紅魔館、正門前。
「よう、みすずちん」
「・・・美鈴(メイリン)だっての」
対峙するのはいつもの二人。紅美鈴と、霧雨魔理沙。
・・・霧雨? いや霧島だっけ? ・・・ま、『白黒』でいいか。
険しい顔で相手を睨む門番長。緊張感のカケラも無いツラの白黒。
・・・門番長には悪いが、今日も紅茶が冷める前に終わりそうだ。
「ああ、そうだったな。画期的な軍事システムの開発者がこんなにチャイニーな妖怪だったとは性欲を」
「わざと言ってんのか!?」
「マスタースパーク」
「!?・・・・・・」
あ、終わった。
「わざとだぜ」
多分聞こえてない。――と思いきや。
「・・・くっ、ぬっ」
意外や意外。まだ終わってなかった。
門番長は半分黒焦げになりながらも、しっかりとその両足で地面を踏みしめている。
「い、いくら強力な攻撃でも・・・たった一発でやられるわけにはいかないってのよ」
ニヤリと不敵に笑うも、既に満身創痍。一体何が彼女をそこまで奮い立たせるのか!
「しかし二発ならどうかな?」
――駄目でした。
「差し入れですけど・・・生きてます?」
いい感じにウェルダンな門番長。香ばしい匂いが辺りに広がっている。
両手が塞がっているのでつま先でつついて見たが、反応は無し。
私の手にはティーカップとお菓子の乗ったお盆。
せっかく淹れた紅茶は、もう冷めている。最初からアイスティーにすれば良かった。
とか何とか思っていると
「――ふがぁ」
門番長復ッ活ッ、と。毎度毎度大した生命力だ。
「くぅっ・・・! くやしい・・・あんな奴に・・・!
――あ、おはよう小悪魔」
「おはようございます、クリムゾンさん」
「紅(ホン)だってば」
などと文句を言いつつ盆の上の大福を貪る。紅茶に大福。通である。知らないけど。
あ、申し遅れましたがこの物語は私、小悪魔の語りでお送りしています。
「それにつけても魔理沙の奴ぅ・・・どう思うよ、小悪魔は」
「どう、と言われましても。はた迷惑な人だ、とか」
「それもあるけど。あれ絶対卑怯でしょ! 何あの弾幕!? そもそもアレは弾幕か!?」
また始まった。まぁ、門番長の愚痴を聞くのも私の仕事。
この紅魔館で彼女が気兼ねせずに話せる相手は私くらいのものだし、
適当にストレスを発散させておかないと仕事に支障が出る、と言うのがパチュリー様の考え。
・・・多分、メイド長やお嬢様はそんなこと考えたこともないだろう。
「大体、何でアポを取って来ないのよ! 週二、三回のペースでここに来ることは分かってるし、
目的だって周知の事実な訳だし!!」
白黒の目的――と言えば一つ。ヴワル魔法図書館以外に思いつかない。
時々蔵書を勝手に持ち出したりすることもあるが、催促すれば大抵は返してくれる。
概ね問題ない、とパチュリー様は言っていた。
が、アポ無しの来客は全て侵入者であり、全力で排除すべし、というのがメイド長の方針。
例えそれが顔なじみでも。
以前あの白黒を素通りさせた時は、メイド長によって通常の三倍のお仕置きが執行された。
よって、門番長が白黒に対して手を抜くことは許されない。
・・・まぁ、それはそれで結局黒焦げ→お仕置きのコンボに繋がるわけなのだが。
ちなみに紅白巫女――博麗霊夢は、お嬢様の許可が降りているので素通りOK。
「本当、毎回毎回これじゃ身が持たないわ・・・給料も減る一方だし」
・・・正直言うと、毎回毎回愚痴を聞かされるのもいい加減飽きてきたのだが、
こんな風に死にそうな溜め息を吐かれると、さすがに門番長が憐れに思えてくる。
――ふと、逆転ホームラン。
「はっちゃけた! えらいことですよ紅さん! 革命的発想ですよ! コロンブスの卵ですよ!
