「どうアリス、稼ぎの程は?」
「うふふ~、第三レース当てちゃった」
「永琳様、鈴仙が頑張ってくれたお陰で第一レース当たりましたね」
「上々、と言いたいところだけどね……、さすがになかなか当たらないわ。パチュリーは?」
「なっ、リリカ、博打なんかに手を出しちゃダメじゃないっ」
「そうね、けど油断は禁物よてゐ、このトトカルチョは途中で降りられないルールだから」
「わたしもよ、第二レースは当てたけど、それ以外はハズレ」
「へ~リリカ凄いじゃない~、姉さんもやりましょうよ~」
「分かってますって、さぁ次は誰に入れようかな~?」
「あんたら……、そんなお金の無駄遣いをするくらいならうちにお賽銭入れなさいよぉ!!」
今日も平和だ幻想郷……。
セミファイナル ヒュードロみょん
「……紫様……、なんでわたしだけ名前じゃないんですか……?」
「どっちにしろ一目で分かるからどっちでもいいかなー、なんて」
「よくないですよっ!!」
その様子を見ていた輝夜が筆を片手に、
「大レース 抗議で始まる また今日も(字余り・倒置法)」
「何よ、その風流の欠片もない川柳は」
「あぁ霊夢、あなたも一句詠いましょ」
「いらないわよ、って強引に筆と紙を持たせないっ」
「あ~、そろそろコースの説明をお願いします」
先日の精神的重傷から見事復活を果たした藍が雲の上から解説陣を促した。
やっぱり、橙の出るレースは間近で見たかったらしい。
でも、微妙に顔が窶れているように見えるのは気のせいだろうか……。
それを受けて霖之助さんがマイクを片手に咳払いをして説明を開始する。
「では、僕が説明しよう。このヒュードロみょんコースは、湿原の上に作られた木の道だ。それだけに外壁が一切無く、落下の危険性もある」
「おや? でも出場選手は全員空を飛べるはずだから、落ちるって事はないのでは?」
腑に落ちないと言いたげに藍が質問を返す。
「あぁ、実はコースの外側には、揚力を奪う特殊な力場があってね、飛ぶことができないんだ」
「なにぃ!? じゃあコースから外れたら問答無用で落ちるってのかよ!?」
驚愕に満ちた顔で問いつめる魔理沙。
今までのコースは壁(もしくは木)があったので、たとえカーブを曲がりきれなくても壁なり木なりを蹴って復帰するということも可能だった。
けれど、このコースはそういうわけにはいかない。
例え速度を犠牲にしてでも、緻密に丁寧にコースを攻略しなければならないのだ。
「そういうことだよ、魔理沙。というわけで藍君。もし落下者がでたら救出を頼む」
「……一本釣りですか……?」
「無論だよ」
「……はぁ、じゃあ始めるとしようか。全員位置についてー」
もうこれで4度目になるスタートだ。
ここまでくると皆慣れた様子で位置に着く。
ぴっぴっぴー!!
全員一斉にスタートしていく。
古風な桟橋を思わせる木で出来たコースは、一見するとかなりボロい。
自前の足で走っているのは妖夢と鈴仙だけだというのに、ギシギシと不吉な音を立てているのが不安をかき立てる。
しかもコース自体の横幅がかなり狭く、挙げ句の果てに霧に包まれて視界も悪い。
名前通り、今にもオバケでも現れそうなコースだった。
まぁ、元よりこのレースの参加者は殆ど妖怪ばっかりなんだけど。
と、ここで先頭を行く文がコースに空いた怪しげな穴を発見した。
「あっ! あそこ穴が空いてます!」
「どうせその穴も落ちるようになってるに決まってるわ」
「避けるぞ!」
穴から先が、二手に分かれているので、全員穴を避けて進んでいく。
左側ルートが坂が多いのに対し、右側ルートは坂もカーブも全くない平坦なコースだった。
普通に考えれば、右側ルートが近道で正解だ、でも―。
そのまままっすぐ進んで合流地点が見えてきたその時、右側ルートを選んだ魔理沙、文、妖夢、鈴仙の後方からなにやら破滅の音がした。
バキバキバキバキバキッ!!
「「「「えええええぇえぇえぇ!!!!????」」」」
なんと右側コースが消滅し始めていた。
もっと具体的に言うと、喰われていた。
「なあぁっ!? 何じゃこりゃあぁ!!!!!」
巨大な陰陽玉に。
「うわわわっ!? そ、そんな嘘でしょぉっ!?」
黒い部分と白い部分が、凶暴な鰐の顎を思わせるように開閉しながらコースを噛み砕いていた。
なんていうか……、凄まじくシュールすぎる光景だった。
「「「「ひいいいあああああああっ!!」」」」
突如出現した巨大神社風イーターから必死の形相で全力逃走する四名。
滑り込むように合流地点まで来たところで陰陽玉はコースを外れてどっかに飛んでいってしまったが、右側のルートは跡形もなく消滅してしまっていた。
それを見て、心底背筋が寒くなった四人だった。
「ど、どうしたのあんた達?」
左側ルートから来たレミリアが、ぜーぜー息をする死屍累々軍団を見て一瞬呆気にとられた。
「見りゃわかるだろ……、コースが消滅したんだよ!」
「……紫の奴ね?」
「……紫の奴だぜ」
レミリアにしては珍しく気の毒そうな視線を送るけど、そこはそれ、さっさとレースに戻っていった。
後に続くミスティア、橙、チルノも怪訝そうな顔をして通過していく。
「くっそ……負けるかぁっ!!」
肩で息をしたまま、魔理沙は箒にまたがり全速力で追いかけ始めた。
文と妖夢もそれに続いて駆け出す。
「まずい……、このままじゃ勝てない……」
そんななか、完全に出遅れてしまった鈴仙は悩んでいた。
当然と言えば当然だ。
第一コースではなんとか一位をもぎとれたものの、その後は完全に絶不調なのだ。
現に、今もこうして出遅れた。
分かりやすく言うと、名前の横に紫色のショボン顔が表示されているわけだ。
「もはやこうなったら、あの技を使うしかないわ。その過ぎた威力故に禁忌とされた最強の奥の手を……」
表情に並々ならぬ決意が顕れる鈴仙。
宇宙兎の最強の奥の手とは一体何なのか。
一方こちらでは―、
「待て紫ぃっ! 逃げるなあっ!!」
「あん、霊夢そんなに怒らないでよ、ちょおっとしたジョークみたいなものなんだから」
「何がジョークみたいなものなんだから、よ! 陰陽玉を貸せって言うから一体何に使うかと思ったら……、あんな化け物みたいに改造してくれやがっちゃって……。今ここで綺麗さっぱり跡形もなく滅殺退治してあげるわ!!」
