「・・・・・・それにしても」
私、十六夜 咲夜は目の前にある難題に思わず頭を抱えていた。
竹の花、青いダイヤモンドなど、これらは私が今まで集めてきた貴重な品物・・・・・・なのだが
「これは一体何なのかしら?」
形状:洋式の品物と思われる…食器の一種?
用途:飲み物を入れておく道具のような気がする
印象:元は金色だったような印象がある
何処かの黒い魔法使いでは無いので自分の所持している品物くらい把握はしている。
だからこそ、自分が所持した覚えが無いものがそこにあるから難題なのである。
「・・・・・・・・・まぁ、折角だから綺麗に拭いておきましょう」
とりあえず何処で手に入れた・・・という事も解いておきたいが、
見たところかなり汚れがついているし、手持ちの道具で何とかできるはず。
~少女手入れ中~
「・・・・・・ふぅ」
時間にして20分、かなり手が掛かったけど我ながら上出来。
かつて汚れていた物が今は立派な貴重品として生まれ変わった…と言っても過言では無い状態。
「うん、折角だから他のものも綺麗に・・・」
しようと思ったその時、先程の貴重品から煙がモクモクと出ているのを見て言葉が止まる。
「え、え? ちょっと・・・」
煙は更に勢いを増し、一つの塊を形成した・・・と思った瞬間、
「きゃっ!」
煙は突然光を放ち、思わず声を上げ・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・お呼びで御座いますか、ご主人様」
その光景を煙だった存在・・・いや、一人の青年が礼儀正しそうに私を見て尋ねていた。
「・・・・・・あの・・・どちら・・・様ですか?」
「私ですか? 私はランプの精…の遠い親戚の者で御座います」
ランプ・・・の精。
あの・・・御伽噺のランプの精?
「・・・まぁ、疑うのも無理無いかもしれません、あの者と様相が違うのですから」
「あ、いや・・・・・・」
・・・ちょっと待て咲夜、落ち着くのよ。
まず、私は汚れていたこの品物(ランプ)を磨いていた、そしたらどういうわけかこの不審人物がいきなり現れた。
不審人物が現れた時に取るべき行動…それは、
1:「きゃー痴漢よー!」と叫ぶ
ニア2:徹 底 排 除、すなわちデリート、抹殺也
・・・・・・・・・2番確定、そうと決まれば・・・・・・
「ちょ、ちょっと待って下さい」
「問答無用!!」
言葉と同時にナイフを男に向かって投げつけた・・・・・・が、まるで何も無かったかのようにすり抜けて壁にナイフは刺さる。
「あの・・・私に物理的なものは無効です、それに危害を加えるつもりはありません」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・コホン、貴女にそのランプを磨いてもらった事で私は外界に出る事ができました。
そのお礼に・・・とは何ですが、何でも願い事を3つ叶えて差し上げます」
「・・・・・・願い・・・何でも?」
「ええ、ただし『願い事を増やして欲しい』とか『元に戻って欲しい』というのは無効化しますのでご注意下さい」
・・・・・・う~ん、いきなり願い事と言われても・・・・・・
そう悩みつつ窓から外を見る、そこには大きな庭園と大きな門が見え、ふと一人の人(人?)物が浮かび上がった。
「・・・・・・きちんと門番として仕事しているのかしら?」
そうね・・・・・・一つ試してみようかしら。
「えっと・・・ランプの精、だったかしら?」
「いかにも、願い事が決まりましたか?」
「ええ、この紅魔館の門番に中ご・・・いや、紅 美鈴という人がいるんだけど」
「はいはい」
「その人の仕事のやる気を増やしてほしいの」
「ふむ・・・紅 美鈴さんの仕事に対するやる気を増やす、それでよろしいのですね?」
「ええ」
「わかりました・・・・・・」
そういうとその男は目を閉じ・・・・・・
「終わりました」
・・・早すぎるわよ、そう心の中で思わず突っ込みを入れてしまった私がそこにいた。
「・・・本当に・・・叶ったの?」
「ええ、何だったら見てみますか?」
男は先程と同じく目を閉じ、両手を天に向かって広げる。
すると何も無い天井に突然歪みが生じ、それは一つの映像として映し出される。
「・・・この方が紅 美鈴という人ですね」
「ええ、そうよ・・・・・・って、魔理沙が来ているの!?」
その映像にはちょうど美鈴と魔理沙が弾幕(たたか)っているのが映し出されている。
いつもの事だが、やはり美鈴の方が分は悪いようだ。
「・・・・・・マスタースパーク!!」
「・・・!!」
眩しい光の帯が美鈴に直撃する、いくら美鈴が妖怪で頑丈とはいえ・・・・・・
「・・・・・・まだまだ!」
「・・・へぇ、今日はいつもに増してタフだな」
え? マスタースパークの直撃を耐え抜いた?
「スターダストレヴァリエ!」
「ぐうぅぅぅ・・・派亜っ!!」
今度はあの魔理沙の突撃を掴んで投げ飛ばした・・・美鈴、いつの間にこんなに強くなっているの?
