Coolier - 新生・東方創想話

「~~の書」幕間”霧雨魔理沙”

2006/05/02 08:12:51
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それは遠い昔の誰かの記憶


言葉を無くした彼と


言葉しか知らない私の


二人の記憶



                   ●



一言でいえば、彼は子供だったのだろう


誰もが幼少期に持つ、素朴な勇気や好奇心・正義感


大人になるに従って、現実の前に少しずつ薄れていくそれを


彼は捨てずに持ち続けた


諸々の善を行い、諸々の悪を為さぬ


単純な神の教えを、誰より真摯に守り続けた


でも、そんな彼は異端の徒


神の教えを守るには、神の正義には従えぬ


敵の財を奪え!


神は奪うなと仰せられた


我らの敵を憎め!!


神は憎むなと仰せられた


神の敵を殺せ!!!


神は殺すなと仰せられた


神の命に背くのか!!!!


あなたに従えないだけだ


彼は神の敵となった


そして神は彼から言葉を取り上げた


彼は力ある魔法使い


彼の言葉には万物が従ったから


彼は力を失った


それでも彼は望みを捨てない


人の助けとなりたい


それが彼の望みだった


それだけはどうしても捨てられない、たった一つの彼の願い


そんな彼を見詰め続けた 彼女の願い




                      ●


夜の魔法の森。


私は、月を見上げながら自分の事を思う。


『月を見上げながら私の事を思う。』


あの日、私はいつもの様に香霖堂に遊びに行った


『私は封印された箱の中で、何時覚めるともしれない眠りについていた。』


あいにく店主は留守の様だったが、私にはむしろその方が都合良い。

あいつがしまい込んでいるお宝を物色するには、絶好の機会というやつだ。

というか、わざわざ”霖之助が外出するのを確認してから””遊びに”来たのだから、帰ってきてもらっては困る。


『封じられてから、いったいどれだけの歳月が過ぎたのだろう。百年か?千年か?どちらにせよ、私にはどうでも良い事“だった”』


店の裏手にある倉、その片隅に未識別の品を納めた棚がある。

奴の力は”物の名前と用途が分かる程度の力”なのだから、ここにあるのは奴が見ても外見以上の事が分からなかった物。

つまりは、鍵なり魔法なりで閉ざされて開ける事のできなかった宝の箱だ。


『“それまで”の私は、はっきりとした思考と呼べる程の知性を持ってはいなかった。魂は確かに存在し、好悪を示す程度の感情も持っている。ただそれだけ、主の定めた命に依って私を握る者を裁定し「奇跡の書」の力を形にする、それだけの存在。』


”宝箱、物を収納する為に使う”

開けてびっくり玉手箱、開けない宝箱は唯の箱だぜ

あいつも神秘を学ぶ者の端くれ、それが簡単に解除できない程の封印ともなれば中身には相当期待ができる。


『主の命を守り続け、どれだけの歳月が過ごしたのだろう。だが、それは私にとっての苦痛ではあり得ない。もとより苦楽の意味すら知らぬこの身、たとえ幾星霜を重ね、無為のままに朽ち果てたところでそれが変わろう筈も無い・・・けれども・・・』


かく言う私もそんなチマチマとした作業はあまり好きじゃ無い。

でも、あの日の私には秘策があった。

ここで見かけた模様と、同じ模様が刻まれた鍵を偶然部屋で見つけたのだ。


『唯一度、たった一回だけ私は自分の判断式に依らずして力を解放した事がある。我が主によって完璧に組まれたはずの私の行動式。それが狂う事などあって良いはずが無い。』


これぞ天の配剤、あの箱を開けろと日頃行いの良い私に神様が御褒美をくれたに違いない!


