Coolier - 新生・東方創想話

魁!!東方塾 永夜大四重凶殺編 第3部 全米川下り選手権

2006/05/08 02:40:37
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注意!!このお話は、パロディやら壊れギャグやら満載のドタバタ劇だよ!!
嫌いな人は注意してね!!
ちなみに、このお話は3部作の完結編!!
作品集27の第1部、28の第2部の続き!!そっちを読んでないとわからない展開もあるよ!!
そしてこのお話に登場する全てのキャラに先に謝っとくよ!
その辺をご理解いただいた上で読んでくれると、嬉しいな!!
































―魁!!東方塾 永夜大四重凶殺編―



第二部のあらすじ



幻想郷を襲った謎の満月消失事件。
犯人を探すは、楽園の素敵な巫女・博麗霊夢をはじめとする腕利きの弾幕使い達。
竹林での激闘、そして異変の黒幕が潜む屋敷・永遠亭への潜入。
幾多の戦いを経て、霊夢達はついに永遠亭の最深部へ辿り着こうとしていた…。

「やっほ~!モニターの前のみんな、元気してる~?萃香だよ~」
「…萃香さん、なんでウチにいるんですか」
「えー?だってみんな満月を取り返すとかでどっか行っちゃったしー」
「はあ…」
「まあいいじゃない。紫も藍もいなくて、ぶっちゃけあんたも退屈っしょ?」
「退屈どころか心配ですよう。藍さま、いきなりいなくなっちゃうし…大丈夫かなぁ…」
「っかぁ~、いいねえ!健気だねえ!!橙はいい子だ~…よし!」
「わわ!?きゅ、急に抱きつかないでくださいよ~」
「今夜は飲もう!特別に萃香お姉さんがお酌しちゃうぞ(はぁと)」
「お、お酒はまだダメだって藍さまが…」
「あ~聞こえんな!嫌がる幼女に無理矢理飲ませるから楽しいんだ!ほれほれ~い」
「自分だって十分幼女じゃないですか~!」
「ぎゃにー!?誰が洗濯まな板だってー!?」
「言ってないし!」
「このやろー、わたしはもう何百年も前から大人だー!証拠みせたるわー!!」
「ああああ、萃香さん落ち着いて!脱がないで!」
「じゃかましい!あんたも脱げ!!」
「なにゆえー!?」

その頃。
主とその一番の従者を欠く紅き館、その巨大な門の前。



「わたしが紅魔館門番・紅美鈴である!!」



―魁!!東方塾 永夜大四重凶殺編 第3部 全米川下り選手権―



「わたしが紅魔館門番・紅美鈴である!!」
「わたしが紅美鈴である!!」
「紅美鈴である!!」

うるせえよ。

「橙、今夜は永い夜になりそうねぇハァハァ」
「にゃー!?萃香さん目がマジにゃー!!やるといったらやる、スゴ味があるにゃー!!」
「というわけで本編をお楽しみに!わたしは橙とお楽しみグェヘヘヘ」
「助けて藍さまー!!」







長い廊下。
薄暗い通路のその先に、さらに深い闇がある。
闇から闇へ、霊夢たちはひたすら屋敷の奥を目指していた。

「エイリン、とかいったかしら」

アリスがぽつりとつぶやいた。

「エイリン?」
「あの兎どもが話してたの。わたしたちはそいつの術を邪魔してるとか何とか…」

ここに来るまでに戦った相手の一人が口にしていた名。
アリスは偶然耳にしたその単語を思い出していた。

「んー、わたしらが邪魔する術っていうことは…そうか!」
「気づいた?」
「そいつが満月を隠してるって事か!なるほど、黒幕はそのエイリンとやらだな!」
「…そう、そういうことになるわね」

しかし魔理沙とアリスはもちろん、2人の会話を聞いていた他の者もその名に聞き覚えはなかった。
それでも、異変の犯人に関する重要な手がかりであることに変わりはない。

「ふ…待ってなさい映倫とやら!このレミリア・スカーレットが直々に引導を渡してやるわ!」
「お嬢様、少なくともそんな字ではないと思われますが」

ここまでからっきし出番のない夜の女王は、今度ばかりは見せ場を逃すものかと意気込む。
そんな彼女に茶々を入れる瀟洒なメイドも、目立ったのは序盤だけという不完全燃焼気味な役どころであった。

「そうねえ。いくらなんでもその字は酷いんじゃないかしら」
「ですよねえ…って何!?誰よあなた!!」
「あなたたちこそ何者かしら?人の家に勝手に押し入って…」

人影が、暗がりから姿を現した。
女性である。
赤と黒を基調とした服装によく映える、長い銀髪。
右手には弓を、左手には矢を持っていた。

「兎たちは何をやってたのかしら。侵入者はこっちに来させちゃ駄目だって言ったのに」
「よくやったんじゃない?みんな必死で戦って、必死な目にあってたみたいよ」

レミリアは目の前の敵に不敵な笑みを向けながら答えた。

「なるほど、必ず死ぬと書いて必死。随分派手にやってくれたみたいね」
「そうかしら?月を偽物とすりかえるほどじゃないわよ、営林さん」

あからさまな挑発。
相手は半分それに乗りつつ、半分軽く流して答える。

「…いけない子ね。生意気なガキには甘いお薬が必要かしら?」
「残念ながら、500を超えて久しいお年頃なの」
「見ればわかるわ、吸血鬼のお嬢さん」

暗がりから現れた女性は、美しくも冷たい微笑を浮かべた。





「だからこそ、子供なのよ。わたしから見ればね」





―魁!!東方塾 永夜大四重凶殺編―

FINAL A 姫を隠す夜空の珠!!の巻





「ここはわたしにやらせてもらう。文句はないわね?」

レミリアは背後の仲間達に向け、有無を言わせぬ口調で言い放つ。
霊夢たちにも異存はなかった。
眼前の敵とレミリアの間で、既に「戦う流れ」が出来上がってしまっている。ここで割って入るのは野暮と言うものだ。

「お嬢様、満月を隠してのけるほどの相手です。お気をつけを」
「ええ、気をつけるわ。一撃で殺してしまってはつまらないものね」
「…もしかして物騒な話?」

咲夜とレミリアのやりとりに介入してくる敵対者。
もはや彼女がエイリン、満月を隠した者であることに間違いはなかった。

「いいえ、殺生な話」
「ここでしおらしく『ひえぇ』とでも言えば、手加減してもらえるのかしら?」
「残念でした。夜の女王は無慈悲なのよ」

レミリアは数メートル程の間隔を置いて相手と正対していた。
互いに戦闘準備完了、という状態。

「…先に言っとくわ、わたしの名は八意永琳。お察しの通り、月を偽物とすりかえたのはわたし」
「ああ、今ので確信が持てた。やっぱりおまえは敵以外のなんでもないわ」

レミリアの手に魔力が集まる。

「「永遠の――」」

二人の声が、言葉が重なった。

「――命の前にひれ伏しなさい、紅い悪魔!!」
「――満月を返してもらうか、犯罪者!!」

両者の距離が一気に狭まり、戦いが始まった。





「と、言いたいところだけど」
「ええー!?」

永琳は片手をあげて「待った」のポーズをする。
先手必勝とばかりに突撃しようとしたレミリアは思わず前につんのめる。

「何よ!?せっかくいい感じにムードが高まってきたのに…」
「焦らない焦らない。きちんと段階を踏むのが大事なのよ」
「段階?」

永琳は大きく息を吸い込むと、屋敷全体に響くほどの音量で叫んだ。

「永遠亭特別科学戦闘隊集合!!対吸血鬼戦闘用意!!」
『ラジャー!!』

どこからともなく何匹もの妖怪兎が現れ、その声に答える。
霊夢たちはこれまでも多くの兎と交戦してきたが、今度は少々特殊な見た目をしていた。
一匹残らず白衣を着て眼鏡をかけている。
幻想郷では非常に珍しい科学者スタイルの兎達は、何やら怪しげな道具を次々と取り出し始めた。
永琳は兎達からそれらの道具を受け取り、身につけていく。

「動作チェックはOKかしら?」
「全て問題なし、オールグリーンであります!」
「弾は全部入ってる?」
「対吸血鬼弾100発、完全装填確認済みであります!」
「ご苦労様。下がっていいわよ」
『ラジャー!!』

得体の知れない道具で全身を固めた永琳を残し、兎達は去っていった。
なんでこいつらが戦わないんだという疑問はとりあえず無視しておく。

「…もういいかしら?」

フルアーマー永琳を訝しげに見つめながら、レミリアが尋ねた。
もちろん永琳は満面の笑顔で答える。

「おっけーね!」
「そこまで堂々と他人のネタを使われると逆に清々しいわね」
「余裕ぶっこいてられるのも今のうちよ。あなたたちは少し調子に乗りすぎた!」

永琳はポケットから何かを取り出す。
色々とズレた会話にうんざりしていたレミリアはすぐに反応できず、慌てて身構える。

「対吸血鬼用秘密兵器その1!!『銀の十字架』!!」
「…」
「ふっ…吸血鬼の弱点といえば十字架。里の子供ですら知ってる事実よ!!」

小さな十字架をレミリアの目の前に突きつけ、勝ち誇ったように笑う永琳。
しかしレミリアは目の前に差し出されたそれを手で軽く払いのける。

「わたし効かないのよね、それ」
「へ?」
「いや、へ?じゃなくて。そんな物見せられてもなんともないわよ」

レミリアはそう言って永琳の手から十字架をもぎ取ると、背後に「ポイッ」と放り投げた。
そう、彼女に十字架は通用しない。
何故そのようなものにやられなきゃいけないのか、レミリア自身が常々思っているほどである。

「そ、そんな…」

想定の範囲外の事態に、永琳は愕然とする。

「じゃ、じゃあこのステンレス十字架も、こっちのテンピュール十字架も…」
「全然効かない。つーかテンピュールって何よ。安眠枕か」
「ええーっ!?そんな、じゃあウルトラクロスは?」
「効かない」
「怪談『悪の十字架』は?」
「効くわけない」
「腕ひしぎ逆十字固めは?」
「吸血鬼じゃなくても効くでしょ…」
「じゃ、じゃあ聖帝十字稜のてっぺん!!」
「わざわざ担いできたの…」

永琳は持ち出した十字架(というか途中から十字架ではない)を次々に「効かない」と言われ、がっくりと膝をついた。
床を拳で叩きながら、悔しげに声を漏らす。

「なんと言うこと…これじゃ、装備の半分以上が無用の長物じゃない…!」
「そんなにあったの?十字架…」
「当然よ!十字剣ヌンチャクにファミコンの十字キー、その辺で倒れてた妖怪も…」
「あ、そーなのかー(第1部参照)だ」
「お土産に十字架サブレなんてのもあるわよ。食べる?」
「いらない」
「くっ…ならば、対吸血鬼用秘密兵器その2!!」

十字架ではかなわないと判断した永琳は、別の道具を取り出した。
金属製の筒を二本並べて、木の柄をつけたような物体。

「銀の弾丸!!」
「な…なんですって!?」

今度は銃――弾幕の力を持たない外の世界の人間が使用する武器である。
永琳はさらに銀色に光る弾丸を取り出すと、銃の中にこめ始める。

「ふふふ、吸血鬼に限らず悪魔全体に効果のある銀100%のマグナム弾よ」
「うわー、東方的にいいのかなあ、銃…」
「ハッ!バカね!勝てばいいのよ、なに使おうが勝ち残ればね!!」
「某四兄弟の三男みたいなこと言ってんじゃないわよ…」
「うるさいわね!この至近距離からでは逃げようがないでしょ!!」

永琳はレミリアに銃を向けると、引き金を引いた。
銃声。
詰まりきった間合いから放たれた銀の弾丸は、哀れな悪魔の頭を吹き飛ば――さなかった。

「なっ…こ、これは」

驚愕する永琳のすぐ前、レミリアは顔の前に握り拳をかざして立っていた。
ゆっくりと、その拳が開かれる。
強い力で握りつぶされた銀色の何かが二つ、床に落ちた。

「痛いわねえ…火傷しちゃったじゃない」
「や…火傷…」

レミリアの掌には、煙草を押しつけたような焦げ跡が二箇所。
銀がレミリアに有効な証拠である。
同時に、弾丸がレミリアに無効な証拠でもあった。





「で でたーっ!!レミリアの真骨頂!!」
「相変わらず反則的な身体能力だわー!!」

霊夢の言葉通り、レミリアの真価は弾幕戦ではなく肉弾戦において発揮される。
文字通り化け物と言うべき身体能力に苦しめられた者は少なくない。

「ふっ…お嬢様のスピードの前には、銀の弾丸も銀玉鉄砲ね」
「銀玉鉄砲って…咲夜さん、年いくt」
「なんか言った、妖夢?」
「ひぃ!!」

銀のナイフを喉元に突きつけられ、妖夢は悲鳴を上げる。






「まだやるの?」
「う…うそよ!こんなはず…」

永琳は銃を連射する。
当たれば紅い悪魔を即死させることも可能であろう銀の弾丸が、目視できないスピードで次々に飛んでいった。
やがて、弾切れを告げる「カチッ」という音が響いたその時。

「もう終わりかしら?」
「ば、馬鹿な…」

レミリアは先ほどと同じように掌を開いてみせる。
今度は先ほどの倍以上の数の銀色の何かが床に転がった。

「全部の弾丸を、素手で掴んだっていうの!?」
「さすがにこの数はすこし辛かったけどね。手が痛い…」

ちょっと涙目でお手々をふーふーするレミリア。
その仕草を、永琳は不覚にも「かわいいにゃ~」などと思ってしまう。

「じゃなくて!銀の弾丸まで効かないなんて…」
「もうあきらめた?」
「まさか!永遠亭の辞書に降参の二文字は無いわ!!」
「いや、ホントに辞書見せなくてもいいから」

永琳は「降参」の項目を墨で塗りつぶした国語辞典をレミリアに突きつけていた。
とにかく。
その後も永琳が用意した対吸血鬼用秘密兵器は、そのほとんどが無用の長物と化した。

「白木の杭!」
「寝てるときじゃないと意味無いわよ」

「いわしの頭!!」
「今更玄関に取り付けても意味ないじゃない」

「第七聖典!!」
「持ち上げられないもん持ってくんなよ」
「あ…こ、腰が…」
「あんたさっきの聖帝十字稜はどうやって持ってきたのよ…」

「紫外線照射装置ィィィィィィィィ!!」
「太陽光!?それはまずい!!」
「あ、あれ?点かない」
「この家、電気通ってないでしょうに」

かくして、永琳が装備する対吸血鬼用秘密兵器は残り一つとなった。
それは小さな瓶と、その中に入った何か。

「と…とうとうこれを使うときが来たようね…」
「何よ、それは」
「聞いて驚きなさい吸血鬼!!これこそは切り札中の切り札!!その名も…」

永琳は瓶に貼られたラベルを見せつけながら叫ぶ。
必死だ、この人。

「『材料一切不明!!謎のニンニクジャム了承1号』よ!!」
「どこが材料一切不明なのよ…」

レミリアはやれやれと肩をすくめながらため息をついた。
確かにニンニクは苦手だが、所詮はジャムである。
武器になるはずもなかった。

「ふっふっふ…こいつの恐ろしさを思い知らせてやるわ」
「はいはいどーぞ御勝手に。こっちも適当なスペカ出しましょうかね」
「余裕ねぇ…この匂いを嗅いでも正気でいられるかしら!?」

永琳がジャムの蓋をわずかに緩める。
その瞬間。
満足に開ききってすらいない瓶の口から、強烈な匂いが広がった。
いや、強烈なんてものではなかった。
生のニンニクの匂いを100倍は濃くしたような刺激臭。
ジャンボ餃子(30分以内に食べ切れば無料)を食べた人間の胃の中に入れば、このような匂い、いや臭いがするだろう。
そういう臭いである。
鼻腔を通って脳に直接「刺さる」ようなニンニク臭であった。

(こ、これは…まずい!!)

