Coolier - 新生・東方創想話

夢子、ハローグッバイ

2006/04/29 12:16:40
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 事の発端はいつものように神綺の実験であった。
 以前、魔界に侵入してきた巫女や魔法使いにコテンパンにされてから、神綺は今まで興味のなかった攻撃系の魔法を習得するようになった。のは構わないのだがその強大な魔力ゆえに調整に失敗し 部屋を吹き飛ばすなどは日常茶飯事であった。
 そして今日も魔界の城を爆音が揺らすのだった。
「神綺様、ご無事ですか!?」
 真っ先に駆けつけるのは城での雑事一般を取り仕切っている夢子。
 豪奢な金髪を振り乱して駆けつけた夢子が見たのは、次元の歪みで一杯の神綺の私室であった。
「夢子ちゃ~ん。助けて~」
 部屋の中央で次元のゆがみを押さえているのは神綺。ブラックホールに近い次元の歪みを押さえているのはさすがというところではあるが、押さえるので手一杯のようだ。
「――少々お待ちください」
 即座に部屋中に視線を走査させる。視線が止まったのは一冊の魔道書。
 夢子の手からナイフが飛び魔道書を両断する。と、同時に歪みが急速に縮小していき消える。
 どうやらあの魔道書が原因であったようだ。
「ふぅ~、夢子ちゃんありがと。助かったわ」
 尻餅をついて脱力する神綺。外見だけでなく時折見せる子供っぽい仕草が微笑ましい。
「いえ、この程度たいしたことではありませんわ」
 文句ひとつ言わず散らかった部屋の片付けを始める夢子。それを見て神綺も片付け始める。
「何事ですか!?」
「神綺様ー!お怪我はありませんか!」
「神綺様、また実験に失敗したの?」
「ご無事ですか?」
 遅れてやってきたのはルイズ、ユキ、マイ、サラ。どうやら爆発は城中に響き渡ったらしい。
「ええ大丈夫よ。みんなありがとうね。」
 そして全員で部屋を片付け始める。これもまた見慣れた光景であった。
 十分ほどで部屋を片付け終わる。夢子によって両断された魔法書は即ゴミ箱行きになっていた。
「あれ? あれあれあれあれあれれれれれれ?」
 本棚の整理をしていた神綺が妙な声を上げる。
「神綺様、どうかなされましたか?」
 夢子の問いかける声も聞こえないのか部屋中を探し始める神綺。ユキやマイも怪訝そうな顔をしている。
「無い。無い無い無い無い!!」
「いったい何を無くされたんですか?」
 ルイズの質問に呆然とした顔で答える。
「生命倫理の魔道書。バイオエスィクス。ぶっちゃけ夢子ちゃん達の創り方を書いた本」
 ホムンクルスレベルではない。人間以上の存在を作り出す過程を示した本。
 そんなものがいずこかへ流されてしまった。
「でも神綺様。流されたといってもいずことも知れぬ世界ですし。神綺様は創り方を知っているのですから、また書き直せばいいのでは?」
「違う! そーじゃないのー! あれは……えーと……その……と、とにかく他人に見られちゃだめなのー!!」
 要領を得ぬ神綺の怒りに皆ため息をつく。
「とにかく本の在り処を探すのよ! いいわね!」
 どちらにしろ魔界神である神綺の命令は絶対である。
 それに魔界に関係する世界に落ちていれば脅威になる可能性はある。
「わかりました。じゃルイズちゃんは使い魔を作成して探査させて。ユキとマイは魔力を追尾して探って。私は次元の壁を解析してみるわ」
「わかったわ」「りょーかい」「じゃ行ってくるね」
 各々の作業の為に部屋を出て行く3人。
「あのー、夢子ちゃん。私は何をすればいいのかな?」
 一人残されたサラ。
「サラは……そうね、神綺様のご機嫌取りお願いね」
 そういって夢子もそそくさと部屋を出て行った。
 魔道書を無くしたショックが大きかったのか部屋の隅でいじけている神綺。
 それを見てサラはどうやって機嫌を直させようか頭を捻るのであった。

 じきに魔道書の行方は判明した。
 魔界の総力をあげればさして難しくもない作業であった。しかし。
「で、魔道書はどこいったの?」
 無邪気な神綺の問いに夢子は沈痛な面持ちで答える。
「博麗大結界内部。つまり――――幻想郷です」





 ヴワル魔法図書館のエントランスホール。そこに今、咲夜を含めメイドが数十人整列している。
「というわけで皆さんにはこれからブックハントしてきてもらいま~す。日没までに帰ってきてくださいね。入手に際してですが、可能な限り穏便に入手すること。力づくはだめですよー。もしお金が掛かったらあとで申告してください。経費で落としますのでー」
 小悪魔がひときわ高い段の上から説明を行っている。パチュリーは喘息の為こういった演説に近いことには向かない為だ。
 今日はヴワル恒例の本狩りの日である。ヴワルと言っても勝手に本が集まって来るわけではない。
 何処かから集めてくる必要がある。そもそもパチュリー自身が重度のビブリオマニアである。でなければこんな図書館など作らない。
 だが、体が弱い為自ら収集する事が出来ない為、時折こうしてメイドをかき集めては本を集めて来させている。その日が今日というわけだ。
「見事本をゲットしてきた人には有給が与えられます!では皆さん。今日も張り切っていきましょー! おー!」
「お~」
 やる気の無さげな掛け声を小悪魔に返し、全員が一斉に外に向かう。
 人間と交渉したり、下手をすれば弾幕ごっこになったりとメイド達にはあまり楽しみなイベントではない。だが休日のない紅魔館に置いて有給は値千金。誰もが心の中では対抗心を燃やしている。
 咲夜とてそれは例外ではない。人里を探せばすぐに見つかるだろうが当然誰もが同じ事を考えるのでライバルは多くなる。強奪という手もあるのだが、本を持っていそうなのとなると魔理沙や霊夢、アリスに慧音と一筋縄ではいかない連中ばかりだ。
「仕方ないわね。今回も香霖堂にお世話になろうかしら……」
 雑貨屋の店主森近霖之助ならば適当な品物と引き換えに本を売ってくれるだろう。そう思い香霖堂の方へ足を向けた時だった。
「らーらーらららー、ら~ら~ら~ち~るのちゃ~ん♪」
 前方にお気楽極楽に鼻歌を歌う本読み妖怪こと通称朱鷺子。その手の中には一冊の本。
 咲夜の目が怪しく光る。朱鷺子とはまんざら知らない仲ではない。以前ちょっとした事件があり、それ以来時折図書館に読書に来ている。咲夜とはその時に何度か顔を合わせている。
 これはチャンスだと思った。相手が朱鷺子ならば何かと言いくるめやすい。
「あら朱鷺子じゃない。こんなとこで会うなんて奇遇ね」
 自然を装って話しかける。決して本が目的だと気取られてはならない。本の事となると朱鷺子は異様な執着を見せる。
「あ、誰かと思えばメイドのくさやじゃない。何の用?」
 あまりといえばあまりな間違いにナイフを取り出しかけるが理性を総動員して押さえつける。
「く、くさやじゃないわ。咲夜よ。それより朱鷺子あなたその本どこで手に入れたの?」
「咲夜ね、咲夜。よし覚えたわ。……この本? 博麗神社の裏で拾ったのよ」
 本当に覚えたのか妖しいものだったが流す。どうやって本をもらうか。力づくなら簡単なのだが、
 後々パチュリーに知られても厄介だ。やはりここは口八丁しかないと判断する。
「物は相談なんだけど、その本譲る気はない? もちろんタダとは言わないけど」
「えーーーーー! 私まだ1ページも読んでないんだけどー」
 予想通りの反応。だがここで引くほど咲夜は甘くはない。
「今度図書館に来たときにストロベリータルトワンホールつけるわ」
 ピクリと朱鷺子の肩が動く。
「シュークリームも追加してもいいわ」
 ピクリピクリ。
「持ち帰り用にロールケーキも一本つけるわよ」
 ピクリピクリピクリ。
「し、仕方ないわねぇ。そこまで言うんなら譲ってあげてもいいわよ。――その代わり約束は守ってもらうわよ」
 そっぽを向いて差し出される本を受け取る。
「いい! 絶対お菓子出しなさいよ!!」
 そういい残して飛んでいく朱鷺子。その背中を見送りながら咲夜はニヤリと笑う。
「読書欲より食い気。朱鷺子もまだまだね」
 朱鷺子は鳥妖怪である。つまり頭の中身もそれ相応の知能しかないということ。さっきの約束など三日もすれば忘れてしまうであろう。あとは美鈴をいいくるめて三日は図書館に入らせなけば良いだけ。理由など実験とか喘息とか言っておけば納得するだろう。
 何はともあれノルマ達成。これで今月は休みが取れるかと思うと心が躍る。
 朱鷺子との会話の一部始終を観察されていた事に、うきうきと帰る咲夜は気付いていなかった。

