Coolier - 新生・東方創想話

『紅魔館殺妖事件 ~ what's your name ? ~』

2006/07/21 10:39:53
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*一部にグロ表現含みます。
*オリキャラ多数あります。
*一応ミステリですので、できれば後書き等を見ずにご賞味ください。
*80kbくらいありますので、お茶とお菓子を用意してごゆっくりどうぞw























――貴女? 私を呼んだのは。

――さて? そう呼ばれる事もあるけど……どうでしょうねぇ。私は私でしかないですし。

――ん? 力が欲しいの? どうして?

――あぁ、確かに痛いのは嫌ですよねぇ。解ります、解りますとも。戦うなんて野蛮で下品ですし、もう少しスマートにやりたいですよね。

――成る程、貴女の仰りたい事は良く解りました。ありますよ? 貴女の望みを叶える方法……ただし、凄く『痛い』ですよ?

――ふむん、貴女の覚悟は解りました。それでは……祈るのです。毎朝、毎朝、一日たりと欠かす事無く。

――ああ、いえいえ。そんな曖昧なもんじゃないですよ? 効果は抜群です。まずはこうやって……




          絶叫が       


                  闇に


                          響く。




――これで貴女の願いは叶うでしょう。

――私はね、嘘を言った事がないのが自慢なんですよ。

 そう言って

 にたにたと

 にたにたと


 『彼女』は哂った――


  §


「咲夜さん、ちょっと良いですか?」

 紅魔館の昼は忙しい。当主である紅い悪魔の活動時間は夜であるが、或いは夜であるが故に昼のうちに雑務を終わらせなければならない。メイド長である十六夜咲夜がその能力を用いて館内部の空間を弄ぶ事により広大な領土を誇るため、掃除だけでも戦場のような忙しさである。第二、第五メイド隊に命を下し、自らも能力をフルに使用して館を磨き上げる咲夜は、ここ数日に発生したある問題によって頭を悩ませていた。
 そんな折である。門番隊隊長である紅美鈴から声を掛けられたのは。
 その声音と表情で事情を察した咲夜は、小隊長に続きを命じて美鈴の下へと歩み寄った。美鈴は一つ頷いて、案内をすべく先に歩き出す。二人の歩調は知らず早くなっていた。
「またなの?」
「またです」
「今回は何処かしら?」
「裏庭の……塀の傍です」
 咲夜はふぅっと溜息を吐く。
 その顔は疲れ切っており、鮮やかな銀の髪も心なしか艶がない。
「大丈夫ですか? お疲れのようですが」
「貴女に心配されちゃ私もおしまいねぇ。大丈夫よ、ちょっと寝不足なだけ」
「すいません。門番隊としても厳重に警戒しているのですが……」
「ええ、よくやっていると思うわ。愚痴を言うのはアレだけど……早く決着を付けないと、ね」
「はい……あ、そこです。その角を曲がったところ」
 二人は角の前で一瞬足を止め、そして覚悟を決めたように足を踏み出す。
 
 ――そこは血の海。

 投げ出された手。
 光のない虚ろな瞳。
 真っ白な顔。
 ふくよかな胸部。

 それと

 燕脂色のスカート。
 細い腰。
 だらしなく開かれた足。
 良く磨かれた黒いスェードの靴。

 これらを繋ぐべき――腹部が存在しなかった。

 おそらくは一瞬で破壊されたのだろう。吹き飛ばされた腹部は内臓ごと消失している。凄まじい力で粉砕されたのか塀や周りの木々にべっとりと赤い染みを付け、残った部品から漏れ出る生命の残滓が地面に赤い海を生み出していた。てらてらと紫色にぬめる臓器が零れ、苦悶に見開かれた瞳と目が合い、咲夜は形の良い眉毛を少し歪ませる。
「いつから?」
「昨夜の見回りでは何も異常ありませんでした。こちら側はあまり警備に力を入れていないので……先ほど部下が発見するまでは誰も」
「早朝から午前中に掛けて、か。……血、乾いているわね」
「えぇ、ですから早朝だと思われます。隊の引継ぎで警戒が甘くなる時間でもありますし」
「これで三人目か……外部犯の可能性は?」
「……ないと思います。一昨日、事件が発生した時から警戒レベルを上げておりますし。絶対と言い切れないのが申し訳ないのですが……」
「言い切って良いわ。貴女の事だから、ずっと館の周囲に『気』を張り巡らせていたのでしょう? この二日程、昼夜を問わず」
「はい……ですが、絶対とは」
「過小評価は貴女の悪い癖よ。それにほら……」
 咲夜はしゃがみ込み、上半身だけとなった死体の首の向きを変える。
 かくん、と壊れた人形のように項垂れる死体。
 その首元には、二筋の赤い線。

 そこには、二本の犬歯で抉られた――噛み跡があった。

















                    『紅魔館殺妖事件 ~ what's your name ? ~』





















「今回の被害者はメアリー・スチームハルト。第三メイド隊の娘ね」
「また、第三ですか」
「えぇ、ティス、ディクシーに続いて三人目。半数も欠いてはメイド隊としての業務も果たせなくなるから……近日中に、再編成となるでしょうね」
「……その……やっぱり、お嬢様でしょうか?」
「美鈴」
「はっ、申し訳ありません! 出過ぎた真似を」
「いいわ。でも口外は無用の事」
「はい。ですが……その……」
「噂になってる?」
「……はぁ、一応門番隊に緘口令は強いているのですが」
「……メイド隊も同じよ。人の口に戸は立てられない。妖怪でも同じみたいね」
 咲夜は門番隊が死体の処理を行うのを横目で見ながら、溜息混じりに呟いた。
 最初の被害者が出た時点で対応が遅れた為、この事件は館中に広まっている。噂は飛び火し、余計な付属物がいくつも付いて、レミリアが退屈凌ぎにメイド達を手当たり次第に殺しているとか、フランドールが気紛れに夜を徘徊し目に付く者を片端から破壊しているなどという噂が一人歩きしていた。しかも五体が引き千切られていたとか、首だけが時計塔の尖塔に突き刺さっていたとか、一体何処をどう伝わればそうなるのかという程に。
 噂がレミリアの耳に入らぬよう咲夜も注意していたが、近い内にレミリアもこの事件を知るだろう。
 できればその前に、事件を解決したい。
「ですが、一体誰が……」
「お嬢様方ではない、そう言い切りたいのだけれど……」
 この館に棲まう者は、咲夜を除き全て何らかの妖だ。当然、それぞれに人知を超えた能力を持ち、中には人肉を喰らう者、血液を啜る者もいる。被害者の三人ともが腹部を破壊され、喉下に血を吸われた跡が残っているものの、実行可能という点ではこの館の誰もが可能だ。
 アリバイを元に捜査しようにも、咲夜自身が『時を止める』というイレギュラーな能力を持っている。ましてや妖の跋扈するこの館では、自身の能力を秘密にしている者も多い。館への就職資格としてある程度の『強さ』は求められるが、逆に言えば『ある程度の力』を証明してみせれば良いのだ。実力の全てを見せる必要などない。だから内部犯という可能性は高いのだけれど……

 しかしそれでも――紅い悪魔の異名は遠く、幻想郷の果てまで響いている。

 当主姉妹の力を一端でも見た者は、噂は真実であると恐れおののくであろう。
 当主としての威厳は冷徹と映り、単なる稚気は狂気と映る。その傾向は、むしろ館の内部でこそ――強い。
 レミリアの前で粗相をしたメイドの一人が、涙を流し床に頭を擦り付けて何度も謝りついには失禁してしまったという話は、笑い話というよりレミリアの厳格さと恐怖を増長した。もっともレミリアは、その時鷹揚に「あぁ、そのくらい構わないわ」と言っていたのだが。
 またある時、地下室の清掃を命じられたメイドが「ねぇ、遊んで」と背中から掛けられた声に、館中に響く悲鳴を上げて逃げ出しそのまま二度と戻ってこなかったという逸話もある。その時フランドールは手にしたトランプを取り落とし、呆然と逃げ去るメイド姿を見つめていたそうだ。「私、何か悪い事したのかなぁ」と涙ぐむフランドールを慰め、咲夜は一晩中ババ抜きの相手をさせられたものである。

 だから、お嬢様たちは犯人ではない。

 ……そう思いたい咲夜であったが、殺された三人はメイド隊の中でもかなりの強者。
 第三メイド隊――通称『三番隊』――はメイドとしての業務を軽減されている代わりに、いざ戦いとなれば先陣を切る戦闘部隊である。その彼女たちが碌に反撃も出来ぬまま無残に殺される……そんな事が可能なのは……そう思うのも無理のない事であった。
「いっそ外部犯だったら、気も楽だったんだけどね」
「……そうですね」
 咲夜の軽口にも乗らず、美鈴は顔を曇らせた。
 お人好しなんだから、と咲夜は美鈴の沈んだ顔を見て思う。
 今回の件は美鈴の責任ではない。だというのに……責任を感じているのだろう。妖怪の癖に、人間だって喰う癖に、美鈴は非常に仲間意識が強い。これが他所で起きた事件なら美鈴は関心も示さないであろうに、仲間――家族の中で起きた事件であるが故に、美鈴はその顔を曇らせ、不眠不休で結界を張り続けているのだ。疑うためでなく――信じるために。
「三番隊ってのに意味があるのかしら?」
「かもしれません。ですが三番隊は基本的に待機任務ばかりですので……単独行動も多く、狙われやすいという事も」
「そうね」
 咲夜は軽く親指の爪を噛んだ。子供みたいとからかわれた事もあったが、癖というのは抜けないからこそ癖である。咲夜は爪を噛みながら思考に没頭する。
「……お嬢様ではないと思う。さりげなく目を光らせていたけれど、昨晩お嬢様がお一人で動かれた様子はなかったわ」
「ではフランドール様は?」
「地下室の扉に髪の毛で印を付けて置いたのだけれど、朝確認した時には破られてなかったわ。昨夜は地下室から出られていない筈」
「なら、お二人ではないという事ですね!」
「そうね」
 我が事のように喜ぶ美鈴に、咲夜は軽く微笑んで答える。内心の疑念を――おくびも見せずに。
 確かに二人の行動は、犯人ではないというアリバイ足りえる。
 だが、それを誤魔化す方法など……いくらでもあるのだ。彼女たちは吸血鬼。身体を霧に変えて部屋から抜け出す事など造作もないし、運命を捻じ曲げ、因果法則を破壊するなど呼吸を行うようにやってのける。
 彼女たちは、絶対的な夜の王。望んで叶わぬ事など――何もない。

 それでも咲夜は確信していた。
 犯人は、お嬢様たちではない。彼女達なら隠れてこそこそと生き血を啜るなど、その矜持が許すまい。
 それはどんな物理法則よりも強固な壁。どんな名探偵も膝を屈する不可侵の密室。

 あ り え な い。

 それでQEDだ。

「では……誰が?」
「そうね……私は安楽椅子探偵じゃないから、まずは情報収集ね」
「へ?」
「聞き込みよ」

 そう言って、咲夜はにこりと微笑んだ。


  §


「メアリーが!?」
 紅魔館の一室。普段は使われる事のないこの部屋も、メイド隊の不断の努力により埃一つなく磨き抜かれている。
 咲夜と美鈴は人目のない所の方が隠れた証言を引き出しやすいだろうと、この部屋に三番隊の一人であるクルカ・ヴァンホーデンを呼び出した。執務を滞らせる訳にもいかないので、聞き込みに当てられる時間は少ない。被害者である三番隊に集中して聞き込みを行う。それが二人で決めた結論である。
 事件のあらましを聞いたクルカは、机に身を乗り出し、驚愕に目を大きく開いた。
 体格の良いがっしりとした身体。小さく愛嬌のある顔。赤毛の短髪を無理矢理輪ゴムで止めた尻尾が、頭のてっぺんでぴこぴこと揺れている。その身体と顔はミスマッチではあるものの、妙に人を和ませる雰囲気を持っていた。しかし……流石にこういう事態であるため、その瞳は暗く沈み、大きな身体を小さく丸めている。
 咲夜はメイド長としての仮面を被り、威厳を持ってクルカへの問い掛けを始めた。
「えぇ、残念だけど……今朝方の事よ。貴女は何か知らないかしら」
 真っ青な顔で、ぶるぶると首を振るクルカ。きょどきょどと四方に視線を動かし、何度も何度も落ち着かないように足を組み変えて。
 同僚の死に怯えているにしては反応が過剰すぎる。咲夜と美鈴はちらりと視線を交わし、
「隊長であるティス。そしてディクシーにメアリー……みな三番隊の人間よ。これに何の因果関係がないなんて思えない。貴女は何か知っているんじゃない?」
「……いえ、私は何も」   
「本当かしら? この後、他の者にも証言を取るつもりだから、詐称をすれば不味い事になるわよ?」
「……本当に」
「知らない事はないでしょう? 貴女たちは同室だった。その三人が殺されたというのに何もない筈はないわ。例えば誰か……この三人、いえ三番隊に殺意を持っていた者に心当たりがあるんじゃない?」
「そんな……私達は何も……」
 アイスブルーの瞳で貫くように見つめる咲夜に気圧され、クルカは大きな身体を一層縮み込ませる。
 それは質問というより詰問。鬼のメイド長の異名は、三番隊のみならず全メイドに響き渡っている。その彼女に、これ程苛烈な視線を向けられているのだ。クルカの萎縮も無理はない。
 いかに強者揃いの三番隊とはいえ、咲夜に掛かれば子猫のようなもの。数々の武勇伝は最早伝説の域にまで達し、紅魔館唯一の人間である咲夜を、人間だからと侮る妖怪などこの館には一人もいない。
 曰く、仕事を怠けていたメイドが次の瞬間には血だるまになっていた。
 曰く、レミリアの悪口を言うと何処からともなく銀のナイフが飛んでくる。
 曰く、メイド長の座を狙い挑んだ者は永遠の責め苦を味わい、地下から夜な夜な獣のような悲鳴が聞こえる……等々。
 実しやかに噂され、メイド長に睨まれ立ったまま失神した新人メイドもいるのだ。しかもこの噂に関しては、全くのガセという訳でもないのが性質が悪い。
 そんな咲夜の前に座るクルカは、正に蛇に睨まれた蛙。汗をだらだらと流し、口をもごもごさせるだけ。
 その様子に一層咲夜の目が細まり、一喝しようとすぅっと息を吸った瞬間に――
「クルカさん、何でも良いんです。知っている事があれば教えて下さい」
 にこにこと柔和な声で、美鈴が口を挟んだ。
 その声にクルカは目に見えて安堵し、僅かながら肩の力が抜ける。
 お人好しの門番隊長。
 鬼のメイド長と並ぶ紅魔館の双璧。
 曰く、部下にほいほいと休みを譲るので、年休3日。
 曰く、給料の殆どを部下への奢りに当てるので、財布の中はすっからかん。
 曰く、メイド長の叱責に涙する者の前に現れて慰め、何の関係もないのにメイド長にがんがん怒られ、ぺこぺこと謝っている……等々。
 しかもこちらは全くの事実であったりするのだ。嗚呼、愛すべき我らが紅美鈴。
「貴女も知っていると思うけど……この三日立て続けに三番隊の娘たちが殺されている。早朝から午前にかけて時間はまちまちですが、シフトの関係で三日間ともこの時間が空いている者は限られているんです。三番隊はその性質上基本的に非常勤ですから、この『時間帯』に『単独行動』が可能という点で、『偶然』三番隊が被害にあった可能性も捨て切れないんです。殺された三人……その前日の行動を思い出して貰えません?」
 美鈴の穏やかな問い掛けに、ほぅっと安堵の溜息を漏らし、クルカはぽつぽつと途切れがちに答え始めた。
「そうですね……といっても基本的には待機所に詰めているんですが、最近出動が掛かる事も少ないので結構みんな好き勝手にしています。私とロザミィはこの一週間待機所でずっとポーカーをしていましたし、ラスも……部屋にいたかな? どうだったっけ? 隊長(ティス)も普段は待機所に詰めてますが、殺された日は『ちょっとトイレ』と言ったきり帰って来なかったし、メアリーとディクシーは……隊長を殺したやつを捕まえてやるって……」
「メアリーとディクシーが?」
「ええ、あの二人は隊長に心酔してましたし……そしてディクシーが帰ってこなくて……メアリーまで……」
「ふむ……」
 顎に手を当てて考え込む美鈴。
 咲夜は黙って、二人のやり取りを聞いている。
 瞳を閉じて、まるで彫像のように静かに。
 そして目を閉じたまま、先ほどより少し穏やかな口調でクルカへと問い掛けた。
「その二人は、一緒に行動していたのかしら?」
「いえ、多分別々かと。あの二人、あんまり仲が良くなかったから」
「あら、ティスに心酔してたんじゃなかったの?」
「ですから……その……どっちが隊長を殺した奴を捕まえるか勝負だって」
「ふむ……貴女はどうなの? 犯人を捕まえようとか思わなかったのかしら?」
「まさか! だって……」
 言い淀むクルカ。横目でちらちらと咲夜の様子を伺う。
 その怯えたような表情から察した咲夜は、出来るだけ静かな声で、
「お嬢様が犯人……そう思ったのね?」

