※オープニング
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
まほうのもりのおんなのコは(ランランラン、ラーラ)
とてもちいさな魔女っ子です(ランランラン、ラーラ)
おべんきょう げんそう郷
なりたいの
すてき魔法なおんなのコ
ぷきぷきぱよ
Ah さがしてアイテムさん
あれも これも
もっとしりたい
Ah してしてべんきょうさん
すごい ひみつ
いえないことぜんぶ
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
※第五話「どうして!? 運命のいたずら」
ここは春の日も過ぎ、初夏に差し掛かった幻想郷。……しかし、何だか様子が変です。
「う~さむ~い……」
この前、大体温泉が出来た辺りから、濃霧が空を覆ってしまいました。
その為日の光が遮られてしまい、ちっとも気温が上がりません。
「もうすぐなつだってのに~……なんで~?」
恨めしそうに空を見上げるまりしゃ。霧越しにうっすらと見える太陽でしたが、その溢れる力強さは面影もありませんでした。
このままでは寒くてたまりませんし、何よりじめじめした暗いのがまりしゃは嫌いです。
「あーもー、じめじめしてきもちわるいー」
……という訳で、とりあえずれいむに相談する事にしました。
「うーん……なんでかなー?」
「かなー?」
ここはれいむの住む博麗神社。畳の上で二人、顔を突き合わせてウンウン唸っています。
「れいむちゃん、みこさんなんだよね? なんとかわからないー?」
「そんなこといわれても……とりあえず、そとにでてみよう」
考えていても仕方が無いので、一旦外に出ることにしました。まとわりつくような霧が嫌な感じです。
「……そーいえば、このきりってどこからきてるのかな?」
「どこからって?」
「うん、なんかさ、いきなりでてきたってかんじしない? それっておかしーよ」
そうでした。冬ならともかく、夏になろうかというこの時期に霧が発生して、しかもそれがずっと晴れないというのは異常です。
自然発生でないのなら、きっとどこかに原因があるはずです。
「それじゃあ、だれかがきりをつくってる……ってこと?」
「そーかもねー」
「じゃあ、やめさせなきゃ!」
いい加減気が滅入ってきていたまりしゃ、腕をぶんぶん振り回して意気込んでます。凄くやる気ですねぇ。
れいむもずっと薄暗いのは気分が悪いので、まりしゃと一緒に原因を突き止める事にしました。
「じゃあ、うちにかえってじゅんびしてくる」
「なにがあるかわかんないもんね」
二人とも一旦家に帰って、準備で身を固める事にしました。
もしれいむの推測が正しければ、これだけの霧を生み出す相手です。何があるか分かりませんからね。
しばらくして、色んなマジックアイテムを手にしたまりしゃが戻ってきました。
「へへー、おまたせ」
「わたしもじゅんびおっけーだよ」
神社上空で落ち合った二人、まずどっちの方向に行くか考えます。
「きりはどこからきてるのかな……」
「えーとねぇ……」
れいむが人差し指を舐めて、その手を上げます。そして、ゆっくりと一回転しました。
「ん~…………」
ぐるっと回って、ある一点で動きが止まりました。分かったのでしょうか?
「こっちのほうから、ちょっとだけかぜがながれてるかんじがするよ」
「こっち?」
まりしゃも指を舐め、れいむと同じようにしてみました。
……確かに、言われてみれば言う通りのような気がします。
「いってみる?」
「うん……どーせさがしてみるつもりだったし」
「それじゃ、しゅっぱーつ!」
「しゅっぱーつ!」
行き先を決めて、元気よく出発です。さてさて、一体どうなる事でしょうか……?
風の流れてくる方向に向かって移動している時に、ある一匹の妖怪に出会いました。
「おっ、しょくりょーはっけん!」
まりしゃとれいむの姿を見るや、両手を広げて通せんぼです。
「? あなただれー?」
「わたし? わたしはるーみあ。なにしてるの?」
「きりをとめにいくのー」
「そーなのかー。じゃ、いただきまーす」
言うが早いか、いきなりるーみあが飛び掛ってきました。随分お行儀が悪いですねぇ。
「わわっ!? おい、なにするんだよ!」
「なにって、おなかすいたからごはんたべよーとおもって」
「わたしたちはごはんじゃなーい!」
「じゃ、おにくー」
食べ物扱いされて、れいむも怒り心頭です。まぁ、人間と妖怪では文化が違いますからねぇ。
しかし、るーみあはもう食べる気満々です。さてさて、どうしましょう?
……おや? 何やらまりしゃが鞄を漁っています。何かあるのでしょうか?
