「・・・・・・繋がり、か・・・」
村への買い物の帰り、滅多に会わない・・・いや、なるべくなら会いたくない人物と出会った。
四季映姫・ヤマザナドゥ
幻想郷における閻魔様という存在、例の花の異変で弾幕った後、彼女は様々な所を視察しているらしい。
「きちんと善行を積んでますか?」
・・・と聞かれたので「健康に気を使ってますよ」と答えたところ・・・・・・・・・
お茶漬けの群れによって落とされた。
その後長時間説教を受け、気が済んだのかふよふよと帰っていく閻魔様を見届けていた。
『人間との繋がりを強くもつこと、これが今の貴方が積める善行よ』
そして最初のつぶやきに至る・・・人間との繋がりといえば紅魔館に来る例の黒いの、
買い出しの時に村に訪れる時くらい、根本的に紅魔館は『人間』というのは極めて少ないというかいないと思う。
いくら考えていてもしょうがない、まずは早く帰ってお嬢様のお世話にそれから掃除に新人の教育・・・・・・
-紅魔館-
「紅茶が入りました、お嬢様」
「いつもありがとう、咲夜」
「ありがとうございます、本日は希少品入りでございます」
「ふふ・・・咲夜はいつも気を使ってくれるから好きよ」
・・・といつもと同じ会話とゆったりとした時間を過ごしていた。
「ところで咲夜、貴女最近何か悩みでもあるんじゃないのかしら?」
「悩み・・・・・・ですか?」
カップを静かに置きお嬢様が私に質問を投げかける、思い当たる事が無い質問なだけに言葉が止まる。
「ええ、花が一斉に咲いたあの異変から貴女の様子がどうも変わった気がするんだけど」
花の異変から・・・・・・・・・・・・あ、もしかして・・・でも、
「・・・・・・いえ、何も心当たりは・・・」
「本当にそうかしら?」
目の前に座っている主の紅い目が自分をじっと見つめる。
虚構やまやかしを打ち破る・・・一種の眼力のような威圧感さえも感じる眼が私の中を見つめている。
「・・・私は咲夜の主なのよ、その主として貴女の悩みの相談に乗ってあげようというわけ・・・もちろん、強制はしないわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
相談に乗る・・・と誘いながら強制はしないという選択権、ようするに『言え』という事だ。
でも・・・・・・お嬢様になら話してもいいかもしれない。
「・・・・・・はい、実は・・・」
「・・・なるほどね」
「はい、私自身は今のままでもいいと思っているのですが、予想外の言葉というのかいまだに引っ掛かったままで・・・」
目の前のお嬢様は紅茶を一口飲み、眼を閉じてしばらく考え込み・・・・・・
「咲夜、明日答えを教えるわ」
「・・・わかりました」
その言葉を合図にお茶会は終わり、いつもの日常へと私達は帰った。
-次の日、紅魔館-
「・・・・・・昨日の答えを教えるわ」
ここはお嬢様の部屋、私は昨日の悩みの答えを聞くためにやってきて
目の前に真剣な表情で私を見つめるお嬢様の眼を真剣に受け止めようと見つめていた。
「・・・今日からしばらく貴女を修行に出すわ」
「修行・・・・・・ですか?」
「そう、期間は2日間、初日は・・・・・・ってくわしい事は『これ』に記してあるから目を通して頂戴」
そう言われ、私の手元には一枚の紙が手渡され、そこには・・・・・・
「・・・相手方には既に話はつけているから、失礼の無いようにね。 貴女は仮にも紅魔館の顔でもあるからね」
正直受け入れがたい気持ちが半分・・・しかし、お嬢様が何か考え合ってこその結果なのだろう・・・。
「・・・・・・わかりました」
「素直に受け入れてもらって私は嬉しいわ、早速仕度をしなさい、おそらく相手方も待っているはずだから」
「はい、それでは・・・失礼します」
・・・・・・・・・・・・・・・
-修行初日-
「いらっしゃい、待っていたわよ」
「ようこそ、白玉楼へ」
・・・・・・そう、お嬢様の提案とは『白玉楼の西行寺家の庭師の手伝いを行う事』、
つまり、目の前の半人半霊の手伝い・・・という事だろう。
「本当はね・・・この庭の手入れを妖夢と一緒にしてもらおうと思ったんだけど、
『咲夜さんにそのような荒作業はさせられません!』ってこの子が頑張っちゃってね~」
「ゆ、幽々子様! 私はただ・・・」
この白玉楼の庭園の広さは以前の事件(※妖々夢、萃夢想、花映塚辺り参照)で何度か見ているが
正直紅魔館と比べると恐ろしい程に広い、確かにこの子が頑張ってくれたのはありがたい話だ・・・と思った。
「それより妖夢、お腹すいちゃったわ・・・というわけで貴女はこの子の手伝いをしてもらえるかしら?」
「・・・わかりました」
西行寺の屋敷は庭程では無いが、これまた広い部類に入ると思う。
妖夢の案内で厨房にきた私は早速目の前の材料に手をつける。
ちなみに衣装は時間が少ないのと腕前を振舞えるように好きなものでいいと言い渡されているので
結局のところ、いつもの服装で行っている訳なのだが・・・・・・・・・
「いいですね~」
「・・・何が?」
隣で材料をジャバジャバと洗っている妖夢が、軽いためいきをついて羨望の眼差しを私に向けていた。
「咲夜さんってスタイルいいから、そういう服がすごい似合うじゃないですか~」
「・・・そ、そう?」
目の前の野菜を次から次へと切っている私は少し戸惑いながらも軽く答える。
妖夢は半人半霊である以上、私より年上なのだろうけど・・・・・・どう見ても年下にしかみえない。
故なのか、その身体的成長も遅い・・・という事なのだろう。
「でも妖夢だって成長するんでしょ? まだこれからじゃないの?」
「・・・そうですかねぇ・・・」
口を動かしながらも流石はあの幽々子が信頼を最も置く存在、その料理の速度と精度は・・・・・・凄まじいものである。
・・・・・・ちょっと、私も負けてられないかもしれないわね。
「・・・うわっ! 咲夜さん、すごい包丁捌きですね!」
「まぁ、普段からナイフを扱っているからこういう事には慣れているのよ」
「その魚、結構捌くの難しいんですよ、今度教えてもらえますか?」
「・・・・・・そうね、妖夢が紅魔館に来てくれたら考えてもいいわよ」
