「霊夢が欲しいの」
いきなり何の前触れもなくレミリアにそう言われて、霊夢は飲みかけていたお茶をぶっと吹き出した。
「霊夢、汚い」
「あ、あんたねぇ、いきなりなんて事を言うのよ……それもこんな昼間っから」
「なら夜ならいいのかしら?」
「いや、そういう問題じゃなくて……その、わ、私達そういう関係じゃないでしょうが。いきなりそういう事言われても困るというかなんと言うか」
赤面しながらしどろもどろになる霊夢に対して、レミリアは至って冷静である。
「別に霊夢が考えてるような意味で言ったわけじゃないわよ?」
「じゃどういう意味で……って、まさか?」
なにやら嫌な結論に至ったらしい。
「私の僕にしたい、って意味よ」
「余計嫌だって!!」
湯飲みをバン、と縁側にたたきつける。ピシ、という音とともに湯飲みにひびが入るが、レミリアは一向にひるむ気配もない。
「今ならもれなく永遠に等しい寿命がおまけについてくるわよ?」
「んな物いらないってば!!」
「咲夜を顎で使える権利もつけるけど?」
「それはちょっと惹かれ……いやいや、いらないって!!」
「どうしても嫌?」
「どうしても嫌」
「……そう」
激しく嫌な予感がして、霊夢はあわてて飛びのこうとする……が、それはできなかった。まるで縫い付けられたかのようだ。
「な、何をしたのレミリアっ?!」
「『ブラド・ツェペシュの呪詛』の本来の使い方……霊夢の影を繋ぎとめたわ」
霊夢は視線だけを下に向けた。確かに自分の影にナイフが突き立っている。
「ちょ、ちょっと、じ、冗談でしょ?」
「こういう冗談は好きじゃないわ」
くすくすと無邪気な、されど邪悪な笑みを浮かべながら、レミリアは霊夢ににじり寄る。
「やめなさいよ、この鬼、悪魔、人でなしっ!!」
「……私は吸血鬼で紅い悪魔って言われてて、人間じゃないけど、それが何か?」
「いや、そういう意味じゃなく……って、来るな来るな来るなっ!!」
そして霊夢を抱きすくめ、その白い首筋に顔を近づける。
「白くてきれいな肌……ここに私の噛み痕を残すのかと思うと、それだけで絶頂すら覚えるわ」
「陶酔するな、この変態吸血鬼……って、んあっ、な、何やってんのよ!!」
「ちょっと味見」
レミリアは霊夢の首筋にちろちろと舌を這わせた。
「ちょっと、やめ、ひゃあっ、あっ……」
「それじゃ、そろそろいただこうかしら」
「ちょ、ちょっと、やだ、ほんとにやだぁ……」
おびえた表情の霊夢。涙目でレミリアを見るが、それはレミリアの嗜虐心を掻き立てるだけであった。
「それじゃ、ようこそ霊夢、吸血鬼の世界へ」
鋭く尖った犬歯が霊夢の首筋に触れ……そして離れた。
「邪魔が入ったわ」
「……え?」
ギン、と背後を睨み付けるレミリア。そこには人形を多数引き連れた少女……アリス・マーガトロイドがいた。
「何か用?今取り込み中なのだけど」
「あなたには用はないわよ。私が用があるのは霊夢だけだし」
「あら、それじゃ私を通してもらわないとね。今日から霊夢は私の僕になるんだし」
レミリアの口調は穏やかだが、視線では殺気をバリバリに放っている。だがアリスもそれに一歩も退かない。
「そんなことはさせないわよ」
「あ、アリス……」
「霊夢はわたしの人形になるんだから……ずっとそばに置いておくんだから」
「あんたもかっ!!」
思わずつっこみが出る霊夢。呪詛さえかかってなかったら顔から地面にずっこけてたかもしれない。
「へぇ、あなたも霊夢を……身の程をわきまえたほうがいいんじゃないかしら、人形遣い?」
「それはこっちの台詞だわ。吸血鬼なら吸血鬼らしく、おとなしく棺桶の中で惰眠でも貪ってたら?」
緊張の糸が張り詰め、そして切れた。