「わたしたちはだめだけど、かわりにこれでがまんして」
「わぁ、きゃんでーだー!」
まりしゃが取り出したのは、ぐるぐる渦巻きのキャンディでした。大喜びのるーみあ、早速飛びつきます。
「いただきまーす! ……はむはむ……ぺろぺろ……」
「じゃ、もういくねー」
「ひゃんへー、あひはほー……れろれろ……」
すっかり御満悦のるーみあ、もう二人の事は眼中にありません。その間に出発する事にしました。
「ばいばーい!」
さらに先へ進むと、大きな湖が見えてきました。水の上は、今まで以上に寒そうです。
「んー……ここってどこかでみたよーな……」
「とにかく、いってみよ!」
風上に向けて直進する二人。すると、霧の向こうにうっすらと人影らしきものが見えました。
「あれ? だれかいるよ」
「うん、だれだろ?」
近付くうちに、段々姿がはっきりしてきました。……どうやらあれは、この前会ったちるののようですね。
ふわふわ浮かんでいたちるの、二人を見るなり怒り出しました。
「あ~、あんたたちは!? このまえはよくもやってくれたなー!!」
顔を真っ赤にして怒鳴るちるの。まぁ、仕方ないと言えばそうなんですけどね。
「そんなにおこらないでよー」
「それに、さきにちょっかいだしたのはそっちだろー?」
「うるさーい! あんたたちなんて、うしさんみたいにカチンカチンにれいとーしてやる!」
ちるのの周囲の空気が凍りつき、氷の塊が出来上がります。そして、それを二人目掛けて飛ばしてきました。
「わわっ!?」
一つ一つの塊は小さいのですが、とにかく数が多いです。
しかし、よほど頭に来てるのか、二人の所に飛んでくるものは僅かでした。
「ごめんなさいー、あやまるからもーやめてー」
「うるさーい!」
興奮しているちるの、全く聞いてくれません。
どうしようかと悩んでいたその時、やっぱりどこかで見たような人影が近付いて来ました。
「あ、皆さん、お久しぶりです!」
「えーと……あっ、あのときの!」
人影の正体は、温泉に入っていた時ちるのを連れて帰った妖精でした。
まりしゃたちに近付き、深々と頭を下げます。
「先日はありがとうございました。
……ちるのちゃん、駄目でしょ!? そんな事しちゃ!」
「えぇっ!? だってこいつらが……」
「だってじゃないの! もう、せっかく助けていただいたっていうのに……」
「だから、それはちが……いたたたたっ、みみひっぱらないでー!」
ちるのを叱り付けると、耳を引っ張って連れていってしまいました。遠くから、妖精の声が聞こえます。
「皆さん、どうもすみませんでしたー! この子にはちゃんと言っておきますからー。
ほらっ、行くわよちるのちゃん!」
「いたたっ、だからひっぱらないで~……」
かわいそうなちるの、引っ張られて連れていかれました。叫び声が聴こえてきます。
「ふ~、たすかったー」
「それじゃ、いこっか!」
再び移動を開始する二人。やがて、陸地が視界に入ってきました。遠めに、建物らしきものが見えます。
「ね……やっぱりみたことあるよーな……」
「うん……」
陸地に上がり、徐々にはっきりする影。……それは、やっぱり紅魔館でした。
段々濃くなってきた、空を覆う霧。どうやら霧の発生源は、この紅魔館のようです。
「ね……どーしてさくやおねぇちゃんのいえから、きりがでてるの……?」
「わかんない……とにかくいってみよっ」
考えても仕方が無いので、とにかく行ってみる事にします。大きな門に近付いた時、柱の影から何かが飛び出して来ました。
紅魔館の門番をしている、ほん・めいりんです。
「ここはとーさな……あれ、まりしゃちゃんにれいむちゃん」
「わっ、びっくりしたー」
紅魔館に遊びに来る時に何度か会ってますので、安心して警戒の構えを解きます。
笑顔で二人に話し掛けてきました……が、目は笑っていませんでした。
「きょうはどーしたの?」
「うん……きりがすごいから、なんとかしよーとおもって……」
「それで、きりのながれてくるほうにいったら、ここについたの」
「そう……なんだ」
めいりんの顔から、笑みすらも消えます。二人が今までに見た事が無いような、険しい表情でした。
「わるいことはいわないから、きょうはかえって」
「あの……えっと……」
「……じゃないとわたし、ふたりともやっつけなきゃいけなくなる」
パンッ――――― 一度解いた構えを、再び構え直しました。静かに鳴る震脚が、めいりんの実力を現しています。
周囲に立ち込める緊迫した空気……めいりんの言葉が、嘘や脅しではない事は明らかでした。
「どうして……? いったいなにがあるの……?」
「それはいえない」
進む訳にも行かず、かといってこのまま帰れない……完全に行き詰まってしまいました。
戦いたくないまりしゃとれいむ、駄目元でお願いしてみます。
「ねー、おねがいだからここ、とおしてー」
「だめ」
「いっしょーのおねがいだからー」
「いっしょうのおねがい、それでなんかいめ?」
取り付く島もありません。こうなったら、強行突破しかないのでしょうか……?