侵入されたらお仕置きされるのなら――侵入されなければいいじゃないですか!」
「・・・や、別に逆転でも何でもないって言うか、そんなことはとっくに分かってるし、
それが出来ないから困ってるわけで」
そうなの? まぁいいや。
「ならば、特訓です! 略さずに言うと特別な訓練ですよ!!」
「・・・はぁ」
「紅さんに足りないのは防御技だと思うわけですよ、小悪魔は! 聞いてますか紅さん!」
ドン、とテーブルを叩き熱く語る私。
「いや、聞いてるけど。ホンさんて」
ここは門のそばに建てられたプレハブ小屋。門番長の控え室兼寝床で、通称・上海紅茶館。
緑茶しか無いけど。
「白黒の必殺技と言えばマスタースパーク! アレさえ凌げれば勝機はあります! 多分。
そしてその為には防御技が不可欠というわけですよ、小悪魔が思うに!」
「多分って」
無視。
「で、紅さんにふさわしい技があったんですよ、この文献に。図書館で見つけたんですけどね」
「私にふさわしい技?」
「その名も、スーパーバストディフェンサー。及びスーパーバストインパクト」
「・・・スーパーバス」
スコン
「――ト?」
おや、何やら一瞬時が止まったような錯覚。
「乳揺れの際に発生する振動で衝撃波をですね。
・・・あれ、紅さんそれナイフ型の髪飾りですか。ナウいですね」
「・・・・・・その技は却下。白黒が来る前に私の命が尽きる」
何故か頭から血を流す門番長。よく分からないが仕方ない。
「うーん、じゃあ他の技にしましょうか」
「とりあえず、胸関」
スココン
「――係は無しにしてもらえると、ありがたい、かな。
い・・・今の台詞は問題ないと思うん、ですが、さ、く、・・・ぅ」
「むーん、仕方ないですね。勿体無いなぁ、せっかくのザ・ビッグ・ボインが。
・・・ん、じゃあ畳返しとかどうでしょう。忍者がよくやる奴。
む、畳返し。畳返しか。適当に言ってみたんだけど、良いかも。
よし、では早速畳返しの特別な訓練をば――
――って、ありゃ? ちょっと、こんなところで寝てると風邪引きますよ。紅さん紅さん」
門番長はテーブルの上に突っ伏している。手元には赤い文字で『さくや』と書いてある。
きっと昨夜眠れなかったのだろう。寝不足じゃあ仕方ない。特訓は明日にするか。
髪飾りがいつの間にか増えてるような気がしたが、気のせいだろう。
私は門番長の肩に毛布を掛け、静かにプレハブ小屋から退去した。
「洋館で中国人が畳を返す! 和洋中の超次元融合ですよ紅さん!
やっぱ今は国際化社会ですよね紅さん! 聞いてますか紅さん!?」
「・・・聞いてるよ。聞きたくないけど」
翌日、紅魔館正門前には畳が敷き詰められていた。
だというのに頭にターバン(?)を巻いた門番長は何故か不機嫌。あの日だろうか。
気にせず本題に入る。
「えー、畳返しというのはですね。こう、畳の端の所をバンッと叩くわけですよ。
それでこの畳を起きあがらせ、衝立にすれば敵の攻撃をシャットアウト! と。
その場にある物を利用する。環境利用闘法とでも言いますか。
まさに神の意表をつく技! ロマンですよ! 聞いてますか紅さん!?」
「そううまくいくかなぁ・・・」
「何言ってるんですか! やる前から『できない』なんて思ってちゃ、何もできないんですよ!」
「そうじゃなくて、畳ぐらいでマスタースパークは防げ――」
「美鈴の馬鹿ッ!」
スパァン
はっとした時には既に手が動いていた。
門番長の体は空中で横方向に3回転して畳の上に転がり、止まった。
何故だろう。涙が溢れて止まらない。私の口からは自分でも信じられないほどの激しい声が飛び出した。
「美鈴の馬鹿っ! 意気地無し!! 何でそんな簡単に諦めちゃうのよ!!
貴女ならできるかもしれない・・・ううん。絶対できるって信じてるのに・・・!
このままじゃ全て無駄になっちゃうの! 私が文献を調べたことも、私がメイド隊に畳を用意させたことも、
私が・・・!!」
これ以上は言葉にならない。しかし涙は止まらない。
泣きじゃくる私の頭の上にポン、と手が置かれた。
いつの間にか立ち上がっていた門番長だった。その目には先ほどまでの曇りはない。
「ごめんね、小悪魔・・・私が間違ってたわ。そうよね。やる前から諦めるなんて、私らしくない。
私が諦めるのは、私の命が尽きた時だけ! 畳返し、必ずマスターしてみせる!!
小悪魔・・・特訓、付き合ってくれるわね?」
私は涙を拭き、精一杯の笑顔で答えた。
「はい!」
門番長は私の頭をくしゃくしゃと撫で回し、照れくさそうにこう言った。
「さっきのパンチ、効いたわよ。・・・前後の記憶がちょっと曖昧だけど」
「あっ・・・ご、ごめんなさい、紅さん・・・」
「美鈴でいいよ」
「はい! ――美鈴さん!!」
――そして数日後。紅魔館、正門前。
「や、奥さん。ミリン選んでるかい?」
「誰が奥さんか」
対峙するいつもの二人。紅美鈴、霧雨魔理沙(霧雨で合っていたようだ)。
しかし今日はいつもとは違う。白黒もそのことに気づいているようだ。
「・・・何で門の前に畳が敷いてあるんだ?」
「超次元融合よ。あんたには分かんないだろうけど」
・・・・・・・・・・・・ここで。
「マスタースパーク」
――来るッ!
美鈴さんに迫る光の奔流。
だが彼女はニヤリと笑い、右手を床に叩きつける!
そして畳が跳ね上がり、門番長を護る楯となった!!
「奥義! 畳返――」
溢れる光は、楯もろとも門番長を呑み込んだ。
「超次元・・・全然分からないぜ」
どうでもいいか、と呟き白黒は悠々と門の中へと入っていった。
・・・畳の残骸の中から美鈴さんの呻き声が聞こえる。
「だ、だから最初に言った・・・の、に」
「うーん。まさか畳の強度がマスタースパークの威力に耐えられないとは」
「うーむ。・・・何か頭の奥に引っかかる物があるんだけど」
上海紅茶館にて反省会。ちなみに、メイド長によるお仕置きは既に完了。
毎度の事ながら、美鈴さんの生命力って本当に素晴らしい。
「畳返し、いいアイディアだと思ったんですけど・・・考え直しですね」
「――いや。考え直す必要はない」
見ると、美鈴さんの瞳は燃えていた。
「マスタースパークに畳が耐えられなかった・・・それなら、耐えられる畳を使えばいいだけのこと。
フッフッフ・・・私、ファイトが沸いてきたわ・・・!」
瞳だけではない。全身から熱い炎が噴き出しているようだ。
「今度の特訓はこれまでの倍・・・いえ、十倍は過酷なものになるわ。
小悪魔。手伝ってくれるわよね?」
「は、はい。もちろんです」
何という気迫・・・! もはや彼女は今までの紅美鈴ではない。
彼女は生まれ変わったのだ――ネオ・紅美鈴に!!
