「ん…いい天気ね、憎らしいほどに」
普段ならそろそろ眠りに落ちるはずの時間に、私はベッドから起き上がる。
カーテンの隙間から差し込む憎らしげな日差しを見ながら、私は着替えを始めた。
さて、なぜこの私がわざわざ『昼夜逆転』をしてまでこんな朝早くに目を覚ましたのか、その理由は、今日は我が友人、パチュリーと、その従者小悪魔が外へと遊びに行くからだった。
そう言うと、『なぜそんなことで?』と言われるかもしれない、だけどそれは言う奴があいつらのことを知らないからだ。
居候のただ飯食い、挙句の果て本代から身の回りの世話まで私の紅魔館にまかせっきりの友人は、その異常なまでの虚弱体質と、『本を読む、実験をする、あとはすべて下らぬことだ』というモットーにより、ほとんど…いやまったくと言っていいほど外出をすることがなかった。
それがあの黒白が来て以来、心境の変化でもあったのかテラスあたりまで出張ってくるようになり、そしてついに今日、『観光』という前代未聞の目的により外出することになったのだった。
こんなことを知って、好奇心旺盛な…もとい友人思いの私が放って置けるはずはない。
私は、たまたまドアに耳をつけていた時に二人の会話が耳に入り、直後「何で私の事は誘ってくれないのよ…」なんて怒ったり落ち込んだりすることは『かけらも』なく、目にゴミが入ったのかなぜかあふれ出る涙を拭う時間さえおかずに走り出した。
そして、忠実な私の従者の部屋に駆け込むと、「咲夜!あの二人を護衛するわよ!!前路の敵を撃滅して二人の旅行を安全たらしめなさい!!ついでに私も出かけるんだからっ!!!」と下命したのだ。
ああ、私ってなんて友達思いなのかしら。私を仲間はずれにしたあの紫もやし達の旅行を邪魔することなく、逆にその旅行を陰から支えようとするなんて…
私は、そんな素晴らしい自分に拍手を送りながら、身支度を終えた。
一時間後…紅魔館門前
「こちらE班、紅魔館門前に敵影なし!」
「こちらF班、パチュリー様及び小悪魔さんは準備を整えヴワル魔法図書館より進発、大広間へ向け移動中。正門到達までの予想所要時間は約15分」
「こちらA班、これより出撃、B班C班と共に前路警戒にあたります」
「こちらD班、正門周辺に展開、総員配置につきました」
咲夜と私がいる移動司令部には、いくつかの魔法水晶が置かれていて各班から現在の状況が送られてくる。パチェが図書館を進発するやいなや、みるまに各班の動きは慌しくなった。
この魔法水晶は言葉と映像を送ることができるスグレモノ、あの無駄飯くいが作った数少ない役に立つ物体だった。パチェもまさか自分の作った物で監視されるなんて予想もしてなかったでしょうね。
さて、私は、この不気味なくらい完璧な準備を整えた従者を見て口を開いた。
「咲夜、確かにこれを命じたのは私だけど…ここまで徹底的にやる必要があったのかしら?」
そんな私の疑問に、咲夜は平然とした表情で答える。
「ええ、お嬢様のご命令には全力で応えさせていただきますわ。従者たる者、主人の命令にはどのような時にも全力で取り組まなければならないのです」