「私の霊夢を奪おうとする者の運命は滅びだけよ、人形遣い!」
「私の霊夢を奪おうとする者は灰燼に帰するのみよ、吸血鬼!」
「勝手に決めるなぁ!!」
三者三様の叫びと共に、霊夢争奪戦が開始された。
「操符『乙女文楽』!!」
「神罰『幼きデーモンロード』!!」
アリスとレミリア、二人同時にスペルカードを発動する。どちらも相手の行動範囲を奪うスペル。
「蒼符『博愛のオルレアン人形』!!」
「獄符『千本の針の山』!!」
さらにスペルカードを同時発動。辺りは魔力が吹き荒れ、すさまじいことになっている。
「ちょ、ちょっと、神社が壊れるじゃないっ!!」
霊夢の抗議も自分たちの世界に入ってしまった二人には聞こえていない模様だ。
「くっ、やるじゃない。ならこれでどう!?雅符『春の京人形』!!』
「まだまだね。神術『吸血鬼幻想』!!」
さらに弾幕は激しさを増す。
「もう勘弁してよぉ」
霊夢の周りにも弾幕が降り注ぐ。呪詛で避けるに避けられない状態とあっては、いつ直撃するか気が気ではない。
「二人ともいい加減に……きゃあっ!!」
アリスの放った魔力弾が霊夢の目の前に着弾、爆発する。
「ちょっとあなた、霊夢に当たったらどうするつもり?」
「うるさいわね、あんたが避けるから悪いんでしょう?」
「勝手な言い分ね」
お互い憎まれ口の叩き合い。
「……はぁ、本当に死ぬかと思った」
霊夢は顔面蒼白になりながら目の前にできたクレーターを見た。
「……ナイフが消えてる?」
どうやら今の着弾の衝撃で雲散霧消したらしい。幸いにもアリス、レミリアともそれに気付いた様子はない。
「……これじゃ埒が明かないわ。「首吊り蓬莱人……」
「……これで仕留めてみせるわ。「紅色の幻想……」
「……二人ともいい加減にしろっ、「夢想封印・集」×6!!」
二人がスペルカードを発動するより早く、霊夢の夢想封印6連発が二人を吹き飛ばしていた。
「二人とも、まぁそこに座りなさい」
夢想封印六連発の直撃を受け、ズタボロになったアリスとレミリアが正座する前に、霊夢は仁王立ちになった。
「……酷いわ霊夢、あれはいくらなんでもやりすぎじゃなくって?」
「そうよそうよ」
「お黙んなさい!!この境内の状況を見てもそんなことが言えるのか?」
境内は派手にぶっ放した弾幕のおかげで酷い惨状である。これで死体がゴロゴロしてたら戦場と言われてもおかしくないだろう。
「……何割かは霊夢の夢想封印のせいでもあるわ」
「反省の色がないっ!」
口を尖らせてブツブツ言うレミリアの頭をお払い棒でガッ、と殴りつける。
「痛いぃ……帰ったら咲夜に言いつけてやる」
頭を押さえ、涙目で霊夢を睨み付けるレミリア。
「子供かあんたは……さて、まず言わせてもらうけど、私はあんたたちの物にはならないわ」
「そんな、ここまでやったのにそれはないんじゃない?」
「そうよ」
「あんたらが勝手にやったことでしょうが。私はやってくれなんて一言も言ってないわ。むしろ勘弁して、といいたい」
「いや、まぁ、それはそうなんだけど……」
「それはわかってるけど、その、なんと言うか……
何やらごにょごにょとつぶやく二人。一応その辺りの自覚はあるらしい。
「で、またなんで私なわけ?」
『霊夢が好きだから!!』
即答である。
「いや、まぁ、好きだといってくれるのはうれしいことはうれしいんだけど……」
ちょっと退き気味な霊夢。
「じゃ私の意思はどこにあるのよ?」
「……そういえばそうね」
「まだ霊夢の意思を聞いてなかったわ」
顔を見合わせる二人。
「……いや、まずそういうことは最初に聞きなさいよあんたら。そういうわけで……」
「私とこの人形遣いのどっちを選ぶの、霊夢!」
