Coolier - 新生・東方創想話

幻視力発電(下)

2006/04/28 05:31:59
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*このお話は、「幻視力発電(上)」の続編となっております。



~ここまでの あらすじ~



「妄想特急、発進!」



~あらすじ ここまで~






「装置にエネルギーが集まり始めたわね。思ったより早いわ……パチュリー、いったい何を読ませたの?」

集積装置のメーターを見つつアリスが尋ねた。
まさか「おまえのひみつを しっている」的なテイストに出歯亀行為の結果と嘘八百をブレンドしたとも言えず、パチュリーは

「まあ、術式を活性化させるプログラムみたいなものよ。もちろん、個人によって少し差はあるけれどね」

などと答えておいた。ナイスその場しのぎ。賢いって罪ね!
二人の横では、美鈴が周囲の気を調整して幻視力の流れを滑らかにしている。

「うーん、今までに感じたことのない種類の気ですね。妙なことにならなければ良いけど……」

美鈴は前回の実験で最も被害を受けた立場だけに、どうにも気が乗らないようだ。
流石に空の彼方に吹き飛ばされることは無いだろうが、何が起きるか分からないのが幻想郷の日常である。

と、装置の周囲に配置されている端末を見張っていた蓬莱人形がアリスの傍までやってきて腕をつついた。

「ん? 何かしら」

様子を見てみると、六つある端末のうち一つが淡い光を放っている。

「この端末は……霊夢の指輪に繋がっているものね」

淡い光は次第にはっきりとした輪郭を持ち始めたが、なぜかやたらとドス黒いイメージである。
美鈴は心配そうにそれを見つめた。

「気の流れも滑らかだし、とくに異常はないはずなのに……。もしかして故障?」
「いえ、大丈夫よ。正常に稼動しているわ」

自信ありげにパチュリーが答える。

「これは様々な願望、欲望が混ざりあった色。みんな順調に幻視してくれているみたいね」






装置の動きが比較的安定したものになってきたので、パチュリーたちは幻視に励む協力者たちの様子を見に行くことにした。
端末のそばにはアリスの人形を残してきたので、何かあったらすぐに知らせてくれるだろう。

「では早速、霊夢の様子から見ることにしましょう」

どこかうきうきとした様子で、パチュリーは霊夢の部屋のドアノブに手をかけた。

「覗いたりして大丈夫? 私たちのせいで幻視が妨げられたりしないかしら」
「そこは安心して。個室には感覚遮断系の術をかけてあるから、よほど目立つことをしない限り気付かれないはずよ」
「……用意周到なのね」
「覗きにおいて重要なのは下準備、そして逃走経路の確保よ。ぶっつけ本番はやらない主義なの」

やけに活き活きと返すパチュリーを見て、アリスは確信した。
この女、プロだ……!!

さて、パチュリーはドアを開けて。
――――アリスが素早く閉めた。

「い、今のはいったい…………」
額に汗しながら、ぽつりと零す美鈴。

「ちょっと、霊夢泣いてたわよ!?」
とんでもないものを見てしまった、という表情をするアリス。

「とても興味深い現場を押さえたわね。じっくり見てみましょう」
パチュリーはやけに楽しそうである。



遠慮がちに開いたドアの隙間から、中にいる霊夢の様子を窺う三人。
背の高い順に、上から美鈴・アリス・パチュリーの顔という珍妙なトーテムポール状態になっている。

部屋の中の霊夢は、置かれた椅子に腰掛けることもなくぼんやりと突っ立っている。
どこか遠い場所を見つめるような空ろな眼差しで、しかもぽろぽろと涙を零しているではないか。

(霊夢も泣いたりするんだな……私たちの前では、そんな素振り見せないのに)

なにか悲しいことでも思い出したのだろうか。しんみりとした表情で見つめるアリスの前で、霊夢はうわごとの様に呟いた。


「五百円玉、イイ……」


(――はぁ!?)

