※オープニング
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
まほうのもりのおんなのコは(ランランラン、ラーラ)
とてもちいさな魔女っ子です(ランランラン、ラーラ)
おべんきょう げんそう郷
なりたいの
すてき魔法なおんなのコ
ぷきぷきぱよ
Ah さがしてアイテムさん
あれも これも
もっとしりたい
Ah してしてべんきょうさん
すごい ひみつ
いえないことぜんぶ
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
※第四話「萌え萌え!? みんな裸で洗いっこ!」
ここは春の日も……というよりは、もう夏の気配が漂い始めた幻想郷。今日のまりしゃは森の広場に出ています。
家の近くの少し開けた場所で、本を片手に何やらブツブツ呟いています。一体何をしているのでしょうか?
「えーと……ごしきのほーじんをくんで、そのまんなかで……っと……」
実は、まりしゃの家の近くを龍脈が通っている事が分かったので、それをちょっと引っ張ってこようとしているのです。
龍脈って何、ですか? 風水では最も大切な事で、簡単に言えば『気の流れ』でしょうか?
これが近くにあると、色々と幸せになれたりするのです。
「よういはこれでいいはずだから……あとはしょーかんするだけだなっ!」
黒、赤、白、青、黄の五色の珠を周囲に配置し、その中心に立って杖を構えます。
別に何の力も無いただの木なのですが、そこは形を大事にするまりしゃでした。
「なんかむすかしいじがいっぱいだな……ふりがなうつのもたいへんだ」
あらかじめ全ての字にルビを振ってあるので、これなら安心です。
拙い口調で呪を唱え、クライマックスで杖を高々と振りかざしました。
「ししきししんのせいじゅうのかごをうけ、きなるこーりゅーよやくそくのちにきたれ!」
ゴオオオオオオオオオォォォォォォォ――――――――――
空気が収縮し、風が旋風となり、まりしゃの魔力と紡ぎ合って竜巻となり、空高く舞い上がっていきます。
やがて中心点に光球を象り、周囲に光を放ちつつ一気に弾けました。
「うっ、うあぁあああぁぁああぁっ!?」
パアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァン――――――――――
まりしゃを基点とした光の珠が弾け飛び、周囲は静寂を取り戻します。
解放されたまりしゃは慌ててその場を離れ、自分の立っていた場所を見つめますが……何も起こりません。
「……あれ? しっぱいしたかなぁ……」
がっくりした様子のまりしゃ。それもそうでしょう、何たってとっておきの大魔法だったんですから。
仕方ないので、後片付けして一度帰ろうとした、その時―――――
ピシィッ――――――――――
おや? 何か割れる様な音がしましたよ。初めは気のせいかと思いましたが、音は段々大きくなっていきます。
「あっ!」
よく見ると、まりしゃの立っていた場所の地面に、ヒビが入っています。
「おーっ、やったかな? やったかな?」
わくわくしながら、その光景を見守るまりしゃ。少しずつヒビは広がっていきます。そして……
ピキッ、ビシィッ、ビキビキビキッ―――――
ゴポッ―――――
「あっ、あれっ!?」
高濃度の気が噴出するかと思いきや、出てきたのは全然違うものでした。
「これって……みず……?」
地割れも止んだので、近付いて噴き出す液体に触れてみます。
「あちっ! これ、おゆだ!」
引っ込めた手をぷらぷらさせて声を上げます。地下から噴き出すお湯……これはもしかして、温泉ってやつでしょうか?
