むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんとおばあさんはとても仲が良かったのですが、大変貧乏で、今日の御飯を確保するので精一杯でした。
レミリア「何でこんな貧相な役をやらなきゃいけないのよ。」
フランドール「普段の行いが悪いからねぇ。因果応報ってやつ?」
レミリア「何か言った?」
フランドール「いいえ、何かとは言ってませんわ。」
御飯だけで精一杯なのですから、お風呂に入って身体を綺麗にすることも出来ません。
何時の間にか、二人の身体中に、垢が溜まってしまっていました。
レミリア「私たちに、人間の新陳代謝を当てはめられてもねぇ。」
フランドール「ねえねえ、そこの餓鬼臭いじいさま。暇だから遊びましょ?」
レミリア「何よ、乳臭いばあさま。何して遊ぶのよ、弾幕ごっこ?」
フランドール「今は弾幕ごっこの気分じゃないなあ。……お人形遊びとか?」
レミリア「お人形ねぇ。溜まっても無い垢を捏ねて作るの?」
貧乏暇無し、とはよく言ったものですが、二人は結構暇だったようです。
貧乏子沢山と言うわけでも無かったらしく、子供も居ません。
パチュリー「霧を出して、不純物をろ過してみるとか。」
フランドール「あら、近所に住む本の虫で有名な二宮さん。」
パチュリー「説明的な紹介ありがとう。でもその名前、大丈夫なのかしら?」
レミリア「私たちに汚れた部分があるとでも言うの?」
パチュリー「無い、とも限らないわよ。まぁ、物は試し。やってみる価値はあるんじゃないかしら?」
レミリア「いいわよ、やってみようじゃない。」
近所の二宮さんの言った通りの方法で、おじいさんとおばあさんは、
身体中の垢を集めて、人形を作ることにしました。
人形を、二人の子供だと思って、丹精こめて作りました。
レミリア「こうして。」
フランドール「出来たのが。」
美鈴「私でした。って、何でですか~!」
こうして人形が完成したのですが、何とその人形が動き出したのです。
二人はびっくりしてしまいました。
レミリア「そんなの、こっちが知りたいわよ。」
フランドール「やっぱ、悪い部分があったのね。やれやれ。」
レミリア「こっち見て人事みたいにしみじみと言うな。あんたのも混じってるでしょ?」
フランドール「これがほんとの、あか(紅)から生まれた何とかってやつね。」
美鈴「紅(あか)から生まれたのが紅(ホン)って、わけがわかりませんよ、もう……。」
人形は、生まれたばかりなのに、自分の生い立ちに不満を持ってしまったようです。
レミリア「何にせよ、あんたは私たちの悪い部分から生まれた存在だからね。
さっさと何処かに行って、無意味な世界征服でも企んでみなさい。」
美鈴「それ、何処の大魔王ですか。」
フランドール「さし当たって、名前は血から生まれた『血から太郎』ね。」
美鈴「血じゃなくて~、悪い部分って、さっき言ったじゃないですか~。」
フランドール「あれぇ。じいさまったら、すっかりボケちゃって。」
レミリア「ボケてるのはあんたの方でしょう、ばあさま。」
フランドール「まぁいいわ。ボケてるのはこいつでいいじゃん。」
レミリア「そうね。それで万事解決ね。」
美鈴「そんな勝手にボケたことにされても……。」
人形は、『ちから太郎』と名付けられました。
レミリア「文句ばっかねぇ。話が進まないから、とっとと行ってきなさい。」
美鈴「何処に行けって言うんですか。……って、おばあさん?」
フランドール「や~きゅ~う~すぅ~るなら~♪こ~いうぐあいにしやしゃんせ~♪」
ふと見ると、おばあさんが歌いながら、ちから太郎に近づいて来ています。
手には、何か棒とも剣ともつかない、赤い物を持っています
美鈴「妹様、は、話せば分かりますから、まずその歌は良い子が歌うようなものでは…。」
フランドール「アウト!セーフ!よよいの……!」
美鈴「な、何でレーヴァテイン持ってこっちに来るんですか!?いや、こ、来ないで……!」
ちから太郎は話し合いを試みますが、おばあさんは止まりません。
ちから太郎に近づき、棒を振りかぶり、そして!
フランドール「よい!」
カキーーン!!
美鈴「あああああぁぁぁぁぁぁ……………。」
気持ちの良い音とともに、ちから太郎は、空の彼方へすっ飛んで逝ってしまいました。
フランドール「いえ~い。」
レミリア「いえ~い。ナイスホームランね。」
フランドール「野球剣って楽しいね。またやりたいなぁ。」
レミリア「また良いタマが見つかったらね。命(タマ)が。」
おじいさんとおばあさんは、嬉しそうにちから太郎を見送りました。
で、空の彼方に消えたちから太郎はと言うと…
美鈴「うぐぐ……やっぱ……こんな……扱い…。」
地面にぶっ倒れていました。
突然家を追い出されたせいか、ちから太郎はしめじめと泣いています。
美鈴「はぁ~。こうしてても仕方ない。とりあえず、歩かなきゃ。」
立ち直ったちから太郎は早速、世界征服のために行動を開始しました。
美鈴「何かそんな設定になってるし~。」
??「出張の御堂だよ~。手を合わせたら幸せになれるわよ~。」
美鈴「ん?」
ちから太郎が歩いていると、道の向こうから屈強な大男がやってきました。
てゐ「こんなに可愛い兎を捕まえておいて、屈強たぁねえ。」
男は、とても大きな御堂を担いでいます。
てゐ「お、そこの不幸な生まれの青年。一拝どうだい?」
美鈴「不幸とか言うな!」
てゐ「でも否定は出来ないでしょ?」
美鈴「うう……。」
