「紫様ーーーーっ!!!」
日差しが暖かく、昼寝には最適の場所である八雲家宅の縁側。
その場所に最適な行為である日向ぼっこを楽しんでいた橙の耳に
突如として藍の怒号が響き渡った。
「あら。どうしたの、藍?」
「私の尻尾、どこにやったんですか!!?」
その日、昼食から半刻ほど過ぎた頃――
スキマ家でたびたび見られる紫と藍の『じゃれ合い』が始まった。
「ちょっとしたお茶目じゃない。」
「それでも限度ってもんがあります!!」
二人の妖気が膨らんでいく。
橙は二人を止めようとは思うのだが――
大きすぎる妖気に、近付くどころか声すら発する事もままならない。
「藍様――」
紫と藍との関係上、勝敗は明らかだ。
いつも通り橙は、藍の無事を祈りながら見守ることとなった。
「今日という今日は許しませんよ、紫様。お仕置きさせてもらいます。」
「あら、今まで藍の『お仕置き』が私に届いたことがあったかしら?」
「――クッ、それも前回迄です。」
「いいわ――かかってらっしゃい。」
そして、いつもの弾幕戦が始まる――。
「あら、もう終り?『お仕置き』はどうしたのかしら?」
「やはり、紫様から授かった技だけではダメか――」
二人の周りには無数のクレーターが出来上がっていた。
それらはすべて、藍の弾幕を紫がスキマで逸らして出来上がったものだ。
疲労の色を隠せない藍に対し、涼しい顔の紫。
「当然ね。」
「確かにあなたには『弾幕結界』以外の全ての技を授けた。でも――
私以上の力は発揮できないのよ。本家本元に勝てるわけが無いわ。」
そのまま黙りこむ藍。
だがその目はまだ死んでいない。
そして、藍は口を開いた。
「そう、確かにコピーではあなたを越える事は不可能かも知れない。だけど・・・」
「オリジナルならば、それは不可能ではない!!」
キッと紫を睨め付けると、藍は自分の服に手をかけた。
「これが――
あなたがグータラ過ごしている間に編み出した
私オリジナルの必殺技だ!!!」
藍から白い閃光が放たれる。あっという間に藍は光に包まれていく――
「藍様、まさか――」
橙は光に包まれていく藍の姿を見て呟く。
橙はその技を知っていた。
以前、修行のために二人だけで山に籠った時の事を思い出す――
夜中にこっそり部屋から抜け出す藍に気づいた橙は、その後をついていった。
そして橙はソレを目撃した。
「ら、藍様、それは一体――?」
「っ!! 橙、見てたのか?」
「ご、ごめんなさい!目を覚ましたら、藍様が部屋を出てくのが見えて――」
「そうか・・・仕方ないな。」
「あの、藍様。その姿は――?」
「ああ、これは最近編み出した・・・自分の妖力を数倍に引き上げる技だよ。
今その特訓中ってところか。」
数倍どころではない。藍の妖気が昼間と比べて数十倍に跳ね上がているのを
橙は感じていた。
「橙、これはとても(社会的に)危険だから、決して真似をしてはいけないよ。
あと、この事は誰にも内緒だ・・・そう、紫様にも。二人だけの秘密だ。」
まさか、その技をこんな場面で再び目にしようとは。
「藍奥儀!! スッパテンコー!!!!」
光が収まった時、そこには変わり果てた姿の――下半身(だけ)剥き出しの
藍の姿があった。
だが、姿だけではない。
彼女の妖気は紫のそれの数倍はあろうか、というところまで達していた。
「どうです、これなら――」
と、自信に満ちた表情で紫の方を見る。が――
それでもそこには余裕の笑が浮かんでいた。
それでいて、どこか悲しげな表情も見え隠れしている。
「良い、藍?あなたは私の式なの。私が与えた力を――いえ、私が与えた力しか
使えないのよ。」
「な、一体何を――」
「そして私はあなたに『弾幕結界』以外の全ての技を授けた――」
「!!」
「その意味がわからないあなたではないわね、藍?」
「あ、あぁ・・・まさか――まさか!!!」
自信に満ちた顔はみるみるうちに焦燥、恐怖、そして絶望のソレへと変わる。
「あなたの事を思って――
本当の最後の手段としてしか使う事が出来ないようにと
あなたの‘無意識’に働きかけてたけど――綻びができていたようね。」
そして、紫の手は自らの服へ――
「さぁ、本家本元の力―――見せてあげるわ!」
藍の時とは比較にならない程のまばゆい閃光と
幻想郷を揺るがす程の妖気が紫から発せられる。
白が妖気が、紫を藍を世界を包み込む。
「裏紫奥儀!!! スッパゆあきん!!!!」
視界が完全に白に覆われる直前、橙は確かに見た。――まさに一糸纏わぬ紫の姿を。
そして、橙の視界と意識は、強すぎる光と妖気によって完全に白く染められた――。
・・・
・・・・・・
「ゥニャーーー!!!」
ガバッと飛び起きた橙は、あわてて周囲を見渡した。
時刻は昼食から一刻も過ぎていなかった。
二人が戦っていた場所にもクレーターなど存在しない。
――そう、全ては彼女の夢の中の出来事―――。
「ま、そうだよね。藍様や紫様があんな格好をするわけないし・・・。
藍様、紫様、ごめんなさい。」
第一、藍がそんな技を練習していた所を目撃したなんて事もない。
夢とはいえ、我ながら失礼な(恐ろしい)姿を想像してしまった事を詫びた。
「ヤな汗かいちゃった。着替えよう――」
脱衣所の中で下着に手をかけた時、ふと手を止めた。
「でも、もし本当に使えたら――。」
強くなったと褒めてもらえるかもしれない。
「着替えるついでだし・・・」
羞恥で頬が赤くなる。
「周りに誰もいないよね・・・?」
期待に鼓動が早くなる。
そして。
「橙奥儀!スッパチェンコー!! ――なんちゃってね。」
――その後、橙がどうなったかは誰も知らない。
橙だけの秘密である。
吹いた
>いや、あの、ほんとに大丈夫かこれw
>社会的に危険だよこれ
自分としてもラインギリギリ、一歩先かなぁと(あ、ライン越えてる)。
取り敢えず、苦情がでるまでは公開という方向で。
藍様もゆあきんもひどすぎるw