Coolier - 新生・東方創想話

::紅魔ウィンターヴィレッジ'03-'04::

2004/02/15 12:32:27
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::紅魔ウィンターヴィレッジ'03-'04::


<1>


 冬が来ていた。
この界隈―博霊結界周辺数百由句を賑わせた「あの」拉致事件からもう、一年が過ぎようとしている。
ただ、拉致といっても誘拐されたのは妖怪とか人間なんかの意識体ではなく「春」という季節だったのだが。
つまりは、春奪回戦のあの弾幕騒動より、一年足らずのこの日。
「今年も押し迫っているなぁ。」
冬道の中を、まるで一体の雪男のようにこんもりとしたコートを羽織って歩いているのは、霧雨魔理沙。
灰色する毛並が包む、すらりと華奢なその腕には、葦で編んだカゴが一つ、ぶら下がっている。
その気になれば、赤子を一人分搭載しなおかつ長距離輸送が可能な程度の、サイズのカゴだ。
徒歩の過程で特にすることも、考えることもなかったから、白い吐息の、吐き出されるその一個一個の形の違いを、魔理沙は目で楽しんでいた。
そしてまた、口笛を吹いたり、鼻歌を歌ってみたり。
森を突っ切って走る一本道に足跡を残しながら、勝手気ままに振舞って、歩いて行く。
それにしても、この吹雪だ。
分厚い雪弾幕の壁が、彼女の視界を完全に遮っている。
そのせいか、歩行の大気速度もじりじりと、低下している。
高速移動を身上とする魔理沙も、さすがにこの難天候下、心細さを覚えつつある。
日が落ちるまでに、辿り着くかなぁ・・・
そのときだった。
後ろに、物音を感知したのは。
トーンの低い、くぐもった持続音。
野犬が低く唸る様な。
そして白い点が、二つ。
近づいてくる。
もしかしたら―
のろのろと通りすがろうとしているブリキ箱の目の前に立つと、魔理沙は左腕を伸ばし、親指を一本、立てた。
ヒッチハイク、てやつだな。
案の定、その乗用車は少女魔術師の真横で、ブレーキをかけた。
運転席の窓から覗かせた顔を見て、魔理沙はひとしきり、目を丸くした。
「あら、博麗神社のゴキブr―もとい、黒魔道士の魔理沙さん。」
「そういう貴女は、刃物オタk―おっとメイドの咲夜さん―」
うふふふふ。
寡頭競争的な笑みを、お互いに向けている。
赤色のフィアット500車のハンドルを握っていたのは、紅魔館の給仕長、十六夜咲夜だった。
「郷の方へ、お帰りなの?」
「そうだよ。でもこの雪じゃあ、徒歩は難儀で物入りなんだな。」
「…その肩に積もった雪を払いなさい。乗せていってあげるわ。」
超ウルトラハイパー助かるぜ―嬉々とした表情で、魔理沙はフィアットの後部座席に乗り込んだ。
もちろん、カゴを脇元に置いて。
地面に溜まった雪を押しのけるように、のろのろと赤い小ネズミは発進する。
「すごい雪だな。」
「本当。突如戻った春の分まで取り返さんってばかりね。」
半年以上前の光景だったが、今でもまじまじと思い出される。
未踏の冥界、激烈な弾幕戦闘。
スペルカードが二枚しかなかった魔理沙にとっては、こと熾烈だった。
その点、四回使う猶予があった咲夜は、余裕を見せてすらいたような気がする。
がしかし、咲夜もまた命がけだったことには違いない。
「どれくらい、かかりそうだ?」
「そうねぇ・・・30分はかかるわ。ちっとも速度が上がらない。」
白雪が餅のようにタイヤに絡まるせいで、思うように延びない。
苛立ちを体現するかのような手つきで、咲夜はクラッチを動かしている。

