Coolier - 新生・東方創想話

カゴメカゴメ

2004/01/14 11:08:03
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かーごめかーごーめ
かーごのなーかのとーりーは
いーつーいーつーでーやーる
よーあけーのばーんに
つーるとかーめがすーべった
うしろのしょうめんだーれ



「・・・誰?」

小鳥が呟いた
ぽつんと置き忘れられた籠の中の一羽
囀ろうにも耳を傾けてくれる人はいない
抗おうにも籠を揺するいたずらっ子はいない
波すら起こらぬ静寂
耐え切れなくなって小鳥は籠に身体をぶつけた
ぐしゃりと翼が折れる音
その音を聞いていくらか気が楽になった
そしてそのまま動かなくなり、折れた翼を休めて眠る







「・・・?」

何かに呼ばれたような気がして小鳥が振り向く
だがそこには空虚な闇が広がるばかり
とてつもなく狭い籠の中
だけどその小鳥にとっては、それが知るうちの一番大きな空間
そこに居るのが当たり前で
そこに居続けるのが全てであった
小鳥は何を願っているのか
何を望んでいるのか
小鳥が囀りだす
高く、幼い、華麗な声で囀りだす
しかし時を経るごとにそれは苦しみへと変わり、叫びに変貌し、最後には嘆きだけが残った
小鳥はまた動かなくなり、潰れた喉を休めて眠る






「・・・・・・」

その日は籠の戸が開いていた
だが小鳥は出ようとはしなかった
ただずっと繰り返される音を聞いていた
何かが壊れる音
何かが砕ける音
何かが裂ける音
何かが引きちぎられる音
何かが食いちぎられる音
何かが消える音
その小鳥は初めて自分が奏でる以外の音を聞いた
その音をただ、嬉しそうに聞いていた
しばらくすると何も聞こえなくなった
また再び時が静寂に戻りだす
しかし音に魅入られた小鳥は迫りくる静けさをかき消そうと暴れだす
壊す音
砕く音
裂く音
引きちぎる音
食いちぎる音
消される音
何度も何度も、記憶に残るその音を再現しようとする
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も━━━━━━
しかしそれはうまくいかなかった
小鳥は苛立ち、最後には自分の頭を音が聞こえなくなるまで籠に打ち続けた
小鳥はまた動かなくなり、潰れた頭を休めて眠る








かーごめかーごーめ
かーごのなーかのとーりーは
いーつーいーつーでーやーる
よーあけーのばーんに
つーるとかーめがすーべった


「・・・」

小鳥が目が覚めると折れた翼は治っていた
潰れた喉も治っていた
潰した頭も治っていた

全てを覆う籠を見上げて

「うしろのしょうめん・・・だーれ・・・」

頭の中に響いていた声
誰かに呼ばれているような音
その最後のフレーズを口ずさんだ

その翼で羽ばたけば、何かが変わったかもしれない
その喉で囀り続ければ、嘆きが憂いへと変わったかもしれない
開いた戸に手をかけて外に飛べば、音以外のものを感じることができたかもしれない

なぜそうしなかったのか
それは小鳥自身にもよくわからなかった
落ちていく意識の中で何度も呟いた

「うしろのしょうめん・・・だーれ・・・」




ある日、目が覚めると一汲みの水差しが置いてあった
見ると紅い水が入っていた
小鳥は酷く喉が渇いていたのか気にせず飲みほした
誰が置いてきたのか
誰がここに着たのか
それは何だったのか
考えることも出来ず、ただ小鳥は飲みほした
その日小鳥は夢を見た


この籠から飛び出て空を自由に飛ぶ
さんさんと照りつける太陽を翼に感じて
風を追い越し、また風に追いつかれる
そんなことがとても嬉しかった
飛び飽きれば木陰に休み
お腹が空けば木の実を啄ばむ
そしてまた飛び立ち、休み、飛び立ち、時が過ぎる
日が落ち暗くなると、木の洞で翼を休めて明日を待つ


そんな夢を見続けた
楽しい夢を見続けた




だけど小鳥はまた・・・籠の中へと帰っていった


なぜ帰ってきてしまったのか小鳥はわからなかった










目が覚めると前と同じ場所に水差しが置かれていた
いや、これは自分でその場所に戻したのだったと思い出す
しかしそこにはまた紅い水が入っていた
全部飲んだはずなのに
小鳥は不思議に思ってその水差しを眺めた
淡い期待が胸に宿る
飲み続ければ、いつか水差しの主と出会うことができるかもしれない・・・
小鳥はそれをまた飲みほし、いつも置いてある場所に水差しを返した





そんな日が何日も続いた
夢から目が覚めるといつも汲んである紅い水
気が付くと小鳥はそれを楽しみにしていた
これを飲んでいれば誰かが私を見ててくれている
そう考えるとなぜだか元気になれる
そんな想いで小鳥はそれを飲み続けた