「おんせん……わーい、おんせんだぁ!」
思いがけない事にまりしゃも大喜び。何たって、今までお風呂といえばドラム缶でしたからねぇ。
「おんせんっ、おんせん~♪」
早速そこにお風呂を作ろうとしましたが、さすがにまりしゃ一人では手が足りません。
なので、急いでれいむとさくやの所に飛び、手伝ってもらう事にしました。
「これは……凄いじゃないまりしゃ」
「ねーさくやおねぇちゃん、おんせんってなーにー?」
「体にいい、ひろーいお風呂よ」
「ひろい? んじゃあ、いっぱいおよげる?」
「ええ」
「わーい!」
感嘆の声を上げるさくやと、泳げると分かって大はしゃぎのれいむ。二人とも、もうウキウキです。
「じゃあ、早速始めましょうか」
「はーい!」
さくやの指示で、温泉作りが始まりました。
まず、湧き出るお湯に蓋をします。そして、そこを中心に穴を掘っていきます。
手作業では何時まで経っても終わりませんので、さくやの魔力で一気にふっ飛ばします。
廃土を運び出すのはまりしゃとれいむの仕事です。
「ねー、これどこにもってったらいいのー?」
「ん~、とりあえず向こうの方に積んでおいて」
「はーい」
一通りの面積を掘り終ると、次は地ならしです。ボコボコしていると足を怪我するかもしれませんからね。
石を除き、出来るだけ平らにしていきます。これはやや面倒な作業でしたが、やがてそれも完了します。
そして、床一面に木の板を敷き詰めました。そうしないと、土がお湯に溶けて濁ってしまいますからね。
「後もうちょっとね」
「もうちょっと、もうちょっと!」
「じゃ、最後の仕上げといきましょうか」
さくやは二人を連れて、大きな岩の前まで来ました。
「せーのっ……はぁっ!」
ドゴオオオオオオオォォォォォン――――――――――
轟音が唸り、岩が砕け散ります。呆気に取られるまりしゃとれいむ。
「ほえ~……」
「さくやおねぇちゃん、すごーい」
「ま、こんなもんでしょ。二人とも、適当に岩を運んでちょうだい。で、お風呂の周りに置いていって」
「はーい!」
転がる適度な大きさの岩を選び、運びます。そして、温泉の周りに並べていきました。縁石ですね。
「よいしょっ、うんしょっと」
何度も往復を繰り返して、岩を運びます。そしてついに、立派な露天風呂が出来上がりました。
もうすっかり日も暮れて、お月様が顔を覗かせています。
「まりしゃの露天風呂、完成っ!」
「かんせーいっ!」
最後にお湯を押さえていた蓋を外すと、ゴポゴポと音を立てて勢いよくお湯が噴き出しました。
みるみるうちにお湯が溜まっていきます。
「すごいすごーい!」
「それじゃ、一回帰ってお風呂の用意してくるわね。二人の分も持ってくるから」
そう言ってさくやは、一旦館へと引き返していきました。
疲れた二人は、さくやが戻ってくるのを座って待つ事にしました。
「まだかな~まだかな~」
夜の帳が下りる頃に、さくやが戻って来ました。手には、三つの風呂桶とタオル、それに石鹸が入っています。
「お待たせ。ちょうどいい具合にお湯も張ったことだし、お風呂に入りましょ」
「うんっ!」
さぁお待ちかね、温泉タイムの始まりです!
「ふくをぬぎぬぎ~♪」
「ぬぎぬぎ~♪」
楽しみでたまらなかったまりしゃとれいむ、あっという間に服を脱いで、適当に放り投げます。あらあら、はしたないですよ。
「脱衣所無いけど……まっ、誰も見てる訳無いか」
さすがにさくやはテレがありましたが、周囲の安全を確認するとそっと服を脱ぎ始めました。
やがて、綺麗な体が空の下に晒されます。わぉ、これは目のやり場に困ってしまいますねぇ。
「んっ……」
先に飛び込んだ二人に続き、さくやがゆっくりと温泉に足を踏み入れます。
適度な温度のお湯が、足からポカポカ暖めてくれます。
「わ~、さくやおねぇちゃん、おむねおっきぃ!」
「いいな~」
ぷにぷに、さわさわ、もみもみ。
「あんっ、もう……そんなに触らないの」
「えへへっ、やーらかくてきもちいー」
「おもちみたーい」
さわさわさわ、もみもみもみ、ぷにぷにぷに…………
子供ならではの無邪気さで、さくやの体をぺたぺたと触ります。
何てうらやまし……いえ、今のは聞かなかった事にして下さい。
