死に死に死に、死んで死の終わりに冥し
あれから何年経ったのだろう。
もう、私のことを知っている人は生きていないかもしれない。
でも、あれから全く私の姿は変わってない。
やっぱり私は、人じゃなくなったんだ。
死死死死冥死終
「すみませんが、もしよろしければ一晩止めて頂けませんか」
死なない体、成長しない身体。
一所で長く生活は出来ない。
だからこうして何処かで宿を借りてはまた旅立つ。
少し慣れた自分も居るけれど。
「おんや、めんこい嬢ちゃんじゃの」
「雨風がしのげるだけでも良いので何処か貸して頂けませんか?」
「構わんよ。ほれ、中へお入り」
人の良さそうな老夫婦だった。
結局、御飯まで食べさせてもらった。
お風呂も入れてくれたし、布団も用意してくれた。
これだけしてくれる人はたまにしかいない。
凄く幸せな一時だった。
─でも、そういうもの程、本当に長くは続かない。
朝早くに目が覚めた。
と言うより、馬が駆ける音で目が覚めた。
それも、結構数が多い。
近くで合戦でもあるのか、それとも何処かの大名でも通るのか。
そうでなければ、
…農村を襲う賊…の類?
嫌な予感ほど良く当たる。
表に出てみると、案の定向かってきているのは賊の様な格好の連中だった。
「大人しく金目のモノを出すならよし。そうでなけりゃ命は無いものと思え!」
お決まりの格好に、お決まりの言葉。
賊と言うのはどうしてこう…。
何度か経験があるのか、それともこの賊は定期的に此処に来るのか。
村人達はまるで用意していたかのように慌てて集めてきた。
……このままじゃいけない…よねぇ。
見れば、私に宿を貸してくれた老夫婦も何かを持ってきていた。
……すぐに出ないといけなくなるよ?
いいよ、私のことなんて。
「あ?何だおめぇ、見ない顔だな」
多分、頭らしき男の前に立つ。
中で一番下卑た顔の男だ。
「逆らおうってんならおめぇから始末してやるぞ」
脅すようにちらちらと刃物を見せる。
痛いのは嫌だけど、死なない私がそんなので下がるわけも無い。
「私も一宿一飯の恩を返さないといけないの」
そう言って、男の乗ってた馬を蹴っ飛ばした。
「う、おぉ!?」
案の定、馬が暴れだす。
群れを成す動物というのは楽だ。
一匹を乱せば伝染病のように他の仲間も乱れていく。
次々と暴れだす馬をなだめ様と必死になっていた。
「悪いけど帰ってくれないかなぁ。
じゃないと、命の保障は出来ない」
忠告はしたよ。
「うるせぇ、ガキが!」
不思議なものである。
不死の体になって何十年も経つとどんどん人間離れしていく。
今ではまるで不死鳥のように、火を操ることだって出来るようになった。
「忠告はした、よ!」
腕に纏った炎で連中を薙ぎ払った。
流石に命までは取らなかったけど、多分暫くは懲りるだろう。
後ろを振り向いた。
村人達は私の姿に驚いているみたいだった。
無理も無い。
こんな風に火を操る人間なんていないだろうから。
これでここにも居られなくなった。
別にその日に出て行くのは珍しくも無い。
未練も何も無いし、あっても今の私がどうこう出来る物じゃない。
ただ、離れていく間際声が聞こえた。
「火の神様じゃ、火の神様がわしらを助けてくださった。ありがたや、ありがたや」
振り向けば、私を一晩止めてくれた老夫婦がまるで拝むように私を見ていた。
そんな風に言われたことも無かったし感謝されたことも無かった。
むしろ、気味悪がられたりしたものだから…ちょっと照れた。
ちょっと照れて、微笑みながらお爺さんとお婆さんに手を振った。
こういうのも、悪くは無い。
・
・
・
幻想郷という場所がある。
何でもそこは、妖怪も出るような場所と聞く。
……思えば私も半分妖怪みたいなものか。
案外、そこならば私も定着出来そうな場所が見つかりそう。
そう思って、色々聞きながら、幻想郷を目指した。
それからまた何年か。
何十年?どっちでもいいや。
ようやく幻想郷と呼ばれる所に辿り着いた。
何となく雰囲気は違うような気もする。
でも、変わらないような気もするのは何故だろう。
想像していたのと違ったから?
