを喰いますし。
当の博麗さん、落ち着いた様子で弾幕を見やり。
ピコーン。
頭の上に電球が見えた様な。
見切ったぁぁぁぁぁぁ!!と叫び初見のスペルを完璧に避ける!避ける!カスる!
妹紅さんは何故当たらない、とばかりに必死な形相でスペル展開。
幻想の巫女は、屁のツッパリはいらんですよ!などと意味不明な言葉を口にして身を躍らせる。
違和感。
ザァ!と一面の銀光。鋭い刃。ナイフ。
見れば咲夜さんが「サクラジマヴォルケイノ」に重なる様に「幻符『殺人ドール』」。
成る程、先程の違和感は時間を止めたモノか。
此れなら、と妖夢さんは博麗さんに視線をやり――――――戦慄。
恐怖と云うモノは誰にでもあるモノ。特に人間であれば、其の感情は否定出来ない筈で御座いまして。
だが、然し。
博麗さんは三日月の口を更に深くして、そう、妖夢さんには其れが狂気の代弁者に見えて。
―――人鬼「未来永劫斬」。
三重スペル。
弾幕ごっこに於いては最早反則の域。
流石の博麗さんも大根とナイフと刀の同時攻撃には耐えられない筈。
そう思っていた時期が、私にもありました。
社殿が三重スペルの直撃を喰らい、粉砕。ばらばらになる木造家屋と宙を舞うチルノさん。
……チルノさん?そう云えばチルノさん目的で来たんじゃなかったっけ、私。などと妖夢さん、今更ながらに思いますが時既に遅し。
朦々と粉塵が舞い、辺り一面砂埃で視界が利きませどさり。
どさり?
何かが倒れる音。社殿を前にして妖夢さんの左後方。
其処は、咲夜さんが居た位置では?
ぽたりぽたりと頬を伝い流れ落ちる汗。あまりの暑さで下着までぐっしょりと濡れてしまっていて。
びゅう、と一陣の風。晴れる視界。倒れ付す完全で瀟洒な従者。
そして、腋。否、巫女。腋巫女。
妙に晴れやかな顔をした博麗さん。まるで一仕事終えた様ないい笑顔。
巫女はメイドよりも強し。ンッンー、名言だなコレは。と妖夢さんには理解不能なコトバを口走る。
妖夢さんに理解出来たのは博麗さんが何らかの手段を用いて、回避不能の三重スペルを完璧に避けたコトだけ。
幻想空想穴か。と、ぽつり呟いた声の主はすきま妖怪の式、八雲藍。
今日も今日とて立派な尻尾。だが、此の暑さに其の尻尾は逆効果の様で声に元気がありませぬ。
妹紅さんの新スペルに因って巻き起こった熱波の影響で、此処一帯の気温は更に上昇。式の藍さんでも意識が朦朧としてくる段階でありまして。
そう云えば、と博麗さんの向こう、妹紅さんに視線をやれば熱波の中心に居たせいか、ぐったりとして動かない。
コレで、残存戦力は三名。
此処に居れば魔理沙はあんし……ああ、あァ、柔らかいわ魔理沙の手ぇ。こ、こんなに暑いんだから少し脱がせてあげないといけないわよね。ま、ま、先ずは上着からそっと優しく奏でる様に!あァ、素敵、素敵だわ魔理沙……。こんなにぐっしょり濡らしちゃって誘ってるの!?誘ってるのよね!そうよ!そうに決まってる!!だって魔理沙だもの!!私の魔理沙だもの!!うふふふふ、うふ、うふふふふふ。い、いいわ、魔理沙だったら、私、その、捧げちゃう!キャッ!言っちゃった!さ、さァ次はシャツを脱がして、脱がして、それから、それからぁあぁぁぁああァァぁァブッシュゥァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!
ぱたり。
残存戦力、二名。
最初に牽制を繰り出したアリスさん。どうやらそのまま魔理沙さんの安全確保に向かった様で。そして自滅した様で。
妖夢さんは朦朧とする頭で必死に考えますが、暑さのせいかどうにもならず。
いい笑顔の博麗さんもふらふらと足取り頼りなく、そろそろ限界のご様子。
これなら、と隣に立つ藍さんを見ます。コレだけ暑く、更にふわもふの尻尾をお持ちの藍さんも限界に近いご様子ですが、それでも藍さんなら、藍さんならきっと何とかしてくれる!
