1
夢美が学会に拍手喝采でもって復帰できたのは夢の中だけであった。
魔力を解明し、世界にエネルギー革命をもたらした栄光は朝日の中に消えた。
目を覚ませば板張りの天井という現実。嬉し涙ではなく、目やにが瞼にくっついて痛い。頭は寝癖でボサボサだった。眠気の残る頭に嫌が応にも現実を突きつけられる。
「む~~、もうちょっといい夢みたかったわ……」
のそのそと布団から起き出して、パジャマを脱ぎ散らかして何時もの赤い服に着替える。普段は肩口で揃えられている髪も寝起きではボサボサ。手櫛で適当に髪を撫でつけ、ふらふらと千鳥足で居間へ向かう。
「お、教授おはよう~」
「おはようございます、夢美様」
居間に入ると二種類の声が聞こえてきた。前者は助手のちゆり、後者はお手伝いアンドロイドのる~ことだ。ちゆりは隣ですでに食パンをかじっている。いつもの水兵服に金髪を短く頭の左右で縛っている。不敵な眼差しは師を師とも思わない態度が滲み出ているようだ。
「おはようちゆり、る~こと」
挨拶を適当に済ませテーブルに着く。
自分も食パンを一切れ取り、ジャムを一面に塗りたくって折りたたんで齧る。味のないパンなどパンではないと夢美は思っている。
「あ~、教授それは行儀悪いぜ?」
「いいのよ別に。これが効率的な食べ方よ」
さすがにちゆりが突っ込んでくるがこれも毎度の事なので無視する。
そうやってパンを齧っているとる~ことが髪にブラシを入れてくれる。髪の毛を痛めないようにゆっくりとブラッシングしてくれる。さすが私の作ったメイドロボ。生活能力のない自分にはやっぱりる~ことは必要だったなぁと改めて思う。
「教授は今日も部屋に引き篭もって論文か?」
「引き篭もりって言わないで。そうよ、せっかくサンプルが身近にあるんだからどんどん進めなきゃ」
熱い紅茶を飲んでやっと徐々に目が覚めてくる。18歳にして教授になり学会にもその人ありとさえ言われた夢美の脳がやっと起動し始める。とりあえず今日はどの辺りまで論文を進めようか、などと考えているとテーブルの正面から声がかかった。
「ふーん。で、あなたたちは何時までここにいるのかしら」
夢美達のテーブルの反対側で焼き魚に味噌汁、ごはんという典型的な日本人の朝食を食べていた靈夢がこちらを睨み付けていた。顔は笑っているが目は笑っていない。紫の長い髪にスタンダードな巫女服を着た靈夢
「何時までって言われてもねぇ……」「ねぇ」
ちゆりと顔を見合わせる夢美。学会を追い出され逃げるように再びこの世界にやってきた。
そもそもこの世界に知り合いなどいない。神社に転がり込んだのも成り行きのようなものだ。
「だってここはこんなにサンプルがあるのよ! これだけあればデータは取り放題。この機会を逃さずにいつ論文を完成させるっていうのよ!!」
両手を広げて力説する夢美。だがそんな夢美とは対極的に靈夢は冷たい。
「別にこの世界にいるのはいいわよ。ただ、神社から出て行けっていってんだけど……」
「いいじゃない別に。部屋は余ってるでしょ?」
「そうだぜ。巫女なんだから人助けしないと」
確かに博麗神社は大きい。本来は何人もの人が住む必要があるのだろう。客間の類は相当数あった。
靈夢はため息ひとつ。
「そうじゃないわよ。うちの庭先に置いてある遺跡をなんとかしろっていってるの!」
びしっと庭先の夢幻遺跡もとい可能性空間移動船を指差す。
可能性世界を越えることのできるスーパーテクノロジーの固まり。
博麗神社の庭先に鎮座するその巨体。靈夢や魔理沙が遺跡と思うのも無理もない大きさ。船というにはおこがましい巨体と形状。そんなものが神社の境内に鎮座していれば誰だって邪魔だろう。
