※オープニング
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
まほうのもりのおんなのコは(ランランラン、ラーラ)
とてもちいさな魔女っ子です(ランランラン、ラーラ)
おべんきょう げんそう郷
なりたいの
すてき魔法なおんなのコ
ぷきぷきぱよ
Ah さがしてアイテムさん
あれも これも
もっとしりたい
Ah してしてべんきょうさん
すごい ひみつ
いえないことぜんぶ
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
※第七話「決戦! 亡きょぅι゛ょの為のセプテット」
長い長い廊下を抜けると、そこは広いテラスでした。煌々と輝く月も、霧に覆われてその存在を揺らがせています。
「れいむちゃん……」
「うんっ……!」
霧の源、そして震えるほどの力が、高く聳え立つ館のさらに上から伝わってきます。
その頂を目指して一気に駆け上がっていくと、そこには満月を背に負った一人の女の子がいました。
……それは、一見普通で、ただ背中に翼を生やしているだけの、
だけど何かが危うい、それは天使のようで、紅くて―――――
「……やっぱり、にんげんってつかえないわね」
わお、可愛らしい外見とは裏腹に、いきなりきつい事を言います。
「きりをだしてるのはあなた? ……おねがい、いますぐきりをとめて!」
「どうして?」
「きりのせいで、おひさまがかくれちゃって……ずっとさむくて……
このままだと、むしさんとか、おはなさんとか、みんなしんじゃうんだよ……!?」
「だから?」
「……!」
冷たく言い放つその様子は、二人が今までに出会ってきたどの人や妖怪とも違っていました。
言葉に全く感情というものが感じられないのです。
「……わたしは、れみりあ・すかーれっと。きゅうけつきなの。
きゅうけつきは、ひにあたるとけむりになっちゃうのよ。だから、きりをだした。
それとも……なに? むしやおはなのために、わたしにしねっていうのかしら?」
「それは……」
言葉に詰まるまりしゃ。確かに、まりしゃから見ればれみりあの行為は許せない事です。
しかし、れみりあにとってはそれは当然の、自分が生きる為の行動です。
そこに、どちらが正しいとか間違ってるとかは無いのでした。
だから……そんな時は…………
「だったら……だったら、わたしたちとだんまくごっこでしょーぶだ!」
「だんまく……ごっこ?」
「わたしたちがかったら、きりをとめて!」
「じゃあ、わたしがかったら……? あなたたちのちは、おいしそうね……」
「うぅ……」
舌なめずりをするれみりあに、感じた事の無い恐怖心を抱く二人。
ですが、ここまで来て引き下がるつもりもありませんでした。
「うふふふふ……たかがにんげんのくせに、わたしとだんまくごっこだなんて……
こんなにつきもあかいから……たのしいよるになりそうね!!」
ブアアアアアアアァァァァァァッ…………!!!
霧越しに紅く見える月が、本来の色を取り戻していきます。
周囲に立ち込めていた霧が、本来あるべき場所―――――れみりあの元へと還り、還元されていくからでした。
そして、蝙蝠の様な羽とは別に、白く薄く輝く十二枚の光翼がその姿を現しました。
―――――月の力を一身に浴びた、れみりあの本気の力です。
「すっ、すごい……こんなの、かてっこないよ……!」
「だめだよまりしゃちゃん! よわきになっちゃだめ!
いつも、どんなときだって、ふたりでがんばってなんとかしてきたじゃない……!?」
「れいむちゃん…………うん、そうだね。ここでわたしたちががんばらなかったら……
よし、いっくぞー!」
弱気の虫が走るまりしゃを、れいむが励まします。
二人はいつだって、力を合わせて困難を乗り切ってきました。だから……今度だって、きっと……!
「……わたしはおさないけれど、あまたいるようかいにおそれられ、それをすべるもの。それがきゅうけつき。
それはにんげんだって、れいがいじゃないわ……!」
れみりあを中心として展開される魔方陣から、無数の光の帯が放たれました。
それは四方八方に伸び、世界を一瞬の内に引き裂いて、全てを区切っていきます。
間一髪回避した二人でしたが、その顔は驚きでいっぱいです。
「こんなれーざーみたいなの、どーやってよければ……」
「まりしゃちゃん、おちついてよくみて! ひかりのせんがみえるはずだから!」
「うふふ……よくよけたわね。つぎはどうかしら?」
しばらくしてレーザーは消え、辺りは何事も無かったかのように元の姿に帰ります。
そして、紅い魔力が再び収束して、第二派が……来ます!
