Coolier - 新生・東方創想話

紅白混ざれば桃色模様(1.5)

2006/07/05 15:57:05
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とある屋敷の一室に、一人の少女の死体が転がっていた。
と、表現すると、明らかに殺人事件なのだが、
屋敷とは冥界は白玉楼である。と記した瞬間に、それはただの日常となる。
要するに、西行寺の幽々子様が寝っ転がっていたという訳だ。

しかしながら、今の白玉楼の状況は、日常からは大きく逸脱していると言わざるを得ない。
矛盾しているが、事実である。
畳にだらしなく寝転がっている事が、ではない。
それを咎める者が存在しないのが問題なのだ。




「むー……」

むくれつつ、幽雅にごろごろと回転。
でも、一人。




「……大体おかしな話なのよ。私が色々と企んでるのなんていつもの事じゃないの。
 なのに刃を向けて反逆した上に、家出だなんて。
 そんな聞き分けの無い子に調教した覚えは……少ししか無いわよ」
 
転がるのに飽きたのか、今度は延々と愚痴を漏らし始めた。
でも、一人。




「……ぐすっ」

悲しくなったのか、畳へ大の字になると、少し泣いた。
でも、ツネさんが迎えに来てくれないので、やはり一人。




「つーか腹減ったんだよコンチクショウが!!!」

ついには、自発的に暴れ出した。
枕にしていた座布団を力任せに引き裂き、勢い良く壁へと叩きつける。
当然、中の綿が部屋中に飛散するという悲惨な事態に陥ったのだが、それでも幽々子は止まらない。
お手製のカリスマ掛け軸に向かっては、両足の揃った美しいドロップキックを見舞い、
返す刀で、卓袱台へと高角度のフットスタンプをぶちかます。
視界に入った鬱陶しい箪笥は、電光石火の下段ガード崩しで粉微塵に粉砕。
そして止めとばかりに、華胥の永眠発動と、まさにやりたい放題だった。

でも、一人なので、誰も止めてくれません。
私は冥界の空気を吸うだけで幽雅になれると思ってたのかなぁ。と呟いていたとかいなかったとか。




「ふぅー……はぁー……ふぅー……」

数分後。
流石に疲れたのか、幽々子は荒い息もそのままに、ぺたりと座り込む。
平穏なる生活の象徴であった白玉楼の居間は、今や世紀末覇者的な空間へと変貌していた。
ここならば、棘付きの防具を身につけたモヒカンが屯していても、誰も疑問には思うまい。

「……落ち着きましょう、暴れても仕方が無いわ」

無論、誰も聞いていないので独り言である。
大体にして、こういう台詞は、落ち着けない人物こそが放つものなので、信用してはいけない。

「妖夢だって、少しばカり気紛れを起こしているダけよ。直ぐに帰ってくるわ。えエ」

声が上ずり過ぎて説得力の欠片もなかった。
やはり一人なので問題は無いが。

「……でも、やっぱり、いないってのは腹立たしいわね……」

幽々子は、静かに決意を固めると、音もなく立ち上がる。
くどいようだが、一人なので、誰も聞いては居ない。


「今、居ないという事は……ずっと帰ってこないのかも知れないんだものねェーーーーーーッ!!」


そして、また切れた。
喚き、叫び、壁に拳を叩きつけ、柱にハイキックをかまし、ESCキーを飛ばして紛失する。
説得力が感じられないのも当然か。

今日の幽々子の行動について統計を取るならば、切れて暴れて少し反省してまた切れる、の繰り返しであった。
何しろ、白玉楼の人口は、基本的に二名であり、今に至ってはオンリーワン。
突っ込みを入れる者が存在しない以上、ボケ専の幽々子が出口の無い迷路に迷い込んだのも仕方の無い事だろう。
しかも、周知の事実として、彼女は極めつけにエネルギー効率が悪い。
一般人をC3とするなら、西行寺幽々子とはプレスコットコアのP4に他ならないのだ。
故に、冥界とは魂ではなく食物の辿り着く場所だ、と遠い目をして語った妖怪もいたとか、いなかったとか。









そんな訳で、既に日も落ちようかと言うこの時分にも、今だ幽々子は迷走を続けていた。

「ふふぅ……もふふぅ……」

みょんな呻きを漏らしつつ、荒れきった室内を尺取虫のような動きで徘徊しては、
奇跡的に形が残っていた壷に向かって延々と頭突きを繰り返すその様は、
冥界の姫としてというより、人のカタチをした存在として色々と終わっている。
いやいや、幽々子様がそのようなポーズを取ったのなら御飯三杯は堅いです。
と自信を持って言える尻フェチもいるかもしれないが、それが誰を指しているのかは死んでも言えない。
なお、言うまでも無い事だが、壷の中身は漬物である。

「おいちゃんなぁ……この戦いが終わったら、故郷で店でも初めよううと思っとんねんな……」

何時の間にか死亡フラグまで立て始めたが、既に死んでいるのでこの場合はどうなるのか不明だ。
ともかく、救いようが無いくらいに壊れているのは確かだろう。
妖夢が居なくなったという事実は、それほどまでに幽々子を追い詰めていたのだ。
無論、肉体的にも精神的にもだ。