レミリアは即座に危険を察知し、己の鼻を摘もうとする。
しかし、永琳が瓶の蓋を完全に開け放つほうが速かった。
屋敷の廊下に立ち込めた空気は、一瞬でニンニク色に染まった。










あら。
ここはどこかしら。
って、何を寝ぼけているのよ。
わたしの部屋じゃないの。
今夜は満月ね。
久々に神社にでも遊びに行こうかしら。
と、まずは目覚めの一杯を…咲夜を呼びましょうか。

「さくやー」
「…」

おかしいわね。
いつもなら、咲夜の「さ」の字を言った時点で紅茶を持って出てくるのに。
早く起きすぎたかしら?
うーん、でも間違いなくいつも通りの時間なのよねえ…。
あら?
何かしら、外が騒がしいわね。
フランが暴れてるのかしら。
まったく美鈴ったら、あれほどあの子を外に出すなと言っておいたのに。
2人とも、今日はおやつ抜きね。




レミリアは窓を開け、眼下の光景に目をやる。
そこには、紅魔館に住む全ての人妖が集結し、宴会を繰り広げていた。

『紅魔館ニンニクパーティー』

瀟洒な従者が、ガーリックトーストを乗せた皿を運んでいる。
図書館の魔女が「チャーシュー抜きって言ったじゃない!!」とニンニクラーメンの丼を前に嘆く。
その手下の小悪魔が、周囲の一気コールに合わせてガーリックオイルを飲み干していた。
悪魔の妹が、パリパリの餃子を次々と平らげていく。
すぐに、門番が大量の餃子を焼き上げて持って行く。
その横では、メイドたちがニンニクを球にして草野球に興じていた。
ちなみにバットは極太の下仁田ネギである。
また庭の隅に小さな人だかりが出来ており、その中心にはなぜか香霖堂の店主がいた。
褌一丁で「ニンニク卵黄」と書かれた瓶の蓋を開けようとしていた。



なに。
なんなのこれは。
パーティーをやるのはいいわ。
わたしが寝てる間に勝手に始めてるのが気に食わないけど。
でも。
ニンニクパーティーって何よ。
ドッキリ?
嫌がらせ?
まさかあなたたち、わたしが吸血鬼って忘れちゃったの?
てゆーかフランよ、フラン。
あんた何おいしそうに餃子食べてんのよ。
なんで平然とニンニクが食べれるのよ。
あんた吸血鬼じゃないの?
もしかして血はつながってない妹とかいう後付け設定??
攻略可能???
美鈴も、ここぞとばかりに料理の腕を振るわなくていいから。
そのネタは他の作家さんがもうやってるから。
で、パチェはいつまで文句言ってんのよ。
いいじゃない、チャーシュー嫌ならどければいいじゃない。
早く食べないとラーメンのびるわよ。
小悪魔も、太るわよ間違いなく。
…瓶の中に沈んだニンニクぐらいほっときなさいよ。
舌突っ込んでもとれないから!
逆さにして底をトントン叩いても出てこないから!!
そもそもそれは食べるためのものじゃないから!!!!
ん?
急にみんな静かになったわね。


咲夜 「( ゚д゚ )」
パチェ「( ゚д゚ )」
小悪魔「( ゚д゚ )」
フラン「( ゚д゚ )」
美鈴 「( ゚д゚ )」
霖之助「( ゚д゚ )」
その他「( ゚д゚ )」


こっち見んな。
てゆーか何よその「お嬢様、そんなトコで見てないでこっちいらっしゃい」な目は。
嫌よ。
ニンニクなんて食べられるわけないじゃない。
つーかここまで臭ってきてるんだけど。
正直かなり不快なんだけど。
うわ、なんか打ち合わせ始めた。


『れ、み、りゃ!( ゚д゚ )』
『れ、み、りゃ!( ゚д゚ )』


だからこっち見んな。
そしてれみりゃコールすんな。
そんなことしても行かないわよ。
ん?なんか飛んできたわね。
あ痛!
パチェ、あんた今ニンニク投げたでしょう!!
周りの奴らも乗るな!!
わ、ちょ、やめ、ニンニク投げ込むんじゃない!!
お部屋が臭くなっちゃうわ!!


『れ、み、りゃ!( ゚д゚ )』
『れ、み、りゃ!( ゚д゚ )』


やだ、ちょっと咲夜、いい加減に…って投げ方指導してるし!!
ギャアアアア!?なにその直径3メートルはありそうな巨大ニンニク!?
投石器なんてどこにあったのよ!!
こっちに照準を合わせんな!!11!!1!!
フラン、調子に乗ってカウントダウンとか始めんな!!
と、とにかく逃げないと…あれ?ドアが開かない?
ヒィィ、ニンニクでドアが塞がれてる!!
ど、どこか脱出口は…そうだ窓から飛んで…って、既に巨大ニンニクが眼前にぃ!?
だだだだ誰か助kくぁwせdfrtgyふじこ










蓋の開いたジャムの瓶を手に、永琳が微笑んでいた。
霊夢たちは口と鼻を手で覆い隠しながら、その佇まいを見つめる。
彼女たちの目に浮かぶ感情は、驚愕と絶望。
そして不快感。
頬に手を当て「あらあらうふふ」な笑みを浮かべる永琳が見下ろすもの。

「せせせ世界、の、終わりだ、わ…ニンニクが攻めてくる…ぐへっ」

それは、床に倒れて泡を吹きながら痙攣するレミリアの身体だった。





レミリア・スカーレット 死亡確認?





「れ れびりあー!!」
「ばさかほんとうびやられじゃったの゛ー!!」

鼻を摘みながら、悲痛な叫び声をあげる魔理沙とアリス。
あのレミリアが、紅い悪魔がこんなにあっけなくやられるなんて…信じられないのだ。
しかし、目の前に倒れた幼きデーモンロードは立つことすらできない。

「お…お嬢様…」

咲夜は鼻を摘むことも忘れ、倒れた主の姿を呆然と眺めていた。
他の仲間達も皆、信じられないといった顔でレミリアを見ていた。
もちろん、鼻を摘むことは忘れずに。

「ふふふ、月の民が認めた薬学の天才であるこのわたしが調合した超濃縮ニンニクエキス入りジャム!!
吸血鬼はもちろん、至近距離で臭いをかがせれば人間でも一撃で卒倒するわ!!」

永琳は高らかに叫びながら、ジャムの瓶を天に掲げる。
ちなみに、どういうわけか永琳自身はこの臭いにも顔色一つ変えない。

「どう?このわたしの恐ろしさが身に染みてわかったかしら?」
「というか…目に染みてわかったというか…」
「ツーンとくるぜ」

霊夢と魔理沙はなんだか涙目になってきていた。
それは高濃度ニンニクエキスの作用か、はたまたこんなくだらない攻撃でやられた仲間が情けなくなってきたためか。
しかしここにきて形勢逆転、レミリア共々霊夢たちはピンチに陥った。
倒れたレミリアの側に立つ永琳は、彼女の生殺与奪の権利を完全に握っていた。

「さて、お嬢さんたち。この状況、わかるわよね?」

永琳はガクガク震えるレミリアを抱え上げると、懐から注射器を取り出す。
針先を人質(吸血鬼質?)の頚動脈に突きつけながらニヤリと笑う。

「くっ…何のマネだ!!」
「お馬鹿ねえ。見てわからない?ヘタに動いたらこの娘にお注射するわよ」
「注射だと!?」
「ええ。さっきのニンニクエキスに鰯の体液と銀粉を調合した吸血鬼即死薬入り」
「即死!?いやああああお嬢様あああああああ!!!」
「さ、咲夜、落ち着けー!!」

魔理沙は暴れる咲夜を押さえつけながら永琳をにらみつける。

「くそっ!卑怯者め!!」
「落ち着きなさいな。こちらの言うとおりにすればこの娘も無傷で返すわ」
「何!?」

レミリアに針を突きつけたまま、永琳は話し始めた。
窓からは、彼女が用意した偽の月光が差し込んでいた。





「とりあえずあなたたちには、このまま帰って寝ててもらうわ」
「帰れ、ですって!?」

霊夢は思わず声を荒げる。
冗談じゃない。ここまできて引き下がれるものか。

「ええ。夜が明ければ月は元に戻すわ」
「…え?」
「この術の効果は今夜限り。朝までもてばそれでいい」

意外な言葉に、霊夢は目を丸くした。

「…どういうことよ」
「だからそういうこと。あなたたちは満月を取り戻したいんでしょう?なら話は早い。さっさと夜を元に戻して、家にお帰り」
「それは…」

自分たちは本物の満月を取り戻すためにここへ来た。
それは、朝になれば戻ってくると言う。
なら自分たちにはもう、戦う理由はないのではないか。
これより先へ進む必要は、ないではないか。

「悪い条件じゃないはず。この娘があなたたちの仲間だと言うなら、尚更」
「レミリア…」

さらに、この状態では永琳の要求を呑まざるを得ない。
レミリアの身体は未だに彼女の腕の中にある。

「おおお嬢様を放してぇ!!もう時間なんて元にもどしますからぁぁ!!!」
「あら、話が早いのね」
「わーわー、咲夜、ちょっと待って!!」

霊夢たちは慌てて咲夜を止めに入る。
確かにこの場を最も丸く収めるにはその選択が一番だろう。
しかし、このまま敵の言うとおりにしてもいいものか――。

「もう月の追っ手はそこまで来ている。ここで話している暇はそんなにないわ」
「月の追っ手…?」
「なんでもないわ。いいから早く決めて頂戴」
「ぐっ…」

霊夢は選択を委ねられた。
それは同時に、レミリアの命の選択を委ねられたということ。

(レミリア…)

霊夢は思い出していた。
紅魔館ではじめて出会った時のこと。
夜中に神社にやってきては、寝ていた自分を叩き起こしてお茶に付き合わせた時のこと。
宴会が続いた謎の事件で、再び向かい合った時のこと。

(バカ…あっさり捕まってくれちゃって…)

友人か、と尋ねられた時、自分はどう答えるだろうか。
そんなことを気にしたことなど一度もなかった。
気にする必要はなかった。
今回も、ただ目的が一致したから一緒にいただけの話だ。

(でも…)

関わりはあるが、それがどんな関わりか考えたこともなかった相手。
そんな相手が命の危機にさらされたとき、自分はどうするだろうか。
博麗の巫女としての義務と秤にかけたとき、その存在はどれほど重いのだろうか。

(幻想郷の…危機、でも朝まで待てば…)

ここでレミリアを見捨てて前進したとして…そして朝を待たずにこの異変を解決できたとして。
明日の朝食が美味いだろうか。
平和を取り戻した昼下がりに、縁側で飲むお茶が美味いだろうか。

(はぁ…他人と関わるって、だから面倒なのよね…)

自分は人間だ。
おいしいお茶が大好きな、普通の人間だ。
悪魔や妖怪や亡霊やその他色々と仲良くなれる辺り、あまり普通でもない人間だ。

「不本意だけれど、あなたの要求を…」
「ダメよ、霊夢」
「え?」

背後から、霊夢を制する声。
その声の主はゆっくりと前に進み出た。

「ゆ、紫…」
「そいつの要求を聞くことなんてない。ここまで来た苦労を無駄にする気かしら?」
「それは…でも、レミリアが…」
「あら、あのコがこの程度でやられると思った?」

紫は全く動揺することなく言うと、永琳に視線を移した。
そのまま永琳の腕に捕らえられたレミリアに話しかける。

「どうしたのかしら、紅い悪魔さん?もう終わり?」
「ヒギィィ!!いやああニンニクそんなところに押し込まないでぇええ!!!」
「あなたは種族の弱点なんかに負けるような子じゃないでしょう?」
「やだっ、そんな…すりおろしたニンニク塗りこんじゃやだぁああ!!」
「吸血鬼の底力を見せなさい!あなたのカリスマはそんなもの?」
「ふえぇ…ガーリックオイルがぬるぬるするよぅ…」
「…」

さすがの紫もこれには頭を抱えた。
レミリアはビクビク痙攣しながら、意味不明な言葉を漏らし続けている。
さらにその目は虚ろで、口の端からは泡が溢れていた。
もはや正常な意識はいずこへと飛び去り、何やら色々とギリギリな夢の中に囚われているようである。
ちなみに彼女の従者が先ほどの会話を聞いて鼻血が止まらなくなっているのはまた別の話だ。

「無駄よ。ニンニクは吸血鬼最大の弱点と言っても過言ではないわ…まともな精神状態でいられるはずがない」
「うるさいわね。言っとくけど、わたしたちの目的は今すぐ満月を返してもらうこと…一歩も引く気はないわ」

紫は永琳を正面からにらみつける。

「あらあら、そんなこと言っていいのかしら?この吸血鬼が人質に…」
「だから、その程度でレミリア倒したなんて思わないことね」
「何を往生際の悪い…」
「レミリア!」

再びレミリアに向かって叫ぶ紫。
吸血鬼の虚ろな瞳に写る仲間の姿は、彼女の心に届いているのだろうか?