「じゃあどこに置いておけっていうのよ。この世界の地理なんてさっぱりよ」
そもそも回りは山ばかり。船を置いておけるスペースなんて神社以外ない。
「そうねぇ。裏の山の中にある湖なんてどう? あれも船だから丁度いいんじゃない?」
とはいうが靈夢も湖には行ったことが無かった。だが、地図から予想するに相当大きな湖だとは推測できる。靈夢としては厄介払いができれば充分。
「湖ねぇ、そこしかないかしら。わかったわ。引っ越すとしましょう」
「いいのか教授?」
実にあっさりと要求を飲む夢美。
「こんなことでせっかくの実験材料に拗ねられても困るわ」
「私は実験材料じゃないんだけど……」
夢美の思考は至ってシンプルであった。
2
朝食を済ませ、部屋の荷物をそそくさとまとめ、そそくさと湖へ移動する。
可能性空間移動船。数多にある可能性の平行世界を行き来する為の船。もちろん、それ以外の機能も備わっているので空を飛ぶくらいは余裕である。
ふよんふよんと30分ほど進んだところにその湖はあった。
「あら、随分と大きいわね。これならこの船も問題なさそう」
「そうでもなさそうだぜ、教授」
操縦席に座っていたちゆりが報告してくる。レーダーに光点。窓から覗き見れば黒い服に羽根を生やした少女が近づいてくる。
夢美とちゆりは知るはずも無い。彼女はこの湖の守り手くるみである。わけのわからない巨大な鉄の固まりが近づいてくるのだ。警戒もする。
湖を守るという職務に忠実であろうとしているのか弾幕で船を攻撃してくるくるみ。が、バリヤーに阻まれ攻撃は届いていない。そもそも体積差と装甲で当たっても屁のようなものなのだが。
「もー! 結界なんてずるいずるいずるいー!」
なかばヤケになって攻撃を加えるが、それで敗れるほど甘いバリヤーではない。
「どうしようかね、教授」
無視するべきなのか。外に出て応対するべきなのか。
「えい、ルルちゃん発射」
何のためらいもなくミサイルを発射する夢美。彼女らに弾幕ごっこという概念は今だ浸透していなかった。
手元の赤いボタンが押されると同時に船体から発射されるミサイル。
ICBMのミミちゃんとは違い、ルルちゃんは通常弾頭。だがその威力は言わずもがな。
「え? え? なになに? え、ちょっ、ひぁあぁぁぁぁあああ」
くるみは大空に散った。
「さ、着水するわよ」
何事もなかったかのように船を操る教授。こういうところが怖いのだとちゆりは改めて思う。
湖岸の木々と大気を震わせ意気揚々と夢幻遺跡は湖に着水する。
「さて、それじゃ私は論文に戻りましょうかね。ちゆり邪魔しちゃだめよ」
「殴られるのわかってて邪魔なんてしませんて」
船室の奥に消えていく教授。取り残されたちゆりは暇を持て余す。
ちゆりとて天才と呼ばれるほどだが、夢美の弟子になって以来その能力を使う機会はまずない。
ちゆりとしてはそれで問題ないと思っていた。夢美といれば毎日が楽しい。夢美の思いつく突拍子もないアイデアはちゆりには出せないものだった。
「う~ん。何かこう面白いことはないものか」
教授は室内。船内にいてもする事はない。そんなとこに居ても腐るだけだと思い、ハッチから外に出る。
山奥の新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込む。ちゆり達の世界では味わえない清浄な空気。この世界のこういうところをちゆりは気に入っていた。
何の汚れもない大空を見上げ、横になる。用があれば教授から言って来るくるだろうと思い、昼寝を決め込むことにした。
