母はよく話していた。
--湖にはね、妖精が居るのよ。
--妖精たちは毎日春の笑顔で笑って、夏の元気で戯れるの。
--けれど、秋の日暮れのように気まぐれで、冬のように冷たいわ。
--妖精たちの踊りはとても楽しげで美しいけど、近くに行き過ぎると二度と帰っては来れないのよ。
--湖には、近づいちゃ駄目よ。
私はその話が好きだった。
魑魅魍魎の跋扈する幻想郷にも人間の村は点在している。
人間は妖怪どもにとって見ればろくに抵抗する術も持たない格好の餌だ。
以前ほどではないが、人間にとって幻想郷は決して住みやすいとは言えない。
そんな幻想郷で、少女は母親とはぐれてしまった。
季節は秋。森にはさまざまな秋の味覚が熟しており、少女と母親はそれを採りに来ていた。
しかし、ふと気が付けば少女の近くに母親の姿は無い。
数えで七歳。
ご近所からは物覚えのいい賢い子と誉められる少女だったが、見知らぬ土地で一人ぼっちになるのは無論恐ろしい。
心細さに負けて通ってきた道を戻ろうとしたが、直ぐに自分の過ちを知ることになる。
そもそも落ちている栗だとか木になる実だとかを目に付くままに採ってきたので、道なんてろくに覚えていない。
それに森とは恐ろしいもので、少し見る位置を変えると景色がまるで違う。
もし来た時に見た道を覚えていても、それを逆から見て判別できるほど少女は森に慣れていなかった。
鳥の声が恐ろしい咆哮に聞こえる。
木陰には恐ろしい獣が潜んでいる。
紅葉の森が恐ろしい魔窟に見える。
茂みがガサリと音を立てて揺れるたび、少女は身を強張らせ、それでも泣くことだけは我慢した。
声をあげれば直ぐに無力な獲物に魔物が群がるだろう。
戦々恐々あちこちさまよった少女の前で唐突に森が開けた。
眼前には一面に広がる蒼い湖。
遠くにうっすらと浮かぶ赤い影は、果たして幻か。
--湖にはね、妖精が居るのよ。
ふと、母の言葉を思い出した。
--妖精の踊りはとても楽しげで美しい……
そうとも言っていた。
その後はなんと言っていたか。別に気にならなかった。
見てみたい。
少女はそう思った。
どれほど楽しいのだろう。どれほど綺麗なのだろう。
--湖には、近づいちゃ駄目よ。
そんなことお構いなしだった。
もうその足は湖岸に沿って妖精を探し始めていたのだから。
秋の風が湖のひんやりした空気を運んでくる。
その香りを楽しみながら、少女は散策を続けた。
そして、ついにお目当ての妖精を発見した。
湖上で二人の妖精が向かい合っていた。
片方は水晶のように透き通った羽で羽ばたいて、もう片方は板みたいなもので湖面を滑りながら。
二つの影は同じ場所に留まらず、つぎつぎと動いていた。
少女の胸は高鳴った。
今まさに妖精の踊りが間の前に!
「あたいの氷をくらいな!」
「……」
「くぬ! くぬ! くぬ!」
「無駄だ。貴様に逃げ場は無い」
「な、なにをう!」
「貴様には指導が必要だ。ZUN弾幕教義指導要綱13番、『一撃必殺』」
「ぐは! ちょ、直撃!? くっそおこんな単調な攻撃に~」
「指導、終了」
台無しだ。
さてどうしたものか。
聞いていた話とはまるで違う妖精の踊りに幻滅した少女は、目の前の青い物体を落ちてた枝で突っつきながら考え込んでいた。
確かに飛び交う光は綺麗だし、それを避けるの姿は楽しげかもしれない。
けれど根本的に何か違うよ、おかあさん。
近づいちゃいけないのは本当だったみたいだけど。
はあ。ため息をつく少女。
その時、突っついてた物体ががばっと身を起こした。
「くそ、あの変な奴! 今度会ったら覚えてろ!」
いきなり大声をあげた物体は、さっきほど板の直撃を受けて吹っ飛んできた方の妖精だった。
ちなみに、板に乗っていたほうの妙にずんぐりとした妖精はそのままどこかへ去っていた。
その声に驚いた少女は尻餅をついてしまった。
「きゃ!」
「うわ。びっくした」
「び、びっくりしたのはこっちだよう」
んー? と抗議の声をあげる少女に顔を近づけまじまじ見つめる妖精。
「あんた、人間?」
「う、うん。そ、そうだよ」
「へー珍し。あたい初めて見た」
「そ、そうなの」
「……? なんでそんな怯えてるのさ」
「え……だって、ようせいは人げんの子どもをさらうんでしょ……?」
怯え、たどたどしい口調で答える少女の目には、後悔の色が浮かんでいた。
おかあさんのいう事、ちゃんと聞いておけばよかった……。
「あーうん。まあ、そういう事もしない訳じゃないけど。」
「わ、わたし食べられちゃうの?」
「食べられたい?」
「や、やだよ!」
「どーしよっかなー」
「ヤメテおねえちゃん!」
「!」
「……?」
少女の悲鳴に、妖精が固まった。
「え、えと? どうしたの?」
「なんて言った」
「え」
「今なんて言った!?」
「え、その。やめて……」
「その後!」
「お、おねえちゃん……」
じ~ん。
お・ね・え・ちゃ・ん
なんと甘美な響きか!