「どーしてもだめー? ねぇ……えっと…………?」
「? どうしたの?」
れいむが空を見上げ、キョロキョロし始めました。何かを思い出そうとしているようです。
「えっと……なんだっけ……?」
「なにが?」
「あの……おこらないでね? ん~と……なんだっけ、なまえ?」
「はぅっ!!!」
素っ頓狂な声を上げて、めいりんが仰け反りました。よく分かりませんが、凄くショックを受けているようです。
……それもそうですよね、初対面でもないのに名前を覚えられてないんですから。
「そ……そんな……」
「あ~、う~……なんだっけ……なんだっけ……?」
「えーと……えーと……」
頑張って思い出そうとする二人。しばらくして、パッと笑顔で顔を上げるまりしゃ。思い出せたのでしょうか?
「そーだ、思い出した! ちゅーごくちゃんだ!」
「おわぁっ……」
ガックリしためいりん、その場にくず折れてしまいました。よほどショックだったのでしょう。
「うぅ……わたしっていったい……」
「ねーちゅうごくちゃん、こことおしてー」
「いいでしょー、ちゅうごくちゃーん」
「ねー」
「ねー」
中国、中国、中国、中国、中国……言われる度にめいりんの体が沈み込んでいきます。もう少しで地面に埋もれそうですよ。
「わたしはちゅうごくじゃない……ちゅうごくじゃなーいっ!!」
勢いよく立ち上がり、拳を握り締めて叫ぶめいりん。しかし、二人には全く効果がありませんでした。
「えー? ちゅうごくちゃんはちゅうごくちゃんだよー」
「うう……もうやだ……」
あらあら、とうとう泣き出してしまいました。相当へこんでますねぇ。
……その時、れいむがある事を思いつきました。それは何かと言うと……わぉ、あくどい。
「……あのさ、わたし、おもいだしたよ。なまえ」
「えっ、ほんとに!?」
凄い勢いで食いついてきためいりん。その顔には、不安と希望が入り混じっていました。
「こことおしてくれたら、これからちゃんとなまえでよんであげる」
「えっ、それは……」
「だからいいでしょー? めいりんちゃーん」
「おぉぅっ!!」
おやおや、名前を呼ばれた途端に自分を抱きしめて身悶えし始めました。よっぽど嬉しかったんでしょうか?
「とおしてくれなきゃ、もうなまえでよんであげないもん」
「うぅ……わたしは……わたしはっ……………………………………!!!?
ぷしゅ~…………」
『名前で呼んでもらえる』……その誘惑に耐え切れず、その場で倒れてしまいました。
しかし、その顔は幸せでいっぱいだったといいます……。
「わっ、たおれちゃった」
「いまのうちにいこうっ!」
めいりんが倒れている隙に紅魔館へと入った二人ですが、思いがけない広さに面食らってしまいました。
「ねー、こんなにろーかひろかったっけ?」
「う~ん……」
あちこち彷徨っているうちに、見覚えのある扉の前に辿り着きました。
ここは確か、病弱な女の子ぱちゅりーのいる、ヴワル魔法図書館の入り口です。
闇雲に飛び回ってても仕方が無いので、中に入る事にしました。相変わらずだだっ広い所です。
「ぱちゅりーちゃん、いるかな……?」
「呼んだ?」
「あっ!」
噂をすれば何とやら、ぱちゅりーが姿を現しました。しかし、その表情は……めいりんと同じものでした。
「……このまま黙って、帰りなさい」
「えぇ~、それはだめだよー」
「きりをなんとかしたくてきたんだけど……」
「あなた達には無理よ」
冷たく言い放つぱちゅりー。彼女のこれほどまでに冷徹な表情は、今まで見た事がありません。
めいりんと同じく、本気で言っているようです。
「言う事を聞かないのなら、私はあなた達を落とさなきゃいけなくなる」
その厳しい口調に、まりしゃも思わず声を荒げます。
「ねぇ、なんで……? どうしてみんなおいかえそーとするの……?