「まりしゃちゃん、くるよ!」
「ひかりのせん、ひかりのせん……………………みえたっ!!」
レーザーが放たれる軌道上に、うっすらと浮かぶ一筋の光。それさえ分かってしまえば、もう恐いものはありません。
網の目のように張り巡らされるレーザーをかいくぐって、れみりあに肉薄します。
「そっちがれーざーなら、こっちはみさいるだ!」
まりしゃのマジックミサイルが、れみりあ目掛けて発射されます。
自分の攻撃を容易く回避された事に驚きの表情を浮かべていたれみりあも、すぐに平静を取り戻しました。……が。
「うふふ、こんなのろのろしたものが、わたしにあてられるとおもって…………
きゃぁっ!?」
れみりあの横を抜けていくと思われたミサイルが、その場で弾けてれみりあを押し飛ばしました。
バランスを崩されて、展開させた魔方陣もレーザーごと消え失せます。
「どうだっ!」
……しかし、れみりあの余裕の表情は変わりません。
「うふふふふ……
あくまのきみにてをあげるなんて、わるいこねぇ……
わるいこは、じごくのはりのやまでおしおきされるのよ?」
れみりあの背後に開く、底無しに冥い狭間の奥から飛び出す、無数の針。
罪を犯した亡者に贖罪の苦しみを与えんと、目も眩むほどの紅い針が空間を埋め尽くし飛び交います。
二人は僅かな隙間に身を合わせて回避していますが、かすめた針が衣服に穴を開けていきます。
「いたたたた、ちくちくしていたい!」
「あーっ、このおようふく、おきにいりなのにー!」
会話の内容は何だかのほほんとしていますが、その目は全く笑っていません。
それはそうでしょう、一瞬でも気を抜いたら体中が針鼠のようになる事を、二人は良く分かっていました。
「よけることだけはじょうずね……
よわいから、きけんにびんかんになるのかしら……?」
「くそーっ、ばかにされてるよ!」
「あくまとかじごくとか、わたしだってみこさんなんだから!」
あまり自覚としては感じていませんが、一応れいむは巫女さんです。
悪魔払いに悪霊退散……本当はちょっと違うのですが、神の力を行使するという点では同じです。
懐から取り出した一枚の符に、霊力と念を込めて放ちました。
「われ、ゆめにおもいたてまつらん、うつしよにけんげんせよ……
そはじゃをふうじるしるしなり! むそーふいーん!!」
それは、さくやと対峙した時に使った夢想封印でした。が、先と違うのは光球はその場に留まる事無く、
れみりあの背後に開く狭間目掛けて放物線を描き飛んでいった点です。
四つの光が順番に弾け、その度に闇へと続く扉が塞がっていき、やがて完全に閉じられました。
源を失った針はやがて現界の宙に霧散し、跡形も無く消え失せていきます。
「くっ……ううっ……」
……そして、その場にいたれみりあも無傷では済みませんでした。
巫女の力は退魔の力……それはれみりあにとって相反する、決して受け入れられないものなのですから。
「こんどこそ、どうだっ! まいったか!」
胸を張るれいむ。……ですが、おや? れみりあの様子がちょっと変ですねぇ。
ダメージはさほどでも無いようですが、自分自身を抱き締めて俯いたまま震えているようです。
「どうして……どうして……?」
「えっと……、あの……」
先程までの余裕からは想像もつかない変わりっぷりに戸惑う二人、思わず心配して声を掛けようとします。
……が、それはとても甘い考えだった事に、すぐに気付かされるのでした。
「たかがにんげんのくせに、わたしにはむかって! わたしにさからって!
さっさとどこかにいってしまえばいいのに……どうしてっ……!」
「なっ、なに……? なにをいってるの……?」
「……あのこ……」
呆然とするまりしゃとれいむ。しかし、その意味は異なっていました。
「まりしゃ……あのね……」
「どうして……どうしてどうしてどうしてっ……!!」
ザアアアアアアアアァァァァァァァァッ――――――――――
これまでよりもさらに強力な力の奔流が、れみりあから発せられます。
幼く小さな体のどこに、こんな力が隠れていたのでしょうか……?
「にんげんのくせに、あなたたちっ……わたしがこわくはないの!?
わたしは……わたしは、あらゆるものにいふされるそんざい、きゅうけつきなのよ!?」
それはまるで獣の爪の如く広がり、無数の弾幕となって二人を閉じ込めます。
しかし、その表情に恐れは最早ありませんでした。……それまで見えなかったものが、見えたからでしょう。
恐怖心の無くなった今、動き一つを見ても迷いを感じさせず、一つの目的に向かってただ走るのみです。
「なんで、なんでそんなかんたんによけられるの……!?
なんで、そんなじゆうにとびまわれるのっ……!?」
本気になったれみりあの力は、弾幕ごっこを超えて二人を落とそうとしています。
ですが、二人は怯える所かむしろ、笑っていました。
「れみりあちゃん……だっけ?
れみりあちゃんもじゆうじゃない! そのきれーなつばさはなんのためにあるの!?」
「そーだよ! いつだって、じゆうにとべるはずだよ!」
懸命に呼び掛けるまりしゃとれいむ。だけど、皮肉にもその言葉一つ一つが、れみりあをさらに苦しめます。
「じゆう……じゆうなんかじゃないっ!
