*注意
オリジナル設定があります。
それはとある昔の話だ。
”彼”は何の変哲も無い日々を過ごしていた。
”彼”は特に目立った力などもなく、変わった特徴なども何も無かった。
周りに比べても平凡と言えるほどただただ普通の存在だった。
故に”彼”はただ片隅に居ても誰も気付かないほど存在の薄いものでもあった。
”彼”にとってはそんなことはどうでもいいことでただ何時も変わる日々をごく普通に過ごしていった。
それは”彼”の父親も祖父も彼の仲間たちも同じことでただ普通に過ごしていった。
しかし変化は突然だった。
何時もと変わりの無い朝を迎えた”彼”を人間たちが囲んでいた。
そして一人の煌びやかな姿をした男が言った。
『この人殺しめ』
何気なく言われたその一言は何故か知らないが”彼”に大きく突き刺さり、苦しみを感じさせた。
『この人殺しめ』
二度、同じことを言われる。ただし別の人間から。
『人殺しめ』
三度目、四度目、とその言葉はまるで火のように燃え広がり人間たちが盛んに彼を責め立てた。
そして誰が言ったか分からなかった。なのにその言葉はより大きく”彼”を苦しめた。
『化け物め』
決して大きくない声。
しかしそれも燃え広がった。
『化け物め』
『人殺しめ』
『人殺しの化け物め』
ただただ言葉を連ねて行く人間の大群。
そして”彼”は訳も分からず、自分の中で生まれた感情のままにそれを行った。
事は一瞬。
誰かが瞬く前に初めに言葉を放った男が死んだ。
誰かが何かをしたわけでもない。だと言うに男は死んだ。
初めはそれに誰も気付かなかった。
だから最後の一人になるまで彼は止めなかった。
最後に残ったのはみすぼらしい姿をした少女。
少女は”彼”を見ながら怯えていた。
少女だけは”彼”に言葉を向けなかった。
だから”彼”は少女を生かした。
だというに
『化け物』
それが少女の最後の言葉だった。
やがて”彼”は父親や祖父や仲間たちとは異なりを見せ始めた。
平凡な姿は異常に成長し巨大化した。
何も無かった中身はやがて死を貪るようになった。
そして”彼”はやがて眠りについた。
ふと、そんな夢を見た。
「・・・・・・・・あれ?」
目が覚めると見慣れない天井が目に入った。
自分の部屋じゃない、とすぐに理解できた。
だって、自分の部屋の天井はこんなにも和風じゃあないしそれに床と天井の差がありすぎだし。
と考えていると
「失礼します」
障子の向こうから妖夢の声が聞こえ、ゆっくりと音を立てずに戸を開ける。
「あれ?起きてましたか?」
自分に向かってぱっちり目を開けて見ている私の姿を見て驚いている様子の妖夢。
いや、門番やってると早起きが身に染み付いちゃってて。
「あーそうですか。でも、まだ寝てて結構ですよ。朝食までまだ時間はありますし」
と、言われてもなぁ。もう頭の中スッキリしちゃったし。
「ん~でしたら朝の散歩でもしたらどうでしょうか?」
・・・・・そうだね、することはないしそうさてもらうね。
「それじゃあ朝食の用意が出来ましたら呼びに行きますね」
ん、分かった。
「それでは失礼します」
それじゃまた後で・・・・・っと妖夢、ちょっと待って。
「はい?まだ何かありました?」
うん、忘れてたことがあったから。
「?なんでしょうか?」
一日の基本的なこと。おはよう、妖夢。
「あ・・・そうでしたね、おはようございます、美鈴さん」
彼女のおやすみ~ふつかめ~
妖夢が去った後、私はまだ心地良い温かさの残る布団からその身を這い出し、んーと背伸びをする。
「いやぁすっかり忘れてた」
なはははは、と笑い改めて自分が泊めてもらった部屋を見渡す。
床には一面敷き詰められたいい匂いのする畳がしっかり敷き詰められており、部屋の広さを改めて実感する。
さて、今私が居るところは西行寺幽々子さんのお屋敷。現在位置は客室らしく、てきとーでお願いしますと言ったらてきとーに用意しました。
と妖夢に案内されたのがここ。
ぶっちゃけ、私の部屋の半分以上ある。ちょっと悲しく感じたが洋館と武家屋敷との違いだ。諦めるしかない。
ちなみに私がここに居る理由は言うまでも無く旅の途中で博麗神社を後にし、次の近場に行こうと思ったが私は何を思ったのかここへ向かってしまった。理由は分からないが本能の赴くままと言うことで勘弁。
なお、博麗神社を後にしたのが夕方であったため、到着したのがすでに夜も更け、今頃お嬢様が起床なさっている時間帯。
大丈夫かなぁと思いながら西行寺の門前に立ち
『たのもー』
と大きくも無く小さくも無いいたって普通に声を向けると
『はーい』
と聞こえたようだ。ちょっとびっくり。
暫く待つと庭師の魂魄妖夢が現れる。
『どちらさまでしょうかー?』
『夜分遅くに訪問失礼』
『・・・何用でございましょうか?』
妖夢は一見様として接客した。
流石に妖夢は私のことを分からなかったようだ。
まぁ普通はそうなんだけど思うんだけどどーも寂しい気持ちがするのは気のせいだろうか。
そう思いながらもちゃんと名乗る。
『私、紅美鈴なんだけど・・・・』
『・・・・・・・・・・・ええええええええええええええええええええ!?』
馬鹿な!と妖夢驚愕、いやいや妖夢。リアクションが大きすぎる。
その声につられてお屋敷の主、西行寺幽々子さんが何時もののらりくらりと言ったテンポで現れた。
『あらあら、妖夢。何を驚いてるのよ。仮にもお客さんでしょう?』
その言葉にハッと我に戻り、慌てて平謝りする妖夢を宥めること数分。
さて、と前置きをし幽々子さんが声をかけてきた。
