『紅魔祭のお知らせ』
――来たる○月○日、紅魔館にてパーティーを行います。
参加をご希望の方は、この手紙に対し、折り返し、その旨を添えてご返信下さい。メイドが即座にお伺い致します。
パーティー開始時刻は夜の八時から。場所は、紅魔館大ホールを中心とした一角を皆様に開放し、ご提供致します。
なお、ご参加頂ける方には、後ほど、パーティーの詳細を示した書状を送達致します。そちらをよく熟読の上、ふるってご参加下さい。
紅魔館館主代理 十六夜咲夜――
「っていう手紙が来たからゴミ箱に放り捨てようとしたらレミリアが泣きながら『わたしの誘いを断るなんてあんまりじゃないの霊夢ひどいわ』ってデーモンキングクレイドルしながら突っ込んできたから一本足打法で打ち返してやったんだけどめげないのね振り子打法の方がよかったかしら」
「ともあれ、霊夢。取り乱すな。怖いから。あと、神社の巫女のくせに丑の刻参りとかやるな、マジ怖いから」
「だってさー」
などという、ハートフルで牧歌的な会話を真っ昼間から繰り広げるは、紅白色の巫女とツートンカラーの魔法使いだった。
縁側に座って、足をブラブラさせながら、はぁ、と巫女――霊夢はため息を一つ。
「この前の蓬莱祭だっけ? あの流れから行くと、何かろくでもないことがありそうな気がして……」
「あれだけ、食べて飲んで騒いで。まだ何か不満でもあったのか?」
「……不満って言うか……なんだろ。私はまだ現実世界にいたいんだ、っていうわらにもすがるようなカルネアデス的意思?」
「いやよくわからん」
一言に切って捨てられ、確かに、と納得してしまう。
湯飲みの中のお茶を、ず~、とすすりながら、
「……けどさ。結局、レミリアが『参加してくれないなら泣いてやる』ってよくわからない脅し方してきたもんだから、参加の旨を伝えたんだけど」
「ほう」
「その後に送られてきた、詳細の示された書状、っての? それ見て気合いなくしたわよ」
「まぁ、私の所にも同じものが来たんだが」
「……参加すんの? あんた」
「これに参加せずに何に参加しろと」
なぜか、自信たっぷりに言い切る魔法使い――魔理沙の言葉に、負けました、と霊夢は無意味に頭を下げた。
さて、その書状に何が書いてあったかというと――。
「……女性は魔法少女のコスプレして参加すること、って……」
「レミリアにしてみれば、その中でひときわ輝く、魔法少女・オブ・魔法少女、の地位を狙っているからな。当日、きっと、一世一代の、まさに血で血を洗う戦いが巻き起こるはずだ……。それが祭りのメインイベントだぜ……」
「何だその血の気たっぷりのナイスでバッドな祭り」
んなもんいらんわ、と手をぱたぱたやる霊夢のそばで、なぜか魔理沙は意気込んでいた。何かよくわからないけど意気込みまくっていた。目が尋常じゃない色に輝いている。
「ふっふっふ……。レミリア、この私に挑戦状を出してくれたつけは高くつくぜ……」
「いや、挑戦状って……。これ、ただのお祭りのお誘いでしょうが……」
「甘い! 甘い、甘い、甘い! 甘すぎるぜ、霊夢! 砂糖入り蜂蜜ラーメンより甘い!」
「何だその色んな意味で血を見る料理」
「古来より、魔法少女達が一堂に会する会場では、常に何かが行われてきた! それは、この、『幻想郷における魔法少女の歴史』にも書かれている!」
ずばぁっ、と服の下からそれを取り出す魔理沙。
えらいぼろぼろの装丁のなされたそれは、確かに時代を感じさせる書物だった。表紙の所に、ちゃんと本の名前が書かれているのだろうが、その文字がかすれて見えないほどである。
「魔法少女達の、より強い結託を約束するための戦意高揚パーティーから、互いの実力を確かめ合う『マジカルファイト』まで! その内容は多岐に亘る!
あのレミリアだぞ!? 私たちと、『おててつないで仲良くしましょ』って言ってくると思うか!?
この日を境に、私たちとレミリアとの戦いが始まる――そう言っても過言じゃないぜ!」
「過言だ、それは」
「まあ、いいからいいから。霊夢、お前も読んでみろ」
と、渡された謎の本。
仕方なく、パフォーマンスだけでも、とぱらぱらとそれをめくっていく。もちろん、中身は流し読みだ。
「あ、ちなみに。それの著者、お前の四~五代前の博麗の巫女だぜ」
「……………………………………え?」
さて、一方。
巫女が魂抜けて三途の川の橋渡しに人生について愚痴っていた頃。
「ふふふ……素晴らしい舞台が出来上がっていく……」
一人、どこぞの悪の支配者のようにそれを見つめながらつぶやく少女が一人。
血色悪い顔つきの中に、凄まじい鋭さを秘めた知識の少女――パチュリー・ノーレッジ。最近じゃ、『魔法少女推進委員会委員長』という怪しげな役職を、誰はばかることなく宣言して回る変人になりつつあるが、そもそも幻想郷にはまともな奴の方が少ないので、それについては割愛。
「これよ……私が求めていた、最高の舞台はこれなのよ……。何もかもが美しいカリキュレーションの上に成り立った、美すら感じさせる世界……。ああ、最高……エクスタシーを感じてしまう……」
妙に艶っぽい表情で妖しいセリフつぶやく彼女には、えもいわれぬものがあった。何というか、その空間だけ変なオーラで包まれているのが遠目に見てもわかるくらいだ。
「もっと……もっとよ……! ああ、もっと、私に感じさせて! 世界よ、舞台よ、そして、私の野望よ! 私をさらなる高みに導いてちょうだい!」
ばっ、と両手を広げて宣言したりする。
この後、『ふはははは!』とか笑う正義の味方にどつき倒されても文句の言えない展開になりそうだが、あいにくと、パチュリーの野望を止める勇者はいなかった。
「パチュリー……様……」
「あら、小悪魔」
その彼女の背後に現れる影一つ。
やたらと憔悴した表情。ふらつく足下。それでも、彼女は健気に主人の下に足を進め、静かに膝を突いた。
「完成……しました」
「……そう」
取り出されたのは、一冊の単行本。
タイトルは、『魔法の吸血鬼 ヴァンパイア☆レミちゃん ラブリーマジカル編』である。
「……素晴らしい」
「あり……がとうございます……」
「さすがは小悪魔……魔界で、伝説の漫画家と讃えられただけはあるようね……」
「ふふ……それも、今は昔、です……」
昔取った杵柄、と言いたいのだろうが、にしては表紙から内容から何からえらい凝っている。しかも絵がめちゃくちゃにうまく、こいつにこんな才能があったのだろうか、と誰もが目を見張るくらいのできばえだ。
「十数回のリテイクにもめげず、よく作り上げてくれたわ……ありがとう」
「パチュリー様の……為なら……」
「これで……これで、私の野望の一つが達成された。礼を言うわ、小悪魔」
「……はい」
一体どんな野望なんだそれは、とツッコミを入れる良識のある人はここにはいない。と言うか、そう言う良識のある人間は、現在、パチュリーの眼下で完成していく『魔法少女☆』な舞台の設営で愚痴っている最中である。なので、何にも問題はない。
「最高の出来だわ……。これで、お値段据え置きなのだから、絶対売れる!」
「はい……必ずや、目標の一万部……!」
「そして重版をかけて、幻想郷中に売りに出すのよ。全三巻セット……いずれはプレミアものとして、長く語り継がれるように!」
「はいっ……! 頑張ります……私、頑張ります、パチュリー様!
必ずや……必ずや、『最近売れてない漫画家リスト』からの脱却を目指して……!」
なぜか号泣する小悪魔。
先のパチュリーのセリフと内容が、相当矛盾するのだが、気にしてはいけないことなのだろう。きっと。
「デビューは始まりに過ぎない。本当の、私たちの野望は、ここから始まるのよ!」
「はいぃっ! 私、一生、あなた様について行きます!」
「ああっ、小悪魔!」
「パチュリー様ぁっ!」
ひしぃっ、と抱きしめあい、確かな友情を確認する二人。
誠に美しい、真の主人と従者の姿である。これほどまでに、かつて、互いを信頼し、想い合う二人がいただろうか。この美しい姿は、未来永劫、幻想郷に伝説として語り継がれることだろう――。
「……魔法少女ヲタク……」
もちろん、そんなことつぶやいたメイドはロイヤルフレアくらいましたとさ。
「……魔法少女っぽい料理ってどんな料理なんでしょう」
そうつぶやいた美鈴の視線が彷徨い、ささっ、とメイド達が視線を逸らす。
一人、紅魔館の厨房で腕組みをする女がいる。料理界にて『龍』と讃えられた女――紅美鈴である。
彼女は今、悩んでいた。
曰く、彼女の雇い主。
『魔法少女っぽい料理をお願いね』
とのこと。
過去、色々と無茶難題な料理に取りかかったことはあるが、『魔法少女っぽい料理』と言われても困ってしまう。どんな感じが魔法少女っぽいのか、まるで見当がつかないのだ。
「……お子様ランチ?」
確かに、魔法少女と言えば幼い子供のイメージがあるが、だからといってそんなもの作ったら不夜城レッドだろう。
「うーん……難しいですねぇ……。彩り鮮やかなデザート……」
あ、これはよさそう、とつぶやいてメモを取っていく。
だが、食事というのは、まず前菜より始まり、最後にデザートで終わるのが流れだ。それに至るまでの食事がなければ、ただのおやつにすぎない。
「う~ん……。野菜関連をフルーツと絡めて……メインディッシュどうしようかなぁ……」
「魚とお肉のどちらを使うか、でしょうか」
横手から、ぽそっと、メイドがつぶやいた。
そうよ、それ、と言わんばかりに美鈴が手を打つ。
「どっちもイメージと違うんです。どうしたらいいでしょう」
「私としては……その~……いっそのこと、コケティッシュな感じに……。メインディッシュというか、ちゃんとした『お料理』は別に……」
「…………それだ」
「え?」
「それですよ!」
びしぃっ、と指さされ、訳もわからずメイドが困惑する。そして、言葉の意味を告げないまま、美鈴が包丁を取った。
「何も、一つのコース料理にする必要ないんですよ。魔法少女料理と……たとえるなら、日常料理。その二つを出しても文句は言われないはず……! と言うか、言わせません」
彼女の包丁が翻る。瞬く間に、流星が煌めき、次の瞬間には食材がきれいに切りそろえられてキッチンの上に並んでいく。
「あとは、私の腕の見せ所!」
鍋、フライパン、菜箸、その他諸々の料理器具が宙を舞う。それらを、彼女の両手が神速の速さを持ってつかみ取り、次々に料理を作り出していく。まるで、彼女の腕が何本にも増えたかのように見える光景だった。
メイド達も、思わず、おおー、と手を叩くほどだ。
あまりにも凄まじすぎる料理の腕を見せて、わずか三十分程度。どう考えたって、この時間ではこれほどのものは作れないと思われる料理を、彼女は軽々と仕上げてしまった。
「完成!」
「……す、すごい……」
「た、たった一人で、紅魔館第七キッチンメイド部隊に匹敵するほどの腕前……!」
「やはり……紅美鈴……ただ者じゃない……!」
ずらっと並んだ料理は、どれもこれもがあまりにも美味しそうだった。見ているだけで、どんどん食欲がわき上がってくる。箸を手に取らずにはいられない。そして、そこにあるものを口の中に運ばずにはいられない。
これが料理の魅力。美鈴の持つ、魔性の実力の一端なのだ。
誰もが戦慄する中、彼女は言う。
「……これをベースに、後は発展を加えるだけですね……」
――と。
まだ、彼女は満足していないのだ。それほどのものを作り上げておきながら、なお、貪欲に上を目指そうというのだ。
「……さすがね……!」
「ええ……やはり、彼女こそ、最強……!」
「甘いわ……最強という称号は、いずれ誰かに奪回されるべきもの……! ふふふ……腕が鳴る……!」
と、何やら不穏な空気の渦巻く厨房で、いつまでもいい匂いを立てている料理を、ちょこまかと現れたフランドールがかすめとっていくのだった。
「ねぇ、咲夜」
「はい。何でしょうか、お嬢様」
「成功すると思うかしら?」
「不安……なのですか?」
「ええ、少しだけ……ね」
片手にティーカップを持ち、それを揺らしながらつぶやくのは、館の主人、レミリア・スカーレット。
「何をご心配なさることがありましょう。大丈夫です」
「そう……それならいいの。
ただ……わたしの力が告げるわ。当日、恐ろしいことが起きる、と……」
恐ろしいこと。その意味は?