てゐ「ほら、そんな貴方に出張御堂。これに祈れば幸せ間違いなし!」
美鈴「ほんとかなぁ…。」
てゐ「妖怪は度胸。何でも試してみるもんさ。」
美鈴「度胸が要るようには見えないけど、まぁいいか。」
ちから太郎は縁起担ぎにと、男の御堂にお祈りをしました。
美鈴「何か良いことありますように。」
てゐ「よくできました。それじゃ、料金。」
美鈴「はい?」
てゐ「はい?じゃなくて。出張して来たんだから、その分は払ってくれなくちゃ。」
美鈴「お、お金なんか持ってなんだけど…。」
てゐ「え~~~~~。お金も無いくせに旅してるの~?」
美鈴「し、仕方ないじゃない!いきなり家を追い出されたんだから!」
てゐ「しょうがないなぁ。それじゃ、借金返すまで私の家来になって働くこと。」
美鈴「ええ~!借金って何よ!」
てゐ「じゃ、ツケ。利子は当然ついて回るわよ。」
美鈴「どっちも変わらないわよ!そもそも、何で家来にならなきゃいけないのよ!」
てゐ「それじゃお金払ってよ。払えないなら身体で払う。当然じゃん?」
美鈴「それは…その……。」
てゐ「わかったみたいね。はい、主従の契約書。勿論血判でね。」
美鈴「あ~も~、何でこうなるのよ~。」
ちから太郎は、男の家来にされてしまいました。
てゐ「私の名前は『御堂太郎』。よろしくね、下僕さん。」
美鈴「うう~、よろしくお願いします、ご主人様………。」
男は、御堂太郎と名乗りました。
ちから太郎と御堂太郎は、世界征服のために一歩前進しました。
てゐ「ありゃ、そんな話だったっけ?」
美鈴「違うと思う。」
二人がしばらく歩いていると、一人の屈強な大男が、大きな石の前に居るのが見えました。
ミスティア「お~お~きなバストの門番さん♪中華~妖怪ちゅうご~く♪
百年いつも~つ~立っていた♪ごじま~んの門番さ~♪」
てゐ「五月蝿いなぁ。何歌ってんだか。」
美鈴「これって、私の歌……でいいのかしら?認めたくないけど。」
とても五月蝿い男でした。
てゐ「よし下僕1号、さくっと黙らせちゃいなさい!」
美鈴「下僕とか言うな!」
言いたいことはありますが、借金をしている身ですので、逆らえません。
ちから太郎は仕方なく、その五月蝿い男の所へ行きました。
ミスティア「いもう~との生まれた朝に♪狩って~きた門番さ~♪」
美鈴「そんな逸話無いから!」
ミスティア「今は もう 解雇した♪そのも~ん~ば~ん♪」
美鈴「縁起でも無いこと言うな~!」
ミスティア「百年レミリアにチクチクチクチク♪咲夜も小言をチクチクチクチク♪
今は もう 解雇した♪そのも~ん~ば~ん♪」
美鈴「もうやめて~~~!!」
ミスティア「え?あ!痛い痛いッ!」
堪えきれなくなったちから太郎は、男を殴りつけました。
ミスティア「何すんのよ!ヒトが気持ち良く歌ってるって言うのに~。」
美鈴「聞いてるこっちは気持ち良くも何とも無いわよ!」
ミスティア「盗み聞きする方が悪い!慰謝料請求するわよ!」
美鈴「ええ!そ、それは勘弁……。」
これ以上借金が増えたらたまりません。
ちから太郎はたじろぎました。
ちから太郎は無言で、御堂太郎に助けを求めました。
てゐ「こほん。え~と、甲高い声で歌う『金切り太郎』?」
ミスティア「石切太郎!何でかはどうでも良いから忘れたけど。」
男は、石切太郎と名乗りました。
てゐ「実は私たちは世界征服の為に旅をしてるんだけど、是非あなたの力を借りたいと思って。」
ミスティア「え~。そんなことより歌を歌ってる方が楽しいと思うけどなぁ。」
てゐ「あ、その辺は気にしなくて良いわよ。貴方は歌だけ歌ってればいいわ。荒事はこいつがやるから。」
美鈴「ぐう……反論出来ない立場……。」
ミスティア「って言ってもなぁ。私に何か良いことあるの?」
てゐ「世界征服が成功したら、国民的アイドルとして売り出すわ。」
ミスティア「え、アイドル?」
てゐ「そう、アイドル。貴方の歌で、皆をメロメロにするの。…出来るわよね?」
ミスティア「そりゃ勿論!楽勝ね、楽勝!」
てゐ「で、貴方の歌でメロメロになった民衆を私が支配するの。いい考えでしょ?」
美鈴「それって、洗脳じゃないの?」
ミスティア「よおし、やってやるわ!私の歌でみんなヘロヘロよ~!」
御堂太郎は、石切太郎を上手く丸め込みました。
こうして石切太郎も、御堂太郎の家来となりました。
美鈴「ねえ、このお話のタイトルって、『御堂太郎』だったっけ?」
ミスティア「すずめ~に聞いてもわからない♪うさぎ~に聞いてもわからない~♪」
てゐ「ウッサ~ウサ~♪ウッサ~ウサ~♪」
御堂太郎一行は、旅を続けているうちに、とある大きな屋敷に辿り着きました
てゐ「良いお屋敷よね。世界征服するならこれくらいの拠点が欲しい所ねえ。」
ミスティア「トップアイドルの事務所もこれくらい…って聞いたことがあるわ~。」
てゐ「よし、下僕1号!ちゃっちゃと奪ってきて。」
美鈴「だから下僕とか言うな!」
??「しくしく……。」
美鈴「あら、この声は……?」
ミスティア「あ、ほらあそこ。」
??「しくしく……。」
屋敷の前で、美しい娘さんが、めそめそと泣いているのを見つけました。
何事かと思いちから太郎は、娘さんに話しかけます。
美鈴「これ、そこの娘さん……。」
咲夜「はい。」
美鈴「…………。」
ちから太郎は、沈黙しました。
多分、娘さんがあまりに美しかったからなのでしょう。
咲夜「私は、この家に住む長者の娘です…。」
美鈴「いえ、何でもありません何も聞いてません。失礼しました。」