三重スペル回避の絡繰りを見抜いてから無言だった藍さんが、何かを口にしまして。
妖夢さんが作戦を立てたのかと耳を澄ませば、暑い、我慢、我慢だ。何故我慢する必要があるんだ。脱げ。暑い。脱ぐんだ。駄目だ。我慢だ。自分に正直に。暑い。正直に?脱ぐべきだ。暑い。そうか、ならば脱ごう。そうだ、それが最後のいちじくの葉だ。暑い。ならば私は打って出るぞ。全裸で。などと聞こえて参りまして。
ざ、と藍さんが一歩を踏み出し、着衣に手を掛け宙を舞う。
刹那よりも短い時間、行われた行為。
其れは完璧なスッパテンコー。解き放たれた崇高なる魂。
嗚呼、何て素敵な笑顔なんだろう。満ち足りた表情。そして落下。ぐしゃあ。撃沈。
どうやら衣服だけでなく、意識までも手放したようで。
……残存戦力、一名。
妖夢さんは、ふ、と微笑むと空を仰いで眩しいなァ、なんてコトを思いつつ。
ぱたり。
限界で御座いました。肉体的にも精神的にも。
辛うじて残った意識で確認出来たのは、博麗さんがコレでチルノは私のモノぉ……?ぱたり、と云った光景だけ。
気付けば三途の川の畔で、あの場に居たメンバー全員「よーむ?」
メンバー全員私?なにその悪夢。
「あ、は、はい?」
敬愛する主人からの声で、唐突に現実に引き戻された妖夢さん。
つぅ、と嫌な汗が背中を流れまして。
「急に遠くを見て七面相を始めるんだもの、大丈夫?」
「え、ええ。ご心配をお掛けしました」
そして私は心労を掛けられてる訳ですが。
「それでね、話を戻すんだけど」
「はい」
「あの騒動、結局原因は暑さだったでしょう?」
「そう、ですね。何方かは素麺の氷がどうとか仰っていましたけど」
「妖夢」
静かになる世界。そう、其処は完全な「死んだ世界」。
幽々子さんが目を細くして従者を見やり、言う。
「素麺の氷を馬鹿にしてはならないわ。素麺は素麺、氷は氷。単体では個としての意味しか持たない。勿論『意味』なんて後付けされるモノ。意味を追い求めるなんて其れこそ『意味のない』コト」
幽々子さんは真剣其のモノ。未だ半人前の従者に、理を説く。
「だけれど、素麺と氷。掛け合わせた時にこそ、掛け値なしの『意味』が付加されるのよ。其れは崇高。其れは奇跡。個としての意味合いしか持ち得ぬモノが、掛け合わせたコトで至上の存在へと昇華する。相乗効果。此れは真理よ」
「…………」
「其処に『意味』が存在するのならば、其れを『死』なさぬ様、適した解を用意し昇華させる。いいえ、導くのよ」
其処まで説いて、幽々子さんの雰囲気がぽわん、とした春爛漫に。
世界に色彩が戻れば其処はいつもの白玉楼。
「解った?妖夢」
「はい、解りました。ですが幽々子様」
妖夢さんは話を聞いた上で、にこやかに微笑んで言うのです。
「結局幽々子様が食べたかっただけですよね」
「いゃん、よーむのいけずー」
先程の内容、適当に言っただけの様で御座いました。
***
「それで、結論は何なんですか?」
「あむ?」
幽々子さん、先程の説明で満足してしまっていたのか、大福を五つ口の中に頬張って幸せそう。
「あむ、うむむ、あむうむむむあむあむうむむー」
「喋るか食べるかどちらかにしてください。行儀が悪いですから」
「あむむ」
言われて幽々子さん、六つ目の大福に手を伸ばしてぱくり。
食った。説明そっちのけで食った。
コレはアレか、私に対する挑戦か。いつものコトだけど。
でも本当に美味しそうに食べますね。幽々子様はどうしてこんな幸せそうな顔が出来るのでしょうか。
此の顔が見たくて、私も美味しい料理をお出し出来るように努力するんですけれど。