いったいなにがあるの……!」
「……必要だから霧を出した。誰も邪魔は出来ない。だから、帰りなさい」
「いやだ!」
れいむも叫びます。霧の事以上に、何かを隠そうとしているめいりんやぱちゅりーの態度が、とても悲しかったのです。
そんな二人の様子に、パチュリーも諦めた風に溜息を吐きました。
「言っても聞かなさそうね……」
「それじゃあ……!」
「私を倒していきなさい!」
「!」
懐から符を取り出し、呪文詠唱の構えを取るぱちゅりー。強力な魔力が周囲に渦巻きます。
「ぱ、ぱちゅりーちゃん……」
「……この先へ行かせる訳にはいかないの。分かってちょうだい」
「やだよ……ぱちゅりーちゃんとたたかうなんて……」
れいむもまりしゃも、どうしたらいいか分からずうろたえるばかりです。
まさかこんな事になるとは思ってもいませんでしたから……。
「……安心して。ちょっと気絶する位にするから」
手にした本を開き、呪文詠唱を開始しました。慌てて身構える二人でした……が。
「うっ……ゴホッ、ゴホッ!!」
「! ぱちゅりーちゃん!?」
喘息持ちのぱちゅりー、気が昂ぶり過ぎたのか発作を起こしてしまいました。
それを見たまりしゃ、ひとまず下に降ろして椅子に座らせ、背中を擦ってあげます。
……しばらくして、発作も少しずつ落ち着いてきました。
「ねー、だいじょーぶ……?」
「ケホッ……な、何とか……」
ようやく楽になってきたぱちゅりー、息を整えて少しずつ話し始めます。
「どうしてもこの先に行きたいのね……」
「うん……ごめんなさい……」
「謝らなくてもいいわ。私はこんなだから、止められそうにも無いし……好きにしなさい」
「……ありがとう」
「一つだけ、忠告しておくわ」
今まで以上に真剣な眼差しで、まりしゃを見据えるぱちゅりーに、思わず息を呑みます。
「もし、駄目だと思ったら……すぐに紅魔館を出なさい。後は何とかするから」
「えっ……それって、どういう……」
意味が良くわからず、目を白黒させるまりしゃ。しかし、ぱちゅりーは多くを語りませんでした。
「今言った事……忘れないでね……」
そこまで言って、ぱちゅりーは眠りに落ちました。どうやら体を癒す為の魔法を自分に掛けたようです。
起こしては悪いので、そっとその場を立ち去る事にしました。
……が、ぱちゅりーの言葉が、重く心にのしかかって来ます。一体どういう意味なのでしょうか?
それを、しばらく後に思い知る事になるとは、この時点では気付きませんでした。
そして、図書館を抜けて再び廊下に出た二人。
紅魔館に入った時から感じていた力の流動が、ますます強くなってきています。
おそらくこの先に、霧を生み出している張本人がいるのでしょう。
「なんか……すごいやなかんじ……」
「うん……やなかんじ……」
かといって、ここまで来て引き返すような二人ではありません。より警戒心を強め、先へと進みます。
……その時。
「!?」
ヒュンッ―――――何かが飛来する気配を察知したれいむが、それを撃ち落します。
キンッ……音を立てて落下する物体。それは、二人のとても見慣れた物でした。
「ま、まりしゃ……これって……」
「まさか……」
廊下を転がる、一本のペーパーナイフ。そして、遥か廊下の先に浮かぶ一つの影。
そう、それは…………その人影は――――――――――
「……来ると思ったわ。ここから先は―――――通さない」
メイド服に身を包み、無数のナイフを手に構えるその姿は、間違いなく、確かにあの人でした。
「さくや……おねぇちゃん……」
うっすらと差し込む月の光に照らされ、鈍い光を放つナイフ。
運命の糸は、確実に、その歩を進め絡み付いてきていました。
-おしまい-
※次回予告
♪ランランラーンラーラー ランランラーンラーラー
やだよ、わたし……おねぇちゃんとけんかしたくない……!
えっ……なに……? そんなのわたし、わかんないよ!
やだ……いやだ……こんなのって……ああぁっ……!!!
次回、魔法ょぅι゛ょまりしゃ・第六話!
「別れの時! さよならさくやおねぇちゃん」
じかいもおたのしみにな!