「たのもーです!!」
そんなちゆりの幸せタイムを打ち破る大声。
せっかくの昼寝タイムだ。どこの誰か知らないが邪魔されてはたまらない
「どなたかいませんかー!!」
最初は無視しようともおもったがあまりの大声に眠ることもままならない。
「あーもう! 今行くぜー」
微妙に残る眠気を追い出し体を起こす。せっかくの幸せタイムを邪魔されたのだ。少々とっちめても構うまい。
そのまま船の上からジャンプして飛び降りる。重力制御装置でふわりと着地。
遺跡の湖岸に接地したところ。そのハッチの前に一人の少女が立っていた。
おかっぱに切りそろえられた茶色の髪ときりっとした眉、意思の強そうな瞳をした少女はちゆりを見るなり土下座してこう言った。
「お願いするのです! どうか里香を弟子にしてくださいなのです!!」
「――はぁ?」
文句のひとつでも言おうとしたちゆりは意表を突かれ、思わず素っ頓狂な声を上げた。
「で、拾ってきたってわけ?」
「拾うって犬猫みたいに言うのはやめようぜ。とにかく教授に弟子入りしたいっていうから連れてきたんだ。判断は任せるぜ」
「弟子ねぇ……」
弟子入り発言ですっかり毒気を抜かれたちゆり。追い返すのも何だと思いこうして教授に取り次いだのだった。本音としては面白そうだったから、なのだが。
夢美はちらりとちゆりの横に座る少女を見やる。
きっと眉を立ててこちらを見ている少女。いかにも熱血といった感じがする。正直こういうタイプは夢美は苦手であった。
理論的に物事を考える夢美にとって、根性だの気合だのはとんと縁がない。
「とりあえず自己紹介してもらおうかしら……」
「名前は里香なのです! 職業は戦車技師! すごい科学技術を持った人が来たって知り合いの朝倉さんから聞いたのです! あなたに弟子入りすれば博麗の巫女を倒せるとおもったのです!」
「博麗って……。もしかして靈夢の事かしら」
「そうなのです! 里香は一度ならず二度までもやられてしまったのです!」
靈夢の強さは夢美達とてよく知っている。本人の能力もさることながら乗っている亀と武器の陰陽玉が厄介なのだ。
さらに詳しく聞いてみれば、魔理沙に唆されて靈夢に挑んだらしい。そして騙された事に今だに気づいてないあたりが涙を誘う。
さてこの子をどうしようか。弟子はともかくとしても、この世界の技術レベルは知れている。戦車といってもたいした物ではないだろう。あまり参考になるとも思えなかった。
思案する夢美にちゆりがそっと耳打ちする。
「いいんじゃないか教授。あの娘と靈夢をぶつければいいデータが取れると思うぜ」
それは夢美も考えた。だが話を聞く限り里香の戦車の性能は低い。あまりに弱くてはデ-タ採取どころではない。
「そこを教授と私で何とかするんじゃないか。教授も見てみたくないか? 魔法と科学の融合ってヤツをさ」
魔法と科学の融合。それは少なからず教授の心を動かした。ちゆりとしては丁度いい暇つぶしを潰されては堪らないだけだったのだが。
「そうね……。じゃ里香あなたの作品を見せてもらえるかしら。それで弟子にするか決めるわ」
ちゆりは心の中でガッツポーズ。
「わかったのです! 持って来るのです!」
そういうと里香は飛び出していった。
「ねえちゆり。ほんとに大丈夫?」
「さぁ……。ま、なんとかなるんじゃないか」
3
里香が乗ってきたのは陰陽印のついた巨大な神輿であった。きっちり車輪は無限軌道なあたりが戦車なのだろうか。
「これが里香の作ったふらわ~戦車なのです。本当はイビルアイΣに乗ってこようと思ったのですけど、まだ修理中なのです」