と、その時。



『……おんろべいじんばらきりく……』



「……?」

それは、真言と呼ぶには、余りにも禍々しい響きであった。
故に、周囲に気を払う余裕が微塵も無かったはずの幽々子の耳にも届いたのだ。




『……おんばざらさらばこく……』



「OH……この私を除霊しようだなんてファンキーな輩が存在したとはねえ……」

立ち上がった幽々子は、くっくっ、と見るに耐えない醜い笑いを漏らしつつ、声の方向へと歩み寄る。
それも、何故か片脚ケンケンで。



「……なうまくさんまんだーぼだなん……」

居間……と呼ばれていた場所へと通じる廊下に、それはいた。
頭部と足の裏のみを床へと付着させた見事な人間橋を描きつつ、延々真言を漏らし続ける怪しげな人影。
服装は乱れに乱れており、表では表現できない行為でもされたのかとも思える有様だが、
右手に煌く銀の輝きと、左手に抱えているカーネルサンダースの頭部が、それを否定する。
顔色は、死んでいる自分よりも悪い癖に、目だけは爛々と血走っていて、とても怖い。

「……」

悪い意味で近寄りがたい存在ではあったが、幽々子はまったくお構いなしに、ぴょこぴょこと距離を詰める。
もっとも、その人物も、とうに幽々子の存在には気付いている筈なのに、まるで気にした様子もない。
いや、事実気付いていないのかもしれない。

それは、何も見てはいなかった。
それは、一切の思考を持っていなかった。
それは、どこまでも存在が希薄であった。
それは、1d200 のダメージで切って攻撃する。


故に、幽々子に出来る事はただ一つ。



「フゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「アルティメットKOーーーーーーーーーーーーッ!!」


脳天に向かって、チョップを振り下ろすのは、必然である。










「……また随分と様変わりしたものね。模様替えにしてはやり過ぎじゃないの?」
「ほっといて」

惨劇から間を置くこと、およそ三十分。
ガムテープで緊急補修された卓袱台で向かい合う、二人の少女の姿があった。
幽々子と咲夜である。
ハァ? 少女? 何言ってんだお前。大辞林で調べてこい。との突っ込みが聞こえたような気がしないでもないが、
あえて無視していきたい所存だ。

幽々子のW・O・R・Mによる一撃は、咲夜の精神状態を正常に引き戻すに、十分に値する効果を持っていた。
また、それは同時に、幽々子自身の正気を取り戻す効果もあったようだ。
当然というか、直後に殴り合い蹴り合い極め合いの醜い喧嘩が始まったのだが、その詳細については語らない。
ともかく二人は、熱いコミュニケーションを経た後、立ち話も何だという事で、居間へと落ち着いたという訳だ。

「ところで、お客様にお茶の一つも無いの?」
「別段、貴方を招いた記憶は無いわ。
 ……というか、昨日の今日で良くも顔を出せたものね」

幽々子の機嫌は、すこぶる悪い。
何せ、咲夜は紛れも無き裏切り者である。
仮にあの時、二人で平謝りでもしておけば、ここまで悲惨な状況に陥る事は無かったろう。
しかし現実に咲夜は逃亡し、レミリアには存分に追い回され、挙句妖夢には家出されたのだ。
……というのはあくまでも、幽々子の想像に過ぎなかったりする。
実際のところ、幽々子は完全なる共謀者故に、この結末に至るのは当然と言えた。
自覚が無いとは、大変に恐ろしい事なのだ。

「……そういえば、どうして私、ここにいるのかしら」
「はい?」
「どうも、今朝方から記憶がはっきりしないのよ」
「……はあ」
「でも……何か、とても衝撃的な事があったような……」
「衝撃的、ねぇ」

恐らく紅魔館で何かしらのお仕置きを受けたのだろうと幽々子は解釈した。
よくよく考えれば、あの場から逃亡した所で、咲夜の帰る場所は紅魔館以外に無い。
そうなれば、全面的に非のある咲夜が、改めて糾弾を受けるのは当然の帰結だろう。

「ま、貴方の記憶なんてどうでもいいわ。今、私は忙しいのよ」
「廃墟の中をワームで徘徊するのが忙しいの?」
「み、見てたのね……でも、濁った瞳で虚空を見つめて真言を呟く貴方も、大したものだと思うわ」
「……あら、私、そんな事してたのね」

自覚が無いのか、まるで他人事だった。

「ともかく、さっさと帰りなさい。私は妖夢を探さないといけないのよ」

たった今思いついた事なのだが、口には出さない。
実際問題、このまま無為に憂さを晴らし続けるだけでは、白玉楼、及び幽々子の将来は暗い。
ここは一つ、素直に謝る……振りをして騙くらかしてでも、妖夢には帰ってきて貰わねばならないのだ。

「……妖夢?」
「そうよ。……まあ、恥ずかしい話なのだけど、あの子家出しちゃったのよ」
「……」
「まったくもう、柄にもなく本気で拗ねちゃって。何を今更って言いたいわね」
「……」
「まあ、妖夢の行くところなんて、せいぜい紫の所か博麗神社くらい……咲夜?」
「……」

そこでようやく、咲夜の変調に気が付く。
視線はこちらを向いているのに、その瞳には誰も映っていないのだ。
正に呆然と表現するのに相応しい魂の抜けっぷりに、幽々子はある種の予感のようなものを受ける。

「ま、待ちなさい咲夜! 気を確かに持つのよ!」
「……う、えっ……」

だが、遅かった。
幽々子の制止も空しく、咲夜は滂沱の涙を流し始めたのだ。

それは正に、駄々っ子泣き。
人目も憚らず、全力で叫び、喚き、暴れ、そして泣いた。
完全な者は涙など流さないというのは大間違い。
むしろ、泣く時もまた、完全に泣くのだと理解せざるを得なかった。
こうなると幽々子も、放っておく訳には行かなくなる。
自分からアクションを起こさない限り、この大泣きは止まらないだろう、というお約束を知っていたからだ。