『それで紅魔館の門番が私服で何用かしら?』
と、何となく分かっているくせにと言いたくなるようなゆったりとしたマイペースで言ってくる幽々子さんに対し妖夢は再びハッと何かに気付いたのか私を見てプルプル震えている。
待て、そのパターンは止めて。
『め、美鈴さん・・・・も、もしかして・・・・・・』
『・・・・・・もしかして、貴女本当に・・・・・・』
妖夢の様子を見て幽々子さんもハッと驚いた表情を文字通り作る。いや、アンタ分かっててやってるな。
先手を打って止めようとしたら流石に攻撃速度が速い妖夢。先制攻撃を私は食らった。
『クビになっちゃったんですかーーーーーーーーーーーーー!?』
『うちは妖夢だけで十分よ?貴女を雇う必要は無いわ』
物凄く驚いた表情の妖夢と目が物凄く楽しそうに笑っている幽々子さんを遠慮無しに張り倒したのは本能からです。反省はしますが後悔はしません。ええ、特に幽々子さんについては。
まぁちゃんと誤解は解いて一晩止めて欲しいと願い出ると幽々子さんはあっさりおっけーと許可してくれ妖夢にすぐに部屋の用意をするように指示、ついでにお風呂も。と言ったのは私が少なからず汗を掻いていたことに気付いたためであろうと推察した。
ここ辺りはとてもいい人なんだけど悪乗りは止めて欲しい。
私があまりのお風呂の広さに感動しながらゆったりしているところに妖夢を引き連れて乱入してこないで欲しい。
挙句、とても口では言えないようなことをしたりと正直、うちのお嬢様より性質が悪い。本人がノリノリで楽しくやるから尚更。
幾ら宿主とはいえお風呂に沈めたことは罪にならないと思う。妖夢をそれを見ながらすみません、と何度も謝ってきた。
ま、結局のところ幽々子さんは幽々子さんで友人である紫さん以外に屋敷に来てくれたことが嬉しいとのこと。
それを聞くと少しばかり手加減した方が良かったかなぁと思ったが、
『本気で自分を張り倒したのは紫と藍と妖忌以外はじめてーなんて言う位ですからそのままで良いと思いますよ』
なんて言われたものだから心境としてはちょっと複雑。けどまぁ悦ばれているならそれでいいかなとも思う。
などと昨晩の回想をこれにて終わり。
「しかしアレだね。なんでこうも、此処は程よく暖かいのよ」
部屋着として渡された浴衣のまま外に出ると本当に心地の良い日差しを体全体で受ける。
あー本当に気持ち良いわー・・・うわ、本当に二度寝しそう。
などと日向ぼっこしていると
「昨日はぐっすり寝れたようね」
と、ほんわか幽霊のお嬢様参上。
「あ、おはようございます」
「うん、おはよー」
なんて気の抜けた朝の挨拶をする幽々子さん。
雰囲気だけで寝てしまいそうだが何とか堪える。
「昨日は改めて本当にすみませんでした。急に押しかけたりして」
「確かに押しかけられたけど私としては歓迎よ」
「それはありがとうございます」
「けどまぁ昨日は激しかったわ~まさか胸を触った途端、肘打ちからアッパーに繋げてそのまま一本背負いなんて。更に追い討ち付き」
「ぅ・・・・・・・」
いきなり昨日のことを突いてくる。
昨日、お風呂に乱入してきた幽々子さんと妖夢と普通に入浴していたのだがふと気がつくと幽々子さんの姿が無くその姿を探していると
『はいめんどりー!』
などと言いながらお湯の中からザバー!と飛び出していきなり私の胸を鷲掴みにした。
突然のことに私はまたもや本能的に幽々子さんが言ったとおり、肘打ちをかまして距離を作り、がら空きとなった顎に一発、其処から無防備になった腕を取りお湯の中に叩き落すと同時にマジ蹴りをかましてしまった。
ハッと我に返ると幽々子さんがぷかーと水面にダウンしたまま浮かび上がった。
ヤバイと思い、慌ててお湯から出すと
『すきアリー!』
アレ食らって平気だったのかよ!?と思わず突っ込む前にまたもや胸を鷲掴み。
『ちょ、幽々子さん!?』
『ふふふふ、ええ乳しとるのー』
などと不適にしかも上手に揉む幽々子さんに一方的にテンポを取られてしまい反撃できないところに
『何やってんですかー!』
『げはっ!』
妖夢に桶で顔面を殴打されあえなく悪は撃沈した。つーか、なんてテクニシャン・・・!?幽々子、恐ろしい子!!
まぁそれはそれで置いておいて。
「ふふふふ、流石の私もちょいと気絶しちゃったわー」
ニヤニヤと胸を揉んだ時のような獲物を狙っているかのような視線を向けてくる幽々子さん。
つい、両手で胸を隠してしまう。
「アレでちょいとなんですか・・・・」
結構、マジで入れたつもりなんだが流石ラスボスクラス・・・下っ端の私の腕じゃあ撃破に持ち込むのは難しいか。
「まぁある程度加減されててもあれぐらいだもん。本気でやられると私もやばかったわよ」
何か見透かしたかのように言ってくるがこの場はスルーして話題を変える。
「しかし幽々子さん、なんであんなにもテクニシャンなんですか?」
ッテ、ナニヲイッテルンダワタシ!ケモノが目覚めちゃうじゃない!
慌てて訂正しようとするがずいと幽々子さんが顔に息がかかるほどの距離に何時の間にか近寄っており、ヤバイ顔で語りかけてきた。
「ふふふふふ・・・・・・・・・教えてあげようかしら?」
「い、いえ・・・・極力遠慮させていただきます・・・・」
「あらぁ・・・・・・・・遠慮しなくてもいいのよ?一晩中付き合ってあげるから」
スーと幽々子さんの手がゆっくりとした動作で私の足を撫でる。
「!!!!!??」
「あら、いい肌触りね。引き締まっててとても美味しそう」
本格的にやばくなってきましたよ!てか、この人のキャラってこんなんだっけ!?