咲夜「実は、この付近には悪い鬼が出て、村人たちを困らせて……。」
美鈴「それでは、私たちはこれで…。」
ちから太郎は後ろを向いて、その場を立ち去ろうとしました。
咲夜「鬼は強くて、村の男たちが挑んでも、誰も退治することが出来ませんでした。
逆らえる者が居なくなったと知ると、鬼はますます悪さをするようになり……。」
美鈴「わっ!」
しかし、振り向いた先には娘さんが、さっきと同じように泣いていました。
娘さんは驚くちから太郎に構わず、泣いている理由を話します。
咲夜「鬼はとうとう、村の若い娘を生贄として差し出すように言ってきました。
そして、その生贄に選ばれたのが、私なのです……。しくしく…。」
娘さんが言うには、この村には悪い鬼が出て困っていて、生贄を差し出すことになったのです。
そして、その生贄は何と、この娘さんだと言うのです。
美鈴「ええと……非常に言い難いのですけど、鬼くらい貴方一人で退治出来るんじゃないかと……。」
紫「まあ、話は聞いての通りですわ。」
美鈴「うわっ!?」
いつの間にか、ちから太郎の後ろに、とても立派な身なりの人が立っていました。
どうやら、このお屋敷に住む、長者さんのようです。
いきなり話しかけられたので、ちから太郎はちょっとびっくりしました。
紫「私としても心苦しいけれど、これしか方法が無いの。嗚呼、可哀想な私の娘!」
咲夜「お父様!」
--(時は止まる)--
咲夜『おばあちゃん!』
--(そして動き出す)--
二人は抱き合って、めそめそと泣いています。
美鈴「一瞬、凄くアレな台詞が出た気がする……。」
てゐ「う~ん、これはチャンスね。」
美鈴「チャンス?」
てゐ「そう、チャンス。ここで良いことしておいて、下々の心を掴んでおくの。」
美鈴「いや、この人たち全然下々じゃないような気がするんだけど…。」
てゐ「あ~これこれ。安心して良いわよ。鬼ならさくっと退治して来るから。こいつが。」
美鈴「何で私だけなのよ!」
紫「まぁ、何て勇気のある人なのでしょう。それでは、さくっと退治してやって下さいな。」
てゐ「大丈夫、さくっと退治出来るから。ね?」
美鈴「何の根拠があってそんなこと言うのよ……。」
ちから太郎は、何だか分からないうちに鬼を退治することになってしまいました。
紫「鬼は夜になったらこの屋敷にやって来るから、宜しくね。」
美鈴「う~、こうなったらやるしかないのね…。」
そうこうしているうちに、夜が来ました。
ちから太郎は、屋敷の門前に立ちました。
美鈴「門番は私の本業!ここなら私に負けは無い!」
咲夜「だったら良いんだけどねぇ、普段から。」
美鈴「………。」
一瞬、娘さんの声が聞こえたような気がしましたが、娘さんの姿はありません。
きっと、娘さんがちから太郎の無事を祈っていて、その声がちから太郎に届いたのでしょう。
ミスティア「ここが今夜のステージね~。あ~あ~、声のテスト中テスト中。本日暗雲立ち込める星空~。」
石切太郎は、屋敷の外にある木のてっぺんに立ちました。
ここなら、鬼が近くに来てもすぐにわかります。
そして、御堂太郎は
てゐ「王手。」
紫「甘いわ、ロン。」
てゐ「む~~~、それならこれでフルハウスよ!」
紫「ウノ。」
てゐ「う~~……ん?よし!猪鹿蝶!」
紫「はい、チェックメイト。」
てゐ「そんな~。うう~、まいりました~。」
家の中で、長者さんと遊んでいました。
美鈴「ちょっと!こんな時に何やってんのよ!」
てゐ「戦いの前に身体を休めるのは戦の基本よ。あ、でも足軽は警戒を怠らないでね。」
美鈴「どっちなのよ!ほら、一応私たちが退治することになってるんだから。
長者さんと一緒にいちゃ駄目でしょ。こっちに来なさい。」
てゐ「あ、待って~、再戦したいのに~。」
紫「頑張ってねえ~。」
御堂太郎はちから太郎に引きづられて、門前に連れて来られました。
無理矢理連れて来られた御堂太郎は不満タラタラです。
てゐ「あそこで6の目連続で出してくるなんて酷いと思わない?絶対イカサマだって。」
美鈴「……て言うかどんなゲームやってたのよ?傍から聞いてる分にはさっぱり理解できな……。」
てゐ「しっ…!」
遠くから、何やら音が聞こえてきました。
美鈴「…足音?」
てゐ「いよいよ来るわね。」
ミスティア「あ、見えたわよ。」
ずし~ん、ずし~んという大きな足音が、どんどんこちらに近づいてきます。
そして…
萃香「今夜の酒のつまみは何処~?」
ついに、鬼が姿を現しました。
美鈴「そのまんまね……。」
てゐ「そのまんまだね。でもフルパワーって感じの大きさよね。」
鬼は大変大きく、恐ろしい姿をしていました。
それでも三人は動じることなく、鬼の方を向きました。
てゐ「石切太郎!あんたの力で鬼をヘロヘロにしちゃいなさい!」
ミスティア「よおし!一番、石切太郎!はりきって歌いま~す!」
石切太郎は、鬼の前に飛び出しました。
ミスティア「私の歌を聴けぇえええ」
萃香「よいしょ。」
ミスティア「ええええ~~~……え?」
萃香「今日のおつまみはこんなところにあったのね~。」
石切太郎はあっさりと、鬼に捕まってしまいました。
萃香「いただきま~す。」
ミスティア「え、い、いや、ちょっと待って!私を食べても美味しくないと言いますか何で私ってば
食べられたり食べられたり食べられたりなの~!?もう嫌だってば助けてええ~!!」
鬼は大きな口をあんぐりと開けて、石切太郎を食べようとします。
ミスティア「い~~~~や~~~~!!!」
ぱくっ!