「あ~それは無理だと思います」
少しみょんな感じに落ち込みつつも料理の手は一切緩めない、
・・・紅魔館に帰ったら調理部門にこの事を伝えておこう・・・そう本気で思えた一時であった。
・・・・・・・・・・・・・・
「今日の料理はおいしいわね~妖夢~」
「はい、咲夜さんが手伝ってくれましたし、それに調味料も原料から作ったものなんです」
「へぇ~、『おりじなるぶれんど』というものかしらねぇ・・・あ、この魚もいけるわ(もぐもぐ)」
・・・微妙に違うと思うが、まぁ・・・良き評価を受けるのは大変喜ばしい事には違いない。
「・・・・・・この味噌汁、すごい後味がさっぱりしているわね」
「はい、それは西行寺が独自に作っているお味噌を使っているのですよ。
コクは深く、それでいて後味がさっぱり! 幽々子様は味噌汁はこれじゃないと嫌だ、って言うんですよ」
「そうね~、以前これを切らせた時に他の味噌を使ったのを知った時はさすがに怒ったわよ、妖夢」
「・・・・・・ええ、あの出来事は一生忘れられないと思います」
真横にいる妖夢の様子からして相当な修羅場が展開されたのだろう・・・と推測は容易につく。
さしずめ問答無用で『鳳蝶紋の死槍』でも飛んできたのだろう・・・・・・。
「妖夢~おかわり~」
「はい、ただいま!」
・・・・・・・・・それにしても、
よく食べるわね・・・・・・。
次から次へと溢れかえる食器、そう・・・いうなれば百万鬼夜行のような状況に私は言葉が出なかった。
・・・・・・・・・・・・・・・
食事を終え、妖夢と共に食器の洗浄に後片付けを終え、縁側で三人緑茶を飲んでいた。
「・・・知ってるかしら? お茶の香りは植物の成仏の香りなのよ~」
・・・と、掴み所がわかりずらい会話、それに対応している妖夢、
つまりこれが私におけるお嬢様とのお茶会になるのだろう・・・そう思うと何処か滑稽な光景でもある。
「・・・・・・・・・あっ・・・」
「ああ、あれはここの住人ですね。 咲夜さんの世界では『人魂』とか『幽霊』に部類されるのでしょう」
「そうね・・・それにしても・・・・・・」
そう、人の魂というものなのだろう、何処か儚い感じであり、それに伴う美しさが私の目、心に映る。
「あまり幽霊に誘われちゃ駄目よ、それこそ貴女もここの住人になっちゃうわよ~。
まぁ、そうなったら毎日美味しい料理が食べられるからいいけどね」
「・・・・・・死んだ時の就職口として考えたいところだけど、毎日あれだけの料理を作るのは骨折れそうね」
「あら大丈夫よ、妖夢だってできるんだし、それに幽霊だったら骨折とか気にしなくてもいいんじゃない?」
「いや、そういう意味じゃなくて・・・・・・」
・・・と、実に半分以上が意味不明な会話ではあるが、決して悪いものでは無かったし、
・・・・・・・・・・・・・・・
むしろ・・・・・・・・・・・・何処か心地よいものを感じた気がした。
-修行2日目-
白玉楼の朝は驚くほど早かった。
突如妖夢に叩き起こされた時は驚いたが、冥界の極めて冷たい水で顔を洗った時は目が覚めた。
「とりあえず今から庭の手入れと共に見回りをします、
基本的に木々の手入れは私がしますので咲夜さんはその補助をお願いします」
「・・・わかったわ」
先日とは打って変わって妖夢の表情は真剣そのものだった。
私は妖夢の真剣な指示を受け、その行動に合わせて補助を行う。
思えばこの広い庭をたった一人で受け持っているのだから、その技量は凄いと思う。
「では、次の木に向かいましょう」
「ええ」
驚くほどの広さに驚くほどの木の数、それら全てを妖夢は丁寧かつ正確に手入れを施していく。
それを傍から見ている私には『神業』の領域にも思えた。
「さて・・・・・・これで最後の木になります」
妖夢は一本の木をじっと見つめて静かに呟き・・・・・・ゆっくりと私の方を見る。
「咲夜さん、この木は貴女が手入れして下さい」
「・・・・・・・・・えっ?」
「大丈夫です、何かありましたら私が指示しますから」
「そ・・・そう? わかったわ」
目の前にある木・・・・・・いや、それは木になろうとしている一本の植物なのだろう。
片手に鋏を持ち、空いている片方の手を木に添えた時、
・・・・・・・・・何か違和感を感じた。
「・・・この木・・・・・・いや、これは・・・」
「気付いてもらえましたか?」
私は無言のまま、妖夢の方を向いて静かにうなづく。
今まで妖夢は『木々』を手入れしていたのだと思っていたが、それは違った。
そう・・・・・・この木々達は・・・・・・
「・・・大丈夫、もう・・・何も怖いことは無いからね」
私の目の前に木は無い、そこには一人の髪が伸びた少女が見えていた。
私はそっと少女の髪を撫で、丁寧に丁寧に髪に鋏を入れる。
ちょき・・・ちょき・・・ちょき・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・」
目の前の少女の髪は綺麗に整い、仕上げも終わった。
その少女は笑い・・・・・・消えていった。
・・・気のせいだろうか、最後に『ありがとう』と言い残したようにも思えた。
「咲夜さん・・・見事です。 本当に私からも死後はここに就職してもらいたいくらいです」
「・・・・・・あの子、妖怪に殺された子なのね」
「・・・! そこまで・・・わかったのですか!?」
「ええ、山にみんなと遊びに来て妖怪に襲われて自分だけ殺された・・・そう言っていたわ」
私は目の前の少女だった木を見つめ、静かに言葉を続ける。
「多分・・・この木はまもなく死を迎えるでしょうね、しかし・・・それは生まれ変わりを意味する死。
木としての死を受け入れ、次の人生という新しい生を受ける・・・・・・というのは言いすぎかしらね?」
少し照れくさそうに言葉を止め、妖夢の方へ振り向く・・・・・・と、
「・・・・・・・・・す・・・」
「?」
「素晴らしいです! まさかたった一度でここまで理解してしまうなんて! 咲夜さん、貴女はすごい人です!」
「い・・・いや、妖夢だって・・・ほら、これだけ多くの木々を手入れしているんだから・・・ねぇ」
あまりにも直線的で眩しい程の2つの瞳が私を見つめ、絶賛を浴びせる。
