「れいむー、お茶くれー」
「私にもくれないかしら?」
今日ものんびりと誰かが来ることを密かに願いながら境内を掃いていたら異様とも言える組み合わせの二人がきた。
「今日はなんとも奇妙で珍しい組み合わせで来たわね」
「そうよー、この子がわざわざ私を叩き起こしてくれやがったから何かと思ったら一緒に博麗神社に行こうなんて言うから、面白そうだと思ってきたのよ」
「元凶は魔理沙なのね」
「ちょ、ちょっと待て! 私は叩き起こしても無いし何もたくらんでない!」
「本当?」
「おう! この純粋で一点の曇りもない瞳を見ろ!」
見る、見つめる、とにかく見つめる。
見つめる、まだ見つめる、しつこく見つめる、これでもか!ってぐらい見つめる。
すると瞳が揺れはじめ横へとそれる。
「やっぱり嘘ね」
「いや、ちょっと待て! 誰でもずっと見つめられ続けたら目を逸らすって!」
「まぁ、魔理沙は一旦保留にして紫。あんたは?」
「うふふ、私だって何もたくらんでないわよ~」
「どれどれ」
見る、見つめる、とにかく見つめる。
うーん、流石に読めない。
けど、なんとなく。本当になんとなくだけど……たくらみどころかなんにも考えてない気がする。
紫だし。
むしろ、起きてるみたいだけど実は寝てる、とか器用なことをしているのかもしれないし。
「どうかしら、霊夢」
「いいわ。これ以上は追求しないでおいてあげるわ。お茶、飲むんでしょ?」
「それでこそ、霊夢だ!」
私が追求をやめると魔理沙は瞳を輝かせて私の後をついてきた。
うん、犬ね。よく猫みたいだとかネズミとか言われてるみたいだけどこれは仔犬よ。
気まぐれなクセして寂しがりで構ってもらおうとして悪戯したりするのはまさに仔犬よね。
「あら、霊夢。実際に具現化さしてもいいのよ?」
「しなくていい」
「残念、さぞ可愛いと思ったんだけど」
「もしかしてあんた自分の式神が狐なのって」
「藍は私の可愛い家族。あなたが詮索していいことではないのよ、霊夢。人は誰しも秘密を抱えてるものなの。それが乙女なら尚更にね」
そう言いながら私の唇に指を当てて言うな、と無言の圧力をかける。
まあ、普段の仕草とか服の趣味とかを考えても紫って可愛いものが好きみたいな雰囲気がするしそういうことなんだろう。
つまり紫は獣耳フェチ。間違いないわね。
「ああ、紫。多分だけどアリスに代価を渡せばどんな人形でも作ってくれるはずよ。例えばデフォルメされた狐とか猫の人形とかでも」
「そ、そう」
目に見えて動揺する紫。予想は当たってたらしい。
後ろに着いてきてる魔理沙は私たちの話からのけ者状態にされて不貞腐れてる。
うわぁ、可愛い。あのむくらませてるほっぺたとかつっついたり伸ばしたりしたい。
きっと柔らかくて気持ちいいんだろうなあ。
「ねぇ、紫。私もあんたの気持ちが少し分かる気がするわ。可愛いものを正直に可愛いと思う心は大切ね」
「何のことかしら? 私にはさっぱりわかりませんわ」
不自然なほどに視線をはずす紫。というかはずそうとし過ぎてそっぽまで向いてる。
普段では絶対に見かけることが出来ない姿な上、さらに頬まで赤く染めている。
うわ、やば。紫もメッチャ可愛い。
普段、私はなんでも知ってますって態度で胡散臭い笑みを浮かべてるから余計に可愛い。
誰も知らない八雲紫の可愛さを私だけが知っている……いいわ、実にいい。
……って、あ。
魔理沙もいたか。けど、それでも私と魔理沙しか知らないこの可愛さ。
凄い優越感を感じる。それほどまでにこれは貴重だと思う。
「さ、アンタら。いつまでもそんなトコでむくれたり恥ずかしがったりしてないできなさい。廊下にいつまでもいるものじゃないわよ」
なんとなくバツの悪そうな顔で少し俯きがちに先に歩き始めた私の後ろをついてくる二人は同性の私が見てもお世辞抜きに可愛いと思える。
