Coolier - 新生・東方創想話

七夕祭り そして当日

2006/07/08 05:17:53
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─ 正午 博麗神社 ─



「熱い……ダルい……」

夏の茹だる様な暑さによって縁側で溶けたように垂れる巫女が一人。
博麗 霊夢は本日、最高にやる気を失っていた。

「そもそも参拝客が来るわけでも無いのに昼間頑張る必要も無いのよねぇ」

そんな事を何となく呟いていると、突如風が吹き荒れる。
そしてそれは小さな竜巻となって砂塵を舞い上げ、視界を完全に奪い去った。

「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!ネタをあげると我を呼ぶ!皆さんのシッポリからネッチョリまで見つめる射命丸 文、ここに参上!」
「……………」

竜巻が止み、砂塵の中からビシッとポーズを決めた射命丸 文の姿が現れる。
それを見た霊夢は文に黙って近づき、そしておもむろに文の頬っぺたを抓り始めた。

「あーんーたーはー、私の仕事を増やすのがそんなに楽しいのかしらぁー?」
「いだだだだだだっ、地味かつ強烈に痛いです!」
「えーい黙らっしゃい!せっかく珍しく早朝涼しい時間帯に起きて掃除した苦労を無駄にして!」
「いや、その、何か格好良い登場のをしたくて……いだだだだ!御免なさい!ごーめーんーなーさーいーっ!」
「いいや、限界よ。抓るね。大体なんでアンタの登場の為に私の苦労が増えなきゃならないのよ!」

そう良いながら霊夢は抓る力を更に強めた。

数分後

「ふぐぅ、こんな事なら来なければよかった……
「それで、今日は何の用なのよ。言っておくけど私の異変レーダーは何も感知してないわよ」

赤くなった頬を涙目で押さえる文を尻目に、霊夢はお茶を啜る。
体からは『私は自分から面倒ごとには関与したくありませんよ』という謎オーラが辺りに渦巻いている。

「ええ、そんな霊夢さんに良い情報をお持ちしたのですよ」

これです。と言って、文は一枚の紙を取り出した。



【熱風疾風七夕祭り!人妖交えて大爆発!ポロリもあるよ】



「……何コレ」

霊夢は軽く頭を押さえる。
何と言うか、あえて一言で表すならば『痛い』。
見た目30代の女性が「私はまだまだ現役よ♪」とか言いながらブレザーミニスカを着たりするのとは別のベクトルで痛い。
文の出した紙に描かれていたのは、とても良い笑顔でビシリとポージングを決めたマッチョメンだった。

「見ての通り、人里での七夕祭りのチラシです。多分……」
「何でチラシを持って配りまわる本人が分からないのよ」

霊夢がそう言うと、文は真剣な顔で霊夢の肩を掴んだ。

「霊夢さん」
「何よ。言っておくけど私はそっちの気はないから」
「いえ、そうじゃなくて。と言うかご自慢の感をこういう時に発揮してくださいよ」

切実な願いだった。

「ま、そこに主催よりもでかく書かれてる協力の名前見れば大体分かるわよ」

紙にはデカデカと『協力:紅魔館、永遠亭、白玉楼』と、その上には蝿の様な小さな文字で『主催:○○の里』と書かれていた。
これではどちらか主催なのか分かったものではない。

「ま、どうせレミリア辺りが脅迫したんでしょ?『二度と書いたり刷ったり出来ないようにしてやる』みたいに」
「『生きて宣伝をするか、死んで号外に載るか。特別に選ばせてやろう。5:5を使えばもれなく後者が優先だ』ですよ」
「まぁレミリアらしいと言えばレミリアらしいわね……」

霊夢は目の前の天狗に少しだけ同情した。
勿論、だからと言って何かをしてあげるという訳でもない。博麗の巫女は常に中立。誰にもなびく事は無いのだ。
まぁ理由の9割は『メンドイ』が占めているが。

