Coolier - 新生・東方創想話

KISS×666 紅魔館の日常

2006/07/10 17:54:18
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 十六夜咲夜は逃げまどっていた。
 相手は紅魔館。こう書くと館そのものが襲いかかってくる様にも見えなくもないが、勿論違う。
 正確に記すと、『紅魔館の大半の生命体』が十六夜咲夜を襲っていたのだ。
「お姉様ぁーっ! 私めの熱いベーゼをーっ!」
「メイド長っ、ずっとずっとお慕いしておりましたぁー!
 だからキスを! あたいにもキスのチャンスをー!」
「のけいお主らぁ! 咲夜の親分に接吻するのはワシじゃあ!」
 そこかしこで響く咲夜の唇を求める声。その声に咲夜はナイフで返す事も無く逃げ切っていた。
「――まったくもう、そろそろ限界よ」
 部屋から部屋へ、これまで培ってきた技術を駆使して逃げまどう。
「時を止められないのが、こんなにも辛いなんて……!」
 ともすれば力を使ってしまいそうなこのプレッシャーに咲夜はギリギリで耐える。
「くっ……!」
 それでも咲夜は駆けた、自らの自由の為に!


 ――事の起こりは、とある天狗のインチキな新聞からだった。
『今、幻想郷では挨拶にキスがブーム!』
『次々と見られる少女達のキスシーン!』
 こんな見出しがでかでかと乗ったのが数日前。
 そして紅魔館はあっさりとそのブームに乗っかった。
 元より娯楽は殆ど無い紅魔館である。こういったブームはすぐに流行り、そしてすぐに廃れる――、
と思ったが、今回はそれなりに長く続いた。
 その原因は今現在逃亡中の十六夜咲夜と、その同僚、紅美鈴の所為である。
 紅魔館内部が誰彼構わずキスをする様になってからも、メイド長の唇は誰かに触れた、
というハナシを聞いた事がない。たまにブラフでキスをしたと言うものが居たが、
大抵その次の瞬間にはナイフまみれになっていた。
 無理矢理唇を求めようとするものも以下同文。故に、メイド達の間では、メイド長にキスをする、
その事自体がステータスになっていた。
 これだけならば別に問題は無かった。一介のメイドがメイド長に敵うはずもなし、またキスを
しようと目論んだ者の末路がどうなったのか誰も判らない、という事もあって滅多に襲われる、
という事は無かった。

 ――しかしそれら全てが覆る様な事件が、ある真夜中に起こった。

「……はあ」
 食堂に誰も居ない事を確認して、ようやく落ち着いて椅子に座る事が出来た咲夜は、溜息を一つ吐きだした。
「あ、咲夜さんお疲れ様です。聞きましたよー、モテモテじゃないですか」
 その隣に、今日のノルマを終えたのだろう門番長が入ってきた。
 彼女が茶化すと、咲夜は鋭い目を向ける。
「――私にその話題を振らないで頂戴」
「ご、ごめんなさいっ。……そんなに、大変なんですか?」
 門番長が即座に謝り、そしておずおずと聞かれ、咲夜はもう一度溜息を吐いて答えた。
「……貴女ね、毎日のようにキスを求めて来るメイドが居るのよ?
 仕事の効率は目に見えて落ちるし、疲労は増すし、良い事なんて一つも無いじゃない」
「へえー」
「いっその事、貴女に変わって貰いたいものよ」
 まあ一瞬でキスまみれになるんだろうなあ、という咲夜の想像はあえて美鈴には言わなかった。
「あ、私は駄目ですよう。もう毎日の様に貰ってますし」
 そしてそれ以上の現実を叩き付けられ、咲夜は流石に絶句した。
「……そうなの?」
「え、ええ……。だ、だって、皆キスしてくれなきゃ仕事しないって言うんですよう……」
「お莫迦」
「あうっ」
 咲夜は門番長のおでこを軽く叩く。
 ぺけぽんと中身からっぽなスイカの様なマヌケな音がしたのを、あえて無視した。
「駄目じゃないぴしっとしないと! 貴女は迫られたら何でも上げちゃうの?
 それで部下に示しがつくの?」
「うう……だ、だって、その……あ、あの時の皆の目、すっごい怖かったんですよう」
 涙目で訴えられ、溜息を吐きつつ咲夜は叱責を止めた。
「……まあ、判らないでもないわね」
 思い出す、今日のメイド達のキスの攻撃。
『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』
『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』
『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』
『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』
『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』
『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』
『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』
『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』
『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』
『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』
『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』
『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』『お姉様ーっ!』
 手抜きで表現するとこの様になる。失礼。
 ともあれ、咲夜は彼女たちを思い出す度に、口から出る溜息を抑えきれないでいた。
 あの唇を伸ばして突撃するメイド達の目は、全て命を投げ捨てた爆弾の様な目だった。
あれに真っ向から立ち向かえというのは流石に酷だろう。
「でもねえ……やっぱり、誉められたものじゃないわよその行動は」
 咲夜の言葉に、美鈴がしゅんと身体を縮こまらせる。
 確かに、美鈴の行動にも一理はある。
 あるが――しかし咲夜にとって、それはどうしても執りたくない手段であった。
「でも、キスすると皆頑張ってくれるんですよ。当社比……ええと、三割り増し、かな?」
「……やっすいわねえ」
「で、でも……皆が頑張ってくれるなら、それでいいかなって」
「門番隊じゃなくて、アンタの事を言ってるのよ。
 そんな風にホイホイ誰かにあげてたら、その内何もかも根こそぎ奪われちゃうわよ?
 それでもいいの?」
「あ、うー……」
 叱られて、美鈴の言語があー、とかうー、とか出さなくなると、咲夜が立ち上がった。
「ホントしょうのない子だこと……今日のご飯ぐらいは私が作ってあげるわ」
「え? いいんですか?」
「ええ、そこで待ってなさい。……何でもいいわよね?」
「はい。咲夜さんの料理美味しいですから!」
 嬉しい事言ってくれるじゃない。咲夜は愉しそうに台所に向かった。
 その時
「危ない咲夜さんっ!」
「え?」
 メイド長が振り向いたその瞬間を狙ったのか、メイドの一人がキスを奪いに飛び込んできた!
「貰ったァー!」
 この瞬間、この角度、不味い時が止められない。く、やられる――!
「ええいっ!」
 瞬間、咲夜は横に突き飛ばされ、何か柔らかいものに押し倒された。
「むぎゅっ!」
 不埒者のメイドは勢いのまま壁に激突し、その後の衝撃の光景を見る事が出来なかった。
 そう――

