Coolier - 新生・東方創想話

課外授業(後)

2006/07/13 17:46:41
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すぐにも始めようとせっつくフランドールを宥めつつ、咲夜の淹れた紅茶を啜るレミリア。
場所は先ほどから変らず、闇に浮かぶ閲覧所である。
「なにか、賞品でもあった方が盛り上がるかしら」
視線の先には、なんとなくであったが、それぞれ所属やらなにやらで、ある程度の塊ができている。
決定権がレミリアにあるのを見ている為か、取り立てて意見が出なかった。

一同は、慎重に様子を窺っている。
このお嬢様の機嫌一つで、明日の新聞の一面を飾るような愉快な不幸が訪れるかもしれないのだ。
過日、哀れな犠牲者が慧音に発見される、という事があった。
プライバシー保護の観点から、被害者の名前は公表されなかったが、うっかり慧音が洩らした、
「歴史を消そうにも、強固な運命で縛られている」
という言葉から下手人があがり、被害者もまたその被害ゆえに、なかなか臭いが取れずに鼻の利く妖怪にばれた。
哀れな鴉天狗の話は、一部では有名な事件である。

脅しすぎたか、とも思うが、反省はしないあたりが、レミリアのお嬢様たる所以だろうか。
「咲夜、今日のおやつは?」
ソファの上で軽く仰け反り、後背にいる従者に尋ねる。
おやつ、と言うあたりに威厳の無さがあったが、腹心は構わずに答えた。
「通常通りを予定しておりますが」
ここで言うおやつとは、もちろん普通の生活時間を持つものに対してである。
この時間、起き抜けのレミリアは、目覚めの紅茶しか口にしない事が多い。
「非番を叩き起こせ、甲一種を許可する」
「かしこまりました。では本日お越しのお客様をおもてなしする為に、少々盛大に参りましょう」
その言葉に、一同の目の色が変わった。

紅魔館の厨房は永らく洋食中心であった。
しかし、近年交流の出来た白玉楼や永遠亭、はては神社家庭料理等から和のテイストも取り込んでいる。
主の気性も鑑みて、生活の贅肉部分には労力を惜しまないでいるのだ。
貴き者は、たとえ招かれざる客であっても持て成すものだ、というレミリアの理念がある。
メンツともいう。
規模も含めて、幻想郷でも屈指の料理人集団である紅魔館厨房部隊。
そこを管轄する侍従長が、気合を入れる事を宣言したのだ。

「わーお。 咲夜、期待してるよー」
瞳を輝かせるフランドール。
「ご期待に添えますよう、厳命しておきます」
応え、精密な所作でお辞儀をする姿は、まるで人形のようであった。
そこまで考えてメディスンは、咲夜が何者かを聞いていない事に思い至った。
この姉妹を相手にこの冷静さだ、よほど力のある妖怪に違いない。
「と、い う わ け で」
どうだとばかりに一同を見渡すレミリア。
「じゃあ。 勝ったチームが取り分を主導するってのはどうだ?」
ニヤリと笑う魔理沙。
「あら悪いわね」
姿勢を正して座っていた永琳が、それを聞いて目を細める。
「…そういう宣言は……勝ってからにしなさい」
「私、ここのケーキ好きなんだけど……ああ、帰ったら走らないといけないかしら」
睨むパチュリーと、小声でなにやら呟くアリス。
「師匠っ、師匠はここのお菓子大好ゲフッ……?!」
テンション高めの鈴仙が、見えない何かに打撃され床に崩れる。

目の前にいたアリス達は、殴打の音を聞いたのみであったが。
七間先で茶器の支度をする小悪魔の目には、永琳の右が鈴仙の脇腹に吸い込まれる様子を捉えていた。
その司書の目元には、小さな泣きぼくろがある。

涙目で崩折れる鈴仙を、慌てて助け起こすメディスン。
それら一通りを眺めた咲夜は、
「皆様やる気がでたようでなによりです。では厨房隊には玉砕命令を発令しておきますので、存分にどうぞ」
「うん。 存分に働きなさい」
主の承認を受けると、咲夜の姿が消えた。
気配すら瞬時に消え去るという、仕掛けの分からぬ移動に、メディスンは目をぱちくりさせる。
「なんだ、メイド長は入らないのか?」
意外だ、という顔をしている魔理沙に紅い悪魔は答える。
「今の咲夜は、紅魔館の、メイド長よ」
当然、というように紅茶を啜る。





景品も決まり、さて始めようという段になって一つ問題が発生した。
類を見ない団体戦であるが、その戦場がないのである。
夜であれば外も使えなくもないが、今この場には絶対箱入り娘のフランドールが居る為、それも叶わない。
広さは十分だが図書館の防護結界は、これだけの人数の力の開放と激突に対しては少々心許なかった。

咲夜を呼び戻して空間拡張でもさせるか?
レミリアが考えんでいる間に、咲夜が戻ってきていた。
「玄関ロビーを拡張するご許可を頂けますでしょうか」
侵入者対策で強度を増してある玄関の使用は、後始末を考えると、妥当な判断と言えた。
「あら、場所が必要なら言ってくれれば用意しますのに」
そう言って進み出るのは、月の天才。
永琳得意の世界結界だ。 メディスンは何度か目にしているこの奇跡に、頼もしさを感じる。
「ですが……お客様のお手を煩わせる事は……」
言い淀むメイド長を主が制止した。
「面白い、その方が面倒がなさそうだ」
いくら拡張しても、自分や妹の力は館を傷つける。 別に直すのは自分ではないが、利用出来るならしてやろう。
その言葉にも、眉根を寄せたままの咲夜。
「まあまあ、いいじゃないの」
軽く宥める永琳は、どこからか取り出した弦の無い弓を掲げると、
【構築 八意時空】
短く、力を持った言葉を呟く。
じくうー、という声が終わりきる前に世界ひび割れ、空間が燃え上がる。

闇のはびこる図書館は、永琳の秘術によって塗りかえられ、頭上に晴天が現れる。
次の瞬間、風を切り裂く音が一つ走った、が、投じた本人の望む音は上がらなかった。
咲夜の放った刃は、永琳の眉間に到達する前に鈴仙によって軌道を逸らされ、彼方へと飛び去った。
吸血鬼姉妹を日傘に納めたメイドは、視線で相手が殺せる、と言わんばかりに永琳を睨みつける。

雲ひとつ無い蒼天の元に現れたのは、見た事の無い都市らしき物の一部。
大部分が水没しているのか、元からそういう造りなのか。周囲には偽物の風にさざめく波の音が聞こえる。
一同は、そこに浮かぶ巨大な一枚の床の上に居た。
多少の起伏があるが、平原と言っていいだろう。
床の周囲には、四角い石らしき建造物が、水面から斜めに突き出しているのが見える。

「……さすがね、でも安心して」
すぐ脇に構えている鈴仙を下がらせると、日陰にいるレミリアを見る。
「どうかしら?」
「ほう、贋物の太陽か」
傘の影から半身を乗り出して、空を仰ぐ吸血鬼。
「不思議……ちょっとヒリヒリするけどなんともないよ」
日傘の庇護から抜け出したフランドールは、ステップを踏み、自分の影を見ながらくるくる回る。
偽物の日差しであっても、七色の羽を輝かせる役は果たした。
くるくる、と。
きらきら、と。
宝石の光をを背に楽しげに踊るフランドールは、おおよそ悪魔と畏れられる存在とは思えなかった。
一同は束の間、少女の即興の舞に目を奪われた。




「では、チームを発表させて頂きます」
記録係を理由に、戦闘を上手いこと辞退した小悪魔が発表する。
何事かを呟くと、花火の音やファンファーレ共に、何もない空間に光る文字を載せた板が現れた。
紙吹雪が舞い、どこから現れたのか白い鳩まで飛んでいる。
悪魔の館にはおおよそ似つかわしくない光景である気がしたが、誰も言及しなかった。
現れた文字は、チーム名と、その構成員を示していた。

レミリアとフランドールの「ブラッディシスターズ」
永遠亭にメディスンを加えた、「ポイズンホスピタル」
そして、残る魔女三名の「カラミティウィッチーズ」

「面白味が無いな」
そうは言いはしたが、レミリアは妹との共闘に密かに高揚していた。
咲夜でも居れば見抜かれていたかも知れないが、ここにそれを指摘する者は居ない。
「この面子で公平を求めるのか?」
どだい無理な話だな、と勝手に結論を出す魔理沙。
「なんだか、あっという間にケリが付きそうね……」
「…えーと、省コストで複数と戦う方法は…と……」
やむなし、といった風情のアリスに、何やら調べ物を始めるパチュリー。
結局、最初の塊のままの編成であった。
「私はなんでもいいよ、みぃんな相手にしてもね」
あっは♪、と至極上機嫌のフランドールを見て、鈴仙が慄いている。
「あの姉妹がペアなんて……」
しかし師は、弟子の泣き言などに耳を傾けなかった。
「いいメディ? ウドンゲで耐えられるのはよくて3回。 自分の身は自分で護れるわね?」
しゃがみこんで、メディスンに物騒な説明を始める永琳。
「し、師匠!?」
悲鳴を上げる弟子に、鬼師は振り向く。
「頑張りなさいウドンゲ。 その耳はなんの為に萎れているの?」
「間違っても耐弾性能向上の為ではありません! 特に能力が4倍とか言うわけでもないですし!」
「まったく期待外れね」
理不尽に泣き崩れそうになる鈴仙は、それでも踏みとどまる。
これも日頃の鍛錬の成果か……! と、鈴仙はあくまでも前向きに受け止めた。

小悪魔はそんなやりとりを眺めて、うちと変わらないなあ、と他人事では無く見ていた。

「永琳は? 一緒に戦ってくれないの?」
同じチームなのに自分をけしかけてくる永琳に、メディスンは不安になった。
ちらりと向こうを見やる。
直接面識のあるのは魔理沙、アリス。
しかし他の連中、特に向こうに居る紅くて小っちゃい二人は、揃って途轍もなく嫌な感じがする。
…あんなのと戦うの?
今までに無い状況に、思考が乱れてきた。
予測しようにも、判断基準になる情報が決定的に不足している。
あたまがぐるぐるしてくる。
……えーと、えーと……
この連中をまとめて相手に出来るカードは、
「だめよ? メディ」
右手に握り込んだカードごと手を包まれた。
「で、でも」
「うーん。 たしかに戦うならこれ位のを出さないといけないかも知れないわね」
すい、とカードを抜き取り、でもね? と続ける。
「これは遊びよ。 このあとのケーキを賭けた、ね」
「で、でも負けちゃうよ」
「そうねぇ、メディひとりじゃあ、負けちゃうかも知れないわね」
永琳の視線の先には、大分テンパッた様子でカードを広げている鈴仙が見える。 耳がせわしなく揺れている。
「今、あの子は考えているわ。 勝つ事、負けない事、護る事」
自分よりも力のある永琳を護る、という鈴仙の行動はいまいち理解出来なかったが、鈴仙が永琳を好きなのは知っている。
俯く。
「ウドンゲが護ろうとしているのはね、メディ、貴方よ」
「私?」
信じられない、という思いに顔を上げる。
何故? そこまでされる理由がわからない。
「なんでかしらね? でも、メディはどう? どうしてこのカードを選んだの?」
そう言って差出すのは、さっき抜かれた 【覚悟 戦術神風】の符。
「それは……」
勝つ為だ。
威力、効果範囲、拡散性能、どれも極めて高いレベルを誇る、言うなれば切り札。
文字通り、必殺の一枚。
普段使えばその場で力尽きかねない代物だが、例の毒薬を飲んだ今なら、問題なく撃てるはず。
永琳に毒は効かない。 それに無差別呪文とはいえ、一人を避ける程度の制御なら出来る。
万が一巻き込んだ場合、鈴仙は効いちゃうけど、永琳がきっと治してくれる。
勝負を一瞬で決める為。 それは負けない為。
それは、
「私達が傷つく前に決着をつける為?」
おずおずと頷く。 この人には隠し事は出来そうになかった。
「その気持ちは嬉しいわ、私達を大事に思ってくれてありがとう」
笑顔と共に柔らかく頭を撫でられる。 作り物の髪を梳く永琳の手は優しかった。
「でもね? 今日これから始まるのは遊び。本気の遊びよ」
「本気?遊びなのに?」
「そうよ、真面目に遊ばないと面白くないわ、手を抜くのとはちょっと違うのよ」

永琳は仮説を立てていた。
鈴蘭畑から出た事の無いメディスンは、弾幕ごっこの定義を知らないのではないか。
訪れる者の居ない山奥の鈴蘭畑では、弾幕ごっこは成立しなかったのではないか。
ウドンゲやてゐとも戦ったらしいが、それが幻想郷のルールに縛られた闘争である事を、この人形が知らない可能性は高かった。

「今日の貴方はいつもよりは余裕があるわ。 だから、頑張りましょう」
ぽん、と軽く頭を押される。
わ、と下を向いた隙に永琳は立ち上がっていた。
「さあ、本気で楽しく戦いましょうメディスン=メランコリー。 貴方の力を見せつける格好の場よ?」
両手を腰に当て胸を反らす永琳は、可愛らしくウインクしてみせる。
メディスンは、出掛けに飲んだ毒薬がこの事態を想定しての物だと思い至った。
身体の準備は既に出来ているのだ。 あとは戦う意思だけだ。
「うん!」
メディスンは、胸の前で両手を握り、決意を込めて頷く。





正三角形の各頂点に位置する形で、初期配置がなされた。

メディスンは、視線を彼方に向ける。
魔女三人組は既に臨戦態勢だった。 先程の修羅場など何処へやら、であるかと思えた。
穏やかな風に乗って、なにやら笑いまで聞こえる、相当に仲が良いのだろうか?