それを尋ねる傍らのメイド――十六夜咲夜の言葉に、彼女はただ一言、『わからない』とだけ答える。
「わからない……わからないわ。闇の中に沈んだ答えを見つけ出すのは、いかに夜の王たるわたしでも難しいことだから……」
「……何も心配なさらずとも、この私が、いつまでもお嬢様のそばについています」
「ありがとう、咲夜。その言葉、とても心強いわ」
だけどね、と。
彼女の小さな唇が動く。
「従者に助けられているようでは主人失格よ。何があろうとも、わたしはわたしの力で乗り切ってみせるわ」
あなたもそうでしょう? と視線を向けてくる。
何も答えず、彼女はただ、微笑んでみせた。それがレミリアにとって、それだけで充分と言わせるほど力強いものだったのか、レミリアは満足したようにうなずいた。
「大丈夫よ。そう……大丈夫。
何が起ころうとも、わたしが負けることなどありうるはずがないもの」
「ええ、その通りですわ。お嬢様」
「ただ……一つ、気がかりなのは……」
「……お嬢様?」
不安げに揺れる眼差しを窓の外に向けて、レミリアはたった一言、つぶやいた。
「あの贈った衣装……霊夢、気に入ってくれるかしら……」
そっちかい、と咲夜は心中でツッコミ入れた。
――そして。
「やーだー! 絶対やーだー!」
「仕方ないだろ、霊夢。これ着ないと参加できないんだから」
「やだやだやーだー! 私は博麗の巫女なんだー! 博麗の魔法少女じゃないんだー!」
「ええい、埒があかない! アリス、手伝え!」
「……いや、私、霊夢の気持ちわかるし……」
「何言ってるんだ、七色の魔法少女!」
「誰がよ!?」
しかし、結局、抵抗できずに魔法少女衣装を着ることになりました。この恨み、末代まで忘れず、必ずや地獄の苦しみを与えてあの世に送ってやろうと思います。博麗霊夢より、哀を込めて。
「何、辞世の句読んでるんだよ」
「読みたくもなるわっ!」
何なのよ、これは、と自分の格好指さして、霊夢。
普段の紅白衣装をベースに、フリルなどをふんだんに使った、実に可愛らしくて愛らしい代物である。当社比50%増しくらいで霊夢の『女の子』としてのかわいさが増しているのだが――、
「いいじゃないか。似合ってるぜ」
「……まぁ、それについては否定しないわね」
「あんたらも敵ね。覚えてなさいよ、月の出ていない夜道には気をつける事ね」
「こらこらこら、巫女が暗殺予告出すな」
「だーってー」
ほっぺた膨らましてにらんでくる。
そんな彼女相手にため息ついているのは、黒と白のゴスロリ魔法少女衣装に着替えた魔理沙と、いつもの衣装にプラスして目にも鮮やかなしゃらしゃらの装飾をつけたアリスである。この二人も、今日の『紅魔魔法少女祭』に参加するらしいのだ。
魔理沙は予想はついたが、まさかアリスまで、と霊夢は考えていなかったのだが、彼女曰く、『魔界から贈られてきた』らしい。衣装が。
「まあ、うまい飯も食えるらしいから、それで手を打とうじゃないか」
「……食事……ご飯……恥……」
何やら葛藤を始める霊夢。
自分の人生にも関わりかねない、このあほらしい衣装を着ていくか、それとも、紅魔館名物の美味しい料理をお腹一杯食べてひとときの幸せに浸るか。
悩み、考えた末に――。
「……行きましょう」
血の涙を流しながら、霊夢はひとときの幸せを取った。
あまりといえばあまりの結末に、アリスは一人、涙する。
「にしても、今日の祭りは楽しみだぜ。この時のために開発した、私の新魔法奥義を見せるときが来るといいんだがな……」
「また誰かのパクったの?」
「バカな事を言うな。別にカードに魔法込めたりはしてないぜ」
「したのね」
「…………………」
「アリス、ちょっとこれはさすがにやばいからさ。魔理沙をその辺りの木にくくりつけておこうと思うんだけど」
「さすがに、国営だものねぇ」
よくわからない会話を交わしつつも、魔理沙の必死の抵抗にあってそれを成し遂げることが出来ず、とりあえず『解放』などのセリフを口にしないことを条件に、魔理沙の新魔法は成立することになったのだった。
さて。
そんな三人が飛び行く先は、紅の館、紅魔館。
――ただし。
「帰る」
「私も」
「ここまで来てそれはないだろお前ら」
その屋敷をバックに、『魔法少女の館へようこそ☆』なんて花火が打ち上げられていなければ、の話だが。
「帰る! 帰らせて! というか、紅以前の時間に私を戻して!」
「私は妖以前でいいから帰らせてお願い魔理沙!」
「ダメだ! っていうか、お前ら、タイムマシンなんてどこにもないんだぞ! 青いたぬきはいないんだぞ!」
「よーし落ち着け。落ち着いてタイムマシンを探しましょうアリス」
「ええ、そうね、霊夢」
「だからお前らが落ち着け!」
そんなこんなで空でどたばたやっている三人娘を見かけた、通りすがりの妖精さんはこうコメントする。
右から順番に、白、ひも、黒、と。
「……結局連れてこられた」
「またすごいわね……ほんと……」
大ホールそのものを使ってのパーティー会場。その宣伝は伊達ではなかった。
もうあっちこっちが魔法少女。これでもかってくらい魔法少女。どれくらい魔法少女かというと、突き抜けるほどに魔法少女。もしも世の中に魔法少女分などという不思議な成分があったらぶっちぎりの中毒症状起こしそうなくらいの魔法少女っぷりだった。
「う~む……血がたぎるぜ……」
「何を物騒なことを……」
「あ、霊夢さん」
聞いたことのある声が後ろから。
振り返れば、そこには銀髪おかっぱの少女が一人。
「あら……妖夢」
「こんばんは」
「何だ、妖夢。お前、普通の格好じゃないか」
「ええ……まぁ。幽々子様曰く、私は魔法少女じゃなくて、魔法少女をサポートする華麗な少女剣士だからそのままでいいのよ、って……」
「……ふっ、さすがだぜ。よくわかってるじゃないか、西行寺……」
なぜか戦慄と畏れから来る汗を一筋ぬぐって、魔理沙。
「……話の流れについて行けない……」
『シャンハーイ』
ついて行かない方がいいよ、と上海人形がアリスの肩を叩いて慰めてくれた。
「で? そのご主人様はどこにいるの?」
「え?
ああ……『西行寺家秘伝のコスチュームを出す時が来たようね』って……」
「……あいつもか」
「ぱんつはいてないのにミニスカにしようとしたので、全力で止めてきたらふてくされてしまって……」
「当たり前だ」
「今はあっちで、『悪の西行寺幽々子よ~!』ってパフォーマンスやってます……」
「あ、ほんとだ」
人の集まっている一角の中心に、普段とは違った真っ黒の蝶をはべらせ、おほほほほ、と高笑いしている娘の姿がある。死に装束を意味する左前に着物を袷せ、顔になぜか変な仮面をしている姿は、確かに悪役として通じる姿ではあった。
「確か……今から百年くらい前か。幻想郷に、死の世界を操る悪の女王が現れ、当時の魔法少女――私の先祖と言われている、霧雨の魔法少女と激闘を繰り広げた歴史があったらしいが……。なるほど、それはあいつだったのか……」
「……マジ?」
「……さあ」
「っていうか……ねぇ、霊夢。幻想郷ってさ……何?」
「私に聞くな」
何というか、本当にコメントしづらい世界である。幻想郷とは。
幻想郷とは、すなわち、幻想であるが故に固定された概念を持たない世界だと考えてはいるが、それにしたって概念持たなすぎじゃないだろうか。確固たる『個』を持たないと、世の中、あっさりと物事は侵食されていくというのに。
しかし、だからといって私はインディビジュアリストじゃないのよ。これは本来あるべき、そして、本来的な意味の持つ深淵たる意思の顕現であり、実質と虚無の境目にたゆたう、さながら事象の地平線の彼方に沈む虚構の空虚なのよ。
「……霊夢、どうしたの?」
「……はっ? 私は今、何を……」
「あの……自分でそれを言えるってすごいと思います……」
なぜか、顔引きつらせた妖夢の一言が耳にしみた。
それはともあれとして。
「あ、ねぇ、妖夢」
「はい?」
「料理ってどこにあるの?」
「お食事でしたら、あちらの通路を行った先にある食堂です」
「よっしゃ。それ食べたら帰るわよ、アリス」
「ええ」
「妖夢、あんたも来る?」
「……幽々子様ほったらかしには出来ませんから」
「……強く生きるんだ、妖夢」
「うぅ……しくしく……」
魔理沙が、『西行寺幽々子、先祖の借りを返しにきたぜ!』などとやっている姿を無視して、霊夢とアリスはその場を足早に立ち去った。死地に向かう戦友(妖夢)を見つめ、その偉大なる姿を網膜に焼き付けながら、食堂へとやってきて。そして霊夢は、速攻で妖夢のことは記憶から削除した。
「おおー……ごちそうだ……ごちそうよー!」
テーブルの上に所狭しと載せられた魔法少女料理に感涙する霊夢。
「これはすごいわね……」
食堂に用意されたテーブルは二つ。
部屋の端から端まで続く、大きな長テーブル。それには真っ白なテーブルクロスがかけられ、美しい花が生けられた花瓶がアクセントで添えられている。そして、一つのテーブルには、主にデザートが。そしてもう一つのテーブルには、見た目にも落ち着きのある和風の料理が並んでいた。
「……えーっと……。『隣のお兄さん料理』……?」
「あ、こんばんは。アリスさん」
「わっ。美鈴さん」
いきなり、後ろから声をかけられて驚いて振り返る。視線の先には、勇ましいコック風の衣装に着替えた美鈴の姿があった。
「美味しいですか?」
「あ、いえ、まだこれからで……。
その……美鈴さん。一つ聞いてもいい?」
「はい、何でしょう」
「隣のお兄さん料理、って……?」
「ああ……。
ほら、魔法少女は、近所に住むかっこいいお兄さんに憧れていることが多いじゃないですか。大抵、そういうのは日常の象徴ですから、落ち着いて静かな日常を再現するために、和風のしっとりとした料理に仕上げてみたんです。そして、こちらのカラフルなのが、魔法少女料理です」
いかがでしょうか、と美鈴。
……なるほど、確かにそう言われてみれば、何となくその意味が掴めてくるような料理のラインナップである。片っ端からそれを食べあさっている霊夢を見れば、味の方も問題なさそうだ。
「さすがですね……。その料理の腕前を、是非、私にもレクチャーして欲しいところですけど」
「構いませんけれど……やっぱり、私も忙しいですから」
「大変ですね」
「だけど、料理は常に愛情。食べてくれる人のことを想って、精一杯、心からのものを作れば、誰も何も言いません。美味しい、としか」
「……そ、そんなんじゃ……ないですけど……」
ぽっ、と顔を赤くして、アリス。
もじもじしたりする様が実に女の子らしく、傍らで、『シャンハーイ』『ホラーイ』と人形達が腕組みしてうんうんとうなずいていた。一体、何を感じたのかは、彼女たちのみぞ知るというところである。
「今日の料理はビュッフェスタイルです。どんどん追加していきますから、お腹一杯食べていってくださいね」
「美鈴さーん! 牛すじ煮込みなくなったー!」
「あ、はーい。ただいまー」
たった一人で大皿一つ食い尽くしたのか、空っぽになったそれをかちんかちんとスプーンで叩くという行儀の悪いことをしている霊夢に笑顔を返して、それでは、と美鈴は立ち去っていく。
「うーん……。やっぱり、これくらい極めている方が魅力的なのかな……」
ぱくり、と手近なデザートを一口。
フルーツが彩り鮮やかに載せられたカナッペの味は、また絶妙だった。甘くてとろけるようなフルーツと、ぱりぱりと後味も爽やかなカナッペが互いに組み合わさり、至高のハーモニーを奏でている。悲しいかな、これほどのものを作れる自信は、アリスにはなかった。
「本格的に花嫁修業の勉強しようかな。夢子さんにでも教えてもらって」
しかし、花嫁修業をしたとて、ちゃんとお嫁さんになれるかどうかはまた別問題。それを考えてみると、何となく気重になってしまい、アリスは小さなため息をつく。
「どしたのよ、アリス。食わないのー? 私が全部食べるわよー」
「食べるわよ。
にしても、霊夢はいいわね。悩みとかなさそうで」