正直・・・・・・・・・苦手だ。
「ほ・・・ほら! そろそろ屋敷に戻らないと・・・・・・」
「・・・そうでした! 次は屋敷の掃除です、戻りましょう!」
・・・・・・・・・・・・その後、広い屋敷の掃除を行い、夕方は先日同様料理を作り、今日も団欒な状況である。
「幽々子様、咲夜さんすごいんですよ! 庭の木々のですね!」
「・・・妖夢~、もうその話6回目よ・・・」
食事中にも関わらず、妖夢は興奮気味に今日の出来事を話していた。
よほど衝撃的だったのだろうか、今日の彼女は本当に・・・・・・血の色を見た闘牛のような意気込みさえも感じた・・・が
「食事中にはしたないですよ」
「・・・・・・・・・あ、すいません」
隣で奮闘していた半人はしゅんと座り込んで申し訳なさそうに米を口に運んでいた。
思わずメイドとしての本能なのか、無礼な行為がある以上即座に注意をしてしまった・・・という事か。
「ふふふ・・・咲夜ったらまるで妖夢のお姉さんみたいね」
目の前で大食らいの亡霊が妖しげな笑みを浮かべて私達を見つめていた。
相変わらず、その手元には相変わらず食い尽くされた食器の群れが死屍累々としていた。
さながら・・・・・・・・・死に誘われたものの残骸とでも言っておくとしようか。
「妖夢~♪」
「はい、おかわりですね!」
これで更に追加・・・これだけ食事して太らないのは幽霊としての特性なのか・・・。
不覚にも『羨ましい』と思ってしまったが、それは自分の心の中だけに留めておく事にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
やがて、食事も終わり、先日同様半分意味不明・・・いや、正確には奥が深い会話だったと思う。
あの幽々子の話は遠まわしではあるが、何処か真髄を突いた話・・・・・・だと思いたい。
隣にいた妖夢は『?』な感じが大半を占めた表情で話を聞いていたのだが。
・・・・・・・・・・・・・・・
ヒュウゥゥゥ・・・
白玉楼にも風は吹く、薄暗い部屋に私と妖夢は布団を並べて眠っていた。
思えば明日・・・紅魔館へ帰ることになっている、ここの非日常的な日々とも別れる事になる・・・のか。
「・・・・・・咲夜さん」
物思いに耽っていた私に不意に掛かる声、それは隣で眠っていると思われた妖夢の声だった。
「起きていたの?」
「・・・・・・・・・・・・あの・・・」
「?」
顔を布団で隠しながらも何か・・・言いたそうな仕草をする妖夢は・・・・・・
「今夜だけでいいですから・・・一緒に寝ていいですか?」
と、静かな部屋で私にそう言った。
「・・・・・・別に構わないわよ」
・・・・・・・・・・・・・・・
ヒュウゥゥゥ・・・
白玉楼に吹く2度目の風、何処か寂しく儚い・・・まるで魂の声とでも言うのだろうか、
そんな音を聞きながら私の傍には妖夢が・・・・・・懐にいた。
(咲夜ったらまるで妖夢のお姉さんみたいね)
食事の時の幽々子の言葉がふと鮮明に蘇る。
そういえば・・・私、ここに来た理由は白玉楼の庭師の手伝いとだけ書いてあったけど・・・・・・もしかしたら・・・
「・・・咲夜さん・・・・・・」
その考えを遮るかの如く、妖夢が静かに呟く。
先程の庭師としての・・・昔弾幕っていた頃の剣士としてでは無く、
その表情は一人の少女そのものとしか思えない妖夢の声。
「・・・何?」
「私・・・・・・家族の事とかあまり覚えていないんです」
「・・・・・・・・・・・・」
「両親は片方が人間、片方が幽霊だったと聞いています、昔師匠もいましたが何も言わずに私の元から去りました」
「・・・・・・・・・・・・」
「やがて何年も幽々子様といる内に一人でいる事に慣れてきた・・・・・・」
「でも幽々子と一緒ならそれは一人とは言わないんじゃないの?」
「そうかもしれません・・・・・・でも、幽々子様と私は主従の関係です」
・・・確かに、お嬢様と私も主従の関係でこそあるが、それは家族という繋がりとは微妙に違う。
「だから、ここに咲夜さんが来てくれて本当に嬉しかった。
一緒に料理を作ってくれた事、食事をした事、庭の手入れをしてくれた事、一緒にいてくれた事・・・」
私の服を妖夢は強く握り締めながら、静かに・・・そして強く言葉を出す。
「お願いです! どうか・・・どうかここに一緒にいて下さい!!」
「・・・あのね、妖夢。 私は明日・・・・・・」
「わかってます! わかってます・・・けど・・・けど・・・・・・!!」
もはやその声はいつもの妖夢の声とは違っていた、彼女は私の懐で強く言いながら
泣いていた
きっとこの白玉楼で何年、年十年も独りでいたのだろう。
私は幻想郷に来てから数年は経つが、おそらくこの少女が背負ってきた孤独の年数に及ばないものだと思う。
・・・相変わらず妖夢は私の胸元で泣いていた、今まで胸の内に押し込んでいたものが溢れ出ているかのように・・・
「・・・・・・妖夢は泣き虫なのね」
自然と彼女の髪を撫でながら私は囁いていた、まるで泣きじゃくる『妹』を宥めるかのように。
「・・・妖夢、私は明日紅魔館に帰る。 だけど・・・それは永遠の別れじゃないわ。
お互い生きている内はいつか会うことになるだろうし、決して遠い先の話じゃないと思う」
「・・・・・・・・・ぐすっ」
溢れていた気持ちが落ち着いたのか、妖夢は黙って私の胸元に顔をうずめている。
「・・・そうね、せめて今だけでも貴女の『姉』になってあげるから・・・・・・って?」
・・・・・・・・・すー・・・
「・・・・・・・・・もう寝ちゃったの?」
正直驚いていた、先程まであんなに泣いていたのにほんの少しの間に熟睡してしまうなんて思いもしなかった。
ふぅ・・・と一息ついて私も眠りの世界に入る事にした。
「・・・おやすみなさい、妖夢・・・・・・」
おそらく今の光景は傍から見れば『姉妹』と見間違えられるかもしれない。
別に妖夢とは血も繋がっていない、まして種族も違う・・・・・・しかし、
確かにそこには『絆』があったのだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
-修行終了当日-