「や、止めてください幽々子さん!」
「うふふふ、貴女みたいな娘、初めてよ」
少しばかりと言うかかなり鼻息が荒くなってきた食いしん坊。
げ・・・・・みすずちん、ぴんち・・・・・・・じゃなくて!
「うわー!誰か助けてー!」
「誰も来ないわよ。さあ、私と一緒に新世界をっ!」
ひぃぃぃぃ!ここに泊まることにしてしまった時点でバッドエンドかー!
助けて咲夜さーん!お嬢様ー!などと心の中で叫んでいると
「てい」
「ぐはっ!」
遠慮の無いとても優しくない妖夢の一撃が幽々子の顔面に直撃。
こうして悪は2度目の滅びを迎えたのだった・・・!良かったね、美鈴。
だけど、少しは抵抗しようね。
「朝食の用意が出来たので呼びに来たんですが・・・・・」
うわぁとえらく冷たい視線を向けてくる妖夢。
「いや・・・・その・・・ね、うん、まぁ・・・説明が・・・」
「別に良いんですよ。どうせ幽々子様が悪いんだし」
しどろもどろになる私を慰めるように妖夢が言う。案外冷たいんですなー君は。
「ちょっと妖夢。私はメイちゃんと親睦を深めようとしただけなのよ。私だけを一方的に悪者にしないでよね」
と顔面にぐーを食らったのにあっさりと復帰してきた幽々子さん。アンタどれだけタフなんだよ。
「そうですね。確かに親睦を深めることは良いことだと思いますが反省のなさらない幽々子様には朝食抜きで構いませんね」
「ごめんなさい私が悪かったですついメイちゃんがいじめてオーラを出してたのでうっかり手を出してしまいました反省してますのでご飯抜きだけは勘弁してー!」
妖夢の非常な宣告に対し即答で返す情けない食いしん坊。というか最後だけが本音ですよね貴女。
まぁ結局のところ妖夢は許してちゃんと幽々子さんに朝食を出したのだが
『何時もより9割すくなーい!』
と屋敷全体に食いしん坊お嬢様の絶叫が響いた。
でまぁ午前中は幽々子さんと妖夢の立会いの下、意味不明なお昼をかけたガチンコバトルが繰り広げられたりしたがそこら辺は途中で幽々子さんが全面的に謝って試合は無効になり、お昼はなんの影響も無く食べられた。ちなみに謝った理由は
『メイちゃん、ずるい』
『ハンデありでそれはなしですよ幽々子様』
てな感じなわけで。
そんな訳でいささか朝より豪華になったお昼を食べ終え、私と幽々子さんは縁側でお茶を手にまったりとしていた。
「いい天気ね」
「そうですね」
ただ何をするでもなく、暖かい日差しを受けながらまったりと時間を過ごす。
こうしてゆっくりと時間を過ごしたことはあまりなかった。
門番をしている時は常に侵入者に警戒を向け、何時もピリピリした緊張感の中で過ごしてきた。
だが今の自分は日頃の仕事さえも忘れ、ただただゆっくりと時間を過ごしていた。
とても良いと思う。
博麗神社でも思ったが休みを頂いて良かったと思う。
じっくり時間を過ごしていると。
「美鈴さん、ちょっとよろしいですか?」
幽々子さんの食後のおやつを持ってきた妖夢が正座をし、真正面から言ってきた。
「ん?なに?」
妖夢の表情からなにやら重要なことだと感じ取り、正面から向き合う。
関係ないがおやつをガツガツ食べている幽々子さんにツッコミ入れたくなったが今は置いておく。
「美鈴さんは武術の達人と聞きましたが・・・」
そう、話題を振ってくるということは大体は予想は付くが取り敢えず質問と受け取り答える。
「ん~武術と言うか体術だね。一応、あらゆる武術には精通しているけど、どれもこれも習得したとかそういうのはないし。どちらかといえば我流だし」
「そうですか・・・・あの、もしよろしければなんですけど・・・」
何処か遠慮しがちに言ってきた。
それを見て確信する。つまるところ妖夢は私と手合わせをしたいのだ。それは武人としての本能だと思う。
すでにそれを予想していた私は望むとおりの答えを返す。
「私は別に良いけど?」
えっ?と妖夢は驚いた顔で私を見る。
「私、まだ何も言ってないんですけど・・・・」
驚いて呆然としている妖夢に何時の間にかおやつを食べ終えた幽々子さんが言う。
「いやいや、妖夢。あなたは分かりやすい性格だから誰でも分かるわよ」
う、と思うところがあるのか主人の指摘に軽くうめく妖夢。
「だけど、本当にいいのかしら?貴女は客人なのよ?」
まぁそれはそうなんですけど
「実のところ私も似たようなものでして」
苦笑する。
その姿に幽々子さんは仕方なさそうに笑んだ。
「それじゃあ再度確認しますけど試合形式は弾幕なしのガチンコで一本勝負。勝敗は・・・」
「そこら辺はいちいち言わなくても言いと思うよ。お互い、それぐらい理解できるだろうし」
「それもそうですね」
西行寺の庭園の一角、私と妖夢は向き合っていた。