「今のこの格好が悩みですが何か?」
「ごめんなさい」
さすがに即答するしか出来なかった。
「……だから、物事はね、楽しいことだけを考えて嫌なことを忘れるのよ」
「すっごく説得力あるわね……」
「はっはっは。人生長生きしなくても悟れるものはあるのよ……」
木枯らし吹かせながらつぶやく霊夢の背中には、苦労と同時に哀愁がにじみ出ていた。思わず、アリスはつぶやく。こんな人生だけは送りたくない、と。
……その気持ち、誰もが察するだろう。っていうか、誰がそれに反論するというのか。波瀾万丈、激変を繰り返す人生というのは、確かに楽しいものかもしれないが、色んな意味で変な悩みを抱える可能性もはらんだ諸刃の剣なのである。
「おかわりをお持ちしましたー」
「よっしゃきたー!」
美鈴の手から皿を奪い取って、中身を口に運んでいく霊夢。
彼女のその姿に、ある意味での勇姿を感じたアリスは、静かに友の背中を見送ったのだった。
さて。
そんな感じで、楽しく(?)お祭りが開催されていた頃、確実に、レミリアが見た『未来』がそこに現れつつあった。
「押さないでくださーい。レミちゃんコミックスの在庫はまだありまーす」
「フィギュアの方、あと三十体で販売終了でーす」
「トレカの八番、売り切れになりましたー」
多くのメイド達がグッズの販売に汗を流していた頃。
「……あら?」
「どうしました? 先輩」
「えっと……これ、何の匂い?」
くんくん、と鼻を動かして、辺りの匂いを探る。
そこに漂っているのは、甘い香りだった。たとえるならば、幸せの匂い。
「ああ……いいですね~……」
「そうねぇ……思い出すわぁ……。あの日の、あの思い出……」
「懐かしいわねぇ……」
などとやっているメイド達の中、最初に匂いに気づいたメイドは『ちょっと見てくるわね』と席を立った。
そして間もなく――。
「せ、先輩!?」
ずったぼろになって、ばたり、と倒れ伏すメイド。
一体何があったのか。彼女は最後の力を振り絞って、後輩の元まで這いずってくると、ただ一言、ささやいた。
「……お、恐るべし……魔法少女……」
――と。
メイド達の慟哭が、紅魔館に響き渡る――。
「何事かしら?」
「何だか、向こうが騒がしいようですわね」
「誰かしら。全く無粋な。私の心血を注いだステージの邪魔をする奴は、すべからく、ロイヤルフレアで灰にしてくれる」
「……パチュリー様、さりげなく凄いこと言ってませんか?」
顔を引きつらせる美鈴とは対照的に、その場の他二名は同じ意見を持っているようだった。
「美鈴、あなたはフランを見ていて」
「あ、はい……」
お祭りだー、とわくわくうきうきで騒ぎまくったためか、ソファの上ですやすやとおねんね中のフランドールを美鈴に任せ、レミリアはその控え室を飛び出した。
今日の衣装は、見事な紅色が目にも鮮やかな魔法少女衣装。ちらりと見えるおへそがチャームポイント、らしい。よくわからないが。
まぁ、ともあれ、彼女たちは廊下を駆け抜け、騒動の中心へとやってくる。
「んあ? どしたの、レミリア」
「あら、霊夢。……似合うわぁ……」
「うっとりすんな」
手にした祓え串で、べしん、と彼女の頭をはたき倒し、
「どしたの?」
再度、今度は咲夜に訊ねる。
「ああ、いえ……何か騒がしいから……」
「ん~?」
「魔理沙のせいじゃないかしら? 幽々子とケンカしてたし」
「ああ、妖夢も入り交じって、『私たちは悪の組織じゃありません。やめてください幽々子様』って泣いてたわね」
うむ、とうなずくアリス。二人に助けに行くつもりは皆無らしい。
まぁ、それはともあれ。
「それとは違うようね。ともあれ、私のご飯を邪魔する奴は、みんな博麗の巫女の名の下に結界の狭間に叩き落としてやるわ」
「あなた、それ、巫女のセリフじゃないわ……」
咲夜のツッコミもどこ吹く風で、一同の先頭に立って走っていく霊夢。
痛みに『う~……』とうずくまっていた胸キュンレミリアも、一応、それに続いていく。
――そして、一同が見たものは。
「なっ……!?」
アリスが驚きのあまり、そこに硬直する。
パーティー会場の一角が完全に崩壊していた。あちこちに、倒れ、呻いている参加者やメイド達の姿。あまりにも惨憺たる事態に、ここは戦場か!? と目を疑うほどである。
「な、何事……!?」
あの咲夜ですら動揺を隠しきれないでいる。
「おーい、霊夢ー!」
遠くから、新たな声。
そちらに振り返れば、魔理沙。ただし――、
「幽々子!? 妖夢!?」
ぐったりとなった二人を抱えての登場である。
一体何が起きたのか。
この場にいる連中のみが倒れている程度なら、まだ理解も可能だが、事、争い事に関してはこの一同にも負けない実力を備える二人が、これほどまでに徹底的にやられている姿を見ると、もはやこれは異常事態として認識するしかなくなってくる。
しかも、よく見れば魔理沙も傷だらけだった。
「まずいぜ……ついに、恐れていた事態が……!」
「何が起きたというの!?」
「ああ、パチュリー……お前ならわかるはずだ。かつての時代、魔法少女達の戦乱の時代にあった、伝説と言われた……!」
「ま、まさか……! 魔法少女達の中でもひときわ高い実力を持ちながら、『カオス』と呼ばれる、忌み嫌われる存在に成り下がった……彼女が……!?」
「ああ、そうだ……! やっぱり現れやがった……! 幽々子も妖夢も善戦したんだが、いかんせん、こいつらは悪人になりきれてなかった……奴にはかなわなかったんだ……!」
とりあえず、話の内容は無視する方向で、霊夢とアリスは事態の理解に努めたらしい。
この場に現れたのは、どうやら、とんでもない相手であることは間違いないようだった。たとえるならば――、
「来るぜ!」
その気配がわき上がり、魔理沙が手にした二人を放り出してそちらを振り向く。ごちん、とやたら痛そうな音が二人の頭から響いたような気がするが、もちろん無視だ。
ざわり、と風が揺らぐ。
霊夢が針と札を構え、アリスが人形で陣を築き、レミリアとパチュリーが互いに魔力をともす。銀のナイフを幾重にも構え、咲夜の視線が魔理沙と共に気配の源へと向いた。
沈黙。
まるで、嵐の前の静けさといった具合の静寂の中、こつ、こつ、と靴音が響く。
「マスタースパーク!」
先手必勝。
相手の姿が、まだ見えていないにも拘わらず、魔理沙がそれをぶっ放した。放たれた閃光が気配の源に向かって直進する。だが、信じられないことに、巨大な力を持った光の奔流がねじ曲げられ、紅魔館の屋根をぶち抜いて空の彼方へと去っていく。
「甘いわね……それは元々、私の術……。しょせん、まがい物の力しか使えないあなたに、この私を上回ることは不可能……」
「……この声は……!」
聞き覚えのある声に、霊夢が意識をとがらせる。
――通路の向こう、暗闇の中から姿を現したのは、白と赤のチェック柄衣装が実に目に痛い……もとい、鮮やかな一人の妖怪の姿だった。
「幽香……!?」
「ふふふ……お久しぶりね、皆さん」
どさっ、と。
手にしたものを、彼女は投げ捨てる。
「こ、小悪魔……!」
「彼女もずいぶん抵抗してくれたのだけど。結局、私にはかなわない」
「う……うぅ……ごめんなさい、パチュリー様……。本……全部破られて……がくっ」
一体何を守っていたのか、実に気になる発言だったが。
「あなた……よくも、私の小悪魔を!」
「あははははは! 別にいいじゃない、こんなもの。たかが有象無象の中ボス雑魚一人くらいね!」
「その発言、気にくわないわね。紅魔館の住人を傷つけると言うことは、このわたし、レミリア・スカーレットを敵に回すと同じ事よ」
「ふっ……お山の大将が、何を異な事を……」
「何ですって……!」
嘲笑うかのような一言に、レミリアの顔に朱が差した。
それを咲夜が押しとどめる。今、目の前にいる相手は、かつての幽香ではない。それを悟っているのだ。
「あんた、何の真似よ。これは」
「そうよ。いくら空気を読まない変なお花女だとしても、これはやりすぎじゃない?」
「ふふふふ……」
さりげにひどいこと言うアリスの発言すらさらりと流し、幽香は笑う。
「……何が目的か? そんなものは簡単よ。
私の目的はね」
手にした日傘の先端で、一同を示す。
「この場をぶち壊す。ただそれだけなのだから」
「私のご飯のために、そんなことはさせないわ!」
「あなたには何も出来ない! この私に勝つ事なんて不可能!」
なぜならば、と彼女は服の袖に手をかけ、ばっ、とそれを脱ぎ捨てた。
次の瞬間、かかっ、と無数のスポットライト(誰が操作しているかは不明)が当たり、シルエット姿の幽香の声のみが響き渡る。
「あなた程度の実力では、この私には――!」
そして、鳴り響く、脱力系BGMに霊夢とアリスの腰が砕けた、その瞬間!
「この、悪に身をやつした魔法少女、フラワーマジカルゆうかりんに勝利することは不可能っ!」
『いっ、いったぁ……!』
思わず呻く霊夢とアリス。
色とりどりのスポットの中から現れたのは、ミニスカかつ何かかわいい衣装に身を包んだ幽香の姿! はっきり言って、かなり痛い!
「な、何ですって……!? フラワーマジカルゆうかりん!?」
「……し、知ってるの……?」
「ええ……知っているわ……」
脱力したまま、立つことすら出来ない霊夢の問いに、戦慄を顔に張り付かせ、咲夜が答える。
「彼女は……かつて、魔法少女達の中でも高い実力を持った、伝説とまで言われた魔法少女の一人……」
「ああ……。だが、度を過ぎたツンデレのせいで、守るべき人たちを守れなかった……そのために、戦う事への意義を見失い、破壊に走った悪魔……!」
「……それって自業自得?」
「ツッコんじゃダメ……! ツッコミを入れること自体、私たちにはやっちゃいけないことなのよ……アリス……!」
気力0状態で呻く霊夢の言葉に、アリスは頭痛を覚えたのか、ふらりとよろめいて上海人形に支えてもらっている。
「パチェ、これはどういうこと!?」
「抜かったわ……!
古来より、強い力を持った魔法少女達を次々に駆逐する、悪の魔法少女の伝説……! あれを、ただの伝説と侮っていたか……!」
「あははははは! さあ、覚悟なさい、ヴァンパイア☆レミちゃん! このフラワーマジカルゆうかりんが、今、引導を渡してあげる!」
自分でゆうかりん言うな頼むから。っつか痛すぎるから。
ツッコミ入れちゃダメとわかっていても入れずにはいられない霊夢は、しかし、声に出す気力すら持てず、心の中でパスウェイジョンニードル投げつける。
「そんなことはさせない……!」
ざっ、と前に出る咲夜とパチュリー、そして魔理沙。
「レミリア、逃げろ! こいつの目的はお前ただ一人だ!」
「バカなことを言わないでちょうだいな! このわたしが、敵を前にして背中を向けることなんて……!」
「いいえ、お逃げ下さい、お嬢様! こいつには……こいつには、今のお嬢様では、とても勝利することは出来ません!」
「咲夜!?」
「ええ……素直に逃げるべきよ、レミィ。フランを連れて、ここから、早く!」
「パチェまで……どうして!?」
「実力が違いすぎるんだ……! お前の力じゃ、あいつには、絶対に勝てない!」
「ここは私たちが、なんとしても足止めします! ですから、お嬢様、お逃げ下さい!」
「逃がすものか! 食らいなさい、ゆうかりん☆スター!」
手にした、お花の形をした魔女っ娘ステッキから、無数の星弾が降り注ぐ。それらは次々に紅魔館の床をえぐり、空気を切り裂く。もはや魔法と言うより弾幕バトルだが気にしてはいけないのだろう。
「こ、こんな……!?」
「あー……なんつーか……こいつとの縁切りたくなってきた……」
「お母さん……私……魔界に帰りたい……」
現実逃避する霊夢とアリスを尻目に、ふらつくレミリア。自分と彼女との実力の差を感じ取ったのだろう。
「魔理沙!」
「ああ! 頼りにしてるぜ、まじかる☆咲夜ちゃんっ!」
「任せなさい!」
へーんしーん、と着飾ったメイド長! こっちも痛さじゃ負けてない!
