「うどんげ~、うどんげ~? どこにいるの~?」
私は周囲を見回しながら、捜し求める相手の名前を呼ぶ。
昼過ぎ。いつものように昼食を食べ終えた私は、半ば研究室と化している自室に篭って薬の開発にいそしんでいた。
今開発しているのは、いわゆる「媚薬」と呼ばれるもの。
……なんでそんなものを作っているのかなんて、訊くのは野暮よ。
で、まあ一応薬が完成したので、いつも実験に協力してくれる(半ば無理矢理付き合せている感じもするけれど)うどんげを捜している、というわけ。
だけど、いつもなら呼んだらすぐ出てくるうどんげが、どういうわけか今日に限っては返事すら返ってこない。
今日は特にこれといって予定はなかったハズだから、永遠亭にいない、ということはないと思うけれど……。
「どこ行ったのかしら……」
「あ、永琳さま」
居間の前の廊下を通りがかったところで、背後から不意にそう呼ぶ声が聞こえた。
振り返ってみると、ウサ耳をぴこぴこと揺らしながら笑顔を振り撒く少女が立っていた。
「あら、てゐじゃない」
「どうかしたんですか?」
「ええ、ちょっと探し物を……」
この場合、”物”というより”者”の方が正しいとは思うけれど。
「探し物? 何を捜してるんですか?」
「うどんげを、ね」
「鈴仙さま?」
うどんげの名前をあげた途端に、てゐはばつの悪そうな表情に変わった。
「あ~……」と何かを知ってそうな言葉と共に。
「知ってるの?」
「ええ、まあ……」
どこか含みのある言い方。知っていることは知っているけれど、話していいものかどうかを考えているような雰囲気だった。
このコ、なにか隠してるわね。
「うどんげはどこ? いつもの実験に協力して欲しいのだけれど」
「鈴仙さまですよね。え~と……」
「もしうどんげが見つからなければ、てゐが変わりに手伝ってくれるかしら?」
「!?」
私の発言に対して、てゐは首をものすごい勢いで横に振った。表情は、それこそ恐ろしいものを見るようなそれで。
「すぐ連れてきますっ!」
瞬間、てゐはまさに脱兎の如く駆け出した。そんなに私の薬の実験に協力するのがイヤなのかしら……。
待つこと数分。てゐは半泣き状態のうどんげを簀巻きにして、私の前に連れてきてくれた。
別にそこまでしなくてもよかったのだけど、察するにてゐの話を聞いたうどんげが逃げようとしたのだろう。
そこで、他の兎達と一緒にうどんげを捕まえて、簀巻きにして逃げられなくした、といったところかしら?
だけど、うどんげのその口に咥えられた穴だらけの球体は一体どこから持ってきたの?
「ん~、ん~ん~! ん~んんん~!」
「是非、永琳さまの実験に協力します、と言ってます」
にこやかにそう通訳をしてくれるてゐだけど、明らかにうどんげはそう言っていない。
流す涙と必死で振られる首がそれを物語っていた。
「そう、ありがとう、てゐ」
「いえいえっ。それでは、これで」
元気にそう告げると、てゐはぴょんぴょん跳ねながらその場から去って行った。
残されたうどんげは、絶望の淵にいるような表情をしている。
「さて、と。どこにいたのか知らないけれど、まあそこは追求しないであげるわ。それよりうどんげ。ちょっとこの薬、飲んでくれるかしら?」
私はうどんげの口に咥えられた穴だらけの球体を取り外してあげながら、そう告げた。
「んっ……しっ、師匠! 今度は何を作ったんですか!?」
「媚薬よ」
正直に答える。隠していても仕方ないしね。
「結構ですっ! 前も媚薬を作ったとかで私が服用した結果、後一週間はずっと発情期状態だったんですよ!?」
「あら、あなた、年中発情期じゃない。心配ないわよ」
「心配ですよ! っていうか年中発情期ってなんですか!」
必死で嫌だという気持ちを訴えてくる。でも、ここで折れるわけにはいかない。なんというか、うどんげの師匠として。
「仕方ないわね。まあ、せっかく簀巻きになってるんだから、じっくりと観察させてもらいましょう」
「え…あ……ししょ……っ!」
くいっ、とうどんげの顎に手を当てて顔をこっちに向かせ、その口の中に無理矢理薬を入れる。
今回の薬の形状は錠剤だけど、唾液でも溶けるものだから、口に入れてしまえばこっちのもの。
あとは口を開けられなくして、錠剤が溶けるのを待つだけ。
「ん……ふぁ……」
しばらくして、うどんげの頬に朱が差し始めた。薬はバッチリ効いてるみたいね。
「ぁぁ…し、しょ……ぉっ……」
「ん? なあに、うどんげ」
「お願い……しま、す。この縄……解いて、ください……」
うどんげはとろんとした目で懇願してくる。即効性で作ったから、かなり効きが早い。
「だあめ。もっと効き目を観察してからね」
「そんなぁ……」
そして、夜。
「もう、師匠! ホントに大変だったんですからね!」
顔を真っ赤にして私に詰め寄ってくるうどんげ。よほど、発情した状態の自分をじっくりと観察されたのが恥ずかしかったのだろう。
前にも一回見てるんだから、そんなに恥ずかしがる必要はないと思うのだけれど……なんでかしら?