エクスターミネーションが弾幕結界になって紫に襲いかかるけど、紫はスキマを展開してヒラヒラと逃げ回っている。
その有様を見て、藍は深く溜息を吐いて解説に戻った。
「はぁ……、只今の順位ですよ。
トップ レミリア
二位 ミスティア
三位 橙
四位 チルノ
五位 魔理沙
六位 文
七位 妖夢
ドベ 鈴仙
となってますね。
っていうか、わざとわたしの仕事を増やそうとしないでくださいよ、紫様……」
「あら、橋は壊すためにある。鉄則よ」
「そんな鉄則は撤廃してください、ええ今すぐにでも」
「まぁまぁ、藍ちゃん。結局誰も落ちなかったんだから、そう怒らないの」
「輝夜さん、だから藍ちゃんって呼ぶのはやめてくださいって……」
「藍君、ちゃん付けで呼ばれるのは若さの証だよ、そこは喜ぶべきだ」
「いや、別に今は若さを追い求めてませんよわたしは、っていうか論点がズレ過ぎですってば」
三人同時にボケ倒されて対応に四苦八苦する藍。
そんな藍を見て気の毒に思う反面、戻ってきてくれて本当に感謝したいと思う霊夢だった。
ちなみに、いつになく冷静さを欠いていたためか、エクスターミネーションは紫にカスリはしても、直撃はしなかったようだ。
そのせいか、霊夢の息はかなり荒い。
「お互い、苦労するわね……」
「分かってくれるか、霊夢……」
「今度さぁ、一緒に飲まない……?」
「暇ができたら是非そうしたいところだ……」
妙に意気投合してしまう二人だった。
「藍~、司会のお仕事忘れちゃダメよ~」
「……はぁ、わかりましたよ……」
ガクッと首を落とした藍はマイクを持ち実況を再開する。
と、藍が一瞬固まる。
「えぇと……、って何ですかこれは?」
「うむ、これは興味深い事態だね」
「これはこれは、面白いじゃないの」
「どうやらイナバが勝負を賭けたようね」
観衆が見守る中、ついにレースが動く―
今、鈴仙は他の選手からかなり離されている。
他の七名は、最終ヘアピンに差し掛かろうとしている中、鈴仙はなんとか前を走る妖夢と文の姿が見えるくらいの位置だった。
けれどこの結果は鈴仙にとって、必死になって追いかけることをしなかったというだけのこと。
来るべき逆転の機を引き寄せる時のために。
「焦っちゃダメ、この技はタイミングが命なんだから……」
集中力を高め、精神を研ぎ澄ましタイミングを計る。
次のカーブを曲がれば、次は最終ヘアピンが迫る。
しかし、鈴仙はカーブを曲がらずに、あろうことかそのまま真っ直ぐ走ったのだ。
「今だ! ここ!」
鈴仙は、コースの端っこを踏み切り、ウサギの脚力で大きく跳躍した。
一見、レースを捨てた自殺行為。
けれど、その先には、ヘアピンカーブから続く道が確かにあった。
すなわち、
「奥義!! ショートカットジャーンプッ!!」
鈴仙は、見事に、反対側の道、そして、スタート地点真ん前に着地成功した。
そしてこの瞬間、鈴仙は見事に最下位からトップへとゴボウ抜きを達成したのだった。
「何っ!? 月兎、おまえ一体どこから現れた!?」
さっきまでトップを走っていたレミリアは、いきなり目の前に現れた鈴仙を見て目を丸くした。
「さぁ、どこからかしらね」
「くっ、おい! コースの外に出たら落ちるんじゃなかったの!?」
『説明はちゃんと聞かないとね。僕は揚力を奪う力場と言ったんだ。つまり、飛ぶことはできないが跳び越える分には全く問題はない』
スピーカーから霖之助さんの声が響いてくる。
レミリアは納得いかないとでも言いたげだが、それを言い出したらキリがないので渋々押し黙る。
「やっぱり切り札っていうのはここぞってときに使うものよね」
「何を言ってる、まだ一週目だ。そっちがその気ならわたしだってショートカットとやらをやるまでよ」
「力任せのあなたにこんな繊細な技は使いこなせないわ。せいぜい跳びすぎてコースから落ちるのが関の山ってものよ、空回り吸血鬼さん」
「つくづく言ってくれるじゃないの……」
額にビッシビシ青い筋が入るレミリア。
「上等よ! 今度こそその怪しい挑戦的な耳を引っこ抜いて驢馬の耳にしてやるから覚悟しなさい!!」
「羽が生えてるあなたほどじゃないって前に言ったわ。それにそういうことは……」
二周目に突入した鈴仙は、カーブをジャンプで跳び越えて、
「勝ってから言うことね!」
まるで八艘飛びみたいにピョンピョン跳びはねながらもの凄いスピードで進んでいく鈴仙。
歯噛みしながら鈴仙の後ろ姿を追いかけるレミリア。
確かに、鈴仙のように正確にジャンプできるとは限らないし、踏切や着地のタイムラグや姿勢制御の問題を合わせて考えると、却ってタイムロスになる可能性すらある。
勿論コースアウトしてしまったら元も子もない。
この技は兎である鈴仙にしか使えない技なのだ。
「まずいわ……、これはなんとかしないといけないわね……」
「困った時がチャンスです~♪」
後ろから聞こえてきた声(っていうか歌)に、レミリアは眉をひそめる。
「夜雀、レース中に歌うな、気が散る」
「ファファファ~、世の風は冷たいな~」
「ペリカンかお前は」
「まぁまぁ、それより、この状況を打開するいい手があるんだけどー。どーする、やっちゃう?」
いかにも「わたし何か企んでます」な顔しているミスティア。
その手にはアイテムカードが握られていた。
はっきり言ってむっちゃ胡散臭い。
「…………、まぁいい、やるなら早くやれ」
「アイアイサー」
ニコッと笑ったミスティアはカードを大きく掲げ、
「ハデに撃て!! 夢想封印!!」
「むそーふーいん・しゅん」
「待て待て待て待て……、きゃあああああ!!!」
ズガッ
ミスティアが撃ったハデな虹色の玉が、進路上にいたレミリアを薙ぎ倒して、それでもまだ消えずに飛んでいく。
「じゃあおっさき~」
「こ、このっ……一度ならず二度までもわたしの邪魔を……。待ちなさいこらぁっ!!!」
「やだぷー」
「ぐああああああ!!!」
そのころの鈴仙―
「よぉし、このまま独走してやるわ!」
後続を大きく引き離した鈴仙は、安心したのか普通に走り始める。
「うさぎとかめではうさぎは負けたけど、わたしは違うわ。最期まで油断なんて……」
とその時、後ろから
ドボズバムッ!!!