わたしは……わたしはいつだって、しばられてる……きゅうけつきに……たいようだって……
わたしはみんなとはちがうのよっ……!」
「ちがうもんか!!」
まりしゃが一際大きな声を上げます。多少の被弾は意に介さず、少しでもれみりあの元に近付こうと必死でした。
「ちがう……なにがちがうというの!?」
「みんな、いっしょだよ……
むしさんもおはなさんも、わたしたちもようかいさんもせいれいさんも、みんないっしょうけんめいにいきてる……
だから……だから、しばられてるとか、きゅうけつきさんだけとくべつとか……
そんなのは、そんなものはただのげんそうだっ!!!」
まりしゃの掌から放たれる、七色に輝く星の瞬き―――――スターダストレヴァリエが、
あらゆるものを飲み込んで、押し流していきます。
それは弾幕を、魔力を、感情すらも包み込んで……後に残ったのは、元の静けさでした。
……いえ、全てを押し流して残ったもの、それは……
「あはは……あははははは……」
「れ……みりあ、ちゃん……?」
突然肩を震わせて、笑い声を上げるれみりあ。『狂気』というエッセンスでコーディネイトされた自嘲が辺りに響きます。
今までに聴いた事の無い、コワれた笑い。それは二人を凍りつかせるのに十分過ぎるほどの恐怖でした。
「こわしてやる……みーんな、こわしてやるっ……
わたしはずっといきてきた……きゅうけつきとして、ひとりで……!
だれもいない……ずっとひとりで……ながいときをいきてきたのに……
こんな、ちっぽけなにんげんが……わたしをひていして、きょぜつしてっ……」
周囲に、まさしく瘴気ともいうべき魔力が立ち込めていきます。それはとても紅く、紅く……
れみりあ自身が、まるで紅そのものであるかのように―――――
「あっ……ぅあぁっ……」
「わたしはひいろをたぐり、うみだすもの! そしてわたしはそのしはいしゃ!
ばらばらのぐちゃぐちゃになって、しんくにそまれぇ!!」
比べ物にならない程の圧倒的な紅が生成され、操者の手を離れて二人に迫ります。
しかし、恐怖に全てを支配された二人は、身動きすらかないません。
そしてそのまま、瞳が、視界が真っ赤に染まって――――――――――
ドオオオオオオオオォォォォォォォン―――――――――――――――
「…………………………あれ?」
……何も起こりませんでした。少なくとも、まりしゃとれいむの二人には。
目の前には、紫の髪の少女……ぱちゅりーが、いました。
「……危ない所だったわ」
「えーと……何でここに……?」
「何でって……ハァ……とにかく、お喋りは後よっ……!」
ドオオオオォォォン―――――ドオオオオォォォン―――――
間断なく続く轟音。れみりあから放たれる凄まじい暴威を、ぱちゅりーが展開する六亡陣が全て防いでいます。
しかし、それも何時まで持つのか……ぱちゅりーの顔からは、明らかに焦りの色が見えました。
「くぅっ……何て力……!」
「あ、あの、えーと……」
「ここは私達に任せて、あなた達は早く逃げなさい」
「えっ……?」
「満月が、あの子を狂わせてる。それに何があったのか知らないけど、完全に我を忘れているわ。
だから……このままじゃ……」
少しずつ、ぱちゅりーの体が押されていきます。残されている時間はもう、あまりありません。
「分かったなら、早く行って……はっきり言って、足手纏いなのよっ……!」
「……!!」
そう言ってぱちゅりーは、全ての意識を前方に集中させて魔障壁を構築し、少しでも長く防御が持つように体勢を整えます。
その姿はまるで、言葉だけでなくその態度で、二人に退避を促しているようでした。
……ですが、二人にはここでは引けない理由があったのでした。それは……
「そんなの……そんなのだめだよ!」
「ここでわたしたちがにげちゃったら……また、おんなじことのくりかえしになる……だから……!」
「あっ、止まりなさい……!!」
ぱちゅりーの静止を振り切って、前方へと飛び出すまりしゃとれいむ。
一歩でも、一つでも、近くへ、側へ……
「こないで……わたしのそばにこないでぇ……!」
れみりあの暴走する力の矛先が、二人に向けられようとした、その時。
シャリイイイィィン―――――
聴き覚えのある鈴の音と共に、虹色に瞬く嵐のような弾幕が、れみりあへの目くらましのように広がっていきます。
鮮やかな色彩に目を奪われ、視界を一瞬失うれみりあ。
彼女のさらに上方から弾幕を繰り出すその姿は、紅魔館の門番、めいりんのものでした。
「めいりんちゃん!」
「もう、むちゃをしてっ……はやくにげなさい!!」
ぱちゅりーが、めいりんが、何度も何度も二人に「逃げろ」と言います。
本当なら、何もかも投げ打って逃げ出したい気分でした。そうできたならそんなにいいだろうか。
だけど……だけど、知ってしまったのです。本当の心を……
「もうこれ以上は持たない……!」
「いいから、はやくにげてっ……!」
まりしゃ達を懸命に援護する二人ですが、それもそろそろ限界でした。
それでもまりしゃとれいむは、懸命にれみりあに呼びかけます。
「れみりあちゃん、もうやめて! もういいの、もうだいじょーぶだから!」
「わけのわからないことをっ……!」
「ほんとは……ほんとは、さびしかったんでしょ!? かなしかったんでしょ!?
だったら……だったら、わたしが……わたしたちが、なるから……ともだちに……!!」
「!!!」
止まる攻撃。収まる暴走。呆然とするれみりあ。それは、他の皆も同じでした。
「ふ……ふふふ……ともだち……? なにをとうとつに……
わたしはずっとひとり……ともだちなんていらない……いないのにっ……!」
「じゃあどうして!? さっきまで、ずっとすごいこーげきだったけど……
でも、ぜんぶ、ちゃんとみちがあったのはどうして!?