儚げな表情に全くそぐわない、俗世の権化のような言葉を吐く霊夢に、アリスと美鈴は首をかしげた。


「古い十円玉のギザギザはぁはぁ」


(えっ、ちょっと何? 何を言ってるの?)
(さあ、私にはさっぱり)

戸惑いつつもアイコンタクトを交わすアリスと美鈴。


「あなたが落としたのは金に輝く五円玉ですか? それとも、銀に輝く一円玉ですか?
     ――――いえ、そのどちらでもありません。私が落としたのは、銅でできた十円玉です。

 そうですか、よろしい。正直な貴女には、この福沢諭吉をあげましょう。
     ――――うわーい(棒読み)」


ついには身振り手振りを交えた一人芝居まで始めた。それに話の展開がおかしい。
何を考えているのかさっぱり把握できないが、どうも先ほどからお金の話しかしていないのが気になる。

ふっと表情を緩めたパチュリーは、傍らで戸惑う二人をよそに小声で呟いた。

「計画通り……」

ドアを閉める直前、「じゃあ次は16ペソで」という呟きが聞こえた。
赤貧巫女の欲望は、ついに博麗大結界や国境をも飛び越えてしまったらしい。

エネルギー集積装置に、早速8903.5の幻視力が蓄積された。滑り出しは好調である。






パチュリーは満足げに霊夢の部屋のドアを閉めると、魔理沙とレミリアの部屋へと視線を移した。

「ここは個人的に注目している組み合わせなの。上手く行けば、かなりのエネルギー増加が見込めるわ」
「そういえば、ここの部屋だけ二人一緒ですね。何か理由があるんですか?」
「それは見てのお楽しみ、かしらね。予想通りになっていてくれると良いけど」

美鈴の質問に答えつつ、そっとドアノブを捻ると――――


「良いんだぜ、恥ずかしがらなくたって。これからもっと凄いことするんだからな」

甘い声で囁きながら、魔理沙が折りたたんだ椅子を抱きしめて撫で回していた。

パチュリー失笑。残る二人は硬直。


「ああ……凄いわ、霊夢の夢想妙珠。わ、私もう我慢できないっ! アソコのスターオブダビデがバッドレディスクランブルしちゃうっ!」

レミリアは床の上で不気味に悶えながら、未知の軟体生物のような動きを繰り返している。
館の主の、小指の先ほどもカリスマの無い挙動を目にした美鈴は床に崩れ落ちた。
ああ、普段のお嬢様はどこへ。


「狙い通りだったわ……きっと、かなりの幻視力が発生しているはず」

パチュリーは振り返って集積装置と端末を見つめる。先ほどよりも明確に、ドス黒いオーラが蓄積されていくのが見て取れた。

「ね、ねえパチュリー……これは一体……」
「そうです、二人とも変ですよ。危ない薬をキメているようにしか見えません」

案ずるな、というように微笑むとパチュリーはさらっと言ってのけた。

「大丈夫、二人は今とても幸せな気分のはずよ。だって、大好きなれいm(文々。新聞 定期購読のご案内です!)と、
 くんずほぐれt(八意製薬は、幻想郷の健やかな暮らしを支えます)しているところを幻視しているんだから」

ちょうど問題の箇所に放送が被ってうまく聞き取れなかったが、アリスと美鈴は概ね内容を理解したようだ。
微妙に隠しきれていなかったため、嫌でも分かってしまったようである。

「パチュリー、恐ろしい子……!!」
「エ、エロいですよパチュリー様!」

顔を赤くしてあたふたする二人を見て、パチュリーはニヒルな笑みを浮かべた。

「ふふふ、分かってくれたみたいね。これぞ幻視力発電試作型の要、“妄想ツインターボエンジン”よ!!」

びしっ、と指差すポーズとともに言い放つパチュリー。威張って言うような内容ではない。

やけに活き活きとしてるな、おい。あんた病弱なんじゃなかったのか。
顔を見合わせ、ふと心中でそんな突っ込みをした二人の後ろで

「霊夢はぁはぁはぁはぁ…………うッ!!」

床の上で身悶えていたレミリアが椅子のカドに頭をぶつけ、痙攣してから動かなくなった。
魔理沙は未だなにか妄言を囁きかけながら、椅子の足を撫で回している。手首の微妙なスナップが実にアダルティーだ。

「霊夢のあんよ……おぴぴ@詩dgぃうdぐぇgふぃうf儀うg……ああ、済まない。少し取り乱してしまったぜ。
 じゃあ、先に風呂に入ってこいよ」

――――“妄想ツインターボエンジン”のフル稼働により、エネルギー集積装置には一気に89006もの幻視力が蓄積された。
集積装置の中心部は、不気味な光を湛えている。
それを見た上海人形と蓬莱人形は、微かに首をかしげた。