私は服装を”何時もの服”に着替え、その場でストレッチをしていた。
一方、妖夢は何をするでもなく手を腰の刀に添えているだけ。
「よ~む、がんばれ~」
「・・・・・」
「・・・・・気にしない方面でいきましょう」
これから真剣勝負と行くのに対し、相も変わらず幽々子さんは縁側で観戦しながらお菓子を食べたり、お茶飲んだりまったりするようだ。
見世物じゃないんだけどなぁ・・・・・けど当人は暇潰しのつもりで見てるだろうしなぁ。試合を始めれば気にしなくなるだろうけど、やっぱり気が散る・・・・。
「すみません、我侭を言ったりして」
ふと妖夢がそんなことを言ってきた。
「別に私は良いよ。私は私で妖夢とやってみたかったし」
普段から妖夢は我侭を言わないらしい。
自分からこうやって切り出すのは珍しいと妖夢が準備をしている間、幽々子さんが言ってきた。
『たまにで良いから我侭は言ってほしいんだけどね』
なんて羨ましそうに言ってきた幽々子さんは少し寂しそうだった。
まぁそんな幽々子さんには悪いが私は私で好きなようにやらせてもらうとしよう。
一通りストレッチを終え、正面から妖夢を見る。妖夢も始まりが近いことを感じ取ったのか段々、目が真剣になっていく。
良い目だ、と思う。まだ幼さはあるものの、武人としての目は十分なものだと私の中で判断した。同時に油断のならない相手だと理解した。
「それじゃやろうか」
「はい。それではお願いします」
と律儀に一礼し、腰に挿した鞘から一本だけ抜く。
抜いた得物は長刀、恐らくではあるが楼観剣という名の業物だと判断する。
正直なところ、妖夢の実力がどれほどのものか未だ知らない。故に最初から遠慮や物見をする必要は無いと判断し構える。
「・・・・・・」
妖夢も刃を寝かせ、腰を低くし何時でも飛び出せるように構える。
だが、何故か一歩踏み出せない。
ふと気がつくと何も聞こえなかった。
何時の間にかこの場は静寂により支配されており、自身に聞こえるのは自身の息の音だけ。
これほどまでに静かだというに彼女、美鈴からは何も聞こえなかった。
彼女の構えはただ何をするでもなく、腰を低く落とし左腕を腰に、右腕を正面に、それぞれ置いただけ。
何も動かない。
否、彼女は動くつもりは無いと妖夢は理解した。何故か。
単純だ。彼女は攻め手ではない。だが攻め手である。そう成るには妖夢の攻撃が必定。彼女自身の攻撃は妖夢の攻撃から成ることにより始まり、彼女はようやく攻め手と成る。
ならばと、妖夢は如何に攻めるべきか思考する。相手は自分が武器を持っていることによりカウンターを
それを待っていたのかすでに紅い風が目の前に居た。
「・・・・・!?」
自分が攻め手でなければ相手が僅かにでも自分から意識を離すまで待てば良い。その瞬間が必殺の一撃であると、彼女が放つ拳が語った。
速い、と思う前に妖夢は前に出た。
轟、と自分の頭上を文字通りの剛拳が通る。
すでに相手も踏み込んでいるが故に目前は懐。確実に入る、しかしそうではないと妖夢は知っていた。
目の前に美鈴が放った二度目の攻撃、ただ砕くという意思の入った蹴りが打ち込まれる。それを分かっていたからこそ妖夢は次に取るべき行動を取っていた。
「!?」
ふっ、と吐き出された息と共に妖夢の小さな体がその足に乗り止ることの無い蹴撃は妖夢を乗せたまま上へ上がる。
美鈴の驚愕は僅か。すぐさま軸足を崩す。それにより僅かに浮き上がった前髪が楼観剣の一閃により切断される。
僅かな間にそれは行われた。
美鈴の足に乗っていた妖夢はその勢いに乗って美鈴の背後へ跳び、妖夢が跳んでいる間に美鈴は開いていた腕を使い地面に手を付けそれを軸とし片手で一回転、すぐさまその勢いのまま立ち上がると同時に妖夢も彼女の正面に立つ。
ハッ、とお互いに一つ息を吐く。
それにより再開した。
先に仕掛けたのは再び美鈴だった。つま先を地面に入れるように蹴り込み、そのまま土を妖夢に向け蹴り上げる。
「っく!」
勝利を目的とした相手の行動に思わず動きが止まり、楼観剣を持たない右手で顔を覆う。
それと同時、鞭のようにしなやかで硬い彼女の右足の蹴りが来る。しかし妖夢はその迫る気配に呼応し一瞬だけ楼観剣を手から離す。
「っ!?」
その小さな体にどれほどの力があったのか。
美鈴の足を左手でガッチリと受け止め強引に軸足である左足を地面から引き剥がすように持ち上げ、背後へ放り投げる。
そして背後へ振り返る時の遠心力を用いて土を防いだ右手で楼観剣を掴み、早期決着を狙うのか左手でもう一本の刀、白楼剣を抜きそのまま中空に居る美鈴へ目掛け跳ぶ。
跳んでくる妖夢の姿を不安定な姿勢のまま美鈴は確認した。相手が放つ攻撃も瞬時に悟る。
両刀による同時攻撃か・・・!