れみりあちゃんのところにたどりつける、いっぽんのみちがあったのはどうしてよぉ!」
「! それは……それはっ……!!」
……確かにれみりあの力は、凄まじいものでした。ですが……その中にあっても、必ずどこかに……
れみりあの姿が見える、れみりあの元へ駆ける事の出来る道があったのでした。
その意味する所は、つまり……そういう事なのです。
そしてその意味に気付いたぱちゅりーも、ふらつく体を支えて力の限り叫びました。
「れみぃ……どうしてそんな事を言うの……?
私は、私たちは友達じゃなかったの!?」
「うそよ! ぱちぇはいつもとしょかんにこもりっきりで……
ずっとほんばっかりよんでて、わたしなんかよりほんのほうがたいせつなんでしょう!?
それに、いつもわたしのほうからぱちぇにあいにいくけど、ぱちぇのほうからわたしにあいにきたことがあった!?
そんなの……そんなのともだちなんていわないわよっ……!!」
「れみぃ……!」
「みんな、ほんとうはこわいんでしょう!?
きゅうけつきのわたしが……こわいって……!
うそなんかいらない、しょうじきにいいなさいよ、わたしがこわいって!」
「こわくなんかない!!」
まりしゃとれいむが、目いっぱい叫びます。
恐くない……確かにそれは嘘かもしれません。しかしそれ以上に二人の目に映っているのは、恐ろしい吸血鬼などではなく、
暗く広い闇の中で怯える、一人の女の子の姿でした。
そして、自分達ならその子を助けられる……いいえ、今助けなければ、みんなが不幸になる……そう確信していました。
だからこそ、小さな体を伸ばして、れみりあの手を取ろうとしているのです。
……だけど。
「ききたくない……そんなのききたくない……
もういや……やだ……みんな、みんながわたしを……くるしめる……
こんなの……こんなせかい……わたしをいじめるだけのこんなせかいなんていらない……
だったら……それだったら、なにもかもわたしのおもうとおりにかえてやる……
このげんそうきょうを……あれも、これも、ぜ~んぶ……あかく、あかいろにそまれっ……!!!」
サアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ―――――――――――――――
れみりあを中心として、この世の全てよりも紅い霧が放出され、じわじわと広がっていきます。
それは何もかも飲み込んで、ありとあらゆるものを飲み込んでいく恐るべき力。
やがてそれはまりしゃとれいむの足元まで迫り、二人を覆い尽くそうと魔の手を伸ばします。
「何してるの、早く離れて!」
ぱちゅりーの声も二人には届きません。それがれみりあの望みなら……望みのままにしてあげよう……
そしていつか、れみりあの手を繋ぐ時が来る……そう考えていたからです。
そして、紅い霧が二人の腰の所まで来た、その時でした。
キイイイイィィィン―――――
携えたそれぞれのナイフ。それは、さくやおねぇちゃんのもの。さくやのナイフがひとりでに宙に浮かび、
二人の胸の高さで静止して、切っ先をれみりあに向けます。
そして……れみりあ目掛け、一直線に飛んでいきました。
「これはさくやの……きゃあっ!?」
ナイフはれみりあの寸前で止まりました。
そしてナイフの軌道に沿って、紅い霧が切り裂かれて元の色を取り戻していきます。
「さくやおねぇちゃん……」
「まりしゃちゃん……いくよっ!」
「うんっ!」
紅の呪縛を解き放ち、さくやの示した道を抜けて、一気にれみりあに近付きます。
「さくやが……さくやまでわたしを……
いや……いやあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
接近する二人に向けて放たれる魔弾。
直撃するかに見えた刹那、まりしゃが飛び出してれいむの盾となり、その攻撃を一身に受け止めました。
魔力の殆どを防御に回したため、姿勢を維持出来なくなって落ちていくまりしゃ。
でも、その顔はとても素晴らしい笑顔でした。
「れいむちゃん……」
ニッ、と笑ってピースサイン。
「まりしゃちゃん……うんっ!」
ニッ、と笑ってブイサイン。二人には、これだけで十分でした。
「じぶんをぎせいにしてまもった……?
どうして……どうしてそんなことを……!?
わからない……それがともだち……ともだちなの……?
わからない……ともだち……わたしにはともだちなんていないから……わからない……!!」
眼前に繰り広げられる理解不能な出来事に恐慌をきたし、さらに荒れ狂う紅い暴力。
再び全てを飲みつくさんと、その絶望的な牙を剥き出しにして世界に襲い掛かります。
その時でした。
れいむが、泣きじゃくるれみりあを後ろからそっと抱き締めて。
そして、優しく囁きました。
いいよ―――――――――――――――
わたしと、ともだちに……なろっ―――――――――――――――?
ゴオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォン――――――――――
耳を劈く轟音と共に、世界が、幻想郷の全てが紅色に、染まっていきました―――――
-おしまい-
※次回予告
♪ランランラーンラーラー ランランラーンラーラー
ここは夏の日も眩しい幻想郷。
まりしゃとれいむはとっても仲良し、いつも二人一緒です。
おや? 今日は何だか賑やかですね。それは……
次回、魔法ょぅι゛ょまりしゃ・最終話!
「東方紅魔郷 ~never end,ever friends~」
さいしゅうかいもおたのしみにな!