肩を落とす里香。だが夢美はそんな里香には見向きもせずに戦車に直行し弄くりまわしていた。
「これは動力は何かしら? 魔力? でもここにエンジンのようなものがあるし……。でも燃料タンクはないのよね。操縦席もないわね。遠隔操作かしら。それにこの形状、砲塔もないしどこから攻撃するのかしらねぇ。戦車の名残はこのキャタピラくらい? ブツブツブツブツ……」
かけらも見向きされないどころか疑問があっても製作者の自分に質問すらしてこない教授の態度に里香は泣きそうになる。
そんな里香の肩にそっと手を乗せ笑いかけるちゆり。
「あれは教授のクセみたいなもんだから気にしないほうがいいぜ? まぁあの様子だと弟子入りオーケーだな。 よろしくな妹弟子」
「……はい、よろしくなのです!!」
何はともあれこれで暇な日々とはおさらばだとちゆりはわくわくするのだった。
「さて、それじゃまずは講義もとい作戦会議といきましょうか」
夢幻遺跡の中の一室。暗室にスライドまでちゃっかり用意して講義仕様の夢美。
その前でパイプ椅子に座るちゆりと里香。ちゆりはにやにやと楽しくて仕方が無いといった感じである。
「さて、戦車を作るにあたりまずは何を目標とするか」
「もちろん博麗の巫女を倒すのが目標なのです!」
ぐっと握りこぶしを作って力説する里香。
「そういやなんであの巫女を倒したがるんだ?」
疑問に思い聞いてみる。靈夢と戦ったということしか聞いていなかった。
「それはもちろん陰陽玉を手に入れる為なのです!」
陰陽玉とは靈夢が使っている武器。その程度の認識しかちゆり達にはない。
そこらじゅうに跳ね返ったりと厄介な武器ではあるが、奪いにいくほどのものだっただろうか。
「陰陽玉には隠された大いなる力があるのです。それは……」
「……それは?」
「甘いものを食べても太らないのです!!」
「な、なんだってえええええええええええええ!!」
夢美とちゆりが二人して驚愕する。科学の進歩した夢美達の世界といえども自由自在に痩せられるような薬はない。いつの時代も甘いものとは女性の天敵にして大好物なのだ。
「やべぇ、それは是非とも手に入れないとだめだな……」
「そうね。まさかそれほどの力を秘めていたなんて。クソッ! なんて時代なの!」
机を叩いて憤慨する二人。その表情は絶望と驚愕で彩られていた。
「こうなったら何が何でも靈夢を倒さなければならないわね。本気でいくわよちゆり」
「ああ、もちろんだぜ。」
里香はこの時初めて弟子入りしたことを不安に思った。
こうなると話はずんずん進む。
「とりあえず一から作り直しだな。あんな貧弱な装甲じゃダメだ」
ホワイトボードにかかれたふらわ~戦車の装甲が硬く鋭角的に整えられる。
「そうね。魔力機関も興味はあるけど理解してないから取り外しましょう。」
内部の機構が消され、新たによくわからないエンジンが描かれる。光子エンジンと書かれている。
「まぁ武器はこの船のを使えばいいか。とりあえず核爆発にも耐えれるくらいの装甲じゃないとな」
装甲の合間に穴があき砲塔らしきものが追加されていく。装甲材=タロヒニウム合金とメモされる。
「原型も残しておかないとダメね。この陰陽印はそのままにしましょう」
マーキング程度に陰陽印が残される。
「里香はドリルが欲しいのです」
ちっこい背を伸ばして三角形を追加する。
「ドリルはダメね。却下」
「ああ、ドリルはダメだ。なんせ教授はラスボスだからな」
瞬時に消される。何度か無理やり書き込もうとするがその度に消されるので里香はドリルを諦めた。