「止めなさいってば、もう……二人も、大人になったらお胸、大きくなるわよ」
「ほんとに? わたしも、さくやおねぇちゃんみたいにきれーになれる?」
「まりしゃとれいむなら、私以上に綺麗になれるわよ」
「そーなんだ! おむねぽいんぽいんになる~」
「ぽいんぽいんになる~」
もう二人とも、いえ、さくやも入れて三人ともはしゃぎっぱなしです。
何時だって女の子は、お風呂が大好きなものですからね。
れいむなんか、もうバシャバシャと泳ぎまくりです。
「ほら、れいむ、そろそろ体洗おっか」
「あらいっこ~♪」
「いっこ~♪」
ザバァッ――――― 一度温泉から上がり、風呂桶を椅子代わりにして一列に並びます。
そして、小さい方のタオルをお湯で濡らし、石鹸を付けます。
「それじゃ、みんなで背中、洗いっこね」
「はーい!」
さくやがまりしゃの、まりしゃがれいむの背中をタオルでゴシゴシします。
「洗いっこ~ゴシゴシ、ゴッシゴシ~♪」
「はい、交代~」
くるっと回って、れいむがまりしゃの、まりしゃがさくやの背中をゴシゴシします。
「きれーにからだをあらいましょ~ゴシゴシ、ゴッシゴシ~♪」
「さくやおねぇちゃんのせなか、おっき~!」
「おっきいね!」
ゴシゴシ、ゴシゴシゴシ……さくやの背中を、二人掛かりで一生懸命洗うまりしゃとれいむ。
手が小さいので、一人だと大変なんです。
「んもうっ……ほら、体を流しましょ」
バシャアアアアァァァッ―――――風呂桶でお湯を掬い、体の泡を流します。
「ん~きもちいーっ!」
「いーっ!」
何度か泡を洗い流して、もう一度湯船に漬かりました。頬をほんのり上気させて、さくやが気持ち良さそうに呟いています。
「はぁ~極楽極楽」
「なんかおばーちゃんみたいー」
「みたいー」
「むっ、よくも言ったわね、えいっ!」
バシャアッ……手でお湯を掬い、れいむに浴びせ掛けました。それに対してれいむも、負けじとお湯を掛け返します。
「わっ、えーい、おかえしだぁっ!」
バシャアァッ……
「うわっぷっ、口の中に入ったじゃない、それっ!」
バシャアアァッ……
「んんっ、わたしもおかえしだー!」
バシャアアァァァッ……
「あはははっ」
「それぇっ! あははっ!」
「そらそらっ! えへへっ!」
三人とも立ち上がって、お互いにお湯を掛けっこしています。
こらこら、プールじゃないんですから、あんまり遊んじゃ駄目ですよ。
「ふぃ~、あついあつい~」
空をフラフラと飛んでいる一つの影……あれは何でしょう?
「なつにそなえて、ほかのみずべにいったはいいけど……やっぱりもとのみずうみがいちばんだ……」
どうやらあれは、湖の氷精ちるののようですね。暑さに弱いちるの、手をパタパタさせて顔を煽いでいます。
ふらつきながら、まりしゃの家の上空を通りかかったその時、もくもくと立ち上る湯気を確認しました。
「うわっ、なにこれ……ただでさえあついってのに……」
下を見ると、まりしゃたちが温泉で遊んでいます。その姿を見て、何だか無性に腹が立ってくるちるの。
「こっちがしにそーだってのに、なんかむかつくっ! ……こうしてやるっ!」
何とちるの、手の先に冷気を集めて氷を作り、それを温泉目掛けて放ちました!
ヒュウウウウウウウウウゥゥゥゥゥ―――――
「? 何の音かしら」
「あっ、うえっ!」
上を見上げると、こちら目掛けて降ってくる氷の姿。慌てて三人、飛び退きます。
バッシャアアアアアアァァァン―――――お湯が水柱を立てて吹き上がりました。
急いでさくやが空を見上げると、そこには氷精ちるのの姿。
「こらっ、危ないでしょっ!」
「うるさいっ、こっちはあつくてほんとーにしにそうなんだっ!」
熱気でイライラしているちるの、ますます興奮しています。
対するさくや、どこから取り出したのか一本のペーパーナイフを構えました。
「おいたをする子はおしおきよっ!」
ヒュンッ! さくやから投げ放たれたナイフが、一直線にちるの目掛けて飛んでいきます。
「うっ、わっ!」
間一髪、回避に成功したちるの。ナイフが髪をかすめていきました。
「こらぁっ、ほんとにあぶないじゃない……あっ、あれっ……?」
クラッ……ナイフはかわしたものの、眩暈を覚えてバランスを崩します。