「まあ、いいじゃない。すぐ切れたわけだし」
「よくないですっ!」
結局、あの媚薬は即効性で作ったから効力が切れるのも早かった。服用後十分ちょっとだったかしら。
まあ、その代わりに効果は激しすぎたけれど。
「ところでうどんげ。あなた、昼どこにいたの?」
私は、少し気になっていたことを問い掛けてみた。
「えっと、それは……」
「私にも話せない場所にいたの?」
「いっ、いえっ。その、ですね」
もじもじしながら、うどんげはぶつぶつと何かを呟いている。口にしようとしているのだろうけど、少し言いにくい、という感じに。
「うん」
「その……てゐの部屋にいました」
「てゐの?」
恥ずかしそうに、うどんげは言った。そう言えば、てゐの部屋は捜してなかったわね。気付かなかったわ。
「はい。そこで……てゐと遊んでまして……」
「あら、そうだったの。……二人で何をしてたのかしら?」
「ぅっ、そ、それは……ですね」
顔から火が出そうなくらいその色を真っ赤にして、うどんげは言い淀む。
それっきり、口の中でもごもごとなにかを呟きながら、もじもじと不審な動きをしていた。
……うどんげ。そんな反応してたら、何をしてたか、一目瞭然よ?
「ま、いいわ」
私がそう言ってやると、うどんげはホッとした表情になって微笑を浮かべた。
「そ・の・か・わ・り。次の薬の時もよろしくね」
私は笑顔でそううどんげに言ってやる。すると、一瞬びくっと身体を震わせてから、困ったような表情に変わった。
「う~……もっと普通の薬にしてくださいよ?」
「そうね。気が向いたら、ね」
「……すっっっっっっごい不安です」
訝しげな表情で、私を見つめてくるうどんげ。そんな表情をするから、楽しい実験をしたくなるんじゃないの。
ま、今回の実験は楽しかったからいいわ。
次はどんな薬にしましょう……うふふふ♪
私は周囲を見回しながら、捜し求める相手の名前を呼ぶ。
昼過ぎ。いつものように昼食を食べ終えた私は、半ば研究室と化している自室に篭って薬の開発にいそしんでいた。
今開発しているのは、いわゆる「媚薬」と呼ばれるもの。
……なんでそんなものを作っているのかなんて、訊くのは野暮よ。
で、まあ一応薬が完成したので、いつも実験に協力してくれる(半ば無理矢理付き合せている感じもするけれど)うどんげを捜している、というわけ。
だけど、いつもなら呼んだらすぐ出てくるうどんげが、どういうわけか今日に限っては返事すら返ってこない。
今日は特にこれといって予定はなかったハズだから、永遠亭にいない、ということはないと思うけれど……。
「どこ行ったのかしら……」
「あ、永琳さま」
居間の前の廊下を通りがかったところで、背後から不意にそう呼ぶ声が聞こえた。
振り返ってみると、ウサ耳をぴこぴこと揺らしながら笑顔を振り撒く少女が立っていた。
「あら、てゐじゃない」
「どうかしたんですか?」
「ええ、ちょっと探し物を……」
この場合、”物”というより”者”の方が正しいとは思うけれど。
「探し物? 何を捜してるんですか?」
「うどんげを、ね」
「鈴仙さま?」
うどんげの名前をあげた途端に、てゐはばつの悪そうな表情に変わった。
「あ~……」と何かを知ってそうな言葉と共に。
「知ってるの?」
「ええ、まあ……」
どこか含みのある言い方。知っていることは知っているけれど、話していいものかどうかを考えているような雰囲気だった。
このコ、なにか隠してるわね。
「うどんげはどこ? いつもの実験に協力して欲しいのだけれど」
「鈴仙さまですよね。え~と……」
「もしうどんげが見つからなければ、てゐが変わりに手伝ってくれるかしら?」
「!?」
私の発言に対して、てゐは首をものすごい勢いで横に振った。表情は、それこそ恐ろしいものを見るようなそれで。
「すぐ連れてきますっ!」
瞬間、てゐはまさに脱兎の如く駆け出した。そんなに私の薬の実験に協力するのがイヤなのかしら……。
待つこと数分。てゐは半泣き状態のうどんげを簀巻きにして、私の前に連れてきてくれた。
別にそこまでしなくてもよかったのだけど、察するにてゐの話を聞いたうどんげが逃げようとしたのだろう。
そこで、他の兎達と一緒にうどんげを捕まえて、簀巻きにして逃げられなくした、といったところかしら?