 夕方になり出かけていたメイドが続々と戻ってくる。本を収穫できた者はパチュリー印の休日届を引き換えに受け取りそれぞれの持ち場へ戻っていく。
 今回の収穫は7冊。ここからはパチュリーと小悪魔の仕事である。
 パチュリーが軽く読み内容次第で収納する書架を指示し小悪魔が持っていくという寸法。
 6冊まで読み終えたところでパチュリーが溜息をつく。料理の本に童話絵本。魔道書や資料集のような類のものが出てこない。価値がないわけではないが少なくともパチュリーの興味の外であるのは間違いない。
 どうせ次もしょうもない本だろうと手に取りページを開いたところで動きが止まる。分厚い装丁に羊皮紙に直筆で書かれた文。なによりもパチュリーを驚かせたのはその内容。最初の数ページだけでこの本の重要さがわかる。
「これは……。小悪魔、これは禁書の3-Xの棚に置いておいて」
「禁書棚のXって最重要の棚じゃないですか! その本そんなに危険なんですか!?」
 禁書棚の中で更に危険な物を収めるX棚。魔理沙ですら発見できず、小悪魔もよっぽどのことがなければ近寄らないヴワル最奥の更に奥。
「どんな本なのか聞いていいですか? あ、いえ好奇心とかじゃなくて仕事上把握しておきたいかなーとか!」
「……生命倫理。生命を造り出す術が書かれているわ。ホムンクルスというのが適切なのかもしれないけど。これはそれ以上。……魔理沙なんかにはとても見せられないわね」
 重苦しいパチュリーの表情からそれがとても重要な物であるとは分かる。が、小悪魔にはピンと来なかった。小悪魔にとっては近づいただけで攻撃してくる魔道書の方がよっぽど脅威なのである。
 その本をXの棚の上段に収納し、小悪魔の今日の仕事は終了した。
 棚に仕舞われた本が再び話題に上がるのはだいぶ先のこと。
 終わらない冬が過ぎ永夜異変が解決した頃、再び本を巡る話は始まる。



「メイドが足りないですって?」
 紅魔館の主レミリアは神妙な顔をして控えているメイド長の咲夜を見上げる。
 メイドの正確な数などレミリアは把握していないが3ケタはいた筈と記憶している。それが足りなくなるというのは何かあったのだろうか。
「いったい何があったの? 大抵は妖怪なのだし丈夫なはずよ」
「それがですね。以前霊夢達にコテンパンにやられて以来引退者が続出してまして……。それに魔理沙が三日おきにやってくるのでろくにローテーションも組めなくなっておりまして…」
 申し訳なさそうに述べる咲夜。メイドの管理を一括して取り仕切っているだけに今の状況はショックなのであろう。
「で、メイドを新規に募集したいと。まぁそういう事情なら仕方ないわね。面接やら手筈は全て咲夜に任せるわ」
「ありがとうございます。では早速募集開始いたします」
 こうして紅魔館の新人メイドが募集されることになった。
 幻想郷の各地に立て札が設置され、人妖問わず募集された。人里の大通りにまでその立て札を見かけて、上白沢慧音は酷く呆れたものだった。 妖怪だらけの紅魔館に好き好んで働きに行く人間などいるはずもない。
 そういえば妹紅にメイド服は似合うだろうか、などと考えつつ立て札を撤去する慧音であった。
 順調に行くかと思われたメイド募集だが意外なことに難航を極めた。人数はそれなりに来たのだが、8割が十六夜咲夜との面接で落とされ、残った者も試用期間中のシゴキに耐えられず辞めていく。
 門番の美鈴から見れば充分な人材でも、咲夜にかかればお嬢様に仕えるのに覚悟が足りないとなってしまう。そんなものだから未だに正雇用まで辿り着けた者はいない。
 門柱にもたれかかり、新人は来ないなぁ仕事増えたままは嫌だなぁ、などと思う。
 そんな美鈴に声をかける人物が一人。
「あのーメイド募集の立て札見て来たのですけど」
 豪奢に波打つ金髪と柔らかい雰囲気を持つその女性は、夢子と名乗った。


「名前と年齢、種族に特技。あとはあるなら軽い職歴を教えてくれる?」
 紅魔館の応接室。メイド募集にともない一時的に面接室と化したその部屋で夢子と咲夜が面接している。
「名前は夢子。年齢は秘密で。種族はまぞ……シルキーですわ。特技は家事なら何でも。以前はしん……とある貴族様と契約して屋敷の掃除やらをしておりました。その貴族様が身罷られたので放浪しているうちに幻想郷へ来ました」
 シルキーといえば西洋に置いてブラウニー等と並び有名である。気に入った人の家に住み着き掃除やらをしてくれる献身的な妖精。家事の能力には問題ないだろうと咲夜は思う。ちらりを顔を見る。にこにこと笑顔。その笑顔は見るものを癒してくれるかのようだ。
「いいわ採用しましょう。といっても一週間は試用期間とします。一週間経った時点で使えそうになければ正雇用はありません。いいですね?」
「ええ構いません。掃除洗濯なんでも致しましょう」
「ま、試用期間ということだしスカラリーでいいわね。正雇用となればコックかチャンバーになってもらいます」
 スカラリーやチャンバーというのはメイドの階級である。スカラリーは最底辺で主に皿洗いを担当する。チェンバーは寝室の掃除、ベッドメイキングなどの世話。他にもパーラー、ハウス等あるがあえて割愛させて頂く。
「わかりましたメイド長。これからよろしくお願いいたします」
 スカートの端をつまみ優雅に一礼。それがあまりにも型にはまっていたので咲夜ですら思わず見とれてしまったほどだ。
「ええ、こちらこそよろしく夢子」
 まずは計画の第一歩は成功。神綺に黙って幻想郷へ来ること一週間。どうやって紅魔館に潜入しようかと考えていたところに、このメイド募集。渡りに船とばかりに志願した。あとは如何に本を持ち出すかだが。
「なるべく早く帰らないとダメね。みんな心配してるだろうし」
 神綺は幻想郷に魔道書があると知って回収をあきらめていた。以前、幻想郷から来た4人に酷い目にあわされたのだから無理もない。
「まぁ読んだからってそう簡単に再現できるわけじゃないし、それにちゃんと作成方法は頭に残ってるから大丈夫よ」
 神綺が笑ってそう言っていたが内心では落ち込んでいるのはわかっていた。だからこそ夢子は一人でこうして幻想郷くんだりまで来てメイドまでしている。ルイズにだけは事の次第を話し後の事を任せているが、やはり不安である。
 本の在り処は分かっていた。ヴワル魔法図書館。なんとか早い内に図書館に配属されなければならない。その為にはまずは信用を得なければ。