「それで、チラシを撒き終わってここに来た理由は?」
「ここでくらいしか愚痴を言えないのが一つです」
「帰れ」

思わず霊夢の口から本音が零れた。

「それともう一つ理由が」
「何なのよ」
「『どうせ霊夢は自分からは来ないだろうから、手足を引き千切ってでも連れてきなさい』と……」
「よし、レミリア潰す」

霊夢の本音、リターンズ。
あわよくば自分の眷属にしようという魂胆が丸見えだった。
それはともかく、どうした物かと霊夢は思案に暮れる。
賑やかなのは嫌いじゃないが、人里までわざわざ赴くのも面倒くさい。
そもそも祭りと言う物は、楽しむためには基本的に金銭が必要である。
まぁ、その、ぶっちゃけてしまうと博霊神社には参拝客が来ない。それはもう絶望的なくらいに来ない。
なのでお賽銭は一月で二桁の金額が入れば良い方である。
流石にそれだけでは苦しいので妖怪退治や御札等を売って、それなりには稼ぎがあるがそれも微々たる物である。

「ま、大金なんか貰っても使わないってのもあるんだけどね」
「はぁ、そうなんですか。それでどうするんです?私としては穏便に済ませたいのですが」
「選択肢無し、ね」
「すいませんね。私も命かかってるんで」

霊夢は大きく溜め息を付く。
そして明日から暫く、食事がご飯と沢庵のみになる事を覚悟した。

「仕方ないわね。浴衣を探すから、適当な時間にまた来なさい」
「へ?何でまた来なくちゃならないんですか?」

キョトンとした顔の文に、霊夢は軽く笑って言った

「旅は道連れ、世は情け。せっかくだから一緒に行きましょう」
















─ 一方その頃、紅魔館では ─

「くっ、この浴衣とかっていうのは中々着るのが面倒ね」
「辛抱なさってくださいレミリアお嬢様。和のお祭りの時はコレを着るのが慣わだそうですから」
「大体こんな着方も分からないような服を着てどうしろって……ハッ!」

~ レミリアブレイン・始 ~
『れーむー、れーむー、浴衣の着方が分からないのよ。良かったら着直すのを手伝ってくれないかしら?』
『全く、レミリアは駄目ねぇ。私が居なくちゃ何もできないんだから』
~ レミリアブレイン・終 ~


「ねぇ、咲夜……」
「何でしょうか、お嬢様」
「アタイ、何だか浴衣の事を……好きになれそうな気がしたんじゃい!」
「はいはい、分かりましたからあまり動かないで下さいね」
「いや、そこはツッコミなさいよ」




─ 一方その頃、永遠亭では ─

「あれ、どうしたんですか師匠。浴衣と睨めっこして」
「あらウドンゲ。ちょっと悩んでたのよ」
「何をです?」
「去年うっかり防虫剤を入れるのを忘れていてね、浴衣がボロボロなのよ」
「確かに所々に穴が開いてますね」
「で、今年は浴衣は止めようと思ったのだけれど。姫がねぇ」
「随分と楽しみにしてらしたみたいですね」


「と、言うわけで。永琳の浴衣がどうしても見たいからどっかから調達してきなさい」
「帰れ」
「まぁそう邪険に扱うな妹紅。仮にも今回の出資者の一人なのだから。……そうだな私の古い浴衣で良ければ譲るが」
「是非ともお願い致します譲って頂けませんでしょうか」
「ちょ、顔を上げてください輝夜殿。そこまでしなくても譲りますから!」




─ 一方その頃、白玉楼では ─

「よーむー、よーむー」
「どうしました、幽々子様」
「いいからこっちへいらっしゃい」
「はぁ。……それで、何でしょうか」
「はい、貴女に私からのプレゼント」
「これは……新しい浴衣ですか?」
「そうよー。妖夢も女の子なんだから、たまにはお洒落を……って妖夢。もしかして泣いてるの?」
「いえっ、決して、グズッ。決して泣いてばぜんっ!」
「全く。嬉しいのは分からなくもないけれど、妖夢の可愛い顔が台無しよ?」















そんなこんなで刻は進み















─ 夕方 人里 ─


「うっわぁ、これまた……」
「想像以上に混雑してますねぇ……」

霊夢と文が人里に降り立った時の第一声がこれだった。
前を向けば人、妖怪、人、妖怪
右を向いても人、妖怪、人、妖怪
左を向いても後ろを向いても人か妖怪の居ない所は無いようなありさまだった。