どうやら、ただでさえ熱気に当てられて弱っていたのに、それに加えて興奮したものだから、力が弱ってしまったのでしょう。
そのまままっ逆さまに、温泉目掛けて落ちていきます。
それに慌てたのはさくやでした。
「たっ、大変……あの子は氷精だから、お湯に落ちたら溶けて無くなってしまう!」
「えぇ~!?」
「どっ、どうしようっ!?」
「とにかく、中に落とさないように……!」
ピュウウウウウウウゥゥゥゥゥッ―――――その間も、どんどんちるのが迫ってきます。
さくや達はお湯に濡れている為、迂闊に触れる事も出来ません。
「こうなったらっ……!」
落下地点に入ったさくや、そのまま受け止めるのかと思いきや……
「トスッ!」
「ぐえっ!」
何とさくや、両手を上げて受け止めるどころか、そのまま上に弾き返してしまいました。
「いたた、なにすんだよっ!」
「わ~、さくやおねぇちゃん、おむねぷるんぷるん~」
「こっ、こらっ、よそ見してないでレシーブ!」
「えっ、えっ? とにかく、えいっ!」
「うぎゃっ」
まりしゃも、飛んできたちるのをレシーブで返し、上に跳ね上げます。
氷精のちるのはとても体が軽いので、まりしゃでも簡単に返す事が出来ました。
「だからいたいって……」
「わわわっ、とにかく、えいっ!」
「ふみ゛っ!」
れいむもさくやの真似をして、トスでちるのを受け止めます。クルクルと宙を舞う可愛そうなちるの。
でも、そうしないとお湯の中に落ちて、溶けてしまいますからね。
「それっ!」
「ぐはっ」
「えーいっ!」
「んぎゃっ」
「そらっ!」
「ぎえっ……も、もうゆるしてぇ……」
まりしゃが一際高くちるのを打ち上げると、それに合わせさくやが高く舞い上がります。
「今だっ、アタック!」
「ひぎゃあああぁぁっ!!!」
さくやの強烈なアタックが決まり、ちるのの体は縁石を越えて温泉の外側に倒れました。
「ふぅ、どうにか助けられたわね」
「きゅ~…………」
どう見てもとどめの様だった気がしますが、それは言わないでおきましょう。ちるのは完全にノビています。
その時、空からまた声が聴こえてきました。
「ちるのちゃ~ん、どこ~?」
どうやらちるのを捜しに来た様子の妖精が、辺りをキョロキョロしています。やがて倒れているちるのの姿を認めると、
まりしゃ達に向かい呼びかけてきました。
「すいませ~ん、ちるのちゃんを私の所まで上げてもらえませんか~?
そっちは熱くて、私じゃ近付けません~」
「……どうやらこの子の保護者みたいね」
「わたしたちも、このこにはさわれないし……」
「それじゃあ、ほーきにのせてはこぼう!」
ピーッ、まりしゃが口笛を吹くと、立て掛けておいた箒がまりしゃの元に飛んできました。
そして器用にちるのの体を引っ掛けると、そのまま空の妖精の所まで上がっていきました。
妖精はちるのを抱きかかえて、何度も頭を下げます。
「ありがとうございます~、その内お礼に伺いますので~」
「えっ……と、別に気を使わなくてもいいから、早くお帰りなさい」
「そうですね~、ありがとうございました~、これで失礼します~」
事情を知らない妖精、羽をパタパタさせて帰って行きました。
「ちょっと後ろめたいかも……はは……」
「だいじょーぶかな、あのこ…………ハクシュンッ!」
体が冷えてしまったれいむ、思わずくしゃみします。
「あの子は家に帰れば元気になるわ。
それより、私達ももう一度温まりましょ?」
「はーい!」
「はーい!」
風邪を引かないように、もう一度肩までお湯に浸かりなおすまりしゃたち。
夜の森の中に、三人の楽しげな笑い声が何時までも響き渡っていました。
……だからこそ、気が付かなかったのかもしれません。徐々に霧が濃くなってきた事を。
薄く、強く、白く濁った紅き霧が、月を覆い始めるのを―――――
-おしまい-
※次回予告
♪ランランラーンラーラー ランランラーンラーラー
わっ、何だろこの霧は? お日様が隠れちゃったよ!
これじゃ寒いよ、れいむと一緒に調べに行こう!
……えっ、なんで……どうして……!?
次回、魔法ょぅι゛ょまりしゃ・第五話!
「どうして!? 運命のいたずら」
じかいもおたのしみにな!