「私とこの吸血鬼のどっちを取るの!」
「何でそうなるのよっ!!」
頭を抱える霊夢。
「もちろん私よね霊夢」
アリスが霊夢の左舷からにじり寄り、
「私に決まってるわよね霊夢」
レミリアが右舷から迫り来る。
「あんたら人の話を聞け、っていうか聞いてお願いだから」
あまりの緊迫感に思わずへたり込んであとずさる霊夢。
「境内にいないと思ったらこんなところで修羅場かい、霊夢」
「魔理沙!お願いこの二人何とかしてよ」
唐突に現れた魔理沙に、霊夢は助けを求める。が、
「いやー、他人の修羅場は見てて面白いからな、私のことは気にせずそのまま続けてくれていいぜ」
「ばかーっ、他人事だと思って!」
「いや、他人事だし」
「パチェとフラン」
「ぐっ……」
私は無関係です的な態度だった魔理沙だが、レミリアの一言に何か思い当たる節があったのか胸を押さえてうずくまる。
「いやパチュリーのことは確かに好きだしフランドールに懐かれるのは確かに悪い気はしないがそれはそれで話が別でどちらかを選べとか言われてもそれは難しいというか無理って言うかパチュリー振ったらきっと泣かれそうで精神的に痛いものがあるしかといってフランドールだと命に関わりかねないし……ぶつぶつ」
座り込んでなにやらぶつぶつ言う魔理沙。
「霧雨魔理沙・再起不能、to be continued」
アリスがぼそっとつぶやく。
「それじゃ邪魔はいなくなったし、改めて霊夢の返事を聞かせてもらおうかしら」
「さぁ、どっちを取るの?」
「あああ、状況なおも赤」
ずりずりとあとずさる霊夢。しかしとうとう壁に追い詰められる。
「さぁ」
「さぁ」
「どっちを」「どっちを」
『選ぶのっ!!』
「いい考えがあるっ!」
「あ、魔理沙復活した」
「いい考えって何よ!」
藁にもすがる思いで叫ぶ霊夢。
「どっちも選べないなら、両方取ればいいんだよ」
「……」
「……」
「……」
次の瞬間、一斉に魔理沙に向けて弾幕が飛来した。
「うわ待て待てっ、三対一は卑怯だぞ」
「何を言うかと思えばこのバカ、んなことできるかっ!」
「いっぺん死んでみる、この野魔法使い!」
「殺すだけじゃ飽き足らないわ。一寸刻み五分刻みにして門番の餌にしてあげる!」
「いや、真面目に言ってるんだからさ、とりあえず落ち着いて話を聞けってば!」
その後しばらくの弾幕ごっこの後、魔理沙は語り始める。
「アリスもレミリアも霊夢を自分の物にしたいというけどな、それはやめといたほうがいい」
「なんでよ!」
「納得行く理由が聞きたいわ」
「霊夢はこのままでないと霊夢じゃないんだよ。僕なり人形になりにしたところで、それは霊夢じゃない。霊夢だったものでしかない」
「……なんか言葉遊びみたいよ、それ」
レミリアはそう言って、
「でも、言いたい事はわかったわ」
とも言った。
「確かに……」
アリスも横でうなずく。
「なんていうか、霊夢はこのまま、自然体なのが魅力なんだよ。長年付き合ってる私が言うんだ、間違いない」
「なんかあんたが言うと説得力あるわね」
なんだか照れくさいのか、霊夢は魔理沙から目線を逸らしながら言った。
「でも、何でそこまで霊夢のことよく知ってるのよ。いくら付き合いが長いからって……まさか魔理沙、あんたも霊夢を!?」
「なんですって?!」
「何でそうなるかな」
苦笑。
「まぁ確かに霊夢のことは好きだぜ。だけど今のくっつき過ぎず、離れ過ぎずって関係がお互いにとって一番しっくり来るんでね、無理して今の関係を変えようとは思わないさ。時には現状維持ってのが最善の選択ってこともある」
「……」
「……」
「……」
「……なんだよ、なんか変なこと言ったか?」
「いえ、そんなことはないけれど」