「いやさ、確かに人妖交えてとは書いてあったけどね。ここまでとは思わなかったわ」
「それだけ紅魔館、永遠亭、白玉楼の影響が強大だと言う事だ」

半ば呆れている霊夢の後ろから声がかかる。
振り向くとそこには二本の鋭い角と一つのリボンを付け、いつもと変わらない格好をした人里の守人が居た。

「あー、今日って満月だったっけ?」
「それ以前にまだ月の顔すら見えていないのですが」
「ハハハ、細かい事は気にするな。せめてコッチの状態じゃないと私の体が持たん。精神的に」

思わず慧音が本音を漏らす。心なしか慧音の顔がやつれている様に見えた。

「そんな事より、人里にこんなに妖怪を入れて大丈夫なのですか?」
「……あれは数日前、何故か私の家にレミリアと輝夜と幽々子が来たときだった。私達は祭りの間だけの、妖怪達との不戦条約を交わしにいったんだ」
「それはまた珍しい。百年に一度あるかないかのネタですね」

何時の間にか持っていたメモ帳に文は慧音の話を一字一句逃さずに書き写す。
ジャーナリスト魂ここにありと言ったところだろうか。

「それでまぁ、当たり前だがそう簡単にできるはずもなく。話は平行線を辿っていたんだ。それに業を煮やしたレミリア達がな……」



『まぁ別に約束をしなくてもいいじゃないか。祭りの時に襲ってきたら一族皆殺しにすれば』
『あら、吸血鬼にしては慈悲深いわね。私ならそれに加えて付近の妖怪の住処を片っ端から吹き飛ばすわよ』
『んー、と言うか今ここで皆殺しにしちゃえばいいんじゃないかしら』
『それだ』
『流石、亡霊が言う事は一味違うわね』



「……それでまぁ、妖怪の代表が『マジ勘弁して下さい』と平伏して条約が成った訳だ」
「それって脅迫じゃ……」
「一つ付け足すなら、レミリアと輝夜は兎も角幽々子は確実に本気だったな」
「ま、アイツならやりかねないわね……」

ハァ。と、三人ほぼ同時に溜め息を付く。
三者三様、この件についての犠牲者として何か共感するものがあったのかもしれない。

「さて、それじゃあ私はそろそろ見回りに戻るとするよ」
「慧音、私からは頑張ってとしか言えないわ」
「右に同じく、です」

慧音は二人に「ありがとう」と礼を言うと、人ごみの中へと消えていった。







「それにしても、アンタがミニスカート以外を穿いてるのって初めてみるわね」
「私としても、霊夢さんが巫女服以外を着ているところを見たことがありません」

霊夢と文は二人とも浴衣を着用していた。
霊夢の浴衣は白を基準とした赤の紅葉模様で、帯色は赤。
文の浴衣は薄茶を基準とした黒の羽根模様で、帯色は濃い赤。
どちらも色合いに潰される事も無く、見事に浴衣を着こなしていた。

「ま、あの服の方が動きやすいから良く着るんだけどね」
「同感です」

「おっちゃん!これ一回やるわ!」

そんな事を話しながら歩いていると、不意に近くで聞いた事のある声が聞こえた。







「何だ、誰かと思ったら三馬鹿じゃない」
「アタイは馬鹿じゃないっ!」
「私も知らない事はあるけど馬鹿じゃないよー」
「え、何、一緒に居ただけで私も馬鹿扱い?」

三馬鹿と呼ばれたチルノ、ルーミア、リグルはそれぞれの反応を返した。

「まぁそれは置いておいて。一体何をしているんです?」
「水風船吊りだよ。嬢ちゃんもやるかい?」

文の問い掛けに対し、捻り鉢巻をした中年のおっさんが答える。
どうやらこの三人はこれをやろうとしていたらしい。

「いえ、今は遠慮しておきます」

文は丁重に断った。
それなりに長い時間、祭りを楽しむためには荷物は少ない方が良いと思ったからだ。
おっさんは「それじゃまた後で来てくれよ」と言いながら慣れた手つきで釣竿を作り、チルノに渡した。

