夕刻。
遠くで烏が鳴いている。
慧音は朱に染められ、夕暮れの空を飛んでいた。
その手には6~8人用という説明で渡された鍋と、敗北感のような言いようの無い感情。
初めての神社は、結果、非常に疲れるものとなった。
慧音は考える。
人妖問わず惹きつける、博麗霊夢。
あのどこかやる気のない物腰、誰も拒まず、誰とも等しく距離を取るその振舞い。
力や種族の差、襲う者退治する者といった幻想郷の持つ摂理が、そこでは働いていないのか。
しかし、それらが不思議と自然に思える。
強大な力と退屈な時間を持て余す奴らからすれば、これほど珍しい存在は無いのかもしれない。
一度だけ顔を出した宴、真の満月直後の大宴会は、百花繚乱、百鬼夜行。
どの花も一癖も二癖もある奴らであったが、霊夢を慕っている点では共通のように見えた。
程度の差はあれど。
その「差」が不可視の牽制、抑止となり、時として言いようの無い緊張感を孕む。
弛緩しきった時間に見えるが、些細な事でも発展して弾幕勝負になる事は珍しくない。
本当の所は、喰うか食われるかの勢力境界線なのかも知れない。
物事を悪く考えがちな自分の思い過ごしであって欲しい。と思う。
慧音は下降傾向にある自分の考えを否定しようとするが、帰り際に見た、周辺に残る弾幕の爪痕は笑い事で済むシロモノではなかった。
それでも神社が平穏なのは、霊夢に依るところが大きいのだろうか。
常々、「硬い」と言われる自分では、ああはいくまい。
ずしりと両手に感じる風呂敷包みの重みに、疲れる思考が中断され、意識が引き戻された。
鍋と交換となった茶葉の支払いの為に、近日中に再び赴くことになるだろう。
「魔理沙とでも行くとするか」
一人で行く気力は湧きそうになかった。
「折角譲ってもらったのだからな。 使わない手はない」
わざと口に出す事で気分を切り替えると、視線を前に向けた。
森の木々がまばらになり、遠い視線には里が炊事の煙を上げている様子が見える。
しかし、慧音の目に入ってきたのは住み慣れた我が家と、そこに群がり蠢く小さな影達であった。
その様子は、夏の地面に力尽きて落ちた蝉にたかる蟻を連想させた。
異常事態に思わず懐中のカードを確かめると、慧音は一気に降下し・・・そして影達の正体に気が付いた。
「アリス! 出て来い!」
人形たちのたてる騒音に負けないように、大声で呼びつける。
急降下を中断、鍋を抱えたまま一回転して勢いを殺すと、蒼のスカートを盛大に膨らませて庭先に着地した。
「そんな大声ださなくても、ここにいるわよ」
巻き上がった砂埃が収まる前にアリスの返答があった。
普段通りの声音に振り向くと、筒状に丸めた紙を持った人形遣いが居た。
「これはどう云う事だ。 説明してもらおうか」
後ろ手に指す先には、慧音の庵に群がっているアリスの人形達の姿があった。
今もってなお、何がしかの「作業」を行っている。
「ああ、これ。 増築してるのよ」
まるで「花に水をやっている」程度の気楽さで、とんでもない事を口走った。
「ぞ」
慌てて振り向く。
確かに周囲には真新しい木材特有の香りがするし、人形達は各々工具やら釘やらを抱えている。
重なり合い絶え間なく響く音も、一つ一つを聞き分ければ確かに建築現場のそれだ。
あちこち痛みの出ていた屋根や壁が、新しい物に置き換えられつつある。
少し先には地盤固めを済ませ、基礎工事の始まっている部分もあった。
「おー。帰ってきたのか」
裏手からリフォームの共犯者が現れた。
相変わらずの黒尽くめだったが、手は土で汚れた手袋に覆われている。
その手にも筒状の紙を持っている。 しかし量がアリスのそれよりも少しばかり多かった。
昼間に霊夢から聞いた巣作りの話も相まって、次第に悪い予感が強くなってくる。
不安を抑え、努めて冷静に慧音は確認した。
「説明は、あるのだろうな?」
「ああ、魔理沙。 そっちの進み具合はどう?」
横槍が入った。
「まだ少しかかりそうだな、今パチェに確認してもらってる」
しかも返答はそちらに逸れた。
「おい」
「相変わらず無茶っぽいけど大丈夫なの?」
「もともと無理やり引いてある所からの株分けだしなぁ、正直、もう少し練り込む時間が欲しい」
「弱気ね。 でも、ここまできて計画中止なんて洒落にもならないわ」
「引き下がるなんてガラじゃないしな、当然、完成させる」
「・・・・・・」
「わかった! わかったからいじけるなって!」
「貴方、わざとやってたでしょうに」
風呂敷包みを抱えたまま俯いた慧音を魔理沙が宥めるところに、無関係を装ったアリスが余計な一言を加える。
「お前もだろう! それとな慧音、今みたいな顔は間違っても神社ではするな。 これは親切心からの忠告だ」
「・・・そうね、今のは危険球だったと思うわ・・・・・・」
珍しく真剣な表情で告げる魔理沙と、地面を見たまま苦笑いを浮かべるアリス。
「な」
んの事だ、という慧音の言葉は、脳裏によぎった「あの布団」の戦歴によって遮られた。
まさか。
突然動きを止め、重苦しい雰囲気を纏い出した慧音に森の魔法使い達は、
「・・・なあアリス、この反応どう思う?」
「・・・あんまり考えたくないんだけど」
「・・・・・・奇遇だな、私も同じ意見だ。 目出度くはないが」
「・・・・・・お赤飯でも炊くべきかしら?目出度くはないけど」
勝手な憶測を述べ始めた。
「いや待て。想像している事象はおおよそ近いだろうが、幸いにしてそのような事は起きていない」
身の危険を感じて、正気に立ち返り反論する慧音。
「信用できないな、新顔が一人で神社に行って無事で済むはずがない・・・!」
「待って魔理沙!餌付けに成功すればその限りではないはずよっ」
・・・なあ霊夢。 お前、余所ではエライ扱いを受けているぞ?
「ま、まあ本人が気にしないって言ってるんだ、外野がとやかく口出しするもんじゃないな」
「そ、そうね、あくまで当人達の問題だしねっ」
「待て貴様ら」
「でもな慧音・・・お前には妹紅がいるだろう?」
「そうねっ 二股はいけないと思うわっ」
「い い 加減に、」
にやけたまま次第にエスカレートしてきた二人に、慧音が雷を落とそうと腹に息を溜めた瞬間、
「「妹紅~、慧音がいじめるよ~ぅ」」
慧音の背後に視線を向けた二人が異口同音に叫ぶ。
「なっ!?」
反射的に振り向く、が、高速旋回によって巻き起こしたつむじ風の向こうに、妹紅の姿は無かった。
そこには、慧音の長い髪にじゃれつこうと背後から忍び寄った上海人形が、急に振り向かれて驚き、くるくると回っているのみだ。
妹紅の気配なら一里離れていようと察知できるのが常であったが・・・!
自身の不調を自覚した慧音は、それを足掛かりに冷静さを取り戻した。
平常心、平常心。 と心で唱える。
「まぁ、いろいろと気苦労の絶えない慧音先生にちょっとした贈り物というわけだ」
紙の筒で肩を叩きながら、魔理沙が唇の端を釣り上げる。
「貴方が言うべき台詞でない事だけは確かね」
「だから説明をだな」
まるで進まない展開に、慧音は段々と疲れてきた。
「…騒々しいわね、設計の検算がはかどらないじゃない…」
夕日に照らされてなお判る顔色の悪さと、細い呼吸に起因する独特の「ため」のある喋り方は、このパチュリー=ノゥレッジの特徴であった。
「やはり居たか、業者その3よ」
「…何の話?」
「慧音が霊夢に喰われた」
「…そう………お赤飯?」
眠そうな視線だけを慧音に向けて、先の二名と等しく無礼を働いた。
「そろそろ先に進めてはくれまいか」
慧音は鍋を抱えたまま、へたりこみそうになった。
■
朱と紫の混在する空。
黒々とした木々の向こうに、まだ低い位置だが銀に輝く鏡のような月が見えている。
夜が昼を侵食していく時間、四人の姿は慧音宅の少し上にあった。
真円を描く月からの波動が心地よい。
打ち合わせをしている魔女達を薄い警戒の目で見つつ、慧音はゆっくりと身を回し、銀光を浴びる。
半分とはいえ妖の血が流れる身である慧音は、もちろん満月で活性化する。
体内を強く流れる力に、徹夜のだるさや昼の強行軍の疲れなど、朝日を浴びた霜のように消えていった。
力強い鼓動が響く。
駆け巡る血潮が身体を変異させていくのを感じる。
体が組み変わり刷新されていく。
妖力の影響で変色したスカートの裾から白い尾が覗いた。
漲る。
指先はおろか毛の先にまで力が行き届いている感覚に、慧音は思わず叫びだしそうになる。
月に一度の変身に、やはり自分も妖なのだと実感していると、向こうに動きがあった。
束で持っていた紙を広げ、なにやら打ち合わせをしていた三人がそそくさと配置についた。
「…魔理沙は向こう…アリスはそっち…」
「タイミングは?」
「…魔理沙、貴方は出力担当…合図は出すわ…」
結局、「見てれば分かる」と、ろくな説明の無いままに三人に連れ出された形の慧音であったが、
配置についたと思しき魔女達に、これから何らかの儀式が始まる事くらいは予想がついた。
満月の力を借りた上に三人がかり。 それなりに大規模だと判断する。
【――――――――】
最初にパチュリーが詠唱を始めた。
晩秋の風に乗り、細々とした声が辛うじて聞こえる。
七曜の魔女は淡く輝きだし、それに呼応するように下方、慧音宅周辺に幾つもの魔方陣が輝き出した。
【――――――――】
【――――――――】
魔理沙とアリスの詠唱が始まった。 種類の異なるソプラノが共鳴を開始する。
【【【――――――――――――――――】】】
重なる。
歌うように、詠うように、唱え編み上げていく三人。
魔術の知識の浅い慧音でも、周囲に途方も無いマナが渦巻いているのは感じ取れる。
見渡す周囲の土地が織り重ねる歴史に、何かが介入しようとしているのが視える。
しかし、儀式の規模の大きさもだが、これだけの力を要求する代物というのが想像出来ないでいた。
【――――】
術の内容に想像を巡らせている間に、儀式は終了しようとしていた。
締めくくるように響いた言葉が、なにがしかを招く意味の物である事だけは聞き取れた。
詠唱を終えた三人は一所に集まり、下方、幾つかあった魔方陣の中心と思しき地点を注視している。
そのまま1分程度が過ぎた頃、地が唸るような音がした。
「?」
気のせいかと思ったが確かに聞こえる。
音源は直下、自宅周辺だ。
原因が先ほどの儀式魔法であることは間違いないようだ。 では、何が起きている?