「・・・お世話になりました」
「こちらこそ美味しい料理ありがとうね。 死後は白玉楼へ就職する事も考えてね~」
「・・・・・・・・・まぁ、数十年先には検討しておきます」
何かピントがずれているような会話、一応これがこの日常との別れの挨拶なのだが。
「ところで・・・妖夢はどうしたのかしら?」
「彼女ならまだ眠っていると思います、あまりにも幸せそうな顔をしていたので起こさずにしておきました」
「・・・・・・そう」
軽く頭を下げ、白玉楼に背を向け帰ろうとしたとき・・・・・・
「咲夜さん!!」
その声が私の足を止めた。
幽々子の背後から走ってくる彼女の姿が目に映り、私はその光景を無言のまま見つめていた。
「・・・・・・また・・・来てくださいね! お手伝いでも弾幕でも何でもいいですから!!」
何処か抜けた言葉に思わず笑みが零れ・・・・・・
「そうね、次はとっておきの弾幕でも用意してくるわ」
そう言い残し、私は白玉楼を後にした・・・・・・。
「・・・・・・行っちゃいましたね」
「そうね、ところで妖夢・・・目が赤いけどどうしたの?」
「! いえ・・・これは・・・その・・・」
「ははぁ、貴女咲夜と別れるのが寂しくて泣いていたのでしょう?」
「べ・・・別にそんな、私は白玉楼の庭師であり幽々子様の・・・むぎゅ!?」
「いいのよ、いいのよ、貴女も少し気分転換になったでしょうし・・・それに」
「・・・・・・それに?」
「私が結婚して子供できたら、貴女の家族が増えるじゃないの」
「ぶーっ!! 幽々子様・・・それ本気ですか!?」
「さて・・・どうかしらねぇ・・・・・・」
-天空の門~青き広大な空-
私は空を飛んでいた、あと数時間後には紅魔館へと到着する。
お嬢様がきっと紅茶の時間を待っているのだろう、
パチュリー様が読書と話の時間を待っているのだろう、
美鈴が日常の会話の相手を待っているのだろう・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
白玉楼で妖夢はずっと私を待っているのだろうか・・・?
私を姉のように慕ってくれた妖夢はずっと・・・何年も年十年も・・・
もし、私が冥界では無く天国や地獄に行くとしたら・・・・・・彼女は何百年も待ち続けるのだろうか?
いや・・・大丈夫、別れは次の出会いのきっかけ、
また何かの用事できっと行く事になる・・・・・・・・・
・・・・・・だけど・・・・・・
・・・・・・・・・・・・あれ?
私・・・なんで泣いているの?
空の風が冷たいから・・・それとも目にゴミが入ったから・・・?
だったらこの胸を締め付ける思いは・・・・・・・・・
そうか・・・・・・簡単な答えじゃない。
私も妖夢と同じように別れを心底惜しんでいたのか。
簡単な事ね・・・私も・・・・・・・・・
独りだったのかもしれない・・・
そう思い、気付いた頃には涙が溢れ止まらなくなっていた。
それはそこにあった『繋がり』と『絆』の再認識・・・そしてその儀式は
紅魔館に着く頃には終了した。
・・・・・・・・・・・・・・・
-USUAL DAYS(普通の日へ…)-
「・・・ご苦労だったわね、咲夜」
「・・・・・・はい」
私は元の場所へと帰った、あの戻ってこない日々は胸の奥に残しておく事にした。
そうでなければ私は私で無くなりそうな気はしてならないから・・・・・・。
「帰ってきて早々で悪いけど、休憩後仕事に取り掛かってもらうわよ」
「はい、かしこまりました・・・それでは失礼いたします」
・・・・・・そう、これでいい。 私は永遠にお嬢様に使える主従の関係・・・・・・そこに家族という絆は・・・
「・・・・・・咲夜」
「は・・・はい」
「貴女があの場所で何を得たのかは聞かない、だけど覚えておきなさい。
ここは貴女の居場所であり同時に死を迎える場所でもある」
「・・・・・・・・・・・・」
「あとね・・・・・・先日みたいに悩みがあったら遠慮無く言いなさい。
それが紅魔館の主としての責務でもあると共に・・・・・・・・・」
「私の大切な家族を守る役目なのだからね」
「・・・! ・・・・・・はい、ありがとうございます」
「・・・・・・下がりなさい、休憩後は来客者のおもてなしの準備を行いなさい」
「はい」
・・・・・・パタン
(・・・私も酔狂な事を言うようになったものだ)
一人になった部屋でレミリアがそう考え笑みを浮かべていたが、外にいる咲夜が知らないのは言うまでも無かった。
・・・・・・・・・・・・・・・
日が落ち、夕方になる。
紅魔館への来客者へのおもてなしも成功に終わり・・・・・・落ちた日が昇り、また落ちる。
そんな平凡な日常の中・・・・・・
私はまた出会った、あの偽りが通じない白黒はっきりとつけるあの女に。
「どうですか、貴女は善行を積んでいますか?」
私はこう言った。
「・・・人間との繋がりはいまだに理解できません」
彼女の右手が天に上がる。
「ただ・・・・・・繋がりと絆がある事はわかりました」
彼女の右手が・・・・・・・・・止まった。
「そう・・・・・・ですか」
・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・今日は早く帰りなさい、良き理解者である主達に良くする事が今の貴女の善行なのでしょう」
そう言うと共に彼女はまた何処とも無く飛んで去っていった・・・。
・・・・・・人間同士の繋がり、この紅魔館にいる限り私はそれを完全に理解するのは難しいと思う。
幻想郷という一つの閉鎖された世界から更に隔離された空間、その場所で人との出会いがあるとは思い難い。
だけど・・・もしかしたら、予想も全くつかないような出会いが無いとも言えない。
あの出来事も今思えば『予想外』の展開だったのだから・・・・・・
今日も忙しい日々を過ごす、何処までも透き通った青い空の下で忙しい日々を過ごす、
違う世界で日々を過ごす彼女の事を思い出しながら
大切な紅魔館の・・・みんなの事を考えながら
そこにある『絆』、『繋がり』を大切にして、今日も忙しく過ごそう
END
村への買い物の帰り、滅多に会わない・・・いや、なるべくなら会いたくない人物と出会った。
