「ここまで良く頑張ったな。でも、もう限界だろう」
「く……」
にやり、という笑顔が何とも憎らしかった。
八雲藍。
他者との交流を多く持たぬ妖夢にとって、彼女の存在は大きかった。
悩みを抱えた時は親身になって相談に乗ってくれたし、時には己の境遇の不幸について語り合ったりもした。
しかし、それら全ては虚構だったのだ。
まさか、彼女が幻想郷はいてない協会の刺客であったとは……!
「さあ、大人しくその野暮ったいドロワーズを脱ぎ捨てるんだ!
はいてない事の素晴らしさを後世に伝えられるのは、お前を置いて他に無い!」
「くっ……」
じわり、じわり、と壁際に追い詰められてゆく。
逃げ場は、無い。
この様子ならば、既にここははいてない協会のメンバーによって包囲されているのだろう。
そして、ドロワーズ普及委員会からの援護も期待できない。
何しろ妖夢は、自らの手で彼女等の提案を断ってしまっていたのだから。
その時は、己の矜持に従ったのだと解釈していたのだが、それは大いなる誤りだった。
単に自分は、優柔不断なだけだったのだ、と。
現にこうして問い詰められただけで、気持ちは多いに揺れ動いているのだ。
果たして、自分はどの陣営に付くべきなのか。
これまで通り、純白のドロワーズとの付き合いを保つべきか。
それとも、藍の言葉に従い、ノーパン娘との二つ名を再び手にするべきなのか。
再びってどういう事やねんとの意見もあるが、それは大した問題ではない。
「(分からない……私は一体どうすれば……)」
「決断できないか……仕方ない、手荒な真似はしたくなかったんだがな」
藍は、目をきらりと光らせると、袖から無数の苦無を取り出しては構える。
恐らくは、ドロワーズのゴムを切り裂き、強制的にはいてない状態にさせるつもりなのだろう。
「……うう……」
一方の妖夢は、動かない。
それどころか、蛇に睨まれた蛙の如く、身を竦めるのみであった。
元より、妖夢の実力は、藍には及ばない。
だが、問題は、それより以前の所に存在する。
少なからず、藍には信念がある。
はいてない同志として迎え入れる為ならば、手段は厭わないのだろう。
しかし、今の妖夢には、剣を持って戦うだけの矜持は無い。
今だ自分の進むべき道の糸口すら掴めていないのだから。
「(このまま、身を任せれば、楽になれるのかな……)」
「諦めるな!」
「「!?」」
二人の視線が、同時に声の方向へと向いた。
電信柱の頂上に起立する、ひとつの影。
丁度逆光になっているため、人物の特定は出来ない。
しかし、不思議なこともあるもの。
何故か、その人物のスカートの影から映る縞模様だけは、はっきりと認識できたのだ。
「貴様、何者だ!」
「ふ、強硬手段以外に芸のない協会の犬……じゃなくて狐に答える名など無いわ!」
「黙れ! 我等の崇高なる理念を愚弄するか!」
猛った藍は、手にした無数の苦無を、一斉に投擲する。
が、それらは全て、影に当たる直前で、まるで壁に当たったかの如く、明後日の方向へと弾かれた。
「偏向フィールドだと!?」
「甘い甘い。この程度はストライプパワーの一環に過ぎないわ」
「ストライプパワー!? 貴方はまさか……」
影は妖夢へと顔を向けると、ちっちっ、と指を振った。
「駄目よ妖夢、そこで名前を読んでしまうのは縞の精神に反するわ」
「はあ。そういうものなんですか」
「そういうものなの」
そもそも、ストライプパワーなどと口走る時点で、誰もが特定出来ているだろう。
しかし、れいせ……ゲフンゲフン。
影はそんな事は委細構わずに、華麗なるポーズを決めつつ、妖夢へと指先を向ける。
「さあ、妖夢! 今こそ目覚めの時よ!」
「!?」
刹那、妖夢に異変が起きた。
己の下半身を包んでいた綿の感触が、泡沫の如く消え去ってゆく。
そして、入れ替わるかのように、コットン100%素材のソフトな肌触りが包み込んだ。
綿とコットンって同じやんという突っ込みは却下。
何が違うって、気分が違うのだ。多分。
「(これが、ストライプパワー……!)」
柄も、色も、確認するまでもなかった。
清らかなる縞の力が、妖夢の全身を駆け巡り、抑え切れぬオーラとなって溢れ出る。
言い知れぬ高揚感を前に、それまでぐだぐだと考え込んでいた事が、馬鹿らしく思えてならなかった。
何の事はない。答えは、最初から出ていたのだ。
「はあっ!!」
妖夢は、後方に向けて跳躍すると、錐揉み回転を加えつつ、一際高い電柱へと着地する。
無論、スカートの翻り具合は完璧だ。
そして、両の剣を抜き去ると、時間の流れを遅らせる例のポーズをびしり、と決めた。
「縞の力は愛の力!