答はすぐに出た。
地鳴りの源は庵から少し離れた直径10メートルほどの擂り鉢状の窪み。 その底から、水が滲み出してきたのだ。
「!!」
それを見つけ、喜んでいるような、驚いているような、まるで何か面白い物を見つけた子供のような表情を貼り付け、魔理沙が物凄い速度で降下していった。
既に水溜りになっている窪みギリギリで滞空した魔理沙は、箒に腰掛けたまま何やら調べ始める。
他の二人がゆるゆると降下していくのを見て、慧音も付いて行く。
窪みの縁に、何処から出したのか大量のガラス壜やら薬壜を並べ、水溜りを調べている様子の魔理沙。
それを言葉なく見守るアリスとパチュリー。
降りてみて気が付いた。
眼前に広がる10メートル程度の水溜り、いやこれは水溜りなどではない。
「よっしゃあ! 成功だ!」
右手を突き上げ、魔理沙が快哉をあげる。
「…当然よ、誰が確認したと思っているの」
「これでひと段落ね」
湯気を上げている水溜り、それは魔女たちの力技で召喚された温泉であった。
慧音は、驚いていいのか喜んでいいのか判然としないまま、はしゃぐ三人の魔女を眺めている事しか出来なかった。
アリスの指示の元、命令待ちだった人形達が、少し離れた所に山と積まれていた資材に取り掛かった。
大きさを揃えられ、角を削り落とし研磨された石は抱えられ列を成して飛んでいく。
湯の沸いた窪みではなく、段差を持って掘られた窪みへと石を並べていく。
建材が宙を舞い、並べられていくかと思うと瞬く間に打ち付けられていく。槌が釘を打つ音が連なり辺りを支配する。
鉢巻を締め、特異な形状をしたズボンを穿いた人形たちの工作により、地面の穴しかなかった場所に恐るべき速度で浴場が構築されていった。
しかし。
茫としていた慧音の意識は、すぐ近くの森に現出した妖気に引き戻された。
「近い、それに大きい」
妖気の方に振り返ると、既に出来上がっていた壁に自分の影が落ちていた。
頭の上には角。
そうだ、今宵は満月。 里を脅かすとなれば、妖物など欠片も残さずに無かった事にしてやろう。
少しばかり獰猛な笑みを浮かべた慧音がゆらりと浮かび上がると、背後の三人組が何やら相談しているのが耳に入ってきた。
小声で話しているが、獣化し感覚の増大している今なら、なんの苦もなく聞き取れた。
「ねえ、これって術の副作用だったりしないわよね」
「タイミング的に疑わしすぎるよな」
「…術式の構築が甘かったんじゃないかしら?」
「貴方、確認したんでしょう?」
「…エスケープウィンドウ展開とバイパスの形成部分に問題は…なかったわよ」
「魔理沙、釈明は?」
「あー。手っ取り早く安定させるのに、地脈を強化する式を書き込んだ覚えが」
「…それね…どのくらい?」
「貴方、確認したんでしょうに」
「2・・・いや4文節・・・もうちょっと多くて10くらいだったかも知れん」
「それだけあったらそれ単体で立派な式よ!」
アリスの怒鳴り声に呼応したか、森の中から轟音が響いた。
落雷の様な吼声に木々がざわめき、寝床についた鳥達が慌てて飛び立つ。
にわかに騒がしくなってきた。
寸前までやる気満々だったが、原因がそこにいると分かると、どうにも気力が萎えて仕方ない。
リボンを取り出し、どこかやさぐれた仕草で結ぶ。
「・・・お前達、事態を収める気はあるな?」
問いと共に振り向き、微笑む慧音。
輝く微笑みは、同性であってさえ魅了する。
間違いなく極上の笑顔であった。
もっとも、真意を知る者からすれば地獄の獄卒の方が可愛く思える代物であるのだが。
「さあ!私達の力を見せてやろうぜ!」
「里を脅かす妖怪は許さないわ!」
「…きざむわ」
それぞれ宣誓すると、慌しく出撃して行った。
意気込みだけは合格だった。
■
5分後、目標直上に三人は居た。
妖物は、一言で言い表すと黒い大蜥蜴であった。
大型化した鱗とも甲殻とも付かないゴツゴツとした背面は、月明かりの下では判然としない。
全長20メートル程度、全高5メートルくらいだろうか。
温泉脈の化身かどうかは知れないが、背中の鱗とも背鰭ともつかぬ突起の間から、だいぶ高熱らしいガスを吹いている。
拡散していくそれは硫黄臭に似た悪臭で、離れていても気温が上昇していくのが判る。
ガスは生き物全般に優しくないらしく、周囲の木々が見る間にくたびれ枯れていくのが見て取れた。
「おおよそ判りやすいのが出て来たな」
「話が通じなさそうなのは誰に似たのかしらね」
「…魔理沙ね…あれだけ黒いんだもの間違いないわ」
蹲り、じっとしていた大蜥蜴は、観察している間にのっそりと起き上がると四本の脚で地を踏み抜き、逞しい尻尾を振り森の木々をなぎ倒しながら、何故か里の方へと歩き出した。
「人恋しいあたりは誰かさん似かもな」
「なによそれ!」
「…まずいわ」
足音や木をなぎ倒す音に負けそうな声音で、パチュリーが警告を発する。
確かに人里へと進路を取った大蜥蜴だが、白い指の指し示す所には慧音の庵がある。 どう見ても通過点だ。
防御対象までの距離が一気に短くなり、作戦に余裕が無くなった。
「歩くのは遅いが、見た目しぶとそうだな。 やっぱり土の要素なのか?」
「…まだ分からないわ……地脈の乱れが妖物になったにしては コホッ」
「具体的過ぎるって? 龍脈をどう弄ったらあんなのが出てくるのかしら」
咳き込み、涙目で肯くパチュリー。 小声でなにか呟くと周囲に涼風が現れた。
轟、と大蜥蜴が吼える。夜の大気が震える。
「なんにせよ、このままだといろいろマズい」
耳を押さえていた魔理沙がタクトで蜥蜴を指す。
「じゃあお願いね、マスタースパークでさっさとやっちゃってよ」
「…右に同じ」
しかし魔理沙はカードを抜く事無く、渋い顔をした。
「何を言ってる、マスタースパークとドラゴンメテオは整地用に使ったじゃないか」
「あ、そう言えば」
少々強引な手段を使い、作業時間短縮を図ったのを忘れていた。 昼間の愉快な工事風景を思い出す。
「まさかこんな事態になるとは思ってなかったからな、カードなんざほとんど持ってきて無いぞ。 一応マスタースパークは余剰分でチャージ中だが、メテオの方はひと寝するなりしないと駄目だ」
そう言ってブランク状態のカードを見せる。
「…自爆人形」
「だめよ、威力を出すには魔力を込めないと。 一日中作業させてたから大した威力にならないわ」
「自爆魔法はコストが安いというのが定説なんだが」
「どこの世界の話よ」
「慧音の所で読んだ外の世界の勇者一行の話だ。 幻想郷が出来る遥か前にあった外の魔法らしいぞ」
なんでも最小単位の魔力で唱えられる4音の呪文だとか。
魔女たちの作戦会議の間にも、大蜥蜴はのっしのっしと進んでいた。既に500メートル程が枯らされている。
そろそろ森が薄くなってくる辺りに差し掛かっていた。
「うわ、もう森を出るぞ」
「…建設的な話が出てないからね」
「ちょっと、まずいんじゃない?」
彼方、蜥蜴の行方の向こうに腕組みをして浮いている慧音が見える。 その頭には鬼と見まごう立派な角。
大蜥蜴の脅威を上回る恐怖が待ち受けている予感があった。
三人の視線が慧音に向いた瞬間、角が月光を受けきらりと輝いた。 ここまでくると笑うしかない。
「よし、とりあえず手持ちのカードを出そう、使い方次第でどうにかできるかも知れない」
「そうね、このまま取り逃がしたら何されるか知れたものではないわ」
「…ながい詠唱は・・・無理そうよ…」
魔女三人が懐を探り出てきたカードは、やはり多くはなかった。
魔理沙:【スターダストレヴァリエ】【マスタースパーク】(充填中につき使用不可)
アリス:【上海人形】、【アーティクルサクリファイス】、【虎縞ビルドチーム人形】(稼動中)
パチュリー:【エレメンタルハーベスター(近)】【エレメンタルハーベスター(射)】【エレメンタルハーベスター(試)】
「「な ん で だ―――――!!」」
差し出された三枚ともに描かれた輝く歯車の絵柄に、思わずのけぞり絶叫のハーモニーを奏でる魔理沙とアリス。
「しかも何だその(試)って! まだ派生技作る気か!」
「…使いわけよ」
事も無げに告げる紫の魔女。 口元が歪んで見えるのは光の加減でそう見えているだけだろうか。
ともあれ攻撃が開始された。
いわゆる通常攻撃。カードに依存しない攻撃魔法での撃破を試みる。
魔理沙のマジックミサイルが弾け、上海人形のレーザーが焦がす。
確かに外殻が削れているようだが、大蜥蜴は意に介さずマイペースを保って歩いていた。
「…効いて無いわね」
「効いてない、というか体力の総量とか防御力の問題に見えるわ。 背中から出てるガスも防御の役を果たしているみたいだし」
「いいから手伝え!」
冷静に分析を始めた二人に魔理沙が怒鳴る。
その声に釣られたのか、蜥蜴が仰け反った。 前足を伸ばして首を反らせる。やはり所作は蜥蜴めいている。
天頂を仰ぐ形になった大蜥蜴と、上空に居た魔理沙の目が合った。
岩塊のような頭部、眼窩に揺らぐのはこの世の物ではない青白い炎のような光。
それが不意に紅くなった。
「!」
いつの間にか開いていた顎、口腔の奥から大気の揺らぎのような物が噴出した。
顎門の幅で飛ぶ高速のソレは、しかし黒衣の魔女を捉えそこなった。
余裕を見せて回避した魔理沙は、表情を険しくすると口元を押さえた。
「…ガス?」
「みたいね」
仰け反っていた喉にレーザーのメスが入り、追従する紫の魔弾が傷口を広げる。
裂けた辺りから黒いもやのような何かが零れだした。
痛覚があるのかは判らないが、大蜥蜴は吼声を上げ身を捩った。
「腹ね」
「…やわらかそうね」
【スターダストレヴァリエ!!】
魔理沙の声が世界に告げる。
生まれたての光の宝珠が、星屑の尾をなびかせながら大蜥蜴へと向かう。
大蜥蜴は、迫る光塊を危険と認識していないのか歩みを緩めることなく進行した。
8つの光の珠は纏わりつくように大蜥蜴の周囲を飛行し、輝く軌跡で絡め取ろうとする。
首、胴、脚、構わず巻きついた光の線は、一瞬の間をおいて揃って爆発したかのようにほつれ、星弾へと変化した。
たちまち撒き散らした星弾が弾け出し、小規模の爆発が大蜥蜴の全身で巻き起こる。
色とりどりの閃光に大蜥蜴の岩のようなシルエットが浮かび上がった。
焼き栗が爆ぜるような小気味良い音が連続で響くが、見た目に硬そうな外殻はやはり硬く、目立ったダメージを与えたように見えない。
しかし、突然明るくなった周囲に驚いたのか、大蜥蜴の歩みが止まった。
【エレメンタルハーベスター(射)】
魔理沙の世界への干渉をパチュリーが上書きする。
喘息で苦しんでいたはずの少女が淀みなく唱えたスペルは、直径3メートルを超える鋼刃を2つ、生み出した。
魔女の運指に従い、挟み込むように飛んだそれは、風の唸りと共に獲物に向かった。
