なんだかだるい夕暮れ
日が落ちてゆくのを眺めながら、紅白の巫女は縁側に寝そべった
毎日眺める夕日がいかに美しかろうと見続ければ飽きる
ごろん・・・ごろん・・・ごろん・・・
転がってみる
さほど面白くなかった
そういえば昨日も同じようなことをした気がする
このまま寝てしまおうか、そうしよう
夕暮れを肴に惰眠という美酒を飲む・・・最高かもしれない
そう考えがまとまってうつ伏せになった
・・・途端に冷たい風が吹き抜けた
寒かった
動きたくないがこのまま寝ると凍え死んでしまうような気がする
でも動くのは面倒くさい
おもむろに両手を天にかざす
寝そべったままで、そしてやる気のない声で
「風よ、やめ~」
「・・・何やってるの霊夢?」
いつの間に入ってきたのか、紅い悪魔が声をかけてきた
「まったく、いつ来たのよ」
湯気の立つ鍋を二人で囲みながら文句をいってみる
日は完全に沈み、灯ったランプがほんのり明るい
「一応戸は叩いたわよ、壊れたけど」
「壊すなっ!」
さっきから風の通りがいいはずだ
直すのは誰だと思ってるのだろう
「だからお詫びに今日は晩御飯持ってきたじゃない」
「じゃあレミリアは初めから戸を壊す予定で来たわけね」
「細かいことは言っちゃ駄目よ、さ、食べて食べて」
そう言いつつ、肉やら野菜やらをよそってくる
レミリアは材料持ってきただけで作ったのは私なのだが・・・
「作っといてなんだけど、これちゃんと食べられるものなんでしょうね」
「多分大丈夫だと思うわ、人選は咲夜に任せたし」
「・・・人選・・・ね」
いい感じにサシのはいった肉を箸でつまんで一瞥する
何をどう人選したのかは聞かないでおくことにしよう
改めて、口に運ぶ
横目でレミリアを見ると、ニコニコしながらこっちを見ている
「・・・何よ」
どうも食べているところをじっと見られると、なんてゆうかこう・・・食べにくい
なんだか急にこっぱずかしい感情が溢れてくる
何か気を反らせる対象はないかと眼をうろつかせた
「あ、ほら、あんたの器何にもはいってないじゃないの、いれてあげるわよ」
「あ、私はいいわよ」
「何言ってんの、レミリアが持ってきたんじゃない、血ばっかり飲んでると栄養偏るわよ」
吸血鬼に対して無茶苦茶な言い分だ
そしてレミリアにもこんもりよそってやる
「私もう食事は済ませてきたんだけど」
そう言いつつも、もそもそと食べだす
「あ、おいしい」
「でしょう、やっぱり寒い時は鍋ねぇ、たまにはこういうのもいいでしょ?」
「そうね、たまにはこんな時間を過ごすのもいいかもしれない」
「あはは、そうね、レミリア━━━━━━」
ざっと立ち上がりお祓い棒を突きつける
「で、あんたは何者?」
「・・・何言ってるの霊夢」
鍋と器から漏れる湯気だけが静まり返る空気を彩る
まったくわけがわからないといった風にレミリアが見返していた
まぁここで素直に正体見せるなら初めから変装なんかしないだろう
「シラきるならそれでもいいけどさ、私今結構怒ってるから手加減できないわよ」
「な、霊夢・・・私よ、レミリアよ!!」
「迫真の演技ね、ただし見限られた役者は大人しく舞台を降りるものだわ」
「・・・・・・」
レミリアが黙る
瞳から涙がぽたぽた落ちていた
「どうすれば・・・信じてくれるの霊夢」
「・・・そうね」
いいかげん相手にするのは疲れたので、手っ取り早い方法を口にする
「それじゃあ、私を殺してみなさい」
「・・・え」
「あんたが本物のレミリアなら私を殺せるはずよ」
そう言ってレミリアを外に蹴り飛ばす
相手のことなどお構いなしに自分も空中に舞った
「まったく、一年に一回はあんたみたいなのがくるのよ、夢想封印!!」
集束した光が弾となりレミリアめがけて飛んでいく
「くっ、スターオブダビデ!!」