「だいぶ急激に幻視力が流れ込んでいるみたいね。ちょっと再調整したほうが良いんじゃないかしら」

人形たちからの知らせを受けたアリスの提案で、パチュリーは念のために集積装置の再チェックをすることにした。
アリスは各端末を再点検し、電球などの様子も見るという。

「気の流れは今のところ文句なしね。私たちはちょっと装置の点検をするから、美鈴は先に咲夜の様子を見てくれないかしら」
「よろしくね」

二人の言葉に了解ですー、と返し、美鈴は先に咲夜の部屋を見ることにした。
今までの三人の様子からして、咲夜もまた何らかの妄想をしているのだろう。
やっぱりお嬢様絡みかなあ、などと考える。咲夜がレミリアにぞっこんなのは、紅魔館の住人全員が知るところだ。

(さっきのお嬢様みたいに、頭のネジが外れてなければ良いんだけど……)

念のために気配を希薄にしてから、美鈴はドアノブをゆっくりと回した。

――――いきなり咲夜と目が合った。

(あっ、やばっ――――)

そう思った次の刹那には、彼女は既に美鈴の懐に入り込んでいた。

(妄想中なのに抜け目ない……時間を止めて接近したのね!)

反射的に距離を開けようとする美鈴。
と、咲夜は美鈴の腕をがっしと掴み、いきなりこう言った。


「お嬢様、こんなに背も高くなられて……ほんとにステキですわ」


ポカーンとする美鈴。お嬢様? えーっと……

「ちょ、ちょっと咲夜さん、人違いです。どうしちゃったんですか? 私は美鈴ですよ」

小声でそう言っては見たが、トロンした瞳のまま咲夜はこう続けた。

「本当にご立派になられました……たとえばココとかも!」

そう言うやいなや、にへらーとした笑いを浮かべたまま咲夜は美鈴の胸を鷲掴みにした。

「い、いやいやいやいや咲夜さん何するんですかっ!」

むにむにむにむに。

「人違いですってば、一体何が……あっ」

美鈴はふと思い当たった。幻視しすぎて、視界に入るもの皆お嬢様状態になっているのでは!
……どんだけ妄想してんだ。

「私にとってお嬢様は世界そのもの。いまや視界に映る全てがお嬢様であり、世界=お嬢様+お嬢様=世界=私なのよ」

いや、そのりくつはおかしい。

「ないすばでーお嬢様グッジョブ!! 激しく性欲をもてあます!!」

むにむにむにむにむにむにむにむに。

咲夜の瞳は劣情によって血走り、普段の凛とした佇まいの欠片もない。
普段は本当に良い人なのに……。

「さ、咲夜さん正気に戻って……もう実験とかはいいですから、いつもの咲夜さんに戻ってください!」
「私はいつだって正気ですわ。未来永劫お嬢様に仕え、仕え、つかえええええっうぎっぎぎぎ! 吸ってッ! 私の血を吸ってえええええ!!」

――――咲夜さんはいつでもしっかり者、紅魔館の頼れる女。そんな風に考えていた時期が私にもありました。

むにむにむにむにむにむにむにむにむにむにむにむに。

エネルギー集積装置に、問答無用の1341398幻視力がブチ込まれた。






それから数分後。装置の再調整を終えたパチュリーとアリスの元に、疲れ果てた表情の美鈴が戻ってきた。

「あっ、門番さんお疲れ様。今までとは桁違いの幻視力が流れ込んできたけど、メイド長はどんな感じだったの?」

そう尋ねたアリスに、慄然とした表情で美鈴はまくしたてた。

「次のドアを開ける前に言っておくわ! 私は今、咲夜さんの極意をほんのちょっぴりだけど体験したの。
 い……いえ……体験したというよりはまったく理解を超えていたんだけど……。

 あ……ありのまま、いま起こった事を話すわ!