というより誇大妄想しすぎたかもしれない。
それに、妖怪が住むと言っても人里もあるみたいだ。
なんだか、大して変わらない気がしてきた。
でも、まぁいいか。
長く生きてるとあんまり気にならなくなる。
とりあえずお腹が空いた。
最後に食べたのはいつだっけ。
先週だっけ?先月?
あぁ、もう死なない上に空腹を通り過ぎてわけが分からなくなってきた。
どこか里を見つけて何か食べ物を分けてもらおう。
結局、また数日歩き続けた。
ようやく里みたいなのを見つけた時は、今までの苦労も忘れて全力疾走したものだ。
死ななくてもお腹は減るし、体力だって減る。
ちょっと、ちから、だしすぎた。
気絶してたらしい。
起きたら誰かの家の中で寝ていた。
枕元には服が置いてあった。
そういえば今着てるの相当ぼろぼろだ。
「おや、起きたか」
私の活動音に気付いたのか、女の人が部屋に入ってきた。
変な帽子とよく分からない服を着た女の人だ。
「余計なお世話だ」
「あれ、口に出てた?」
「凄く」
失敗した。
お腹の空き過ぎかもしれない。
「それより、えーと」
「慧音。上白沢 慧音だ」
「けいね。突然で悪いんだけど何か食べる物くれないかな」
介抱してもらった上にいきなり食べ物を求めるのもどうかと思う。
図々しいというか何と言うか、でも正直お腹空いた。
「それはよかった。ちょうど昼時でお前の分も作ったんだよ。
ぐったりしてたから食べれるかどうかは分からなかったけど、よかった」
……親切な人だ。
すごく、親切な人だ。
「それより、名前は何ていうんだ?」
「私?藤原 妹紅」
「妹紅か…変わった名前だな」
「けいねの帽子と服程じゃないよ」
「余計なお世話だ」
二度目。
お腹いっぱいだ。
何日分食べたのか良く分からない。
と言うか今までが食べ無すぎだったんだ。
「よく食べるな、お前は」
「ふぉんなふぉふぉ」
「喋るなら食べてから」
でも、見ず知らずの私に此処までしてくれるなんて。
流石に、親切にも程があると思う。
「それで妹紅とやら、どうしてあんな場所で倒れてたんだ?」
「お腹空いたから」
「………それだけか?」
「住む場所もないし」
それに死なないし。
「ふむ……」
味噌汁を啜りながらちらりと見た。
凄く真剣に悩んでいるようだ。
「もしよかったらこの里に住むか?」
「ふぇ?」
味噌汁落とした。
余りにも突然な台詞だったからかもしれない。
まぁ、私の正体をしってもそう言えるのか分からないけど。
「この里の者達は皆良い人だ。私が保証するよ。
それに、困っている人間は私が放っておけないのさ」
「うー……ん。心遣いは嬉しいんだけどなぁ…。
私一箇所に長居は出来ないの」
長く居れば居るほど、死なない私の居場所はなくなるから。
此処に住んでいれば、いつか慧音も居なくなるだろう。
死なない私からして見ればそう先の話ではない。
「住む場所が無いのだろう?遠慮はしなくていいんだぞ」
「うーん……気が向いたらにするよ」
「…そうか、分かった。無理に住ませるわけにもいかないしな」
けいねは少し残念そうに微笑んだ。
ちょっと名残惜しいけど、私は里を後にした。
まぁ、気が向いたら…またけいねに会いに来て見よう。
その頃もけいねは生きててくれるかな……?
里を離れて暫く。
気付けば、竹林の中に迷い込んでいた。
そういえば、竹林って目印が無いんだっけ。
筍とか成長早いし、大体どれがどれだか区別つかないし。
空は青空。雲ひとつなさそう。
いや、竹で余り見えないけど。
本格的に迷った。
だから、竹林の中で屋敷を見つけた時は喜んだ。
そう、見つけた時は。
「すみません、竹林に迷ってしまって。
一晩雨風凌げる所を貸してもらえませんか」
しかし、こんな竹林の中で住んでるなんてどんな人だろう。
暫くして、胸のおっきな女の人が現れた。
そういえば、けいねもおっきかったな。
「あら、こんなところにお客さんとは珍しいわね」
そうだろう。大体好き好んでこんなところに入る人なんて…。
あれ、私なんでこの竹林に入ったの?
