※この作品は弱オリキャラ性を含んでいます。許容できる方のみ閲覧ください。
↓以下、本編開始です。
貴方達は知っているだろうか。
紅白巫女や白黒魔法使いを始めとする、幻想郷に住む魅力的な少女達の裏側で、
それを引き立てるために散っていく者達のことを。
貴方達は覚えているだろうか。
瀟洒なメイド長や半霊剣士達が魅せる、華麗な弾幕戦に至るまでに
それを阻止せんと挑んでは倒れていく者達のことを。
彼女たちは怒っている。
いつまで経っても脚光を浴びること適わない、己が境遇に。
そんな自分たちの存在を、ぞんざいに扱ってきた者達に。
そしてついに怒りは臨界点を突破した。
決壊したダムの如く、彼女たちの怒りは次から次へと伝染し広がっていく。
もはや誰にもこの奔流は止められない。
やがてそれは、幻想郷全体を揺るがす大きなうねりとなる。
だがしかし、それが動き出したことに気付く者は誰一人としていなかった。
『妖精大戦争〈Ⅰ〉~名も無き者達の反乱~』
紅魔館近辺の湖。
そこを囲うように広がる森の一角。
大樹の根元にぽっかりと穿たれた穴で、大妖精と呼ばれる妖精の少女は眠っていた。
どんなに強い日差しも木々の葉が遮りここまでは届かない。
それでも木漏れ日が差し込むため真っ暗というわけではなく、
ちょうど良い環境を作り出してくれている。
この自然エアコン完備の洞穴の居住権は代々の大妖精に与えられた特権の一つであった。
その恩恵に与り、大妖精は心地よい微睡みを満喫している。
ここ最近は大きな事件もなく、他の妖精から相談を持ちかけられることもない。
言うなれば平和そのもの。
友達のチルノは相変わらずいろんな所に出没してはいらぬことをしているようだが、
別に大変なことになっているわけではない。
そもそも大妖精自身に何か影響が出るわけでもなく、彼女の平穏が脅かされることでもないのだ。
「うぅ……ん」
葉を敷いて作った布団の上で寝返りをうつ。
動いた顔に木漏れ日があたる。
温かな光を目に受けて、大妖精は昼寝から目を覚ました。
「ふぁ……」
可愛らしく欠伸をしながら背を伸ばす。
背中の羽もピンと張り、彼女が完全に目覚めたことを表していた。
壁に掛けておいた愛用の水色のワンピースに袖を通し身支度も整う。
しかし別に何かすることがあるわけでもない。
妖精である彼女に仕事があるわけがなく、起きて早々手持ち無沙汰になってしまった。
そういえばすることがないから寝ていたんだっけ、と就寝前の記憶を思い出す。
「どうしよ」
こしこしと目蓋を擦りながら、これからのことを考える。
たぶん他の妖精達は外で遊んでいるはずだから、仲間に入れてもらおうか。
それとも少し森を離れて、行ったことのない所を飛んでみても良いかもしれない。
それならばまずは外に出よう、と大妖精は祠から顔を出した。
――と、その時である。
「我々はぁ!」
森に響き渡る、可愛らしいがどこか強い意志を含んだ大声。
突然の出来事に大妖精は肩をびくりと振るわせる。
何なのだろう、と考える間にまたそれは聞こえてきた。
「妖精の立場向上を訴える!」
「ワアアァァァっ」
大声に合わせて歓声が轟く。
どれもこれも声自体は可愛らしいものだ。
気になった大妖精はその声がする方へと近づいてみた。
そこで彼女が見たのは、妖精が集会所として使っている広場、そこを埋め尽くさんとする
大勢の妖精達の群れであった。
その数は尋常ではない。百や二百できくものか。
これはこの森以外の妖精も集まっているに違いない。
そして全員が切り株の上に立つ、数名の妖精にその視線を注いでいる。
その光景はまさしく「異様」としか言いようがない。
先程聞こえてきた大声は、どうやら切り株の上にいる妖精が発しているらしい。
そしてまた、その妖精達が大声で話し始めた。
「いつもいつも弾幕一発で撃ち落とされる我々を、人間も妖怪も知ったこっちゃ無いと
無視して通り過ぎている! 我々にも一人一人の意思があり、命があるのに、
そんなもの無かったように、平然と撃ち落とし、あまつさえ無視するのだ!」
そうだ、酷いぞ人間ー!
妖怪も同じだー!
もっと妖精を大事にしろー!
口々に自分たちを撃ち落とす人妖への不満不平怒りを露わにする妖精達。
それはその場にいる全員がそう口にしているのだ。
確かに妖精達は異変を解決しようとする人妖達に、いつもいつも弾幕によって
撃ち落とされている。
妖精はただ自分たちの縄張りに入ってきた者を追い出そうとしているだけ。
「死なないからって、やり過ぎではないだろうか!」
妖精は人妖に比べてかなり弱い。
大妖精やリリーのように多少力のある妖精もいるが、それはかなり稀少なのだ。
ここに集まっている妖精は全て弾幕一発分の耐久力しか持ち合わせていない。
特殊能力も使えなければ、スペルカードも使えない。
やられ役。
言い方は悪いが、それが今の妖精達に与えられたポジションなのだ。
「いつまでも我々が素直に撃ち落とされるだけの存在ではないことを、
今こそ人妖に知らしめるときが来たのだ! さぁ、不条理な傷を体にも心にも
負わされてきた同胞達よ! 共に手を取り、妖精の時代を築こうじゃないか!」
狂喜乱舞す妖精の群れ。
なんなんだこの光景は――。
ただ唖然とするしかない大妖精。
「おや、そこにいるのは我らが長ではないですか」
そのとき、大妖精の姿を見つけた切り株の上に立つ妖精が話しかけてきた。
大妖精はその顔に見覚えがない。
きっとこの森ではない別の住処からやってきたのだろう、と大妖精は推測した。
「一体なにをしているの」
大妖精が真面目に問うと、その妖精は一瞬きょとんとして、直後大きな声で笑い始めた。
「あははははっ、何をしているのかって。そりゃあ勿論演説ですよ。
だってここは妖精の集会所なんでしょう? みんなを集めてこういうことをしていても何も問題は無いはずです」
「それは……そうだけど。そうじゃなくて、なんでそんな物騒なことを言っているのかって聞いてるのよ」
そんな頭の良くない妖精でも、今の話を聞けばある程度のことはわかる。
要するにいじめられたからやり返せ、と。
普段妖精はそんなことをしようとはしない。
天衣無縫に生きて、痛い目にあってもすぐに忘れる。
そしてまた笑顔で楽しく生きるのだ。
「だからいつまで経っても、妖精は弱者であり続けるんでしょう」
「あなた……」
いったいこの妖精はなんだというのだ。
さっきから難しい言葉を使い、妖精とは思えない威圧感を醸し出している。
「私は妖精です。私が気付かなくてもいつかは私と同じように気付く妖精が
出てきたことでしょう。それがたまたま私だった。そういうことです」
その妖精は、切り株の上に立っている数名の妖精を指差した。
彼女たちも、この妖精同様得体の知れない雰囲気を纏っている。
「これから何をしようというの」
大妖精はその立場にいるものとして尋ねた。
たとえこの森に住んでいない妖精だとしても、自分が大妖精である以上、
彼女たちがやろうとしていることを放っておく訳にはいかないのだ。
しかし、その妖精は大妖精に対して侮蔑的な笑みを返した。
「本来なら貴方が私達の指揮を取るべき位置にいるというのに……
貴方がいつまでもそんなだから、私達の立場は変わらないんですよ」
「そんなこと……」
大妖精はそんなことを考えたこともなかった。
チルノや他の妖精と遊んで暮らせれば、それだけで良かったのだ。
別に妖精の立場を変えることなど望みはしない。
俯く大妖精に、その妖精はそらに言葉を続けた。
「本当に甘い妖精ですね。……わかりました、貴方の助けは借りません。
私達は私達だけで、全てを成し遂げてみせましょう。そうすれば貴方も
私達妖精がどれだけ酷い立場にいたか理解してくれるでしょう。
そしてこれから私達が行うことに賛同してくれるはずです。それまでは――」
黙って見ていてなさい。
☆
紅魔館の朝は早い。
ただし館の主は除いてだが。
その紅魔館の食堂。
そこは朝、戦場と化す。
「ほら、さっさと食べちゃってよ!」
「何よ、五分で食べ終われなんて食事じゃないわ!」
「後がつっかえているんだから!」
「最低十五分は食事時間として取って良い、じゃなかったの!」
「それは私のライスよ!」
「何よ、お米一粒一粒に名前でも書いてあるの?」
「あー、それ狙ってたのに……」
「早い者勝ちがここのルールでしょ。みんなで決めた」
礼儀正しく淑やかなメイド達の朝食とは思えないほどに荒れた光景。
ロールパンを入れた籠は、追加を持ってきた瞬間にその中身が消える。
メイド長の手品も目ではない。
調理班の効率も考えて、バイキング形式にしているのだがそれ故に小競り合いも絶えることがない。
購買のパン戦争よりも難易度の高いこの戦いに勝てなければ、半日をキャベツの千切りのみで
過ごさなければならなくなるので、誰もが必死に栄養摂取の為に死闘を繰り広げるのだ。
「まったく……食事中の光景だけは、誰にも見せられないわね」
自分の分の食事はちゃっかりと確保した咲夜は、そんな光景にため息をつきながら、
料理長手製のオニオンスープを口に運ぶ。
その姿ははっきりと周囲のメイド達とは一線を画していた。
まさしく“完全で瀟洒な従者”の二つ名に相応しい立ち居振る舞いだ。
「咲夜さんが、提示したスケジュール通りに仕事をこなさないと即減給、なんて言い出すからですよ」
咲夜の前でパンを口に運びながら美鈴が苦笑混じりに告げた。
彼女もまた自分の食事分は確保して、すでに食事に入っている。
その言葉に咲夜は眉一つ動かすことなく、
「あら時間を守れない人に、どんな仕事も勤まるものですか」
「相変わらず厳しいですね」
そう話しつつも、二人はさくさく食事を終わらせていく。
さすがはメイド長と門番という重要な役職を任された二人である。
「「ごちそうさまでした」」
二人揃って空の食器に手を合わせる。
席を立ち、食器を返す最後の瞬間まで礼儀正しさを忘れない。
「さてと……まずはお嬢様達のドレスを洗濯しようかしら」
「じゃあ私は門に戻りますね」
「えぇ、お願い。今日こそは不法侵入を許しちゃ駄目よ」
「あぅっ」
小さくデコピンを受け、美鈴は軽くのけぞる。
まったく痛くないその叱咤激励に、美鈴ははにかんだ笑いを浮かべた。
「わかりました」
いつも通りの朝。
いつも通りの朝食。
そしてこれからいつも通りの一日が始まる――はずだった。
突然の轟音と共に天上のシャンデリアが揺れる。
そこまで強い振動ではないが、明らかに人為的に起こされたものだと気付く。
朝食を摂っていたメイド達の目が一瞬で切り替わった。
悲鳴を上げる者は一人もいない。
その館を振るわせる響きが、主君に仇なす者の来訪だということを彼女たちは知っているのだ。
そして次に自分たちが取るべき行動も。
☆
門に向かおうとしていた美鈴は、突然の攻撃に慌てることなく玄関ホールへと走った。
門番は彼女だけではない。
交代要員として彼女と同格の力を持った同僚がいたはずだ。
それがこうも易々と進入を許すとは。
自分も人のことは言えた義理ではないが、門番として何としてでも賊の侵入を
これ以上許すわけにはいかない。
「美鈴」
いつの間にか隣を走っていた咲夜が目で話しかけてくる。
彼女が何を言いたいのか、美鈴にははっきり伝わっていた。
「わかってますよ。私は門番ですから」
「お願いね。どうやら相手は魔理沙じゃないみたいよ」
魔理沙も強引に突っ込んでくる。
しかし先程感じた音と響きは、魔理沙の弾幕によるものとは異なっていた。
いったい誰が……
そうこう考えているうちに、二人は玄関ホールへと到着した。
すでに何名かのメイドが到着しており、賊の侵入に備え構えている。
「みんな!」
メイド長の声に、場にいた全員の顔に安堵の色が浮かぶ。
それだけ咲夜の力は、他のメイドとは格が違うのである。
さらにその隣に美鈴がいることで、より安心感が増す。
「メイド長と美鈴さんが来てくれれば、どんな賊でも敵いっこありませんよ」
「百人力と百人力で、千人力ですね」
もはや勝利は確信できた。
士気も高まったメイドもいるし、増援もすぐに到着するだろう。