「この・・・しぶといにも程があるだろ! もう一発お見舞いしてやる!!」
魔理沙の二発目のマスタースパークが美鈴に再び直撃し、今度は耐え切れず門まで吹き飛ばされ全身を叩きつけられる。
「これで・・・・・・もうお終いだよな・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・まだ・・・まだ・・・!!」
・・・・・・服はボロボロ、頭からは血が流れ、見てわかるくらいの重傷の身なのに
美鈴は起き上がって魔理沙を睨みつけている。
「ちょっと・・・・・・やりすぎじゃないの!?」
「何がです?」
私は目の前で起きている理不尽な状況におもわず声を上げ、隣に立っている男は平然と応える。
「確かに美鈴のやる気を出せ、と言ったわ。 しかし・・・これでは・・・」
「・・・彼女のやる気はかつてない程に上がっております、精神が肉体を凌駕する程に・・・ね」
「精神が肉体を・・・って!」
「見事な精神ですよ、何が何でもあの黒いのを通さないという意志で漲ってますよ、さながら自己犠牲の精神の鏡ですね」
「ですね・・・じゃないわ! 今すぐ美鈴を元に戻しなさい!!」
「・・・・・・それが2つめの願いですか?」
「ふざけないで! 私はこんな・・・・・・」
「・・・ここ・・・は・・・とおさ・・・ない・・・」
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・嘘・・・だろ・・・・・・」
たとえ妖怪でも死んでもおかしくない程の身・・・それでも美鈴は身体を引きずってでも魔理沙に向かっていく。
「・・・・・・こんな事をしてまでも入る気はしない・・・今日は帰るぜ・・・!」
魔理沙もまた疲労しきった状態なのか、箒にまたがると光のように紅魔館から去っていく。
「・・・・・・逃がす・・・か・・・」
「さて、どうします? このままだと彼女、黒いのを追いかけるつもりですが」
「・・・・・・わかったわ、2つ目の願いは美鈴を元に戻す事」
「承知しました」
男は目を閉じ、何か呟く。
映像に映し出されている美鈴の傷がみるみる内に塞がり、その場に美鈴は倒れこむ。
「・・・・・・これで彼女の精神は元通り、傷も癒えました・・・が精神の過剰使用により意識を失ったみたいですね」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
迂闊だったわ・・・まさかここまで効果が過剰すぎるなんて・・・!
そう思いつつ、心の中で眠っている美鈴に申し訳ない気持ちが胸を締め付けていた。
「さて・・・あと1つの願いですが、少しお時間を頂けますか?」
「・・・・・・どういう事?」
「先程の願いの連続使用は中々無いもので魔力が切れかかっております。
何、1時間もあれば回復しますので・・・それまでに願い事をじっくりと考えてもらえれば・・・」
「そうね・・・・・・」
「ご了承頂いて幸いです、それでは1時間後に・・・」
その言葉を合図に男の身体は煙と化し、ランプの中へと吸い込まれるかのように消えていく。
「・・・・・・・・・・・・1時間後・・・か」
私はそう呟き、一人思考を巡らせる事にしたのだった・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
1時間・・・丁度。
そういえば美鈴は門番の交代時間だけど・・・大丈夫かしら?
そう考えていたその時、例のランプから再びあの男が現れる。
「・・・・・・お待たせいたしました」
最初に現れた時と同様、軽く頭を下げてそう呟く。
「ところで3つ目の願いですが・・・」
「何かしら?」
「いえ、最初に言い忘れたのですが実はですね・・・」
私は男の言葉を待ち、じっとその様子を眺めていた。
「3つ目の願い事を叶えると同時に代償を払う事となっているのですよ」
「代償・・・ですって?」
「ええ・・・・・・それは・・・・・・・・・」
「貴女の魂です」
「・・・!!」
私の・・・魂・・・それって、命を奪うという事!?
「そんな・・・今更!」
「まぁ、何事にも『タダ』という事はございません故に・・・」
「ふざけないで!!」
-キンッ!-
瞬時に時間を止め、私は無数のナイフを男目掛けて投げる。
-カチッ!-
時間が動くと同時に男にナイフの群れが襲いかかる・・・が、それは全てすり抜けて壁に突き刺さる結果となる。
「だから言ったでしょう、私に物理攻撃は無効だって・・・それにこの世界の魔法と呼ばれる攻撃も無効ですよ」
「・・・・・・・・・くっ・・・だったら・・・」
「・・・あ~、『願い事を言わない』というのはやめておいた方がいいですよ。
以前別の人間がそれを行って、私に死ぬまでとり憑かれる結果となりましたからね」
・・・・・・読まれた・・・そう思いながら今の状況を極力冷静に考える。
1:3つ目の願い事を言わない限り、私が死ぬまでとり憑かれる
2:3つ目の願い事を言うと同時に魂を奪われ、死に至る
3:この男に対して物理、魔法・・・つまり攻撃は全て無効となる
・・・何よ、ほとんどチェックメイトじゃないの!