「久しぶりの客人だから姫様もきっと喜ぶわ」
姫様?ここってどこかのお偉いさんの隠れ家か何かだろうか。
もしかしてすごい偉い人の娘とか、そんなのが住んでたりして。
「どうしたの?あがらないの?」
「あ、上がらせてもらいます」
─そこにいたのは
自分の目を疑った。
それは忘れるはずも無い。
あの時見た、あの憎き輝夜だった。
「あら、永琳。どうしたの?」
「いえ、迷い人らしくて、折角なので一晩止めてあげようかと」
「へー、アナタお名前は?」
…。
「藤原 妹紅………忘れたなんて言わせない」
そう、忘れていようと、思い出させてやる。
「?どこかで会ったかしら」
「車持皇子。お前が難題を吹っ掛けて振った男の娘だ!」
暫く、輝夜はその名前を呟いた。
ようやく思い出したのか手を叩き納得していた。
「……?でも、もう大分昔の話しだし、あなた」
「積年の恨み、今こそ晴らしてやる!」
火の玉を投げ放つ。
輝夜はきょとんとしていたが、すぐさま永琳とかいう女が前に立ちはだかり、輝夜を守った。
「とんだ客人ね」
きりきりとひかれた弓。
その手から放たれた矢は、寸分違わず私の額に突き刺さった。
普通の人間なら死んでいる。
でも、私はこの女が残した薬を飲んだ。
蓬莱人だから。
「…………!」
死なないどころか、矢を抜いてぴんぴんしている私に驚いているようだった。
そして、永琳とかいう女はすぐに気付いたみたいだった。
私が、蓬莱の薬を飲んだことに。
「姫様、あの薬って誰に渡しましたっけ」
「うん、帝に渡したけど……でも、おかしいわ」
当たり前だ。
私は、その使者を殺して奪ったのだから。
そんなの、どうでもいい。
「帝は使者を山へと向わす。
薬を燃やせと男に命ず。
蓬莱山への約束手形。
二度とそこへは戻れない。
二度とここへは還れない。
戻り橋には還れない」
あの時も
「凱風快晴!」
確か空は晴れていた。
「─フジヤマヴォルケイノ!」
燃え盛る炎は、再び点いた私の恨みなのだろうか。
きっと、そうなのだろう。
屋敷の一部が吹き飛んだ。
流石にこれ以上壊されてはたまらないと思ったのか、二人は外に出て行った。
別に場所がどこだろうと関係は無い。
外だろうと、中だろうと。
焼き殺してやる。
「輝夜あぁぁぁぁぁぁ!!」
狙いを定めて再び炎を放った。
火力もスピードも、申し分無い。
あいつに避けれる筈なんて
「難題」
無い。
「火鼠の皮衣」
直撃。
だけど、輝夜は生きていた。
少しも、火に炙られた様子すらない。
その体に纏った妙な皮衣の所為なのか。
「車持皇子……そう、娘って言ったかしらね」
そう言うと輝夜は、今度は木の枝のようなものを取り出した。
それは、確か昔見たことがある。
それに似たものを私は、何処かで見たことがある。
「難題」
私は、怖くて、父上に恥をかかせたことが。
「あ……あああああああああああああああ!!!」
「蓬莱の玉の枝」
目が覚めた。
誰かの家の中で寝ていたらしい。
そういえば、この天井つい最近見たような気がする。
「起きたか、妹紅」
けいねの家だ。
「あれ…?」
「吃驚したぞ、何か妙な妖気のぶつかり合いを感じて竹林に行ってみたら倒れてたんだからな」
「………夢じゃなかったんだ」
そう、月へと帰った筈の輝夜が、此処に居た。
夢ではなかったんだ。
「……それより、妹紅。聞きたいことがあるんだ」
「?」
「お前は人間なのか?」
そうか、多分けいねはぼろぼろになっていた私を見つけたんだ。
その言い方からして、多分私は死んでもおかしくない傷を負わされてたんだと思う。
あそこから意識が無い理由はそれかもしれない。
「人間…だったって言えばいいのかな。
ある薬を飲んで死なない体になった。今は人間とは少し違う」
「………死なない体?」
「正確には、死ぬことも老いることもない体」
多分、言っても理解できないだろう。
実際に見てみない限りは…ああ、けいねは見たんだ。
「俄かには信じ難いが……確かに、あの傷と出血量で生きているのは奇跡だった状態だからな。
それに、あれだけの傷がもうほとんど治ってる理由もそれで何となく頷ける」
「驚かないんだね」
「驚いてるさ」
驚いてるようには見えない。
多分、そういう性格なんだと思う。
「まぁいいさ。人間だということには変わりないから。
それよりこれでここがどれだけ危険な世界か分かっただろう?