必死の叫びも虚しく、石切太郎は鬼に食べられてしまいました。
萃香「う~ん、まだまだ足りないねぇ。」
おっきな鬼の胃袋は、石切太郎を食べただけでは満足出来ないようです。
鬼は残った二人の方を向きます。
美鈴「強い…!なら御堂太郎……じゃなくてご主人様、一緒に掛かりましょう!」
鬼が一筋縄ではいかないことを悟ったちから太郎は、御堂太郎と一緒に攻撃しようと考えました。
しかし、
てゐ「ところで、宴会場にはこれこれここの場所がありまして、料金は以下のように……。」
萃香「ふ~ん。あ、ここなんか風情があって良さそうね。」
てゐ「いやいや、お目が高い!あ、ショバ代はこれだけお勉強させていただきます。」
御堂太郎は、鬼と何やら親しげに話しをしていました。
美鈴「こら!何やってんのよ!」
てゐ「何って、ねぇ。私はこの鬼様に仕える『裏切太郎』よ?」
美鈴「な、何だって~!」
御堂太郎は裏切りました。
そこで御堂太郎は、裏切太郎に名乗りを変えました。
てゐ「ええと、それでお話の続きですけど~。」
萃香「その前に、残ったモノを食べておかなくちゃね。残すのは良くないわ~。」
美鈴「!?」
鬼がちから太郎に向かってきます。
美鈴「採光らん……!」
萃香「うりゃ!」
美鈴「わぁあああ!?」
ちから太郎は鬼に立ち向かおうとしましたが、鬼の攻撃を受けて吹っ飛んでしまいました。
美鈴「くぅ……!」
萃香「いただきま~す。」
美鈴「(やられる!)」
身動きの取れないちから太郎に、鬼の手が伸びます。
もはやこれまでと、覚悟を決めるちから太郎。
と、そのときです。
萃香「あ痛っ!」
美鈴「……へ?」
突然、鬼が苦しみだしました。
萃香「お、お腹が痛い~!何かチクチクするよお~!」
美鈴「い、一体何……?」
萃香「ああ、痛い痛い!誰か助けて~!」
鬼はお腹をおさえながら、何処かに走り去ってしまいました。
美鈴「た、助かった……。はぁ~~~。」
ちから太郎は何とか食べられずに済みました。
安心したちから太郎は、その場にへたり込みました。
てゐ「ふふん。正義は勝つ!」
美鈴「あ、この裏切り太郎!よくもぬけぬけと!」
御堂太郎改め裏切太郎は、鬼が去った後もその場に残っていました。
てゐ「何言ってんのさ。私があそこで時間稼ぎしてなきゃ、今頃食べられてるよ?」
美鈴「じ、時間稼ぎ……?」
てゐ「ひょっとして、本気で裏切ったと思った?」
美鈴「うん。」
てゐ「酷いなぁ。ま、敵を欺くには味方からって言うし。結果オーライね。」
美鈴「何か激しく騙されてる気がするけど……。」
てゐ「まぁまぁ。お詫びに、主従の契約と借金はチャラにしてあげるから。」
美鈴「む~、それは有り難いけど……って、あ~!石切太郎は!?」
ちょっと安心したところで、ちから太郎は鬼に食べられたまんまの石切太郎のことを思い出しました。
てゐ「………南無。」
美鈴「食べられたまんま!?」
てゐ「自らの身を犠牲にして、あの子は私たちを、そして、世界を救ったのよ。
あ、でも私の世界征服計画はご破算か~。無念かな無念かな。」
美鈴「ふ、不憫過ぎる……。」
てゐ「雀は小骨が多いとは良く言われてるけど、それを丸呑みなんてするからああなるの。」
美鈴「小骨がお腹に刺さって…ってこと?え、でも丸呑みしたんじゃなかったの?
て言うか消化されたの?何で骨だけ溶けてないの?ねえ、その辺どうなのよ!?」
てゐ「ま、これがほんとの、食傷ってやつよ。食べ過ぎるのも食べられ過ぎるのも良くないのさ。」
何はともあれ、二人は鬼を退治しました。
石切太郎に手を合わせると、二人は長者さんの屋敷へ行って、報告をしました。
その報告を受けて、長者さんは大喜びです。
紫「よくぞ、あの悪い鬼を退治してくれました。感謝しますわ。」
美鈴「あ、いえいえ。私はそれ程何もやってませんから…。」
短い間だったとは言え、仲間だった石切太郎を失ったのです。
ちから太郎は、素直に喜ぶことが出来ないのか、神妙な顔をしています。
紫「ああ、そうだわ。何かお礼をしなくちゃ。何がいいかしらねぇ……。」
美鈴「あ~、いやその、何かと悪い予感がするので結構です。それでは我々はこれで。」
長者さんは少し考えて、言いました。
紫「そうねぇ。それじゃあ、私の娘を差し上げますわ。それとこのお屋敷も。」
美鈴「いえ、結構で…。」
てゐ「まあ、何と言う、わたくしには過ぎた褒美!有り難く頂戴致しますわ。」
美鈴「ち、ちょっと!!後ろから何言ってんのよ!」
紫「よしよし。これで血の盟約は成ったわ。早速祝言よ。」
美鈴「ひええ、何か勝手に話が進んで行ってる~!?」
咲夜「不束者ですが、よろしくお願いしますわ。お願いされなきゃ命が無いわよ。」
美鈴「ひ~~……、こ、こちらこそよろしくお願いします…。」
紫「それじゃ、私は寝…もとい隠居するから、二人とも、末永くお幸せにね。」
こうして、御堂太郎の後押しもあって、ちから太郎は長者さんの娘さんと結婚することになりました。
この大きなお屋敷も貰ったので、二人はそこで暮らすことにしました。
てゐ「おめでと~。元上官として嬉しい限りだわ~。」
紫「あ、そうそう。貴方には私の次女をあげるわ。
ちゃんと別のお屋敷も用意してるから、末永くお幸せにね。」
てゐ「へ?」
永琳「末永く宜しくね。」
てゐ「………。」
御堂太郎は、長者さんの次女さんと結婚しました。
そして、ちから太郎とは別の屋敷で、末永く幸せに暮らしたそうです。
てゐ「あ~、ええと~……。」
永琳「あら、どうかした?」
てゐ「あはは~、何か違和感と言うか、序列が違うとか思ったりしたけど~、
別にそんなことは無いですよね~。むしろ正常ですよね。あはは~。」
永琳「ええ。何もおかしいことは無いのよ。上とか下とかね。」
石切太郎が生きていたなら、三女さんと結婚していたことでしょう……。
幽々子「え~。私の出番これだけなの?折角おやつ抜いてきたのに~。」
ちから太郎は、村からおじいさんとおばあさんを呼びました。
おじいさんとおばあさんは、娘さんともすぐに仲良くなりました。
咲夜「お義父様、お義母様。お食事の準備が出来ました。」
レミリア「ん、ご苦労様。」
フランドール「わ~い。美味しそう。」
咲夜「はい、あなたはキャベツ一玉。」
美鈴「そんな~!一応形式だけでもここは私の家なのに~!」
パチュリー「形式だけね。でも、何の権威も無いわ。」
美鈴「何で近所の二宮さんまで居るんですか~!?」
フランドール「屋敷の主って言う立場は、ちょいちょいと壊しておいたから。」
レミリア「まぁ、そういう運命だったのよ。あきらめなさい。」
美鈴「うう、しくしく……。」
五人はこの屋敷で、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