一本を止めようとすれば一方を受け、その一方を防ごうとすれば残りの一本を受ける。
ならば同時に止めればいいだけのこと。だがそれは地上での話。思いもよらぬ妖夢の力に結果として投げ飛ばされている自分にとって中空で受け止めるほどの踏ん張りが出来ない。
ましてや下手に止めようとすればもろに両刀の一撃を受けかねない。故に此処で勝敗の是非が確定した。
そして目前に妖夢が迫る。予告したわけでもない。だがその攻撃は予見したとおりの両刀による同時攻撃。
リーチが長い分、楼観剣は僅かに遅く、逆にリーチが短い分、白楼剣は僅かに早かった。
僅かな一瞬、二人の視線が交差する。
その刹那、互いに何を思ったか知れない。しかし互いに勝敗を知った。
そして刃が迫った。
その晩。
幽々子がプリズムリバー姉妹を屋敷に召喚し、ささやかな宴が広げられた。
その中心には照れくさそうにする庭師が居座り、台所では腕に包帯を巻いているにもかかわらず料理を作る休暇中の門番が居た。
オリジナル設定があります。
それはとある昔の話だ。
”彼”は何の変哲も無い日々を過ごしていた。
”彼”は特に目立った力などもなく、変わった特徴なども何も無かった。
周りに比べても平凡と言えるほどただただ普通の存在だった。
故に”彼”はただ片隅に居ても誰も気付かないほど存在の薄いものでもあった。
”彼”にとってはそんなことはどうでもいいことでただ何時も変わる日々をごく普通に過ごしていった。
それは”彼”の父親も祖父も彼の仲間たちも同じことでただ普通に過ごしていった。
しかし変化は突然だった。
何時もと変わりの無い朝を迎えた”彼”を人間たちが囲んでいた。
そして一人の煌びやかな姿をした男が言った。
『この人殺しめ』
何気なく言われたその一言は何故か知らないが”彼”に大きく突き刺さり、苦しみを感じさせた。
『この人殺しめ』
二度、同じことを言われる。ただし別の人間から。
『人殺しめ』
三度目、四度目、とその言葉はまるで火のように燃え広がり人間たちが盛んに彼を責め立てた。
そして誰が言ったか分からなかった。なのにその言葉はより大きく”彼”を苦しめた。
『化け物め』
決して大きくない声。
しかしそれも燃え広がった。
『化け物め』
『人殺しめ』
『人殺しの化け物め』
ただただ言葉を連ねて行く人間の大群。
そして”彼”は訳も分からず、自分の中で生まれた感情のままにそれを行った。
事は一瞬。
誰かが瞬く前に初めに言葉を放った男が死んだ。
誰かが何かをしたわけでもない。だと言うに男は死んだ。
初めはそれに誰も気付かなかった。
だから最後の一人になるまで彼は止めなかった。
最後に残ったのはみすぼらしい姿をした少女。
少女は”彼”を見ながら怯えていた。
少女だけは”彼”に言葉を向けなかった。
だから”彼”は少女を生かした。
だというに
『化け物』
それが少女の最後の言葉だった。
やがて”彼”は父親や祖父や仲間たちとは異なりを見せ始めた。
平凡な姿は異常に成長し巨大化した。
何も無かった中身はやがて死を貪るようになった。
そして”彼”はやがて眠りについた。
ふと、そんな夢を見た。
「・・・・・・・・あれ?」
目が覚めると見慣れない天井が目に入った。
自分の部屋じゃない、とすぐに理解できた。
だって、自分の部屋の天井はこんなにも和風じゃあないしそれに床と天井の差がありすぎだし。
と考えていると
「失礼します」
障子の向こうから妖夢の声が聞こえ、ゆっくりと音を立てずに戸を開ける。
「あれ?起きてましたか?」
自分に向かってぱっちり目を開けて見ている私の姿を見て驚いている様子の妖夢。
いや、門番やってると早起きが身に染み付いちゃってて。
「あーそうですか。でも、まだ寝てて結構ですよ。朝食までまだ時間はありますし」
と、言われてもなぁ。もう頭の中スッキリしちゃったし。
「ん~でしたら朝の散歩でもしたらどうでしょうか?」
・・・・・そうだね、することはないしそうさてもらうね。
「それじゃあ朝食の用意が出来ましたら呼びに行きますね」
ん、分かった。
「それでは失礼します」
それじゃまた後で・・・・・っと妖夢、ちょっと待って。
「はい?まだ何かありました?」
うん、忘れてたことがあったから。
「?なんでしょうか?」
一日の基本的なこと。おはよう、妖夢。
「あ・・・そうでしたね、おはようございます、美鈴さん」
彼女のおやすみ~ふつかめ~
妖夢が去った後、私はまだ心地良い温かさの残る布団からその身を這い出し、んーと背伸びをする。
「いやぁすっかり忘れてた」
なはははは、と笑い改めて自分が泊めてもらった部屋を見渡す。
床には一面敷き詰められたいい匂いのする畳がしっかり敷き詰められており、部屋の広さを改めて実感する。
さて、今私が居るところは西行寺幽々子さんのお屋敷。現在位置は客室らしく、てきとーでお願いしますと言ったらてきとーに用意しました。
と妖夢に案内されたのがここ。
ぶっちゃけ、私の部屋の半分以上ある。ちょっと悲しく感じたが洋館と武家屋敷との違いだ。諦めるしかない。
ちなみに私がここに居る理由は言うまでも無く旅の途中で博麗神社を後にし、次の近場に行こうと思ったが私は何を思ったのかここへ向かってしまった。理由は分からないが本能の赴くままと言うことで勘弁。
なお、博麗神社を後にしたのが夕方であったため、到着したのがすでに夜も更け、今頃お嬢様が起床なさっている時間帯。
大丈夫かなぁと思いながら西行寺の門前に立ち
『たのもー』
と大きくも無く小さくも無いいたって普通に声を向けると
『はーい』
と聞こえたようだ。ちょっとびっくり。
暫く待つと庭師の魂魄妖夢が現れる。
『どちらさまでしょうかー?』
『夜分遅くに訪問失礼』
『・・・何用でございましょうか?』
妖夢は一見様として接客した。
流石に妖夢は私のことを分からなかったようだ。
まぁ普通はそうなんだけど思うんだけどどーも寂しい気持ちがするのは気のせいだろうか。
そう思いながらもちゃんと名乗る。
『私、紅美鈴なんだけど・・・・』
『・・・・・・・・・・・ええええええええええええええええええええ!?』