♪ランランラーンラーラー ランランラーンラーラー
-つづく-
※おしらせ
次週の放送は正月特番の為お休みします。
放送予定日は、一月第二週以降となります。
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
まほうのもりのおんなのコは(ランランラン、ラーラ)
とてもちいさな魔女っ子です(ランランラン、ラーラ)
おべんきょう げんそう郷
なりたいの
すてき魔法なおんなのコ
ぷきぷきぱよ
Ah さがしてアイテムさん
あれも これも
もっとしりたい
Ah してしてべんきょうさん
すごい ひみつ
いえないことぜんぶ
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
※第五話「どうして!? 運命のいたずら」
ここは春の日も過ぎ、初夏に差し掛かった幻想郷。……しかし、何だか様子が変です。
「う~さむ~い……」
この前、大体温泉が出来た辺りから、濃霧が空を覆ってしまいました。
その為日の光が遮られてしまい、ちっとも気温が上がりません。
「もうすぐなつだってのに~……なんで~?」
恨めしそうに空を見上げるまりしゃ。霧越しにうっすらと見える太陽でしたが、その溢れる力強さは面影もありませんでした。
このままでは寒くてたまりませんし、何よりじめじめした暗いのがまりしゃは嫌いです。
「あーもー、じめじめしてきもちわるいー」
……という訳で、とりあえずれいむに相談する事にしました。
「うーん……なんでかなー?」
「かなー?」
ここはれいむの住む博麗神社。畳の上で二人、顔を突き合わせてウンウン唸っています。
「れいむちゃん、みこさんなんだよね? なんとかわからないー?」
「そんなこといわれても……とりあえず、そとにでてみよう」
考えていても仕方が無いので、一旦外に出ることにしました。まとわりつくような霧が嫌な感じです。
「……そーいえば、このきりってどこからきてるのかな?」
「どこからって?」
「うん、なんかさ、いきなりでてきたってかんじしない? それっておかしーよ」
そうでした。冬ならともかく、夏になろうかというこの時期に霧が発生して、しかもそれがずっと晴れないというのは異常です。
自然発生でないのなら、きっとどこかに原因があるはずです。
「それじゃあ、だれかがきりをつくってる……ってこと?」
「そーかもねー」
「じゃあ、やめさせなきゃ!」
いい加減気が滅入ってきていたまりしゃ、腕をぶんぶん振り回して意気込んでます。凄くやる気ですねぇ。
れいむもずっと薄暗いのは気分が悪いので、まりしゃと一緒に原因を突き止める事にしました。
「じゃあ、うちにかえってじゅんびしてくる」
「なにがあるかわかんないもんね」
二人とも一旦家に帰って、準備で身を固める事にしました。
もしれいむの推測が正しければ、これだけの霧を生み出す相手です。何があるか分かりませんからね。
しばらくして、色んなマジックアイテムを手にしたまりしゃが戻ってきました。
「へへー、おまたせ」
「わたしもじゅんびおっけーだよ」
神社上空で落ち合った二人、まずどっちの方向に行くか考えます。
「きりはどこからきてるのかな……」
「えーとねぇ……」
れいむが人差し指を舐めて、その手を上げます。そして、ゆっくりと一回転しました。
「ん~…………」
ぐるっと回って、ある一点で動きが止まりました。分かったのでしょうか?
「こっちのほうから、ちょっとだけかぜがながれてるかんじがするよ」
「こっち?」
まりしゃも指を舐め、れいむと同じようにしてみました。
……確かに、言われてみれば言う通りのような気がします。
「いってみる?」
「うん……どーせさがしてみるつもりだったし」
「それじゃ、しゅっぱーつ!」
「しゅっぱーつ!」
行き先を決めて、元気よく出発です。さてさて、一体どうなる事でしょうか……?
風の流れてくる方向に向かって移動している時に、ある一匹の妖怪に出会いました。
「おっ、しょくりょーはっけん!」
まりしゃとれいむの姿を見るや、両手を広げて通せんぼです。
「? あなただれー?」
「わたし? わたしはるーみあ。なにしてるの?」
「きりをとめにいくのー」
「そーなのかー。じゃ、いただきまーす」
言うが早いか、いきなりるーみあが飛び掛ってきました。随分お行儀が悪いですねぇ。
「わわっ!? おい、なにするんだよ!」
「なにって、おなかすいたからごはんたべよーとおもって」
「わたしたちはごはんじゃなーい!」
「じゃ、おにくー」
食べ物扱いされて、れいむも怒り心頭です。まぁ、人間と妖怪では文化が違いますからねぇ。
しかし、るーみあはもう食べる気満々です。さてさて、どうしましょう?
……おや? 何やらまりしゃが鞄を漁っています。何かあるのでしょうか?