 クルカは目を伏せながらも――こくりと頷いた。

「どうしてそう思ったの? あぁ、今だけは怒らないわ。正直に言って頂戴」
「……」
「ふむ、信用ないわね」
「いえ! そんな事は……」
 再び汗をかいて萎縮するクルカに、咲夜は一つ溜息を吐いた。
 お嬢様の威厳を保とうと厳しくしてきたのに、薬が効きすぎたわねと反省しながら。
 改めて咳払いをしてから、できるだけ柔和な笑みを浮かべ――美鈴を真似て――再度問い掛ける。
「このままだと次の被害者が出るかもしれない。私達はそれを防ぎたいのよ。……お願い、力を貸して?」
 咲夜の猫撫で声に美鈴は僅かに顔を顰める。下手糞と思った瞬間、机の下で足を踏まれた。頬がぴくりと引き攣るが、流石は門番隊隊長。頬を一筋の汗が伝いながらも、にこにこと笑顔を崩さない。
「……噂が」
「噂?」
「……殺された娘は、手足を千切られて首を塀に晒されていたって……そんなのあの三人相手に出来るのなんて、お嬢様くらいしか……」
「確かに、ね」
 実のところ、やろうと思えば目の前の二人にだって出来るのだが、とりあえず沈黙する。出来る事とやらない事は違うのだ。
「それに、遺された首には血を吸われた跡があったって。だから……私……」
 そう言ってがたがたと震えるクルカ。
 それっきり口を噤んでしまったので、咲夜と美鈴はちらりと視線を交わして頷きあう。
「ありがとう。もう結構よ。また何か聞くかもしれないから、その時はお願いしますわ」
「は、はい! 失礼します!」
 解放されたのが余程嬉しかったのか、クルカは声を裏返す。
 退室するクルカにロザミィを呼んできてと声を掛け、ドアが閉まり足音が去ってから咲夜はふぅっと溜息を吐いた。
「……こういう役は苦手だわ。貴女の方が適任ね」
「あれ? 結構似合ってましたよ? どうです、これからは地域の住民に愛されるメイド長を目指してみては?」
「……踏むわよ?」
 すいません、とぺろりと舌を出す美鈴。
「でも……殺された三人は、やっぱり単独行動中に襲われたようですね」
「そうね。それに……認めたくないけど、お嬢様犯人説ってあながち間違いじゃないのよ。最終防衛線を任される三番隊……それを単独とはいえ碌に反撃もさせずに殺す……並みの腕じゃ無理よ」
「ですね。それに気になる事が……」
「何?」
「死体が綺麗すぎるんですよ」
「……貴女の趣味は私と違うようね」
「あ、いやいやいや。そうじゃなくてですね。殺された三人とも、どてっ腹を一撃で撃ち抜かれています。しかもおそらくは至近弾の炸裂系。その一発だけで完殺してるんです。不意を付かれたと言っても、ディクシーとメアリーは殺した犯人を追っていたんですよ? そうそう油断するとは思えないです」
「そうね。確かに」
「それと首筋の噛み跡ですが……殺した跡に付けたものと思われます」
「出血が少なかったしね」
「ですから恐らくは……お嬢様の仕業に見せ掛けようとした犯行かと」
「……忌々しい」

 ぞわり、と。
 咲夜の瞳が紅く染まる。

「……落ち着いてくださいよ? まだ推測の段階なんですから」
「ちょっと待って……ごめん。駄目ね、すぐ感情的になっちゃって」
 目を閉じて、瞼を押さえて十数秒。再び取り戻す蒼の瞳。
 美鈴はやれやれと肩を竦めるが、そんな咲夜を暖かく見守っていた。
 時に感情が昂ぶりすぎる事もあるが、それは護るべき存在に対して侮蔑されたと感じた時のみ。そんな咲夜の誇り高いところを、美鈴は好ましく思っている。自分の何分の一も生きていない人間ではあるが、その在り方を尊敬していたのだ。自分もそうありたいと、美鈴に思わせる程に。

 咲夜は決して自分からそれを語る事はない。
 だがその背中で語っていた。
 いつでも、どんな時でも――

「そういうのって格好良いですよねぇ」
「は? いきなりどうしたの?」
「いえいえ、こっちの話です」
 ぶんぶん手を振ってにこにこと笑う美鈴。咲夜は変な奴と眉を顰めた。
 咲夜がこれ程砕けた口調で話す相手など、幻想郷広しといえど何人いるかどうか……美鈴はそれを知らない。
 もしもそれを知ったなら「そんな事ないですよ!」と真っ赤になって否定するだろう。だが、咲夜は認めた相手としかこのような口調で話す事などないのだ。
 咲夜が認めるのは『強さ』ではない――『生き様』である。
「でも、やっぱり……お嬢様が犯人だと思われているみたいですね」
「それを払拭するのが、私達の仕事よ」
「……すいません。ひょっとしたら、と思っていました」
「……私もよ。まだまだ修行が足りないわね。私達」
 二人は笑いあう。
 それはメイド長と門番隊隊長が交わす笑みではなく――例えるなら一緒にやった悪戯を、大人に見つかって怒られた後に交し合う――友達同士の笑みだった。


  §


「さて、そろそろ次の娘ね」
「ロザミィでしたっけ? すいません、私良く知らないのですが」
「そうね……難物よ」
 美鈴の頭に疑問符が付くよりも早く、ドアがこんこんと軽くノックされる。
 咲夜が返事するのを待たずに、ドアはいきなり開かれた。
「メイド長……何の用です?」
 白い長髪をさらりと流し、眼鏡を掛けた知的な白い貌。すらりとした細い身体は、触れれば壊れそうな空気を纏っている。女性でも見惚れるような可憐な美少女。
 だというのに……切れ長の灰色の瞳は眠そうに半分閉じられ、顔には『不機嫌』の三文字が刻まれていた。
「例の事件の事で聞きたい事があってね? 座って頂戴」
 失礼します、とぶっきらぼうに呟いて、がに股でどかりと腰掛ける。
 見た目は文学少女風なのに中身はヤンキー……それがロザミィ・伯林である。
「あ、煙草吸っていいっすか?」
「禁煙よ?」
 ちっとあからさまに舌打ちするロザミィ。
 美鈴は鬼のメイド長の前でこんな不遜な態度を取るロザミィを、天然記念物を見るような瞳で見詰めていた。
「さて、クルカから話を聞いていると思うけど」
「いえ? 此処に行けって言われただけですが?」
「あっそう」
「で、何の用です?」
「例の事件の事よ」
「あぁ……」
 苦虫を噛み潰したような顔。半分閉じられた瞳には『面倒くさい』と書いてある。
「私、何も知らないっすよ? 三人が殺された時もずっとクルカとポーカーしてたし」
「その辺はクルカに聞いているけど……何か気付いた事ない?」
「別に」
 そう言って、椅子の背もたれに深く身体を預け、ぎしぎしと身体を揺らす。
「仲間が三人死んだのよ? その態度はないんじゃない」
 見かねた美鈴が怒りを込めてロザミィを睨むが、ロザミィはちらりと美鈴を見ただけでふいっと視線を逸らした。
「仕事が一緒ってだけで……あんなやつら、別に仲間じゃないっすよ」
「そんな言い方!」
 思わず詰め寄ろうとした美鈴を右手で制し、咲夜はできるだけ静かに微笑んだ。
「ロザミィ」
「何すか」
「煙草……一本貰えない?」
「は?」「へ?」
 ロザミィと美鈴が、目を丸くして咲夜を見詰める。
 にこにこと笑う咲夜に、ロザミィはおずおずとしわくちゃの煙草を差し出しマッチで火を着けた。咲夜は深く紫煙を吸い込むと、空を仰いでふうっと煙を吐き出す。白い煙が宙を舞い、あやふやで曖昧な幾何学模様を生み、咲夜はその軌跡を眺めながら言葉を続けた。
「貴女も吸っていいわよ? 後で掃除しておくから灰は気にしなくていいわ」
 そう言って、咲夜は自ら高そうな絨毯の上にとんとんと灰を落す。
 それを見たロザミィは、はぁと言いながら咥えた煙草に火を着けた。
「……メイド長も吸ってたんすか?」
「吸わなきゃやってらんないわよ、メイド長なんて」
 そうなんすか、と言ってロザミィが微笑む。それは意外に子供っぽい笑顔。
「喫煙所を作って貰えないかと、お嬢様に直訴したんだけどねぇ」
「駄目だったんすか?」
「調度品にヤニが付くって怒られたわ。どうせ掃除するのは私たちなのにね」
「っすよね。掃除すれば煙草吸わせてくれるんなら、私だって掃除手伝うっすよ」
「煙草吸いには住み辛い世の中よねぇ」
「全くっす」
 いきなり意気投合した二人に、美鈴は目を白黒させた。
 美鈴が知る限り、咲夜が煙草を吸っているところなんて見た事なかったのに。
「ところで……事件の件だけど」
「……悪いけど何も知らないっす」
「本当に?」
「……」
「貴女も犯人はお嬢様だと思ってる?」
「いや……あいつらは自業自得っすよ……私も……頭を砕かれてたって話だけど……そんなんじゃ生温いっす……」
「それ、どういう意味?」
 失言したと思ったのか、瞳に鍵を掛けるロザミィ。
 その顔からも一切の表情を消し、まるで貝のように押し黙る。
「お願い。話してくれない?」
「……すいません、言いたくないっす」
 どういう事! そう言って再び詰め寄ろうとする美鈴を、もう一度右手で制した咲夜は出来るだけ穏やかな声で質問を続ける。
「話せない理由があるって訳?」
「……」
「これだけは教えて? 貴女は犯人を見たの?」
「いや……見てません。これは本当っす」
「じゃ、犯人に心当たりがあると?」
「……すいません。勘弁して下さい」
 そう言って、煙草を手に持ったまま押し黙るロザミィ。
 吸われないまま白い灰へと変わっていく煙草。立ち昇る紫煙が、閉じられた室内を淀ませていく。
 けれど咲夜と美鈴はロザミィを見詰めたまま、ロザミィは床に落ちた灰を見詰めたまま、時間だけが過ぎ去り――
「解ったわ。もう行っていいわよ」
「咲夜さん!」
「その代わり……気が変わったらいつでも来て。他言無用は保障するわ」
「はい……失礼します」
 吸われなかった煙草を右手で握り潰し、じゅっと肉の焦げる臭いが混じる。しかしロザミィは、顔色一つ変える事無く立ち上がった。
 振り向く事無くドアに向かい、ノブに手を掛けたところで――

「……私達はお嬢様の無実を証明したいのよ。私達が仕えるべき主の潔白を」

 僅かに止まる右手。
 だが、ロザミィは――振り切るように部屋から出て行った。
 足音が消え去ってから、美鈴は咲夜を睨む。
「……何で尋問しなかったんですか? 咲夜さんらしくもない」
「地域住民に愛されるメイド長を目指してみたのよ?」
「咲夜さん!」
「ごめん。でもね、あの娘はああなったら例え拷問しても何もしゃべらないわ」
「……知ってるんですか?」
「私の最初の部下の一人なのよ、あの娘。ぶっきらぼうで何を考えているのか解り辛いけど……いい娘よ」
「でも、絶対あれは何か知ってますよ?」
「大丈夫、あの娘なら……きっと話してくれるわ。そういう娘だもの」
 美鈴は咲夜を強い視線で見つめる。
 だが、それは一瞬。美鈴ははぁっと肩を竦めた。

 十六夜咲夜は身内に甘い。

 他の誰が疑おうとも、美鈴だけは――それを良く知っていた。

「解りました……あの娘は咲夜さんにお願いします」
「ごめんね」
 そう言って、照れたように笑う咲夜。それは二人きりの時にしか見せない笑顔。
 それを出されては美鈴も納得するしかない。
「ところで……咲夜さん、煙草吸ってたんですか?」
「まさか」
 そう言って何処からともなく、煙のように机上に現れた灰皿へ煙草を押し付ける。
 気が付けば、床の上の灰も跡形もない。
「……流石、掃除のプロですね」
「時を止めると、埃が舞わないから楽なのよ」

 誇らしげに、咲夜はにやりと笑った。


  §


「さて、次はえーと……」
「ラス。ラス・シーニクよ。私も余り詳しくはないんだけど……」
「どうします? 呼んで来ましょうか?」
「そうね、時間もないことだし……頼むわ」
 了解です、そう言って部屋を後にする美鈴。
 ドアを閉められた後、咲夜は一人思考の海に沈んだ。
 三番隊には何らかの問題がある、それは明白だ。ロザミィも何か心当たりがあるようだし、それを聞けば真相に一歩近づけるだろう。それにしても……
「難しいわねぇ」
 事件の真相を突き止める。それによりメイド達の間に蔓延する恐怖は払拭されるだろう……だが、お嬢様たちへの行き過ぎた畏怖が消える訳ではないのだ。確かに今回はお嬢様たちではないのかもしれない。だが『次は』お嬢様たちが戯れに自分たちを殺すかもしれない……その恐怖は拭えまい。
「付近の住民に愛される吸血鬼、か」
 ああ見えて、お嬢様は存外可愛いところがある。
 それを伝えれば、お嬢様のイメージを変える事が出来るだろうか。
「無理ね」
 ぷぅっと頬を膨らませそっぽを向くお嬢様の姿を想像し、思わず笑ってしまった。
 威厳を保とうと背筋を伸ばし歩いていたら何もないところで転んだり、花札で霊夢に三十連敗し勝つまで止めないと霊夢を呆れさせたり――運命を操れば、全てが思い通りになるというのに――意地でも勝負においてはその力を使おうとしない。子供っぽい意地なのかもしれないが、例え敗北しようともその力を行使しないのだ。
 永夜事件の時もそうだった。『事件を解決した』という運命を手繰り寄せれば良いのに――指先をちょいと動かすだけで良いのに――欠けた月を嗤い、永い夜へと飛び出した。弾幕ごっこという遊びとはいえ、如何に不死身の吸血鬼とはいえ、傷が付けば痛いのに。

「貴族とはね――人生を楽しめる者に与えられる称号なのよ」

 以前、そう言っていた事がある。
 言葉の意味もその意図も解るのだが、その『在り方』は真似できそうにない。
「貧乏性なのよね、私……貧乏が長かったからねぇ」
 この館にやって来た時も、三食昼寝付きという条件に目が眩んだから。確かに昼は寝れる――その代わり、夜は徹夜だが。それを知った時は、騙されたと叫んだものだ。
 貧民街で生まれ、能力を生かして一人で生き延びてきた。お嬢様に「ウチで働かない?」と言われた時には、それこそ色々とあったのだけれど……結局、私はお嬢様の手を取り、この館でメイドとして働いている。そんな生まれだからか、無駄というものが好きではない。

 友情とか――
 愛情とか――
 感情とか――
 誇りとか――

 それらは恵まれた存在だけが持ちうる『余裕』。
 昔の私はそういうものを憎んでさえいた。そんなものは生きる上で必要のない無駄。人はパンのみに生きれば良い。今日を生き延びる事が全て。明日なんて考えるだけ馬鹿らしい。
 だから頑なに無駄を省いた。生きる上での無駄を削ぎ落とした。
 『完璧』という称号……それは全ての無駄を省いた後に残されたもの。
 最善の成果を最短の道程で。それを極めた後に残された『蔑称』

 それが変わったのは――きっとお嬢様の手を取ったあの時なのだろう。

 完璧に満たされた杯から零れ落ちた雫――お嬢様はそれに『十六夜咲夜』と名付けた。その時から私は変わってしまったのだろう。
 だから今の私は、お嬢様の言葉を理解できる。その真似事も出来る。『瀟洒』という過分な呼び名までもが、肩書きに追加される程に。
 それは堕落なのか、進化なのか――本当の名前を捨ててしまった自分には、もう解らない。

「それでも私は……今の私が好きだわ」

 ならば、全力を尽くし今の私を護ろう。
 今の私を形成する様々なものを護ろう。 

 この事件を――解決してやろう。


  §


「……失礼します」
 ドアのノックにどうぞと答え、美鈴と一人のメイドが入ってくる。
 美鈴の影に隠れるように入ってきたメイド。おどおどと小さな身体を、一層小さくしている。
「あら? 貴女は」
「……ど、どうも先日は」
 ぺこりと頭を下げる蒼い髪の少女。長く癖のない髪を後ろで束ね、伸ばした前髪が目元を隠している。身体も小さくまるで子供みたいで、おどおどとした態度がマイナスだが、それを差し引いても儚げな印象を与える美しい少女だった。
「貴女だったのね……申し訳ない、失念していたわ」
「いえ! そんな……私なんか……その……」
「何かあったんですか?」
 二人の会話に付いて行けず、思わず口を挟んでしまった美鈴。
 咲夜はあぁ、という顔をして説明を始める。
「昨日の夜ね。ちょっと忙しかったから、彼女に手伝って貰ったのよ」
「あ、そーなんですか」
「私はお嬢様に付いていなくてはならなかったから、通常業務の方をね」
 咲夜は昨晩の事を思い返す。
 お嬢様が一人で動くことがないか監視(何て嫌な響きだろう)しなくてはならなかったので、ずっと彼女に手伝って貰ったのだ。客間やお嬢様の寝室の掃除は、メイド長である咲夜が一人でやる。時を止めれば一人でだって出来るのだが、あんまり力を使いすぎると頭痛がするのだ。突然敵が襲撃してくる事だって在り得るので、いつも余力は残さないといけない。
「丁度、暇そうにしてたから。ごめんなさいね、コキ使っちゃって」
「す、すいません……皆さん、忙しそうにしてるのに、私だけ何もせずに」
「あ、いやいや。そういう意味じゃないのよ。貴女は三番隊なんだから、通常業務は免除されているものね」
「でも……私迷惑ばっかり……」
「そんな事ないわ。私もちょっと気が立っていたから、キツい言い方してしまったけれど……貴女は良くやってくれたわ。改めて礼を言います。本当にありがとう」
「そ、そんな、メイド長がそんな事仰られるなんて……」
「あら? 私の事、礼も言えない無作法者だとでも思ってた?」
「い、いえ! すいませんすいませんすいません!」
 ぺこぺこと何度も頭を下げるラス。
 その姿が可愛らしくて、思わず咲夜は微笑んだ。
「意地悪だったわね。本当にごめんなさい」
「そんな、恐れ多い……」
 そう言って再びぺこぺこと頭を下げるラス。
 鬼メイド伝説はここでも健在のようだ。
「改めて……ラス、貴女も事件の事は聞いているわね?」
「……は、はい」
 ラスはびくりと身体を震わせる。
 恐らくメイド達でこの噂を知らぬものなどいないだろう。
 まして彼女は三番隊。仲間を失ったショックは計り知れない。
「それで三番隊の娘に順番に話を聞いているのだけれど……貴女、何か知らない?」
「……隊長が……ディクシーさんとメアリーさんも……胴体を千切られて、首筋に噛み跡が……辺り一面血の海で酷い有様だったって。すいません……他には何も……」
「例えば、三番隊を恨んでいる者に心当たりは?」
 力なく首を振るラス。
「何でもいいのよ。どんな些細な事でも。誰かが普段と違う行動を取っていたとか、何かおかしな物をみたとか」
 やっぱり首を振るラス。
「それじゃ、殺された三人についてはどう? 何か気付いた事とか」
「……私、隊長たちとあんまり仲良くなかったから」
 俯いたまま、呟くような声。
「……貴女が殺したとか?」
「ち、違います! そんな……そんな事……出来ません……」
「ふむ」
 親指の爪を噛んで考え込む咲夜。
 ロザミィの証言から三番隊が一枚岩でなかった事は知っていたが、どうやら何か裏があるみたいだ。ひょっとしたら、これが事件を解く鍵かもしれない。
「殺された娘たちの事……教えてくれない?」
「私は……」
「あぁ、別に貴女を疑っている訳じゃないわ。私……殺された娘たちとの事、あんまり詳しくないのよ。メイド長失格よねぇ」
 咲夜は大仰に溜息を吐き、俯いてみせる。
 それを見たラスは、慌てたように首を振った。
「そんな事ないです! 咲夜さんは立派な方です。メイド長は咲夜さんをおいて他にありません!」
「そうかしら?」
「そうです! あ、すいません……興奮しちゃって……」
「いいのよ。そう言ってくれると嬉しいわ」
「咲夜さんは……凄いです。人間なのに……いつもきりっとして……強くて……格好よくて……」
 真っ赤になって、もじもじと両手を親指を忙しなく組み替えるラス。
 咲夜も釣られたように少し赤くなってしまう。
「こほん。では改めて……殺された娘たちの事、教えて貰えるかしら?」
「はい。隊長は……その……すごく強い方です。いっつも大声で笑って……戦いの時には必ず先頭に立って……立派な方です。ディクシーさんは……ちょっと怖い人ですけど……でも強くて……槍を振るう姿が凄く格好よかったです。メアリーさんは……その……よく解らない人でしたけど……メアリーさんの立てる作戦はいつも凄くて……私、馬鹿だから……頭良い人って、何か憧れるってゆうか……その、凄い人です」
「何だか凄い人ばっかりねぇ」
「す、すいません! 私上手く言えなくて」
「あぁ、いいのよ。それこそ素直な感想というものだわ。ついでと言ってはなんだけど、良かったらクルカとロザミィについても教えてくれるかしら?」
「は、はい! クルカは……いい娘です。私弱いからいっつもみんなに迷惑掛けるんですけど……クルカだけは、子供の頃からずっと私を庇ってくれて……ロザミィさんは……ぶっきらぼうだけど良い人です……私が落ち込んでた時、何も聞かないでお菓子くれましたし……」
「今度は良い人ばっかりねぇ」
「す、すいません……」
 真っ赤になって俯くラス。
 そんなラスに向かって、咲夜はにこりと微笑んだ。
「でも、良く解ったわ。貴女が三番隊のみんなを大好きだって事」
「そ、そんな事……」
「いいのよ。ありがとう、ラス。また何かあったら教えて頂戴」
「は、はい!」
 バネ仕掛けのように立ち上がり、ぺこりと一礼してから退室するラス。
 緊張の余り右手と右足が一緒に出ている。やっとの事でドアへと辿り着き、ドアノブを回そうとしたその時、
「ねぇ、ラス?」
「は、はい!」
 背後から掛けられた咲夜の声に、声を裏返しながら振り向いた。
「おそらく三番隊は解体されて再編成となるでしょう。残り三人ではどうしても、ね」
「はい……」
「そうなったら……貴女、私の下で働いてみない?」
「は!? え、えええええ!!!? そんな無理です! 私なんて、何も出来ないし!」
「そう? 昨日の掃除の手際は見事だったわ。貴女は磨けば光る逸材だと見てるんだけどね」
「そんな……私なんて……」
「まぁ、考えておいて頂戴。嫌なら無理強いはしないから」
「えっと、その、私……出来るなら、咲夜さんのところで働きたいです。勿論、私なんかじゃ無理ですけど……でも……」
「磨けば光ると言ったでしょう? 覚悟なさい、私は厳しいわよ?」
「うっ、すいません。でも……もし、私で宜しければ……」
「決まりね。また改めて連絡するから」
「はい、宜しくお願いします!」