なお、この屋敷は後年、『紅魔館』と呼ばれるようになったとか、ならなかったとか……。
めでたし めでたし
キャスト
ちから太郎 ・・・ 紅 美鈴
おじいさん ・・・ レミリア・スカーレット
おばあさん ・・・ フランドール・スカーレット
二宮さん ・・・ パチュリー・ノーレッジ
御堂太郎 ・・・ 因幡 てゐ
石切太郎 ・・・ ミスティア・ローレライ
娘さん ・・・ 十六夜 咲夜
長者さん ・・・ 八雲 紫
鬼 ・・・ 伊吹 萃香
次女さん ・・・ 八意 永琳
三女さん ・・・ 西行寺 幽々子
おじいさんとおばあさんはとても仲が良かったのですが、大変貧乏で、今日の御飯を確保するので精一杯でした。
レミリア「何でこんな貧相な役をやらなきゃいけないのよ。」
フランドール「普段の行いが悪いからねぇ。因果応報ってやつ?」
レミリア「何か言った?」
フランドール「いいえ、何かとは言ってませんわ。」
御飯だけで精一杯なのですから、お風呂に入って身体を綺麗にすることも出来ません。
何時の間にか、二人の身体中に、垢が溜まってしまっていました。
レミリア「私たちに、人間の新陳代謝を当てはめられてもねぇ。」
フランドール「ねえねえ、そこの餓鬼臭いじいさま。暇だから遊びましょ?」
レミリア「何よ、乳臭いばあさま。何して遊ぶのよ、弾幕ごっこ?」
フランドール「今は弾幕ごっこの気分じゃないなあ。……お人形遊びとか?」
レミリア「お人形ねぇ。溜まっても無い垢を捏ねて作るの?」
貧乏暇無し、とはよく言ったものですが、二人は結構暇だったようです。
貧乏子沢山と言うわけでも無かったらしく、子供も居ません。
パチュリー「霧を出して、不純物をろ過してみるとか。」
フランドール「あら、近所に住む本の虫で有名な二宮さん。」
パチュリー「説明的な紹介ありがとう。でもその名前、大丈夫なのかしら?」
レミリア「私たちに汚れた部分があるとでも言うの?」
パチュリー「無い、とも限らないわよ。まぁ、物は試し。やってみる価値はあるんじゃないかしら?」
レミリア「いいわよ、やってみようじゃない。」
近所の二宮さんの言った通りの方法で、おじいさんとおばあさんは、
身体中の垢を集めて、人形を作ることにしました。
人形を、二人の子供だと思って、丹精こめて作りました。
レミリア「こうして。」
フランドール「出来たのが。」
美鈴「私でした。って、何でですか~!」
こうして人形が完成したのですが、何とその人形が動き出したのです。
二人はびっくりしてしまいました。
レミリア「そんなの、こっちが知りたいわよ。」
フランドール「やっぱ、悪い部分があったのね。やれやれ。」
レミリア「こっち見て人事みたいにしみじみと言うな。あんたのも混じってるでしょ?」
フランドール「これがほんとの、あか(紅)から生まれた何とかってやつね。」
美鈴「紅(あか)から生まれたのが紅(ホン)って、わけがわかりませんよ、もう……。」
人形は、生まれたばかりなのに、自分の生い立ちに不満を持ってしまったようです。
レミリア「何にせよ、あんたは私たちの悪い部分から生まれた存在だからね。
さっさと何処かに行って、無意味な世界征服でも企んでみなさい。」
美鈴「それ、何処の大魔王ですか。」
フランドール「さし当たって、名前は血から生まれた『血から太郎』ね。」
美鈴「血じゃなくて~、悪い部分って、さっき言ったじゃないですか~。」
フランドール「あれぇ。じいさまったら、すっかりボケちゃって。」
レミリア「ボケてるのはあんたの方でしょう、ばあさま。」
フランドール「まぁいいわ。ボケてるのはこいつでいいじゃん。」
レミリア「そうね。それで万事解決ね。」
美鈴「そんな勝手にボケたことにされても……。」
人形は、『ちから太郎』と名付けられました。
レミリア「文句ばっかねぇ。話が進まないから、とっとと行ってきなさい。」
美鈴「何処に行けって言うんですか。……って、おばあさん?」
フランドール「や~きゅ~う~すぅ~るなら~♪こ~いうぐあいにしやしゃんせ~♪」
ふと見ると、おばあさんが歌いながら、ちから太郎に近づいて来ています。
手には、何か棒とも剣ともつかない、赤い物を持っています
美鈴「妹様、は、話せば分かりますから、まずその歌は良い子が歌うようなものでは…。」
フランドール「アウト!セーフ!よよいの……!」
美鈴「な、何でレーヴァテイン持ってこっちに来るんですか!?いや、こ、来ないで……!」
ちから太郎は話し合いを試みますが、おばあさんは止まりません。
ちから太郎に近づき、棒を振りかぶり、そして!
フランドール「よい!」
カキーーン!!
美鈴「あああああぁぁぁぁぁぁ……………。」
気持ちの良い音とともに、ちから太郎は、空の彼方へすっ飛んで逝ってしまいました。
フランドール「いえ~い。」
レミリア「いえ~い。ナイスホームランね。」
フランドール「野球剣って楽しいね。またやりたいなぁ。」
レミリア「また良いタマが見つかったらね。命(タマ)が。」
おじいさんとおばあさんは、嬉しそうにちから太郎を見送りました。
で、空の彼方に消えたちから太郎はと言うと…
美鈴「うぐぐ……やっぱ……こんな……扱い…。」
地面にぶっ倒れていました。
突然家を追い出されたせいか、ちから太郎はしめじめと泣いています。
美鈴「はぁ~。こうしてても仕方ない。とりあえず、歩かなきゃ。」
立ち直ったちから太郎は早速、世界征服のために行動を開始しました。
美鈴「何かそんな設定になってるし~。」
??「出張の御堂だよ~。手を合わせたら幸せになれるわよ~。」
美鈴「ん?」
ちから太郎が歩いていると、道の向こうから屈強な大男がやってきました。
てゐ「こんなに可愛い兎を捕まえておいて、屈強たぁねえ。」
男は、とても大きな御堂を担いでいます。
てゐ「お、そこの不幸な生まれの青年。一拝どうだい?」
美鈴「不幸とか言うな!」
てゐ「でも否定は出来ないでしょ?」
美鈴「うう……。」
てゐ「ほら、そんな貴方に出張御堂。これに祈れば幸せ間違いなし!」
美鈴「ほんとかなぁ…。」
てゐ「妖怪は度胸。何でも試してみるもんさ。」
美鈴「度胸が要るようには見えないけど、まぁいいか。」
ちから太郎は縁起担ぎにと、男の御堂にお祈りをしました。
美鈴「何か良いことありますように。」
てゐ「よくできました。それじゃ、料金。」
美鈴「はい?」
てゐ「はい?じゃなくて。出張して来たんだから、その分は払ってくれなくちゃ。」
美鈴「お、お金なんか持ってなんだけど…。」
てゐ「え~~~~~。お金も無いくせに旅してるの~?」
美鈴「し、仕方ないじゃない!いきなり家を追い出されたんだから!」
てゐ「しょうがないなぁ。それじゃ、借金返すまで私の家来になって働くこと。」