幾本ものレーザーと弾幕に阻まれ、霊符は輝きを失ってゆく
「へぇ、ちゃんとレミリアのスペルカードは使えるんだ」
「・・・なぜわかった、博麗の巫女」
「簡単、昨日私とレミリアは一緒に鍋を食べているの、それだけよ・・・化けた相手のスケジュールくらい把握しておきなさい」
「なるほどな」
「ついでにあんたの能力も当てて上げましょうか?他者の存在をコピーする程度の能力、違う?」
「わかったところでどうなるわけでもない、今私はスカーレットデビルなのだから」
そういってにやりと笑み、風を切る
「冥符 紅色の冥界!!」
血の雨が刃になって降り注ぐ、かなりの物量だが避けられない速度ではない
ましてやこの技を受けるのは二度目だ
「この程度なのかし・・・」
そこで急激に体に負荷がかかる
避けられたはずの血の雨が体中に突き刺さってきた
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
血が滲み、服の白い箇所が紅く、紅い箇所はさらに紅く・・・
「ふはははは、運命を操作するとはこういうことか、さしずめ今のは弾幕を避けられない運命といったところだな」
「ふん、コピーの分際で頑張るじゃない・・・」
刺したように痛む腕を抑えつつ、霊夢が体勢を立て直す
血を拭いながらキッと睨む
「どうせあんたの狙いは博麗大結界、でしょ」
「その通り、私の力とこの紅い悪魔の力があれば人の世など脆く滅びさる」
「妖怪はワンパターンね、それに似た科白はもう聞き飽きてるの」
「なら喜べ、これが最後になるだろう」
「言うと思った、それも聞き飽きてるわよ」
相手は言いたい事は言い切ったようだ
本気で戦闘体勢に入るレミリア
対する霊夢はというと・・・手洗いでこの血汚れが落ちるのかを真剣に考えていた
「いくぞ、博麗の巫女!!」
レミリアの撃つ紅いナイフが首を断絶するの如く空を翔ける
それをギリギリのところで避け、次の追撃に備える
が、それはやってこなかった
余裕の現われだろうか、こちらをニヤリと見据える
いや・・・これは・・・
「呪詛 ブラド・ツェペシュの呪い!!」
「夢符 封魔陣!!」
そういえばそんな技もあったなと、その軌跡上に現れた血の爆弾を消し飛ばす
まだ余裕の笑みを浮かべ、まるで楽しんでいるかのように次々と攻撃を繰り出してくる
「紅符 スカーレットシュート!!」
「霊符 夢想封印 散!!」
幾度となく撃ち出され、激しくぶつかり合う符と符
何度も何度も何度も何度も何度も何度も
何分くらい戦っていただろうか・・・だんだんとそいつに焦りの色が浮かぶ
「なぜだ・・・」
急に悪魔が吠えだした
「なぜ死なない!!私は運命を操っているんだぞ!!」
「だから言ったでしょ、本物じゃないと私は殺せないって」
「私には本物と同じ力があるはずだ!!」
はぁ・・・とため息をつく
なんだか戦意が失せてきた
いや、初めからあんまり無かったが
「本物とあんたじゃ、決定的な違いがあるわ」
「・・・なに!?」
「本物のレミリアはね・・・」
そこですぅっと息を吸い込み、漠然と言い放つ
「一度私に負けてるから私を殺せるのよ」
そう言うやいなや懐にもぐりこんだ
「これで詰み、夢符 二重結界!!」
「ぐ、ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁ!!!」
霊夢を中心に符の力が広がり回転し、そいつの体を蝕んでいく
ついには耐え切れなくなったか、力尽きて落ちていった
それを鬱陶しそうに見下ろして霊夢は呟いた
「まぁそんな小難しいことよりも、私はあんたみたいなのがレミリアの姿をしてるのが許せない、それが負けない理由」
吐き捨て髪をかきあげる
そして面倒くさそうに一言
「あんたも覗き見するくらいなら手伝いなさいよ」