「いつまで寝てるの!!さっさと目を覚まさないと…」
「う…ぁ…」

と、紫は側にいた霊夢を引き寄せ、レミリアの視界に入るようにした。

「え、ちょ、何よ紫?」
「さっさと目を覚まさないと…こうよ!!」


時間が止まった。
別に咲夜が能力を発動させたとか、そういうことではない。
目の前で繰り広げられた光景に、その場にいた全員が思考能力と言葉を奪われた――意識が凍りついたのである。
レミリアと永琳の眼前、そこにあったもの。

「え…えっと…」

かろうじて沈黙を破った魔理沙が指差す先。
そこには、驚愕に目を見開く霊夢――に、唇を重ねる紫がいた。

「な…何をs」




『何をするだァ―――ッゆるさんッ!』




「え?」

魔理沙がツッコミを入れようとした瞬間、愛犬を蹴っ飛ばされた某英国紳士のような叫びが響き渡った。
その叫びはいまだ呆気にとられたままの永琳の腕の中から響いていた。
怒りと羞恥にその顔を赤く、いや紅く染めた少女。

「あんた何やってんのよ紫ィーッ!!キスシーンはともかく理由を言えー!!」
「「「「「レ、レミリアー(お、お嬢様ー)!!!」」」」」
「ふぅ~ごちそうさま…あら、やっぱり起きたわね」
「『起きたわね』じゃないわよー!!あんたわたしの霊夢に何してくれやがってんのー!!」
「何って、キス」
「普通に答えるなー!!」

怒り狂うレミリア、平然としている紫、未だに凍り付いている霊夢。
そして突然復活したレミリアに驚く仲間達と永琳。

「そう怒らなくてもいいじゃない。毒に倒れたお姫様を目覚めさせるのは王子様のキス。これ常識よ」
「だったらキスされるのはわたしでしょうが!!」
「わたしにしてほしかったの?」
「違うわよ!だからこう…霊夢がわたしに、優しく…」
「ああ、それも考えたんだけどねえ」
「そうでしょ!?つーか霊夢の口づけでも、いやだからこそ間違いなく目覚めたわよわたし!!」
「それをやらせたら負けかなと思っている」
「ふざけんなー!!」

レミリアは紫に掴みかかろうとするが、紫はひょいと身をかわす。
辺りには未だに強烈なニンニクの臭いが立ち込めていたが、レミリアはかまわず暴れまわっていた。

「もう、そんなに言うならあなたもやってみなさいな」
「え?」
「ほら、霊夢は今完全に思考停止状態よ。絶好のチャンスじゃない」

紫が指差す方向には、直立不動のまま固まっている霊夢の姿。
突然唇を奪われたショックが彼女の脳の働きを一時的に停めていたのである。

「あ…霊夢…」
「どうしたの?霊夢にキスしたくないの~?」
「それは…」

先ほどとは別の意味で真っ赤になるレミリア。
500年生きているとはいえ彼女もまだ幼い少女、こういうことにはあまり慣れてはいないわけで。
第2部で妙に積極的に霊夢に迫ろうとしていたのはなかったことに。
ウソ。あれだほら、やたら押しが強いわりに、いざその場に立つとガチガチになっちゃうタイプ。萌え。

「さっきの霊夢のモノローグを見る限りでは、あなたのことはそんなに嫌ってないはずよ」
「!!」
「しかもあなたが寝てる間、敵の要求を呑んでまで助けようとしてたの」
「!!!」

紫はレミリアの耳元に口を寄せ、囁く。

「こ・れ・はもうアレなんじゃな~い?」
「あ、アレ…?」
「霊夢は待ってるのよ。あと一押し…あなたに必要なのはほんの少しの積極性よ」
「え、えええええええええええ!?」

もはやレミリア顔は耳まで真っ赤だ。
スカーレットデビル、ここにあり。

「うそ…それじゃ、霊夢は、わ、わたしのこと…」
「気づいたかしら?」
「れれれれ霊夢が…わわ、わたしのことす、すき…」

レミリアの頭から湯気が立ち上っていた。
さらにここで、とどめの一言が入る。

「霊夢の唇…柔らかかったなぁ~」
「!!!!!!!!!」

その瞬間、レミリアの顔の中心から真紅の奔流がほとばしった。
紫の口にうまく乗せられてヒートアップしきった感情(比喩)がいっきにあふれ出したのである。
その紅い濁流はレミリアの体内にある全てを洗い流すかのように流れ続けた。
そう、たとえば身体に有害な物質なども、全て――。

「ゆゆゆゆゆゆ」
「幽々子?」
「違うわよ!紫!あああんたいいかげんにしなさいよ!」

鼻腔から流れ続けている液体に負けないくらい紅い顔でレミリアが叫ぶ。

「霊夢は…霊夢はねえええ!!」
「ふふ。すっかり元気になったわね」
「わ、わたしなんか…わたしなんて…って、何?」

レミリアは紫の言葉が含んだ単語に気づく。
元気…?
元気とは…?
そういえば、自分はさっきまで倒れてはいなかったか。
そう、たしかあの薬師と戦って、ニンニクの臭いを嗅がされて…。

「ニンニクの臭いを吸ったのに…苦しくない?」
「あら、気づいたみたいね」
「おかしいわ。臭いすらしないなんて…」

現在、レミリアの嗅覚が吸血鬼の天敵とも言うべきニンニクの臭いを捕らえることはない。
理由はわからない。あの特濃ニンニクジャムの効果がそんなに簡単に廊下から消えるとも思えなかった。

「あ、あのー、ちょっとよろしいかしら?」

ここまで、紫とレミリアのやりとりを呆気に取られてみていた永琳が声をかけた。
魔理沙たちと同様、先ほどまで2人に取り残された感じであった。

「「あら、まだいたの」」
「そんな酷なことはないでしょう!そこの吸血鬼はなんで平然と復活してるのよ!!」
「いや、わたし自身が知りたいんだけど」
「わ、わたしらも知りたいぜー!」

魔理沙をはじめとする仲間達も話に加わる。
全員の視線の先にいるのは、扇子を広げ、怪しく微笑む紫。

「ふ…これぞマヨヒガ家庭の医学『泥吐憑苦棲(でとっくす)』!!」
『な なんだってー!?』

敵味方区別なく、驚く少女達。

「むう…医学を志す者ならば知らぬ者無しといわれるあの秘技を…」
「し、知っているのか永琳ー!!」
「つーか、敵がなんで解説役に回ってんのよ…」

アリスの突っ込みは無視して、永琳は語り始める。






泥吐憑苦棲(でとっくす)…
毒殺は 有史以前からその存在を知られる 最も有名な暗殺方法であるが
それゆえに それへの対策も 数多く考案されてきた
中でも とりわけ突飛な発想によって生み出されたのが この泥吐憑苦棲である
肛門から泥を体内に注入し 消化管を逆流させて口から体外にに排出
その際に 体内に溜まった毒素を一緒に吐き出すという この恐るべき荒療治を体得するには
泥を体内で循環させる気の修行に加え 異物に対する抵抗をつけるため
八年の間 肛門から食事をとると言う 恐るべき鍛錬を必要とした
当時は この驚天動地の修行法に身体が耐え切れず 命を落とすものも少なくはなかったが
明の時代になってから 泥の代わりに術者の体液を使う方法が考案された
代替物として 主に胃液や血液が用いられたが
最もよく使われたのは 一流の道士ならば感情によるコントロールが可能な鼻血であった
ちなみに この驚愕の医術の誕生に手を貸したのが 古代中国の道士・貴 嶺董(き れいとう)であり
彼の名前が 現在で言うところの「キレート効果」の語源になっているのは 言うまでもない

鈴蘭書房刊「オリジナル・トキシン(別名 独創的な毒素)」より





「つまりレミリアは、鼻血と一緒にニンニクエキスも体外に排出したっていうことかー!?」
「な、なんて強引な解毒法なのー!?」
「恐るべしはあの妖怪…っ!月の民でもほんの一部しか知らないあの医術を知っていたなんて…」

頭を抱えて叫ぶ魔理沙とアリス、そして息を呑む永琳。
ようやく鼻血が止まったレミリアは、胡散臭そうな顔で紫に尋ねた。

「そんなのでニンニクの毒を外に出せちゃったわけ?」
「そうよ。まあ、並みの人間や妖怪じゃ到底無理だけどね~」
「どういうことよ」
「あなたの強靭な血管系と、霊夢に対する純情と劣情の混ざりあったもやもやの気持ちが成せる業ってところかしら?」
「な、なんかわけわかんないかつ怒るべきとこかもしれないけど…」

とにかく、とレミリアは続ける。

「…助かったみたいね。礼は言っとくわ」
「どういたしまして」
「勘違いしないで。わたしの霊夢にあんなことしてくれたことも合わせれば、感謝の気持ちなんてマイナスよ」

鋭い眼差しで紫を睨みつける。
先ほどまで永琳にぶつけていたそれよりも、強烈な殺意がこもった視線。
仲間達はその姿を見て――紅い悪魔の復活に快哉を叫ぶのだった。

「さて、永琳とやら」
「え?あ、ああ、何かしら?」
「何かしらじゃないわよ…あなたのニンニク攻撃は破ったわ。これからどうするの?」

またも向かい合う永琳とレミリア。
永琳の対吸血鬼用秘密兵器は全て出し尽くされ、その全てが破られてしまっている。

「どうするって…決まってるわ!」
「何!?」
「毒素(ニンニクが毒、というのも変な話だが)が抜けたから何!?そんなものは…」

永琳は再びニンニクジャムの瓶に手をかける。
確かにニンニクを体外に出して復活はしたが、レミリアがニンニクに弱いことに変わりはない。

「今度は臭いだけじゃない!直接このジャムをあなたの口に突っ込んでくれるわ!!」
「ふん、二度も同じ手を喰うか!」
「甘い!!このジャムは甘くないけどね!!!」

再びジャムの瓶の蓋が開かれ、おぞましい臭いが廊下に充満する。

「くっ…」
「ふん、今更息を止めても無駄!!再びガーリックテイストの夢の中へ飛び込みなさい!!」

思わず動きを止めたレミリアに対し、永琳は一気に距離をつめる。
そのままニンニクジャムをスプーンですくい、レミリアの口元へ近づけていった。
レミリアは口を押さえて何としてもジャムを入れさせまいとするが、もはや息を吸うだけでも十分に卒倒できる距離である。

「ほら!手どけなさい!!」
「むー!むー!」
「そうやっていつまで息を止めてるつもり?さっさと楽になっちゃいなさい!!」

永琳の言うとおり、さすがのレミリアも永遠に息を止めているわけにはいかない。
耐え切れずに息を吸ったところで、ニンニクの臭いが存分に溶け込んだ気体が彼女の気管を満たす!!
先ほどよりも更に近い距離でその臭いを吸い込んだレミリアは、今度こそ再起不能に陥るはず――だが。

「うあ…に、ニンニクいやぁ…って、あれ?」
「吸血鬼敗れたりぃっ!!…って、あら?」

再びニンニクジャムの臭いを吸い込んだにもかかわらず、レミリアの意識は正常に保たれている。
身体の力が抜けてしまったと言う様子でもない。
簡単に言うと、

「き、効いてない…?」

そういうことであった。
レミリアと永琳は互いに顔を見合わせて呆然としている。




「ふ…今のレミリアはニンニクの臭いなんかじゃやられはしないわ!」
「な、なんですってー!?」

自慢げな紫の言葉に、心配そうにレミリアを見つめていた咲夜が驚きの声を上げる。

「マヨヒガ家庭の医学『泥吐憑苦棲(でとっくす)』、その真骨頂はここからよ!」
「い…一体どういうこと!?お嬢様の身体に何が…」
「体内のニンニク的なあれこれを鼻血ごと洗い流した後…レミリアは」
「お嬢様は!?」

息を呑む咲夜とその他。
そして紫の口から衝撃の事実が!

「レミリアは…微妙に鼻が詰まっている」
「…は?」
「いや、だから残った鼻血が、こう、固まってて…」
「それだけ?」
「それだけ」

スキマ妖怪の言うことはいつも胡散臭い。
しかし今この時は、皆「まあいいか」と納得(?)した。
胡散臭いのは、ニンニク臭いよりはマシだと思ったからである。





「…ま、まあいいわ。とにかく、あなたのニンニクジャムはもはやわたしには効かないわ!」
「な、納得行かない…しかし!」

永琳はいまだにジャムの瓶を手放そうとしない。

「臭いが気にならないだけよ!さっきも言ったけど、直接こいつを食べさせてやるわ!!」
「ふん、やってみることね…あなたが」

レミリアは翼を広げると、屋敷の廊下の中空に浮かび上がる。

「わたしのスピードについて来れるんなら!!」
「何っ…速い!!」

レミリアの身体能力は、スピード・パワー全ての面においてそこらの人妖を遥かに凌駕している。
ジャムを乗せたスプーンを持って突撃してくる永琳をひらりとかわし…鋭い爪で攻撃を加える!

「…くっ!」
「あら、よく見切ったわねえ!でも、いつまで続くかしら?」

二撃、三撃とレミリアが追い討ちをかける。
永琳は紙一重でその攻撃をかわすが、避けるのに手一杯で反撃できない。

「妙な夢を見せてくれたお礼よ!たっぷり時間をかけてズタズタにしてあげるわ!!」
「ニンニクが…ニンニクが効きさえすればこんな小娘に…!」
「無駄無駄ァ!!対吸血鬼用秘密兵器とやらを失ったあなたに勝機はない(あっても負けないけどね)!!」





「よっしゃー!いけっレミリアー!そのまま倒せー!!」
「お嬢様、たっぷり時間をかけたらダメなんですよー!!」

ガッツポーズを決める魔理沙の横で、咲夜が渋面を作る。
が、その顔はどこか嬉しそうである。
紅い悪魔の一の従者たる彼女にとって、強い主の姿は何より誇らしい物なのだろう。

「うふふ。霊夢の唇も頂いて、レミリアも復活して、一石二鳥ね」
「ねえ紫、そのことなんだけど」
「あら、どうしたの幽々子?やきもち?」
「違うわよ…さっきから霊夢が微動だにしていないんだけど」
「え?」

見ると、霊夢は先ほど紫の熱いベーゼを受け取った状態のままで凍り付いてしまっている。

「あらあら…なんかおとなしいと思ったら、立ったまま大往生なさってたのね」
「とりあえず、ひっそりと死亡確認しておくわね~」
「いやいやお二方、助けましょうよ…」

妖夢は呆れた顔で霊夢の頬をぺちぺち叩いていた。
よほどのショックだったのだろう、何をやっても霊夢は眉一つ動かさない。
一体誰が知る、あれが霊夢の「初めてのチュウ」だったということを…。






永琳は壁際まで追い詰められていた。
レミリアの攻撃も既にその身体を幾度かかすめ、数箇所の傷を作っている。

「もう逃げ場はないわよ…チェックメイトね」
「…まだ、早いわ」
「往生際が悪い!この一撃であの世へ行きなさい!!」

腕を引いたレミリアの貫手の先、鋭い爪が光る。
狙うは永琳の左胸――心臓の位置。
この距離からかわすことは不可能、両手でガードしてもレミリアのパワーを食い止めることはできないだろう。

「ニンニクなんぞでこのわたしに恥をかかせた罪、今こそ償え!!」

敵の急所まで、最短距離を一直線にレミリアの爪が走る。
神速の一撃が永琳の胸を貫こうとする、その瞬間。

「!?」

何者かがレミリアの腕を掴んだ。







一方その頃。

「だだんだんだだん」

紅い悪魔が住まう館、紅魔館。
今はその主とメイド長のいない館は、偽の月光を受けて鈍く光っていた。

「だだんだんだだん」

紅い暗い廊下に響く、謎の歌声。
それはある場所を目指して、通路を進んでいた。

「フランちゃ~ん最強だだんだんだだん!!」

歌は無邪気に朗らかに、紅い闇の中にこだまする。
高らかに歌い上げる、それは虹色の翼を持った少女。
悪魔の妹、フランドール・スカーレットその人であった。
訂正、その吸血鬼であった。