グリーンストライパー魂魄妖夢、ここに見ざ「心よ現実に戻れーーーーーーーーっ!!」
すこーん、と英国風味な効果音と共に、美しきおみ足から繰り出された前蹴りが炸裂。
妖夢の体は軽く十三間ほど吹き飛んだ。
この場所は後に、それを記念して十三間獣道と名付けられる事になるのだが、
当然ながら、この話とはまったく無関係である。
常人ならこれで人生オワタ所であろうが、残念な事に彼女は極めて頑強な身体の持ち主だった。
空中でくるりと体勢を整えつつ着地すると、加害者である美鈴に向けて抗議の声を上げ始めたのだ。
「と、突然何をするんですかっ!」
「何じゃないでしょっ! 突然訳の分かんない妄想始めるんじゃないの!
多分『こいつタイトル間違えて付けてね?』って読み返してる読者が多数よ!?」
「そんな筈ありません! きっと、呆れて戻るボタンをクリックしてます!」
「余計悪いでしょっ!
大体、履いてない協会はそんな強引な勧誘なんてしてない……」
「え?」
「……という噂を耳にしたことがあるわ」
「……はあ」
楽屋ネタ禁止。
ついでに言うと、まかり間違っても、
一人称ばっかり書いてたら三人称の書き方忘れたんでリハビリしてます。
等というクオリティの低い思惑など存在しない。
「とにかく、今は下着よりも現実を見なさい! このままじゃ全滅は時間の問題よ!」
美鈴の言葉を証明するかのように、一人のメイドが、妖夢の頭上を越えるように吹き飛んで行った。
もっとも、それももう珍しい光景ではない。
既に二人の周辺には、メイドだったものの成れの果てが無数に屍を晒しているのだ。
「……すまない、少し取り乱していたようだ」
「分かって下さったなら結構です。それで、どうするんですか?」
妖夢の口調が変わったのを受けて、美鈴もまた敬語へと変えつつ問いかける。
それは、仕事の場とその他との区別を付けるという意味合いによるものだが、
実際には、妖夢の中の人格スイッチが今だ不安定な事に対し、
美鈴が気を使ってみた結果こうなった、というのが正しいだろう。
「そうだな……」
妖夢は素早く現状の把握に入る。
といっても、状況そのものは、至って単純である。
多大な緊張を抱えつつ、魔法の森に突入した紅魔館ご一行であったが、
暫くの間は、拍子抜けするくらいに平穏であった。
深い深い木々の恩恵によって日傘の束縛から逃れた吸血鬼姉妹は、大いに森林浴を楽しみ、
妖夢もまた、最近感じる事の出来なかった開放感に浸る事が出来ていた。
案内人である魔理沙の手際が良かったというのもあるだろう。
ともかく、紅魔館一同は、少し毛色の変わったハイキングを満喫していたのだ。
が、それも昼食を済ませるまでの事だった。
『魔理沙! 目の前に壁っぽい移動物体が!』
『何てことは無い! ただのはぐれゴーレムだ!』
『魔理沙! この瘴気は何!?』
『何てことは無い! ただの変性お化けキノコの群れだ!』
『魔理沙! 放射性ブレスがあああああああ!!』
『何てことは無い! ただのゴヂラさんだ!』
結論から言うと、やはりこのガイドは駄目だった。
宣言通り、魔法の森の神秘と恐怖の真髄を見せてくれたまでは良い。
だが、対抗策が何一つとして用意されていなかったのは如何なものか。
魔理沙本人にとっては、既に慣れきった事象であるのだろうし、
いざとなれば幻想郷一の快速(自称)でおさらばすればそれで良しだ。
しかし、それは余りにも案内される側の状況を考えていない行為だった。
「怯むなあッ! 最後の一人まで戦い抜き、ことごとく死……うわっ!」
一人の名も無きメイドの叫びは、地面に落ちていたバナナの皮の前に強制的に途切れさせられた。
お約束の神とは、かくも非道だ。
もはや紅魔館一同は、八甲田山進軍の如き様相を呈している。
お前等は何と戦っているんだと尋ねれば、恐らくは自分との答えが帰ってくるだろう。
妖夢が現実逃避に走ったのも、無理からぬ情勢ではある。
『きゅっとして、どかーん!』
「……まあ、妹様は楽しんでるみたいだけど」
「そういう方ですから」
はぐれメタルをにこやかに一撃粉砕するフランドールが、僅かに視界へと入った。
どうやら彼女にとっては、この惨状も、ちょっとしたイベントに過ぎなかったらしい。
むしろ、遠慮無しに力を振り回せる事に喜んでいる風でもある。