この里に住めば少しは危険も減るはずさ。私が守れるからな」
……本当にけいねは、変わってる。
「ありがとう、でも、ごめん。もう、住む場所は見つけたから」
「住む場所?」
「うん、あの竹林の中。ずっと、ずっと思ってきた人が居たの。
だから、いつでも会えるように私もあの森に住むのよ」
そう、ずっとずっと、殺したいほど憎んできた女。
あいつは、あいつはきっと私と同じ体の持ち主だろう。
だから、あいつもきっと私と同じでどれだけやっても死なないだろう。
「……そうか、里に来たくなったら、いつでも来い。
また暖かい料理でも作っておくからな」
「うん、本当にありがとう。けいね」
「いや、いいんだよ。これが私の仕事だから」
けいねの家を出て、またあの竹林へと向った。
永遠の命…死ぬことも老いることもないこの体。
生きる目的なんてほとんど無かったけれど。
これで暫くは楽しく生活出来そう。
「ああ」
思わず感嘆の溜息が漏れた。
両手を広げて天を仰ぐ。
「生きてるってなんて素晴らしいんだろう……」
幻想郷の空は、
今日も青い。
あれから何年経ったのだろう。
もう、私のことを知っている人は生きていないかもしれない。
でも、あれから全く私の姿は変わってない。
やっぱり私は、人じゃなくなったんだ。
死死死死冥死終
「すみませんが、もしよろしければ一晩止めて頂けませんか」
死なない体、成長しない身体。
一所で長く生活は出来ない。
だからこうして何処かで宿を借りてはまた旅立つ。
少し慣れた自分も居るけれど。
「おんや、めんこい嬢ちゃんじゃの」
「雨風がしのげるだけでも良いので何処か貸して頂けませんか?」
「構わんよ。ほれ、中へお入り」
人の良さそうな老夫婦だった。
結局、御飯まで食べさせてもらった。
お風呂も入れてくれたし、布団も用意してくれた。
これだけしてくれる人はたまにしかいない。
凄く幸せな一時だった。
─でも、そういうもの程、本当に長くは続かない。
朝早くに目が覚めた。
と言うより、馬が駆ける音で目が覚めた。
それも、結構数が多い。
近くで合戦でもあるのか、それとも何処かの大名でも通るのか。
そうでなければ、
…農村を襲う賊…の類?
嫌な予感ほど良く当たる。
表に出てみると、案の定向かってきているのは賊の様な格好の連中だった。
「大人しく金目のモノを出すならよし。そうでなけりゃ命は無いものと思え!」
お決まりの格好に、お決まりの言葉。
賊と言うのはどうしてこう…。
何度か経験があるのか、それともこの賊は定期的に此処に来るのか。
村人達はまるで用意していたかのように慌てて集めてきた。
……このままじゃいけない…よねぇ。
見れば、私に宿を貸してくれた老夫婦も何かを持ってきていた。
……すぐに出ないといけなくなるよ?