♪ランランラーンラーラー ランランラーンラーラー
-つづく-
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
まほうのもりのおんなのコは(ランランラン、ラーラ)
とてもちいさな魔女っ子です(ランランラン、ラーラ)
おべんきょう げんそう郷
なりたいの
すてき魔法なおんなのコ
ぷきぷきぱよ
Ah さがしてアイテムさん
あれも これも
もっとしりたい
Ah してしてべんきょうさん
すごい ひみつ
いえないことぜんぶ
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
(ランランラン、ラーラ ランランラン、ラーラ)
※第四話「萌え萌え!? みんな裸で洗いっこ!」
ここは春の日も……というよりは、もう夏の気配が漂い始めた幻想郷。今日のまりしゃは森の広場に出ています。
家の近くの少し開けた場所で、本を片手に何やらブツブツ呟いています。一体何をしているのでしょうか?
「えーと……ごしきのほーじんをくんで、そのまんなかで……っと……」
実は、まりしゃの家の近くを龍脈が通っている事が分かったので、それをちょっと引っ張ってこようとしているのです。
龍脈って何、ですか? 風水では最も大切な事で、簡単に言えば『気の流れ』でしょうか?
これが近くにあると、色々と幸せになれたりするのです。
「よういはこれでいいはずだから……あとはしょーかんするだけだなっ!」
黒、赤、白、青、黄の五色の珠を周囲に配置し、その中心に立って杖を構えます。
別に何の力も無いただの木なのですが、そこは形を大事にするまりしゃでした。
「なんかむすかしいじがいっぱいだな……ふりがなうつのもたいへんだ」
あらかじめ全ての字にルビを振ってあるので、これなら安心です。
拙い口調で呪を唱え、クライマックスで杖を高々と振りかざしました。
「ししきししんのせいじゅうのかごをうけ、きなるこーりゅーよやくそくのちにきたれ!」
ゴオオオオオオオオオォォォォォォォ――――――――――
空気が収縮し、風が旋風となり、まりしゃの魔力と紡ぎ合って竜巻となり、空高く舞い上がっていきます。
やがて中心点に光球を象り、周囲に光を放ちつつ一気に弾けました。
「うっ、うあぁあああぁぁああぁっ!?」
パアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァン――――――――――
まりしゃを基点とした光の珠が弾け飛び、周囲は静寂を取り戻します。
解放されたまりしゃは慌ててその場を離れ、自分の立っていた場所を見つめますが……何も起こりません。
「……あれ? しっぱいしたかなぁ……」
がっくりした様子のまりしゃ。それもそうでしょう、何たってとっておきの大魔法だったんですから。
仕方ないので、後片付けして一度帰ろうとした、その時―――――
ピシィッ――――――――――
おや? 何か割れる様な音がしましたよ。初めは気のせいかと思いましたが、音は段々大きくなっていきます。
「あっ!」
よく見ると、まりしゃの立っていた場所の地面に、ヒビが入っています。
「おーっ、やったかな? やったかな?」
わくわくしながら、その光景を見守るまりしゃ。少しずつヒビは広がっていきます。そして……
ピキッ、ビシィッ、ビキビキビキッ―――――
ゴポッ―――――
「あっ、あれっ!?」
高濃度の気が噴出するかと思いきや、出てきたのは全然違うものでした。
「これって……みず……?」
地割れも止んだので、近付いて噴き出す液体に触れてみます。
「あちっ! これ、おゆだ!」
引っ込めた手をぷらぷらさせて声を上げます。地下から噴き出すお湯……これはもしかして、温泉ってやつでしょうか?