相手が誰であろうと、この玄関ホールから先へは通さないという自信が咲夜にはあった。
「さぁ、どこからでもかかって……」
咲夜が呟いたのと扉が開かれたのは同時。
しかし咲夜の呟きは完全にかき消されてしまった。
扉から飛び入ってきたのは、おびただしい数の妖精達。
その全員が木の棒や石やらで武装している。
「なんで妖精が」
咲夜が驚くのも無理はない。
妖精は本来自分たちの住処、縄張りからは出ない。
多少力をつけた妖精が、たまに出たりするくらいだ。
それがこうして大量で押しかけてくるなど、ありえないことである。
咲夜だけではなく、場にいる全員が吃驚していた。
そんな中、咲夜はすぐに我を取り戻し叫ぶ。
「相手が何であろうと、一匹たりとも中に通すな!」
その怒号に、メイド達もようやく我に返った。
相手が妖精だと分かれば、こちらのものである。
どんなに数が多くても、言ってしまえば所詮は妖精なのだ。
弾幕を放てば、それだけで何体も倒すことができるだろう。
「はああああっ」
美鈴が自慢のキックで妖精の群れへと突っ込んだ。
その威力に十体ほどの妖精が地に落ちる。
それがきっかけとなり、メイド達の反撃が始まった。
「ここは任せたわ……私はお嬢様達を」
「わかりました。気をつけてくださいね」
美鈴に後を任せた咲夜は時を止め、守るべき主君が眠る寝室へと急いだ。
☆
その同時刻。
紅魔館の書庫にいたパチュリー・ノーレッジと小悪魔は、その地響きを感じて
すぐに結界を張っていた。
もしここで弾幕戦にでもなれば、貴重な書物が傷ついてしまう。
あらゆる攻撃に対して耐性を持つ多重結界を張り終えた二人。
うちの一人、ここで司書として働いている小悪魔はもう一人の人物に話しかけた。
「パチュリー様……」
「大丈夫よ。ここには幻想郷随一の強豪が揃っているのよ。私も含めてね」
心配そうな顔をする小悪魔に、パチュリーは優しく答える。
しかしそんな彼女も内心では恐れていた。
今回は魔理沙がやってくるいつもとは明らかに異なっている。
「小悪魔、ここはあなたに任せるわ」
「パチュリー様?」
「今回ばかりは日和見って訳にもいかなさそうだから……」
いつもは相手がこの書庫までやってこないと相手をしないパチュリーが動く。
それだけの事態が起こっているのだと小悪魔は理解した。
そこへ伝達係を承ったメイドが駆け込んでくる。
「パチュリー様、ご無事ですかっ」
☆
紅魔館の主、レミリア・スカーレットが眠る寝室へと急ぐ咲夜。
時は止まっているため、敵の襲撃は心配ない。
寝室の前までやってくると時間操作を解く。
そして一息ついて呼吸を整えると扉をノックした。
どんなに緊急事態でも主君への礼儀を忘れては、メイド長は務まらないのである。
「レミリア様、咲夜です」
この時間は完全に眠っているはずだ。
レミリアからの返答は無いが、咲夜は寝室の中に入った。
そしてレミリアが眠っているベッド際まで歩み寄ると、静かにその肩を揺すった。
「レミリア様……レミリアお嬢様」
「わかってるわよ」
どうやら意識は起きていたらしい。
この不穏な気配を感じ取っていたのだろう。
見た目は幼くとも、やはり名高い吸血鬼である。
「それで、どうしたというの」
レミリアは起き上がり、事の次第を尋ねた。
その銀糸の髪を手早く整えながら、咲夜は答える。
この事態が妖精の仕業と知ったレミリアは、すぐに鼻で笑い飛ばした。
「フン、妖精如きが吸血鬼の館に殴り込みとはね」
「ですがレミリア様……」
「何よ、まさか妖精相手に臆したとでも?」
「いえそうではありません……ただ不可思議な点だらけで」
咲夜が言うのは最もなことだ。
レミリアもその点は引っ掛かっているらしく、眉根を寄せて思案する。
「パチェなら何か分かるかしら」
この館で暮らす者の中では、最も知識人である友人の名を呟くレミリア。
咲夜も、それしかこの事態の原因を知る術はないだろうと賛同する。
――となれば、次に向かう先は書庫だ。
レミリアの着衣を整え、咲夜は寝室の扉を開いた。
その瞬間、彼女たちは信じられない光景を目の当たりにする。
それは妖精と弾幕が飛び交う廊下。
さっきまで玄関ホールで応戦していたはずなのに、もうこんな所までの進入を許してしまったらしい。
美鈴は、そして他のメイド達は。
進入を許したことへの憤りよりも、笑顔で見送ってくれた彼女たち安否が気に掛かる。
「咲夜……まさかこの程度で臆していないわね」
レミリアはこの状況を見ても笑っていた。
それは真の強者が醸し出す威厳と余裕。
「まったく、人の睡眠を邪魔しておいて挨拶も無しとは」
レミリアの指先に紅い光が収束していく。
高密度に集められたエネルギーが、その手の平の上で優雅に舞う。
「お仕置きが必要なようね!」
両手を前に伸ばす。
そこから溜められていたエネルギーが紅い球体となって無数に放たれた。
次から次へと妖精に襲いかかる紅い弾幕。
紅い光が弾ける度に、妖精達が倒れていく。
「何をぼぅーっとしているの。主に攻撃を任せるなんて、偉くなったものね」
「も、申し訳ありませんっ」
咲夜も慌てて戦列に加わった。
ナイフと弾幕を放ちながら、咲夜は隣で紅い弾幕を放ち続ける主を見た。
レミリアの口元にはずっと笑みが浮かんでいる。
(やはりこの方こそ、私が仕えるべき主君……)
咲夜は久方ぶりに見た、主君の主君たる顔に改めて畏敬の念を覚えるのであった。
☆
紅魔館に妖精軍団が攻め入った。
その情報を聞きつけた大妖精は、思わず歯がみした。
まさか本当にこんなことになってしまうなんて。
「あのとき……あのときに止めていたら」
あの妖精の言葉に打ち負かされた自分に憤りを覚える。
しかし、今は後悔している場合ではない。
過去の後悔よりも現在の改善。
そう、今止められればまだ間に合うのだ。
「すぐに行かなきゃ」
大妖精はすぐさま湖へと飛び立った。
間に合え、いや間に合わせる。
そして必ず止めるのだ。
☆
玄関ホールで迎え撃っていた美鈴は、妖精達の数に押されていた。
どんなに弱くても数が尋常ではない。
いくら倒しても無限に存在するかのように現れる妖精達。
増援のメイドが来てくれたが、それでも数が足りない。
それに全員が美鈴同等かそれ以上の攻撃力を持ってはいないのだ。
弾幕を使える者も限られており、それ以外の者達はモップやほうき等で応戦している。
これでは攻撃力で言えば妖精とはさほど変わらない。
「やむかたなく、とはいえ……」
美鈴は攻撃を続けながら周囲を見渡す。
すでに玄関ホールには妖精とメイドが死屍累々――死んではないが――。
しかし妖精達の数は減るどころか、さらに増す一方で奥へと進入している。
(お嬢様、咲夜さん……すみません。でもっ)
でも――
「我が名は紅美鈴! 紅魔館の門番として、これ以上お前達の進入は許さない!」
すでに進入は許したが、もうこれ以上は許さない。
たとえこの場に自分一人が立つことになったとしてもだ。
一人でも背水の陣なのだから――。
「まったく……妖精如きにいいようにされて」
「え……」
背後から聞こえてきたその声に、美鈴は思わず振り向いた。
「あぅっ」
そして額に軽い衝撃。
そのデコピンを喰らわせたのは、朝と同じ人物ではなかった。
「お、お嬢様っ!?」
美鈴の胸くらいまでしか背丈のない小さな主君は、背中の翼を広げ堂々とした態度で立っている。
自分よりも背が小さいはずなのに、その姿が美鈴にはとても大きく見えた。
「咲夜にフランを起こしに行かせたわ。あの子が来ればだいぶ楽になるはずよ」
それまではとにかく倒しなさい、とレミリアは美鈴に命ずる。
「わ、分かりましたっ」
主君から直々に命を受けたことで、美鈴の士気がさらに上がる。
美鈴だけではない。
倒れていたメイド達も、主君が参戦してくれることで士気を回復し立ち上がった。
再び妖精目がけて、彩虹の彩り放つ足蹴をお見舞いする美鈴。
彼女が蹴りを放つその度に、極彩色の弾幕が辺りに飛び交う。
「門番にばかり良いところを持って行かせないわよ」
言いながら、レミリアはその手の中に紅い光を生み出し始めた。
そんな中、妖精以外にも紅魔館に進入した者がいた。
しかし妖精達に気を取られていたレミリア達はそのことに気が付かず、
あっさりと進入を許してしまっていたのだが、誰も気付く者はいなかった。
☆
レミリアからフランを連れてくるように言われた咲夜はその部屋へ急いでいた。
時を止めて道中を駆ける。
もう館内の殆どに妖精の手が回ってしまっているらしく、何処を見てもその姿が目に映る。
幻想郷中の妖精が集まってきたのではないかと思うほどに。
フラン部屋へと向かう廊下。
その途中に、咲夜は妖精以外の姿を見つけて時間操作を解いた。
「パチュリー様っ」
突然現れた咲夜の姿に驚くことなく、パチュリーは咲夜の方を向く。
彼女が時を止めて移動できることは、この紅魔館に住む者ならば全員が知っていることだ。
対する咲夜は少し意外そうな顔を浮かべていた。
パチュリーが自ら進んで戦いに加わるのはあまりないことだからである。
「私だって緊急事態かどうかくらいは分かるわよ」
どうやらパチュリーは伝達を受けて応戦に加わっているらしい。
小悪魔の姿が無いところを見ると、彼女に書庫を任せて出てきたのだろう。
「咲夜、妹様を起こしに行くのね」
咲夜が向かおうとしている方向から、その目的を察するパチュリー。
「はい。この戦い、圧倒的に物量不足だと」
「そう……確かにこれだけ多いとさすがのレミィでも全部の相手はできないものね」
もし現在紅魔館を襲撃している妖精が全員でレミリアに襲いかかっても、
まずレミリアが負けることはないだろう。
しかしそれは一度にでの話であってこのように屋敷中に分散されてしまっては、
せっかくの力も届くことはない。
そうなるとこちらにも数が必要になるのだ。
もしくは数の差など関係ないまでに、圧倒的な攻撃力。
フランドールが戦列に加われば、数で押してくる相手にも勝てるかもしれない。
攻撃力だけで言えば、この紅魔館では最強の彼女がいれば。
「なら早く行きなさい。ここは私一人で充分だから」
パチュリーの手には何枚ものスペルカードが握られている。
確かに彼女の広範囲魔法があれば、一人でもこの場は大丈夫だろう。
パチュリーの実力を知る咲夜だからこそ、彼女に任せる決意ができた。
再び時を止めて急ぐ咲夜。
目の前から咲夜が姿を消すと、パチュリーは再び妖精へと向き直る。
「さて、今度はどの組み合わせを試して欲しいのかしら?」
両手に一枚ずつ術符を持ち、詠唱を行う。
『月&木符――サテライトヒマワリ!』
金と緑のツタが廊下中に張り巡らされ、その一本一本がうねるようにうごめく。
生き物のように動くツタは、確実に妖精達を蹴散らしていた。
しかしその数は一向に減らない。
すでにパチュリーが弾幕戦を始めて結構な時間が経っている。
長期戦を強いられれば、分が悪いのはパチュリーの方だ。
長い時間魔法を使っていると、持病の喘息による発作が起こる。
そうなってしまえばしばらく詠唱をするどころか、まともに動くことすら難しくなるのだ。
そうなる前に決着をつけたいところだが……。
「まったく……数だけは大したものね」
悪態をついても相手の数が減るわけではない。
しかしいつまで経っても終わりの見えない戦いに、そう呟かずにはいられなかった。
そのとき、パチュリーの体に異変が起こった。
(く……調子に乗って上位魔法を使いすぎたかしら)
いつもよりも発作が起こる時間が早い。
喉に息が詰まったように呼吸ができなくなり、全身から力が抜ける。
廊下中を覆っていた魔法のツタも、パチュリーの限界と共に消滅した。
これぞ契機と言わんばかりに、攻撃をかいくぐっていた妖精達が一斉にパチュリーへと襲いかかる。
今の彼女は弾幕の一つも出せない状態だ。
このままでは妖精如きにやられてしまう。
咲夜はすでにフランドールの部屋に行ってしまったし、小悪魔もいない。
レミリアと美鈴はまだ玄関ホールで応戦しているはず。
もはや助けに入れる者はいない。
誰か――!