「そんなものかしら…っていうか紅魔館の守りはこれで大丈夫なの?黒白とかの襲撃は?」
見たところ紅魔館の従者の約五分の四までが今回の護衛作戦に投入されているみたいで、正直留守中の防衛に不安が残る。
そりゃあそこらへんの雑魚妖怪なんぞが来ても美鈴が簡単に撃退してくれるだろうけど、黒白が来たりしたら手に余るだろうに…
だけどそんな私の疑問にも咲夜は瀟洒な笑顔を見せて答えた。
「ご心配なくお嬢様、ご懸念の黒白に関しましては、先日のうちに『貴重な魔法書を永遠亭が入手した』との情報を流しております。他方、永遠亭側には『黒白が幻想郷にない魔法書を得るため、外の世界と幻想郷をつなげようとたくらんで永琳の所に押しかけてくる』と言う手紙を送っております。前者は単純、後者は早とちりな連中ですのであっさりと引っかかって頂けるかと」
「そ…そう」
瀟洒にえげつないことするわね、あなどれないわ。
そんな私の気持ちを察したのか、咲夜は言う。
「そんな…お嬢様の為に必死に頑張る私を恐れるような目で見ないで下さい…ああ、でも怯えるお嬢様も素敵でっ!?」
ひとまずこっちに両手を広げて迫ってきた狗は沈黙させておく。いくらなんでもそりゃ怯えるわ、別な意味で。
ちなみに、咲夜の胸元をよく見ると、先日私がこの護衛作戦を命じた時にやっぱり「半泣きのお嬢様も素敵ですわっ!」とか言って飛び掛ってきた時につけてやった傷も残っている。
これ以上無駄な傷を増やさないうちに正気を保つ努力をしてほしいわね。
さて、そうこうしている内に、パチェ達は紅魔館正門に達したみたいだ。
私は門の周辺に掃除を装って展開しているD班からの情報を確認する。
「パチュリー様ご一行は現在正門を通過、敷地外へと離脱します」
「了解、パチュリー様が離脱し次第、ただちに続航なさい。当然見つからないようによ」
「了解、これよりD班はパチュリー様追跡を開始します」
「E班、F班は非常時の為の冷水、毛布その他を持ち逐次前進」
「了解、すでに荷車に積んでいます。パチュリー様方との距離がとれ次第進発します」
「よろしい」
いつの間にか復活していた咲夜の適切な指示の元、紅魔館のメイド部隊はきびきびと行動していた。
本当、時々暴走さえしなければ咲夜も完全なのに。私は隣で適切な指揮を執る彼女の横顔を見ながらそう思っていた。
「お嬢様、それでは私達も出ましょう」
「ええ、そうしましょうか」
咲夜は司令部要員に水晶その他を持たせると、早速外へと歩き始めた。
日光に対する防御装備を整えた私もそれに続く、ずいぶん暑いわね、まぁ仕方ないけど。
「ときにお嬢様、一つ伺ってもよろしいでしょうか?」
紅魔館を出てしばらく歩いていた時だった、唐突に咲夜が口を開く。
「何よ?」
問い返す私に咲夜は他のメイド達が若干離れて歩いているのを確認した後こう言った。
「失礼ですが、なぜパチュリー様達の護衛を?」
「本当に失礼ね咲夜、あのもやし娘が途中でぶっ倒れやしないか心配だからに決まっているでしょう」
本当に失礼ね、私のことをどう思っているのかしらこのメイドは?