馬鹿な!と妖夢驚愕、いやいや妖夢。リアクションが大きすぎる。
その声につられてお屋敷の主、西行寺幽々子さんが何時もののらりくらりと言ったテンポで現れた。
『あらあら、妖夢。何を驚いてるのよ。仮にもお客さんでしょう?』
その言葉にハッと我に戻り、慌てて平謝りする妖夢を宥めること数分。
さて、と前置きをし幽々子さんが声をかけてきた。
『それで紅魔館の門番が私服で何用かしら?』
と、何となく分かっているくせにと言いたくなるようなゆったりとしたマイペースで言ってくる幽々子さんに対し妖夢は再びハッと何かに気付いたのか私を見てプルプル震えている。
待て、そのパターンは止めて。
『め、美鈴さん・・・・も、もしかして・・・・・・』
『・・・・・・もしかして、貴女本当に・・・・・・』
妖夢の様子を見て幽々子さんもハッと驚いた表情を文字通り作る。いや、アンタ分かっててやってるな。
先手を打って止めようとしたら流石に攻撃速度が速い妖夢。先制攻撃を私は食らった。
『クビになっちゃったんですかーーーーーーーーーーーーー!?』
『うちは妖夢だけで十分よ?貴女を雇う必要は無いわ』
物凄く驚いた表情の妖夢と目が物凄く楽しそうに笑っている幽々子さんを遠慮無しに張り倒したのは本能からです。反省はしますが後悔はしません。ええ、特に幽々子さんについては。
まぁちゃんと誤解は解いて一晩止めて欲しいと願い出ると幽々子さんはあっさりおっけーと許可してくれ妖夢にすぐに部屋の用意をするように指示、ついでにお風呂も。と言ったのは私が少なからず汗を掻いていたことに気付いたためであろうと推察した。
ここ辺りはとてもいい人なんだけど悪乗りは止めて欲しい。
私があまりのお風呂の広さに感動しながらゆったりしているところに妖夢を引き連れて乱入してこないで欲しい。
挙句、とても口では言えないようなことをしたりと正直、うちのお嬢様より性質が悪い。本人がノリノリで楽しくやるから尚更。
幾ら宿主とはいえお風呂に沈めたことは罪にならないと思う。妖夢をそれを見ながらすみません、と何度も謝ってきた。
ま、結局のところ幽々子さんは幽々子さんで友人である紫さん以外に屋敷に来てくれたことが嬉しいとのこと。
それを聞くと少しばかり手加減した方が良かったかなぁと思ったが、
『本気で自分を張り倒したのは紫と藍と妖忌以外はじめてーなんて言う位ですからそのままで良いと思いますよ』
なんて言われたものだから心境としてはちょっと複雑。けどまぁ悦ばれているならそれでいいかなとも思う。
などと昨晩の回想をこれにて終わり。
「しかしアレだね。なんでこうも、此処は程よく暖かいのよ」
部屋着として渡された浴衣のまま外に出ると本当に心地の良い日差しを体全体で受ける。
あー本当に気持ち良いわー・・・うわ、本当に二度寝しそう。
などと日向ぼっこしていると
「昨日はぐっすり寝れたようね」
と、ほんわか幽霊のお嬢様参上。
「あ、おはようございます」
「うん、おはよー」
なんて気の抜けた朝の挨拶をする幽々子さん。
雰囲気だけで寝てしまいそうだが何とか堪える。
「昨日は改めて本当にすみませんでした。急に押しかけたりして」
「確かに押しかけられたけど私としては歓迎よ」
「それはありがとうございます」
「けどまぁ昨日は激しかったわ~まさか胸を触った途端、肘打ちからアッパーに繋げてそのまま一本背負いなんて。更に追い討ち付き」
「ぅ・・・・・・・」
いきなり昨日のことを突いてくる。
昨日、お風呂に乱入してきた幽々子さんと妖夢と普通に入浴していたのだがふと気がつくと幽々子さんの姿が無くその姿を探していると
『はいめんどりー!』
などと言いながらお湯の中からザバー!と飛び出していきなり私の胸を鷲掴みにした。
突然のことに私はまたもや本能的に幽々子さんが言ったとおり、肘打ちをかまして距離を作り、がら空きとなった顎に一発、其処から無防備になった腕を取りお湯の中に叩き落すと同時にマジ蹴りをかましてしまった。
ハッと我に返ると幽々子さんがぷかーと水面にダウンしたまま浮かび上がった。
ヤバイと思い、慌ててお湯から出すと
『すきアリー!』
アレ食らって平気だったのかよ!?と思わず突っ込む前にまたもや胸を鷲掴み。
『ちょ、幽々子さん!?』
『ふふふふ、ええ乳しとるのー』
などと不適にしかも上手に揉む幽々子さんに一方的にテンポを取られてしまい反撃できないところに
『何やってんですかー!』
『げはっ!』
妖夢に桶で顔面を殴打されあえなく悪は撃沈した。つーか、なんてテクニシャン・・・!?幽々子、恐ろしい子!!
まぁそれはそれで置いておいて。
「ふふふふ、流石の私もちょいと気絶しちゃったわー」
ニヤニヤと胸を揉んだ時のような獲物を狙っているかのような視線を向けてくる幽々子さん。
つい、両手で胸を隠してしまう。
「アレでちょいとなんですか・・・・」
結構、マジで入れたつもりなんだが流石ラスボスクラス・・・下っ端の私の腕じゃあ撃破に持ち込むのは難しいか。
「まぁある程度加減されててもあれぐらいだもん。本気でやられると私もやばかったわよ」
何か見透かしたかのように言ってくるがこの場はスルーして話題を変える。
「しかし幽々子さん、なんであんなにもテクニシャンなんですか?」
ッテ、ナニヲイッテルンダワタシ!ケモノが目覚めちゃうじゃない!
慌てて訂正しようとするがずいと幽々子さんが顔に息がかかるほどの距離に何時の間にか近寄っており、ヤバイ顔で語りかけてきた。
「ふふふふふ・・・・・・・・・教えてあげようかしら?」
「い、いえ・・・・極力遠慮させていただきます・・・・」
「あらぁ・・・・・・・・遠慮しなくてもいいのよ?一晩中付き合ってあげるから」
スーと幽々子さんの手がゆっくりとした動作で私の足を撫でる。
「!!!!!??」
「あら、いい肌触りね。引き締まっててとても美味しそう」
本格的にやばくなってきましたよ!てか、この人のキャラってこんなんだっけ!?
「や、止めてください幽々子さん!」
「うふふふ、貴女みたいな娘、初めてよ」
少しばかりと言うかかなり鼻息が荒くなってきた食いしん坊。
げ・・・・・みすずちん、ぴんち・・・・・・・じゃなくて!