「気づいてたの、さっすが霊夢」
完全に気配消してたつもりなのにと紅い悪魔、レミリア・スカーレットが舞い降りてきた
あれで気配を消していたつもりなのだろうか
私にも伝わってくるくらいの凄まじい殺気が奴に向けられていたのに・・・
まぁ、気づいてないのはあいつだけだったんだろうな・・・まったく中途半端なやつだ
そう思って今一度それが墜落したあたりを見つめる
「強大な力・・・それ故の欠落ね」
「それを自覚できなかったから・・・私は霊夢に勝てなかった」
そうでしょ、とレミリアの紅い眼が怪しく光る
フリルが風に揺れ、髪がたなびいた
チラッと見ると少なからず頬が昂揚しているようにも見える
弾幕る気満々かしらもしかして
「だから一度負けた私はもう負けないわ、いえ、負けることが出来ない」
笑みながら甘えるようにレミリアが抱きついてくる
「あの妖怪は私の力に溺れてしまっていたのね、だから『博麗霊夢は私に殺される』という簡単な運命操作すら見えなかった」
「自分の負けが想像できなかったんでしょう、前やった時のレミリアみたいに」
「ふふ、そんなこともあったわね」
あ、ちょっとムッとしたかしら
まぁお互い認めてる事実なんだけど
「ところで吸血鬼のお嬢様は一体何の用?」
「散歩手柄にちょっと寄っただけよ」
「へぇ、毎日散歩のついでにココに寄るんだ」
「駄目かしら?それに・・・いくら五月蝿い蝿でも叩き潰したくは無いでしょう、手が汚れるから」
「・・・まぁね」
急に下の方がざわめきだし、大地が揺れた
「まだだ、まだだまだだまだだまだだまだだぁぁぁ!!!」
轟音にも聞こえる悲痛な叫び
凄まじい勢いでこちらに飛んでくる
「私は紅い悪魔だ!!負けるはずがないのだぁぁぁぁ!!!喰らえ、レッドマジッ・・・」
いつの間に移動したのかレミリアが立ちはだかる
その瞳は血のように紅く、深い・・・深い・・・深い・・・
紅に魅入られてしまったのかどうなのか、ガタガタと震えだしもはや何も見えていない
「私今いい気分だから、一瞬で殺してあげるわ・・・ほら、こんなにも紅い月」
「ひ!あひ、あひゃぃぃぁぁゃぁ!!」
本物に対する畏怖か、それとも圧倒的な力に対する畏敬か
どっちにせよ、もう運命は決まっていた
「レッドマジック━━━━━━━!!」
ボシュッと音を立てて、レミリアがレミリアを肉塊に変えた
くすくすと笑いながらレミリアは飛び散った血液を舐めとる
見てるのも面倒くさかったので明後日の方向を見上げて一人ごちる
「だから言ったんだけどねぇ・・・詰みだって」
はぁ・・・とため息を一つ
てゆうか、もって来た鍋の具材に毒でも仕込んでおけばよかったんじゃないだろうか
そこまで考えが及ばないほどレミリアの力に自信があったのだろうか
「どっちにせよ馬鹿ってことね」
「馬鹿って私のこと?」
「あんたは大馬鹿」
なんとなく戻る気がしないくらい、いい夜だった
ちょこんと私の膝に座って一緒に星を見る
こうしてみると誰もレミリアがスカーレットデビルなんて思わないだろう
澄み切った空気に語りかけるように、頭を撫でてやった
「ふふ、もうすぐ咲夜達もここにくるはずよ」
「なんで?」
「神社に晩御飯を食べに」
「そう、じゃああんたはここでお別れね」
「なんで?」
「散歩の途中なんでしょ?」
「もぅ、霊夢の意地悪」
そう言って紅い悪魔は私にキスをした
「でもちょっと嬉しかったわ」
「なにが」
「『私はあんたみたいなのがレミリアの姿をしてるのが許せない、それが負けない理由・・・』」
「人の科白を復唱するなっ、はずぃ!!」
「ふふ・・・だからもう少しこのままで居てもいいでしょ」
「・・・わかったわよ」
手を挙げて降参の意を示す
満足そうな笑みを浮かべて・・・私たちはもう一度キスをした