「はおうおっ!?」
青い衝撃波が発生し、鈴仙は高々と打ち上げられ、勢い余ってコースから転落した。
「えあああああああ!?」
ドッパーンッ!!
ハデに水音を立てて鈴仙は池に落っこちた。
慌てて水をかきわけて浮き上がろうとするけど、湿原の池は水草だらけで、もがけばもがくほど手足に水草が絡まっていく。
しかも服は水を吸ってどんどん重くなっていく。
気が付いた時には、鈴仙は完全に溺れていた。
「はっぷ……、た、助け……あう……」
「はいはい、今助けるからじっとしてなさい」
上から藍の声がして、服に何かが引っかかって、そうして鈴仙は上に釣り上げられた。
「ひ、ひあ!? さ、魚に食われた!?」
「あぁこら暴れるなって」
一本釣りされた鈴仙のいまの姿はかなり悲惨だった。
服はびしょ濡れだし、体中水草が絡まってるし、うさみみには魚、具体的に言うとヘラブナが食いついていた。
他にも、水草に食いついたハヤとかがピチピチと跳ねまくっていた。
「あー……、大丈夫か鈴仙……?」
「これが大丈夫に見える……?」
「……すまん、全然見えないな」
鈴仙は半泣きになりながら体中の水草を取り、すっかり重くなってしまった服を見て溜息を吐いた。
「これじゃあ満足に走れないじゃない……」
「それ以前にこれじゃあ風邪を引くぞ、まず体を乾かさないと」
「…………」
水草や魚を取るのを手伝ってくれている藍を鈴仙は見た。
そして……何を思ったか……。
「付き合って」
「ん?」
「脱ぐから」
「はい? ってお前いきなり何を!?」
なんと藍の目の前で、鈴仙はポンポンと濡れた服を脱ぎ始めた。
ブレザー、スカートと次々にぐっしょりと重たい服を躊躇いもなく脱いでいく。
明らかにその目はやばい、狂気全開である。
そうしてついにYシャツにも手をかけた鈴仙は、目の前にいる藍を見てにやりと笑った。
その瞬間、藍の全身に悪寒が走る
「ちょうどいいわ、あんたも脱ぐのよっ!!」
「なっ!? ちょっと待て何でだ!?」
「わたしだけ脱ぐのは不公平よ! あんたスッパ好きなんでしょ!?」
「ってオイこら目が据わってるぞ、待てってこらぁっ!!」
しかし、鈴仙はお構いなしに藍めがけて襲いかかった。
「脱げ! 脱ぎなさいぃっ!!」
「冗談じゃないっ!! 確かにわたしはスッパ好きだが脱がされるのは脱がされるのは嫌なんだあぁっ!!!」
慌てて雲に乗って逃げようとする藍だが、鈴仙は尻尾を鷲掴みにして藍を引きずり落とした。
目を真っ赤にした下着姿の兎が逃げようとする狐を押さえつけて脱がそうとする。
はっきり言ってこれ以上はまずい、投稿場所を変えなきゃいけなくなりそうだ。
藍は必死で鈴仙を引きはがそうとするが、ついに鈴仙が藍のやぼったい服の襟に手をかける。
あぁ、もうやばい……。
と藍が思ったその時、
「やったー、命中命中~……、ってあれ?」
「むそーふーいん しゅん」を先程ハデに撃ったミスティアがようやく追いついてきた。
しかし、ミスティアは目の前で起こっている事態に一瞬呆然とした。
ミスティアの視線に気づいた藍と鈴仙も、動きが止まる。
「あ、ミスティアいいところに! ちょっとこの三月兎をなんとか……」
「あ、えっと、……ごめんなさい、失礼します」
「待てええええええええ!!!!」
顔を真っ赤に染めて、両手で覆いながら、ミスティアは去ろうとする。
しかし、藍にとってはここで逃げられては困る。
目どころか色々と当てられない事態にされてしまう。
藁にもすがる思いで引き留めようとするが、その時、横から超絶禍々しい空気が漂ってきたことに気づいた。
「ふふふふふ……」
「ん……? 何だ?」
「そう……、あの攻撃はミスティアがやったのね……」
「「は、はい?」」
いつもとは百八十度違う雰囲気を漂わせ、鈴仙はミスティアに詰め寄っていく。
「悪い子ね……、お仕置きしないとね……、ねぇミスティア……」
「ちょ、ちょっと待ってよ。たしかに夢想封印したけど、水に落ちたのはわたしのせいじゃないよ!」
「うん、まだあるの。前にあなたの屋台で飲んだ時にねわたし記憶が飛んじゃっててね、かすかに覚えているのは、あなたに何かされてああなったって事なんだけどさぁ、あなたはどう思う?」
「いや、あれはだから……その……」
「説明できないのね……、つまりそういうことをしたってことでしょう……? だったらお仕置きしないと、ねぇ?」
じりじりと迫ってくる鈴仙を前に、嫌な汗をだらだらとかくミスティア。
やばい、ピンチ、絶体絶命、そんな単語が頭をよぎったとき、ミスティアは、
「……う、うるさーいっ! 元はと言えばあんたがショートカットなんてやろうとするからそうなるんだよ!!」
とりあえず逆ギレしてやり過ごすことにした。
「何ですって!?」
「そうだよ、鈴仙が悪い! アイテムカードも無しでショートカットなんてずるい! 反則レッドカード!! 審判団長英断を!!!」
「こら! 何で話をわたしに振るんだ!? っていうか誰が審判団長だ!」
「わたしの奥義を反則呼ばわりするとはいい度胸じゃない……。いいわ、正々堂々決闘よ!!」
「やってやろうじゃない! 勝った方が負けた方をお仕置きだよ!」
「上等よ、泣いても許してあげないから覚悟しなさい!!」
二人はドビュンッ、と加速していっきに姿が視認できなくなる。
後には、安堵と疲労の溜息を吐く藍が残されたのだった。
その後、鈴仙とミスティアが一騎打ちを繰り広げる後ろから、レミリア、橙、チルノ、魔理沙、文、妖夢が一進一退で追いかけるという展開が続き、遂にファイナルラップに入る。
「彗星「ブレイジングスター」!!」
「負けないよ! 童符「護法天童乱舞」!!」
ここでは、チルノと橙が、各々拾ったアイテムカードを発動させてデッドヒートを繰り広げている。
橙は自分のスペルなだけにどことなくご機嫌だ。
ちなみに、「ごほーてんどうらんぶ」というのは、ターボアイテム(一定時間無制限)だったりする。
「吸血鬼はっけーんっ!!」
「覚悟ぉっ!!」