「おんせん……わーい、おんせんだぁ!」
思いがけない事にまりしゃも大喜び。何たって、今までお風呂といえばドラム缶でしたからねぇ。
「おんせんっ、おんせん~♪」
早速そこにお風呂を作ろうとしましたが、さすがにまりしゃ一人では手が足りません。
なので、急いでれいむとさくやの所に飛び、手伝ってもらう事にしました。
「これは……凄いじゃないまりしゃ」
「ねーさくやおねぇちゃん、おんせんってなーにー?」
「体にいい、ひろーいお風呂よ」
「ひろい? んじゃあ、いっぱいおよげる?」
「ええ」
「わーい!」
感嘆の声を上げるさくやと、泳げると分かって大はしゃぎのれいむ。二人とも、もうウキウキです。
「じゃあ、早速始めましょうか」
「はーい!」
さくやの指示で、温泉作りが始まりました。
まず、湧き出るお湯に蓋をします。そして、そこを中心に穴を掘っていきます。
手作業では何時まで経っても終わりませんので、さくやの魔力で一気にふっ飛ばします。
廃土を運び出すのはまりしゃとれいむの仕事です。
「ねー、これどこにもってったらいいのー?」
「ん~、とりあえず向こうの方に積んでおいて」
「はーい」
一通りの面積を掘り終ると、次は地ならしです。ボコボコしていると足を怪我するかもしれませんからね。
石を除き、出来るだけ平らにしていきます。これはやや面倒な作業でしたが、やがてそれも完了します。
そして、床一面に木の板を敷き詰めました。そうしないと、土がお湯に溶けて濁ってしまいますからね。
「後もうちょっとね」
「もうちょっと、もうちょっと!」
「じゃ、最後の仕上げといきましょうか」
さくやは二人を連れて、大きな岩の前まで来ました。
「せーのっ……はぁっ!」
ドゴオオオオオオオォォォォォン――――――――――
轟音が唸り、岩が砕け散ります。呆気に取られるまりしゃとれいむ。
「ほえ~……」
「さくやおねぇちゃん、すごーい」
「ま、こんなもんでしょ。二人とも、適当に岩を運んでちょうだい。で、お風呂の周りに置いていって」
「はーい!」
転がる適度な大きさの岩を選び、運びます。そして、温泉の周りに並べていきました。縁石ですね。
「よいしょっ、うんしょっと」
何度も往復を繰り返して、岩を運びます。そしてついに、立派な露天風呂が出来上がりました。
もうすっかり日も暮れて、お月様が顔を覗かせています。
「まりしゃの露天風呂、完成っ!」
「かんせーいっ!」
最後にお湯を押さえていた蓋を外すと、ゴポゴポと音を立てて勢いよくお湯が噴き出しました。
みるみるうちにお湯が溜まっていきます。
「すごいすごーい!」
「それじゃ、一回帰ってお風呂の用意してくるわね。二人の分も持ってくるから」
そう言ってさくやは、一旦館へと引き返していきました。
疲れた二人は、さくやが戻ってくるのを座って待つ事にしました。
「まだかな~まだかな~」
夜の帳が下りる頃に、さくやが戻って来ました。手には、三つの風呂桶とタオル、それに石鹸が入っています。
「お待たせ。ちょうどいい具合にお湯も張ったことだし、お風呂に入りましょ」
「うんっ!」
さぁお待ちかね、温泉タイムの始まりです!
「ふくをぬぎぬぎ~♪」
「ぬぎぬぎ~♪」
楽しみでたまらなかったまりしゃとれいむ、あっという間に服を脱いで、適当に放り投げます。あらあら、はしたないですよ。
「脱衣所無いけど……まっ、誰も見てる訳無いか」
さすがにさくやはテレがありましたが、周囲の安全を確認するとそっと服を脱ぎ始めました。
やがて、綺麗な体が空の下に晒されます。わぉ、これは目のやり場に困ってしまいますねぇ。
「んっ……」
先に飛び込んだ二人に続き、さくやがゆっくりと温泉に足を踏み入れます。
適度な温度のお湯が、足からポカポカ暖めてくれます。
「わ~、さくやおねぇちゃん、おむねおっきぃ!」
「いいな~」
ぷにぷに、さわさわ、もみもみ。
「あんっ、もう……そんなに触らないの」
「えへへっ、やーらかくてきもちいー」
「おもちみたーい」
さわさわさわ、もみもみもみ、ぷにぷにぷに…………
子供ならではの無邪気さで、さくやの体をぺたぺたと触ります。
何てうらやまし……いえ、今のは聞かなかった事にして下さい。