「だだんだんだだん…っと、とうちゃ~く!」

歌声の止まった場所、そこは巨大で荘厳な扉の前。
幻想郷最大の蔵書を誇る知識の泉、ヴワル魔法図書館の入り口であった。

「おいすー!フランちゃんインしたおー!!」

勢いよく開け放たれた扉の向こう。
そこには(レミリアと咲夜を除く)紅魔館の重鎮(?)が顔をそろえていた。
魔法図書館の主、パチュリー・ノーレッジ。
図書館の司書、小悪魔。
紅魔館門番、紅美鈴。

「…何よその歌は」
「妹様、テンション高いですねー」
「頼むからもう屋敷の外に出たいとか言わないでくださいね…(第1部参照)」

三者三様の態度でフランドールを出迎えた。
この3名に十六夜咲夜とスカーレット姉妹を加えた6名が、紅魔館最高評議会(正式名称・紅魔館紅茶愛好会)である。

「ふふ、よくぞ聞いてくれたわねパチュリー!これぞ『フランちゃん愛のテーマ』(作詞・作曲 フランちゃん)!!」
「作曲は間違いなくあなたじゃないでしょうに。…ほら、いいから座って」

眠そうな目をしたパチュリーは、意気揚々と答えるフランドールを自分たちと同様に着席させる。
図書館の片隅に置かれた丸い机と6つの椅子。
最高評議会のメンバーが会議(と称したお茶会)を行う円卓である。
さて、彼女たちがここに集まっているのにはわけがある。

「さて、とりあえず必要なメンバーがそろったわね」

パチュリーは一同を見渡して言った。
そして、机の上に置かれた水晶玉に視線を移す。

「レミィと咲夜が異常な月を調べに外に出たことはみんな知っての通りね」
「はい」
「もちろん」
「わたしも行きたかったなー」

そのまま水晶玉を手にとり、目の高さまで持ち上げる。

「わたしはこれを通して、レミィたちの行動を見てたの」
「暇だったんですね」
「覗きはよくないと…思いますよ」
「パチュリーも行きたかったの?」
「…とにかく」

パチュリーは緊張感のない連中を(特に自分を暇人扱いした小悪魔を)じろりと見回すと、水晶玉に皆の目を向けさせた。
そこに映った像。
それは、彼女たちが良く知る者の姿であった。








「な…なんで、おまえが…」
「あら、なんとか間に合ったわね」

レミリアの手刀は永琳の胸の手前で止められていた。
何者かが横からその腕を掴んだのである。

「間に合った?」

永琳の言葉に疑問を感じ、レミリアは彼女ともう一人を見比べる。
もう一人――先ほどからレミリアの腕を掴んでいる者を。

「薬が効いてくるまで結構時間がかかったの。自分から目覚めるまでちゃんとした効果は得られないし…」
「薬?目覚める?一体何を…」
「ふふ、それはこのコ自身に聞いてみたら?ねえ…」


「ルーミアちゃん」


「そーなのかー?」
「な…」
「あら、驚いた?でも、さっき一度会ってるでしょう?」

万力のような力でレミリアの腕を締め付けている相手。
それは第1部においてリグルのライダーキックでブッ飛ばされ、ついさっきは永琳に十字架代わりに使われていたルーミアだった。

「わたしは会ってないよ」
「あ、さっきはおねむだったものねえ。気分はどうかしら?」
「とってもいいよ!なんかよくわかんないけど、不思議な力がみなぎるみちる!って感じで」
「そう、それはよかったわね~」

いつの間にそんなに仲良くなったのか、永琳とルーミアは楽しげに談笑している。
しかし、その間にもルーミアはレミリアの腕を放そうとはしない。

「ちょっと、どういうことよ!?てゆーか放しなさいよ、腕!!」
「いやよ~」

レミリアの一喝に怯むことなく、それどころか小ばかにしたような態度をとるルーミア。

「…おい、暗くするしか能のない雑魚妖怪。わたしが誰かわかっているのか?」
「レミリア・スカーレットでしょ?」
「それがわかってて、そんな態度がとれるってことは…」
「まあまあ、落ち着きなさいな」

語調を強めるレミリアと、それを見ても眉一つ動かさないルーミアの間に永琳が割って入る。

「どう?すごい力でしょう。あなたのパワーでも振り切れないはずよ」
「薬、効果…なるほど、あんたの妙な薬でこの妖怪に力を与えたってわけか」
「お察しの通り。力だけじゃなく、知能や魔力も格段にアップしているわ。そこらの妖怪じゃ足元にも及ばない」
「ふん…どんな怪しい薬を使ったことやら」

永琳の言葉通り、どんなにもがいてもルーミアの握力からは逃げられそうにない。
それでも相手に弱気を見せまいと、敵を鋭い目でにらみつけた。

「よくぞ聞いてくれたわ!!これぞ我が薬学の集大成『えーりんスペシャル 強い妖怪をつくるネオ』!!」
「そ、そーなのかー!!」
「いや、自分が飲んだ薬に驚いてどうすんのよ…」

そもそも何よそのオ○レ兄さん…と言いつつ、レミリアは(律儀にも)先を促す。

「で?その薬とやらの効果は?」
「えーりんスペシャルは妖怪の持つ身体能力・魔力・知力を飛躍的にアップさせる!」
「わかりやすいわねえ」
「一口服用すれば、毛玉でもEXボスに匹敵する強さを手に入れる!ましてルーミアちゃんはステージボス…今のこのコはphantasmボス並み!!」

得意げに語る永琳を呆れたような目で眺めつつ、レミリアは考える。
もしも永琳の言葉が真実ならば、現在のルーミアは紫と同等かそれ以上の実力を持っていることになる。
負ける気はしないが、楽に勝てるという自信もない。

「ふっふっふ…そして今のルーミアちゃんはわたしたちの傭兵!」
「そーなのだー!!」

ちなみにルーミアを傭兵として雇ったキッカケは…




永琳「う~ん、お餅が余っちゃったわねぇ」
てゐ「じゃ、わたしが外に出て売ってくる!『兎がついた開運福餅 1個7800円』!!」
永琳「待ちなさい。今夜は竹林の外に出ちゃダメって言ったでしょ?ていうか何その値段」
鈴仙「師匠~!!」
永琳「あら、ウドンゲ。あなたは姫と一緒に奥にいなさい」
鈴仙「だって、庭に誰か落ちてきたんですよ」
永琳「落ちてきた?」

??「きな粉餅おかわりー!!」
鈴仙「よく食べますね、この娘…」
永琳「いいんじゃない?餅が悪くなっちゃう前に使い切れてよかったわ」
てゐ「む~、絶対ウケると思うんだけどなあ、開運福餅…」
永琳「そうだあなた、お名前は?」
??「名前…えーと、ルーミア?」
永琳「いや、疑問形で返されても」



以上。
餅に釣られて永遠亭に加担したルーミアは、永琳の薬によって驚異のパワーを得た。
そして今、その驚異のパワーは脅威としてレミリアの前に立ちはだかる。

「ちなみに薬は餅に混ぜて飲ませたわ」
「何気にひどいわね、それ」
「そして薬の副作用で眠ったこのコをここまで連れてきたの」
「んー?最初は十字架代わりに持ってきたんじゃ…って、ああ!?」

レミリアはあることに気づいて声を上げる。

「まさか…」
「そう、全てはここに至るための伏線。ニンニク攻撃はルーミアちゃんが目覚めるための時間稼ぎね」

あのまま倒れてくれてもよかったけど、と永琳は付け加える。
対吸血鬼作戦、ニンニクジャム、すべてはこのPh(ファンタズム)ルーミアを目覚めさせるための過程でしかなかったのだ。

「さて、吸血鬼さん」
「…何よ」
「ここからは、わたしじゃなく彼女がお相手するわ」

永琳は微笑むと、ルーミアに顔を向ける。

「それじゃルーミアちゃん、お願いね」
「やっつければいいの?」
「そう。ちゃんとやってくれたら納豆餅食べ放題よ」
「なっとうもち!よ~し、サクッと倒しちゃうわよ~!!」

レミリアの腕を掴んだまま、意気込むルーミア。
彼女の周囲に、巨大な魔力が充満していく。

「ぐっ…放せ!放しなさいよ、もう!」
「いやよ。げっこくじょう~♪げっこくじょう~♪」

1面ボスの手に捕らえられ、紅魔郷ラスボスは必死にもがく。
そし、ルーミアの周囲に満ちた魔力が一度に爆ぜる。

「これは…」

ルーミアの身体を中心にして広がっていく闇。
それは普段の彼女を覆っているものよりも遥かに濃く、大きかった。
闇は屋敷の廊下を埋め尽くし、窓の外へ広がり――そして。
竹林を覆いつくした。





~その頃、ヴワル魔法図書館~

「あれー?なんか真っ暗になっちゃったねー」
「闇を操る能力でしたっけ?こんなにすごかったんだ…」

水晶玉を見つめながら、フランドールと美鈴が首を傾げた。
無論そこに映っている景色は、永遠亭のレミリア様実況中継である。

「あの薬師、やるわね…名前はともかく、あれだけ妖怪の能力を引き上げる薬はそうそう作れないわ」
「パチュリー様の薬は大体完成前にドリフ大爆発で『だめだこりゃ』ですもんね~」
「何か言ったかしら?小悪魔」
「いえいえ」

現在、パチュリーの水晶玉に映る中継映像は漆黒の闇に包まれている。
永遠亭を竹林ごと覆うルーミアの暗黒は、七曜の魔女の力を持ってしても先を見通せなかった。

「でも、あの薬飲んだらPh並みの強さになるんですか…ちょっと興味あるかも」
「ふぁんたずむ美鈴?ん~、想像できないなぁ」
「あ、それわたしもやってみたいです。Ph小悪魔…」
「ファンタズムでも名前が無いのね…って、そうじゃないわよ」

パチュリーは再び全員の目を水晶玉に集める。

「相手はかなりの強敵、そしてこの状況。レミィのピンチよ」
「ええー!お姉様が!?」
「そんな…お嬢様に限って…」
「あ、皆さんちょっと見てください!!」

4人の緊張感が高まる中、小悪魔が驚いた声を上げる。
暗黒を映し出す水晶玉に一点の光が現れていた。
それは闇を鈍く照らし出す、真紅の光。






文字通り一寸先も見えない闇の中、レミリアの眼前に光の玉が浮かんでいた。
光の玉は1つ、2つ…とその数を増やして行き、合計5つが彼女の周囲を漂う。

(やれやれ…本来こんな使い方をするものじゃないんだろうけど)

玉の正体は、彼女の使い魔「サーヴァントフライヤー」。
普段はレミリアの周囲を守るように漂い、遠隔操作で弾を放つことも出来る便利な…

(便利な…何なのかしらね、こいつらは)

今回月を取り戻しに行くに当たり、居候であり友人であるパチュリーから渡されたのがこの使い魔だった。
その実態が何かについては、例のごとく難解な単語をふんだんに使った丁寧な説明によってグレーゾーンに。
使い魔と言うからには生物なのだろうが、生きている「もの」としての意思や表情をいまいち感じない。
かといって、単なる弾幕発生装置かと言われればそうでもない。
とにかく、彼女は今パチュリーから渡されたそれを4+予備1個全て召喚していた。
その目的とは…

「はぁ…吸血鬼ですら何も見えない暗闇なんてね…」

ズバリ、照明であった。
範囲も濃度も桁違いなPhルーミアが作り出した闇の中では、夜を歩くヴァンパイアですら前が見えない。
そこで、鈍く紅い光を放つサーヴァントフライヤーを呼び出して灯りとしていたのである。
ちなみにルーミアは闇を展開するとともにレミリアの腕を放し、今はどこかに潜んでいるはずだった。
仲間達の姿も見えない。
先ほどまでいた永琳も今いずこ、レミリアは完全に闇の中で孤立している状態にあった。

「ルーミア!永琳!どうした、かかってこないの!?暗闇に紛れて逃げるつもり!?」

誰の姿も見えない暗闇に向けてレミリアが叫ぶ。
まさかあのまま何もしてこないとは思えないが、2人の気配をまるで感じない。
そう思っていた矢先のことであった。

「わはー」
「!?」

暗黒の中に、緊張感の無い声が響き渡った。

「この声…ルーミアね!出て来い!!」
「いやー♪」

未だにその姿は見えないが、暗闇のある一点からその声は響いていた。

「そこっ!サーヴァントフライヤー!!」
「およ?」

声のした方に向かって、5つの光球から弾が放たれる。
一瞬、紅い光で暗闇が照らされ――しかし、ルーミアを視認することはできない。

「やったか!」
「『やったか!』って言ったときは大抵やってないものよ~」
「何!?」

全ての弾が消えた後で、相変わらず余裕たっぷりのルーミアの声。
レミリアの狙いが甘かったか、あるいはルーミアの回避能力が勝っていたか。
少なくとも、ダメージを与えていないことは確かだった。

「それじゃ、こっちからいくわよ!」
「くっ…」

レミリアは使い魔を周囲に集め、攻撃に備える。
しかしこの暗闇の中、敵弾の飛んでくるタイミングも方向も特定できない。
完全に後手に回らざるを得ない状況であった。

「くらえ~!月符『ムーンライトレイ』!!」

レミリアの周囲、広範囲にわたって弾がばらまかれる。
同時に、左右から彼女を挟みこむように太いレーザーが迫ってくる。

「ふん、霊夢から聞いて知ってるわ!2本のレーザーは単なる脅し…無駄に動かなければ当たらない!」

かつてルーミアと交戦した霊夢から聞いた話では、ムーンライトレイのレーザーは決して交わることなく消えると言う。
下手に避けようとせず、ギリギリまで引きつけてレーザーが消えるのを待てばいい。

「どれだけ強くなったか知らないけど…わたしがこのスペルを知っていたのは計算外だったかしら?」
「そーなのかなー?」

それでも、ルーミアの声は相変わらず能天気であった。

「しかもこんな真っ直ぐなレーザーじゃ居場所が丸分かりね!神槍『スピア・ザ・グングニル』!!串刺しになりな!」

レーザーに挟まれた状態でスペルカード宣言をするレミリア。
彼女の予想通り、2本のレーザーは至近距離で消え――

「!?」
「わはー。弾幕もファンタズム並なのよ!」

消えない。
緑色の閃光は消えることなく、レミリアを左右から挟み撃ちにしようとしていた。

「…っ!!!」

間一髪、上空へ飛び上がりレーザーをかわす。
それと同時に、先ほど発動させた真紅の槍を放つ。

「喰らえっ!!」

いかに強い相手であれど、初見でこのスペルをかわせる者はそういない。
込められた魔力、投擲の速度、あらゆる面で完璧な一撃。
レーザーに驚いて一瞬怯んだものの、おおよその狙いはつけている。
次の瞬間にはルーミアを串刺しにしているはずの神槍は――しかし虚空に消えた。

(手応えがない!?かわされた!?)