だけど、うどんげのその口に咥えられた穴だらけの球体は一体どこから持ってきたの?
「ん~、ん~ん~! ん~んんん~!」
「是非、永琳さまの実験に協力します、と言ってます」
にこやかにそう通訳をしてくれるてゐだけど、明らかにうどんげはそう言っていない。
流す涙と必死で振られる首がそれを物語っていた。
「そう、ありがとう、てゐ」
「いえいえっ。それでは、これで」
元気にそう告げると、てゐはぴょんぴょん跳ねながらその場から去って行った。
残されたうどんげは、絶望の淵にいるような表情をしている。
「さて、と。どこにいたのか知らないけれど、まあそこは追求しないであげるわ。それよりうどんげ。ちょっとこの薬、飲んでくれるかしら?」
私はうどんげの口に咥えられた穴だらけの球体を取り外してあげながら、そう告げた。
「んっ……しっ、師匠! 今度は何を作ったんですか!?」
「媚薬よ」
正直に答える。隠していても仕方ないしね。
「結構ですっ! 前も媚薬を作ったとかで私が服用した結果、後一週間はずっと発情期状態だったんですよ!?」
「あら、あなた、年中発情期じゃない。心配ないわよ」
「心配ですよ! っていうか年中発情期ってなんですか!」
必死で嫌だという気持ちを訴えてくる。でも、ここで折れるわけにはいかない。なんというか、うどんげの師匠として。
「仕方ないわね。まあ、せっかく簀巻きになってるんだから、じっくりと観察させてもらいましょう」
「え…あ……ししょ……っ!」
くいっ、とうどんげの顎に手を当てて顔をこっちに向かせ、その口の中に無理矢理薬を入れる。
今回の薬の形状は錠剤だけど、唾液でも溶けるものだから、口に入れてしまえばこっちのもの。
あとは口を開けられなくして、錠剤が溶けるのを待つだけ。
「ん……ふぁ……」
しばらくして、うどんげの頬に朱が差し始めた。薬はバッチリ効いてるみたいね。
「ぁぁ…し、しょ……ぉっ……」
「ん? なあに、うどんげ」
「お願い……しま、す。この縄……解いて、ください……」
うどんげはとろんとした目で懇願してくる。即効性で作ったから、かなり効きが早い。
「だあめ。もっと効き目を観察してからね」
「そんなぁ……」
そして、夜。
「もう、師匠! ホントに大変だったんですからね!」
顔を真っ赤にして私に詰め寄ってくるうどんげ。よほど、発情した状態の自分をじっくりと観察されたのが恥ずかしかったのだろう。
前にも一回見てるんだから、そんなに恥ずかしがる必要はないと思うのだけれど……なんでかしら?
「まあ、いいじゃない。すぐ切れたわけだし」
「よくないですっ!」
結局、あの媚薬は即効性で作ったから効力が切れるのも早かった。服用後十分ちょっとだったかしら。
まあ、その代わりに効果は激しすぎたけれど。
「ところでうどんげ。あなた、昼どこにいたの?」
私は、少し気になっていたことを問い掛けてみた。
「えっと、それは……」
「私にも話せない場所にいたの?」
「いっ、いえっ。その、ですね」
もじもじしながら、うどんげはぶつぶつと何かを呟いている。口にしようとしているのだろうけど、少し言いにくい、という感じに。
「うん」
「その……てゐの部屋にいました」
「てゐの?」
恥ずかしそうに、うどんげは言った。そう言えば、てゐの部屋は捜してなかったわね。気付かなかったわ。
「はい。そこで……てゐと遊んでまして……」
「あら、そうだったの。……二人で何をしてたのかしら?」
「ぅっ、そ、それは……ですね」
顔から火が出そうなくらいその色を真っ赤にして、うどんげは言い淀む。
それっきり、口の中でもごもごとなにかを呟きながら、もじもじと不審な動きをしていた。
……うどんげ。そんな反応してたら、何をしてたか、一目瞭然よ?
「ま、いいわ」
私がそう言ってやると、うどんげはホッとした表情になって微笑を浮かべた。
「そ・の・か・わ・り。次の薬の時もよろしくね」
私は笑顔でそううどんげに言ってやる。すると、一瞬びくっと身体を震わせてから、困ったような表情に変わった。
「う~……もっと普通の薬にしてくださいよ?」
「そうね。気が向いたら、ね」
「……すっっっっっっごい不安です」
訝しげな表情で、私を見つめてくるうどんげ。そんな表情をするから、楽しい実験をしたくなるんじゃないの。
ま、今回の実験は楽しかったからいいわ。
次はどんな薬にしましょう……うふふふ♪
あとちょっと表現が露骨かな、と。
背景と文字の色も、次からもう少し配慮しないとなぁ……。