日が落ちてゆくのを眺めながら、紅白の巫女は縁側に寝そべった
毎日眺める夕日がいかに美しかろうと見続ければ飽きる
ごろん・・・ごろん・・・ごろん・・・
転がってみる
さほど面白くなかった
そういえば昨日も同じようなことをした気がする
このまま寝てしまおうか、そうしよう
夕暮れを肴に惰眠という美酒を飲む・・・最高かもしれない
そう考えがまとまってうつ伏せになった
・・・途端に冷たい風が吹き抜けた
寒かった
動きたくないがこのまま寝ると凍え死んでしまうような気がする
でも動くのは面倒くさい
おもむろに両手を天にかざす
寝そべったままで、そしてやる気のない声で
「風よ、やめ~」
「・・・何やってるの霊夢?」
いつの間に入ってきたのか、紅い悪魔が声をかけてきた
「まったく、いつ来たのよ」
湯気の立つ鍋を二人で囲みながら文句をいってみる
日は完全に沈み、灯ったランプがほんのり明るい
「一応戸は叩いたわよ、壊れたけど」
「壊すなっ!」
さっきから風の通りがいいはずだ
直すのは誰だと思ってるのだろう
「だからお詫びに今日は晩御飯持ってきたじゃない」
「じゃあレミリアは初めから戸を壊す予定で来たわけね」
「細かいことは言っちゃ駄目よ、さ、食べて食べて」
そう言いつつ、肉やら野菜やらをよそってくる
レミリアは材料持ってきただけで作ったのは私なのだが・・・
「作っといてなんだけど、これちゃんと食べられるものなんでしょうね」
「多分大丈夫だと思うわ、人選は咲夜に任せたし」
「・・・人選・・・ね」
いい感じにサシのはいった肉を箸でつまんで一瞥する
何をどう人選したのかは聞かないでおくことにしよう
改めて、口に運ぶ
横目でレミリアを見ると、ニコニコしながらこっちを見ている
「・・・何よ」
どうも食べているところをじっと見られると、なんてゆうかこう・・・食べにくい
なんだか急にこっぱずかしい感情が溢れてくる
何か気を反らせる対象はないかと眼をうろつかせた
「あ、ほら、あんたの器何にもはいってないじゃないの、いれてあげるわよ」
「あ、私はいいわよ」
「何言ってんの、レミリアが持ってきたんじゃない、血ばっかり飲んでると栄養偏るわよ」
吸血鬼に対して無茶苦茶な言い分だ
そしてレミリアにもこんもりよそってやる
「私もう食事は済ませてきたんだけど」
そう言いつつも、もそもそと食べだす
「あ、おいしい」
「でしょう、やっぱり寒い時は鍋ねぇ、たまにはこういうのもいいでしょ?」
「そうね、たまにはこんな時間を過ごすのもいいかもしれない」
「あはは、そうね、レミリア━━━━━━」
ざっと立ち上がりお祓い棒を突きつける
「で、あんたは何者?」
「・・・何言ってるの霊夢」
鍋と器から漏れる湯気だけが静まり返る空気を彩る
まったくわけがわからないといった風にレミリアが見返していた
まぁここで素直に正体見せるなら初めから変装なんかしないだろう
「シラきるならそれでもいいけどさ、私今結構怒ってるから手加減できないわよ」
「な、霊夢・・・私よ、レミリアよ!!」
「迫真の演技ね、ただし見限られた役者は大人しく舞台を降りるものだわ」
「・・・・・・」
レミリアが黙る
瞳から涙がぽたぽた落ちていた
「どうすれば・・・信じてくれるの霊夢」
「・・・そうね」
いいかげん相手にするのは疲れたので、手っ取り早い方法を口にする
「それじゃあ、私を殺してみなさい」
「・・・え」
「あんたが本物のレミリアなら私を殺せるはずよ」
そう言ってレミリアを外に蹴り飛ばす
相手のことなどお構いなしに自分も空中に舞った
「まったく、一年に一回はあんたみたいなのがくるのよ、夢想封印!!」
集束した光が弾となりレミリアめがけて飛んでいく
「くっ、スターオブダビデ!!」
幾本ものレーザーと弾幕に阻まれ、霊符は輝きを失ってゆく
