夜空を見上げ星屑夢想。
円に切られた空に瞬く、その星々に今は見惚れる。
頭を合わせ、布団に寝転ぶ少女が二人。
「やったな、こんないい眺めを毎晩見れるぜ。」
「…風通しがよすぎるわ。」
「隙間風なら慣れっこだろ?」
「はぁ、もう冬だってのにどうしてくれるのよ。」
「冬来りなば春遠からじ、いい言葉じゃないか。」
「大体、雨が降ったらどうするの?」
「いくら狭いからって他に部屋くらいあるだろ?」
「畳が腐る。」
「そうだな、じゃあ防水の魔法でも探しておくぜ。」
「そういう問題じゃない。」
「風避けのスペルがこっちのポケットにあったような…。」
「あんたはもう魔法使うな!」
「そう怒るなよー。こっちもわざとじゃないんだし。」
「わざとで屋根に穴開けられたらたまんないわ…。」
少女は一つ溜め息を吐き、どうしたものかと空を見上げた。
屋根に開いた穴から見える星空は、どうしようもなく美しかった。
実のところこの大穴が開くのは、すでに数日前に運命付けられていたようなものなのだが。
その数日前の夕暮れ時。
来客の少ない博麗神社は普段どおりに閑散としていた。
参拝者も居ないのだから、当然ここの巫女はいつも大いに暇を持て余している。
とはいえ巫女は若くして達観したところがあり、その無聊をも楽しんでいる節があるのだが。
冬は近く、もう虫の音も殆ど聞こえない境内。
神社という場所柄のせいか、辺りは静謐な空気で満ちている。
こういったある種の芸術を破壊するにはそれなりの器量が必要になる。
例えば、そう────
「霊夢ーー! いるかーー?」
────この魔法使いなどが適任であったか。
「こっちよ、こっち。 もう少し静かにしなさいよ。」
霊夢はやや大きな声で来客を呼ぶ。
程なくして低空を箒で飛ぶ魔法使いが現れた。
「悪い悪い。 そうだな、大声出す必要があるほど広くないか。」
「小声で通るほど狭くない。」
「じゃあ叫んで呼ばないと。」
「探したら早いでしょうが。」
「音速の半分よりは時間かかると思うぜ?」
「何のために空飛んでるのよ。」
「歩くより速いからな。」
「そうじゃなくて、上から見たらすぐでしょ?」
「縁側には軒があるからどうかな。」
「誤差の範囲よ。」
「試してみるか?」
「……いらないわ。」
霊夢が呆れたようにため息を吐くと、魔法使いは愉快そうに笑った。
その笑みはどこか勝ち誇っているようにも見えた。
「あーそれで。」
うずたかく積まれた真っ白の団子を見ながら、いや、食べながら霊夢は「なるほど」と頷いた。
「そうそう、せっかくの満月だし、」
「団子が食べたくなったと。」
「……まぁな。」
「おいしいわねこれ。」
「あんまり食べるなよ。」
「けちけちするなんて魔理沙らしくないわね。」
「酒のつまみが無いと困るだろ?」
「それは困るわね。」
霊夢はぴたりと食べるのをやめた。
少し早い夕食を二人で済ませた頃には、もうとっぷりと日が暮れていた。
空にはまんまる月影ひとつ。
縁側に座り、月見団子を挟んで座る巫女と魔法使い。
これがここの日常であるとはいえ、なんともふざけた取り合わせではないか。
尤も、魑魅魍魎が跳梁跋扈なこの世界だ。
空で澄まし顔をしているあの月の方がよほどふざけているのかもしれない。
「…はぁ、香霖さんのとっておきのお茶、やっぱりおいしいわね。」
ずず、と音を立てて茶をすする霊夢。
「……年寄りくさ……。」
「うっさい。」
苦笑して、魔理沙もお茶に口をつける。
「あちっ!」
「…子供みたい。」
「うっさい。」
二人が団子を一つずつ取ると、団子の山が雪崩を起こした。
月見を始めて早一時間。