つーか、それなら何もこんな大人数を引き連れて来る必要なんて無かったんじゃないか、と一瞬考えた妖夢だったが、
本末転倒であると気付いた為に、口には出さなかった。
この森に潜む真の脅威は、野良魔法生物による襲撃などでは無いのだから。
「プリズマ大先生は?」
「パターン紫……というか、この森に侵入してからずっとですが」
言外に、役に立ってませんと言っているようなものだった。
このプリズマ大先生、変態の度合いを肉眼で測定出来るという意味では画期的なアイテムであるのだが、
良くも悪くも素敵な面々揃いの紅魔館においては、極めて用途が限定されてしまうのだ。
妖夢もそれを理解していた為か、糾弾には走らない。
ともかく今は、事態の収拾を付けるべく動くべきか。
そう考えた瞬間だった。
「って、レミリア様は?」
「え? あれ、そういえば……」
二人は周囲に視線を走らせるが、その姿を捉える事は出来なかった。
こういう状況ならば、率先して大暴れするであろうと思われたレミリアだけに、
何とも言い難い不安感が妖夢を襲う。
「あの方に限って心配は無いとは思うが……少し探しに行ってみるか。
その間、暫くはお前が部隊の指揮を取れ」
「分かりました。お任せを」
妖夢は不安感を拭い去るかのように、一息にその場を飛び立った。
拍子抜けとは正にこのことだろう。
果たして、妖夢の懸念は杞憂に終わった。
探す、と言えるような時間も掛かることなく、主の姿が視野に入ったのだ。
「レミリア様、こちらでしたか」
「……ん? ああ、妖夢。どうかした?」
一際高い木の枝に腰掛けては、眼下の凄絶なる戦闘を、やる気無さげに眺めていたレミリアだったが、
呼び声に反応すると、顔だけを妖夢へと向けた。
ここで、真後ろから呼びかけたという事にしてしまうと、一転してホラーな光景になるのだが、
残念なことに、妖夢の位置は右斜め前方である。
何が残念なのかは知らないが。
「お姿が見られなかったものですから、少し気になりまして」
「馬鹿ね。私がこんな魔法生物如きに遅れを取るとでも思ったの?」
「1ナノグラムも思いません。ですが、別の懸案事項がありますので」
「……そうね」
言わずとも察したのだろう。
レミリアは視線を外すと、どこか遠い所を見るような仕草を取った。
「これ、連中の仕業だと思う?」
「多分、違います。
直接的な戦闘で我々を制圧できると考えるような単純な連中ではないでしょう」
「……」
「それに……きっと奴等の狙いはそんな所にはありません。
もっと、何というか、その、変態的な企みを働かせている気がします」
別段、言い淀んだという訳ではなかった。
単に、妖夢の足りない経験では、具体的な想像が出来なかったのだ。
「そうでしょうね。何せ、メイド服一着の為にあれだけの馬鹿をやってのけるくらいだもの」
「……」
真新しいメイド服を見ると、昨晩の苦い記憶が否応無しに蘇ってくる。
フランドールを除いた紅魔館の人員ほぼすべてを結集しての総力戦。
その結果が、至上稀に見る惨敗だ。
まだ自分達は変態の恐ろしさというものを理解出来ていない、と確信出来たのが、
唯一といって良い収穫だろう。
「ねぇ、あんたの元ご主人様って、昔っからあんなんだった?」
「……違います。
今考えると、確かにそういう傾向にはあったのかも知れませんが、
あそこまであからさまな行動に出るような事はありませんでした。
恐らくは、あの人形遣いの讒言によって、目覚めてしまったものかと」
「……そう。良かったのやら、悪かったのやら」
「咲夜さ……咲夜はどうだったんですか?」
「……」
レミリアは押し黙る。
どうやら、聞いてはいけない類の事だったようだ。
「その、無礼を承知でお聞きしますが、
どうしてそんな変態を、これまで傍に置いたりしていたんですか……?」
「便利だったし……」
「不便のほうが大きいような気がしますが」
「で、でも、咲夜だって四六時中イっちゃってた訳じゃないのよ。
例の『完全で瀟洒なメイド』って二つ名も別に自称じゃなくて、
自然にそう呼ばれるようになったくらいだもの」
「はあ……」
確かに、そんな大層な二つ名を自称してたら、只の可哀想な子だろう。
今の彼女は、別の意味で可哀想ではあるが。
「と、ともかく、下らない事を聞かない!