真紅の槍が消えた闇の中、サーヴァントフライヤーだけが鈍い光を放つ。
再度の攻撃に備えて身構えるレミリアの耳に、何かが空気を切り裂く音が響く。

(飛び道具?…これは!?)

レミリア目がけて飛んできたそれは、彼女がよく見慣れた物体。

(わたしの槍!?バカな!!さっきのを受け止めたっていうの!!?)

彼女自身が放ったはずの槍が、先端を紅く光らせて突っ込んでくる。
その上、スピードは先ほどの数倍。当たれば自分が串刺しだ。

「もうっ…次から次へと!!」

レミリアは今度は床にしゃがみこみ、槍をやりすごす。
しかし、それが仇となった。
槍の通り過ぎた頭上から、大小さまざまの弾が雨のように降り注いだ。

「しまっ…」

た、と言う間もなく、レミリアの周囲に弾が炸裂する。
槍の投擲は囮であった。本命はこちらのばら撒き弾。
頭上からの攻撃を選択する辺り、最初からレミリアがしゃがむことを想定していたようである。
囮を使った攻撃、敵の行動を予見したポジション取り。
いずれも普段のルーミアでは成し得ない高度な駆け引きであった。
さらにスピア・ザ・グングニルを受け止めて投げ返す腕力――まさに魔力・知力・体力全てが桁外れに強化されている。
その程度の作戦は普通じゃないかって?お客さん、普段のルーミアの頭でそれができるなんて言うんじゃないだろうね。

「ふふふ、地べたに這いつくばって蜂の巣になれ~」
「うぐ…」

持ち前の反射神経でいくつかの弾をかわしたものの、しゃがんだ状態で頭上からの攻撃を避けるのは至難の業だった。
レミリアの身体にはいくつもの擦過傷や火傷のあとが出来ている。
さらに直撃した弾もあったのか、腹の辺りに紅い血が滲んでいた。

「あ、まだ立てるのかー」
「ふん…雑魚妖怪風情が…つっっ!」

闇の中、声だけのルーミアに圧倒されるレミリア。
腹部に受けた傷は予想以上に深かった。





「お、お姉様ー!!」
「そんな!?お嬢様のスペルがこんなに簡単に…」

互いに顔をくっつけるように水晶玉の前に詰め寄り、驚愕の声を上げるフランドールと美鈴。
水晶玉にうつされた映像の中では、姿の見えない相手に翻弄されるレミリアの姿があった。

「パチュリー様、このままでは…」
「ええ。レミィがやられるのも時間の問題ね」

パチュリーは腕を組んでじっと映像を見つめていた。
こうしている間にもルーミアの攻撃は次々とレミリアの身体にヒットし、真紅の流血を増やしていく。
吸血鬼の再生能力をもってしても回復が追いつかないダメージの蓄積であった。

「えぇ!?そんな、お姉様負けちゃうの!?」
「あのお嬢様が!?」
「この状態が続けば…ね。Phレベルの敵を相手に取った視界ゼロの戦闘は、さすがにレミィでも分が悪い」

パチュリーは淡々と告げると、集まった3人の顔を見渡す。

「どうやら『あれ』をやるしかないようね」
「『あれ』?」
「まさかパチュリー様、『あれ』を!?」

思い当たる節があるのか、美鈴の目が大きく見開かれた。

「『あれ』と言いますと…あっ!わかりました!千羽鶴折るんですね!」
「…(パチュリー)」
「…(美鈴)」
「おりがみー?(フランドール)」
「『レミリア様早くよくなってね』ってメッセージをつけて…って、あれ?」

なんとなく薄い周りの反応に首をかしげた後、小悪魔は言った。

「…よ、寄せ書きでしたか…?」







「あれ?もう終わりかな?」
「うぅ…この、雑魚、が…」

地面に膝をつき、見えない敵をにらみつけるレミリア。
もはやその肉体は限界を超え、意識を保つので精一杯であった。
それほどに、ルーミアの攻撃から受けたダメージが大きい。
漆黒の闇から放たれる高密度弾幕。
当然避けるのは至難の業であり、レミリアは幾度もその攻撃を喰らった。
さらに敵の姿を捕捉できず、自分からは攻撃の仕様がない。
一方的な展開であった。

「雑魚はどっちよ。悔しかったら弾の一発でも当ててみることね」

勝ち誇ったようなルーミアの声が響く。
しかし、今のレミリアは言い返す気力もなくなり始めていた。

(くそ…身体が、動かない…)

両手両足にそれぞれ大きな傷があり、血が流れている。
さらに最初に喰らった腹部の傷跡もまだふさがっていない。
細かい擦り傷の類はもはや数えるのもばかばかしいほどであった。

(血が、流れすぎた…ふふ、吸血鬼が失血死なんて冗談にもならないか…)

地面に片膝をついたまま、そこから動けなくなっていた。
戦う意志すら萎え切ってしまうほどの疲弊。

(格好つかないわね…やっと出番が回ってきたのに…)

考え得る全ての手段を試して、この状況を打開しようとした。
そして全ての手段が通じず、状況を更に悪化させてきたのである。
打つ手なし。
この状態からできることと言えば、もはや白旗をあげる程度だが――。

(いや…降参は、しない。意識があるうちは…気持ちだけでも、戦う!)

あらゆる人妖が恐れる「紅い悪魔」としての誇りがそれを思いとどまらせる。
それでも、彼女には反撃するだけの力はもう残されてはいない。
このまま、とどめを刺されるのを待つしかない。

(さあ、来るなら来い…このレミリア・スカーレット、逃げも隠れもしない!!)

最後の力を振り絞り、レミリアは立ち上がる。
たとえ次の一撃でとどめを刺されても、ただではやられない。

「サーヴァントフライヤー!わたしを守れ!!」

4+1個の使い魔を周囲に集める。
Phルーミアの攻撃を防ぐにはいささか、というかかなり頼りないが、構わない。
弾1発分でもいい、防げるだけ防ぐ。
そこにできた僅かな隙で、こちらの最後のスペルを発動させる。
紅魔「スカーレットデビル」。
倒せるとか、倒せないとかはもうどうでもいい。
この攻撃に全てをかける。

(一矢報いる…)

ほんの少しかするだけでも構わない。
とにかく、当てる。
自分が倒れた後で、味方の誰かがルーミアに戦いを挑むなら――せめて、僅かでもダメージを与えてから、倒れる。
満月の奪還を目前に無様な敗北を喫した自分に出来る精一杯の償いだ。
仲間に対する、ケジメだ。

「我が名は――レミリア・スカーレット!」

強い声で名乗りを上げた直後。
レミリアの耳に、ある「声」が響いた。
この場所では聞こえるはずのない「声」が。

「これは…」





そこから少しだけ時間を遡った紅魔館。
その巨大な庭に、紅魔館に住む全ての人間及び妖怪が集結していた。

「全員そろったかしら?」

規則正しく並んだ従者達を前に、朝礼台に乗ったパチュリーが言った。
なんで朝礼台なんて物があるかって?紅魔館では毎日朝礼があるのだ。たぶん。

「紅魔館メイド部隊、十六夜メイド長を除き全員集合しました!」
「門番隊、今日も無遅刻無欠席です!」
「ヴワル司書部隊、だいたい集まってます!」

咲夜の代理を務める副メイド長、美鈴、小悪魔がそれぞれパチュリーの問いに答える。

「よろしい。なんか一部テキトーな奴が混じってた気がするけど…とにかく!」
「!」

従者一同の間に緊張が走る。

「今から、紅魔館大鐘音エールをやるわよ!!」
「ええっ!!?」
「本気ですか、パチュリー様!!」
「正気ですか、パチュリー様!!」

メイド、門番、司書、全ての従者の間でどよめきが起こる。

「小悪魔、あなたさっきからケンカ売ってるの!?…じゃなくて!!わたしは本気で正気よ!!いい?よく聞きなさい!」

パチュリーは話し始めた。
レミリアと咲夜が、満月を取り戻すために夜空へ飛び立ったこと。
現在、満月を隠した相手とレミリアが交戦中だということ。
そして、レミリアが窮地に立たされていること。

「そんな…」
「お嬢様が…」

先ほどとは違った理由で、従者達の間にどよめきが起こる。

「状況が飲み込めたかしら?というわけで、大鐘音エールをやるわよ!」
「お待ちください、パチュリー様!」
「何かしら、美鈴?」

門番長がパチュリーの前に進み出た。

「大鐘音エールはメイド長である咲夜さん無しでは出来ないはずです…先頭でエールを切る人がいなければ…」
「ああ、それはあなたがやりなさい」
「え!?」
「咲夜が来る前はあなたがメイド長だったでしょう。やり方はわかるはずよ」
「あの、でも、わたしは門番長として旗手をやらないと…」





紅魔館大鐘音エール…
古より紅魔館に伝わる、必勝祈願のエールである
当主が決死の覚悟で戦いに挑む際 従者一同が魂を込めてエールを切る
伝統的にメイド長が先頭でエールを切り 門番長が旗持ち、司書長が太鼓を叩くという役割分担になっている
屋敷内の全ての従者が集結し 声帯の限界を超える大声をそろえて放つ掛け声は
博麗大結界をも突破し 外の世界や魔界にまで響き渡ると言う
ちなみにその騒音ぶりに驚いたあるポルターガイストが
「この騒がしさには太刀打ちできないPO」
と 敗北感のあまり三日間鬱状態になったのは あまりにも有名なエピソードである

武輪流魔法書院刊 「おいでよ紅魔館!B型以外は帰れダラズ」より





「それも心配ない」
「だって、あの旗はわたし以外の従者にはとても…」
「そう、あなた以外の従者にはあの旗を持ち上げられる者はいない。だから彼女に頼んだわ」
「え…?」

何のことやらわからず、首を傾げた美鈴の背後を指差すパチュリー。
美鈴が振り向いたその先には――。

「えへへ、はたもち~♪」
「い、妹様!?」
「そう。彼女の腕力ならあの旗を持ち上げられる」

フランドールは楽しそうに笑いながら美鈴に近づいてくる。

「美鈴、わたし頑張るよ!!」
「あ、そ、そのですね…」
「…わたしじゃ信用できない?」
「そそ、そんなこと滅相も…」
「大丈夫だよ」

表情を引き締めると、美鈴の目を真っ直ぐに見つめる。

「ちゃんとやるから…それに」
「…」
「お姉様を応援したいの。わたしも」
「妹様…」

その瞳の中には強い光が宿っていた。
今はいない誰かによく似た、強い意志と誇りをたたえた光。

「…重いですよ」

あの旗も。そして、旗を持つと言う役割も。
厳かに告げる美鈴から目を逸らすことなく、フランドールは答える。

「わかってる」
「そうですか…それでは、よろしくお願いします」
「うん!」
「旗とポールは物置小屋の中にあります。今取りに行かせますので、しばしお待ちを」

数人のメイドにその旨を告げると、美鈴はパチュリーの方へ向き直る。

「それでは…不肖紅美鈴、紅魔館大鐘音エールを切らせていただきます」
「頼んだわ。レミィの勝利と…そして『あの子達』の真の力の発動はあなたにかかっているわ」
「…承知」

美鈴は朝礼台に登り、集まった従者達を見渡す。

「ただ今より、紅魔館大鐘音エールを行うっっ!!」
『押忍!!!!』

全員が声をそろえて答える。
かつて美鈴がメイド長だった頃は、こうして彼女の号令一つで紅魔館の従者が瞬時にまとまっていたのである。

「太鼓!!」
「押忍!!」

朝礼台の横、普通のものより二回りは大きい大太鼓を持った小悪魔が答える。

「旗!!」
「押忍!!」

さらに朝礼台を挟んで小悪魔の反対側、フランドールが答える。
彼女の両手が抱えているのは、縦10m、横7m、ポールの重さを含めると300㎏にもなる巨大な旗。
畳50畳敷きのバケモノ旗、通称「吸血旗」であった。

(届くはず…きっと、あの娘に!!)

物陰から除くパチュリー(喘息の発作の危険があるためエールには不参加)が拳を握り締める。
そして、大地を揺るがし、天を貫く魂のエールが始まった――。







(聞こえる…)

最初は、微かな音だった。
消耗しきった自分の聴神経が起こした錯覚だと思った。

(聞こえる…)

しかしその音は、次第に大きく膨らんでいった。
微かな音は、いつしか言葉を伴った「声」になっていた。
遥か遠くから届く声。

(聞こえる…)

1人じゃない。
大勢の言葉が重なった、巨大な声の塊。
そしてレミリアにとって、その1人1人の声に聞き覚えがあった。

(聞こえる…これは、まさしく…)

最後の一矢を相手に見舞おうとする瞬間。
徐々に大きくなる声が、レミリアの耳に響いてきた。


『ゃ!!』
『りゃ!!』
『みりゃ!!』
『れみりゃ!!』
『ー れみりゃ!!』
『レー れみりゃ!!』
『フレー れみりゃ!!』
『ー フレー れみりゃ!!』
『レー フレー れみりゃ!!』
『フレー フレー れみりゃ!!』


月夜を揺るがす魂の叫び。
紅魔館名物「大鐘音」である。

(皆…どうして!?)

自分は今夜の「お出かけ」の目的を一部の者にしか話していない。
それに、大鐘音エールは主が窮地に立たされたときに行われるはず(窮地に立たされていることは確かだが)。
なぜ、館の者たちが現在の自分の状況を知っているのか。

(ま、パチェ辺りが覗いてたんでしょうね)

あの出歯亀め、と毒づきながらも、レミリアは心の中で友人に感謝の意を述べる。
絶えることなく送られてくる応援のメッセージ。
従者一人一人の顔が目に浮かぶようだった。

(ありがとう、みんな…そして、ごめんなさい!)

レミリアの目にいつもの光が戻ってきた。
誇りと狂気と、恐怖をたたえた紅い光だ。

(せめて一矢報いるなどと…弱気になったわたしを許して!!)

敗北を認め、自己満足の一撃を狙っていた自分はもういない。
今ここにいるのは、たった一つ「勝利して支配する」ことだけを望む夜の女王だ。
命の炎が燃え尽きるその瞬間まで、完全勝利を狙う気高き悪魔だ。

(わたしは勝つ!勝って永遠の満月を取り戻す!!)

仲間全員にツッコまれた我侭な目的が、レミリアの闘志を紅く燃え上がらせる。
全身の傷も疲労も、癒えることはない。
しかし、彼女の燃える闘魂が、痛みも疲れも意識の彼方に弾き飛ばす!!