いいよ、私のことなんて。
「あ?何だおめぇ、見ない顔だな」
多分、頭らしき男の前に立つ。
中で一番下卑た顔の男だ。
「逆らおうってんならおめぇから始末してやるぞ」
脅すようにちらちらと刃物を見せる。
痛いのは嫌だけど、死なない私がそんなので下がるわけも無い。
「私も一宿一飯の恩を返さないといけないの」
そう言って、男の乗ってた馬を蹴っ飛ばした。
「う、おぉ!?」
案の定、馬が暴れだす。
群れを成す動物というのは楽だ。
一匹を乱せば伝染病のように他の仲間も乱れていく。
次々と暴れだす馬をなだめ様と必死になっていた。
「悪いけど帰ってくれないかなぁ。
じゃないと、命の保障は出来ない」
忠告はしたよ。
「うるせぇ、ガキが!」
不思議なものである。
不死の体になって何十年も経つとどんどん人間離れしていく。
今ではまるで不死鳥のように、火を操ることだって出来るようになった。
「忠告はした、よ!」
腕に纏った炎で連中を薙ぎ払った。
流石に命までは取らなかったけど、多分暫くは懲りるだろう。
後ろを振り向いた。
村人達は私の姿に驚いているみたいだった。
無理も無い。
こんな風に火を操る人間なんていないだろうから。
これでここにも居られなくなった。
別にその日に出て行くのは珍しくも無い。
未練も何も無いし、あっても今の私がどうこう出来る物じゃない。
ただ、離れていく間際声が聞こえた。
「火の神様じゃ、火の神様がわしらを助けてくださった。ありがたや、ありがたや」
振り向けば、私を一晩止めてくれた老夫婦がまるで拝むように私を見ていた。
そんな風に言われたことも無かったし感謝されたことも無かった。
むしろ、気味悪がられたりしたものだから…ちょっと照れた。
ちょっと照れて、微笑みながらお爺さんとお婆さんに手を振った。
こういうのも、悪くは無い。
・
・
・
幻想郷という場所がある。
何でもそこは、妖怪も出るような場所と聞く。
……思えば私も半分妖怪みたいなものか。
案外、そこならば私も定着出来そうな場所が見つかりそう。
そう思って、色々聞きながら、幻想郷を目指した。
それからまた何年か。
何十年?どっちでもいいや。
ようやく幻想郷と呼ばれる所に辿り着いた。
何となく雰囲気は違うような気もする。
でも、変わらないような気もするのは何故だろう。
想像していたのと違ったから?
というより誇大妄想しすぎたかもしれない。
それに、妖怪が住むと言っても人里もあるみたいだ。
なんだか、大して変わらない気がしてきた。
でも、まぁいいか。
長く生きてるとあんまり気にならなくなる。
とりあえずお腹が空いた。
最後に食べたのはいつだっけ。
先週だっけ?先月?
あぁ、もう死なない上に空腹を通り過ぎてわけが分からなくなってきた。
どこか里を見つけて何か食べ物を分けてもらおう。
結局、また数日歩き続けた。
ようやく里みたいなのを見つけた時は、今までの苦労も忘れて全力疾走したものだ。
死ななくてもお腹は減るし、体力だって減る。
ちょっと、ちから、だしすぎた。
気絶してたらしい。
起きたら誰かの家の中で寝ていた。
枕元には服が置いてあった。
そういえば今着てるの相当ぼろぼろだ。
「おや、起きたか」
私の活動音に気付いたのか、女の人が部屋に入ってきた。
変な帽子とよく分からない服を着た女の人だ。
「余計なお世話だ」
「あれ、口に出てた?」
「凄く」
失敗した。
お腹の空き過ぎかもしれない。
「それより、えーと」
「慧音。上白沢 慧音だ」
「けいね。突然で悪いんだけど何か食べる物くれないかな」
介抱してもらった上にいきなり食べ物を求めるのもどうかと思う。
図々しいというか何と言うか、でも正直お腹空いた。
「それはよかった。ちょうど昼時でお前の分も作ったんだよ。
ぐったりしてたから食べれるかどうかは分からなかったけど、よかった」
……親切な人だ。
すごく、親切な人だ。
「それより、名前は何ていうんだ?」