過去を振り返ったところで、何も始まらないのよ!」
「先に話を振られたのはレミリア様のほうじゃありませんか……」
妖夢は深いため息を付いた。
もっとも、レミリアの物言いに呆れたという訳ではない。
偉い人とは気紛れかつ不条理であるべき。というやや間違った固定観念があるからだ。
が、問題は、そこではない。
「(恐らくは……まだレミリア様は咲夜を見限ってはいない)」
それが一連の会話からの妖夢の結論。
だからこそ、意図せぬところで擁護するような発言が出るのだろう。
また、同時に一つの疑問も生まれた。
果たして自分は、本当に西行寺幽々子との縁を断ち切れたのだろうか? と。
「……さて、そろそろ私達も加わりましょうか」
妖夢は白楼剣を鞘から抜く。
まるで、浮かんだ疑念を切り捨てるかの如く。
「ん、そうね。流石に全滅させられるのは面白くないわ」
そしてレミリアもまた同時に、召喚した紅の槍を、ぶん、と振り回す。
いかな変異魔法生物の群れも、彼女らにとっては物の数ではない。
眼下の凄惨たる戦闘も、さしたる時を経ずしてその呼称を変える事になるだろう。
狩りの時間、と。
「あ、おかわりお願いします」
「貴方、本当に良く食べるのね」
「ほほほ、食べる子は育つと言うではありませんか」
「それ以上育ってどうするつもりなのよ」
「本当、羨ましいわ。私もそれくらい育ちたかったものね」
「駄目よ。お母さんが育ったら別の何かになっちゃうわ」
「あら、アリスちゃん。どうして目線が私の頭上にあるのかしら」
「たくましいわ……」
マーガトロイド邸の食卓にて繰り広げられる、和やかなる昼食風景。
しかし、そんな暖かい空気を破壊する、空気の読めない輩が約一名、存在した。
「って、何で私達は和やかに昼食タイムなんて取ってるのーーーー!?」
どん、とテーブルに両手を打ち付けつつ、立ち上がる咲夜。
が、例の特殊部隊風味な服装も相まって、今の彼女は致命的に浮いていた。
アリスが極めて冷たい視線をもって返すのも当然といった所か。
「食事中に席を立たない。テーブルマナーの基本も知らないの?」
「それくらい存じております! 私が言いたいのはそんな事では……」
「咲夜ちゃん、もう一枚いかが?」
「あ、はい、頂きます」
程なくして、皿には、狐色に焼き上がったガーリックトーストが置かれた。
咲夜がそれを手に取り、口に運ぶまでの時間は、およそ0秒93。
疑問とやらは人間の三代欲求の内に一つの前に沈黙せざるを得なかったらしい。
何しろ朝食抜きであった上に、紅魔館では決して口にすることの出来なかった類の料理である。
故に、これは仕方の無い事なのだ。
「ところで、つかぬ事をお伺いしますが……」
幽々子が箸でベーコンエッグの黄身だけを切り取りつつ、口を開く。
こちらは朝食もたっぷりと平らげていたのだが、その食欲には一寸の衰えも無い。
今時、アメ車とて、こうも燃費は悪くなかろう。
「何かしら?」
「貴方、誰ですか?」
ストレートといえばストレートすぎる疑問だった。
その質問の対象たる小柄な女性は、少し驚いたような表情を見せると、
アホ毛を揺らしつつ、軽く頭を下げた。
「これは失礼致しました。
私、アリスちゃんの母親で、しがない魔界神などを営んでいる神綺と申します」
「あらあら、何処のお嬢ちゃんかと思ったら、神様でいらっしゃいましたか。これはとんだご無礼を」
「いえいえ、お気になさらず。
何故だか貴方とは他人という感じがしませんの。
こう、何というか、カリスマ不足な面だとか、ラスボスの癖に5ボスより弱い所だとか」
「まあ、光栄ですわ」
素なのか社交辞令なのか皮肉合戦なのか、判断に苦しむ会話だった。
一応、お互いに表向きは笑顔である。
が、幽々子の@は、まるで挑発するかのように、ぐるぐると回転しつつ鈍い光を放っていたし、
対する神綺のアホ毛も負けじとその鎌首をもたげては、きしゃー、と威嚇に勤めていた。
ならば抗争勃発の前兆かというと、そうでもなかったりする。
もはやこれらは、二人の意思とは関係無い、独立した生命体に等しい存在なのだ。
だから何も問題は無い。多分。
「……というか、お母さん。何しに来たの?」
「つれない言葉ねぇ。ちょっと幻想郷に呼ばれたんで、せっかくだから寄ってみたのよ」
「呼ばれたって、誰に?」
「さあ、誰だったのかしら……何しろ二秒で追い返されたし」
「……」
窓の外で、一頭の駿馬が、ひひーんと気高い嘶きを上げた。
「(……気勢が削がれるわねぇ。こんな事してる場合じゃないのに……)」
咲夜は、心の中で舌打ちをする。
目標が魔法の森という事で、アリスの家を拠点にして動くと決めたまでは良い。
だが、この家族ドラマ風コントな空気はどうにかならないものか。
少なからずレミリア分が欠如している今の咲夜が求めるのは、殺伐とした空気のみなのだ。
分かりやすく例えると、お花摘みに向かったところに話の長いセールスマンが来た。といった所か。
余計分かりづらいわコラ。という意見は却下したい。
更に憎らしい事に、手に取った紅茶が熱くて熱くて死にそうなのである。
ラーメン屋には冷やし中華が始まるまで絶対に入らない。と天地神明に誓う程の筋金入りの猫舌である彼女にとって、
この煮えたぎるマグマの如き緋色の液体は倒すべき敵に他ならない。
故に、咲夜は力の限りのふーふーを慣行する。
それだけでは足りぬとばかりに、湯気が飛んだ一瞬を見計らっては、はふはふと啜る始末だ。
そんな行動を取るから犬っぽいとの風評が広まるのだが、残念な事に、本人がその事実に気づいていない。
完全である彼女は、当然の如く、天然属性をも身に着けているのだ。
「……ん?」
そこで、くいくいとスカートの裾が引かれる感触があった。
何事かと横に視線を向けてみるも、誰の姿も無い。
(下です、下)
それはまるで、心の中に声が直接響くような感覚だった。
咲夜は驚きを覚えるよりも先に、その対象を確認するのを優先した。
この辺りは流石と言える。
「(確かこの子は……えーと、どっちだったかしら)」
裾を引っ張っていたのは、小さな人形だった。
メイド服のような衣装に身を包んだその人形が、アリスの腹心のような存在ということは知っている。
が、その名前が思い出せない。
似たような姿形の人形が二体存在する為に、どっちがどっちだったのかが、今ひとつはっきりしないのだ。
(赤の服が上海で、紺の服が蓬莱って覚えて下さい)
(すると、貴方は蓬莱人形ね)
(はい。あ、こちらは向かずにお願いします。神綺様に気取られると拙いので)
何時の間にか、言葉を口に出さずに会話が成立しているのだが、そこにさしたる驚きは無い。
ただ、咲夜にとって、忘れて久しい感覚であったのは確かだ。
(それにしても貴方、念波での会話なんて出来るのね)
(普段は人形同士でしか出来ません。でも、貴方なら多分大丈夫だとマスターが仰ってましたから)
(……そう)
恐らくは、咲夜の持つ超能力の事を指しているのだろう。
現実にこうして会話が成り立っているのだから、それは正しかったのだが、
これまでさして交流も無かったアリスに、そこまで読まれていたとは予想外であった。
(どうかしましたか?)