「わたしたちはだめだけど、かわりにこれでがまんして」
「わぁ、きゃんでーだー!」
まりしゃが取り出したのは、ぐるぐる渦巻きのキャンディでした。大喜びのるーみあ、早速飛びつきます。
「いただきまーす! ……はむはむ……ぺろぺろ……」
「じゃ、もういくねー」
「ひゃんへー、あひはほー……れろれろ……」
すっかり御満悦のるーみあ、もう二人の事は眼中にありません。その間に出発する事にしました。
「ばいばーい!」
さらに先へ進むと、大きな湖が見えてきました。水の上は、今まで以上に寒そうです。
「んー……ここってどこかでみたよーな……」
「とにかく、いってみよ!」
風上に向けて直進する二人。すると、霧の向こうにうっすらと人影らしきものが見えました。
「あれ? だれかいるよ」
「うん、だれだろ?」
近付くうちに、段々姿がはっきりしてきました。……どうやらあれは、この前会ったちるののようですね。
ふわふわ浮かんでいたちるの、二人を見るなり怒り出しました。
「あ~、あんたたちは!? このまえはよくもやってくれたなー!!」
顔を真っ赤にして怒鳴るちるの。まぁ、仕方ないと言えばそうなんですけどね。
「そんなにおこらないでよー」
「それに、さきにちょっかいだしたのはそっちだろー?」
「うるさーい! あんたたちなんて、うしさんみたいにカチンカチンにれいとーしてやる!」
ちるのの周囲の空気が凍りつき、氷の塊が出来上がります。そして、それを二人目掛けて飛ばしてきました。
「わわっ!?」
一つ一つの塊は小さいのですが、とにかく数が多いです。
しかし、よほど頭に来てるのか、二人の所に飛んでくるものは僅かでした。
「ごめんなさいー、あやまるからもーやめてー」
「うるさーい!」
興奮しているちるの、全く聞いてくれません。
どうしようかと悩んでいたその時、やっぱりどこかで見たような人影が近付いて来ました。
「あ、皆さん、お久しぶりです!」
「えーと……あっ、あのときの!」
人影の正体は、温泉に入っていた時ちるのを連れて帰った妖精でした。
まりしゃたちに近付き、深々と頭を下げます。
「先日はありがとうございました。
……ちるのちゃん、駄目でしょ!? そんな事しちゃ!」
「えぇっ!? だってこいつらが……」
「だってじゃないの! もう、せっかく助けていただいたっていうのに……」
「だから、それはちが……いたたたたっ、みみひっぱらないでー!」
ちるのを叱り付けると、耳を引っ張って連れていってしまいました。遠くから、妖精の声が聞こえます。
「皆さん、どうもすみませんでしたー! この子にはちゃんと言っておきますからー。
ほらっ、行くわよちるのちゃん!」
「いたたっ、だからひっぱらないで~……」
かわいそうなちるの、引っ張られて連れていかれました。叫び声が聴こえてきます。
「ふ~、たすかったー」
「それじゃ、いこっか!」
再び移動を開始する二人。やがて、陸地が視界に入ってきました。遠めに、建物らしきものが見えます。
「ね……やっぱりみたことあるよーな……」
「うん……」
陸地に上がり、徐々にはっきりする影。……それは、やっぱり紅魔館でした。
段々濃くなってきた、空を覆う霧。どうやら霧の発生源は、この紅魔館のようです。
「ね……どーしてさくやおねぇちゃんのいえから、きりがでてるの……?」
「わかんない……とにかくいってみよっ」
考えても仕方が無いので、とにかく行ってみる事にします。大きな門に近付いた時、柱の影から何かが飛び出して来ました。
紅魔館の門番をしている、ほん・めいりんです。
「ここはとーさな……あれ、まりしゃちゃんにれいむちゃん」
「わっ、びっくりしたー」
紅魔館に遊びに来る時に何度か会ってますので、安心して警戒の構えを解きます。
笑顔で二人に話し掛けてきました……が、目は笑っていませんでした。
「きょうはどーしたの?」
「うん……きりがすごいから、なんとかしよーとおもって……」
「それで、きりのながれてくるほうにいったら、ここについたの」
「そう……なんだ」
めいりんの顔から、笑みすらも消えます。二人が今までに見た事が無いような、険しい表情でした。
「わるいことはいわないから、きょうはかえって」
「あの……えっと……」
「……じゃないとわたし、ふたりともやっつけなきゃいけなくなる」
パンッ――――― 一度解いた構えを、再び構え直しました。静かに鳴る震脚が、めいりんの実力を現しています。
周囲に立ち込める緊迫した空気……めいりんの言葉が、嘘や脅しではない事は明らかでした。
「どうして……? いったいなにがあるの……?」
「それはいえない」
進む訳にも行かず、かといってこのまま帰れない……完全に行き詰まってしまいました。
戦いたくないまりしゃとれいむ、駄目元でお願いしてみます。
「ねー、おねがいだからここ、とおしてー」
「だめ」
「いっしょーのおねがいだからー」
「いっしょうのおねがい、それでなんかいめ?」
取り付く島もありません。こうなったら、強行突破しかないのでしょうか……?