 ちゅっ。

 と、美鈴と咲夜の唇がぶつかった。
 あの時、矢にも止まらぬ速度で不埒者から咲夜を護る為に咲夜を押し倒したは良いが、
そのまま、偶然にも咲夜と美鈴の唇が触れあったのだ。
「あ……」
「え……」
 呆然と互いに互いを見つめる二人。
「あ、あの……、ご、ごめんなさい……え、ええと……」
「う……」
「……え、ええ?」
 美鈴が驚いていた。
 咲夜の目に涙が溜まっていた。
「え? 涙? ……咲夜さんの?」
 美鈴は困惑した。咲夜と涙、一見全く似合いそうにない二つの事柄だったのである。
 だが、咲夜の目には間違いなく涙が溜まり――そしてとうとう泣き出した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ……!
 ファーストキッス、美鈴に取られちゃったぁぁぁ……!」
「え、えええーーーーーーーーーーーーーっ!」
 衝撃の事実に、美鈴はもうどうしていいか判らなかった。


『メイド長がキス処女だった?!』
『初めてを奪われ泣きじゃくる十六夜咲夜!』
『門番長激白! 「ついカッとなってやった、後悔はしていない」 ――まさに外道!』

 次の日の朝、こんな見出しの号外が紅魔館中にバラ撒かれていた。
 そのチラシを、咲夜は泣きながら駆け込んで来た美鈴によって知らされた。
「……」
「……」
「……わ、私こんな事言ってないですよう……言ってないのに、皆が、鬼畜だのなんだの
ってぇー……」
 寧ろ泣きたいのはこっちだ、とぐずる美鈴に、こっちだって泣きたいという顔で咲夜は頭を抱えた。
「判ってる、判ってるわよ美鈴……」
 何度目になるかも判らない深い溜息を吐いて、咲夜は改めてこのバラ撒かれた号外を見やる。
 美鈴がキスをした、という事と、咲夜が泣いたという事以外、真実を探す方が難しいデキである。
 しかしこの新聞の厄介な処は、
「稀に真実を書くって事よね……」
 百の嘘新聞の中で、たまに一の本当が紛れる――それがこの鴉天狗の新聞。
 それは単純に「ヘタにアレンジしない方が面白い記事」というだけなのだが、
「たまに真実を書く」というこの『事実』は読んでいる人間にまさか、もしかしたら、ひょっとしたら、
――そんな風に期待を持たせてしまう。
 よし、と咲夜は面を上げた。そして、美鈴の手を連れて、歩き始めた。
「ふ、ふえ? 咲夜さん?」
「美鈴、今日は仕事は休むわよ」
「え? で、でも急にそんな……」
「こんな調子で、仕事なんて出来るわけ無いわ」
「う、うう、ですけどぉ……」
「聞くけど、これまでに何人この記事が本当なのかと問われた?
 そしてそれを信じてくれたのはどのぐらい?
 嘘だ、と聞いてくれなかったのはどのぐらい?」
 矢次に飛ぶ咲夜の質問に、美鈴が言葉を詰まらせた。
 咲夜の言う通り、美鈴がここに来るまで何度もこの事を問いただされた。
 その度に違う違うと言ってきたが誰かが嘘だと叫ぶとそれが一斉に伝播する。
腕力で無理矢理切り抜けたはいいが、――確かに噂が無くなるまでは動きようがないのかもしれない。
「私じゃ駄目。そして貴女でも駄目。行くわよ、美鈴。ついてきなさい」
「は、はい!」
 咲夜は美鈴を連れて、時を止めて目的の場所に向かった。
「――あんまりやりたくは無かったけれどもねえ」
 苦笑いを零しながら。