――多分!!
――さらに数日後。紅魔館、正門前。
「どうよ、ルナマリア。調子は」
「・・・メイリンだと何度言えば」
対峙する紅美鈴と霧雨魔理沙。
今、正門前に敷き詰められているのは・・・石畳。
この数日は、まさに血の滲む特訓の日々だった・・・しかし彼女はやり遂げた!
今、その成果が試される!
いつもならもうすぐ、この辺りで・・・
「ルミナリオ?」
「むしろ遠くなっとるわ!」
「チャイニールミナス?」
「もはや意味が分からん!」
「マスター――」
――来るッ!!
「超奥義! 石盤返し!!」
門番長の拳が床に叩きつけられ、数百キロはあろうかという石畳が見事に倒立した!!
――した!・・・した! ・・・した、んだけど。
「・・・おや? 攻撃が来ねぇな。・・・試合放棄かな?」
美鈴さんが石畳の陰からひょこりと顔を出した先には・・・既に白黒の姿は影も形もなかった。
※図解
魔←――――――
━━━━━┓
┃
紅魔館 ┃
┃ 美┃
―――――――――――――――――――――――
「・・・行っちゃいましたが」
「がぁっ! わ、私一人で盛り上がって馬鹿みたいじゃないかーっ!!」
地団駄を踏み、怒り狂う門番長はその石盤を――
――投げた。
豪速で飛行する石盤は白黒をかすめ、そして物理法則に従い紅魔館へと落下。
重力によって加速した石盤は、紅魔館の屋根をブチ抜いた。
「――しまった! 逃げられた!?」
もはやそういう問題ではない。
さすがに屋敷を破壊したとあっては、メイド長のお仕置きっぷりも尋常ではない。
美鈴さんのお仕置きダメージの治癒と屋根の修復には、実に一週間の時を要した。
ちなみに屋根の修理は美鈴さん一人の手によって行われた。
わざわざメイド長が破壊された付近の時間を操作し、他の者が手出しできないようにしたのだと言う。
その能力を応用すれば他にいくらでも方法はありそうなものだが、それを突っ込む者はいなかった。
その間、白黒は素通りし放題だったわけだが、それを咎める者もいなかった。
お仕置きだけは平常通り行われたが。
――そしてあとの三日は、例によって特訓期間である。
・・・正直、そろそろ飽きてこないでもないが、私が言い出しっぺである以上付き合わないわけにはいかない。
――そんなこんなで十日経過。
いつもの場所の、いつもの二人。
門の前の様相は、一見前回と何も変わっていないように見える。
「こんにちはだ、美鈴」
「――違う」
思わぬ否定に眉を顰める白黒。
「いや・・・今回はあってたと思うが。紅美鈴・・・じゃなかったか?」
「違うわね。私は――超(スーパー)紅美鈴よ!」
己を指差し、不敵に笑う美鈴・・・もとい、超美鈴さん。
聞いてるこっちが恥ずかしくなるトンデモ発言だが、本人は至って真剣。
・・・それだけ、今回の策に自信があるのだ。そういうことにしておこう。うん。
「意味が分からんのだが」
「説明するのは面倒だから、勝手に想像しなさ」
「マスタースパーク」
自分で言っといてそれか、と突っ込む代わりにいつもの一撃。
今回は――フェイントじゃない。
巨大にして強大な光の塊。あまりにも問答無用な破壊の嵐。
だが、美鈴さんは身動きひとつしない。――いや、唇がわずかに動いている。
次の瞬間。
――巨大な石の楯が、光の嵐から門番長を護るように立ち塞がっていた。
光が、収まる。
石盤が倒れると、そこには無傷の門番長が立っていた。
「・・・こいつを防ぐとはね」
「こっちも伊達に特訓してな」
「マスタースパーク」
まさに外道!! 美鈴さんの台詞がまだ終わらない内に、二発目のマスタースパークが迫る!