「…戦場に誤射は付き物……せいぜい背後にも気を付ける事ね」
「貴方こそ。 私の人形は獰猛よ?」
おほほ、うふふ、と実に白々しい笑い声がする。
そんなやり取りを、魔理沙は聞かない努力をし、上海人形はおろおろとアリス、パチュリーを交互に見ている。

もう一方の角ではフランドールが、まだくるくる回っており、傍らにいるレミリアは見掛けは平静であった。
胸の前に、両の手の甲が見えるようにする、癖になっているポーズ。


「基本的には通常戦と一緒でーす。 戦意喪失などで脱落した場合は復帰を認められませんのでー」
司書から司会進行になった小悪魔の説明が飛び、一同が頷く。

等間隔で配置に付いた面々を見渡し、永琳は分析する。
人数でハンデのある姉妹は、しかし、戦力が尽きるまでの余裕が他よりも大きい。
自身も不死身だが、肉体の強度は普通の人間と大差ないし、体力も無尽蔵ではない。
向こうの魔女達の連携は、きっと侮れないものとなるだろう。
レミリアは面白みに欠ける、と評したが、なかなかどうして結果の読めない物となっていた。
緊張を隠し切れないメディスンの背中を見つつ、永琳はそう判断した。

「では、僭越ながら開始の合図を」
咳払いを一つ。
『GET READY!』
低速の大弾を一発、空に放ち、後追いで鋭弾を撃つ。
追いつかれ、刺し貫かれた大弾は制御を失い、快音を上げて破裂した。





開幕の炸音に、真っ先に動いたのは魔理沙だった。
「まずは!数を減らす!」
光が爆発したかと思うと、その勢いで魔理沙が飛び出した。
箒から光をたなびかせ、進路をメディスンに定める。
その身にはアリスの人形が何体かしがみついき、撒き落とすアミュレットが光を放ち出す。
自宅の工房直通のゲートを開いたアリスは、人形軍団を展開し、意思の糸を広げつつレミリア達に注意を向ける。
その後ろには、様子見の姿勢を保ったままのパチュリー。
薄く開いた瞳は、駆け出していった魔理沙を捉えている。

魔理沙が風を切り、吶喊しつつタクトを構える。
既に光を帯びているそれは、今にも破壊の矢が放たれんとしていた。
しかし。
「コンパロ!」
両の手を空に伸ばし、迫る魔理沙を正面に見据え、自分の呪文を唱えるメディスン。
その矮躯から毒霧が噴出した。
普段であれば、相手に気付かれないように無色透明を選択するそれは、今は乳白色の霧状である。
足止め効果よりも不可視性を重視した霧は、素早く拡散、メディスンを隠すと、近くにいた鈴仙と永琳をも包み込む。
「煙幕か! ならこうだ!」
魔理沙は、予定していたよりも広範囲にミサイルを撒く為、タクトに意識を向ける。 追加の魔力を注ぐ。
その瞬間。

『睨』

空が軋みをあげ、空間がズレた。
月兎の、割と全力の空間狂視が戦場を狂わせる。

普段の、自分の弾道を操作するのとはわけが違う。
選択した範囲の空間そのものを掴み、その位相をずらすのだ。
ごく短い時間の干渉しか出来ないが、精密な挙動を要求する弾幕戦の最中では、その小さな差は大きな意味を持つ。
特に、ここに居る者は、そんな僅かなズレも気にする実力者ばかりだ。
経験と研ぎ澄まされた感覚が、無意識の警告を発する。

数瞬前の霧の発生位置に照準していた魔理沙が、刹那、攻撃を躊躇った。
先発した流星に、支援の砲撃を放り込もうとしていたパチュリーが、慌てて詠唱を中断する。
空間の異常を、索敵機能の不調と誤認した人形達が、エラーを一斉にアリスに送った。
両手に広げたカードを、暢気に選んでいたフランドールが、驚きに顔をあげる。
妹との共闘に浮き足立っていたレミリアが、出遅れる。

それらはどれも、隙と呼ぶべきものだ。
そんな中で、永琳の声がいつも通りに聞こえる。
「じゃあ、軽く」
指で弾いたカードは光の塵になり、術に還元された。
永琳の放った術は、最初の瞬間だけ一本の光線だった。
それは、刹那の時間に累乗というべき形態で分派すると、偽りの空を覆う光の網となった。

「いきなりかよ!」
輝く網目に飛び込みかけた魔理沙は、抗議の叫びを上げるなり、ミサイルを射出、直後に自爆させる。
至近の爆発は術者に衝撃波を叩きつけるが、魔理沙は代わりに強力なブレーキを得た。
壁にぶつかったような急激なターンを決めると、縦横に駆け巡る光線の隙間を縫い飛行する。
黒衣の裾が焼き切られ、箒の尾が削られるが構わない。
瞬間の判断で、開幕で纏っていた人形と自身の手足となるアミュレットを投棄する。 その代償として身軽さを得る。
同じタイミングで、パチュリーの編み上げた碧の列石が光網を遮断し、魔理沙を内側に囲った。

力が有るが故の油断か。
符を選んでいたフランドールは、体験した事の無い「視界の異常」という事態に思わず興味を示してしまった。
妹の出方を伺っていたレミリアも、揃って光の網に捕まった。
……初手からこの有様か……!
光に打撃され、無様に弾き飛ばされる。
ダメージとしては決して大きなものではなかったが、許せるものではなかった。
油断があった、と、レミリアは歯を見せる笑みを浮かべる。
いいだろう、この痛みは開幕の合図として貰っておこう。
この礼はいくらでもしてやる。
落ちていくレミリアの双眸が、紅く、強く輝いた。

力の放出の余波で、瞳と頭の芯に熱を感じる。
全力の空間狂視など、そうそうするものではない。 月に居た頃だって使用制限が在ったほどだ。
軽く眉根を寄せていた鈴仙は、師の放った術の大人気なさに思わず洩らす。
「……やっぱりケーキ食べたいんじゃん」
メディスンと自分の能力を掛け合わせたジャミングは、名だたる強者達に一泡吹かせる事に成功した。
初手から狙われる事くらいは予想出来ていた。 ならばそれを利用するまでだ。
この隙を突くべく、鈴仙は両の人差し指に妖力を込め、構える。
好戦的な性格とは言えない鈴仙であったが、戦いの中に身を置く事で、意識が高揚するのを感じた。

強い風が戦場を薙いだ。

高い空を渡る風に、メディスンは、己の展開した煙幕が急速に薄れていくのを察知した。
誰かの風を操る術だろう、いつぞや戦った天狗にもこの手を使われたのを覚えている。
自分の能力と相性の悪いやつが居る、そして、この手もいつまでも通用するとも思えなかった。
警戒を強めつつ鈴仙と肩を並べる。 ツートップで一気に攻め込むのだ。

宙に現れた緑柱石の群は、外周の物が砕かれていたが、被害はそれだけだった。
続けて虚空から生み出される巨柱は、砕かれた外周を内から補強していた。
光線が翠壁に飛沫く音が幾重にも響く中、魔理沙とアリスの宣誓が重なった。
魔力を秘めた波動が行き渡ると、回避中に投じた人形とアミュレットが、光を帯び息を吹き返す。
主の命令を実行するため、力を受け、溜め、そして奔りだした。
高速のキリモミ飛行をしながら、人形達は得物を手に敵へと向かう。 襲い掛かる。
魔理沙の捨てたアミュレットは、ひときわ強く光を灯すと環状列石のさらに外周に位置し、レーザーを振り回し始める。
どちらも無差別の盲撃ちに近い物だったが、数も勢いもそこそこにあった。

荒れ狂う光と爆発。
永琳の術に加え、魔女達の火力が、作り物の空を埋め尽くす。
エメラルドの要塞から放たれる怒涛の攻撃に、メディスンが怯んだ。
あの形態には、妖弾も毒霧も阻まれるからだ。
攻めあぐねているメディスンに、剣を構えた人形が襲来、銀弧が閃き髪を掠めていった。
同族から受ける攻撃の納得の行かなさに、思わず叫びだしそうになるが、今はそれどころではない。
使われているからだ、と無理やりに憤りを飲み込むと、剣を空振りした人形に手をかざす。
高密度の霧で包み、視界を奪った所へ小弾をぶつける。
……なるべく傷をつけずに戦闘力だけを奪いたい……!
弾き飛ばされた人形が、着弾煙の尾を引きながら落ちていく。
間合いを詰めていた鈴仙も、三魔女の陣の堅固さに舌を巻く。
2対3であり、敵は待ちの構えなのだ。
態勢を整える時間を持たれるのが厄介だったが、あれだけ重い上に常時生成されている物は、数瞬の狂視では除去できない。
やはり奴等は一筋縄ではいかないようだ。


戦況は唐突に変化を迎えた。
「あははは! 私も持ってるよ、こういうの!!」
激音が飛び交う中、場違いに楽しそうな、歌うような声が聞こえる。
叩きつけるような開放の気配。
一切の回避を否定する弾幕の空に、別の力が奔った。
それは魔弾の列であり、哀れな獲物を閉じ込める籠であり、フランドールのスペルであった。
破壊の格子は、瞬時に光の網を駆逐し、乱れ飛ぶ人形を引き裂き、戦場を蹂躙していく。

片手を籠の制御にあて、魔杖を引き絞るフランドール。
目標の動きを制限したところに、大出力の妖弾を撃ち込む、その予備動作であった。
右手の魔力が解放を求めて熱を放って震えている。 心地よい熱さに、自然と笑みがこぼれた。
そこに、レミリアの制止がかかる。
「待ちなさいフラン。 どうせなら籠の密度をあげなさいな」
「えー?」
水差す言葉に振り向く先は、真紅の光と、姉の背、翼。
傷を負ったまま復元しようともしないレミリアは、その手に長大をな槍を構えていた。
姉の意図を読み、輝く槍の紅茶のような紅さに、フランドールは笑みと共に頷く。
「うん!」
右手の魔力を開放、もう一つの籠を形成する。 それはもう籠でなく壁となりつつあった。
吹き荒ぶ風を受け止め、震える音をもって妖弾の群れが存在を誇示する。
翠に染まる戦場を視界に納めつつ、レミリアは振りかぶる。
そこの兎と人形、目障りだ……!
視覚に頼らずとも、吸血種は目標を容易く察知する事が出来るが、やはり邪魔な物は邪魔だ。
「……!!」
捻り溜め込んだ力を、レミリアは解放した。
空間に左足を突き立て軸足とし、踏み込み、腰を回し、胴を捻り、肩を引き、腕を投げだし、手を差し出す。
一瞬と呼ぶべき時間に全てを連動させ、自分の体をひとつの投擲機にする。
喜悦と怒りを混ぜ込んだ、ひたすらに紅い槍が、吸血鬼の全身力を載せられ指から離れる。
「はい、残念~」
しかし、槍が飛ぶ瞬間に永琳の声が聞こえ、同時に光に囲まれた。
殺到した光の球は永琳のスペル。
投擲に意識を向けていたレミリアは、回避する間もなく重連包囲の陣に飲み込まれた。
「!!」
投げた槍はすっぽ抜け、捕縛結界に激突する。 
紅の力はそれを容易く貫通したが、その穴も瞬く間に埋まった。
天を貫く神威の槍は、フランドールの張り巡らせた多重の籠を、千千に引き裂き、妖弾の列を崩壊させた。

自分の編んだ籠が、姉の手によって引き裂かれていく。
槍が轢いた所の妖弾が弾け、放電のような音を響かせる。
妖弾が引き摺られていく光景を、興味深そうに見ていたフランドールであったが、それでもびくともしない飛行環状列石に興味を移した。
あの中には、魔理沙も居るはず。
にんまり笑うと、符を一枚、握り潰す。
「壊れちゃえ!」
笑み叫び、握った左手をそのまま突き出す。
快音と共に五指の隙間から光が洩れ、溢れ出すそれは蒼弾となる。
滝のように撃ち出される妖弾の向かう先は、
「下!?」
戦場の最上域に配した、【不墜の風精人形】を用いて外を窺っていたアリスが、疑問を叫ぶ。
それに応じるように、蒼弾は地面に激突すると、轟音と土砂を噴き上げる。
噴火するような勢いの中、若干減衰した蒼魔弾の群が、鋭角で反射上昇してきた。
フランドールは止まらない。
「あーんど……ブレーイク!」
続けてもう一枚。
握った左ではなく、右に携える符を突き刺した魔杖を振り上げ、空に斬撃を投げ放った。
贄となったカードは、七色光の巨大な弧を残し消え去った。
それによって得られた結果は、蒼天を飾る神秘の虹。
見る者の目を奪う絢爛な光景であるそれは、破壊の力を秘めた豪雨の前触れでもある。
先のカードを一射のみで破棄し、後続のカードで別種の弾幕を放つ攻撃。
上下で挟み込む構えだ。