「奥義、ゴッドプレッシャー!」
「ひっく、えぐっ、う……もふっ」


大層な名前だが、要するに、強引に抱き寄せては、顔を自慢のおっぱいへと強制的に埋めさせただけである。
しかし、本来ならば安定した効果を発揮するこの技も、こと咲夜が相手となると、リスクの大きな賭けとなる。
何しろ咲夜と言えば、胸が大きいという理由だけで大量殺人を働くという、大変な困ったちゃんだ。
下手をすれば、次の瞬間にナイフで掻っ捌かれても不思議は無いのだ。

だが、それを畏れる訳には行かない。
この技を使用するには、単に胸の大きさだけではなく、
豊穣たる胸部と等しき慈愛に満ちた広き心が必要不可欠であるからだ。
単純たれども、奥義と称される所以である。

「泣きなさい、思いっきり泣いて、嫌な事全て洗い流してしまうのよ」

それっぽい台詞を残すのも忘れない。
そもそも、どうして咲夜が泣き出したのかも知らないのだが、この際気にしない。
今の幽々子は、紛れもなくゴッドマザーなのだ。
和田アキコではない。

「……」

想いが通じたのか、咲夜は大人しく幽々子の胸へと収まったまま、涙を流し続けた。
単に、暴れる気力も無かったという線については考えないでおきたい。









泣き虫サクヤの号泣タイムは終わった。
一文字違うと大変な情景になるが、それはこの際関係無い。

「……御免なさい。迷惑を掛けたわね」
「本当にね。一張羅が台無しよ」

幽々子は意図的に軽口を返す。
ここでしんみりとした空気を作ってしまえば、予期せぬカップリングの誕生となりかねないからだ。
事実、腫れた瞼もそのままに神妙に縮こまる咲夜の姿は、不覚にも幽々子の琴線に触れかかっていたりする。
萌えの世界とは、かくも奥深い。そう結論付ける他なかった。

「それで、何があったのか、話してくれるかしら」
「……ん、そうね。貴方も一応当事者だし」



咲夜は、今朝紅魔館で起こった出来事について、詳細に語り始めた。
原稿用紙にして400枚を超えるであろう、一大感動スペクタクル歴史大作全米ナンバーワン巨編だったのだが、
聡明たる幽々子は、その感想を一言に集約してのけた。

「はぁ……まさか、妖夢が紅魔館に雇われるだなんてねぇ……」

それは幽々子としては、まったくの想定外の行動だった。
妖夢が極端なまでに人見知りが激しい事を知っていたからだ。
ならば、家出をしたところで、行きつく先は旧知の人物の所しかないと予測していたのだが、
それがあろうことか紅魔館。
しかも、咲夜と入れ替わりで侍従長の座に付くという厚遇振りだと言う。
幽々子の知る限りでは、妖夢と紅魔館の面々との接点は殆ど無い。
せいぜいが、宴会の際に他愛も無い会話をするという程度だった筈なのだ。
しかし、現実に、レミリアは妖夢を雇い入れ、同時に咲夜は放逐された。
それこそが、咲夜にあれほどの号泣を強いた原因だろう。

「……元々、お嬢様はかなり妖夢の事を買っていたから」
「そうなの?」
「そうなの。萃夢想のお嬢様シナリオをやってみれば分かるわ」
「……ああ、あの護身開眼した日ね」
「何の事だか分からないけど、朝食にあの量は多すぎると思うの」
「勝手に人の分を食べておいて文句言わないの」

意味不明な会話だった。

「ともかく、私が覚えているのはお嬢様から妖夢を紹介されるところまでよ」
「で、気が付いたらここにいた、と」
「そうなるわね」

他人事っぽく聞こえるのも、もう気にならなかった。
何しろ、己が生涯を賭けて仕えると誓った主から、あっさりと放逐されたのだ。
衝撃の余りに、記憶が飛んでしまっても不思議ではないだろう。
例えそれが、救い難い自業自得であるとしてもだ。
そういう意味では、死涯を賭けて仕えさせると誓った従者に、あっさりと見捨てられた自分も同類だろう。

「それにしても……些か性急には過ぎないかしら」
「何がよ」
「妖夢からレミリアに頼んだのか、レミリアが妖夢を招き入れたのか、どちらかは知らないけれど、
 容易に決定してしまうほど、あの二人に接点があったのかしら」
「どうかしらね。あるとしたらそれは多分……」
「……やはり、昨日の一件よね」

作戦名、『右往左往する吸血鬼&悶え苦しむ庭師を∞枚撮影せよ』
妖夢の家出と咲夜の放逐の原因となった、素晴らしき……もとい、忌まわしきイベントである。
これにより、咲夜は某烏天狗も裸足で逃げ出す、幻想郷一の(変態)撮影家として名を上げ、
一方の幽々子もまた、敏腕(変態)プロデューサーの地位を不動のものとしていた。
が、そんな彼女等も、被害者たるレミリアと妖夢の関係までは、思いが至らなかったようだ。
というか、お互いに、それぞれの標的にしか関心が無かったというのが正解か。