パチュリーは叫んだ。
それは実際に声を出したのか、それとも心の中で叫んだのかは本人も分かっていない。
ただ誰かに届いて欲しいという強い願いと共に、その叫びは発せられた。
そしてそれは届いた。
廊下を埋め尽くす、巨大な一筋の閃光。
一瞬で廊下にいた妖精達をなぎ払ってしまう。
こんな芸当を易々とやってのける者と言えば彼女しかいない。
「まったく……いつものように本を借りに来たんだが……どうなってるんだ?」
白黒衣装に三角帽子。
手にはほうきを握った小柄な少女は、白い歯を見せてにかっと笑う。
「お助けマリさん参上!……ってな」
☆
パチュリーの元に魔理沙が現れた頃――場所は戻って玄関ホール。
レミリアの参戦で士気の上がった美鈴達は善戦を繰り広げていた。
妖精達の最大の弱点はその耐久力である。
弱い弾幕一発でも喰らえばそれでやられてしまう。
儚いようにも見えるが、今はそのもろさが唯一の救いとなっていた。
なんといっても相手の妖精にも弾幕を張れる者がいる以上、
ちんたら相手をやっていてはこちらが危機に立たされてしまうのだ。
「ナンセンスだけど、確実に数を減らしていくのが一番よね」
今はそれ以外にこの妖精軍団との決着をつける方法はなさそうだ。
美鈴はその機動力に合わせて、気を操る程度の力で弾幕を放つ。
相手の懐に飛び込んで弾幕を放つことができる彼女独特の戦い方は、
小さな多勢の軍団相手には最も効果を発揮している。
落とした妖精の数も、彼女が断トツに多い。
「美鈴、どきなさいっ」
妖精の群れのまっただ中にいた美鈴はレミリアの言葉にすぐさま反応し、
たった一蹴りで一瞬のうちにその場を離れた。
『スピア・ザ・グングニルっ』
巨大な紅い槍を妖精の群れへとぶん投げるレミリア。
その破壊力に為す術もなくやられる妖精達。
美鈴とレミリアの連携が見事に決まり、これで随分と妖精達の数も減った。
二人の圧倒的な力に、残った妖精達も無闇に突撃してきたりはしない。
玄関から入ってくる妖精の流れも止まっている。
ようやく打ち止め、といったところらしい。
「後は館内の妖精を退治すれば終わりですね」
美鈴が安堵の息を漏らしながら、やれやれといった風に呟く。
レミリアも顔には見せないがホッとしていた――のだが。
「まだ安心はしてられないみたいよ」
彼女の視線が向かう先、それは書庫へと続く回廊。
先程咲夜がフランドールを呼びに言った方向だ。
レミリアは、そこから流れてくる大量の気配に目を細めた。
どんどん近づいてくる気配にタイミングを合わせていく。
「――来るっ」
再び目前に迫る妖精の群れ。
鬱陶しいわね、と吐き捨てるように呟くと再度紅い光を生み出す。
しかし、それが妖精達に向かうことはなかった。
「おっ、ねぇっ、さまあああっ!」
壁を突き破って現れたのは、深紅の衣装に身を包んだ笑顔の少女。
その手には歪に曲がった杖のような槍のような剣が握られている。
『傷つける枝』を意味する伝説の剣、レーヴァンテイン。
それを使いこなすのはレミリアよりもさらに背が低く、あどけなさの残る少女なのだから驚きである。
しかし彼女の存在を知るものならば、当然のことと答えるだろう。
「まったく……壁を壊すなんて」
やっぱりこの子が出てくるとろくなことがない、とレミリアは肩を落とす。
だが今はそんなことを気にしている場合ではない。
「フランドール様っ」
その崩れた壁の向こうから咲夜もやってきた。
これで紅魔館の強豪が殆ど出揃ったことになる。
こうなればもはや妖精達に勝ち目はない。
体を動かすことのできないメイド達は勝利を確信した。
しかし、彼女たちは一つ大きな見逃しをしていた。
どうして妖精達がこの紅魔館を一斉に襲撃したのか。
それに気付くことができていれば、まだ最悪の事態は防げたかも知れない。
だが気付くことができなかった今、すでに事態はその最悪へと進んでいた。
「待ちなさいっ!」
突如、玄関ホールに響き渡る声。
それはレミリアでも美鈴でも、咲夜でもフランでもなかった。
「あら、突進してくるだけしか脳がないと思っていたけど……」
不敵な笑みを向けながら、レミリアはその言葉の主に告げた。
その笑みを受けたのは、他の仲間とさほど変わらぬ姿をした妖精の一人だった。
しかし嘲笑を受けたというのに、彼女もまた笑みを浮かべている。
「ふふ、その妖精如きにまんまとハメられたのはどこの誰です」
「なんですって」
「妖精如き、と言いましたけど。貴方達は私達のことをなんだと思っているんです?
いつまでも私達を的だとか雑魚だとか言って見下していると、今に足下を掬いますよ」
その妖精の言葉は、ことごとくレミリアの苛立ちを募らせる。
もともと我慢強い方ではないレミリアは、すぐにその苛立ちを行動に示す。
要するに――
「ご託はもう良いから、さっさと落ちなさい!」
レミリアの紅い弾幕が妖精を直撃する。
しかも雑魚に放つにしては、いささか大人げない大玉だ。
「まったく……早くあんた達を屋敷の外にほっぽり出さないといけないのに」
嘆息しながら、その倒れる姿も確認せずに振り向くレミリア。
そして集まった皆に、次の指示を出そうとした、そのときだった。
「だから言ったでしょう。“今に足下を掬いますよ”ってね」
まさか、とレミリアはすぐに元向いていた方向に振り返った。
そこに立っていたのは、服を汚した程度でかすり傷しか負っていない先程の妖精だった。
咲夜や美鈴の顔には驚愕が浮かんでいる。
レミリアの大玉を喰らっては、湖の大妖精でもただでは済まないだろう。
それをまともに喰らったというのに、この妖精はダメージを負ったようには見えない。
「あんた……本当に妖精なの」
レミリアの呟きに、その妖精は口元を歪めた。
「ふふふっ、その顔。スカーレット・デビルの名が聞いて呆れますね。
そんなに妖精が一撃で倒せなかったことがショックですか?」
「咲夜、全員を下がらせなさいっ」
レミリアの怒気を孕んだ指示に、咲夜はすぐに反応した。
時を止め、その場にいた美鈴やフランを始めとする者達を避難させる。
そして再び時が動き出したとき、咲夜が見たのはたった一人の妖精に対して
本気の弾幕を放つレミリアの姿だった。
たかが妖精にここまでコケにされたことが、プライド高いレミリアには耐えられなかったのだろう。
どこか子供っぽい短絡的な精神もそれを助長していると思われる。
「怒った顔も可愛らしいですね。カリスマのカの字の欠片すら見えませんよ」
「よっぽど……消されたいようだねえええっ!!」
あの妖精は馬鹿か。
咲夜は二人のやり取りを見ながら、そう感じていた。
しかしそれは咲夜の中にある妖精への先入観がそう思わせるだけのこと。
彼女もまた、その妖精に起こった変化に気付いてはいなかったのだ。
「消えなさいっ」
「それはどちらかしら」
「何っ」
レミリアは頭に血が上り、周囲を取り囲まれていたことに気付けなかった。
しかしそれが妖精であるに気付くと、彼女の顔には余裕が生まれる。
ここで不夜城レッドを放てば一網打尽である。
そう、所詮は妖精だ。
だがレミリアの余裕のある姿勢に対し、咲夜は嫌な予感を感じた。
「レミリア様っ」
咲夜が叫んだのと、妖精達が弾幕を放ったのはほぼ同時だった。
その弾幕の威力は、館内で働くメイドよりも上。
実際に相まみえてみなければわからないが、もしかすると自分と同等かもしれない。
その弾幕が今八方からレミリアに襲いかかろうとしている。
咲夜は考えるよりも先に時を止め飛び出していた。
すぐさまレミリアをそこから離す。
時の止まったその顔からは余裕などすっかり消えていた。
彼女もまた、妖精達の放った弾幕の思わぬ威力に気付いたのだろう。
「レミリア様……」
充分に距離をとったところで、時間操作を解く咲夜。
刹那、その妖精達を弾幕の檻が囲い込む。
見るとフランドールがスペルカードを発動させていた。
「お姉様は手加減してたみたいだけど私は最初から本気でいくよ」
にまりと笑みを湛えながら、フランドールの「カゴメカゴメ」が発動した。
中にいる妖精達も、「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」を持つ
悪魔の妹、フランドール・スカーレットのスペカを喰らえばひとたまりもあるまい。
「さあ、フィニッシュだよっ」
「フォーオブアカインド」から「スターボウブレイク」に繋げる極悪コンボ。
四人に分かれたフランドールが、それぞれに高密度エネルギーの槍を作りだし、檻へと串刺した。
玄関ホールごと吹き飛ばす爆風が発生し、巻き上がる噴煙で視界がふさがれる。
砂埃に咳き込みながらも、咲夜はレミリア達の姿を探す。
その前に埃まみれになった美鈴が現れた。
「咲夜さん」
「美鈴、お嬢様は?」
その隣にレミリアもやってくる。
自慢のドレスも、二人同様埃まみれになってしまっている。
「私なら平気よ……それにしても、フランっ」
レミリアは起こったように妹の名を呼んだ。
上空から舞い降りたフランドールは、不服そうに頬を脹らせている。
「何よぅ」
「まったく……あなたは力の加減というものを知らないの」
「そんなこと言ったって、お姉様も結構本気だったじゃない」
ぐ、と言葉を詰まらせるレミリア。
確かにあのまま自分が戦っていたならば、この状況に近い惨状を招いたことだろう。
結果的にフランドールが起こしただけであって、あまり妹のことは言える立場ではないのだ。
しかし、そんな会話がようやくできるまでに場は落ち着いた。
「それにしても……」
「えぇ、それにしても……」
美鈴と咲夜は互いに顔を見合わせてため息をつく。
「「犠牲が大きすぎたわね」ですね」
揃って怪我人の数と壊れた屋敷に、これから費やさねばならない時間に思いを馳せる二人。
ただでさえ忙しい毎日だというのに、さらにその忙しさが増す。
その事実に戦慄せざるにはいられない。
そんなことなどお構いなしに、紅い姉妹は呑気に姉妹喧嘩を始めていた。
「まったく……私達の気も知らないで」
しかし咲夜の顔には笑みが浮かんだ。
美鈴も同様に笑顔でその光景を見つめている。
とりあえずは勝ったのだ。
ここまでされれば、もう――
「うそ……でしょう?」
咲夜と美鈴は自身の目を疑った。
レミリアとフランドールが口げんかをしているその向こう。
浮かび上がるのは、大量の影。
「レミリア様! フラン様っ!」
咲夜と美鈴は同時に駆けだす。
そしてレミリアとフランドールをそれぞれ抱え、その影に背を向ける。
抱えられた二人は何が起こったのか、一瞬の出来事に理解が追いつかなかった。
突然抱えられたかと思うと、幾つかの衝撃。
そして目の前には忠実な従者の微笑み。
「さ……くや?」
「メイリン……」
目の前で、紅魔館二強が地に伏すのを、二人は呆然と見つめていた。
どさっという音を聞き、ようやく何が起こったのかを悟るレミリア。
咲夜は、美鈴は。
自分たちを庇ってくれたのだ。
「あらせっかく悪魔の姉妹を一網打尽にできる機会でしたのに」
そこへ聞こえるあの神経を逆撫でする声。
「まあ良いでしょう。完全瀟洒なメイド長に、耐久力機動性に優れた門番を倒せただけでも良しとしなくては」
レミリアの視線の先、そこにはかなりの数の妖精達が不敵な笑みを浮かべて立っていた。
傷は負っているが、まだ充分に戦えるといった様子である。
そんな彼女たちに、フランドールが食って掛かった。
「なんで……あんた達が立っているのよ。私の攻撃あんだけ喰らって……どうして立っていられるのよっ!!」
その言葉に、ちっちっと指を振る妖精。
「甘いですよ。私達は生まれ変わったのですから。あれしきの攻撃を受けたくらいで、
そう易々と落とされてはせっかく得た力も無駄になってしまいます」
妖精の話は、レミリアには届いていなかった。
すでに立っているメイド達はいない。
自分の弾幕も効かなかった。
そして咲夜、美鈴までもがやられた。
それを起こしたのはあの妖精達。
こんな、こんな馬鹿なことがあってたまるものか!