「あなたが夢子さん? 私はカイヤ。これからよろしく」
 与えられた部屋は相部屋であり、彼女がどうやらルームメイトのようだ。
 幼い外見にショートカットがよく似合う娘だった。扱いやすそうな子で安心する。
「ええ、こちらこそよろしく。カイヤ」
 差し出された手を握り返す。
 こうして夢子の紅魔館での生活が始まった。
 スカラリーメイドの仕事は皿洗い。紅魔館のそれは想像以上に過酷である。
 まず主人であるレミリアや賓客扱いのパチュリーの皿は分けて洗わなければならない。無論汚れ一つ残さずにだ。
 同時進行でメイド達の食器洗いである。紅魔館のメイドは優に100人は越える。食事の時間は場所によって違うとはいえ、洗い終わった頃に新しく汚れた皿が追加されるので休む暇がない。朝食の分の食器を洗い終わり遅い朝食が済む頃には昼食の皿が運ばれてくる。昼食分が終われば夕食。夕食が終わり食事を摂ってやっと終了である。
 そんな生活であるから三日もすればメイド達の手はひび割れてボロボロになってしまう。
「ううう、手が痛い~」
 痛みを訴える手をさすりつつカイヤが愚痴る。
「はいこれ秘伝の軟膏。よく効くわよ」
「ありがとう、夢子~。やっぱ頼りになるわぁ」
 神綺特製なので効果は抜群だ。幾ら偽装で忍び込んだとはいえ見捨てる事など夢子にはできなかったし、どうせなら楽しめるだけ楽しめばいいという考えでもあった。
 紅魔館に潜入して一週間。すでにルームメイトとの信頼は構築済みであった。
「そういえば夢子は明日から門番隊に転属だっけ。異例の出世よねぇ」
 驚異的なスピードで皿を汚れ一つ残さず洗う夢子はあっさりと正雇用を決め、門番隊に配属になった。
「ええ、色々部署を回して適正を見るらしいわ。戦闘は苦手なのだけれど……」
「大丈夫よ。門番隊の隊長の美鈴さんは優しいし。それに襲ってくる敵なんてまずいないから」
 今後の事を考えると自分の能力は隠しておいたほうがいい。最低限弾幕を張れる程度でいいだろう。


 翌朝、紅魔館の門の前で挨拶する夢子がいた。
「今日からここに試験配属になりました夢子です。よろしくお願いします」
 よろしくーとあちらこちらから挨拶が返される。
「私が門番隊を仕切ってる紅美鈴よ。よろしくね夢子。それと聞いておきたいんだけど得意な弾種って何かしら」
 ナイフと答えたいところではあるが、一番苦手な弾を答えておく。
「ええと、レーザーですね」
 メイド達からどよめきがあがる。
「いやー、門番隊にはレーザー使いは居なかったのよー。歓迎するわ夢子!!」

 門番隊での日々は平和であった。カイヤの言うとおり襲ってくる敵は皆無であったし、時折毛玉を処理するくらいがせいぜいであった。
 夢子が活躍したのは別の方面。隊長の気風が伝染しているのか、隊員達はよく食料庫から食材を盗んできては夜食やおやつとして調理していた。そして夢子の作る料理は隊員達から大変に好評であった。
「え? 図書館に?」
 美鈴にサンドイッチを差し入れ、美鈴から門番隊に正規加入希望しないかと誘われた夢子は図書館に行きたいと答えた。
 ヴワル図書館の情報を聞き出す為にあえて言ってみた。現時点では怪しまれる事はないだろう。
「そっかー残念ね。でもパチュリー様は無愛想だけど優しいから安心していいわ。あ、あー、あと一個厄介なのがいるけど夢子なら大丈夫!」
 何がどう大丈夫なのかわからなかったが親指を立てて応援してくれる美鈴見ると微笑ましくなってくるのであった。



 そんなこんなで更に二週間経過。
 魔界でもメイドしていた事もあり大抵の仕事に慣れるのが早い夢子。
 食事を作れば美味しく、掃除をすれば埃など残さず、洗濯すればシミをも消える。適度に手を抜ばいいのだが長年の性分と言うべきか自覚しないままについつい完璧にこなしてしまう。
 超実力主義の紅魔館である。夢子のメイドとしてのの階級もずんずん上がり、今ではそこらの古参メイド並である。
 そしてそこまで階級があがればメイド達にも人気がでる。そしてそれはメイド達の間で咲夜派と夢子派に二分するほどのものになっていた。
 紅魔館のメイドは今まで咲夜による恐怖政治で統治されてきた。これは咲夜が人間であり、妖怪の
 メイドから舐められない為の保身術でもあるのだが。
 そもそも咲夜と夢子は対極に位置していると言っていい。髪の色は金と銀。おっとりした性格の夢子ときつい性格の咲夜。紅茶党の咲夜と珈琲党の夢子。豊満な体型で女性らしい夢子とナイフを思わせるスレンダー体型の咲夜。これで二人とも仕事ができるのだから、他のメイドの人気を二分したとしてもなんら不思議でない。
 そんな人気が出れば当主の耳に入ったとしても不思議ではない。
「今日は紅茶ではなく珈琲がいいわね」
 レミリアのこの一声により夢子が食後の一杯に付き合う事になった。



「いい、夢子? お嬢様はああ見えても結構子供舌なの。だから珈琲は温めでなるべく甘く。というか飲んだことが無いはずだからカフェオレにしてもいいかもしれないわね。それからお嬢様の許しが無い限りこっちからは喋ってはダメ。深く静かに側に寄り添い、何かあれば言われるよりも先に要求にお答えするのよ?」
 事前に咲夜からこれでもかと言うほど注意を受ける。夢子も別の意味で緊張する。まさか自分の目的を知られることはないだろうが、注意するに越した事はない。万が一にでも何か粗相をしてメイドをクビにでもなれば計画は一からやり直しだ。失敗は許されない。
 慎重に慎重を重ねて珈琲を淹れ、レミリアの部屋をノックする。
「夢子ね。お入りなさい」
 そっと扉を開け一礼する。
「食後の珈琲をお持ちいたしました。お嬢様」
「ご苦労様。こっちへ来て入れて頂戴」
 緊張に軽く身体を固くしながらレミリアの側へ行き珈琲を淹れる。
 レミリアは机の上で独りでチェスを打っていた。盤上では白がクイーンとキングだけだけ残しあとは黒の駒で埋まっていた。
 咲夜に言われた通り砂糖とミルクを多めに入れ、机の上に置く。
 レミリアはそれを取り軽く啜りながらチェスを打つ。珈琲の味に関しての感想はなかった。感想を聞いて見たいところではあったが、ぐっと堪えて側に控える。そのまま無言の時間が過ぎる。
「ええと……あなた何と言ったかしらね?」
「夢子、です。お嬢様」
「そう。夢子、あなたチェスは打てて?」
「人並み程度には嗜んでおります」
「充分よ。私の相手をしなさい」
 意外な申し出に一瞬戸惑う。が、怪しまれるわけにもいかない。
「承知いたしました。お嬢様」
 レミリアの対面に座り、チェスの相手をする。
 そうしてしばらく部屋にはチェスの駒の音だけが響く。
 レミリアのチェスの実力は不明であったがまさか勝つわけにもいかないので適度に手を抜く。
「夢子」
「はい。何でしょうか」
「手を抜くのは止めなさい。別にあなたが勝ったからといって誉めこそすれ怒りなどしないわ」
 見破られていた。この幼い吸血鬼は侮れない。
「失礼いたしました。ではこれから本気で行かせてもらいます」
 レミリアの実力は言うほどのものでもなかった。夢子のクイーンがレミリアのポーンをどんどん減らしていく。そして。
「チェックメイトです。お嬢様」
「あらら。夢子あなた強いのね。見直したわ」
「いえ、それほどでもありません」
「咲夜は弱いし、しょっちゅう時を止めて長考したりズルするから物足りなかったのよねぇ」
 レミリアの口から語られる咲夜の意外な一面に思わず苦笑する。
「さて、そろそろ寝るわ。咲夜を呼んで来て頂戴」
「了解いたしました。おやすみなさいませ」
 食器を片付け部屋を出ようとしたところで呼び止められる。
「夢子。あなた随分おもしろい運命を持っているのね。久々に楽しめそうだわ」
「……一体何のことでしょうか?」
 まさか正体がバレたのだろうか。魔界人であるとバレるようなミスはしていないはずだが。それに運命とは一体何のことだろうか。
「ああ、ただの戯言よ。戯言。気にしなくていいわ」
 そう言って手で出て行くように指示する。
 夢子は内心不安で押しつぶされそうになりながらも平静を保ったまま部屋を出た。
 咲夜に報告し、部屋に戻って眠りにつくまでレミリアの言葉が心にこびりついていた。