「……どうやら、少し検証してみる必要がありそうね」
「賛成するわ」













『あ、そうそう。
 もしも、ここを出るような事態に遭遇したら、紅魔館に来なさい。
 特別に面接無しで雇ってあげるわ』
『……ありがとうございます』


「って、思いっきりフラグ立ててるじゃない! どうして気付かないのよ! お馬鹿!」
「貴方だって今気付いたんじゃないの! 自分で撮影もしてない癖に、文句ばっかり言うんじゃないわよ!」
「お黙りなさい! 大体何よ、このブレた映像は! どこが自称ピューリッツァー賞よ!」
「黙るのは貴方よ、ド素人が! 静止画と動画を一緒にしないで!」

さて、彼女等が何をしているのかと言うと……まあ、見ての通りだ。
昨日、咲夜はカメラによる静止画撮影に留まらず、ビデオカメラによる動画撮影をも同時に行っていた。
この会合は言わば、その映像を使った検証である。
が、それはただの建前であり、実質的にはただの鑑賞会と成り果てていた。
二人の鼻から、止めどなく紅き雫が溢れ出ているのがその証拠だろう。

「……まあ、大体は分かったわ」
「……何が?」
「妖夢ったら微量に成長しているわね、先月比3ミリ増といった所かしら」
「何ですって……!? その目測が事実かつ正比例しようものなら、私は3年後には追い……」
「追い?」
「幻聴よ。成仏したくないのなら、追及はしないことね」
「へーへー」

相変わらず無駄に胸に拘る咲夜に、幽々子は呆れると同時に、少し安心も覚えていた。
それは、失意のズンドコから立ち直りつつある証拠だからだ。
もっとも、幽々子としても同様ではある。
愛すべき存在の入浴シーンは、紛れもなく彼女等の血となり肉となっていたのだ。
それを凄いと思うか、救えないと思うかは、各自の判断にお任せしたい。

「それはともかくとして……このお風呂場の一幕で、
 お嬢様と妖夢の間に信頼関係のようなものが出来たのは事実のようね」
「そうね……すると今日のような事態に至るのは必然という事かしら?」
「然り。さっきも言ったけど、元々お嬢様は妖夢を高く評価していたわ。
 そして、この様子を見る限りでは、妖夢のほうもお嬢様に対して、
 ただの顔見知りの吸血鬼以上の何かを持つようになったと判断して良いでしょう」
「そこに、私達の計画が、最悪の形で露見する……転機としては十分過ぎるわね」
「ええ……」

冷静に分析してみた結果は、至ってシンプル。
こうなるのは至極当たり前だったのだ。

「少し、先走りすぎたのかしら。普通の盗撮くらいに止めておけば……」
「やめなさい。『It is no use crying over spilt milk』よ」
「……こぼれたミルクは嘆いても無駄だ?」
「ええ、早熟な少女が、ブラを付ける事を恥ずかしがっている内に、豊かだった胸がいつしか、
 脇腹の脂肪へと成り下がってしまったという悲哀を示す格言……って、何を言わせるのよ!」
「貴方が自発的に言い出したんでしょうに。覆水盆に返らず、でしょ?」
「……そうよ」

もしや実体験なのだろうか、と一瞬思ってみたが、流石にそれは追求するに憚られた。
というか、胸を気にしてるなら、どうして自分からネタを振るのだろうかと思わないでもない。
メイドとは、謎の多い生き物だ。

「まぁ、起きてしまった事は仕方が無いわ。問題は、これからどうするか、よ」

言ってはみたものの、具体的な算段があるわけでは無い。
何しろ、つい一時間前までは、失意と混乱の余りに、徘徊レスラーと化していたのだ。
咲夜も同じであったのか、その口から奇抜なアイデアが飛び出す事は無い。
自然、鑑賞会の会場に、沈黙の帳が下りた。

「……」
「……」

そんな最中……いや、そんな空間ゆえに、とでも言おうか。


ぐぅ、という音が、重く響き渡った。


「……」
「……」

途端、赤面する幽々子。
総人口二名の空間では、誤魔化そうにも誤魔化せるものではない。

「し、静かなのは冥界だから当然よ。だから、明快に聞こえるのもまた必然なのよ」
「誰が上手く言えって言ったの。……にしても、相変わらずなのね、腹ぺこ亡霊さん」
「う、五月蝿いわね。朝から何も食べていないんだから、仕方ないでしょう」

正確に言うなら、食べていないのではなく、食べられなかった、だ。
無論、白玉楼には、常に多くの食材が貯蔵されている。
それは妖夢が家出を敢行した今日と言えども、例外では無い。
だが、悲しいかな、幽々子はそれらの食材を料理へと進化させる能力が、致命的に欠けていた。
彼女にとっては、包丁とは痴話喧嘩に活用する武器でしかないし、お玉は突っ込みを入れる道具に過ぎない。

一応、努力はした。
だが、その努力というのも、他人の目から見れば、
『幽々子ーーーッ! 貴様、確実に料理をしたことが無いなーーーッ!』
と突っ込まれる事は必至の内容であった。
当然というか、幽々子には、やりながら覚える程のラーニング能力も無く、
そもそもとして、基本的な知識すら持ち合わせていない。
よって、いくつかの消し炭をこしらえた時点で、全ての工程は終了との公示を行った。
要するに、諦めたのだ。
生で齧るほどには追い詰められていなかったのが、せめてもの救いか。