ここは紅魔館。
あらゆる人妖が恐れる吸血鬼の館だぞ。
それを妖精如きに、良いように弄ばれて――
「フラン、壊して良いわよ」
「お、姉様?」
いつもとは異なる姉の様子に、さすがのフランも動揺を見せる。
レミリアの紅い瞳には、いつもの光はまったくなかった。
「全部、壊しなさい。私達の威厳をぶち壊したあいつ等のように……。
お返しとして、今度はあいつ等を粉々に壊してやればいい。跡形もなくね」
屋敷も大切な従者も、そして自身のプライドも。
それを如き、と見下していた妖精相手に砕かれたレミリアは、もはや狂気に精神を委ねてしまっていた。
このまま彼女が戦えば、跡形もなく消えるのは紅魔館の方だろう。
いつもならフランの方がやりすぎてレミリアに窘められるのに、今はまるで反対の状況だ。
フランもレミリアの指示に従って良いものか、決めあぐねているようだ。
その間にも、妖精達はじりじりと距離を詰めてくる。
そこへようやくこの状況を打破してくれる者達が現れた。
「駄目よレミィ!」
「まったく……酷い有様だぜ」
ほうきに跨って飛んできた魔理沙とパチュリー。
やってきて早々、魔理沙はスターダストレヴァリエを放ち、星の弾幕雨を降らせた。
妖精達はすぐさまそれを避け、レミリア達から距離を取る。
そのできたスペースへ、魔理沙はほうきを着地させた。
「魔理沙っ」
フランドールは魔理沙にしがみつき、涙をこぼした。
今まで我慢していた感情が、慕う相手の登場によって堰が切れたのだろう。
「咲夜もっ、メイリンもっ、ぐずっ、やられて、ひくっ、お姉様っ、っも変になってぇ」
そんな小さな背中を魔理沙は優しく撫でる。
「あのくらいでやられる二人じゃここで働けないぜ。あとお前のお姉様は、パチュリーに
任しておけばいいさ。なんてったって、あのスカーレット・デビルの友達だしな」
魔理沙が示す先、レミリアとパチュリーは向き合うようにして立っていた。
狂気に満ちた瞳と、冷静に事態を判断する目が交差する。
「パチェ、あなたもさっさと攻撃して」
「それはできないわ。今のあなたの言うことは聞きたくないもの」
「何よ……あなたまで、私を苦しめるというのっ」
「今のあなたはスカーレット・デビルなんかじゃないわ。少なくとも私の知ってる
“レミリア・スカーレット”は、自分の怒りで我を忘れて、なんでもしてしまうような
弱い吸血鬼なんかじゃなかったはずよ」
「煩いわっ」
パァンッ!
レミリアの頬に炸裂した、パチュリーの平手打ち。
紅い痕が浮かび上がるレミリアの白い肌。
「パチェ……」
「どう、少しは目が覚めたかしら」
レミリアの目に、いつもと同じ光が戻り始めた。
怒りに満ちていた表情も元に戻る。
「えぇ、ごめんなさい」
「戻ったのなら良いのよ。それより問題はあいつら、でしょう?」
パチュリーの言うとおり、問題はまだ解決していないのだ。
妖精軍団は笑みを浮かべたまま、こちらを見続けている。
「茶番はようやく終わりかしら」
「えぇ、そうね。あなた達が開いたこの茶番劇ももうお終いにしなくっちゃ」
パチュリーの隣に、魔理沙が並ぶ。
困ったように頭を掻きながら、飄々としたいつもの口調で続ける。
「乗りかかった船、か。まぁいつも本を借りてるし、これくらいは手伝ってやるぜ。
それに何か面白そうだしな」
パチュリーと魔理沙の二人が、妖精の前に立ちはだかる。
両者は互いの隙をねらい、にらみ合う。
そこへさらなる来訪者が現れた。
「ま、待ってくださいーっ」
透き通る二対の羽、空色のワンピース。
頭の黄色いリボンが特徴的な、大妖精が慌てて飛び込んできた。
「ちっ、新手か」
「いえ、どうやら違うようよ」
大妖精は魔理沙達ではなく、妖精達へと向いて降り立った。
その目には憤りと哀しみが浮かんでいる。
「おや、大妖精。いったい何をしに来たんです。もはやあなたの出番は無いですよ。
今更来られても……まぁ、今からでも手伝いたいと言うのなら――」
「あなた達は自分のしたことがわかってるのっ!」
今まで誰も聞いたことのない大妖精の大声。
場がシンと静まりかえる。
「こんなに仲間を犠牲にして……それで何をしようというの」
「大丈夫、みんな死んではいませんし、これからちゃんと治癒します」
「そういう問題じゃないわっ」
目に涙を溜めながら怒る大妖精に、相手の妖精は冷めた視線を返すだけ。
そして唐突にため息をつくと、こんなことを言い出した。
「……はぁ~っ、やれやれ。これ以上は不毛ですね。これ以上ここで何かする気も
興醒めしてしまいましたし……この辺りで退散するとしましょうか」
言うやいなや、倒れていた妖精たちがむくりと起き上がり、一斉に外へと飛び出して行き始めた。
中には仲間の助けを借りて飛んでいく者もいる。
「さて目的は果たせましたし、成果を試すこともできました。もうここには用はありません」
言って立ち去ろうと飛び立つ妖精に、大妖精は言葉を浴びせる。
「待って! まだ話は終わってないっ」
その言葉に妖精達が振り向くことはなかった。
☆
ようやくすべてが終わった紅魔館。
全員がぐったりと座り込んでいた。
魔理沙もあそこに到着するまでに、随分魔力を消費していたのだ。
実のところ、パチュリーと並んだは良かったが相手にできるほど力は残っていなかったのである。
そしてそれはパチュリーにも同じ事が言えた。
「とんだ災難だったわね」
「まったくだぜ」
ぽっかりと開いた天上の穴。
そこから差し込む月光と星の光を全身に受けて魔理沙は呟いた。
仰向けに寝転がったその顔に、涼しい夜風が心地よい。
「それにしても……なんて妖精どもはここを狙ったんだ」
救護班に包帯を巻いてもらっている咲夜も魔理沙の疑問に同意する。
「そうね。今にして思えば、幻想郷中の妖精が紅魔館に来ていたと考えても過言ではなかったわ。
気になるのは、やっぱりその理由よね」
永遠亭でも、白玉楼でもなく、ここ紅魔館。
それには何らかの理由があるはず。
しかし魔理沙にも咲夜にも、さっぱり思いつく節がない。
「本でも奪いに来たのかな」
「まさかあなたじゃあるまいし……」
「いえ、その通りです」
そこへ咲夜同様、傷の手当てを受けた小悪魔がやってきた。
彼女もまた妖精達の襲撃によって傷を負っていたのだ。
「小悪魔、大丈夫なのっ」
心配するパチュリーに、小悪魔は微笑みを向けて無事を伝える。
「えぇ、大丈夫ですよ」
「それで妖精達の目的が本だったって……どういうこと?」
咲夜達の言葉に、小悪魔は自分が遭遇した出来事を一部始終話した。
パチュリーに書庫の警備を任された小悪魔。
そこへしばらくして妖精達が押し寄せてきた。
メイド達と共に、応戦する小悪魔だったが、その圧倒的な数の前に敗北してしまう。
そして妖精達は小悪魔やメイド達には目もくれず書庫を漁りだした。
どれくらいそうしていただろうか。
しばらすると妖精達は一冊の魔導書を見つけた。
それは潜在能力を引き出し、上げる魔法が記された禁書の一冊。
それを使えば力も知力もすべてが能力強化される。
妖精達の狙いは、最初からそれだったのだ。
どれだけ数が多くても、個々が弱ければいつかはやられてしまう。
その弱点を補う必要が、妖精達にはどうしても必要不可欠なことだったのだ。
「それで紅魔館……か」
魔導書の蔵書量ならば、確かにここの書庫を超える場所は無いだろう。
「お前は気付いてたのか?」
魔理沙が話しかけた相手は、意気消沈している大妖精だ。
仲間がこんな反乱を起こして、かなりショックを受けているらしい。
妖精だが、その様子を見ればあの軍団の仲間ではないとすぐに判断が付く。
「妖精を統率するのがお前の役目なんだろう?」
こくん、と頷く大妖精。
しかし彼女にはどうすることもできなかったのだ。
いや、できたかもしれないが、それも効果があったかどうかは今になってはわからない。
「何にしても……これで終わったとは考えにくいわね」
咲夜の言葉に反論する者はいない。
妖精達が真っ先にこの紅魔館を襲撃して力をつけた理由。
それは今後もこのような襲撃を起こすためだろう。
知恵と力を身につけた妖精軍団の完成。
そう――まだこの事件は、始まったばかりなのだ。
~つづく~
↓以下、本編開始です。
貴方達は知っているだろうか。
紅白巫女や白黒魔法使いを始めとする、幻想郷に住む魅力的な少女達の裏側で、
それを引き立てるために散っていく者達のことを。
貴方達は覚えているだろうか。
瀟洒なメイド長や半霊剣士達が魅せる、華麗な弾幕戦に至るまでに
それを阻止せんと挑んでは倒れていく者達のことを。
彼女たちは怒っている。
いつまで経っても脚光を浴びること適わない、己が境遇に。
そんな自分たちの存在を、ぞんざいに扱ってきた者達に。
そしてついに怒りは臨界点を突破した。
決壊したダムの如く、彼女たちの怒りは次から次へと伝染し広がっていく。
もはや誰にもこの奔流は止められない。
やがてそれは、幻想郷全体を揺るがす大きなうねりとなる。
だがしかし、それが動き出したことに気付く者は誰一人としていなかった。
『妖精大戦争〈Ⅰ〉~名も無き者達の反乱~』
紅魔館近辺の湖。
そこを囲うように広がる森の一角。
大樹の根元にぽっかりと穿たれた穴で、大妖精と呼ばれる妖精の少女は眠っていた。
どんなに強い日差しも木々の葉が遮りここまでは届かない。
それでも木漏れ日が差し込むため真っ暗というわけではなく、
ちょうど良い環境を作り出してくれている。
この自然エアコン完備の洞穴の居住権は代々の大妖精に与えられた特権の一つであった。
その恩恵に与り、大妖精は心地よい微睡みを満喫している。
ここ最近は大きな事件もなく、他の妖精から相談を持ちかけられることもない。
言うなれば平和そのもの。
友達のチルノは相変わらずいろんな所に出没してはいらぬことをしているようだが、
別に大変なことになっているわけではない。
そもそも大妖精自身に何か影響が出るわけでもなく、彼女の平穏が脅かされることでもないのだ。
「うぅ……ん」
葉を敷いて作った布団の上で寝返りをうつ。
動いた顔に木漏れ日があたる。
温かな光を目に受けて、大妖精は昼寝から目を覚ました。
「ふぁ……」
可愛らしく欠伸をしながら背を伸ばす。
背中の羽もピンと張り、彼女が完全に目覚めたことを表していた。
壁に掛けておいた愛用の水色のワンピースに袖を通し身支度も整う。
しかし別に何かすることがあるわけでもない。
妖精である彼女に仕事があるわけがなく、起きて早々手持ち無沙汰になってしまった。
そういえばすることがないから寝ていたんだっけ、と就寝前の記憶を思い出す。
「どうしよ」
こしこしと目蓋を擦りながら、これからのことを考える。
たぶん他の妖精達は外で遊んでいるはずだから、仲間に入れてもらおうか。
それとも少し森を離れて、行ったことのない所を飛んでみても良いかもしれない。
それならばまずは外に出よう、と大妖精は祠から顔を出した。
――と、その時である。
「我々はぁ!」
森に響き渡る、可愛らしいがどこか強い意志を含んだ大声。
突然の出来事に大妖精は肩をびくりと振るわせる。
何なのだろう、と考える間にまたそれは聞こえてきた。
「妖精の立場向上を訴える!」
「ワアアァァァっ」
大声に合わせて歓声が轟く。
どれもこれも声自体は可愛らしいものだ。
気になった大妖精はその声がする方へと近づいてみた。
そこで彼女が見たのは、妖精が集会所として使っている広場、そこを埋め尽くさんとする
大勢の妖精達の群れであった。
その数は尋常ではない。百や二百できくものか。
これはこの森以外の妖精も集まっているに違いない。
そして全員が切り株の上に立つ、数名の妖精にその視線を注いでいる。
その光景はまさしく「異様」としか言いようがない。
先程聞こえてきた大声は、どうやら切り株の上にいる妖精が発しているらしい。
そしてまた、その妖精達が大声で話し始めた。
「いつもいつも弾幕一発で撃ち落とされる我々を、人間も妖怪も知ったこっちゃ無いと
無視して通り過ぎている! 我々にも一人一人の意思があり、命があるのに、
そんなもの無かったように、平然と撃ち落とし、あまつさえ無視するのだ!」
そうだ、酷いぞ人間ー!