「おい、宵闇妖怪!!わたしの声が聞こえるか!!」
「なーにー?」
「すっかり勝った気分でいるようだが…真の勝負はこれからだ!!」

レミリアは吼えるようにスペルカード宣言をする。

「紅魔『スカーレットデビル』!!」

レミリアの身体を中心に、紅い光の奔流が走った。
四方に闇を貫く光を、しかしルーミアはひらりとかわしてのける。

「へー。まだそんな力が残ってたんだ…でも、わたしには当たらないよ~」
「くっ…いや、まだだ!サーヴァントフライヤー!!」

もはや紅い悪魔には勝利しか見えない。
そして勝利が見える限り、戦うのをやめないのだ。





(お嬢様…頑張って!!わたしたちがついています!!)

「フレー フレー れみりゃ!!」
『フレー フレー れみりゃ!!』

美鈴の号令に合わせて、従者達の声が響く。
限界を超えた大声に身体が耐え切れず、ある者は涙を流し、ある者は頭に血管を浮かび上がらせている。
しかし、エールを送るのをやめる者はいない。

「フレー フレー れみりゃ!!」
『フレー フレー れみりゃ!!』

朝礼台の上の美鈴も、喉から流れたのか、口元から血がしたたっている。
両脇を固める太鼓持ちと旗持ちも、苦痛に顔を歪めていた。

(まだ…まだ、腕を止めるわけにはいかない!!)

巨大な太鼓を叩き続ける小悪魔の腕は、既に筋肉がパンパンに張り詰め、青筋が浮かんでいる。
しかし、一分も力を弱めることなく、撥を太鼓に叩きつける。

(お嬢様が勝つまで…たとえこの腕が千切れようとも!!)

一方、超巨大旗(通称「吸血旗」)を掲揚するフランドールは、さらに限界ギリギリな表情をしていた。

「くぉの…オバケ旗ぁ!!」

両腕を回しても足りないほどの直径を持つ太いポールを抱え、天に向かって掲げる。
ただそれだけの作業が、彼女の腕力の限界をたやすく超えている。

(美鈴、いつもこんな重いのを上げてたんだ…だけど、わたしだって!!)

300kgを超える吸血旗を必死で直立させながら、偽りの月がかかる空に向かって吼える。

「わたしは、お姉様の妹なんだ!!!」

地獄の大鐘音エールは続く。
そして、それを見つめる少女は…。

(あと少し…あと少しで、『あの子達』の真の力が発動する!!)

パチュリーは再び水晶玉に視線を移す。

(レミィ…負けないで!!)







相変わらず、レミリアの苦戦は続いていた。
闇の中から放たれるルーミアの攻撃を出来る限りかわし、すかさずサーヴァントフライヤーのショットで反撃する。
攻撃が当たったかどうかはわからない。
ただ、全く薄くならない闇と止まない攻撃が、敵が未だ健在であることを教えている。

(負けない!…とは言ったものの、やっぱりこの闇がやっかいね…)

こちらからの攻撃は標的を定めることすら出来ず、相手は全方位の死角から好き勝手に攻撃してくる。
加えて、一度は自身に勝敗をあきらめさせたダメージの蓄積がある。
このまま戦い続ければ、100%自分の勝利は有り得ないだろう。

(吸血鬼の台詞じゃないけど…光が欲しいわね)

勝つためには、まずこの闇を払わなければならない。
そう…自分は勝たねばならない。

『フレー フレー れみりゃ!!』
『フレー フレー れみりゃ!!』

休むことなくエールを送り続ける、従者達のためにも。





今レミリアがいるのと同じ闇の中、彼女の激戦地帯から少し離れたところ。
永遠亭に突入した仲間達は、闇に飲み込まれて離れ離れになっていた。

「お嬢様…」

咲夜は一人、音を頼りに主の姿を探していた。
時折聞こえる弾幕の炸裂音、そしておそらく主とルーミアが交わす声。
一寸先も見えない闇の中を進む咲夜にとっての唯一の手がかり――その中に、聞き慣れた声が混じった。

『フレー フレー れみりゃ!!』
『フレー フレー れみりゃ!!』
『れみりゃ!!』
『れみりゃ!!』

それは本来ならば、自分が仕切っているはずの大鐘音エール。

「なぜ…まさか、お嬢様にピンチが!?」

焦燥。
しかし、別の感情が彼女を支配する。

(仕切っているのは美鈴かしら?旗持ちは誰が…それより)

大鐘音エールを仕切るメイド長としての使命感が頭をもたげる。
自分を除く全ての従者が主にエールを送っている。
ならば、従者の長としての自分がなすべきことは…。

(あなたたちの声…ここからわたしが、ダイレクトに届ける!!)

咲夜は両足をそろえ、両手を天に掲げる。
大きく息を吸い込み――そして叫ぶ。

「フレー フレー れみりゃ!!」

今ここに、紅い館の全ての従者が参加する大鐘音エールが完成した。







「これは!?」

水晶玉を見つめていたパチュリーの顔に驚愕が走る。
そこには、たった一人でエールを切り続ける咲夜の姿。

「届いた…大鐘音のエールは、あの娘たちの場所まで届いてたんだわ!」

それはつまり、レミリアの元にもそれが届いたことを意味する。
そして、パチュリーが待つ「あるもの」の発動をも…。

「みんな!みんなのエールは、レミィたちの場所へ届いてるわ!!」

朝礼台の前へ駆け出し、エールを送る従者達を励ます。
しかし、そんな彼女の目に驚くべき光景が飛び込んできた。

「妹様…」

フランドールの持った巨大な旗が、ゆっくりと角度を下げ始めていた。



(うぁ…やばいかな、これ…)

吸血旗のあまりの重さに、数刻前からフランドールの意識が耐えられなくなってきていた。
必死でポールを抱える両腕にも、限界以上の負担がかかり続けている。

(だめだ…もう目もだんだん見えなくなってきた…手足の感覚が、ない…)

幼い肉体は全身汗だくとなり、それが掴んだポールを滑らせる。
身体が上げる悲鳴が、彼女の心をも蝕もうとしていた。

(ご、ごめんねお姉様…もう、ここまでがわたしの限界…)

フランドールの全身からゆっくりと力が抜け始め――

「妹様ーっ!!!」

その時、吸血旗の前に人影が、ひとつ。
右手に一本のナイフを持った、図書館の魔女であった。

「ぱ…パチュリー…?」
「あなたはそれでもレミィの妹なの!!」

険しい表情で、フランドールをにらみつける。
その姿に、美鈴たちも気づいた。

(パチュリー様…?)
(一体何を…?)

パチュリーは衣服につけたリボンを一本ほどくと、吸血旗のポールにナイフを結びつけた。
そして、ポールの正面に仰向けに寝そべる。
丁度、ポールが倒れたときにナイフの先が胸に刺さるように…。

「これでどう?あなたがそのポールを倒せば、真下にいるわたしの心臓は一突き!これでもその手が離せる!?」
「…」
「わたしの身体ではエールには参加できない…だから、こんなことしか出来ないけど!!」
「パチュリー…でも、もう限界が…」
「馬鹿!!!!!」

ポールの下から、フランドールを怒鳴りつける。

「あなたは…あなたの『力』は、自分の限界さえ壊せないの!!!!!!!!」
「!!!?」

パチュリーの叫びは紅魔館の庭に響き渡る。

(パチュリー様…)
(そこまでの覚悟を…)

急に大声を出した反動で、苦しそうに咳き込むパチュリー。

「けほっ…あなたなら、できるわ…そして、あなたにしか、できない…ごほっ」
「パチュ…リー…」

それでもなお、刃の下から動かないパチュリーの姿を見つめるフランドール。
その目に、再び強い光が宿る。
それはまるで、エールによって勝利への執念を蘇らせた彼女の姉と全く同じ――。

「ありがとう…パチュリー!わたし、もう二度と弱音なんか吐かない!必ず、この旗を守り通してみせる!!」
「そう…それでこそ、悪魔の妹…」

フランドールは残った力を総動員して旗を掲げる。

「フレッ フレッ れみりゃ!」
『フレッ フレッ れみりゃ!!』

大鐘音エールは続いていく。
天を突くポールの下、パチュリーは寝そべったまま夜空をにらんだ。

(さあ、準備は整った…あとは、レミィとあの子達を信じるだけ…)





レミリアの耳に響くエールに、比較的近くから響く声が混じる。

(咲夜…)

自分に仕える全ての者から送られるエールが、彼女の身心にさらなる力を与える。
それでも、この状況を打開する方法は容易には見つからない。

(負けられない…あの子達の応援がある限り!!)

どれだけ強く思っても、闇が晴れることはない。
レミリアのスペルでは、この闇を強く照らすことは出来ない。できても、一瞬だ。

(光…光さえあれば…)

その時だった。
レミリアの周囲を飛んでいたサーヴァントフライヤー、その1つが輝きだしていた。

「これは…?」
『光が欲しい?』

光球から上がる声は、彼女が良く知っているものだった。

『光が欲しいなら…』
「ぱ、パチェ…?」
『光が欲しいなら…』

パチュリーの声で語りかける光球の表面に、亀裂が走る。

『与えましょう!!』
「何!?」

サーヴァントフライヤーが砕け散る。
同時に、砕けた光球の中からレミリアの身体へ、魔力が流れ込んでくる。

(これは…この力は…)

レミリアにとって、馴染み深い色と温度を持った魔力。
内なるそれが、彼女に一つの呪文をささやきかける。

(使えって言うの?それを…)

その問いに答えるように、レミリアの全身に温かい力が満ちていく。
それは本来ならば、吸血鬼の肉体を破壊する危険な力だ。
しかし今は、心地よい温もりを伴って彼女の体を駆け巡っている。

『心配しないで…レミィ』

いつも側にいた、親友の声。
その一言で、力を解き放つことへの迷いがなくなる。

(OK、あの使い魔にどんな仕掛けがあったか知らないけど…借りるわよ、パチェ!!)

レミリアは闇の中のどこかにいる敵をにらみつけ、高らかに叫んだ。
親友から借りた「力」、その名を――。

「日符『ロイヤルフレア』!!」
「うぇっ!?」

聞き慣れないスペル名にルーミアが驚く間もなく、辺りを強烈な光が包む。
日光の力を借りて放たれた魔法が、ルーミアの闇を一瞬にして払った!!

「見えた!そこっ!!」

レミリアは照らされた闇の中、瞬時に敵の姿を補足すると、神槍を発現させる。
そのまま相手に向かって投擲、その身体を貫こうとする。

「うわわ、闇が!って、槍が飛んできて…」

急に辺りが明るくなったことに動揺したルーミアは、しかし槍の投擲にいち早く気づく。

「当たらないよ!」
「くっ…」
『まだだよ!』

今度は、先ほどとは別のサーヴァントフライヤーから声がした。
幾分かの幼さを感じさせる、少女の声。

(フラン?)

第2の光球が砕け、魔力がレミリアの身体に流れ込んできた。

『大丈夫…お姉様、きっと当たるよ!』
(あなたも…わたしに、力を貸してくれるの?)
『ふふ、永遠の満月を取り戻すんでしょ?』
(…ええ、そうよ)

レミリアは神槍を掲げたまま、再び相手を見据える。

『行くよ、お姉様!』
(言われなくても…わかってるわ!!)

紅い槍の先端をを標的に合わせ、一気に投げ放つ。

「ふん、その槍はもう見切ったわ!もう一度、投げ返してあげる!!」

ルーミアは迫り来る槍に臆することなく身構える。
Phレベルの力を持つものの余裕。

「喰らうがいい!!神槍『スピア・ザ・グングニル』プラス…」
『禁忌「レーヴァテイン」!!』

ルーミアが槍をつかもうとした瞬間、槍の周囲を覆うように炎が噴出した。
ありとあらゆる物を焼き尽くす炎により、紅い槍は何倍にも膨れ上がり…。

「なっ…こ、これは、受けきれないぃ!!」

慌てて身を翻し、襲い来る炎の槍から逃れようとするルーミア。
しかし、逃れた先にあった人影に愕然とする。
紅い神槍に炎を纏わせ、レミリアが宙に浮かんでいた。
しかし何よりもルーミアを驚かせた事実。
1人。
2人。
3人。
4人。
実に4人のレミリアと、4本の槍が彼女を狙っていた。

「プラス、禁忌『フォーオブアカインド』…これでもかわせるかし、ら!!」
「!!」

4本の巨槍は同時に放たれ、四方からルーミアを狙う。
回避する間もなく、ルーミアは炎の渦に飲み込まれた。

「うっ…うああああああああああああ!!」
「ふふ…やっと、当たったわね」



サーヴァントフライヤー。
レミリアがこの満月事件に臨むに際し、パチュリーが彼女に託した使い魔である。
普段はレミリアの命令に応じ、ショットを放ったり、周囲を飛び回るだけの光球。
しかし「使い魔」と名を冠されたからには、単なる道具ではなく、人格としての自我を持った「生きた」モノである。
パチュリーがこの使い魔を「つくりだす」のに際し、光球の中に自我を植えつけたのだ。
そして、その「自我」とは、レミリアと関わりが深い数名の者の擬似人格であった。
本人そっくりに作られたそれらは、同じように本人のスペルカードを発動させることが出来る。
ただし、そのためにはスペルを発動させる肉体が必要であり、それはレミリアの身体を借りることで代用する。
簡単に言えば、レミリアの身体を使って、他の者のスペルを発動させる能力を持った人工精霊である。
そして、光球を破り、擬似人格のスペルカードと魔力をレミリアに託すためのカギ。
それが大鐘音エールである。
5つの光球に込められた擬似人格のオリジナルの声がエールの下に集った時、サーヴァントフライヤーの真の力が発動するのだ。




「ぐぁ…こ、このぉ…」
「やっぱりあれじゃくたばんないか…さすがファンタズム」

炎の中から、手負いのルーミアがレミリアをにらみつける。
この戦いで初めて味わう屈辱に、顔を歪めている。

「もう本気だぁぁ!!偽月符『閉じるムーンライトレイ』!!」

ルーミアは先ほどレミリアに放った2条のレーザーを撃ち出す。
しかし、一度見たスペルカード(さらに今は視界が効く)は紅い悪魔の敵ではない。
素早くレーザーの軌道から外れ、敵を見据える。

『お嬢様、行きますよ!!』
「あら、あなたもいたのね」

図書館の司書の声とともに、3つ目のサーヴァントフライヤーが砕ける。
今度はレミリアの身体に魔力が流れ込まず、その場で弾幕を発現する。
大量のクナイ弾がばら撒かれ、同時に巨大な弾がいくつも現れる。

「しまっ…どこだぁ!!」

大玉に囲まれたルーミアは、レミリアの姿を捉えることは出来ない。
その大玉の陰を移動しつつ、レミリアは相手に接近して行った。

「ここよ」
「!いつの間にこんな近くに!!」

クナイ弾を避けることに必死で、ルーミアは敵の接近を許してしまっていた。

「さすがのPhレベルも…時間までは支配できまい!!」
『とどめです、お嬢様!!』

4つ目の光球が砕け散った。
瀟洒なメイドの叫びが響き、レミリアを除く全てのモノの時間が停止する!!