――だが、門番長は慌てず騒がず、唇を少しだけ動かした。
すると先ほどと同様、石の楯が光を阻む。
二発のマスタースパークを受けた石盤はひび割れ、崩れ落ちた。
――が、やはり無傷。
「・・・あれまあ」
白黒の表情に初めて焦りが浮かんだ。石盤はスペルカード二枚で破壊できる。
だが、カードには限りがある。残り何枚所持してるかは分からないが、そう多くはないだろう。
対して、敷き詰められた石盤は数十枚。
数では決して勝てない。
とは言え、ここで諦めて帰る白黒ではない。
力押しが通用しないなら、次は機動力で攪乱する腹だろう。
箒に跨り飛び上がる白黒。
「さて・・・ここからが本番!」
自分の頬を叩き気合を入れる美鈴さん。
宙を見上げ、飛び回る白黒を見据える。そして右手を掲げ、高らかに叫ぶ。
「彩雨・改!!」
彩符「彩雨」。紅美鈴、七色のスペルカードの一つ。だが、白黒にとっては大した脅威ではない。――なかった。
「今更そんなスペル・・・うおおっ!?」
白黒が驚くのも無理はない。・・・と言うか私も驚いた。スペルカードは特訓では使わなかったもんだから。
降り注ぐ七色の豪雨! ただしその雨一粒一粒が・・・
七色に輝く、数百キロの石盤であった。
しかも狙いを外れた石盤は地面に激突する寸前、再び天に舞い上がり白黒へと降り注ぐのだ。
「おいおい・・・まさか、この石畳全部、符!?」
「ご名答!」
敷き詰めた石畳を全て符にして、自由に操る――これが今回の策。
口で言うのは簡単だが、実行するのは並大抵のことではない。
手間もかかるし、制御にはかなりの集中力が必要になる。
「『気』は創意と工夫! 工夫次第でいろんな技が出せる――これぞ『気を使う程度の能力』の神髄!!」
畳返しから光の速さで遠ざかったような気がしないでもないが、結果オーライ。
世にも珍しい、紅美鈴が霧雨魔理沙を手玉に取る図である。
・・・出歯亀カラスがこの場にいないのが残念だ。
白黒は苦し紛れにレーザーを放つが、それも美鈴さんの近くの石盤に阻まれる。
美鈴さんの周囲には常に防御用の石盤が数枚待機している。抜かりは無し。
石の楯はそれ自体が符であり、並みの攻撃では傷もつかない。
また、頼みの綱のスペルカードも数が限られている。遠距離攻撃は通用しない。
まさに石で出来た符の森――フォレスト・岩符(ガンプ)。
・・・今のは私が言ったんじゃありませんよ? 念のため。
コホン。ともあれ、遠距離攻撃が通じないとなれば、残る手段は限られてくる。
白黒はレーザーを放ちつつ周囲を旋回し、少しずつ距離を詰める。
なるほど。これだけ近づけば自爆を恐れて彩雨は使えない。
そうしてしばらくグルグルと回り続けていた白黒だが、やがて意を決したのか門番長の方へ向き直った。
「・・・そろそろ、飽きてきたぜ」
「同感」
二人の目が合った。
そして、白黒が突貫する。
「マスター――」
真っ向勝負!? しかしそれでこの鉄壁を突破できるとは――
石の楯が立ち塞がり――
――急速方向転換。
まずい! 楯で死角になり、今、美鈴さんからは白黒が見えない!
回り込み、楯の内側からマスタースパークを撃ち込むつもりか!?
「スパー――!?」
門番長の姿が見えない。
美鈴さんにとっての死角は白黒にとっての死角でもある。
白黒がその姿を発見するよりも早く、スペルカードを発動するよりも速く。
「必殺――」
――上。
「――紅龍脚(ホン・スマッシュ)!!」
門番長の輝く蹴りは、
「ぐぇっ」
白黒の腹に直撃し、
「悪いね。私は弾幕ごっこよりも格闘の方が得意なんだ」
――大地へと叩きつけた。
・・・白黒は動かない。完全に気を失っているようだ。
終わってみれば一方的な展開だった。
門番長・紅美鈴の――完全勝利だ。
――で、それからのことだが。
美鈴さんは上機嫌だった。
律儀にも、動けない白黒――魔理沙をわざわざ自宅まで搬送してあげる位上機嫌だった。
帰ってきた美鈴さんは真っ先に私に飛びついてきた。
私も避けずにその身体を受け止める。
「いやー、勝った勝った! 小悪魔、あなたのおかげだよ!」
「あはは・・・まぁ、最終的に畳返しとは全然関係無くなっちゃいましたけどね」
「いーのいーの。そもそも最初にネタを提供してくれたのはあなただし、
特訓にも付き合ってくれたし、ね。
よっしゃ、今夜はパーティーよ! 金無いけど!!」
「その前に、門の前を片付けませんと」
「・・・そうだった」
清々しい一時。美鈴さんが笑い、私も笑う。
美鈴さんは上機嫌だった。――だった。
あくまで、過去形である。
――パチュリー様。
いつも魔理沙の事は邪険に扱っていたようだが、アレはアレで結構まんざらでもなかったらしい。
「倒したなら倒したで、せめて私に看病させろ」とのこと。
いわゆるツンドラとか言う奴だろうか。何かの文献で見た。
それを指摘したら、何故かお顔を真っ赤にされ、スペルカードを一撃いただいた。
・・・「賢者の石畳」、大変痛うございました。
――メイド長。
美鈴さんが、魔理沙を撃退した旨を喜び勇んで報告しに行ったら、
――待っていたのはいつもと同じくナイフの雨あられ、だったそうな。
どうやら彼女にとっては『お仕置き』など、ストレス解消&八つ当たりのための口実に過ぎないらしい。
・・・それは分かったが、口実も無しに残虐行為を施すのは人としてどうなんだ。
例によって、それを指摘する者はいなかったが。
――この女、人間の癖に悪魔より『悪魔』か。
結局、美鈴さんはどう転んでも『お仕置き』からは逃れられないらしい。
・・・泣かせる話だ。
「よう、みすずちん」
「・・・美鈴(メイリン)だっての」
対峙するのはいつもの二人。紅美鈴と、霧雨魔理沙。
・・・霧雨? いや霧島だっけ? ・・・ま、『白黒』でいいか。
険しい顔で相手を睨む門番長。緊張感のカケラも無いツラの白黒。
・・・門番長には悪いが、今日も紅茶が冷める前に終わりそうだ。
「ああ、そうだったな。画期的な軍事システムの開発者がこんなにチャイニーな妖怪だったとは性欲を」
「わざと言ってんのか!?」
「マスタースパーク」
「!?・・・・・・」
あ、終わった。
「わざとだぜ」
多分聞こえてない。――と思いきや。
「・・・くっ、ぬっ」
意外や意外。まだ終わってなかった。
門番長は半分黒焦げになりながらも、しっかりとその両足で地面を踏みしめている。
「い、いくら強力な攻撃でも・・・たった一発でやられるわけにはいかないってのよ」
ニヤリと不敵に笑うも、既に満身創痍。一体何が彼女をそこまで奮い立たせるのか!