 先ほど以上に、深く深く頭を下げて退室するラス。
 その姿を微笑ましそうに、咲夜は見送った。

「あはは、思わず口説いちゃったわ。あの娘可愛いわねぇ」
「咲夜さん」
「ああいう娘はしごき甲斐が……どうしたの美鈴? 変な顔して」
「あの娘……どういう娘なんです?」
「え?」
 美鈴の顔はまるで敵を前にしたかのように細められ、その形の良い眉はきつく歪められている。
「あの娘が、どうかしたの?」
「実は……聞き込みの最中、ずっと『気』を探っていたんです。クルカは大きく力強い『気』を、ロザミィは鋭利で刃物のような『気』を持っていました。二人ともかなり――大きな『気』を。なのに、あの娘は……殆ど『気』を持っていません。普通の人間と変わらない程度しか」
「……どういう事?」
「確かにこの館のもの全てが、強い『気』を持っている訳ではありません。あのくらいの『気』しか持っていない者は沢山います。
 ですが――仮にも荒事専門の三番隊に何故……あんな娘がいるのですか?」
「それは……」
「メイド隊の小隊長は咲夜さんが決めますが、その部隊の編成は小隊長が決める筈です。何故、ティスはあの娘を自分の隊に呼んだのでしょう?」
「確かに……ひょっとしたら、何か特殊な能力でも持っているのかしら?」
「恐らく……そうでなければおかしいです」
「ふむ」
 ラスの特殊能力。それがどういったものなのか。
「特殊能力はある意味、切り札。身内にすら教えない可能性もあります。ですが……」
「共に戦う三番隊の娘なら……知っているでしょうね」
「はい」
「解ったわ。ロザミィにでも聞いてみましょう。多分……今夜にでも訪ねてくるでしょうしね」
「随分と信用してるんですね。ロザミィが犯人かもしれないんですよ?」
「それは否定できないけれど……まぁいいわ。どちらにせよ、話を聞いてからよ」
「ですね」
「さて、そろそろ仕事に戻らないと……大分時間食っちゃったしね」
「はぁ、気が重いですよ」
「愚痴らない愚痴らない。そうね、この件が片付いたらお休みでも貰いましょう」
「あ、いいですねー。どっかに行きます?」
「こないだ、村の民芸品を見てきたんだけどね。割といいわよ、竹細工ってのも……」
「そいや知ってます? 八目うなぎの屋台ですけど、タレだけじゃなく塩焼きも出てたんですが、これがもう美味しくて……」
 鬼のメイド長と地獄の門番とはいえ、年頃の女の子。
 思わずおしゃべりに夢中になり、気が付いた時には30分も仕事に遅れていた。
 その埋め合わせのため、馬車馬のように働く事になったのも

 ――自業自得というものである。


  § 


「ふぅ……」
 咲夜は自室に戻り、ヘッドドレスを外してテーブルに置いた。
 レミリアが起きるのが真夜中なので、それまでは休憩。とは言うものの、レミリアが気紛れで早起きする事もある。いざとなれば時を止めて動けばいいのだが、できれば余裕を持って行動したい。
「とりあえず、シャワーでも浴びようかしらね」
 メイド長の特権で咲夜には自室が与えられている。バストイレ付きの自室は、タコ部屋で共同生活を余儀なくされるメイド隊の垂涎の的。それを求めてメイド長を目指す野心家も、かなりの数がいるらしい。もっとも鬼のメイド長に真正面から挑む勇者など、昔は兎も角今は存在しないのだが。
 スカートのホックを外し、脱ごうとしたところで、コンコンとノックの音が響く。
「はい、ちょっと待ってちょ――」
「失礼します」
 咲夜の返事を待たず、バンと音を立てて開けられる扉。
「あ」
「う」
 スカートを半分下ろした状態で白い下着の眩しい咲夜と、細い目を真ん丸く見開いて硬直するロザミィ。

 ――時が止まった。


  §


 そして時は動き出す――

「すいません。忘れる事にするっす」
「そうして頂戴」
 身支度を完璧に整え椅子に腰掛けて紅茶を飲む咲夜――僅かに頬が赤くなっている――と、同じく顔を赤くして紅茶を啜るロザミィ。
 気まずい沈黙が室内を流れる。
「だけど……メイド長があんな可愛い下着を……」
「忘れなさい」
 冷たい氷柱を背中に差し込まれたようにロザミィは身震いし、解りましたの声が僅かに震えていた。
 鬼のメイド長伝説健在なり――例えどんなに可愛い下着を穿いていようとも。
「ところで……何の用かしら? まぁ、解っているけど」
「はい……例の件っす」
「三番隊の娘たち……一応、隊長であるティスと貴女の事は良く知っているつもりだけど……他の娘たちの事は正直よく把握していないわ。ティスだって割と粗野な部分は多いけど……人に恨まれるような娘じゃなかった筈。教えて頂戴。三番隊に――何が起こっていたの?」
「……すいません。吸っていいっすか?」
「あぁ、ちょっと待ってね」
 咲夜の自室には灰皿はない。
 咲夜は時を止め、別室から灰皿を持ってくるとテーブルの上に置いた。
「どうぞ、遠慮なく」
「メイド長も吸います?」
「遠慮しておくわ。もうしばらくしたらお嬢様に付かないといけないから。臭いが付くと怒られちゃうの」
「あ、それじゃ私も……」
「いいのよ。後でシャワー浴びるつもりだし」
「すんません。そいじゃ」
 スカートのポケットから煙草を取り出し、マッチを擦って火を点す。
 咥えた煙草に近づけてすぅっと息を吸い込むと、煙草の先端にぽっと橙色の炎が灯った。
 煙草を深く吸い込み、肺に入れ、ふぅっと天井に向けて深く煙を吐く。
 白い煙が、深く濃い煙が、まるで妖怪のようにゆらゆらと揺れる。
 煙が昇り、気が沈む。沈むは静む。気が静む。
 煙草の力を借りなければ、気を静める事も出来ぬ弱さ。だけど、それは誰もが持つ弱さ。
 だから咲夜は、煙を吐き出し沈黙するロザミィを決して促そうとはしなかった。

 ただ静かに、昇る煙を見つめるだけ。

「……私ら……別に仲が悪いって訳じゃなかったんっす……あの時までは……」
 咲夜は口を挟まない。黙ったまま、言葉を探りながら紡ぎ出すロザミィを見守っている。
「……前に……巫女と魔法使いが攻めてきた時、あったじゃないっすか。あん時、私らは体張ってあいつらを止めようとしたけど……結局、何にも出来ないで……咲夜さんやお嬢様の手を煩わせちゃって……」
「仕方ないわよ。私も、どころかお嬢様だって、負けちゃったんだし」
「それはいいんす。弱いなら強くなりゃいいし。次は負けねぇってみんなで誓いあったし……でもその後……お嬢様直々に、人を襲ってはいけないって命令あったじゃないっすか……」
「……」
「……私ら妖怪は、別に人を喰わなきゃ死んじまうって訳じゃないっす。腹が減りゃ食うもんなんざいくらでもあるし……ただね、私はそういうのって格好悪くて嫌だけど……人を喰うのって、あたしらみたいなちっぽけな妖怪には必要な事なんす……圧倒的な力で、非力な人間を殺して喰らう……ダセェって思いますよ……でも、そういう気持ち……私だって解らん訳じゃない」
「……」
「……失礼を承知で言うっす。多分こんな気持ちは、お嬢様やメイド長には一生解らない……化け物みたいな力を持った……あんたたちには……すいません……」
「いいわ。続けて?」
「最初は言われたように、我慢してたっす……あんたらに隠れて人を襲うやつもいたけど……そういうのはあんたらが『処理』したんでしょ? 『行方不明』って事にして……こっそりと」
「……ええ」
「だから私らは、ずっと我慢してたっす。館に巫女や魔法使いが遊びにきても……できるだけ心を押し殺して……だからあんな事になっちゃったんでしょうね……」
「何が……あったの?」
「……メイド長は……ラスの能力……知ってるっすか?」
「……いいえ。それを聞きたいと思ってたのよ」
「あいつは……何の力も持っていない。弾幕一つ張れないし、剣や槍を使えるって訳でもない。だから三番隊では『盾』をやってました」
「盾?」
「敵の攻撃をその身で受け止め、仲間を護る『盾』。あいつのたった一つの能力――『殺しても死なない程度の能力』――どんなに酷い傷を負っても、頭さえ無事なら一晩で完治しちまう。それこそ――全身を『喰われよう』とも」
「――! まさか、あんたたち!」
「……『喰った』んすよ。あたしら全員……毎晩、毎晩、ね。最初は隊長の冗談だったけど……ラスの泣き叫ぶ姿が面白いって……初めは私もクルカもそれを止めようとしてたんすけど、ね。抵抗したけど……押さえつけられて、口ん中にラスの肉突っ込まれて……」
「何で、私に相談しなかったの!」
「……仲間を売るような真似……したくなかったっす……いや、嘘っすね。結局、私も……クルカも……弱いから……我慢するのに疲れたから。それに……ははは、ラスの肉……美味かったんすよ……だから私も……同罪っす」
「……なら今回の件は……復讐なの? ラスの」
「ラスにゃ……無理だと思います。私も死体は見てないっすけど……何でも死体は手足を引き千切られて、晒されてたって話じゃないっすか……そんな事が出来るんなら……ラスだって最初から大人しく喰われてなかったと思います」
「じゃあ、貴女は誰が犯人だと?」
 ロザミィは、残り僅かな煙草を深く吸い込む。
 炎が一瞬輝きを増し、紫煙の全てを吸い込んで

「クルカです」

 煙と一緒に吐き出した。


  §


「じゃ、クルカが犯人だって言うんですか!?」
「……まだ確証がある訳じゃないんだけどね。ロザミィの話では、クルカの能力は『身体を鋼鉄に変える程度の能力』だって。その力を使えば、三番隊のみんなを殺す事も出来たんじゃないかって言ってたわ。クルカも気が小さいから、三番隊ではラスと一緒に『盾』……いえ『鎧』をやっていたそうだけど……その力を攻撃に使えるなら、多分三番隊でも――『最強』じゃないかって」
 咲夜は、美鈴と共に廊下を走る。
 普段なら廊下を走る無作法者は咲夜自ら叱責するのだが、今は非常事態という事で目を瞑って貰おう。
 ロザミィとの会話を終えた咲夜は、美鈴を引き連れ館内の探索に当たっているのだが。
「動機は……ラスの復讐ですね。クルカは今何処に?」
「見つからないのよ……ラスもね。貴女の方で、誰か館から出て行った者を感知していない?」
「今も『気』を張ってますが……誰も出た者はおりません」
「ならやっぱり館内にいるって訳ね。お願い、メイド隊もフルに動員してるけど、門番隊からも何人か」
「解りました。館から出る者を防ぐために全員って訳にはいきませんが。私と数名、捜索に当たります」
「お願いね」
 はい、と返事も勇ましく駆け出していく美鈴。
 咲夜は一つ溜息を吐いた後、再び顔を引き締めて走り出した。
 ロザミィは咲夜の部屋で『保護』している。クルカ、そしてラスもまた行方が解らないのだ。事件の概要はおよそ掴めたものの、二人の話を聞くまでは予断を行う訳にはいかない。
 ロザミィから聞いた話が頭の中で繰り返し再生され、咲夜の心が沈みかける。
 思わず足を止めてしゃがみ込みそうになるのを、
「しっかりしなさい、メイド長!」
 自身の頬を両手で叩き、気を取り戻した。
 全ては二人を見つけてからだ。その後の事はその後の事。今は考える必要などない。

(あんたたちには、私ら弱いもんの気持ちなんて一生解らない……)

 ロザミィの言葉が心臓を抉る。
 二人を見つけた後、どうするか……

『完璧で瀟洒なメイド長』は、何も答えを持っていなかった――


  §


 結局、その夜はクルカとラスの姿を見つける事は出来なかった。
 館から誰も出ていない事は、美鈴の結界によって判明している。館に二人ともいる事は間違いないのだが。
「ったく! 何でこんなに広いのよ!」
「……広げたのは咲夜さんじゃないですか」
 美鈴と共に一晩中館を駆けずり回った挙句、猫の子一匹発見出来ない。その事実が一層咲夜の心を苛立たせた。
「何処に隠れてるのかしら?」
「全部の部屋を回ったと思いますけど……地下室とか図書館まで含むとなると、正直お手上げですね」
「あぁ、もう。夜が明けちゃうじゃない!」
「咲夜さん、もうお休みになった方が……」
「そうもいかないわよ! クルカが犯人かどうか解らないけど……何か知っているのは間違いないわ。それにラスだって……」
 怯えたように縮こまるラスの姿。
 咲夜を憧れたように見上げる、子犬のような瞳。
 そんな娘が毎晩そんな目に会っていて、しかもメイド長である自分が、話を聞くまで何も知らなかった。

 そんな自分が――許せない。

 咲夜は尚も探索を続けようと足を踏み出した時、
「咲夜さん、落ち着いて下さい」
「……落ち着いているわよ」
「まずはゆっくり深呼吸。ふかーく息を吸い込んで下さい」
「何を……」
 美鈴は咲夜の視線をさらりと受け流し、深く深く息を吸い込む。思わず釣られて咲夜も深く息を吸い込み、
「そしてゆっくりと吐き出して下さい」
 はぁぁぁあああ、と吸い込んだ時間の倍を掛けて、美鈴はゆっくりと息を吐き出した。咲夜も一緒にゆっくりと息を吐く。
「それでは次です。いいですか? 私の掛け声に合わせて呼吸して下さい。さんはい、ひっひっふーひっひっふー」
「ひっひっふーひっひっふー」
「これはラマーズ法と呼ばれる呼吸法で、赤ちゃんを産む時できるだけ楽にすぽんと産めるように」
「妊婦じゃないっての!」
 がーっと火を噴くメイド長。咲夜の絶叫もひょろりと受け流し、美鈴はにこにこと笑っている。
 それを見た咲夜は、少しだけ顔を赤くし、
「……ごめん。確かに私、普通じゃなかったわね」
「ええ、睡眠不足で気が立ってたんですよ、きっと」
「……いえ、それは」
「いーえ、そうに決まってます! だから今日は大人しく寝て下さいな。ゆっくり休めばいつもの咲夜さんに戻れますよ」
「……そうね、そうするわ。ありがとう、美鈴」
「さて? 私は何もしてませんが?」
 にこにこと、にこにこと笑う美鈴。
「はいはい、大人しく部屋に帰るわよ。その代わり貴女も休みなさい。これは命令よ?」
「命令なら仕方ないですねぇ。解りました。警備は部下に任せて私も休ませて頂きます」
「それじゃ、おやすみなさい」
「ええ、咲夜さんも」
 美鈴はぶんぶん手を振って走り去る。
 その姿を見送りながら、咲夜は自分の肩に手を置いた。
「確かに……肩に力入りすぎてたわね」
 肩を回すとごりごりと不吉な音が走る。
 天にも昇る気持ちで地獄逝きと噂される、小悪魔の整体マッサージを受けてみてもいいかもしれない。
「まぁ、とりあえず部屋に帰って――って、ああ!」