ホワイトボードの設計図が二人によって次々と書き加えられていく。
里香はそれを呆然と見ているしかなかった。
「さて後は外観ね」
ホワイトボードへの書き込みもひと段落したのか夢美がそう言い出した。ホワイトボードは白いところが見当たらない悲惨な状況になっていた。
「そうだなぁ。普通の扁平な戦車じゃ無骨すぎるな。もっとこう意表をつくデザインが……」
ホワイトボードの数少ない白いスペースにメモしていくちゆり。機関車、ライター、ライオンとどこから出てきたのか到底戦車になりそうにないなものまで書かれている。
「ちゆりはそういうの好きねぇ。もっとこうシンプルになさい」
そういって夢美もメモしていく。球体に砲塔がついただけのもの、下半身キャタピラのもの等人型が多い夢美のメモ。
「教授も人のこといえないぜ。どちらにしろ絶対私のほうがカッコイイって!」
「そんな子供みたいなデザインは嫌よ。私みたいにリアル志向でないと」
ここがある意味最大の難所とばかりに喧々囂々言い合う二人。お互いに一歩も譲らない。
そんな二人の間を縫って里香がホワイトボードになにやら書いていく。
「いい加減決まらないのでこれにするのです! これなら意表もつけて一石二鳥です!」
ホワイドボードに書かれたそれを見て二人は。
「おもしろいわね。これで行きましょう」
「ああ、驚くあいつらの顔が目に浮かぶぜ。やるじゃないか里香」
頭を撫でられ目を細める里香。
「さ、じゃ実作業に取り掛かりましょうか。ちゆり、里香! 三徹は覚悟しなさいよ!」
「任せな。若さは伊達じゃないぜ?」
ニヤリと笑う。この高揚感が堪らない。
「里香も無理しちゃだめよ?」
「大丈夫なのです!! 里香もがんばるのです!」
里香も負けじとついてくる。
「さ~て、それじゃ久しぶりに機械弄りといきましょうか!」
4
「は~今日もいい天気ね~」
何時もの如く境内を掃除する靈夢。今日はいい天気なので箒の動きも心なし軽やかである。
夢美達を追い出して幾分か寂しくなったものの、靈夢はこれくらいが丁度いいとおもっている。
夢美達がどこでどうしているか気にならないわけではなかったが、遺跡もあるし大丈夫だろうと楽観視している。
「お~~い、遊びに来たよ~」
そして何時ものように魔理沙が遊びにやってくる。
「あら魔理沙久しぶりね。一週間も顔を見せないなんて雨が降らないかと心配だったわ」
「私は天気予報か。いや魅魔様に連れられて修行にね。滝に放り込まれたり岩を砕いたりしてたの」
「一体何の修行よ……」
魔法の修行とは思えない内容に呆れる靈夢。
だが、話を聞く限りどうやらいつもの事らしい。
「そういやあの別の世界から来たっていう教授達はどうしたの? 姿が見えないけど……」
きょろきょろと辺りを警戒する魔理沙。事ある毎に実験に付き合えだの言われていたので警戒してるのだろう。
「ああ、あいつらなら追い出したわよ。食費も出さないんだから当然よね」
食費の問題じゃないだろう、と心の中で突っ込んでおく。
下手に口にだせば陰陽玉が飛んできかねない。
「でもまぁ丁度いいとこにきたわね。そろそろお茶にしようと思ってたところなの」
「お、なら遠慮なくご馳走になろうかな」
そうやって社務所に戻ろうとした時だった。
ひゅるるるるる~という間抜けな音と共に何かが飛んできたかと思うと神社の屋根の一部が爆音と共に吹き飛ぶ。
「――へ?」
二人が状況を認識できず呆けてる間にも第二第三の弾が飛んできて周囲に着弾、爆発する。
「やめてー、神社が壊れちゃうー!」
「神社が壊れるのはおもしろいけど、私まで巻き込まないでよ~」