大蜥蜴の右側面に飛んだ刃は、前後脚にそれぞれ喰い込み、岩を砕くような音とともに止まった。
「…斬り飛ばせなかった…」
言葉尻に若干の悔しさを滲ませたパチュリーは、半眼で何やら唱える。
直後、大蜥蜴がのけぞり吠えた。
脚に喰いこんでいた円刃が高速で回転を始めたのだ。
火花を散らし、硬い物同士が摩擦で叫ぶような音をたてて激しく回転する。
その光景と音に、レヴァリエを制御していた魔理沙が鳥肌を立てる。
擦過で赤熱化した外殻が飛沫のように飛び散り、周囲の木々を焦がす。
火花と激音と削りカスを上げていた切削部分から、黒い煙のような物が勢い良く噴き出した。
勢いだけ見れば動脈を派手に切った時の出血に似ていなくもない。
大蜥蜴の叫びに負けない音量で、金属摩擦の高音と遠雷のような低音が大蜥蜴の脚の辺りから響く。
「……あぁ、太くて逞しい……………骨……」
陶然と呟く深窓の喘息持ち。
同時、何かが折れる音が響き、咆哮と共に大蜥蜴が右側へ傾いだ。
「アリス!」
魔理沙の合図に、人形に魔力を籠めていたアリスが応える。
閃光と、爆音が立て続けに響いた。
【アーティクルサクリファイス】の爆発が、崩折れた大蜥蜴の右側直下の地面を吹き飛ばし大穴を開ける。
足場を穿掘され、出来たばかりの穴にそのまま右半身を落とし込む大蜥蜴。
「踏ん張る、な!」
頭上に掲げたタクトをくるくると回し、流星たちを一纏めにした魔理沙は、粘る左半身へと叩き付けた。
フラスコをまとめて割ったような音が響き、硝子細工が砕けるような儚さで、束ねた流星が粉々になる。
砕けた光は圧となり、二本の脚で踏みとどまる大蜥蜴を穴に落とし込む。
光を纏わり付かせながら、ゆっくりと穴に落ち込む黒い影。
尻尾が途中で引っかかりはしたが、平べったい本体は穴の底で裏返しになっていた。
「よしよし、この手のヤツは腹側は柔らかいってのが決まりだからな」
「そうね、これでお腹まで甲羅だったらお手上げだったけどね」
「…さあ、楽にしてあげるわ…」
穴に落ち、裏返ったままもがいている大蜥蜴を見下ろしたパチュリーが身震いする。
日が落ちた山間は肌寒いのだろう、後姿を目にした二人はそう思い、静かに目を逸らした。
パチュリーが嬉々として詠唱を始めるたが、それを止める声があった。
魔理沙だ。
「あんまり近付くなよ、まともに吸ったらお前さんだとイチコロだぞ」
「……なによ、心配性ね」
不機嫌そうな声が返ってくる。
「さっき飛ばす奴を使ったろう? 斬りに行ったら危ないと言っているんだ」
言い聞かせるような言葉。 皮肉を混ぜない口調には真剣さが感じられた。
肩に置かれた魔理沙の手に、パチュリーが手を重ねる。
詠唱を中断して半分だけ振り向いた顔。 表情は、髪に隠れて見えなかった。
【咒符 上海人形!!】
紅いドレスの人形が血の様に紅い光線を放射した。
「近付かなきゃいいんでしょ! 近付かなきゃ!!」
どこかヒステリックに叫ぶアリスは、上海人形をがっしりと掴むとでたらめに振り回す。
剣のような鋭さを持った魔彩光が、のたうつ大蜥蜴に突き立つ。
甲殻のない腹側はひとたまりもなく破け、裂かれ、貫かれた。
紅の光は乱雑に文字を書くペンの如くに荒れ狂い、たちまちのうちにクレーターは黒い霧で満たされる。
約1分間振り回されていた上海人形は、光線の放出が終わると同時に宙へ放り投げられた。
「!!!」
アリスが指揮者のように上げた両腕を振り下ろすと、余剰魔力を託された人形が、続けざまに黒霧の沼へと飛び込んでいく。
炸裂した。
衝撃波が黒い煙を間欠泉のように打ち上げ、三発、四発と爆音が轟く。
飛沫く黒煙は掻き消すように薄れて消えたが、舞い上がった土くれが降ってきた。
アリスの作った陥穽は、アリスによって掘り広げられ、黒霞の晴れた底には砕けた外殻が残るだけになっていた。
「…いやね、力任せで」
「弾幕はブレインじゃなかったのか?」
帽子にかかった土を払いながら、二人が素直な感想を述べた。
肩で息をしているアリスの半分だけ振り向いた顔。 表情は、髪に隠れて見えなかった。
腕組みしたままだった慧音は事の推移を伺っていたが、乱舞する紅い光と続けざまに響いた轟音の後、続いて戦闘の響きが無いことに事態が収束したらしい事を認めると、腕組みを解き大きく溜息をついた。
あの魔女三人が厄介事を起こしたのは、別に今回が初めての事ではない。
主犯というか、きっかけは魔理沙である事が大半だが、事態を無駄に大きくする才能は、他の二名も持ち合わせている。
今回の湯殿増築は、その辺りの反省から計画された物なのかも知れない。
しかし、それで更なる騒動を呼び込んでしまっては本末転倒ではないか。
目を伏せた慧音は深呼吸をひとつすると、自分の表情がいつも通りであることを確認し、三人を出迎えた。
「原因はなんにせよご苦労。 増改築の件も含めて礼を言わせて貰う」
そう言って頭を下げる慧音に、さすがに居心地が悪いのか、もぞもぞと反省しだす三魔女。
「いや、まあ・・・驚かせようと思ったんだ・・・すまん」
「じ、自分で撒いた種を刈り取っただけよ」
「…」
ひとまず反省しているようだが、いつまでも大人しくしているような連中でもないと分かっている。
せめて自分の家でやってほしいものだ、と慧音は内心嘆息する。
里に程近いこの場所であんな大物が暴れたとなると、里の守護者としては後の処理も含めて頭の痛い問題が残された事になる。
「立ち話もなんだ、折角出来た風呂もあることだし。 入らない手はあるまい」
態度を軟化させた慧音に安心した様子の三人組は、ようやく自分達の状態に気が付いたらしい。
一日外に出ていた上に、最後は毒ガスを噴く妖物と戦い砂礫を被ったのである。
乙女としては風呂が恋しくなる状態であった。
■
乳白色の湯煙が満ちた空間。
戦闘の間に人形達は見事に仕事を終えていた。
完成した湯殿はここが昼までただの空き地であったとは思えない見事な物である。
「おお・・・!」
浴場に踏み入れた慧音は、床の冷たさも忘れて純粋に感動していた。
自宅の風呂も決して狭いものではないが、あくまで個人宅の風呂で、という範疇の物である。
石造りの湯船は10メートル四方はあるだろうか。
全てを同時に組み上げられた建物は、一部の天井が開閉式になっており、天の高い位置まで来ている月を望む事が出来る。
平たい石を敷き詰めた洗い場は広く、どこから調達したのか真新しい桶が重ねられている。
湯気を上げているお湯は、僅かに色を持っていた。
汲み上げ後に一度濾過されているそれは、砂などが混じっていることも無い。
このあたりの技術や、排水や換気などにも手馴れた物を感じる設計などは、霧雨邸の湯殿で培われたものだろうか。
「なに固まってるんだ、さっさと入らないと風邪をひいてしまうじゃないか」
後から魔理沙の声がしたかと思うと、ぎゅう、とふさふさの尻尾を掴まれた。
「うわあ!?」
思わず叫び振り払うと、実に堂々とした姿の魔理沙が立っていた。
「貴方、ちょっとは隠しなさいよ」
ヘアバンドを外したアリスがタオルで胸から下を隠しながら入ってくる。
「…ああ、この日まで…長かったわ…」
感慨深げに入ってくるパチュリーは、髪を結うリボンが無い所為かいつもと感じが違う。
「どうだ?」
にやり、と自慢の玩具を見せる子供のような顔。
「とりあえず、毎朝の牛乳をお勧めする。 あと、少しは恥じらいを持て」
慧音は素直、且つ非情な感想を述べた。
「そうじゃない! この風呂の感想だ!!」
本気で怒り出した魔理沙をまあまあと宥め、
「素晴しい。 先程の件を帳消しにするには十分だ」
そして、ふにゃ、と表情を緩めると。
「ありがとう」
と、力の抜けた笑みを浮かべた。
「ま、まあ! 喜んでもらえてなによりだ! なあ!?」
「そ、そうね。苦労した甲斐があったわ」
「……」
赤面した三人は照れくさそうに視線を逸らすと、そそくさと洗い場に向かった。
この日、上白沢邸特設会場において突発のタイトルマッチが行われた。
毎月の定例会で行われるそれは、大きさのみならず、全体的なバランスも審議の対象となっている。
「大きければいいというものではない」
というのは、紅魔館大浴場における対紅美鈴戦の後に出来た、三人の共通見解であり、鋼の意思である。
もっとも総合的なバランスでも、三名は完膚なきまでに叩きのめされたわけであるが。
突然の挑戦者を前に魔女三名は無力であった。 現在のタイトルホルダーであるパチュリーですら歯が立たなかったのである。
魔理沙は密かに誓った。毎朝の牛乳を。
アリスは内心で呪った。世の不公平を。
パチュリーは嘲笑った。自身の傲慢を。
しかし彼女らはまだ知らない。
近い将来、永遠亭における対抗試合において、神代の叡智の前に屈する運命を。
井の中の蛙たちが大海を知る事となった臨時ランキングの後、ようやく落ち着き湯船の中である。
「それで? 先程のは一体なんなのだ、魔女諸氏の見解を聞きたいものだな」
髪を結い上げた慧音が問う。雄々しく天を衝く角が髪飾りのようにも見える不思議な髪形になっていた。
尻尾は湯船の中であり、こればかりは仕方ないと思っていたが、リフォーム業者は抜かりが無かった。
水の精霊魔法による小規模の浄化水流を敷設することで、抜け毛を回収する術を編み出していたのである。
「魔理沙の所為」
「…魔理沙の子」
首まで浸かっているアリスと、慧音と同じく髪を結い上げ白いうなじを晒しているパチュリーが異口同音で答えた。
「恒久的転送呪文で温泉脈を局所的に繋いだわけだが、出口側の地脈を安定させるために少しばかり強化を図った。 ところがどうしたことかこの土地の「澱み」のようなものまで強化してしまったらしいな、何か他にも触媒が有ったのかも知れないが、急に改造された土地が召喚された温泉脈を異物として排除しようとしたらしく、結果あのような妖物を生み出してしまったらしい。 それだけならまだしも術者の心理が刷り込まれたのか人里をまっしぐらに目指し出した。 これに関しては」
「なによ、里へ向かったのは偶然かもしれないでしょう!」
猛然と解説を始めた魔理沙だったが、アリスが割って入った。
「おいおい、私は何も言っていないぞ?」
「余計な事を言わせるつもりはないの」
立ち上がり構えるアリス。 応じるように素早く構える魔理沙。 抵抗の少ないボディは立ち上がる速度に貢献していた。
「…お風呂ではしゃがないの」
魔理沙に掴みかかろうとするアリスを、半眼のパチュリーが発した一言が止めた。
「「はい」」
良く訓練された猟犬のような従順さで二名が湯船に沈む。
この場の主はどうやらこの七曜の魔女の様であった。
■
入浴中に人形達に洗濯を任せておいた服は、魔理沙のミニ八卦炉によって乾燥されていた。