見ろいままで散々あたいをチビだのガキだのバカにしてきた奴!
あたいはおねえちゃんなのよ~
うふ。うふうふ。うふふふ--
「あ、あの、おねえちゃん?」
「はっ!」
自分の世界に入り込んでいた妖精は、ようやく少女の声で現実に戻ってきた。
なにやら、おねえちゃんと言う呼称が嬉しかったらしい。
無意識にたらしていた涎を拭き、少女に向き直った。
「どうしたのかな、お嬢ちゃん」
「……おねえちゃん、わたしを食べるの?」
「いや、食べないって」
「ほんと?」
「うん。それより、あんたこんな所で何してるのさ」
少女は母親と食料を採りに来てはぐれてしまった事、そして妖精の踊りの事を思い出して見てみたくなった事を一生懸命伝えた。
たどたどしい部分はあったが、全体的に筋道が立っている少女の説明はとてもわかりやすく、そして聞き入ってしまった。
「ははあ。そりゃ災難だったね」
「うん……」
「--村って言ったっけ? 家」
「うん。そうだよ」
「それって確か湖の反対側じゃなかったかな。ずいぶん遠くまできたんだね」
「……わたし、もう帰れないの?」
「大丈夫だって。あたいが送ってってあげるよ」
「ほんとう!?」
「うん。だいじょーぶ。まーかせて!」
なんとなく不安な物言いだが、少女にとっては地獄に仏、暗闇に差し込んだ一筋の光明だ。
「ありがとうおねえちゃん!」
「うんうん。じゃあ急ぐよ。のんびりしてたら日が暮れちゃう」
既に日は頂点を過ぎ傾きつつある。
もう二三刻もすれば夕暮れになるだろう。
「よし、ついといで」
言って、妖精は空へと舞い上がる。
湖を突っ切ればどうにか日の入り前には村に辿り着けるだろう。
しかし、なぜか少女はついて来ない。
「お、おねえちゃーん……」
「? どうしたのさ?」
「わたし、お空は飛べないよー」
「……おおう」
ぽむ。思わず手を打った。
そういえば人間は飛べないんだ。すっかり忘れてた。
うーん。少女の前に降りながら、妖精は頭を掻いた。
「困ったな。あたいじゃ人を抱えては飛べないし……」
「ごめんね……」
「あんたが謝るこたないって。しょうがない、時間掛かるけど歩こうか」
「うん……」
「だからそんな顔しないでいいって」
申し訳無さそうに顔を曇らせる少女の手を握ってやり、妖精は歩き出した。
そのひんやりとした手はとても頼もしく思えた。
隣に誰かが居るだけで、あれほど恐ろしかった森はもはやなんでも無かった。
少女からは不安の色は消えうせ、妖精とのおしゃべりはとても楽しい。
「へー。おねえちゃん、氷のようせいさんなんだ」
「そそ。妖精にもいろいろいるけど、氷の妖精はあたいくらいのもんさ」
「カッコいいね!」
「うんうん。そうでしょそうでしょ」
純粋な少女の羨望の眼差しに自慢げな妖精。
実際のところ、彼女は妖精の間ではあまり好ましく思われていない部分があるのだが、それがどうした。
あたいはあたいの道をいくのさ。
……別に寂しかない。
ほんの少し気持ちが沈んでしまったところに、少女が問い掛けてきた。
「なんでさっきケンカしてたの?」
「ケンカ? ああ、あれ。あれは喧嘩じゃなくて、腕試しよ」
「うでだめし?」
「そ。さっきの奴見たこと無い奴だったんだけど、強そうだって事はすぐわかったからさ。ちょっと遊んでみたのよ」
「……なんでそんな事するの? おねえちゃん、いたかったでしょ?」
「そりゃね。でも、自分が何処までやれるか試してみたいじゃん?」
「……よく、わからない」
「そか。うん、そだね」