「五百年早いわよ、コジャリ共」
「コジャリ言うなーっ!!」
「しつれーだよ!!」
「じゃあおこちゃまよ」
「むっきいいいい!!!」
「見た目で言うならレミリアだっておこちゃまじゃん」
「……何か言ったかしら、子猫ちゃん?」
ボソッと呟いた橙を笑顔で見つめるレミリア。
勿論目は笑っていない、ええ全く。
「オラオラオラオラオラオラ! どきなどきなぁっ!!」
その後ろから騒がしい怒声と共に魔理沙が飛んできて、後ろにピッタリ付いた文と妖夢も現れる。
鈴仙とミスティアは、一時はかなり後続を引き離していたのだが、先程かなり無駄に姦しい言い争いをしていたためタイムロス。
もう姿を捉えられるくらいになっていた。
それを見ていた鈴仙・ミスティアは内心焦ったものの、それでもまだまだ差はある。
目から火花を散らしてお互いを見た二人は、更に加速して一路ゴールを目指そうとした、
そして、ゴール手前ヘアピンカーブまで来たその時、とっても見たくないモノがまた視線の先にあった。
「げげ……、あれはまさか……」
「ひ、姫様……」
難題「花の妖精の魔法」
「あら、可愛らしい兎さんに雀さん、いらっしゃい」
「「しかも幽香かよ!!」」
嫌なっていうか怖いやつ―すなわち風見幽香と会ってしまった二人は、とくに以前彼女の向日葵に酷い目に遭わされたミスティアは露骨に嫌な顔でつっこんだ。
「妖精って……、妖怪の間違いじゃ……」
「っていうか、どうしてこう姫さまといい八雲紫といいこいつといい年甲斐もないことばっかり……」
「二人とも聞こえてるわよ~」
幽香の声とともに巨大な向日葵の花が鈴仙とミスティアをあわや飲み込むところまで一瞬にして接近してくる。
「わあぁっ!! 向日葵がー向日葵がー!!!」
嫌な思い出が蘇り、軽いパニックになるミスティア。
鈴仙もパニックとまではいかないけど、かなり度肝を抜かされている。
「ひ、酷い……。鈴仙はともかくわたしは何も失礼なこと言ってないのに……」
「連帯責任って言葉をあなたはご存じかしら~?」
また次の花をちらつかせる幽香にミスティアは顔を青くして押し黙る。
「ま、まぁとりあえず難題を、難題をやりましょう」
心なしかへりくだる鈴仙をちらっと見て、幽香はコホンと咳払いをして
「そうね、でははじめましょう。まずルールを説明するわね」
そして、幽香は小さな花を無数に生み出し規則的に並べて壁を作り出した。
「ケシ、スイセン、キンポウゲ、ジギタリス、チョウセンアサガオにキョウチクトウか……」
「うげ、毒持った花ばっかりじゃん……」
「この花は同じ種類を3つ繋げると消える魔法の花なの。隣同士にある花を並べ替えてうまく繋げ、道を造って先にお行きなさい。飛び越えちゃダメよ、跳び越えるのもね。花は次々にせり上がってくるから急いだ方がいいわよ」
「う~んこれは少し頭を使う難題なのね」
「うん、チルノには厳しそうだよね」
「何ぃ~っ! 言ったなぁっ!!」
後ろから追いついてきたチルノがミスティアに文句を言い始める。
それから、後から続々と選手が集まってくる。
「はい、それじゃあ初めてね」
幽香の合図と共に、一列に並んで壁に張り付いてパズルを解いていく。
「はっはっは、こういうのは魔法使いの専門分野だな」
元ネタを考えると決して間違ってはいないけど、魔理沙が言うと違和感ありまくりだ。
「こんなのはね、気合いでやるのよ」
人間にあるまじきスピードでひょいひょいと花を動かすレミリア(っていうかそもそも吸血鬼だけど)
しかし、そんな連中よりさらに速いのが居たりする。
「できたぁっ!!」
「「「「「「「何だってぇっ!!?」」」」」」」
全員、声をあげたチルノを見る。
確かに、壁はあらかた消失し、向こう側に行けるようになっている。
「あたい本物の妖精だもん。んじゃ」
確かに、むこうの氷精(?)と色々似てるような似てないような……。
主に髪の毛とか二面ボスってとことか曲の雰囲気とか。
「逃がさない、待て!」
「やった終わっちゃった~」
次に壁を突破したのは妖夢。
それから黙々と熱中していた橙と続く。
結構意外なメンツがパズルゲームを得意としているらしかった。
「あ、こらレミリア、何人の邪魔してんだよ!」
「うっさい、これ以上先に進ませるか!!」
「あ、レミリアさんわたしの所まで……」
ちなみにこっちではレミリアがカーソルを隣の壁に動かして(!)隣の壁の花を動かしている……。
一悶着している文、レミリア、魔理沙……。
「「はいはい終わり終わり」」
そんな三人を尻目に、鈴仙とミスティアが突破していく。
一時はかなりヒートアップしていた二人だったが、馬鹿な争いをしている三人を見て冷めてしまったようだった。
「いこっか」
「そーね、なんか馬鹿馬鹿しくなってきたわ」
そうしてあとには、時間かけすぎたせいで、花がせり上がるスピードが増しに増し、必死になって気合いで花を動かす三人と、刺激を加えるとか言っておじゃ○ブロックを次々と送り込んだりしてる幽香が残されたのだった。
「いくぞーっ♪」
「「「もうやめてーっ!!!」」」
セミファイナル ヒュードロみょん
トップ ミスティア +22(+3)
二位 チルノ +19(+10)
三位 妖夢 +19(+8)
四位 橙 +16(+6)
五位 魔理沙(幽香にさんざんやられて再起不能) +16(+0)
六位 鈴仙 +15(+4)
七位 文(幽香にさんざんやられて再起不能) +14(+0)
ドベ レミリア(幽香にさんざんやられて再起不能)+12(+0)
次はいよいよファイナル。
おいそれと続きます。
「うふふ~、第三レース当てちゃった」
「永琳様、鈴仙が頑張ってくれたお陰で第一レース当たりましたね」
「上々、と言いたいところだけどね……、さすがになかなか当たらないわ。パチュリーは?」
「なっ、リリカ、博打なんかに手を出しちゃダメじゃないっ」
「そうね、けど油断は禁物よてゐ、このトトカルチョは途中で降りられないルールだから」