「しかし二発ならどうかな?」
――駄目でした。
「差し入れですけど・・・生きてます?」
いい感じにウェルダンな門番長。香ばしい匂いが辺りに広がっている。
両手が塞がっているのでつま先でつついて見たが、反応は無し。
私の手にはティーカップとお菓子の乗ったお盆。
せっかく淹れた紅茶は、もう冷めている。最初からアイスティーにすれば良かった。
とか何とか思っていると
「――ふがぁ」
門番長復ッ活ッ、と。毎度毎度大した生命力だ。
「くぅっ・・・! くやしい・・・あんな奴に・・・!
――あ、おはよう小悪魔」
「おはようございます、クリムゾンさん」
「紅(ホン)だってば」
などと文句を言いつつ盆の上の大福を貪る。紅茶に大福。通である。知らないけど。
あ、申し遅れましたがこの物語は私、小悪魔の語りでお送りしています。
「それにつけても魔理沙の奴ぅ・・・どう思うよ、小悪魔は」
「どう、と言われましても。はた迷惑な人だ、とか」
「それもあるけど。あれ絶対卑怯でしょ! 何あの弾幕!? そもそもアレは弾幕か!?」
また始まった。まぁ、門番長の愚痴を聞くのも私の仕事。
この紅魔館で彼女が気兼ねせずに話せる相手は私くらいのものだし、
適当にストレスを発散させておかないと仕事に支障が出る、と言うのがパチュリー様の考え。
・・・多分、メイド長やお嬢様はそんなこと考えたこともないだろう。
「大体、何でアポを取って来ないのよ! 週二、三回のペースでここに来ることは分かってるし、
目的だって周知の事実な訳だし!!」
白黒の目的――と言えば一つ。ヴワル魔法図書館以外に思いつかない。
時々蔵書を勝手に持ち出したりすることもあるが、催促すれば大抵は返してくれる。
概ね問題ない、とパチュリー様は言っていた。
が、アポ無しの来客は全て侵入者であり、全力で排除すべし、というのがメイド長の方針。
例えそれが顔なじみでも。
以前あの白黒を素通りさせた時は、メイド長によって通常の三倍のお仕置きが執行された。
よって、門番長が白黒に対して手を抜くことは許されない。
・・・まぁ、それはそれで結局黒焦げ→お仕置きのコンボに繋がるわけなのだが。
ちなみに紅白巫女――博麗霊夢は、お嬢様の許可が降りているので素通りOK。
「本当、毎回毎回これじゃ身が持たないわ・・・給料も減る一方だし」
・・・正直言うと、毎回毎回愚痴を聞かされるのもいい加減飽きてきたのだが、
こんな風に死にそうな溜め息を吐かれると、さすがに門番長が憐れに思えてくる。
――ふと、逆転ホームラン。
「はっちゃけた! えらいことですよ紅さん! 革命的発想ですよ! コロンブスの卵ですよ!
侵入されたらお仕置きされるのなら――侵入されなければいいじゃないですか!」
「・・・や、別に逆転でも何でもないって言うか、そんなことはとっくに分かってるし、
それが出来ないから困ってるわけで」
そうなの? まぁいいや。
「ならば、特訓です! 略さずに言うと特別な訓練ですよ!!」
「・・・はぁ」
「紅さんに足りないのは防御技だと思うわけですよ、小悪魔は! 聞いてますか紅さん!」
ドン、とテーブルを叩き熱く語る私。
「いや、聞いてるけど。ホンさんて」
ここは門のそばに建てられたプレハブ小屋。門番長の控え室兼寝床で、通称・上海紅茶館。
緑茶しか無いけど。
「白黒の必殺技と言えばマスタースパーク! アレさえ凌げれば勝機はあります! 多分。
そしてその為には防御技が不可欠というわけですよ、小悪魔が思うに!」
「多分って」
無視。
「で、紅さんにふさわしい技があったんですよ、この文献に。図書館で見つけたんですけどね」
「私にふさわしい技?」
「その名も、スーパーバストディフェンサー。及びスーパーバストインパクト」
「・・・スーパーバス」
スコン
「――ト?」
おや、何やら一瞬時が止まったような錯覚。
「乳揺れの際に発生する振動で衝撃波をですね。
・・・あれ、紅さんそれナイフ型の髪飾りですか。ナウいですね」
「・・・・・・その技は却下。白黒が来る前に私の命が尽きる」
何故か頭から血を流す門番長。よく分からないが仕方ない。
「うーん、じゃあ他の技にしましょうか」
「とりあえず、胸関」
スココン
「――係は無しにしてもらえると、ありがたい、かな。
い・・・今の台詞は問題ないと思うん、ですが、さ、く、・・・ぅ」
「むーん、仕方ないですね。勿体無いなぁ、せっかくのザ・ビッグ・ボインが。
・・・ん、じゃあ畳返しとかどうでしょう。忍者がよくやる奴。
む、畳返し。畳返しか。適当に言ってみたんだけど、良いかも。
よし、では早速畳返しの特別な訓練をば――
――って、ありゃ? ちょっと、こんなところで寝てると風邪引きますよ。紅さん紅さん」
門番長はテーブルの上に突っ伏している。手元には赤い文字で『さくや』と書いてある。
きっと昨夜眠れなかったのだろう。寝不足じゃあ仕方ない。特訓は明日にするか。
髪飾りがいつの間にか増えてるような気がしたが、気のせいだろう。
私は門番長の肩に毛布を掛け、静かにプレハブ小屋から退去した。
「洋館で中国人が畳を返す! 和洋中の超次元融合ですよ紅さん!