「やっぱり着替えも置いておいた方が何かと楽だな」
「そうねぇ」
浴衣を着込み、髪を乾かしつつ気楽に会話している二人。
しかしそれは、巣作りの次なる段階の予告に他ならなかった。
慧音もまた、人形に髪を梳かれ乾かされながら、ぼんやりと麦茶を飲んでいた。
脱衣所は十分に広く、風呂上りの後を考慮した布陣になっており、慧音が手にしている麦茶も、その一部である。
また、隅には誰も近寄ろうとしないが体重計が鎮座していた。
アリスの人形は職種に応じて服装が異なる。
今、稼働しているのはメイド服を纏った人形たちで、安楽椅子のようにゆったりとした椅子に沈んでいる主の髪を梳き、肩や手足のマッサージをしている。
髪は専用の櫛を用いて、痛まぬようにしかし高速で乾燥させていく。
この櫛、開発元は紅魔館で、館の従業者生活環境改善事業の一環として、気まぐれに量産されたものである。
長髪のパチュリーが湯浴みの後、乾かしきる前に読書を始めて風邪をひく、という子供じみた連携が頻発するのを防ぐ為に、彼女の身の回りの世話をしている下級悪魔の司書が寝る間を惜しんで製作した物が原版である。
横ではうつ伏せになったパチュリーが背中をマッサージされていた。
う~、とか、あ~、とか、効く~、とかなんとも形容し難い声を上げている。
日がな一日本を読んでいる事が大半のこの魔女は、肩こりも持病となっていそうだった。
慧音はぼんやりとこの光景の意味を考えていた。
今、自分を取り巻く環境が急速に変化している。
この三人の事だけではない。
今まで、秘密裏に行われていた妹紅の戦いや、明るみに出た永遠亭の存在。
歴史を読むことで知識としては知っていた、強大な力を持った者達との邂逅。
そして、人の、幻想郷の守護者。 当代の博麗の巫女、霊夢。
今まで、里を護る事に腐心してきた。
護る事。
「難しいな、いろいろと」
空気が漏れるような、小さな囁き。
昨日、妹紅にも言われたな、今更だ、と。
身を沈めるように深く座ると、慧音は瞑目する。
隣のアリスは、慧音の呟きを聞こえなかった振りをした。
■
「少し遅くなってしまったが、夕飯はどうする?」
このままお泊り、という流れが確定しそうな雰囲気で慧音が尋ねる。
「できれば頂きたいところではあるな」
「ご飯は炊いてあるわ、多分大丈夫よ」
「…貴方、地味に手際がいいわね」
一人暮らしの長いアリスは、家事の大半を人形に任せてある。
無論、動作はアリスが入力したものであり、他人の目では判らないだけで多種多様な命令が随時飛んでいるのである。
もっとも、基幹となる動作プログラムは詰めてあるが、各人形の個性や経験情報の積み重ねで向き不向きが出てくるので、全ての人形が同じ作業が出来るわけではないし、多様性を持たせる為の配置換えや異動も行われている。
そういった全てを管理、運営しているという点ではアリスには管理職の座が相応しいのかも知れない
なお、炊事人形は生活の潤いに関わってくる為、錬度の高い者でなければその任に就くことは出来ない。
小さな従者たちに台所を使われる事に、慧音も次第に抵抗がなくなってきていた。
しかし。
「そうか。 ならば主菜は大蜥蜴の姿焼きといったところか」
慧音の言葉に、三人が渋々頷く。
滅ぼしたと思っていた気配が、すぐ近くで復活したのである。
■
急行して1分の距離。
中天に銀の珠を頂き、降り注ぐ光は、眼下を蠢く巨影を照らし出す。
凝結した溶岩を纏ったかのような姿。 背から噴き出す有毒な高温の気体。 大蜥蜴の姿をしたこの地帯の澱みの化身である。
黒々とした森の中、地に落ちた影が凝固したような姿は、
「おいおい。元通りかよ」
魔理沙の言葉通り、砕かれ刻まれたはずの身体は何事も無かったかのように木々を踏み倒している。
むしろ大きくなってすらいた。
「…アリス、釈明は?」
「えーと。 不測の事態で本流とリンクが切れた時のために、ある程度の自己診断、自己修復、自己進化機能を」
「…教育熱心なママね」
「ごめんなさい、人形制作の時には当たり前に入れてる項目だったの」
疲れたように一つ息をつく三人。
「仕方ない、今度こそ姿形も残さず消してやる」
意気込んで抜いた恋符は、おおよその彩りを取り戻している。
「8割、ってとこか」
確かにこの魔砲がひとたび火を吹けば、地脈の澱みが変じた程度の妖物なら気持ちよく消し飛ばせることだろう。
しかし、それは撃てればの話である。
時間を稼ぐ必要があるが今度こそ戦力不足だ。 先程の戦闘で既に手持ちの大半を消費しきっている。
慧音が手を貸すという申し出を突っぱねて出てきた以上、意地でも自分たちで始末を着けなければならない。
もとより、自分達の起こした不始末なのだ。 どうして慧音の手を借りられようか。
不利は否めなかったが、退く理由はどこにも無かった。
戦端は再び開かれた。
しかし、アリスの書き込んだ式は正しく機能し、状況をややこしくするのに一役買っていた。
背面からのガスは、磁力を纏った本体と相乗し、さらなる防御力を発揮するに至っていたのである。
黒い外殻も硬度を増し、決定打に欠ける魔女達を嘲笑うかのように強固になっていた。
三方からの一点集中攻撃も効いてはいるのだが、足止めにしかならず、目立った成果を上げられないでいた。
時折吐かれるブレスも、光源の限られた戦場においてはそこそこ危険だった。
前兆の動作が大きい為に予測回避はしやすいが、避けてばかりでは何の解決にもならない。
開いた口腔内に攻撃を叩き込んでも、大した効果が無かった。
姿形こそ生き物だが、そういう弱点まで持ち合わせるほど複雑に出来ていないらしい。
紅い揺らめく眼が飛翔する黒い影を追う。
これ以上退く事のできない状況に、小さく焦り意識が燻る。
無いものねだりをしても仕方ないと判りつつも、若干の苛立ちを含んだ声でアリスが問う。
「チャージは?」
「あと少しだ」
押し殺したように魔理沙が唸る。
積極的に攻撃出来ないのは、大技の充填の為に魔力を割かれているという理由もある。
パチュリーも、ガス拡散による被害を抑える気流操作を行っている為に余力が乏しかった。
かわしたブレスとて消えて無くなる訳ではなく、大気に拡散しているだけだし、大蜥蜴が防御すればそれだけで森が死んでいくのだ。
辺りに漂う火山性ガスめいた異臭に、次第に呼吸が辛くなってくる。 温度も耐え難くなってきた。
今日これまでにカードを何枚も使っている為、残存魔力自体も心許なくなって来ている。
時間、距離、戦力。全てにおいて枷をはめられた戦いであった。
ついに森を出た大蜥蜴は、首を巡らせ里を見つけると、一つ大きく吼えた。
豪声に歯軋りする魔女達は、すぐそこに慧音の庵が見える距離にまで後退させられていた。
「…まだるっこしいのは嫌いよ」
最初に痺れを切らせたのはパチュリーだった。
大蜥蜴の鼻先を押さえるように攻撃していた魔理沙の背後に辿り着く。
声をかける事無く、その顎を掴み強引に振り向かせると、奪うように唇を重ねた。
たっぷり10秒。
その光景にアリスが毛を逆立てる。 顔色を失い、まるで自身が人形になったかのように蒼白になる。
5秒間白くなっていたアリスは、次の5秒で血色を取り戻し、一気にレッドゾーンへと踏み込んだ。
自分でも理解出来ない何かを叫び出す寸前に、アリスは魔理沙との同調回線を通じて魔力が補充されるのを感じた。
「……貴方たちの持ってるバイパスを借りたわ、どう?……撃てそう?」
事務的な口調で告げるパチュリー。 その顔色は常に輪をかけて悪くなっている。
「すまん。これでどうにかなりそうだ」
答る魔理沙の表情は、眉を立てた鋭い笑顔。 逆転するときの、いつもの表情だ。
パチュリーもアリスも、魔理沙のこの笑顔にある程度の信頼を寄せていた。
「アリス」
「・・・・・・あと少しだけ待って。 望む威力にはまだ届かない。 三体同時充填には時間がかかる」
問いかけに答えるアリスの表情は、曇りが晴れない。
「……世話が焼けるわね」
それを聞いたパチュリーは、ゆらり、と前へ出る。
「パチェ」
「…見ていなさい…そのくらいの時間を稼ぐくらいなら訳ないわ。 ただし、その後は必ず決める事」
風の防御が無くなれば、押さえ込んでいたガスの被害は一気に広がるだろう。
七曜の魔女のこの宣告は、そこまでに消耗している証であった。
その事を承知した魔理沙は、
「ああ、任されてやるぜ!」
力強く頷く。
「…まぁいいわ…早く終わらせてお風呂に入り直しよ……」
普段と変わらぬ口調と共に取り出すのは(試)のカード。
目標を見ままに、それを掲げ、誰にともなく告げる。
【金&木符 エレメンタルハーベスター】
符は熱を帯びた夜風にほどけるように消え、聞き届けた世界を塗り替えていく。
魔力で編まれた結界に大気の揺らぎが生まれ、そしてそれは現れた。
一つ、二つ、と顕れ、その数を増やしていくのは白銀の円盤。
それは先程の物よりも薄く小振りで、直径は1メートルも無い。
しかし、十六まで現出したそれらは、すべて天上の月のように輝いていた。
「……」
半円を描くように隊列を組んでいた円盤のうち、半数の8基が合図もなく飛んだ。
高速で、弧を描き、蜻蛉の羽音の様な音を立て大蜥蜴に殺到する銀刃。
逸れた。
周囲に撒布したガスと、生まれに由来する磁場を掛け合わせた防護の力場は、8つの銀光をことごとく退けた。
弾かれた刃は、そのままの勢いで大蜥蜴の後方へと飛び去った。
攻撃を受けた事に気付いた大蜥蜴が、不動の魔女に向き直り、その顎門を開いた。
死の吐息の前兆である。
輝きを取り戻したマスタースパークのカードを握り、魔理沙が駆け出す。
しかし魔理沙が行動を起こす前に、そして大蜥蜴がブレスを放つ前に、パチュリーの次の手が打たれた。
光輝。
揃えて差し出された両手。 親指を除く八指から放たれた光線は、広がるように照射された。
勝手な方向に伸びたそれらは、一度だけ鋭角に曲がると大蜥蜴へと奔った。
逸れた。
金属を乱暴にこすり合わせたような耳障りな音を立て、磁場の表面を擦って行く。
光条は、防御力場と干渉すると小さく放電現象を起こし、黒霞の中の大蜥蜴を照らした。
貫通出来なかった光線は、曲線軌道で大蜥蜴の背後へと流れ、
「な!?」
光の行く先、そこには先に飛ばした八基の輝く刃が待っている。
魔理沙の目に映ったのは、盤面をこちらに向けた八基が光線を受け止める光景だった。
「…金の要素を強化した試作型よ」
後ろに言い聞かせるように呟き、前向きの視線に力を込め告げる。
「…魔を退ける真の銀…今ひと時の鏡となれ…」
八条の光線が八基の銀盤に反射され戻って来た。
再び金属音。
背後からの攻撃はそれでも防御力場を貫けなかったが、触媒となるガスの減衰があったのか光線は往路よりも直進した。
またしても逸れた光線は、今度はパチュリー周辺の八基に出迎えられる。