「あ~それからですが・・・」
「・・・何よ」
「矛盾する願いも微妙な結果となります故、おすすめしません。
例えば『私の魂を奪わないで』という願いとか・・・ね。
確かに3つ目の願いは成就します・・・確かに願いが叶う以上、
魂は奪われませんし貴女の命は助かるでしょう・・・・・・しかし・・・・・・」
「・・・しかし・・・?」
「では話を戻しますが、なぜ貴女が手に入れた覚えが無いのに『私』はそこにいたのか?」
「・・・・・・何が言いたいのよ・・・!」
「・・・それが私の能力、『人の記憶を操作する程度の能力』なのです、貴女は私を拾った覚えが無いのもその為ですよ。
・・・・・・貴女が先程の矛盾する願いを発動すれば私は戻る寸前に能力を使います、
するといつの日か私の事を覚えていない貴女は再びあのランプを磨く・・・」
そして事は繰り返される・・・・・・という事ね・・・・・・。
本当に・・・チェックメイトじゃないのかしら・・・これ。
「まぁ・・・この世界とのお別れ、せめて自分の本当の願いを叶えて・・・逝きましょう」
・・・・・・・・・・・・本当の・・・・・・願い・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・お嬢様・・・・・・
パチュリー様、美鈴・・・それにみんな・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・わかったわ」
「・・・決まりましたか、どのような贅沢な願い事でも叶えて差し上げますよ」
「ええ・・・3つ目の願い事は・・・・・・」
「・・・この願いを最後に誰の願いも叶えない」
「・・・・・・・・・もう一度、聞かせ願えますか?」
「私の願いは『この願いを最後にする』よ」
「・・・別に構いませんが、それでは貴女・・・死んで終わりますよ?」
そう・・・・・・今の私にできる事、それは自分以外の全てを守る事。
愛しい主、その友人、大切な仲間達・・・大切な存在を守る、ただ・・・それだけ。
「・・・・・・構わないわ、こんなくだらない悲劇にピリオドを打てるのなら」
「一応言っておきますが、魂を奪われるのは生半可な苦しみではありませんよ。
肉体的な苦痛、侵食、それらの何十倍の苦しみを味わう事になるかもしれないのですよ」
「だったら尚更、そんな苦しみ・・・私一人で十分よ」
正直・・・未練はたくさんある。
まだやりたい事もあるし、お嬢様とも約束した。
『大丈夫、生きている間は一緒にいますから』
・・・・・・・・・約束・・・した・・・のに・・・
「・・・・・・申し訳ありません・・・お嬢様・・・・・・」
「・・・さて、3つ目の願いを叶えて・・・・・・」
バンッ!!
男の声が突然響き渡った轟音と共にかき消され、その音の方には・・・・・・
「話は全て聞かせてもらいました!」
「・・・美・・・・・・鈴?」
自分の部屋にいるはずの美鈴がドアを思いっきり開いて立っていた。
「貴女がどうしてここに?」
「・・・すいません咲夜さん、実は部屋に戻る前に挨拶していこうと思ったんですが、
丁度咲夜さんとその男が話をしているのを聞かせてもらったんです」
「・・・さて、3つ目の願い事を叶えると同時に魂を奪うでしたよね?」
「いかにも、もう2つ叶えていますので次で3つ目の願いとなるわけですが」
「・・・・・・奪う魂を咲夜さんでは無く、私の魂にして下さい!」
「・・・! 美鈴・・・貴女何を言っているのかわかってるの!?」
「ええ、咲夜さんはお嬢様の大切な従者です。
それに比べて私は侵入者をろくに追い払えない門番です、どちらが犠牲になればいいのかぐらいわかってます。
・・・・・・あと、咲夜さんは私の大切な人です。 守りたい者を命がけで守ること・・・それが私の使命です」
「・・・美鈴・・・でも、これはいつもの事とは違うのよ! そんな軽々しく・・・・・・」
「軽々しいのはどちらかしら、咲夜」
・・・この声は・・・・・・
部屋にゆっくりと入ってきたのは紅魔館の魔法図書館に住む魔女、パチュリー様だった。
「貴女も美鈴も同じ魂は魂よ。 咲夜はレミィの大切な従者、美鈴はここの大切な門番、大切な存在に変わりは無い」
「・・・パチュリー様・・・・・・」
「そのとおりよ、咲夜。 主の許可も無く死ぬなんて絶対許さないわよ」
「お嬢様・・・!」
「私は約束を破るような人間を従者にしたりしないわ」
「・・・・・・どうして?」
「どうして・・・って、咲夜は私の能力を忘れたというの?