「パチュリー様!」
「ええ! 賢者の石で援護する!」
「行くぜ、ゆうかりん! 悪の道に堕ちたお前を、私たちは絶対に許さない!」
「愚かな……! 現実と理想の乖離を知らない、青二才ども! この世の無情を見た私に勝てると思っているの!?」
話していることはやたら重苦しいのだが、その背景がお星様だのきらきら光る七色ビームだの、しかも誰が演奏しているのか、やたらかわいらしい脱力系BGMが戦闘BGMでは気合いが入れようもなかったりする。
話の流れを無視して、ちなみに、霊夢とアリスはケガをしているメイド達の回収作業に当たっていた。
「まじかる☆咲夜ちゃんスラーッシュ!」
ちなみに、ソウルスカルプチュア魔法少女仕様。
「マジック魔理沙アターック!」
こちら、ブレイジングスター魔法少女仕様。
「あなたが、幻想郷に混沌を呼んでいる! 消え去りなさい!」
んでもって、こちら様だけちゃんとしたロイヤルフレア。
「甘いっ!」
叩き込まれる致命的な威力を持ったスペル(見た目については追求してはいけません)を紙一重で回避しながら、幽香が叫ぶ。
「ゆうかりんフラワーマジック!」
あちこちからわき上がる、何で花にデフォルメされた顔が描かれているの、なオブジェクトから吐き出される数多の閃光が、三人を直撃した。回避する隙間もなく放たれたそれは、三人を徹底的に射抜いていく。
「ば……バカな……!」
「これが……実力の違いだというの……!」
「……そんな……!」
「あっははははは! そう、私は悪の道に染まった魔法少女! あなた達、偽善と共にしか生きていくことの出来ない愚か者に負けることなどあり得ない!
さあ、とどめよ! ゆうかりんビーム!」
「本家本元マスタースパークってさぁ」
「うん」
「魔法少女色なのね……」
何色なのかはもはや想像不可能として、幽香の手から放たれたそれが、地に倒れ伏した三人に襲いかかる。目を閉じ、覚悟を決める三人。
だが、その瞬間。
「くっ……!」
その間に、レミリアが割って入った。
「お、お嬢様……!」
「従者達を戦わせて、このわたしが高みの見物なんて出来るわけないでしょう! ここで逃げるわけにはいかない……! このわたしが、みんなを見捨てて逃げるなんて、出来るわけがないわっ!」
歯を食いしばり、迫り来る力の奔流を受け止め、熱いセリフを叫ぶレミリア。ここだけ見れば立派な燃え展開なのだが、そこに至るまでの経緯と、あと色んなものが全てを台無しにしていたりするのだが、それもともあれ。
「健気ねぇ……。
だけどね、お嬢ちゃん。あなたは私を怒らせてしまったわ」
「こんなっ……!」
「これで終わりよ、ヴァンパイア☆レミちゃんっ! そして、憎むべき魔法少女達の末裔よっ!」
さらにもう一発、マスタースパークが放たれる。
二重の力の流れに、さしものレミリアでも対抗することが出来ず、彼女も膝を突いた。
「レミリア、逃げろーっ!」
「レミィ、逃げて! 私たちのことは気にしないで、お願いだからっ!」
「お嬢様、おやめくださいーっ!」
「……ふっ……ふふっ……! 大丈夫……わたしは負けない……! 負けて……たまるものですかぁぁぁぁっ!」
レミリアの叫びと幽香の哄笑、そして炸裂するマスタースパークの轟音。
『お嬢様(レミリア)ぁぁぁぁぁぁっ!!』
――絶叫が、紅魔館に響き渡った――。
マスタースパークの直撃を受け、閃光の中に消えたレミリア! 果たして、彼女はどうなってしまうのか! そして、悪の魔法少女ゆうかりんの野望は成就されてしまうのか!
次回、ヴァンパイア☆レミちゃん最終回、『不滅の魔法少女』にこうご期待!
とはならないのであしからず。
「やれやれ。全く、見ていられないわね」
虚空から響く何者かの声。
「……なっ!?」
勝利を確信し、悠然と腕組みしていた幽香が、初めて顔色を変える。悲しみにうちひしがれていた三人が、はっと顔を上げる。
そして霊夢とアリスは、『もうどうでもいいや』的な雰囲気を漂わせてそれを見守っていた。
「力の差を理解していながら挑むのは、勇気ではない。蛮勇よ」
「まさかっ……!?」
「この声は……!」
「そんな……まさか、まだ生きていたの!?」
そして――。
「全く。すでに引退したものを引きずり出さないで欲しいわね」
その手に、傷ついたレミリアを抱え、現れたのは――。
「……結界少女シスターズ……!」
「……霊夢?」
「……何?」
「あのさ……一度、あなたの家の家系図を書いてみようかと思っているんだけど……」
「やめといた方がいいわ……怖いことになるから……」
熱血系BGMを流しながら、燃え展開の象徴として現れたのは、誰あろう――、
「魔法少女・ザ・魔法少女の一人……魔法の結界、ゆかりん・ザ・マジカルガール……!」
多分、彼女の今の格好が、昔の衣装なのだろう。
もう何というか、色々無理しすぎな衣装なのだが、それにツッコミを入れるだけの力を持ったものは、もはやここにはいなかった。
「やれやれ……。霊夢、本来なら、あなたがやらなければならないことよ。あなたの中に眠る、魔法少女の力を使って……」
「やだいそんなの」
「まあ、今は私が受け持ってあげるわ」
「お嬢様……!」
「レミィ……」
「大丈夫、気を失っているだけよ」
「紫……やれるのか……?」
「任せておきなさい」
「ふん……一度は引退した身のロートル魔法少女が……! この私にかなうと思っているの!?」
放たれる魔法少女スパーク。
しかし、紫は全く動くことなく、それに向かって指をかざす。
「戒」
ぱきぃん、という澄んだ音を立てて破壊力(色んな意味で)満点の一撃を打ち消す。
「なっ……!?」
「幽香、あなたがいくら魔道に身を落としたからといって、かつての魔法少女としての志を忘れたわけではない……。あなたでは、私に勝てないわ」
「バカな……! この、ゆうかりんがっ……!?」
「さあ、今一度、かつての想いを取り戻しなさい」
「おっ、おのれぇぇぇぇぇっ!」
あー、この後、やられるんだろうなー、と展開を見守る霊夢の前で、幽香は紫に向かって突っ込んでいく。手にした『ゆうかりんステッキ』(日傘)に魔力をまとわせ、それで一撃の下に叩き伏せようと言うのだろう。魔法少女なのに敵を撲殺する物理系実力行使はどうなのかなぁ、と思ったりはしたのだが、まぁ、気にしてはいけないのだ。
「破っ!」
「……しまっ……!」
放たれる、紫の一撃。
何だかよくわからない光やら何やらの乱舞に巻き込まれた幽香の体が、そのまま天井近くまで噴き上がり、どさっ、と床の上に落下する。
「くっ……! こんな……こんな事が……! 私は……負けない……!」
傷ついた体を押して、彼女は立ち上がる。
「私は負けない……絶対に……! 負けてたまるものですかっ!
負けてしまえば……負けてしまえば、私は何のために……何のために、今までっ!」
「残念だけど、終わりよ。さあ、大人しく――」
「私はっ……私はぁぁぁぁっ!」
絶叫の後。
紫の、よくわからない謎の攻撃によって、幽香はゆっくりと大地へと倒れ込んだのだった。
「……哀れね」
「悲しいもんだ……。あいつだって、元は、誰からも尊敬を集める魔法少女だったはずなのに……」
「道を違えてはいけない……私たちは……彼女のようになってはいけない……」
「くぅっ……! なんて……なんて悲しい結末なの……!」
何やら涙を流して語っている彼女たちを見ながら。
「……さて、私、ご飯食べてくる」
「あ、私も……」
霊夢とアリスが、よっこいせ、と立ち上がった。
「……紫」
「ええ、わかっている。彼女は、ただ、想いが強すぎた……それだけなの。
だから……彼女を助けてあげなくてはいけない……。そのために――」
またもや流れる第三のBGM。っつか、演奏してるの誰だ。出てこいこんちくしょう。私たちにまともな幻想郷を返せ、と嘆く霊夢の前に現れたのは!
「彼女を呼んでおいたわ」
「ふっ……さすがだな、紫……」
「ええ……さすがは、伝説の魔法少女の一人……」
スポットライトの中、びしっとポーズを決めて。
「ムーンライトマジカル☆ 月の魔法少女セーラーえーりん参上よっ☆」
きゃるーん♪ な感じで現れた、ツインテールミニスカセーラー無理しすぎの彼女を見て、ついに霊夢とアリスはその場にぶっ倒れたのだった。
もちろん、そのそばでは泣いているうさぎの姿もあったが、気にしてはいけないのである。
かくして、魔法少女達の戦いは終わった。
魔理沙曰く、「幽香は、きっと、元の魔法少女に戻ってくれる。あいつは、私たち、現代に生きる魔法少女達にとって、憧れの一人なんだからな」ということで幽香は永琳達によって連れて行かれ、目下治療中だという。
そして、紫の力によって、紅魔館も無事再建され、後日、『ヴァンパイア☆レミちゃん特別ショー』も行われた。その際、伝説の魔法少女達が勢揃いし、その客席には幽香の姿もあったとのことだが、それはあくまで聞いた噂に過ぎない。どこまで真実なのかは、まさに、神のみぞ知るということだろう。
「というわけで、新聞を書きましたら、初めて『追加お願いしまーす』って言われたんですよぅぅぅ……。うぅ……紅魔館の皆さんには足向けて寝られません」
魔法少女な紙面の新聞持って現れた烏天狗に、霊夢は言う。
「……あのさ」
「はい」
「天狗のネットワークを信じて頼みがあるんだけど」
「何でしょうか」
「……次は何が出てくるの?」
「多分、変身ヒロインですね」
「あ、やっぱり……」
「ところで霊夢さん。魔法少女の中で最高峰と言われた、結界少女シスターズの復活イベントがあるとのことですが」
「……マジ?」
「マジ」
「……あ、そう……」
ずず~っと、お茶をすすって、巫女は思う。
「幻想郷、崩壊させようかな……」
――と。
後日、発売された『ヴァンパイア☆レミちゃん 特別版』コミックスには、なんと、紅魔館で起きた、伝説の魔法少女達の決闘が加筆された豪華版と言うことで、初版五十万部を売り上げる大ヒットとなったという。
また、それ以後、『花を操る魔法少女に救われた』という報告もなされることになるのだが、全ては憶測の域を出ない。
かくして、魔法少女達の饗宴は、まだまだ続くのである。
――来たる○月○日、紅魔館にてパーティーを行います。
参加をご希望の方は、この手紙に対し、折り返し、その旨を添えてご返信下さい。メイドが即座にお伺い致します。
パーティー開始時刻は夜の八時から。場所は、紅魔館大ホールを中心とした一角を皆様に開放し、ご提供致します。
なお、ご参加頂ける方には、後ほど、パーティーの詳細を示した書状を送達致します。そちらをよく熟読の上、ふるってご参加下さい。
紅魔館館主代理 十六夜咲夜――
「っていう手紙が来たからゴミ箱に放り捨てようとしたらレミリアが泣きながら『わたしの誘いを断るなんてあんまりじゃないの霊夢ひどいわ』ってデーモンキングクレイドルしながら突っ込んできたから一本足打法で打ち返してやったんだけどめげないのね振り子打法の方がよかったかしら」
「ともあれ、霊夢。取り乱すな。怖いから。あと、神社の巫女のくせに丑の刻参りとかやるな、マジ怖いから」
「だってさー」
などという、ハートフルで牧歌的な会話を真っ昼間から繰り広げるは、紅白色の巫女とツートンカラーの魔法使いだった。
縁側に座って、足をブラブラさせながら、はぁ、と巫女――霊夢はため息を一つ。
「この前の蓬莱祭だっけ? あの流れから行くと、何かろくでもないことがありそうな気がして……」
「あれだけ、食べて飲んで騒いで。まだ何か不満でもあったのか?」
「……不満って言うか……なんだろ。私はまだ現実世界にいたいんだ、っていうわらにもすがるようなカルネアデス的意思?」
「いやよくわからん」
一言に切って捨てられ、確かに、と納得してしまう。
湯飲みの中のお茶を、ず~、とすすりながら、
「……けどさ。結局、レミリアが『参加してくれないなら泣いてやる』ってよくわからない脅し方してきたもんだから、参加の旨を伝えたんだけど」
「ほう」
「その後に送られてきた、詳細の示された書状、っての? それ見て気合いなくしたわよ」
「まぁ、私の所にも同じものが来たんだが」
「……参加すんの? あんた」
「これに参加せずに何に参加しろと」
なぜか、自信たっぷりに言い切る魔法使い――魔理沙の言葉に、負けました、と霊夢は無意味に頭を下げた。
さて、その書状に何が書いてあったかというと――。
「……女性は魔法少女のコスプレして参加すること、って……」
「レミリアにしてみれば、その中でひときわ輝く、魔法少女・オブ・魔法少女、の地位を狙っているからな。当日、きっと、一世一代の、まさに血で血を洗う戦いが巻き起こるはずだ……。それが祭りのメインイベントだぜ……」
「何だその血の気たっぷりのナイスでバッドな祭り」
んなもんいらんわ、と手をぱたぱたやる霊夢のそばで、なぜか魔理沙は意気込んでいた。何かよくわからないけど意気込みまくっていた。目が尋常じゃない色に輝いている。
「ふっふっふ……。レミリア、この私に挑戦状を出してくれたつけは高くつくぜ……」
「いや、挑戦状って……。これ、ただのお祭りのお誘いでしょうが……」
「甘い! 甘い、甘い、甘い! 甘すぎるぜ、霊夢! 砂糖入り蜂蜜ラーメンより甘い!」
「何だその色んな意味で血を見る料理」
「古来より、魔法少女達が一堂に会する会場では、常に何かが行われてきた! それは、この、『幻想郷における魔法少女の歴史』にも書かれている!」
ずばぁっ、と服の下からそれを取り出す魔理沙。
えらいぼろぼろの装丁のなされたそれは、確かに時代を感じさせる書物だった。表紙の所に、ちゃんと本の名前が書かれているのだろうが、その文字がかすれて見えないほどである。
「魔法少女達の、より強い結託を約束するための戦意高揚パーティーから、互いの実力を確かめ合う『マジカルファイト』まで! その内容は多岐に亘る!
