「あら、門番である貴女が私の部屋に来るなんてどれぐらいぶりかしら」
私が部屋に入るなりお嬢様はそう言ってきた。まぁ事実、私、紅美鈴が門番になってからこの人の部屋に入ったことは数えるほどしかない。
確か以前は霊夢たちが来るより少し前ぐらいだったような記憶がある。
その時は暇潰し相手として久し振りに私が相手をすることになった。
当時、お嬢様としては相当お暇だったらしくこれまで溜めてきた一部の愚痴を思いっきり吐き出していたことを思い出す。
「以前は随分と精神的に疲れましたよ」
はぁと思い出したときのことがフラッシュバックして僅かに疲れたような気がしたのは気のせいだ。
「あの程度で疲れたんじゃあ私の相手は務まらないわよ美鈴」
「それもそうなんですけどね」
苦笑する。
どうもお嬢様としては私の存在はパチュリー様や咲夜さんとは違って別の意味で気を許せる存在らしく姿相応の笑いを浮かべることが多い。それはそれで従者としては嬉しいことなのだが。
「それで、わざわざ咲夜が居ないときを狙ってきたかのように現れた門番さんは何か御用なのかしら?」
くすりとお嬢様は笑って聞いてきた。
無論、用はちゃんとあるし仕事をサボってお嬢様とお茶をしに、というわけではない。と、いうか基本的に夜はほぼ非番の時が多い。
その理由としては門番隊の隊員の殆どが夜行性で私のように四六時中、活発な活動が可能なのが少ないのだ。
比率としては大体3:7ぐらい。そんなわけで夜は数に任せることにしている。とは言え、数に任せてばかりだと烏合の衆同然なので可能な限り昼間に訓練をし、鍛えている。お陰で過去に私がぐっすりと寝ている―――昼間に大群が押し寄せてきたため物凄く疲れたのだ―――間に襲撃があっても一切、館の中に入れることが無かった。
無論、その後私はこってり絞られたわけだが。
話を戻そう。
私はかねてより計画していたことがある。今回はそれについてまず、お嬢様に了承を得に来たのだ。
ほら、先に後方の憂いを絶っておいた方がいいじゃん。先に咲夜さんに言っちゃうとハリネズミになりそうで怖いから。私が。
「はい、実は私個人としてはかなり重要なことをお願いにし来たのです」
「ふぅん・・・ほんと今夜は珍しいことばかりね。貴女がお願いなんて本当にどれぐらいぶりかサッパリ忘れちゃったほどよ?」
基本的に私は誰かに甘えることは無い。自分に厳しく生きていくタイプで誰かと一緒に居ても一歩離れた位置で傍観している。
本音としては甘えたいが自分としてはそんなキャラじゃないし、と思っている。というか本当に甘えたい人が今のところ居ないのが現状なわけで。
「私もそれについては分からないですよ。それで先にお嬢様にご了承を得ようかと」
「なるほどね。ま、咲夜に面と向かって言えない様な事だろうから聞いてあげるわよ。内容によっては新スペルの実験台になってね」
うわ、笑顔で言うなんて・・・言ってる事はおおいに乗り気なんだろうが後半部はいただけない。というかこれ以上ネタ増やすんですか?
「いやね、今作の位置がちょっと気に喰わなくて。狐とか亡霊より下ってどうかなーと思うし」
「心を読まないでください」
というか一応作品順なんだけどね。別に実力じゃあないと思うんですが。
「そうだとしてもやっぱり気に喰わないわよ。だってスッパと大喰らいじゃん」
・・・・・・・・平然と言ってのける辺りやっぱらしいなぁ。
「で、何なの?」
地味に話をずらしたのはお嬢様なんだけどこのまま堂々巡りもどうかと思うのでさっさと切り出した。
「実は一週間ばかりお休みをいただけないかと思いまして」
「ふーん、その程度のことか。別にいい・・・・・・・・・・・・・・え?」
内容を告げた途端、笑顔を浮かべて硬直するお嬢様。
「・・・・・・どうでしょうか?」
あまりの硬直の長さに不安になってきて声をかける。
「・・・・・はっ!あまりにもあっさりとした内容だったから思わず」
・・・・・それって遠まわしにつまらない内容って言ってません?