「うわー!誰か助けてー!」
「誰も来ないわよ。さあ、私と一緒に新世界をっ!」
ひぃぃぃぃ!ここに泊まることにしてしまった時点でバッドエンドかー!
助けて咲夜さーん!お嬢様ー!などと心の中で叫んでいると
「てい」
「ぐはっ!」
遠慮の無いとても優しくない妖夢の一撃が幽々子の顔面に直撃。
こうして悪は2度目の滅びを迎えたのだった・・・!良かったね、美鈴。
だけど、少しは抵抗しようね。
「朝食の用意が出来たので呼びに来たんですが・・・・・」
うわぁとえらく冷たい視線を向けてくる妖夢。
「いや・・・・その・・・ね、うん、まぁ・・・説明が・・・」
「別に良いんですよ。どうせ幽々子様が悪いんだし」
しどろもどろになる私を慰めるように妖夢が言う。案外冷たいんですなー君は。
「ちょっと妖夢。私はメイちゃんと親睦を深めようとしただけなのよ。私だけを一方的に悪者にしないでよね」
と顔面にぐーを食らったのにあっさりと復帰してきた幽々子さん。アンタどれだけタフなんだよ。
「そうですね。確かに親睦を深めることは良いことだと思いますが反省のなさらない幽々子様には朝食抜きで構いませんね」
「ごめんなさい私が悪かったですついメイちゃんがいじめてオーラを出してたのでうっかり手を出してしまいました反省してますのでご飯抜きだけは勘弁してー!」
妖夢の非常な宣告に対し即答で返す情けない食いしん坊。というか最後だけが本音ですよね貴女。
まぁ結局のところ妖夢は許してちゃんと幽々子さんに朝食を出したのだが
『何時もより9割すくなーい!』
と屋敷全体に食いしん坊お嬢様の絶叫が響いた。
でまぁ午前中は幽々子さんと妖夢の立会いの下、意味不明なお昼をかけたガチンコバトルが繰り広げられたりしたがそこら辺は途中で幽々子さんが全面的に謝って試合は無効になり、お昼はなんの影響も無く食べられた。ちなみに謝った理由は
『メイちゃん、ずるい』
『ハンデありでそれはなしですよ幽々子様』
てな感じなわけで。
そんな訳でいささか朝より豪華になったお昼を食べ終え、私と幽々子さんは縁側でお茶を手にまったりとしていた。
「いい天気ね」
「そうですね」
ただ何をするでもなく、暖かい日差しを受けながらまったりと時間を過ごす。
こうしてゆっくりと時間を過ごしたことはあまりなかった。
門番をしている時は常に侵入者に警戒を向け、何時もピリピリした緊張感の中で過ごしてきた。
だが今の自分は日頃の仕事さえも忘れ、ただただゆっくりと時間を過ごしていた。
とても良いと思う。
博麗神社でも思ったが休みを頂いて良かったと思う。
じっくり時間を過ごしていると。
「美鈴さん、ちょっとよろしいですか?」
幽々子さんの食後のおやつを持ってきた妖夢が正座をし、真正面から言ってきた。
「ん?なに?」
妖夢の表情からなにやら重要なことだと感じ取り、正面から向き合う。
関係ないがおやつをガツガツ食べている幽々子さんにツッコミ入れたくなったが今は置いておく。
「美鈴さんは武術の達人と聞きましたが・・・」
そう、話題を振ってくるということは大体は予想は付くが取り敢えず質問と受け取り答える。
「ん~武術と言うか体術だね。一応、あらゆる武術には精通しているけど、どれもこれも習得したとかそういうのはないし。どちらかといえば我流だし」
「そうですか・・・・あの、もしよろしければなんですけど・・・」
何処か遠慮しがちに言ってきた。
それを見て確信する。つまるところ妖夢は私と手合わせをしたいのだ。それは武人としての本能だと思う。
すでにそれを予想していた私は望むとおりの答えを返す。
「私は別に良いけど?」
えっ?と妖夢は驚いた顔で私を見る。
「私、まだ何も言ってないんですけど・・・・」
驚いて呆然としている妖夢に何時の間にかおやつを食べ終えた幽々子さんが言う。
「いやいや、妖夢。あなたは分かりやすい性格だから誰でも分かるわよ」
う、と思うところがあるのか主人の指摘に軽くうめく妖夢。
「だけど、本当にいいのかしら?貴女は客人なのよ?」
まぁそれはそうなんですけど
「実のところ私も似たようなものでして」
苦笑する。
その姿に幽々子さんは仕方なさそうに笑んだ。
「それじゃあ再度確認しますけど試合形式は弾幕なしのガチンコで一本勝負。勝敗は・・・」
「そこら辺はいちいち言わなくても言いと思うよ。お互い、それぐらい理解できるだろうし」
「それもそうですね」
西行寺の庭園の一角、私と妖夢は向き合っていた。
私は服装を”何時もの服”に着替え、その場でストレッチをしていた。
一方、妖夢は何をするでもなく手を腰の刀に添えているだけ。
「よ~む、がんばれ~」
「・・・・・」
「・・・・・気にしない方面でいきましょう」
これから真剣勝負と行くのに対し、相も変わらず幽々子さんは縁側で観戦しながらお菓子を食べたり、お茶飲んだりまったりするようだ。
見世物じゃないんだけどなぁ・・・・・けど当人は暇潰しのつもりで見てるだろうしなぁ。試合を始めれば気にしなくなるだろうけど、やっぱり気が散る・・・・。
「すみません、我侭を言ったりして」
ふと妖夢がそんなことを言ってきた。
「別に私は良いよ。私は私で妖夢とやってみたかったし」
普段から妖夢は我侭を言わないらしい。
自分からこうやって切り出すのは珍しいと妖夢が準備をしている間、幽々子さんが言ってきた。