あのレミリアだぞ!? 私たちと、『おててつないで仲良くしましょ』って言ってくると思うか!?
この日を境に、私たちとレミリアとの戦いが始まる――そう言っても過言じゃないぜ!」
「過言だ、それは」
「まあ、いいからいいから。霊夢、お前も読んでみろ」
と、渡された謎の本。
仕方なく、パフォーマンスだけでも、とぱらぱらとそれをめくっていく。もちろん、中身は流し読みだ。
「あ、ちなみに。それの著者、お前の四~五代前の博麗の巫女だぜ」
「……………………………………え?」
さて、一方。
巫女が魂抜けて三途の川の橋渡しに人生について愚痴っていた頃。
「ふふふ……素晴らしい舞台が出来上がっていく……」
一人、どこぞの悪の支配者のようにそれを見つめながらつぶやく少女が一人。
血色悪い顔つきの中に、凄まじい鋭さを秘めた知識の少女――パチュリー・ノーレッジ。最近じゃ、『魔法少女推進委員会委員長』という怪しげな役職を、誰はばかることなく宣言して回る変人になりつつあるが、そもそも幻想郷にはまともな奴の方が少ないので、それについては割愛。
「これよ……私が求めていた、最高の舞台はこれなのよ……。何もかもが美しいカリキュレーションの上に成り立った、美すら感じさせる世界……。ああ、最高……エクスタシーを感じてしまう……」
妙に艶っぽい表情で妖しいセリフつぶやく彼女には、えもいわれぬものがあった。何というか、その空間だけ変なオーラで包まれているのが遠目に見てもわかるくらいだ。
「もっと……もっとよ……! ああ、もっと、私に感じさせて! 世界よ、舞台よ、そして、私の野望よ! 私をさらなる高みに導いてちょうだい!」
ばっ、と両手を広げて宣言したりする。
この後、『ふはははは!』とか笑う正義の味方にどつき倒されても文句の言えない展開になりそうだが、あいにくと、パチュリーの野望を止める勇者はいなかった。
「パチュリー……様……」
「あら、小悪魔」
その彼女の背後に現れる影一つ。
やたらと憔悴した表情。ふらつく足下。それでも、彼女は健気に主人の下に足を進め、静かに膝を突いた。
「完成……しました」
「……そう」
取り出されたのは、一冊の単行本。
タイトルは、『魔法の吸血鬼 ヴァンパイア☆レミちゃん ラブリーマジカル編』である。
「……素晴らしい」
「あり……がとうございます……」
「さすがは小悪魔……魔界で、伝説の漫画家と讃えられただけはあるようね……」
「ふふ……それも、今は昔、です……」
昔取った杵柄、と言いたいのだろうが、にしては表紙から内容から何からえらい凝っている。しかも絵がめちゃくちゃにうまく、こいつにこんな才能があったのだろうか、と誰もが目を見張るくらいのできばえだ。
「十数回のリテイクにもめげず、よく作り上げてくれたわ……ありがとう」
「パチュリー様の……為なら……」
「これで……これで、私の野望の一つが達成された。礼を言うわ、小悪魔」
「……はい」
一体どんな野望なんだそれは、とツッコミを入れる良識のある人はここにはいない。と言うか、そう言う良識のある人間は、現在、パチュリーの眼下で完成していく『魔法少女☆』な舞台の設営で愚痴っている最中である。なので、何にも問題はない。
「最高の出来だわ……。これで、お値段据え置きなのだから、絶対売れる!」
「はい……必ずや、目標の一万部……!」
「そして重版をかけて、幻想郷中に売りに出すのよ。全三巻セット……いずれはプレミアものとして、長く語り継がれるように!」
「はいっ……! 頑張ります……私、頑張ります、パチュリー様!
必ずや……必ずや、『最近売れてない漫画家リスト』からの脱却を目指して……!」
なぜか号泣する小悪魔。
先のパチュリーのセリフと内容が、相当矛盾するのだが、気にしてはいけないことなのだろう。きっと。
「デビューは始まりに過ぎない。本当の、私たちの野望は、ここから始まるのよ!」
「はいぃっ! 私、一生、あなた様について行きます!」
「ああっ、小悪魔!」
「パチュリー様ぁっ!」
ひしぃっ、と抱きしめあい、確かな友情を確認する二人。
誠に美しい、真の主人と従者の姿である。これほどまでに、かつて、互いを信頼し、想い合う二人がいただろうか。この美しい姿は、未来永劫、幻想郷に伝説として語り継がれることだろう――。
「……魔法少女ヲタク……」
もちろん、そんなことつぶやいたメイドはロイヤルフレアくらいましたとさ。
「……魔法少女っぽい料理ってどんな料理なんでしょう」
そうつぶやいた美鈴の視線が彷徨い、ささっ、とメイド達が視線を逸らす。
一人、紅魔館の厨房で腕組みをする女がいる。料理界にて『龍』と讃えられた女――紅美鈴である。
彼女は今、悩んでいた。
曰く、彼女の雇い主。
『魔法少女っぽい料理をお願いね』
とのこと。
過去、色々と無茶難題な料理に取りかかったことはあるが、『魔法少女っぽい料理』と言われても困ってしまう。どんな感じが魔法少女っぽいのか、まるで見当がつかないのだ。
「……お子様ランチ?」
確かに、魔法少女と言えば幼い子供のイメージがあるが、だからといってそんなもの作ったら不夜城レッドだろう。
「うーん……難しいですねぇ……。彩り鮮やかなデザート……」
あ、これはよさそう、とつぶやいてメモを取っていく。
だが、食事というのは、まず前菜より始まり、最後にデザートで終わるのが流れだ。それに至るまでの食事がなければ、ただのおやつにすぎない。
「う~ん……。野菜関連をフルーツと絡めて……メインディッシュどうしようかなぁ……」
「魚とお肉のどちらを使うか、でしょうか」
横手から、ぽそっと、メイドがつぶやいた。
そうよ、それ、と言わんばかりに美鈴が手を打つ。
「どっちもイメージと違うんです。どうしたらいいでしょう」
「私としては……その~……いっそのこと、コケティッシュな感じに……。メインディッシュというか、ちゃんとした『お料理』は別に……」
「…………それだ」
「え?」
「それですよ!」
びしぃっ、と指さされ、訳もわからずメイドが困惑する。そして、言葉の意味を告げないまま、美鈴が包丁を取った。
「何も、一つのコース料理にする必要ないんですよ。魔法少女料理と……たとえるなら、日常料理。その二つを出しても文句は言われないはず……! と言うか、言わせません」
彼女の包丁が翻る。瞬く間に、流星が煌めき、次の瞬間には食材がきれいに切りそろえられてキッチンの上に並んでいく。
「あとは、私の腕の見せ所!」
鍋、フライパン、菜箸、その他諸々の料理器具が宙を舞う。それらを、彼女の両手が神速の速さを持ってつかみ取り、次々に料理を作り出していく。まるで、彼女の腕が何本にも増えたかのように見える光景だった。
メイド達も、思わず、おおー、と手を叩くほどだ。
あまりにも凄まじすぎる料理の腕を見せて、わずか三十分程度。どう考えたって、この時間ではこれほどのものは作れないと思われる料理を、彼女は軽々と仕上げてしまった。
「完成!」
「……す、すごい……」
「た、たった一人で、紅魔館第七キッチンメイド部隊に匹敵するほどの腕前……!」
「やはり……紅美鈴……ただ者じゃない……!」
ずらっと並んだ料理は、どれもこれもがあまりにも美味しそうだった。見ているだけで、どんどん食欲がわき上がってくる。箸を手に取らずにはいられない。そして、そこにあるものを口の中に運ばずにはいられない。
これが料理の魅力。美鈴の持つ、魔性の実力の一端なのだ。
誰もが戦慄する中、彼女は言う。
「……これをベースに、後は発展を加えるだけですね……」
――と。
まだ、彼女は満足していないのだ。それほどのものを作り上げておきながら、なお、貪欲に上を目指そうというのだ。
「……さすがね……!」
「ええ……やはり、彼女こそ、最強……!」
「甘いわ……最強という称号は、いずれ誰かに奪回されるべきもの……! ふふふ……腕が鳴る……!」
と、何やら不穏な空気の渦巻く厨房で、いつまでもいい匂いを立てている料理を、ちょこまかと現れたフランドールがかすめとっていくのだった。
「ねぇ、咲夜」
「はい。何でしょうか、お嬢様」
「成功すると思うかしら?」
「不安……なのですか?」
「ええ、少しだけ……ね」
片手にティーカップを持ち、それを揺らしながらつぶやくのは、館の主人、レミリア・スカーレット。
「何をご心配なさることがありましょう。大丈夫です」
「そう……それならいいの。
ただ……わたしの力が告げるわ。当日、恐ろしいことが起きる、と……」
恐ろしいこと。その意味は?