「わたしもよ、第二レースは当てたけど、それ以外はハズレ」
「へ~リリカ凄いじゃない~、姉さんもやりましょうよ~」
「分かってますって、さぁ次は誰に入れようかな~?」
「あんたら……、そんなお金の無駄遣いをするくらいならうちにお賽銭入れなさいよぉ!!」
今日も平和だ幻想郷……。
セミファイナル ヒュードロみょん
「……紫様……、なんでわたしだけ名前じゃないんですか……?」
「どっちにしろ一目で分かるからどっちでもいいかなー、なんて」
「よくないですよっ!!」
その様子を見ていた輝夜が筆を片手に、
「大レース 抗議で始まる また今日も(字余り・倒置法)」
「何よ、その風流の欠片もない川柳は」
「あぁ霊夢、あなたも一句詠いましょ」
「いらないわよ、って強引に筆と紙を持たせないっ」
「あ~、そろそろコースの説明をお願いします」
先日の精神的重傷から見事復活を果たした藍が雲の上から解説陣を促した。
やっぱり、橙の出るレースは間近で見たかったらしい。
でも、微妙に顔が窶れているように見えるのは気のせいだろうか……。
それを受けて霖之助さんがマイクを片手に咳払いをして説明を開始する。
「では、僕が説明しよう。このヒュードロみょんコースは、湿原の上に作られた木の道だ。それだけに外壁が一切無く、落下の危険性もある」
「おや? でも出場選手は全員空を飛べるはずだから、落ちるって事はないのでは?」
腑に落ちないと言いたげに藍が質問を返す。
「あぁ、実はコースの外側には、揚力を奪う特殊な力場があってね、飛ぶことができないんだ」
「なにぃ!? じゃあコースから外れたら問答無用で落ちるってのかよ!?」
驚愕に満ちた顔で問いつめる魔理沙。
今までのコースは壁(もしくは木)があったので、たとえカーブを曲がりきれなくても壁なり木なりを蹴って復帰するということも可能だった。
けれど、このコースはそういうわけにはいかない。
例え速度を犠牲にしてでも、緻密に丁寧にコースを攻略しなければならないのだ。
「そういうことだよ、魔理沙。というわけで藍君。もし落下者がでたら救出を頼む」
「……一本釣りですか……?」
「無論だよ」
「……はぁ、じゃあ始めるとしようか。全員位置についてー」
もうこれで4度目になるスタートだ。
ここまでくると皆慣れた様子で位置に着く。
ぴっぴっぴー!!
全員一斉にスタートしていく。
古風な桟橋を思わせる木で出来たコースは、一見するとかなりボロい。
自前の足で走っているのは妖夢と鈴仙だけだというのに、ギシギシと不吉な音を立てているのが不安をかき立てる。
しかもコース自体の横幅がかなり狭く、挙げ句の果てに霧に包まれて視界も悪い。
名前通り、今にもオバケでも現れそうなコースだった。
まぁ、元よりこのレースの参加者は殆ど妖怪ばっかりなんだけど。
と、ここで先頭を行く文がコースに空いた怪しげな穴を発見した。
「あっ! あそこ穴が空いてます!」
「どうせその穴も落ちるようになってるに決まってるわ」
「避けるぞ!」
穴から先が、二手に分かれているので、全員穴を避けて進んでいく。
左側ルートが坂が多いのに対し、右側ルートは坂もカーブも全くない平坦なコースだった。
普通に考えれば、右側ルートが近道で正解だ、でも―。
そのまままっすぐ進んで合流地点が見えてきたその時、右側ルートを選んだ魔理沙、文、妖夢、鈴仙の後方からなにやら破滅の音がした。
バキバキバキバキバキッ!!
「「「「えええええぇえぇえぇ!!!!????」」」」
なんと右側コースが消滅し始めていた。
もっと具体的に言うと、喰われていた。
「なあぁっ!? 何じゃこりゃあぁ!!!!!」
巨大な陰陽玉に。
「うわわわっ!? そ、そんな嘘でしょぉっ!?」
黒い部分と白い部分が、凶暴な鰐の顎を思わせるように開閉しながらコースを噛み砕いていた。
なんていうか……、凄まじくシュールすぎる光景だった。
「「「「ひいいいあああああああっ!!」」」」
突如出現した巨大神社風イーターから必死の形相で全力逃走する四名。
滑り込むように合流地点まで来たところで陰陽玉はコースを外れてどっかに飛んでいってしまったが、右側のルートは跡形もなく消滅してしまっていた。
それを見て、心底背筋が寒くなった四人だった。
「ど、どうしたのあんた達?」
左側ルートから来たレミリアが、ぜーぜー息をする死屍累々軍団を見て一瞬呆気にとられた。
「見りゃわかるだろ……、コースが消滅したんだよ!」
「……紫の奴ね?」
「……紫の奴だぜ」
レミリアにしては珍しく気の毒そうな視線を送るけど、そこはそれ、さっさとレースに戻っていった。
後に続くミスティア、橙、チルノも怪訝そうな顔をして通過していく。
「くっそ……負けるかぁっ!!」
肩で息をしたまま、魔理沙は箒にまたがり全速力で追いかけ始めた。
文と妖夢もそれに続いて駆け出す。
「まずい……、このままじゃ勝てない……」
そんななか、完全に出遅れてしまった鈴仙は悩んでいた。
当然と言えば当然だ。
第一コースではなんとか一位をもぎとれたものの、その後は完全に絶不調なのだ。
現に、今もこうして出遅れた。
分かりやすく言うと、名前の横に紫色のショボン顔が表示されているわけだ。
「もはやこうなったら、あの技を使うしかないわ。その過ぎた威力故に禁忌とされた最強の奥の手を……」
表情に並々ならぬ決意が顕れる鈴仙。
宇宙兎の最強の奥の手とは一体何なのか。
一方こちらでは―、
「待て紫ぃっ! 逃げるなあっ!!」
「あん、霊夢そんなに怒らないでよ、ちょおっとしたジョークみたいなものなんだから」
「何がジョークみたいなものなんだから、よ! 陰陽玉を貸せって言うから一体何に使うかと思ったら……、あんな化け物みたいに改造してくれやがっちゃって……。今ここで綺麗さっぱり跡形もなく滅殺退治してあげるわ!!」
エクスターミネーションが弾幕結界になって紫に襲いかかるけど、紫はスキマを展開してヒラヒラと逃げ回っている。
その有様を見て、藍は深く溜息を吐いて解説に戻った。