とりわけ会話も無いまま、団子とようやくお出ましの酒だけが減っていく。
無言で流れるその時間は彼女らにとって重いものではなく、風情として楽しむべきものだった。
しかしその静寂も、やはり終わりは訪れる。
「満月って、明るすぎると思わない?」
美にすら昇華した沈黙を破ったにもかかわらず、その澄んだ声はこの空間の調和をまるで乱さなかった。
「あー、そうか?」
「だって、他の星が見づらくなるじゃない。」
「…そうかもな。」
「配慮が足りてないわ。 自分のことばっかり考えてるのよきっと。」
「霊夢? 今日は月見をしているんだが。」
「私は星屑だって眺めたいもの。」
「……自分のことばっかりなのはどっちだよ。」
「失礼ね、私は少し自分を優先しているだけよ。」
「はは、そりゃまた謙虚なことで……。」
魔理沙は曖昧に少し笑って、残り少ない酒と団子を楽しむことにした。
月見を楽しんでからその数日後。
博麗の巫女は相も変わらず暇を持て余していた。
まだ昼下がりだというのに最近はめっきり冷え込んできている。
そろそろ布団を一枚足そうかしら、などとぼんやりしていると、目の前に霧雨の魔女が降り立った。
「やっぱり音速の方が速いみたいだな。」
「なんのこと?」
「なんでもないぜ。」
「それで? 久しぶりだけどどうしたの?」
「今日のためにとっておきを作ってきたぜ。」
得意げに笑う魔女の右手に、一枚のスペルカード。
『来客』は博麗の巫女の辞書では、『突然の災厄』と意味が当てられているらしい。
無論、それ以外の意味もあるのだが、おおよそこれが第一位になる。
そして直感に優れた少女は、今回はその第一位である事をなんとなく察していた。
自ら押しかけたにもかかわらず魔理沙は、とっておきを披露するのは夜に限る、などと言い出した。
必然的にそれまでは神社にいることになり、霊夢は遅い昼と夜の二食をたかられることになる。
この時点で、霊夢の直感は外れていなかったように見える。
が、『来客』の意味は、『訪れたものが災厄を振りまく』では無く、『災厄がやってくる』である。
したがって魔理沙が今日は泊まっていくなどと言い出した時、霊夢は「これからか」と嘆息したのだ。
数時間後、彼女の直感はいっそ悲しいほどに優れていた事が証明される。
「ほら魔理沙、狭いんだからもっとそっちに寄せてよ。」
「こっちも狭いんだが。 …一緒の布団で寝るかえ?」
「冗談言ってないで早くする。」
「何だ、張り合いないな。」
「合って欲しいの?」
「……それはそれで怖いな。」
「でしょ。」
結局魔理沙のとっておきが披露される事無く、現在二人で布団を敷いていたりするのだが。
(……このまま一日が終わりますように……。)
「さて、それじゃあ今日来た目的を果たすとするか。」
願いは二秒と持たなかった。
「ほらほら、そっちに寝てくれ。」
「はいはい。 …なんなのよ、もう。」
「寝転ばないと見えないんだよ。」
「見えない?」
「この間霊夢が言ってたろ? 星屑を眺めたいって。」
「……あー……言ったような気がするわね。」
「それでだな、この不肖私が、その星屑が見られるスペルを作ってきたんだ。」
「はー、あんたも暇なのね…。」
「…それはちょっと酷いぜ。」
「あはは、ごめんごめん。」
悪びれた風でもなく笑いながら、霊夢は言われたとおりに布団に寝転ぶ。
それを確認してから、魔理沙は天井の高さを測ったり、「ちょっとヤバイか?」とか呟いたりした。
霊夢の吐いたため息は、何とか聞こえなかったようだった。
「よし、じゃあやるぞ?」
「うん……。 ほんとに大丈夫なの?」
「大丈夫………だぜ。」