それを尋ねる傍らのメイド――十六夜咲夜の言葉に、彼女はただ一言、『わからない』とだけ答える。
「わからない……わからないわ。闇の中に沈んだ答えを見つけ出すのは、いかに夜の王たるわたしでも難しいことだから……」
「……何も心配なさらずとも、この私が、いつまでもお嬢様のそばについています」
「ありがとう、咲夜。その言葉、とても心強いわ」
だけどね、と。
彼女の小さな唇が動く。
「従者に助けられているようでは主人失格よ。何があろうとも、わたしはわたしの力で乗り切ってみせるわ」
あなたもそうでしょう? と視線を向けてくる。
何も答えず、彼女はただ、微笑んでみせた。それがレミリアにとって、それだけで充分と言わせるほど力強いものだったのか、レミリアは満足したようにうなずいた。
「大丈夫よ。そう……大丈夫。
何が起ころうとも、わたしが負けることなどありうるはずがないもの」
「ええ、その通りですわ。お嬢様」
「ただ……一つ、気がかりなのは……」
「……お嬢様?」
不安げに揺れる眼差しを窓の外に向けて、レミリアはたった一言、つぶやいた。
「あの贈った衣装……霊夢、気に入ってくれるかしら……」
そっちかい、と咲夜は心中でツッコミ入れた。
――そして。
「やーだー! 絶対やーだー!」
「仕方ないだろ、霊夢。これ着ないと参加できないんだから」
「やだやだやーだー! 私は博麗の巫女なんだー! 博麗の魔法少女じゃないんだー!」
「ええい、埒があかない! アリス、手伝え!」
「……いや、私、霊夢の気持ちわかるし……」
「何言ってるんだ、七色の魔法少女!」
「誰がよ!?」
しかし、結局、抵抗できずに魔法少女衣装を着ることになりました。この恨み、末代まで忘れず、必ずや地獄の苦しみを与えてあの世に送ってやろうと思います。博麗霊夢より、哀を込めて。
「何、辞世の句読んでるんだよ」
「読みたくもなるわっ!」
何なのよ、これは、と自分の格好指さして、霊夢。
普段の紅白衣装をベースに、フリルなどをふんだんに使った、実に可愛らしくて愛らしい代物である。当社比50%増しくらいで霊夢の『女の子』としてのかわいさが増しているのだが――、
「いいじゃないか。似合ってるぜ」
「……まぁ、それについては否定しないわね」
「あんたらも敵ね。覚えてなさいよ、月の出ていない夜道には気をつける事ね」
「こらこらこら、巫女が暗殺予告出すな」
「だーってー」
ほっぺた膨らましてにらんでくる。
そんな彼女相手にため息ついているのは、黒と白のゴスロリ魔法少女衣装に着替えた魔理沙と、いつもの衣装にプラスして目にも鮮やかなしゃらしゃらの装飾をつけたアリスである。この二人も、今日の『紅魔魔法少女祭』に参加するらしいのだ。
魔理沙は予想はついたが、まさかアリスまで、と霊夢は考えていなかったのだが、彼女曰く、『魔界から贈られてきた』らしい。衣装が。
「まあ、うまい飯も食えるらしいから、それで手を打とうじゃないか」
「……食事……ご飯……恥……」
何やら葛藤を始める霊夢。
自分の人生にも関わりかねない、このあほらしい衣装を着ていくか、それとも、紅魔館名物の美味しい料理をお腹一杯食べてひとときの幸せに浸るか。
悩み、考えた末に――。
「……行きましょう」
血の涙を流しながら、霊夢はひとときの幸せを取った。
あまりといえばあまりの結末に、アリスは一人、涙する。
「にしても、今日の祭りは楽しみだぜ。この時のために開発した、私の新魔法奥義を見せるときが来るといいんだがな……」
「また誰かのパクったの?」
「バカな事を言うな。別にカードに魔法込めたりはしてないぜ」
「したのね」
「…………………」
「アリス、ちょっとこれはさすがにやばいからさ。魔理沙をその辺りの木にくくりつけておこうと思うんだけど」
「さすがに、国営だものねぇ」
よくわからない会話を交わしつつも、魔理沙の必死の抵抗にあってそれを成し遂げることが出来ず、とりあえず『解放』などのセリフを口にしないことを条件に、魔理沙の新魔法は成立することになったのだった。
さて。
そんな三人が飛び行く先は、紅の館、紅魔館。
――ただし。
「帰る」
「私も」
「ここまで来てそれはないだろお前ら」
その屋敷をバックに、『魔法少女の館へようこそ☆』なんて花火が打ち上げられていなければ、の話だが。
「帰る! 帰らせて! というか、紅以前の時間に私を戻して!」
「私は妖以前でいいから帰らせてお願い魔理沙!」
「ダメだ! っていうか、お前ら、タイムマシンなんてどこにもないんだぞ! 青いたぬきはいないんだぞ!」
「よーし落ち着け。落ち着いてタイムマシンを探しましょうアリス」
「ええ、そうね、霊夢」
「だからお前らが落ち着け!」
そんなこんなで空でどたばたやっている三人娘を見かけた、通りすがりの妖精さんはこうコメントする。
右から順番に、白、ひも、黒、と。
「……結局連れてこられた」
「またすごいわね……ほんと……」
大ホールそのものを使ってのパーティー会場。その宣伝は伊達ではなかった。
もうあっちこっちが魔法少女。これでもかってくらい魔法少女。どれくらい魔法少女かというと、突き抜けるほどに魔法少女。もしも世の中に魔法少女分などという不思議な成分があったらぶっちぎりの中毒症状起こしそうなくらいの魔法少女っぷりだった。
「う~む……血がたぎるぜ……」
「何を物騒なことを……」
「あ、霊夢さん」
聞いたことのある声が後ろから。
振り返れば、そこには銀髪おかっぱの少女が一人。
「あら……妖夢」
「こんばんは」
「何だ、妖夢。お前、普通の格好じゃないか」
「ええ……まぁ。幽々子様曰く、私は魔法少女じゃなくて、魔法少女をサポートする華麗な少女剣士だからそのままでいいのよ、って……」
「……ふっ、さすがだぜ。よくわかってるじゃないか、西行寺……」
なぜか戦慄と畏れから来る汗を一筋ぬぐって、魔理沙。
「……話の流れについて行けない……」
『シャンハーイ』
ついて行かない方がいいよ、と上海人形がアリスの肩を叩いて慰めてくれた。
「で? そのご主人様はどこにいるの?」
「え?
ああ……『西行寺家秘伝のコスチュームを出す時が来たようね』って……」
「……あいつもか」
「ぱんつはいてないのにミニスカにしようとしたので、全力で止めてきたらふてくされてしまって……」
「当たり前だ」
「今はあっちで、『悪の西行寺幽々子よ~!』ってパフォーマンスやってます……」
「あ、ほんとだ」
人の集まっている一角の中心に、普段とは違った真っ黒の蝶をはべらせ、おほほほほ、と高笑いしている娘の姿がある。死に装束を意味する左前に着物を袷せ、顔になぜか変な仮面をしている姿は、確かに悪役として通じる姿ではあった。
「確か……今から百年くらい前か。幻想郷に、死の世界を操る悪の女王が現れ、当時の魔法少女――私の先祖と言われている、霧雨の魔法少女と激闘を繰り広げた歴史があったらしいが……。なるほど、それはあいつだったのか……」
「……マジ?」
「……さあ」
「っていうか……ねぇ、霊夢。幻想郷ってさ……何?」
「私に聞くな」
何というか、本当にコメントしづらい世界である。幻想郷とは。
幻想郷とは、すなわち、幻想であるが故に固定された概念を持たない世界だと考えてはいるが、それにしたって概念持たなすぎじゃないだろうか。確固たる『個』を持たないと、世の中、あっさりと物事は侵食されていくというのに。
しかし、だからといって私はインディビジュアリストじゃないのよ。これは本来あるべき、そして、本来的な意味の持つ深淵たる意思の顕現であり、実質と虚無の境目にたゆたう、さながら事象の地平線の彼方に沈む虚構の空虚なのよ。
「……霊夢、どうしたの?」
「……はっ? 私は今、何を……」
「あの……自分でそれを言えるってすごいと思います……」
なぜか、顔引きつらせた妖夢の一言が耳にしみた。
それはともあれとして。
「あ、ねぇ、妖夢」
「はい?」
「料理ってどこにあるの?」
「お食事でしたら、あちらの通路を行った先にある食堂です」
「よっしゃ。それ食べたら帰るわよ、アリス」
「ええ」
「妖夢、あんたも来る?」
「……幽々子様ほったらかしには出来ませんから」
「……強く生きるんだ、妖夢」
「うぅ……しくしく……」
魔理沙が、『西行寺幽々子、先祖の借りを返しにきたぜ!』などとやっている姿を無視して、霊夢とアリスはその場を足早に立ち去った。死地に向かう戦友(妖夢)を見つめ、その偉大なる姿を網膜に焼き付けながら、食堂へとやってきて。そして霊夢は、速攻で妖夢のことは記憶から削除した。
「おおー……ごちそうだ……ごちそうよー!」
テーブルの上に所狭しと載せられた魔法少女料理に感涙する霊夢。
「これはすごいわね……」
食堂に用意されたテーブルは二つ。
部屋の端から端まで続く、大きな長テーブル。それには真っ白なテーブルクロスがかけられ、美しい花が生けられた花瓶がアクセントで添えられている。そして、一つのテーブルには、主にデザートが。そしてもう一つのテーブルには、見た目にも落ち着きのある和風の料理が並んでいた。
「……えーっと……。『隣のお兄さん料理』……?」
「あ、こんばんは。アリスさん」
「わっ。美鈴さん」
いきなり、後ろから声をかけられて驚いて振り返る。視線の先には、勇ましいコック風の衣装に着替えた美鈴の姿があった。
「美味しいですか?」
「あ、いえ、まだこれからで……。
その……美鈴さん。一つ聞いてもいい?」
「はい、何でしょう」
「隣のお兄さん料理、って……?」
「ああ……。
ほら、魔法少女は、近所に住むかっこいいお兄さんに憧れていることが多いじゃないですか。大抵、そういうのは日常の象徴ですから、落ち着いて静かな日常を再現するために、和風のしっとりとした料理に仕上げてみたんです。そして、こちらのカラフルなのが、魔法少女料理です」
いかがでしょうか、と美鈴。
……なるほど、確かにそう言われてみれば、何となくその意味が掴めてくるような料理のラインナップである。片っ端からそれを食べあさっている霊夢を見れば、味の方も問題なさそうだ。
「さすがですね……。その料理の腕前を、是非、私にもレクチャーして欲しいところですけど」
「構いませんけれど……やっぱり、私も忙しいですから」
「大変ですね」
「だけど、料理は常に愛情。食べてくれる人のことを想って、精一杯、心からのものを作れば、誰も何も言いません。美味しい、としか」
「……そ、そんなんじゃ……ないですけど……」
ぽっ、と顔を赤くして、アリス。
もじもじしたりする様が実に女の子らしく、傍らで、『シャンハーイ』『ホラーイ』と人形達が腕組みしてうんうんとうなずいていた。一体、何を感じたのかは、彼女たちのみぞ知るというところである。
「今日の料理はビュッフェスタイルです。どんどん追加していきますから、お腹一杯食べていってくださいね」
「美鈴さーん! 牛すじ煮込みなくなったー!」
「あ、はーい。ただいまー」
たった一人で大皿一つ食い尽くしたのか、空っぽになったそれをかちんかちんとスプーンで叩くという行儀の悪いことをしている霊夢に笑顔を返して、それでは、と美鈴は立ち去っていく。
「うーん……。やっぱり、これくらい極めている方が魅力的なのかな……」
ぱくり、と手近なデザートを一口。
フルーツが彩り鮮やかに載せられたカナッペの味は、また絶妙だった。甘くてとろけるようなフルーツと、ぱりぱりと後味も爽やかなカナッペが互いに組み合わさり、至高のハーモニーを奏でている。悲しいかな、これほどのものを作れる自信は、アリスにはなかった。
「本格的に花嫁修業の勉強しようかな。夢子さんにでも教えてもらって」
しかし、花嫁修業をしたとて、ちゃんとお嫁さんになれるかどうかはまた別問題。それを考えてみると、何となく気重になってしまい、アリスは小さなため息をつく。
「どしたのよ、アリス。食わないのー? 私が全部食べるわよー」
「食べるわよ。
にしても、霊夢はいいわね。悩みとかなさそうで」