だけど、ふくれる私に咲夜はさらに言葉を続けた。
「それもあるかと思いますが、本当は一緒に行きたかったのではないかと思いまして…いかがでしょうか?」
真顔で言う咲夜に私は慌てて言い返す。
「ち…違うわ、私は外出なんて面倒だからあんまりしたくないのよ。これはパチェが心配だったからやっただけ、それ以外の何の理由もないわ。これ以上妙な詮索は許さないわ、パチェ達の旅を妨害する輩が出たらすぐにやってしまいなさい」
「…はい、誓ってこれを撃滅いたしますわ」
咲夜は、そう言うとすすっと私と距離をとり、再びパチェ一行の進路上に異常がないかを問い合わせはじめた。
「道路清掃は3km先まで終了しています。3,8km先に倒木がありましたが撤去中、作業終了まで約15分の予定」
「了解、ぬかりないようにね」
「了解」
そんな咲夜を見ながら私は思う、変人なふりして…いや変人だけど、たまに痛い所をついてくるわねこいつは。まったくもう。
心中を見透かされたような微妙な気分で、私は歩き続けた。
「こちらH班、パチュリー様ご一行の、当地点までの到達予定時刻を知らせられたい」
「H班へ、予想より15分前後早く、あと一時間ほどで到達かと思われる、準備はどうか?」
「15分も早く!?そっそんな…岩盤にあたり、作業が遅れています」
「完成させれないでは懲罰ものよ!全力を尽くしなさい」
「了解!」
なにやら異常があったらしい、何かあったのかと私は咲夜に尋ねる。
「どうしたの?」
「ええ、パチュリー様が熱中症にならないよう、あらかじめ進路上に井戸を掘らせていたのですが…どうやら作業が遅れているようでして」
ため息をつく咲夜の後ろでは、魔法水晶から
「急いで!メイド長は待たないわ!!」
「木枠を省略すれば早く完成するのでは?」
「崩落して逆に作業が遅れるわ、作業方法は今のまま、死ぬ気で頑張りなさい!」
「ですが班長!昨日から一睡もしていないんです!!このままでは皆過労で…」
「黙りなさい!終わればゆっくり休めるわ。あなたはメイド長の『懲罰』を受けたいの!?私はごめんよっ!!」
「はっはい!私もです!!急ぎましょう!!!」
等々修羅場の様子が伝わってくる。わざわざ井戸まで作らせていたなんて…しかもあんなに恐れられるなんて、咲夜は一体どんな『懲罰』を与えているのかしら?
さて、まぁ準備部隊はともかく、パチェ達には直接の異常はないようだ。今日は体調がいいみたいだけど…この先が気になるわね。
一時間後…
「こちらH班、井戸の掘削完了。これより避退します」
「了解、貴班の健闘を讃える。尚過労者は一名も残さざること。私達メイドの行動は知られてはならないのよ、気付かれないように、ご主人様方の行動を快適にすることが私達の役目よ」
「了解しましたメイド長」
問題であった井戸の掘削は無事終わったらしい、パチェ達はあの井戸を使うかしら?使わなかったら報われないわね。
しかし、直後に入った通信は悲惨なものだった。
「こちらD班、パチュリー様ご一行は井戸を覗き込みましたが通過、森へと向かっています」
「H班との通信途絶、応答ありません」
「…」
私は、失意のあまり倒れていったであろうH班のメイド達を想像して、さすがに哀れに思っていたのだった…
「私達の作業が表に出るのはごくわずか…どんなに心を込めて作業しても、そのほとんどが無駄骨に終わるのですわ、お嬢様」
「そう…」
そんな私を見て言った咲夜に、私は呟いた。こういうのを見ていると、これから出される紅茶一杯ですら大切に飲もうっていう気になるわね。
こういったメイドたちの舞台裏を知ることができただけでも、今日は来てよかったわ。
さて、失意に沈んだH班を残し、私達は前進を続ける。
「こちら前路警戒中のB班!11時の方向より人形遣いが接近中!!」
何ら問題なく前進していた私達に急報が届けられたのは、パチェ達が井戸を通過してから2~30分ほどたってからだった。
パチェの進路上に、出会った相手を家に引きずり込んで三日三晩話し相手にするという噂がある人形遣いが接近しているというのである。