「チルノー、頑張ってねー」
「ふっふっふ、水風船殺しと呼ばれたアタイの腕を見せてあげるわ!」
「いや、水風船を殺しちゃ駄目でしょ」

そんなやり取りをしながら、チルノは慎重に釣竿を水風船に付けられたゴムの輪の中へと入れる。
そして吊り上げようとして持ち上がった直後、釣竿はブツリと切れてしまった。

「あぁぁぁぁぁーっ!!」
「ハハハ、惜しかったねお嬢ちゃん。残念賞に一つだけ好きなのを持っていきな」
「くー、悔しいーっ!」

そう言いながら青色の水風船を一つ、手で掴み取った。
癇癪を起こしたりしない様子を見ると、祭りの楽しみ方は知っているようだ。
ふと、霊夢が疑問を口にする。

「そういえばアンタ達。お金はどうしたのよお金は」
「へっへーん、ちゃんと持ってるわよーだ」

そう言うとチルノは懐から硬貨を数枚出し、霊夢に見せた。

「氷菓子の氷を作ったお駄賃らしいよ。勿論私とルーミアは一文無しだけど」

出された硬貨についてリグルが説明をする。確かにそれであれば説明はついた。

「ま、変な事で稼いだお金じゃなければいいわ」
「分かればいいのよ分かれば」

バッションバッションと戻ってくる水風船を手で叩きながら、チルノは得意げな顔をした。

「チルノー、あそこに射的ってのがあるよー」
「射的ならアタイに任せてよ!こう見えても射的殺しと呼ばれた事もあるんだから!」
「いや、射的を殺しちゃ駄目でしょ。と言うか何個異名を持ってるのよ」

そんな事を言いながら三人は射的の店へと向かって行く。

「面倒ごと起こすんじゃないわよー」

霊夢の忠告に、リグルが手を振って返した。







「それにしても妖怪の店なんかも多いですね」
「そうね。ミスティア辺りもどっかで屋台広げてるんじゃないかしら」
「後で軽く寄って行きましょうか」

出店を色々と見ながら歩いていく二人。
その店先に並んでいるものは同じ様で、微妙に違ったりする。
そういう物を眺めながら歩くのも祭りの楽しみ方の一つなのかもしれない。
ふと、霊夢の目に一つの露店が飛び込んできた。







「いらっしゃいいらっしゃい、科学の粋を結集した面白いオモチャがあるわよー」
「なあ教授、何で私達はこんな所でこんなものを売らにゃならないんだ?」

気だるそうな顔をしながら北白河 ちゆりは話す。顔からはやる気なんてものは皆無だった。

「それはね、ちゆり」

教授と呼ばれた当人、岡崎 夢美は深刻な顔をして言い放った。

「どこかの、誰かさんが、何も用意してなかったのに、船を勝手にいじって、またこっちの世界に来ちゃって、エネルギーの充填がまだできてなくて、食料の備蓄が三日で切れたからでしょうが!」

言葉を区切るごとに、夢美はちゆりに近づいていく。
その迫力に押され、ちゆりは後ろに下がるしかなかった。

「えー、あー、ホント御免なさい。私が全面的に悪かったぜ」
「はぁ、まあ過ぎた事を言っても仕方が無いわ。兎に角、明日を生き残る事を考えなきゃね」
「切実だな」

口論もそこそこに、再び営業スマイルを顔に貼り付け客寄せをする。生き残るにはやるしかないのだ。

「ぁー、何か凄い懐かしいのが居る」

そんな店の前に、霊夢が顔を覗かせた。

「いらっしゃいー。珍妙奇天烈な道具が目白押しよー」
「コレなんか凄いぜ。ちょっとボタンを押すだけで必殺の一撃が……うおっ、まぶしっ」
「いや、気付かないまでももうちょっとマシな反応しなさいよ」
「んー?誰だったかしらねぇ」