(いえ、ね。流石は首領様だと思ったのよ)
(相変わらず、呼称が一定しないんですね)
(ほんのお茶目よ)
(まあ良いんですけど……と、本題から逸れてしまいましたね。マスターからの伝言をお伝えします。
既にオペレーションノーザンダンサーは動き出している。今は焦らず、時を待て。との事です)
(って、随分とまた有名どころの名前を付けたのね……確かに二冠馬だけど)
(はい?)
(こほん……了解したわ)
蓬莱人形は、芝居がかった動作で一礼すると、音も無く歩き去って行った。
「……あの人形。本当に自立してないのかしら」
「何か言った?」
「いえ、何も」
咲夜は気の無い返事を返すと、再び紅茶のカップを手に取った。
今はこうして映姫を養う時なのだ、と心に言い聞かせつつ。
『……すみません。あたいがもっと頑張れれば、四季様にこんな苦労をかけずに済んだのに……』
『良いのよ小町。私は今の生活で十分満足ですから』
『でも、四季様』
『それと、四季様って呼び方は止めてって言ったでしょう』
『え、え、え……映姫、様』
『……様もいらないんだけど』
『ごめんなさい。まだ無理っぽいです……で、でも、稼ぎの方は何とかしてみせます!
こんな素敵な嫁さんに貧乏生活を強いるなんて、誰が許そうともあたい自身が許しませんから』
『まあ、私の旦那様は随分と強欲なのね』
『そりゃ強欲にもなりますよ。……って、閻魔様の前で認めて良い事じゃ無いですね』
『本当ね。これは罰を与える必要があるかしら』
『あう……どのような?』
『愛してると百回言え。というのはどうです?』
『毎日言ってるじゃないですか』
『むぅ……では、アレの回数を百回にしましょう』
『……あのぅ、あたいを殺す気ですか?』
『あら、まだアレが何を指しているかは言ってませんよ?』
……ええと、長々とノイズを展開してしまったが、改めて訂正させていただこう。
映姫でなく、英気だ。
「……ふう。どうやら打ち止めかしら」
「そのようですね、とんだ狩猟劇になったものです」
レミリアと妖夢は、得物を収めると、すたりと地面へと着地する。
疲れた感じの言葉とは裏腹に、二人はまったくの無傷であった。
その周辺には、物言わぬ屍と、物言えるかどうか微妙なメイド達の山が出来ている。
被害の内の何割かは、スペルカードに巻き込まれたのが原因なのだが、
紅魔館の侍従として仕えている以上、その程度は覚悟の上だろう。多分。
と、そんな殺伐とした空間に、一陣の風が巻き起こる。
「あーあ、滅茶苦茶しやがるなあ。少しは生態系への影響も考えてくれよな」
「「お前にだけは言われたくない」」
見事にハモった返答に、魔理沙は苦笑を浮かべつつ、箒から飛び降りる。
言うまでもなく、彼女も無傷である。
「いやいや、お前達も随分と打ち解けたもんだな。良い事だぜ」
「ほっとけ」
「それにしても魔理沙……良くもまあ、こんな物騒な場所に住んでいるものね」
皮肉でもなんでもなく、本音である。
現に今、こうして普通に話をしている周辺では、多数のメイドが呻き声と共に地に伏しているのだ。
慣れているから、と言うは容易いが、ここまで殺伐とした空間に居を構える度胸は、妖夢には無い。
やはり魔法使いというのは、何処かネジが外れているのだろうか。
「……いや、それは違う」
「何だって?」
「別に魔法の森は、普段からこうも危なっかしい魔法生物がウヨウヨしてるわけじゃない。
確かに、少しばかり危険な地域に案内したつもりだけど……いくらなんでもこれは異常だ」
「でしょうね。こんなのが日常じゃ、採取と狩りの区別が付かないわ」
いつになくシリアス風味な魔理沙の言に、レミリアは神妙に頷いてみせた。
思えば、積極的に戦闘に出向かなかったのも、
最初から襲撃そのものを訝しんでいたのが原因なのだろう。
「……という事は?」
「決まってるでしょ。何か、人為的な力が働いているのよ」
「人為的……」
ぽぽぽん、という効果音と共に、三人の人妖の顔が中空に浮かび上がった。
どうやら衆目の一致するところだったようだ。
一度は否定した可能性ではあったが、意図が別にあるのだとすれば話は別。
となると、本当に実行可能かどうかが焦点になるのだが……。
「少なくとも、咲夜に魔法生物を操るような力は無いわ」
「幽々子さ……アレも同じです。アンデッドの類なら別でしょうが、これは専門外かと」
レミリアと妖夢の視線が、計らずして一点へと集中する。
魔理沙は、その視線から逃れるかのように、帽子を目深に被り直した。
「……お前達の思ってる通りだろうな。