 そんなこんなで紅魔館に来て一ヶ月。幻想郷に来てニヶ月。そろそろ夢子も焦れてきた。このままズルズルと現状に甘んじているわけにはいかない。と言うわけで無理を承知で図書館への配属を申し出てみたのだが。
「図書館へねぇ。別に構わないわよ」
 あっさりと許可が下りる。
「一番人数の増減が激しいのもあそこだし、それにあなたならなんとかできるでしょ」
「はぁ……、そういうものですか」
「そういうものなのよ」
 人数の増減が激しいということはそれだけハードであるということ。その理由を夢子は図書館に来て知るのだった。
 図書館でのメイドの仕事。それは何万冊あるとも知れぬ本を毎日整理する事である。図書館の端から端へ駆けずり回り、毛玉がいれば駆除する。何よりもメイド達を消耗させるのが。
「んじゃ、今日も頂いていくぜーーーーーー!!」
 霧雨魔理沙の存在である。迎撃そのものは小悪魔かパチュリーが担当するのだが、戦闘後の片付けがメイド達の担当であり、広範囲に渡って散らかる魔道書の整理はなかなかに重労働なのであった。
 それ以前に夢子にとって魔理沙の存在は完全にイレギュラー。魔理沙とは以前霊夢他数人と魔界へ乗り込んで来た際に交戦している。もし顔を合わせようものなら正体がバレるのは確実。
 夢子としてはさっさと本を手に入れて立ち去りたいところだが、肝心の禁書棚に近づくことができない。結界もその一因ではあるのだが何より隙がない。たかがメイドに禁書棚を触らせるパチュリーではないし、禁書棚一帯は小悪魔の管轄でもある。そもそもこの図書館に出入りする魔理沙ですら知らないのだ。
 ガードはほぼ完璧と言えた。いかに防備を潜り抜けるか、思案する夢子に天啓閃く。
 少々癪ではあるが致し方ない。この際個人的感情は脇に置いておく。思い立ったが吉日。さっそく行動に移す事にした。
 その日の夜に小悪魔を尋ねる。手には自作の図書館防衛案。パチュリーのとこへは持っていかない。パチュリーが魔理沙を憎からず思っている事は図書館のメイドなら誰でも知っていることである。だからこそ魔理沙に対し消極的な防衛しか行っていないのである。
 だが小悪魔は違う。自ら管理している為か門番の美鈴に次いで防衛に積極的である。だからこそこの防衛案は小悪魔のところに持っていかなくてはならない。
「確かにこれなら魔理沙さんでも捕まえられそうですね。けど、咲夜さんやパチュリー様まで動員するのですか……」
 夢子の提案した案は図書館内で阻止するのではなく紅魔館全体を使い魔理沙を追い込むという案。メイドの配置図まできっちり作ってある。その中には咲夜やパチュリーの名前もあった。
 小悪魔とてパチュリーの気持ちは知っている。だからこそあまりパチュリーを参加させる事には消極的であった。
「言いたい事はわかります。けれどこのまま魔理沙さんに盗むという形で本を持っていかれるのも不毛です。一度痛い目に会えば次からは反省して正面から借りに来るのではないでしょうか」
 詭弁もいいところ。だが夢子は夢子の目的の為にこれを採用してもらわなければならない。
「わかりました。これはパチュリー様を通して咲夜さんに許可をもらってみます。それでいいですね?」
 後日、夢子の防衛案が通ったと小悪魔から知らされた。







 魔界の中心、万魔殿。
 いつもは明るい会話が繰り広げられる食堂は今日は静まり返っていた。
 かちゃかちゃと食器と皿のぶつかる音だけが響く。
「ねぇみんな。そんなに私のパエリア不味かった……?」
 気まずそうな顔で呟くのはルイズ。夢子から幻想郷行きを知らされて以来、万魔殿の食卓は彼女が仕切っていた。
「そ、そんなことないよ! うんこれ美味しい!」
 慌てて取り繕うサラ。
「……でも夢子の方がおいしい」
 ポツリと雰囲気をどん底に叩き落すユキ。そして再び沈黙に包まれる食堂。
「ねぇルイズちゃん。本当に夢子ちゃんが何処へ行ったか知らないの?」
「な、なんで私に聞くんですか。私が知ってるわけないじゃないですか」
 何時もマイペースなルイズが珍しく取り乱している。
 夢子が出て行って一ヶ月。さすがにルイズも心配になってきた。
 だが、ここで行き先を教えてしまうと神綺自ら幻想郷へ乗り込んで行きかねない。
 幻想郷にはあの巫女がいる。数年前に魔界をひたすら荒らして帰った極悪非道の巫女。
 また神綺をその時のような酷い目に遭わせる訳には行かない。だからこそルイズは夢子を信じて沈黙を守っている。
「夢子おねえちゃん……」
 寂しそうなユキの顔に心が痛む。
「ねぇルイズちゃん。本当に知らないの?」
 いつの間にか神綺が顔を覗き込んでいた。驚いて後ずさる。
「し、し、知りませんっ!」
「ほんとー?」
 ずずぃっと一歩踏み出してくる神綺。
「本当に知りません!」
「ほんとにほんとー?」
 いつの間にかユキ、マイ、サラまで加わっている。
 背中が壁にあたる。もう逃げ場はなかった。
 「ほんとにほんとにほんとに夢子ちゃん何処へ行ったか知らないのー?」
 ルイズはもう色々と限界であった。
 