「そもそも、亡霊が三食を取る事自体が異常なんだけど……まあ、今更かしらね」

咲夜は溜息を吐きつつ、おもむろに立ち上がる。
一瞬、帰るのかと思った幽々子だが、直ぐにそれが誤りであると気付かされた。
もう咲夜には、帰る場所など存在しないのだ。

本当の所、咲夜は永久追放された訳ではなく、単に侍従長から解任されただけなのだが、
当人がそれを聞く前に飛び出してしまっていたし、また幽々子がそうした事情を知る由も無かった。



「お待たせ」
「……あれ?」



襖を開けて出て行った。と思った瞬間、何故か咲夜は室内へと舞い戻っていた。
しかも、その手には、湯気の上がる盆が乗せられている。

「あれ? じゃないでしょ。置くからスペース作りなさい」
「あ、はい」

言われるがままに、机の上に置かれた細々とした秘密の道具を、これまた秘密のスペースへと仕舞い込む。
そこへ、とん、と置かれたのは、蓋の乗せられた丼が二つ。
咲夜が赤いヘルメットを被っていない以上、これが料理である事には疑いようが無かった。

「ど、どういう風の吹き回し?」
「何よ、貴方がお腹空いたって言うから作ってあげたんじゃないの」
「そ、そう、有難う」

幽々子はいくらかの戸惑いを覚えつつも、食欲には抗えず、丼の蓋を開ける。
視界に広がるは、黄金色に光り輝く卵黄で閉じられた鶏肉。
そのルーツを同じとする二つの食材によって奏でられる旋律は、まさに日本的料理の小宇宙!

「ミスティア丼?」
「生憎、捕まえるのが面倒だったから、普通の親子丼よ」
「面倒じゃなかったら、捕まえて来てくれたのかしら……」
「何か言った?」
「いえ、何も。頂きます」

幽々子は箸を取上げると、眼前の親子丼との格闘を開始する。
箸の先が指先程度しか濡れぬほど行儀良く、かつ上品に。



「ご馳走様。見事なお手前でした」
「……」

にも関わらず、幽々子の食事は、僅か一分弱で終了した。
決してがっついていた訳でも無いのに、丼の中身が恐ろしい勢いで減っていくという、
うちゅうのほうそくがみだれる的な情景に圧倒されたのか、咲夜は今だ箸を付けてすらいない。

「あら? 食べないの?」
「……いえ、ね。なんだか食欲が無くなっちゃったわ。食べる?」
「仕方ないわねぇ。食べ物を粗末にしてはいけないのよ」

言葉とは裏腹に、譲ってくれるのを心待ちにしていたのは、容易に想像が付いた。
実のところ、咲夜も元からそうするつもりであった。
欠食児童から料理を奪うほど、彼女の心は荒んで……いたが、この児童は一度火が付くと、
消化は出来ても消火には大変手間取る故、泣く泣く却下された次第だ。

「あむあむ……それにしても貴方、こういう料理も出来るのね」
「まあ、ね。料理は私の専門じゃないけど、それでも一通りはこなせるつもりよ」

紅魔館において、咲夜に与えられていた役職は、侍従長。
故に、レミリア専任の掃除係という一点を除いては、他の侍従の監督及び統率といった仕事に悩殺される日々である。
当然ながら、調理場の仕事にも立たなくなって久しく、今や料理は趣味の領域になっていたのだ。
だが、満面の笑顔で箸を進める幽々子を見るにつけ、腕は落ちていないと実感出来た。
もっとも、今の幽々子ならば、何を食べても美味しく感じられたのだろうが。

「ふぅ、では改めて……ご馳走様でした」
「はい、お粗末様。言っておくけど、もうお替りは無いから、我慢しなさいよ」
「やーね。私を食欲魔人みたいに言わないで」

その通りやないかい。という突っ込みは、諸般の事情により差し控えられた。
基本的に、突っ込み役には悲惨な末路しか巡ってはこないものだから、と直感したのかどうかは定かではない。

「……さて、これからどうしたものかしら」
「そうねぇ……」

腹が満たされれば眠くなるの法則通り、何処か幽々子の声にやる気が感じられない。
元々無いと言えばそれまでだが、咲夜としては寝て貰う訳にも行かない。
遺憾ではあったが、今の状況において頼りに出来るのは、共犯たる幽々子だけなのだ。

「ちゃんと考えて頂戴。貴方だって、妖夢が戻ってこなかったら困るでしょう」
「んー……そうなんだけど、暫くは構わないかなー、なんて思ってるのよね」
「はぁ?」

意外と言えば意外に過ぎた返答に、思わず間抜けな声が漏れた。
人間の……というか幽々子の三代欲求の内、二つを請け負っているであろう妖夢の存在は、まさに絶対の筈なのだ。

「考えてもみなさいな。仮に謝罪に向かったところで、昨日の今日よ?
 けんもほろろに追い返されるのがオチよ。
 多分、妖夢達のほうも、まだ状況に戸惑ってる段階でしょうし、
 もう少し時間を置いて、お互いに落ち着いてから動くのが得策ではないかしら」
「……」

思考の放棄だとは思わなかった。
現実に今の自分達は、肉体的にも精神的にも疲労の極地にある。
そんな状況では、策謀を巡らせたところで、碌なものは出来上がらないだろう。
また、幽々子の言う通り、レミリアや妖夢も同様であろうことは、想像に難くない。
ならば、今出来る事は何か?