美鈴「ええ~!借金って何よ!」
てゐ「じゃ、ツケ。利子は当然ついて回るわよ。」
美鈴「どっちも変わらないわよ!そもそも、何で家来にならなきゃいけないのよ!」
てゐ「それじゃお金払ってよ。払えないなら身体で払う。当然じゃん?」
美鈴「それは…その……。」
てゐ「わかったみたいね。はい、主従の契約書。勿論血判でね。」
美鈴「あ~も~、何でこうなるのよ~。」
ちから太郎は、男の家来にされてしまいました。
てゐ「私の名前は『御堂太郎』。よろしくね、下僕さん。」
美鈴「うう~、よろしくお願いします、ご主人様………。」
男は、御堂太郎と名乗りました。
ちから太郎と御堂太郎は、世界征服のために一歩前進しました。
てゐ「ありゃ、そんな話だったっけ?」
美鈴「違うと思う。」
二人がしばらく歩いていると、一人の屈強な大男が、大きな石の前に居るのが見えました。
ミスティア「お~お~きなバストの門番さん♪中華~妖怪ちゅうご~く♪
百年いつも~つ~立っていた♪ごじま~んの門番さ~♪」
てゐ「五月蝿いなぁ。何歌ってんだか。」
美鈴「これって、私の歌……でいいのかしら?認めたくないけど。」
とても五月蝿い男でした。
てゐ「よし下僕1号、さくっと黙らせちゃいなさい!」
美鈴「下僕とか言うな!」
言いたいことはありますが、借金をしている身ですので、逆らえません。
ちから太郎は仕方なく、その五月蝿い男の所へ行きました。
ミスティア「いもう~との生まれた朝に♪狩って~きた門番さ~♪」
美鈴「そんな逸話無いから!」
ミスティア「今は もう 解雇した♪そのも~ん~ば~ん♪」
美鈴「縁起でも無いこと言うな~!」
ミスティア「百年レミリアにチクチクチクチク♪咲夜も小言をチクチクチクチク♪
今は もう 解雇した♪そのも~ん~ば~ん♪」
美鈴「もうやめて~~~!!」
ミスティア「え?あ!痛い痛いッ!」
堪えきれなくなったちから太郎は、男を殴りつけました。
ミスティア「何すんのよ!ヒトが気持ち良く歌ってるって言うのに~。」
美鈴「聞いてるこっちは気持ち良くも何とも無いわよ!」
ミスティア「盗み聞きする方が悪い!慰謝料請求するわよ!」
美鈴「ええ!そ、それは勘弁……。」
これ以上借金が増えたらたまりません。
ちから太郎はたじろぎました。
ちから太郎は無言で、御堂太郎に助けを求めました。
てゐ「こほん。え~と、甲高い声で歌う『金切り太郎』?」
ミスティア「石切太郎!何でかはどうでも良いから忘れたけど。」
男は、石切太郎と名乗りました。
てゐ「実は私たちは世界征服の為に旅をしてるんだけど、是非あなたの力を借りたいと思って。」
ミスティア「え~。そんなことより歌を歌ってる方が楽しいと思うけどなぁ。」
てゐ「あ、その辺は気にしなくて良いわよ。貴方は歌だけ歌ってればいいわ。荒事はこいつがやるから。」
美鈴「ぐう……反論出来ない立場……。」
ミスティア「って言ってもなぁ。私に何か良いことあるの?」
てゐ「世界征服が成功したら、国民的アイドルとして売り出すわ。」
ミスティア「え、アイドル?」
てゐ「そう、アイドル。貴方の歌で、皆をメロメロにするの。…出来るわよね?」
ミスティア「そりゃ勿論!楽勝ね、楽勝!」
てゐ「で、貴方の歌でメロメロになった民衆を私が支配するの。いい考えでしょ?」
美鈴「それって、洗脳じゃないの?」
ミスティア「よおし、やってやるわ!私の歌でみんなヘロヘロよ~!」
御堂太郎は、石切太郎を上手く丸め込みました。
こうして石切太郎も、御堂太郎の家来となりました。
美鈴「ねえ、このお話のタイトルって、『御堂太郎』だったっけ?」
ミスティア「すずめ~に聞いてもわからない♪うさぎ~に聞いてもわからない~♪」
てゐ「ウッサ~ウサ~♪ウッサ~ウサ~♪」
御堂太郎一行は、旅を続けているうちに、とある大きな屋敷に辿り着きました
てゐ「良いお屋敷よね。世界征服するならこれくらいの拠点が欲しい所ねえ。」
ミスティア「トップアイドルの事務所もこれくらい…って聞いたことがあるわ~。」
てゐ「よし、下僕1号!ちゃっちゃと奪ってきて。」
美鈴「だから下僕とか言うな!」
??「しくしく……。」
美鈴「あら、この声は……?」
ミスティア「あ、ほらあそこ。」
??「しくしく……。」
屋敷の前で、美しい娘さんが、めそめそと泣いているのを見つけました。
何事かと思いちから太郎は、娘さんに話しかけます。
美鈴「これ、そこの娘さん……。」
咲夜「はい。」
美鈴「…………。」
ちから太郎は、沈黙しました。
多分、娘さんがあまりに美しかったからなのでしょう。
咲夜「私は、この家に住む長者の娘です…。」
美鈴「いえ、何でもありません何も聞いてません。失礼しました。」
咲夜「実は、この付近には悪い鬼が出て、村人たちを困らせて……。」
美鈴「それでは、私たちはこれで…。」
ちから太郎は後ろを向いて、その場を立ち去ろうとしました。
咲夜「鬼は強くて、村の男たちが挑んでも、誰も退治することが出来ませんでした。
逆らえる者が居なくなったと知ると、鬼はますます悪さをするようになり……。」
美鈴「わっ!」
しかし、振り向いた先には娘さんが、さっきと同じように泣いていました。
娘さんは驚くちから太郎に構わず、泣いている理由を話します。
咲夜「鬼はとうとう、村の若い娘を生贄として差し出すように言ってきました。
そして、その生贄に選ばれたのが、私なのです……。しくしく…。」
娘さんが言うには、この村には悪い鬼が出て困っていて、生贄を差し出すことになったのです。
そして、その生贄は何と、この娘さんだと言うのです。
美鈴「ええと……非常に言い難いのですけど、鬼くらい貴方一人で退治出来るんじゃないかと……。」
紫「まあ、話は聞いての通りですわ。」
美鈴「うわっ!?」
いつの間にか、ちから太郎の後ろに、とても立派な身なりの人が立っていました。
どうやら、このお屋敷に住む、長者さんのようです。
いきなり話しかけられたので、ちから太郎はちょっとびっくりしました。
紫「私としても心苦しいけれど、これしか方法が無いの。嗚呼、可哀想な私の娘!」
咲夜「お父様!」
--(時は止まる)--
咲夜『おばあちゃん!』
--(そして動き出す)--
二人は抱き合って、めそめそと泣いています。
美鈴「一瞬、凄くアレな台詞が出た気がする……。」
てゐ「う~ん、これはチャンスね。」
美鈴「チャンス?」
てゐ「そう、チャンス。ここで良いことしておいて、下々の心を掴んでおくの。」
美鈴「いや、この人たち全然下々じゃないような気がするんだけど…。」
てゐ「あ~これこれ。安心して良いわよ。鬼ならさくっと退治して来るから。こいつが。」
美鈴「何で私だけなのよ!」
紫「まぁ、何て勇気のある人なのでしょう。それでは、さくっと退治してやって下さいな。」