紫の魔女には何の動作もなかったが、八基は、逸らされて別々の軌道を取っていた光線をそれぞれに受け止めた。
唇の端を歪ませて、囁く。
「…さあ、我慢比べよ」
月光を浴びたパチュリーの身体が青白い光を帯び、呼応するように十六の反射板も輝きを増した。
光線が奔る。
往。
逸。
復。
逸。
往。
逸。
復。
逸。
往。
逸。
復。
逸。
往、逸、復、逸。 往、逸、復、逸。 往、逸、復、逸。 往逸復逸、往逸復逸、往逸復逸、往復、往復、往復・・・・・・
次第に激しく、高速化する光条の往復は大蜥蜴の防御を削り刻み、次第に逸らされなくなり、黒い外殻を削り、抉りっていく。
往復する光線は切れ目が見えなくなり、八本の光で出来た檻にすら見える。
不規則に軌道を変え高速で往復する光を、月光の鏡は高速で移動し、完璧に拾い上げ、己のパートナーへと投げ返す。
逸らされ膨らんでいた光線の軌道が、内部の抵抗が小さくなるにつれ、次第に直線になっていく。 収縮していく。
甲殻を焼き削る音と、大蜥蜴の咆哮が混然となり夜の森を揺るがした。
「まるで・・・ヤスリだな・・・」
呆然と見つめていた魔理沙だったが、光に縫い止められたように削れていく大蜥蜴に思わずそんな感想を漏らした。
前触れなく光の檻が消滅した。
スペルが終了したのだ。
青白く輝いていたパチュリーは、今はその輝きもなく、地に降りて小さく咳き込んでいた。
全身の甲殻を削られ、そこかしこから黒い煙を出している大蜥蜴は、光の拘束から解放されていた。
が、斬り削られたその身体は、噴き出す黒霞によって形状が判然としなくなっていた。
地の底から響くような唸り声を上げ、身を震わせる。
しかし、壮絶な摩擦で生じた煙と、裂けた傷口から零れたもやの向こうに、二つの紅い輝きが見えた。
力の篭った視線でそれを睨み、眉を立て魔理沙が叫ぶ。
「アリス――――――!!」
「ええ!待たせたわね!!」
背後、遅れてきた人形遣いが抱きつくように身を重ねる。
二人の魔女は構えた。
夏の終わり。
大仕事になりそうな事件の準備として、この二人は、自身の持つ魔力や感覚などを共有する術式を施した。
これにより、アリスは火力を、魔理沙は精度を、それぞれ上乗せ獲得する事に成功したのである。
普段は使用していないが、契約というネットワークは健在で、一人の手に余る際には使われる。
感覚が、魔力が、意識が、同調する。
自分に重なり、境界の曖昧になったパートナーの存在を強く感じる。
そして、この状態でければ出来ない攻撃があった。
照準。
二人分の視線は、黒煙の塊に潜む紅光に狙いを定める。
深手を負った大蜥蜴は、狙われている事を理解しているのか、周囲に散った黒霧を吸収すると身体を復元し始めた。
強い敵意を浴び、身を震わせ防御を張り巡らせる。
強烈な磁場の発現に、蹲っていたパチュリーの髪が逆立つ。
「行きなさい!」
アリスが叫びと共に人形を放った。
僅かな弧を描いて飛ぶ三体は、失われる事を定められた生贄達。
主の命を果たす為、ただ飛び、そして、ただ散る。
【アーティクル サクリファイス!!】
閃光。
等速度で爆破ポイントに到達した三体の人形は、コンマのズレもなく同時に内包した魔力を威の力に還元した。
散華。
先の戦闘でその身を砕いた爆発は、今度は防御力場に遮られ、歪に膨らんだ。
犠牲の光が、大蜥蜴上面の力場の上で複雑な模様を描き、衝撃波が黒の防壁を軋ませる。
その爆圧の花が開ききる前に、魔理沙が叫ぶ。
「唸れ八卦炉! 貫け魔砲!! 【マスタ― スパ――――ク!!!】」
まっしぐらの恋心が世界に響き、必殺の魔砲が吼えた。
先に咲いた閃光を飲み込む光量の破壊が、夜の森を、空を、空間そのものを、震わせる。
顕現した破滅的恋色魔法は、普段とは異なり拡散せずにその身を細く、濃く、鋭くしていく。
狙うは人形着弾三箇所の中心位置。 崩壊の圧が拮抗し、今まさに弾けようとしている地点だ。
二人がかりの制御により高い精度を獲得した魔砲は、狙い違わず突き刺さる。
自爆人形の威力を飲み込み増大した光の一撃は、爆圧レンズの作用で黒の防御力場を容易く貫く。
防護のガスも、噴き零れていた黒い霧も、刹那の時間で消滅した。
白光を叩きつけられた黒甲は、紅茶に入れられた角砂糖の如くに崩れ、削り飛ばされていく。
轟音を上げてうねり、制御を離れて暴れようとする魔砲を、魔理沙はアリスと二人掛りで押さえつける。
物理的ではない感覚が、突き出した腕に添えられるアリスの手を感じている。
背面胴中央に叩き込んだ魔砲は、もうじき大蜥蜴を分断する。 ろくに視えていないが、魔理沙には手ごたえでそれが判った。
しかし、相手の再生能力を考えると中途半端で終わらせる事は出来ない。
次に復活されたら今度こそ策が無いのだ。
意地でも仕留める。
魔理沙の気合がアリスをも奮い立たせた。
「おおおおおおおおっ!!!」
丹田に力を込め、保持した魔砲を丸ごと引きずり、振り抜く。
暴走寸前の出力だった魔砲が、制御の縛鎖を引き千切ろうと猛り狂る。
魔力の逆流に、アリスの思念がたまらず悲鳴を上げる。 意識に響く。
うるさい、と、意識で怒鳴り、構わず破壊の奔流を薙ぎ払う。
大蜥蜴の胴から後ろ半分が影も残さず砕け散ったが、瀑布の如き豪音の中では砕きの音は聞こえない。
「あと半分・・・!」
急げ。 魔砲は持続が効かないスペルだ。
焦る魔理沙は歯を食いしばると、体の奥底から力が抜けていく感覚に反逆した。
尻尾の先に向けていた照準を前半分に向け直す。
地面を薙ぐ魔砲は、轟音とともに森の地面を裁断掘削する。
白の光に踏みにじられた木々や地殻が、反発力で夜空へと噴き上げられた。
駆け巡る魔力の激流に、アリスの意識が泣き出した。
それを宥めすかし、しかし、この期に及んでも温存してあるアリス側の余剰魔力を吸い上げる。
搾り取られる感覚に、アリスの声無き叫声が断続的に響く。
魔理沙は、アリスの味のする魔力を魔砲に注ぎ込み、感覚の無くなって来た腕で魔砲を操る。
大地に大穴を開けつつも前半分を捉え、出来たての陥穽に押し込み、押さえ込む。
二人分の残存魔力で加圧された光の魔砲は、
「「!!!」」
息を吸うような一瞬の減衰の後、倍以上の太さになり、破壊神の鉄槌の如く叩きつけられた。
既にクレーターの底に押し付けられていた前半分は、光爆の威力と穴の中で反射した衝撃波によって二重三重の打撃を受ける。
逃げ場のない光の激流の中、身を割られ脚を削がれる。 穴の中で爆ぜた威力が地殻を割り、周囲の地割れが光を噴き出す。
最大出力で5秒が経過した頃、魔理沙はついに手応えを感じなくなった。
荒れ狂っていた破壊の光と音は、唐突に、幻のように消え失せた。
残ったのは確かな破壊の爪痕である大穴、燃え盛る恋心の余熱である陽炎の揺らぎと、逆巻き捩れる夜の風。
暗い穴の底を睨んでいた魔理沙は、敵意の紅い瞳を探していた。
「どうやら・・・消し飛んだらしいな」
喉の奥に詰めていた息を吐き出す。
魂まで出て行きそうな安堵の溜息であった。
すっかり感覚を失った手で箒を掴もうとすると、どこか萎れた感じのアリスが、箒の後部に横座りになった。
「・・・ううぅ、頭ガンガンする・・・」
しかし、緊張の鎖を失った魔理沙は重量増加に対応出来ず、
「「あ」」
何の抵抗も無く落ちた。
魔理沙は焦った。
浮力を消失するくらいに消耗していた事と、エンストした箒を再起動するのが間に合うか微妙な所に。
アリスは焦った。
このまま落ちると今開けた大穴に落ちる事と、自分はすぐに浮けるが魔理沙は落ちるかも知れない事に。
魔法の基本は平静な心である。 しかし、今この二人はそれを失っていた。
自由落下特有の臓物が持ち上がる感覚に笑いだしたの魔理沙は、それでも箒を起動せんと努力していたが、抱きついてきたアリスの恐慌が伝染し、手繰り寄せた制御を手放してしまった。
魔砲の余波と、降り注いだ土砂にまみれ無残な姿で転がっていたパチュリーは、仲良く叫びながら落下していく二人に気が付いていたが、手を差し伸べる事はしなかった。
理由は二つ。
魔力の枯渇と喘息によって、比較的基本の「落下速度制御の呪文」すら唱えきれるか怪しかった事と、白い光を帯びた慧音が猛然と追いかけているのが見えていたから。
当然慧音は追いついた。
箒に座ったまま、悲鳴の不協和音を奏でている二人をかっさらう。
腕をそれぞれ胴に回し、そのまま落ちていく箒を爪先で引っ掛け跳ね上げると、垂直落下からの急激な方向転換に、二人揃って踏まれた蛙のような声をあげた。
くるくると回った箒は再び落下しようとするが、先端を下に向けたところで慧音が差し出した魔理沙の、エプロンの紐に挟まる。
両脇に抱えた二人は、仲良く気絶していた。
多少乱暴だったが問題なし、と息を吐く。
「それにしても・・・・・・」
慧音は一変した風景に険しい表情を浮かべ、
「・・・そこか」
向けられた視線の先に、声よりも早く銀光が閃き、何かが突き立つ硬い音が小さく響いた。
そこには青白く輝く剣が黒い岩塊を貫き、縫い止めていた。
南瓜程度の大きさの黒岩は抗議するように震えていたが、剣の刺さった箇所から罅割れると、黒い煙をあげつつ崩れていった。
数瞬後には、残滓も残さずに消え去った。
それを見届けた慧音は、肩の力を抜くと嘆息。
「・・・すまんな・・・」
呟くと、瞑目し、うな垂れた。
魔力の枯渇した身体に染み入るような光を受け、パチュリーは地面に仰向けになっていた。
何事かを零した慧音を、霞む眼で見上げる。
銀の光が降る闇の空に浮かぶ姿形。
月光と風とを浴び、輝きを帯びた髪と尾を白くなびかせる慧音を瞳に映す。
呟きの意味を考えていたパチュリーは、その白さに意識が眩んでいくのを感じ、瞳を閉じて思考を手放した。
■
瞼の向うが明るい。朝か。朝なのか。朝だろう。
朝という単語に、意識が少しずつ浮かび上がってくる感覚。睡眠と覚醒の間にある、まどろみのひと時。
自分のベッドとは違う寝心地と余所の布団の匂い。以前の泊まった霊夢の所の布団の感触に似ている。
昨日は神社で宴会だったかしら、たしかに身体はすこぶるだるいけど。と、布団から来る連想に納得しかかったが、薄目を開けて見える部屋は、神社の客間ではない。
「ここは・・・?」
未だ寝たままの意識は、状況を分析しようとしない。
のそり、と緩慢な動作でアリスは体を起こす。そしてまだ開ききらない眼で見渡す。
さして広くない畳の和室・・・・・・はて、このシチュエイションは記憶にあるわね、と胡乱な思考が眠気に滲む。
考え込む左手側に気配を感じ、何の気なしにそちらに目を向けると
魔理沙の寝顔があった。
その事実が網膜から脳に到達した瞬間。アリスの意識は瞬時に覚醒した。
こ・・・この状況は!