運命を操るという事は同時に運命を知るという事でもあるのよ」
「そうです! みんな大切な人なんですよ!!」
「咲夜さん!」
「メイド長!」
「小悪魔に・・・みんな・・・・・・」
お嬢様にパチュリー様、美鈴・・・そして紅魔館の者達が結集し、
全ての者がランプの隣で事の成り行きを眺めている男を睨みつけていた。
「・・・・・・咲夜だけじゃないわよ、この紅魔館、いや・・・幻想郷の者の脅威となる存在は
このレミリア・スカーレットの名の下に徹底的に破壊する・・・・・・!」
力が篭った手を鳴らすお嬢様、魔道書を開いてスペル発動寸前のパチュリー様に身構える美鈴、
その後にいるみんなが身構え・・・・・・男と睨み合っている。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・ふ、はははは・・・ははははは!」
しばしの沈黙を打ち破ったのは男の笑い声、
「何がおかしい」
「・・・すまない、まさかここまで信頼されている者だったとは思いもしなかったのでな。
今までに出会った人間は自分が助かる事しか考えていなかった、しかし・・・しかしだ、
自分の命を投げ出してでも全てを助けたい者、それを庇おうとする者、大切に思う者、
それらが生み出す絆をまさか見る日が来ると思いもしなかったのでな」
「・・・・・・私の負けだ、ここでその者、十六夜 咲夜の魂を奪おうものなら完全に私は悪人になってしまうな」
男の身体が薄くなっていき、煙となるとランプの中に再び消えていく。
「私を完全に封印するなり湖の底に沈めるなり、好きにするがいいだろう・・・」
そう言い残し、何事も無かったかのように静寂が還ってきた。
・・・・・・・・・・・・・・・
その後、このランプをどうするか話し合いが行われた。
あの男のいうとおりなのか、どうやらこのランプさえも破壊は不可能であり、
結局、翌日封印の儀式を執り行う事となった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
空に月が浮かぶ夜、私は自分の部屋で一人目の前のランプを静かに見いつめていた。
「絆・・・か」
ふと、ここに来るまでの事を考えていた・・・その時は『絆』なんて言葉は思い浮かばなかった。
世界は穢れている、人間は卑怯、残酷、汚い・・・そう思っていた頃もあった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
手にとった純白のハンカチで私は再び目の前のランプを磨く。
「・・・・・・眠っているというのに何か用か?」
煙が出てあっという間に例の男が現れ、少し不機嫌そうに私に呟く。
「もしかして・・・眠っていたの?」
「ああ、先程まで私を徹底的に破壊しようとしていたからとても眠れなかったが」
「・・・聞いていいかしら?」
「何だい?」
事が片付いて色々と疑問が残っていた・・・もし、正しければ・・・・・・
「魂を奪うというのは嘘でしょ?」
「・・・・・・・・・・・・ああ、よくわかったな」
「やっぱり、そういう契約を発動させる時はそのメリットとデメリットを完全に術者が理解する必要がある。
貴方は先にメリットだけを伝えておいて、デメリットの部分を教えなかった、つまり・・・・・・」
ふぅ・・・と目の前の男はため息をついて、首を下げる。
「そう、試した・・・この世界、幻想郷の住人の純度がいかなるものか」
「純度?」
「私は外の世界から流れてきた者、今や外の世界は酷いものだ。
自らの欲望の為に平気で物は奪う、人は殺す・・・それなのに自分の身は可愛いと来た。
私の封印を解いたものはみな2つ目まで己の欲望を満たす為に一生懸命だったさ、
そして3つ目でみな自分が助かる事だけを考える、中には人を犠牲にしてでも助かろうとした輩もいたくらいだ」
「それで・・・3つ目の願いを叶えて魂を奪う、つまり殺したの?」
男は私の静かな問いに横に首を振る・・・が、その表情は何処か寂しそうだった。
「いや、私が手を下すまでも無かった・・・というより、あまりにも哀れでそういう気にもならなかった。
中には発狂して自殺したものもいたから、ある意味私が殺したことになるのかもな」
「そう・・・・・・」
「・・・ところで」
「?」
「まだ3つ目の願いを叶えていないままだったな、別に魂を取ったりしない、きちんと加減もする。
今度は本当の望みを叶えてあげよう」
男は窓の方へと歩き、振り向いて私を見ながらそう話した。
「本当の願い・・・・・・か・・・」
「・・・私の本当の願いは・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・
-数日後-
紅魔館門前
「美鈴! またサボっているんじゃないでしょうね?」
「ひいぃぃ! 咲夜さん!」
何を怯えているのか、目の前にいる美鈴は驚いて私の方を震えながら見ている。
「・・・今週になってあの黒いのに侵入され放題じゃないの!」
「でも・・・パチュリー様が・・・」
「問答無用!」
「ごめんなさい~!!」
「ふぅ・・・・・・でも、無理はしないでね。 貴女は紅魔館の由緒正しき門番だからね。
風邪引いたりしたら本当に承知しないからね」
「・・・・・・は、はい!」
ヴアル魔法図書館
「咲夜、そこの棚の上から2番目の古代樹の書を取って」
「はい、こちらですね」
「ありがとう、それから・・・紅茶を用意してもらえるかしら?」
「はい、すぐにでも・・・あ、今日の紅茶は貴重品が入ってますので」
「そう、それは楽しみね」
レミリアの部屋
「・・・・・・というわけで本日も紅魔館は異常ありませんでした」
「いつもご苦労様、就寝前のお茶会・・・咲夜も付き合うわよね?」
「ええ、喜んでお付き合いさせていただきます」
「それと夕方前に博麗神社に行くからそのつもりでいてね」
「はい、かしこまりました」
忙しい一日が終わり、今日も終わる。
外は朝を迎えようとしている。
「目覚めは夕方前か・・・・・・」
幻想郷の朝が訪れる前に私はベッドに身体を預け、眠りについた。
・・・・・・部屋の片隅にある机の上には、あのランプが金色の輝きを失わず存在していた。
私の願い
『平和で穏やかな日々が続きますように』
一片の曇りなき輝きと共にそれはいつまでも続いていた・・・・・・。
END
私、十六夜 咲夜は目の前にある難題に思わず頭を抱えていた。
竹の花、青いダイヤモンドなど、これらは私が今まで集めてきた貴重な品物・・・・・・なのだが
「これは一体何なのかしら?」
形状:洋式の品物と思われる…食器の一種?