勝手に閃光を自分に浴び、「へぁー、目が、目がぁぁぁぁ」と転がりまわっているちゆりを尻目に、夢美は霊夢の顔をジッと見つめる。

「残念ながら、やっぱり私の記憶の中には無い顔ね」
「フフフ、ならこれを見ても知らない人間だと言い切れるかしら」

「出ろぉぉぉぉっ!るぅぅぅぅぅぅぅ~ことぉぉぉぉぉぉぅ!!」

パチンと指を鳴らしながら、霊夢は空に向かって叫んだ。次の瞬間。

「お呼びでしょうか、ご主人サマ」

地中から緑色の髪をした、メイド服を纏った女性が現れる。背中にそびえる黄色の核マークが目に痛い。


~ 説明しよう る~こととは? ~

る~こととは、過去に霊夢が遺跡に向かい夢美達と戦い勝利した事がある。
その時に夢美から譲り受けたお手伝いロボットがる~ことだ!
ちなみに、動力はアトムと同じだぞ。

~ 説明終わり ~


唐突に現れたる~ことを見て夢美は全てを把握した。

「あーあーあーあーあー!あの亀に乗ったっていう表現が今となってはいやらしい巫女!」
「いやらしいは余計よ」

夢美はこれまでの経緯を、霊夢に話す。
ちなみにちゆりはまだ「へぁー、へぁー」とか言っており、る~ことはどこかへと戻っていった。

「しかしまぁ、アンタも大概馬鹿よねぇ」
「クッ、返す言葉も見つからないわ」

何やら和気藹々と話している二人に、一人の介入者が現れる。

「あの、霊夢さん。この方は友人なんですか?」

話から完全に置いてかれていた文だった。

「ま、友人と言うか何と言うか。昔にちょっとした縁があったのよ」
「はぁ、そうなんですか」

返事はするが、文はイマイチ理解していない。
無理も無いだろう。「縁があったら」で全てを理解できたらたまらない。

「とりあえず、もし何か話とかがあるのなら祭りが終わったら神社に来なさい。聞くだけなら無料だから」
「ご飯っ!ご飯出るっ!?」
「……」
「……」
「……白米と沢庵だけなら」
「あ、うん。御免なさい」

二人揃って切実だった。








─ 霊夢が夢美に再会していた頃 人里の別の場所にて ─

ある木の下に、一人の少女が立っていた。
その周りには二体の人形が忙しなく飛び回っている。

「全く、自分から誘っておいて待たせるなんて。マナーがなって無いわね」

その少女、アリス・マーガトロイドは人形に向かって呟いた。
ちなみに彼女、現在で1時間待ちである。
だからといって黙って帰ったり、イラついたりはしない。何故ならそれが日常茶飯事だからだ。

「おーいアリスー。悪いなー、待たせちまってー」

遠くから声が聞こえてくる。
アリスが聞こえてきた方角を向くと、一人の少女が箒に乗ってこちらへと向かってくる。
アリスを祭りに誘った張本人、霧雨 魔理沙だった。
魔理沙はアリスの目の前に下降すると、軽やかに箒から飛び降りた。

「いやぁ、予想以上に浴衣を着るのに手間取っちまってな。仕方ないからこーりんに着せて貰ってたんだ」
「女性としてそれでいいの貴女……」

魔理沙の言葉にアリスは呆れ返った。

「ま、いいわ。折角の祭りだし、色々聞くのは野暮ってもんだしね」
「賢明だぜ」

二人は、祭りの喧騒の中へと入り込んでいった。



魔理沙とアリスは他愛も無い事を話しながら歩いていく。
ふと、魔理沙が何かに気が付いた。

「アリス、振り向かないように聞け。どうやら付けられてるみたいだぜ」
「ちょっと待って」

アリスが振り向く代わりに二体の人形を後ろへ向けさせ、その瞳が見たものを魔力を通じてアリスの目に映す。
人妖の群れに紛れて、手拭いの様なものを頭に被りこちらを窺う、いかにも怪しい人物を見つけた。
それを見て、アリスは深く溜め息をついた。

「魔理沙、先に謝っておくわ。御免なさいね」
「だが断るぜ。私の最も好きなことの一つは筋を通さない相手にNOと言ってやる事だ」
「それはあんたでしょ」
「ああ。つまりは気にするなって事だぜ」