この情報により、俄然司令部は慌しくなった。
「速度及び針路を知らせよ!」
「付近で行動可能な班はいくつあるの!?」
「迎撃位置にいるのはB班の他A班のみ!C班は遠すぎます!!」
「こちらB班、速度は微速、針路は南南東、このままですと約20分でパチュリー様と接触します!指示を!!」
「A班!どれ位で到達できる?」
「木々が多く…30分はかかります!!」
「それじゃあ間に合わない!!」
その時、混乱しつつある司令部にさらなる情報が入った。
「こちらA班!移動中に永遠亭の兎詐欺師を視認、パチュリー様へ急速接近中!!」
「何ですって!?あとどれ位で…」
「こちらA班!速度は…速いっ!?振りきられました!おそらくこのままではあと7~8分で接触するかと…」
「兎詐欺師を止めなさい!」
「各班とも時間的に迎撃不能!飛行可能な部隊なら動けますが…」
「駄目よ、パチュリー様に見つかってしまう!!」
「ですが…」
「人形遣いはどうするんですかっ!?」
「B班は現状待機!ただしいつでも出られるように…」
「冗談じゃないわっ!このままではパチュリー様の視界内に入られてしまう!!」
「司令部の指示に従え!!」
「私が止めようかしら?」
あんな連中と出会ったら、パチェ達の折角の旅行が台無しになるのは必定。混乱しつつある司令部を横目で見ると、私はパチェの方へと向かおうとしたのだけど…
「待ってくださいお嬢様」
私の肩に手を置いて止めたのは咲夜だった。
「大丈夫です、お嬢様の手を煩わす必要はありません。各班へ!人形遣いと兎詐欺師の行動を妨害してはならない!かわりに、直ちにパチュリー様の進路上に木を倒して時間稼ぎを、D班ならどうにかできるはずよ。兎詐欺師と人形遣いを接触させます」
毒には毒っていうわけね。なるほど、咲夜やってくれるわ。
私が感心する間に、咲夜の指示で落ち着きを取り戻した司令部から指示が飛び、各班へと伝えられた。
「D班、只今パチュリー様の前面に到達、倒れそうな木を発見しました」
「自然に倒せ!自然に!!」
「了解!」
「各員偽装は完璧か?見つかっては元も子もないわよ」
「はい、D班は追跡任務の為厳重な偽装をほどこしています。万が一見られても動物にしか見えません!紅魔館裁縫部門制作の着ぐるみは完璧です」
「よろしい、作業にかかれ」
「了解!」
「こちらB班、人形遣いの針路、速度ともに変わらず」
「了解、そのまま追跡を続行せよ」
「了解」
「こちらD班、作業完了。パチュリー様方は驚かれたようですが、私達の仕業とは気付かれていないようです」
「こちらB班、人形遣いと兎詐欺師が接触、映像をまわします」
くるりと映る方向が変わった魔法水晶の映像、そこには二人の少女が向かい合っていた…
「あ、てゐちゃん。久しぶりね、こないだお賽銭を集めに来て以来かしら?」
「え…アリスさん!?あ…あのね、今ちょっといそい…」
「ちょっと位お茶でも飲みましょう、いいお茶が入ったのよ。魔理沙相手なら惜しいけどてゐちゃんにならご馳走してあげるわ」
「で…でも今日はちょっと用事が…」
「…人形ばっかりいじっている暗い女の子じゃ遊んでもつまんない?そっか…うん、ごめんね」
「違うって!本当に永遠亭から呼び出しが…」
「いいのよ、嘘つかなくたって。私は悩みなんてない都会派魔法使い、気を使ってもらわなくても大丈夫なんだから」
「…お、思ったら急用じゃない気がしてきたわ。お茶飲みたいなー」
「そう!?ええ、仕方がないわね、大事な友達にそこまで頼まれると断れないわ。ほら、急ぎましょう!あ、この人形はね、新しく作った人形で名前は…」
「うう…姫さま、永琳さま、鈴仙…ごめんなさい…」
「てゐちゃん?どうしたの?」
「何でもないですー!!」
「「「「「…」」」」」
司令部を沈黙が支配した、やがて咲夜が口を開く。
「総員気をつけ!優しき兎詐欺師てゐ殿に最敬礼!!」