「休むことよ」
「……口に出てたかしら」
「出さずとも読み取れるくらい、貴方も疲れているという事よ。
 何時ものポーカーフェイスは何処へやらね」
「……」

こうなると、咲夜に反論の余地は無い。
同じくらい疲弊しているであろう幽々子に表情を読み取られるようではお話にならないのだ。

「じゃ、私は寝るから、後片付け宜しくね」
「……って、待ちなさい。何で私がそこまでしなくちゃいけないのよ」
「ん?」

心の底から不思議そうな顔で振り返る幽々子。
基本的にも応用的にも聡明な咲夜は、その表情のみをもって、全てを理解した。

「……成る程。当然の帰結ではあるけれど、ね」
「ぶつぶつ言ってないで、早く片付けなさいな。冥界の朝は早いのよ」
「分かったわよ。……ああ、その前に、一つだけ言っておくわ」
「もう、何よ」
「私は例え誰であろうとも、お嬢様以外を主と崇める気は無いわ。
 だから、これは単なる間借りであって、私はその家賃の代わりに労働力を提供するだけ。
 それで良いわね?」
「意外と形に拘るのねぇ。ま、家事をやってくれるなら何でも良いわよ。
 ……じゃお休みなさい」

幽々子は投げやりに言い残すと、手をヒラヒラと振りつつ、襖の向こうへと消えた。
一人、残された咲夜は、軽く溜息を付くと、米の一粒すら残っていない丼を盆へと乗せる。

「……にしても、たった一日でここまで荒れるものかしら」

ふと見回してみた室内は、まさに無残の一言。
半ば潔癖症の気のある彼女にとって、許しがたい光景であった。
自分に無縁の場所ならば、放っておくだけなのだが、住み込むと決めた以上、見逃す訳には行かない。

「(今日は余り眠れそうに無いわね……)」

咲夜は心の中で腕まくりをしつつ、静かに決意を固めた。












翌朝。
何時になく遅い目覚めを迎えた幽々子は、力無い足取りで、ふよふよと居間へと向かっていた。
飛んでるくせに力ない足取りとはどういことか。きちんと描写したまえという意見は、豪快に無視する。

さて、何時になく。と表現したのには理由がある。
というのも、この亡霊さんは元々、お婆さんみたいだ。と称されるくらいの早起きである。
故に、朝方まで飲み明かすなどの例外を除けば、普段から誰の手を借りる事もなく目覚めるのが普通である。
が、昨日、及び一昨日の一件は、そんな幽々子を持ってしても寝過ごしてしまう程のの疲労を与えていたようだ。
一件では分からない。何が疲労となったのか、具体的に描写しためという意見は、謹んで無視させていただきたい。
というか、さっきからこの突っ込みはうるさいな。



「おはよー。……うわ」
「はい、おはよう」

襖を開け放った幽々子の第一声は挨拶、そして第二声が驚嘆の呻き声であった。
にも関わらず、出迎えた咲夜は平静であった。
それもその筈、幽々子が驚くであろう事は予想済みだったからだ。

「咲夜……実は貴方って凄い人だったのね」
「気付くのが遅いわよ」

半廃墟と化していた筈の居間は、ほぼ完全な形で、元の生活空間の姿を取り戻していた。
ほぼ、ということは、パーフェクトではないとも言えるのだが、
それはむしろ、部屋の時間を巻き戻した。等という力技の産物でないとの証明でもある。
実際の所、幽々子のそれまでの咲夜評と言えば、
『なんか完全で瀟洒らしいタイムマシン機能付きのメイドで、おっぱいコンプレックス』
という適当なものであったが、その一文は本日を持って書き換わるだろう。



それから数分の後に、幽々子は再び咲夜評を書き換える必要性に迫られていた。

「普段、どんな献立なのか知らなかったから適当だけど、文句は無しよ」

卓上に並べられたるは、朝食の範疇に止めるには余りにも惜しい、多彩な料理の数々。
料理の腕こそ確かだとは認識していたが、あくまでも咲夜は仮初めの家事手伝いである。
それは、昨晩、本人が自分から言っていたことだ。
故に、この力の入り具合は、幽々子の想像を大きく超えていたのだ。

「文句なんて無いけど……また随分と気合が入ってるわね」
「そう? これくらい普通でしょ」

淡々と返す咲夜だが、実のところは大きく異なっていた。。
これらは、己の料理の知識を総動員し、数時間をかけて作り上げた、自慢の逸品である。
はて、いつの間にそれほどの精力を傾ける程の忠節の念が生まれたのか。という疑問も沸き起ころうが、
実際、そんな忠誠心などは芽生えてはいなかった。
これは単に『やっぱり妖夢の方が役に立つわね』という文句を封殺する為の、先読み滞空であった。
だが、そんな思惑は、決して表には出さない。
これこそが、彼女が完全で瀟洒なメイドたる所以なのだ。
……もっとも、実際の理由はそれだけでは無かったのだが。

「……ま、今は家政婦だけどね」
「何か言った?」
「冷めるから早く食べなさいって言ったのよ」
「そ、では遠慮なく……いただきまーす」

幽々子は、本当に遠慮の欠片も無しに、朝食へと取り掛かり始めた。
やはりというか、極めて自然かつ上品なお召し上がりの作法に見て取れるのだが、
それなのに料理の山は亜光速で減ってゆくというミステリー。
恐らく、時間を止めて確かめたところで、この謎は解き明かせまい。
流石は、月兎のエロさや知識人の矛盾スペランカーと並んで、幻想郷七不思議に数えられるだけはある。