例えばあの履物としての意味を為すかわからない一本歯の下駄を履いた天狗がこの光景をカメラに収めたのなら私は殺してでも奪い取る。
「ほら、さっさと歩きなさい! いつまでもチンタラしない!!」
「「は、はい!!」」
怯える魔理沙と紫っていうのもこれはこれで可愛いわね。
やばっ……新しい何かに目覚めそうだわ。
「なぁ、霊夢……なんで私のお茶だけ薄いんだ?」
「あら。知らなかったの、魔理沙。貴女のためだけにいつもおいてあるとっておきよ」
「これのことかしら?」
紫がスキマを開いて中から『魔理沙専用』と記された茶筒を取りだす。
この魔理沙専用の中に入ってる茶葉はなんと総計10回淹れた茶葉で淹れたもの。
ちなみに紫と私のは2回目。
「……なぁ、泣いていいか?」
「存分に泣くといいわ。涙は女を磨くのよ」
「うわあああああああん」
「よしよし。けれど魔理沙、こんな待遇でめげちゃ駄目よ。貴女はもっと綺麗になれるのだから!」
「はい、紫お姉様!!」
って、何このコント。
確かに二人とも金髪で癖毛だけど……。
しかもなんか息があってるし。
「やかましい。お茶ぐらい落ち着いて飲ませろ」
「私はお湯しか飲んでない!」
「あんた専用のお茶よ、それは」
「こんなもんはお茶とは呼ばん! 百歩譲ってもこれはお茶風味がするかもしれないお湯だ!!」
「なら、飲むな」
「じゃあ、来ないぞ!!」
「別に来てなんて頼んだ事なんて一回もないわ」
「そうやって無くなってからこの魔理沙様の偉大さに気付く事になっても知らないからな!!」
「そんな事言っておいて魔理沙が先に耐えられなくなって来るのね。いいわ。そうなったらあなたが宣言を違えない様にちゃんと追い返してやるから」
そう言って針をチラつかせる。
これぞ、図書館も紫萌え……もとい紫モヤシから授けられた魔理沙を可愛くする方法10の其の16番。
10なのに16番目だったりするのは10個作りきった後に増やしたかららしい。
まったく、知識人の考える事はよくわからないわね。
けど、怯える魔理沙が可愛いっていうのは認めるわ。
「もう、霊夢ったら。少しは我慢というものを覚えたらどうかしら」
「そうね、あんたらがもう少し大人しければ考えてもいいわよ」
「ああ、そいつは無理だな。霊夢が我慢することを覚えるぐらいに」
「そうね。『春眠と冬眠の境界』をいじるぐらいに無理ね」
二人して大人しくできないのか。いや、まあ大人しいこの二人なんて想像もできないけど。
そもそも紫の例えなんて自分が嫌なことなだけじゃないのかしら?
「それはいじりたくないだけじゃない?」
「そんなことないわよ~。いじれる境界だって限度があるんだから」
「そうなの? で、限度はどのぐらいなのよ?」
「ふむ……そいつは確かに興味があるな」
「イヤよ。なんで私が自分の限度を教えてあげないといけないのよ」
魔理沙とアイコンタクトを交わす。
付き合いが長いだけあって魔理沙は一瞬で私の意図を理解して頷く。
行くわよ、魔理沙。霖之助さんをオとしたあの技を。
「いいじゃない。なんか基準が判りづらいものでいいから教えてよ」
「そうだぜ。見せてくれたっていいだろ?」
アイコンタクトの意図はちゃんと伝わったらしく魔理沙と二人で紫にキラキラとした眼差し+上目遣いを駆使して頼み込む。
さぁ、どうかしら紫。
あなたにこの二重結界が抜けられるかしら?
「……もぅ。しょうがないわね。見せてあげるわよ。けど、本当に基準が判りづらいものだからね?」
「うんうん。それでいいぜ。興味だからな、あくまで」
「そうね……霊夢。なんか葉っぱは無いかしら?」
「葉っぱ?」
「そう。できれば食べられるものがいいわね」
「なら……この前摘んできたナズナでいいかしら?」
「いいわよ」
「お、ナズナと何の境界をいじるんだ?」
「まぁ、それは見てのお楽しみよ」
何の境界をいじるのかしら?