「なんでそんな弱気なのよ。」
「気のせいだ。」
言いながら魔理沙も霊夢と頭を合わせて寝転ぶ。
「いくぜ。」
スペルカードを持った右手を突き上げ魔力を集中させる。
霊夢には聞き取れない詠唱とともに、カードは淡く輝きだす。
「魔符、星屑夢想!」
仕上げのスペル名の解放とともに、カードから光が溢れる。
輝きは星の形を模し、寝室の狭い天井を星の煌きで満たしてゆく。
やがて天井に満ち満ちた星屑は───
「うわ……綺麗………。」
どがーーーーーん。
「………うわー………。」
───屋根に穴を開けて夜空に帰っていった。
「マジごめん。」
霧雨の魔女、ここ数年で一番素直だったその一瞬であった。
………………。
「はぁ………。 もう今日はいいや。」
「え?ここで寝るのか?」
「そんなわけないでしょう。仕方ないから居間に布団運んで。」
「了解。」
意気揚々と自分の布団を運びだす魔理沙。
「……私の分もに決まってるでしょう。」
「布団は意外に重いんだ。 女の子は二枚も持てませんわ。」
「屋根の材料にされたいかしら?」
「……りょーかい。」
霊夢の迫力に押され、魔理沙はまず霊夢の布団を運ぶことにした。
「そうだ魔理沙、一つ聞くけど。」
「んー、何だ?」
「あれって攻撃用のスペルじゃないの?」
「……元々はな。」
「そんな物騒なものもって来るな!」
馬鹿馬鹿しい、屋根に開いた穴は完全に必然だったのだ。
空を見上げる少女に、半欠けの月の光が降り注ぐ。
いつぞやより輝きは弱く、空の星屑はその数を増していた。
「……夢に出そうね、この星空。」
手を伸ばし、星を掴むような動作をする。
「まぁいっか、明日直せば。」
腕を下ろし、少女はその部屋を後にする。
部屋を出る折に一度振り返り、一言だけ呟いて襖を閉じた。
「星屑夢想、むそーふーいん。」
円に切られた空に瞬く、その星々に今は見惚れる。
頭を合わせ、布団に寝転ぶ少女が二人。
「やったな、こんないい眺めを毎晩見れるぜ。」
「…風通しがよすぎるわ。」
「隙間風なら慣れっこだろ?」
「はぁ、もう冬だってのにどうしてくれるのよ。」
「冬来りなば春遠からじ、いい言葉じゃないか。」
「大体、雨が降ったらどうするの?」
「いくら狭いからって他に部屋くらいあるだろ?」
「畳が腐る。」
「そうだな、じゃあ防水の魔法でも探しておくぜ。」
「そういう問題じゃない。」
「風避けのスペルがこっちのポケットにあったような…。」
「あんたはもう魔法使うな!」
「そう怒るなよー。こっちもわざとじゃないんだし。」
「わざとで屋根に穴開けられたらたまんないわ…。」
少女は一つ溜め息を吐き、どうしたものかと空を見上げた。
屋根に開いた穴から見える星空は、どうしようもなく美しかった。
実のところこの大穴が開くのは、すでに数日前に運命付けられていたようなものなのだが。
その数日前の夕暮れ時。
来客の少ない博麗神社は普段どおりに閑散としていた。
参拝者も居ないのだから、当然ここの巫女はいつも大いに暇を持て余している。
とはいえ巫女は若くして達観したところがあり、その無聊をも楽しんでいる節があるのだが。
冬は近く、もう虫の音も殆ど聞こえない境内。
神社という場所柄のせいか、辺りは静謐な空気で満ちている。
こういったある種の芸術を破壊するにはそれなりの器量が必要になる。
例えば、そう────
「霊夢ーー! いるかーー?」
────この魔法使いなどが適任であったか。
「こっちよ、こっち。 もう少し静かにしなさいよ。」
霊夢はやや大きな声で来客を呼ぶ。
程なくして低空を箒で飛ぶ魔法使いが現れた。