「ん? たべないの?」
「食べるわよ。労働者には栄養摂取が必要不可欠ですからね」
「へぇ、そうなの」

皮肉は通じなかった。
最初から効果を期待していなかったのか、咲夜は大人しく箸を手に取る。
もっとも、栄養摂取の必要性というのも、半分は本気だった。
何しろ、この朝食が終われば、掃除に洗濯に庭仕事とやるべき事は山積みなのだ。
『到底一人の人物が請け負えるような量の仕事ではない。
 正常にこの屋敷の管理を続けるならば、少なくとも二桁の人員が必要だ』
というのが、元侍従長の観点から出た結論だった。

だが、咲夜の表情に悲壮感らしきものは見られない。
妖夢に出来た以上、自分が出来ない筈が無い。という矜持もあったし、
元より、働く事に対し一切の否定的感情を持っていないから。という理由もあるが、
それ以上に幽々子の力によるものが大きかった。

普段は邪気の塊のような幽々子ではあるが、こと食事中に関しては話は異なる。
何しろ、オリハルコン製の筋金入りペドフィリアであると自他共に認める咲夜をして、
呆然と見入るほどの破壊力を持っている、凶悪極まりない無邪気な陽の表情なのだ。

実際、自分の料理をこれほどまでに美味しそうに平らげる人物は、心当たりが無かった。
周知の通り、レミリアは小食であり、また吸血鬼という種族も相成って、咲夜がその腕を披露する機会は少なかった。
また、宴会等のイベントに際して、料理を拵える事もあったが、別段、特定の誰かに対して作ったという訳ではない。
これこそが、朝食に妙に力が入ってしまった、もう一つの理由だったのだ。

「(……妖夢が今まで投げ出さなかったのも、このせいなのかしらね……)」



「ご馳走様でした。貴方、割と小食なのね」
「……へ?」

幽々子の声に、咲夜は現実へと引き戻される。
己が丹精込めて作り上げた逸品の数々は、ものの見事に空となっていた。
無論、咲夜は殆ど箸を付けていない。
個々の分量に悩んだ末に、殆どを大皿料理にしてしまったが故の弊害である。

「(……お昼は小分けにしましょう。流石にこいつと料理の奪い合いは御免よ)」

こうして、僅かに浮上していた幽々子に対する好意的な概念は、瞬時に奥底へと仕舞い直されたのだった。










調理にかけた時間の数十分の一で済まされた朝食も終わり、咲夜は次の仕事へと取り掛かっていた。
いわゆる、洗濯物干しである。
これは、人口比からいって、さして重荷となるような作業ではない。
だが、しかし、だ。

「ねー、咲夜。一つ提案があるんだけど」
「何よ、下らない事なら後にしてくれるかしら」

仕事中だというのに、煎餅片手に暢気に声を掛けるというのはいかがなものか。
というか、あれだけ食べておきながら今だ口寂しいとはどういうことか。
そうした疑念が、咲夜の返答をいくらか堅いものへと変化させていたのだ。

……が、幽々子はその程度で動じるような、柔な胆力の持ち主ではなった。
それどころか、逆に咲夜へと精神的動揺を与えてくるという狡猾な手に打って出たのだ。

「白玉楼で働く者の絶対的な掟を知ってるかしら?」
「掟? ……って、まさか!?」
「そのまさか、よ」

咲夜は人知れず……というか分かりやすく戦慄した。
先日のレミリアin白玉楼においても、十分に騒動を招き起こした事象であった為に、容易に思い出す事が出来たのだ。

「ちょ、ちょっと待って! 私にあの服を着ろって言うの!?」

掟。
それは、白玉楼で働く者は、例外なく専用コスチュームを身に着けねばならないという、
誰が決めたのかも分からない、胡散臭いものであった。
しかし、それだけならば、咲夜とてこうも過敏に反応したりしない。
問題は、そのコスチュームというのが、妖夢の普段着だという点にあった。

「(じょ、冗談じゃないわ。私がアレを着ようものなら……)」

レミリアが着せ替えられたときは、これはこれで! という欲望に正直な感想を暢気に述べるだけで済んだが、
自分が着るともなれば話は別だ。
想像したくないのに、無理やりに脳内へと浮かび上がってくるリアルな映像は、
明確に、40分10000円だとか、本番行為禁止といった文言を浮かび上がらせる。

「うーん、確かにイメクラ臭で溢れ返りそうね」
「って、ストレートに言うんじゃないのッ!」

例え自覚していても、実際に言われると腹立たしかった。
一応咲夜は、少女と称される存在の範疇に極僅かに足が残っているという可能性が残されているとの説もある。
だが、この状況において、その中途半端な位置付けは逆効果でしかなかった。
仮に永遠亭の薬師くらい突き抜けていたならば、いっそ開き直れただろうし、
スキマ妖怪であったなら、自在に外見年齢を変えるという詐欺行為にも走れたのだ。
いっそ、自分の肉体時間を逆転させてみるか? との考えも浮かんだが、
それは成功したところで、人生の記録をも消し去りかねない危険な賭けた。
制服一つの為に、そこまでのリスクを背負う度胸は、いかな咲夜にも無い。
嗚呼、人間なんてららーらーららららーらー。

「でも、残念ながら、晴れ姿は拝めそうにないわ」
「え?」
「貴方に合うサイズの予備が無いのよ。
 流石に妖夢のものでは小さすぎるでしょうし、かといって妖忌……ゲフン、ゲッフン!」
「……ようき?」
「な、何でもないわ。ともかく、特例になるけど、暫くはそのメイド服のままで良いわ」
「そ、そう……」