「ええっとね、美鈴。休みぐらいなら咲夜に言っても大丈夫なんじゃないのかな?別に一週間ぐらいどうってことはないと思うのだけれど?」
「まぁそうなんですけど私としては長すぎず、短すぎず、と言った内容で固めたつもりなんです。というか色々な意味で一週間というのが重要なわけでして」
ふぅん、と改めて私を品定めするかのように見るお嬢様。
表情は先ほどから変わっていない笑みを浮かべた顔。
ただ幾分か目が険しい。
「ま、私としては良いわよ」
一分の経たない内にあっさりと答えが返ってきた。
「い、良いんですか?」
正直、断られるかと思っていた私にとっては驚きと喜びを含んだ返答だった。
「確かに一週間は短過ぎず長過ぎずだしね。咲夜にとってはすぐに出そうで出ない期間だから私に了承を得に来たと言うのは正解ね」
一応言うが咲夜さんは紅魔館を事実上運営している存在といっても過言ではない。
事細かく決められたスケジュールにとって一週間という期間はすぐに出そうで出ない。
下手をしたら大打撃になるかもしれないし、大した被害もないかもしれない。それを計算するだけでも時間は多少なりとかかる。私としてはそれを考慮してまず、お嬢様に了承を得て後に咲夜さんに話を通すことによって主の了承ということで幾分か計算は楽になると思ったのだ。
けどどっちにしろスケジュールの大幅な変更はありそうなのだが。
「そういえば門番の方はどうするの?主力である貴女が居なくなると結構打撃は大きいと思うんだけど?」
「それについては心配は及びません。隊員には事前に話しておりますので夜番からも出して私が居ない間は人数を均等にすることで問題はないと判断いたしました」
「まぁ貴女がそう判断したならば問題は無い方でしょうね。けどなんでまた今頃になって休みなんかを?」
ふと気になった、と言う風にお嬢様が言ってきた。
確かに今頃だろう。
私にとっては休みと言うのは貴重な時間でありながら結局のところ何もしない時間だった。
実際には僅かな時間の間で出来ることは僅かな事だけ。やりたい事があるならもっと時間が必要だった。
それに時期としても私としては丁度よかった。
何時の間にか幻想郷という世界でさまざまな事件が起きて多くの存在が更に増えたような気がした。だけどそれは今まで気付かなかっただけ。
それならばと、休みが欲しかった私に今まで知れなかった多くの存在を知りに行こうと思い立った。
つまるところ幻想郷の名所めぐりみたいなことをしたかった。正確にはお礼参りっぽいが。いや、元凶とか色々あるけどそれとは別にうちの人たちが迷惑かけたこともあったし、代表してそーゆーこともしてもいいかなーと思っても居たりする。どちらかといえばこっちはオマケ。
「つまり貴女は旅をしたいわけね。自分にとって知らない世界への」
「まぁそうなりますね」
休みが無かった私は自分の知らないところがあるということに興味を抱き、それを知りたいと思った。
「パチュみたいに知的欲求が~みたいな感じだけど貴女は純粋に行って見たいんだね?」
「パチュリー様じゃあないですけど答えは”はい”です」
親のようで姉のような言い草に少しくすぐったさを感じながらもしっかりと答える。
関係ないが図書館の自室にてくちゅん、とくしゃみをした人物が居たがそれは本当に関係ないので置いておいて。
「だってさ。それなら一週間ぐらい良いわよねー?」
と、お嬢様が私の後ろに向けて言葉を投げるように放つ。正確にはドアの向こう。
「え?!」
まさかと思いながら振り向く。普通に考えればあの人がお嬢様から長い間、離れることは滅多に無い。
すっかり、あの人のことを失念していた私にとってそれは不意打ち以外のなんでもなかった。
ドアの向こう側からはぁと諦めたかのようなため息が聞こえるとともに一人の女性が入って来る。
「さ、咲夜さん・・・・・・」
その人の表情は僅かに怒っているようにも見えた。というかアレは怒っていますよ?だって何時にも増して眼光が鋭すぎますよ?