「どーしてもだめー? ねぇ……えっと…………?」
「? どうしたの?」
れいむが空を見上げ、キョロキョロし始めました。何かを思い出そうとしているようです。
「えっと……なんだっけ……?」
「なにが?」
「あの……おこらないでね? ん~と……なんだっけ、なまえ?」
「はぅっ!!!」
素っ頓狂な声を上げて、めいりんが仰け反りました。よく分かりませんが、凄くショックを受けているようです。
……それもそうですよね、初対面でもないのに名前を覚えられてないんですから。
「そ……そんな……」
「あ~、う~……なんだっけ……なんだっけ……?」
「えーと……えーと……」
頑張って思い出そうとする二人。しばらくして、パッと笑顔で顔を上げるまりしゃ。思い出せたのでしょうか?
「そーだ、思い出した! ちゅーごくちゃんだ!」
「おわぁっ……」
ガックリしためいりん、その場にくず折れてしまいました。よほどショックだったのでしょう。
「うぅ……わたしっていったい……」
「ねーちゅうごくちゃん、こことおしてー」
「いいでしょー、ちゅうごくちゃーん」
「ねー」
「ねー」
中国、中国、中国、中国、中国……言われる度にめいりんの体が沈み込んでいきます。もう少しで地面に埋もれそうですよ。
「わたしはちゅうごくじゃない……ちゅうごくじゃなーいっ!!」
勢いよく立ち上がり、拳を握り締めて叫ぶめいりん。しかし、二人には全く効果がありませんでした。
「えー? ちゅうごくちゃんはちゅうごくちゃんだよー」
「うう……もうやだ……」
あらあら、とうとう泣き出してしまいました。相当へこんでますねぇ。
……その時、れいむがある事を思いつきました。それは何かと言うと……わぉ、あくどい。
「……あのさ、わたし、おもいだしたよ。なまえ」
「えっ、ほんとに!?」
凄い勢いで食いついてきためいりん。その顔には、不安と希望が入り混じっていました。
「こことおしてくれたら、これからちゃんとなまえでよんであげる」
「えっ、それは……」
「だからいいでしょー? めいりんちゃーん」
「おぉぅっ!!」
おやおや、名前を呼ばれた途端に自分を抱きしめて身悶えし始めました。よっぽど嬉しかったんでしょうか?
「とおしてくれなきゃ、もうなまえでよんであげないもん」
「うぅ……わたしは……わたしはっ……………………………………!!!?
ぷしゅ~…………」
『名前で呼んでもらえる』……その誘惑に耐え切れず、その場で倒れてしまいました。
しかし、その顔は幸せでいっぱいだったといいます……。
「わっ、たおれちゃった」
「いまのうちにいこうっ!」
めいりんが倒れている隙に紅魔館へと入った二人ですが、思いがけない広さに面食らってしまいました。
「ねー、こんなにろーかひろかったっけ?」
「う~ん……」
あちこち彷徨っているうちに、見覚えのある扉の前に辿り着きました。
ここは確か、病弱な女の子ぱちゅりーのいる、ヴワル魔法図書館の入り口です。
闇雲に飛び回ってても仕方が無いので、中に入る事にしました。相変わらずだだっ広い所です。
「ぱちゅりーちゃん、いるかな……?」
「呼んだ?」
「あっ!」
噂をすれば何とやら、ぱちゅりーが姿を現しました。しかし、その表情は……めいりんと同じものでした。
「……このまま黙って、帰りなさい」
「えぇ~、それはだめだよー」
「きりをなんとかしたくてきたんだけど……」
「あなた達には無理よ」
冷たく言い放つぱちゅりー。彼女のこれほどまでに冷徹な表情は、今まで見た事がありません。
めいりんと同じく、本気で言っているようです。
「言う事を聞かないのなら、私はあなた達を落とさなきゃいけなくなる」
その厳しい口調に、まりしゃも思わず声を荒げます。
「ねぇ、なんで……? どうしてみんなおいかえそーとするの……?