その点あなたはラッキーだったわ。歩いていたら深夜までかかっていたかもしれないのよ。
あ、でも魔道士さんなら、マジックを使うという手もあったわね―

その苛立ちを抑え込もうとくすくす笑みを浮かべながら、咲夜はひとしきり、思いついた言を述べた。
「ところで―」
そしてまた、咲夜。
「そのカゴ、何?」
やはり来たか、という表情に、魔理沙の顔が切り変わる。
「大したものじゃ、ないぜ。」
「大してなくても、気になるわ。」
口許に人差し指をあて、一瞬、考え込んで咲夜、
「乗せてあげたんだしぃ…教えてくれてもかまわないでしょう?」
左手人差し指を口許に宛てて、一際くす、と微笑んだ。
「それは関係ないだろぉ。」
作った貸しを盾にして、斬り出して来る。
「ないとも言い切れないわ。」
ああいえばこういう。
文言どおりナイフのごとく頭の切れるメイド相手に、到底歯が立ちそうもない。
「御影石と硝石、そしてシベリア杉の枝だよ。専用の杖に取り付けて撃ち出せる、マジックアモーを作ろうと思ってたんだ。」
故なく、適当に嘘を見繕う。
「随分、物騒なものをお作りになるのね。国防職公務員の中東派遣で世相も騒がしいでしょうに。」
「ま、また春を盗みにさ、黒幕みたようなのが来た時のためさ。武器は強いのがあったほうが、平和を保てるだろ?」
「なら、結界を強化するほうがまだ凌ぎになるじゃない?この世界的には。」
「いや、でもこれはあくまで趣味の範囲だからぁ―」
最初から趣味だと言えばいいものを、口を突いて出た「大義」のせいで徐々に言葉に、綻びが生じつつある。
咲夜は、感じ取っていた。
あのカゴの中身は、決して悟られたくないモノ―
そして、魔理沙さんが悟られたくない、といえば、それは唯一つ。
「プレゼントか、何か?」
魔理沙にとってみれば、相手が悪すぎた。
乗り合わせたのが、よりによって一番キレ者の十六夜咲夜だ。
もしこれが、地味で洞察力の鈍いあの門番あたりであったなら、世間話でお茶を濁し切れたに違いない。
冷や汗が流れるのを、はっきり感じ取っていた。
実際には、気温が低くて汗など出ようはずもないのだが。
「そうなんでしょ?」
うつむく魔理沙を見かねて、咲夜はさらに畳み掛ける。
ワイパーが、フロントガラスに積もる雪を払い続けている。
「そして、贈る相手は―」
「そ、それ以上言わないでくれ。」
後部座席の魔法少女は、ぽぉ、と頬を赤らめている。
お約束っ。
咲夜が完全に、イニシアティブを握った。
「ふふふ、全て、さくっとまるっとお見通しなのよ。」
どっかの貧乳みたいなことを口走る。
解答も導き出され。
二分三十七秒、沈黙が続いた。
「あの子、最近明るくなったみたいね。」
うまくオブラートに包んで、気まずくなりかねない空気を破る。
さすが年上、お姉さんらしい言葉だった。
「ああ、私が相手だと、口数も多くなってるな。」
「笑顔が増えてきたからね―いきなりだから、ちょっとびっくりしちゃった。」
「よ、良かったな―」
「あの子」の顔が思い出される。
真っ白で、ベタだけど本当透き通るように儚い肌、冷たいけれど限りなく純粋な紺碧の瞳、無関心を絵に描いたような表情、そしてそんな中で、時折見せる笑み―
打ち消そうともゆらり、と消えたあとまたはっきりと、別の表情が浮かんできて、脳裏から一向に消えない。
紅魔郷に戻るまでは、責めて忘れようとしてたのに―
なぜなら、その存在について思うをめぐらす度、心がシャボン玉のように浮き上がってしまうからだった。
「と、とにかく―早く帰ろうぜ。」
思いつきで、一時しのぎの言葉を口走る。
「あら、もう、着いたわよ。」
「えっ―」
すでにフィアット500は、紅魔郷の結界圏に入り込んでいた。


<2>


 「で、どこにおいとますればいいのかしら?」
フィアットのハンドルを握る咲夜。
無事に到着できてよほど安堵しているのか、「おいとま」のニュアンスを微妙に間違えている。
日暮れに間に合うかどうか、よほど気がかりだったに違いない。
「あ、ああ、博麗神社まで頼むよ。」
少し遠いが、歩いて三十分までの距離なら紅魔館と道は一緒だ。
「途中までになるわ、いいかしら?」
「かまわないぜ。」
神社へと続く峠の入り口に差し掛かるその間、魔理沙は、カゴの中を如何にして「あの子」に手渡すか、考えていた。
雪の降る静かな夜で。
灯りを消せる室内で。
なおかつ、二人きりになれる場所。
このささやかな授与式は、誰にも邪魔されたくない。
まぁ、あいつはいつも一人だから、明日にでも図書館に行って約束を取り付ければ、特に問題なさそうだけど。
あとは、気に入ってくれるかどうか、だな―
「そういえば、あの子―思い出したわ。」
咲夜の一言で、思考空間にいた魔理沙は、はっ、と我に返った。
まさにいま思い出した、という口調だった。
「どうしたんだ?」
「昨日から、喘息の発作で寝込んでるのよ。」
「・・・図書館にいるのか?」
そんな大事なことを忘れるなよ、と顔に書きつつ、魔理沙。
「えぇ、たぶん司書室で寝てるわ。ごめんなさいね、年越しの準備に追われてすっかり忘れてた。」
あんた、後生気が利かないよ。メイドさん―
早く言ってくれなくちゃ。
だけど、彼女の証言でこのプレゼントの行方は概ね、決まったようなものだ。
「このまま、紅魔館まで頼むよ。」
「そう来ると思ったわ。」
変わらず、初々しい娘たち。
咲夜は一層気合いを入れて、アクセルを踏み込んだ。
それでも、雪道では大して速度は上がらなかった。