きゃあきゃあと逃げ惑う二人。
砲撃が止むと同時に神社の側の森の陰から響く声。
「さぁ今日こそ博麗の命日なのです!」
聞き覚えのある声。確かちょっと前に魅魔に騙されて襲ってきた子。確か名前が。
「里香……だったかしら。また性懲りもなく狙ってきたの?」
森に向かって問いかける。返ってくる声は意外。
「里香だけじゃないぜ? 今日は私達も一緒だ。おおっと動くな。これは小さくても必殺の武器だ。逆らわないほうがが身の為だぜ」
現れたのはちゆり。いつもの銃を右手に持ち不敵な笑みを浮かべている。
「そ、一人より二人、二人より三人。今日こそ実験に付き合ってもらうわよ博麗靈夢!」
二人の背後から更に現れるもうひとつの人影。
「夢美にちゆり。あんた達までいたのね」
どこで何をしているかと思えば里香と一緒だったとは。
さっきの攻撃といい何かまだ隠しているに違いない。
「で、さっきの攻撃してきたヤツがまだいるんだろ? ありゃ魔法とかじゃないからな。お前達の 得意の科学ってやつでしょ?」
魔理沙が言う。確かにあんな弾幕は見たことがないし魔力なら靈夢がすぐに感知できているはずだった。
「そうね。その通りよ。科学と魔法の申し子。出なさい、スーパーレイムタンク!」
夢美の掲げた指がなると同時に、森の中から重い駆動音を響かせ、木々をなぎ倒して現れるその姿は。
「――私?」
下半身は戦車だが上半身は靈夢を模した奇怪なロボット。デフォルメされた目や口が蛇腹間接の腕が可愛いといえなくも無いかもしれない。
そそくさとそれに乗り込む夢美達三人。
意外に広く作られている操縦席は夢美の足元左右にちゆりと里香が座る構造になっている。
「さぁ行くわよ! ちゆりやっておしまいなさい!!」
「あらほらさっさー」
甲高い音を立ててキャタピラが地面を削り動き出す。
その音で我にかえる靈夢。あまりの衝撃で呆けていたらしい。
「人の顔を勝手につかうなんて肖像権侵害よ!!」
箒を魔理沙に預け、払い串と符を取り出す。これを長時間付き合うのはモデルになった人間として勘弁してほしかった。
「これでも食らいなさい!」
図体がでかいので狙いを定める必要はなかった。投げつけられた符がレイムタンクの表面で爆散する。
だが、レイムマシンには傷一つついていない。
「そんな攻撃でこのレイムタンクにダメージを与えられると思って? さぁ里香今度はこっちの番よ!」
「了解なのです! 陰陽弾発射!」
「うおっまぶしっ!」
レイムタンクの上半身。指の先から陰陽玉を同じ形をした弾が連射される。
陰陽玉ほど跳ね返ったりしないものの、その連射速度ゆえに靈夢も避けるのに手一杯である。
「ちょっとそれは卑怯じゃない?」
「戦いに卑怯もくそもないわよ。勝てば官軍、負ければご飯、歩く姿は百合の花! ああ、実験に付き合ってもらうからにはそんなに痛くしないから安心してね?」
「なんか性格が変わってるような気がするです」
「あ~、教授の性癖なんだ。見逃してやってくれ」
弟子の悲哀ただようちゆりであった。
一方、操縦席の外では靈夢が意外に苦戦していた。
指から連射される弾に口から時々発射されるロケットランチャー。目からのビーム。攻撃が効かないので防戦一方である。
如何な靈夢とて相手にダメージが通らないのではどうしようもない。どうしようかと考えつつ避けていると。
「ねぇ靈夢。バトンタッチしない?」
魔理沙から声がかかる。どこから取り出したのか箒ではなく夢美にもらったミミちゃんに跨っている。
「どう? 修行の成果も試したいし丁度いいと思うんだけど……」
悩む。