「はぁ……、只今の順位ですよ。
トップ レミリア
二位 ミスティア
三位 橙
四位 チルノ
五位 魔理沙
六位 文
七位 妖夢
ドベ 鈴仙
となってますね。
っていうか、わざとわたしの仕事を増やそうとしないでくださいよ、紫様……」
「あら、橋は壊すためにある。鉄則よ」
「そんな鉄則は撤廃してください、ええ今すぐにでも」
「まぁまぁ、藍ちゃん。結局誰も落ちなかったんだから、そう怒らないの」
「輝夜さん、だから藍ちゃんって呼ぶのはやめてくださいって……」
「藍君、ちゃん付けで呼ばれるのは若さの証だよ、そこは喜ぶべきだ」
「いや、別に今は若さを追い求めてませんよわたしは、っていうか論点がズレ過ぎですってば」
三人同時にボケ倒されて対応に四苦八苦する藍。
そんな藍を見て気の毒に思う反面、戻ってきてくれて本当に感謝したいと思う霊夢だった。
ちなみに、いつになく冷静さを欠いていたためか、エクスターミネーションは紫にカスリはしても、直撃はしなかったようだ。
そのせいか、霊夢の息はかなり荒い。
「お互い、苦労するわね……」
「分かってくれるか、霊夢……」
「今度さぁ、一緒に飲まない……?」
「暇ができたら是非そうしたいところだ……」
妙に意気投合してしまう二人だった。
「藍~、司会のお仕事忘れちゃダメよ~」
「……はぁ、わかりましたよ……」
ガクッと首を落とした藍はマイクを持ち実況を再開する。
と、藍が一瞬固まる。
「えぇと……、って何ですかこれは?」
「うむ、これは興味深い事態だね」
「これはこれは、面白いじゃないの」
「どうやらイナバが勝負を賭けたようね」
観衆が見守る中、ついにレースが動く―
今、鈴仙は他の選手からかなり離されている。
他の七名は、最終ヘアピンに差し掛かろうとしている中、鈴仙はなんとか前を走る妖夢と文の姿が見えるくらいの位置だった。
けれどこの結果は鈴仙にとって、必死になって追いかけることをしなかったというだけのこと。
来るべき逆転の機を引き寄せる時のために。
「焦っちゃダメ、この技はタイミングが命なんだから……」
集中力を高め、精神を研ぎ澄ましタイミングを計る。
次のカーブを曲がれば、次は最終ヘアピンが迫る。
しかし、鈴仙はカーブを曲がらずに、あろうことかそのまま真っ直ぐ走ったのだ。
「今だ! ここ!」
鈴仙は、コースの端っこを踏み切り、ウサギの脚力で大きく跳躍した。
一見、レースを捨てた自殺行為。
けれど、その先には、ヘアピンカーブから続く道が確かにあった。
すなわち、
「奥義!! ショートカットジャーンプッ!!」
鈴仙は、見事に、反対側の道、そして、スタート地点真ん前に着地成功した。
そしてこの瞬間、鈴仙は見事に最下位からトップへとゴボウ抜きを達成したのだった。
「何っ!? 月兎、おまえ一体どこから現れた!?」
さっきまでトップを走っていたレミリアは、いきなり目の前に現れた鈴仙を見て目を丸くした。
「さぁ、どこからかしらね」
「くっ、おい! コースの外に出たら落ちるんじゃなかったの!?」
『説明はちゃんと聞かないとね。僕は揚力を奪う力場と言ったんだ。つまり、飛ぶことはできないが跳び越える分には全く問題はない』
スピーカーから霖之助さんの声が響いてくる。
レミリアは納得いかないとでも言いたげだが、それを言い出したらキリがないので渋々押し黙る。
「やっぱり切り札っていうのはここぞってときに使うものよね」
「何を言ってる、まだ一週目だ。そっちがその気ならわたしだってショートカットとやらをやるまでよ」
「力任せのあなたにこんな繊細な技は使いこなせないわ。せいぜい跳びすぎてコースから落ちるのが関の山ってものよ、空回り吸血鬼さん」
「つくづく言ってくれるじゃないの……」
額にビッシビシ青い筋が入るレミリア。
「上等よ! 今度こそその怪しい挑戦的な耳を引っこ抜いて驢馬の耳にしてやるから覚悟しなさい!!」
「羽が生えてるあなたほどじゃないって前に言ったわ。それにそういうことは……」
二周目に突入した鈴仙は、カーブをジャンプで跳び越えて、
「勝ってから言うことね!」
まるで八艘飛びみたいにピョンピョン跳びはねながらもの凄いスピードで進んでいく鈴仙。
歯噛みしながら鈴仙の後ろ姿を追いかけるレミリア。
確かに、鈴仙のように正確にジャンプできるとは限らないし、踏切や着地のタイムラグや姿勢制御の問題を合わせて考えると、却ってタイムロスになる可能性すらある。
勿論コースアウトしてしまったら元も子もない。
この技は兎である鈴仙にしか使えない技なのだ。
「まずいわ……、これはなんとかしないといけないわね……」
「困った時がチャンスです~♪」
後ろから聞こえてきた声(っていうか歌)に、レミリアは眉をひそめる。
「夜雀、レース中に歌うな、気が散る」
「ファファファ~、世の風は冷たいな~」
「ペリカンかお前は」
「まぁまぁ、それより、この状況を打開するいい手があるんだけどー。どーする、やっちゃう?」
いかにも「わたし何か企んでます」な顔しているミスティア。
その手にはアイテムカードが握られていた。
はっきり言ってむっちゃ胡散臭い。
「…………、まぁいい、やるなら早くやれ」
「アイアイサー」
ニコッと笑ったミスティアはカードを大きく掲げ、
「ハデに撃て!! 夢想封印!!」
「むそーふーいん・しゅん」
「待て待て待て待て……、きゃあああああ!!!」
ズガッ
ミスティアが撃ったハデな虹色の玉が、進路上にいたレミリアを薙ぎ倒して、それでもまだ消えずに飛んでいく。
「じゃあおっさき~」
「こ、このっ……一度ならず二度までもわたしの邪魔を……。待ちなさいこらぁっ!!!」
「やだぷー」
「ぐああああああ!!!」
そのころの鈴仙―
「よぉし、このまま独走してやるわ!」
後続を大きく引き離した鈴仙は、安心したのか普通に走り始める。
「うさぎとかめではうさぎは負けたけど、わたしは違うわ。最期まで油断なんて……」
とその時、後ろから
ドボズバムッ!!!