「悪い悪い。 そうだな、大声出す必要があるほど広くないか。」
「小声で通るほど狭くない。」
「じゃあ叫んで呼ばないと。」
「探したら早いでしょうが。」
「音速の半分よりは時間かかると思うぜ?」
「何のために空飛んでるのよ。」
「歩くより速いからな。」
「そうじゃなくて、上から見たらすぐでしょ?」
「縁側には軒があるからどうかな。」
「誤差の範囲よ。」
「試してみるか?」
「……いらないわ。」
霊夢が呆れたようにため息を吐くと、魔法使いは愉快そうに笑った。
その笑みはどこか勝ち誇っているようにも見えた。
「あーそれで。」
うずたかく積まれた真っ白の団子を見ながら、いや、食べながら霊夢は「なるほど」と頷いた。
「そうそう、せっかくの満月だし、」
「団子が食べたくなったと。」
「……まぁな。」
「おいしいわねこれ。」
「あんまり食べるなよ。」
「けちけちするなんて魔理沙らしくないわね。」
「酒のつまみが無いと困るだろ?」
「それは困るわね。」
霊夢はぴたりと食べるのをやめた。
少し早い夕食を二人で済ませた頃には、もうとっぷりと日が暮れていた。
空にはまんまる月影ひとつ。
縁側に座り、月見団子を挟んで座る巫女と魔法使い。
これがここの日常であるとはいえ、なんともふざけた取り合わせではないか。
尤も、魑魅魍魎が跳梁跋扈なこの世界だ。
空で澄まし顔をしているあの月の方がよほどふざけているのかもしれない。
「…はぁ、香霖さんのとっておきのお茶、やっぱりおいしいわね。」
ずず、と音を立てて茶をすする霊夢。
「……年寄りくさ……。」
「うっさい。」
苦笑して、魔理沙もお茶に口をつける。
「あちっ!」
「…子供みたい。」
「うっさい。」
二人が団子を一つずつ取ると、団子の山が雪崩を起こした。
月見を始めて早一時間。
とりわけ会話も無いまま、団子とようやくお出ましの酒だけが減っていく。
無言で流れるその時間は彼女らにとって重いものではなく、風情として楽しむべきものだった。
しかしその静寂も、やはり終わりは訪れる。
「満月って、明るすぎると思わない?」
美にすら昇華した沈黙を破ったにもかかわらず、その澄んだ声はこの空間の調和をまるで乱さなかった。
「あー、そうか?」
「だって、他の星が見づらくなるじゃない。」
「…そうかもな。」
「配慮が足りてないわ。 自分のことばっかり考えてるのよきっと。」
「霊夢? 今日は月見をしているんだが。」
「私は星屑だって眺めたいもの。」
「……自分のことばっかりなのはどっちだよ。」
「失礼ね、私は少し自分を優先しているだけよ。」
「はは、そりゃまた謙虚なことで……。」
魔理沙は曖昧に少し笑って、残り少ない酒と団子を楽しむことにした。
月見を楽しんでからその数日後。
博麗の巫女は相も変わらず暇を持て余していた。
まだ昼下がりだというのに最近はめっきり冷え込んできている。
そろそろ布団を一枚足そうかしら、などとぼんやりしていると、目の前に霧雨の魔女が降り立った。
「やっぱり音速の方が速いみたいだな。」
「なんのこと?」
「なんでもないぜ。」
「それで? 久しぶりだけどどうしたの?」
「今日のためにとっておきを作ってきたぜ。」
得意げに笑う魔女の右手に、一枚のスペルカード。
『来客』は博麗の巫女の辞書では、『突然の災厄』と意味が当てられているらしい。
無論、それ以外の意味もあるのだが、おおよそこれが第一位になる。
そして直感に優れた少女は、今回はその第一位である事をなんとなく察していた。
自ら押しかけたにもかかわらず魔理沙は、とっておきを披露するのは夜に限る、などと言い出した。