魔女達の潜むエメラルドの要塞は、天地からの弾幕に挟み潰されようとしていた。
同高度の攻撃に対する防御だった為、上下の守りは薄かった。
「誰だ!あんなの教えたの!」
膨大な魔力に支えられた非常識なカードの使い方に、魔理沙が苦情の叫びを放った。
「……仕方ないじゃない、うちの門番に拳法習うとか言い出したのよ?」
己に非は無い、と言わんばかりのパチュリー。
「その代わりにしちゃあ、物覚えが良すぎるぜ!」
「あとで褒めてあげたら!?」
叫び返すアリス。
激しく言い争う魔女であったが、その間にもメガリスがその配列を変更し、床方向に密度を上げていく。
魔理沙の掲げた両手に、二色の魔力光が収束していく。
「魔理沙!」
アリスの叫びをトリガーに、二人分の魔力で織り上げられた魔砲が放たれる。
発射時の衝撃が、周囲の空気を震わせ一瞬、音を奪う。
天を衝く破壊の極光は、虹色の天井を穿つ。
白の光が埋め尽くす中、パチュリー操る緑柱石の防護は、床で反射してきた蒼妖弾に砕き散らされはしたが、相殺に成功した。
構えた魔理沙が腕を振り抜くと、頭上に輝いていた破壊の七色光は掻き消える。
「~~!!」
歯を食いしばって魔砲を担ぎ直し、そのまま叩き落す先にはフランドールの姿。
しかし、悪魔の妹の手にある捩くれた魔杖は、既に灼熱の紅い光に溶けている。
右に腰だめで構えるそれは、破滅の炎。
刹那の時間、二人の視線は確かにかち合い、意思が通じる。
「っは♪」
「てぇぇりゃああああ!!!」
白の魔砲と、紅の魔杖が、互いを求めて蒼穹を疾走する。

『睨』

ぎしり、と、横槍が入った。
紅い瞳に睨まれた空間が再び捩れ、必殺の斬撃はそれぞれが軌道を逸らされる。
交錯する事無く振り抜かれた魔砲の先には、
「な、なによそれぇぇっ!!?」
魔理沙とリンクして、魔砲への魔力供給を行っていたアリスの姿があった。
「どけえぇぇ!!」
気が付いた魔理沙が驚き叫ぶ。 しかし、それは無理な相談であった。
盾人形で受けるものの、ひとたまりもなくアリスは押し流される。
地を砕く光の一撃に、七色魔法使いの姿が飲み込まれた。
同時、魔力補助を失い極光が減衰する。

一方、魂をを焼き捨てる紅い一撃は、近傍に浮いていた光の塊に牙を剥いた。
「あれ?」
その頃になって、フランドールは目標を見失った事と、目前の光球の中身に意識が向いた。
止めようにも、魔理沙の魔砲に全力でぶつけるつもりで、羽根すらも加速に用いていた為、どうしようもなかった。
一瞬の時間で、フランドールの瞳が何色かの色を浮かべた。
困惑。
理解。
驚愕。
逡巡。
が、最後に残ったのは楽観であった。
構わず振りぬこうとしたが、その楽観は裏切られる。
白い珠は、内側からの紅黒い光に食い破られ、割れ爆ぜたのだ。
高い硬音を響かせ砕け散る、光の壷。
白を駆逐し立ち昇った紅い魔力は、怒りに漲っていた。
迸る怒りの波動に、フランドールの魔杖が止まらず向かい、激突する。
周囲の音をすべて奪う大音響。
至近の落雷のような轟音が戦場を打撃する。
打ち鳴らされた一音に、地面がひび割れ、遠くの水面が弾ける。
逡巡のあったフランドールの一撃は、純度100%の激情に負けた。
折られた光剣をキャンセルし、フランドールは姉の様子を窺う。

間欠泉のような魔力の放射が収まると、中にはボロボロになったドレス姿のレミリアが居た。
ぎりぎりと、何か硬い物を強く擦り合わせる音が聞こえる。


メディスンは、防御の陣を解いた魔女に挑みかかった。
自分のスペルを自分でブレイクした魔理沙は、まだ次の行動には移れなさそうだったし、アリスは鈴仙の策で撃墜できた。
……やっぱり鈴仙はすごい!
一発の弾も放たずに、相手の力を利用して同士討ちを招いた。
永琳のスペルが、紅い奴の片割れを押さえ込んでくれているはずだ。
攻め込むなら今だと思った。
大小の妖弾を、煙幕の毒霧ごと叩きつける。
細かい狙いを定めない散弾と呼ぶべき射撃だが、乱戦というこの状況と、ランダムな弾道は霧に紛れて回避を困難なものとする。
「……」
紫の魔女は、こちらを興味なさげに一瞥すると、火炎弾で応射してきた。
毒霧を蒸発させつつ誘導してくる熱弾は、妖弾と激突し火花と小爆発が連発する。

距離を空ければ、その隙をついて大火力のスペルが来るだろう。
かといって懐に飛び込んだなら、先程目にした本による必殺の打撃が来るに違いない。
毒の効きもいまいちだ、耐性でもあるんだろうか。
思考の隙を突くように、高速の水弾が肩口を打つ。
威力は大した事無かったが、緩急織り交ぜた攻撃は非常に対処しにくかった。

妖蜂弾で相殺しつつ、睨みつける。
長引けば魔理沙の介入もありうる。
ままならぬ一騎打ちに次第に焦りが募っていく中、メディスンは鈴仙の援護に期待した。

二度目の全力狂視の余波に、奥歯を噛んで耐えていた鈴仙は、全身に浴びせられた殺気に跳ねるように顔を上げた。
紅い閃光が、熱を持った瞳を射た、気がした。
一瞬、目の前にある光を、宇宙空間で見る太陽と錯覚する。
凝縮していく紅い魔力は、まるで固体のような存在感を放っている。
どう見ても大出力攻撃の前兆だ。 果てしなくヤバい。
魔女に牽制の妖弾を放っていたメディスンは……気が付いたようだが、馴染みのない規模の「それ」が何の為の物なのか、理解が及んでいない様子だ。
突然の津波を、思わず見上げるかのように、茫、としている。

夜王の激情は、叫びと共に単純な力で表現された。

「メディ!!」
見る間に視界が紅くなる。 槍ぶすまのような光線の束が迫る中、鈴仙は宙を蹴り駆け出す。
師には、暗に庇え、と言われてはいたが。
これは……怖いいぃぃぃ!
意識で悲鳴をあげながらも、メディスンの小さな肩に手をかけ、一気に引く。
出来たばかりの、妹のような存在を背後に、鈴仙は自分の防御力と眼前の悪意を天秤にかけてみた。
……ちょっと無理そう。
意識が先鋭化し、さっくりと答を出してきた。
今の自分は、きっと半分泣いて半分笑っているに違いない。
音を感じない世界の中、正面にレミリアを置き鈴仙の脳はフル回転する。 あの満月の夜を思い出す。
あの時はどうした! どう戦った!? 咲夜の居ない今は、どう対処出来る……!

しかし、鈴仙の簡易走馬灯は、永琳の緊張感に欠ける声で停止した。
「バカねぇ、真に受ける娘がありますか」
師の声だ、と確認する前に身体に衝撃を受け、大好きな長い編髪が紅い光に呑まれたのが見えた。
「師匠ー!!」「永琳!?」
殺意の光が駆け抜けた後には、紅い飛沫と、部品状態の永琳。
銀の髪も、紅と黒の服も、女性らしい体も、理知的な顔も、何もかも判らぬ、紅いパズル状にされて落ちていく。
堕ちていった。

「ほう……」
怒りに身を任せ、思わず殺す気で放ってしまった攻撃は、厄介な奴を落してくれた。
見事に砕けて落ちていく八意の姿。 まぁ、殺しても死なない奴だ、問題あるまい。
復元するにしても、ああなってはすぐには復帰できま
「……隙だらけよ?…レミィ」
不意を突くつもりなら、声などかけなければいいのに。
友の甘さに苦笑しつつ振り向く。 その先には飛来する円盤があった。
「さすがパチェ! 魔力の放射に負けない「硬い」呪文を選んだか!」
魔王の叫びに、七曜の魔女の動きが、刹那鈍った。
「……そ、そうよ! まったくもってその通り!? 受けてみなさいレミィ!」
なんだか取って付けたような挑戦だったが、レミリアは気にしない。
魔王は売られた喧嘩は全て買うものだ。
高音を上げて迫るそれを、真っ向から撃墜するべく、貫手を構えるレミリア。
吸血鬼の武器は魔力だけではない、強靭な肉体と驚異的な膂力は、それだけでも十分破壊をもたらすのだ。
剣のような鋭さを持った爪が繰り出され、鈍く輝き容易く風の速度を超える。
しかし。
「…油断ね」
直前で変形し、極薄になったソレは、パチュリーの超絶的な制御で、爪と指の隙間へと飛び込んだ。
レミリアの見た目はか細い腕を、無骨な銀の刃が回転しながら遡上する。
「ぎゃー! なんだその見た目痛そうな攻撃ーー!!」
味方から苦情があがったが、構わず撃ち抜く。
厚さを面積に置き換えられた丸ノコは、
「あれ?」
すぐ近くて静観していたフランドールをも引っ掛ける。
巨大な銀盤が、姉妹を諸共に両断して飛び去って行った。

2つの影が4つになったのを冷静に見ていたパチュリーは、制御に差し伸べていた自分の腕に、色の付いた影が落ちているのに気が付いた。
「油断大敵。パチュリーもね♪」
頭上に影と、七色の輝き。楽しそうな声。
「……!!」
確認するまでも無い。 レミリアの隣にあったはずのフランドールの姿は、今は無いのだから。
獲物を仕留めた、という達成感がもたらす隙を突いたつもりだったが、自分がそれを受けるとは。
魔女は、この魔法少女の卓越した戦闘センスに覚悟を決めた。

「おっと!」
脱力していたパチュリーの、その細いウエストに腕をかけ、魔理沙が高速でかっさらう。
箒に魔力を叩き込み鞭をくれてやと、そのまま進路上にいるフランドールに突進する。
右の掌をこちらに向け待ち受けるフランドールに、魔理沙は加速を維持したまま挑みかかる。

激突。

最大加速ではなかったが、それでも分身の一つを跳ね轢く。
競り勝ったのは、パチュリーの放った力が、フランドールのそれを相殺した為でもあった。
激突時の衝撃波で裂け目の入った帽子を押さえつつ、そのまま加速する。
残った二人のフランドールが追いすがり、妖弾の十字砲火をしかけてくる。
「……なによ、あの後、私の【正中線五段突きwith賢者の石】が華麗に炸裂するはずだったのに…」
抱きかかえたままだったパチュリーが、残念だ、という顔をする。
「お前も力技増えたよな……それに相手は三人いたろうに」
さっきの脱力は打撃の前の弛緩だったのか。 いや、それ以前にそのスペルは鈍器ではなかろう。
魔理沙が嘆息する。

ウエストに廻したままだった腕を放し、パチュリーを箒に乗せようとした魔理沙だったが、
「前…!」
その警告で、向き直る。
「逃がさないよ?」
前方には影。 上から覆い被さるようにしてフランドールが追いつき、
「つっかまえーた♪」
そのまま魔理沙に抱きついた。
当たり前になりつつあったスキンシップであるが、今は弾幕ごっこの時間だ。
額が触れ合う距離で、魔理沙の瞳を見つめ、フランドールが甘く囁く。
「これ、ちょっと新しいんだ、避けてみてね?」
言うや否や、軽く唇を触れさせる。

直後、抱きついていた分身が躊躇なく爆発した。

七色の閃光。
大気を打つ衝撃。
轟く音。
それらは、爆発によってもたらされるものである。
「……!」
ゼロ距離の自爆攻撃に、魔理沙は反射神経任せでカードを切る。
衝撃波の花が咲く中に生まれる、さらなる閃光と轟音が走った。
爆発で生まれた煙を、食い破るように爆発させて、蒼白く輝く箒星が飛び出した。
しかし、その進路は地面に向いている。
分身を構築していた魔力、その全てを威力に置き換えた一撃。
それを浴びた魔理沙は、リンクしたままのパチュリーから奪った魔力で防護障壁と全力加速をやってのけたが、爆発の圧から逃げ切れずに感覚をトバされていた。
「…魔理沙!」
後ろにしがみついたままだったパチュリーの声も、今の魔理沙には届いていない。
急角度で落ち行く箒は、流星の運命に従い墜落した。
大音を轟かせて地を穿った流星は、幾度もバウンドしながら景気よく不時着跡を伸ばしていく。
魔力の防御が、地殻を削る音が遠ざかっていく。