「なんていうか……ちょっと驚いた」
「魔理沙、あんた以外とまともな事考えてたんだ」
「……霊夢、今の発言はちょっと気を悪くしたぞ」
大して気にした様子も見せず、魔理沙は少し照れたような笑みを浮かべ、
「私の言いたいことはこれだけだぜ。あとは当事者同士で何とかしな」
そう言うと勝手知ったるなんとやらとばかりに座敷でお茶を入れ始めた。
「このままじゃ結論が出せそうにないみたいだから、少し時間を置くわ」
「そういうわけで、今回のところはいったん出直すわ」
なにやら協議……と言うかヒソヒソ話をしていたアリスとレミリアだったが、話がまとまったのか霊夢にむかってそう宣言した。
「もっとも、あきらめたわけじゃないからそのつもりで!!」
「いつかいい返事を聞かせてもらえることを期待してるわね。それじゃ」
そういって二人は神社から去っていった。
「ふう、助かった……」
「ほれ、お茶」
「ありがと」
魔理沙からお茶を受け取り、一口すする。
「しかし、あの二人はまだあきらめないつもりなのかしら」
「いや、一応納得してるんじゃないかい?」
自らも湯飲みにお茶を入れつつ、
「あの二人はそんなに頑固な性格じゃないさ。むしろどっちかというと割合素直なほうだろ。頑固なのは霊夢とかパチュリーとかだな」
魔理沙はそういって笑う。
「私そんなに頑固かしら?」
「頑固っていうか、暖簾に腕押し、糠に釘、だな。まぁ、そこがお前さんの魅力だし、今までどおりやっていけばいいんだよ」
「ん、わかった……ありがと、魔理沙」
霊夢はそういって微笑んだ。
余録だが、数日後、紅魔館に行った魔理沙はパチュリーとフランドールに詰め寄られ、胃に穴が開きそうな思いをしてきたのだが。他人にアドバイスできても自分がうまくいくとは限らないのである。
いきなり何の前触れもなくレミリアにそう言われて、霊夢は飲みかけていたお茶をぶっと吹き出した。
「霊夢、汚い」
「あ、あんたねぇ、いきなりなんて事を言うのよ……それもこんな昼間っから」
「なら夜ならいいのかしら?」
「いや、そういう問題じゃなくて……その、わ、私達そういう関係じゃないでしょうが。いきなりそういう事言われても困るというかなんと言うか」
赤面しながらしどろもどろになる霊夢に対して、レミリアは至って冷静である。
「別に霊夢が考えてるような意味で言ったわけじゃないわよ?」
「じゃどういう意味で……って、まさか?」
なにやら嫌な結論に至ったらしい。
「私の僕にしたい、って意味よ」
「余計嫌だって!!」
湯飲みをバン、と縁側にたたきつける。ピシ、という音とともに湯飲みにひびが入るが、レミリアは一向にひるむ気配もない。
「今ならもれなく永遠に等しい寿命がおまけについてくるわよ?」
「んな物いらないってば!!」
「咲夜を顎で使える権利もつけるけど?」
「それはちょっと惹かれ……いやいや、いらないって!!」
「どうしても嫌?」
「どうしても嫌」
「……そう」
激しく嫌な予感がして、霊夢はあわてて飛びのこうとする……が、それはできなかった。まるで縫い付けられたかのようだ。
「な、何をしたのレミリアっ?!」
「『ブラド・ツェペシュの呪詛』の本来の使い方……霊夢の影を繋ぎとめたわ」
霊夢は視線だけを下に向けた。確かに自分の影にナイフが突き立っている。
「ちょ、ちょっと、じ、冗談でしょ?」
「こういう冗談は好きじゃないわ」
くすくすと無邪気な、されど邪悪な笑みを浮かべながら、レミリアは霊夢ににじり寄る。
「やめなさいよ、この鬼、悪魔、人でなしっ!!」
「……私は吸血鬼で紅い悪魔って言われてて、人間じゃないけど、それが何か?」
「いや、そういう意味じゃなく……って、来るな来るな来るなっ!!」