多分、アリスなら可能だし、それこそ何を仕出かした所で不思議じゃない」
「「……」」
「……その、済まん。本当に」
「魔理沙の謝る事じゃない。何もかも、あの変態どもが悪いんだ」
「その通りよ。言ったでしょう、私達は同志だって。
一人は皆の為に、皆は一人の為によ!」
またしても吸血鬼らしからぬ発言をぶっ放すレミリア。
どうやら、この同盟的な状況がいたくお気に入りらしい。
「その格言、奴等も喜んで使いそうだけどな」
「って、人が折角フォローしてやってるのに、あっさり流さないでよ」
「細かい事を気にするなって。
しかし、アリスの奴、何を考えてるんだろうな。
こんな雑魚をいくらけしかけた所で、私達がやられる筈も無いだろうに」
「何か裏があるんじゃないの?」
「にしても、直接的に過ぎるだろう。
……まぁ、あいつの考えが理解出来る位なら、私も苦労はしてないけど」
だんだんと音量が小さくなっていく辺りから、魔理沙の苦悩の度合いが伺えた。
もっとも、その苦悩を年単位で味わってきたレミリアと妖夢からしてみれば、まだ序の口なのだが。
「とりあえず、引き上げましょうか。
これ以上長居していたら、それこそ更に理解の外の行動に出てこないとも限らないわ」
「ああ、違いない」
「同意します。というかもっと早く仰って欲しかったです」
「意見一致ね。じゃあメイド達に収集を……って、中国! いつまでも遊んでるんじゃないの!」
「あ、遊んでるっ、わけっ、じゃ、ないですっ!」
巨大な埴輪のような生物の群れ相手に孤軍奮闘しつつ、言葉を返す美鈴。
どうやら、打ち止めというのは、レミリアの周辺のみに適用された言葉らしい。
酷薄とするか、部下を信用しているとするかは微妙なところだ。
「あの連中。魔法が一切通用しない上に次から次へと沸いてくるからなぁ」
「フランが喜んで相手しそうな奴ね……ってそういえばフランはまだ遊んでるの?」
「あ? お前と一緒じゃなかったのか?」
「……え?」
レミリアは、ぽかん、と口を開きつつ硬直する。
「……違うのか?」
「ち、違うも何も、私は昼食からこの先、一度もフランを見てないわよ!?」
「な、何だと!? お前、それでも姉貴か!?」
「それはこっちの台詞よ! あんたフランの事見捨てたの!?」
「馬鹿言うな! 私はただ、姉妹の絆を深める絶好の機会だと思っただけだ!」
「そんなこと頼んでないわよ!
大体、今日のハイキングは、フランが魔理沙と遊びたいからって計画したものなのよ!?」
「んなもん建前に決まってるだろう! お前、何年あいつと姉妹やってるんだ!」
「あー、もう! 二人とも喧嘩している場合じゃないでしょう!!」
ついには掴み合いにまで発展しかけた所に、妖夢が割って入る。
というか、楼観剣で斬って入った。
流石にこの問答無用の一閃の前には、レミリアと魔理沙も物理的に距離を取らざるを得ない。
「お、お前なぁ、危うく指が五本に分かれるところだったじゃないか」
「最初から分かれてるでしょ。雛見沢村の住人じゃあるまいに」
「……何処だそりゃ」
「ノイズよ、忘れて。……レミリア様も少し落ち着かれるように」
「え、ええ。十分に落ち着いたわ」
「それは何より。
では、状況を整理しましょう。
二人とも妹様が何処に行かれたかはご存じないと?」
二人は異口同音で頷いて見せる。
「私が最後に妹様を確認したのは、およそ十五分程前の事です。
その時は、変わらぬ調子で戦闘……というか破壊に興じられておりました」
「……すると、そうやって獲物を追っているうちに、遠くまで行ってしまったという事かしら」
「その可能性が高いかと」
「要するに、別の可能性もあるって事か」
「ああ」
こういった特殊な状況の場合、むしろ可能性が高いものこそ除外するべきだと、妖夢は考えていた。
そして、別の可能性とやらが何であるかにも、既に思い当たりがあった。
だが、あえて全部は口にしない。
彼女は、己の位置付けというものを十分に弁えているのだ。
「……やっぱり、奴等の仕業か?」
左程の時間を要することなく、魔理沙も妖夢と同じ結論へと辿り着く。
が、ただ一人。
レミリアだけは、歩調を合わせようとはしなかった。
「まさか! フランは私を上回る力を持ってるのよ!?」
「でも、あいつにはそれを使いこなすだけの経験が無い。それは、私が一番良く知ってる。
連中から見たら、それこそ赤子の手を捻るようなもんだろう。
何より、この強襲がその為の陽動だとしたら、説明が付く」
「で、でも、あの子が狙われる理由が無いわ。あいつらの目的は、私達三人なのよ?」
「分からないぞ、何しろ変態の考える事だ。