「終わりね…」

全てが止まった世界の中、ルーミアの眼前に浮かんだレミリア。
勝利を確信したその目に宿る光は、ほおずきよりもずっとずっと紅い魂だ。

「あなたはチェスや将棋でいう『詰み(チェックメイト)』にはまったのよ!」

幻世「ザ・ワールド」。
上下左右前後、銀のナイフがあらゆる方向からルーミアに狙いを定め――そして時は動き出す。

「え…えぎゃあああああああああああああああああ!!」
「気持ちいいわね…哀れな獲物が上げる断末魔の叫び。いつ聞いても飽きないわ」

レミリアが呟いて床に降り立つのと、完全に意識を失ったルーミアが落下するのはほぼ同時だった。
そして、辺りを覆いつくしていた闇も消滅する。
最初に発動したロイヤルフレアの光が消え去るまでの、実に一分に満たない時間の出来事であった。





「紅魔3拍子、用意!!」
『そぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』

紅魔館の庭では、未だに大鐘音エールが続いていた。
パチュリーも吸血旗のポールの下から動かず、水晶玉で戦況を眺めていた。

(やったわね、レミィ…でも、まだ油断は禁物よ!あの薬師が残っている!!)

レミリアの元に残ったサーヴァントフライヤーは残り一つ。
そこに入った擬似人格は、ちょうど今朝礼台に上っている少女のもの――

「行くぞおぉ!!れみ・りあ・うー!!!!!」
『れみ・りあ・うー!!!!!』

エールは続く。
彼女たちの主の勝利が、完全なものになるまで。





「う、うそ!?Phルーミアちゃんが負けるなんて!!」
「本当さ…結局これが雑魚妖怪の運命だってことよ!!」

闇が晴れた永遠亭廊下。
レミリアは痛む身体を引きずりつつも、永琳を再び壁際に追い詰めていた。

「さあ…あとはアンタを倒して終わりだ!」
「ひいぃ!?」

先ほどまでの威勢はどこへやら、永琳は完全に萎縮し切っていた。

「ご、ごめんなさいごめんなさいぃぃ!!今すぐ満月を返すからどうか命だけはぁ!!」
「へ…?」
「もう打つ手もありませええん!許してください!!」

永琳は土下座して命乞いをした。
捨て身の反撃を覚悟していたレミリアは、拍子抜けである。

「ま、まあ、満月を返すなら、命までは…」
「本当ですか!?ありがとうございますぅ!!」
「いや、別に…」
「と油断させてえぇ!!!!」

レミリアが戦意を失った隙に、永琳は懐から何かのスイッチを取り出す!

「ボッシュートォ!!」
「え?」

永琳がスイッチを押すと、レミリアが立っていた床の一部が割れ、奈落の底へと口を開ける。
咄嗟のことに反応できず、1つ残った使い魔ともども落下していくレミリア。

「レミリア!」
「お嬢様!」

闇が消え、再び終結した仲間達が叫ぶ。
しかし床に空いた落し穴からは何の反応も帰ってこない。

「ほーっほっほ!無駄よ無駄!その落し穴の中には飛行能力を封じる結界をセットしてあるわ!あとは地底20mへまっさかさま!」
「このぉ…卑怯だぞ薬師!!」
「知略と言いなさい、知略とね!!」

魔理沙の糾弾にも動じることなく、永琳は高笑いする。

『へえ…知略ねえ…』
「え?」

穴の中から、楽しげな声が響く。
遅れて、ゆっくりと浮かび上がってくる悪魔の姿…。

「れ、レミリア!!」
「そんな、飛行能力は封じたはず!!何故!」
「いや、封じるって言うかさあ…これ」
「あ…」

永琳に背中を向けたレミリアの背には、一対の蝙蝠めいた翼。
魔力による飛行能力が封じられても、彼女は翼によって物理的に空を飛ぶことが出来るのだ。

「ほんっと…最後まで気が抜けない相手だったわね、あなた」
「あ、あはは…」
「確かにその知略は敬意を表するに値するかもね」

対吸血鬼装備、ニンニク攻撃、Phルーミア、ボッシュート穴…何重にも用意された永琳の作戦。
しかしそれらの全てを、レミリアは乗り越えてきた。

「じゃあ、この場を見逃すと言う形で敬意を表するってことで…」
「あーっははは!!」
「というわけで、わたしは用があるので、これで…」
「ん な わ け ね え だ ろ」

レミリアは逃げようとする永琳の前に立ちはだかる。
永琳の顔を冷や汗が伝い、そのまま床へ落ちようとする瞬間。

『お嬢様、今度こそ終わりですよ!』
「ええ…決めるわよ、美鈴!!」

最後のサーヴァントフライヤーが砕け、レミリアの身体に魔力…ではなく「気」が流れ込む。

「ひいぃ!ま、待って、話せばわかる!」
「知らん!喰らえ、中国四千年の歴史!!」

レミリアは鋭く息を吐くと、拳法のような構えを取った。
刹那、永琳の眼をにらみつけ――

「あたたたたたたたたたたたたたたたたたた!!!」
「ぎゃあっはっ!!」

恐るべき速さで、レミリアの拳が叩き込まれていく。
それらは的確に永琳の急所を打ち抜き、あるいは貫いていた。

「あたたたたたたたたたたたた、おぁたたたたたたたたたた!!!!!」

気の力によって強化された打撃は、止まることなく放たれる。
もはや永琳は悲鳴を上げることすら許されない。

「あたたたたたたたたたたたたた、あたたたたたた終わったぁ!!!!!!!!」

最後の一撃を気合いとともに放ち、レミリアは間合いを取った。
しかし不思議なことに、永琳はまだ自分の足で立っていた。

「な…何故攻撃をやめるの!?わたしはまだ生きてるわよ!!」
「…」

強力な攻撃で全身の急所を貫かれたダメージは深刻だが、確かに永琳はまだピンピンしている。

「膝限(しつげん)という秘孔を突いたわ…あなたの足は意志と無関係に後ろに進む!」
「ええっ!?きゃあ、何これ、本当に足が…」

永琳の足は勝手に動き、後退を始めていた。

「地獄まで、自分の足で歩いていきなさい!」
「こ…この先は確か!」

そう、彼女の進行方向には、先ほどの落とし穴が口をあけていた。
飛行能力を封じる結界を仕込んだ、深さ20mもの奈落。
ちなみに永琳に羽根はない。

「うわああああああ!ちょっと、と、止めて!あ…足を!!」
「だめよ。言ったでしょう?わたしに恥をかかせた罪は重いってね」
「わ…わたしが死んだら姫の居場所はわからないわよ!いいの~!?」
「姫?誰か知らないけど、興味ないわ。とりあえずあなたをやっつければ満月は戻って来るんだし」
「うくく!」

永琳の足は今や落し穴の縁に辿り着き、落下の瞬間を今か今かと待っている。

「わああ!い…いやよ、助けて!月で一番の天才のこのわたしが何故こんな目にぃ~!」
「月で一番…?ま、いいか。気にしない気にしない」
「天才のこのわたしが何故ぇ~!!!!」

そのまま永琳は足を踏み外し、飛ぶこともままならない深淵へと落下していった。

「うわっ…うわああ!」
「えーっと…たしかこの台詞でいいのかしら?美鈴」
『はい、お嬢様!バッチリ決めてください!!』

穴の中から「うわらば」という永琳の断末魔の声が聞こえた直後。
そこへ向かって、レミリアが捨て台詞を放った。

「イ爾已經死了(ニイイチンスラ)」




八意 永琳  死亡確認




(作者注・イ爾已經死了(ニイイチンスラ)は日本語で言うと『お前はもう死んでいる』です)

「やった…お姉様が勝ったよ!」
「ハイ!わだじだじの勝利でず!!」
「美鈴、声が…」
「あは…ちょっと張り切りすぎましたかね」

レミリアの勝利を知り、沸き立つ紅魔館。
朝礼台に駆け上ったフランドールが、美鈴に抱きついて喜びを露にする。
すっかり喉が枯れきった美鈴は、それでも最高の笑顔を返した。

「あは…なんか、腕が上がんないや…ま、いいか」
「お疲れ様。あとで治癒の魔法をかけてあげるから…もう太鼓を下ろしなさい」
「パチュリー様も…見事な覚悟でしたよ」

小悪魔は太鼓を抱えたまま、パチュリーは寝そべったままで笑顔を交わした。
その他の従者達も皆、それぞれ主の勝利を讃え合っている。
そして、自分たち自身の健闘を。
エールを送り続けた疲労も吹き飛ぶような、そんな眩しい笑顔が夜の庭に満ちていた。

「あで?ぞういえば妹様…」
「なにー?」
「その、旗は…どうじだんでず?」
「え?旗?」

ここにきてフランドールは、自分の手の中から吸血旗のポールが消えていることに気づく。
水晶玉を見ていたパチュリーがレミリアの勝利を告げた瞬間、嬉しさのあまり美鈴に抱きついて、そして――

「あ」
「パ、パチュリー様、それっ!?」
「何よ小悪魔、わたしも疲れて…げっ!!」

旗手を失った旗のポールは、ゆっくりと倒れ始めていた。
総重量300kgオーバーの巨大な質量が、寝そべった魔女に向かって傾斜していく。

「パチュリー様、逃げてっ!!」
「いいい言われなくても!って急に眩暈が!?た、立てないっ!!」
「ずーっと寝転んでて、急に立とうとするとクラッと来ること、あるよねー」
「言っとる場合かー!!」

どこぞのドイツ軍人よろしく妹様にツッコミを入れる律儀なパチュリーであった。

「ああっ、パチュリー様、大変!!」
「どうしたの小悪魔ー!!」
「さっきポールに取り付けた光り物がそのまま…」
「ドジこいたーッ!!ナイフ外すの忘れてたー!!こいつはいk」


むきゅー


言いかけた「いかーん」という言葉は、丸太のようなポールの下へ消えていった。
遅れて50畳敷きの旗がバサリと地に落ち、静寂が訪れた。




パチュリー・ノーレッジ 死亡確認




永遠亭。
永琳の断末魔を聞き届けた瞬間、レミリアががっくりと膝をついた。

「お嬢様!」
「レミリア!」

霊夢たちが慌てて駆け寄り、その身体を支えた。

「大丈夫よ…ちょっと、疲れただけ」
「お嬢様…すみません。結局お助けできず…」
「いいのよ、咲夜。あれはわたしの戦いだったんだから…それに、わたしは勝ったのよ」

ルーミア戦のダメージが残る身体は完全に消耗しきっていたが、レミリアの笑顔は明るい。
勝利の喜びと、仲間全員の目的を成した達成感に満ちた表情だった。

「これで永遠の満月が帰ってくるわ」
「永遠はつきません。さあ、お怪我の手当てを…」
「それはそうと、レミリア」

傷の手当てを受けるレミリアの顔を霊夢が覗き込む。

「あのルーミアは妙に強そうだったけど、どうやって勝ったの?」
「それは…ああ、そういう意味なら、咲夜も十分にわたしを助けてくれたのね」
「え?お嬢様、それはどういう…」
「何なのよ、結局どうしたの?」

一人で納得して微笑むレミリアに尋ねる霊夢。

「だから、助けてもらったのよ」
「助けてもらった?誰に?」

周囲の仲間を見渡すが、皆首を傾げるばかり。
おそらく霊夢同様、ルーミアの闇の中で迷っていた者ばかりであろう。

「みんなによ」
「だから、みんなって誰よ」
「そうね…ま、わたしの『家族』ってところかしら」
「家族?」
「ええ、超大所帯の大家族。そのコ達みんなのお陰」

レミリアはクスリと笑い、もう一度咲夜の方を見る。

「とりあえずこの場はあなたを代表にして…咲夜」
「はい?」
「ありがとう」
「あ…」

満面の笑顔で告げられた、たった一つの言葉。
それだけで、彼女のダムは決壊する。

「お、おじょおさま…ふいうちは、はんそくですぜ…ブバシュゥゥッ!!!!!」
「きゃー、咲夜が鼻血まみれにー!?」
「使い古しもいいとこのお約束じゃない…」

未だにニンニクの臭いが満ちる廊下に、温かい笑顔と生暖かい液体が溢れていた。



サーヴァントフライヤー№1 擬似人格モデル:パチュリー・ノーレッジ
内蔵スペルカード「日符『ロイヤルフレア』」

サーヴァントフライヤー№2 擬似人格モデル:フランドール・スカーレット
内蔵スペルカード「禁忌『レーヴァテイン』」「禁忌『フォーオブアカインド』」

サーヴァントフライヤー№3 擬似人格モデル:小悪魔

サーヴァントフライヤー№4 擬似人格モデル:十六夜 咲夜
内蔵スペルカード「幻世『ザ・ワールド』」

サーヴァントフライヤー№5(予備) 擬似人格モデル:紅美鈴
内蔵能力「気を使う程度の能力」


製作者:(故)パチュリー・ノーレッジ





―魁!!東方塾 永夜大四重凶殺編―

FINAL A CLEAR





戦いは終わった。
幾多の強敵を退け、霊夢たちはついに満月を隠した黒幕を打ち倒したのである。
永琳の術も解け、あとは自然に月が元に戻るのを待つばかりである。
レミリアの傷の手当を終え、さあ帰ろうかと言うその時だった。
なんか働いたら負けかなって感じのヤツが出てきて

「何遊んでるのよ!
 永琳、私の力でもう一度だけチャンスをあげる。
 これで負けたらその時は……。
 そこの人妖!
 私の力で作られた薬と永琳の本当の力、
 一生忘れないものになるよ!」

ってうるさいから、霊夢が首元を横から思い切りチョップしたら

「モルスァ」

みたいなこと言いながらすごい勢いで飛んで行った。





ALL CLEAR





―魁!!東方塾 永夜大四重凶殺編 第3部 全米川下り選手権―














6 days later…









「霊夢ーっ!!遊びに来たぜー!!」
「何よ、また来たの?」
「それはパチュリーの台詞だぜ。パクっちゃだめだろ」
「あんたが言うな」

あの激闘から6日過ぎた。
人妖達はまたいつもの生活に戻り、過ぎ行く夏を惜しみながら日々を過ごしていた。

「いやー、すっかり夜も涼しくなったなあ」
「そうね。もう蛍の季節も終わりかしら」
「蛍といえば…」


リグル・ナイトバグは、決められた時間に大量の蟲がお知らせにやってくる
『蟲の知らせサービス』
という運動を始め、蟲の地位向上を目指して頑張っている。


「そういや、今日はいいものが手に入ったんだ」
「何よ?」
「じゃーん。産地直送の地鶏だぜ」
「うぇ…しばらく鳥肉は食べたくないわ」
「なんだ、博麗の巫女ともあろう者が、あんな事件くらいでトラウマか?」