そして霊夢を抱きすくめ、その白い首筋に顔を近づける。
「白くてきれいな肌……ここに私の噛み痕を残すのかと思うと、それだけで絶頂すら覚えるわ」
「陶酔するな、この変態吸血鬼……って、んあっ、な、何やってんのよ!!」
「ちょっと味見」
レミリアは霊夢の首筋にちろちろと舌を這わせた。
「ちょっと、やめ、ひゃあっ、あっ……」
「それじゃ、そろそろいただこうかしら」
「ちょ、ちょっと、やだ、ほんとにやだぁ……」
おびえた表情の霊夢。涙目でレミリアを見るが、それはレミリアの嗜虐心を掻き立てるだけであった。
「それじゃ、ようこそ霊夢、吸血鬼の世界へ」
鋭く尖った犬歯が霊夢の首筋に触れ……そして離れた。
「邪魔が入ったわ」
「……え?」
ギン、と背後を睨み付けるレミリア。そこには人形を多数引き連れた少女……アリス・マーガトロイドがいた。
「何か用?今取り込み中なのだけど」
「あなたには用はないわよ。私が用があるのは霊夢だけだし」
「あら、それじゃ私を通してもらわないとね。今日から霊夢は私の僕になるんだし」
レミリアの口調は穏やかだが、視線では殺気をバリバリに放っている。だがアリスもそれに一歩も退かない。
「そんなことはさせないわよ」
「あ、アリス……」
「霊夢はわたしの人形になるんだから……ずっとそばに置いておくんだから」
「あんたもかっ!!」
思わずつっこみが出る霊夢。呪詛さえかかってなかったら顔から地面にずっこけてたかもしれない。
「へぇ、あなたも霊夢を……身の程をわきまえたほうがいいんじゃないかしら、人形遣い?」
「それはこっちの台詞だわ。吸血鬼なら吸血鬼らしく、おとなしく棺桶の中で惰眠でも貪ってたら?」
緊張の糸が張り詰め、そして切れた。
「私の霊夢を奪おうとする者の運命は滅びだけよ、人形遣い!」
「私の霊夢を奪おうとする者は灰燼に帰するのみよ、吸血鬼!」
「勝手に決めるなぁ!!」
三者三様の叫びと共に、霊夢争奪戦が開始された。
「操符『乙女文楽』!!」
「神罰『幼きデーモンロード』!!」
アリスとレミリア、二人同時にスペルカードを発動する。どちらも相手の行動範囲を奪うスペル。
「蒼符『博愛のオルレアン人形』!!」
「獄符『千本の針の山』!!」
さらにスペルカードを同時発動。辺りは魔力が吹き荒れ、すさまじいことになっている。
「ちょ、ちょっと、神社が壊れるじゃないっ!!」
霊夢の抗議も自分たちの世界に入ってしまった二人には聞こえていない模様だ。
「くっ、やるじゃない。ならこれでどう!?雅符『春の京人形』!!』
「まだまだね。神術『吸血鬼幻想』!!」
さらに弾幕は激しさを増す。
「もう勘弁してよぉ」
霊夢の周りにも弾幕が降り注ぐ。呪詛で避けるに避けられない状態とあっては、いつ直撃するか気が気ではない。
「二人ともいい加減に……きゃあっ!!」
アリスの放った魔力弾が霊夢の目の前に着弾、爆発する。
「ちょっとあなた、霊夢に当たったらどうするつもり?」
「うるさいわね、あんたが避けるから悪いんでしょう?」
「勝手な言い分ね」
お互い憎まれ口の叩き合い。
「……はぁ、本当に死ぬかと思った」
霊夢は顔面蒼白になりながら目の前にできたクレーターを見た。
「……ナイフが消えてる?」
どうやら今の着弾の衝撃で雲散霧消したらしい。幸いにもアリス、レミリアともそれに気付いた様子はない。
「……これじゃ埒が明かないわ。「首吊り蓬莱人……」
「……これで仕留めてみせるわ。「紅色の幻想……」
「……二人ともいい加減にしろっ、「夢想封印・集」×6!!」
二人がスペルカードを発動するより早く、霊夢の夢想封印6連発が二人を吹き飛ばしていた。