「はあ……そんな下らない事で私に意見を求めてきたのか」
 レミリア=スカーレットの自室。下級のメイド達はここを訪れる事を許されない。
 そこで十六夜咲夜は部屋の主から叱責を受けていた。
「申し訳御座いませんレミリア様。報道の力を正直侮っていました」
「ふん……腹が立つな。そして面白くない」
 レミリアは糞忌々しいという思いを篭めてチラシを握りつぶした。
「よし。騒いでいるメイド共を外に集めろ。消す」
 レミリアの提案に、しかし咲夜は首を横に振った。
「……恐れながらレミリア様。それでは業務に支障が出ます」
 その一言で、レミリアは最悪の事態で有る事を把握した。
「……それ程までに多いのか?」
「メイド小隊ほぼ全域に」
「も、門番隊も殆どです、はい」
 二人の報告に、改めてレミリアは二人の顔を見る。
確かにここ数日でそれなりにやつれている様に見うけられる。
「一人二人消したところでもか?」
「初日二日目はレミリア様に恐れをなして大人しくするでしょう。
 ですが、生物には忘却という能力が御座います。
 恐怖はその場に在り続けなければ即座に忘れてしまうものです。
 かといってその度にメイドを消す、となると今度はメイドの数が足りなくなります。
 メイドはそう簡単に補充が効くモノではありません」
「厄介な。……少し待て、パチェと連絡を取る」
 そう言ってレミリアは丸い石を取り出し、くぼみに指を入れる。
「それは?」
「ああ、パチェが作ったデンワというモノだそうだ。
 仕組みは判らないが、何でもボタンを一つ押せば誰でもパチェと会話が出来るというものらしい」
「あら、それは素晴らしいですわね」
「さて、これの様に素晴らしいアイディアが出るように、祈っておくんだな」
「はい」



「――で。何故私は能力を封印されねばならないのでしょうか?」
 咲夜は中庭にて首輪を着けられていた。
「さっきも説明したでしょう?
 娯楽を潰すにはそれ以上の娯楽。けれども咲夜と下っ端メイド共では能力に差がありすぎる」
 楽しそうにレミリアが言う。要は騒ぎの主導権を握れないのが嫌だったらしい。
 悪ガキの表情そのものだ、と咲夜は言ってしまいそうになった。
「とはいえ、これは……」
 時を止められない。
 飛ぶ事は大丈夫だが速度が出るわけでもない。
 そしてオプションも封印。
 オマケにナイフのホーミングも無いときた。
「諦めなさい。文句ならパチェに」「あら、それはレミィの発案じゃない」
 ナイフの雨はいやよ、とでも言いたげな顔で動きそうで動かない大図書館は本から顔を離さずに呟いた。
「お嬢様……」
「怒っちゃいやよ」
 咲夜の睨みを、極上の笑顔で返すレミリア嬢。従者としては溜息も出ない。
『えー、これより第一回十六夜咲夜メイド長争奪戦を開始します。
 参加者の方は中庭の方までお並びください』
 既に中庭には3ケタを越すメイド達がずらりと並んでいた。
 そのどれもが鼻血を垂らしていたり含み笑いをしていたり同人誌を描いていたりと怪しい事この上ない。
「ねえレミィ?」
「何よパチェ?」
「ここで賢者の石をブチかましたら気分いいでしょうね」
「そうね。でもそれじゃ詰まらないからやめて頂戴」
「……聞こえてますよお嬢様」
「聞こえるように言ったのよ?」
 酷い主も居たものである。
「咲夜さん……あの」
 美鈴が声を掛ける。
 あれからずっとお嬢様とその友人の側に居たのだが、
結局、一言も出せずに状況を見つめる事しかできないでいた。
「美鈴、気にしないで良いわよ。お嬢様の我が儘は今に始まった事じゃないし」
 困惑する美鈴に、優しく宥める咲夜。そんな彼女を、悪女が目を付けた。
「あら、美鈴。貴女はエントリーしないの?」
「お、お嬢様。いえ、その……やっぱり、こんなのは違うような」
「だったら次善策を出しなさい。
 少なくともメイド共がこんなバカ新聞に乗らないようなネタをね」
「うう……」
「咲夜が心配?」
「そ、それはそうですよう……」
「じゃあ簡単じゃない。貴女もエントリーして、ライバル全てを叩き潰せばいいのよ。
そうすれば咲夜も守れるわ」
「あ、……そっか! じゃあ行ってきますね」
 すぐさま走っていく美鈴に、声を掛ける事も出来ず、咲夜は彼女をけしかけた主を睨んだ。
「……レミリア様」
「あら、貴女に味方を付けたっていいじゃない?」
「そうではなくて」
 文句を言おうとする咲夜に、意外にもパチュリーが制した。
「諦めなさいな、咲夜。……レミィったら最近悪い遊びばっかり覚えてるものねえ」
「……もう泣きたくなりますね」
「ええもう」
 友人と従者は心の中でそっと泣いた。

『ではこれよりスポンサー兼発案者兼主催の我らがレミリア=スカーレットお嬢様から
お言葉があります! ご静聴願います! ご静聴願いまーす!』
 参加者登録も終えて、中庭に集められたケダモノ達今か今かと開催の瞬間を待ちこがれている。
 そんな彼らの前に、お嬢様が――いや、