妖精はあっさりとその言葉を受け入れた。
「実はね、あたいもよく判らないんだ」
え? と意外そうな顔をする少女に妖精は少し真剣な顔で語る。
「妖精ってね、とっても長生きなんだ。でもその長い命の中で何をするかと言えば、別に何もしないのさ」
「……」
「毎日を面白おかしく生きて、いつのまにか消えている。無意味な存在、それが妖精」
そこまでいって、あはは、と照れくさそうに笑い出した。
「っても、これはレティの受け売りなんだけどね。でも」
今度は苦笑いを浮かべる。
「あたいは、そんなの嫌だなって。よくわからないけど、消えたらハイおしまいって悲しいでしょ」
「……うん。きっと、悲しいと思う」
「だからね、あたいは何かを残してみたいんだ。それは妖精の考えじゃないって言われたけどね。でも、それでもいいと思う。あたいはあたい。他の妖精がどうだとか関係無いね。だから」
妖精は力強く拳を握って見せた。
「手っ取り早く、まずは自分の力で行けるところまで行ってやろうかなってね」
ニッコリと笑う妖精は、自分のことを信じて疑わないようだった。
その笑顔が、とても眩しかった。
結局、日が暮れても村に辿り着くことは出来なかった。
湖はとても広い。対岸が見えないほどだ。
それを幼い少女の足で歩ききるには時間がかかる。
少女の体力はとうに尽き、それでも歩みが止まらなかったのは、ひとえに妖精が傍らで励ましてくれたからこそだ。
しかし、さすがにそれにも限界がある。
少女達は仕方なく野宿をすることにした。
「よいしょっと。どう? これでいくらかマシだろ」
「うん。あったかいよ」
秋の夜は冷える。湖の傍となればなおさらだ。
それでも落ち葉をかき集めて包まれば、結構暖かい。
少しちくちくするのと服が汚れるのが難点といえば難点だが。
贅沢は言っていられない。
「それじゃ早く寝なよ。明日もまた歩くんだからさ」
「おねえちゃんは?」
「あたいは見張りをしてるよ。何があるか判らないからね」
「寝ないでいいの?」
「妖精は人間より丈夫だからね。いちんち二日くらい大丈夫。ささ寝た寝た」
「うん。おやすみなさい」
目をつぶるなり少女は眠りに落ちた。
やはり心底疲れきっていたらしい。
いくら妖精がそばに居るといっても、もともと親とはぐれて不安も大きかったのだ。
無理も無い。
「さあって。一応方角くらいは確認しとかないとね」
少女が眠るのを見届けた妖精は空に上がり、現在位置と村の位置を確認し始めた。
はぁ……はぁ……
少女の苦しそうな呼吸に気が付いたのは、夜半を過ぎた頃だった。
異変を感じた妖精が少女の顔を覗き込むと、苦悶の表情を浮かべ、唇は紫色になっていた。
「そんな! なんで!?」
抱き寄せた少女の体は冷え切っていた。
「……さむ……い・……」
朦朧とした少女のうわ言に、妖精ははっとした。
「あたいのせいだ……!」
自分は氷の妖精。その体は常に冷気を放っている。
そして少女は疲れた体にその冷気を浴びつづけた。
それが、今の少女の惨状をもたらしたのだ。
「しまった! どうして気が付かなかったんだ!」
妖精たちから避けられるのも、その冷気が春を遠ざけるからだ。
解っていた。解っていたはずなのに!
「なにが”おねえちゃん”だ! そんな事も忘れるなんて!」
”おねえちゃん”と呼ばれる事に浮かれきっていた自分を呪った。
「とにかく暖めないと! でも、どうしよう……」
自分では少女を暖めることは出来ない。
他に頼れるものもない。
どうする……?