「二人とも、まぁそこに座りなさい」
夢想封印六連発の直撃を受け、ズタボロになったアリスとレミリアが正座する前に、霊夢は仁王立ちになった。
「……酷いわ霊夢、あれはいくらなんでもやりすぎじゃなくって?」
「そうよそうよ」
「お黙んなさい!!この境内の状況を見てもそんなことが言えるのか?」
境内は派手にぶっ放した弾幕のおかげで酷い惨状である。これで死体がゴロゴロしてたら戦場と言われてもおかしくないだろう。
「……何割かは霊夢の夢想封印のせいでもあるわ」
「反省の色がないっ!」
口を尖らせてブツブツ言うレミリアの頭をお払い棒でガッ、と殴りつける。
「痛いぃ……帰ったら咲夜に言いつけてやる」
頭を押さえ、涙目で霊夢を睨み付けるレミリア。
「子供かあんたは……さて、まず言わせてもらうけど、私はあんたたちの物にはならないわ」
「そんな、ここまでやったのにそれはないんじゃない?」
「そうよ」
「あんたらが勝手にやったことでしょうが。私はやってくれなんて一言も言ってないわ。むしろ勘弁して、といいたい」
「いや、まぁ、それはそうなんだけど……」
「それはわかってるけど、その、なんと言うか……
何やらごにょごにょとつぶやく二人。一応その辺りの自覚はあるらしい。
「で、またなんで私なわけ?」
『霊夢が好きだから!!』
即答である。
「いや、まぁ、好きだといってくれるのはうれしいことはうれしいんだけど……」
ちょっと退き気味な霊夢。
「じゃ私の意思はどこにあるのよ?」
「……そういえばそうね」
「まだ霊夢の意思を聞いてなかったわ」
顔を見合わせる二人。
「……いや、まずそういうことは最初に聞きなさいよあんたら。そういうわけで……」
「私とこの人形遣いのどっちを選ぶの、霊夢!」
「私とこの吸血鬼のどっちを取るの!」
「何でそうなるのよっ!!」
頭を抱える霊夢。
「もちろん私よね霊夢」
アリスが霊夢の左舷からにじり寄り、
「私に決まってるわよね霊夢」
レミリアが右舷から迫り来る。
「あんたら人の話を聞け、っていうか聞いてお願いだから」
あまりの緊迫感に思わずへたり込んであとずさる霊夢。
「境内にいないと思ったらこんなところで修羅場かい、霊夢」
「魔理沙!お願いこの二人何とかしてよ」
唐突に現れた魔理沙に、霊夢は助けを求める。が、
「いやー、他人の修羅場は見てて面白いからな、私のことは気にせずそのまま続けてくれていいぜ」
「ばかーっ、他人事だと思って!」
「いや、他人事だし」
「パチェとフラン」
「ぐっ……」
私は無関係です的な態度だった魔理沙だが、レミリアの一言に何か思い当たる節があったのか胸を押さえてうずくまる。
「いやパチュリーのことは確かに好きだしフランドールに懐かれるのは確かに悪い気はしないがそれはそれで話が別でどちらかを選べとか言われてもそれは難しいというか無理って言うかパチュリー振ったらきっと泣かれそうで精神的に痛いものがあるしかといってフランドールだと命に関わりかねないし……ぶつぶつ」
座り込んでなにやらぶつぶつ言う魔理沙。
「霧雨魔理沙・再起不能、to be continued」
アリスがぼそっとつぶやく。
「それじゃ邪魔はいなくなったし、改めて霊夢の返事を聞かせてもらおうかしら」
「さぁ、どっちを取るの?」
「あああ、状況なおも赤」
ずりずりとあとずさる霊夢。しかしとうとう壁に追い詰められる。
「さぁ」
「さぁ」
「どっちを」「どっちを」
『選ぶのっ!!』
「いい考えがあるっ!」
「あ、魔理沙復活した」
「いい考えって何よ!」
藁にもすがる思いで叫ぶ霊夢。
「どっちも選べないなら、両方取ればいいんだよ」
「……」
「……」
「……」