 「最近急に寒くなって―体が無理したみたい。」
クルマから降りて駆け込んだとき、司書室のパチュリーは、ベッドに寝そべっていた。
時々、弱々しい咳を繰り返して、病弱を絵に描いた様子だ。
「そうか―あんまり無茶するなよ。」
暖炉で暖まったポットを、テーブルにとん、と置く。
「ハーブティ淹れるよ。骨董品漁りがてらに買ったものだぜ。」
「ありがとう―」
湯気の立つカップを、パチュリーは口に付けた。
液体で、唇が濡れる。
ふぅ、とため息を付いた。
「この時期になると、いっつもこれ。」
この時期、に限らず、年がら年中発作を起している事実も否めないが。
表情は苦しそうだ。
プレゼントは後にして、とりあえず看護が先だな―
「ねぇ、魔理沙―」
毛布を見つめていた青い瞳が三十度上向き、ブロンドの横髪を捉える。
「あぁ?」
「そのカゴ...何入ってるの―」
意外と早かった。
待っていました、とばかりに、魔理沙はにこ、として答えた。
「何か、知りたい?」
「うん。」
「じゃあ、開けてみなよ。」
ということは―私に。
「そういうこと。」
言葉に出さずとも、以心伝心。
「ほら。」
カゴから取り出したものは、一抱えはある布包みだった。
魔道士が手渡した布包みを、病弱の司書がほどく。
「きっと、いいものだぜ。」
期待に、まだ薄い胸を膨らませつつ紐を解き。
魔理沙のくれたものなら、ビックリ箱でも嬉しいから―
覆っていた布を、脱がせる。
果たしてそれは、メトロノームほどの、小さな針葉樹だった。
真緑の木に、色とりどりのリボンや、小さなビーズ、星の形をした銀紙が所々、くくりつけてある。
「これ―」
「クリスマスツリー、て奴だ。人界の祭りで、飾るモノだよ。」
「へぇ。」
普段は動かないパチュリーの眉が、微かに動く。
「クリスマスツリーの起源は
                  ドイツなんだぜ。」
「へぇーへぇーへぇー。」
67へぇーほど興味を示したようだ。
「さらにさ―ちょっと、灯りを消していいかな?」
「いいわよ。」
司書室を灯す蝋燭を、消し去った。
ふ、とパチュリーを抱えるベッドの周囲が、夕闇に包まれる。
暖炉の火だけが、二人の顔を照らし出している。
「見てろよ、灯符―」
スペルカード発動。
初級灯符「ブライト・ノヴァ」のエネルギーを、ツリーに注ぎ込む。
すると―
蒼白立ったパチュリーの眉が緩み、病苦で強張った表情はいっきに和らいだ。
ビーズが、色とりどりに光っているのだ。
簡単な魔力で光る、マジックビーズだった。
「か、わいい―」
魔法図書館に蔵書してあるどの辞書をめくっても、笑顔、という言葉は今パチュリーが浮かべているそれを指すに違いない。
灯りに照らされたパチュリーは、無邪気、という比喩がぴったりの笑みを浮かべていた。
親友からの突然のプレゼントを、素直に喜んでいる彼女が、そこにいた。
ほころんでいてそれでいて儚げな、大人しい笑みを浮かべるパチュリーの姿に魔理沙は、鼓動を高めていた。
「だろ?骨董品屋を探し回って、ようやく見つけて来たんだぜ。」
肩に手をかける。
紅葉みたいに小さな掌が、二つゆらりと絡む。
「早く良くなれよ、パチュリー。」
満面の慈悲で、うなじに顔を当てる。
そうして、そ、と抱きしめた。
元気になったら雪で、遊ぼうな。
「ありがとう―」
冬のイベントにはクリスマスは少し、遅かったけどな。
二人の少女の幸せを包んで、紅魔館の一年は、くゆる暖炉煙ともに暮れていった。


[完]


 ご精読ありがとうございました。
冬コミに出したものなんで、ネタがところどころ古いです(汗
話の深さや文芸性よりも、乗用車が出てきたり時事ネタだったりト○ックだったりトリ○アだったりスペル名が某艦長のオマージュだったり(w)いい意味で二次創作っぽい、遊びがいのあるトレンディーさを目指してみました。
なので、パチュ×魔理沙な結びもあえて、お約束です^^;

感想などいただければ、幸いです。
読後に、一縷の知的快楽があらんことを祈って。
Flanker
http://members.at.infoseek.co.jp/hiro_flanker/
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コメント



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14.70絵利華削除
なかなか面白かったです。どこかの貧乳だけわかりませんでした(^^;