その時、私を含めた全員が、一時手を止めると、身を挺してパチェの幸せを守った兎詐欺師へ敬意を表したのだった。
さて、二人が立ち去った後、倒木を避けたパチェ達は前進を再開し、私達もそれに続く。
「こちらA班、11時方向から暗い空間が接近中!宵闇の妖怪と思われます」
「迎撃は?」
「A班及びB班が待ち伏せ中、ただし、戦闘に入るとパチュリー様に気付かれる恐れが…」
「私が行くわ、時間を止めてやってしまえばパチュリー様には気付かれない」
「了解、お願いします」
「こちらC班、進路上からはやや外れますが、付近の沼に大ガマと妖精がいます。ともに停止中」
「…それは問題ないわね、下手に手をだすと騒がれるわ。放っておきなさい」
「了解」
「それではお嬢様、少々留守にいたします」
「ええ、わかったわ」
やれやれ、宵闇の妖怪とやらも運がないわね。こんな時にふよふよ漂ってくるなんて…私は、木々の間を縫うように飛んでいく咲夜を見ながら思っていた。
さて、それにしてもパチェ達の目的地はまだなのかしら?大分歩いたはずなのだけど…
咲夜が…つまり話し相手がいなくなったので、私は考え事をしたり魔法水晶を覗いたりしながら時間をつぶす。ちなみに、咲夜が負ける心配なんてかけらもしていない。
「こちらA班、メイド長が宵闇の妖怪と接触…あ、撃破しました」
「了解、A班、B班とも通常の警戒配置に戻りなさい」
「了解」
さすがね咲夜、あっという間に片付けたわ。さて、二人は…と。
私は魔法水晶を覗きこむ…
魔法水晶の中の二人は、楽しげに話しながら歩いている。お互い何の遠慮もなく…
ちくりと胸が痛んだ。いつも二人でこうやって歩いているのかしら?小悪魔が来る前は、パチェは私にばかり話しかけてきたのに…
嫉妬?私は自分の頭の中をよぎった不愉快な考えを振り払おうとする。
だけどなかなかそれは振り切れない。そういえば、私に咲夜が、パチェに小悪魔がつくようになってから二人で話す機会は減っていたわね。
残念、どうやら咲夜が言っていたことは中っていたみたいだ。
私は、幸せそうに歩く二人を見ながらぼんやりと恥ずかしい事を考えていた…
と、頭がぼんやりとしてきた…洒落じゃなくって、ってちょっと…意識が…
「お嬢様!」
最後に聞こえてきたのは咲夜の声、私はそれとともに意識を失った…
何か身体が揺すられている…声も聞こえる…
「お嬢様、ご無事ですか?」
「ん…咲夜?」
私はそう言うと起き上がる、周りを見回すと木陰に作られた即席のテントの中に私はいた。周辺にはいくつかの荷車が留め置かれている。
何があったのかを思い出すのに少々時間がかかった。
「一体私は…」
突然意識を失うなんて一体どうしたのかしら、我ながらみっともない。言いかけた私に咲夜は言った。
「はぁ、その装備ですもの、熱中症かと思われますわ」
「あ…」
そういえば、パチェ達の事に夢中で気がつかなかったけど私は汗びっしょりだった。そりゃあこんな晴れた日にこんな格好で延々と歩いていたのだから仕方がない。
「ええ、少しの間なら大丈夫かとお嬢様から目を離した私が愚かでしたわ、申し訳ございません。絶えず冷たい飲み物を補充するようにメイド達に言っておいたのですが…」
その瞬間メイド達の方を向く咲夜、メイド達はがたがた震えて身を寄せ合っている。
「懲罰は…懲罰だけはお許しを…」
「たっ助けて…助けて下さい!!」
「もうしません!もうしませんから!!」
「お願い…お願いですから…」
「…えっと咲夜、私は別にそこま…」
「彼女らの教育は私の仕事ですので」
にっこり微笑む咲夜、ただ言外に「なのでお嬢様は口を挟まないで下さいな」という意図が伝わってくる。
「わかったわ…」
「「「っ!?」」」
次の瞬間メイド達が何人か倒れたようだった。
そういえば、咲夜が傍にいる時にはさりげなく冷たい飲み物が補充されていたわね。成程、そんな所にまで気を回していてくれただなんて…さすがは完全で瀟洒というだけのことはあるわね。もしかして後ろについてきていた荷車の列もパチェの為だけではなく私の分まで?