用途:飲み物を入れておく道具のような気がする
印象:元は金色だったような印象がある
何処かの黒い魔法使いでは無いので自分の所持している品物くらい把握はしている。
だからこそ、自分が所持した覚えが無いものがそこにあるから難題なのである。
「・・・・・・・・・まぁ、折角だから綺麗に拭いておきましょう」
とりあえず何処で手に入れた・・・という事も解いておきたいが、
見たところかなり汚れがついているし、手持ちの道具で何とかできるはず。
~少女手入れ中~
「・・・・・・ふぅ」
時間にして20分、かなり手が掛かったけど我ながら上出来。
かつて汚れていた物が今は立派な貴重品として生まれ変わった…と言っても過言では無い状態。
「うん、折角だから他のものも綺麗に・・・」
しようと思ったその時、先程の貴重品から煙がモクモクと出ているのを見て言葉が止まる。
「え、え? ちょっと・・・」
煙は更に勢いを増し、一つの塊を形成した・・・と思った瞬間、
「きゃっ!」
煙は突然光を放ち、思わず声を上げ・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・お呼びで御座いますか、ご主人様」
その光景を煙だった存在・・・いや、一人の青年が礼儀正しそうに私を見て尋ねていた。
「・・・・・・あの・・・どちら・・・様ですか?」
「私ですか? 私はランプの精…の遠い親戚の者で御座います」
ランプ・・・の精。
あの・・・御伽噺のランプの精?
「・・・まぁ、疑うのも無理無いかもしれません、あの者と様相が違うのですから」
「あ、いや・・・・・・」
・・・ちょっと待て咲夜、落ち着くのよ。
まず、私は汚れていたこの品物(ランプ)を磨いていた、そしたらどういうわけかこの不審人物がいきなり現れた。
不審人物が現れた時に取るべき行動…それは、
1:「きゃー痴漢よー!」と叫ぶ
ニア2:徹 底 排 除、すなわちデリート、抹殺也
・・・・・・・・・2番確定、そうと決まれば・・・・・・
「ちょ、ちょっと待って下さい」
「問答無用!!」
言葉と同時にナイフを男に向かって投げつけた・・・・・・が、まるで何も無かったかのようにすり抜けて壁にナイフは刺さる。
「あの・・・私に物理的なものは無効です、それに危害を加えるつもりはありません」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・コホン、貴女にそのランプを磨いてもらった事で私は外界に出る事ができました。
そのお礼に・・・とは何ですが、何でも願い事を3つ叶えて差し上げます」
「・・・・・・願い・・・何でも?」
「ええ、ただし『願い事を増やして欲しい』とか『元に戻って欲しい』というのは無効化しますのでご注意下さい」
・・・・・・う~ん、いきなり願い事と言われても・・・・・・
そう悩みつつ窓から外を見る、そこには大きな庭園と大きな門が見え、ふと一人の人(人?)物が浮かび上がった。
「・・・・・・きちんと門番として仕事しているのかしら?」
そうね・・・・・・一つ試してみようかしら。
「えっと・・・ランプの精、だったかしら?」
「いかにも、願い事が決まりましたか?」
「ええ、この紅魔館の門番に中ご・・・いや、紅 美鈴という人がいるんだけど」
「はいはい」
「その人の仕事のやる気を増やしてほしいの」
「ふむ・・・紅 美鈴さんの仕事に対するやる気を増やす、それでよろしいのですね?」
「ええ」
「わかりました・・・・・・」
そういうとその男は目を閉じ・・・・・・
「終わりました」
・・・早すぎるわよ、そう心の中で思わず突っ込みを入れてしまった私がそこにいた。
「・・・本当に・・・叶ったの?」
「ええ、何だったら見てみますか?」
男は先程と同じく目を閉じ、両手を天に向かって広げる。
すると何も無い天井に突然歪みが生じ、それは一つの映像として映し出される。
「・・・この方が紅 美鈴という人ですね」
「ええ、そうよ・・・・・・って、魔理沙が来ているの!?」
その映像にはちょうど美鈴と魔理沙が弾幕(たたか)っているのが映し出されている。
いつもの事だが、やはり美鈴の方が分は悪いようだ。
「・・・・・・マスタースパーク!!」
「・・・!!」
眩しい光の帯が美鈴に直撃する、いくら美鈴が妖怪で頑丈とはいえ・・・・・・
「・・・・・・まだまだ!」
「・・・へぇ、今日はいつもに増してタフだな」
え? マスタースパークの直撃を耐え抜いた?
「スターダストレヴァリエ!」
「ぐうぅぅぅ・・・派亜っ!!」
今度はあの魔理沙の突撃を掴んで投げ飛ばした・・・美鈴、いつの間にこんなに強くなっているの?