 ロザミィの事を忘れていた。

 部屋でロザミィと話している途中に美鈴が呼びに来たため、部屋で待っているように伝えたまま忘れていたのだ。
「全く! 何処が『完璧で瀟洒』なのよ!」
 慌てて走るように早足で、自室へ向かう。
 他のメイドには常に瀟洒であれと、廊下を走る者がいれば嗜めているというのに、全くこれでは示しが付かない。 
 自室に着いて、ドアノブを開こうとした時
「あら、鍵が掛かっている?」
 出て行く時、鍵を掛けた覚えはない。
 だとすればロザミィが鍵を掛けたのだろうか?
「ロザミィ? いるの?」
 ノックをして声を掛けるが返事はない。眠ってしまったのだろうか。
 咲夜はポケットから鍵を取り出し、室内に入る。
「あら?」
 部屋の中が薄暗い。
 ランプは点けられているのに、何かがまだら模様に灯りを遮っている。
「ロザミィ?」
 返事はない。
 代わりに何かの――水音? ――が止め処なく、断続的に。
 咲夜は部屋の中に一歩踏み出す。
 まだ闇に目が慣れない。二歩目、三歩目を踏み出した時、自身の靴音が――べしゃり、と――変わる。
「ロザミィ?」
 鼻につく異臭。
 嗅ぎ慣れて、もう染み付いてしまった――鉄の臭い。
 咲夜はまるで深い霧の中を彷徨うようにふらふらと、唯一の光源であるランプへと、炎に誘われる蝶のように。
「ロザミィ?」
 ランプのシェードが黒い染みに覆われていて、光を覆い隠す程黒くべっとりとへばりついた何かが。
 漏れ出る橙の光と黒い影がおぞましい影絵を生み出し、咲夜の白い顔にも不吉な影を被せ、それでも咲夜がランプを手に取ろうと夢遊病患者のように、ふわふわと近づいた時――コツン、と――足に何かが当たって……

 白い髪が海のように広がり――
 口の端からこぽりと赤い血を零し――
 見開いた目は『驚愕』の二文字を刻んだまま――
 腹部を粉砕され、周囲を赤く染め上げ、吹き出る血がランプの光を遮り、すでに『者』から『物』と成り果てて――

 ロザミィが血だまりの中、死んでいた。


  §


 何で?
 それが咲夜の心に浮かんだ第一声。
 ロザミィは第三隊で、しかもその一人が犯人と目されている以上、彼女が殺される可能性も当然考慮すべきであったのに――咲夜は、ロザミィが死ぬなんて欠片も思っていなかった。
「え、あれ?」
 紅魔館での勤務暦は、ロザミィの方が長い。
 レミリアの推薦でいきなり小隊長に――しかも人間が――任命されたという事で、当初咲夜に対する風当たりはかなり強かった。人間に従う事を不服として、何度謂れのない悪意を向けられたか解らない。
「何で……ロザミィ?」
 そんな中、彼女は、ロザミィは――態度こそ横柄で、口答えも日常茶飯事だったが――咲夜の命に従ってくれた。
 紅魔館の中でもかなりの実力者であるロザミィが従ってくれた事で、他のメイド達も徐々に従うようになっていった。
「嘘……だって……」
 いつも飄々として、ぶっきらぼうで、意地悪で……でも曲がった事が大嫌いで。
 人間とか妖怪とかそんな事関係なしに、筋が通っているならば従ってくれた。私の初めての――部下。
「さっきまで……生きて……」
 今はもう動かない。
 腸が抉られ、ぴゅーぴゅーと吹き出る血は壊れた噴水のように赤い液体を撒き散らし、上半身と下半身があんなに離れて、咲夜の部屋の壁も床もベッドも天井もみんな赤く赤く赤く赤く赤く赤く――花が咲いたように。
「……うぐっ!」
 逆流する胃液が喉を灼く。
 酸味と苦味が混ぜ合わさった胃液が、喉元までせり上がるのを必死に押し止める。
 死体なんか見慣れている。何時だって、何処だって当たり前のように誰かが死んでいる。殺されそうになった事も、殺しそうになった事も、殺してしまった事も――それは切り裂かれた死体、それは腸を引きずりだされた死体、それは血塗れの死体――見慣れてしまって、心が磨耗して、眉一つ動かす事無く、平然と。
 だけど……こみ上げる胃液を抑えられない。
 身内の『死』には耐え切れない――
「……ぁく」
 足がふらつく。とても立っていられない。
 天井と床がぐるぐると入れ替わり、三半規管はとうにその役目を放棄し、激しく蠕動する心臓が血液を脳へと強制し、足がなくなってしまったかのように膝から力が抜け、よろりと、壁に手を付こうとしたところで――

「がぁっ!」

 壁を 思い切り 殴った。

 びりびりと拳が痺れ、ぱらぱらとひび割れた壁土が剥れ、ぽたぽたと赤い血が流れる。
 こみ上げる胃液を飲み下し、震える膝に喝を入れ、両足に力を込める。
 深く深呼吸。鉄と臓液の臭いが鼻腔を嬲るが、眼球に力を込めて脳裏から削り取る。新鮮な空気を、肺だけでなく腹腔内にも十二分に満たし、横隔膜が悲鳴を上げる寸前まで酷使して――落ち着け、落ち着け、落ち着け。冷静に、冷静に、冷静に――頭の中の大切な何かが、ごとりと、抜け落ちた。

 咲夜は改めて、ロザミィの死体を見る。
 彫像のように、冷たく整った顔で、まるで物を見るかのような視線で――咲夜は見る。

 両断され粉砕された腹部は原型すら止めず、虚ろな眼球はガラス玉のよう。倒れた時に壊れたと思われる眼鏡が、ロザミィ自身の頭部に押し潰されて砕けている。噴き上げる血は、心臓の停止と共に徐々にその勢いを殺され、四方八方に飛び散った肉片が、壁に飛び散った肉片が、ずるりと、滑り落ちていく。
 咲夜は無機質な瞳で、ロザミィへと近づきそっと上半身を持ち上げた。
 まだ暖かい死体。さっきまで生きていた死体。咲夜はゆっくりと、壊れやすいガラス細工に対する繊細さで、彼女の残骸を持ち上げる。
 優しさからではなく――死体の状況を確かめるために。
 ロザミィの顎を片手で持ち上げ、その白い首筋を顕わにする。 

 その首元には例の噛み跡が、赤い二本の筋が――なかった。

「噛み跡を付ける時間がなかったのか、できなかったのか……どっちかしらね?」
 未だ血を流しているところを見ると、殺されたのはほんの少し前だろう。
 模倣犯という可能性は、とりあえず考えなくてもいい。
 基本的に、犯行の詳しい状況を知る者など限られている。美鈴と咲夜、門番隊の数名と――犯人のみ。
「鍵は中から掛けられる……ロザミィが自分で掛けたとはいえ、犯人はどうやってこの部屋に入ったのかしら?」
 窓枠にも鍵が掛かり、ドアには施錠されていた。
 ミステリで言うならば――『密室状況』である。
 壁も、床も、天井も、窓枠も、ベッドも、クローゼットも――ロザミィの咲かせた赤い花以外――何もおかしな所はない。見知ったいつもの自室だ。
「鍵を開けずに侵入したか、外から鍵を掛けたのか……それとも扉を開く必要もなかったのか」
 普通の人間なら問題だ。
 だが、此処は数多の悪魔の棲む万魔殿(パンデモニウム)。何らかの手段で部屋へ侵入する術を持つ者など、腐るほどいる。   
「確かめなくっちゃ、ね」
 咲夜はロザミィの瞳を閉じさせ、そっと横に寝かせつける。
 瞳を閉じたロザミィはまるで眠っているようで、その顔を見つめていた咲夜の瞳に瞬間翳りが落ち――だが、それを振り切るようにアイスブルーの瞳を見開くと、足早に自室を後にした。
 やるべき事は決まっている。ならば後悔や哀惜など後回し。全てが終わったその後に、弔いの鐘を鳴らすとしよう。
「魔法のように消え失せた犯人……ならば魔法のプロフェッショナルに聞いてみましょう」
 そして咲夜は自室を後にする。一瞬だけ振り返る。そこには眠るように瞳を閉じたロザミィの姿。もう二度と目を覚ます事のない姿。
 ロザミィは咲夜の大切な部下。それを殺した犯人は、

「一秒たりと、存在を許さない」

 咲夜は、氷のような顔で呟いた――


  §


「あ、もうお休みになってらっしゃるの?」
「ええ、申し訳ないのですが。宜しければ起こしてきましょうか?」
 そう言って、にこにこと笑う小悪魔。
 彼女は、パチュリー専属の図書館司書として日々忙しそうに働いている。彼女がいなければ図書館は三日で崩壊するとは誰の弁だったか、悪魔と呼ぶにはあまりにも可愛らしいその容貌は見る者の笑顔を呼ぶだろう。
 今も赤い髪を揺らしてはきはきと答える姿は、咲夜の荒みかけた心を和ませた。
 美鈴にロザミィの遺体を任せ、急いで図書館へやってきたもののパチュリーは就寝中との事。
 流石にお嬢様の親友であるパチュリーに、そうそう失礼な真似など出来ない。
「あ、いや。それは申し訳ないし。そうね……貴女で良ければ教えて欲しいんだけど」
「私で答えられる事であれば、なんなりと」
 そうして咲夜は小悪魔に聞いてみる事にした。
 考えてみれば難解な比喩で煙に巻くパチュリーより、素直な小悪魔の方が健全なコミュニケーションが取れるだろう。
「魔法、ですか?」
「そう。例えば……鍵を開けるとか、閉じられた部屋に侵入するとかみたいな」
「それはありますけど……何に使うんです?」
 小首を傾げる小悪魔。どうやら彼女は事件の事を何も知らないらしい。
 確かに、この図書館は館の中の異界だ。世俗を絶ち、思考に没頭できるように産み出された知の結集。そこで司書を務める彼女が、事件の事を何も知らなくても無理はない。
「ええと、只の興味よ」
 訝しげに首を傾げる小悪魔。
 考えてみれば、そんな魔法があれば泥棒に持ってこいだ。迂闊に他人に教えるものでもあるまい。
「いや、ほら、魔理沙とかが良く忍び込んでくるじゃない? その対策の一環として、ね。敵を知り己を知れば、百戦危うからずって言うでしょう?」
「むぅ、まぁいいです。でも魔法で鍵を開けるってのは、基本的に魔力で封じられた鍵を開けるものです。物理的な鍵を開ける魔法なんてありません。その場合例えば、金属を腐食させる酸の魔法を使って鍵を腐らせるとか、扉あるいは壁を破壊するとかで、鍵を『無効化』してしまうんです。基本的には何でも応用ですよ」
「ふむ、それじゃ鍵を開けずに侵入する魔法は?」
「それはまた別ですね。空間を渡る、身体を極小にする、身体の組織構成を変え、液状化または気化する事で侵入を果たす……色々ですが、これに関しては技術というより、持って生まれた資質に拠るところが大きいですね。習ってどうこうできるもんじゃないです」
「うーん……この館の中でそんな能力を持っている者……誰か心当たりある?」
「レミリア様じゃないですか?」
「ああ、えっと……他にいない?」
「んー、魔道具とかなら館にあるものは全部把握してますが、個人の能力となるとちょっと……隠してる人もいますしねぇ」
「そうよねぇ……ん? 魔道具なら全部把握してるって?」
「私は『悪魔』ですよ? 魔の流れには敏感なんです。館内であれば全ての魔道具を把握しています。例え私物であろうとも……そうですね。例えば咲夜さんのエプロンのポケットに、かなり力を持った魔道具がありますね」
 咲夜が驚いてポケットに手をやると、其処には古びた金色の懐中時計が一つ。
「これ? でもこれはただの懐中時計よ? 別に魔道具って訳じゃ……」
「立派な魔道具ですよ。咲夜さんは意識していないかもしれませんが、それほどの力を持ったものなんてそうそうありません。大事にしてくださいね?」
 まるで我が事のように、嬉しそうに微笑む小悪魔。
 咲夜ももう一度懐中時計を手にとって、
「そうね、大事にするわ。思い出も詰まっているし、ね」
 そう言って微笑んだ。
「思い出というか、そういう人の思いが大切なんですよ。思いをカタチにする――それが魔法というものなんですから」
「成る程、一つ賢くなったわ。それでこの館の魔道具を全て把握してるって事だけど」
「ああそうそう。確かにこの館にはそういった魔道具は多々ありますし、その魔力を漏らさぬよう封印しているものもあります。ですがそんなもの『悪魔』の瞳を持ってすれば、一目瞭然です。いえ見なくても感じられます」
 えへん、と胸を張る小悪魔。
「凄いわねぇ……それじゃ鍵を開ける魔道具ってある?」
「魔道具としては……少なくともこの館にはありませんねぇ。どちらかといえば、ピッキングなんかの道具や技術かもしれません」
「うぅん、そうなると犯人を絞るのは難しいわね」
 難しい顔をして考え込む咲夜。
 小悪魔はそんな咲夜を不思議そうに見つめて
「咲夜さん、何かあったんですか?」
 と、真剣な目をして聞いてきた。
「ピッキング……でもそんな事してたら、中のロザミィが気付く筈だし……あ、それは魔法でも一緒か……それじゃ窓? 駄目、同じ事だわ。ロザミィなら気付くだろうし……そうね、そもそも誰も反撃すら出来ていないってのがおかしいのよ……声を出す暇もないなんて、そんな事ありえるかしら……」
「あの、えっと、咲夜さん?」
「え、ああ御免なさい。ちょっと考え込んじゃって」
「何かあったんですか? 私最近図書館に篭りっぱなしだから、何も知らなくて」
「……そうね。魔法に関しては貴女がプロフェッショナルだし……良かったら聞いて貰えるかしら?」
「私で宜しければ」
 そして咲夜は事件のあらましを語り始めた。
 四日前から連続して起こるメイド殺害。
 三番隊、荒事専門の実力者たちが何一つ反撃出来ないまま腹部を粉砕され、そして首筋には二本の牙跡。
 隊長であるティスを皮切りに、ディクシー、メアリーと殺害され、先程ロザミィまで殺されてしまった事。
 三番隊内部での確執。人喰い禁止によって巻き起こる悲劇。ラスの能力。クルカの能力。ロザミィの証言。クルカとラスの不在。
 その全てを語る咲夜を、小悪魔は真剣な眼差しで聞いていた。
「……そんな訳で、今はクルカとラスを探しているの。もし魔法で鍵を開けたのなら、貴女に解るかと思ってね」
「……鍵を開ける必要……なかったのかもしれません」
「え?」
「例えば……『爆弾』とか」
「……成る程」
 例えばロザミィの身体に爆弾を取り付ける。
 そうすれば密室だろうと地の果てだろうと関係ない。どんな状況にあろうと、時間が来れば――ボン、だ。
「普通の爆弾なら……あれだけの殺傷力を持った爆弾なら、付けた時点で気付かれる。かなり大量の火薬が必要だしね。だけど、そんな様子もなかったし、それに火薬なら死体に付いた臭いで解るわ。ひょっとして魔法、もしくは魔道具なら……可能かしら?」
「ですね。だけどそれ程の威力を持った魔道具なら……私が気付きます。そんなものはこの館にはない、これは断言できます」
「魔法なら?」
「遅延効果をもたらす呪文と破壊呪文を組み合わせればあるいは……もしそうなら、すいません。私には解らないかも」
「その可能性が高いという事か……」
「クルカって娘が、魔法を使ったんですかねぇ?」
「……解らないわ。『身体を鋼鉄に変える能力』……それを使えばあんな殺し方もできるかなって思ったけど……私、館に住む者たちの能力を殆ど把握出来ていないのよ。本当、メイド長失格よねぇ」
 あ、いやいや。すいません、そんなつもりじゃ、と言って、慌てたように両手を振る小悪魔。
 逆に咲夜が慰めるように、いいのよ、と力なく微笑んで言う始末。
「で、でも! こういう状況って燃えますよね。古風な洋館で巻き起こる連続殺人事件! 殺されたのは美しきメイドの少女! その謎に挑むは、銀の髪を靡かせ夜に咲く麗しきメイド長! うぅーん、そそりますねぇ」
「当事者としては、たまったもんじゃないけどね」
「あ、すいません。何か適当な事言っちゃって。不謹慎ですけどミステリマニアの血が騒ぐっていうか……えへへ」
「あら、推理小説が好きなの?」
「大好きですよぅ! 難解な謎。不可解な死。そしてその謎を快刀乱麻な勢いで解決する名探偵! うーゾクゾクしますねぇ」
「そういうものなの? 私、あまり本を読まないから」
「勿体無いですよ! 今度オススメのやつを貸してあげますんで、是非読んで下さいな。『十刻館殺人事件』とか『セアカゴケグモの理』なんて最高です。最後に解る黒幕が、もう!」
 鼻を膨らましてふんふんと興奮する小悪魔。
 不味い――咲夜の頬を冷たい汗が流れる。小悪魔がこうなると、三時間は解放されない事を経験で知っている。
 以前、「咲夜さんは恋をすべきです!」とか言って恋愛小説を山ほど持ってきた挙句、古今東西の様々な恋愛について延々と語られた時は、時を止めて逃げ出そうかと思った程だ。
「あ、あの、御免なさい。その話はまた今度って事で……」
「えー。むぅ解りました。では今度オススメの推理小説を持ってお邪魔しますんで、その時にでも」
「あ、あー……えぇ、楽しみにしてますわ」
 咲夜の笑みが引き攣る。
 小悪魔が「それじゃ明日にでもー」と手をぶんぶか振って扉の奥に消えていく。
「こっちはこっちで難題ね……」
 完璧で瀟洒なメイド長は、肩を落として呟いた。

「魔法か……犯人は魔法を使ったって訳ね」

 咲夜は知らない。
 魔法が日常の中に溶け込んでいる幻想郷だからこそ、その言葉に現実味があるのだが。
 古今東西、難解な謎に悩む名探偵が一度は呟く台詞――犯人は魔法を使った――をいみじくも自分が使ってしまった事を、