妖怪も同じだー!
もっと妖精を大事にしろー!
口々に自分たちを撃ち落とす人妖への不満不平怒りを露わにする妖精達。
それはその場にいる全員がそう口にしているのだ。
確かに妖精達は異変を解決しようとする人妖達に、いつもいつも弾幕によって
撃ち落とされている。
妖精はただ自分たちの縄張りに入ってきた者を追い出そうとしているだけ。
「死なないからって、やり過ぎではないだろうか!」
妖精は人妖に比べてかなり弱い。
大妖精やリリーのように多少力のある妖精もいるが、それはかなり稀少なのだ。
ここに集まっている妖精は全て弾幕一発分の耐久力しか持ち合わせていない。
特殊能力も使えなければ、スペルカードも使えない。
やられ役。
言い方は悪いが、それが今の妖精達に与えられたポジションなのだ。
「いつまでも我々が素直に撃ち落とされるだけの存在ではないことを、
今こそ人妖に知らしめるときが来たのだ! さぁ、不条理な傷を体にも心にも
負わされてきた同胞達よ! 共に手を取り、妖精の時代を築こうじゃないか!」
狂喜乱舞す妖精の群れ。
なんなんだこの光景は――。
ただ唖然とするしかない大妖精。
「おや、そこにいるのは我らが長ではないですか」
そのとき、大妖精の姿を見つけた切り株の上に立つ妖精が話しかけてきた。
大妖精はその顔に見覚えがない。
きっとこの森ではない別の住処からやってきたのだろう、と大妖精は推測した。
「一体なにをしているの」
大妖精が真面目に問うと、その妖精は一瞬きょとんとして、直後大きな声で笑い始めた。
「あははははっ、何をしているのかって。そりゃあ勿論演説ですよ。
だってここは妖精の集会所なんでしょう? みんなを集めてこういうことをしていても何も問題は無いはずです」
「それは……そうだけど。そうじゃなくて、なんでそんな物騒なことを言っているのかって聞いてるのよ」
そんな頭の良くない妖精でも、今の話を聞けばある程度のことはわかる。
要するにいじめられたからやり返せ、と。
普段妖精はそんなことをしようとはしない。
天衣無縫に生きて、痛い目にあってもすぐに忘れる。
そしてまた笑顔で楽しく生きるのだ。
「だからいつまで経っても、妖精は弱者であり続けるんでしょう」
「あなた……」
いったいこの妖精はなんだというのだ。
さっきから難しい言葉を使い、妖精とは思えない威圧感を醸し出している。
「私は妖精です。私が気付かなくてもいつかは私と同じように気付く妖精が
出てきたことでしょう。それがたまたま私だった。そういうことです」
その妖精は、切り株の上に立っている数名の妖精を指差した。
彼女たちも、この妖精同様得体の知れない雰囲気を纏っている。
「これから何をしようというの」
大妖精はその立場にいるものとして尋ねた。
たとえこの森に住んでいない妖精だとしても、自分が大妖精である以上、
彼女たちがやろうとしていることを放っておく訳にはいかないのだ。
しかし、その妖精は大妖精に対して侮蔑的な笑みを返した。
「本来なら貴方が私達の指揮を取るべき位置にいるというのに……
貴方がいつまでもそんなだから、私達の立場は変わらないんですよ」
「そんなこと……」
大妖精はそんなことを考えたこともなかった。
チルノや他の妖精と遊んで暮らせれば、それだけで良かったのだ。
別に妖精の立場を変えることなど望みはしない。
俯く大妖精に、その妖精はそらに言葉を続けた。
「本当に甘い妖精ですね。……わかりました、貴方の助けは借りません。
私達は私達だけで、全てを成し遂げてみせましょう。そうすれば貴方も
私達妖精がどれだけ酷い立場にいたか理解してくれるでしょう。
そしてこれから私達が行うことに賛同してくれるはずです。それまでは――」
黙って見ていてなさい。
☆
紅魔館の朝は早い。
ただし館の主は除いてだが。
その紅魔館の食堂。
そこは朝、戦場と化す。
「ほら、さっさと食べちゃってよ!」
「何よ、五分で食べ終われなんて食事じゃないわ!」
「後がつっかえているんだから!」
「最低十五分は食事時間として取って良い、じゃなかったの!」
「それは私のライスよ!」
「何よ、お米一粒一粒に名前でも書いてあるの?」
「あー、それ狙ってたのに……」
「早い者勝ちがここのルールでしょ。みんなで決めた」
礼儀正しく淑やかなメイド達の朝食とは思えないほどに荒れた光景。
ロールパンを入れた籠は、追加を持ってきた瞬間にその中身が消える。
メイド長の手品も目ではない。
調理班の効率も考えて、バイキング形式にしているのだがそれ故に小競り合いも絶えることがない。
購買のパン戦争よりも難易度の高いこの戦いに勝てなければ、半日をキャベツの千切りのみで
過ごさなければならなくなるので、誰もが必死に栄養摂取の為に死闘を繰り広げるのだ。
「まったく……食事中の光景だけは、誰にも見せられないわね」
自分の分の食事はちゃっかりと確保した咲夜は、そんな光景にため息をつきながら、
料理長手製のオニオンスープを口に運ぶ。
その姿ははっきりと周囲のメイド達とは一線を画していた。
まさしく“完全で瀟洒な従者”の二つ名に相応しい立ち居振る舞いだ。
「咲夜さんが、提示したスケジュール通りに仕事をこなさないと即減給、なんて言い出すからですよ」
咲夜の前でパンを口に運びながら美鈴が苦笑混じりに告げた。
彼女もまた自分の食事分は確保して、すでに食事に入っている。
その言葉に咲夜は眉一つ動かすことなく、
「あら時間を守れない人に、どんな仕事も勤まるものですか」
「相変わらず厳しいですね」
そう話しつつも、二人はさくさく食事を終わらせていく。
さすがはメイド長と門番という重要な役職を任された二人である。
「「ごちそうさまでした」」
二人揃って空の食器に手を合わせる。
席を立ち、食器を返す最後の瞬間まで礼儀正しさを忘れない。
「さてと……まずはお嬢様達のドレスを洗濯しようかしら」
「じゃあ私は門に戻りますね」
「えぇ、お願い。今日こそは不法侵入を許しちゃ駄目よ」
「あぅっ」
小さくデコピンを受け、美鈴は軽くのけぞる。
まったく痛くないその叱咤激励に、美鈴ははにかんだ笑いを浮かべた。
「わかりました」
いつも通りの朝。
いつも通りの朝食。
そしてこれからいつも通りの一日が始まる――はずだった。
突然の轟音と共に天上のシャンデリアが揺れる。
そこまで強い振動ではないが、明らかに人為的に起こされたものだと気付く。
朝食を摂っていたメイド達の目が一瞬で切り替わった。
悲鳴を上げる者は一人もいない。
その館を振るわせる響きが、主君に仇なす者の来訪だということを彼女たちは知っているのだ。
そして次に自分たちが取るべき行動も。
☆
門に向かおうとしていた美鈴は、突然の攻撃に慌てることなく玄関ホールへと走った。
門番は彼女だけではない。
交代要員として彼女と同格の力を持った同僚がいたはずだ。
それがこうも易々と進入を許すとは。
自分も人のことは言えた義理ではないが、門番として何としてでも賊の侵入を
これ以上許すわけにはいかない。
「美鈴」
いつの間にか隣を走っていた咲夜が目で話しかけてくる。
彼女が何を言いたいのか、美鈴にははっきり伝わっていた。
「わかってますよ。私は門番ですから」
「お願いね。どうやら相手は魔理沙じゃないみたいよ」
魔理沙も強引に突っ込んでくる。
しかし先程感じた音と響きは、魔理沙の弾幕によるものとは異なっていた。
いったい誰が……
そうこう考えているうちに、二人は玄関ホールへと到着した。
すでに何名かのメイドが到着しており、賊の侵入に備え構えている。
「みんな!」
メイド長の声に、場にいた全員の顔に安堵の色が浮かぶ。
それだけ咲夜の力は、他のメイドとは格が違うのである。
さらにその隣に美鈴がいることで、より安心感が増す。
「メイド長と美鈴さんが来てくれれば、どんな賊でも敵いっこありませんよ」
「百人力と百人力で、千人力ですね」
もはや勝利は確信できた。
士気も高まったメイドもいるし、増援もすぐに到着するだろう。
相手が誰であろうと、この玄関ホールから先へは通さないという自信が咲夜にはあった。
「さぁ、どこからでもかかって……」
咲夜が呟いたのと扉が開かれたのは同時。
しかし咲夜の呟きは完全にかき消されてしまった。
扉から飛び入ってきたのは、おびただしい数の妖精達。
その全員が木の棒や石やらで武装している。
「なんで妖精が」
咲夜が驚くのも無理はない。
妖精は本来自分たちの住処、縄張りからは出ない。
多少力をつけた妖精が、たまに出たりするくらいだ。
それがこうして大量で押しかけてくるなど、ありえないことである。
咲夜だけではなく、場にいる全員が吃驚していた。
そんな中、咲夜はすぐに我を取り戻し叫ぶ。
「相手が何であろうと、一匹たりとも中に通すな!」
その怒号に、メイド達もようやく我に返った。
相手が妖精だと分かれば、こちらのものである。
どんなに数が多くても、言ってしまえば所詮は妖精なのだ。
弾幕を放てば、それだけで何体も倒すことができるだろう。
「はああああっ」
美鈴が自慢のキックで妖精の群れへと突っ込んだ。
その威力に十体ほどの妖精が地に落ちる。
それがきっかけとなり、メイド達の反撃が始まった。
「ここは任せたわ……私はお嬢様達を」
「わかりました。気をつけてくださいね」
美鈴に後を任せた咲夜は時を止め、守るべき主君が眠る寝室へと急いだ。
☆
その同時刻。
紅魔館の書庫にいたパチュリー・ノーレッジと小悪魔は、その地響きを感じて
すぐに結界を張っていた。
もしここで弾幕戦にでもなれば、貴重な書物が傷ついてしまう。
あらゆる攻撃に対して耐性を持つ多重結界を張り終えた二人。
うちの一人、ここで司書として働いている小悪魔はもう一人の人物に話しかけた。
「パチュリー様……」
「大丈夫よ。ここには幻想郷随一の強豪が揃っているのよ。私も含めてね」
心配そうな顔をする小悪魔に、パチュリーは優しく答える。
しかしそんな彼女も内心では恐れていた。
今回は魔理沙がやってくるいつもとは明らかに異なっている。