 魔王 レミリアがゆっくりと舞い降りた。

「……よくもまあ集まったなこのロクデナシ共。そんなに咲夜が好きかーっ!」
 大歓声が起こる。咲夜は目を回しそうになった。
「実はキスの経験なんて全くなくて、ウブでネンネな咲夜が好きかーーーっ!」
 咲夜の顔が赤くなる。その顔に反応したのか、歓声が大きくなる。もはや止められない。
「貴様ら、咲夜をどうしたい?
 キスか? キスで終わりか? 脱がすか? 触るか? 犯すか? 前をか? 後ろもか?
 唇を忘れるなよ? 鎖骨もステキだろう? 尻肉はどうだ? それとも発育途上な乳房か?
 ――そうだ。想像しろ。貴様らの前に居る十六夜咲夜は、完全に全身処女だ」
 沸き起こる悲鳴。鼻血の海。止まらない妄想と暴走。
 しかし誰一人として襲いかかろうとはしない。
 それはそれ以上にレミリアから放たれるプレッシャーが妄想が萎えるギリギリのラインで押さえつけていたからだ。
「犯したいか! 貴様ら! 犯したいんだな!
 そうだと言え!」
 メイド達は咆哮で返した。
 レミリアは楽しくてしょうがない、とでも言うかのようなステキな笑みを返した。
「ようし、ようしようし、それでいい。
 それでこそこの紅魔館の住人だ! ならば私は!
 レミリア=スカーレットは主として貴様らクソ従者共に聞く!」
 ニィ、と鋭い牙を見せてレミリアは小さい腕を振り上げる。
「貴様らの特技は何だ! 言ってみろ!」
『レイプ! レイプ! レイプ!』
「貴様らの目的は何だ! 言え! 叫べ! 吼えろ!」
『即レイプ! 即レイプ! 即レイプ!』
「貴様らは咲夜を愛しているかクソメイド共! どうなんだクソッタレ共ォー!」
『Caved!!!! Caved!!!! Caved!!!!』
「よぉし――鎮まれ」
 レミリアの一声でぴたりとケダモノ達が鎮まる。だがその荒い呼吸は止められない。
「では、今から咲夜を逃がす。
 十分後。今度は貴様らを放つ。
 ルールは一つ、咲夜にセカンドキスを奪ったものが勝ちだ!
 そうすればウチに来て咲夜を思う存分ファックしていいぞ!」
 再び沸き立つケダモノ共。その隣の咲夜はもう涙が止まらなかった。
「じゃあ、咲夜頑張ってね。――信じているわ」
 そんな咲夜に近づいて、レミリアは一言告げた。
「――は、はいっ!」
 咲夜は涙を止めて、走り出した。

「……ええ、信じているわ。
 この乱痴気騒戯で楽しませてくれる事を。ふふふふふ」



 ――それから三時間。
 撃破したメイドの数は二百五十五を越えた時点で数えるのを止めた。
 それでも次から次へとメイドは襲ってくる。
 誰か一人を本気で殺す、と脅して止めてみせるか、とも考えたが恐らくは通じないだろう。
ケダモノに言葉は要らないからだ。
「まっ、たく、もう!」
 レミリアから、このゲームにて咲夜が勝利する為の条件は聞いては居ない。
 だがその程度は把握してこその完璧なる従者である。
 即ち、この館から逃げ出さずに、尚かつ、恐らくは全部のメイド達を、明日の業務に支障の無い程度に気絶させる。
「やっかいったら……、ありゃしないっ!」
 勿論、殺した処でお咎めは無いだろう。彼女自身それで罪悪を感じるわけではないし、
レミリアもそこに頓着するような性格ではない。
 メイド達に至っては今は理性なんて飛んでいる。
 というか咲夜としては出来れば殺したい。もう腹が立ってるから一人ぐらいザッスザッスとナイフを突き立てたい。
 が、それでは業務に影響が出るかもしれない。
 故に咲夜は加減する。大体半日ぐらいは眠っていられるように。
 まあたまに加減ミスっても「てへっ」で済むだろうし。色々と。
「よっ――はっ、はあっ! ……甘い!」
 一度に五人に襲いかかられ、あわやとも思ったが、空間の把握は咲夜の十八番である。
 例え能力が使えないとしても、何処に何が居て、どれをどの様に動かせばいいのか――
そのような計算は式を組み立てる前に結果が見える。五回同時に攻撃を済ませば問題は無い。
 そしてこの計算結果は、即ちスタミナが続く限りならば何千人相手だろうと咲夜は負け
ない、という事だ。
 何故ならば、大勢に取り囲まれたとしても、前、後、右、左、そして上空、
――地面に足を付いているのならば、この五カ所さえ気を付ければ問題ないのだ。
「へぇー……なかなかやるものね?」
 コウモリの一匹の目から伝達された情報をレミリアは楽しそうに見ている。
 最初の数時間なら咲夜が負ける筈はないだろうとは思っていたが、
しかしここまで圧倒的な差を見せられるとは思いもしなかった。
「でもこれじゃ圧倒的過ぎるわねえ」
 レミリアは虚空に手を伸ばして、何かを掴んだ。
 それっきり。
 レミリアは独り言を止めて、その光景に集中した。
 今から面白い事が起きる、という事を確信した笑みを漏らしながら。





 今は何(無かった事に
 どれぐらい倒し(無かった事に

 ――あと、どれだ(無かった事に

 ナイフを振るう度に思考がクリアになっていく。(T
 少しずつ、少しずつ思い出す、殺人者としての身体の動かし方。(To
 無くなっていく、メイドとしての自分。(Toten
 余計な思考を考える処が無くなっていく。(Toten sie

 十六夜咲夜はナイフを振るう。
 ああ五月蠅い。(Toten sie
 咲夜はナイフを振るう。
 五月蠅いから黙れよ。(Toten sie
 サクヤはナイフを振るう。
 こんな(Toten sie)
 サクヤハナイフヲ振ルウ。
  こんなに(Toten sie)
   ゲロっちまいそうな程に(Toten sie)
 サクヤハナイフヲフルウ。
(Toten sie)
(Toten sie)
(Toten sie)
      気分が――
(Toten sie)
(Toten sie)
(Toten sie)
(Toten sie)
(Toten sie)


「メイド長ッ! そこまでです!」


 なんだ?(Toten sie)何を(Toten sie)群がっているんだ(Toten sie)肉が。
 そこ、(Tote――)に……え?