 咲夜は知らない――


  §


「そうですか……魔法……確かにそうかもしれませんね」
「正直、私は魔法ってものに疎くて。どうしたものかしらねぇ」
「私だって、さっぱりですよぅ」
 咲夜の自室。
 美鈴に連絡してロザミィの死体を片付けて貰った後、咲夜と美鈴は二人で事件について話し合っている。
「相手が魔法使いだった場合、貴女に解る?」
「目の前にいれば解ります。基本的に『魔力』も『気』も捉え方は同じですから」
「それじゃ貴女の見立てが正しければ……」
「ラスには魔法も使えないって事になりますね」
「クルカはどう?」
「魔法使いって感じじゃないですけど……かなりの強者ですね。内に秘めた『気』は桁違いです。その力を魔法に使うかどうかですし」
「ふむ……」
「咲夜さん」
「ん、何?」
「咲夜さんは、誰が犯人だと思います?」
「――ラスね」
「同感です。ですが……」
「どうやって殺したか、よね」
「はい」
 ロザミィから聞いた証言が正しいかどうか、ラスもクルカも行方が解らない以上確かめる術はない。
 だがそれが事実なら……ラスには『動機』がある。
 クルカが犯人だと、ロザミィは言った。
 それはとても説得力があって――動機も殺害方法も――疑う余地はないように思える。
 だけど咲夜は、そして美鈴も――犯人はラスだと。理由や理屈を抜きで、直感がそう告げている。
 もしもラスが犯人だとすれば、どうやって非力なラスが三番隊の皆をあのような方法で殺せたのか、『密室』のロザミィをどうやって殺したのか、それに不在証明――メアリーが殺された晩は、ラスと咲夜とずっと一緒だった――その点をクリアしなくてはならない。
 『爆弾』――小悪魔はそう評した――そういう何らかの手段があるのだろうか?
 確かにそれならば、密室とアリバイの謎は崩せよう。だがそんな都合の良い魔法が本当にあるのか?
 それとも、やはりクルカが犯人なのだろうか? その場合でも『密室』の謎は残るのだけれど。
 あるいは全く別の誰かが……あるいはお嬢様が……

 思考が渦巻く。
 推理と呼べない妄想が、ぐるぐると脳裏を駆け巡る。
 
「……美鈴、貴方はどう思う? ロザミィの証言は本当だと思う?」
「はい」
「どうして?」
「私も人間を食べた事ありますから……三番隊のみんなの気持ち、解ります」
「そう……だったわね」
「今は食べませんけどね。何か……そういうの格好悪いじゃないですか」
「人を食べる事が?」
「いえ、弱い相手をいたぶって自分を慰めるってのがです。そういうの……格好悪いです」

 美鈴は微笑んだまま、遠くを見るような瞳で。
 咲夜は沈黙したまま、美鈴の横顔を眺めている。
 その横顔は、真っ直ぐで、誇らしげで、綺麗で――だから咲夜は心に浮かんだまま――

「今の貴女――格好良いわよ」

 と、素直に呟いた。

 え、そんなまさか! いやいやそんな事ないです咲夜さんの方が何倍も格好いいですよ! とか何とか、しどろもどろになりながら必死に抗弁する美鈴。茹でダコのようになった美鈴の顔を見ながら、咲夜が思わず微笑んでしまった時――

 こんこん、とノックの音がした。

「はい、誰かしら?」
「……えっと、その……ラスです。その……入っても宜しいでしょうか?」

 咲夜と美鈴は――思わず顔を見合わせた。


  §


「ミルクと砂糖はいる?」
「あっ……すいません……頂けますか?」
 咲夜はラスに椅子を薦め、紅茶の用意をする。
 自室用のティーセットは、白く何の飾りもない清楚なカップ。だけどずっと使っている愛用のカップだった。
「美鈴、貴方は?」
「あ、私はいいです。このままで」
「はい、どうぞ」
「すいません……メイド長自らお茶の用意をしてくれるなんて……」
「今の貴方は『お客』よ? お客様には最上のもてなしをするのが当然でしょう?」
「あぅ、私、そんな、お客だなんて……その……」
「ほらほら、冷めちゃうわよ?」
「あ、すいません……頂きます……」
 カップに口を付けるラス。一口飲んだ時点で、美味しい……とぽつりと漏らす。その顔はとても幸せそうで、ラスの顔を見ていた咲夜と美鈴も心が温かくなる気がした。
「それで事件の事だけど……その前に……貴女今まで何処にいたの?」
「……すいません。ずっと庭で……裏に大きな木があるじゃないですか? あそこにいました……」
「何でそんなところに?」
「私、落ち込む事があると、いっつもあそこに行くんです。あの木……故郷にあった木に似てるから……」
「ロザミィの事は聞いた?」
「……ええ、私が部屋に戻ろうとしたら、他のメイドの娘が咲夜さんと美鈴さんが私を探してたって聞いて……その時ロザミィの事も聞きました……それで咲夜さんのとこに行かなくちゃって、私……」
「クルカと一緒にいた?」
「私ですか? いえ、一人でしたけど……」
「ふむ……」
 咲夜と美鈴はさりげなく視線を交わす。
「ところで……ロザミィから聞いたんだけど……三番隊の皆が貴女に『酷い事』をしてたって……」
「……はい」
「本当なの?」
「……本当です。でも……それは仕方ないんです。皆……仕方ないんです……」
「何で私に報告しなかったの?」
「それは……その……大した事じゃないと……」
「自分の身体を『喰われる』事が大した事じゃないと?」
 ラスが俯き、手をぎゅっと握り締める。
「ごめんなさい、キツい言い方をしてしまって。気が付かなかったこちらの落ち度なのにね」
「いえ、そんな事はありません! 本当に……大した事じゃないんです。私食べられても、すぐに戻るから……平気です」
「でも……」
「大丈夫です。平気です」
 にこにこと笑ってみせるラス。
 嘘の下手な娘だ、と咲夜と美鈴は思う。
 あんな泣きそうな顔で、あんな歪んだ笑顔で――誰が騙せるというのだろう。
「……この件はきっと悪いようにしないわ。だからもし次に何かあったら、必ず教えて? 約束よ」
「……はい」
「ところでクルカの件だけど……何処にいるか知らないかしら? 館中探したけど見つからなくて」
「そうですね……クルカもさっきの木のところに良く来るんですけど……姿は見えませんでした。クルカも、あの木の事が大好きなんですけど……」
「あ、ひょっとして」
「ええ、私とクルカは幼馴染なんです。ずっと一緒で……この館に勤める事になったのも、クルカに誘われたからなんですよ? 此処のメイド服を見て、絶対着てやるーって。クルカはああ見えて、可愛いもの大好きだから」
 目を細めて、友達の事を楽しそうに話すラス。
「そういえばロザミィも、クルカはずっと貴女を庇ってたって言ってたわね」
「そうなんです。ロザミィさんもですけど、クルカにはずっと助けられっぱなしなんです。私、いっつも迷惑ばっかり掛けて……」
 再び目に涙を溜めはじめたラスを美鈴が慰め、それを見ながら咲夜は思考する。
 ロザミィの証言では、嫌がるクルカの口にラスの肉片を捻じ込んだと言う。

 その様を想像し――吐き気がした。

 ロザミィは、犯人をクルカだという。
 クルカとラス……二人の関係を知るロザミィならそう考えて当然かもしれない。
 もしも自分がクルカの立場なら――殺すわね、間違いなく――そう思った。
「……クルカ、何処に行ったのかしら」
「あ、ひょっとしたら……」
「心当たりあるの?」
「西館の奥に、使われていない部屋が並ぶ棟があるじゃないですか。前に、そこが秘密基地みたいで楽しいって言ってましたし……」
「西館か……」
「あちらは部下に探索を任せた部分です。ひょっとしたら……」
「そうね。貴女の部下を信じていない訳じゃないけれど、一応行ってみましょうか?」
「ですね」
 紅茶を飲み干して、立ち上がる咲夜と美鈴。
 ラスはそんな二人を見て、慌てたように紅茶を飲み干す。
「あ、あの! わ、私も行きます。行かせてください!」
「……解ったわ。一緒に行きましょう。美鈴?」
 咲夜はさり気なく美鈴に目配せをする。美鈴も了解したと、軽く頷く。
 ラスが逃げ出すか……あるいは何か不審な態度がないか、見逃さないように……
「それでは、行きましょうか」
 咲夜は自ら先頭に立って、ドアを開ける。
 目指すは西館。

 其処に待っているのは――


  §


 誰も口を利かない。
 咲夜と美鈴とラス。三人は、沈黙したまま廊下を歩く。
 聞くべき事、話すべき事は無数にある筈なのに誰も口を利かない。
 それは予感があったから?
 それは疑惑があったから?
 窓を打ち付けられて日も差さない廊下では、今が昼なのか夜なのかすら曖昧で――薄暗い廊下には、常に魔法の蝋燭が妖しく揺れている――三人の姿は隣り合っているのに、その顔色すら解らない。
 そんな宵闇の中を、三人は歩く。

 誰も口を利かず、沈黙したまま――

「やけに蒸しますね」
「そうね。もう夏だものね」
「……」
 重苦しい空気を和ませようと美鈴が口を開くが、結局話は続かず、重苦しい沈黙が再び訪れる。
 歩く。
 歩く。
 長い廊下をひたすら歩く。
 咲夜の手によって空間を弄くられた館内は外観の何倍も広く、ともすれば生涯この館の中で彷徨う事にもなりかねない程で、だから再び美鈴が口を開こうとしたその時

 ――破裂音がした。

「美鈴! 先に行くわ」
「お気をつけて!」

 咲夜の瞳が輝きを増す――時よ――どこかでガラスの割れるような音が響き、世界から色が消える。
 そして世界が――停止した。

 咲夜は停止した時の中を、色のないモノクロームの世界をひた走る。
 先程の音はそれ程遠くではない。この近くの筈だ。
 咲夜は走る。
 風のように、火のように。
 世界は黙る。
 色もなく、壊れたように。
 角を二回曲がり、長い廊下を駆け抜け、その突き当たりに――『それ』があった。

 それは、例えるなら、赤い樹氷。

 下半身から噴出する大量の血が、噴水のように吹き上げる赤い血が、停止した時間の中でその『赤』だけが眩しく輝き、まるでオブジェのように、両断された下半身から吹き出る血が、赤く赤く赤く――

 一度天井に叩き付けられたであろう上半身は、天井にも赤い染みを残し、ぽたぽたと、赤い雨を。
 停止した時間の中では、それはまるで赤いベールのようで――

 そして無造作に 苦悶の顔を浮かべた   クルカの上半身が   床に 捨てられたように   赤く 赤く 赤 く ――

 咲夜は言葉を失くし、その光景を見ていた。
 時間を止め続けた脳髄が軋む。頭痛が酷くて何も考えられない。
 停止した時の中、クルカの目が、見開かれた目が――

 唐突に、世界に色が戻る。
 限界を超え再び動き出した世界の中、吹き上げる血が容赦なく咲夜の身体を穢していく。
 だけど咲夜は、そんな事など気にも留めずに、クルカの見開かれた瞳を見ていた。

「咲夜さん!」
 美鈴の叱責にも似た激しい声に、咲夜は自我を取り戻す。
「犯人は! 誰か此処にいたんですか!」
「え、あ……いえ、誰も……いなかったわ」
 そうですか……と美鈴が力なく呟く。
 咲夜が、美鈴に何か答えようとした時、
「クルカ!」
 やっと追いついたラスが、その惨状を見て悲鳴のような声を上げた。
「あ、ああ……嘘……何で……クルカが……」
 その転がる上半身へと力なくしゃがみこんだラスが、血で汚れる事も厭わずクルカの身体を抱え上げる。

「う、あ……く……」

 最初、幻聴かと思った。
 その声はクルカの声で、クルカの残骸から漏れ出る声で、
「クルカ!? クルカ生きてるの!?」
 身体を両断され、腹部を粉砕されて尚……クルカは『まだ』生きていた。
 如何に妖怪とはいえ、その傷は死に至る傷。それでもまだ、クルカは生きていたのだ。
「クルカ! お願いしっかりして!」
 ラスの裏返った声。
 美鈴は咄嗟にクルカの身体へと覆い被さるように『気』による治療を始め、咲夜は人を呼ぶべく駆け出そうとした時、

「う、あ……レミ……リ……」

 その呟きが――三人の鼓膜を打った。
 クルカは震える舌で、自らを抱えるラスの瞳を見つめ、必死に訴えかけるように、生命を搾りつくすように。

「レ……ミリ……ア……」

 最後にそう呟いて――かくり、と首を項垂れた。

「……クルカ? クルカ、クルカーー!!」

 ラスの叫びが薄暗い廊下に響く。
 咲夜と美鈴は……力なく項垂れる事しか、出来なかった――


  §


「ラスは?」
「酷く興奮していたんで……すいません、当身を……今はベッドに寝かせています」
「そう……」
 重く沈む廊下。
 咲夜と美鈴は、咲夜の部屋の前で力なく項垂れている。
「こんな時……煙草吸いたくなるのかもね」
「そうですね……」
 ロザミィの遺体は、もうこの部屋にはない。
 だけど彼女が残した吸殻は、今もまだ残っている。
「……お嬢様なんでしょうか?」
「……」
 クルカが最後に遺した言葉。
 それがべっとりと、二人の心に赤い染みを残している。
 長い沈黙。終わりなき沈黙。
 いつでまでもいつまでも、ずっと、ずっと、押し潰されそうな、沈み込むような。
「……咲夜さん。お嬢様に……聞いてみませんか?」
「……」
「お嬢様が犯人だという可能性……私、頭悪いからそれを覆せそうにないです……」
「そんな事……ないわよ……」
 力ない咲夜の呟き。
 それは何処にも届かず、ただ宙を煙のように漂うだけ。
「確かにお嬢様なら……出来ますよね? 三番隊の連中を一撃で、反撃も許さずに。それに密室だろうと……身体を霧に変えれば……」
「でも、クルカの時は周りに誰もいなかったわ」
「お嬢様なら……咲夜さんが辿り着くより速く、その場を去る事だって……それに、クルカの最後の言葉……」
「……」
「私は昔のお嬢様を知っています。お嬢様は……丸くなられました。昔のお嬢様なら……こんな事は日常茶飯事で……」
「かもしれないけど……それでも……」
「咲夜さん。気を悪くされたら申し訳ないです。でも敢えて聞きます。もしもお嬢様が犯人だったら――どうしますか?」
 咲夜は、親指を強く噛む。
 ロザミィの顔。クルカの顔。ラスの顔……ぐるぐると頭の中を駆け巡る。
 そしてレミリアの顔を思い描く。
 真紅の瞳を、蒼い髪を、白い貌を――
 そして咲夜は、だから咲夜は――

「何も変わらない。今までどおり忠誠を尽くすわ。この生命尽きるまで」
「……私もそうです。例えお嬢様の気紛れで殺されようとも、ね」

 美鈴は笑う。
 疲れたように。憑かれたように。
 咲夜はその笑みを見て、そんな美鈴の歪んだ笑みを見て、

「やっぱり、お嬢様は犯人じゃないわ」

 顔を上げて、真っ直ぐに、誇り高く――宣言した。

「咲夜さん……」
「良い、美鈴? もしもお嬢様が犯人なら……クルカを殺した後、逃げ出したりしない。気紛れで自分の部下を殺す事はあるかもしれない。ただの遊びで生命を弄ぶ事はあるかもしれない。私達に何も告げず一人で事を成そうとするかもしれない……でも、逃げ出す事だけは――ありえないわ」

 運命にすら抗い、その流れを手中に収めた悪魔が、
 己の力に頼らず、不自由を笑って享受する夜王が、

 逃げる事など――ある訳がない。

「何かあるのよ。お嬢様を犯人と思わせる罠が……」
「……そうですね。すいません、弱気になっちゃって……」
 咲夜と美鈴は再び考え込む。
 だがそれは先程までの――レミリアが犯人かもしれないという――不安な顔ではなく、純粋に謎に挑む智者の顔。

 まるで複雑な数式に挑む数学者のように。
 まるで難解な書物に挑む文学者のように。

 まるで――不可解な謎に挑む名探偵のように。

 咲夜は思考する。
 砕かれた遺体。四方に飛び散った血と肉片。首筋に残された赤い傷跡。クルカの証言。ロザミィの証言。ラスの証言。ロザミィの告白。クルカの怯えた顔。ラスの泣きそうな笑顔……ぐるぐると、ぐるぐると駆け巡る。足りない、これではまだ足りない……小悪魔の言葉、美鈴の結界、閉じられた密室、噴き上がる血、おぞましい影絵、名前、本当の名前、噂話、晒された首、千切られた四肢、クルカの死体、赤い樹氷、遺した言葉……レミリア……

「美鈴、さっき……ラスの動きにおかしなところはなかった?」
「なかったです。『気』の流れにも大きなものはありませんでした」
「やっぱり……」
「ラス以外の『誰か』でしょうか?」
「……ちょっと待って……何かが頭の中に引っ掛かってるの。何だっけ、何か三人の証言でおかしなところが……」
「え?」
「何だっけ? 何か喉まで出掛かってるのに……あぁ、もう!」
「さ、咲夜さん!」
 いきなり自分の頭を掻き毟る咲夜に、美鈴は驚いた。
 ヘッドドレスはズレて、綺麗に整えていた銀髪が激しく乱れる。癖のある銀髪が、まるで爆撃にでもあったかのように。
「ちょっと咲夜さん! 落ち着いて、落ち着いて下さいってば!」
「落ち着いてらんないわよ! あぁもうこのポンコツ頭!」
 爪を立ててバリバリと激しく頭を掻き、綺麗に結われた三つ編みは解け、髪がバラバラに。
「あー、折角の三つ編みがバラバラに……」
「三つ編みなんてどうでもいいわよ! ――え?」
「咲夜さん? どうしたんですか、いきなり固まって?」
「……バラバラ……死体……晒して……噛み跡……お腹を……そういえば死体は……部屋中に……爆弾……でも……だとしたら……」
「咲夜さん?」
「……待って、それじゃロザミィとクルカは……あ、そうか……でも……そんな事……そういえば昔……レミリア……」
「咲夜さんってば!」
「……美鈴」
「はい?」
「ラスの事、お願いね。私はちょっと席を空けるから」
「良いですけど……どちらへ?」

 まずは、魔法のプロフェッショナルのところよ――そう言って咲夜は駆け出した。


 §


「もーなんですか。こんな遅くにー」
「ごめんなさい。どうしても確かめたい事が出来たの」
 咲夜の真剣な眼差しに、小悪魔は――寝惚け眼を擦りながら、ピンクのパジャマにお揃いのナイトキャップ、ネコ型枕を小脇に抱えていた――目を見開き、ぴんと背筋を伸ばした。
「私で解る事であれば、なんなりと」
「聞きたいことは一つよ。××に××を溜め、××を×××にする……こんな事は可能?」
「……不可能ではありません。ですが……そんな事!」
「いいの。もしそうなった場合、貴女に『感知』できる?」
「いえ……多分、無理です……」
「ありがとう。それで十分よ」
「でも咲夜さん!」
 咲夜は踵を返し、小悪魔の言葉にも耳を貸さず、紅い館を闊歩する。
 その瞳は獲物を追う猟犬のそれ。慈悲も容赦も一切ない狗の瞳。
 すれ違うメイドの全てが怯え、へたり込む程の苛烈な光。