「小悪魔、ここはあなたに任せるわ」
「パチュリー様?」
「今回ばかりは日和見って訳にもいかなさそうだから……」
いつもは相手がこの書庫までやってこないと相手をしないパチュリーが動く。
それだけの事態が起こっているのだと小悪魔は理解した。
そこへ伝達係を承ったメイドが駆け込んでくる。
「パチュリー様、ご無事ですかっ」
☆
紅魔館の主、レミリア・スカーレットが眠る寝室へと急ぐ咲夜。
時は止まっているため、敵の襲撃は心配ない。
寝室の前までやってくると時間操作を解く。
そして一息ついて呼吸を整えると扉をノックした。
どんなに緊急事態でも主君への礼儀を忘れては、メイド長は務まらないのである。
「レミリア様、咲夜です」
この時間は完全に眠っているはずだ。
レミリアからの返答は無いが、咲夜は寝室の中に入った。
そしてレミリアが眠っているベッド際まで歩み寄ると、静かにその肩を揺すった。
「レミリア様……レミリアお嬢様」
「わかってるわよ」
どうやら意識は起きていたらしい。
この不穏な気配を感じ取っていたのだろう。
見た目は幼くとも、やはり名高い吸血鬼である。
「それで、どうしたというの」
レミリアは起き上がり、事の次第を尋ねた。
その銀糸の髪を手早く整えながら、咲夜は答える。
この事態が妖精の仕業と知ったレミリアは、すぐに鼻で笑い飛ばした。
「フン、妖精如きが吸血鬼の館に殴り込みとはね」
「ですがレミリア様……」
「何よ、まさか妖精相手に臆したとでも?」
「いえそうではありません……ただ不可思議な点だらけで」
咲夜が言うのは最もなことだ。
レミリアもその点は引っ掛かっているらしく、眉根を寄せて思案する。
「パチェなら何か分かるかしら」
この館で暮らす者の中では、最も知識人である友人の名を呟くレミリア。
咲夜も、それしかこの事態の原因を知る術はないだろうと賛同する。
――となれば、次に向かう先は書庫だ。
レミリアの着衣を整え、咲夜は寝室の扉を開いた。
その瞬間、彼女たちは信じられない光景を目の当たりにする。
それは妖精と弾幕が飛び交う廊下。
さっきまで玄関ホールで応戦していたはずなのに、もうこんな所までの進入を許してしまったらしい。
美鈴は、そして他のメイド達は。
進入を許したことへの憤りよりも、笑顔で見送ってくれた彼女たち安否が気に掛かる。
「咲夜……まさかこの程度で臆していないわね」
レミリアはこの状況を見ても笑っていた。
それは真の強者が醸し出す威厳と余裕。
「まったく、人の睡眠を邪魔しておいて挨拶も無しとは」
レミリアの指先に紅い光が収束していく。
高密度に集められたエネルギーが、その手の平の上で優雅に舞う。
「お仕置きが必要なようね!」
両手を前に伸ばす。
そこから溜められていたエネルギーが紅い球体となって無数に放たれた。
次から次へと妖精に襲いかかる紅い弾幕。
紅い光が弾ける度に、妖精達が倒れていく。
「何をぼぅーっとしているの。主に攻撃を任せるなんて、偉くなったものね」
「も、申し訳ありませんっ」
咲夜も慌てて戦列に加わった。
ナイフと弾幕を放ちながら、咲夜は隣で紅い弾幕を放ち続ける主を見た。
レミリアの口元にはずっと笑みが浮かんでいる。
(やはりこの方こそ、私が仕えるべき主君……)
咲夜は久方ぶりに見た、主君の主君たる顔に改めて畏敬の念を覚えるのであった。
☆
紅魔館に妖精軍団が攻め入った。
その情報を聞きつけた大妖精は、思わず歯がみした。
まさか本当にこんなことになってしまうなんて。
「あのとき……あのときに止めていたら」
あの妖精の言葉に打ち負かされた自分に憤りを覚える。
しかし、今は後悔している場合ではない。
過去の後悔よりも現在の改善。
そう、今止められればまだ間に合うのだ。
「すぐに行かなきゃ」
大妖精はすぐさま湖へと飛び立った。
間に合え、いや間に合わせる。
そして必ず止めるのだ。
☆
玄関ホールで迎え撃っていた美鈴は、妖精達の数に押されていた。
どんなに弱くても数が尋常ではない。
いくら倒しても無限に存在するかのように現れる妖精達。
増援のメイドが来てくれたが、それでも数が足りない。
それに全員が美鈴同等かそれ以上の攻撃力を持ってはいないのだ。
弾幕を使える者も限られており、それ以外の者達はモップやほうき等で応戦している。
これでは攻撃力で言えば妖精とはさほど変わらない。
「やむかたなく、とはいえ……」
美鈴は攻撃を続けながら周囲を見渡す。
すでに玄関ホールには妖精とメイドが死屍累々――死んではないが――。
しかし妖精達の数は減るどころか、さらに増す一方で奥へと進入している。
(お嬢様、咲夜さん……すみません。でもっ)
でも――
「我が名は紅美鈴! 紅魔館の門番として、これ以上お前達の進入は許さない!」
すでに進入は許したが、もうこれ以上は許さない。
たとえこの場に自分一人が立つことになったとしてもだ。
一人でも背水の陣なのだから――。
「まったく……妖精如きにいいようにされて」
「え……」
背後から聞こえてきたその声に、美鈴は思わず振り向いた。
「あぅっ」
そして額に軽い衝撃。
そのデコピンを喰らわせたのは、朝と同じ人物ではなかった。
「お、お嬢様っ!?」
美鈴の胸くらいまでしか背丈のない小さな主君は、背中の翼を広げ堂々とした態度で立っている。
自分よりも背が小さいはずなのに、その姿が美鈴にはとても大きく見えた。
「咲夜にフランを起こしに行かせたわ。あの子が来ればだいぶ楽になるはずよ」
それまではとにかく倒しなさい、とレミリアは美鈴に命ずる。
「わ、分かりましたっ」
主君から直々に命を受けたことで、美鈴の士気がさらに上がる。
美鈴だけではない。
倒れていたメイド達も、主君が参戦してくれることで士気を回復し立ち上がった。
再び妖精目がけて、彩虹の彩り放つ足蹴をお見舞いする美鈴。
彼女が蹴りを放つその度に、極彩色の弾幕が辺りに飛び交う。
「門番にばかり良いところを持って行かせないわよ」
言いながら、レミリアはその手の中に紅い光を生み出し始めた。
そんな中、妖精以外にも紅魔館に進入した者がいた。
しかし妖精達に気を取られていたレミリア達はそのことに気が付かず、
あっさりと進入を許してしまっていたのだが、誰も気付く者はいなかった。
☆
レミリアからフランを連れてくるように言われた咲夜はその部屋へ急いでいた。
時を止めて道中を駆ける。
もう館内の殆どに妖精の手が回ってしまっているらしく、何処を見てもその姿が目に映る。
幻想郷中の妖精が集まってきたのではないかと思うほどに。
フラン部屋へと向かう廊下。
その途中に、咲夜は妖精以外の姿を見つけて時間操作を解いた。
「パチュリー様っ」
突然現れた咲夜の姿に驚くことなく、パチュリーは咲夜の方を向く。
彼女が時を止めて移動できることは、この紅魔館に住む者ならば全員が知っていることだ。
対する咲夜は少し意外そうな顔を浮かべていた。
パチュリーが自ら進んで戦いに加わるのはあまりないことだからである。
「私だって緊急事態かどうかくらいは分かるわよ」
どうやらパチュリーは伝達を受けて応戦に加わっているらしい。
小悪魔の姿が無いところを見ると、彼女に書庫を任せて出てきたのだろう。
「咲夜、妹様を起こしに行くのね」
咲夜が向かおうとしている方向から、その目的を察するパチュリー。
「はい。この戦い、圧倒的に物量不足だと」
「そう……確かにこれだけ多いとさすがのレミィでも全部の相手はできないものね」
もし現在紅魔館を襲撃している妖精が全員でレミリアに襲いかかっても、
まずレミリアが負けることはないだろう。
しかしそれは一度にでの話であってこのように屋敷中に分散されてしまっては、
せっかくの力も届くことはない。
そうなるとこちらにも数が必要になるのだ。
もしくは数の差など関係ないまでに、圧倒的な攻撃力。
フランドールが戦列に加われば、数で押してくる相手にも勝てるかもしれない。
攻撃力だけで言えば、この紅魔館では最強の彼女がいれば。
「なら早く行きなさい。ここは私一人で充分だから」
パチュリーの手には何枚ものスペルカードが握られている。
確かに彼女の広範囲魔法があれば、一人でもこの場は大丈夫だろう。
パチュリーの実力を知る咲夜だからこそ、彼女に任せる決意ができた。
再び時を止めて急ぐ咲夜。
目の前から咲夜が姿を消すと、パチュリーは再び妖精へと向き直る。
「さて、今度はどの組み合わせを試して欲しいのかしら?」
両手に一枚ずつ術符を持ち、詠唱を行う。
『月&木符――サテライトヒマワリ!』
金と緑のツタが廊下中に張り巡らされ、その一本一本がうねるようにうごめく。
生き物のように動くツタは、確実に妖精達を蹴散らしていた。
しかしその数は一向に減らない。
すでにパチュリーが弾幕戦を始めて結構な時間が経っている。
長期戦を強いられれば、分が悪いのはパチュリーの方だ。
長い時間魔法を使っていると、持病の喘息による発作が起こる。
そうなってしまえばしばらく詠唱をするどころか、まともに動くことすら難しくなるのだ。
そうなる前に決着をつけたいところだが……。
「まったく……数だけは大したものね」
悪態をついても相手の数が減るわけではない。
しかしいつまで経っても終わりの見えない戦いに、そう呟かずにはいられなかった。
そのとき、パチュリーの体に異変が起こった。
(く……調子に乗って上位魔法を使いすぎたかしら)
いつもよりも発作が起こる時間が早い。
喉に息が詰まったように呼吸ができなくなり、全身から力が抜ける。
廊下中を覆っていた魔法のツタも、パチュリーの限界と共に消滅した。
これぞ契機と言わんばかりに、攻撃をかいくぐっていた妖精達が一斉にパチュリーへと襲いかかる。
今の彼女は弾幕の一つも出せない状態だ。
このままでは妖精如きにやられてしまう。
咲夜はすでにフランドールの部屋に行ってしまったし、小悪魔もいない。
レミリアと美鈴はまだ玄関ホールで応戦しているはず。
もはや助けに入れる者はいない。
誰か――!