この際、吸血鬼なら誰でも良い。この際、幼女なら誰でも良い。この際、金髪なら誰でも良い。
そんな破滅的な思想に陥ってる可能性も……」
「不吉な事を言うなっ!」
「……悪い。でも、楽観できる状況じゃないぜ。
仮に人質に取られでもしたなら……レミリア、お前は奴等に逆らえるのか?」
「……」
答えは、ない。
また、魔理沙も重ねて問い詰める事はしない。
ただの確認事項に過ぎなかったからだ。
「……まあ、あくまでも可能性の話だ。
単に道に迷っただけかもしれないし、残ったモンスターと遊んでるだけかもしれない。
案外、すぐ傍まで戻って来てるかもな。あいつ、常識は無いけど頭は良いし」
「魔理沙の言う通り、全ては憶測に過ぎません。全ては、レミリア様の判断次第です。
どのような結論であろうと、我々はその命に従います」
「我々ってのに私も含まれてるのかは気になるが……ともかく、決めるなら早くした方が良いぜ」
「……」
一同から言葉が消えること、およそ五秒。
レミリアは、かっ、と目を見開くと、右手を大袈裟に振り上げた。
「これより、紅魔館全人員にフランドールの捜索を命ずる!
飛べない者は走れ! 走れない者は歩け! 足が動かぬ者は這え! 体が動かぬ者は声を出せ!
邪魔立てするものはすべからく排除せよ! 排除できないなら盾になれ!
いかなる手段を用いてでもフランを無事に保護すること! それがお前達に出来る善行だ!!」
そのちんまい体の何処から出たのか、と問いたくなるくらいの大音量だった。
カリスマと私怨と欲望と我侭とノイズの入り乱れた業の深すぎる命令の前に、
三途の川で順番待ちをしていた面々も、既に朽ち果てかけていた体へと強引にUターンする始末である。
同時に、久し振りの稼ぎ時を逃した一人の巨乳死神娘が、悲嘆の涙に暮れる事になったのだが、
それはこの話とはまったく関係無いので置いておく。
「れ、レミリア、ちょいと待て!」
「何よ! 急げって言ったのはあんたでしょ!?」
「いや、そうじゃなくて、全員で探すってのは無茶だ。
今日のこの森は普通じゃないって言ったろ?
皆が皆バラバラに探し回ったら、それこそ二次遭難しに行くようなもんだ」
「関係無いわ! 私の侍従は全員とうに覚悟完了してるわよ!」
「だったら、その覚悟とやらはもっとマシな方向に使わせろ。
もし、フランが自分から戻ってきた時に誰もいなかったらどうするんだよ?」
「……むぅ」
一応、意見に耳を傾けるだけの理性は残っていたのか、
膨れっ面をしつつも、手を振って制止の意を示すレミリア。
その瞬間、数多くのメイドが胸を撫で下ろしたのは秘密である。
大丈夫なのか、カリスマ。
「今、私達がいる場所は、魔法の森の南端部分に当たる。
そこで、中国とメイド達はここで待機してもらって、
レミリアが北。妖夢が西から北西を。私が東から北東をそれぞれ捜索する……てな感じでどうだ?」
「異論は無いけど、本当に三人だけで大丈夫なのか?」
「大丈夫……というか、他に方法が無い。
戦闘力はともかくとして、私達の速度に付いてこられる奴なんて他にいないだろ」
それは自慢でも何でもなく、純然たる事実であった。
妖夢が地上、レミリアが空中、魔理沙が瞬間最大風速と、それぞれ得意分野は分かれるものの、
スピードという分類においてこの三人は、幻想郷でも最上位に位置する物を持っているのだ。
なお、約一名ほど例外が存在するとの噂もあるが、現時点において真相は定かではない。
『へっぷしっ! ……うー、風使いが風邪を引くなんて笑い話にもなりませんね』
定かではないったらないのだ。
「あー、もう何でもいいわ。とにかく、私は行くわよっ!」
レミリアは返答を待つことなく、その有り余る力を速度へと転換させると、森の奥へと消えた。
取り残された形となった妖夢と魔理沙は、何とも無しにお互い目を見合わせる。
「……せっかちな奴だな」
「それだけ、妹様の事が心配なんだろう」
「まあ、分からないでもないんだが……」
『フラァァァァァァァァァァァァァァン!! 私はここよぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォ!!』
「……今の、レミリア様?」
「ドップラー効果の検証団でもなけりゃ、他にいないだろ。
それにしてもあいつ、あんなに姉バカだったのか……」
「私も今知ったわ。
そもそも、妹様の事を聞いたのも今朝が初めてだったし」
「体面を取り繕う余裕も無くなったって事か……っと、暢気にしてる場合じゃないな。行ってくるぜ」