「この・・・しぶといにも程があるだろ! もう一発お見舞いしてやる!!」
魔理沙の二発目のマスタースパークが美鈴に再び直撃し、今度は耐え切れず門まで吹き飛ばされ全身を叩きつけられる。
「これで・・・・・・もうお終いだよな・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・まだ・・・まだ・・・!!」
・・・・・・服はボロボロ、頭からは血が流れ、見てわかるくらいの重傷の身なのに
美鈴は起き上がって魔理沙を睨みつけている。
「ちょっと・・・・・・やりすぎじゃないの!?」
「何がです?」
私は目の前で起きている理不尽な状況におもわず声を上げ、隣に立っている男は平然と応える。
「確かに美鈴のやる気を出せ、と言ったわ。 しかし・・・これでは・・・」
「・・・彼女のやる気はかつてない程に上がっております、精神が肉体を凌駕する程に・・・ね」
「精神が肉体を・・・って!」
「見事な精神ですよ、何が何でもあの黒いのを通さないという意志で漲ってますよ、さながら自己犠牲の精神の鏡ですね」
「ですね・・・じゃないわ! 今すぐ美鈴を元に戻しなさい!!」
「・・・・・・それが2つめの願いですか?」
「ふざけないで! 私はこんな・・・・・・」
「・・・ここ・・・は・・・とおさ・・・ない・・・」
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・嘘・・・だろ・・・・・・」
たとえ妖怪でも死んでもおかしくない程の身・・・それでも美鈴は身体を引きずってでも魔理沙に向かっていく。
「・・・・・・こんな事をしてまでも入る気はしない・・・今日は帰るぜ・・・!」
魔理沙もまた疲労しきった状態なのか、箒にまたがると光のように紅魔館から去っていく。
「・・・・・・逃がす・・・か・・・」
「さて、どうします? このままだと彼女、黒いのを追いかけるつもりですが」
「・・・・・・わかったわ、2つ目の願いは美鈴を元に戻す事」
「承知しました」
男は目を閉じ、何か呟く。
映像に映し出されている美鈴の傷がみるみる内に塞がり、その場に美鈴は倒れこむ。
「・・・・・・これで彼女の精神は元通り、傷も癒えました・・・が精神の過剰使用により意識を失ったみたいですね」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
迂闊だったわ・・・まさかここまで効果が過剰すぎるなんて・・・!
そう思いつつ、心の中で眠っている美鈴に申し訳ない気持ちが胸を締め付けていた。
「さて・・・あと1つの願いですが、少しお時間を頂けますか?」
「・・・・・・どういう事?」
「先程の願いの連続使用は中々無いもので魔力が切れかかっております。
何、1時間もあれば回復しますので・・・それまでに願い事をじっくりと考えてもらえれば・・・」
「そうね・・・・・・」
「ご了承頂いて幸いです、それでは1時間後に・・・」
その言葉を合図に男の身体は煙と化し、ランプの中へと吸い込まれるかのように消えていく。
「・・・・・・・・・・・・1時間後・・・か」
私はそう呟き、一人思考を巡らせる事にしたのだった・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
1時間・・・丁度。
そういえば美鈴は門番の交代時間だけど・・・大丈夫かしら?
そう考えていたその時、例のランプから再びあの男が現れる。
「・・・・・・お待たせいたしました」
最初に現れた時と同様、軽く頭を下げてそう呟く。
「ところで3つ目の願いですが・・・」
「何かしら?」
「いえ、最初に言い忘れたのですが実はですね・・・」
私は男の言葉を待ち、じっとその様子を眺めていた。
「3つ目の願い事を叶えると同時に代償を払う事となっているのですよ」
「代償・・・ですって?」
「ええ・・・・・・それは・・・・・・・・・」
「貴女の魂です」
「・・・!!」
私の・・・魂・・・それって、命を奪うという事!?
「そんな・・・今更!」
「まぁ、何事にも『タダ』という事はございません故に・・・」
「ふざけないで!!」
-キンッ!-
瞬時に時間を止め、私は無数のナイフを男目掛けて投げる。
-カチッ!-
時間が動くと同時に男にナイフの群れが襲いかかる・・・が、それは全てすり抜けて壁に突き刺さる結果となる。
「だから言ったでしょう、私に物理攻撃は無効だって・・・それにこの世界の魔法と呼ばれる攻撃も無効ですよ」
「・・・・・・・・・くっ・・・だったら・・・」
「・・・あ~、『願い事を言わない』というのはやめておいた方がいいですよ。
以前別の人間がそれを行って、私に死ぬまでとり憑かれる結果となりましたからね」
・・・・・・読まれた・・・そう思いながら今の状況を極力冷静に考える。
1:3つ目の願い事を言わない限り、私が死ぬまでとり憑かれる
2:3つ目の願い事を言うと同時に魂を奪われ、死に至る
3:この男に対して物理、魔法・・・つまり攻撃は全て無効となる
・・・何よ、ほとんどチェックメイトじゃないの!