何だか分からないが、とりあえず新聞沙汰は避けられたようだ。
暫く、という事は、いずれは着せるつもりなのだろうが、とりあえずは忘れておく。

「んじゃま、そういう事で。私は昼寝するわね」
「……ご自由に」

こいつ、本当に食うか寝るかの二択か。との感想が浮かんだが、やはり口には出さない。
要するに幽々子は、白玉楼の掟を徹底して守っているのだ。
仮初めとはいえ、雇用契約を結んだ以上、それを糾弾するつもりは無い。

「……幽々子が着ても、十分イメクラじゃないの。ねぇ」

無論、憎まれ口は叩くが。






「……ふぅ」

何気に空を見上げてみると、雲ひとつ無い美しい青空が広がっている。
この一面だけを切り取れば、ここが魂の還る場所、冥界だと誰が信じるだろう。
だが、現実に、ここは冥界が白玉楼。
そして、今の咲夜の肩書きは、紅魔館の侍従長ではなく、白玉楼の住み込み家政婦だ。

「向こうは上手くやってるのかしらね……」

いかに優れた視力を持っていようとも、ここから紅魔館の様子は見渡せない。
だが、それでも、何かしらの騒動が巻き起こされているであろう事は想像が付いた。
そして、その中心にいるのは、間違いなく妖夢だろう、とも。
恐らくは、自分を遥かに上回るであろう気苦労に晒されているのだろうが、同情はしない。
妖夢自身が決断した事だから、だ。

全ての元凶の癖に何を達観してやがる。との突っ込みは、秘奥義瀟洒ゾーンで抹殺する。

「ま、考えても仕方が無いわね」

ともあれ、今の自分に出来るのは、白玉楼の家政婦仕事をこなしつつ、ほとぼりが冷めるのを待つ事。
それが、咲夜の結論であった。









だが、咲夜は知らない。
これから僅か二日後に、大きな転機が訪れる事を。
そして、己と幽々子の間が、決して切ることの出来ない強固な絆で結ばれる事を。


……変態という名の絆で。
 

どうも、YDSです。
ちょいとばかり私事が滞っていた為に、えらく久し振りになってしまいました。(ここまでが言い訳)


そんな訳で、私自身、話の内容を思い返す必要があると感じ、こんな話を書いてみました。
ナンバリングが示す通り、一話と二話の間にあった空白を埋める内容なのですが、
不思議なことに、紅魔館が一切出てきません。謎ですね。

……まあ、アレです。覚醒する前の二人のやり取りを書いてみたかったというのが本音です。
余り変わってない気もしますが、それはそれ、ということで。


えー、前回は大嘘ぶっこいてしまったので、続きの投稿に関しては触れません。
ですが、中途で放棄する気は無い。とだけは断言しておきます。

では、次の機会も宜しくお願いします。
YDS
[email protected]
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コメント



0.2660簡易評価
11.70名前が無い程度の能力削除
いつものことながら、ネタ満載でどこから突っ込んで良いのやら迷いますが…
本編の続き楽しみにしております。

あえて一つだけ突っ込むなら…

>奥義、ゴッドプレッシャー!
お っ ぱ い は 素 晴 ら し い
13.80名前が無い程度の能力削除
ネタ満載で楽しませてもらいました

誤字かな?と思った所が一箇所。
~という文句を封殺する為の、先読み滞空であった。
           ↓
~という文句を封殺する為の、先読み対空であった。
19.80名前が無い程度の能力削除
>ESCキーを飛ばして紛失する。

ちょwwネトゲ狂ドイツ人少年ww
なんてマニアックなネタを……素晴らしい!
21.60翔菜削除
ようきは、どこでも、へんなじいだな
24.80あふぅぁ削除
>というか、さっきからこの突っ込みはうるさいな。
YDSさんの前では突っ込みすら突っ込みの対象になるのか…
28.80名前が無い程度の能力削除
グァァァァァ!
34.60変身D削除
想像以上の壊れっぷりですな、逃走直後の咲夜さん……みじんも瀟洒じゃねえ(w
この後の変態同盟設立秘話、本編ともどもに楽しみにしております(礼
36.無評価名前が無い程度の能力削除
うほっ イイ おっぱい !
43.無評価名前が無い程度の能力削除
ようきともうしたか
45.90名前に負ける程度の人物削除
クライベイビー咲夜と申したか。
「ほえぇぇぇぇぇっ!」
混ざった。
48.50無名同人ライター削除
取り合えず突っ込みをば

悩殺 → 忙殺

悩ましく殺すと 忙しくて殺される は違うだぜ?

新聞沙汰 → 醜聞沙汰

ぶんぶん。新聞に掛けたのかもしれないけどね!

推敲って大事。 誤字脱字は物書きの天敵ですぜっ
55.70名前が無い程度の能力削除
ひとつ下の方、新聞沙汰という言葉は普通にありますし
この場合の意味としても通るので問題無いのではないかと思います。

幕間といった内容でしょうか。何時も通りのクオリティで楽しめました。
本編の方も期待して待っています。
62.100時空や空間を翔る程度の能力削除
全てはココから始まりだったとは・・・・

66.100名前が無い程度の能力削除
完全……で…………瀟……洒……………?
67.80名前が無い程度の能力削除
妖忌の服着た咲夜さんというのも悪くないような
(妖忌の服装にもよりますが)