パチュリーは叫んだ。
それは実際に声を出したのか、それとも心の中で叫んだのかは本人も分かっていない。
ただ誰かに届いて欲しいという強い願いと共に、その叫びは発せられた。
そしてそれは届いた。
廊下を埋め尽くす、巨大な一筋の閃光。
一瞬で廊下にいた妖精達をなぎ払ってしまう。
こんな芸当を易々とやってのける者と言えば彼女しかいない。
「まったく……いつものように本を借りに来たんだが……どうなってるんだ?」
白黒衣装に三角帽子。
手にはほうきを握った小柄な少女は、白い歯を見せてにかっと笑う。
「お助けマリさん参上!……ってな」
☆
パチュリーの元に魔理沙が現れた頃――場所は戻って玄関ホール。
レミリアの参戦で士気の上がった美鈴達は善戦を繰り広げていた。
妖精達の最大の弱点はその耐久力である。
弱い弾幕一発でも喰らえばそれでやられてしまう。
儚いようにも見えるが、今はそのもろさが唯一の救いとなっていた。
なんといっても相手の妖精にも弾幕を張れる者がいる以上、
ちんたら相手をやっていてはこちらが危機に立たされてしまうのだ。
「ナンセンスだけど、確実に数を減らしていくのが一番よね」
今はそれ以外にこの妖精軍団との決着をつける方法はなさそうだ。
美鈴はその機動力に合わせて、気を操る程度の力で弾幕を放つ。
相手の懐に飛び込んで弾幕を放つことができる彼女独特の戦い方は、
小さな多勢の軍団相手には最も効果を発揮している。
落とした妖精の数も、彼女が断トツに多い。
「美鈴、どきなさいっ」
妖精の群れのまっただ中にいた美鈴はレミリアの言葉にすぐさま反応し、
たった一蹴りで一瞬のうちにその場を離れた。
『スピア・ザ・グングニルっ』
巨大な紅い槍を妖精の群れへとぶん投げるレミリア。
その破壊力に為す術もなくやられる妖精達。
美鈴とレミリアの連携が見事に決まり、これで随分と妖精達の数も減った。
二人の圧倒的な力に、残った妖精達も無闇に突撃してきたりはしない。
玄関から入ってくる妖精の流れも止まっている。
ようやく打ち止め、といったところらしい。
「後は館内の妖精を退治すれば終わりですね」
美鈴が安堵の息を漏らしながら、やれやれといった風に呟く。
レミリアも顔には見せないがホッとしていた――のだが。
「まだ安心はしてられないみたいよ」
彼女の視線が向かう先、それは書庫へと続く回廊。
先程咲夜がフランドールを呼びに言った方向だ。
レミリアは、そこから流れてくる大量の気配に目を細めた。
どんどん近づいてくる気配にタイミングを合わせていく。
「――来るっ」
再び目前に迫る妖精の群れ。
鬱陶しいわね、と吐き捨てるように呟くと再度紅い光を生み出す。
しかし、それが妖精達に向かうことはなかった。
「おっ、ねぇっ、さまあああっ!」
壁を突き破って現れたのは、深紅の衣装に身を包んだ笑顔の少女。
その手には歪に曲がった杖のような槍のような剣が握られている。
『傷つける枝』を意味する伝説の剣、レーヴァンテイン。
それを使いこなすのはレミリアよりもさらに背が低く、あどけなさの残る少女なのだから驚きである。
しかし彼女の存在を知るものならば、当然のことと答えるだろう。
「まったく……壁を壊すなんて」
やっぱりこの子が出てくるとろくなことがない、とレミリアは肩を落とす。
だが今はそんなことを気にしている場合ではない。
「フランドール様っ」
その崩れた壁の向こうから咲夜もやってきた。
これで紅魔館の強豪が殆ど出揃ったことになる。
こうなればもはや妖精達に勝ち目はない。
体を動かすことのできないメイド達は勝利を確信した。
しかし、彼女たちは一つ大きな見逃しをしていた。
どうして妖精達がこの紅魔館を一斉に襲撃したのか。
それに気付くことができていれば、まだ最悪の事態は防げたかも知れない。
だが気付くことができなかった今、すでに事態はその最悪へと進んでいた。
「待ちなさいっ!」
突如、玄関ホールに響き渡る声。
それはレミリアでも美鈴でも、咲夜でもフランでもなかった。
「あら、突進してくるだけしか脳がないと思っていたけど……」
不敵な笑みを向けながら、レミリアはその言葉の主に告げた。
その笑みを受けたのは、他の仲間とさほど変わらぬ姿をした妖精の一人だった。
しかし嘲笑を受けたというのに、彼女もまた笑みを浮かべている。
「ふふ、その妖精如きにまんまとハメられたのはどこの誰です」
「なんですって」
「妖精如き、と言いましたけど。貴方達は私達のことをなんだと思っているんです?
いつまでも私達を的だとか雑魚だとか言って見下していると、今に足下を掬いますよ」
その妖精の言葉は、ことごとくレミリアの苛立ちを募らせる。
もともと我慢強い方ではないレミリアは、すぐにその苛立ちを行動に示す。
要するに――
「ご託はもう良いから、さっさと落ちなさい!」
レミリアの紅い弾幕が妖精を直撃する。
しかも雑魚に放つにしては、いささか大人げない大玉だ。
「まったく……早くあんた達を屋敷の外にほっぽり出さないといけないのに」
嘆息しながら、その倒れる姿も確認せずに振り向くレミリア。
そして集まった皆に、次の指示を出そうとした、そのときだった。
「だから言ったでしょう。“今に足下を掬いますよ”ってね」
まさか、とレミリアはすぐに元向いていた方向に振り返った。
そこに立っていたのは、服を汚した程度でかすり傷しか負っていない先程の妖精だった。
咲夜や美鈴の顔には驚愕が浮かんでいる。
レミリアの大玉を喰らっては、湖の大妖精でもただでは済まないだろう。
それをまともに喰らったというのに、この妖精はダメージを負ったようには見えない。
「あんた……本当に妖精なの」
レミリアの呟きに、その妖精は口元を歪めた。
「ふふふっ、その顔。スカーレット・デビルの名が聞いて呆れますね。
そんなに妖精が一撃で倒せなかったことがショックですか?」
「咲夜、全員を下がらせなさいっ」
レミリアの怒気を孕んだ指示に、咲夜はすぐに反応した。
時を止め、その場にいた美鈴やフランを始めとする者達を避難させる。
そして再び時が動き出したとき、咲夜が見たのはたった一人の妖精に対して
本気の弾幕を放つレミリアの姿だった。
たかが妖精にここまでコケにされたことが、プライド高いレミリアには耐えられなかったのだろう。
どこか子供っぽい短絡的な精神もそれを助長していると思われる。
「怒った顔も可愛らしいですね。カリスマのカの字の欠片すら見えませんよ」
「よっぽど……消されたいようだねえええっ!!」
あの妖精は馬鹿か。
咲夜は二人のやり取りを見ながら、そう感じていた。
しかしそれは咲夜の中にある妖精への先入観がそう思わせるだけのこと。
彼女もまた、その妖精に起こった変化に気付いてはいなかったのだ。
「消えなさいっ」
「それはどちらかしら」
「何っ」
レミリアは頭に血が上り、周囲を取り囲まれていたことに気付けなかった。
しかしそれが妖精であるに気付くと、彼女の顔には余裕が生まれる。
ここで不夜城レッドを放てば一網打尽である。
そう、所詮は妖精だ。
だがレミリアの余裕のある姿勢に対し、咲夜は嫌な予感を感じた。
「レミリア様っ」
咲夜が叫んだのと、妖精達が弾幕を放ったのはほぼ同時だった。
その弾幕の威力は、館内で働くメイドよりも上。
実際に相まみえてみなければわからないが、もしかすると自分と同等かもしれない。
その弾幕が今八方からレミリアに襲いかかろうとしている。
咲夜は考えるよりも先に時を止め飛び出していた。
すぐさまレミリアをそこから離す。
時の止まったその顔からは余裕などすっかり消えていた。
彼女もまた、妖精達の放った弾幕の思わぬ威力に気付いたのだろう。
「レミリア様……」
充分に距離をとったところで、時間操作を解く咲夜。
刹那、その妖精達を弾幕の檻が囲い込む。
見るとフランドールがスペルカードを発動させていた。
「お姉様は手加減してたみたいだけど私は最初から本気でいくよ」
にまりと笑みを湛えながら、フランドールの「カゴメカゴメ」が発動した。
中にいる妖精達も、「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」を持つ
悪魔の妹、フランドール・スカーレットのスペカを喰らえばひとたまりもあるまい。
「さあ、フィニッシュだよっ」
「フォーオブアカインド」から「スターボウブレイク」に繋げる極悪コンボ。
四人に分かれたフランドールが、それぞれに高密度エネルギーの槍を作りだし、檻へと串刺した。
玄関ホールごと吹き飛ばす爆風が発生し、巻き上がる噴煙で視界がふさがれる。
砂埃に咳き込みながらも、咲夜はレミリア達の姿を探す。
その前に埃まみれになった美鈴が現れた。
「咲夜さん」
「美鈴、お嬢様は?」
その隣にレミリアもやってくる。
自慢のドレスも、二人同様埃まみれになってしまっている。
「私なら平気よ……それにしても、フランっ」
レミリアは起こったように妹の名を呼んだ。
上空から舞い降りたフランドールは、不服そうに頬を脹らせている。
「何よぅ」
「まったく……あなたは力の加減というものを知らないの」
「そんなこと言ったって、お姉様も結構本気だったじゃない」
ぐ、と言葉を詰まらせるレミリア。
確かにあのまま自分が戦っていたならば、この状況に近い惨状を招いたことだろう。
結果的にフランドールが起こしただけであって、あまり妹のことは言える立場ではないのだ。
しかし、そんな会話がようやくできるまでに場は落ち着いた。
「それにしても……」
「えぇ、それにしても……」
美鈴と咲夜は互いに顔を見合わせてため息をつく。
「「犠牲が大きすぎたわね」ですね」
揃って怪我人の数と壊れた屋敷に、これから費やさねばならない時間に思いを馳せる二人。
ただでさえ忙しい毎日だというのに、さらにその忙しさが増す。
その事実に戦慄せざるにはいられない。
そんなことなどお構いなしに、紅い姉妹は呑気に姉妹喧嘩を始めていた。
「まったく……私達の気も知らないで」
しかし咲夜の顔には笑みが浮かんだ。
美鈴も同様に笑顔でその光景を見つめている。
とりあえずは勝ったのだ。
ここまでされれば、もう――
「うそ……でしょう?」
咲夜と美鈴は自身の目を疑った。
レミリアとフランドールが口げんかをしているその向こう。
浮かび上がるのは、大量の影。
「レミリア様! フラン様っ!」
咲夜と美鈴は同時に駆けだす。
そしてレミリアとフランドールをそれぞれ抱え、その影に背を向ける。
抱えられた二人は何が起こったのか、一瞬の出来事に理解が追いつかなかった。
突然抱えられたかと思うと、幾つかの衝撃。
そして目の前には忠実な従者の微笑み。
「さ……くや?」
「メイリン……」
目の前で、紅魔館二強が地に伏すのを、二人は呆然と見つめていた。
どさっという音を聞き、ようやく何が起こったのかを悟るレミリア。
咲夜は、美鈴は。
自分たちを庇ってくれたのだ。
「あらせっかく悪魔の姉妹を一網打尽にできる機会でしたのに」
そこへ聞こえるあの神経を逆撫でする声。
「まあ良いでしょう。完全瀟洒なメイド長に、耐久力機動性に優れた門番を倒せただけでも良しとしなくては」
レミリアの視線の先、そこにはかなりの数の妖精達が不敵な笑みを浮かべて立っていた。
傷は負っているが、まだ充分に戦えるといった様子である。
そんな彼女たちに、フランドールが食って掛かった。
「なんで……あんた達が立っているのよ。私の攻撃あんだけ喰らって……どうして立っていられるのよっ!!」
その言葉に、ちっちっと指を振る妖精。
「甘いですよ。私達は生まれ変わったのですから。あれしきの攻撃を受けたくらいで、
そう易々と落とされてはせっかく得た力も無駄になってしまいます」
妖精の話は、レミリアには届いていなかった。
すでに立っているメイド達はいない。
自分の弾幕も効かなかった。
そして咲夜、美鈴までもがやられた。
それを起こしたのはあの妖精達。
こんな、こんな馬鹿なことがあってたまるものか!