こういう所はやっぱり咲夜だわ。
「あれ?そういえばパチェ達は?」
しばしの時をおき、ようやく普通の思考ができるようになった私は尋ねた。
「はい、もうすでに目的地に到着し、すでに帰路についていますわ」
「あら…そう」
ずいぶん寝てしまったみたいね、見ると日差しも大分弱くなっていた。
「咲夜、紅魔館に帰るわよ。パチェ達が帰る前に先回りできる?」
「はい、もちろんですわ」
そう言うやいなや、咲夜は私をおぶって司令部に指示を出す。
「パチュリー様の周囲に危険人妖はいないわね?」
「はい、大丈夫です」
「それなら私は一足先に紅魔館へ移動するわ。先の失態、パチュリー様が無事紅魔館についたら帳消しにしてあげます。その代わりもしも何かあったら…」
「了解!一命に変えましても!!」
その瞬間、倒れていたメイド達が飛び上がるように立ち上がった。
必死の面持ちでこちらに言うメイド達をよそに、咲夜は飛び立つ。
「メイド長、たぶんレミリア様をおんぶできたから機嫌がよ…」
後ろのほうで、何か聞こえたような気がしたけど、すぐに途切れた…
「お嬢様」
「何かしら?」
もうすぐ紅魔館が見えようかという時に、咲夜が呟くように言った。
「…私はパチュリー様の代わりににはなれませんし、なるつもりもございません」
「な…突然何を言い出すの?」
唐突な言葉に、私は戸惑う。
「お嬢様にとってパチュリー様はご友人、私は従者です。私はお嬢様と対等な関係ではありません。でもお嬢様の事を想う気持ちでは負けませんわ。どうか…お嬢様の事を想っているのはパチュリー様だけではない事を心の隅にでも置いておいて下さい」
「咲夜…」
私は空を見上げて…思った、私はパチェの事ばかり見ていたけど、だけど私にはパチェ以外にも思ってくれる人がいる。咲夜もいる、フランもいる。そう、ひとりぼっちじゃないんだ。私の力を恐れずに、私を『紅魔館の紅い悪魔』ではなく、『レミリア・スカーレット』として見てくれている人がいるんだ。
私は、咲夜の方を向いて言う。
「ええ、これからもよろしくね咲夜」
そんな私に咲夜は答えた。
「ああ、そんな優しい言葉をかけて頂きますと、本当に嬉しいですわ。本当にお可愛い…」
いいシーン台無し、本当にもう。
まぁ今日は見逃してあげよう。こんなことを言ってくる人間なんて他にいないんだから…恐れられて避けられるよりはずっといい…
「はぁ、お嬢様をおぶって空中散歩だなんて…本当に今日は最高の一日ですわ」
…ような気がちょっとだけした。
紅魔館門前
「パチェ、小悪魔、お帰りなさい」
「あら?レミィ出迎えに来てくれたの?」
「レミリアさま、ありがとうございます」
門で待っていた私は、二人の姿を見て声をかける。考えてみたらこの二人とだって十分話している。
パチェとの仲が疎遠になったんじゃなく、他の人妖と話すことが多くなっただけなんだろう。
そんな私にパチェは言う。
「レミィ?何かあったの?ずいぶん嬉しそうだけど???」
「さぁ」
「あ…レミリアさま誤魔化した。ですよね、パチュリーさま」
「そうね、じゃあこれはなしかしら?」
「は?」
にやけたパチェを見て私は一瞬戸惑った。どうしたというのかしら?