確かにこんな面倒な相手は魔理沙に押し付けるのが一番なのだが、自分の顔をした敵となると魔理沙は嬉々として破壊するだろう。それはさすがに精神衛生上よくない。
とはいってもこちらの攻撃が通じない以上このままでは負けてしまう。
魔理沙に貸しを作る危険と負けた際に犠牲になるプライドが天秤にかけられる。
「――――魔理沙、任せたわ」
天秤はプライドのほうに傾いたようだ。
「オーケー! 一個貸しだかんね」
靈夢と入れ替わるようにして前に出る。
それを見て驚いたのは夢美であった。
「ちょっとちゆり! 攻撃ストップ! ミミちゃんに当たったらここら一帯が焼け野原になるわよ!」
魔理沙の跨るミミちゃん。夢幻遺跡事件の際、夢美からもらった武器。ICBMといわれるそれの威力を魔理沙は理解していない。箒より楽に乗れるから乗っているだけなのだ。
「あっちゃ~。どうする教授?」
「直に捕まえるだけよ。小回りならミサイルよりこっちのタンクの方が上なんだから!」
弾を撃つのをやめ、腕で捕まえにくるレイムタンクをひらりひらりと避けていく魔理沙。
「お、なんだ鬼ごっこなら負けないぜ?」
ミサイルを器用に操ってタンクの周囲を回り続ける魔理沙。
境内目いっぱいに使って逃げる魔理沙を追うレイムタンク。
「魔理沙! やるならとっとと決着つけなさい! 境内が滅茶苦茶になっちゃうじゃないの!」
キャタピラで蹂躙されていく石畳を見て頭を抱える靈夢。
「仕方ない。それじゃとっとと決めますか!」
捕獲しようと伸びてくる腕をかわして呪文詠唱。魔理沙の周囲に現れる赤青紫緑黄六つの魔法玉。
オーレリーズソーラーシステム。
防御も攻撃もこなすその呪文を魔理沙は愛用していた。
「おや、アレを使う気だね魔理沙は」
安全圏まで避難していた靈夢の背後で声。振り向けば群青の服に緑の髪の幽霊がそこにいた。
魅魔。博麗神社にとりついた悪霊である。といっても今では随分と丸くなっているが。
「何、そんなに強力な魔法なの?」
「そりゃあね。下手したら境内どころか本殿まで消し飛ぶかも……」
とんでもないことをさらりと言ってのける。それを聞いてさすがの靈夢も青くなる。
「ちょっとそれは困るわ。なんとかできないの? あんたの弟子でしょう?」
「まぁ神社が壊されるのも困るしねぇ。仕方ないか」
動きまわる二人の合間を縫って境内の中心まで移動して魔法陣展開。
激しく動き回る二人をほとんど意に介していないのはさすがというべきか。
「魔理沙! ここら一帯に結界を張ったよ! 遠慮せずにやっちまいな!」
魔理沙に大声で呼びかける。返事こそしないものの手を振って応える魔理沙。
「さぁここからが本番。特とご覧じあれ」
自らの周囲を回っていた六つの魔法玉を手の中の一点に集め融合させる。そこに残るのは光り輝く一つの玉。
「さて、私の新呪文試させてもらおうかしらね」
それをレイムタンクに向かって構える魔理沙。
「どうする教授?」
「大丈夫。あの魔法使いのデータは以前収集済みよ。あいつの攻撃力じゃ装甲は貫けない」
以前とは夢幻遺跡の時である。あの時に少ないながらもデータは収集していたのだ。それに予測範囲での修正を加えてある。いかにレーザーでもこの装甲は貫けないはずだ。
夢美の言葉に応えるようにレイムタンクが唸りをあげて魔理沙に突進する。
「さて、これぞ魔界で覚えた究極の魔法! マスタースパーク!」
魔理沙の魔力がオーレリーズソーラーシステムの魔法玉を通じて増幅され発射される。
それは視界すべてを埋め尽くす光となってレイムタンクを包み込んだ。
「ちょっとそんなのデータに無……」