やっぱ今は国際化社会ですよね紅さん! 聞いてますか紅さん!?」
「・・・聞いてるよ。聞きたくないけど」
翌日、紅魔館正門前には畳が敷き詰められていた。
だというのに頭にターバン(?)を巻いた門番長は何故か不機嫌。あの日だろうか。
気にせず本題に入る。
「えー、畳返しというのはですね。こう、畳の端の所をバンッと叩くわけですよ。
それでこの畳を起きあがらせ、衝立にすれば敵の攻撃をシャットアウト! と。
その場にある物を利用する。環境利用闘法とでも言いますか。
まさに神の意表をつく技! ロマンですよ! 聞いてますか紅さん!?」
「そううまくいくかなぁ・・・」
「何言ってるんですか! やる前から『できない』なんて思ってちゃ、何もできないんですよ!」
「そうじゃなくて、畳ぐらいでマスタースパークは防げ――」
「美鈴の馬鹿ッ!」
スパァン
はっとした時には既に手が動いていた。
門番長の体は空中で横方向に3回転して畳の上に転がり、止まった。
何故だろう。涙が溢れて止まらない。私の口からは自分でも信じられないほどの激しい声が飛び出した。
「美鈴の馬鹿っ! 意気地無し!! 何でそんな簡単に諦めちゃうのよ!!
貴女ならできるかもしれない・・・ううん。絶対できるって信じてるのに・・・!
このままじゃ全て無駄になっちゃうの! 私が文献を調べたことも、私がメイド隊に畳を用意させたことも、
私が・・・!!」
これ以上は言葉にならない。しかし涙は止まらない。
泣きじゃくる私の頭の上にポン、と手が置かれた。
いつの間にか立ち上がっていた門番長だった。その目には先ほどまでの曇りはない。
「ごめんね、小悪魔・・・私が間違ってたわ。そうよね。やる前から諦めるなんて、私らしくない。
私が諦めるのは、私の命が尽きた時だけ! 畳返し、必ずマスターしてみせる!!
小悪魔・・・特訓、付き合ってくれるわね?」
私は涙を拭き、精一杯の笑顔で答えた。
「はい!」
門番長は私の頭をくしゃくしゃと撫で回し、照れくさそうにこう言った。
「さっきのパンチ、効いたわよ。・・・前後の記憶がちょっと曖昧だけど」
「あっ・・・ご、ごめんなさい、紅さん・・・」
「美鈴でいいよ」
「はい! ――美鈴さん!!」
――そして数日後。紅魔館、正門前。
「や、奥さん。ミリン選んでるかい?」
「誰が奥さんか」
対峙するいつもの二人。紅美鈴、霧雨魔理沙(霧雨で合っていたようだ)。
しかし今日はいつもとは違う。白黒もそのことに気づいているようだ。
「・・・何で門の前に畳が敷いてあるんだ?」
「超次元融合よ。あんたには分かんないだろうけど」
・・・・・・・・・・・・ここで。
「マスタースパーク」
――来るッ!
美鈴さんに迫る光の奔流。
だが彼女はニヤリと笑い、右手を床に叩きつける!
そして畳が跳ね上がり、門番長を護る楯となった!!
「奥義! 畳返――」
溢れる光は、楯もろとも門番長を呑み込んだ。
「超次元・・・全然分からないぜ」
どうでもいいか、と呟き白黒は悠々と門の中へと入っていった。
・・・畳の残骸の中から美鈴さんの呻き声が聞こえる。
「だ、だから最初に言った・・・の、に」
「うーん。まさか畳の強度がマスタースパークの威力に耐えられないとは」
「うーむ。・・・何か頭の奥に引っかかる物があるんだけど」
上海紅茶館にて反省会。ちなみに、メイド長によるお仕置きは既に完了。
毎度の事ながら、美鈴さんの生命力って本当に素晴らしい。
「畳返し、いいアイディアだと思ったんですけど・・・考え直しですね」
「――いや。考え直す必要はない」
見ると、美鈴さんの瞳は燃えていた。
「マスタースパークに畳が耐えられなかった・・・それなら、耐えられる畳を使えばいいだけのこと。
フッフッフ・・・私、ファイトが沸いてきたわ・・・!」
瞳だけではない。全身から熱い炎が噴き出しているようだ。
「今度の特訓はこれまでの倍・・・いえ、十倍は過酷なものになるわ。
小悪魔。手伝ってくれるわよね?」
「は、はい。もちろんです」
何という気迫・・・! もはや彼女は今までの紅美鈴ではない。
彼女は生まれ変わったのだ――ネオ・紅美鈴に!!