四季映姫・ヤマザナドゥ
幻想郷における閻魔様という存在、例の花の異変で弾幕った後、彼女は様々な所を視察しているらしい。
「きちんと善行を積んでますか?」
・・・と聞かれたので「健康に気を使ってますよ」と答えたところ・・・・・・・・・
お茶漬けの群れによって落とされた。
その後長時間説教を受け、気が済んだのかふよふよと帰っていく閻魔様を見届けていた。
『人間との繋がりを強くもつこと、これが今の貴方が積める善行よ』
そして最初のつぶやきに至る・・・人間との繋がりといえば紅魔館に来る例の黒いの、
買い出しの時に村に訪れる時くらい、根本的に紅魔館は『人間』というのは極めて少ないというかいないと思う。
いくら考えていてもしょうがない、まずは早く帰ってお嬢様のお世話にそれから掃除に新人の教育・・・・・・
-紅魔館-
「紅茶が入りました、お嬢様」
「いつもありがとう、咲夜」
「ありがとうございます、本日は希少品入りでございます」
「ふふ・・・咲夜はいつも気を使ってくれるから好きよ」
・・・といつもと同じ会話とゆったりとした時間を過ごしていた。
「ところで咲夜、貴女最近何か悩みでもあるんじゃないのかしら?」
「悩み・・・・・・ですか?」
カップを静かに置きお嬢様が私に質問を投げかける、思い当たる事が無い質問なだけに言葉が止まる。
「ええ、花が一斉に咲いたあの異変から貴女の様子がどうも変わった気がするんだけど」
花の異変から・・・・・・・・・・・・あ、もしかして・・・でも、
「・・・・・・いえ、何も心当たりは・・・」
「本当にそうかしら?」
目の前に座っている主の紅い目が自分をじっと見つめる。
虚構やまやかしを打ち破る・・・一種の眼力のような威圧感さえも感じる眼が私の中を見つめている。
「・・・私は咲夜の主なのよ、その主として貴女の悩みの相談に乗ってあげようというわけ・・・もちろん、強制はしないわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
相談に乗る・・・と誘いながら強制はしないという選択権、ようするに『言え』という事だ。
でも・・・・・・お嬢様になら話してもいいかもしれない。
「・・・・・・はい、実は・・・」
「・・・なるほどね」
「はい、私自身は今のままでもいいと思っているのですが、予想外の言葉というのかいまだに引っ掛かったままで・・・」
目の前のお嬢様は紅茶を一口飲み、眼を閉じてしばらく考え込み・・・・・・
「咲夜、明日答えを教えるわ」
「・・・わかりました」
その言葉を合図にお茶会は終わり、いつもの日常へと私達は帰った。
-次の日、紅魔館-
「・・・・・・昨日の答えを教えるわ」
ここはお嬢様の部屋、私は昨日の悩みの答えを聞くためにやってきて
目の前に真剣な表情で私を見つめるお嬢様の眼を真剣に受け止めようと見つめていた。
「・・・今日からしばらく貴女を修行に出すわ」
「修行・・・・・・ですか?」
「そう、期間は2日間、初日は・・・・・・ってくわしい事は『これ』に記してあるから目を通して頂戴」
そう言われ、私の手元には一枚の紙が手渡され、そこには・・・・・・
「・・・相手方には既に話はつけているから、失礼の無いようにね。 貴女は仮にも紅魔館の顔でもあるからね」
正直受け入れがたい気持ちが半分・・・しかし、お嬢様が何か考え合ってこその結果なのだろう・・・。
「・・・・・・わかりました」
「素直に受け入れてもらって私は嬉しいわ、早速仕度をしなさい、おそらく相手方も待っているはずだから」
「はい、それでは・・・失礼します」
・・・・・・・・・・・・・・・
-修行初日-
「いらっしゃい、待っていたわよ」
「ようこそ、白玉楼へ」
・・・・・・そう、お嬢様の提案とは『白玉楼の西行寺家の庭師の手伝いを行う事』、
つまり、目の前の半人半霊の手伝い・・・という事だろう。
「本当はね・・・この庭の手入れを妖夢と一緒にしてもらおうと思ったんだけど、
『咲夜さんにそのような荒作業はさせられません!』ってこの子が頑張っちゃってね~」
「ゆ、幽々子様! 私はただ・・・」
この白玉楼の庭園の広さは以前の事件(※妖々夢、萃夢想、花映塚辺り参照)で何度か見ているが
正直紅魔館と比べると恐ろしい程に広い、確かにこの子が頑張ってくれたのはありがたい話だ・・・と思った。
「それより妖夢、お腹すいちゃったわ・・・というわけで貴女はこの子の手伝いをしてもらえるかしら?」
「・・・わかりました」
西行寺の屋敷は庭程では無いが、これまた広い部類に入ると思う。
妖夢の案内で厨房にきた私は早速目の前の材料に手をつける。
ちなみに衣装は時間が少ないのと腕前を振舞えるように好きなものでいいと言い渡されているので
結局のところ、いつもの服装で行っている訳なのだが・・・・・・・・・
「いいですね~」
「・・・何が?」
隣で材料をジャバジャバと洗っている妖夢が、軽いためいきをついて羨望の眼差しを私に向けていた。
「咲夜さんってスタイルいいから、そういう服がすごい似合うじゃないですか~」
「・・・そ、そう?」
目の前の野菜を次から次へと切っている私は少し戸惑いながらも軽く答える。
妖夢は半人半霊である以上、私より年上なのだろうけど・・・・・・どう見ても年下にしかみえない。
故なのか、その身体的成長も遅い・・・という事なのだろう。
「でも妖夢だって成長するんでしょ? まだこれからじゃないの?」
「・・・そうですかねぇ・・・」
口を動かしながらも流石はあの幽々子が信頼を最も置く存在、その料理の速度と精度は・・・・・・凄まじいものである。
・・・・・・ちょっと、私も負けてられないかもしれないわね。
「・・・うわっ! 咲夜さん、すごい包丁捌きですね!」
「まぁ、普段からナイフを扱っているからこういう事には慣れているのよ」
「その魚、結構捌くの難しいんですよ、今度教えてもらえますか?」
「・・・・・・そうね、妖夢が紅魔館に来てくれたら考えてもいいわよ」
「あ~それは無理だと思います」
少しみょんな感じに落ち込みつつも料理の手は一切緩めない、