てゐ「大丈夫、さくっと退治出来るから。ね?」
美鈴「何の根拠があってそんなこと言うのよ……。」
ちから太郎は、何だか分からないうちに鬼を退治することになってしまいました。
紫「鬼は夜になったらこの屋敷にやって来るから、宜しくね。」
美鈴「う~、こうなったらやるしかないのね…。」
そうこうしているうちに、夜が来ました。
ちから太郎は、屋敷の門前に立ちました。
美鈴「門番は私の本業!ここなら私に負けは無い!」
咲夜「だったら良いんだけどねぇ、普段から。」
美鈴「………。」
一瞬、娘さんの声が聞こえたような気がしましたが、娘さんの姿はありません。
きっと、娘さんがちから太郎の無事を祈っていて、その声がちから太郎に届いたのでしょう。
ミスティア「ここが今夜のステージね~。あ~あ~、声のテスト中テスト中。本日暗雲立ち込める星空~。」
石切太郎は、屋敷の外にある木のてっぺんに立ちました。
ここなら、鬼が近くに来てもすぐにわかります。
そして、御堂太郎は
てゐ「王手。」
紫「甘いわ、ロン。」
てゐ「む~~~、それならこれでフルハウスよ!」
紫「ウノ。」
てゐ「う~~……ん?よし!猪鹿蝶!」
紫「はい、チェックメイト。」
てゐ「そんな~。うう~、まいりました~。」
家の中で、長者さんと遊んでいました。
美鈴「ちょっと!こんな時に何やってんのよ!」
てゐ「戦いの前に身体を休めるのは戦の基本よ。あ、でも足軽は警戒を怠らないでね。」
美鈴「どっちなのよ!ほら、一応私たちが退治することになってるんだから。
長者さんと一緒にいちゃ駄目でしょ。こっちに来なさい。」
てゐ「あ、待って~、再戦したいのに~。」
紫「頑張ってねえ~。」
御堂太郎はちから太郎に引きづられて、門前に連れて来られました。
無理矢理連れて来られた御堂太郎は不満タラタラです。
てゐ「あそこで6の目連続で出してくるなんて酷いと思わない?絶対イカサマだって。」
美鈴「……て言うかどんなゲームやってたのよ?傍から聞いてる分にはさっぱり理解できな……。」
てゐ「しっ…!」
遠くから、何やら音が聞こえてきました。
美鈴「…足音?」
てゐ「いよいよ来るわね。」
ミスティア「あ、見えたわよ。」
ずし~ん、ずし~んという大きな足音が、どんどんこちらに近づいてきます。
そして…
萃香「今夜の酒のつまみは何処~?」
ついに、鬼が姿を現しました。
美鈴「そのまんまね……。」
てゐ「そのまんまだね。でもフルパワーって感じの大きさよね。」
鬼は大変大きく、恐ろしい姿をしていました。
それでも三人は動じることなく、鬼の方を向きました。
てゐ「石切太郎!あんたの力で鬼をヘロヘロにしちゃいなさい!」
ミスティア「よおし!一番、石切太郎!はりきって歌いま~す!」
石切太郎は、鬼の前に飛び出しました。
ミスティア「私の歌を聴けぇえええ」
萃香「よいしょ。」
ミスティア「ええええ~~~……え?」
萃香「今日のおつまみはこんなところにあったのね~。」
石切太郎はあっさりと、鬼に捕まってしまいました。
萃香「いただきま~す。」
ミスティア「え、い、いや、ちょっと待って!私を食べても美味しくないと言いますか何で私ってば
食べられたり食べられたり食べられたりなの~!?もう嫌だってば助けてええ~!!」
鬼は大きな口をあんぐりと開けて、石切太郎を食べようとします。
ミスティア「い~~~~や~~~~!!!」
ぱくっ!
必死の叫びも虚しく、石切太郎は鬼に食べられてしまいました。
萃香「う~ん、まだまだ足りないねぇ。」
おっきな鬼の胃袋は、石切太郎を食べただけでは満足出来ないようです。
鬼は残った二人の方を向きます。
美鈴「強い…!なら御堂太郎……じゃなくてご主人様、一緒に掛かりましょう!」
鬼が一筋縄ではいかないことを悟ったちから太郎は、御堂太郎と一緒に攻撃しようと考えました。
しかし、
てゐ「ところで、宴会場にはこれこれここの場所がありまして、料金は以下のように……。」
萃香「ふ~ん。あ、ここなんか風情があって良さそうね。」
てゐ「いやいや、お目が高い!あ、ショバ代はこれだけお勉強させていただきます。」
御堂太郎は、鬼と何やら親しげに話しをしていました。
美鈴「こら!何やってんのよ!」
てゐ「何って、ねぇ。私はこの鬼様に仕える『裏切太郎』よ?」
美鈴「な、何だって~!」
御堂太郎は裏切りました。
そこで御堂太郎は、裏切太郎に名乗りを変えました。
てゐ「ええと、それでお話の続きですけど~。」
萃香「その前に、残ったモノを食べておかなくちゃね。残すのは良くないわ~。」
美鈴「!?」
鬼がちから太郎に向かってきます。
美鈴「採光らん……!」
萃香「うりゃ!」
美鈴「わぁあああ!?」
ちから太郎は鬼に立ち向かおうとしましたが、鬼の攻撃を受けて吹っ飛んでしまいました。
美鈴「くぅ……!」
萃香「いただきま~す。」
美鈴「(やられる!)」
身動きの取れないちから太郎に、鬼の手が伸びます。
もはやこれまでと、覚悟を決めるちから太郎。
と、そのときです。
萃香「あ痛っ!」
美鈴「……へ?」
突然、鬼が苦しみだしました。
萃香「お、お腹が痛い~!何かチクチクするよお~!」
美鈴「い、一体何……?」
萃香「ああ、痛い痛い!誰か助けて~!」
鬼はお腹をおさえながら、何処かに走り去ってしまいました。
美鈴「た、助かった……。はぁ~~~。」
ちから太郎は何とか食べられずに済みました。
安心したちから太郎は、その場にへたり込みました。
てゐ「ふふん。正義は勝つ!」
美鈴「あ、この裏切り太郎!よくもぬけぬけと!」
御堂太郎改め裏切太郎は、鬼が去った後もその場に残っていました。
てゐ「何言ってんのさ。私があそこで時間稼ぎしてなきゃ、今頃食べられてるよ?」
美鈴「じ、時間稼ぎ……?」
てゐ「ひょっとして、本気で裏切ったと思った?」
美鈴「うん。」
てゐ「酷いなぁ。ま、敵を欺くには味方からって言うし。結果オーライね。」
美鈴「何か激しく騙されてる気がするけど……。」
てゐ「まぁまぁ。お詫びに、主従の契約と借金はチャラにしてあげるから。」
美鈴「む~、それは有り難いけど……って、あ~!石切太郎は!?」
ちょっと安心したところで、ちから太郎は鬼に食べられたまんまの石切太郎のことを思い出しました。
てゐ「………南無。」
美鈴「食べられたまんま!?」
てゐ「自らの身を犠牲にして、あの子は私たちを、そして、世界を救ったのよ。
あ、でも私の世界征服計画はご破算か~。無念かな無念かな。」
美鈴「ふ、不憫過ぎる……。」
てゐ「雀は小骨が多いとは良く言われてるけど、それを丸呑みなんてするからああなるの。」
美鈴「小骨がお腹に刺さって…ってこと?え、でも丸呑みしたんじゃなかったの?