――多分!!
――さらに数日後。紅魔館、正門前。
「どうよ、ルナマリア。調子は」
「・・・メイリンだと何度言えば」
対峙する紅美鈴と霧雨魔理沙。
今、正門前に敷き詰められているのは・・・石畳。
この数日は、まさに血の滲む特訓の日々だった・・・しかし彼女はやり遂げた!
今、その成果が試される!
いつもならもうすぐ、この辺りで・・・
「ルミナリオ?」
「むしろ遠くなっとるわ!」
「チャイニールミナス?」
「もはや意味が分からん!」
「マスター――」
――来るッ!!
「超奥義! 石盤返し!!」
門番長の拳が床に叩きつけられ、数百キロはあろうかという石畳が見事に倒立した!!
――した!・・・した! ・・・した、んだけど。
「・・・おや? 攻撃が来ねぇな。・・・試合放棄かな?」
美鈴さんが石畳の陰からひょこりと顔を出した先には・・・既に白黒の姿は影も形もなかった。
※図解
魔←――――――
━━━━━┓
┃
紅魔館 ┃
┃ 美┃
―――――――――――――――――――――――
「・・・行っちゃいましたが」
「がぁっ! わ、私一人で盛り上がって馬鹿みたいじゃないかーっ!!」
地団駄を踏み、怒り狂う門番長はその石盤を――
――投げた。
豪速で飛行する石盤は白黒をかすめ、そして物理法則に従い紅魔館へと落下。
重力によって加速した石盤は、紅魔館の屋根をブチ抜いた。
「――しまった! 逃げられた!?」
もはやそういう問題ではない。
さすがに屋敷を破壊したとあっては、メイド長のお仕置きっぷりも尋常ではない。
美鈴さんのお仕置きダメージの治癒と屋根の修復には、実に一週間の時を要した。
ちなみに屋根の修理は美鈴さん一人の手によって行われた。
わざわざメイド長が破壊された付近の時間を操作し、他の者が手出しできないようにしたのだと言う。
その能力を応用すれば他にいくらでも方法はありそうなものだが、それを突っ込む者はいなかった。
その間、白黒は素通りし放題だったわけだが、それを咎める者もいなかった。
お仕置きだけは平常通り行われたが。
――そしてあとの三日は、例によって特訓期間である。
・・・正直、そろそろ飽きてこないでもないが、私が言い出しっぺである以上付き合わないわけにはいかない。
――そんなこんなで十日経過。
いつもの場所の、いつもの二人。
門の前の様相は、一見前回と何も変わっていないように見える。
「こんにちはだ、美鈴」
「――違う」
思わぬ否定に眉を顰める白黒。
「いや・・・今回はあってたと思うが。紅美鈴・・・じゃなかったか?」
「違うわね。私は――超(スーパー)紅美鈴よ!」
己を指差し、不敵に笑う美鈴・・・もとい、超美鈴さん。
聞いてるこっちが恥ずかしくなるトンデモ発言だが、本人は至って真剣。
・・・それだけ、今回の策に自信があるのだ。そういうことにしておこう。うん。
「意味が分からんのだが」
「説明するのは面倒だから、勝手に想像しなさ」
「マスタースパーク」
自分で言っといてそれか、と突っ込む代わりにいつもの一撃。
今回は――フェイントじゃない。
巨大にして強大な光の塊。あまりにも問答無用な破壊の嵐。
だが、美鈴さんは身動きひとつしない。――いや、唇がわずかに動いている。
次の瞬間。
――巨大な石の楯が、光の嵐から門番長を護るように立ち塞がっていた。
光が、収まる。
石盤が倒れると、そこには無傷の門番長が立っていた。
「・・・こいつを防ぐとはね」
「こっちも伊達に特訓してな」
「マスタースパーク」
まさに外道!! 美鈴さんの台詞がまだ終わらない内に、二発目のマスタースパークが迫る!