「……あれだ」
妖精は、覚悟を決めた。
パチ……パチ……
「……う……」
何かが弾ける音に目を覚ました少女が見たのは、赤々と燃える焚き火だった。
木の葉と枝で組まれた焚き火は軟らかで暖かだった。
そして自分が包まっていたはずの木の葉はなくなっていた。
おそらく、燃え移らないようにだろう。
これはどうしたんだろう。眠る前には焚き火なんて無かったはずなのに?
「目、覚めちゃった?」
横手から、覚えのある声。
「おねえちゃん……?」
「元気になったみたいね」
安堵の声。焚き火を枝で突っつきながら妖精は胸をなでおろした。
「よかったあ。あのままずっと目が覚めなかったらどうしようかと思ったわよ」
「これ、おねえちゃんが?」
「そうだよ。前にレティから作り方聞いといて良かった」
自分が必要とすることは無いと半ば聞き流していたのだが。
「おねえちゃん、その手!」
あ、これ? と言う妖精の手には、火傷の跡が。
「いや、火起こすときにちょっとね。あたいもドジだなあ」
あはは。と苦笑いを上げた。
通常、肌に触れても何の問題も無い火の粉とて、氷の妖精たる彼女には業火も同じだ。
ちょっとした火花で氷が溶けるように肌が焼ける。
「ま、二三日もすれば治るって。妖精は丈夫だからね」
「……ごめんね」
「いや、謝られても。あんたは」
悪くないんだから。そう言おうとした妖精だったが、横から抱きついてきた少女に遮られた。
「うわ、ちょ、危ないって!」
「ごめんね、ごめんね、ごめんね……!」
妖精の腕の中で泣きじゃくる少女。
今まで泣くまいと我慢していたが、いまは泣いていいと、そう思えた。
「落ち着いた?」
「うん……」
泣くに任せていた妖精は優しく尋ねた。
少女もすっかり泣きはらし、妖精の横で顔をぬぐっていた。
「あたいは大丈夫だからさ、寝なよ。まだ疲れ取れてないでしょ」
「……あのね」
「ん?」
「ちょっとでいいの。いっしょに寝てほしいの」
「え。いや、でも……」
また同じ失敗を繰り返すわけにはいくまいて。
それに焚き火をしっかり見ておかないと山火事になりかねない。
そうは思うが、少女の訴える目を見ると、無下にも出来なかった。
「ちょっとだけだからね。また冷えるといけないから」
「だいじょうぶだよ。おねえちゃんの焚き火、あったかいから」
焚き火の傍に仰向けに横になると、木々の隙間から星空が見えた。
そういえば、夜空を見上げるなんてしたこと無かったな。
妖精はふとそんな事を思った。
こんな綺麗な物を今まで見逃してきたなんて、もったいない。
「おねえちゃん、わたしね」
少女がポツリと呟いた。
「わたしも、何かをのこせる人になりたい」
「……そう」
「何ができるかわからないけど、きっと何かをのこせる人になりたい」
「なれるよ」
「……え」
「本気でそうなりたいと思うなら、あんたはきっとそうなれるよ」
「なれる、かな」
「ああ。あたいが保証するよ」
「うん、じゃあおねえちゃんもね。約束だよ」
「いいよ、約束だ」
二人の少女は、星空の下で約束を交わした。
翌日、再び歩き出した二人は夕方になってようやく村が見える丘まで辿り着いた。
飛んでしまえばすぐの距離も、地面を歩き回ればなんと遠いことか。
妖精は飛べない人間に同情すると同時に、だからこそ人間は短い今を生きるのに一生懸命なのかな、と思った。
それは自由に空を飛びまわっていたときには決して思いもつかないことだった。
「ここからは一人で行けるよね?」
妖精のその言葉に少女はえ、と顔を上げた。
「おねえちゃんは村に来てくれないの?」
「妖精が人里に近づきすぎると、ろくなことにならないって前に言われたことがあるんだ」
--近くに行き過ぎると二度と帰っては来れないのよ。
ふと、母の言葉を思い出した。
そういうことなのかなと、少女はうっすらと理解した。
人間と妖精。それぞれが住み分けた方が、お互いにとって幸福なのだと。
でも。
「おねえちゃんとわたしは友達だよね?」
「もちろん。あたいはあんたを忘れないよ」
「わたしもおねえちゃんの事はわすれないからね」
「うん。じゃあ、お迎えもきたみたいだし、あたいは行くよ」
遠くから駆け寄ってくる影がある。