「私?藤原 妹紅」
「妹紅か…変わった名前だな」
「けいねの帽子と服程じゃないよ」
「余計なお世話だ」
二度目。
お腹いっぱいだ。
何日分食べたのか良く分からない。
と言うか今までが食べ無すぎだったんだ。
「よく食べるな、お前は」
「ふぉんなふぉふぉ」
「喋るなら食べてから」
でも、見ず知らずの私に此処までしてくれるなんて。
流石に、親切にも程があると思う。
「それで妹紅とやら、どうしてあんな場所で倒れてたんだ?」
「お腹空いたから」
「………それだけか?」
「住む場所もないし」
それに死なないし。
「ふむ……」
味噌汁を啜りながらちらりと見た。
凄く真剣に悩んでいるようだ。
「もしよかったらこの里に住むか?」
「ふぇ?」
味噌汁落とした。
余りにも突然な台詞だったからかもしれない。
まぁ、私の正体をしってもそう言えるのか分からないけど。
「この里の者達は皆良い人だ。私が保証するよ。
それに、困っている人間は私が放っておけないのさ」
「うー……ん。心遣いは嬉しいんだけどなぁ…。
私一箇所に長居は出来ないの」
長く居れば居るほど、死なない私の居場所はなくなるから。
此処に住んでいれば、いつか慧音も居なくなるだろう。
死なない私からして見ればそう先の話ではない。
「住む場所が無いのだろう?遠慮はしなくていいんだぞ」
「うーん……気が向いたらにするよ」
「…そうか、分かった。無理に住ませるわけにもいかないしな」
けいねは少し残念そうに微笑んだ。
ちょっと名残惜しいけど、私は里を後にした。
まぁ、気が向いたら…またけいねに会いに来て見よう。
その頃もけいねは生きててくれるかな……?
里を離れて暫く。
気付けば、竹林の中に迷い込んでいた。
そういえば、竹林って目印が無いんだっけ。
筍とか成長早いし、大体どれがどれだか区別つかないし。
空は青空。雲ひとつなさそう。
いや、竹で余り見えないけど。
本格的に迷った。
だから、竹林の中で屋敷を見つけた時は喜んだ。
そう、見つけた時は。
「すみません、竹林に迷ってしまって。
一晩雨風凌げる所を貸してもらえませんか」
しかし、こんな竹林の中で住んでるなんてどんな人だろう。
暫くして、胸のおっきな女の人が現れた。
そういえば、けいねもおっきかったな。
「あら、こんなところにお客さんとは珍しいわね」
そうだろう。大体好き好んでこんなところに入る人なんて…。
あれ、私なんでこの竹林に入ったの?
「久しぶりの客人だから姫様もきっと喜ぶわ」
姫様?ここってどこかのお偉いさんの隠れ家か何かだろうか。
もしかしてすごい偉い人の娘とか、そんなのが住んでたりして。
「どうしたの?あがらないの?」
「あ、上がらせてもらいます」
─そこにいたのは
自分の目を疑った。
それは忘れるはずも無い。
あの時見た、あの憎き輝夜だった。
「あら、永琳。どうしたの?」
「いえ、迷い人らしくて、折角なので一晩止めてあげようかと」
「へー、アナタお名前は?」
…。
「藤原 妹紅………忘れたなんて言わせない」
そう、忘れていようと、思い出させてやる。
「?どこかで会ったかしら」
「車持皇子。お前が難題を吹っ掛けて振った男の娘だ!」
暫く、輝夜はその名前を呟いた。
ようやく思い出したのか手を叩き納得していた。
「……?でも、もう大分昔の話しだし、あなた」
「積年の恨み、今こそ晴らしてやる!」
火の玉を投げ放つ。
輝夜はきょとんとしていたが、すぐさま永琳とかいう女が前に立ちはだかり、輝夜を守った。
「とんだ客人ね」
きりきりとひかれた弓。
その手から放たれた矢は、寸分違わず私の額に突き刺さった。
普通の人間なら死んでいる。
でも、私はこの女が残した薬を飲んだ。
蓬莱人だから。
「…………!」
死なないどころか、矢を抜いてぴんぴんしている私に驚いているようだった。
そして、永琳とかいう女はすぐに気付いたみたいだった。
私が、蓬莱の薬を飲んだことに。
「姫様、あの薬って誰に渡しましたっけ」