――だが、門番長は慌てず騒がず、唇を少しだけ動かした。
すると先ほどと同様、石の楯が光を阻む。
二発のマスタースパークを受けた石盤はひび割れ、崩れ落ちた。
――が、やはり無傷。
「・・・あれまあ」
白黒の表情に初めて焦りが浮かんだ。石盤はスペルカード二枚で破壊できる。
だが、カードには限りがある。残り何枚所持してるかは分からないが、そう多くはないだろう。
対して、敷き詰められた石盤は数十枚。
数では決して勝てない。
とは言え、ここで諦めて帰る白黒ではない。
力押しが通用しないなら、次は機動力で攪乱する腹だろう。
箒に跨り飛び上がる白黒。
「さて・・・ここからが本番!」
自分の頬を叩き気合を入れる美鈴さん。
宙を見上げ、飛び回る白黒を見据える。そして右手を掲げ、高らかに叫ぶ。
「彩雨・改!!」
彩符「彩雨」。紅美鈴、七色のスペルカードの一つ。だが、白黒にとっては大した脅威ではない。――なかった。
「今更そんなスペル・・・うおおっ!?」
白黒が驚くのも無理はない。・・・と言うか私も驚いた。スペルカードは特訓では使わなかったもんだから。
降り注ぐ七色の豪雨! ただしその雨一粒一粒が・・・
七色に輝く、数百キロの石盤であった。
しかも狙いを外れた石盤は地面に激突する寸前、再び天に舞い上がり白黒へと降り注ぐのだ。
「おいおい・・・まさか、この石畳全部、符!?」
「ご名答!」
敷き詰めた石畳を全て符にして、自由に操る――これが今回の策。
口で言うのは簡単だが、実行するのは並大抵のことではない。
手間もかかるし、制御にはかなりの集中力が必要になる。
「『気』は創意と工夫! 工夫次第でいろんな技が出せる――これぞ『気を使う程度の能力』の神髄!!」
畳返しから光の速さで遠ざかったような気がしないでもないが、結果オーライ。
世にも珍しい、紅美鈴が霧雨魔理沙を手玉に取る図である。
・・・出歯亀カラスがこの場にいないのが残念だ。
白黒は苦し紛れにレーザーを放つが、それも美鈴さんの近くの石盤に阻まれる。
美鈴さんの周囲には常に防御用の石盤が数枚待機している。抜かりは無し。
石の楯はそれ自体が符であり、並みの攻撃では傷もつかない。
また、頼みの綱のスペルカードも数が限られている。遠距離攻撃は通用しない。
まさに石で出来た符の森――フォレスト・岩符(ガンプ)。
・・・今のは私が言ったんじゃありませんよ? 念のため。
コホン。ともあれ、遠距離攻撃が通じないとなれば、残る手段は限られてくる。
白黒はレーザーを放ちつつ周囲を旋回し、少しずつ距離を詰める。
なるほど。これだけ近づけば自爆を恐れて彩雨は使えない。
そうしてしばらくグルグルと回り続けていた白黒だが、やがて意を決したのか門番長の方へ向き直った。
「・・・そろそろ、飽きてきたぜ」
「同感」
二人の目が合った。
そして、白黒が突貫する。
「マスター――」
真っ向勝負!? しかしそれでこの鉄壁を突破できるとは――
石の楯が立ち塞がり――
――急速方向転換。
まずい! 楯で死角になり、今、美鈴さんからは白黒が見えない!
回り込み、楯の内側からマスタースパークを撃ち込むつもりか!?
「スパー――!?」
門番長の姿が見えない。
美鈴さんにとっての死角は白黒にとっての死角でもある。
白黒がその姿を発見するよりも早く、スペルカードを発動するよりも速く。
「必殺――」
――上。
「――紅龍脚(ホン・スマッシュ)!!」
門番長の輝く蹴りは、
「ぐぇっ」
白黒の腹に直撃し、
「悪いね。私は弾幕ごっこよりも格闘の方が得意なんだ」
――大地へと叩きつけた。
・・・白黒は動かない。完全に気を失っているようだ。
終わってみれば一方的な展開だった。
門番長・紅美鈴の――完全勝利だ。
――で、それからのことだが。
美鈴さんは上機嫌だった。
律儀にも、動けない白黒――魔理沙をわざわざ自宅まで搬送してあげる位上機嫌だった。
帰ってきた美鈴さんは真っ先に私に飛びついてきた。
私も避けずにその身体を受け止める。
「いやー、勝った勝った! 小悪魔、あなたのおかげだよ!」
「あはは・・・まぁ、最終的に畳返しとは全然関係無くなっちゃいましたけどね」
「いーのいーの。そもそも最初にネタを提供してくれたのはあなただし、
特訓にも付き合ってくれたし、ね。
よっしゃ、今夜はパーティーよ! 金無いけど!!」
「その前に、門の前を片付けませんと」
「・・・そうだった」
清々しい一時。美鈴さんが笑い、私も笑う。
美鈴さんは上機嫌だった。――だった。
あくまで、過去形である。
――パチュリー様。
いつも魔理沙の事は邪険に扱っていたようだが、アレはアレで結構まんざらでもなかったらしい。
「倒したなら倒したで、せめて私に看病させろ」とのこと。
いわゆるツンドラとか言う奴だろうか。何かの文献で見た。
それを指摘したら、何故かお顔を真っ赤にされ、スペルカードを一撃いただいた。
・・・「賢者の石畳」、大変痛うございました。
――メイド長。
美鈴さんが、魔理沙を撃退した旨を喜び勇んで報告しに行ったら、
――待っていたのはいつもと同じくナイフの雨あられ、だったそうな。
どうやら彼女にとっては『お仕置き』など、ストレス解消&八つ当たりのための口実に過ぎないらしい。
・・・それは分かったが、口実も無しに残虐行為を施すのは人としてどうなんだ。
例によって、それを指摘する者はいなかったが。
――この女、人間の癖に悪魔より『悪魔』か。
結局、美鈴さんはどう転んでも『お仕置き』からは逃れられないらしい。
・・・泣かせる話だ。
ギャグならギャグらしく理由点けが欲しかった。
いや確かに姉妹だけうわこら何をするやめ(ry
でも図解でわろた
でもフォレスト・岩符は無理無理無理!!!
奴の名は「妖怪・中国4000年の畳返し」だ!