 サクヤは消える。
 そして蘇るメイド長十六夜咲夜。
 その目は、メイド達に囲まれている何かを見つけた。
「さ、咲夜さぁん……」
 それは、がちがちに縛られた美鈴だった。
 そこはかとなくエロチックな縛り方は一体誰に教わったのやら――と、
呆然と見つめていると美鈴の紅潮した顔が目に入り、つい顔を背けた。
 慌てて、もう一度美鈴を見た。おっぱいがはち切れそうな縛り方をされて立たされている。
 頭が痛くなった。
「――え、ええと、美鈴?」
「ご、ごめんなさい。開始早々皆から束縛されちゃって……」
「流石メイド長です。
 最早残ったのは我々十五名のみ。
 それまで数で圧そうと、技で圧そうと、弾幕で圧そうと、魔術で圧そうと、
しかしてメイド長は全てを切り抜けました。その技量、我々メイド隊は感服いたします」
 美鈴の隣にいるザコメイドその壱が言って、あー、いつの間にかそんな事になってたんだあ。
と咲夜は周りの屍累々な惨状を見わたした。
「故に、我々は最後の手段を取らせて頂きます。
 さあ、門番長の命が惜しければ我々に唇を差し出すのです!」
「てい」
「門番シールド!」
「ギャーッ!」
 咲夜がとうとうと下らない演説を垂れ流すメイドにナイフを投げると、しかしメイド達は即座に門番長を盾にした。
「フフフフフ、これぞ今日の日の為に特訓した門番シールド!
 唯でさえ固い門番長の身体にナイフが何本刺さろうとも問題ない!」
「いや問題大ありだから! 痛いってばぁ!」
 脳天にナイフを突き刺したままで美鈴が呻いた。確かに相当な頑丈さである。
「ご覧の通り脳天に刺さっても痛いってだけで済みます! さあどうしますか?」
「……美鈴、貴女本当に威厳とかそういうの無いわねえ」
 ノーモーションで二回ナイフを投げる。流石にこれは見切る事は出来まい。――と思われた。
「ううう、すみません……ギャー! ギャアー!」
 が、しかしこれも門番長の身体に二本とも突き刺さった。
「ふふふ、三十の目がメイド長を視姦しているのです。
 筋肉の一筋でも動けば我々は即座に反応出来ます!」
 恐るべき、紅魔館メイド隊。欲望の為なら上司(の筈)ですら利用する!
 そしてより恐るべきは紅魔館門番長。ナイフを何度喰らっても死なない!
「さあ、どうしますかメイド長! メイド長のナイフの数は残り少ない!
 しかし例え十本二十本投げられたとしても時を止められていない以上我々は全て反応出来る自信があります!
 ――何故ならば、我々は欲望の前に一つだから!」
「そう」
 咲夜の危機に、しかし彼女は何事も無かったかのように一歩踏み出した。
「じゃあ、行くわよ。覚悟はいい?」
「え?」
 一歩、また一歩と近づいていく。
「う、嘘……え、何で? 何で?」
 メイド達が困惑する。だが、咲夜は堂々とメイド達に、そして美鈴に近づいていく。
「――美鈴、貴女の命。私が貰うわ」
「え、ええっ! ――は、はい!」
 咲夜の声に、美鈴が頷いた。
「――行け!」
 総勢二十六のナイフが一斉に飛ぶ。それぞれ無茶苦茶な勢いで壁から壁へと跳弾していく。
「あ、れ?」
 すかさず門番シールドを前に出したは良いが、しかし殆どのナイフがメイド隊に当たらない。
大半が彼女らのスキマを縫って飛んでいく。
 そのまま通り過ぎるかと思われたナイフは、何と別のナイフに当たって戻ってくる。
それはナイフの軌道をより一層不可思議にさせる。
 三十の瞳は、その取得する情報の統制不可能な状態にまで翻弄された。
「しまっ……」
 そして二十七本目のナイフ――十六夜咲夜自身が彼女らに突撃する。
 跳び出そうにも、ナイフが幾度も跳ね返り、邪魔で完全に動きを縫いつけられている。
「――返して貰うわよ。美鈴を」
 美鈴を押さえつけていたメイドを蹴り飛ばし、その反動で、美鈴を抱えながら跳躍する。
そして最後のナイフを投げて、メイド達が追ってこないように牽制する――と、ここで咲夜は計算を誤った。
 敵は唯の敵ではない。ケダモノだという事を。
「――突撃ッ! 突撃だッ!」
「なっ」
 最初の一人がナイフを浴びるだけ浴び、他の十四人に対して道を造る。
「しまった……!」
 最早ナイフは無い。その上こちらは美鈴を抱えているから速度も出ない。
「――捕まえたッ!」
 程なくして、咲夜はメイドの一人に足を掴まれ、バランスを崩した。
「きゃっ」
「わ、わわっ!」
「今だっ、皆ーっ!」
 そのまま地面に崩れる咲夜と美鈴、その上に大量にメイド達が覆い被さる。