「はおうおっ!?」
青い衝撃波が発生し、鈴仙は高々と打ち上げられ、勢い余ってコースから転落した。
「えあああああああ!?」
ドッパーンッ!!
ハデに水音を立てて鈴仙は池に落っこちた。
慌てて水をかきわけて浮き上がろうとするけど、湿原の池は水草だらけで、もがけばもがくほど手足に水草が絡まっていく。
しかも服は水を吸ってどんどん重くなっていく。
気が付いた時には、鈴仙は完全に溺れていた。
「はっぷ……、た、助け……あう……」
「はいはい、今助けるからじっとしてなさい」
上から藍の声がして、服に何かが引っかかって、そうして鈴仙は上に釣り上げられた。
「ひ、ひあ!? さ、魚に食われた!?」
「あぁこら暴れるなって」
一本釣りされた鈴仙のいまの姿はかなり悲惨だった。
服はびしょ濡れだし、体中水草が絡まってるし、うさみみには魚、具体的に言うとヘラブナが食いついていた。
他にも、水草に食いついたハヤとかがピチピチと跳ねまくっていた。
「あー……、大丈夫か鈴仙……?」
「これが大丈夫に見える……?」
「……すまん、全然見えないな」
鈴仙は半泣きになりながら体中の水草を取り、すっかり重くなってしまった服を見て溜息を吐いた。
「これじゃあ満足に走れないじゃない……」
「それ以前にこれじゃあ風邪を引くぞ、まず体を乾かさないと」
「…………」
水草や魚を取るのを手伝ってくれている藍を鈴仙は見た。
そして……何を思ったか……。
「付き合って」
「ん?」
「脱ぐから」
「はい? ってお前いきなり何を!?」
なんと藍の目の前で、鈴仙はポンポンと濡れた服を脱ぎ始めた。
ブレザー、スカートと次々にぐっしょりと重たい服を躊躇いもなく脱いでいく。
明らかにその目はやばい、狂気全開である。
そうしてついにYシャツにも手をかけた鈴仙は、目の前にいる藍を見てにやりと笑った。
その瞬間、藍の全身に悪寒が走る
「ちょうどいいわ、あんたも脱ぐのよっ!!」
「なっ!? ちょっと待て何でだ!?」
「わたしだけ脱ぐのは不公平よ! あんたスッパ好きなんでしょ!?」
「ってオイこら目が据わってるぞ、待てってこらぁっ!!」
しかし、鈴仙はお構いなしに藍めがけて襲いかかった。
「脱げ! 脱ぎなさいぃっ!!」
「冗談じゃないっ!! 確かにわたしはスッパ好きだが脱がされるのは脱がされるのは嫌なんだあぁっ!!!」
慌てて雲に乗って逃げようとする藍だが、鈴仙は尻尾を鷲掴みにして藍を引きずり落とした。
目を真っ赤にした下着姿の兎が逃げようとする狐を押さえつけて脱がそうとする。
はっきり言ってこれ以上はまずい、投稿場所を変えなきゃいけなくなりそうだ。
藍は必死で鈴仙を引きはがそうとするが、ついに鈴仙が藍のやぼったい服の襟に手をかける。
あぁ、もうやばい……。
と藍が思ったその時、
「やったー、命中命中~……、ってあれ?」
「むそーふーいん しゅん」を先程ハデに撃ったミスティアがようやく追いついてきた。
しかし、ミスティアは目の前で起こっている事態に一瞬呆然とした。
ミスティアの視線に気づいた藍と鈴仙も、動きが止まる。
「あ、ミスティアいいところに! ちょっとこの三月兎をなんとか……」
「あ、えっと、……ごめんなさい、失礼します」
「待てええええええええ!!!!」
顔を真っ赤に染めて、両手で覆いながら、ミスティアは去ろうとする。
しかし、藍にとってはここで逃げられては困る。
目どころか色々と当てられない事態にされてしまう。
藁にもすがる思いで引き留めようとするが、その時、横から超絶禍々しい空気が漂ってきたことに気づいた。
「ふふふふふ……」
「ん……? 何だ?」
「そう……、あの攻撃はミスティアがやったのね……」
「「は、はい?」」
いつもとは百八十度違う雰囲気を漂わせ、鈴仙はミスティアに詰め寄っていく。
「悪い子ね……、お仕置きしないとね……、ねぇミスティア……」
「ちょ、ちょっと待ってよ。たしかに夢想封印したけど、水に落ちたのはわたしのせいじゃないよ!」
「うん、まだあるの。前にあなたの屋台で飲んだ時にねわたし記憶が飛んじゃっててね、かすかに覚えているのは、あなたに何かされてああなったって事なんだけどさぁ、あなたはどう思う?」
「いや、あれはだから……その……」
「説明できないのね……、つまりそういうことをしたってことでしょう……? だったらお仕置きしないと、ねぇ?」
じりじりと迫ってくる鈴仙を前に、嫌な汗をだらだらとかくミスティア。
やばい、ピンチ、絶体絶命、そんな単語が頭をよぎったとき、ミスティアは、
「……う、うるさーいっ! 元はと言えばあんたがショートカットなんてやろうとするからそうなるんだよ!!」
とりあえず逆ギレしてやり過ごすことにした。
「何ですって!?」
「そうだよ、鈴仙が悪い! アイテムカードも無しでショートカットなんてずるい! 反則レッドカード!! 審判団長英断を!!!」
「こら! 何で話をわたしに振るんだ!? っていうか誰が審判団長だ!」
「わたしの奥義を反則呼ばわりするとはいい度胸じゃない……。いいわ、正々堂々決闘よ!!」
「やってやろうじゃない! 勝った方が負けた方をお仕置きだよ!」
「上等よ、泣いても許してあげないから覚悟しなさい!!」
二人はドビュンッ、と加速していっきに姿が視認できなくなる。
後には、安堵と疲労の溜息を吐く藍が残されたのだった。
その後、鈴仙とミスティアが一騎打ちを繰り広げる後ろから、レミリア、橙、チルノ、魔理沙、文、妖夢が一進一退で追いかけるという展開が続き、遂にファイナルラップに入る。
「彗星「ブレイジングスター」!!」
「負けないよ! 童符「護法天童乱舞」!!」
ここでは、チルノと橙が、各々拾ったアイテムカードを発動させてデッドヒートを繰り広げている。
橙は自分のスペルなだけにどことなくご機嫌だ。