少女の親だろう。心配で探し回っていたに違いない。
「元気でね!」
「おねえちゃん、ありがとう!」
笑顔で手を振り合い、少女達の小さな旅は終わりを告げた。
少女は、決して妖精のことを忘れる事はなかった。
それぞれの家に帰り落ち着いた頃、少女達はふと同時に同じ事を思った。
--そういえば、名前聞くの忘れてた。
「ってな事がむかーし昔にあったのさ」
「へえ。君が人助けとはね」
店先でちょっと長めの昔話を語り終えたチルノに僕は率直な感想を言ってやった。
先日の一件以来、妙になつかれてしまい、ちょくちょく店にやって来てはどーでもいいような話をしたり、商品に興味を持ったり。
まあ、霊夢や魔理沙ほど勝手気ままに店を荒らさない分、まだマシだが。
しかしどうやら彼女は僕の返事がお気に召さなかったらしい。
「なにさ、あたいが人助けしちゃいけないっての!?」
「いやいや。それにしても、名前聞き忘れるあたりとかチルノっぽいな」
「あはは。なんかねー、どうしたんだろうね。って、さっきから何探してるのさ」
「なに。君の話を聞いてたら思い出したことがあってね」
ごそごそ
僕は店の棚を探った。
整理整頓は欠かさないで居るつもりだが、この香霖堂、常に新商品を拾……もとい入荷するため、どうも物の所在が怪しくなったりする。
とは言え大体の見当はついていたので、どうにかお目当ての品物を見つけることが出来た。
「なにそれ?」
「レコードだ。前にお客が僕のところの商品で作ったって持ってきたものさ」
そのお客は本来物書きが専門なのだが、音楽に関してもいい趣味をしている。もっとも、そっちは聴く専門だったが。
ある日僕が拾……もとい入手した打ち込み機(正式名称は面倒だし意味が無いので割愛する)を見ると、すぐに食いついてきた。
それがどんな機械かというと、楽器が無くても演奏が出来る程度の物品だ。
そして数日後、早速作ってみた、といって聞かせに来てくれたのが、このレコード。
「なんでもね、子どもの頃出会った人をイメージして作曲したらしいよ」
「へえ。どんなのさ」
さっそく興味をそそられたチルノを「まあ待ちなって」と制しながら、僕はレコードをプレイヤーにセットした。
ゼンマイを十分に巻いてやり、準備完了。
「じゃあかけるぞ」
--!♪ !♪ ~~♪ ~~♪
最初に流れてきたのは、なんというか、お世辞にも賢いとはいえなさそうな、言ってしまえばバカっぽい感じの旋律。
どこかどたばたした、おっちょこちょいで、けれどとても元気に満ちている。
横目でチルノを見ると、見事に聞き入り小刻みに体を動かしていた。
どうやらリズムが気に入ったようだ。
--~~♪ ~~♪ ~~♪ ~~♪
そして後半。打って変わって曲は別の顔を見せる。
なにか足りてない感じの旋律は残したまま、優しさとそして強さを感じさせる穏やかだけども激しい旋律がそれを盛り上げる。
作曲した少女がイメージした人物がどういう人だったのかが、よく伝わってくる曲だった。
なんどかの繰り返しを終え、レコードに収まっていた曲が終わった。
チルノは目をつむり、曲の余韻に浸っていた。
「どうだった? いい曲だろう」
「……」
「チルノ?」
「すっごい! これいい! 最高ね!」
うむ。予想以上の反響だ。
「気に入ったわこれ! あたいにぴったりの曲だと思わない!?」
「うん。僕もそう思うよ」
だから聞かせたのだし。
しかし、ここまで喜ばれると僕もついサービスしたくなる。
「複製でよければレコードは用意してあげるよ。プレーヤーは……まあ、安いのでよければ、店の仕事を手伝ってくれるならあげてもいい」
「本当!? ラッキー! さっすがこーりん! ふとっぱら!」
……こーりん?
なんとなく、魔理沙が呼ぶ香霖とは違う感じがするが、まあいい。
「それでこの曲、題名はなんていうの?」
「ああ、これはね--」
僕は思わず、ふ、と笑いを浮かべてしまった。
よくよく考えれば、これほどぴったりな題名はないな。
「--稗田 阿求処女作、『おてんば恋娘』」
了。
いや、いいんじゃないでしょうか。
馬鹿っぽくないようで結局馬鹿に見えるチルノ万歳(ぇー
ところで何故チーフ。
お姉さんなチルノも可愛いくて良かったです~