 夢子はその日は普段どおりに起き、普段どおりに食事を作り、普段どおりに掃除をしていた。
 ここまで来てボロを出すわけにはいかない。掃除をこなしつつ幾つかの防衛用の魔道書を別の場所に仕舞って逃走ルートを確保する。この計画は魔理沙が鍵だ。
「昨日の敵は今日の友とは言うけれど。不思議な縁よねぇ」
 魔界で魔理沙と戦った時の事を思い出すと苦笑するしかなかった。
 そして、魔理沙は昼過ぎにやってきた。
 本棚の影からこっそりと図書館を飛び回る魔理沙に弾幕を放ち、禁書棚の方へ誘導をかける。
「ん? なんだここ。こっそり結界が張られているな。こういうとこにはお宝があるのがお約束ーっと」
 マスタースパーク発射。あっさりと禁書棚の結界は破られる。
「おお、これは幻の妖蛆の秘本! こっちにはネクロノミコンじゃないか! まったくパチュリーも人が悪いぜこんなの隠してるなんてよ」
 棚からひょいひょいと本を漁り5冊ほどスカートの中にしまったところで逃げ出す魔理沙。
 それを見届けた夢子はこっそりと棚へ近づく。
「あった。これが神綺様の魔道書ね。やっと見つけましたよ神綺様」
 本を懐にしまうと魔理沙を追撃する振りをして図書館の出口へ向かう。
 エントランス付近はパニックに陥っていた。
「エマージェンシー! 霧雨魔理沙は禁書棚へ向かっています!」
「えぇー! なんであそこがバレたのー!? と、とりあえず全員で迎撃! それと咲夜さんに連絡!」
 小悪魔とメイドの怒声が飛び交い図書館中の意識が魔理沙に集中する。夢子もこっそりと他のメイドに混じり魔理沙迎撃に向かう。
「夢子さん、なんだか気合入ってますね」
 隣を走るメイドから話しかけられる。
「あら……そうかしら?」
「ええ、やるぞっ! っていう感じが伝わってきます」
「……そうね。いつもいつも黒いのに奪われてばかりじゃダメじゃない?」
「そうですよね! 頑張りましょう!」
 無意識に顔に緊張が出ていたらしい。夢子にとってはここからが正念場。ケアレスミス一つ許されない。
 緩やかに走るスピードを落としていく。自分がメイドとの戦闘に巻き込まれてしまっては意味がない。正面の本棚の奥で光が瞬いたかと思うと、上空を魔理沙が通り過ぎていく。一瞬遅れて星型の弾幕。夢子に当たらなかったのは幸運か偶然か。先ほどまで会話していたメイドも直撃を受けて倒れている。奥からボロボロになった小悪魔が飛んでくる。
「小悪魔さん! 魔理沙は予定通りのルートで逃げるはずです! パチュリー様に連絡して包囲網を!」
「夢子さん!? 了解よ! 夢子さんも魔理沙を追って!」
 そういい残し小悪魔は飛び去ってゆく。
「ごめんね小悪魔さん。さてと、じゃ私も逃げましょうか」



 図書館から出て紅魔館の裏口へ向かう。館内のメイドは全て魔理沙が注意をひきつけてくれるはずだ。そうなるように防衛案を提出したのだ。
 魔理沙の進行ルートは館内のほとんどのメイドが集中するルートになっている。つまり魔理沙は囮。
 誰もいない廊下を悠々としかし急いで駆け抜ける。あの角を曲がれば裏口。紅魔館の外へ出てしまえばあとは障害は無いに等しい。が、過信のツケがそこに立っていた。
 裏口へのさして広くない廊下の中央。そこに腕を組んで立ち尽くす銀色の影ひとつ。
「おや、メイド長。こんなところで何を? 魔理沙さん迎撃にいかなくてもよろしくて?」
 咄嗟に本を懐に仕舞いこみ、内心の動揺を隠して、平静を装い話しかける。
「それはこちらのセリフね。あなたも何故魔理沙のとこへ向かわないのかしら。」
 あくまでも冷たく氷のような声の咲夜。
「いえ、面倒な腹芸はもう止めましょう。夢子、あなたの企みはとっくにバレているわ。大人しく投降しなさい」
 それを聞いて夢子の目つきが変わる。温厚な顔つきが一息で鋭くなる。
「どこから漏れたのかしら。自慢じゃないけどメイドとしては完璧だったし、魔理沙から聞いたにしては行動が早すぎる」
「あなたのミスはお嬢様に会ってしまった事。運命を見通す力の前に隠し事なんてできないわ」
 レミリアの能力である運命を操る程度の能力。レミリアは人に会うたびにそれを使っている。といっても隠された趣味やら性癖を見て独りほくそえむくらいなので無害である。だが性質の悪いことに、能力を使っていても表向きは普段通りなので側付の咲夜ですらほとんどわからない。まして新参の夢子にわかるはずもない。
「なるほど……。そんな能力があったのは盲点ですわね。ですけど、今更後には引けませんわね!」
 ナイフを3本投擲。咲夜も投擲。空中でぶつかり合い弾けるナイフ。
「夢子、あなたもナイフ使いだったのね。おもしろいわ。どちらが上か決めるには丁度良くないかしら?」
「あら、投げナイフと時間停止の能力に頼りきったメイド長が相手では勝負は見えてますわね」
 どこから取り出したのか、明らかにスローイングナイフとは違う大型のナイフを握っている夢子。
 そして、夢子の姿がぶれたかと思うと次の瞬間にはこちらに向かって駆け出している。
 咲夜は正面から突っ込んでくる夢子の肩を脚を狙ってナイフを投げる。
 蛇行してナイフを躱す夢子。だが咲夜のナイフはそれだけでは終わらない。
 かわしたはずのナイフが反転。背後から夢子を襲う。
 が、夢子はそれを無視して咲夜に接近。間合いのギリギリ外でサイドステップ。夢子を追っていたナイフはそのまま咲夜に。ナイフを打ち落とし側面からの夢子の攻撃を躱す。
 さらに連続して打ち込まれる斬撃を両手のナイフで捌く。
 超至近距離で白刃が銀弧を描き絡み合う。脇腹から心臓を狙う刺突を柄で叩き落とし頚動脈を狙うナイフをスウェーで躱す。
 上下左右正面あらゆる角度で繰り出されるナイフを受け止め、上下左右正面あらゆる角度で斬り返す。
 スペルを使う暇も、ましてや時を止める暇すらない。一瞬でも相手の動きから目を逸らせば夢子のナイフが身体を抉るだろう。なんとか間合いを取らなければ。
 腹部を狙った刺突を力任せに弾きとばすと同時にナイフが砕け散る。投擲用のナイフで近接戦用のナイフを弾いていたのだ。無理もない。
 だが、これは夢子にとっては好機でもあり隙でもあるはず。咲夜は砕けたと認識した瞬間、時を止める。
 間合いをあけ、灰色の空間の中で咲夜は新しいナイフに持ち替える。手垢で汚れた年季の入った大型のナイフ。そして夢子のまわりにナイフを配置。如何に夢子とて回避できはしまい。
「さようなら夢子。時を止めるということがどういう事か身をもって知ることね」

 ――そして時が動き出す。

 その一撃を受け止められたのはかつての自分を思い出していたからか。
 咲夜の首を狙ってきた刃と夢子。どうやってあのナイフの牢獄から抜け出したというのか。
 夢子の腹を蹴った反動でバックステップ。互いに睨み合った時だった。
「メイド長!大丈夫ですか!」
 夢子の背後、裏口とは反対側から一人のメイドが飛び出してくる。
 普通ならそれに気を引かれるのは咲夜であったろう。だが、何を思ったのか夢子の方が目を見開き振り返る。
 咲夜は知らぬ事であったが、そのメイドは夢子と同時期に入ってきたメイドであり、夢子のルームメイトでもあるカイヤであった。
 その隙を逃す咲夜ではない。時間を止めて接近。間合いに入ったところで解除。迎撃しようとする夢子だがもう遅い。咲夜のスペルが発動する。