ちなみに、「ごほーてんどうらんぶ」というのは、ターボアイテム(一定時間無制限)だったりする。
「吸血鬼はっけーんっ!!」
「覚悟ぉっ!!」
「五百年早いわよ、コジャリ共」
「コジャリ言うなーっ!!」
「しつれーだよ!!」
「じゃあおこちゃまよ」
「むっきいいいい!!!」
「見た目で言うならレミリアだっておこちゃまじゃん」
「……何か言ったかしら、子猫ちゃん?」
ボソッと呟いた橙を笑顔で見つめるレミリア。
勿論目は笑っていない、ええ全く。
「オラオラオラオラオラオラ! どきなどきなぁっ!!」
その後ろから騒がしい怒声と共に魔理沙が飛んできて、後ろにピッタリ付いた文と妖夢も現れる。
鈴仙とミスティアは、一時はかなり後続を引き離していたのだが、先程かなり無駄に姦しい言い争いをしていたためタイムロス。
もう姿を捉えられるくらいになっていた。
それを見ていた鈴仙・ミスティアは内心焦ったものの、それでもまだまだ差はある。
目から火花を散らしてお互いを見た二人は、更に加速して一路ゴールを目指そうとした、
そして、ゴール手前ヘアピンカーブまで来たその時、とっても見たくないモノがまた視線の先にあった。
「げげ……、あれはまさか……」
「ひ、姫様……」
難題「花の妖精の魔法」
「あら、可愛らしい兎さんに雀さん、いらっしゃい」
「「しかも幽香かよ!!」」
嫌なっていうか怖いやつ―すなわち風見幽香と会ってしまった二人は、とくに以前彼女の向日葵に酷い目に遭わされたミスティアは露骨に嫌な顔でつっこんだ。
「妖精って……、妖怪の間違いじゃ……」
「っていうか、どうしてこう姫さまといい八雲紫といいこいつといい年甲斐もないことばっかり……」
「二人とも聞こえてるわよ~」
幽香の声とともに巨大な向日葵の花が鈴仙とミスティアをあわや飲み込むところまで一瞬にして接近してくる。
「わあぁっ!! 向日葵がー向日葵がー!!!」
嫌な思い出が蘇り、軽いパニックになるミスティア。
鈴仙もパニックとまではいかないけど、かなり度肝を抜かされている。
「ひ、酷い……。鈴仙はともかくわたしは何も失礼なこと言ってないのに……」
「連帯責任って言葉をあなたはご存じかしら~?」
また次の花をちらつかせる幽香にミスティアは顔を青くして押し黙る。
「ま、まぁとりあえず難題を、難題をやりましょう」
心なしかへりくだる鈴仙をちらっと見て、幽香はコホンと咳払いをして
「そうね、でははじめましょう。まずルールを説明するわね」
そして、幽香は小さな花を無数に生み出し規則的に並べて壁を作り出した。
「ケシ、スイセン、キンポウゲ、ジギタリス、チョウセンアサガオにキョウチクトウか……」
「うげ、毒持った花ばっかりじゃん……」
「この花は同じ種類を3つ繋げると消える魔法の花なの。隣同士にある花を並べ替えてうまく繋げ、道を造って先にお行きなさい。飛び越えちゃダメよ、跳び越えるのもね。花は次々にせり上がってくるから急いだ方がいいわよ」
「う~んこれは少し頭を使う難題なのね」
「うん、チルノには厳しそうだよね」
「何ぃ~っ! 言ったなぁっ!!」
後ろから追いついてきたチルノがミスティアに文句を言い始める。
それから、後から続々と選手が集まってくる。
「はい、それじゃあ初めてね」
幽香の合図と共に、一列に並んで壁に張り付いてパズルを解いていく。
「はっはっは、こういうのは魔法使いの専門分野だな」
元ネタを考えると決して間違ってはいないけど、魔理沙が言うと違和感ありまくりだ。
「こんなのはね、気合いでやるのよ」
人間にあるまじきスピードでひょいひょいと花を動かすレミリア(っていうかそもそも吸血鬼だけど)
しかし、そんな連中よりさらに速いのが居たりする。
「できたぁっ!!」
「「「「「「「何だってぇっ!!?」」」」」」」
全員、声をあげたチルノを見る。
確かに、壁はあらかた消失し、向こう側に行けるようになっている。
「あたい本物の妖精だもん。んじゃ」
確かに、むこうの氷精(?)と色々似てるような似てないような……。
主に髪の毛とか二面ボスってとことか曲の雰囲気とか。
「逃がさない、待て!」
「やった終わっちゃった~」
次に壁を突破したのは妖夢。
それから黙々と熱中していた橙と続く。
結構意外なメンツがパズルゲームを得意としているらしかった。
「あ、こらレミリア、何人の邪魔してんだよ!」
「うっさい、これ以上先に進ませるか!!」
「あ、レミリアさんわたしの所まで……」
ちなみにこっちではレミリアがカーソルを隣の壁に動かして(!)隣の壁の花を動かしている……。
一悶着している文、レミリア、魔理沙……。
「「はいはい終わり終わり」」
そんな三人を尻目に、鈴仙とミスティアが突破していく。
一時はかなりヒートアップしていた二人だったが、馬鹿な争いをしている三人を見て冷めてしまったようだった。
「いこっか」
「そーね、なんか馬鹿馬鹿しくなってきたわ」
そうしてあとには、時間かけすぎたせいで、花がせり上がるスピードが増しに増し、必死になって気合いで花を動かす三人と、刺激を加えるとか言っておじゃ○ブロックを次々と送り込んだりしてる幽香が残されたのだった。
「いくぞーっ♪」
「「「もうやめてーっ!!!」」」
セミファイナル ヒュードロみょん
トップ ミスティア +22(+3)
二位 チルノ +19(+10)
三位 妖夢 +19(+8)
四位 橙 +16(+6)
五位 魔理沙(幽香にさんざんやられて再起不能) +16(+0)
六位 鈴仙 +15(+4)
七位 文(幽香にさんざんやられて再起不能) +14(+0)
ドベ レミリア(幽香にさんざんやられて再起不能)+12(+0)
次はいよいよファイナル。
おいそれと続きます。
対戦? 勝てるはずないじゃないですか('A`)
ペカリンさんに会えるとは思わなかった
次回やろうとしている場所と仕掛けが楽しみです