続けて魔理沙もまた、相棒たる箒に跨ったかと思うと、瞬時に一筋の光と化す。
しばし、その星屑の如き軌跡を眺めていた妖夢だったが、
気合を入れ直すかの如く、己の頬をぱんと叩くと、後ろを振り返る。
「中国! 聞いていたか?」
「あ、はい、大体は」
最後の一体と思わしき埴輪に崩拳をぶちかましつつ、美鈴が顔を向ける。
単に描写していなかっただけで、この長いやり取りの間、ずっと戦闘中だったのだ。
「引き続きで済まないが、メイド達の統率のほう、宜しく頼む。
もしもまた大規模な襲撃があるようなら、撤退も視野にいれて構わない」
「しかしそれでは……」
「妹様の件は、私達が絶対に解決してみせる。
だからお前は部下達の安全だけを考えてくれ。
こんな馬鹿な争いの犠牲者を、これ以上増やす訳には行かないんだ」
長々と現実逃避して、ごっつ沢山犠牲者作りました。という過去は無かった事にされている。
己に都合の悪い出来事を記憶するのは、大変胃腸に宜しくないので仕方が無いのだ。
それを理解していたからか、あえて美鈴は突っ込まなかった。
「……了解しました。あ、一応これを持って行って下さい」
「ん? これは……」
美鈴が手渡して来たのは、拳大の水晶球。
その名も高き、プリズマティカリゼーションクリスタル、通称プリズマ大先生である。
「単独行動ならば、少しは役に立つんじゃないかと思いまして」
「分かった、持って行こう」
今だに紫色に輝きっぱなし故、あまり説得力が無かったが、それでも無いよりはマシだろう。
もしかしたら、その頑丈さ故に、狙撃された際の身代わりになってくれるかもしれない。
と、無理やりに自分を納得させつつ、プリズマ大先生を胸元に入れる妖夢。
その際、何故か自室にて同じ仕草を取る咲夜の姿が幻視された。
怖かった。
ごっつ、怖かった。
「どうしました?」
そこで何を勘違いしたのか、美鈴が心配そうな面持ちで見上げて来た。
普通に立っていたのでは物理的に見上げられない為に、わざわざ中腰になって、だ。
気を使う程度の能力。間違った意味で益々盛んである。
「……いや、十六夜咲夜とは、かくも大きな相手だ、とな」
パッドが。とは言えない。
「それで、不安なんですか?」
「……ああ」
パッドの秘密を幻視してしまったことが、だ。
「お気持ちは良く分かります。
ですが、その不安の種は、貴方自らの手以外に、取り除けるものではありません」
「……」
いや、無理だろう。
あのパッドを取り除くのは、スキマ妖怪だろうと閻魔だろうと不可能に違いない。
「ですから、私から言えるのは、一つだけです」
「え?」
一つ? いや、二つだろう。でなければバランス的におかしい。
それとも、左右が繋がっている一体型なのだろうか。
「我々は皆、侍従長殿を信頼しています。
貴方は、僅か数日間で、そう思わせるだけのものを見せたんですよ」
「……」
「そんな凄い人が、道を踏み外した変態なんかに遅れを取る筈も無いですよね?」
確かに、あのパッドは倫理的にいっぱいいっぱいだ。
それならば、あの世に半分ほど生を受けて○○年。
一度としてバストを偽った事のない自分が、卑屈になる必要など何処にも無いのだ。
「……そうだな。
ありがとう、少し気が楽になった」
「いえ、別に特別な事をしたつもりはありませんから」
結局、最後まで会話は噛み合っていなかったのだが、お互い納得したので問題は無かった。
これが結果オーライというものである。
「では、行ってくる。後は任せたぞ」
「ご安心を。この紅美鈴、防衛戦においては誰にも遅れは取りません。
妹様が無事戻られるまで、誰一人として犠牲は出さないと約束します」
頼もしき返事に、妖夢は一瞬だけ笑顔を見せる。
刹那、勢い良く地を駆けると、深い深い森の奥へと消えていった。
言い残した言葉を、心の中で呟きながら……。
「(美鈴さん……その台詞、死亡フラグですよ……)」
小町は入り婿なんですねwww
戦力の分散は、戦場(?)では一番やっては駄目な気がするんですが(w
次回も変態に期待してます(何
つーことで、相変わらずの不思議空間、ありがとう御座いました。
挟まれる小ネタとノイズで、私の頭はイッパイです。
しかし、頑張っているのに報われず、挙句に死亡フラグとか立てちゃう美鈴さん。
確か、前回の時には、レミリアたち一団を離れた影から見張っていたのでは?
これは、結構重要な仕事をするポジションかっ!? とか思ってたのに、結局死亡フラグなんてヒドイっすっ!!
東方最大のイジられキャラなのですから…
それが中国クォリティ
今回は変態成分が低い=次回は変態成分が高いということなのか