そんな事を言いながら一つ、角を曲がった。
怪しい人物はそれを見て、自らも角を曲がる。

「お、予想通りに追いかけてきたぜ」

その目の前に、待ち伏せをしていた魔理沙とアリスが居た。
予想外の出来事に慌てる怪しい人物。
アリスは怪しい人物の手拭いをムンズと掴み

「魔界を放ったらかしにして、一体何しに来たのよ。お母さん」

そのまま手拭いを引っ剥がした。



「何しに来たって、久しぶりにアリスちゃんの様子を見に来たのよ」

アホ毛を揺らしながら、笑顔で神綺は答えた。

「それにしても、良く私の華麗な変装が分かったわね」
(あれだけ特徴があればねぇ……)

アリスは心の中で先程の神綺の姿を思い出す。
魔界の時と変わらない、赤い服装。そんな服を着ているため余計に目立つ手拭い。
何より一番目立っていたのが、頭に手拭いを被っているはずなのにピョコンと飛び出すたくましいアホ毛。
正直気付くなと言うほうが無理だ。

「まぁまぁアリス。せっかくの祭りなんだ、色々聞くのは野暮ってもんだぜ?」

魔理沙がアリスの肩をポンポンと叩く。アリスは二度目の溜め息をついた。

「まぁ百歩譲って様子を見に来たのはいいわ。でもこれだけ聞かせて、お母さん一人で来たの?」
「そうしたかったんだけどね、夢子ちゃんに猛反対されて。仕方なく二人で来たわ」

当たり前である。
神綺の職業は魔界神。魔界の全てを支える様な人物が単身何処かへ行くと言うのはあってはならない事なのだ。
胃が常に痛いであろう夢子に、アリスは心の中で感謝した。

「それで、そのお付ってのは誰なんだ?」
「さっきからアリスちゃん達の後ろに居るわよー」

魔理沙とアリスが振り返る。

「久しぶりねアリス。元気にしてたかしら?」

そこにはお付で付いてきたのであろう、ルイズが綿菓子を片手に立っていた。













時刻も過ぎ、祭りの盛り上がりは更に増して行く。
所々で酔っ払った人間や妖怪による喧嘩等が繰り広げられているが、すぐさま警備の人妖がやってきて喧嘩両成敗をしたり
迷子の人の子を、妖怪が見つけて一緒に親を探していたり。
幻想郷の様で幻想郷でない、そんな光景が繰り広げられている。
そんな中、一人の緑色の浴衣を着た少女が歩いていた。




「ああもう、何処に行ったんだ幽々子様は……」

妖夢がキョロキョロと辺りを見回す。
一緒に祭りに来ていたはずなのだが、少し目を離した隙に何処かへと一人で行ってしまったようだ。

「幽々子様の身に何かがあるとは思えないけど、せめて何か言ってくれれば……」

そんな事を呟きながら、必死に幽々子の姿を探す。
しかしあまりの混雑具合のせいで、思うようにはかどらなかった。


「ん、妖夢じゃないか。こんな所で何をしているの?」

妖夢が「いっそ未来永劫斬で血路でも開いちゃおうかな」なんて物騒な事を考えていると、横から声がかけられる。
そちらを見ると、黒を基調とした布地に黄色い月の模様が描かれた浴衣を着たルナサが近づいてきた。

「ルナサさん、幽々子様を見かけませんでしたか?先程はぐれてしまったのですが……」
「いや、残念ながら見て無いよ。……ところで、その背中に貼り付けている紙は何?」
「え、ちょっと取って貰えますか?」

ルナサが妖夢の背中に回り、引っ付いていた紙を剥がして妖夢に渡した。



『妖夢へ
  ちょっと用事があるから、適当な相手と一緒に楽しんでください
                                  ゆっこたん』



「ゆ、幽々子様ぁぁぁぁっ!」

妖夢は思わず叫ぶ。
心の中で色々な感情が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返したが言葉に出す事はできなかった。
その叫び声も、辺りの喧騒にすぐにかき消される。

「んー、とりあえず大丈夫みたいね」
「はぁ、そうみたいです。あれですか、私の探していた時間は全部無駄ですか」

妖夢の肩がガックリと落ちた。

「それで、どうするつもりなの?」
「仕方ありません、一人で見て回ることにします。そういえばルナサさんは一人なんですか?」
「まあね。ちなみに妹達はあそこ」

そう言ってルナサは指を差す。



「行くわよリリカ、しっかり付いてきなさい!」
「メル姉こそ!私の音階に遅れないようにね!」

どぉーん!どぉーん!どぉーん!