『以来私は、その「なんらかの判断基準に依らずして、行動を行う行為。」に一番近いであろう事象、すなわち“感情”これを知る為に”意味“の蒐集を始めた。』


私は喜び勇んで、螺鈿細工の施された小さな箱を家に持ち帰った。


『幾度と無く繰り返す収集と封印。そして私は、再び封印の解かれる気配を感じた。』


箱には鍵の他にも複雑な魔術封印が施されていたが、お宝を前に気分の良い私の敵では無かった。

宝箱を開ける、ということは、ある意味恋にも似ている。

中から何がでてくるのか?ドキドキワクワクするこの胸の高鳴りは、まさに恋。

そう、私は何時だって何かに恋をしているのだ。

そして、最後の封が解ける。


『光が差し込む・・・私を覗き込んでいるのは・・・』


中に納められていたのは・・・


『黒白二色の服を着た金髪の少女』


白い光を放つ一本の筆


・・・・・・・・・・・思えばこの瞬間から、私は魅入られてしまっていたのだろう


『私は息を潜めて少女を見つめる』


私は息を飲んで筆を見つめる





                     ●



「こりゃ凄い・・・」

魔理沙は思わず感嘆の溜息を漏らした。
彼女の目前にあるのは筆。もちろんただの筆では無い。
白く魔力の煌きを纏ったアーティファクト。
いったいどれ程の魔力を秘めているのか・・・だが、それ以上に・・・

「なんて、綺麗・・・」

目の前の筆は美しかった。
キャップの象嵌は鈍く光る精霊銀。もち手に施された緻密な螺鈿細工、ところどころにちりばめられた小さな宝石は、いずれも強い魔力を秘めた精霊石だ。
華麗な装飾品であるようなそれは、同時に長く使い込まれた道具だけが持つ独特の所有感に満ち溢れていた。

ぞくり

思わず背筋に寒気が走る。

「これは思った以上に上物だぜ。これだけの物を無償で譲ってくれたんだから、霖之助には後で食事でも差し入れてやる事にしよう。」

本人が聞いたら青筋を立てるような事を口にしながら、魔理沙は・・・


手を伸ばし



筆を




掴み




蓋を外した





『ホシイ』





ドクン


瞬間、彼女の頭の中に視覚的なイメージを伴った意思が流れ込み、同時に手にした筆から黒い影、いや無数の文字が湧き出す!

やばい、やばいぜ!

「くっつ!」


ドクン ドクン


『ホシイ』




とっさに筆を投げ捨てる!否、投げ捨てようとした。



『ホシイ!』


ドクン!



爆発的に噴出した文字が、少女の身体に絡み付き、いくつかの単語を形づくる!!

『“ニゲル・ダメ・ユルス”!』

文字に触れたとたん、体の自由が利かなくなる。

「ぐっ!」

霊夢の呪符にも匹敵しようかという束縛の呪。
自由を奪うどころか、腕ごと圧し折ろうかという様な圧力を受けながらも

にやり

貌に浮かぶは不敵な笑み

眼光鋭く彼女は笑う

「誰が逃げるって!」

渾身の力と魔力を振り絞って彼女はおさげのリボンを解く。

髪は女の命、魔女にとってその髪を飾る髪飾りは・・・

「私のとっておきをくれてやるぜ!」

命を守る最後の切り札!

キン

森羅結界、かつて冥界の主従が春を集める為に使った結界は

『?』

一瞬だけあらゆる攻撃を無効化し

『“ホドケロ”』

「いまだ!」

魔理沙が体勢を立て直すだけの時間を稼ぐ。

大きく後ろに飛びのいた魔理沙は胸元に収めた八卦炉をつかみ出し・・・

「・・・あら?」

手に馴染んだ感覚が無い。慌てて目の前に翳した手には・・・手が無い?

手が解けて文字に

解けた文字は宙を舞い、凝って

『たりない』

急速に人の形を成していく

右腕から始まった崩壊は、魔理沙の心身を浸かし食らう!