♪ランランラーンラーラー ランランラーンラーラー
-つづく-
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
まほうのもりのおんなのコは(ランランラン、ラーラ)
とてもちいさな魔女っ子です(ランランラン、ラーラ)
おべんきょう げんそう郷
なりたいの
すてき魔法なおんなのコ
ぷきぷきぱよ
Ah さがしてアイテムさん
あれも これも
もっとしりたい
Ah してしてべんきょうさん
すごい ひみつ
いえないことぜんぶ
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
※第七話「決戦! 亡きょぅι゛ょの為のセプテット」
長い長い廊下を抜けると、そこは広いテラスでした。煌々と輝く月も、霧に覆われてその存在を揺らがせています。
「れいむちゃん……」
「うんっ……!」
霧の源、そして震えるほどの力が、高く聳え立つ館のさらに上から伝わってきます。
その頂を目指して一気に駆け上がっていくと、そこには満月を背に負った一人の女の子がいました。
……それは、一見普通で、ただ背中に翼を生やしているだけの、
だけど何かが危うい、それは天使のようで、紅くて―――――
「……やっぱり、にんげんってつかえないわね」
わお、可愛らしい外見とは裏腹に、いきなりきつい事を言います。
「きりをだしてるのはあなた? ……おねがい、いますぐきりをとめて!」
「どうして?」
「きりのせいで、おひさまがかくれちゃって……ずっとさむくて……
このままだと、むしさんとか、おはなさんとか、みんなしんじゃうんだよ……!?」
「だから?」
「……!」
冷たく言い放つその様子は、二人が今までに出会ってきたどの人や妖怪とも違っていました。
言葉に全く感情というものが感じられないのです。
「……わたしは、れみりあ・すかーれっと。きゅうけつきなの。
きゅうけつきは、ひにあたるとけむりになっちゃうのよ。だから、きりをだした。
それとも……なに? むしやおはなのために、わたしにしねっていうのかしら?」
「それは……」
言葉に詰まるまりしゃ。確かに、まりしゃから見ればれみりあの行為は許せない事です。
しかし、れみりあにとってはそれは当然の、自分が生きる為の行動です。
そこに、どちらが正しいとか間違ってるとかは無いのでした。
だから……そんな時は…………
「だったら……だったら、わたしたちとだんまくごっこでしょーぶだ!」
「だんまく……ごっこ?」
「わたしたちがかったら、きりをとめて!」
「じゃあ、わたしがかったら……? あなたたちのちは、おいしそうね……」
「うぅ……」
舌なめずりをするれみりあに、感じた事の無い恐怖心を抱く二人。
ですが、ここまで来て引き下がるつもりもありませんでした。
「うふふふふ……たかがにんげんのくせに、わたしとだんまくごっこだなんて……
こんなにつきもあかいから……たのしいよるになりそうね!!」
ブアアアアアアアァァァァァァッ…………!!!
霧越しに紅く見える月が、本来の色を取り戻していきます。
周囲に立ち込めていた霧が、本来あるべき場所―――――れみりあの元へと還り、還元されていくからでした。
そして、蝙蝠の様な羽とは別に、白く薄く輝く十二枚の光翼がその姿を現しました。
―――――月の力を一身に浴びた、れみりあの本気の力です。
「すっ、すごい……こんなの、かてっこないよ……!」
「だめだよまりしゃちゃん! よわきになっちゃだめ!
いつも、どんなときだって、ふたりでがんばってなんとかしてきたじゃない……!?」
「れいむちゃん…………うん、そうだね。ここでわたしたちががんばらなかったら……
よし、いっくぞー!」
弱気の虫が走るまりしゃを、れいむが励まします。
二人はいつだって、力を合わせて困難を乗り切ってきました。だから……今度だって、きっと……!
「……わたしはおさないけれど、あまたいるようかいにおそれられ、それをすべるもの。それがきゅうけつき。
それはにんげんだって、れいがいじゃないわ……!」
れみりあを中心として展開される魔方陣から、無数の光の帯が放たれました。
それは四方八方に伸び、世界を一瞬の内に引き裂いて、全てを区切っていきます。
間一髪回避した二人でしたが、その顔は驚きでいっぱいです。
「こんなれーざーみたいなの、どーやってよければ……」
「まりしゃちゃん、おちついてよくみて! ひかりのせんがみえるはずだから!」
「うふふ……よくよけたわね。つぎはどうかしら?」
しばらくしてレーザーは消え、辺りは何事も無かったかのように元の姿に帰ります。
そして、紅い魔力が再び収束して、第二派が……来ます!