「へぇ、ちゃんとレミリアのスペルカードは使えるんだ」
「・・・なぜわかった、博麗の巫女」
「簡単、昨日私とレミリアは一緒に鍋を食べているの、それだけよ・・・化けた相手のスケジュールくらい把握しておきなさい」
「なるほどな」
「ついでにあんたの能力も当てて上げましょうか?他者の存在をコピーする程度の能力、違う?」
「わかったところでどうなるわけでもない、今私はスカーレットデビルなのだから」
そういってにやりと笑み、風を切る
「冥符 紅色の冥界!!」
血の雨が刃になって降り注ぐ、かなりの物量だが避けられない速度ではない
ましてやこの技を受けるのは二度目だ
「この程度なのかし・・・」
そこで急激に体に負荷がかかる
避けられたはずの血の雨が体中に突き刺さってきた
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
血が滲み、服の白い箇所が紅く、紅い箇所はさらに紅く・・・
「ふはははは、運命を操作するとはこういうことか、さしずめ今のは弾幕を避けられない運命といったところだな」
「ふん、コピーの分際で頑張るじゃない・・・」
刺したように痛む腕を抑えつつ、霊夢が体勢を立て直す
血を拭いながらキッと睨む
「どうせあんたの狙いは博麗大結界、でしょ」
「その通り、私の力とこの紅い悪魔の力があれば人の世など脆く滅びさる」
「妖怪はワンパターンね、それに似た科白はもう聞き飽きてるの」
「なら喜べ、これが最後になるだろう」
「言うと思った、それも聞き飽きてるわよ」
相手は言いたい事は言い切ったようだ
本気で戦闘体勢に入るレミリア
対する霊夢はというと・・・手洗いでこの血汚れが落ちるのかを真剣に考えていた
「いくぞ、博麗の巫女!!」
レミリアの撃つ紅いナイフが首を断絶するの如く空を翔ける
それをギリギリのところで避け、次の追撃に備える
が、それはやってこなかった
余裕の現われだろうか、こちらをニヤリと見据える
いや・・・これは・・・
「呪詛 ブラド・ツェペシュの呪い!!」
「夢符 封魔陣!!」
そういえばそんな技もあったなと、その軌跡上に現れた血の爆弾を消し飛ばす
まだ余裕の笑みを浮かべ、まるで楽しんでいるかのように次々と攻撃を繰り出してくる
「紅符 スカーレットシュート!!」
「霊符 夢想封印 散!!」
幾度となく撃ち出され、激しくぶつかり合う符と符
何度も何度も何度も何度も何度も何度も
何分くらい戦っていただろうか・・・だんだんとそいつに焦りの色が浮かぶ
「なぜだ・・・」
急に悪魔が吠えだした
「なぜ死なない!!私は運命を操っているんだぞ!!」
「だから言ったでしょ、本物じゃないと私は殺せないって」
「私には本物と同じ力があるはずだ!!」
はぁ・・・とため息をつく
なんだか戦意が失せてきた
いや、初めからあんまり無かったが
「本物とあんたじゃ、決定的な違いがあるわ」
「・・・なに!?」
「本物のレミリアはね・・・」
そこですぅっと息を吸い込み、漠然と言い放つ
「一度私に負けてるから私を殺せるのよ」
そう言うやいなや懐にもぐりこんだ
「これで詰み、夢符 二重結界!!」
「ぐ、ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁ!!!」
霊夢を中心に符の力が広がり回転し、そいつの体を蝕んでいく
ついには耐え切れなくなったか、力尽きて落ちていった
それを鬱陶しそうに見下ろして霊夢は呟いた
「まぁそんな小難しいことよりも、私はあんたみたいなのがレミリアの姿をしてるのが許せない、それが負けない理由」
吐き捨て髪をかきあげる
そして面倒くさそうに一言
「あんたも覗き見するくらいなら手伝いなさいよ」
「気づいてたの、さっすが霊夢」