次の瞬間、一斉に魔理沙に向けて弾幕が飛来した。
「うわ待て待てっ、三対一は卑怯だぞ」
「何を言うかと思えばこのバカ、んなことできるかっ!」
「いっぺん死んでみる、この野魔法使い!」
「殺すだけじゃ飽き足らないわ。一寸刻み五分刻みにして門番の餌にしてあげる!」
「いや、真面目に言ってるんだからさ、とりあえず落ち着いて話を聞けってば!」
その後しばらくの弾幕ごっこの後、魔理沙は語り始める。
「アリスもレミリアも霊夢を自分の物にしたいというけどな、それはやめといたほうがいい」
「なんでよ!」
「納得行く理由が聞きたいわ」
「霊夢はこのままでないと霊夢じゃないんだよ。僕なり人形になりにしたところで、それは霊夢じゃない。霊夢だったものでしかない」
「……なんか言葉遊びみたいよ、それ」
レミリアはそう言って、
「でも、言いたい事はわかったわ」
とも言った。
「確かに……」
アリスも横でうなずく。
「なんていうか、霊夢はこのまま、自然体なのが魅力なんだよ。長年付き合ってる私が言うんだ、間違いない」
「なんかあんたが言うと説得力あるわね」
なんだか照れくさいのか、霊夢は魔理沙から目線を逸らしながら言った。
「でも、何でそこまで霊夢のことよく知ってるのよ。いくら付き合いが長いからって……まさか魔理沙、あんたも霊夢を!?」
「なんですって?!」
「何でそうなるかな」
苦笑。
「まぁ確かに霊夢のことは好きだぜ。だけど今のくっつき過ぎず、離れ過ぎずって関係がお互いにとって一番しっくり来るんでね、無理して今の関係を変えようとは思わないさ。時には現状維持ってのが最善の選択ってこともある」
「……」
「……」
「……」
「……なんだよ、なんか変なこと言ったか?」
「いえ、そんなことはないけれど」
「なんていうか……ちょっと驚いた」
「魔理沙、あんた以外とまともな事考えてたんだ」
「……霊夢、今の発言はちょっと気を悪くしたぞ」
大して気にした様子も見せず、魔理沙は少し照れたような笑みを浮かべ、
「私の言いたいことはこれだけだぜ。あとは当事者同士で何とかしな」
そう言うと勝手知ったるなんとやらとばかりに座敷でお茶を入れ始めた。
「このままじゃ結論が出せそうにないみたいだから、少し時間を置くわ」
「そういうわけで、今回のところはいったん出直すわ」
なにやら協議……と言うかヒソヒソ話をしていたアリスとレミリアだったが、話がまとまったのか霊夢にむかってそう宣言した。
「もっとも、あきらめたわけじゃないからそのつもりで!!」
「いつかいい返事を聞かせてもらえることを期待してるわね。それじゃ」
そういって二人は神社から去っていった。
「ふう、助かった……」
「ほれ、お茶」
「ありがと」
魔理沙からお茶を受け取り、一口すする。
「しかし、あの二人はまだあきらめないつもりなのかしら」
「いや、一応納得してるんじゃないかい?」
自らも湯飲みにお茶を入れつつ、
「あの二人はそんなに頑固な性格じゃないさ。むしろどっちかというと割合素直なほうだろ。頑固なのは霊夢とかパチュリーとかだな」
魔理沙はそういって笑う。
「私そんなに頑固かしら?」
「頑固っていうか、暖簾に腕押し、糠に釘、だな。まぁ、そこがお前さんの魅力だし、今までどおりやっていけばいいんだよ」
「ん、わかった……ありがと、魔理沙」
霊夢はそういって微笑んだ。
余録だが、数日後、紅魔館に行った魔理沙はパチュリーとフランドールに詰め寄られ、胃に穴が開きそうな思いをしてきたのだが。他人にアドバイスできても自分がうまくいくとは限らないのである。
微妙にヤバそうなタイトルと中身のギャップもまた。
でもここまで上手くギャグにできてるってのはさすがですのう、と。