「まりしゃちゃん、くるよ!」
「ひかりのせん、ひかりのせん……………………みえたっ!!」
レーザーが放たれる軌道上に、うっすらと浮かぶ一筋の光。それさえ分かってしまえば、もう恐いものはありません。
網の目のように張り巡らされるレーザーをかいくぐって、れみりあに肉薄します。
「そっちがれーざーなら、こっちはみさいるだ!」
まりしゃのマジックミサイルが、れみりあ目掛けて発射されます。
自分の攻撃を容易く回避された事に驚きの表情を浮かべていたれみりあも、すぐに平静を取り戻しました。……が。
「うふふ、こんなのろのろしたものが、わたしにあてられるとおもって…………
きゃぁっ!?」
れみりあの横を抜けていくと思われたミサイルが、その場で弾けてれみりあを押し飛ばしました。
バランスを崩されて、展開させた魔方陣もレーザーごと消え失せます。
「どうだっ!」
……しかし、れみりあの余裕の表情は変わりません。
「うふふふふ……
あくまのきみにてをあげるなんて、わるいこねぇ……
わるいこは、じごくのはりのやまでおしおきされるのよ?」
れみりあの背後に開く、底無しに冥い狭間の奥から飛び出す、無数の針。
罪を犯した亡者に贖罪の苦しみを与えんと、目も眩むほどの紅い針が空間を埋め尽くし飛び交います。
二人は僅かな隙間に身を合わせて回避していますが、かすめた針が衣服に穴を開けていきます。
「いたたたた、ちくちくしていたい!」
「あーっ、このおようふく、おきにいりなのにー!」
会話の内容は何だかのほほんとしていますが、その目は全く笑っていません。
それはそうでしょう、一瞬でも気を抜いたら体中が針鼠のようになる事を、二人は良く分かっていました。
「よけることだけはじょうずね……
よわいから、きけんにびんかんになるのかしら……?」
「くそーっ、ばかにされてるよ!」
「あくまとかじごくとか、わたしだってみこさんなんだから!」
あまり自覚としては感じていませんが、一応れいむは巫女さんです。
悪魔払いに悪霊退散……本当はちょっと違うのですが、神の力を行使するという点では同じです。
懐から取り出した一枚の符に、霊力と念を込めて放ちました。
「われ、ゆめにおもいたてまつらん、うつしよにけんげんせよ……
そはじゃをふうじるしるしなり! むそーふいーん!!」
それは、さくやと対峙した時に使った夢想封印でした。が、先と違うのは光球はその場に留まる事無く、
れみりあの背後に開く狭間目掛けて放物線を描き飛んでいった点です。
四つの光が順番に弾け、その度に闇へと続く扉が塞がっていき、やがて完全に閉じられました。
源を失った針はやがて現界の宙に霧散し、跡形も無く消え失せていきます。
「くっ……ううっ……」
……そして、その場にいたれみりあも無傷では済みませんでした。
巫女の力は退魔の力……それはれみりあにとって相反する、決して受け入れられないものなのですから。
「こんどこそ、どうだっ! まいったか!」
胸を張るれいむ。……ですが、おや? れみりあの様子がちょっと変ですねぇ。
ダメージはさほどでも無いようですが、自分自身を抱き締めて俯いたまま震えているようです。
「どうして……どうして……?」
「えっと……、あの……」
先程までの余裕からは想像もつかない変わりっぷりに戸惑う二人、思わず心配して声を掛けようとします。
……が、それはとても甘い考えだった事に、すぐに気付かされるのでした。
「たかがにんげんのくせに、わたしにはむかって! わたしにさからって!
さっさとどこかにいってしまえばいいのに……どうしてっ……!」
「なっ、なに……? なにをいってるの……?」
「……あのこ……」
呆然とするまりしゃとれいむ。しかし、その意味は異なっていました。
「まりしゃ……あのね……」
「どうして……どうしてどうしてどうしてっ……!!」
ザアアアアアアアアァァァァァァァァッ――――――――――
これまでよりもさらに強力な力の奔流が、れみりあから発せられます。
幼く小さな体のどこに、こんな力が隠れていたのでしょうか……?
「にんげんのくせに、あなたたちっ……わたしがこわくはないの!?
わたしは……わたしは、あらゆるものにいふされるそんざい、きゅうけつきなのよ!?」
それはまるで獣の爪の如く広がり、無数の弾幕となって二人を閉じ込めます。
しかし、その表情に恐れは最早ありませんでした。……それまで見えなかったものが、見えたからでしょう。
恐怖心の無くなった今、動き一つを見ても迷いを感じさせず、一つの目的に向かってただ走るのみです。
「なんで、なんでそんなかんたんによけられるの……!?
なんで、そんなじゆうにとびまわれるのっ……!?」
本気になったれみりあの力は、弾幕ごっこを超えて二人を落とそうとしています。
ですが、二人は怯える所かむしろ、笑っていました。
「れみりあちゃん……だっけ?
れみりあちゃんもじゆうじゃない! そのきれーなつばさはなんのためにあるの!?」
「そーだよ! いつだって、じゆうにとべるはずだよ!」
懸命に呼び掛けるまりしゃとれいむ。だけど、皮肉にもその言葉一つ一つが、れみりあをさらに苦しめます。
「じゆう……じゆうなんかじゃないっ!