「あ~それからですが・・・」
「・・・何よ」
「矛盾する願いも微妙な結果となります故、おすすめしません。
例えば『私の魂を奪わないで』という願いとか・・・ね。
確かに3つ目の願いは成就します・・・確かに願いが叶う以上、
魂は奪われませんし貴女の命は助かるでしょう・・・・・・しかし・・・・・・」
「・・・しかし・・・?」
「では話を戻しますが、なぜ貴女が手に入れた覚えが無いのに『私』はそこにいたのか?」
「・・・・・・何が言いたいのよ・・・!」
「・・・それが私の能力、『人の記憶を操作する程度の能力』なのです、貴女は私を拾った覚えが無いのもその為ですよ。
・・・・・・貴女が先程の矛盾する願いを発動すれば私は戻る寸前に能力を使います、
するといつの日か私の事を覚えていない貴女は再びあのランプを磨く・・・」
そして事は繰り返される・・・・・・という事ね・・・・・・。
本当に・・・チェックメイトじゃないのかしら・・・これ。
「まぁ・・・この世界とのお別れ、せめて自分の本当の願いを叶えて・・・逝きましょう」
・・・・・・・・・・・・本当の・・・・・・願い・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・お嬢様・・・・・・
パチュリー様、美鈴・・・それにみんな・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・わかったわ」
「・・・決まりましたか、どのような贅沢な願い事でも叶えて差し上げますよ」
「ええ・・・3つ目の願い事は・・・・・・」
「・・・この願いを最後に誰の願いも叶えない」
「・・・・・・・・・もう一度、聞かせ願えますか?」
「私の願いは『この願いを最後にする』よ」
「・・・別に構いませんが、それでは貴女・・・死んで終わりますよ?」
そう・・・・・・今の私にできる事、それは自分以外の全てを守る事。
愛しい主、その友人、大切な仲間達・・・大切な存在を守る、ただ・・・それだけ。
「・・・・・・構わないわ、こんなくだらない悲劇にピリオドを打てるのなら」
「一応言っておきますが、魂を奪われるのは生半可な苦しみではありませんよ。
肉体的な苦痛、侵食、それらの何十倍の苦しみを味わう事になるかもしれないのですよ」
「だったら尚更、そんな苦しみ・・・私一人で十分よ」
正直・・・未練はたくさんある。
まだやりたい事もあるし、お嬢様とも約束した。
『大丈夫、生きている間は一緒にいますから』
・・・・・・・・・約束・・・した・・・のに・・・
「・・・・・・申し訳ありません・・・お嬢様・・・・・・」
「・・・さて、3つ目の願いを叶えて・・・・・・」
バンッ!!
男の声が突然響き渡った轟音と共にかき消され、その音の方には・・・・・・
「話は全て聞かせてもらいました!」
「・・・美・・・・・・鈴?」
自分の部屋にいるはずの美鈴がドアを思いっきり開いて立っていた。
「貴女がどうしてここに?」
「・・・すいません咲夜さん、実は部屋に戻る前に挨拶していこうと思ったんですが、
丁度咲夜さんとその男が話をしているのを聞かせてもらったんです」
「・・・さて、3つ目の願い事を叶えると同時に魂を奪うでしたよね?」
「いかにも、もう2つ叶えていますので次で3つ目の願いとなるわけですが」
「・・・・・・奪う魂を咲夜さんでは無く、私の魂にして下さい!」
「・・・! 美鈴・・・貴女何を言っているのかわかってるの!?」
「ええ、咲夜さんはお嬢様の大切な従者です。
それに比べて私は侵入者をろくに追い払えない門番です、どちらが犠牲になればいいのかぐらいわかってます。
・・・・・・あと、咲夜さんは私の大切な人です。 守りたい者を命がけで守ること・・・それが私の使命です」
「・・・美鈴・・・でも、これはいつもの事とは違うのよ! そんな軽々しく・・・・・・」
「軽々しいのはどちらかしら、咲夜」
・・・この声は・・・・・・
部屋にゆっくりと入ってきたのは紅魔館の魔法図書館に住む魔女、パチュリー様だった。
「貴女も美鈴も同じ魂は魂よ。 咲夜はレミィの大切な従者、美鈴はここの大切な門番、大切な存在に変わりは無い」
「・・・パチュリー様・・・・・・」
「そのとおりよ、咲夜。 主の許可も無く死ぬなんて絶対許さないわよ」
「お嬢様・・・!」
「私は約束を破るような人間を従者にしたりしないわ」
「・・・・・・どうして?」
「どうして・・・って、咲夜は私の能力を忘れたというの?