復元を開始した永琳を見守っていた鈴仙とメディスンであったが、こちらを待つように滞空する姉妹の姿に、やむなく振り向いた。

メディスンは、歯を食いしばり正面の二人を見据える。
スカーレット姉妹。
悪魔という種族。
力の一端しか目にしていないが、繰り出されるスペルは、どれも凄まじい威力だった。
さらに。
信じ難いことであったが、分断されたはずのレミリアは、右腕が裂けているだけで、胴体は繋がっていた。
「あれはね、体を蝙蝠にすることで攻撃をやりすごしたのよ、きっと」
隣の鈴仙が説明してくれるが、その口調には苦いものが混じっている。
吸血姫の姿は、ドレスのあちこち破れ布地を失っている。 衣服としての機能を失いつつあった。
中でも、右肩から左脇へと抜ける一線は、完全にドレスを上下に分断しており、中の白い素肌を晒していた。

「まだあるよ? どれがいい?」
フランドールの左手には、まだ数枚の符が確認できた。
あれだけ使ったのに、まだあれだけあるのか!
鈴仙は思う。 いよいよ駄目かも知れんね、と。
ここまでやって駄目でした、とか言ったら師匠怒るかなぁ。
眼前の試練よりも、結末がもたらすその後の方が、鈴仙には恐怖であった。
意識を戦闘から逸らしていた鈴仙だったが、レミリアの双眸が自分を見つめている事に気がついた。
……あー。 やっぱり怖いなぁ。

戦闘に少しばかりの空白が生まれたが、最初に緊張に耐え切れなくなったのはメディスンであった。
「……コンパロ!!」
両手を前に突き出し、目隠しの霧を噴出する。
風を操っていた魔女は、今は遥か彼方に落ちているはずだ。
姉の方はそこそこに被弾している様子。
そのダメージを思いを至らせ、
永琳の為にも、負けられないのよ……!
覚悟する。
有効な戦術なんか思いつかなかったが、ここまで来たらやるしかない。
今度こそ鈴仙の支援を期待して、妖力を圧縮していく。

健気さと、ここまできても自分に挑もうという心意気に、レミリアはメディスンと名乗った人形を少し見直した。
だが、勝負に情けは無用だ。
「小賢しい!」
尊大に言い放つと、カードを宣誓する。
噴き上がる血のように紅い魔力を纏うと、そのまま身体を前に倒す。
倒れながら、左腕を引き、右腕を前に投げ出す。
腰を捻り、螺旋の動きを意識しつつ、眼ではなく、感覚で目標を捉える。
猛る魔力が心地よかった。
そして、加速の始まりとして、はばたきを一つ。
大気が爆発したように打ち鳴らされ、紅い力が解き放たれる。
レミリアは、自身を砲弾として撃ち出した。

白い霧の中、音で物を視ている鈴仙は、レミリアが突進してくるのを察知した。
明らかに二人を轢き殺す構えだ。 シャレになってない。
なんか、「ごっこ」じゃなくなって来ているのは気のせい!?
紅い螺旋の立てる轟音に戦慄を覚えつつ、今度こそ鈴仙は、メディを庇い前に立つ。
死すら予感させる紅い悪魔の特攻に、鈴仙は瞬間、過去を思い出す。




決死の強行偵察任務の帰り、自身の動作パターンを複製したクローン兎部隊の、試験標的にされた。
祖国を見捨てる最後の一押しになった一戦でもある。




あの時に比べれば……!

腹に気合を込め、意識を集中する。
妖力弾を放つ使い魔。無線誘導射撃体を練り上げる。
イメージは束ねられた銃身。 3……いや6欲しい。
腕を伸ばし、右の人差し指を霧の向こうのレミリアに突きつける。 左手を右手首に添える。
指の先に6基の使い魔が瞬時に現れ円を描く。
静止したそれらの内、一つは鈴仙の指の前に自身を置いた。

「砲撃!!」
鈴仙の迎撃陣、連環式六連妖弾銃。
6基の銃口で構成されたガンプラントは、命令を受けると、高音をあげ超高速の回転を開始する。
それは、鈴仙の指と同軸になったところで一発の妖弾を放ち、すぐに後続に場所を譲る。
後続も同様の動作を繰り返す。
目視不能の速度で繰り返されるそれは、必殺の毎分6000発超過の連射を生み出す。
一つ一つは軽い発射音だったが、重連のそれは一つに繋がり、ただ空気を振動させる。

「無駄だ!」
纏ったオーラに抗いの砲撃を受け、レミリアが叫ぶ。
そんな豆鉄砲で止まるような、やわな一撃ではないのだ。
かすかに感じる衝撃と、それでも勝負を捨てない兎に、夜の王は加速を持って応じた。

霧を巻き込み吹き飛ばした紅い螺旋は、レミリアの転じた絶対の力。
妖弾ガトリング砲の反動が爆発するように駆け巡り、鈴仙の感覚を蝕んでいく。
弾丸を放ち続ける右腕の感覚が、怪しくなってきている。
(師匠……!)
鈴仙は、縋るように祈り、そして。

『睨』

三度目の狂視を放つ。

余力を全て注ぎ込み放った狂視は、その負荷で鈴仙から一時的に視力を奪った。
しかし、それと引き換えに紅い砲弾の進路が逸れる。
鈴仙の壮絶な弾道制御は、レミリアの回転を一方向から抑えこんでいた。
狂視の瞬間にそれを解かれたレミリアは、抑える力に反発していた力で、軌道を自らの手で曲げてしまったのだ。


こうまでしてやられるとは……!

進路を狂わされたレミリアは、姿勢を立て直す前に墜落することを受け入れた。
見る間に地面が近づき、そして激突する。
巨大な水風船でも叩き付けたかのように、レミリアを覆っていた魔力が弾け飛んだ。
着弾の轟音が響き、霧が揺らぐ。土くれが舞う。
土煙の向こうに、ひび割れた地殻が見える。

すり鉢状の陥穽の中心、そこに伏せるレミリアは、まだ戦意を失っていなかった。

土砂にまみれた身体を、左腕一本で支える。
立ち上がろうとするレミリア。
確かにダメージは軽くない。 だが動けない程ではない。何より、やられっぱなしというのは性に合わない。
が、ふらつき、左腕が身体を支えきれずに倒れ伏す。
微妙に霞む眼に、周囲が煙っているのが映る。 その先に、影が落ちているのが見えた。
仰け反り見やると、クレーターの縁に必死の表情の人形が居た。
「コンパロ!」
ふざけた呪文だと思ったが、たちまち、クレーターが白く染まった。
(毒か!?)
吸血種にすら効くような毒は耳にしなかったが、奴には八意がついているか、と思い至ると、痺れる舌先の感覚に変に納得してしまった。


クレーターに沈んだ姉を見下ろしていた妹は、
「お休みなさい、お ね え さ ま」
ふふん、と鼻で笑うフランドールは、正面に残る霧に顔を向けると、
「でもね? 見えなくても、関係ないんだなぁ♪」
一枚の符を放る。
回転しつつ飛ぶそれは、刃物で斬られたように真ん中から二つに分かたれ、光を放つ。
光が行き渡ると、戦場の外周に妖弾の群れが静かに現れた。

小さな果実のような弾であったが、同時に血の気配も感じた。
それは、速度こそ遅いが締め付けるように迫る。
幾重にも重なる包囲の気配にメディスンは焦った。
「鈴仙!」
毒そのものを操る自分は、毒霧の中に居ても視界は奪われない。 しかし、音だけで回避する鈴仙は不利だ。
すぐ近くにいるはずの鈴仙は、
「……だめ……!」
悲痛な答えを返してきた。
鈴仙の右腕は湯気を上げていた。
先程の超連射の過剰放熱で、右腕が裂け出血をしている。
血が蒸発する水蒸気がその正体だ。
その上、3度目の狂視の余波は深刻で、激しい頭痛が鈴仙を苦しめる。
既に、満足な回避運動などできる状態ではなかった。
霧に押し入ってきた妖弾が、二人に殺到する。
「鈴仙!!」
回避で手一杯のメディスンは、鈴仙の救出に向かうことすら出来ない。
悲鳴を上げるメディスンの眼には、着弾の閃光の中に踊る鈴仙のシルエットが映りこんでいた。

収束した弾帯は、幾分薄くなり、ほつれた形でメディスンの横を通過していく。
霧の中を探るが、落ちていく鈴仙の身体には、意識在る動きを確認できなかった。
「……!」
胸の内側を、冷たい風が通り過ぎたような感覚がする。
言いようのない喪失感が、メディスンを揺さぶる。

「ようやく遊べるね、あははっ」
薄れてきた霧の向こうに、偽の陽光を反射する七色が見える。
「……」
言葉を返す余裕などなかったが、メディスンはそれでも精一杯睨む。
残ったのは、自分とこの悪魔だけのようだ。
永琳と鈴仙が落ちた今、頼れるものは己の力のみだ。
二人とも、自分を庇ってやられたようなものだった、ならば、勝つことで恩返しとしよう。
決意と共にメディスンは唱える。
「コンパロ!!」

フランドールは、今日何度目かの霧にも、もはや驚くことはなかったが、目の前の霧は先程までと少し違った。
この霧は、音の通りを阻害し温度もある程度遮るらしい。
熱源感知でも見えなくなった目標に、それでも声をかける。
「わかった、じゃあかくれんぼしよう♪」
いつの間にか指先に立ち、緩やかに回転していたカードは、軽く弾かれると粉々に砕け散った。
力が解き放たれ、魔力が世界を浸食する。
砕かれた消えたカードと同じように、フランドールの身体もまた、消え去った。

「!?」
近くにいたはずのフランドールの気配が、突然知覚出来なくなった。
音で物を視ていた鈴仙が居なくなり、自分だけとなった今、毒霧のジャミングは聴覚にまで及ぶ強力な物だ。
どれだけ濃くしようと、毒の霧は、メディスンにとっては目隠しにはなりえず、むしろ拡大された感覚でもあった。
しかし、その中にいたはずの相手が、忽然と姿を消したのだ。
見えない。視えない。
だが、感じる。
むしろ、全域に拡散している。
予測を上回る事態に、メディスンの思考が乱れる。
本能的に、歩くような速度だがメディスンは後退した。

そこを、妖弾の塊が通り過ぎる。

『あははははははは!!』
フランドールの狂的な笑い声が周囲に響く。

下がらなかったら、今のでやられていた……!
しかし、自分の幸運を噛みしめる間もなく、背後に気配がした。
今度は察知できた。
振り向きざまに片手から、妖弾を放つ。

『はーずれー♪』

中心を射抜かれた妖弾の塊が、しかし高速で掠め去る。
尾のように飛沫いた細かい弾を浴び、メディスンが宙で踏鞴を踏む。
毒の中にいるのに判らないなんて……!
初めての事態に焦るメディスンを煽るように、フランドールの笑い声が響く。

その間にも箒星のような妖弾の塊は、メディスン目掛けて飛来する。
次第に数が増えてきた。
一つ避けても、次々と向かってくる上に、たなびく尾ですら危険な威力を秘めている。
また擦った。 背中にも一発もらった。
永琳から貰ったドレスに、あちこち穴が空き始める。

『だぁれもきてくれないよ!』

次第に激しさを増す弾幕だったが、不意に箒星の気配が失せた。
「?!」
疑の思考を放つが、メディスンに答えたのは壁のような弾幕であった。
四方、いや、上下も含め6枚の板のような妖弾の群れが、ゆっくりと閉じてくる。
壁は、狭まることで互いにぶつかり合い、弾けてすり潰し合う。
絶え間なく響く干渉音は、まるで豪雨のそれのようだった。





何重にも作られた弾の箱は、一つ一つ収縮していく。

潰し合う妖弾の放つ閃光の中には、一つの影がある。

それは箱が閉じるたびに、不自然な踊りを披露する。

手足を滅茶苦茶に動かされる操り人形の如く。

捨てられ、戯れに壁にぶつけられる人形の如く。

光と音の嵐が収まるまで、奇怪な人形劇は、白の霧の中で続いた。





静けさを取り戻した空に、スペルが終了したフランドールの姿が現れた。

「……ほら、やっぱりだれもいなくなった……」

零れたのは、最後まで残った勝者に似つかわしくない、小さな呟き。
目の前の霧も、多重の爆発で攪拌され、薄れていた。
視線を下げ、墜落者を確認する。
自作のクレーターに倒れ伏す姉。
上着がぼろぼろで気絶している兎。
半裸で倒れてる薬屋。
しかし。
「あれ?」
人形がいない。
まさか砕いたか?
その思考と同時、フランドールの眼前の霧から、作り物の腕が突き出した。