わたしは……わたしはいつだって、しばられてる……きゅうけつきに……たいようだって……
わたしはみんなとはちがうのよっ……!」
「ちがうもんか!!」
まりしゃが一際大きな声を上げます。多少の被弾は意に介さず、少しでもれみりあの元に近付こうと必死でした。
「ちがう……なにがちがうというの!?」
「みんな、いっしょだよ……
むしさんもおはなさんも、わたしたちもようかいさんもせいれいさんも、みんないっしょうけんめいにいきてる……
だから……だから、しばられてるとか、きゅうけつきさんだけとくべつとか……
そんなのは、そんなものはただのげんそうだっ!!!」
まりしゃの掌から放たれる、七色に輝く星の瞬き―――――スターダストレヴァリエが、
あらゆるものを飲み込んで、押し流していきます。
それは弾幕を、魔力を、感情すらも包み込んで……後に残ったのは、元の静けさでした。
……いえ、全てを押し流して残ったもの、それは……
「あはは……あははははは……」
「れ……みりあ、ちゃん……?」
突然肩を震わせて、笑い声を上げるれみりあ。『狂気』というエッセンスでコーディネイトされた自嘲が辺りに響きます。
今までに聴いた事の無い、コワれた笑い。それは二人を凍りつかせるのに十分過ぎるほどの恐怖でした。
「こわしてやる……みーんな、こわしてやるっ……
わたしはずっといきてきた……きゅうけつきとして、ひとりで……!
だれもいない……ずっとひとりで……ながいときをいきてきたのに……
こんな、ちっぽけなにんげんが……わたしをひていして、きょぜつしてっ……」
周囲に、まさしく瘴気ともいうべき魔力が立ち込めていきます。それはとても紅く、紅く……
れみりあ自身が、まるで紅そのものであるかのように―――――
「あっ……ぅあぁっ……」
「わたしはひいろをたぐり、うみだすもの! そしてわたしはそのしはいしゃ!
ばらばらのぐちゃぐちゃになって、しんくにそまれぇ!!」
比べ物にならない程の圧倒的な紅が生成され、操者の手を離れて二人に迫ります。
しかし、恐怖に全てを支配された二人は、身動きすらかないません。
そしてそのまま、瞳が、視界が真っ赤に染まって――――――――――
ドオオオオオオオオォォォォォォォン―――――――――――――――
「…………………………あれ?」
……何も起こりませんでした。少なくとも、まりしゃとれいむの二人には。
目の前には、紫の髪の少女……ぱちゅりーが、いました。
「……危ない所だったわ」
「えーと……何でここに……?」
「何でって……ハァ……とにかく、お喋りは後よっ……!」
ドオオオオォォォン―――――ドオオオオォォォン―――――
間断なく続く轟音。れみりあから放たれる凄まじい暴威を、ぱちゅりーが展開する六亡陣が全て防いでいます。
しかし、それも何時まで持つのか……ぱちゅりーの顔からは、明らかに焦りの色が見えました。
「くぅっ……何て力……!」
「あ、あの、えーと……」
「ここは私達に任せて、あなた達は早く逃げなさい」
「えっ……?」
「満月が、あの子を狂わせてる。それに何があったのか知らないけど、完全に我を忘れているわ。
だから……このままじゃ……」
少しずつ、ぱちゅりーの体が押されていきます。残されている時間はもう、あまりありません。
「分かったなら、早く行って……はっきり言って、足手纏いなのよっ……!」
「……!!」
そう言ってぱちゅりーは、全ての意識を前方に集中させて魔障壁を構築し、少しでも長く防御が持つように体勢を整えます。
その姿はまるで、言葉だけでなくその態度で、二人に退避を促しているようでした。
……ですが、二人にはここでは引けない理由があったのでした。それは……
「そんなの……そんなのだめだよ!」
「ここでわたしたちがにげちゃったら……また、おんなじことのくりかえしになる……だから……!」
「あっ、止まりなさい……!!」
ぱちゅりーの静止を振り切って、前方へと飛び出すまりしゃとれいむ。
一歩でも、一つでも、近くへ、側へ……
「こないで……わたしのそばにこないでぇ……!」
れみりあの暴走する力の矛先が、二人に向けられようとした、その時。
シャリイイイィィン―――――
聴き覚えのある鈴の音と共に、虹色に瞬く嵐のような弾幕が、れみりあへの目くらましのように広がっていきます。
鮮やかな色彩に目を奪われ、視界を一瞬失うれみりあ。
彼女のさらに上方から弾幕を繰り出すその姿は、紅魔館の門番、めいりんのものでした。
「めいりんちゃん!」
「もう、むちゃをしてっ……はやくにげなさい!!」
ぱちゅりーが、めいりんが、何度も何度も二人に「逃げろ」と言います。
本当なら、何もかも投げ打って逃げ出したい気分でした。そうできたならそんなにいいだろうか。
だけど……だけど、知ってしまったのです。本当の心を……
「もうこれ以上は持たない……!」
「いいから、はやくにげてっ……!」
まりしゃ達を懸命に援護する二人ですが、それもそろそろ限界でした。
それでもまりしゃとれいむは、懸命にれみりあに呼びかけます。
「れみりあちゃん、もうやめて! もういいの、もうだいじょーぶだから!」
「わけのわからないことをっ……!」
「ほんとは……ほんとは、さびしかったんでしょ!? かなしかったんでしょ!?
だったら……だったら、わたしが……わたしたちが、なるから……ともだちに……!!」
「!!!」
止まる攻撃。収まる暴走。呆然とするれみりあ。それは、他の皆も同じでした。
「ふ……ふふふ……ともだち……? なにをとうとつに……
わたしはずっとひとり……ともだちなんていらない……いないのにっ……!」
「じゃあどうして!? さっきまで、ずっとすごいこーげきだったけど……
でも、ぜんぶ、ちゃんとみちがあったのはどうして!?