 ――大会開始から、八時間と少々。
   とうとう、十六夜咲夜は捕らえられてしまった。



「……皆、大丈夫?」
「こっちはOK。メイド長の足を拘束」
「よし、これで逃げられないわね。皆、一人ずつ降りて?」
「……まさか誰もキスしてないよな?」
「それはないわよ。
 私たちは元よりチームで攻めますって宣言したから、このままレミリア様の前まで持っていかないと……」
「そうだよね」
 一人一人、メイド長の上に覆い被さっていたメイド達が離れていく。
 だがしかし、彼女らは驚愕の光景を見る事になる。
「あ……」
「しまった……」
 何と、メイド長の唇は再び門番長に奪われていた。
「そんな、ここまで……ここまでやってきたのに!」
「最後の、最後で……!」
「皆の犠牲は、いったい何だったの! 天国に居る皆に、一体どう言えばいいのよう!」
「まだ死んでないわよ」
 啜り泣く十四のメイド達。
 その声に呼応したのかどうかは判らないが、むくり、と咲夜が起きた。
「め、メイド長……?」
 名も知らないメイドの声には耳を傾けようとせず、咲夜は気絶している美鈴に声を掛けた。
「起きなさい、美鈴」
「ふ、ふえ……? 何?」
「じっとしていなさい」
 そのまま、咲夜は美鈴にキスをした。
 驚愕するメイド達。だが最も驚愕したのは美鈴本人だろう。
 しかしそれも次第に考えられなくなるのか、目がとろんと蕩けていく。
 ぐちゅぐちゅと口膣を陵辱する咲夜の舌に、美鈴はいいように嬲られてしまっていた。

 嗚呼、何と恐ろしい事なのだろう。
 十六夜咲夜は、たった二回の軽いキスでディープキスの極意を掴んでしまったのだ!

「んっ……!」
 ちゅぽん、と水音を立てて咲夜の口が美鈴から離れる。
「あ、はぁ……」
「美鈴、貴女の時間も身体も心も全て、私が貰うわよ。いいわね?」
「は、い……好きにしてください……」
 美鈴の心は既に、咲夜によって強制的に染め上げられていた。
「良い子ね……」
 その光景を見た十四人のメイドは静かに後ろに下がっていた。
 だが、メイド長が振り向くと、動きを止めた。
「さて、これで私は美鈴のものになったわけだけど、美鈴は私のモノになった訳だから、この勝負は無効よね?
 ああ、……手間取らせてくれたわねえ。皆。これは是非ともお礼をしないと」
「い、いえいえ! そんな!」
「ああ、そう言えば。私にキスしたいって言ってたわね、あなたたち?」
 咲夜がゆらりと、蛇のように頭を向ける。
 血のように紅い唇を、そっと突き出た炎のように赤い舌がチロチロと舐める。
 確かにキスしたいと言った。
 だが、それは純情な十六夜咲夜にムリヤリキスして泣かせたいのであって、
決して目のハイライトが無くなるまで凌辱されたい、という意味ではない。
 ――そんな言葉は、もう通じないと十四人のメイド達は身体で理解していた。
「ふふふ…………ふふふふふふふふ、ふっはははははははは……………!」
 ゆっくりと、一歩、一歩と近づいていく。
 だのにメイド達は逃げようともしない。いや、体が竦んで動けない。
「――さ、覚悟なさい? たっぷりキスしてあげるから」

 魔王、降臨。



 ――少女「いやぁー! 助けておかあさぁーん!」中――



「――なんかえっらい事になったわねえ」
 どこでどう間違ったのか判らない運命を見ながら、レミリアは従者のやっている事を見つめていた。
「ま、いい。どちらにしろこのバカ騒ぎも今日で終わる」
 レミリアも咲夜同様、この騒動をどうにかしたい、とは思っていた。
 が、運命を操作して手っ取り早かったのがこの結末なのだ。
 まあ、咲夜がアレな方向に覚醒したのは予想外だったが。

 そう、予想外だった。

「――え?」
 いきなり自室のドアが開かれた。
 そこには、キスの魔王と化した十六夜咲夜が立っていた。
 それは――その昔、ずっとずっと昔、ただの少女として夜の帝王である少女に立ちむかった時のように。
 そしてあの頃と全く違うのは、まとわりつく空気が血のような赤ではなく、何かイヤンなピンクだという事だった。
「あ、あの、咲夜?」
「……私とした事が、うっかりしていましたわ。この騒動の元凶にご挨拶を忘れたなんて……ふふふ」
 まずい、太平洋だ。レミリアは危険を察知した。
「あら、コウモリになってお逃げになるつもりですか?
 その時は私の下着の中にコウモリを入れてぐっちゃぐちゃにさせていただきますよウフフフフフフフ?」
 しまった、日本海だったか。レミリアは逃げられない事を悟った。
「さ、咲夜、ね、ねえ、落ち着いて。落ち着いてってば」
 咲夜を宥め賺しながら、レミリアは必至に運命を操作する。
 だが、どれをどう見てもレミリアは咲夜にキスされてその後陵辱されるという運命しか見えない。
 どうすればいいのだろう。私初めてなのに!
 レミリアが最早なりふり構わず無我夢中でスペルを繰り広げる。しかしそのどれもがカスリもしない。
「い、嫌、嫌ぁ、嫌ぁーーーーーーーーーー!」