必然的にそれまでは神社にいることになり、霊夢は遅い昼と夜の二食をたかられることになる。
この時点で、霊夢の直感は外れていなかったように見える。
が、『来客』の意味は、『訪れたものが災厄を振りまく』では無く、『災厄がやってくる』である。
したがって魔理沙が今日は泊まっていくなどと言い出した時、霊夢は「これからか」と嘆息したのだ。
数時間後、彼女の直感はいっそ悲しいほどに優れていた事が証明される。
「ほら魔理沙、狭いんだからもっとそっちに寄せてよ。」
「こっちも狭いんだが。 …一緒の布団で寝るかえ?」
「冗談言ってないで早くする。」
「何だ、張り合いないな。」
「合って欲しいの?」
「……それはそれで怖いな。」
「でしょ。」
結局魔理沙のとっておきが披露される事無く、現在二人で布団を敷いていたりするのだが。
(……このまま一日が終わりますように……。)
「さて、それじゃあ今日来た目的を果たすとするか。」
願いは二秒と持たなかった。
「ほらほら、そっちに寝てくれ。」
「はいはい。 …なんなのよ、もう。」
「寝転ばないと見えないんだよ。」
「見えない?」
「この間霊夢が言ってたろ? 星屑を眺めたいって。」
「……あー……言ったような気がするわね。」
「それでだな、この不肖私が、その星屑が見られるスペルを作ってきたんだ。」
「はー、あんたも暇なのね…。」
「…それはちょっと酷いぜ。」
「あはは、ごめんごめん。」
悪びれた風でもなく笑いながら、霊夢は言われたとおりに布団に寝転ぶ。
それを確認してから、魔理沙は天井の高さを測ったり、「ちょっとヤバイか?」とか呟いたりした。
霊夢の吐いたため息は、何とか聞こえなかったようだった。
「よし、じゃあやるぞ?」
「うん……。 ほんとに大丈夫なの?」
「大丈夫………だぜ。」
「なんでそんな弱気なのよ。」
「気のせいだ。」
言いながら魔理沙も霊夢と頭を合わせて寝転ぶ。
「いくぜ。」
スペルカードを持った右手を突き上げ魔力を集中させる。
霊夢には聞き取れない詠唱とともに、カードは淡く輝きだす。
「魔符、星屑夢想!」
仕上げのスペル名の解放とともに、カードから光が溢れる。
輝きは星の形を模し、寝室の狭い天井を星の煌きで満たしてゆく。
やがて天井に満ち満ちた星屑は───
「うわ……綺麗………。」
どがーーーーーん。
「………うわー………。」
───屋根に穴を開けて夜空に帰っていった。
「マジごめん。」
霧雨の魔女、ここ数年で一番素直だったその一瞬であった。
………………。
「はぁ………。 もう今日はいいや。」
「え?ここで寝るのか?」
「そんなわけないでしょう。仕方ないから居間に布団運んで。」
「了解。」
意気揚々と自分の布団を運びだす魔理沙。
「……私の分もに決まってるでしょう。」
「布団は意外に重いんだ。 女の子は二枚も持てませんわ。」
「屋根の材料にされたいかしら?」
「……りょーかい。」
霊夢の迫力に押され、魔理沙はまず霊夢の布団を運ぶことにした。
「そうだ魔理沙、一つ聞くけど。」
「んー、何だ?」
「あれって攻撃用のスペルじゃないの?」
「……元々はな。」
「そんな物騒なものもって来るな!」
馬鹿馬鹿しい、屋根に開いた穴は完全に必然だったのだ。
空を見上げる少女に、半欠けの月の光が降り注ぐ。
いつぞやより輝きは弱く、空の星屑はその数を増していた。
「……夢に出そうね、この星空。」
手を伸ばし、星を掴むような動作をする。
「まぁいっか、明日直せば。」
腕を下ろし、少女はその部屋を後にする。
部屋を出る折に一度振り返り、一言だけ呟いて襖を閉じた。
「星屑夢想、むそーふーいん。」