咲夜さんは私のことを無視してそのままお嬢様の前に立つ。
「どうかした?盗み聞きがばれたのが恥ずかしかった?それとも誰かに対して怒ってる?」
くすくすと笑いながら自身の完璧で瀟洒な従者を見る。
それに対し僅かに視線を私に向けながら
「そのどちらもです」
と極めて無表情で怒ったような声で答える。
「まぁ確かに貴女に言わなかった美鈴も悪いけどその子は貴女を気遣って私のところに来たんだから別に良いと思うけど?」
や、やっぱ不味かったかなー?いやでもさ、咲夜さん大変だしちょっと言い辛いなーと思ってたし。
私なりに気遣ったつもりなんだけど失敗だったかなぁ?
「お嬢様がよくても私としてはよくはありません」
「頑固ねぇ。そんなに美鈴が自分に言わなかったことが気に食わなかったの?」
「そういうわけでありません」
「ならどうしてよ?」
「・・・・・・・・・まるで自分が信用されていないように感じたからです」
ぷい、とそっぽを向いて呟くようにいう咲夜さん。
・・・・・もしかして私なりの気遣いは逆に彼女を傷つけてしまったのだろうかと不安な気持ちになる。
その気持ちが伝わったのかお嬢様は一度、私を見て視線を咲夜さんに戻した。
「なるほどねぇ・・・・・貴女としては美鈴を全面的に信頼しているし、美鈴もまた貴女を同様に全面的に信頼している。だけど貴女としては美鈴の厚意が逆に裏切りに感じたのね?」
「い、いえ、そういうわけではありません。私としては確かに美鈴を信頼しています。確かに少なからず私に話してくれなかったことには憤りを感じます。ですが、それとこれとは別です」
「だけど端から見れば自分に話してくれなかったことを拗ねてるようにも見えるけど?」
「そ、それは・・・」
「言い訳は無用。美鈴なりの気遣いぐらい貴女だって分かってるけど?けどそれを自分に話してくれなかったからといって拗ねるなんてねぇ」
「で、ですから私は拗ねてなどいません!」
「はいはい、分かった分かった。ま、どちらにせよ美鈴、することぐらい分かってるわよね?」
「ぅえ?!」
全くの不意打ち。てっきりそのまま二人の話し合いで終わるのかと思ったんだけどお嬢様がへにょりレーザーよろしく方向転換して私に言葉を向けた。無論、私はもろに直撃し変な声を上げる。
「まさか、お咎め無しなんて思ってたわけじゃないわよねぇ?」
にやにやといじめっ子のような顔で攻撃してくるお嬢様。というかまんまいじめっ子ですよ。
けどまぁこっちはこっちで一度謝っておこうかとは思っていたのは事実なわけで。
それが後ではなく今になっただけなのでお嬢様のさり気無い気遣いとして受け取っておこう。
「あのぉ・・・咲夜さん?」
「・・・・・・何よ?」
おずおずと咲夜さんに声をかけるも返ってきた返答は怒気の滲んだ声だ。
あからさまに拗ねてませんかあなた。
ともあれこのままで止まるつもりは無いので早めに済ませるべきだろうと思い言葉をかける。
「ストップ、待ちなさい美鈴」
しようと思ったがお嬢様のストップが入り何も言えなくなる私。
謝れ、と言った当人が止めたことに少し無からず戸惑う咲夜さんがお嬢様に言う。
「お嬢様、まだ何かあるのでしょうか?」
「・・・・・何か?咲夜、あなた何かと言ったわね?」
え?と当人としては疑問を尋ねたわけなのだがそれに対してお嬢様は何を言っているの?と言うように答えを返す。
「やれやれね。咲夜、あなた一方的に美鈴に謝らせるだけで済むと思ってる?」