『そのかたち、そのこころ』

霞む意識、崩れる身体。

『私が貰い受ける』

眼前に立つは文字を纏いし無貌の少女。キリサメマリサという人間のカタチ。

『さあ、汝が真名を我に告げよ』

そして略奪の宣告、霧雨魔理沙はここで消える。

「・・・ぃ・・ぉ」

『汝の名は?』

薄れゆく意識の中、霧雨魔理沙の最後の欠片が

「・・ぅ・・・ぉ・・・ぃ・・・ぉ」

『名は!?』

キリサメマリサのクチビルが

「・・・アリス・マーガトロイド」

ココロ二ノコッタコトバヲツムグ!

『汝アリス・マーガトロイド、我が言の葉の縛りに「な訳あるかぁ!」・・・む!』

偽りの名は魔女を縛る事適わず!

言霊の縛りが解け、一瞬魔理沙はその身を取り戻す

手につかむは筆の蓋、魔導器を縛る最後の鎖!

「くらいな!」

投擲!キャップの象嵌、精霊銀の茨が無貌の影を縛る!

英気、未だ消えず!

『ぐぅ!悪あがきを!』

そう、これは悪あがき。一度解かれた封印は、この程度の事で直せない。
取り戻した姿が、再び文字へと変換されていく。が・・・

「諦めたらそこで終わる、それが恋ってもんなんだぜ!」

故に彼女は恋の魔法使い、待ち受ける結果がどのようなものであれ、彼女の想いを止めることなど誰にも出来はしない!            

『“星をも焦がす想い、煌きの王、終焉の閃光”』

刻むは三節、終りの魔砲

ふ・き・と・べ!

“魔砲『ファイナルマスタースパーク』”!!




そして私は筆に呑まれた。

『そして私は意識を失った。』




                  ●


その後『私』は霧雨魔理沙を私の中の混沌に吸収する事に成功するも、弱った意識を封印に絡めとられてしまう。
「霧雨魔理沙」と同調する為に此方側の「壁」を無効化していた事もあって、『私』は消滅寸前まで追いやられた。

アリス・マーガトロイドという要素の介入により、封印は外れ消滅は免れたものの『私』
が霧雨魔理沙として目覚めるという予期せぬトラブルに見舞われる。

が、これは思いもかけぬ僥倖だった。この偶然は『私』に二つの宝物を送ってくれたのだ。

一つは“想い”

『私』が求め探し続け、ついに得ることが出来なかった感情。

『私』は霧雨魔理沙となる事で己の身にかかった封印を解き、恋を知った。

今ならばわかる“あの時”私はこの感情故に過ちを犯した。

一つは“贄”

“あの時”と同じ“あの人”に向けた物と同じ“想い”を向ける対象。

それは恋を向ける相手、それは想いを捧げる相手。

私が愛したあの人と同じ様に・・・


後は単純、“あの時”と同じ事を試してみるだけ。

そうすれば『私』が狂った理由が、メカニズムがきっとわかる・・・






そう、あの時と同じように





想いを向ける相手が





目の前で死ねば




私が狂った理由がわかる





その為には・・・彼女を・・・





アリス・マーガトロイドを殺さなければ!










「楽しそうね」




白刃の声、氷雪の気配

「でも遊びはここまで、これ以上あんたに好き勝手されると私が迷惑するの。だから・・・」

私を滅却せんとする迷い無き決意と、曇り無き殺気。
              


「せめてもの情け、ここで私が封(コロ)じてあげる・・・魔理沙。」

絶対不可避の死の気配をその身に纏い


博麗霊夢が現れた。


作中時間的には回想が序章の直前、他が四章と同時間。
如何にして魔理沙は白魔理沙に変貌したのか?の巻のつもりです。


追伸、四章レスにて勿体無くも続きが気になると書き込んで下さった方々。
御言葉誠に有難く頂戴いたしました。GW中には完結できる様鋭意執筆中です。
あともう少しだけお付き合いください。

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