「うそ!?」
「見つけたよ……!」
霧から飛び出したメディスンは、霧の尾を引き、勢いそのままにフランドールに組み付く。
「な、なんで……!」
「首くくったくらいじゃ死なないのよ! 人形は!」

初見の絶対包囲弾幕を回避出来ずにいたメディスンを救ったのは、防護術式を縫いこまれた永琳のドレスと、もう一つ。
それは意地だ。
掴んだ手がそのまま肩に食い込む。
「私は捨てられた、誰も……来なかった!」
霧の尾を引き、大半の布地を失ったドレスをなびかせ、勢いのまま押すメディスン。
でも、と叫びを繋げる。
「でも、あんたは! 大事に仕舞いこまれてるじゃない!!」
噛み付くように声を挙げる人形に、一瞬、理解を失うフランドール。
呆然としていたが、過去を刻む記憶がそれを許さない。
「500年も仕舞われたことないくせに!!」
火に浸されたかの如き激しさで、叫び返す。
あの止まったままの時間、こいつなんかにわかるものか!
怒りを顕に、噛み付くように叫ぶフランドールに、メディスンは引かない。
「でも! 手をとって棺(はこ)から出してくれた人が居るんでしょう!!」

それは、望んでも手に入らなかったもの。

「お前に私の何がわかる!!」
ただひたすらの孤独。
悔しさと憤りで、目尻に涙を浮かべた悪魔の妹が金切り声を上げる。
「そんなのわかるもんか!!」
沸騰する思考は激情と化し、その勢いのまま、人形は拳を叩きつける。
乾いた音と共に、壊れかけた腕にヒビが入る。

不意をつかれた、というよりは心に隙があったのだろう。
押されっぱなしだったフランドールは、打撃、と呼ぶにはあまりにも頼りないそれを顔面で受けて堕ちた。
追撃の勢いそのままに落ちてきたメディスンが、そのまま馬乗りになる。
殴る、というよりはただ握った手をぶつけるだけの打撃を繰り返す。

もう飛べない。 もう妖弾を撃つ余力も無い。
でも、こいつは、こいつには何か言ってやりたい……!
メディスンは、胸を渦巻くなんだかわかんない感情に翻弄され、泣いていた。
それは、「悔しい」のだろうか。
「腹が立つ」の方が近いのかもしれない。
捨てられ、そのまま朽ちれば、あるいは幸せだったかもしれなかった己の過去。
しかし、捨てられた事を憶えたままに自意識に目覚めてしまった。
一面の鈴蘭。 ただ白いだけの自分の世界。
力が宿り、動けるようになるまで自分を支えていたのは、怨み。
鈴蘭の牢獄に閉じこもったままに過ごした日々は、代わり映えのしない怨嗟の渦巻く日々でもあった。
どれほどの月と日の巡りを目にしたかすら、定かではなかった孤独の刻。
今、目の前で喚いている吸血鬼は幸せ者だ。
閉じ込められはしても、捨てられてはいない。 しかも、出そうと努力する奴までいてくいれる。
それなのに。
こいつはその事に甘え、ただ出たいと泣き叫ぶだけに見える。
メディスンは、激情をそのままに握った拳を、ただぶつける。


のしかかられ、成すがままのフランドールは、鈴蘭の甘い香りに包まれ好き放題に殴られていた。
壊れかけの人形の手は、効きもしない打撃を繰り返す。
むしろ泣き叫ぶ声が心に痛かった。
でも、なんで痛いか分からなかった。

「この……!」
体躯のひび割れから、毒が漏れていく。
一打ごと、叩く反動でむしろ自分が壊れていく。
命たる毒が薄れ、力の入らない体で、喚きながらフランドールを叩き続けるメディスン。
不意に、打撃音が途切れた。
殴られた。 いや、払いのけられた、らしい。
腕力が違いすぎる。本気で殴られたら粉砕されてもおかしくない。
宙を舞いながらメディスンは他人事のように考え、そして地面に叩きつけられた。
躯体のあちこちから、何かが割れる軽い音が響いた。
(修復、時間掛かりそうだなぁ)
どうにか冷静さを取り戻した頭で、自身を省みる。
鈍くなってきた聴覚が、細い、悲鳴のような泣き声を拾い上げる。
相手は一人しかいない。
転がったまま、地面に擦りながら顔を向ける。
視線の先、身を護るように座り込み、悪魔が泣いているのが見えた。
「……なんでよぅ」
帽子で顔を隠し、捩くれた七色の羽は力なく揺れている。
外界から身を守るように縮こまり、座り込んでいるその姿に、メディスンは周囲に鈴蘭畑を視た気がした。

スーさんが遠巻きに見ている。
うん、わかってる、そろそろマズいね。
今日はかなり無茶が続いた。
いい加減、活動できなくなりそうだが、まだ停まるわけにはいかない。
あそこで泣いてる箱入り娘を放ってはおけない。
「私は……」
全身を軋ませ、ゆっくりと身を起こす。
全身の傷口から、毒が漏れていく。 力が抜けていく。
支えにした左腕が肩から欠落し、再び倒れる。 激戦で砕かれた地面に顔から倒れる。
「人形達を解放するために……これからも努力をしていく」
口に入った砂を吐き、唸るように宣言する。
手指の壊れた右腕を突き立てる。
震える足で立ち上がり、身を引きずるように歩くメディスン。
泣いているフランドールに一歩一歩、ゆっくりと近付いてゆく。
「……」
眼前に立つ気配に、フランドールは泣き止んだ。
「500年、閉じ込められたというなら」
声に顔を上げる。
「次の500年かかっても、箱から出してくれる人の手を取れるように」
握ったままだった、ひびの入った右手を開くと、フランドールと視線を合わせる。
「あんたも努力して」
「……」
呆然と見上げる少女に、メディスンは手を差し伸べる。 告げる。
「……貴方もいるんでしょ、大事な人が。 冥い箱から出してくれた人が」
泥によごれ、あちこちにひびの入った顔で、にかっと笑う人形少女。
その言葉は、鈴蘭の毒と共に、フランドールの心に沁みこんだ。
「……!」
涙に濡れていた目が見開かれ、瞳に輝きが宿る。
差し伸べられた手を掴み、
「……うん!!」
力強く頷いた。





フランドールの戦意喪失をもって、この戦いに終結が訪れた。


永琳の結界世界は解除されていたが、一同は日の沈みつつある中庭に居た。
幾つものパラソルが開き、その下には戦いを終えた少女たちがくつろいでいた。
そのうちの一つ、永遠亭の卓。
中破したメディスンを修復するのは、アリスと永琳。
仮設の修理台であるデッキチェアに寝かされ、応急処置を受けている。
最後までメディスンを守り、そしてずたずたになったドレスは、今は脱がされ椅子に掛けられている。
朱の光が差す中、肌着だけの姿になったメディスンは、罅だらけになった上半身を露出している。

「やったじゃない」
レミリアの攻撃で一度死んでいた永琳は、ルール的に失格にはなっていたが、戦場には残っていたのである。

ちなみに、結界が解けると同時に姿を現した咲夜だったが、主が負けた事と、ある人物のある部位を見て、絶句した。

なお、着ていた服が切れ端になってしまった為、今の永琳は素肌の上に貸し出しのメイド服を着ている。
永琳にメイド服を渡した時の、咲夜の金剛石のように硬い表情と紅い眼。
殺意と羨望に満ちたその眼差しを、心が流す血の涙を、少女達は忘れはしないだろう。
居合わせた大半は同情と、そして鋼の誓いを胸に仕舞い込んだ。
その咲夜は、今、責任を持って着て帰る服を用意しており、この場にはいない。
なお、来客で被弾していない者は居なかった。

「そう、なのかな……?」
横たわる、というよりも置かれている、という方が近い状態で、メディスンが小さく答えた。
全身に細かいひびや傷があったが、もう漏れるだけの毒すらなかった。
「私なんか、何も出来なかったわよ」
あっという間だったわ、と苦笑するのはアリス。
人形を作るのに使う魔力糸で破損箇所を縛り、脱落した左腕を固定していく。
看護婦姿の人形達が、助手として道具や糸、包帯などをアリスに渡している。
その光景に、メディスンは複雑な物を感じつつも、嬉しさを優先した。
傷とヒビだらけの上半身が、真新しい包帯で覆われていく。
「私だけじゃ、ああはいかなかったわ。 メディのお手柄よ」
毒素を調合していた鈴仙が、試験管を日に透かしながら口を挟む。
毒は永琳の手持ちに加え、紅魔館の花壇からも供出されていた。
美鈴が、ユリ科の毒草を探してきてくれていたのである。
永琳に手渡すと、それに、と続ける。
「やられなければいいって事も、あったりするのよ」
例え逃げてもね、と、微妙な苦味の混じった笑みを浮かべる。
「お前が言うと、説得力があるわね?」
受け取った試験管の中身を味見した永琳は、メディに飲ませながら苦笑する。
「しぃしょぉう」
フォローを期待していた訳ではなかったが、やはり堪えたらしい。
鈴仙が、がっくりとうな垂れる。

永琳の術と毒が、消耗しきった身体に染み渡る。
はやくも内部の修復が始まったのをメディスンは感じる。
まどろむような感覚が、意識を支配していく。
アリスが手早く破損した外側に応急処置を施していくのを、どこか他人事のように眺める。
本来、十分な毒と魔力と時間さえあれば修復できるものだったが、
「人の好意は受け取っておきなさい」
という永琳他の教えに従って、されるがままになっていた。
スーさんも今ここにいる。
メディスンはじんわりと永琳の術に包まれて、修復に意思を傾けた。
ぼんやりと隣の卓に目を向けると、魔理沙が傷薬を塗っているのが見えた。
「うお、乙女の柔肌に擦り傷が」
「……貴方、頑丈ね」

一緒に墜落したこの二人は、戦場からかなり離れた所で発見された。
仲良く気絶していたが、先に目を覚ましたパチュリーが、
「…魔理沙……? 大変!人工呼吸が必要ね……!? あと、心臓マッサージもしなければ……!!」
脈も呼吸も普通にある患者に狼藉をはたらこうとした所へ、アリスが踏み込んだのだ。
なお、本当に「踏み込んで」おり、パチュリーの背中にはアリスのブーツの跡が残っている。

魔理沙の様子を眺めていたパチュリーであったが、興味をメディスンに移した。
ぼろきれと化したドレスに、織り込まれている防護の術式を読み込んでパチュリーが呆れた溜息をついた。
何重にも重ねられていたパニエなどは、その一枚一枚がすべて防御の効果を持っていた。
単品では魔弾を1,2発も防げればよい程度の代物だが、
「……これ、手縫いじゃない。作者はよほどの馬鹿か暇人ね」
多重のそれは、相乗効果でもって、強固な防御力を発揮する仕組みになっていた。
鈴仙のブレザーにも、同様の仕組みで、ある程度の防御力が備わっている。
フランドールのスペルの直撃を受けてもなお、五体満足でいられるのには、それなりの準備が在ったからと言える。

「ふん、お前の毒を軽んじた私のミスだ」
紅茶を啜るレミリアは不機嫌そうに鼻を鳴らすが、口調と裏腹に発する気配に剣呑なものは無かった。
実際のところ、レミリアの身体機能を害するほどの毒は、メディスンは放っていなかった。
しかし、薬と毒の専門家が味方している、という勝手な思い込みで、レミリアは「効く」と信じてしまい、結果としてダメージからくる眩暈を毒によるものと勘違いしたのである。
影になっているが、夕日が染める紅い世界は、レミリアの顔色を隠していた。
「面白かった! またこういうのやりたいな♪」
唯一、無事といってよかったフランドールは、テーブルに両肘をつき、組んだ手の上に笑顔を乗せている。
お姫様がご機嫌なのは喜ばしい事であるが、いろいろ苦労した一部の者は顔面蒼白になった。
「また来てね? 今度は二人っきりでやろう♪」
満面の笑みで勝手に約束を取り付けるフランドール、
一歩間違えば殺害宣告に近かったが、それは紅魔館の客としての地位を得たという事でもあった。
「遊びに来ても……いいの?」
胡乱な頭で問うメディスン。
毒の薄れた頭では、複雑な思考は出来ずに思いついたことが口に出た。
「うん。 私、貴方の甘い香り好きだよ」
「でも私、なにもしてないんだけどなぁ…」
弱く笑い、それでも右手を差出す。
「よろしくね、フランドール」
「うん、よろしくね、メディスン」
その様子を眺めていたレミリアに、魔理沙が小声で問う。
「これは視えてたのか?」
「さあな、分からぬ事の方が面白いという事もある」
にべもない。
「…外にはこういう呪文があるのよ…【タイマンハッタラダチ】……意味はわからないけど、決闘の後なんかに使われるらしいわ」
「和解の呪文か何かか?」
「そんなのあるなら、最初から戦わなければいいじゃないの」
理解できん、といった様子で首を傾げる魔女達を横目で見つめるのはレミリア。
難敵に挑む事と、双方合意の決闘の醍醐味を知る古い貴族は、なんとなくその呪文の意味が分かった。
メディスンを調律しながら、永琳が密かに苦笑する。
難題を成し遂げた者には、相応の地位が授けられるものなのだ。
古い話ね、と苦笑を濃くする。