完全に気配消してたつもりなのにと紅い悪魔、レミリア・スカーレットが舞い降りてきた
あれで気配を消していたつもりなのだろうか
私にも伝わってくるくらいの凄まじい殺気が奴に向けられていたのに・・・
まぁ、気づいてないのはあいつだけだったんだろうな・・・まったく中途半端なやつだ
そう思って今一度それが墜落したあたりを見つめる
「強大な力・・・それ故の欠落ね」
「それを自覚できなかったから・・・私は霊夢に勝てなかった」
そうでしょ、とレミリアの紅い眼が怪しく光る
フリルが風に揺れ、髪がたなびいた
チラッと見ると少なからず頬が昂揚しているようにも見える
弾幕る気満々かしらもしかして
「だから一度負けた私はもう負けないわ、いえ、負けることが出来ない」
笑みながら甘えるようにレミリアが抱きついてくる
「あの妖怪は私の力に溺れてしまっていたのね、だから『博麗霊夢は私に殺される』という簡単な運命操作すら見えなかった」
「自分の負けが想像できなかったんでしょう、前やった時のレミリアみたいに」
「ふふ、そんなこともあったわね」
あ、ちょっとムッとしたかしら
まぁお互い認めてる事実なんだけど
「ところで吸血鬼のお嬢様は一体何の用?」
「散歩手柄にちょっと寄っただけよ」
「へぇ、毎日散歩のついでにココに寄るんだ」
「駄目かしら?それに・・・いくら五月蝿い蝿でも叩き潰したくは無いでしょう、手が汚れるから」
「・・・まぁね」
急に下の方がざわめきだし、大地が揺れた
「まだだ、まだだまだだまだだまだだまだだぁぁぁ!!!」
轟音にも聞こえる悲痛な叫び
凄まじい勢いでこちらに飛んでくる
「私は紅い悪魔だ!!負けるはずがないのだぁぁぁぁ!!!喰らえ、レッドマジッ・・・」
いつの間に移動したのかレミリアが立ちはだかる
その瞳は血のように紅く、深い・・・深い・・・深い・・・
紅に魅入られてしまったのかどうなのか、ガタガタと震えだしもはや何も見えていない
「私今いい気分だから、一瞬で殺してあげるわ・・・ほら、こんなにも紅い月」
「ひ!あひ、あひゃぃぃぁぁゃぁ!!」
本物に対する畏怖か、それとも圧倒的な力に対する畏敬か
どっちにせよ、もう運命は決まっていた
「レッドマジック━━━━━━━!!」
ボシュッと音を立てて、レミリアがレミリアを肉塊に変えた
くすくすと笑いながらレミリアは飛び散った血液を舐めとる
見てるのも面倒くさかったので明後日の方向を見上げて一人ごちる
「だから言ったんだけどねぇ・・・詰みだって」
はぁ・・・とため息を一つ
てゆうか、もって来た鍋の具材に毒でも仕込んでおけばよかったんじゃないだろうか
そこまで考えが及ばないほどレミリアの力に自信があったのだろうか
「どっちにせよ馬鹿ってことね」
「馬鹿って私のこと?」
「あんたは大馬鹿」
なんとなく戻る気がしないくらい、いい夜だった
ちょこんと私の膝に座って一緒に星を見る
こうしてみると誰もレミリアがスカーレットデビルなんて思わないだろう
澄み切った空気に語りかけるように、頭を撫でてやった
「ふふ、もうすぐ咲夜達もここにくるはずよ」
「なんで?」
「神社に晩御飯を食べに」
「そう、じゃああんたはここでお別れね」
「なんで?」
「散歩の途中なんでしょ?」
「もぅ、霊夢の意地悪」
そう言って紅い悪魔は私にキスをした
「でもちょっと嬉しかったわ」
「なにが」
「『私はあんたみたいなのがレミリアの姿をしてるのが許せない、それが負けない理由・・・』」
「人の科白を復唱するなっ、はずぃ!!」
「ふふ・・・だからもう少しこのままで居てもいいでしょ」
「・・・わかったわよ」
手を挙げて降参の意を示す
満足そうな笑みを浮かべて・・・私たちはもう一度キスをした
>メッセージ最後 俺は未だに咲夜で詰むけどなー(涙