『たまにで良いから我侭は言ってほしいんだけどね』
なんて羨ましそうに言ってきた幽々子さんは少し寂しそうだった。
まぁそんな幽々子さんには悪いが私は私で好きなようにやらせてもらうとしよう。
一通りストレッチを終え、正面から妖夢を見る。妖夢も始まりが近いことを感じ取ったのか段々、目が真剣になっていく。
良い目だ、と思う。まだ幼さはあるものの、武人としての目は十分なものだと私の中で判断した。同時に油断のならない相手だと理解した。
「それじゃやろうか」
「はい。それではお願いします」
と律儀に一礼し、腰に挿した鞘から一本だけ抜く。
抜いた得物は長刀、恐らくではあるが楼観剣という名の業物だと判断する。
正直なところ、妖夢の実力がどれほどのものか未だ知らない。故に最初から遠慮や物見をする必要は無いと判断し構える。
「・・・・・・」
妖夢も刃を寝かせ、腰を低くし何時でも飛び出せるように構える。
だが、何故か一歩踏み出せない。
ふと気がつくと何も聞こえなかった。
何時の間にかこの場は静寂により支配されており、自身に聞こえるのは自身の息の音だけ。
これほどまでに静かだというに彼女、美鈴からは何も聞こえなかった。
彼女の構えはただ何をするでもなく、腰を低く落とし左腕を腰に、右腕を正面に、それぞれ置いただけ。
何も動かない。
否、彼女は動くつもりは無いと妖夢は理解した。何故か。
単純だ。彼女は攻め手ではない。だが攻め手である。そう成るには妖夢の攻撃が必定。彼女自身の攻撃は妖夢の攻撃から成ることにより始まり、彼女はようやく攻め手と成る。
ならばと、妖夢は如何に攻めるべきか思考する。相手は自分が武器を持っていることによりカウンターを
それを待っていたのかすでに紅い風が目の前に居た。
「・・・・・!?」
自分が攻め手でなければ相手が僅かにでも自分から意識を離すまで待てば良い。その瞬間が必殺の一撃であると、彼女が放つ拳が語った。
速い、と思う前に妖夢は前に出た。
轟、と自分の頭上を文字通りの剛拳が通る。
すでに相手も踏み込んでいるが故に目前は懐。確実に入る、しかしそうではないと妖夢は知っていた。
目の前に美鈴が放った二度目の攻撃、ただ砕くという意思の入った蹴りが打ち込まれる。それを分かっていたからこそ妖夢は次に取るべき行動を取っていた。
「!?」
ふっ、と吐き出された息と共に妖夢の小さな体がその足に乗り止ることの無い蹴撃は妖夢を乗せたまま上へ上がる。
美鈴の驚愕は僅か。すぐさま軸足を崩す。それにより僅かに浮き上がった前髪が楼観剣の一閃により切断される。
僅かな間にそれは行われた。
美鈴の足に乗っていた妖夢はその勢いに乗って美鈴の背後へ跳び、妖夢が跳んでいる間に美鈴は開いていた腕を使い地面に手を付けそれを軸とし片手で一回転、すぐさまその勢いのまま立ち上がると同時に妖夢も彼女の正面に立つ。
ハッ、とお互いに一つ息を吐く。
それにより再開した。
先に仕掛けたのは再び美鈴だった。つま先を地面に入れるように蹴り込み、そのまま土を妖夢に向け蹴り上げる。
「っく!」
勝利を目的とした相手の行動に思わず動きが止まり、楼観剣を持たない右手で顔を覆う。
それと同時、鞭のようにしなやかで硬い彼女の右足の蹴りが来る。しかし妖夢はその迫る気配に呼応し一瞬だけ楼観剣を手から離す。
「っ!?」
その小さな体にどれほどの力があったのか。
美鈴の足を左手でガッチリと受け止め強引に軸足である左足を地面から引き剥がすように持ち上げ、背後へ放り投げる。
そして背後へ振り返る時の遠心力を用いて土を防いだ右手で楼観剣を掴み、早期決着を狙うのか左手でもう一本の刀、白楼剣を抜きそのまま中空に居る美鈴へ目掛け跳ぶ。
跳んでくる妖夢の姿を不安定な姿勢のまま美鈴は確認した。相手が放つ攻撃も瞬時に悟る。
両刀による同時攻撃か・・・!
一本を止めようとすれば一方を受け、その一方を防ごうとすれば残りの一本を受ける。
ならば同時に止めればいいだけのこと。だがそれは地上での話。思いもよらぬ妖夢の力に結果として投げ飛ばされている自分にとって中空で受け止めるほどの踏ん張りが出来ない。
ましてや下手に止めようとすればもろに両刀の一撃を受けかねない。故に此処で勝敗の是非が確定した。
そして目前に妖夢が迫る。予告したわけでもない。だがその攻撃は予見したとおりの両刀による同時攻撃。
リーチが長い分、楼観剣は僅かに遅く、逆にリーチが短い分、白楼剣は僅かに早かった。
僅かな一瞬、二人の視線が交差する。
その刹那、互いに何を思ったか知れない。しかし互いに勝敗を知った。
そして刃が迫った。
その晩。
幽々子がプリズムリバー姉妹を屋敷に召喚し、ささやかな宴が広げられた。
その中心には照れくさそうにする庭師が居座り、台所では腕に包帯を巻いているにもかかわらず料理を作る休暇中の門番が居た。
ていうかテラエロス!!!!!とか
なんかみっかめ以降に響きそうな伏線キターとか
色々続きが楽しみです。
↓多分誤字です。
・そうさてもらう
・つくずく
・行動をうを
あと美鈴の部屋の半分が12畳の大広間っていうのは…?
もし美鈴が6畳なら、半分じゃなくて倍だと思うんですが…。
これは誤字
「私の部屋の半分以上・・・・・・・」
つくずくこのお屋敷は広いなぁと思った。
これは間違い?嫌味?