「幽々子様、其れを食べたら説明してくださいね」
仕方ない、とばかりに苦笑して妖夢さんは幽々子様の隣、お盆に手を伸ばして急須を取りまして、ゆっくりと空になった湯飲みにお茶を注いで。
幽々子さんはこくこくと頷くと、もぐもぐもぐもぐ幸せそうなお顔。
ごくんと飲み込んで妖夢さんから湯飲みを受け取りずずーっと啜ってぷはぁと一息。
「つまりね、外が暑いなら少しの間でも涼んで貰いたいのよ。私達だけ涼しいなんて、ズルいでしょう?」
「はぁ、ズルくはないと思いますけど」
「例年に比べて今年は猛暑みたいだし、生者が此方側に来るのはあまり喜ばしいコトではないけれど」
夏でも快適白玉楼。たまには騒がしいのもいいじゃない。
にっこり笑って幽々子さん。此の笑顔を見る為なら、多少の苦労は厭うまい。
全くもう。
溜息こそ吐きますが、気分は晴れやか。
太陽はそろそろ中天。開催時間の正午も近い。
「それでは、取り敢えず昼食にしましょうか」
「わーい、よーむのごはんー」
童女の様にきゃっきゃと喜ぶ幽々子さん。
何だか嬉しくなって妖夢さん、つい微笑んでしまいまして。
でも、また一騒動起きるんだろうなァ、なんて。
胸に去来する一抹の不安感。色々と忙しくなりそうですし、気合を入れなければ。
ふ、と主人を見ればふにゃふにゃと可愛らしい笑顔。
此の笑顔があれば私は頑張れる。此の笑顔があるから私は此処に居る。
さて、先ずは美味しいご飯を作りましょうか!
狂乱は、乱痴気騒ぎは直ぐ其処で御座いました。
(・ω・`)博麗さんBが居ない…(マテ
アリスは自滅ですが、幸せそうだからヨシ。
壊れてないのがどこにいるのかと聞きたいのは間違いなく私だけではないですな先生・・・(--;
頭の上に電球が見えた様な。
初見でハード、ルナスペルが見切れるのが霊夢さん、やっぱ強ぇぇ。
しかも腋か、腋で剣を止めるのか、巫女は。
それでは私の一番の楽しみ、感想へのレスをををー。
>>(・ω・`)博麗さんBが居ない…(マテ
そ、その内また出てくるかもっw
>>ここまで妖夢壊しといて誰も壊れてないってあんたwwwwwwww
あはは、そんな妖夢が壊れてるなんて……あれ?w
>>むしろ壊れてない人がいねえwwwwww
幽々子さんが居るじゃないですかぁ。あ、でも「モルスァ」って飛んでったっけ。
>>咲夜さんだけ攻撃されたようだけど、他は全員暑さにやられて勝手に潰れただけですなw
永琳さんのコトも思い出してあげてください(´・ω・)
>>壊れてないのがどこにいるのかと聞きたいのは間違いなく私だけではないですな先生・・・(--;
え、ええと……咲夜さんとかっ。
>>チルノに合掌…
南無ー。
>>初見でハード、ルナスペルが見切れるのが霊夢さん、やっぱ強ぇぇ。
>>取り敢えず暴走霊夢が恐ろしい存在と言うのは分かった。
流石は博麗の巫女さんです。強いですよー。恐ろしいですよー。
>>もこたん、使ったのか、大根弾。いやそもそもそれってどんなのよ。
ちょっと無骨で大き目の大根のカタチをした弾で御座いまして。
>>しかも腋か、腋で剣を止めるのか、巫女は。
博麗の巫女に不可能はないッ!……超ごめんなさいクレイドル。
おかしいですねぇ、誰も壊れてないと思ったんですけどー。
あ、そうか。壊れてるのは私か。あははははははー。
感想感謝で御座いまするるん。
次回はものごっつい更なる壊れを期待しています(酷
>巫女はメイドよりも強し。ンッンー、名言だなコレは。
吹きました。これだけでもうOK。ただ師匠にもう少し頑張って欲しかった…
ちょっと魅して見