「残る謎は、あと一つ」

 咲夜は向かう。
 全メイドの『履歴書』を収めた資料庫へ――

 数時間も掛けて書類を引っ掻き回し、そしてそれを見つけた時、

「あ、あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

 咲夜の乾いた笑いが響く。
 笑う、笑う、笑ってしまう。
 何て皮肉。何て運命。何て喜劇。
 だけどこれで完遂。後は幕を下ろすだけ。

「謎は全て、解けたわ」

 咲夜の呟きが、埃だらけの資料庫に空しく響いた――



  §

 
 ラスは朝の庭を歩く。
 まだ早いこの時間、夜と朝の切り替わるこの時間は夜勤と日勤の交代で誰もが忙しく、裏庭に誰の姿もない。
 太陽が僅かに昇り、朝霧が視界を白く染める。暗い夜が、重く湿った霧によって、その生命を永らえようと足掻いていた。
 紅い館も、緑の庭木も、赤い煉瓦の壁も、虚ろで朧に霞ませる。
 それはロザミィの虚ろな瞳。
 クルカの濁った瞳。
 ティスの、ディクシーの、メアリーの最期に遺した瞳の色。
 人は死ぬと土に還る。
 妖は死ぬと空に還る。
 ならばこの霧は、三番隊の彼女達の残魂なのだろうか。
 そこに残るは後悔か、怨嗟か、絶望か、哀惜か、諦観か、憤怒か、狂気か、歓喜か、安堵か……誰にも読み取る事など出来はしない。
 深い霧の中で
 生い茂る庭木の中で
 一本の大きな木の下で
 赤い煉瓦の壁に寄り添うように

 ――咲夜がいた。

「咲夜さん……どうしたんですか? こんなところに呼び出して……」

 ラスの前には、まるで物を見るかのように冷たい目をしたメイド長。 
 その光は、冷たく鋭利で――美しい。
 ラスはその光を、眩しそうに見上げている。
 泣いているような、笑みを浮かべて。

「人目のない方がいいんじゃないかと思ってね。そうじゃない?」
「……良く解らないんですけど」
「そう? 貴女が一番良く知ってるんじゃない? 『犯人』さん」

    ぴしり、と。

    せかい、が。

「……何の事でしょう?」
「ティス、ディクシー、メアリー、ロザミィ、クルカ……三番隊の皆を殺したのはラス、貴女ということよ」
「は、はは。そんな……酷いですよ、咲夜さん。私がそんな事……」
「殺された娘たちの死体は、人目に付かないよう門番隊で始末したわ。ただ、どうしても噂だけは止められない。五体をバラバラに千切られた、斬られた首が塀に晒された、頭を潰されてた……バラバラなのよ、その噂。でも貴女だけは――胴体を千切られ、首筋に噛み跡っていう死体の状況を知っていたわね。私と美鈴と門番隊の数名以外で知っているのは――犯人だけよ」
「……私、何も……ないです」
「メアリーの時も、クルカの時も、犯行時貴女は私と一緒だった。そしてロザミィは鍵を掛けた室内にいたのに殺された。犯人はどうやって彼女達を殺したのかしら? しかも三番隊は荒事専門の強者揃い、そんな彼女達が反撃すら出来ずに殺されるとは思わない。例え、お嬢様相手だとしても、ね。どうやったらそんな真似できるのかしら? 答えは一つ――『爆弾』で殺したのよ。彼女たちに仕掛けた『魔法の爆弾』でね。すぐに気付くべきだったわ。死体は全て『四方に散らばって』いた。もし外部からの攻撃なら、着弾面の反対側だけに飛び散っていたでしょうにね」
「私、何も……ない……」
「でも『爆弾』なんて強力な能力。貴女は持っていなかった。そんなものがあれば、貴女も抵抗できたでしょうしね。仮に魔道具であれば小悪魔が気付く筈。では貴女は何処でそんな『力』を手に入れたのかしら?」
「私、何……す」
「貴女は『作った』のよ。『自分の身体』で」
「私……」
「そして彼女たちに『喰わせた』のね。『身体に魔力を溜め、自身を魔道具にする』……そう、自分の身体を強力な『爆弾』にして」
「私……私……」

 咲夜の瞳がラスを射抜く。
 前髪で隠れ、ラスの瞳は見えない。ラスはずっと咲夜の言葉を聞きながら、壊れた蓄音機のようにぶつぶつと何か呟いていたが、ふっと顔を上げて、ふわりと風が前髪を舞い上げて――

「私、何も悪くないですよ?」

 そう言って、透明な瞳で、晴れやかに、笑った。

「見えます? 暗いところに行くと……ほら、綺麗でしょ?」
 木の影の、夜の残滓に身を潜めるラス。
 その首筋と手と足と顔に……青白く光る禍々しい呪印が、びっしりと、呪いの様に。
「これ彫るの……凄く痛かったんですよ? おまけにこれ、毎朝お祈りしないといけないんですけど、その度に凄く痛むんです。本当、気が変になっちゃうくらい」
 にこにこと、にこにこと、ラスは笑う。
 晴れやかに、穢れなく、にこにこと、にこにこと。
「でも頑張ったんですよー。毎朝、毎朝、少しずつ少しずつ魔力を溜めていって……やっとここまで強くなったんです」
 誇らしげに、両袖をまくって、呪印を晒すラス。
 今までの怯えていた表情が嘘のように、とても涼やかに笑いながら――
「ラス……貴女……」 

「だから私は、何も悪くないんです」

 にこにこと、にこにこと。

「……三番隊の仲間、全員を殺したのに?」
「はい」
「……なんで?」
「あはは、だって私は何もしてませんもの。咲夜さんなら知っているでしょう? 私は毎晩、毎晩酷い事されて……だから神様に助けて下さいってずっとお願いしてたけど、神様なんてなーんにもしてくれなくて……だから、仕方ないから、悪魔さんにお願いしただけですよ? あいつらを殺して下さいって。流石は悪魔さん。すぐに願いを叶えてくれました。だからあの人たちを殺したのは悪魔さんです。私はなんにも悪い事してないですよ」
「あの娘たちを……『爆弾』で殺したのは貴女よ、ラス。悪魔なんかじゃないわ」
「嘘です。私は悪魔さんの言うとおりにしただけです。ちょっと痛かったけど、身体中ばりばりと食べられる事に比べたら、ねぇ?」
「そうね。確かに貴女は何もしていない……やったのはあの娘たち……でも貴女は……」
「ふふっ、本当は『起爆』しないでおこうかとも思ったんですよ? 私を食べてる人たちを、私が思うだけで殺す事が出来る……それって優越感じゃないですか? どんなに強がっても、どんなに偉そうにしてても、私がこうするだけで――」

 ラスは右手を伸ばし、拳を突き出して親指を立て、そして、

「ぼん、ですよ」

 親指を落とした。

「ラス……貴女は……」
「でも駄目でしたね。我慢できませんでした。あの人たちが――人を喰う事を止められなかったみたいに、ね」
「……」
「本当にねぇ……何でこうなっちゃったんでしょうねぇ……私達、上手くやってたんですよ? そりゃ隊長は乱暴だし、ディクシーさんは意地悪だし、メアリーは冷たいし、クルカは口ばっかだし、ロザミィは煙草止めてって何回言っても聞かないし……でも、仲良しだったんですよ? お嬢様が……あんな事言い出すまでは……」
「……ラス」
「だから噛んでやったんです。お嬢様の仕業に見えるように。ロザミィは鍵が掛かってたんで無理でしたけどね」
「…………ラス」
「上手くやってたのに……みんな、お嬢様の仕業だって、思ってたのに……何で余計な事するんですか? いいじゃないですか、お嬢様は吸血鬼なんだし、今更汚名の一つや二つ増えたって構わ――」

「――いい加減にしなさい! 『レミリア・シーニク』!!」

 咲夜の怒号のような叫びに、ラスはひっと身を竦ませる。
 限界まで張り詰めていた糸が、最後の最後に甲高い音を立てるように張り詰めていたラスは、それでもまだ僅かに繋がった糸を無理矢理に結びなおし、だけどもうぎりぎりで、もう何時切れてもおかしくなくて――

「知って……たんですか?」
「知ったのは……ついさっきよ。昔聞いた噂を思い出して……履歴書をひっくり返して……やっと解ったわ。貴女だったのね……『偶然、お嬢様と同じ名前だったが故に、改名させられたメイド』って」
「あはは、レミリアかぁ……今じゃその名前で呼んでくれるのなんて、クルカだけでしたよ? それも二人っきりの時、こっそりと。あぁ、そういえば……もうクルカはいないんでしたね。そっか……もう誰も……私の名前、呼んでくれないんだ……」

 笑っているラスの顔。泣いているラスの声。
 だけどその顔は笑っていて、もう壊れすぎて、それ以外に浮かべられなくなっていて。
 だからとても涼しげで、
 だからとても乾いていて――

「……何で、お嬢様の所為にしようとしたの?」
「……お嬢様の所為にしようとした事が、そんなに気に触りましたか? は、ははは、笑っちゃいます。流石は冷酷非道の鬼のメイド長! 私達下々の者がどれだけ苦しもうとも気にも留めない癖に! 私達は命懸けでお嬢様を護っているというのに! 人間なのに、弱い人間なのに、何で私達の気持ちを解ってくれないんですかっ!」

 ラスは泣いていた。
 顔は笑っているのに、涙も流れないのに、ラスは――泣いていた。
 泣いているのに笑っていて、笑っているのに怒っていて、まるで壊れた玩具みたいに喚き、泣き叫び、吼え、髪を掻き毟り。

 それでも咲夜は、そんなラスに手を伸ばすでもなく、声を掛けるでもなく――蒼い瞳を、氷のような瞳を向けるだけ。
 だからラスは、そんな咲夜の顔を見たラスは……かくんと、人形のように首を傾げ、瞼が裂けるほどに目を見開いて。

「は、はは……はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!」

 狂ったように哂った。
 終ったように嗤った。
 泣いてるように――嘲った。

「ラス……」
「私達はね、上手くやってたのよ! そりゃみんな意地悪だったけど……あんな酷い事はしなかった! あの吸血鬼が人を襲う事を禁じるまでは! アンタの大事なお嬢様が、人間と……あの巫女と仲良くなるまでは、私達上手くやっていたのよ! ティスもディクシーもメアリーもクルカもロザミィもみんなみんな……あんな……酷い事は……うっ、うう……うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 子供のように泣きじゃくるラス。
 ずっと我慢して、我慢して、我慢して……それでも尚叶わない事があると、知ってしまった子供の涙。
 泣く事で同情を引く。
 泣く事で優しい手を求める。
 そんなものはもう何処にもないのだと。
 泣き喚いてもそれでも手に入らないものがあると――知ってしまった者には流せない――純粋で、綺麗な、透明の涙。

 だけど咲夜は、そんな泣きじゃくる子供を前にして。
 冷静に、
 威厳を持って、
 諭すのでも、
 言い聞かせるのでもなく、
 ただ単純に、
 事実を述べるように

「それでも私達は……お嬢様に従うのよ」

 淡々と――告げた。
 
 ラスの涙が止まる。
 不思議な物でも見るかのように、咲夜の白い貌と蒼い瞳を見つめる。
 血の流れない――彫像のような――冷たい『それ』を。

「……狗」
「……」
「は、ははは。あんたは狗ね。ご主人様に尻尾振って、エサを貰って、蹴られても蹴られても付き従って……あんた、ご主人様が死ねと言ったら死ぬんでしょ!」
「……勿論よ」
「は、はは、ははははははははははははははははははは。やっぱイカれてるわ、あんた。私は嫌。痛いのは嫌。苦しいのは嫌。死ぬのは嫌。 ――でも狗になるのはもっと嫌」

 ラスはこめかみに指先を当てる。
 まるで銃口のように突きつけられた指。
 かちりと、撃鉄のように親指を引き、にこりと微笑んで、

「ばいばい。悪魔の狗」

 ばぁん、と

 乾いた音が響き渡った――


  §


「ふぅん、そんな事あったの」
「えぇ……」
 此処は図書館。魔女と小さき悪魔が統べる、紅い館の――異界。
 掃除に精を出していたところ、パチュリーから――図書館から出てくる事など極めて稀な――紅茶を淹れてくれない? と言われて、図書館に出向いた咲夜は、すでに予感していた。
 三番隊消滅を聞きつけたパチュリーが、詳細の説明を求めているのだろう。普段そういった雑事に関心を持たない彼女としては、珍しい事である。

 レミリアに対し、第三メイド隊全滅の報告をした時は「ふぅん」と返されただけだった。詳細については委細問わず、ただ淡々と「咲夜に任せるわ」そう言って話を打ち切った。何故か部屋から出る咲夜に「お疲れ様」と声を掛けたのが、違和感といえば違和感。だがそれで、それだけで、咲夜は了解した。

 我が主は全て見通した上で――自分の主張を曲げる気はないのだと。

 だからこの話はこれで終わり。
 メイド隊はその一部が欠け、他がそれを埋めるだけ。

 ただ、それだけだ。

 パチュリーに対しても、レミリアに説明したのと同じく詳細をボカして事実だけ語る。
 だが、その表情から――普段と変わらぬ無表情だが――彼女が真相を見抜いた事を咲夜は知った。

『安楽椅子探偵』

 もし、その称号が一番似合うのが誰か。そう聞かれれば、この館に住む百人が百人とも彼女の名を上げるだろう。
 きっと『誰』が『誰』を殺したのか、そんな事は知るまい。
 ただその筋道を、事件の粗筋を、真相を、その全てを、まるで見慣れた書物のように読み取っているだけ。

 故に魔女。
 この館に棲む――悪魔の一人。

 図書館から一礼して退室した咲夜はふぅっと溜息を付く。
 レミリアとパチュリーの、全てを知りながら何一つ変わらない顔を思い出して、

「狗であるのも楽じゃないのよ……ラス」

 と呟いた――

「お疲れ様です、咲夜さん」
 図書館を出ると、そこには美鈴が壁に持たれかかっていた。
 いつもの民族服ではなく、白いTシャツにジーンズというラフな格好。
 健康的な肢体を誇る美鈴には、そんなシンプルな格好が良く似合っていた。確か今は休暇中の筈である。
「貴女もね。事後処理大変だったでしょう? 美鈴」
 いえいえ、咲夜さんに比べれば大した事ないですと言って、にこにこと笑う美鈴。
 連日『気』の結界を張り続けて疲れきっているだろうに、そんな様子は微塵も見せず朗らかに微笑んでいる。
「咲夜さん、これから休暇ですよね?」
「そうね……三番隊の再編成が必要だけど、とりあえずはゆっくりしたいわね」
「それじゃ、どっか美味しいものでも食べに行きません? ほら、前に話した八目うなぎの塩焼き」
「あぁ、そうね。それもいいかも」
「行きましょう行きましょう!」
 子供のようにはしゃぐ美鈴。元気よく駆け出して、咲夜に向けて手を振って。
 自分に対して気を使ってくれているのだと解っているが、咲夜はその好意に甘える事にした。

「溜めすぎると、良いことないしね」

 ラス――レミリア――も、言えば良かったのだ。
 言いたい事を言わずに溜め込んで、溜めて、溜めて、溜め込んで――そして弾けた。
 だからその罪を、咲夜は憎む事が出来なかった。
 同情ではなく、どこか少しだけ――自分と似ていたから。

「本当の名前、か」

 私の名前……何だったっけ?
 遠い昔に……捨ててしまった……私の本当の名前……もう呼ぶ者のいない……本当の名前……

「咲夜さーん! 置いてっちゃいますよー!」

 そうだ。私の名前は……『十六夜 咲夜』
 お嬢様に付けて頂いた、私の名前。

 だから、それで良い。それで良い――

「待って、今行くわ!」

 今は英気を養おう。
 明日からはまた、戦場のような毎日が待っているのだから――


  §


 薄暗い図書館。
 日光は本の大敵だからと光量を最小限に抑えているため、此処では昼と夜といった時間の概念がない。何万、何十万、何百万という書物を集め、そして今も尚拡大し続ける知の結集。すでに書物は読まれるためにではなく、集められるためだけに存在しているかのような、そんな堕落した英知の汚濁。
 だがそれは決して腐る事はない。パチュリー・ノーレッジがいて、その集積する知の全てを脳内の壺宙に収めようとしている限り。様々な知識を融合し、その化学変化の果てに生まれる何かを求めて――パチュリーは本を読む。
 寝ている時以外は本を読んでいると噂される彼女は――噂ではなく真実であるのだが――今は本を手にする事はなく、咲夜の置いていった紅茶を一口飲んだ後、机上の呼び鈴をちりん、と一度だけ鳴らした。

「お呼びですか? パチュリー様」

 ひょうっとつむじ風が巻き起こり、パチュリーの目が細められる。その閉じた瞳を開いた時、目の前に現れたのは、赤い髪と黒い翼を揺らし、凛と顔を引き締めた小悪魔の姿。
 パチュリーは、そんな小悪魔の姿をちらりと一瞥した。
「第三隊の件……貴女なら知ってるわよね?」
「聞きましたよー。怖いですねぇ」
「……これ以上、余計なちょっかいは無用よ。もし、まだ続けるのなら――私が動くわ」






「あれ――バレてました?」




 そう言って笑う小悪魔。

 その笑みは童女のようで。
 穢れなく、淀みなく、爽やかに――歪んでいた。

「魔力を身体の各位に溜め込んで任意で爆破……教えたのは貴女でしょう? いえ、おそらくは殺された五人に、ラスを『喰う』遊びを教えたのも……」
「うふふ、ただの暇潰しですよー。私と同じく暇そうにしてたあの人たちに、『遊び方』を教えただけです」
「貴女の事だから……他にも色々やっているでしょう? その全てから手を引きなさい」
「おや? それは命令ですか?」
「いいえ。貴女の『真名』を知らない私は、貴女に対する強制力を何一つ持っていない……だから、これはお願いよ」
「断ったら?」
「実力で」

 見詰め合う二人。
 片方は能面のように表情を変えず、片方はにたにたと笑いながら。
 刹那よりも長く――永遠よりも短い――沈黙の時が流れ、

「――了解しました。全ての件から手を引きますよー」
「本当に?」
「私が嘘を吐いた事などありましたか?」
「ないわね。残念ながら」
「でしょう!」

 うふふ、と口元を隠し笑う彼女。
 それは楽しそうに、本当に愉しそうに哂う『悪魔』の貌。

「では改めて……二三四五番から三六四三番台の区画整理をお願いするわ」
「げ、そりゃ無茶ですよぅ! 何万冊あると思ってるんですか!」
「暇なんでしょ? 働きなさい」
「む、むむむ……」
 小悪魔は唇を尖らせ、顔を顰めながら。
 パチュリーに向かって「この悪魔ー!」と一声叫び、けたけたと笑いながら、