ロクでもない境界をいじらないことを祈るばかりね。
「はい、ここにありますはただのナズナでーす」
「そうね」
「そうだな」
「それが私が『食べれる雑草と焼き魚の境界』をいじればあら不思議! ……はい、どうぞ。霊夢にあげる」
ズボッと紫に口の中にナズナを突っ込まれる。
~少女咀嚼中~
「って、私は山羊かなんかか!?」
「あら。本当にそう思うのかしら? それはもうナズナであってナズナでないものよ」
「……ん? この香ばしくも磯の香りのただようこれは……! そして、苦味の中にある味わい深いこの味!! これは……!?」
「ナズナよ。ただし『食べれる雑草と焼き魚の境界』をいじった……ね」
「お、美味しい!?」
「うふふ。ただの焼き魚じゃないわよ。『食べれる雑草と焼き魚の境界 -鯛-』よ。その美味しさは凄いものよ」
「た、鯛!? わ、私初めて食べたわ……」
「私も食べたいぜ」
「駄目よ。これ疲れるんだから~」
そう言いながら卓の上でタレる紫。ここまでタレ姿が似合うってのも考えものね。
可愛いとは思うけど……。真似はしたくないわ。
「食べたい。食べたい。食べたい」
「イヤよ。今日はもう打ち止め」
「ケチー」
そう言い残し魔理沙も卓に沈む。
そして卓一面に広がる二人分の金色の髪。
二人とも髪長いからよく広がるわね。
しかも二人そろってワカメみたいにふにゃふにゃした癖毛。
「金色のワカメって美味しいのかしら……」
「ハァ? 何言ってるんだ、霊夢。金色のワカメなんてあるわけないだろ」
思わず口から漏れたひとりごとに律儀に突っ込んでくれる。
ホントに大人しく出来ないわね。
「まぁ、それはそうとアンタらをこうやって見ると姉妹みたいに感じなくもないわね」
「何がだ?」
「何がよ」
「二人とも色は違うとは言え金髪で癖毛じゃない。で、今同じような仕草を二人揃ってしてたし」
「それだけか?」
「それだけなの?」
「それだけ」
「な、何よなんか文句あるの?」
「いや、無いが……それにそれならアリスとこいつの方がよっぽど姉妹っぽいぞ」
「それこそ髪の色だけじゃない」
「いやいや、考えてもみろ。紫もアリスも妖怪の癖にそれを思わず忘れるぐらいに人間くさいじゃないか」
む、言われてみれば確かにそういう意味では似通ってるかもしれない。
「本人を無視してそういう話はよくないと思うわ」
「いや、あんたに発言権なんてないわ」
「そうだな、無いぜ」
「……帰る」
そう言ってスキマに消える紫。しまったいじめすぎたか。
謝ったほうがいいかなぁ、なんて考えてると再びスキマが開いて目から上だけ覗かせ涙目で
「絶対に許さないんだからね! 覚えておきなさいよ!」
「紫を泣かしたことだけは覚えておくわ」
「泣いてたってことだけ覚えておいてやる、ありがたいと思え」
「う、あう~……うわ~ん! らん~、霊夢と魔理沙がいぢめるのー!!」
魔理沙と私に追い討ちをかけられ見事なまでの敗走をする紫。
横を見ると魔理沙もこっちを見てニヤリと笑って
パァーン!
とハイタッチ。
こうしてつつがなくく今日が去っていく。
明日も何事も無くいつものように素敵で特別な一日でありますように。
ところで天狗さん。それ、寄越せ
っていうか霊夢におそろしくシンパシーを感じるんですがどうしてくれやがりますかこの野郎。
そして天狗に、最大の危機迫る!
ゆずってくれ たのむ!
必要なのはただ一言
最 高 ! !
最高得点ありがとうございます。そこまで私の拙作を楽しんでいただけたのなら幸いです。
>そしてその写真ゆずってくれ たのむ!
文と交渉してください。いえ、私も非常に見て見たいですが。
>紫様に心奪われました。流石大妖怪、恐るべし。
一応、紫様ほどの大妖怪が手玉に取られてる理由っていうのもあるんですがその理由も書いていたほうがよかったですかね? いや、あなたを手玉にとるためですが。
>霊夢におそろしくシンパシーを感じるんですが
それならお賽銭を上げてください。きっとハグってくれます。
>ところで天狗さん。それ、寄越せ
PS版では戦闘があるそうです。気を付けてください。パパラッチって言われても相手は天狗です。多分強いです。