魔理沙と全力で戦い、気絶した後慧音に拾われた「あの朝」の光景が鮮烈に甦った。
前回は、意識のボーナスステージ突入を防ぐ事が出来ずに、結果慧音の乱入を許し目の前のご馳走を逃がしたのだ。
前回の失態を思い出し、再び訪れた好機に感謝し、これからを想像する。
様々な感情の入り混じったアリスの表情は、一回りして平静になっていた。
外見的には極めて冷静な様子で、アリスは左隣の魔法使いを観察する。
薄く口を開けて寝ている魔理沙の表情は無防備で、普段よりもどこか幼く見える。
浴衣の合わせが微妙に崩れて、鎖骨から肉付きの薄い胸骨あたりまでが薄明かりの下、アリスの目の前に晒されていた。
しかし。
桃源郷の扉に手をかけていたアリスは、左方近距離に極めて敵性の高い障害物を発見した。
左手だ。
魔理沙の左側にある手だから魔理沙のだろう、などとは思えない向きである。
具体的には、攻撃目標(浴衣の合わせ)に向かい侵攻していた所を、敵軍の哨戒と遭遇し身を隠しつつ様子を窺っている向きだ。
見やる。
魔理沙の向こう側に、紫もやしがうつ伏せで寝ていた。
「狸寝入りか」
こちらの目を気にして手を止めるなら好都合、そこで指をくわえて見ているがいい。
アリスは悠然と体を捻り、魔理沙に向き直ろうとした。
そこである事実に気がついた。
「否! 狸寝入りにあらず!」
喘息持ちが胸郭を圧迫する姿勢をとったままで、潜んでいられる道理はない。
さらに恐るべき事実。
相手はすでに構えているのだ。
人形遣いの瞳孔が猫科動物の如く拡大した。
その視線の向こう、昨夜の大蜥蜴を思わせる動きで図書館魔女が身を起こす。
すだれのように顔を隠す前髪の向こう、半眼よりも細められた瞳は、しかし明らかな敵意の光を湛えている。
アリスは昨夜の一幕を思い出していた。
・・・魔力の補充は勝つ為に必要だったとはいえ・・・
やはり納得はいかなかった。
腹の辺りに熱が篭る。 意識が戦闘を予感し、脳の回転を上げていく。
寝起きのアリスは乱れた髪のまま、獰猛な笑みを浮かべた。
その時である。
二名の予測しない方向から腕が来たのは。
下方、寝ているはずの魔理沙の腕がそれぞれアリスとパチュリーの首を抱え込む。
浴衣の袖から突き出た魔理沙の柔らかい腕は、髪を巻き込みつつ頭に絡みつくと、そのまま胸元に抱き寄せた。
「「!!」」
浴衣の布一枚越しに魔理沙の体温を感じる。
浴衣の布一枚越しに魔理沙の柔胸を感じる。
ただそれだけで魔女二人の動きは完全に封じられていた。
目の前に、言い訳できないほどに紅くなった対手の顔が見える。
おそらく、己も同じようなものだろう。
「へへへぇ・・・」
頭上から、魔理沙の気の抜けた笑いが聞こえる。
辛うじて見える口元はだらしなく弛んでいる。 笑みの形で歪んだままのそれを見て、アリスは溜息をついた。
「なにか見つけたのね・・・」
「…夢の中でも欲張りね…」
二人揃って苦笑する。
微妙につらい体勢だったが、アリスはなんだかどうでもよくなり体の力を抜いた。
限界スレスレまで魔力を消耗した身体は、まだ眠りが足りないらしく、魔理沙の体温が移ってくると眠気が戻ってきた。
見ればパチュリーも瞼が重そうだ。
ゆっくりと深呼吸し、瞳を閉じる。
魔理沙の鼓動が聞こえる。
鼓動と寝息しかきこえない。
あたたかい。
いいにおい。
まりさ・・・
上海人形がそわそわし始めた事から、その主が起きた事を察知した慧音は、戸口で立ち止まっていた。
「・・・・・・なんなんだ」
布団には変形した「川」の字で眠る三人の魔女の姿。
それぞれが腕枕をしている為か、中央の魔理沙が若干寝苦しそうな顔をしている。
その魔理沙に寄り添うようにして穏やかな寝息をたてている紫と金。
薄目のカーテンに遮られた日差しは、角度を持ち始めており、既に朝と言えない時間であったが、
「・・・・・・」
柔らかい苦笑をひとつ漏らすと、目の前の平和な光景に慧音は起こすのを止め、居間に引き返した。
■
三人が寝床から出てきたのは、午前も遅く、昼近い頃になってからであった。
昨晩、慧音によって着替えさせたれた三人の服は、三人の恨めしそうな視線の先、庭先で風に揺れていた。
「すまんな、昨日は穴の隠蔽やらで手間取ってな」
なにやら疲れた様子で慧音が告げる。
「だったら代替をよこしてくれ」
という魔理沙の不用意な一言は、昨夜の傷に塩を擦り込む結果を招いた。
仕方なしにと慧音の出したのは、彼女の普段着である見慣れた蒼の服。
面白半分に袖を通したところまではよかったが、サイズが極端に合わない部位があり、しかし窮屈な部分のある者も居た。
八卦炉で緊急乾燥を行っているが、それでも、三人が自分の服を取り戻すにはいくばくかの時間を要する。
庵の居間は通夜のように静まり返っていた。
慧音はかける言葉が見つからず、黙って食事の用意をする他無かった。
ようやくにして元の服装に戻った三人は、もそもそと朝昼兼の食事を摂ったが、味などわかる状態では無くなっていた。
食後の茶を片付けた後になっても、三人は帰る事無く読書を開始した。
その光景はここ最近ではさほど珍しい光景ではなかったが、慧音はたまらない居心地の悪さを感じていた。
頁をめくる音だけが、微かに部屋に漂う。
魔女達は読書に没頭しているように見える。
ぬるくなった茶を飲みきるが、鳩尾あたりに感じる硬い何かは消えない。
慧音はわずかに顔をしかめた。
お代わりをと持ち上げた薬缶すら軽くなっていた所で、良心の限界が来た。
喉奥で唸るような声で、告白する。
「・・・・・・すまん、お前たちに謝らなければならない事がある」
慧音は唐突に切り出した。
その言葉に、魔女達は揃って動きを止める。
「…やっぱり……二度目のは貴方ね」
持ち込みの安楽座椅子にもたれて本を読んでいたパチュリーが、視線を上げた。
「思ったより早かったな」
「あんたとは違うのよ、自分を基準に考えるのはよしなさい」
この反応には慧音が驚いた。
「気が付いていた・・・のか?」
間抜けな顔をしている、という自覚はあったが問わずにはいられなかった。
「竜脈の澱みが妖物化したのは初めてじゃないんだ」
「たしかに再生能力とかも組み込んだけど、あそこまですごい効果は、無いわね」
「…慣れてるのよ。こういうのに」
苦笑つきで応える三人。
ちなみに、ここ最近でのヒットは上海人形の強化実験中の暴走である。
面白がって各々が好き勝手に装備を追加したところ、賢者の石を動力炉として稼働し、魔砲並みの火力と二重結界ばりの防御力、その他数多くの装備を詰め込んだコンテナを搭載した、冗談のようなサイズの外付けユニットが出来上がった。
早速上海に繋いだ所、動作式に不備があった為かあっけなく暴走し、授業料としてアリスの家が全壊、瓦礫の山と化した。
この件以降、術式の検算は繰り返し行われる事になったのは言うまでもない。
かまわず吹き飛ばすから一緒なんだがな、と魔理沙が湯飲みに残った茶をすする。
「で、なんなんだ? あれの正体」
「貴方知らないで消し飛ばしたの?」
「私はいつでも全力全開だ」
胸を張って言えるあたりが、この魔法使いの長所なのだろうかとアリスが嘆息し、パチュリーが目を逸らした。
呆然としていた慧音であったが、もともと語るつもりでいた。
慧音は座り直すと、自身の能力を解放し、歴史の一部を紐解く。
過去の出来事を視覚できるように抽出する、歴史を操る能力の一つであった。
●
昔、人間と妖怪の争いがまだ激しかった頃の事。
とある夜の事。 妖怪の襲撃があった。
それは類をみない大規模かつ計画的な襲撃で、慧音が陽動で里から引き離されている隙に妖怪が雪崩れ込んだのだ。
里の人間はそれこそ必死に戦った。術や刃、妖弾魔弾が飛び交う戦場の中心に、紅白の蝶の姿も見て取れた。
激戦の中、戦えない者を逃がし、護りつつ慧音の帰りを待っていた。
だが、女子供が逃げた先にも妖怪の手は回り、沢山の命が失われた。
慧音が駆けつけたのはその時で、
「その時の事はあまり思い出したくない。 ただ、自分にも妖の血が流れている事を自覚させられた」
慧音の呟きが横から聞こえる。
戦いは一方的で、そして苛烈であった。
朝になったそこには夥しい死が残るだけで、動くものの居なくなった丘は一匹の妖の絶叫だけが木霊していた。
●
視界が闇に閉ざされ、光が戻るとそこは居間であった。
過去の閲覧が終わり、夢から覚めたような感覚を得る。
「…そう、じゃああの丘は」
「そうだ、ここから程近いところにある」
人妖ともに多くの命が散ったその場所には、慰霊碑がひっそりと建ててあるらしい。
「幽霊が出るなどは当たり前だったのだがな、この間の満月の異変から少しばかり賑やかだったのだよ」
覇気無く語る慧音は、とても歳をとったように見えた。
「里を目指したのは、そういう事なのか?」
「そこまではわからんさ」
「でも、なぜ貴方が謝るの」
アリスが問う。 遠慮しない事はアリスなりの心遣いなのかも知れない。
「丘を埋め尽くした死は怨念となり土地に影響し始めた。 ここ近年の土地の痩せ方や規模は小さいが病が流行る。澱みだな」
無かったことには出来ない。さりとて放って置くことも出来ない。
三人は黙って聞いている。
「活性化の度に対症療法的に祓ってはいたが、お前達の儀式を見たときに閃いてな」
「迷惑なインスピレーションだな」
「…混ぜたのね」
昨夜の慧音の姿を思い出す。確かに、歴史を創る能力で干渉すればあるいは、か。
屋敷の主の迷惑な能力を思えば、期間限定のこの能力はまだ可愛いほうかと、パチュリーは思った。
「二度目は私も手伝うつもりだった」
言い訳がましかったが、偽らざる本心からの言葉を慧音は吐露する。
「そう言うなって、アレの出現自体は私らの責任なんだし」
「ら、ってなによ、らって」
「…特別に加圧術式の本を貸し出しを許可するわ、次の定例会までに履修しておきなさい」
歯を見せて笑う魔理沙に、渋い顔をする他二名。
・・・知っていて、それでなお助力を拒んだというのか。
慧音は、
「信じられない、って顔してるわよ?貴方」
アリスの苦笑混じりの一言に釘を刺された。
「まあ、ちょっとは驚いたがな」
「…でも、消し飛ばすでしょ」
まあな、と鼻をかく魔理沙であったが、
「じゃあ、そういうわけで今夜はここで宴会だな」
「な、何故そうなる」
唐突に切り出された提案に慧音がうろたえる。
「折角鍋を貰ってきたんだろう? 使わない手はないじゃないか」
「…増築祝いね」
「慰霊じゃないの?」
言うだけ言うと、三人は慧音の意見を待った。 勝利を確信した瞳が三組、慧音を見据える。
一人ずつ視線を合わせると、最後に嘆息をひとつ。
「もとよりそのつもりだ」
慧音の降伏宣言をうけた三人は、ひゃっほう、とハイタッチ。
「じゃあ、食材の」
「調達に」
「…また来るわ」
肩を落とした慧音が視線を戻す頃には、三魔女の姿は消え失せていた。
■
里に向かった慧音は、昨晩の戦闘の説明を迫られていた。
里からもあの魔砲の光は見えていたらしく、慧音の庵の辺りでなにやらドンパチやっている、と、里の若い衆が武器を手に様子を見に行こう、という所まで話が進んでいたらしい。
まさか、温泉を造ったら化け物が出て仕方なしに退治した、とは説明できず、適当な話でお茶を濁す事しかできない。
しつこく食い下がる連中を振り払い、野菜やら鳥やらを分けて貰った慧音が庵に戻る頃には、夕方に差し掛かっていた。
荷物満載の籠を庭先に降ろしたところで、声がかかった。
「温泉、出たんだって?」
「ああ、正しくは無理やりに繋げられたのだがな」
振り向きもせずに答える慧音。 問いを放ったのは妹紅だった。
しかし、来客はそれだけではなかった。
「ほら、やっぱりよ。この新聞もたまには役に立つじゃないの」
「一応、うちの薬の広告も載せているんですよ」
聴き慣れた声に目を向けると、縁側に腰掛けていた輝夜が永琳の手にしている新聞を眺めていた。
「なんだ、出てくるとは珍しいな」
「いきなり人んち来て「温泉にいきましょう」だよ? 暇にも程があるだろうに」
よく見れば妹紅の服はあちこちが破れていた。 おそらく武力行使があったのだろう。
程よく驚きながら永琳の手にある新聞に視線を送る。
くたびれ気味の紙は天狗の新聞であり、「号外」や「温泉出現」の文字が躍っているのが見える。
「仕事が早いな、あの天狗は」
あれだけ派手にやらかしたのだから、気付かれて当然だという気がする。
「言っておくが、うちにお前達の分の着替えはないぞ」
慧音は土の着いた野菜を洗いながら、肩越しに告げる。