「今のこの格好が悩みですが何か?」
「ごめんなさい」
さすがに即答するしか出来なかった。
「……だから、物事はね、楽しいことだけを考えて嫌なことを忘れるのよ」
「すっごく説得力あるわね……」
「はっはっは。人生長生きしなくても悟れるものはあるのよ……」
木枯らし吹かせながらつぶやく霊夢の背中には、苦労と同時に哀愁がにじみ出ていた。思わず、アリスはつぶやく。こんな人生だけは送りたくない、と。
……その気持ち、誰もが察するだろう。っていうか、誰がそれに反論するというのか。波瀾万丈、激変を繰り返す人生というのは、確かに楽しいものかもしれないが、色んな意味で変な悩みを抱える可能性もはらんだ諸刃の剣なのである。
「おかわりをお持ちしましたー」
「よっしゃきたー!」
美鈴の手から皿を奪い取って、中身を口に運んでいく霊夢。
彼女のその姿に、ある意味での勇姿を感じたアリスは、静かに友の背中を見送ったのだった。
さて。
そんな感じで、楽しく(?)お祭りが開催されていた頃、確実に、レミリアが見た『未来』がそこに現れつつあった。
「押さないでくださーい。レミちゃんコミックスの在庫はまだありまーす」
「フィギュアの方、あと三十体で販売終了でーす」
「トレカの八番、売り切れになりましたー」
多くのメイド達がグッズの販売に汗を流していた頃。
「……あら?」
「どうしました? 先輩」
「えっと……これ、何の匂い?」
くんくん、と鼻を動かして、辺りの匂いを探る。
そこに漂っているのは、甘い香りだった。たとえるならば、幸せの匂い。
「ああ……いいですね~……」
「そうねぇ……思い出すわぁ……。あの日の、あの思い出……」
「懐かしいわねぇ……」
などとやっているメイド達の中、最初に匂いに気づいたメイドは『ちょっと見てくるわね』と席を立った。
そして間もなく――。
「せ、先輩!?」
ずったぼろになって、ばたり、と倒れ伏すメイド。
一体何があったのか。彼女は最後の力を振り絞って、後輩の元まで這いずってくると、ただ一言、ささやいた。
「……お、恐るべし……魔法少女……」
――と。
メイド達の慟哭が、紅魔館に響き渡る――。
「何事かしら?」
「何だか、向こうが騒がしいようですわね」
「誰かしら。全く無粋な。私の心血を注いだステージの邪魔をする奴は、すべからく、ロイヤルフレアで灰にしてくれる」
「……パチュリー様、さりげなく凄いこと言ってませんか?」
顔を引きつらせる美鈴とは対照的に、その場の他二名は同じ意見を持っているようだった。
「美鈴、あなたはフランを見ていて」
「あ、はい……」
お祭りだー、とわくわくうきうきで騒ぎまくったためか、ソファの上ですやすやとおねんね中のフランドールを美鈴に任せ、レミリアはその控え室を飛び出した。
今日の衣装は、見事な紅色が目にも鮮やかな魔法少女衣装。ちらりと見えるおへそがチャームポイント、らしい。よくわからないが。
まぁ、ともあれ、彼女たちは廊下を駆け抜け、騒動の中心へとやってくる。
「んあ? どしたの、レミリア」
「あら、霊夢。……似合うわぁ……」
「うっとりすんな」
手にした祓え串で、べしん、と彼女の頭をはたき倒し、
「どしたの?」
再度、今度は咲夜に訊ねる。
「ああ、いえ……何か騒がしいから……」
「ん~?」
「魔理沙のせいじゃないかしら? 幽々子とケンカしてたし」
「ああ、妖夢も入り交じって、『私たちは悪の組織じゃありません。やめてください幽々子様』って泣いてたわね」
うむ、とうなずくアリス。二人に助けに行くつもりは皆無らしい。
まぁ、それはともあれ。
「それとは違うようね。ともあれ、私のご飯を邪魔する奴は、みんな博麗の巫女の名の下に結界の狭間に叩き落としてやるわ」
「あなた、それ、巫女のセリフじゃないわ……」
咲夜のツッコミもどこ吹く風で、一同の先頭に立って走っていく霊夢。
痛みに『う~……』とうずくまっていた胸キュンレミリアも、一応、それに続いていく。
――そして、一同が見たものは。
「なっ……!?」
アリスが驚きのあまり、そこに硬直する。
パーティー会場の一角が完全に崩壊していた。あちこちに、倒れ、呻いている参加者やメイド達の姿。あまりにも惨憺たる事態に、ここは戦場か!? と目を疑うほどである。
「な、何事……!?」
あの咲夜ですら動揺を隠しきれないでいる。
「おーい、霊夢ー!」
遠くから、新たな声。
そちらに振り返れば、魔理沙。ただし――、
「幽々子!? 妖夢!?」
ぐったりとなった二人を抱えての登場である。
一体何が起きたのか。
この場にいる連中のみが倒れている程度なら、まだ理解も可能だが、事、争い事に関してはこの一同にも負けない実力を備える二人が、これほどまでに徹底的にやられている姿を見ると、もはやこれは異常事態として認識するしかなくなってくる。
しかも、よく見れば魔理沙も傷だらけだった。
「まずいぜ……ついに、恐れていた事態が……!」
「何が起きたというの!?」
「ああ、パチュリー……お前ならわかるはずだ。かつての時代、魔法少女達の戦乱の時代にあった、伝説と言われた……!」
「ま、まさか……! 魔法少女達の中でもひときわ高い実力を持ちながら、『カオス』と呼ばれる、忌み嫌われる存在に成り下がった……彼女が……!?」
「ああ、そうだ……! やっぱり現れやがった……! 幽々子も妖夢も善戦したんだが、いかんせん、こいつらは悪人になりきれてなかった……奴にはかなわなかったんだ……!」
とりあえず、話の内容は無視する方向で、霊夢とアリスは事態の理解に努めたらしい。
この場に現れたのは、どうやら、とんでもない相手であることは間違いないようだった。たとえるならば――、
「来るぜ!」
その気配がわき上がり、魔理沙が手にした二人を放り出してそちらを振り向く。ごちん、とやたら痛そうな音が二人の頭から響いたような気がするが、もちろん無視だ。
ざわり、と風が揺らぐ。
霊夢が針と札を構え、アリスが人形で陣を築き、レミリアとパチュリーが互いに魔力をともす。銀のナイフを幾重にも構え、咲夜の視線が魔理沙と共に気配の源へと向いた。
沈黙。
まるで、嵐の前の静けさといった具合の静寂の中、こつ、こつ、と靴音が響く。
「マスタースパーク!」
先手必勝。
相手の姿が、まだ見えていないにも拘わらず、魔理沙がそれをぶっ放した。放たれた閃光が気配の源に向かって直進する。だが、信じられないことに、巨大な力を持った光の奔流がねじ曲げられ、紅魔館の屋根をぶち抜いて空の彼方へと去っていく。
「甘いわね……それは元々、私の術……。しょせん、まがい物の力しか使えないあなたに、この私を上回ることは不可能……」
「……この声は……!」
聞き覚えのある声に、霊夢が意識をとがらせる。
――通路の向こう、暗闇の中から姿を現したのは、白と赤のチェック柄衣装が実に目に痛い……もとい、鮮やかな一人の妖怪の姿だった。
「幽香……!?」
「ふふふ……お久しぶりね、皆さん」
どさっ、と。
手にしたものを、彼女は投げ捨てる。
「こ、小悪魔……!」
「彼女もずいぶん抵抗してくれたのだけど。結局、私にはかなわない」
「う……うぅ……ごめんなさい、パチュリー様……。本……全部破られて……がくっ」
一体何を守っていたのか、実に気になる発言だったが。
「あなた……よくも、私の小悪魔を!」
「あははははは! 別にいいじゃない、こんなもの。たかが有象無象の中ボス雑魚一人くらいね!」
「その発言、気にくわないわね。紅魔館の住人を傷つけると言うことは、このわたし、レミリア・スカーレットを敵に回すと同じ事よ」
「ふっ……お山の大将が、何を異な事を……」
「何ですって……!」
嘲笑うかのような一言に、レミリアの顔に朱が差した。
それを咲夜が押しとどめる。今、目の前にいる相手は、かつての幽香ではない。それを悟っているのだ。
「あんた、何の真似よ。これは」
「そうよ。いくら空気を読まない変なお花女だとしても、これはやりすぎじゃない?」
「ふふふふ……」
さりげにひどいこと言うアリスの発言すらさらりと流し、幽香は笑う。
「……何が目的か? そんなものは簡単よ。
私の目的はね」
手にした日傘の先端で、一同を示す。
「この場をぶち壊す。ただそれだけなのだから」
「私のご飯のために、そんなことはさせないわ!」
「あなたには何も出来ない! この私に勝つ事なんて不可能!」
なぜならば、と彼女は服の袖に手をかけ、ばっ、とそれを脱ぎ捨てた。
次の瞬間、かかっ、と無数のスポットライト(誰が操作しているかは不明)が当たり、シルエット姿の幽香の声のみが響き渡る。
「あなた程度の実力では、この私には――!」
そして、鳴り響く、脱力系BGMに霊夢とアリスの腰が砕けた、その瞬間!
「この、悪に身をやつした魔法少女、フラワーマジカルゆうかりんに勝利することは不可能っ!」
『いっ、いったぁ……!』
思わず呻く霊夢とアリス。
色とりどりのスポットの中から現れたのは、ミニスカかつ何かかわいい衣装に身を包んだ幽香の姿! はっきり言って、かなり痛い!
「な、何ですって……!? フラワーマジカルゆうかりん!?」
「……し、知ってるの……?」
「ええ……知っているわ……」
脱力したまま、立つことすら出来ない霊夢の問いに、戦慄を顔に張り付かせ、咲夜が答える。
「彼女は……かつて、魔法少女達の中でも高い実力を持った、伝説とまで言われた魔法少女の一人……」
「ああ……。だが、度を過ぎたツンデレのせいで、守るべき人たちを守れなかった……そのために、戦う事への意義を見失い、破壊に走った悪魔……!」
「……それって自業自得?」
「ツッコんじゃダメ……! ツッコミを入れること自体、私たちにはやっちゃいけないことなのよ……アリス……!」
気力0状態で呻く霊夢の言葉に、アリスは頭痛を覚えたのか、ふらりとよろめいて上海人形に支えてもらっている。
「パチェ、これはどういうこと!?」
「抜かったわ……!
古来より、強い力を持った魔法少女達を次々に駆逐する、悪の魔法少女の伝説……! あれを、ただの伝説と侮っていたか……!」
「あははははは! さあ、覚悟なさい、ヴァンパイア☆レミちゃん! このフラワーマジカルゆうかりんが、今、引導を渡してあげる!」
自分でゆうかりん言うな頼むから。っつか痛すぎるから。
ツッコミ入れちゃダメとわかっていても入れずにはいられない霊夢は、しかし、声に出す気力すら持てず、心の中でパスウェイジョンニードル投げつける。
「そんなことはさせない……!」
ざっ、と前に出る咲夜とパチュリー、そして魔理沙。
「レミリア、逃げろ! こいつの目的はお前ただ一人だ!」
「バカなことを言わないでちょうだいな! このわたしが、敵を前にして背中を向けることなんて……!」
「いいえ、お逃げ下さい、お嬢様! こいつには……こいつには、今のお嬢様では、とても勝利することは出来ません!」
「咲夜!?」
「ええ……素直に逃げるべきよ、レミィ。フランを連れて、ここから、早く!」
「パチェまで……どうして!?」
「実力が違いすぎるんだ……! お前の力じゃ、あいつには、絶対に勝てない!」
「ここは私たちが、なんとしても足止めします! ですから、お嬢様、お逃げ下さい!」
「逃がすものか! 食らいなさい、ゆうかりん☆スター!」
手にした、お花の形をした魔女っ娘ステッキから、無数の星弾が降り注ぐ。それらは次々に紅魔館の床をえぐり、空気を切り裂く。もはや魔法と言うより弾幕バトルだが気にしてはいけないのだろう。
「こ、こんな……!?」
「あー……なんつーか……こいつとの縁切りたくなってきた……」
「お母さん……私……魔界に帰りたい……」
現実逃避する霊夢とアリスを尻目に、ふらつくレミリア。自分と彼女との実力の差を感じ取ったのだろう。
「魔理沙!」
「ああ! 頼りにしてるぜ、まじかる☆咲夜ちゃんっ!」
「任せなさい!」
へーんしーん、と着飾ったメイド長! こっちも痛さじゃ負けてない!