 ――傷魂「ソウルスカルプチュア」

 数えるのも馬鹿らしい無数の高速の斬撃が夢子の身体を切り刻む。
 腕肩胸胴腰腿膝首。斬られない場所など何処にもない。
 刃の竜巻が収まり、夢子はボロボロになって崩れ落ちる。
 先ほどのメイドは未だ状況を把握できずにおろおろしている。騒がれても面倒なので状況を説明しておくか、と咲夜は近づく。だが突如として背後から回された腕が首を締め上げる。
「あなた……夢子! しぶといわね……」
 背後から咲夜の首を極めているのはさきほど倒れたはずの夢子。
 倒れていたところからは5メートルは距離があったはず。その間を気配も察知させずに移動することができるはずがない。先ほどの時間停止攻撃から脱出したのも同じ能力か。
「種明かししましょうかメイド長。私短距離ですけどテレポートすることができまして。時間が動き出してからでも対処可能でしてよ」
 夢子のテレポートは神綺から教えてもらったものだ。咲夜の時間を止めての移動もテレポートと言えるかもしれないが根本的に違うものである。咲夜では入り口がない限り時間を止めても壁を越える事はできないが、夢子の場合はそれができる。簡易的な転移魔法と言える。
 咲夜の細い首をがっしりと捕まえ締め上げる夢子。
「私としてもあのまま寝ていられたら楽なんですけど……。そういうわけには行かないので、ね」
 完全に首を極められている。時間を止めて脱出しようとするが、その度に締め上げられ脱出することができない。だが夢子とてあの傷ではそうそう保つはずがない。それまで耐え切ればいいだけ。
「甘いですわね。悪いですけどメイド長には何が何でもここでリタイアしてもらいます」
「夢子、あなた……っ!」
 咲夜と夢子の周りに展開される魔法弾。相打ちを狙うつもりはない。が、咲夜をだけを狙うのもまた不可能であった。
 そして弾幕が二人のメイドに降り注いだ。



 意識を完全に失った事を確認し縛めを解く。
 力なく床に転がる咲夜を一瞥したところでさっきのメイドの存在に気がつく。
「え、えっと……夢子さん……嘘……なんで……」
 状況を飲み込めていない彼女の思考は混乱の極致にあった。なぜ夢子とメイド長が争っているのか、そして紅魔館全体に発せられている警報。冷静に考えればおのずと答えは出るのだが、今の彼女にそれを求めるのは酷であろう。
「ごめんなさいね。今まで騙していて」
 痛みをこらえ笑いかける。一発だけ魔法弾撃つ。倒れるメイド。威力は抑えてあるので死ぬことは無いだろう。
 裏口に向かいながら傷を確認する。ナイフによる浅い裂傷は気力で無視できる。しかし咲夜のソウルスカルプチュアによる傷に幾つか深いのがある。動けないほどでないが無視できるような傷でもない。
 簡易の回復魔法をかけ応急処置。
 なんにせよ最大の障害と思われた咲夜は倒す事ができた。もう障害はほとんど残ってはいないだろう。
 そう思い、開けた裏口の先には華人小娘が佇んでいた。



 冷たく吹きすさぶ夜風の中に紅美鈴を見て夢子は萎えそうになる心を必死に奮い立たせる。
 美鈴は魔理沙の方に気を取られるか倒されているかとばかり思っていた。その美鈴がまさかこんなところで待ち構えているとは誤算もいいところ。
「魔理沙さんはパチュリー様が頑張ってくれています。夢子さん、いえ夢子が裏切ったっていうのは、咲夜さんがね……教えてくれたんですよ……!」
 裏口から後ろを振り向けば、廊下に横たわっているはずの咲夜の姿がない。最後の力を振り絞って時を止め、助けをよんだか。
 正面に向き直りナイフを構える。
「裏切ったとは心外ですわね。元からあなた達の仲間になった覚えはありませんわよ」
 正直今の状態で美鈴を相手にするのはつらい。だが今更後に引くことは出来ない。なんとしても美鈴を倒して魔界へ帰る。
 自らを奮い立たせるかの如く吼えながら突っ込む。一撃必殺を期した攻撃は美鈴の左手によって火花を散らして弾き返される。同時に打ち出された美鈴の右突きが夢子の腹部へ突き刺さる。
 数メートルの距離を吹っ飛ばされる夢子。紛れも無い本気の美鈴の一撃。殴られた所を軽く触れてみる。ぐにゅりとへこむ感覚。アバラが数本逝ったようだ。
 震える足を押さえて立ち上がる。手甲装備で刃に耐性をつけている美鈴相手にナイフでは不利。ナイフも近距離用の武器ではあるが、素手の間合いは更に狭い。更にいえば美鈴は格闘術の達人である。
 かといって素手で美鈴に格闘戦を挑む事は自殺行為に過ぎない。もっとも今の状態でもあまり変わりはしないのだが。
 足元の土を蹴り上げる。この程度では目くらましにもならない。が、その一瞬で短距離転移を行う。転移先は美鈴の背後。未だ美鈴が気付いていないことに勝利を確信を弾幕を撃とうとした瞬間。
 美鈴の裏拳によって吹き飛ばされていた。
 何故読まれた。仮に咲夜が教えていたとしても転移先を読むことは不可能なはず。予想しえない展開だった。殴られた痛みよりもそちらの衝撃のほうが響く。
「私の能力は気を使う程度の能力。転移魔法も転移先に一瞬とはいえ魔法陣を展開しますよね。ここら辺り一帯の気の流れに集中すればそれを察知することは可能なんですよ」
 美鈴が近づいてくる。転移も通用しない今、如何にして美鈴を倒すか。その時、腿のベルトに刺してあるスローイングナイフに気がつく。閃く天啓。通用するかわからないが試してみる価値はありそうだ。



 美鈴は怒っていた。咲夜を傷つけたとか色々要因はあるにせよ夢子が裏切った(あくまで美鈴からみて)という事実が最大の理由であった。
 こっそりと夢子が差し入れてくれたサンドイッチの味も覚えているし、サボっているのを見逃してくれた恩も忘れない。だからこそ美鈴は夢子を許せないのであった。
 夢子が動く。両手にはスローイングナイフが六本。無理だ。この間合いではどんなスピードで投げられようと叩き落せる自信がある。
 だが、夢子はナイフを投げずに魔弾を一斉射。それをバックステップで躱す。そして物体転移の気配。大きさからしてナイフ。そのまま空中で体勢を変え転移直後のナイフを叩き落す。
 一本。二本。三本。四本。五本。
 全て叩き落したと思った刹那、左足に激痛。左足の腿のナイフが柄まで深々と刺さっていた。
 体勢を崩して着地する。ナイフは寸分違わず足の筋神経を貫いていた。夢子に投げた気配はない。
 そもそも投げたものなら命中する前に叩き落せる。そして一つの可能性に思い至る。
「夢子……あなた……! ナイフを私の足位置にそのまま転移させたわね……っ!」
 投げて当たらないのであれば、必ず命中する場所にナイフを転移させればいい。最後の一本が本命で残りは全て囮。
 歯軋りして立ち上がろうとした美鈴の右足に再びナイフが転移。そのナイフも先ほどと同様に足の筋神経を刺し貫いていた。
 もはや歩くことすらままならぬ美鈴にトドメとばかりに両肩にもナイフが突き立つ。声にならない絶叫をあげる。
「夢子さん……どうして……」
 それが美鈴の本音。だが、夢子はそれには答えず夜空へ飛んでいく。取り残された美鈴は声を殺して泣いた。



 後味の悪さを押し殺し夢子は紅魔湖を飛ぶ。元よりあまり情を移してはいけなかったのだ。かみ締めた唇からは血が出ていた。
 咲夜や美鈴に対して思う事が無いわけではなかったが、今更別の方法はとれない。
 視界に湖岸が見えてくる。後は魔法の森を突っ切れば博麗神社だ。
 夢子の気が緩んだ瞬間。上空に魔力を感じ咄嗟に身体を捻る。一瞬前まで夢子の身体のあった位置を過ぎ行く紅い槍。
 振り仰げば、満月をバックに槍を構える幼い吸血鬼。
「逃げ切れたと思った? もう安心と思った? 残念。あなたはここで終焉よ」
「レミ……リア……」
 まさか当主自身が出張ってくるとは思ってもいなかった。絶望が夢子の体を覆う。
「あら、もう様付けで呼んでくれないのね。寂しいわ」
 放たれる一条の槍。躱す。レミリアに向かって飛ぶ。例え勝てる確率は皆無であろうとも、諦めるわけにはいかない。
「そう、そうよ。最後の灯火。激しく燃え上がる一瞬を見せて頂戴!」