光の奔流の中に飲み込まれるレイムタンク。そして轟音と共に大爆発。
その爆発に紛れて飛んでいく小型のイビルアイ。
「きーっ!! 覚えてなさいよー!」
「逃がさないわよ。昇天蹴!」
靈夢の必殺の蹴りで飛ばされた陰陽玉がイビルアイを直撃する。
そして墜落爆発。ドクロ状の煙が空に浮かび上がる。
「悪は滅びた」
「ほんっとに容赦ないねぇ」
渋く決める靈夢の後ろで魅魔が呆れていた。
「さ、ちゃっちゃと直すのよー」
夢美らの襲撃で壊された本殿の屋根と境内。夢美達はその修復をさせられていた。
「なんで私がこんな事を~」
泣きながら釘を打つ夢美。こういった作業は経験がないのか何度も指を打ち付けている。
「負けたから仕方ないぜ……。次はもっと強力なのでいかないとだめだな」
木材を運びながらちゆりが返す。工事帽に軍手という格好が妙に似合う。
「やっぱりドリルが必要だったのです!」
「いやそれはない」
戦車で壊れた瓦礫を運んでいた里香の訴えはまたも一蹴された。
「やれやれまたしばらく騒がしくなりそうね」
社務所の縁側から茶をすすりながらそれを見ていた靈夢がいう。
「でもまぁ、楽しくていいんじゃないかい? おっとこの煎餅もらうよ」
どこからともなく現れた魅魔が茶請けの煎餅を奪っていく。
その内魔理沙も遊びに来るだろう。
夢美達3人に魅魔、魔理沙。
神社はしばらくの間喧騒とは無縁でいられそうになかった。
掘り返される黒歴史がまたいい感じw
そうですか、陰陽玉にはそんな効果が……メモメモq(..)
タイムボカンテイストとの組み合わせがナイスですw
アティラリ
コレ見た後は旧作起動ですねぇ♪w
久しぶりに旧作やるかな
・好きな匂いを出せる
・猫になる
が陰陽玉の三大能力でしたっけ。すごいなぁ特に猫。
魔理沙の文字が違ってませんか?これは、現・東方の「魔理沙」の「理」が、正確には「梨」で「魔梨沙」のはずなんですが・・・・・如何なものでしょう?話的に違和感とかは特になかったのですが・・・少し残念です 自分は旧作をやったことがなく、別サイトで判明したのですが・・・・・ 旧・東方未プレイですか?
作中時間は夢時空以後をベースにしているので魔理沙でもおっけーだと思ったんですが。間違ってたらすいません。
ちなみに旧作は全部プレイしてますよ。
あと、2個ほど下の方。
「魔梨沙」は封魔録製品版における誤字だと思うぞ。
体験版でも製品版エンディング及びおまけテキストでは「魔理沙」だからな。
あと、夢以降全部「魔理沙」。
るーことだのICBMだの教授の大活躍は流石。BGMは歴代ラスボスの中でもかなりシリアスで格好良いと
思うのに、こういうドタバタ劇の悪役が本当によく似合う。って言うか夢時空自体がそんな話かw
戦車むすめは可愛いし、吸血少女は可哀想だしで、とても楽しめました。次回も楽しみですっ!
それと3つ下の方、Touhou Wiki の各作品毎のTranslationに旧作の製品版マニュアルや会話が
あります。非公式ワールドガイドにも会話はありますが、海外WikiではED以外の
旧作情報がかなり豊富なので、旧作に興味があるのならば一度行ってみてはどうでしょう?
英語が読めなくても大丈夫ですよ。
後にいくほど文章がぶつ切りになっていく感じがするんだ。
点数低いけど正直な気持ち。
キャラもいい感じに消化されてるし、読んでてストレスもなく、要所要所で笑いもあり……結構なお手前で。
余談:里香の髪型なんですが、すんっごく解り辛いんですが、どうも三つ編みにしてリボンで止めているような感じです。見た感じ。