て言うか消化されたの?何で骨だけ溶けてないの?ねえ、その辺どうなのよ!?」
てゐ「ま、これがほんとの、食傷ってやつよ。食べ過ぎるのも食べられ過ぎるのも良くないのさ。」
何はともあれ、二人は鬼を退治しました。
石切太郎に手を合わせると、二人は長者さんの屋敷へ行って、報告をしました。
その報告を受けて、長者さんは大喜びです。
紫「よくぞ、あの悪い鬼を退治してくれました。感謝しますわ。」
美鈴「あ、いえいえ。私はそれ程何もやってませんから…。」
短い間だったとは言え、仲間だった石切太郎を失ったのです。
ちから太郎は、素直に喜ぶことが出来ないのか、神妙な顔をしています。
紫「ああ、そうだわ。何かお礼をしなくちゃ。何がいいかしらねぇ……。」
美鈴「あ~、いやその、何かと悪い予感がするので結構です。それでは我々はこれで。」
長者さんは少し考えて、言いました。
紫「そうねぇ。それじゃあ、私の娘を差し上げますわ。それとこのお屋敷も。」
美鈴「いえ、結構で…。」
てゐ「まあ、何と言う、わたくしには過ぎた褒美!有り難く頂戴致しますわ。」
美鈴「ち、ちょっと!!後ろから何言ってんのよ!」
紫「よしよし。これで血の盟約は成ったわ。早速祝言よ。」
美鈴「ひええ、何か勝手に話が進んで行ってる~!?」
咲夜「不束者ですが、よろしくお願いしますわ。お願いされなきゃ命が無いわよ。」
美鈴「ひ~~……、こ、こちらこそよろしくお願いします…。」
紫「それじゃ、私は寝…もとい隠居するから、二人とも、末永くお幸せにね。」
こうして、御堂太郎の後押しもあって、ちから太郎は長者さんの娘さんと結婚することになりました。
この大きなお屋敷も貰ったので、二人はそこで暮らすことにしました。
てゐ「おめでと~。元上官として嬉しい限りだわ~。」
紫「あ、そうそう。貴方には私の次女をあげるわ。
ちゃんと別のお屋敷も用意してるから、末永くお幸せにね。」
てゐ「へ?」
永琳「末永く宜しくね。」
てゐ「………。」
御堂太郎は、長者さんの次女さんと結婚しました。
そして、ちから太郎とは別の屋敷で、末永く幸せに暮らしたそうです。
てゐ「あ~、ええと~……。」
永琳「あら、どうかした?」
てゐ「あはは~、何か違和感と言うか、序列が違うとか思ったりしたけど~、
別にそんなことは無いですよね~。むしろ正常ですよね。あはは~。」
永琳「ええ。何もおかしいことは無いのよ。上とか下とかね。」
石切太郎が生きていたなら、三女さんと結婚していたことでしょう……。
幽々子「え~。私の出番これだけなの?折角おやつ抜いてきたのに~。」
ちから太郎は、村からおじいさんとおばあさんを呼びました。
おじいさんとおばあさんは、娘さんともすぐに仲良くなりました。
咲夜「お義父様、お義母様。お食事の準備が出来ました。」
レミリア「ん、ご苦労様。」
フランドール「わ~い。美味しそう。」
咲夜「はい、あなたはキャベツ一玉。」
美鈴「そんな~!一応形式だけでもここは私の家なのに~!」
パチュリー「形式だけね。でも、何の権威も無いわ。」
美鈴「何で近所の二宮さんまで居るんですか~!?」
フランドール「屋敷の主って言う立場は、ちょいちょいと壊しておいたから。」
レミリア「まぁ、そういう運命だったのよ。あきらめなさい。」
美鈴「うう、しくしく……。」
五人はこの屋敷で、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
なお、この屋敷は後年、『紅魔館』と呼ばれるようになったとか、ならなかったとか……。
めでたし めでたし
キャスト
ちから太郎 ・・・ 紅 美鈴
おじいさん ・・・ レミリア・スカーレット
おばあさん ・・・ フランドール・スカーレット
二宮さん ・・・ パチュリー・ノーレッジ
御堂太郎 ・・・ 因幡 てゐ
石切太郎 ・・・ ミスティア・ローレライ
娘さん ・・・ 十六夜 咲夜
長者さん ・・・ 八雲 紫
鬼 ・・・ 伊吹 萃香
次女さん ・・・ 八意 永琳
三女さん ・・・ 西行寺 幽々子
咲夜さんが嫁って凄く羨ましいような、羨ましくないような気がするのは、きっとコマンドが「いのちを大事に」になっている所為でしょう。
「あれが最後の萃香とは思えない……きっと第二、第三の萃香が……」って慧音が言ってた。って魔理沙が言ってた。って輝夜が門板に書き込んでた。
後半の主役は確かにてゐだったと思います、ええ。
相変わらず滅茶苦茶なキャスティングが冴えるPiko節が久々に読めて嬉しかったす。