「しなくていい心配をするのは貴方の趣味?」
永琳がいる時点で何でも有りだろう、くらいの予測はしている。この天才に常識が通用しないのは当の昔に思い知っていた。
苦笑する慧音に、妹紅が挙手つきで質問をする。
「で、それだけのお野菜は何に使うのかな~?」
その言葉に慧音の手が止まった。
無言のままに振り返る。
「・・・・・・三人、か」
「「・・・・・・?」」
妹紅と輝夜が等しく首を傾げていると、永琳が籠に向かった。
「鳥は・・・肉団子でいいかしら?」
「ああ、任されてくれるか」
さして広くない台所には慧音と永琳の姿があった。
共に割烹着姿であるが、三角巾装備の慧音に対し、永琳は愛用の帽子のままであった。
竃の火加減を見ていた慧音に、猛烈な勢いで鳥団子を作成している永琳が話しかけた。
「ここで鍋なんて珍しいんじゃない?」
「そう、だな。 まあ、いろいろとあってだな」
「ふうん」
曖昧な返答に銀の三つ編みが揺れる。
「支度はおおよそ済んだろう、行かないで良いのか?」
「貴方、無粋ねぇ」
妹紅と輝夜は揃って温泉に向かった。かれこれ一時間は前だろうか。
「何人前くらい? 見たところあと三、四人は来そうだけど」
「来るぞ。魔女達がな」
「ああ。 それで温泉脈が跳躍しているのね」
くつくつと笑う永琳はどこか楽しそうだ。
「鈴仙達には悪い事をしたな」
「あの子達は今日は留守番を買って出たわ、兎同士仲良くやってるんじゃないかしら」
「まぁ、兎は洗われるのを嫌うからな」
話をしている間に鳥団子の山が完成していた。
絞めた鳥をさばきここまでにする速度は、時間操作が出来るという紅魔館のメイドを彷彿させる。
人形を多数使役し、人海戦術で作業を同時にこなすアリスとは異質な手際のよさである。
慧音は、鼻歌交じりで野菜を整えていく永琳の横顔を見つめる。
そこからは、奇天烈な薬を日夜研究開発し、内外に迷惑を振りまいている紙一重薬師の姿は想像出来なかった。
居間から声が聞こえてきた、どうやら妹紅たちが風呂から戻ったらしい。
耳を傾けると、暇つぶしのつもりなのか妹紅と輝夜は「あっちむいてほい」を始めたようであった。
状況によっては弾幕以外の決着を選ぶ事の増えた二人は、あらゆるジャンルで競い合っている。
反射神経と状況判断、相手の癖などを読む必要のあるこの競技(?)は、目下二人の間の最新流行である。
「あはははは、妹紅よわーい」
「っ!!」
怒りに冷静さを失った妹紅は、単純な挑発にも歯軋りをして悔しがった。
支度の整った食材をお盆に載せていた慧音は、妹紅の熱くなりやすい性格に苦笑していた。
お盆を永琳に任せ、鍋を持った慧音が居間に入った時、それは起こった。
じゃんけんに勝利した妹紅であったが、その表情は明らかに遊びの範疇を逸脱していた。
危険な目つきをした妹紅のとった行動は、
「あっちむいて【正直者の死】!」
反則であった。
妹紅から放たれた一条の裂線は、部屋に横一文字の貫通痕残して振りぬかれる。
妹紅の指し示した方向と反対を向き勝ち誇った輝夜の首は、その裂線の通過線上にあった。
輝夜の首が気安く飛び、艶やかな黒髪が肩口から切り落とされ、墨を零した様に床に広がった。
左側から腰の高さを薙ぎにくる破壊の一閃はもうじき慧音に到達する。
慧音は眉一つ動かさずに、鍋をもっていた両手を離すと、高速で左へ一歩踏み込んだ。
鍋が落下を始める前に、左手で掴んでいた取っ手を逆手にした右手で掴みなおす。
同時に、支えの無くなった右側の取っ手を永琳の左手が押さえる。
永琳は先に持っていたお盆を右の手だけで持っていた。
慧音は空いた左手を突き出す、繊手には一枚のカードが挟まれている。
【国符「三種の神器 鏡」】
符を挟んでいた指を開き、掌をかざす。
その頃になると、勝ち誇っていた妹紅の顔も驚愕のそれへと変化していたが、まだスペルの中断までは意識が向かない。
破砕の音が止まり、代わりに大量の水を撒いたような音が聞こえた。
突き出された手、その数センチ手前で、波紋のような揺らぎを見せる障壁に押しとどめられ、次第に球状になっていく。
一射分の光線を受け止めると、光球は障壁の上を滑り一筆書きで五芒星を描き上げ、その上で循環した。
「け」
妹紅が何か言おうとしたが、次の言葉より早く光の五芒星は産みの親の元へ飛んだ。
激音、そして爆発。
【【リザレクション】】
煙と埃が収まるのを確認して、慧音は左手を下ろした。
障壁が消えると、蘇生した両名が転がっているのが見えた。
「妹紅」
慧音が硬い声を出す。
妹紅は寝起きを襲われた動物のように飛び上がると、正座の姿勢で畳まれた。
「妹紅」
「はい」
二度目の呼びかけに、蚊の鳴くような声で返事をする妹紅。
「妹紅、前に約束したな? 私はなんと言った?」
正座で小さくなっていた妹紅は、頭上からの声にびくりと体を震わせると答えた。
「う・・・「屋内でスペルを使ってはいけません」です」
「そうだ、その約束が守れなかった場合、お仕置きだとも言ったな」
「・・・はい」
正座してうなだれる妹紅。 遊びの中でヒートアップしスペルをぶっ放したのだ。 今回は完全に己に非がある。
「あら、楽しそうな話題ね」
「これは私と妹紅の問題、口出しは無用だ」
鋭い視線で輝夜を牽制する慧音。
「あら残念」
さして残念そうな素振りも見せず、輝夜が下がる。
「・・・と、言いたいのだが、最近の妹紅は私程度の考えるお仕置きでは堪えなくなってきているようでな」
永琳から鍋の保持を受け取ると、高度的に無事だったお膳の上に置く。
「け・・・慧音?」
只ならぬ気配を察知し、心持ち青い顔をした妹紅が正座から腰を浮かせる。
「幸い、これから来る客人に仕置きの先達がいらっしゃる」
ゆらりと立つ慧音の視線は、妹紅の不安を掻き立てた。
「あら素敵。永琳、お友達ができそうね?」
「同好の士、と言うやつですね」
小声で話す二人は明らかに楽しんでいる。
「また客人である輝夜殿にも迷惑をかけた。 今日は少々きつめにいこうと思う」
「ご、ごめんなさい! あやまります!反省しまてます!」
「その台詞は何度目だ? 今度という今度は反省の色という物をその肝に叩き込んでやろう」
慧音の言葉に、妹紅はうなだれ動かなくなった。
宣告を承認するかのように、部屋の隅、天井近くの棚に座っていた人形が手に持っていたベルを鳴らした。
「あら、可愛い」
「貴方の趣味、ではなさそうね」
早速輝夜が人形を手に取ろうとする、が、愛想のない呼び鈴人形は抱えられてもリアクションに乏しかった。
「余計なお世話だ。 その鳴らし方は・・・この人形の主が来たようだな」
■
魔女は三人ひとまとめでやって来た。
荷物を懸架した二連の箒を人形達が護衛しているのが庭の少し上空に見える。
「お、珍しい顔が揃ってるじゃないか」
「…だれ?」
「あ、この連中はね」
面識の無いパチュリーの為に簡単な自己紹介が行われた。
「…そう、レミィが会ったのは貴方達だったの」
「今度、図書館を見せて貰いたいものね」
表面上は穏やかな接見であったが、双方を知る者達は微妙な表情を浮かべていた。
「さて、支度が出来るまでにまだ少しかかる。それまでの間に、ノゥレッジ女史にひとつ頼みたい事がある」
パチュリーの怪訝な視線の先には、腕組みした慧音と下を向いたままの妹紅の姿があった。
仕置き。
事情を聞いた魔女の反応は二つであった。
「…そう? 私でいいのなら手伝うわ」
白々しいまでに謙虚な態度。
執行人の見えない所に身を寄せ合っていた魔理沙とアリスは、寒くもないのに汗をかいていた。
(相手は不死人・・・止めないわ、パチュリーは)
(また見るのか、アレを)
「…じゃあ、始めましょうか」
結果から述べれば、慧音は痛烈に後悔した。
増築中だった部屋を暫定のお仕置き部屋とし、「なにか」が行われたが、慧音は現場に立ち会うことはしなかった。
扉の向こうからは恐怖に軋む妹紅の悲鳴と、虫の羽音に似た何かの音。
こちら側には耳を塞いで蹲る魔女二人と、聞き耳を立てている輝夜、我関せずを装っている永琳。
どれ一つとして慧音の不安を収める要素には成りえなかった。
聞こえてくる羽音に、何か硬い音と水っぽい音が混じった。
直後に低音の声らしき音。
慧音は堪らず踏み込んだ。
「妹紅!」
その部屋はまだ床もなく、基礎工事だけが済んでいる状態であった。
部屋にはいつの間に用意したのか拘束台があり、両手両足を拘束された状態の妹紅がの姿があった。
衣服を切り裂かれた姿で意識を飛ばしている。
周囲の赤黒い斑点は血だろうか? 慧音の顔が青ざめる。
それらは飛び散っている所を見るに、「当ててしまった」ようだった。
五色の輝石が安らぐ光を灯し、拘束台の上を穏やかに舞っている。
「…力加減を誤ってしまったわ」
ひと仕事終えた顔をしている魔女が振り返った。
先ほど聞こえてきた野太い男性の声は、歯車が当たってしまった時に鳴る術式の音声らしい。
「dosukoi dosukoi」とはどういった呪文なのだろう。停止命令のようなものか? 魔術の知識の乏しい慧音では与り知れぬ事だ。
「…平気よ。ちょっと血が出ただけ。 この子、不死人なんでしょう?」
「たしかにそうだが」
なんでも無い事のように言っているが、こういう場合、加害者と被害者の間には認識の差があり、その差は大きいのが常である。
「だけど、加減を誤るのは珍しいんじゃないのか?」
後ろから魔理沙の声がする。
「…木符の要素をいじった新作なのよ、その所為で手元が少し狂ったわ」
アレで「少し」か。
慧音が視線を向けると、既に縫合・・・いや治療され、復元・・・もとい回復した妹紅の瑞々しい肢体があった。
頭をこちら側にしているため仰向けに固定された上半身が覗える。
艶やかな白い髪は拘束台の上に広がっていた。
気を失った顔は、まだ若干青褪めているが、苦痛に歪むようなことはなくその寝顔は穏やかである。
深紅の瞳は今は伏せられている。 筆でひとすじ引いただけのような鼻梁、浅く開いた桜色の唇。
たおやかなおとがいから白い喉、そして絶妙な曲線を描く鎖骨へと視線が渡る。
賢者の石から降る神秘の光は、その窪みに陰影をつけ、おもわず指を這わせたくなる衝動にかられる。
傷が癒え意識が浅い所に来たのか、妹紅が身じろぎをする。
「…外の世界では えころじぃ というものが流行っているらしいのよ」
奥から出てきたパチュリーが「え殺じぃ」、と光る文字を空間に書いてみせる。
自然と共存する思想強制だとかそんなものらしいが、この魔女は容易く感化され、どこでどう間違ったのか、門番から聞いたという「竹の鋸」という物に興味をもったらしい。
それを聞いた魔理沙は あいつめ、余計なことを。と内心で歯軋りする。
「この子はね…まだ生まれたばかりで回転が遅いの…」
可愛いでしょう?と視線が語っているが、あいにくと無機物、しかも、血まみれの丸ノコを愛でる趣味を慧音は持ち合わせていない。
慈愛に満ちた眼差しで紅黒く汚れたソレを見つめる。 柔らかい光の下のその姿だけみれば、まるで聖母のようだ。
指先で軽く撫でると、薄緑の歯車が母親に甘える子猫の鳴き声のような音を立てて回転した。
確かに普段目にする紫の双凶に比べれば、直径も小さく回転も穏やかだ。
覚える程度にはお目にかかっているという事に、アリスは軽く欝になった。
回転が遅いのはかえってマズいのではないのか。
パチュリーを除く全員が戦慄した。
数分の後に目を覚ました妹紅は、それでも健全だった。
慧音に張り付いたまま歯車魔女には近づこうとしなかったが。
■
飯の蒸しあがりを完了の合図とし、ようやく支度が整った。
鍋である。
永琳の作った鳥団子と慧音の貰ってきた野菜、魔理沙の持ち込んだ食用キノコのほか、おおよそぶち込む類の食材が投入待ちの山を作り上げていた。
酒が行き渡る間に、鍋からは食欲をそそる匂いが立ち昇りだした。
経緯はどうあれ、いろいろな理由を持って行われる、上白沢邸における最初の鍋パーティである。
「うむ。 では今日「細かいことは抜きでいいぞ」・・・・・・そうか」
気負った慧音が挨拶をしようとしたが、すかさず邪魔が入った。
祝いの席、というだけでは無いという事を思い出し、慧音も咳払いをひとつすると杯を掲げた。
「では、乾杯」
「「「乾杯」」」「「「乾杯」」」
銘銘、杯を空けると鍋に取り掛かった。
この席において、慧音には密かに見たいものが一つあった。
過日、呼ばれて赴いた戦場では、三位一体の攻撃に慧音は手も足も出ずに惨敗した。
千年鍋奉行は魔女三人に対し、いかに処するか?