月が出始めた。
初夏の風は、夜になれば涼しいものであったが、戦いで火照った身体にはむしろ心地よいものであった。
満月に近い月の光は強く、夜であってさえ影を濃く落とす。

「月見も悪くないな」
「私はこの時間に起きるんだよ」
「……」
「師匠、今は考えるのをよしませんか」
俯く永琳に、遠くを見たままの鈴仙が声をかける。

銀の光が遠慮なく降り注ぐ中庭。月影の中に風が渡り、そよ、となびく。
一同がそのまま寛いでいるのには理由がある。

「お待たしました」

咲夜の声と、幾つもの皿を載せたキャリアーの列。
玉砕命令が功を奏したのか、気合の入りすぎた準備は予定よりも時間がかかり、本来会場になるはずだった大食堂が、通常業務の連中の夕飯の為に占拠されてしまったのである。
主を差し置いて何を、という意見もあったが、さしものレミリアも非番を叩き起こした上に夕飯の時間をずらせとまでは、命令しにくかった。
普段であればそんな事は気にしないのだが、今日のレミリアは少しばかり大人しかった。

「私も、お前の毒にやられたかな」
歩ける程度にまで回復したメディスンを見て薄く笑う。
見る間に料理が並び、酒が注がれる。
おやつの予定であったが、豪勢な料理は宴会にすり替わるには十分な理由といえた。
立食形式のそれは、会話重視の運びであろう。
「まぁ、細かい事は抜きだ。今宵はフランの新たな友に乾杯するとしよう」
レミリアが杯を掲げ、高らかに宣言する。
月下、杯が交わされ、歓声が夜空に挙がった。
料理を思い思いに突付く一同の中にあって、鈴仙は思う。
師や、魔女達はこの事態を予見していたのだろうか、と。
自分が紅魔館の通行許可を賭けて戦ったのは咲夜で、その時は多分に運が味方して勝利を掴んだ。
今日メディスンが着ていたドレスは、先の戦いに備えての物だったのか。
魔女たちが都合よく自滅してくれたのは、果たして偶然だったのか。
「……ま、いいか」
じんわりと酔いの回ってきた頭では、師の考えていることの10分の1も分かるまい。
フランドールに付きまとわれているメディスンに目を向ける。
壊れかけなのに、休ませて貰えそうになかったが、それでもメディスンは楽しそうに見える。
笑い声が聞こえる。
「ま、いいや」
深く考えても答えは出るわけがないし、既に結果は出ているのだ、ならば今は楽しむのが粋というものだ。
そう決めると、鈴仙は料理の並ぶ卓へと向かった。


一通り食べつくした所で、デザートが登場した。

料理の皿が退いた所で、一同はテーブルについていた。
並ぶデザートの威容に、一同は歓びの嘆息を洩らす。
「あらあら」
どこまで本心で驚いているかは不明だが、永琳が目を丸くしている。
視線がケーキに突き刺さっている所を見るに、本気で楽しみにしていたようだ。
「貴方の作?」
「はい」
あくまで慇懃な咲夜。
「嬉しいわ、私、貴方のケーキ好きなのよ」
「恐縮です」
一瞬、不自然に見つめ合う二人であったが、その様子に気がついた者は居なかった。

「本日、永遠亭の方より頂きました人参を贅沢に使ってみました」
ケーキを筆頭に、重め軽め、様々な形態の菓子が並んでいたが、その大半が大地の恵みの橙色を持っている。
「なっ!?」
まったく予想外の事態、とばかりにレミリアが声を挙げる。
思わず高速で振り向くが、その先の咲夜は涼しい顔をして立っている。
「なにか?」
客人の土産を使ったケーキだ。 主が食わぬ道理が無い。
おのれ八意……!
実際は鈴仙の判断だったが、そんな事はレミリアに知る由はない。
偏食吸血鬼は、テーブルの下で怒りの握り拳を作っている。
その直後、永琳が急に立ち上がると、奇妙な構えを取り、そして叫んだ。
「オモイカネ・アレスティング・フラーシュ!!」
永琳の両腕が作り出す十字、そこから発せられる謎の光線が、レミリアの隣に立つ咲夜を襲った。
「し、師匠!?」
師の奇態に、思わず本気で心配する鈴仙。 まさか、蓬莱の薬についに限界が!?
怪光線を浴びた咲夜は、
「きゃあ!」
なんと、可愛らしくも乙女チックな悲鳴をあげた。
「咲夜!?」
いろいろ心配になったレミリアが思わず腰を上げたが、身構えていた咲夜に何事かが起こる様子は無かった。
「……」
怪訝な顔をする一同に、永琳が無意味にポーズをとって説明する。
「ふふふ、今の光線は貴方の能力を、小一時間ほど封じ込める力があるのよ……!」
びし、と咲夜に人差し指を突きつける。
「ああ、なんと言う事でしょう!  と、時を停められませんわ!」
今まで無表情だった咲夜が、焦った様子で言う。
どこか芝居がかっているのに気がつけたのは、果たしてどれだけ居ることか。
レミリアの背に、冷たい汗が浮かんだ。
万が一の策である「食べた振り→時間停止→咲夜が処分」が封じられたのだ。
「どうしたレミリア、顔色悪いぜ?」
意地の悪い空気を漂わせ、魔理沙が覗き込む。
そんなの元からだ。 しかし、気の利いた返答をする余裕は失われていた。
「…やっぱり早起きがいけなかったんじゃない?」
「寝不足はお肌の大敵よ?」
そ知らぬ顔で、魔女がこちらを追い詰めてくる。
……こいつら、分かってて……
ぎしり、と歯噛みするが、次の瞬間には冷徹な夜の王としての余裕を、表面上は取り戻す。
「いや。 なんでもないわ」
ふ、と吐息のような笑みをひとつ。
「根菜ごときに遅れをとるレミリア=スカーレットではないわ!」
立ち上がり、無闇にポーズを決めて宣言するレミリア。
「あぁらお姉さま! もしかしてまぁだ人参がお苦手なんですの? 私は300年も前に克服いたしましたのに!」
口に手を当て、信じられない、という表情をするフランドール。
しかし、その目は明らかに勝ち誇っていた。
クスクスと笑いながら席からふわりと立ち上がり、くるくる回り踊りだす。
その台詞には触れまいとしていた一同だったが、約一名、空気の読めていない者がいた。
「495から300引くの?」
メディスンは、隣にいた鈴仙に訊く。
なんでこんな時に限って私を頼るの!? と、内心で絶叫した正直兎は、
「しっ! 判ってても言っちゃ駄目!!」
素早い動作で、メディスンの口を慌てて押さえる。
なんでもないよ?なんでもないよ? とレミリアに首を振る。
睨むレミリアだったが、ドレスの裾を翻している妹に向き直り、
「フラン?そういう事はピーマンを食べられるようになってからおっしゃい?」
「問題のすり替えですわ、お姉さま」
意に介さず、平然とカウンターを切るフランドール。
「そうかそうか、お嬢様は大蒜より人参が苦手か、」
ニヤニヤと、底意地の悪い笑みを浮かべた魔理沙は、
「らしいぜ?」
と、隣に尋ねた。
「なるほど。 一応、記事にしておきますかね」
そこにいたのは。
「鴉!? 何時の間に!!」

火の無い所の小さな火種を、大事に育てる強きペン。
幻想郷3大プライバシー侵害妖怪の一人、暴れん坊天狗、射命丸 文である。

「あはは、先程から失礼しています」
さも当然というように、並んだ椅子に座っている。
人数分のはずの椅子が、何故だか過不足無かった。
「ところで、何故だかわたくし、最近人参が苦手になりまして」
目だけを動かしレミリアを見る。
「さぁな、烏は悪食だと聞いたが。人参風呂にでも漬かっていくか? 用意してやらなくもないぞ?」
片目を細めてレミリアが睨み返す。
「あやちゃん……この前のまだ怒ってる?」
カップで顔を半分隠し、鈴仙が萎縮する。
「いぃえいえ、あれは事故ですから。 多少、悪戯が過ぎる運命の女神がいたようですけどね」
営業スマイルで答える文であったが、こめかみに青筋が浮いているのが見える。
「悪魔を捕まえて女神呼ばわりかい、天狗の脳みそもたかが知れているな」
「人参嫌いの女神様、お心遣い感謝いたしますわ」
自分が犯人であることを隠そうともしないレミリアに、微笑み返す文。
「ふん、どうせお前の新聞なぞ誰が読むものか」
カップに口をつける。
「じゃあ、手伝って差し上げますわ、お姉さま」
いつの間にか背後にいたフランドールが、がっしり、と羽交い絞めにする。
さらに、空いた手が頭を押さえつける。
「な、フ、フラン?」
身内の、最愛の妹の裏切りに動揺を隠せないレミリア。
姉の狼狽にも構わない妹は、
「咲夜ぁー?」
忠実な下僕を呼ぶ。
「では、僭越ながら」
キャロットケーキを手に迫るメイドは、瞳の色が尋常ではなかった。
「さ、咲夜!何のつもり!?」
「誇りの証明を御手伝いさせて頂いておりますが」
スプーンを構えていた咲夜だったが、心外だという顔をすると、
「気高きスカーレット家の当主、覇者たる資格はその意気にあるかと存じます、よもやその意気がないと?」
白々しい。 どこまでも白々しい。
だが、衆人の目がある今この場において、その物言いに対しレミリアは抗う術を持たない。
「では、証拠の撮影などを」
天狗が構え、カメラがスタンバイされた。
「く、ぬ……!」
ジタバタともがくレミリアだったが、5歳下の妹の拘束は緩む様子を見せない。
「お姉さま、往生際が悪いですわ」
耳元でフランドールが囁く。
「はい、あーん♪」
咲夜の差し出すスプーンが、スローモーションで迫ってくる。 こいつ、絶対わざとだ!
「~~」
歯よ砕けろとばかりに噛み締めるレミリアであったが、
「もう、世話が焼けるわね!」
フランドールの手が両頬を押し込み、徐々に口が開いていく。

窮地に立たされたレミリアの脳裏に、様々な光景がよぎる。
霧を出したあの夏の日、館に押し入った霊夢に叩きのめされた事。
連夜の宴会。 この国古来の鬼に苦杯をなめさせたれた事。
満月を奪い返しに竹林に踏み込み、出会った霊夢に叩きのめされた事。
……だめだ、敗戦の記憶が続々蘇る……!

泣きそうな意思を奮い立たせ、歯を食いしばり耐える。
眼前の、今や妹の手先に堕した咲夜の運命を掴もうと、意識を集中する。
しかし、オレンジの悪意が迫り、レミリアの集中を妨げる。
「フランドール様、レミリア様は脇腹が弱点です」
「!?」
腹心の手酷い裏切りに、思わず目を見開く。
「えー、でも私、手離せないよ?」
「……咲夜、猫度を上げるチャンスよ、手を貸してあげたらどうかしら?」
数十年来の友人すら裏切り、包囲網が狭まる。
「……心苦しいのですが、止むを得ません」
無表情の咲夜が、全身から喜のオーラを発して迫った。
スプーンに添えられていた左の手が、羽交い絞めにされて無防備な脇腹に忍び寄る。
「ぬ……! う~!」
悪態をつこうと口を開けば、神速でスプーンを突き込まれるに違いないので、最早命令すら出来ない。
「ん~!」
咲夜の細い指がレミリアの脇腹に添えられる。 触れる程度で止まっている。
ほんのり熱を感じる指先で敏感な部分を押さえられ、レミリアは身じろぎすらも封じられた。
眉根を寄せ、押さえ込まれ満足に動けない首を左右に振る。
しかし、必死の訴えは届かず、表面的には平静な咲夜の指に、力が入った。
「んっ!」
服の上から、肉付きの薄い肋骨のあたりを擦られる。
指先で、一本一本をなぞられる。
腋の下の窪みに、指の腹で円を描く。
ゆるい、虫が這うような刺激であったが、それ故に堪えようの無い感覚が背筋を走る。
「~~っく!」
たまらず仰け反り、白く細い喉が露になった。
しかし、それでもレミリアは第一波を凌いだ。
目をかたく瞑り、食いしばった歯の隙間から息を吐き出す。
咲夜の指のもたらす感覚に耐える。
「~~! ~~っ ん~~!」
今度は指だけでなく、手のひら全体が、肋の下の柔らかいあたりを揉む。
指先が背中側に回り、フランドールの体に押さえ込まれている羽の生え際を脅かす。
着替えたばかりのドレスは、羽根を出す為に背中を大きく開けてある。 それはここで仇になった。
爪の先で線を描くように、レミリアの柔肌、薄い背筋をなぞる。 下りていく。
逃れようともがき、また刺激に反応するレミリアを、フランドールが身体を密着させて抑える。
指はそのまま下脇腹を経由し、前に戻った。 荒い息をつきふいごのように上下する腹の中央、臍の上で止まる。
軽く押し込まれ、指先だけで軽く引っかくように刺激を送る。
「……! ~~!! んっ、ふっ……!」
呻き声を洩らす。
レミリアはここも弱点だった。
徐々に加えられる刺激が強くなる。 歯の隙間から、切なげな息と声が漏れる。
「お姉さま、楽になりましょう?」
耳元で、妹が妖しく囁く。 まさしく悪魔の囁きである。
レミリアは涙目で、苦しげに首を振る。