 図書館の奥へと消え去った――










                           《完》









 こんばんは、床間たろひです。
 長々とお付き合い下さり、本当にありがとうございましたw

 綾辻行人、京極夏彦、森博嗣、西尾維新……ミステリが大好きです。
 難解な謎、不可解な死、密室、名探偵、意外な犯人、様々なキーワードに心踊り、夢中になって読み漁りました。身の程知らずにも、いつか書いてみたいと思う程にw

 今回の話はエセミステリーです。謎も動機も犯人も「んな阿呆な」と言っちゃうくらい稚拙なものですが、とりあえず今出来る全部を突っ込みました。
 これは自分で読みたいが故に書いたお話です。だから自分勝手で独りよがりなお話です。
 それでも「面白かった」そう言って貰えたら嬉しいなぁw

 PS.今回のお話で、近藤様、おやつ様、河瀬圭様に推敲を手伝って頂きました。おかげで素敵なお話になったと思います。本当にありがとうございましたw
床間たろひ
[email protected]
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コメント



0.11730簡易評価
3.100廿四削除
推理小説を読む気分で頑張ってみましたが、まぁ、魔法とかそういうワードがある幻想郷で推理とかはムリですなー、と途中で投げっw

ともあれ、非常に楽しませてもらいました。
最高です。
あとがきにも書かれている通り、推理小説としては結構アレですが
小説としてパーフェクト。二次創作としてハイエンド。
特にオチはズバ抜けていました。小悪魔を、まさに悪魔的に書ききれていたと言っても過言ではないと私は思います。
読み易さ、内容、テンポ、オチ、あらゆる面で心から賞賛を送ります。
Thank you for this wonderful novel !
これからのご活躍に期待しています。
6.80名前が無い程度の能力削除
面白かったー
8.90翔菜削除
咲夜さんと美鈴のやり取りが最高w
途中までは、何とななーくなら読めていた展開。
まぁ、完全に解ったわけじゃなかったのでそっちも面白かったのですが。

ただ――最後の小悪魔だけは完璧に意表をつかれました、いや、これは何とも小悪魔だ。
9.80ABYSS削除
頑張って推理してやるぞ!と思いましたが、第三隊メイドの名前とキャラが一致できないとわかった時点でお手上げしましたorz
そして内容ですが、とても面白かったです。
展開のテンポがよく、ぐいぐいと牽引されいつのまにか最後まで読んでしまいました。あっさりしすぎでなくくどすぎない文体もそれを助長していて、「凄ぇなあ」と唸ってしまうほどによかったです。
ただ、オチは個人的には不満かなあ、と。種晴らしは基本と言えば基本でしょうけども、あそこまではっきりと明示されると「なーんだ」ってなっちゃいました。いわゆるオチの爽快感が足りなかった、と思うのですけど、でもこれはこれで完成してるような気もするので、難しいところです。私の意見は少数意見でしょうし。

ともあれ、まこと素晴らしいエンターテイメントを楽しませてもらいました。
身内に甘い悪魔の狗に、幸あれ。
15.90ルドルフとトラ猫削除
名前を捨てることの出来なかった少女の末路……局所的に悲劇。大筋で喜劇。
こういう二枚立てには弱いわー
17.80古音無削除
おもしろかったです。中盤までお腹の中から出来そこないの手やら足やら出てきそうなサイコホラー系かと思ってました。
レミリア様にもしあんなご下命出されたら一般メイドの中には当然こんな軋轢もありそう。
ラストの「悪魔にお願い…」辺りのくだりは犯人が最後によく言いそうな事だからと、気付かずスルーしてたら幻想郷的には…。事件解決まであった「んん?」といった感じのわだかまりが真相解明で「ほぉ~」と感心してしまいました。なかなか描かれない形での悪魔っぷりが良かったです。
ミステリとしては、読み返した時に「なるほどっ。序盤に重要なピースが実は隠されていた」とかあると個人的にはなお好きですが、次々と不可解な死を遂げて行き犯人の目的がほぼ達成された頃、推理のピースが綺麗にはまった探偵によって白日の元にさらされ…白日どころか犯人も真相も…でしたが。これもこれで
19.100名前が無い程度の能力削除
ウドンゲなど比較にならない狂気と荒事。悲劇。
オリジナルキャラの鋭いキャラ立ち。
予想できていても面白い王道で、そして時にはいい意味で予想を裏切るストーリーテリング。
咲夜と美鈴の掛け合い。
咲夜の推理と苦悩。
そして小悪魔…。
どれを取ってもお腹いっぱいです。
特にオリジナルキャラのうち台詞のあった3人は、平和な日常のSSに登場するのを読みたかったと思えるほど魅力的でいい子たちでした。
一つだけ不満があるとすれば第三隊と三番隊の表記が入り混じってる点なんですが、これは途中で設定を変えた名残でしょうか。
23.100SETH削除
すごいw
25.90deso削除
いやいや、十分にミステリだと思います。チョーモンインとか好きですから。
トリックは途中でわかりましたが、黒幕が素晴らしい。
悪魔の館、堪能させていただきました。
30.80名前が無い程度の能力削除
すげーなおい
31.100名前が無い程度の能力削除
悪魔、というからまさかとは思わないでもなかったが……こぁ怖いよ怖いよこぁ。
33.100名前が無い程度の能力削除
奴は小悪魔なんて易しいもんじゃない。
あの腹黒さ…グレーターデーモンだ…
46.100名前が無い程度の能力削除
さいごのこぁに意表を突かれました
良い物を有難う御座います
47.60てきさすまっく参拾弐型削除
面白かったです。ネタバレ的には「食う」云々の話が出た段階で見抜けたのが
私的に嬉しかったり。
ただちょっと独白に頼りすぎの部分があるように感じます。
ここまで面白いものを書けるので、更に上を目指していただきたく思ってこの点数です。
48.100名前が無い程度の能力削除
小悪魔、結婚してくれ。
50.100煌庫削除
アンタは最高過ぎる!その言葉以外不要!
53.100名前が無い程度の能力削除
お話も面白かったけど、
最後の最後のオチがよかった。
こういうコァたんも新鮮でいいなあ(w
新たな境地が開かれたと思います。
56.90名前が無い程度の能力削除
オチが読めなかった……。
小悪魔といえども、公然と「悪魔」を名乗るだけの事はあるってことですね。
咲夜さんの相談を受けてる時のこぁの内心を想像すると、また楽しめる感じかな。
62.100削除
最後だけは読めませんでした!
やーらーれーたーwww
72.90名前が無い程度の能力削除
レミリアは真相を知っているのだろうか?
74.100偽皇帝削除
楽しませていただきました。
全体の半分あたりで思いついた予想が半分くらい当たったりしましたが。
「身体が爆弾になった」みたいな感じで。
小悪魔が元凶だとは思いませんでしたが。つか怖かった。
75.無評価bernerd削除
とても読みやすく、全てに伏線があり親切で、面白く、大変価値のある作品だと思いました。
感想が長くなるのでメールでも送らせていただきます。
78.80あふぅぁ削除
幻想郷の主要キャラ達の裏でこんな事が起こってもおかしくないよなー
何もかもがほのぼのなわけじゃない、リアルでおもしろかった。
…小悪魔ヒドイよ、そりゃあ。
79.100名前が無い程度の能力削除
確かに推理小説としてはあれですが、いいものを読ませていただきました。
小悪魔の悪魔ぶりが最高。
81.100名無しの一人削除
面白かったの一言に尽きます。
最後の図書館での一幕は本当に予想外、でも驚きと同時にストンと話が収まった感じでした。
いやでも怖いっす小悪魔。鳥肌立っちゃいました。
82.80変身D削除
最後の真相がエグくて一気に背筋が凍りました。
いや、面白かったです。
でも個人的にこの小悪魔は受けいれ難くOTZ
87.70名前が無い程度の能力削除
証言の出揃ったところで犯人の目星が、ロザミィの死と爆弾の話で、ほぼ完全に話が見えてしまいました。で、そのままのラストへ。
なので、途中でミスリードを起こすようなイベントが欲しかったところです。具体的にはラスの証言~ロザミィの告白直後あたりに。「ラスの本名」は、私にとってはタイミング的に、(ミスリードを引き起こすものとしては)蛇足にしかなり得ませんでした。
黒幕の小悪魔は、驚きよりも「なるほどね」という思いが。冒頭の口調は確かに小悪魔のそれでしたもんね。それでも意外ではありましたが。

とはいえ、何でもありな幻想郷を舞台に、そのエッセンスを盛り込みつつもきちんと筋道立てて、理不尽でないように「事件」を演出し、推理の余地のあるように書き上げた事は賞賛に値すると思います。
…名無し風情が偉そうですが。

余談。悪魔の館といいながら、紅魔館って実は純魔族は小悪魔だけですね、そいえば。
吸血鬼って真祖といえど、カテゴリ上は不死者ですもんね…。産まれたときから吸血鬼なスカーレット姉妹は、メンタル的にはやはり人より悪魔に近いけれど。

あと、「頭」だけになっても生きてるから「ラス」だったりしますか?ひょっとして。
90.100名前が無い程度の能力削除
こぁ怖いよこぁ

ところで、咲夜さんに恋愛小説を奨めまくっていたのにも裏が・・・?(恐)
93.90数を書き換える程度の能力削除
お見事っ!既存キャラもオリジナルキャラも全員が全員、性格と行動に
矛盾が無い記述は一つの読み物として完成された域だと思います。
ただ一つだけ贅沢を言わせて貰うならば、推理モノとしてはもっと
「ヒッカケ」があっても良かったかな?と。
最初の死体描写で「体内に爆弾」が分かっちゃいましたので。
102.90名乗る名前はありません削除
うーん、爆弾の辺りまでは読めたんですけどねえ。さすがに小悪魔は無理でした。
東方らしくないのに東方をやってる作品を久しぶりに読んだ気がします。あれ、逆かも?
105.100名前が無い程度の能力削除
殺害方法はロザミィで読めましたが、とても面白かったです。
こぁの悪魔っぷりがすげー
108.100策謀琥珀削除
面白かったです。

東方で推理物って言うのも予想外でしたしね。展開的にはどっかでみたかなぁと言うところは有りますが、久々に楽しませてもらいました。
111.100名前が無い程度の能力削除
実に面白かったですw
犯人は直感でわかってもトリックが判らなかったのがちょっと悔しいところ
小悪魔さん素敵です!

まぁ、ミステリーとしてはもうちょっと分量がほしいものの、話としては最高でした
113.80ちょこ削除
ぉぅぃぇ
小悪魔黒いぜっ
115.100真十郎削除
幻想境で本格推理物が出来るとは思いませんでした。
最後まで楽しめましたが一言言わせてください。
あ、本編を読む前にココを読んでいる方、戻ってくださいませ!


犯人はヤs
118.100kt-21削除
アンタ最高だ。
ラスの悲壮感がたまらんよ。
 
そして小悪魔がリトルデビルでなくデーモンでまさに外道。
120.90桜香雪那削除
ぎゃわー! 面白かった! てか綾辻行人、京極夏彦、森博嗣、西尾維新全部趣味ですええともさー! それに古典ミステリ、有栖川、島田とかそろえればほぼわたしと一緒になります。

てか小悪魔黒幕説先にとられたああああああorz
122.100名前が無い程度の能力削除
夢中になって読んでしまいました。
特に終盤、最後の殺人からラストまでの流れが最高です。
124.90卯介削除
よいミステリをありがとうございました。
証言で犯人、図書館での会話で方法と黒幕がぼんやりとわかりましたが、それでいてなお続きが気になり引き込まれる文章。これこそがミステリの一番の醍醐味と思っております。黒幕の黒幕らしさが最高でした。
126.80桐生削除
探偵役が真相に辿り着いてから、犯人との対決への流れはやっぱりミステリーの醍醐味ですね。読んでて口からエクトプラズムが出ました。
欲を言えば、ラストの小悪魔登場を匂わす伏線があればもっとこぁぁぁぁぁぁぁぁぁだったかもしれませんが、このままでも十分ミステリーしてるかと思います。
次は是非、白玉楼、永遠亭辺りで事件を!!綾辻行人の館シリーズみたいに。
128.無評価桐生削除
読み返したら、ちゃんとこぁぁぁぁ伏線ありましたね。
はずかちぃ(ノω`)
132.無評価名前が無い程度の能力削除
あ、でも欲を言えば解決編辺りでも美鈴の出番欲しかったかな
咲夜さんが真相に辿り着くまで一緒に居た分、最後まで一緒に居て欲しいとは思った。
135.無評価床間たろひ削除
読んで下さった皆様、コメント頂いた皆様、本当にありがとうございましたw
全ての人にコメント返したいところですが、予想以上に沢山頂けたので軽く混乱しております。
後書きに書いた通り、この話は自分で読みたいが故に書いたもの。独りよがりな設定満載でそれでもなお面白かったと言って頂けた事を嬉しく思いますw
謎に関しては……すいません。俺の脳みそじゃこれが一杯一杯でした orz
綾辻の「殺人鬼」ばりのトリックなど、とても考え付きません。
つか、あんなもん解けねーよ orz

オリキャラの娘さんたちも、受け入れられたようで何よりですw
これも書いてるうちに可愛く思えてくる典型。某おやつさんには「ロザぽんで一本話し書け」と執拗に迫られ困っておりますw

しかし皆様は、この話の最大のオチを未だ知らない……
うふふ、ではお見せしましょう!

「出来たーーーーーーーーーーーーーー!!! うふふ……傑作よ、傑作だわ……これならヤツも……くくく……」
「私、こんな酷い事しませんよぅ」
「ぬわっ! 何であんたが此処に!」
「……私、別に食べられてないです……それに……こんな怖い事……」
「っすよね。大体ウチの面子がそんな外道な事やってたら、死ぬまで蹴るっすよ」
「そうよ! それに私だって、もしそんな事になったら『鉄拳』でぶっとばしてやるわ!」
「なっ! あんた達まで!」
「……プ」
「八里知恵子ぉぉぉおおお!!」

 魔法の森に蟻巣川蟻巣の絶叫が木霊した――

 『紅魔館殺妖事件』 完!

桐生さん、ごめんなさい orz
140.90春雨削除
>思いをカタチにする――それが魔法
願いを叶える、それが悪魔の手法にして常套手段。
彼女らの魂に、映姫はどんな罪を見るのだろうなんて思いました。
141.100名前が無い程度の能力削除
殺害方法までは読めたけどこあは読めんかった
最高だ
142.90名前が無い程度の能力削除
東方SSの読みすぎのせいか開始二行目で真犯人が分かったけど、トリックの方はさっぱりだった自分は頭使って読むのが向いてないと思った。
でも紅魔館の人物模様だけで十分満足。
144.100豆蔵削除
凄い! 凄く面白かったです! お茶とお菓子を用意したのに
手を付ける事無く読破しちゃいましたよ! GJでした!

小悪魔こえぇ……
146.100Mr.7削除
オリジナルキャラクターの自己主張が適度でステキ。
でも最高だったのは小悪魔なわけで。
極悪な本好きのこぁに惚れた。
153.100風凪削除
ロザの直後で殺害方法が読めたので良い具合に咲夜さんに感情移入する余裕ができました。
でもこぁは読めなかった~っっΣ( ̄Д ̄
154.80名前が無い程度の能力削除
最初の文で黒幕が、尋問での死体の状況で犯人がわかってしまいましたが、
トリックのほうは最後のあたりまでわかりませんでした。
個人的には最後の小悪魔が予想以上に黒くて美味しかったです。
いいなぁこのこぁ。
156.90キリカ削除
ロザミィさんには生きて欲しかった・・・が仕方ないorz
まさに小悪魔の囁き、笑顔の狂気ほど怖いものはないです。
157.90銀の夢削除
やってくれた……こういう結末を迎えたとは。
悲しいかな、小さな小さな、あまりにも不安定すぎる歯車のかみ合わせが、こんな風に歪んで、はずれてしまったその末路は……
直すこともできたかもしれないけれど、それはあるいは別のかみあわせをするしかなかったようにも思える。もう、元には戻せなかったのかも。
それにしても小悪魔が、『小』悪魔じゃなくて『割烹着の』悪魔のようだった。しかも仮面じゃない、真性だ。氷のようだ……
推理ものはあまり読まないのですが、引き込まれました。お見事。
161.100名前が無い程度の能力削除
最後でやられたよ
まさか小悪魔だったとは・・・
162.100宵闇削除
はっきり申し上げて推理小説としてはイマイチです、オチは見えても推理じゃない
しかしジャンル云々はともかく、純粋に読み物として面白い、これは人に読ませる文章の最重要事項です
オリキャラ含めキャラも立ってます、うん、私のイメージの美鈴はこんなかんじかも

…まぁ一番印象的なのは小悪魔でしたが、新しい小悪魔象を見せて頂きました
小悪魔ファンですがこの作品で小悪魔に惚れ直しました
こぁー
163.無評価宵闇削除
書き忘れたので一言
人に厳しい悪魔も、人に嘘を吐く悪魔もいない
悪魔の悪魔たる要素が詰め込まれた作品
微笑みの狂気に、穢れ無き悪意に、恋焦がれました
165.無評価床間たろひ削除
うわーお! こんなに一杯の感想初めて見た!
ありがとうございますありがとうございます、読んでくださってありがとうございますw

個人的に所謂パズラータイプのミステリよりも、むしろ何故犯人が犯行に及んだのか、その点に注視したミステリが好きです。頭悪いから初めから謎を解き明かすなんて事考えもしないで、ただ物語に流される読者ですので。
パズルタイプだとその点がおざなりで「何で、こいつわざわざ殺しちゃったわけ? お前、そのトリックを見せびらかしたかっただけちゃうんか?」と疑問を憶える性質なのでw
根っからの文系タイプなんですよ。その分、上の問題もクリアした小説に触れた時は平身低頭しますがw 
それもあってこういうタイプの話にしました。
もっともパズルタイプなんて、考えつきもしませんけどね。俺のこのポンコツ頭じゃ orz

ラスは罪から逃れる為に、この方法を取ったんじゃありません。
この方法しか出来なかったんです。
そう考えると……ラスが愛しくなったりしませんか?

それと最後に、もう一つ。
例えばこんなミステリは如何でしょう?