・・・紅魔館に帰ったら調理部門にこの事を伝えておこう・・・そう本気で思えた一時であった。
・・・・・・・・・・・・・・
「今日の料理はおいしいわね~妖夢~」
「はい、咲夜さんが手伝ってくれましたし、それに調味料も原料から作ったものなんです」
「へぇ~、『おりじなるぶれんど』というものかしらねぇ・・・あ、この魚もいけるわ(もぐもぐ)」
・・・微妙に違うと思うが、まぁ・・・良き評価を受けるのは大変喜ばしい事には違いない。
「・・・・・・この味噌汁、すごい後味がさっぱりしているわね」
「はい、それは西行寺が独自に作っているお味噌を使っているのですよ。
コクは深く、それでいて後味がさっぱり! 幽々子様は味噌汁はこれじゃないと嫌だ、って言うんですよ」
「そうね~、以前これを切らせた時に他の味噌を使ったのを知った時はさすがに怒ったわよ、妖夢」
「・・・・・・ええ、あの出来事は一生忘れられないと思います」
真横にいる妖夢の様子からして相当な修羅場が展開されたのだろう・・・と推測は容易につく。
さしずめ問答無用で『鳳蝶紋の死槍』でも飛んできたのだろう・・・・・・。
「妖夢~おかわり~」
「はい、ただいま!」
・・・・・・・・・それにしても、
よく食べるわね・・・・・・。
次から次へと溢れかえる食器、そう・・・いうなれば百万鬼夜行のような状況に私は言葉が出なかった。
・・・・・・・・・・・・・・・
食事を終え、妖夢と共に食器の洗浄に後片付けを終え、縁側で三人緑茶を飲んでいた。
「・・・知ってるかしら? お茶の香りは植物の成仏の香りなのよ~」
・・・と、掴み所がわかりずらい会話、それに対応している妖夢、
つまりこれが私におけるお嬢様とのお茶会になるのだろう・・・そう思うと何処か滑稽な光景でもある。
「・・・・・・・・・あっ・・・」
「ああ、あれはここの住人ですね。 咲夜さんの世界では『人魂』とか『幽霊』に部類されるのでしょう」
「そうね・・・それにしても・・・・・・」
そう、人の魂というものなのだろう、何処か儚い感じであり、それに伴う美しさが私の目、心に映る。
「あまり幽霊に誘われちゃ駄目よ、それこそ貴女もここの住人になっちゃうわよ~。
まぁ、そうなったら毎日美味しい料理が食べられるからいいけどね」
「・・・・・・死んだ時の就職口として考えたいところだけど、毎日あれだけの料理を作るのは骨折れそうね」
「あら大丈夫よ、妖夢だってできるんだし、それに幽霊だったら骨折とか気にしなくてもいいんじゃない?」
「いや、そういう意味じゃなくて・・・・・・」
・・・と、実に半分以上が意味不明な会話ではあるが、決して悪いものでは無かったし、
・・・・・・・・・・・・・・・
むしろ・・・・・・・・・・・・何処か心地よいものを感じた気がした。
-修行2日目-
白玉楼の朝は驚くほど早かった。
突如妖夢に叩き起こされた時は驚いたが、冥界の極めて冷たい水で顔を洗った時は目が覚めた。
「とりあえず今から庭の手入れと共に見回りをします、
基本的に木々の手入れは私がしますので咲夜さんはその補助をお願いします」
「・・・わかったわ」
先日とは打って変わって妖夢の表情は真剣そのものだった。
私は妖夢の真剣な指示を受け、その行動に合わせて補助を行う。
思えばこの広い庭をたった一人で受け持っているのだから、その技量は凄いと思う。
「では、次の木に向かいましょう」
「ええ」
驚くほどの広さに驚くほどの木の数、それら全てを妖夢は丁寧かつ正確に手入れを施していく。
それを傍から見ている私には『神業』の領域にも思えた。
「さて・・・・・・これで最後の木になります」
妖夢は一本の木をじっと見つめて静かに呟き・・・・・・ゆっくりと私の方を見る。
「咲夜さん、この木は貴女が手入れして下さい」
「・・・・・・・・・えっ?」
「大丈夫です、何かありましたら私が指示しますから」
「そ・・・そう? わかったわ」
目の前にある木・・・・・・いや、それは木になろうとしている一本の植物なのだろう。
片手に鋏を持ち、空いている片方の手を木に添えた時、
・・・・・・・・・何か違和感を感じた。
「・・・この木・・・・・・いや、これは・・・」
「気付いてもらえましたか?」
私は無言のまま、妖夢の方を向いて静かにうなづく。
今まで妖夢は『木々』を手入れしていたのだと思っていたが、それは違った。
そう・・・・・・この木々達は・・・・・・
「・・・大丈夫、もう・・・何も怖いことは無いからね」
私の目の前に木は無い、そこには一人の髪が伸びた少女が見えていた。
私はそっと少女の髪を撫で、丁寧に丁寧に髪に鋏を入れる。
ちょき・・・ちょき・・・ちょき・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・」
目の前の少女の髪は綺麗に整い、仕上げも終わった。
その少女は笑い・・・・・・消えていった。
・・・気のせいだろうか、最後に『ありがとう』と言い残したようにも思えた。
「咲夜さん・・・見事です。 本当に私からも死後はここに就職してもらいたいくらいです」
「・・・・・・あの子、妖怪に殺された子なのね」
「・・・! そこまで・・・わかったのですか!?」
「ええ、山にみんなと遊びに来て妖怪に襲われて自分だけ殺された・・・そう言っていたわ」
私は目の前の少女だった木を見つめ、静かに言葉を続ける。
「多分・・・この木はまもなく死を迎えるでしょうね、しかし・・・それは生まれ変わりを意味する死。
木としての死を受け入れ、次の人生という新しい生を受ける・・・・・・というのは言いすぎかしらね?」
少し照れくさそうに言葉を止め、妖夢の方へ振り向く・・・・・・と、
「・・・・・・・・・す・・・」
「?」
「素晴らしいです! まさかたった一度でここまで理解してしまうなんて! 咲夜さん、貴女はすごい人です!」
「い・・・いや、妖夢だって・・・ほら、これだけ多くの木々を手入れしているんだから・・・ねぇ」
あまりにも直線的で眩しい程の2つの瞳が私を見つめ、絶賛を浴びせる。
正直・・・・・・・・・苦手だ。
「ほ・・・ほら! そろそろ屋敷に戻らないと・・・・・・」