 ――魔符「全世界ナイトメア」

 この世の全てを紅く染めんとばかりに朱色の弾幕が辺り一面に荒れ狂う。
 夢子は弾幕の流れに逆らわず流れるままに移動する。だが、勢いが思う以上に激しく中々レミリアに近づくことが出来ない。逡巡している間にも幾つかの弾幕が身体を掠めていく。もうメイド服は
 ボロボロで襤褸切れも同然。迷っている時間は無い。
 残った最後の魔力を振り絞り転移を実行する。目指すはレミリアの正面。
 転移と同時に斬りかかる。レミリアも爪で応戦。だが吸血鬼の運動能力に勝てるはずもなく。あっさりと指二本で白羽取りされてしまう。
「あらら、これでチェックメイト?」
「……いえ、まだ切り札はありまして」
 ナイフの柄に隠された鉤を引く。軽い爆発音と共にナイフの刃が撃ち出されレミリアの右目に突き刺さる。今でいうスペツナズナイフと同じギミックである。
 夢子最後の切り札。使ってしまえばナイフを失うので最後の最後にしか使えない。
 吸血鬼たるレミリアに対して有効な手段だとは思っていない。だが、再生に手間取る間に少しでも距離を稼ぐ。魔界まで逃げ込めばこちらの勝ちだ。
「あははははははははははは!!!」
 背後からぶつけられる暴力的な殺気。同時に首を掴まれ締め上げられる。
「その傷で私に手傷を負わせたのは誉めてあげる。だけど残念ね。吸血鬼に脳は無いのよ。だから再生にも手間取らない」
 ぎりりを細腕が頚骨を締め上げる。転移する魔力ももう残っていない。
 薄れ行く意識の中、思い出すのは神綺の顔。
 (神綺様、すみません……)



「あんまりうちの夢子を苛めないでもらえるかしら」
 上空からの懐かしい声に力を振り絞り仰ぎ見る。6枚の羽を展開し、赤い服をたなびかせ、魔界神神綺がそこにいた。
「やっと出てきたわね。出てくるように運命を弄ったのだからもっと早く出て来なさいよ」
「こちらにも都合があってねぇ。ま、吸血鬼如きのいう事なんて素直に聞くのもバカらしいし」
 神綺の挑発的な言葉にレミリアの眉が吊りあがる。
「その言葉、すぐに後悔させてあげる!」
 掴んでいた夢子を投げ捨てる。投げ飛ばされた夢子。だが誰かに受け止められる。
「もう夢子ちゃんったら。夕飯までには帰るように言ったでしょ?」
 鍔の大きな白い帽子に細い目で優しく微笑むその姿は。
「ルイズ……! あれほど神綺様には教えないでって……」
「だって夢子ちゃん一ヶ月も音沙汰ないんだもの。さすがに隠し通せなくなってバレちゃった」
「まったく……もう」
 だが夢子は嬉しかった。この一ヶ月独りで過ごしてきたのだ。寂しくなかったはずがない。
「よしよし、後は神綺様に任せなさい」
 ルイズは夢子の頭を優しくなでてやった。


 レミリアの爪が神綺を鱠切りにする。だが、その神綺は血も何も流さずバラバラになる。
「人形、変わり身か……?」
「ま、そんなところかしら」
 いつの間にかレミリアの周りを7人の神綺が取り囲んでいる。
「人形でも間違いじゃないんだけど」
「厳密にはちょっと違うんだけど」
 7人の神綺達が一斉に喋り始める。その様子は非常に不気味なものであった。
「空気中には色々な物が混じっていてね」
「酸素、窒素、水分等々。それと」
「魔力」
「それらを結合変化精製して作り上げた簡易的な生命体ってとこかしら」
 レミリアは頭を掻き毟る。そんな理屈はどうでもよかった。こうも周りから同じ声が聞こえてくるのが非常に癪に障る。
 予備動作無しでスターオブダビデ発動。一体を粉砕。。
 残った神綺は一箇所に集まり陣形を組み始める。そうはさせじと連射。更に2体を屠る。
「さぁ通常の4倍の弾幕。受けられるかしら」
 神綺達は魔力を集中させ、レミリアはスピア・ザ・グングニル発動。
 まさに一瞬触発で睨みあう両者。互いの攻撃が放たれようとしたその時。

「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁ!!」

 両者の間に貼られる結界。そして博麗霊夢が現れる。
「あんた達、それ以上やるっていうなら私が相手になるわよ?」
 見るからに不機嫌そうな顔と態度で威嚇してくる霊夢。
 突如現れた霊夢に驚きを隠せないレミリアと夢子。
「ルイズちゃん、ごめーん。ちょっと遅くなったー」
 霊夢に遅れて、サラが夢子の側までやってくる。
「まったく、巫女を呼んでくるだけなのに何を手間取ってるのよ」
「だって、あの巫女タダじゃ動かないとかいうんだもん。食料分けてあげるっていってやっと動いてくれたんだからー」
 どうやら霊夢を呼んできたのはサラらしい。
 聞けば、紅魔館の当主は強いという情報から面倒を避ける為にあえて霊夢に仲介を依頼したという。
「あの巫女に頭下げるのは癪だったんだけどね。頭下げるくらいで夢子ちゃんが助かるならって、神綺様がね?」
 しばらく神綺様を始めルイズ達には頭が上がりそうにない。



「霊夢どいて。紅魔館がどれだけ被害を被ったかわかってる?」
「それを言うならこっちは大切な夢子ちゃんを殺されかかったのだけれど……?」
 攻撃はやんでも互いに口撃は止まらない。
 そんな二人に霊夢が切れる。
「黙れって言ってんでしょうがぁあああ! レミリア! あんたはわかってないかもしれないけど、この魔界神に本気出されると幻想郷がやばいのよ! あんたもよ魔界神! レミリアが能力全開にしたらどうなるかくらい想像つくでしょ!! それと安眠妨害された私の気持ちにもなれ!!」
 一息で言い切ってぜいぜいと息をつく霊夢。その迫力に押され、神綺もレミリアも無言。
 その沈黙を破ったのは神綺だった。
「わかったわ。ここは手打ちと行きましょう。夢子ちゃん、本を。」
 夢子から本を受け取ると神綺は本の後半部分をビリビリと破る。そして残った部分は蒼い炎に包まれ消えうせる。
「これでそもそもの元凶は無くなったわ。私が必要だったのはこの後半部分だし」
 破ったページを大事に懐に仕舞いこむ。
「さて、そちらからの要求は無いかしら。なんだかんだでそっちの方が被害甚大みたいだし……。
 夢子ちゃんの命とかそういうのでなければ可能な限り都合つけるけど?」
 興奮もすっかり冷め、レミリアは顎に手をやり考える。
 神綺とやり合ってみたかったのは自分ひとりの我侭。咲夜とかはその我侭に付き合ったから怪我を負ったようなものだ。館そのものは魔理沙が暴れた程度で、それはいつもとなんら変わりない。
 そして魔道書も元々は向こうの物だった。つまるところ物的損失はゼロ。後はレミリアの心理的な問題なのだが霊夢の乱入ですっかり冷めてしまった。かといってここで何も要求しないのは逆に礼を失することになる。
 そうして考えた末、レミリアの出した提案。
「そうね、じゃこういうのはどうかしら?」







 魔界への帰路。夢子はルイズに支えられながら飛んでいた。
「まったくもー。夢子ちゃんはちょっと勝手しすぎね。罰としてトイレ掃除ね」
 一ヶ月も留守にしたあげく、神綺の手を煩わせたにも関わらずこの程度の罰で済むのは、主従というよりは家族に近い形態の魔界ならではとしかいいようがない。
「わかりました。謹んでトイレ掃除させてもらいます」
 苦笑しつつ答える。やっと帰ってこれたという安堵で自然に笑みがこぼれる。
「そういえば神綺様。あの本は結局何が書かれていたんですか?」
 ルイズが疑問を漏らす。それには夢子も興味があった。神綺様が相当な執着をみせたあの本には何が書かれていたのだろう。
「え、えーとね。うん。人工生命の作り方なんだけどね、うん。それだけよ?」
 あやしい。明らかに挙動不振で答える神綺に疑惑の目を向ける二人。
「神綺様、すいませんが……」
 そういってルイズが神綺を後ろから羽交い絞め、夢子が懐に手をいれ先ほど破り取ったページを取り出す。
「ああっそれはー!」
 叫ぶ神綺を無視し、ページをめくってみる。

 ◎月×日
 アリスが立った。この子はいままでの子とは違う方法で育成したので不安だったのだけど、立って歩く姿を見ただけで嬉しくなってしまう。
 金髪黄眼で私の若い頃そっくり。私の髪は今じゃすっかりこんな色になってしまったけどこの子はきっと美人に育つわ!