『誰が、神を殺したか?』

殺害方法、動機、そもそも被害者は本当に存在しているのかも含めて……全ての証拠はこの世に揃っています。足りない証拠を『推理』する必要はありますが。

さぁ、犯人は誰でしょう?

そんな事を考えてみるのも、面白いかもしれません。

俺? そんないるかいないか解らん神様なんかぽーいして、映姫と川へキャンプに行ってきます。ノシ

179.100鈴音削除
し、真のオチ、真のオチが・・・!!w
反則ですよそのオチはw
コメント欄で発動されるとなかなか気づけませんが、全てひっくるめるとすごいですね、これは。
悲劇有り、狂気有り、番外的に笑いあり。
東方で推理物(らしき物)ってコミカルな物は見たことがありましたがここまでシリアス克つ完成度高い物は初めてです。
いい物を読ませてもらいました。
180.90名前が無い程度の能力削除
とりあえず拍手喝采。オリキャラのキャラ立ち、特にロザミィの「お嬢様やメイド長には一生解らない……化け物みたいな力を持った……あんたたちには……」の台詞には戦慄すら覚えました。他にも煙草でも吸わなきゃ…と呟く咲夜を妙に格好いいと思ったり。そしてオチの小悪魔は…驚愕の一言。
 いいモノを読ませて頂きました。素直に感謝と敬服の意を述べさせて頂きます。
 
PS:幻想郷でもどこでもスモーカーは流行らないのか…orz
181.100名前が無い程度の能力削除
最高。 とても読み応えがあり、楽しませて頂きました。
ありがとうございます。
182.70あがが削除
よかった。

しかし、アレだ。
肉片を喰われたラスが、肉片で内部から破壊するように再生する……。
ちゅー、猟奇的展開(本編も十分猟奇的ですが)を期待してたんで、
ちと、真相の押しが弱い気がした。

黒幕小悪魔は小悪魔が小悪魔単体しか存在しないためか、
意外性という点では新鮮味がなかった気もする。
あえて黒幕は謎のままにした方が、序盤のアドバイザーはもしや?
……という展開になっておもしろかったかもしんない。
186.80MIM.E削除
非情に面白かったです。
時間を忘れて読んでしまいました。
190.80名前が無い程度の能力削除
既出かとは思いますが、苦言を少々。
ミステリとしてはちょっと高得点を差し上げられないのが残念です。
ラスが『犯人しか知らない死体の状況』を口にするシーンがやや強引かと。
あと能力が判明した段階で真相は殆ど見抜けてしまいますし・・・。黒幕についても、ラスの台詞は直接的すぎるように思えました。
あと、逆にラスの本名については何か複線があれば良かったのにと思います。
色々述べさせて頂きましたが、しかしお話として大変楽しみました。オリキャラも魅力的でした。というかロザミイ萌え。最高。死にそうな気はしたんだ・・・orz
191.100名前を忘れた幽霊削除
誰か三番隊で一枚絵描いてくれないかなぁと思うほど惚れるオリキャラ達。
むしろ自分で描けないかと隊長達の外見が描写された文を探し回ってしまいました。
こうなったらロザ咲の二人だけでも…

勿論主役の活躍っぷりも最高デシタヨ。
今後何度も読ませていただきます(*´▽`)。
192.100名前が無い程度の能力削除
なんと八里知恵子著だったのかー!w

いやいや面白かったです。ロジックどうこうより読ませる何かがありました。
193.100削除
エピローグの「あれーーバレてました?」には鳥肌が…
もはや真っ直ぐ(純粋)に見えないほど狂ってる小悪魔。これが本当の無邪気って呼べるモノなのかもしれませんねぇ。
 で、感想はすげーの一言。
次作第3メイド隊話気長に待ってますw
197.無評価名前が無い程度の能力削除
以前SSとも言えないような東方二次文章を書いたことがあります
そのときの小悪魔が、丁度こんな感じで、笑いながら残酷なことするようなキャラにしたんです
他の人、自分より文章力のある人が書くと、こうも恐ろしい、おぞましい物になるのだと……
決して否定はしません。むしろ喜んで受け入れます
特に最後のほう、吐き気に近いものを感じながら本当に楽しく読んでました
ただ、自分の描く物が時に他人に様々な負の感情を与えるということがわかりました

このなんとも言えぬ不快感快感、そして羨望、嫉妬を込めて、この評価を捧げます
これだけ気持ち悪いのにこういうキャラが好きなのは、きっと僕がどこか壊れてるんでしょうね……
門板名無しっ娘スレにて小悪魔がどうこうという話を聞いていたのが勿体無い……
198.90名前が無い程度の能力削除
以前SSとも言えないような東方二次文章を書いたことがあります
そのときの小悪魔が、丁度こんな感じで、笑いながら残酷なことするようなキャラにしたんです
他の人、自分より文章力のある人が書くと、こうも恐ろしい、おぞましい物になるのだと……
決して否定はしません。むしろ喜んで受け入れます
特に最後のほう、吐き気に近いものを感じながら本当に楽しく読んでました
ただ、自分の描く物が時に他人に様々な負の感情を与えるということがわかりました

この読者としてのなんとも言えぬ不快感快感、そして物書きとしての羨望、嫉妬を込めて、この評価を捧げます
これだけ気持ち悪いのにこういうキャラが好きなのは、きっと僕がどこか壊れてるんでしょうね……
門板名無しっ娘スレにて小悪魔がどうこうという話を聞いていたのが勿体無い……
201.90名乗る名前は奪われた削除
いやはや、一気に読ませていただきました。
最後の黒幕発覚も王道ですね。
ただ子悪魔が「暇つぶし」と言ったことで愉快犯的な印象がありますが
自分としては真賀田四季のように善悪を超越したキャラが好きなので
その分少しマイナスでした。


ところで、西尾維新はミステリなんでしょうか。面白いので作品いくつか持っていますが。
203.100名前が無い程度の能力削除
最後の最後のオチがそこか…っ!w

蟻巣川蟻巣著だったとは…w


語りだすのも野暮になっちまいますのでこの言葉で。
小悪魔結婚して!!11!!2
205.100かわうそ削除
……(にたにた)……
207.100名前が無い程度の能力削除
ヤバス
208.90読専削除
自身を爆弾に変える魔法で―というのがちょっと安直に感じましたが、
冒頭の記述と最後の小悪魔で逆転ホムーランです。
210.100とらねこ削除
 推理小説は読んだことありませんが、犯人はこの人か、それともこいつ? やっぱりこいつか? とちょっとぞくぞくしながら読みました。最後で真相が明かされて、パズルのピースがきっちりはまる感覚は良いですね。
 本音をぶちまけるラスとその最期、圧巻でした。やっぱりいじめはダサい。私には彼女が悪人だったとは思えないですよ。そして真の黒幕超怖い。まさに悪魔。これが幻想郷の日常茶飯事なのではと思える所も怖い。オリジナルキャラも個性的で好感が持てました。死なせるのは惜しいと思います。白玉楼で平和に暮らしている、なんてことには出来ないでしょうか。
 私など及びもつかない物語と文章、脱帽です。素晴らしいお話をありがとう。
217.100名前が無い程度の能力削除
とにかく楽しんで読めました。素晴らしいです。

自ら手を下さずに手段だけを与えて起こる事件を傍観して楽しむ、
なんとも“悪魔らしい”小悪魔がツボにはまりました。
224.100名前が無い程度の能力削除
お見事。
最後の最後までパーヘクツ
230.90瀬月削除
>>十刻館殺人事件

これの元ネタ『十角館の殺人』ですかね?
個人的には『そして誰もいなくなった』を超える名作です。
アレがデビュー作で、それ以降もクオリティ上げてるんだから綾辻ファンは止められないw

・・・と、閑話休題^^;

理不尽な特殊能力・魔法が有りの世界、って時点で推理モノとしては条件がきつくなりますね。
謎のLVよりも、如何にして読み手を納得させるか、と言う難易度が。

この作品は、トリックも、犯人も、黒幕も、オチも、その条件下において、予想可能の範囲を出ていません。
むしろ、親切すぎるくらいヒントと伏線をばら撒いてくれてます。
おかげで推理モノとしての難易度は低めであると言わざるを得ませんが、背景世界が幻想郷と言う条件下においては、最高に近いです。

何せ『推理可能な推理モノ』と言う条件を満たしてくれたんですからね。

ありがとうございます。
久しぶりに、面白い推理モノを読む事が出来ました。


追記
>>綾辻の「殺人鬼」ばりのトリックなど、とても考え付きません。
>>つか、あんなもん解けねーよ orz

この上なく同意・・・orz
233.100名前が無い程度の能力削除
途中で実行犯と殺害方法は思い浮かんだんですが、黒幕までは想像が付きませんでした。
「あれ――バレてました?」とか平然と言い放つ黒幕こえぇ
235.100名前が無い程度の能力削除
ああもう推理モノとしてのデキ云々は他のレスで語られているから
あえて語るまいというかそれを差し引いたとしても充分過ぎるほどに
面白かったんだよホントにマジで!!←(錯乱)

さっきゅんはいつでもカッコイイがこうなってくると
知的な美鈴に胸キュンが止まらないですね。
あと個人的にロザミイはとんでもなくツボりましたですよハイ。
喫煙!喫煙!

こぁ……(((((;゚д゚)))))
237.100ハッピー削除
本当のオチ吹いたw
まぁそれは置いておいて、すばらしかった。
ここまで"小"悪魔の"小"というのが"未熟な"悪魔の意味で見えたことはなかった…。
今までは悪魔らしくない"悪魔的でない"悪魔という感じで認識してましたよ。
痩せても枯れても腐っても悪魔ですね。さすがにw

ミステリーというのには某ひぐらしと同じように疑問が残りますが、小説としての面白さがヤバイので無問題。
これからも上質な読み物をお願いします。
241.90削除
こ、こぁ、こあああぁぁぁぁぁっ(挨拶

楽しませてもらいました。推理小説としては微妙かもしれませんが(何でもありの世界で推理というのも…)、紅魔館内での群像劇としては紛れもなく良作。人間のメイド長と妖怪のメイド達の間ですもの、齟齬の一つや二つあってもおかしくはないでしょうね。その辺りが私にとっての孫の手でした。

ロザミィが死ぬまで食べられたラスの肉片が体内で再生しつつ内側から破裂させるという「ラス寄生説」を組み立ててましたが、何か?

でわ最後に、

>天にも昇る気持ちで地獄逝きと噂される、小悪魔の整体マッサージ

についてkwsk
243.80名前が無い程度の能力削除
いやもう、何ていうか収まりが悪ぃです。
勿論良い意味で、ですけど。

謎は解けて爽快な気分なのに、残ったシガラミが非常に重く圧し掛かってきます。
幻想郷は生々しいものだと、改めて考えさせられました。
246.100きっさ削除
これを読んでいるとき、三番隊の『三』という数字に着目して、貧相な英語力から
ティス→Ti"s"
ディクシー→Di"c"sy
メアリー→me"a"ry
クルカ→Ku"r"uca
ロザミィ(名字が伯林)→Be"l"rin
ラス(きっと本名はラス"ト"となぜか勝手に妄想)→"t"
こんな具合に抜き出して、実はお嬢様が犯人だったんだよ!とか思った自分は氏のはちきれんばかりの才能を前に膝を突き頭を地に擦り付けることしか許されない。メアリーとか伯林つづり違いますし、"e"もないじゃん……。
249.100名前が無い程度の能力削除
やっべー
オチも含めて最初から最後まで楽しませていただきました。


そんな中でひときわ印象に残ったのが、タバコを口にする咲夜さんだったりw
250.100読者S削除
なるほど…最初から解かれるのが前提のミステリですか…
うまいな~
こうストンと自分の中ではまったというか、こういう読ませ方もあるのだと感心しっぱなしです。
あらゆる要素を混ぜ合わせたミステリ、どうもご馳走様でした。

ああ、最後に………蟻巣川蟻巣かよ!

追記
それでこのオリキャラを使った次回作はいつごろ完成予定ですか、蟻巣川先生?(お
253.90名前なんか無い程度の能力削除
キャラが引き立ってて良かったです。
256.100仮面舞踏会削除
ヘビーなドラッグのような作品でした(褒め言葉)
257.90名前が無い程度の能力削除
面白かった。
263.100時空や空間を翔る程度の能力削除
おぉ~~~・・・・・・・

ただただ頷くだけです・・・・・
素晴しい作品でした。
265.100名前が無い程度の能力削除
すっげぇ面白かった。
やっぱり「溜め込む」ってのは最悪の結果を促しちゃうんですかねぇ。
ラスには同情しますが…。

小悪魔、本当の意味で、やはり小悪魔なんですね。
267.90名前が無い程度の能力削除
『爆破』だけではなく、そもそも『喰う』のを教えていたのも小悪魔だったとは・・・
深いなあ。こわっ
269.100無を有に変える程度の能力削除
体を再生させて破裂まで入ったのですが、
どうも私は現実に囚われている様です。
幻想卿に対しては、常識ではなく非常識で行かなければ、狐に包まれてしまいますね、
ラストの小悪魔にはド肝を抜かれました。
271.90名前が無い程度の能力削除
その笑みは童女のようで。
 穢れなく、淀みなく、爽やかに――歪んでいた。

そんな小悪魔とその笑顔に、ものすごく惹かれます
273.80whale削除
ミステリとしては甘い・・・。言い回しも京極と維新のちゃんぽんになった
程度で、自分のものに昇華し切れてないように思われます
けど東方でミステリ物という、トリックや人間関係などが設定しにくい難題。
しかも初めてなのにここまで書けたのは賞賛に値します。
今の調子で着実に筆力を着けていって下さい。
次の作品に期待しています
284.100名前が無い程度の能力削除
ミステリ部分は読み物としてとても完成度が高かったと思います。
しかしこの作品で評価すべきは冒頭の文句と最後のパチュリーと小悪魔のやりとりでしょうね。
一粒で二度おいしい傑作だと思います。
285.80名前が無い程度の能力削除
既に他の方々が書いてしまっているのでこの言葉だけ言わせてください。

蟻巣川蟻巣かよ…wついさっき読んだばっかりでタイムリーすぎるw
289.100名前が無い程度の能力削除
うおおおおおおおおお!!!

面白かったーーーーーーーー!!!
292.100名前が無い程度の能力削除
前一回読んだんだけれど今もう一回読んだら
オチどころか犯人さえ覚えていなかったという。アホだ自分。
前のときは点数は入れていなかったような気がするので今回は。
295.100名前が無い程度の能力削除
オリジナルキャラも各々特徴あっていい!
咲×美の関係もいい感じ!!
ラストもビックリですばらしい!!!
いや~、面白かったです
304.100名前が無い程度の能力削除
最後の咲夜さんの心境を思うと、物悲しくなるね
307.100七人目の名無し削除
トリックには気づくことが出来ました。
・・・最後近くになってからですけどね。
読んでて小悪魔がやけに自分が『悪魔』である事を強調してたような感じがしてアレ?と思ってたんですがこう言う事だったとは・・・。
308.無評価七人目の名無し削除
そう言えば、悪魔は代償無しに望みをかなえることはしないらしいですが、今回ラスが小悪魔に支払ったモノは一体何だったのか気になります。

あと、他にもっとスマートなやり方があった筈なのにわざと『痛い』方法を教えたんじゃないかと思ってみたり・・・小悪魔さんマジぱねぇっす。

あと他に色々やってたらしいですが何やってたのか気になります。
310.100名前が無い程度の能力削除
あれは、子悪魔なんて、チャチなもんじゃねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を見たんだ。
312.無評価名前が無い程度の能力削除
いい雰囲気だったのですが、この手の話によくある何行にも渡って
笑い続けたり叫ぶってシーンが何度もあって少し醒めてしまいました
315.100名前が無い程度の能力削除
小悪魔がマジ悪魔な話を初めて見た。よかった。
317.100名前が無い程度の能力削除
すごく楽しかったです。きっかり100点です。
けど自分ロザミィがやられるところで犯人がわかった(ry
319.100リペヤー削除
トリックそのものは比較的簡単に読めました。
しかし、評価すべきはその点ではなく、犯人の動機。
狂気は動機を作り、動機は凶器となって爆発する。
面白かったです。

そして小悪魔怖いよ小悪魔。
324.100名前が無い程度の能力削除
あんたがレジェンドだ……!
325.100名前が無い程度の能力削除
食われた体に細工したんだろうと言う事はラスが食われていた話が出てきた段階で予想が付きましたが…
名前の部分と黒幕小悪魔には気付けませんでした。
悪魔にお願いした、という言い回しには違和感を覚えたものの深く気にせず読み進めた結果がこれだよ!
面白かったです。
326.80名前が無い程度の能力削除
かなり最初のほうで、裏にこぁがいるのがよめてしまったのでオチが。。。
あと「レミリア」は反則w
でも、それでもおもしろかったです
328.90名前が無い程度の能力削除
面白かったんですが、途中でだいたい予想できてしまったのが残念でした。
ラス云々は普通に。こあは直感で(笑)

途中でこあが出てきた時にこいつが黒幕だなって思っちゃった。
たまにこあを悪魔に書く作者のかたがおられるから楽しいです。
331.100\(゚ヮ゜)/削除
それぞれのキャラクターが掴めていたと思うので良かったです。
私的には黒幕を当てられたのでうれしかったです。
334.100名前が無い程度の能力削除
いや、すごい読了感でした。
どこかもやっとした物を残しながらも、満足して読み終わる。
推理小説、ミステリーの醍醐味ですね。
347.無評価名前が無い程度の能力削除
や ま い だ れ
349.100名前が無い程度の能力削除
解答提示以降の後半パートは鳥肌が立つほど気持ちを揺さぶられました
そこまでで満足したのですが、サブタイトルが重要な伏線だったと最後に気付いて
脱帽するしかありません
この作品、もっと早く読んでおくべきだったと軽く後悔しています
351.100名前が無い程度の能力削除
ラスが犯人なのは、まぁ予想通り。最初の会話で唯一現場の状況を的確に答えていたので、クサいなと思っていましたが、犯行に繋がるプロセスと手口がエグ過ぎて、ねぇ。考えもつかなかった私はきっと幸せ者なんでしょう。
 余談ながら、出鱈目な存在ばかりの幻想郷で、この手の殺人ミステリー小説書くのは大変だよなぁと、しみじみ思った次第です。
356.無評価名前が無い程度の能力削除
※多重評価できないみたいなので無評価にさせていただきます。

久しぶりに読みごたえのある作品でした。

いやぁー面白かったっ!

執筆、お疲れ様でした。

いやーほんとおもしろかった(*´`)


362.90名前が無い程度の能力削除
東方で探偵もの風の話というのもいいものです。