「・・・そうでした! 次は屋敷の掃除です、戻りましょう!」
・・・・・・・・・・・・その後、広い屋敷の掃除を行い、夕方は先日同様料理を作り、今日も団欒な状況である。
「幽々子様、咲夜さんすごいんですよ! 庭の木々のですね!」
「・・・妖夢~、もうその話6回目よ・・・」
食事中にも関わらず、妖夢は興奮気味に今日の出来事を話していた。
よほど衝撃的だったのだろうか、今日の彼女は本当に・・・・・・血の色を見た闘牛のような意気込みさえも感じた・・・が
「食事中にはしたないですよ」
「・・・・・・・・・あ、すいません」
隣で奮闘していた半人はしゅんと座り込んで申し訳なさそうに米を口に運んでいた。
思わずメイドとしての本能なのか、無礼な行為がある以上即座に注意をしてしまった・・・という事か。
「ふふふ・・・咲夜ったらまるで妖夢のお姉さんみたいね」
目の前で大食らいの亡霊が妖しげな笑みを浮かべて私達を見つめていた。
相変わらず、その手元には相変わらず食い尽くされた食器の群れが死屍累々としていた。
さながら・・・・・・・・・死に誘われたものの残骸とでも言っておくとしようか。
「妖夢~♪」
「はい、おかわりですね!」
これで更に追加・・・これだけ食事して太らないのは幽霊としての特性なのか・・・。
不覚にも『羨ましい』と思ってしまったが、それは自分の心の中だけに留めておく事にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
やがて、食事も終わり、先日同様半分意味不明・・・いや、正確には奥が深い会話だったと思う。
あの幽々子の話は遠まわしではあるが、何処か真髄を突いた話・・・・・・だと思いたい。
隣にいた妖夢は『?』な感じが大半を占めた表情で話を聞いていたのだが。
・・・・・・・・・・・・・・・
ヒュウゥゥゥ・・・
白玉楼にも風は吹く、薄暗い部屋に私と妖夢は布団を並べて眠っていた。
思えば明日・・・紅魔館へ帰ることになっている、ここの非日常的な日々とも別れる事になる・・・のか。
「・・・・・・咲夜さん」
物思いに耽っていた私に不意に掛かる声、それは隣で眠っていると思われた妖夢の声だった。
「起きていたの?」
「・・・・・・・・・・・・あの・・・」
「?」
顔を布団で隠しながらも何か・・・言いたそうな仕草をする妖夢は・・・・・・
「今夜だけでいいですから・・・一緒に寝ていいですか?」
と、静かな部屋で私にそう言った。
「・・・・・・別に構わないわよ」
・・・・・・・・・・・・・・・
ヒュウゥゥゥ・・・
白玉楼に吹く2度目の風、何処か寂しく儚い・・・まるで魂の声とでも言うのだろうか、
そんな音を聞きながら私の傍には妖夢が・・・・・・懐にいた。
(咲夜ったらまるで妖夢のお姉さんみたいね)
食事の時の幽々子の言葉がふと鮮明に蘇る。
そういえば・・・私、ここに来た理由は白玉楼の庭師の手伝いとだけ書いてあったけど・・・・・・もしかしたら・・・
「・・・咲夜さん・・・・・・」
その考えを遮るかの如く、妖夢が静かに呟く。
先程の庭師としての・・・昔弾幕っていた頃の剣士としてでは無く、
その表情は一人の少女そのものとしか思えない妖夢の声。
「・・・何?」
「私・・・・・・家族の事とかあまり覚えていないんです」
「・・・・・・・・・・・・」
「両親は片方が人間、片方が幽霊だったと聞いています、昔師匠もいましたが何も言わずに私の元から去りました」
「・・・・・・・・・・・・」
「やがて何年も幽々子様といる内に一人でいる事に慣れてきた・・・・・・」
「でも幽々子と一緒ならそれは一人とは言わないんじゃないの?」
「そうかもしれません・・・・・・でも、幽々子様と私は主従の関係です」
・・・確かに、お嬢様と私も主従の関係でこそあるが、それは家族という繋がりとは微妙に違う。
「だから、ここに咲夜さんが来てくれて本当に嬉しかった。
一緒に料理を作ってくれた事、食事をした事、庭の手入れをしてくれた事、一緒にいてくれた事・・・」
私の服を妖夢は強く握り締めながら、静かに・・・そして強く言葉を出す。
「お願いです! どうか・・・どうかここに一緒にいて下さい!!」
「・・・あのね、妖夢。 私は明日・・・・・・」
「わかってます! わかってます・・・けど・・・けど・・・・・・!!」
もはやその声はいつもの妖夢の声とは違っていた、彼女は私の懐で強く言いながら
泣いていた
きっとこの白玉楼で何年、年十年も独りでいたのだろう。
私は幻想郷に来てから数年は経つが、おそらくこの少女が背負ってきた孤独の年数に及ばないものだと思う。
・・・相変わらず妖夢は私の胸元で泣いていた、今まで胸の内に押し込んでいたものが溢れ出ているかのように・・・
「・・・・・・妖夢は泣き虫なのね」
自然と彼女の髪を撫でながら私は囁いていた、まるで泣きじゃくる『妹』を宥めるかのように。
「・・・妖夢、私は明日紅魔館に帰る。 だけど・・・それは永遠の別れじゃないわ。
お互い生きている内はいつか会うことになるだろうし、決して遠い先の話じゃないと思う」
「・・・・・・・・・ぐすっ」
溢れていた気持ちが落ち着いたのか、妖夢は黙って私の胸元に顔をうずめている。
「・・・そうね、せめて今だけでも貴女の『姉』になってあげるから・・・・・・って?」
・・・・・・・・・すー・・・
「・・・・・・・・・もう寝ちゃったの?」
正直驚いていた、先程まであんなに泣いていたのにほんの少しの間に熟睡してしまうなんて思いもしなかった。
ふぅ・・・と一息ついて私も眠りの世界に入る事にした。
「・・・おやすみなさい、妖夢・・・・・・」
おそらく今の光景は傍から見れば『姉妹』と見間違えられるかもしれない。
別に妖夢とは血も繋がっていない、まして種族も違う・・・・・・しかし、
確かにそこには『絆』があったのだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
-修行終了当日-
「・・・お世話になりました」
「こちらこそ美味しい料理ありがとうね。 死後は白玉楼へ就職する事も考えてね~」