運命を操るという事は同時に運命を知るという事でもあるのよ」
「そうです! みんな大切な人なんですよ!!」
「咲夜さん!」
「メイド長!」
「小悪魔に・・・みんな・・・・・・」
お嬢様にパチュリー様、美鈴・・・そして紅魔館の者達が結集し、
全ての者がランプの隣で事の成り行きを眺めている男を睨みつけていた。
「・・・・・・咲夜だけじゃないわよ、この紅魔館、いや・・・幻想郷の者の脅威となる存在は
このレミリア・スカーレットの名の下に徹底的に破壊する・・・・・・!」
力が篭った手を鳴らすお嬢様、魔道書を開いてスペル発動寸前のパチュリー様に身構える美鈴、
その後にいるみんなが身構え・・・・・・男と睨み合っている。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・ふ、はははは・・・ははははは!」
しばしの沈黙を打ち破ったのは男の笑い声、
「何がおかしい」
「・・・すまない、まさかここまで信頼されている者だったとは思いもしなかったのでな。
今までに出会った人間は自分が助かる事しか考えていなかった、しかし・・・しかしだ、
自分の命を投げ出してでも全てを助けたい者、それを庇おうとする者、大切に思う者、
それらが生み出す絆をまさか見る日が来ると思いもしなかったのでな」
「・・・・・・私の負けだ、ここでその者、十六夜 咲夜の魂を奪おうものなら完全に私は悪人になってしまうな」
男の身体が薄くなっていき、煙となるとランプの中に再び消えていく。
「私を完全に封印するなり湖の底に沈めるなり、好きにするがいいだろう・・・」
そう言い残し、何事も無かったかのように静寂が還ってきた。
・・・・・・・・・・・・・・・
その後、このランプをどうするか話し合いが行われた。
あの男のいうとおりなのか、どうやらこのランプさえも破壊は不可能であり、
結局、翌日封印の儀式を執り行う事となった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
空に月が浮かぶ夜、私は自分の部屋で一人目の前のランプを静かに見いつめていた。
「絆・・・か」
ふと、ここに来るまでの事を考えていた・・・その時は『絆』なんて言葉は思い浮かばなかった。
世界は穢れている、人間は卑怯、残酷、汚い・・・そう思っていた頃もあった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
手にとった純白のハンカチで私は再び目の前のランプを磨く。
「・・・・・・眠っているというのに何か用か?」
煙が出てあっという間に例の男が現れ、少し不機嫌そうに私に呟く。
「もしかして・・・眠っていたの?」
「ああ、先程まで私を徹底的に破壊しようとしていたからとても眠れなかったが」
「・・・聞いていいかしら?」
「何だい?」
事が片付いて色々と疑問が残っていた・・・もし、正しければ・・・・・・
「魂を奪うというのは嘘でしょ?」
「・・・・・・・・・・・・ああ、よくわかったな」
「やっぱり、そういう契約を発動させる時はそのメリットとデメリットを完全に術者が理解する必要がある。
貴方は先にメリットだけを伝えておいて、デメリットの部分を教えなかった、つまり・・・・・・」
ふぅ・・・と目の前の男はため息をついて、首を下げる。
「そう、試した・・・この世界、幻想郷の住人の純度がいかなるものか」
「純度?」
「私は外の世界から流れてきた者、今や外の世界は酷いものだ。
自らの欲望の為に平気で物は奪う、人は殺す・・・それなのに自分の身は可愛いと来た。
私の封印を解いたものはみな2つ目まで己の欲望を満たす為に一生懸命だったさ、
そして3つ目でみな自分が助かる事だけを考える、中には人を犠牲にしてでも助かろうとした輩もいたくらいだ」
「それで・・・3つ目の願いを叶えて魂を奪う、つまり殺したの?」
男は私の静かな問いに横に首を振る・・・が、その表情は何処か寂しそうだった。
「いや、私が手を下すまでも無かった・・・というより、あまりにも哀れでそういう気にもならなかった。
中には発狂して自殺したものもいたから、ある意味私が殺したことになるのかもな」
「そう・・・・・・」
「・・・ところで」
「?」
「まだ3つ目の願いを叶えていないままだったな、別に魂を取ったりしない、きちんと加減もする。
今度は本当の望みを叶えてあげよう」
男は窓の方へと歩き、振り向いて私を見ながらそう話した。
「本当の願い・・・・・・か・・・」
「・・・私の本当の願いは・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・
-数日後-
紅魔館門前
「美鈴! またサボっているんじゃないでしょうね?」
「ひいぃぃ! 咲夜さん!」
何を怯えているのか、目の前にいる美鈴は驚いて私の方を震えながら見ている。
「・・・今週になってあの黒いのに侵入され放題じゃないの!」
「でも・・・パチュリー様が・・・」
「問答無用!」
「ごめんなさい~!!」
「ふぅ・・・・・・でも、無理はしないでね。 貴女は紅魔館の由緒正しき門番だからね。
風邪引いたりしたら本当に承知しないからね」
「・・・・・・は、はい!」
ヴアル魔法図書館
「咲夜、そこの棚の上から2番目の古代樹の書を取って」
「はい、こちらですね」
「ありがとう、それから・・・紅茶を用意してもらえるかしら?」
「はい、すぐにでも・・・あ、今日の紅茶は貴重品が入ってますので」
「そう、それは楽しみね」
レミリアの部屋
「・・・・・・というわけで本日も紅魔館は異常ありませんでした」
「いつもご苦労様、就寝前のお茶会・・・咲夜も付き合うわよね?」
「ええ、喜んでお付き合いさせていただきます」
「それと夕方前に博麗神社に行くからそのつもりでいてね」
「はい、かしこまりました」
忙しい一日が終わり、今日も終わる。
外は朝を迎えようとしている。
「目覚めは夕方前か・・・・・・」
幻想郷の朝が訪れる前に私はベッドに身体を預け、眠りについた。
・・・・・・部屋の片隅にある机の上には、あのランプが金色の輝きを失わず存在していた。
私の願い
『平和で穏やかな日々が続きますように』
一片の曇りなき輝きと共にそれはいつまでも続いていた・・・・・・。
END