 ――気付けば、薄暗い森の中を唯一人、レミリアが走っていた。
「は、はっ、はああぁっ、ぐ、ううっ、んっ、は、ああっ、んはあ……! ぐうっ」
 息を荒げ、何度も転びそうになりながらも、懸命に走っていた。飛ぶ事は出来なかった。
障害物の無い場所で、この小さな身はすぐに見つかってしまう。
 とはいえ、生来吸血鬼であったこのお嬢様に、生まれて初めてする走る、という行為は辛すぎた。
「あっ、ぐっ……!」
 とうとう足を取られ、無様に転がる。しかし呼吸を整えようとせずに再び立ち上がろうとする。
「れい、むに……」
 今、このお嬢様の脳裏にあるのは自分を打ち倒した巫女の事だけだった。
「れいむ、に、あえ、ば……ぐっ、……!」
 咽せる。
 酷く自分が無様に思えた。泣きそうになる顔を叩き、再び歩き出す。
 幸い、今日は満月だ。月の出ている方向に飛べば、博麗神社だ。

 ――おかしい。
   何故、満月なのに、こんなにも力が出ないんだろう。

 レミリアは、ふと、月を見上げた。



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「ヒッ!」
 思わず身を竦ませる。が、恐る恐るもう一度そらを見上げると、そこには何もなかった。
「あ、ああ……つ、疲れてるのね。疲れてるのだわ。
 そうよ、咲夜だってここまで追ってこない。追ってこれるはずがない。
 ――そうね、こういう時は月光浴でもして、気分転換しましょう」
 そう言って、レミリアはすっくと立ち上がって、改めて満月を凝視した。






















     :,,,;;;:''''-,,、__             ,-‐'゙゙゙゙゙゙'''‐、、     
      '''-ー'           .,/        `'i、   
                      γ ____,   .,____   ゙l、  ;;,-~;;;'''-;;;;
                     .l゙            |  (,.,;.,~-ー''''~ ̄
                     | T'ヒ_i´  ´ヒ_,!ア  | 
      ,,,,              │    ,       ,|   
      ,;´'';,, ,,,`,-;;ー,,,,,__,     :.ヽ    ー─,-   丿
      '''''-ー''''-ーー''~       `-,、  ̄    .,,-′
                         `''ー----‐'  

     犯罪 『れみりゃストーカー -家は宿でも合宿所でもねえぞ!-』 -るなてっく-





「ひギャアーーーーーーーアアアアーーーーアアアアーーーーーーーーーーーー!」
 満月が咲夜の顔をしていた。
 もはや半狂乱でレミリアはその場から逃げ出した。
「あぁら」
 だが。
「こんな処にいらっしゃったのですね」
 そこには。
「レミリア さ ま♪」
 十六夜咲夜が居た。
「あ、え……な、んで……」
「ふふふ……何ででしょう?」
「何ででしょうねえ?」
「何で私が沢山居るんでしょう?」
「うふふふうふふふ」
「さあなんででしょう?」
「わかりますか?」
「わかりませんよねえ」
「あ、ああ……う、あああ……」
 目の前の、増え続けるキスの悪魔、もとい十六夜咲夜。――その数既に千を越す!
 最早森は咲夜色に染まり、その度合いたるや三分に咲夜が七分であった!
「う、嘘だ。咲夜がこんなに居るはず無い――に、偽物だぁ!」
 大神宣言-グングニル-を投げ飛ばす。
 すると、その場に居た幾百の咲夜が一気に消え去った。――そしてまた現れた。
「あ、う……げ、ん、かく?」
 一つの現実が、レミリアを急速にクールダウンさせる。
 そして取り戻す、魔王としての力と冷静さ、
 ――そしてそれを使う事が出来る自分という存在――そう、レミリア=スカーレットは恐れない!
 何故なら恐れられる存在だからだ!
「咲夜! ――私をコケにしてくれた代償、唯ではすまさん!」
 なおも増え続ける咲夜達。だが、既にレミリアの敵ではなかった。
 一枚のスペルカードを取り出し、高々に宣言する。

「獄符――『千本の針の山』!」

 それは恐怖の証。
 それは血塗られた幾千もの針。
 それは串刺しにされた生け贄の祭壇。

 それは血と畏怖の代名詞!
 その全てが咲夜に襲いかかる!

「――あは」
 だが、童の様に、咲夜が微笑んだ。それはそれは、残酷で純粋な少女の笑み。


 最終『デフレーションワールド』


 それは過去。
 それは未来。
 それは現在。
 無限に広がる五次元の時空という世界、
 その世界に生身で入る事の出来る人間――十六夜咲夜のみが出来る一つの秘宝。

 それは正に『無限の咲夜』。

 何億何兆と増え続ける咲夜がいきなりレミリアの前に集まる。
「ヒ……!」
『つかまえた……』
 何十もの手がレミリアを掴んではその後ろからやってきた手に潰される。そして新しい
手がレミリアを掴んでは、また潰される。中心に居るレミリアは、その無限とも言える血
の暴挙に、ただただ言葉を失わせていた――。