「・・・・・・・・・まぁ、数十年先には検討しておきます」
何かピントがずれているような会話、一応これがこの日常との別れの挨拶なのだが。
「ところで・・・妖夢はどうしたのかしら?」
「彼女ならまだ眠っていると思います、あまりにも幸せそうな顔をしていたので起こさずにしておきました」
「・・・・・・そう」
軽く頭を下げ、白玉楼に背を向け帰ろうとしたとき・・・・・・
「咲夜さん!!」
その声が私の足を止めた。
幽々子の背後から走ってくる彼女の姿が目に映り、私はその光景を無言のまま見つめていた。
「・・・・・・また・・・来てくださいね! お手伝いでも弾幕でも何でもいいですから!!」
何処か抜けた言葉に思わず笑みが零れ・・・・・・
「そうね、次はとっておきの弾幕でも用意してくるわ」
そう言い残し、私は白玉楼を後にした・・・・・・。
「・・・・・・行っちゃいましたね」
「そうね、ところで妖夢・・・目が赤いけどどうしたの?」
「! いえ・・・これは・・・その・・・」
「ははぁ、貴女咲夜と別れるのが寂しくて泣いていたのでしょう?」
「べ・・・別にそんな、私は白玉楼の庭師であり幽々子様の・・・むぎゅ!?」
「いいのよ、いいのよ、貴女も少し気分転換になったでしょうし・・・それに」
「・・・・・・それに?」
「私が結婚して子供できたら、貴女の家族が増えるじゃないの」
「ぶーっ!! 幽々子様・・・それ本気ですか!?」
「さて・・・どうかしらねぇ・・・・・・」
-天空の門~青き広大な空-
私は空を飛んでいた、あと数時間後には紅魔館へと到着する。
お嬢様がきっと紅茶の時間を待っているのだろう、
パチュリー様が読書と話の時間を待っているのだろう、
美鈴が日常の会話の相手を待っているのだろう・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
白玉楼で妖夢はずっと私を待っているのだろうか・・・?
私を姉のように慕ってくれた妖夢はずっと・・・何年も年十年も・・・
もし、私が冥界では無く天国や地獄に行くとしたら・・・・・・彼女は何百年も待ち続けるのだろうか?
いや・・・大丈夫、別れは次の出会いのきっかけ、
また何かの用事できっと行く事になる・・・・・・・・・
・・・・・・だけど・・・・・・
・・・・・・・・・・・・あれ?
私・・・なんで泣いているの?
空の風が冷たいから・・・それとも目にゴミが入ったから・・・?
だったらこの胸を締め付ける思いは・・・・・・・・・
そうか・・・・・・簡単な答えじゃない。
私も妖夢と同じように別れを心底惜しんでいたのか。
簡単な事ね・・・私も・・・・・・・・・
独りだったのかもしれない・・・
そう思い、気付いた頃には涙が溢れ止まらなくなっていた。
それはそこにあった『繋がり』と『絆』の再認識・・・そしてその儀式は
紅魔館に着く頃には終了した。
・・・・・・・・・・・・・・・
-USUAL DAYS(普通の日へ…)-
「・・・ご苦労だったわね、咲夜」
「・・・・・・はい」
私は元の場所へと帰った、あの戻ってこない日々は胸の奥に残しておく事にした。
そうでなければ私は私で無くなりそうな気はしてならないから・・・・・・。
「帰ってきて早々で悪いけど、休憩後仕事に取り掛かってもらうわよ」
「はい、かしこまりました・・・それでは失礼いたします」
・・・・・・そう、これでいい。 私は永遠にお嬢様に使える主従の関係・・・・・・そこに家族という絆は・・・
「・・・・・・咲夜」
「は・・・はい」
「貴女があの場所で何を得たのかは聞かない、だけど覚えておきなさい。
ここは貴女の居場所であり同時に死を迎える場所でもある」
「・・・・・・・・・・・・」
「あとね・・・・・・先日みたいに悩みがあったら遠慮無く言いなさい。
それが紅魔館の主としての責務でもあると共に・・・・・・・・・」
「私の大切な家族を守る役目なのだからね」
「・・・! ・・・・・・はい、ありがとうございます」
「・・・・・・下がりなさい、休憩後は来客者のおもてなしの準備を行いなさい」
「はい」
・・・・・・パタン
(・・・私も酔狂な事を言うようになったものだ)
一人になった部屋でレミリアがそう考え笑みを浮かべていたが、外にいる咲夜が知らないのは言うまでも無かった。
・・・・・・・・・・・・・・・
日が落ち、夕方になる。
紅魔館への来客者へのおもてなしも成功に終わり・・・・・・落ちた日が昇り、また落ちる。
そんな平凡な日常の中・・・・・・
私はまた出会った、あの偽りが通じない白黒はっきりとつけるあの女に。
「どうですか、貴女は善行を積んでいますか?」
私はこう言った。
「・・・人間との繋がりはいまだに理解できません」
彼女の右手が天に上がる。
「ただ・・・・・・繋がりと絆がある事はわかりました」
彼女の右手が・・・・・・・・・止まった。
「そう・・・・・・ですか」
・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・今日は早く帰りなさい、良き理解者である主達に良くする事が今の貴女の善行なのでしょう」
そう言うと共に彼女はまた何処とも無く飛んで去っていった・・・。
・・・・・・人間同士の繋がり、この紅魔館にいる限り私はそれを完全に理解するのは難しいと思う。
幻想郷という一つの閉鎖された世界から更に隔離された空間、その場所で人との出会いがあるとは思い難い。
だけど・・・もしかしたら、予想も全くつかないような出会いが無いとも言えない。
あの出来事も今思えば『予想外』の展開だったのだから・・・・・・
今日も忙しい日々を過ごす、何処までも透き通った青い空の下で忙しい日々を過ごす、
違う世界で日々を過ごす彼女の事を思い出しながら
大切な紅魔館の・・・みんなの事を考えながら
そこにある『絆』、『繋がり』を大切にして、今日も忙しく過ごそう
END
今回の場合、妖夢が最初から咲夜ラブなあたりに作者のエゴが見え隠れ。
キャラクターをただ単に作者の代弁者とするのではなく、キャラクターの人格を活かした上で代弁者とするのが望ましいのでは。