「うん、帝に渡したけど……でも、おかしいわ」
当たり前だ。
私は、その使者を殺して奪ったのだから。
そんなの、どうでもいい。
「帝は使者を山へと向わす。
薬を燃やせと男に命ず。
蓬莱山への約束手形。
二度とそこへは戻れない。
二度とここへは還れない。
戻り橋には還れない」
あの時も
「凱風快晴!」
確か空は晴れていた。
「─フジヤマヴォルケイノ!」
燃え盛る炎は、再び点いた私の恨みなのだろうか。
きっと、そうなのだろう。
屋敷の一部が吹き飛んだ。
流石にこれ以上壊されてはたまらないと思ったのか、二人は外に出て行った。
別に場所がどこだろうと関係は無い。
外だろうと、中だろうと。
焼き殺してやる。
「輝夜あぁぁぁぁぁぁ!!」
狙いを定めて再び炎を放った。
火力もスピードも、申し分無い。
あいつに避けれる筈なんて
「難題」
無い。
「火鼠の皮衣」
直撃。
だけど、輝夜は生きていた。
少しも、火に炙られた様子すらない。
その体に纏った妙な皮衣の所為なのか。
「車持皇子……そう、娘って言ったかしらね」
そう言うと輝夜は、今度は木の枝のようなものを取り出した。
それは、確か昔見たことがある。
それに似たものを私は、何処かで見たことがある。
「難題」
私は、怖くて、父上に恥をかかせたことが。
「あ……あああああああああああああああ!!!」
「蓬莱の玉の枝」
目が覚めた。
誰かの家の中で寝ていたらしい。
そういえば、この天井つい最近見たような気がする。
「起きたか、妹紅」
けいねの家だ。
「あれ…?」
「吃驚したぞ、何か妙な妖気のぶつかり合いを感じて竹林に行ってみたら倒れてたんだからな」
「………夢じゃなかったんだ」
そう、月へと帰った筈の輝夜が、此処に居た。
夢ではなかったんだ。
「……それより、妹紅。聞きたいことがあるんだ」
「?」
「お前は人間なのか?」
そうか、多分けいねはぼろぼろになっていた私を見つけたんだ。
その言い方からして、多分私は死んでもおかしくない傷を負わされてたんだと思う。
あそこから意識が無い理由はそれかもしれない。
「人間…だったって言えばいいのかな。
ある薬を飲んで死なない体になった。今は人間とは少し違う」
「………死なない体?」
「正確には、死ぬことも老いることもない体」
多分、言っても理解できないだろう。
実際に見てみない限りは…ああ、けいねは見たんだ。
「俄かには信じ難いが……確かに、あの傷と出血量で生きているのは奇跡だった状態だからな。
それに、あれだけの傷がもうほとんど治ってる理由もそれで何となく頷ける」
「驚かないんだね」
「驚いてるさ」
驚いてるようには見えない。
多分、そういう性格なんだと思う。
「まぁいいさ。人間だということには変わりないから。
それよりこれでここがどれだけ危険な世界か分かっただろう?
この里に住めば少しは危険も減るはずさ。私が守れるからな」
……本当にけいねは、変わってる。
「ありがとう、でも、ごめん。もう、住む場所は見つけたから」
「住む場所?」
「うん、あの竹林の中。ずっと、ずっと思ってきた人が居たの。
だから、いつでも会えるように私もあの森に住むのよ」
そう、ずっとずっと、殺したいほど憎んできた女。
あいつは、あいつはきっと私と同じ体の持ち主だろう。
だから、あいつもきっと私と同じでどれだけやっても死なないだろう。
「……そうか、里に来たくなったら、いつでも来い。
また暖かい料理でも作っておくからな」
「うん、本当にありがとう。けいね」
「いや、いいんだよ。これが私の仕事だから」
けいねの家を出て、またあの竹林へと向った。
永遠の命…死ぬことも老いることもないこの体。
生きる目的なんてほとんど無かったけれど。
これで暫くは楽しく生活出来そう。
「ああ」
思わず感嘆の溜息が漏れた。
両手を広げて天を仰ぐ。
「生きてるってなんて素晴らしいんだろう……」
幻想郷の空は、
今日も青い。