「パチュリー様!」
「ええ! 賢者の石で援護する!」
「行くぜ、ゆうかりん! 悪の道に堕ちたお前を、私たちは絶対に許さない!」
「愚かな……! 現実と理想の乖離を知らない、青二才ども! この世の無情を見た私に勝てると思っているの!?」
話していることはやたら重苦しいのだが、その背景がお星様だのきらきら光る七色ビームだの、しかも誰が演奏しているのか、やたらかわいらしい脱力系BGMが戦闘BGMでは気合いが入れようもなかったりする。
話の流れを無視して、ちなみに、霊夢とアリスはケガをしているメイド達の回収作業に当たっていた。
「まじかる☆咲夜ちゃんスラーッシュ!」
ちなみに、ソウルスカルプチュア魔法少女仕様。
「マジック魔理沙アターック!」
こちら、ブレイジングスター魔法少女仕様。
「あなたが、幻想郷に混沌を呼んでいる! 消え去りなさい!」
んでもって、こちら様だけちゃんとしたロイヤルフレア。
「甘いっ!」
叩き込まれる致命的な威力を持ったスペル(見た目については追求してはいけません)を紙一重で回避しながら、幽香が叫ぶ。
「ゆうかりんフラワーマジック!」
あちこちからわき上がる、何で花にデフォルメされた顔が描かれているの、なオブジェクトから吐き出される数多の閃光が、三人を直撃した。回避する隙間もなく放たれたそれは、三人を徹底的に射抜いていく。
「ば……バカな……!」
「これが……実力の違いだというの……!」
「……そんな……!」
「あっははははは! そう、私は悪の道に染まった魔法少女! あなた達、偽善と共にしか生きていくことの出来ない愚か者に負けることなどあり得ない!
さあ、とどめよ! ゆうかりんビーム!」
「本家本元マスタースパークってさぁ」
「うん」
「魔法少女色なのね……」
何色なのかはもはや想像不可能として、幽香の手から放たれたそれが、地に倒れ伏した三人に襲いかかる。目を閉じ、覚悟を決める三人。
だが、その瞬間。
「くっ……!」
その間に、レミリアが割って入った。
「お、お嬢様……!」
「従者達を戦わせて、このわたしが高みの見物なんて出来るわけないでしょう! ここで逃げるわけにはいかない……! このわたしが、みんなを見捨てて逃げるなんて、出来るわけがないわっ!」
歯を食いしばり、迫り来る力の奔流を受け止め、熱いセリフを叫ぶレミリア。ここだけ見れば立派な燃え展開なのだが、そこに至るまでの経緯と、あと色んなものが全てを台無しにしていたりするのだが、それもともあれ。
「健気ねぇ……。
だけどね、お嬢ちゃん。あなたは私を怒らせてしまったわ」
「こんなっ……!」
「これで終わりよ、ヴァンパイア☆レミちゃんっ! そして、憎むべき魔法少女達の末裔よっ!」
さらにもう一発、マスタースパークが放たれる。
二重の力の流れに、さしものレミリアでも対抗することが出来ず、彼女も膝を突いた。
「レミリア、逃げろーっ!」
「レミィ、逃げて! 私たちのことは気にしないで、お願いだからっ!」
「お嬢様、おやめくださいーっ!」
「……ふっ……ふふっ……! 大丈夫……わたしは負けない……! 負けて……たまるものですかぁぁぁぁっ!」
レミリアの叫びと幽香の哄笑、そして炸裂するマスタースパークの轟音。
『お嬢様(レミリア)ぁぁぁぁぁぁっ!!』
――絶叫が、紅魔館に響き渡った――。
マスタースパークの直撃を受け、閃光の中に消えたレミリア! 果たして、彼女はどうなってしまうのか! そして、悪の魔法少女ゆうかりんの野望は成就されてしまうのか!
次回、ヴァンパイア☆レミちゃん最終回、『不滅の魔法少女』にこうご期待!
とはならないのであしからず。
「やれやれ。全く、見ていられないわね」
虚空から響く何者かの声。
「……なっ!?」
勝利を確信し、悠然と腕組みしていた幽香が、初めて顔色を変える。悲しみにうちひしがれていた三人が、はっと顔を上げる。
そして霊夢とアリスは、『もうどうでもいいや』的な雰囲気を漂わせてそれを見守っていた。
「力の差を理解していながら挑むのは、勇気ではない。蛮勇よ」
「まさかっ……!?」
「この声は……!」
「そんな……まさか、まだ生きていたの!?」
そして――。
「全く。すでに引退したものを引きずり出さないで欲しいわね」
その手に、傷ついたレミリアを抱え、現れたのは――。
「……結界少女シスターズ……!」
「……霊夢?」
「……何?」
「あのさ……一度、あなたの家の家系図を書いてみようかと思っているんだけど……」
「やめといた方がいいわ……怖いことになるから……」
熱血系BGMを流しながら、燃え展開の象徴として現れたのは、誰あろう――、
「魔法少女・ザ・魔法少女の一人……魔法の結界、ゆかりん・ザ・マジカルガール……!」
多分、彼女の今の格好が、昔の衣装なのだろう。
もう何というか、色々無理しすぎな衣装なのだが、それにツッコミを入れるだけの力を持ったものは、もはやここにはいなかった。
「やれやれ……。霊夢、本来なら、あなたがやらなければならないことよ。あなたの中に眠る、魔法少女の力を使って……」
「やだいそんなの」
「まあ、今は私が受け持ってあげるわ」
「お嬢様……!」
「レミィ……」
「大丈夫、気を失っているだけよ」
「紫……やれるのか……?」
「任せておきなさい」
「ふん……一度は引退した身のロートル魔法少女が……! この私にかなうと思っているの!?」
放たれる魔法少女スパーク。
しかし、紫は全く動くことなく、それに向かって指をかざす。
「戒」
ぱきぃん、という澄んだ音を立てて破壊力(色んな意味で)満点の一撃を打ち消す。
「なっ……!?」
「幽香、あなたがいくら魔道に身を落としたからといって、かつての魔法少女としての志を忘れたわけではない……。あなたでは、私に勝てないわ」
「バカな……! この、ゆうかりんがっ……!?」
「さあ、今一度、かつての想いを取り戻しなさい」
「おっ、おのれぇぇぇぇぇっ!」
あー、この後、やられるんだろうなー、と展開を見守る霊夢の前で、幽香は紫に向かって突っ込んでいく。手にした『ゆうかりんステッキ』(日傘)に魔力をまとわせ、それで一撃の下に叩き伏せようと言うのだろう。魔法少女なのに敵を撲殺する物理系実力行使はどうなのかなぁ、と思ったりはしたのだが、まぁ、気にしてはいけないのだ。
「破っ!」
「……しまっ……!」
放たれる、紫の一撃。
何だかよくわからない光やら何やらの乱舞に巻き込まれた幽香の体が、そのまま天井近くまで噴き上がり、どさっ、と床の上に落下する。
「くっ……! こんな……こんな事が……! 私は……負けない……!」
傷ついた体を押して、彼女は立ち上がる。
「私は負けない……絶対に……! 負けてたまるものですかっ!
負けてしまえば……負けてしまえば、私は何のために……何のために、今までっ!」
「残念だけど、終わりよ。さあ、大人しく――」
「私はっ……私はぁぁぁぁっ!」
絶叫の後。
紫の、よくわからない謎の攻撃によって、幽香はゆっくりと大地へと倒れ込んだのだった。
「……哀れね」
「悲しいもんだ……。あいつだって、元は、誰からも尊敬を集める魔法少女だったはずなのに……」
「道を違えてはいけない……私たちは……彼女のようになってはいけない……」
「くぅっ……! なんて……なんて悲しい結末なの……!」
何やら涙を流して語っている彼女たちを見ながら。
「……さて、私、ご飯食べてくる」
「あ、私も……」
霊夢とアリスが、よっこいせ、と立ち上がった。
「……紫」
「ええ、わかっている。彼女は、ただ、想いが強すぎた……それだけなの。
だから……彼女を助けてあげなくてはいけない……。そのために――」
またもや流れる第三のBGM。っつか、演奏してるの誰だ。出てこいこんちくしょう。私たちにまともな幻想郷を返せ、と嘆く霊夢の前に現れたのは!
「彼女を呼んでおいたわ」
「ふっ……さすがだな、紫……」
「ええ……さすがは、伝説の魔法少女の一人……」
スポットライトの中、びしっとポーズを決めて。
「ムーンライトマジカル☆ 月の魔法少女セーラーえーりん参上よっ☆」
きゃるーん♪ な感じで現れた、ツインテールミニスカセーラー無理しすぎの彼女を見て、ついに霊夢とアリスはその場にぶっ倒れたのだった。
もちろん、そのそばでは泣いているうさぎの姿もあったが、気にしてはいけないのである。
かくして、魔法少女達の戦いは終わった。
魔理沙曰く、「幽香は、きっと、元の魔法少女に戻ってくれる。あいつは、私たち、現代に生きる魔法少女達にとって、憧れの一人なんだからな」ということで幽香は永琳達によって連れて行かれ、目下治療中だという。
そして、紫の力によって、紅魔館も無事再建され、後日、『ヴァンパイア☆レミちゃん特別ショー』も行われた。その際、伝説の魔法少女達が勢揃いし、その客席には幽香の姿もあったとのことだが、それはあくまで聞いた噂に過ぎない。どこまで真実なのかは、まさに、神のみぞ知るということだろう。
「というわけで、新聞を書きましたら、初めて『追加お願いしまーす』って言われたんですよぅぅぅ……。うぅ……紅魔館の皆さんには足向けて寝られません」
魔法少女な紙面の新聞持って現れた烏天狗に、霊夢は言う。
「……あのさ」
「はい」
「天狗のネットワークを信じて頼みがあるんだけど」
「何でしょうか」
「……次は何が出てくるの?」
「多分、変身ヒロインですね」
「あ、やっぱり……」
「ところで霊夢さん。魔法少女の中で最高峰と言われた、結界少女シスターズの復活イベントがあるとのことですが」
「……マジ?」
「マジ」
「……あ、そう……」
ずず~っと、お茶をすすって、巫女は思う。
「幻想郷、崩壊させようかな……」
――と。
後日、発売された『ヴァンパイア☆レミちゃん 特別版』コミックスには、なんと、紅魔館で起きた、伝説の魔法少女達の決闘が加筆された豪華版と言うことで、初版五十万部を売り上げる大ヒットとなったという。
また、それ以後、『花を操る魔法少女に救われた』という報告もなされることになるのだが、全ては憶測の域を出ない。
かくして、魔法少女達の饗宴は、まだまだ続くのである。
まあ、なんだ、その・・・いろいろと頑張れ霊夢w
うん、その、なんだ、霊夢とアリスと妖夢とウドンゲ、超頑張れ。
まさかやってもらえるとは・・・・ありがとうございます!!!!!
いや、もうね、おなかがよじれるwww
……ひも?
というか、ゆかりんやゆうかりんや魅魔様は、料理会の四天王やりながら伝説の魔法少女もやってたのか……多芸だなぁ。
て言うか人によって魔法少女に対する温度差が違いすぎるのは何故w
しかし、こうなってくると神綺様も元魔法少女なのかな・・・・
そしてアリスに何か継承したり・・・・
それとも神綺様と魅魔様でコンビ結成して復活とかですか!(妄想が止まらない
霊夢とアリスがとてもいじらしいです
しかしその霊夢にも魔の手が伸びてきそうですね
いいぞ!もっとやれ!
取りあえずえーりんに「月に代わってお仕置きよ」とか言ってほしかっt(ry
膝の力が抜けましたwww
もう呆然とする他ないって感じ?wwwwwwwwwwww
キャストが豪華すぎる気がするよ!
もうこの幻想郷ダメだこりゃ( ´Д`)b
期待以上のネタでしたよ!
誰かこのすばらしい幻想狂(誤字ではない)を描いt(陰陽玉
> フランドールがかすめとっていくのだった。
この後満面の笑みで料理をほおばるフランを想像して和んだ。
※紫音が机を叩き割るほど盛大に突っ伏しつつ爆笑しております。コメントは言葉になりそうにありません・・・
いろんな意味でイタい!!!
そして、魔法少女に欠かせないマスコットキャラがいないことにちょっと凹む。
次は現代魔法少女で○イジング○ートもどきを持たせた魔法少女に、ウドンゲがなっちゃうんですか!?
とりあえず一言だけ言わせてくれ!
セーラーえーりんキターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!w
とw
ちょっとまてそれは紐パンの弁財天じゃねーかwww
そしてひもは誰だ?
いいぞーもっとやれー
師匠何やってんですかwwwww
つかきゃるーん♪な感じはやめてけれ、師匠
ただ・・・心から笑った・・・・・
なんでだろう、下着を連想した自分が居た