そんな私を見てますますにやけるパチェと小悪魔、たっぷり時間をおいて、小悪魔は背負っていた袋から小さな宝石を取り出した。
「じゃじゃじゃ~ん!」
効果音もとい効果声付で取り出された紅い紅い小さな石…
「…これは?」
戸惑う私に、小悪魔は胸を張って言った。
「あのですね、パチュリーさまと私で、いつもお世話になっているレミリアさまに何かプレゼントをしたいと考えたんです!それでたまたま山をいくつか越えた所に紅い宝石を産する所があると聞きまして…これはもうぴったりだと、パチュリーさまと買ってきたわけなのですよ」
「…ついでよついで、あくまで宝石を掘り出す所というものを一度見てみたかったのよ。そのついで」
「またまた~パチュリーさま~」
「うるさいわ小悪魔」
じゃれあう二人を見て…今度は胸も痛まない。ああ、私は本当に下らない事で悩んでいたのね。やれやれ、我ながら本当に愚かだったわ。
しみじみと思う私を見て、パチェが言う。
「レミィ、あなたがそんな思索にふけるのなんて似合わないわ」
「あのね…」
そんなこんなな私の一日、まぁそれなりに幸せだった今日は、いつも通りの会話で幕を閉じた。
『おしまい』
それにしても散歩に紅魔館の5分の4の人員が必要とは、幻想郷は危険なところだぜ。
そして、てゐ殿に最敬礼!
永遠亭はどうなっ(ry
何でしょうか、紅魔館メイドの無駄にクオリティの高さは!vip板の釣神様に匹敵します!
てゐ・・・・マスタースパークで焼かれた姫さまの替わりに永琳に実験台にされないかな・・・
ついでながら永遠亭の実況中継が欲しかったと無理を言ってみたり。
良い紅魔館ズを見させて頂きました(礼
そして恐らく弾幕戦で崩壊した永遠亭に合掌(w
主軸はレミリアのほうの話なんだろうけど、
印象がメイドの頑張りしか。。。w
あと、やっぱりてゐに最敬礼!
かな~り無駄な所で熱いメイド隊が素晴らしい。
>名前が無い程度の能力様
>笑いもキャラ心情も、完成度高い素敵SSですね。
なんともったいないお言葉…ありがとうございます。これからも慢心せずに頑張っていきますのでどうかよろしくお願いします。
>二人目の名前が無い程度の能力様
周りの迷惑顧みず、強力な弾幕を連発する黒白と、味方撃ちもなんのそので決戦兵器を大量投入する永琳の激突によりえらいことになったそうです…主にウドンゲが。
>名無し参拝客様
異常なまでにクオリティの高さを目指す、それが紅魔館のメイド達なのです。
>某の中将様
>ついでながら永遠亭の実況中継が欲しかったと無理を言ってみたり。
話の枠組みがまだできていないのでなんとも言えないのですが、この作品を読んで下さった方へのお礼の意味を込めて、もし完成させられたら投稿させていただきます。かなり先になりそうですし、そもそも完成させられるかどうか自信はないのですが…(すいません)
>変身D様
おおっ、ありがたい、てゐやアリスは非常に気に入っているのでそう言って頂けると嬉しいです。でもなかなか二人が主役のSSが書けないんですよね…
>hima様
大変だけどそれを楽しむ、それが紅魔館のメイド達です。…と勝手に想像しています。
>黒うさぎ様
>相変わらず氏のメイドさん達には目頭が熱くなる思いです。
そ…そんな目頭が熱くなることを…ありがたいお言葉です。あのメイド達の活躍(?)は、ほとんど手が勝手に創り出しています。なぜか勝手に書き進んでしまうんですよ。
>SETH様
最後の最後で押し切られる、そんなてゐが大好きなのです。
>三人目の名前が無い程度の能力様
そんなそんな、いつでもてゐは可愛いですよw
ご感想ありがとうございます!私も同感です。
それとH班と永遠亭にも敬礼。
紅魔館に永遠亭の報復が飛んできそうな気がw
>四人目の名前が無い程度の能力様
ご安心ください。翌日、なにがあったのか何もわかっていない彼女が、ふわりふわりと飛んでいるのが目撃されたそうです。
>あふぅぁ様
>紅魔館に永遠亭の報復が飛んできそうな気がw
実はちょうどその話を今書いている所です。前のレス返しで言っていた『そのころの永遠亭』の話を書いていたら、調子に乗ってその先まで進んでしまったわけなのです…
素直にありがとうございますと言わせてくださいww