推移を見守っていると、案の定永琳の独裁が始まった。
しかし、最初こそ反発していた魔女達も銀髪の鍋鬼が振るう采配に感心し、次第にその指示に従うようになったのである。
「・・・・・・素晴らしい。少し見直したぞ永琳殿」
「慧音、一昨日と言ってる事変わってるし」
感動する慧音に呆れる妹紅。
今日は二人とも、その長髪を後ろで一つに束ねている。ポニーテールと称される髪型である。
「鍋には秩序が必要なんだな、目から鱗だぜ」
「戦いだけでは得られないものがあるのね」
「…調和が奏でるハーモニーね」
普段はおおよそ味方ではない永琳が、この時ばかりは頼もしく感じた。
「まぁ、締め付けるだけではいけないのは認めるわよ」
曲者ぞろいの魔女に賞賛され、苦笑する永琳であった。
鍋は適度に賑やかに進行していた。
中盤に差し掛かったあたりで、玄関の戸が叩かれる音があり慧音は中座した。
来客がある事自体はそう珍しい事ではなかったが、夜になってからというのは稀である。
アリスの人形が反応しなかったところを見るに里の人間だろうか。
悪い知らせでなければ良いのだが、と、慧音が戸を開けるとそこに立っているのは里の者ではなかった。
「失礼、上白沢殿はおられるか」
「おや、八雲の」
「こんばんはっ」
戸口に立つのは九尾の狐とその式の猫又であった。 なるほど、感知できないのも頷ける。
「先日は失礼した」
「いやいやこちらこそ。 無理を言ってすまなかった」
どうやらお礼参りの類ではないらしい。 警戒レベルを下げると慧音は用件を問うた。
「して何用か。ここまで来るのは珍しいと思うが」
質問に藍は手荷物を掲げ、
「新築祝いだ」
「これもですよーっ」
溌剌とした猫又が手に提げているのは酒瓶だった。
「早いな!」
慧音は驚きと苦笑の混じった表情を浮かべる。
「あれだけ乱暴な術だ、ある程度の力があれば皆気付くさ。 それに、天狗の号外が出回っている」
天狗の号外、という言葉の意味に気が付いた慧音は、藍の意地悪そうな笑みを強張った顔で見る。
「それは」
「ああ、来るぞ。 暇を持て余し刺激に飢えている連中が」
目を細めくくく、と喉でわらう藍。
「ま、まあ立ち話もなんだ、入ってくれるか」
「ああ、そのつもりだ。 ほら橙、これを頼む。 先に行って席を空けるようにいっておくれ」
「はいっ藍様っ」
式に荷物を渡した藍は、三和土で立ち止まり慧音に振り返る。
「紫様から言伝、「50点、次は譲りなさい」だそうだ」
「ほう」
境界を自在にする大妖から中庸の点を戴いた事に、慧音は驚いた。
「そう、霊夢が家に来たのだよ。 食べきれない饅頭を抱えてね」
二人は顔を見合わせ、にやりと笑った。
「紫様が冬眠に入られる前に現状の確認やらの打ち合わせだ。 いかな博麗の巫女といえど博麗大結界全てを把握しているわけではない、ましてやあのオトボケ春巫女が」
「ははは、言いすぎだ」
「ふふふ、そうかもな」
西行寺のお嬢様が幽明の境界を薄めてしまった時も、霊夢は修復を八雲に依頼したという。
「藍さまー」
「ああ、今いくよ。 さて、少しばかり働くとするかね」
袖を捲り上げた藍は、うれしそうに尻尾を揺らすと台所に歩いていく。
慧音が後をついていくと、呼び鈴人形が小さくチャイムを鳴らした。
パターンは、
「ちょっと! なんかスゴイの来てない!?」
紅い顔のアリスが居間から飛び込んで来た。
追加の食材と酒の肴になりそうな料理を用意しつつ、慧音は微笑を浮かべる。
「ああ、そのようだな」
「じきに神社と変わらなくなるぞ? いいのか?里の守護者殿」
平然と答える慧音に、凄まじい包丁捌きを見せる藍が茶化す。
「ばかめ。 神社の代わりになど、誰がするものか」
笑みのままで慧音が続ける。
「この場においては私が法だ。 逆らうならば叩き出すし温泉にも入らせん」
冗談を言ったつもりだったが、そうは聞こえなかったのか藍とアリスは怪訝な顔をしている。
霊夢の代わりなど、誰が勤められるものか。
そもそもそんな必要はないのだ。 ここに妖怪が集まるなら、自分のやり方で接するだけだ。
周囲が変わるなら、それに合わせて変容していくしかない。
そんな事も意識しなければ出来ない自分が無性に可笑しかった。
戸が叩かれた。
「ごめんください、上白沢さんはご在宅でしょうか」
「今度は亡霊の姫とそのお付きだな」
慧音は笑みを強くすると、呆れるアリスを残し玄関へと向かった。
自分でも笑みの理由がわからない。が、心が動くのを感じる。
ふと、上がり口に備え付けの鏡が目に入った。
出かける前の身だしなみを確認するためのそれには、挑戦的な笑みを浮かべた半獣の姿が映っていた。
映った影に言ってやる。
ばかめ。
「お前の代わりなど、誰がなれるものか」
■
宴の時間が過ぎ去った居間。
卓などを片付けられた床には、無数の影が転がっていた。
台所から漏れる薄明かりに、角や翼のシルエットが見える。
影は適当に毛布をかけられた人の姿で、毛布を奪い合うように入り乱れるようにして寝ていた。
結局、増え続けた人数に居間だけでは足りなくなり、仮設の部屋にござを敷いて補うことになった。
狭い台所ではメイドと庭師と薬師が食器を洗っている。
混沌と化した部屋の隅で、慧音は藍と杯を交わしていた。
橙に膝枕をしている藍は、眼を細めて慧音に酒を注いでいる。
杯が足りなくなり、途中から茶碗などが構わず用いられるようになった為、二人が手にしているのは味噌汁用のお椀だった。
「どうだね?」
「悪くないな」
妖狐の問いに、白沢は短く答える。
酔いの回ってきた頭で慧音は思う。
結局、なるようにしかならないのだ。
いい意味でも悪い意味でも。
歴史を創る事の出来る自分とて、そこに転がっている運命を操ることの出来る悪魔とて、視えぬ物があるのだ。
だからどうした。
孤高であった吸血鬼は出歩くようになり。
冥界の門を越えて死後の世界の住人が来る。
永年の逢瀬は秘された物でなくなり。
太古の記憶は望みを果たす事無くここに居ついた。
だからどうした。
人の味方、里の守護者が妖怪にまみれて酒を呑んでいる。
これすらも変化の一つに過ぎない。
変化したからといって、これまでの歴史を放棄する必要などないのだ。
それだけである。
空になったお椀に瓢箪が傾けられる。
安物の器に、なみなみと酒が注がれる。 遠くの光を拾い、小さく煌く酒面。
薄く紅に染まった頬で狐がうながす。
応じる。
喉を過ぎる熱を、眼を閉じ全身で味わう。
織り上げられた宴の歴史を、全身で味わう。
ああ。
「ほんとうに。 悪くないものだな」
――終――
この様な風に書ける貴方の技量に感服です。
とりあえず、最後に二言。
この様な良き作品をありがとう。
それと、
慧音先生がプロテクトシェードをー!?
だがそれよりも強化上海吹いた。
ところでこのパチュリーはやはりゴーティエと呼ばれていたりするんでしょうか?
いや、実際シグルイネタ抜きで大好きですこの魔女トリオ。
ずっとこの空気に浸っていたい、そう思えるお話が終わってしまった時のあの感覚。
いいなぁ、この魔女たちも蓬莱人たちも。
ごちそうさまです
我儘ですが、どうか彼女達の話を綴ってくださいな。
そんな作品でした
理想的な三魔女三すくみでした。
「今宵のハーベスターは、お嬢ちゃんのトラウマになるよ」
(後者は昔からあるけど)状況をすっぱり一言で書く表現が好きです。
えーっと……忍者龍剣伝?
あと、誰も触れないけどパチェがタイトルホルダーという件について。
かような未熟な文にたくさんのご意見ご感想,誠に有難うございます。
さて。
感謝のコメントに余計な補足を含む【千本蛇の足】。行ってみましょう~
>>湖霧氏 要防御→使えそうなカード→【鏡】→反射→プロテクトシェード
単純な自身の脳みそに乾杯。
>>妹紅がかわいそう なが~い人生。刺激が強くてもいいじゃない。みたいな。
というか、「廊下を走らない」程度の約束も守れない妹紅にこそ問題が。
>>翔菜氏 強化上海。2m超過の全長を持ち、ウェポンコンテナには自爆人形やら上海用の装備がぎっしり。
花言葉は「わがままな美人」「謹厳実直」
>>クロス氏 「死女ノ恋」前の話を書いていた時には意識していなかったのですが、ぽそぽそ喋る所とか気軽に刃物を取り出す所とか、私の脳内のイメージでは近いところがあるのかも知れません?
>>天稟 否、鼠はすくたれ者にござる。 気軽に天稟とか使うと調子に乗った挙句眼を斬られるので駄目です。
「己のSSはどこまで昇る…」
>>イイ 光栄の極み。 ですが一部キャラが違っている人が居ます
(ヒント:喘息もち
>>一気に読んだら 長くても疲れない、そんな作品を目指したい所存。
祭りの終わった後の寂寥感。 でもそれも祭りの醍醐味。
>>チェーンソー そ れ だ!
>>CODEX氏 ダンスも含めて人形に関する勝手な設定が多々含まれるのがこのSSです。
ナマエナーシ氏>> お口に合ったようで何よりです。
でも我侭なのはむしろこのSSの誰かさん。
名無し参拝客氏>> 気軽に脱いではいけませんよ?
>>ななな氏 煽てても何も出ません。 鼠は容易く増長します。
>>三すくみ 蛙とか蛇とか。 誰がだれとは言いませんが。
まあ、竦ませるのはヴィオレッタとデイジーですけど。
>>魔女達と慧音先生 きっとみんな仲良しのはず。油断は出来なさそうですけど。
>>悪くない! 「悪くない」から「良い」にクラスアップを目指して精進、と
>>名無し人妖氏 味が違っちゃってますけどね。
未だ紅魔狂が終わらない身としては、活きのいいパチェとは長い付き合いです。
>>てきさすまっく参拾弐型氏 食べやすいサイズを心がけてはいるんです。
イマイチ出来ていませんが。
>>龍剣伝 そう。戦え、跳べ、掴め。の龍剣伝です。ってかこのネタを拾ってくる人がいるとは。
タイトル保持者は…正直悩みました。「パチェ着痩せ説」が骨子なんですが、「肋のういた不健康な身体」も捨て難い。ぐむむ。
アリスはストレスを溜め込みやすいので割りと普通の体型をしていそうな印象です。
あれ?こんな所に人形が(ここから焼け千切れていて読めない
これが鍋の威力かw
それらが程よく煮込まれた極上の鍋、堪能させていただきました。ご馳走様です。
次の鍋も楽しみにしておりますよ。
>パチュリー:【エレメンタルハーベスター(近)】【エレメンタルハーベスター(射)】【エレメンタルハーベスター(試)】
マジでお茶噴きましたw つーか何でそんなに歯車好きなんだパチェ先生ー!?(ガクガクブルブル
>dosukoi dosukoi
忍者龍剣伝フイタ。確かにトラウマになりそうだw