メルランとリリカは和太鼓を思いっきり叩き始める。
その場所を輪にするように、下では踊っている者達が居た。



「お盆でも無いのに、何で盆踊りをしてるんだろうなホント」
「いや、私に聞かないで下さいよ。つまり逃げてきたって事ですね」
「そんな感じ」

威勢の良い太鼓の音が辺りに響く。
確かに、少々鬱の気が入っているルナサには辛いのかもしれない。

「ルナサさん、せっかくですし一緒に見て回りませんか?」
「丁度私もそう考えてたのよ。行きましょうか」

一人で祭りを見て回る者同士、こうなるのは必然だった。








誰もが一攫千金を夢見る。そんな出店がこういう場所には必ず存在する。

くじ引き?NO
ビンゴ?NO

答えは『カタ抜き』である。
そんないくつも在るカタ抜きの出店の一つに、一組の妖怪が居た。

「むー、また割れちゃった。藍さまー、もう一回挑戦させて下さい!」
「はいはい、あまりムキになり過ぎないようにな」

マヨヒガに住む妖怪と式神。八雲 紫 藍 橙。通称八雲一家がカタ抜きにチャレンジしていた。

「やっぱり橙はこういう細かい事には集中するわねぇ。それに比べて……」

紫が藍の方を見る。それとほぼ同時に
ズダンッ!
と、カタを針で一突きにした。当然カタはバラバラである。

「ゆ、紫様。私にはこれは向いていないようです。と言うか何ですかこの重箱の隅を突付く様な作業は」
「藍、言葉の使い所を間違ってるわよ。とりあえず落ち着きなさいな」

紫が藍をなだめていると、フギャッ!と声がした。どうやら橙も失敗したらしい。

「藍さまー、また駄目でしたー」
「紫様、そろそろ次の出店に向かいませんか?いや、むしろ向かいましょう。向かわせてください」
「全く、そうやって直ぐに諦めるから駄目なのよ。おじ様、私にも一枚下さいな」

紫は店主にお金を渡し、カタの入った袋を一つ貰う。

「良い?藍、橙。カタ抜きってのはこうやってスマートにやる物よ」

袋から取り出したカタを左手に軽く持ち、右手で軽くカタにデコピンをする。
勢いに押され、カタが軽く奥に動く。反動で元の位置に戻ってきた次の瞬間、カタから一気にクズが吹き飛んだ。