れみりあちゃんのところにたどりつける、いっぽんのみちがあったのはどうしてよぉ!」
「! それは……それはっ……!!」
……確かにれみりあの力は、凄まじいものでした。ですが……その中にあっても、必ずどこかに……
れみりあの姿が見える、れみりあの元へ駆ける事の出来る道があったのでした。
その意味する所は、つまり……そういう事なのです。
そしてその意味に気付いたぱちゅりーも、ふらつく体を支えて力の限り叫びました。
「れみぃ……どうしてそんな事を言うの……?
私は、私たちは友達じゃなかったの!?」
「うそよ! ぱちぇはいつもとしょかんにこもりっきりで……
ずっとほんばっかりよんでて、わたしなんかよりほんのほうがたいせつなんでしょう!?
それに、いつもわたしのほうからぱちぇにあいにいくけど、ぱちぇのほうからわたしにあいにきたことがあった!?
そんなの……そんなのともだちなんていわないわよっ……!!」
「れみぃ……!」
「みんな、ほんとうはこわいんでしょう!?
きゅうけつきのわたしが……こわいって……!
うそなんかいらない、しょうじきにいいなさいよ、わたしがこわいって!」
「こわくなんかない!!」
まりしゃとれいむが、目いっぱい叫びます。
恐くない……確かにそれは嘘かもしれません。しかしそれ以上に二人の目に映っているのは、恐ろしい吸血鬼などではなく、
暗く広い闇の中で怯える、一人の女の子の姿でした。
そして、自分達ならその子を助けられる……いいえ、今助けなければ、みんなが不幸になる……そう確信していました。
だからこそ、小さな体を伸ばして、れみりあの手を取ろうとしているのです。
……だけど。
「ききたくない……そんなのききたくない……
もういや……やだ……みんな、みんながわたしを……くるしめる……
こんなの……こんなせかい……わたしをいじめるだけのこんなせかいなんていらない……
だったら……それだったら、なにもかもわたしのおもうとおりにかえてやる……
このげんそうきょうを……あれも、これも、ぜ~んぶ……あかく、あかいろにそまれっ……!!!」
サアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ―――――――――――――――
れみりあを中心として、この世の全てよりも紅い霧が放出され、じわじわと広がっていきます。
それは何もかも飲み込んで、ありとあらゆるものを飲み込んでいく恐るべき力。
やがてそれはまりしゃとれいむの足元まで迫り、二人を覆い尽くそうと魔の手を伸ばします。
「何してるの、早く離れて!」
ぱちゅりーの声も二人には届きません。それがれみりあの望みなら……望みのままにしてあげよう……
そしていつか、れみりあの手を繋ぐ時が来る……そう考えていたからです。
そして、紅い霧が二人の腰の所まで来た、その時でした。
キイイイイィィィン―――――
携えたそれぞれのナイフ。それは、さくやおねぇちゃんのもの。さくやのナイフがひとりでに宙に浮かび、
二人の胸の高さで静止して、切っ先をれみりあに向けます。
そして……れみりあ目掛け、一直線に飛んでいきました。
「これはさくやの……きゃあっ!?」
ナイフはれみりあの寸前で止まりました。
そしてナイフの軌道に沿って、紅い霧が切り裂かれて元の色を取り戻していきます。
「さくやおねぇちゃん……」
「まりしゃちゃん……いくよっ!」
「うんっ!」
紅の呪縛を解き放ち、さくやの示した道を抜けて、一気にれみりあに近付きます。
「さくやが……さくやまでわたしを……
いや……いやあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
接近する二人に向けて放たれる魔弾。
直撃するかに見えた刹那、まりしゃが飛び出してれいむの盾となり、その攻撃を一身に受け止めました。
魔力の殆どを防御に回したため、姿勢を維持出来なくなって落ちていくまりしゃ。
でも、その顔はとても素晴らしい笑顔でした。
「れいむちゃん……」
ニッ、と笑ってピースサイン。
「まりしゃちゃん……うんっ!」
ニッ、と笑ってブイサイン。二人には、これだけで十分でした。
「じぶんをぎせいにしてまもった……?
どうして……どうしてそんなことを……!?
わからない……それがともだち……ともだちなの……?
わからない……ともだち……わたしにはともだちなんていないから……わからない……!!」
眼前に繰り広げられる理解不能な出来事に恐慌をきたし、さらに荒れ狂う紅い暴力。
再び全てを飲みつくさんと、その絶望的な牙を剥き出しにして世界に襲い掛かります。
その時でした。
れいむが、泣きじゃくるれみりあを後ろからそっと抱き締めて。
そして、優しく囁きました。
いいよ―――――――――――――――
わたしと、ともだちに……なろっ―――――――――――――――?
ゴオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォン――――――――――
耳を劈く轟音と共に、世界が、幻想郷の全てが紅色に、染まっていきました―――――
-おしまい-
※次回予告
♪ランランラーンラーラー ランランラーンラーラー
ここは夏の日も眩しい幻想郷。
まりしゃとれいむはとっても仲良し、いつも二人一緒です。
おや? 今日は何だか賑やかですね。それは……
次回、魔法ょぅι゛ょまりしゃ・最終話!
「東方紅魔郷 ~never end,ever friends~」
さいしゅうかいもおたのしみにな!
♪ランランラーンラーラー ランランラーンラーラー
-つづく-