悶える吸血鬼をファインダーに収めていた文であったが、
「な、なんだか背徳的な気がするのは、私の気のせいですか!?」
カメラを構えたまま周囲に尋ねる。
苦手な物を食べさせる、というこの構図は、なにか違う解釈が出来そうな勢いであった。
とっくに気がついていた外野陣は、口出しせずにこの奇態なショーに見入っている。
顔を赤くしつつも、食い入るように見ているアリス、魔理沙、鈴仙。
傍目には平静なパチュリーと永琳。
今ひとつ状況を理解できていないのは、人形の身であるメディスン。
少し離れて、何事か書き散らしている小悪魔。
両手で顔を押さえて、目を覆っている上海蓬莱。

その間にも咲夜の指は蠢き、レミリアを追い詰めていく。
人差し指が、無防備な胸骨の僅かに左寄りの辺りで止まる。
薄く押されるその感触に、しかし身体に打ち込まれんとする太い杭を連想し、息を呑むレミリア。
ピアノを弾くかのように踊る咲夜の指は、どこまでも的確で、そして非情だった。
思考が霞み、背筋を上る弱い電撃が、耳の裏辺りで弾ける。
徐々に力を込められなくなってくる。
「んん~っ!」
頬に食い込んだ指が、ついにレミリアの意地に勝った。
「ぅああ!?」
一度開くと、もはや閉じることは叶わない。
城門を突破された城は、あとは蹂躙されるのみだ。

涙に歪む視界、正面には咲夜、向こうには八意。 そして覗き込む他の連中。
くそう!揃って嫌な笑みを浮かべくさって!
最後の気力で不夜城レッドでも、と思う間もあればこそ。
瀟洒なスプーンが狙いを定める。
悪魔の恐れる橙色の根菜は、数百年の永き時を経て、ついに侵入を果たす。

「~~~~!!」

戦いが終わり、平和であるべき中庭に声無き悲鳴が響いた。







夜半の永遠亭。
月の光しか通さない竹の結界は、その内を薄闇で満たす。
竹の葉が風にざわめく音が支配する世界。
その中に、一つの音が生まれた。
玄関の戸を開ける音であった。

「お帰り、永琳」
「今帰ったわ」
帰還を告げる永琳を出迎えたのは、因幡の頭目。
「てゐ、なにか起きた?」
「妹紅来てるよ」
確かに見慣れた靴がある。
焦げ臭さもなく、騒動になっていない所を見るに、今日は「殺す日」ではないようだ。
「てゐー!」
鈴仙に担がれていたメディスンであったが、動けるレベルには回復していた。
ふわふわ耳の友人に抱きつく。
「うっわメディ!? どうしたのそれ!」
紅魔館から借りたドレスは、半袖でスカートの丈も短かった。
メイド服に合うサイズの無かったメディスンは、結局フランドールの服を借りたのである。
「えへへ、ちょっとやられちゃった」
「それはちょっとって言わないよ……」
覗く手足には包帯が巻かれ、細かい傷やひびが露出した肌に見えた。
「だ、大丈夫なの?」
素直に心配するてゐに答えたのは、永琳だった。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。 メディ、明日修繕するから今日は泊まっていきなさい」
「はーい」

確かに動けるが、全身に違和感があった。
毒の補充も済ませたが、かなり強い力を連続で行使した反動が、疲労という形を借りてメディスンの身体を縛っていた。
永琳の言うとおり、ここに泊まって、今すぐにでも寝てしまいたかった。
てゐに手を引かれ、客間へと歩いていく。
長い長い長い廊下に、裸足のてゐの柔らかい足音と、自分の固い足音が小さく響く。
少しばかり夜がふけているので、兎達は大半が寝てしまっているらしい。
静かな廊下を歩いていると、ようやく帰ってきたという感じがする。
自分の家ではなかったが。

「でも、無事でよかったと思うよ、ほんと」
半歩先を行くてゐの顔は窺えなかったが、呆れたような、疲れたような感じを受けた。
「うん、ちょっと大変だった」
「ちょっとって……あんた、物事を過小評価するにも程があるよ」
「大丈夫だよ」
ほら、と紅の上着の裾をたくし上げる。
乾いた大地のように罅が走っていた胴体は、今では細かい傷が無数に残っているだけになっていた。
あれだけ巻かれた包帯も、ぐるぐる巻きではなくなっていた。。
「ね?」
無邪気に笑うメディスンに、てゐが、
「見せないでいいから。 しまいなさいってば」
何故か顔を赤くして、メディスンの服を下ろさせる。


結局、知識は得られなかったが、そんなもの帳消しにする素晴らしいものが手に入った。気がする。
今回はそれでよしとしよう。
明日は、帰り際に小悪魔が貸し出してくれた本でも読んで過ごそうか。

時折使わせて貰っている客間に着くと、メディスンは既に敷かれていた布団に倒れこむ。
その様子を見ていたてゐは、苦笑を一つ。
「おやすみ、メディ。 また明日ね」
「……うん、おやすみ」
思ったよりも無理をしていたらしい。
たちまち睡魔が降りてきて、メディスンの意識を刈り取ろうとする。
ふすまが閉まり、光が細くなっていくのに合わせて、メディスンの瞼も閉じていく。

まどろみ始めた意識の中、思う。
近いうちに、また紅魔館に行こう。
借りた物を返しに、毒の売り込みに。
そしてなにより、新しい友達に会いに。

「スーさん、今日は楽しかったね……」
傍らの人形からの答えは得られ無いが、満足の笑みを浮かべるとメディスンは意識を手放した。










  ―了―







夜。

里を見下ろす質素な一軒屋。
人が眠りにつく時間であっても明かりの消えないそれは、人ならぬ物が住まう証。
なんの事は無い。上白沢邸である。

「今日も平和な一日だったな」
一日の出来事をまとめ、自らの持つ史書にまとめる時間。
妹紅すらも訪れない、本当に一人で静寂を満喫できる夜。
深夜と呼べる時間である。
定時巡回を終え、風呂にも入った。
寝巻きに着替え、あとは寝るだけという所だったが、そんな折に来客があった。

その来客は妖怪であったので、この時間に訪れること自体は自然であったが、一人である事と、当人が足を運ぶ、ということが慧音には信じられなかった。
その妖怪は、なお信じ難いことに、慧音を頼っての来訪であった。
その妖怪の名前は、プライバシー保護の観点から、S氏とする。

S氏は、自分の偏食の歴史を喰らい奪ってほしいと、持ちかけてきた。
妖怪にあって偏食とは、いささか問題が小さいと思ったが、涙混じりの相談をうけるうちに慧音は同情し、S氏が周囲から受けた、虐待ともとれる仕打ちに、義憤を覚えた。
証拠として、許可を貰い歴史も視たが、この日の夕刻にあった一件は、まさに被害者と加害者の間にある認識の差、というものを痛感させたれた。
いじめた側は軽いつもりだったとしても、いじめられた側からすれば、それは拷問にも等しい仕打ちであった。

S氏自身も、「事象を書き換える力」を備えているのだが、自分自身の事には都合よく干渉できないらしい。
数百年続いてきた呪いの歴史に、今日こそ終止符を打って欲しいと懇願するS氏の手をとり、慧音は力強く頷いた。





夜明けまで続いた、慧音の必死の努力は、しかし、結果として実を結ばなかった。





理由としては、S氏の持つ強大な力が、慧音の歴史干渉を跳ね除けた事にある。
慧音が歴史を改竄出来るのは、自分の力が及ぶ範囲の相手である。
次善の策として、慧音が最大力を発揮できる満月を待つ、という手があるのだが、
S氏もまた、満月で力を最大にする種族なので、彼我の力の差が埋まるかは、正直なところ期待できそうになかった。

東の空が白んでくる時間。
額に玉の汗を浮かべ、荒い息を吐く白沢。
「すまない、力になれなかった……」
力なくうな垂れる慧音は、消耗のあまり床にへたりこんでいた。
「いや……これで良かったのかも知れない」
ふ、と、自嘲と諦観の混じった笑み浮かべるS氏。
「これは、私が自分の力で解決しなければならない問題なのだろう」
「……」
立ち上がる姿に、慧音はかけるべき言葉を見つけられない。
「礼を言うぞ歴史の守護者。 そんな顔をするな、不出来な妹とて、この問題には打ち勝ったのだ、私が出来ないはずはなかろう」
戸口に立ててあった日傘を手に取り、S氏は笑みを浮かべた。
運命に立ち向かう決意をもって微笑む少女は、やはり気高く、美しいと慧音は思った。

日傘を広げ、力強く羽ばたいてゆくS氏を、慧音は静かに見送った。
S氏は振り向かない。 目前の戦いだけに向かってゆくのだろう。





朝焼けの空に影が消えると、慧音は口を開いた。





「……大変だな」
「……ええ、そうね」
姿は見えないが、答える声があった。
「お前達、あれはやりすぎだろう」
「……そうね、反省してるわ」
見えない誰かは、疲れを感じさせる一息をつく。
でもね、と続ける、
「涙目で懇願されてごらんなさい、ちょっと病み付きになりそうだから」
「……人として賛同しかねる意見だ……だが、先程それを垣間見た。 お前の言い分も分からなくはない」
「話が分かるわね、貴方とは仲良くなれそうよ」
二人同時に溜息を吐く。


永遠に幼く紅い月、夜の王、吸血鬼レミリア=スカーレット。
彼女が、己の運命に打ち克つ日は、まだ先の事である。




 ―今度こそ、了―




読了、お疲れ様でした。

ここまで読んで頂いた方の中には、この話が
むらさきゆうじ氏の「メディスン・メランコリーの社会学習『永遠亭編』」
FELE氏の「紅魔館の司書さん 午後の部」
の2作と似てるじゃんよ、と思う方も居られるかと存じます。

そのとおりです。イグザクトリーという奴です。

白状しますに、これ書いている間に前述2作が世に出たので、もはや私などの出る幕は無い、と
一度は破棄を決めた物でもあります。
しかし、私の脳内のジョースター卿が
「メディスンに脚光を当てるチャンスだと考えるんだ」と仰ったので、この様な形での投稿と相成りました。

……ぶっちゃけ、上の2つを読めばこの話は要らない気もしますので、存在そのものが蛇足とも言えますね?


お二方の傑作に最大限の感謝と敬意を。
メディスンの前途に幸せな未来を。


それではまた、次の話でお会いいたしましょう。

7/13 誤字修正しました。
…推敲は繰り返し行わないと駄目ですね……
ご指摘、ありがとうございます。
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コメント



0.5490簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
そーか、鈴仙はアインでハンダーな現地調達マニアだったのか。
他にも色々楽しいネタが入ってますな。
5.100名前が無い程度の能力削除
前編で太陽の牙噴いた。
そして後編の「ある部位」とかレミリアいぢめとかで別の物を噴いた。
ただひたすらGJ。


そーいや、この日の小悪魔ノートはすごい事になってそうだなあ。
6.100某の中将削除
すさまじいまでのボリューム。
血湧き肉踊り骨砕け体ぶつ切りの弾幕戦。
随所の小ネタに色々と楽しいやりとり。
お腹いっぱいいただきました。ご馳走様。
11.100削除
純粋に面白いかった…
14.100名前が無い程度の能力削除
グレイトに御座います。
17.無評価削除
「面白いかった」ってどんな日本語だよ…orz
20.100らくがん屋削除
人は自分が持たぬものに憧れを持つとよく言いますが、まさにその通りで、これだけの弾幕ごっこを描く腕が本当に羨ましい。カッコ良すぎです。

おせっかいとは思いますが、後編だけ誤字をまとめておきました。
これで画竜に点睛が打てるかな?(もう既に100点入れてるけど)
>人形達は獲物を手に → 得物
>アリス叫びをトリガーに、 → アリスの叫びを
>クレータに沈んだ → クレーター
>あれだけ魔kれた包帯も、 → 巻かれた包帯も
21.70翔菜削除
こんぺ作品とのリンクキタコレ。
いいぢゃないか! レミ様が根菜苦手だっていいぢゃないか!