ミスティア・ローレライは、焼き鳥撲滅を目指して焼き八目鰻屋の屋台を開いた。
『人間を鳥目にした上で、鳥目を治す八目鰻を売ったら大儲け!あたいったら最強ね』
などとどこかの妖精に吹き込まれたとか何とか。


「いいじゃない…そういや、今日は満月だったわね」
「結局、ちゃんと元の満月に戻るのに結構な時間がかかったんだな」
「そうね。そういや、あの半獣。あんたが搾○した」
「あー?そんなのいたっけか」
「…そんなだからプレイガールって言われんのよあんたは」
「何か言ったか?」
「別に。あれは満月さえあればどうとか言ってたわね…何だったのかしら」


上白沢慧音は、魔理沙に受けた屈辱(というかセクハラというか性犯罪)を晴らすため、
あれから毎晩部屋の片隅で悶々としていた。
頭の中にあるのは魔理沙への怒りと憎しみ――しかし、あの時受けた快楽が身体に染み付いていることを、彼女は否定できない。
『おのれ霧雨魔理沙…このわたしをまるで乳牛のように(検閲)した罪は重いぞ!責任とってお嫁に…って何を言っているんだわたしはー!!』 
『けーねー?いるー?』
『うわわわあひゃひゃららももももこたん!?ち、違うんだ、わたしはいつでももこたん一筋…』
今夜は満月。
様々な感情が混じりあった慧音の乙女回路が、月明かりの竹林にスパークする。


「まあ、終わったことを気にしてもしょうがないぜ」
「それはそうだけど…」
「そういやわたしは兎に操られた霊夢に殺されそうに…」
「あはははたしかに終わったことを気にしてもしょうがないわよねーうんそうよねー」


因幡てゐは、アリスに敗れたことで
『どんなに鍛錬を積んでも、世の中には超えられない壁がある』
と悟り、強さの追求をあきらめてしまった。
代わりに、自分は銭の取れる兎になろうと決めたてゐは、元々持っていた詐欺テクにさらなる磨きをかけるのだった。
『でも鈴仙に関しては別。最愛は最強より強い』
命短し恋せよ乙女。
短くねえか。


「あ、そういや妖夢に聞いたんだけどさ」
「何よ?」
「お前この間の暑い日に、空腹のあまりカブトムシを…」
「わー!わー!なんであんたがそんなこと知ってんのよ!?妖夢も!?」
「なんか、あの赤眼兎の術で見せられちゃったらしいぜ」
「いやあああああ!?」


鈴仙・優曇華院・イナバは、あれから時々窓の外を見つめてはボーッとしている。
まるで誰かのことを考えているかのように、一人でニヤついているところを目撃した兎もいるらしい。
まさか鈴仙に好きな人が!?と地上の兎達の間で不安が広がっているが、その噂を立証する出来事が昨晩起こった。
ある晩、鈴仙の部屋の横を通りかかった一匹の兎が
『今、時代はうどみょん!!』
という鈴仙の寝言を聞いたのである。
永遠亭の因幡部隊が、白玉楼への殴りこみを計画しているという情報も…。


「でも、あの兎がまさか月から来たなんてね…」
「月の追っ手からあの兎を守るために地上を密室化したんだっけか?」
「満月は月と地上を行き来する唯一の道…で、満月を隠して月と地上を切り離したのね」
「それをやったのがあの薬師か」
「そう。もっとも、元から密室の幻想郷でわざわざそんなことをする必要はなかったんだけど」
「そういや、あいつ自身も月がどうとか言ってたな」
「あいつも月の人間だったみたいね…おまけにあれで生きてたなんて」
「…」
「どうしたの?魔理沙」
「いいじゃないか」
「え?」
「あの兎は薬師の弟子だったんだろ?それを守ろうとしたわけだ。いい師弟愛じゃないか」
「…まあ、そうとれなくもないけど」
「月の追っ手がどんな奴らか知らないが…わたしはなんか、あいつらを責める気にはなれないよ…」


八意永琳は、弟子の鈴仙を伴って霊夢たちの元へ謝罪に訪れた。
永遠亭での戦いから1日たった朝のことである。
穴に落ちた際の怪我が全身のどこにも見られないことを聞くと、
『わたしは何をやっても死なない身体をしているの』
だそうだ。
幻想郷が完全な密室になっていることを聞き、幾分落胆した顔を見せたが…それより彼女は喜んだ。
これからは屋敷に隠れ住む生活を止め、兎達ともども普通の暮らしを始めるそうだ。
『昨日の今日でこんなことを言うのはどうかと思うけど…これからよろしくね』
お近づきのしるしに、と渡された薬は楽しい夢を見られる薬だとか何とか。
明らかに「試作品」と書かれた袋を、霊夢は未だに開ける気にはなれない。


「さて、魔理沙」
「何だ?」
「今からちょっと手伝ってもらうわよ」
「手伝うって…」
「宴会の準備。なんか『満月を取り戻した祝勝会をやるわよ!』って紫が騒いでて…」
「何ぃ!?聞いてないぞ!なんでわたしは呼ばれてないんだ!!」
「あんたは呼ばなくても来ると思ったから」
「…ま、まあ確かに」
「永遠亭の奴らも呼んでるから、今までにない規模になりそうね…」
「にぎやかなのは大歓迎だぜ」
「あんたらがちゃんと片づけまでやってくれるんならね」
「へいへい…お、早速ご到着か?」

神社の石段を、いくつかの人影が上ってくる。

「こんばんわ霊夢。とりあえず首筋を晒しなさい」
「さらしなさいー」
「お嬢様方、それは無作法と言うものですよ」
「あ、あの…いいんですか?門番の仕事ほっといて、わたしまで来ちゃって…」
「いいんじゃないですかー?美鈴さん、ぶっちゃけ門の前にいてもいなくても一緒ですし」
「ひどっ」

紅い姉妹と、その従者達。
レミリアは負傷も完治し、真の満月の下で楽しげに笑っていた。
しかし霊夢と魔理沙がまず目を奪われたのは、図書館の小悪魔が背負った物体。

「なあ、ちょっと聞いていいか?」
「はい?」
「そのミ○ュランタイヤのマスコットみたいな白いのは、何だ…?」
「あ、これはですね…」

小悪魔の背の上で、その白いオブジェはもぞもぞと動いた。

「フガーッ」
「おお、喋ったぞ」
「フゴゴ…ムグ…ウガーッ!!」

白い包帯で全身を覆ったそのモンスターが誰かは、賢明な読者諸君のご推察の通りである。
紅魔館の面々が到着し、宴会の準備が始まる。
空を見上げれば、人形を従えて降りてくるアリスの姿。
さらに冥界の住人達や、マヨヒガのお騒がせ一家が加わり、楽しい夜が始まって行くのだろう。
呼んでいない妖怪や妖精の飛び入り参加もあるかもしれない。
そして、幻想郷にずっと前からいた、しかし新しい仲間達も…。




幻想郷は全てを受け入れる。
幻想郷を守る博麗神社の宴会もまた、然り。
本物の満月に照らされた晩夏の夜は、ゆっくりと、しかし確実に時を刻む。
























「ねえ、魔理沙」
「あ?」
「なんか忘れてる気がするのよね」
「あー、お前もか?」
「何かしらねえ…どうにも思い出せない…」
「う~ん…」

















――輝夜は――
二度とラスボスへは戻れなかった…。
人間とファービーの中間の生命体となり、永遠に竹林をさまようのだ。
そして、死にたいと思っても死ねないので――そのうち輝夜は、考えるのをやめた。




―魁!!東方塾 永夜大四重凶殺編―



END







藍「萃香…ちょっと、話があるんだが、いいか?」
萃「何よ?」
藍「最近、橙の様子がおかしくてな…」
萃「(ギクッ)へ、へえ、それはどんな?」
藍「急に女らしくなったというか…色気が出てきたというか」
萃「ふーん、そうなんだー(棒読み)」
藍「しかも…お前に対してやたら熱い視線を送っているような気がしてな…」
萃「えぇ!?き、気のせい!気のせいだよたぶん!」
藍「なあ…何かあったのか?」
萃「いっ!?な、何もないわよ!」
藍「この間、橙に留守番を頼んだ夜…」
萃「ビクッ!!」
藍「…正直に言え。何があった」
萃「えと…その…」
藍「早く」
萃「…しちゃいました」
藍「何を!?」
萃「いやその…に、にゃんにゃん…しちゃいました…」
藍「!?」
萃「ね、猫だけに」

BGM:少女幻葬 ~ Necro-fantasy

萃「え!?何!!?これはヤヴァイふいんき(←なぜか変換できない)?」
藍「この色ボケ鬼め!貴様には地獄すら生ぬるい!!」
萃「ひえぇ!萃香ちん、ぴんち!!」

ここまで読んでくれてありがとうございます。
今回も、楽しんでいただけたら幸いです。
そして最後に、第1部からここまで出演してくれた全てのキャラと、そのファンの皆様へ。
本当にすいませんでした。
煮るなり焼くなり好きにしてください。

5/7 21:38 誤字修正 ご指摘ありがとうございます~
ぐい井戸・御簾田
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コメント



0.2390簡易評価
7.100大根大蛇削除
皆の力を合わせての必殺技とか、もう、そういう熱いのが大好きなんで燃えましたっ!
にしても、天才が落ちた時点で残りが少なかったものだから、本編宜しく完結編と見せ掛けてもう一話あるのかな、
などと思っていたら、こんな打ち切りみたいなラストが待っていようとは……思わず吹き出しましたw
後日譚も、正に長篇のラストという雰囲気が出ていて素敵でした。一部キャラはアレでナニですがww
8.80名前が無い程度の能力削除
てるよカワイソスw
10.100こーたろー削除
ナイフ刺さっても生きてるパチェが素敵。
11.無評価じゃんじゃん削除
途中フアンタズムになってますよー
12.80変身D削除
こ、壊れてるけど滅茶苦茶熱い闘いでしたね~
兎にも角にも紅魔館の面々が素敵でした、パチェ除いて(w
しかしまさか東方で某鍵のジャムネタを見られるとは……
15.無評価名前が無い程度の能力削除
面白かったぁ~。
ちなみに雰囲気は、
○ふんいき
×ふいんき
ですよ、と。
17.100名前が無い程度の能力削除
ああもう…どいつもこいつも(一部除いて)
かっこいいなあ、こん畜生!!
18.無評価名前が無い程度の能力削除
謎ジャム…了承…もしかすると永琳とはKa○onの○子さんなのか!?
21.100Shingo削除
レミリアVSPhルーミア戦に激感動しました!
ああいう展開はとても大好きなので、読んでいて燃えましたよっ!!
23.90翔菜削除
最後の最後まであなたは本当もう酷いなぁ……!
だがそれがいい!


>製作者:(故)パチュリー・ノーレッジ

ご冥福をお祈りいたします。
24.80名前が無い程度の能力削除
アミバ様なえーりんに吹いた。テラナサケナスw
ハチャメチャな展開だけど、エピローグは
何かしみじみした感じで素敵でしたね。オチ付きですがw
25.100名前が無い程度の能力削除
最後まで爆笑させていただきますたぁん!!
っていうか、人間とファービーの中間の生命体ってなんだよ!!www
なぜか変換できないネタもワロスwwwww
27.100名前が無い程度の能力削除
川下りはどうしたww
35.100SETH削除
最低だな!まったくバカにしやがって!
あれ・・・なぜだまた・・・体が・・・勝手に あ あれ
100て あっ
37.90名前が無い程度の能力削除
>残念でした。夜の女王は無慈悲なのよ
ハインラインですかwネタの広さと調理の上手さに脱帽です。

しかしこのラストは・・・すごいな、もちろん性的な意味で。
41.無評価ぐい井戸・御簾田削除
>名前が無い程度の能力さん 慧音、鈴仙に関しては第1部、2部の決着をつけるつもりで書きました。もちろん、性的な意味で
>SETHさん あなたは結局最後まで僕のスタンドから逃げられなかったなあ。感謝!
>名前が無い程度の能力さん 川下りは、僕達の心の中に…いやすいません、いつか必ずケリつけます
>名前が無い程度の能力さん 爆笑、最も嬉しいお言葉の一つです。もっと笑える作品目指して頑張ります。
>名前が無い程度の能力さん もーね、天才と来たらあのお方しか思いつかないもんで…
>翔菜さん 最後の最後までお付き合いいただき感謝感激です!星になったパチェも喜んd(サテライトヒマワリ
>Shingoさん 感動!?そんなこと言われたら俺が感動っすよ!!マジありがとさんです!!
>名前が無い程度の能力さん 知ってしまったあなたは月からの使者と同じ運命を辿る…今夜師匠が かゆ うま
>名前が無い程度の能力さん 除かれた一部はっ!かっこいい奴らのミラーなわけですよ!!オーイエーベイビィ!!
>名前が無い程度の能力さん ふいんきはネタです…わかりにくいギャグですいません。我修行不足!!NO断念!!
>変身Dさん ぐい井戸・御簾田はパチェにひどいことをしたよね(´・ω・`)パチェはカコイイ場面もあるんです…ドイツ軍人オチがなければ…っ
>じゃんじゃんさん 誤字教えてくれてありがとうございました!ひゃー油断禁物。。
>こーたろーさん ナイフなんかじゃ死にません。萃夢想で殺人ドールくらってもスペカ発動でぱちぇもえ!('(゚∀゚∩
>名前が無い程度の能力さん てるよ好きなんですけどね…それこそ東方の中でも1,2を争うくらいに。でも、好きな子ほどいぢめたいっ!!
>大根大蛇さん 3部作全てに熱いコメントありがとうございます!サーヴァントフライヤーの展開は道端で思いついて一人でニヤニヤしてました。
公の場で変人の汚名をかぶった甲斐がありました~w

長い上に酷すぎるドタバタ劇に最後までお付き合いいただき本当に感謝しております。
ぶっちゃけこの第3部はかなりの難産でしたが、こうして完結できたのも皆さんの暖かいお言葉のお陰です。
永夜抄は初めてやった東方なので、思い入れの強い作品なんですよね…なんか思いっきり汚してる気もしますがw
…出し忘れたキャラいねえよな?ム?背後に気配…あ、あなたはも、もk

P.S.この話から読み始めた方、興味がありましたらぜひ1部2部も読んでやってくださいm(_ _)m



42.100削除
男○、ジョ○ョ、板○作品、F○S、リリカルな○は…
取り上げたネタの数はもはや星の数。
だがそのネタへの反応能力と瞬発力に、僕は敬意を表するッ!
とにかくGJ!お疲れ様でした!
45.100じょにーず削除
おつかれさまでした! おす!
52.100名前が無い程度の能力削除
ちょwwwwモルスァwwwwww

近所迷惑なぐらいわらかしてもらいました。
69.100名前が無い程度の能力削除
れ、み、りゃ!( ゚д゚ )』
に最大に吹きました。
最後良さげにまとめるなんて卑怯だー