 △月□日
 アリスが人形に興味を示す。蛙の子は蛙なのかしら。立派な人形遣いになって欲しい。お祝いに私がむかーしむかしに使っていた仏蘭西人形をプレゼントしてあげる。
 ものすごく喜んでくれて嬉しい。でも、アリスには私と同じ道に進んで欲しくないなとも思う。でも、あんな明るい子だから友達なんて一杯できるわね。


 どのページを見てもアリスアリスアリス。アリス一色であった。
「神綺様、これは……」
「……そう、アリスちゃんの育児日記よぅ」
 神綺がアリスを魔界人の中でも一番溺愛しているのは誰もが知っている事実である。
 夢子は何だか罪悪感を覚え、それをそっと神綺の懐に戻す。
「すいません神綺様。勝手に見てしまって……」
「いいのよ別に。ついついあまったページに書いちゃった私も悪いんだし。それにね……」
 ルイズと夢子、二人の頭を抱きしめる。
「アリスちゃんだけじゃないわ。あなた達もちゃんと愛しているわ」
「……」
「……」
 二人に言葉はない。むしろ言葉は不要であった。
 どれだけそうしていたろうか、神綺が二人から離れる。
「さ、そろそろ帰りましょう。みんな待ってるわ。それに久しぶりに夢子ちゃんのパエリアが食べたいな」
 目尻に浮かんだ水分を拭いて笑顔で答える。
「はい! 帰りましょう。神綺様の好きなホタテをたっぷりいれてあげますよ」







 昼下がりの紅魔館。
 今日も美鈴は門番をしている。しかし体中に包帯が巻かれ見ていて痛々しい。
 なんとか歩けるようにはなったものの激しい運動はまだできない。
「私はまだいいけど咲夜さんはまだ動けないんだもんなぁ」
 一番重傷であった咲夜はまだ充分に動くことができていない。おかげで館内の仕事が滞り紅魔館はてんやわんやになっている。
 今日も私が食事当番かなぁ、などと考え憂鬱になる。へこんで地面にのの字を書いてる美鈴に声がかかる。
「すいません。紅魔館に研修にきたんですけど取り次いでもらえますか?」
 振り向いた美鈴の顔が晴れやかに変わる。
 そこにたっていたのは豪奢な金髪と赤いメイド服を着込んだ女性。
「夢子さんですね。レミリア様から話は聞いています。どうぞお通りください」
 自ら門を開き紅魔館へ招き入れる。
「仕事がやまほどありますから覚悟してくださいね」
「ええ、望むところですわ」


 レミリアが神綺に要求した提案。それは。
「咲夜や他のメイドが完治するまで夢子を紅魔館で働かせること」
 であった。




というわけおよそで一月振りでございます。新角です。
とうとう旧作結界に引き込まれてしまいました。
主役は夢子です。
咲夜と夢子の新旧ナイフメイド対決等見所満載です。
旧作を知らない人も楽しんでいただけたら幸いです。

ではまた近い内にお会いしましょう。

新角
[email protected]
http://d.hatena.ne.jp/newhorn/
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コメント



0.4510簡易評価
2.80翔菜削除
ういー、熱かったぁ。
みんなかっこよかったです、こんな話は大好き。

で、誤字っぽいものを。
>咲夜にかかればお嬢様に使えるのに覚悟が足りないとなってしまう。
使える→仕える。 ではないかとー。
3.90名前が無い程度の能力削除
こういう熱い話は非常にツボです
ご馳走様でしたっ
4.100アティラリ削除
自分からも誤字っつーかおかしい点を

>何時もマイペースな夢子が珍しく取り乱している。

ここの夢子の所はルイズさんが入るのではないかな?と
9.90名前が無い程度の能力削除
簡易生命体擬似神綺・・・・・・
っだめだ、たくましいのしか思い浮かんでこない。
これが一斉に喋ったらそれはさぞ気味悪いですね。

それはそうと旧作ものおみごとです。
魔界の話がこれからもっと増えるとうれしいですね。
30.100nanashi削除
旧作との絡みは大好物です。
夢子ちゃんの強さに惚れ惚れしました
34.90雪儚削除
とてもよかったです・・・。対咲夜戦での、策vs力みたいなノリとかもう呼んでてニヤニヤしましたw

それで私も誤字を一つ。

 >パチュリーが軽く読み内容次第で収納する書架を支持し

これ、『指示し』の間違いじゃないでしょうか。
39.90駄文を書き連ねる程度の能力削除
とても素晴らしいです。
今を輝く完璧メイドと旧作キャラをぶつけて、
しかし両方をしっかりと輝かせた絶妙なバランスも評価。
そして非常に丁寧な文体が、とても読みやすかったです。
良いお話をありがとうございました。
45.80おやつ削除
神可愛いよ髪!(挨拶
夢子ちゃんもいいですねー
そういえば、確かに咲夜さんとは反対かぁ……
赤いメイド服に近接戦闘。
紅魔館の実力者との三連戦はマジ燃えました。
46.90名前が無い程度の能力削除
さっすが夢子ちゃん!魔界のリーダー!
50.80名前が無い程度の能力削除
旧作は未プレイですが楽しく読めました。
あと気になったところを。

>>基本的に素手の美鈴相手にナイフでは不利。
これは普通素手の方が不利なのではないかと
51.100|||削除
かっこええ・・・
旧作大事にしてくれる人大好き!物語としても精錬されていてとても最高でした。
しかし神の攻撃がフォーオブカインドなのは何か深い意味があるんでしょうか。
あとナイフ転移最凶杉w

>>>基本的に素手の美鈴相手にナイフでは不利。
>これは普通素手の方が不利なのではないかと

これの個人的解釈ですが・・・
美鈴も夢子も接近型、拳法家として完成している美鈴の素手攻撃はナイフにも劣らない威力をもつ。ならばナイフ(両手)と素手(両手両足)の戦いにおいては、手数の関係で不利、という事なんじゃないかと思います。
52.100名前が無い程度の能力削除
次々と押し寄せる強敵に次ぐ強敵。
しかし一歩も引かない夢子の強さが心地よい。
バトル物と言ってしまえば一言ですが、
皆が暖かく、とっても深くて素敵なSSでした。GJ!
61.90とらねこ削除
 なんだかんだ言って、最後は丸く収まる幻想郷いいですね。夢子強すぎ。
86.100時空や空間を翔る程度の能力削除
旧作を知らない私ですけど
十分に楽しんで読みました。

この事件をきっかけに紅魔館と魔界の間に
良い関係が結ばれるように。
94.90名前が無い程度の能力削除
夢子さん主人公とは珍しい。
普通に面白かったですー。