ある日、紅い水がぱたりと汲まれなくなった
小鳥は不安になった
何日も何日も待った
ある時は寝ないで待ち
またある時は寝続けて待った
しかしその水差しに紅い水は汲まれることはなかった
小鳥の頭に一つの言葉が浮かんだ




─────────ミステラレタ



考えるのをやめようとしてもその言葉が頭から離れない



─────────ミステラレタ ミステラレタ ミステラレタ ミステラレタミステラレタミステラレタ



「やめて・・・」



─────────ミステラレタ ダレモオマエナドミナイ ミステラレタ ダレモカマイヤシナイ ミステラレタ ダレモシロウトシナイ ミステラレタ



「やめて・・・やめてやめてやめてやめてやめて!!!」



─────────オマエ二ハモウ ダレモ イナインダ



「・・・っぁぁあああああああ!!!」










声が聞こえなくなるころには













小鳥の頭はなくなっていた












また小鳥の目が覚める
首と頭はちゃんと繋がっていた
紅い水の主は幻だったのだろうか
思い出して水差しを見る


紅い水が入っていた


思わず小鳥は飛びついて水差しを持ち上げる


「どうして・・・・・・っひゃ!?」


いきなり小鳥の目に水滴が落ちてきた
それは紅い水だった
籠の天井を見ると、そこには大きな亀裂が出来ていた
また一滴、紅い水滴が落ちてくる
ネタが割れればたいしたことは無かった
亀裂を伝って籠の中に紅い水が染み出していただけのこと

「・・・なんだ」

見捨てられたのではなかったという安らぎと
結局誰もいなかったのだという絶望が


小鳥を覆う・・・・・・










かーごめかーごめ
かーごのなーかのとーりは
いーつーいーつーでーやーる
よーあけーのばーんに
つーるとかーめがすーべった


「うしろのしょうめんだーれ・・・」

久しぶりに聞こえた声に言葉を合わせ
小鳥が振り向く
そこには誰もいなかった

なんだか無性に眠りたくなった
何も考えず、何も信じず、何も感じず
ただ眠りたくなった

揺れない籠の中で小鳥は横になる
自分の影を見つめてため息を漏らす
そのため息で影が揺れたような気がした


・・・今思えば、この籠の中で最初から一緒に居てくれた唯一の存在だった


決して離れず
生まれたときから同じ時を歩むもう一人の自分
いつごろからか気になりだした背後
そして・・・自分が望んでいたこと


ようやく小鳥は気づいた




「あなたが、いつも私を呼んでくれてたのね」




影に手を当てる
影もその手を握り返すように同じように当ててくる
当たり前といえば当たり前なのだが
そんなことですら、この小鳥には嬉しかった

「でも私はあなた、あなたは私、ちょっと呼びづらいかも」

何かを思いついたのか
小鳥は起き上がり影に話し掛ける



───私の名前は・・・


───私よりちょっと背が高いからあなたがお姉様ね


───あなたの名前は・・・んーっと


───・・・・なんてどう?素敵な名前でしょ、お姉様


───私たちは・・・ずっと・・・一緒・・・



なぜ夢を見たとき、また籠の中に帰ってきてしまったのだろうか
小鳥はやっとわかった
いくら自由でも、いくら楽しくても、いくら生きていても


独りが怖かったのだ



いつの間にか頬を伝っていた涙と共に
小鳥は籠に映る影を愛しそうに抱いた




例え籠の中でも、例え幻であっても・・・いつまでも離れることのない・・・もう一人の自分を見つけたから










小鳥は唄う





かーごめかーごめ(生まれたときから死ぬときまで)



 かーごのなーかのとーりーは(ずっと一人で居る私は)



  いーつーいーつーでーやーる(いつ一緒にここから出られる人と出会えるの)



   よーあけーのばーんに(私が生きている間に)



    つーるとかーめがすーべった(もし天と地が逆転するような時がくるなら)



     うしろのしょうめんだーれ(それまでにはきっと自分じゃない誰かの笑顔が見られるよね)
書き終わった自分の第一声
「鬱という字を使ってでっかく鬱って書けそうな内容になった気がする」

作中のキャラクターが誰とはあえて名前を書いておりませんが
いろんなワードでそのキャラを特定できた方がここまで読んでくれたことと思います
わかってくれてありがとう
ここまで読んでもわかんねぇって人いたら素直にごめんなさい

カゴメカゴメにはいろんな逸話がありますが
解釈は人それぞれでとても面白いですね
ここで私の解釈全部書き出すと長くなりそうなので割愛
どうしてもって人は(いるのか?)コメントにここ教えろわかりにくいと書いてくださいませ

P.S 某氏へ
誕生日おめでとう 遅れたけどバースディプレゼントのSSです
鷲雁
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コメント



0.540簡易評価
1.40マグ削除
心が侵食されるように、自分の中に浸透していきました。朝に読む内容では無かったかも(笑)
2.30陽炎削除
童謡は……じんわりと、怖いです
16.80名前が無い程度の能力削除
私は流産の唄と聞いていましたが、この解釈は綺麗ですねー。

こういう雰囲気、私は大好きです。ご馳走様でした(笑