「………ァ――――――――――――!!!!!!!!」






「あ――」
「ふふ、捕まえましたわ、お嬢様」
 気付けば、レミリアは咲夜に捕らえられていた。全裸で。
「え? あ、あ、ああ……あれ、は……」
「ん、ふふふ……、どうでも良い事、そう、どうでも良い事なのです、レミリア様。
 ね?」
 壊れた笑みを浮かべると、レミリアは逃げだそうと藻掻いた。だが両手両足の親指をが
っちりと縛られ、身動き一つ出来ないで居た。
「な、何よこれえ! 何でこんな実践的な縛り方知ってるのよぉ!」
「ああ、お嬢様の部屋で見つけましたので、まあ気分転換に、と読破致しましたわ」
「あ、あの……咲夜? あ、謝るから、その……」
「あら、お嬢様。何故謝るのですか?」
「え、ええと、それは……」
「謝る必要なんて、何処にあるのです?
 寧ろ感謝しています。――私を目覚めさせてくれたのですから、ねえ? ねえ?」
 レミリアは怯えだした。助けを呼ぼうにも、歯が上手い事動いてくれない。
 いやあ助けて霊夢!
 目の前のエロメイドにファーストキスどころかバージンすら奪われそう!
 こころの電波は、しかし霊夢に届く事も無く、
「……あらあら、レミリア様ったら。
 私が居るというのに、霊夢に助けを求めるなんて……本当、女泣かせな御方ですわ」
「ひいいいいいい?! な、何でアンタが受信してるのよう!」
「愛ですわ」
「謝れ! 愛の神様に謝れー!」
 泣きながら錯乱するレミリアに、しかし咲夜は優しい顔で指を振った。
「ノンノン。――レミリア様。一つ、ご教授差し上げましょう」
「な、何? 何ぃ?」
「愛というのはですね。即ち――」

 ――私の事ですわ。

 ぎちり。
 初めてしたキスの味は、まるで溶鉱炉に溶かされた鉄の様な味がした。







 ――そこから先は、何がどうなったのかを誰も知らない。
 ただ、その日以降、レミリアはまるで唯でさえ少ない生気をまたごっそりと失ったかのようになった、という――。



「さ、レミリア様。……今日もお楽しみですね」
「い、……いやぁああああああああああああああああああああああああああああ………!」





BADEND(ぇぇー

イデオンガンを忘れるなんてー!(ぇー

はいどーもかさぎ修羅で(イデ発動






ふうよく死んだそして生き返ったー。
こっちの投稿はけっこー久しぶりだなあ。

ちなみに当初の予定では、咲中にしようと思ったのに、いつの間にか咲夜さんが山本さんちの一発君みたいな御方になってしまった。何故だ! 何故戦う! 何故ころしあ(イデはもういい

さてそろそろイデの中にいる井出さん(36歳元サラリーマン)も禁断症状出して「チャカだヤッパだ殺らなきゃ殺られるー!」と叫ぶ時間ですので。おさらばです。



(イデ発動
かさぎ修羅
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Soseki/6827/index.html
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コメント



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1.70変身D削除
ほ、ホント紅魔館は地獄なのかーフゥハハハーハァー(壊
と、いうかこれがBADならどんなハッピーENDなのか知りたい今日この頃です(w
3.80真十郎削除
AAを使うのは面白いですね
分岐シナリオが楽しみです(えー
8.90名前が無い程度の能力削除
楽しい壊れをありがとう
井出さん降ろしてやれよ
9.100CaR削除
これはツボったwまじで良作だwww

たとえ博麗神社まで逃げられても、
必死に霊夢に助けを求めるも普段通りの態度で咲夜が追いつく

レミリアが悪戯に戯れついてきてるものと勘違いし、適当に追い払う

「人様に迷惑をかけた上、少しばかり暴言が過ぎるのではありませんか?」

アーッ

BAD END 2
としか幻視できない
19.60名前が無い程度の能力削除
キス・・・したくなっちゃった・・・・・


これは 酷い
26.80鬼神削除
BADと言うより・・・むしろDEAD?
27.70名前が無い程度の能力削除
DMC! DMC!

紅魔館って、こんなだっけ……
ま、いいや面白かったし。
32.100名前が無い程度の能力削除
パンプキンシザース、キター!!!!!!!
38.80名前が無い程度の能力削除
まさかここでAAを使うとは!
笑わせてもらいました。
45.無評価名前が無い程度の能力削除
夏コミ前に名前売り直そうと過去作引っ張ってくるのは商売上手だなと思いました。まる。
47.無評価名前が無い程度の能力削除
せ、先生!気のせいでしょうか!

これ、昔同人で見たことあります!
48.100サブ削除
ああもう面白すぎwww笑いの神降臨がしなさってる。
氏は私を過呼吸で殺す気ですか?(紙袋吸いながら)

ってか、およそ20作品集ぶりの投稿とか凄すぎる……。
59.無評価削除
ちょっと表現がラインを超えてる気がしないでも…?
80.50煌庫削除
正直なところ、面白いと言えるのですがちょっと超えてませんか?
表現を抑えるべきだと思います。まぁ故に半々なわけで。
次回作に期待です。
91.40読専削除
レイプレイプは流石に不快に思う人がいるかと
30点減で
107.100bobu削除
PADEND
108.50れーね削除
たっぷり笑わせてもらいました。

が、少々やりすぎている感じがするので-30させてもらいます。
110.90名前が無い程度の能力削除
咲夜さんつえぇぇなぁw
HAPPY ENDも読みたかったなぁ。
119.60名前が無い程度の能力削除
これはひどいw

笑ったが表現が色々ドギツイのでやや減点で。
まあ笑ったけどねw
123.90名前が無い程度の能力削除
ばっとえんどwwwww
127.100ssk削除
正常な咲夜さんがログアウトしましたw