「止めなさいってば、もう……二人も、大人になったらお胸、大きくなるわよ」
「ほんとに? わたしも、さくやおねぇちゃんみたいにきれーになれる?」
「まりしゃとれいむなら、私以上に綺麗になれるわよ」
「そーなんだ! おむねぽいんぽいんになる~」
「ぽいんぽいんになる~」
もう二人とも、いえ、さくやも入れて三人ともはしゃぎっぱなしです。
何時だって女の子は、お風呂が大好きなものですからね。
れいむなんか、もうバシャバシャと泳ぎまくりです。
「ほら、れいむ、そろそろ体洗おっか」
「あらいっこ~♪」
「いっこ~♪」
ザバァッ――――― 一度温泉から上がり、風呂桶を椅子代わりにして一列に並びます。
そして、小さい方のタオルをお湯で濡らし、石鹸を付けます。
「それじゃ、みんなで背中、洗いっこね」
「はーい!」
さくやがまりしゃの、まりしゃがれいむの背中をタオルでゴシゴシします。
「洗いっこ~ゴシゴシ、ゴッシゴシ~♪」
「はい、交代~」
くるっと回って、れいむがまりしゃの、まりしゃがさくやの背中をゴシゴシします。
「きれーにからだをあらいましょ~ゴシゴシ、ゴッシゴシ~♪」
「さくやおねぇちゃんのせなか、おっき~!」
「おっきいね!」
ゴシゴシ、ゴシゴシゴシ……さくやの背中を、二人掛かりで一生懸命洗うまりしゃとれいむ。
手が小さいので、一人だと大変なんです。
「んもうっ……ほら、体を流しましょ」
バシャアアアアァァァッ―――――風呂桶でお湯を掬い、体の泡を流します。
「ん~きもちいーっ!」
「いーっ!」
何度か泡を洗い流して、もう一度湯船に漬かりました。頬をほんのり上気させて、さくやが気持ち良さそうに呟いています。
「はぁ~極楽極楽」
「なんかおばーちゃんみたいー」
「みたいー」
「むっ、よくも言ったわね、えいっ!」
バシャアッ……手でお湯を掬い、れいむに浴びせ掛けました。それに対してれいむも、負けじとお湯を掛け返します。
「わっ、えーい、おかえしだぁっ!」
バシャアァッ……
「うわっぷっ、口の中に入ったじゃない、それっ!」
バシャアアァッ……
「んんっ、わたしもおかえしだー!」
バシャアアァァァッ……
「あはははっ」
「それぇっ! あははっ!」
「そらそらっ! えへへっ!」
三人とも立ち上がって、お互いにお湯を掛けっこしています。
こらこら、プールじゃないんですから、あんまり遊んじゃ駄目ですよ。
「ふぃ~、あついあつい~」
空をフラフラと飛んでいる一つの影……あれは何でしょう?
「なつにそなえて、ほかのみずべにいったはいいけど……やっぱりもとのみずうみがいちばんだ……」
どうやらあれは、湖の氷精ちるののようですね。暑さに弱いちるの、手をパタパタさせて顔を煽いでいます。
ふらつきながら、まりしゃの家の上空を通りかかったその時、もくもくと立ち上る湯気を確認しました。
「うわっ、なにこれ……ただでさえあついってのに……」
下を見ると、まりしゃたちが温泉で遊んでいます。その姿を見て、何だか無性に腹が立ってくるちるの。
「こっちがしにそーだってのに、なんかむかつくっ! ……こうしてやるっ!」
何とちるの、手の先に冷気を集めて氷を作り、それを温泉目掛けて放ちました!
ヒュウウウウウウウウウゥゥゥゥゥ―――――
「? 何の音かしら」
「あっ、うえっ!」
上を見上げると、こちら目掛けて降ってくる氷の姿。慌てて三人、飛び退きます。
バッシャアアアアアアァァァン―――――お湯が水柱を立てて吹き上がりました。
急いでさくやが空を見上げると、そこには氷精ちるのの姿。
「こらっ、危ないでしょっ!」
「うるさいっ、こっちはあつくてほんとーにしにそうなんだっ!」
熱気でイライラしているちるの、ますます興奮しています。
対するさくや、どこから取り出したのか一本のペーパーナイフを構えました。
「おいたをする子はおしおきよっ!」
ヒュンッ! さくやから投げ放たれたナイフが、一直線にちるの目掛けて飛んでいきます。
「うっ、わっ!」
間一髪、回避に成功したちるの。ナイフが髪をかすめていきました。
「こらぁっ、ほんとにあぶないじゃない……あっ、あれっ……?」
クラッ……ナイフはかわしたものの、眩暈を覚えてバランスを崩します。