ここは紅魔館。
あらゆる人妖が恐れる吸血鬼の館だぞ。
それを妖精如きに、良いように弄ばれて――
「フラン、壊して良いわよ」
「お、姉様?」
いつもとは異なる姉の様子に、さすがのフランも動揺を見せる。
レミリアの紅い瞳には、いつもの光はまったくなかった。
「全部、壊しなさい。私達の威厳をぶち壊したあいつ等のように……。
お返しとして、今度はあいつ等を粉々に壊してやればいい。跡形もなくね」
屋敷も大切な従者も、そして自身のプライドも。
それを如き、と見下していた妖精相手に砕かれたレミリアは、もはや狂気に精神を委ねてしまっていた。
このまま彼女が戦えば、跡形もなく消えるのは紅魔館の方だろう。
いつもならフランの方がやりすぎてレミリアに窘められるのに、今はまるで反対の状況だ。
フランもレミリアの指示に従って良いものか、決めあぐねているようだ。
その間にも、妖精達はじりじりと距離を詰めてくる。
そこへようやくこの状況を打破してくれる者達が現れた。
「駄目よレミィ!」
「まったく……酷い有様だぜ」
ほうきに跨って飛んできた魔理沙とパチュリー。
やってきて早々、魔理沙はスターダストレヴァリエを放ち、星の弾幕雨を降らせた。
妖精達はすぐさまそれを避け、レミリア達から距離を取る。
そのできたスペースへ、魔理沙はほうきを着地させた。
「魔理沙っ」
フランドールは魔理沙にしがみつき、涙をこぼした。
今まで我慢していた感情が、慕う相手の登場によって堰が切れたのだろう。
「咲夜もっ、メイリンもっ、ぐずっ、やられて、ひくっ、お姉様っ、っも変になってぇ」
そんな小さな背中を魔理沙は優しく撫でる。
「あのくらいでやられる二人じゃここで働けないぜ。あとお前のお姉様は、パチュリーに
任しておけばいいさ。なんてったって、あのスカーレット・デビルの友達だしな」
魔理沙が示す先、レミリアとパチュリーは向き合うようにして立っていた。
狂気に満ちた瞳と、冷静に事態を判断する目が交差する。
「パチェ、あなたもさっさと攻撃して」
「それはできないわ。今のあなたの言うことは聞きたくないもの」
「何よ……あなたまで、私を苦しめるというのっ」
「今のあなたはスカーレット・デビルなんかじゃないわ。少なくとも私の知ってる
“レミリア・スカーレット”は、自分の怒りで我を忘れて、なんでもしてしまうような
弱い吸血鬼なんかじゃなかったはずよ」
「煩いわっ」
パァンッ!
レミリアの頬に炸裂した、パチュリーの平手打ち。
紅い痕が浮かび上がるレミリアの白い肌。
「パチェ……」
「どう、少しは目が覚めたかしら」
レミリアの目に、いつもと同じ光が戻り始めた。
怒りに満ちていた表情も元に戻る。
「えぇ、ごめんなさい」
「戻ったのなら良いのよ。それより問題はあいつら、でしょう?」
パチュリーの言うとおり、問題はまだ解決していないのだ。
妖精軍団は笑みを浮かべたまま、こちらを見続けている。
「茶番はようやく終わりかしら」
「えぇ、そうね。あなた達が開いたこの茶番劇ももうお終いにしなくっちゃ」
パチュリーの隣に、魔理沙が並ぶ。
困ったように頭を掻きながら、飄々としたいつもの口調で続ける。
「乗りかかった船、か。まぁいつも本を借りてるし、これくらいは手伝ってやるぜ。
それに何か面白そうだしな」
パチュリーと魔理沙の二人が、妖精の前に立ちはだかる。
両者は互いの隙をねらい、にらみ合う。
そこへさらなる来訪者が現れた。
「ま、待ってくださいーっ」
透き通る二対の羽、空色のワンピース。
頭の黄色いリボンが特徴的な、大妖精が慌てて飛び込んできた。
「ちっ、新手か」
「いえ、どうやら違うようよ」
大妖精は魔理沙達ではなく、妖精達へと向いて降り立った。
その目には憤りと哀しみが浮かんでいる。
「おや、大妖精。いったい何をしに来たんです。もはやあなたの出番は無いですよ。
今更来られても……まぁ、今からでも手伝いたいと言うのなら――」
「あなた達は自分のしたことがわかってるのっ!」
今まで誰も聞いたことのない大妖精の大声。
場がシンと静まりかえる。
「こんなに仲間を犠牲にして……それで何をしようというの」
「大丈夫、みんな死んではいませんし、これからちゃんと治癒します」
「そういう問題じゃないわっ」
目に涙を溜めながら怒る大妖精に、相手の妖精は冷めた視線を返すだけ。
そして唐突にため息をつくと、こんなことを言い出した。
「……はぁ~っ、やれやれ。これ以上は不毛ですね。これ以上ここで何かする気も
興醒めしてしまいましたし……この辺りで退散するとしましょうか」
言うやいなや、倒れていた妖精たちがむくりと起き上がり、一斉に外へと飛び出して行き始めた。
中には仲間の助けを借りて飛んでいく者もいる。
「さて目的は果たせましたし、成果を試すこともできました。もうここには用はありません」
言って立ち去ろうと飛び立つ妖精に、大妖精は言葉を浴びせる。
「待って! まだ話は終わってないっ」
その言葉に妖精達が振り向くことはなかった。
☆
ようやくすべてが終わった紅魔館。
全員がぐったりと座り込んでいた。
魔理沙もあそこに到着するまでに、随分魔力を消費していたのだ。
実のところ、パチュリーと並んだは良かったが相手にできるほど力は残っていなかったのである。
そしてそれはパチュリーにも同じ事が言えた。
「とんだ災難だったわね」
「まったくだぜ」
ぽっかりと開いた天上の穴。
そこから差し込む月光と星の光を全身に受けて魔理沙は呟いた。
仰向けに寝転がったその顔に、涼しい夜風が心地よい。
「それにしても……なんて妖精どもはここを狙ったんだ」
救護班に包帯を巻いてもらっている咲夜も魔理沙の疑問に同意する。
「そうね。今にして思えば、幻想郷中の妖精が紅魔館に来ていたと考えても過言ではなかったわ。
気になるのは、やっぱりその理由よね」
永遠亭でも、白玉楼でもなく、ここ紅魔館。
それには何らかの理由があるはず。
しかし魔理沙にも咲夜にも、さっぱり思いつく節がない。
「本でも奪いに来たのかな」
「まさかあなたじゃあるまいし……」
「いえ、その通りです」
そこへ咲夜同様、傷の手当てを受けた小悪魔がやってきた。
彼女もまた妖精達の襲撃によって傷を負っていたのだ。
「小悪魔、大丈夫なのっ」
心配するパチュリーに、小悪魔は微笑みを向けて無事を伝える。
「えぇ、大丈夫ですよ」
「それで妖精達の目的が本だったって……どういうこと?」
咲夜達の言葉に、小悪魔は自分が遭遇した出来事を一部始終話した。
パチュリーに書庫の警備を任された小悪魔。
そこへしばらくして妖精達が押し寄せてきた。
メイド達と共に、応戦する小悪魔だったが、その圧倒的な数の前に敗北してしまう。
そして妖精達は小悪魔やメイド達には目もくれず書庫を漁りだした。
どれくらいそうしていただろうか。
しばらすると妖精達は一冊の魔導書を見つけた。
それは潜在能力を引き出し、上げる魔法が記された禁書の一冊。
それを使えば力も知力もすべてが能力強化される。
妖精達の狙いは、最初からそれだったのだ。
どれだけ数が多くても、個々が弱ければいつかはやられてしまう。
その弱点を補う必要が、妖精達にはどうしても必要不可欠なことだったのだ。
「それで紅魔館……か」
魔導書の蔵書量ならば、確かにここの書庫を超える場所は無いだろう。
「お前は気付いてたのか?」
魔理沙が話しかけた相手は、意気消沈している大妖精だ。
仲間がこんな反乱を起こして、かなりショックを受けているらしい。
妖精だが、その様子を見ればあの軍団の仲間ではないとすぐに判断が付く。
「妖精を統率するのがお前の役目なんだろう?」
こくん、と頷く大妖精。
しかし彼女にはどうすることもできなかったのだ。
いや、できたかもしれないが、それも効果があったかどうかは今になってはわからない。
「何にしても……これで終わったとは考えにくいわね」
咲夜の言葉に反論する者はいない。
妖精達が真っ先にこの紅魔館を襲撃して力をつけた理由。
それは今後もこのような襲撃を起こすためだろう。
知恵と力を身につけた妖精軍団の完成。
そう――まだこの事件は、始まったばかりなのだ。
~つづく~
続き待ってます(・∀・)
やれ恐ろしや雑魚キャラの反乱。続きを楽しみにしておりますです。
誤字→魔理沙が援軍(?)で出てきた次の☆から数えて六行目、
『妖精』が『要請』になってます。
後は『、』の位置がおかしいのがちらほらと…。
後編お待ちします。
>続編メチャ楽しみにしてますよ。
>続きを楽しみにしておりますです。
嬉しいお言葉ありがとうございます。
おかげでさらにやる気が湧いてきました。
早いうちに後悔できるよう善処します。
>誤字→
訂正いたしました。ご指摘ありがとうございます。
「、」の位置に関してましては再度推敲し、そうかもしれないと
感じたところを訂正しています。
評価点を入れてくださった皆様もありがとうございました。
後編待ってます
続編期待します。
早く続編を出してくれることを期待します
どう考えても「公開」……。お目汚しすみません。
多くの方が続編希望してくれていて、とても励みになっています。
早いうちに投稿できるよう頑張りますよ!
できるかぎり「後悔」など打たないよう丁寧に推敲して。
>バンキング形式
>相手の要請は冷めた視線を返すだけ。
ヘッドバンキングしながら食事してるメイドさんを想像しちゃって吹いた。
前後編、というか前中後編の3部作になりそうな予感。まぁ、予感だけですが。
何にしても、続き楽しみにしてます。
<font color=#eeeeee>評価できないなら感想書かなくていいんじゃないの? と思ったり。</font>
続きが気になる感じなんで続編期待してます 匿名で点入れたんでフリーレスで
すみません、展開上どうしてもこうならざるを……orz
二話目の冒頭で多少捕捉はしていますが、それでも納得はできないかも。
また見せ場はありますので、そちらをお待ちください。