「指先一つで全ては終わり、配当金は壱万円。ってね」

辺りの客から、歓声と拍手が鳴り響いた。
店主から「こいつぁやられた、持ってけ泥棒」と配当金を受け取り、八雲一家は次の店へと向かっていった。























─ 博麗神社 屋根の上 ─

「霊夢も魔理沙も、中々楽しんでるみだいだねぇ」

屋根の上で一人、魅魔が人里の方向へ向かって呟いた。

「ま、理由や行動は色々あれど、祭りってのは楽しんだ者勝ちさね」
「例えそれが遠くで眺めているだけだったとしても、かしら?」

空から声がかけれられる。
魅魔はそちらを見ることは無かったが、誰が来たかは分かっていた。

「そう言う事。これで酒の一つもあればもう最高」
「どうせそう言う事だろうと思って、持ってきてあげたわよ」

そう言うと風見 幽香は魅魔の隣に腰掛けた。

「流石、アンタは風情って物を理解してるね」
「私としては貴女と一緒に飲む時点で風情の欠片も無いのだけれどね」

幽香はどこから取り出したのか、コップを二つ出す。そして片方を魅魔に渡した。
そのまま手に持っていた焼酎の蓋を開け、魅魔のコップに注ぐ。

「おっとっと、すまないね。それじゃご返杯といこうか」

幽香は魅魔に焼酎の瓶を渡し、コップを構える。
トプトプと音をたてながら、焼酎はコップに注がれていった。

「一時の気紛れに」
「一時の友好に」

「「乾杯」」

カチンを杯を鳴らし、二人は酒を飲んでいく。
遠くで空が七色に光り始めた。

「花火が鳴り始めたって事は、そろそろお祭りも終わりに近づいているのかしらね」
「そうみたいだねぇ。こういう物はあまり長々とやり過ぎないのが一番さ」
「そしてその余韻を楽しみながらお酒を嗜む、と」
「風流だね」
「風流よね」
「最近の若いのはそこら辺をわかっちゃいない」
「あら、皆がその楽しみを知ったら余韻も何も無くなっちゃうわ」
「そりゃ大変だ」

語り合いながら二人は酒を飲み続ける。
空には祭りの終わりを告げるように、一際大きい花火が鳴った。















あれ、おかしいな。
最初の予定では美鈴が花火の変わりに打ち上げられたり、ウドンゲが花火の変わりに打ち上げられたりするはずだったのに。

と言いますか、後書きに書こうと思った事ほとんど忘れちゃった。
とりあえず全部の作品から代表者をかき集めて最低一つは描写しまし……あれ、何か忘れてるような


─ 忘れられた作品の代表者の方の様子 ─

「四季様ー、そろそろ仕事切り上げて祭りにいきましょうよ。過去最大規模ですよ?」
「小町、貴女が毎日ちゃんと仕事をしていればここまで捌きを待つ者が溜まらなかったんです」
「……ホントスンマセン」
「ちきしょー!私だって仕事放り出して行きたいですよ、お祭り!でも仕事が一行に減らないじゃないですか!」






ここまで読んでもらって有難うとかは一切書かない。それがアティラリクオリティ

7/8 7:05
第一回誤字修正
アティラリ
簡易評価

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コメント



0.2490簡易評価
13.70熱暴走削除
再開が間違ってます 再会ではないでしょうか?
自分の思い違いならすみません

旧キャラと現キャラとの入り交じったお話は余り見かけることが出来ない中、
この作品は、割と良いと思いました
24.70名前が無い程度の能力削除
>熱風疾風七夕祭り!人妖交えて大爆発!ポロリもあるよ
ポ、ポロリはどこですか、ポロリはッッ!?
31.80名前が無い程度の能力削除
>ポロリ
雑踏の中に白と紫のツートンカラーの皮膚を持った背の低い宇宙人がいたから、きっとそいつじゃないか?
…いや、出し物のステージ脇に、横縞のシャツにオーバーオール?を着て、頭にバンダナをつけたネズミの着ぐるみがあったから、そっちかも知れんな。
32.80名前が無い程度の能力削除
>仕方ないからこーりんに着せて貰ってたんだ

そうか よし、こーりん殺す。
36.80名前ガの兎削除
色々好きな場面はあるけれど、最後の魅魔様とゆうかりんに乾杯
37.100名無し参拝客削除
>見た目30代の女性が「私はまだまだ現役よ♪」とか言いながらブレザーミニスカを着たりするのとは別のベクトルで痛い。
チバレイの事かぁああああ!!!!
まあ、某サ○ラの声優さんたち程の痛さでは(夢想封印

>「ちょ、顔を上げてください輝夜殿。そこまでしなくても譲りますから!」
『萌え(アキバ的発音で)』のためなら、プライドも捨て去る輝夜さまに食後のヨウカン吹き飛びました。

れみりや:『まぁ別に約束をしなくてもいいじゃないか。祭りの時に襲ってきたら一族皆殺しにすれば』
ニート女神:『あら、吸血鬼にしては慈悲深いわね。私ならそれに加えて付近の妖怪の住処を片っ端から吹き飛ばすわよ』
暴食幽霊:『んー、と言うか今ここで皆殺しにしちゃえばいいんじゃないかしら』
もこたん:『それだ』
えーりん、えーりn:『流石、亡霊が言う事は一味違うわね』
こうですか!わかりません!

39.90名前が無い程度の能力削除
GJ!!