どうやら、ただでさえ熱気に当てられて弱っていたのに、それに加えて興奮したものだから、力が弱ってしまったのでしょう。
そのまままっ逆さまに、温泉目掛けて落ちていきます。
それに慌てたのはさくやでした。
「たっ、大変……あの子は氷精だから、お湯に落ちたら溶けて無くなってしまう!」
「えぇ~!?」
「どっ、どうしようっ!?」
「とにかく、中に落とさないように……!」
ピュウウウウウウウゥゥゥゥゥッ―――――その間も、どんどんちるのが迫ってきます。
さくや達はお湯に濡れている為、迂闊に触れる事も出来ません。
「こうなったらっ……!」
落下地点に入ったさくや、そのまま受け止めるのかと思いきや……
「トスッ!」
「ぐえっ!」
何とさくや、両手を上げて受け止めるどころか、そのまま上に弾き返してしまいました。
「いたた、なにすんだよっ!」
「わ~、さくやおねぇちゃん、おむねぷるんぷるん~」
「こっ、こらっ、よそ見してないでレシーブ!」
「えっ、えっ? とにかく、えいっ!」
「うぎゃっ」
まりしゃも、飛んできたちるのをレシーブで返し、上に跳ね上げます。
氷精のちるのはとても体が軽いので、まりしゃでも簡単に返す事が出来ました。
「だからいたいって……」
「わわわっ、とにかく、えいっ!」
「ふみ゛っ!」
れいむもさくやの真似をして、トスでちるのを受け止めます。クルクルと宙を舞う可愛そうなちるの。
でも、そうしないとお湯の中に落ちて、溶けてしまいますからね。
「それっ!」
「ぐはっ」
「えーいっ!」
「んぎゃっ」
「そらっ!」
「ぎえっ……も、もうゆるしてぇ……」
まりしゃが一際高くちるのを打ち上げると、それに合わせさくやが高く舞い上がります。
「今だっ、アタック!」
「ひぎゃあああぁぁっ!!!」
さくやの強烈なアタックが決まり、ちるのの体は縁石を越えて温泉の外側に倒れました。
「ふぅ、どうにか助けられたわね」
「きゅ~…………」
どう見てもとどめの様だった気がしますが、それは言わないでおきましょう。ちるのは完全にノビています。
その時、空からまた声が聴こえてきました。
「ちるのちゃ~ん、どこ~?」
どうやらちるのを捜しに来た様子の妖精が、辺りをキョロキョロしています。やがて倒れているちるのの姿を認めると、
まりしゃ達に向かい呼びかけてきました。
「すいませ~ん、ちるのちゃんを私の所まで上げてもらえませんか~?
そっちは熱くて、私じゃ近付けません~」
「……どうやらこの子の保護者みたいね」
「わたしたちも、このこにはさわれないし……」
「それじゃあ、ほーきにのせてはこぼう!」
ピーッ、まりしゃが口笛を吹くと、立て掛けておいた箒がまりしゃの元に飛んできました。
そして器用にちるのの体を引っ掛けると、そのまま空の妖精の所まで上がっていきました。
妖精はちるのを抱きかかえて、何度も頭を下げます。
「ありがとうございます~、その内お礼に伺いますので~」
「えっ……と、別に気を使わなくてもいいから、早くお帰りなさい」
「そうですね~、ありがとうございました~、これで失礼します~」
事情を知らない妖精、羽をパタパタさせて帰って行きました。
「ちょっと後ろめたいかも……はは……」
「だいじょーぶかな、あのこ…………ハクシュンッ!」
体が冷えてしまったれいむ、思わずくしゃみします。
「あの子は家に帰れば元気になるわ。
それより、私達ももう一度温まりましょ?」
「はーい!」
「はーい!」
風邪を引かないように、もう一度肩までお湯に浸かりなおすまりしゃたち。
夜の森の中に、三人の楽しげな笑い声が何時までも響き渡っていました。
……だからこそ、気が付かなかったのかもしれません。徐々に霧が濃くなってきた事を。
薄く、強く、白く濁った紅き霧が、月を覆い始めるのを―――――
-おしまい-
※次回予告
♪ランランラーンラーラー ランランラーンラーラー
わっ、何だろこの霧は? お日様が隠れちゃったよ!
これじゃ寒いよ、れいむと一緒に調べに行こう!
……えっ、なんで……どうして……!?
次回、魔法ょぅι゛ょまりしゃ・第五話!
「どうして!? 運命のいたずら」
じかいもおたのしみにな!
♪ランランラーンラーラー ランランラーンラーラー
-つづく-
良い仕事してますなぁ…(感