それはそうとよきメディスンでした。
22.90Aliasfill削除
もうほんと、弾幕戦とか色々凄いです。
というわけで100点……と行きたいのですが、微妙に誤字を見つけたのでコレで。


で、誤字報告。
×あれだけ魔kれた包帯も、ぐるぐる巻きではなくなっていた。。
○あれだけ巻かれた包帯も、ぐるぐる巻きではなくなっていた。
26.100てきさすまっく参拾弐型削除
フランvsメディ鈴仙に入った瞬間、THxxBGMが「U.N.オーエンは彼女なのか?」を
叩き出すという物凄い偶然が、読んでいる私の興奮を更に高めてくれました。
ありがとう東方BGM!!
殴り合っての友情ものがフィクションの中ですら少なくなってきた昨今、
幻想郷でこれを見られる我々は、まだ幸せなのかも知れません。
殴るたびに罅割れる人形の体萌え! おっとノイズが・・・。
絶対出ると確信していた慧音先生が一番ラストだったのは驚かされました。
小悪魔ノートもぜひ見たいですね。そしてそれを元に彼女が妄想小説を執筆して・・・。
あれ? どこかで読んだ記憶が・・・(日間さんの筆によるものですな)。
今回も大変なご馳走を読ませていただきどうもご馳走様でした。
35.無評価西瓜削除
>幻想郷3大プライバシー侵害妖怪の一人、暴れん坊天狗、射命丸 文である。

 残りの片方はスキマ大妖として、もう一人は里の先生かいッ!?  …なっと(ry
 それはともかく、今回もネタ満載で極めて愉快でした。男前なレミリア様やらSeinfrau風味なメイド長とか素敵。
 ただ、瑕疵があるとすれば弾幕戦の挿入の唐突さ。東方の弾幕は大した意味もなく始まるのが自然なのでこれが正しいんですが、媒体を小説にするとテンションに違和感を感じます。戦闘前の「読者の持つ」緊張感の不足と言えば判るでしょうか。
 それはそれとして、弾幕戦自体は相変わらず白熱(うどんげの狂視がこんなにも格好いいとは……!)していて素晴らしくあります。いいぞフランもっとやれ(危険極まりなし
 メインである所のメディスンの社会勉強も馬鹿愛く美事。総じて良い話でした。

おまけ
 抜かれた符の名を信ずれば、メディスン・メランコリーの体躯に宿りしは三千の英霊……!
 『東方にコンパロの用意あり!』
蛇足としりつつ突っ込まずにはおれなんだ。
36.90西瓜削除
長々と書いといて点数入れ損ねておる……なんたる不始末。
40.100削除
やっぱりパチュ様はハヴェらないと!
弾幕戦の描写が実に血湧き肉躍らせてくれました。
後半のMVPはレミ様で。顔を真っ赤にしてるところとか、咲夜さんとフランちゃんに○○○されているところとか。
ああ、たのしかった!!
42.100真十郎削除
前編序盤ではやや堅苦しかった文章が
くるくると回り出すのは中々に爽快でして。
バトルあり友情ありネタありの良作でした。

>決死の強行偵察任務の帰り~
銃夢かなー?
44.70名前が無い程度の能力削除
くっ……メディSSだというのに最大限にテンションが上がったのが、根菜を口に突っ込まれるお嬢様のシーンだというのはなんという不覚!
幻想郷最後の純真であるメディには、真っ直ぐに育っていってもらいたいものです。
47.90ABYSS削除
 時代はようやくメランコに追いついたのか!
 まあ戯言はさておいて、まこと面白い話でございました。
 ただ、弾幕戦は正直もっとよく出来たんじゃないかなーとか。魔女チームがもっと引っ掻き回してほしかったのが本音ですが。あと最後の妹様とメランコのやりとりも唐突に感じました。いやシーン自体は凄く好きなんですが。
 あと根菜に膝を屈するレミ様が素敵過ぎる。弾幕戦とはまた違う意味で手に汗を握りましたねこりゃまた。先の「タイマンハッタラダチ」が食われてる気もしますが、私は一向に構わんッッ!というかんじ。
 色々グダグダ書きましたが、内容の詰まった素敵なお話でございました。このような作品を読ませていただき、ありがとうございました。
49.80変身D削除
メディとフランの一騎討ち、燃えましたよ。最後の2人の叫びもキましまし。
レミリアvs根菜リターンズはまた独立したお話で見てみたいですね(w
兎に角、面白かったです~
53.100名前が無い程度の能力削除
いいもの読ませてもらいました

54.100名前が無い程度の能力削除
結局烏天狗はどんな目に遭わされたのか喃
55.-10ウボァー削除
読んだことを激しく後悔した
69.80名前が無い程度の能力削除
【タイマンハッタラダチ】、フランとメディが握手した所で八意時空が解けて、夕日をバックに二人のシルエット。
そんなシーンが幻視出来ました。
それにしてもこの一件、果たして何人がグルだったのか。
70.無評価名前が無い程度の能力削除
覚悟…覚悟ー!?放射能も毒っちゃあ毒ですが、洒落になりません…笑いましたがw
そして根菜えろす ウッ
73.100名無し参拝客削除
もう!後書きでこの点数を出します!!
77.100煌庫削除
カッコイイメディと修羅場魔女たちと人参嫌いお嬢様!
メディがメインのはずなのに後半のお嬢様の人参嫌いがっ・・・!
大丈夫、妹も克服したんだ。お姉ちゃんなら出来る・・・はずだ!
79.100名も無き猫削除
カード宣言が一度も無いのに戦況が幻視できる弾幕戦の描写がお見事。
そしてラストからあとがきに至るオチも微笑ましい。
ごちそうさまでした。
85.無評価削除
読了、誠にありがとう御座いました。
相も変らぬ長さにも関わらずお付き合い頂き、感謝の念で一杯です。
正直、途中で投げ出されても仕方ねぇな位の長さな気がするんですが。その辺どうなんでしょう?
小悪魔出したさと、メディの話を書きたいというしょうもないスタートで書き始めた本作。
後書きにもある通りの事態なのですが、どうにか書きあがりタイトルを付ける段になって
「勝手に第二話とかつけちゃマズイか……?」
とか、当たり前の判断すら出来ないくらいに頭が萎びていました。

では、コメント返しという名の蛇足をば。
>>名前が無い程度の能力氏 …………正解……!! アストライアーとかうどんのブレザーと色似てません?
ちなみに妖弾ガトリングはジュノーのイメージです。
>>名前が無い程度の能力氏 きっと何年かすると「ヤクトメディスン」とかになるに違いありません。レミリアいぢめは…正直やりすぎたと反省。
こぁノートはパチェ観察日記でもあります。 ちょっと黒いですが、小悪魔はパチェをきちんと慕っています。たぶん。おそらく。
>>某の中将氏 これでも結構切ったんですけどねぇ… というか前後編という形式に限界を感じました。 まだ3作目なのに。
お粗末さまでした。
>>湊氏 ありがとうございます。 でも、中身はだいぶ不純な物が混ざってますがね。
>>名前が無い程度の能力氏 恐悦至極。   グゥレイト! ってーとどっかの虎が出てきます。
>>らくがん屋氏 ひぃー、誤字がこんなに…! 碌に推敲してないのがバレバレですね… 長いと読み返すのも一苦労ですね、あははは。
私は弾幕らしきものは書けなくないですが、むしろ欠けている物の方が多いです。 ……その文才をよこせぇぇ
>>翔菜氏 そう、実はアレと話が繋がってます。 途中までそんなつもりはなかったんですが、うどんにお土産持たせたところで、自然に。
メディは好みの要素が多いので、また書くかも知れません。
>>Aliasfill氏 ああん、またしても(吊) お手間を取らせてすいません。 次は誤字を無くすことで恩返しとさせて頂きます。
「魔kれた」…「ま」の一発目が「魔」か…
>>てきさすまっく参拾弐型氏 BGMかけながら読むのって難しいですよね。 戦闘シーンには相応しい曲は事欠かないですが、平時の会話中に合う曲となるとなかなか。
>>西瓜氏 残念……! 拡散萃香がどこにでも居るので、風呂もトイレも一人の夜も、幻想郷には油断がありません。 そんな幻想郷はいやだ。
弾幕は…実は根回しがされているので、一部の者は既にやる気になっていまして。 その辺の「置いていかれ感」はメディの受けた感じを読者様にも味わって貰おうかと。
>>菊氏 何故か丸ノコのシーンはスムーズに出てきます。 レミいぢめは【にんじん】の因果応報ですが、主役を食っちゃマズイですね(汗)
>>真十郎氏 終始硬い文章を書ききれないのが私の固有概念。 偵察…は、そうか、クローン部隊だとそういう解釈も出来ますね。
でもそれだと鈴仙は勝っちゃいそうですか。 あんなに猛々しい鈴仙ってのも…いいかも知れない。
>>名前が無い程度の能力氏 この話は紛れも無くメディスンが主役ですよ?! なんで疑問形なのか自分でもわかりませんが。
>>ABYSS氏 追いついてはいません。むしろ時代はメディを追い続けるのです! …なんだそりゃ。
弾幕ですかー。随分切ったんですよ。ええ。 強化上海VS永琳の使い魔の群れとか、ブレイジングVSドラキュラクレイドルとか、恋の迷路を狂視でしのぐウドン(ズルじゃん)とか。
タイマンで、人形遊びと称して十字架光刃でメディをダルマにするシーンもありました。ちょっとGOA表現入り鬱になり、反動でレミいぢめになったんですが、握手できないじゃんという簡単な理由で「遊び」がまるまるカット。 こんな感じになりました。
>>変身D氏 メディスンにグーぱんちをさせたくて。 歪んだ愛情ですね? フランは書くのが難しいです。
>>名前が無い程度の能力氏 お口にあったようでなによりです。
>>名前が無い程度の能力氏 文の受難は、第二回東方SSコンペ会場にある拙作、「にんじん」をご覧ください。
そこに、「鈴仙が浮いていた理由」もあります。
>>ウボァー氏 どう受け取るかはその人次第。 激しく後悔をしながらも、ただ「戻る」のではなくコメントをつける貴方が好き。
>>名前が無い程度の能力氏 は、ははは、なんの事やら。 まぁ、あれですよ。 「あとは若い二人だけで…」って奴。 主犯格は永琳。
>>名前が無い程度の能力氏 神風って無色の毒ガスでした…よね?  ちなみに戦術神風以外の候補は「30バンチ」とか「緑龍四体」
えろす? いやだなぁ、くすぐってるだけじゃあないですか、あははは。
>>名無し参拝客氏 慧音先生は、やられっぱなしのお嬢様のフォローです。 いくらなんでもあのままはあんまりだろう、と。
>>煌庫氏 こう書き出すと概ねその3要素でこの話が編まれているのがわかりますね。 それだけの事なのにこの長さか…!
台所を預かる咲夜さんは、好き嫌いには容赦しません。
>>名も無き猫氏 実験だったんです。宣誓無し。 カードを使わずに戦っている連中が目立ったので、いっそ全員宣言なしで、と。
ってか、ガシングもデリリウムもブレスも移動制限が肝なんで、あんまり代わり映えがしないんですよ(酷
でも、一生懸命毒撒いてる様になんだか「来ないで!来るなってば!」と半泣きで文を追っ払おうとしている様子が幻視出来てなんだかみょんな気分になったりするのは私だけですかそうですか、おやなんだか甘い香りがするね?
96.90永月ゆう削除
前半の魔法図書館の構造に惚れました、こぁ~。
後半のかっこいい戦闘にラストはレミリアいぢりと、ほんとバラエティ豊かで楽しめました。
蛇足なおせっかい:メディがフランを殴るシーンのフランの「500年も仕舞われたことないくせに」のせりふですが、500年のほうが音感がいいとは思いますが、やはりフランですから「495年」のほうがいいのでは?
102.80読専削除
淡々とした戦闘描写が上手いと思います。
脇腹をつんつんするくだりはちょっと間延びした感じがするかな。
103.90名前が無い程度の能力削除
氏の書く魔理沙は、毎回誰かに唇を奪われている気がする。
あと、だれも触れないけど、
>>今の永琳は素肌の上に貸し出しのメイド服を着ている
……どんなエロメイドだw
弾幕戦は、魔女チームが影が薄い気もしますが、メディが主役の話なら仕方ないのかな?たぶん馬乗りポカポカがメインでしょうし。
なんにせよGJでした。
116.100Admiral削除
出来ておる喃、鼠は…。

長い作品にもかかわらず、前後編とも一気に読めてしまいました。
全編にちらばる山口貴由ネタに笑い、フランちゃんの話に泣く。
更にレミリア様のくだりの絶妙さといったら…っ!
エロ過ぎです。(;´Д`)
快作、ありがとうございました。
123.100名前が無い程度の能力削除
フランの叫びに泣いた。
レミリア…"(,,゚Д゚) ガンガレ!"
127.100名前が削除
今更だがここで私が点を入れると7000overすることに気づいて投入。
面白かったです。
130.100名前が無い程度の能力削除
1対1ではなく、ああいった乱戦状態では
うどんげの能力が光るんですなぁ。
面白かったですよ。
133.100名前が無い程度の能力削除
割と真面目な話かと思いきや、最後の最後で虐められるれみりゃ。
戦闘時に見せた格好良さが台無しです。いいぞもっとやれ。
135.90名前が無い程度の能力削除
小悪魔の記した内容読みてー!
もちろん、前編と後編両方