いったいなにがあるの……!」
「……必要だから霧を出した。誰も邪魔は出来ない。だから、帰りなさい」
「いやだ!」
れいむも叫びます。霧の事以上に、何かを隠そうとしているめいりんやぱちゅりーの態度が、とても悲しかったのです。
そんな二人の様子に、パチュリーも諦めた風に溜息を吐きました。
「言っても聞かなさそうね……」
「それじゃあ……!」
「私を倒していきなさい!」
「!」
懐から符を取り出し、呪文詠唱の構えを取るぱちゅりー。強力な魔力が周囲に渦巻きます。
「ぱ、ぱちゅりーちゃん……」
「……この先へ行かせる訳にはいかないの。分かってちょうだい」
「やだよ……ぱちゅりーちゃんとたたかうなんて……」
れいむもまりしゃも、どうしたらいいか分からずうろたえるばかりです。
まさかこんな事になるとは思ってもいませんでしたから……。
「……安心して。ちょっと気絶する位にするから」
手にした本を開き、呪文詠唱を開始しました。慌てて身構える二人でした……が。
「うっ……ゴホッ、ゴホッ!!」
「! ぱちゅりーちゃん!?」
喘息持ちのぱちゅりー、気が昂ぶり過ぎたのか発作を起こしてしまいました。
それを見たまりしゃ、ひとまず下に降ろして椅子に座らせ、背中を擦ってあげます。
……しばらくして、発作も少しずつ落ち着いてきました。
「ねー、だいじょーぶ……?」
「ケホッ……な、何とか……」
ようやく楽になってきたぱちゅりー、息を整えて少しずつ話し始めます。
「どうしてもこの先に行きたいのね……」
「うん……ごめんなさい……」
「謝らなくてもいいわ。私はこんなだから、止められそうにも無いし……好きにしなさい」
「……ありがとう」
「一つだけ、忠告しておくわ」
今まで以上に真剣な眼差しで、まりしゃを見据えるぱちゅりーに、思わず息を呑みます。
「もし、駄目だと思ったら……すぐに紅魔館を出なさい。後は何とかするから」
「えっ……それって、どういう……」
意味が良くわからず、目を白黒させるまりしゃ。しかし、ぱちゅりーは多くを語りませんでした。
「今言った事……忘れないでね……」
そこまで言って、ぱちゅりーは眠りに落ちました。どうやら体を癒す為の魔法を自分に掛けたようです。
起こしては悪いので、そっとその場を立ち去る事にしました。
……が、ぱちゅりーの言葉が、重く心にのしかかって来ます。一体どういう意味なのでしょうか?
それを、しばらく後に思い知る事になるとは、この時点では気付きませんでした。
そして、図書館を抜けて再び廊下に出た二人。
紅魔館に入った時から感じていた力の流動が、ますます強くなってきています。
おそらくこの先に、霧を生み出している張本人がいるのでしょう。
「なんか……すごいやなかんじ……」
「うん……やなかんじ……」
かといって、ここまで来て引き返すような二人ではありません。より警戒心を強め、先へと進みます。
……その時。
「!?」
ヒュンッ―――――何かが飛来する気配を察知したれいむが、それを撃ち落します。
キンッ……音を立てて落下する物体。それは、二人のとても見慣れた物でした。
「ま、まりしゃ……これって……」
「まさか……」
廊下を転がる、一本のペーパーナイフ。そして、遥か廊下の先に浮かぶ一つの影。
そう、それは…………その人影は――――――――――
「……来ると思ったわ。ここから先は―――――通さない」
メイド服に身を包み、無数のナイフを手に構えるその姿は、間違いなく、確かにあの人でした。
「さくや……おねぇちゃん……」
うっすらと差し込む月の光に照らされ、鈍い光を放つナイフ。
運命の糸は、確実に、その歩を進め絡み付いてきていました。
-おしまい-
※次回予告
♪ランランラーンラーラー ランランラーンラーラー
やだよ、わたし……おねぇちゃんとけんかしたくない……!
えっ……なに……? そんなのわたし、わかんないよ!
やだ……いやだ……こんなのって……ああぁっ……!!!
次回、魔法ょぅι゛ょまりしゃ・第六話!
「別れの時! さよならさくやおねぇちゃん」
じかいもおたのしみにな!
♪ランランラーンラーラー ランランラーンラーラー
-つづく-
※おしらせ
次週の放送は正月特番の為お休みします。
放送予定日は、一月第二週以降となります。
続きが気になります・・
美鈴って、いつでもそういう扱いなんね(笑