「えっと・・・それは私も謝れと申されているので?」
「何を当然のことを。自分だけ謝らずに済むと思ってのかしら?」
「私は何も悪いことは・・・」
「はははは、黙れ。この場喧嘩両成敗」
咲夜さんが抗議しようとするがあっさり正論を言うお嬢様。たまーに威厳ある姿が見られるけど基本的にはカリスマについて諦めているらしい。いや、お茶の時間に「おやつ~」とか「苦いの駄目」という理由でココアを美味しく飲むのはどうかと思いますって心の中で突っ込んでおきます。
さて、お嬢様に何を言っても無駄だと判断したのか咲夜さんが私と向かい合う。
こうしてみると改めて美人だと思う。むしろ麗人と言うべきだろうか。
スッキリした顔立ちにさらさらとした銀髪、すらりとした綺麗な体系に白くほっそりとした長い足。
綺麗だなぁと素直に思う。自分にはない美しさを持つ彼女は人間だ。対し私は妖怪。改めて思うなんて儚いものだろうと。
「ほら、さっさと謝る」
と、お嬢様が催促したお陰で離れていた意識が戻る。
みると咲夜さんも似たようなことを考えていたのか惚けた顔から慌てて取り繕っていた。
その姿を見てよくよく考えると自分が元凶じゃん、と思いきっぱりと諦めが付いたと言うか何と言うかまぁようするに素直に謝ることにした。
「すませんでした咲夜さん。気遣いのつもりが変に思わせてしまって」
ごめんなさい、と頭を下げる。
と、先に謝られた事に驚いたのかどうか分からないが咲夜さんが慌てた声で言った。
「ちょ、ちょっと美鈴、頭を上げてちょうだい。変に思ってたのは私が一方的に思ってただけだから・・・・その・・・・」
頭を上げると素直に謝れないおろおろした咲夜さんの姿があった。
うわ、ちょっと可愛いですよ。普段は完璧と言う言葉がそのまま当てはまるほどの咲夜さんが取り乱している。
や、眼福物です。
お嬢様も似たようなことを思っているのかニヤニヤ笑っている。もしかしてこうなることを分かっててやったのかなぁ?もしそうだとしたマジでいじめっ子ですよあなた。
とお嬢様と観賞しているとようやく覚悟が決まったのかよし、と小さなガッツポーズをして私を正面から見る。
「・・・・・・私も悪かったわ・・・・・・・・ごめん」
けど気恥ずかしさは抜けなかったためかそっぽを向いちゃって小さく謝罪の言葉を述べる。
その姿をみて改めて本当に可愛いなぁと思った。
その後、お嬢様の声で復帰した咲夜さんは何時も通りの完璧で瀟洒なメイドに戻り、スケジュールの調整をしてくる、と言い部屋に行ってしまったのでこの日の夜はお嬢様の相手をすることになった。
久し振りにお嬢様と二人っきりだったので随分と楽しく話をした。
そして帰り道、私はふと思った。
「なんでお休みをもらうだけであんな大きく・・・・・・・」
まぁ今回は自分の行動がずれてたわけでして。
そんなこんなで私は一週間のお休みをもらうこととなった。
さて、どんな日々を送ってみようか、と思いながら遅い就寝となった私はある程度予測したとおり完璧に寝坊した。
だって睡眠時間が1時間も無かったんだもん・・・・・・・・・・幾らなんでも殺人ドールは勘弁してくださ・・・・・ぐー。
今日の教訓
夜更かし厳禁!ってけーねがもこに注意してた!
こら、小町も!
>あまりにもあっさりとした内容だったら思わず 『か』が抜けてるかと~
>事件が起きて多く存在が更に増えたような 『の』がぬけてますー。
・・・指摘ばっかりですいませんm(_ _)m
~ふつかめ~を期待してまっす