『私はドアを開けたと思ったらいつのまにか胸を揉まれていた』

 な……何を言ってるのか分からないと思うけど、私も何をされたのか分からなかった……。
 頭がどうにかなりそうだった……。

 幻符だとか時符だとか、そんなチャチなものじゃあ断じてない。
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……」

首脳陣のうち二人は色ボケ、そしてもう一人は無自覚ながらも覗きが大好き。
紅魔館の将来は、非常に不安なものだと言わざるを得ない。







気を取り直して、再び三人は幻視者たちの様子を見ることにした。残るは輝夜と妹紅である。

「不死者の幻視なんて、なかなか拝めるものじゃないわ。後学のためにもバッチリ見ておかないとね」

博覧強記の魔女改め紅魔館のパパラッチ、パチュリーはいそいそとドアノブに手をかけた。
月の姫君はどんな幻を視ているのだろうか? ドアを開けると――


輝夜は乱れた着物に気を止めることもなく、ヒンズースクワットをしながら延々と独り言を呟いていた。

「許さないわよ妹紅……この私の心をかき乱すなんて。ちょっと初々しい気分だけど、うぬを斃すのはこの拳をおいてのみ!
 とりあえず殺しておくけどどうやったら距離を縮められるのかしら畜生ッ! 悲しくて御免なさい!
 そう、その目よ。あなたのそういう表情がゾクゾクするくらい好きなの……ハッハァー! 我が世の春が来た!」

固唾を呑んで見つめるパチュリーの前で(あとの二人は所在無さげな感じである)、輝夜のアクションは反復横飛びへと移行した。

「カバディカバディカバディカバディ……そう、そこよ妹紅。うまいっ! まさしく世界レベルのカバディカバディカバディカバディあふん」

「え、えーっと……なんて言うか、個性的な方ですね!」

精一杯のフォローをしようと思ったのか、美鈴はぎこちない笑みを浮かべながらそう言った。
周りが規格外な奴らばかりだから、その中で「普通」で居続けるのはさぞかし辛かろう。美鈴、強く生きてくれ。

輝夜の反復横飛びは次第にスピードアップしていく。
さほど広くない個室のために肘や足がガンガン壁に当たっているが、彼女は全く気にするそぶりを見せない。

「妹紅、今日はちょっと話があって……そ、そんなに警戒しないで。別に良からぬことを企んでるわけではないの。
 今まで気恥ずかしくて言えなかったけど、私、じつは貴女のことが好――――ひっかかったわね! ホキャアッ! 永劫の時をかけて研ぎ澄まされた
 月面の拳、うぬに見切れる道理など無し! 夜の帳にその身を浸し、我が拳の糧となれ。死ねぃ!! 
 …………あっ、冗談、冗談よ。なんて言うかその、緊張しちゃって……あっ、怒らないで御免なさい。
 今までこんな気持ちになったことが無かったから、どうして良いのか分からなくて……病気じゃないかって思ったから、永琳にも相談したの。
 そしたら永琳ったら、“姫、それはいかなる薬を用いても治せるものではございません。それは恋煩いというものなのですよ”だって!
 やだっ! 恥ずかしい! えっ、だから何なのよって? 妹紅もいぢわるなんだから……でも、そういう所も嫌いじゃないわ。
 わ、私は妹紅のことなら誰よりも知ってる自信があるわ。だって、ずっとずっと殺し愛をしてきた仲だもの。
 貴女のカッコいいところも恥ずかしいところも、肋骨がへし折れた瞬間に上げる苦しげな喘ぎも、みんな知ってるわ。喘ぎだって。エロっ!
 だから……えっ、早く結論を言えって? そんな妹紅、女の子の口からこれ以上言わせる気? そんなご無体な!」

激しすぎる動きに付いて行けず、もつれた足が着物の裾を踏んでしまったらしい。
派手に一回転すると、輝夜は椅子に雪崩れかかるようにしてすっ転んだ。それでもなお彼女はもぞもぞと蠢いている。

「妹紅、今日はちょっと話があって……そ、そんなに警戒しないで。別に良からぬことを企んでるわけではないの。
 今まで気恥ずかしくて言えなかったけど、私、じつは貴女のことが好――――ひっかかったわね! ホキャアッ! 永劫の時をかけて研ぎ澄まされた
 月面の拳、うぬに見切れる道理など無し! 夜の帳にその身を浸し、我が拳の糧となr」

しかも会話がループしているではないか。恐るべし月人、宇宙人の妄想はパチュリーたちの予想の斜め上を行くものであった。

アリスはそんな輝夜の痴態をどこか悟りきったような表情で見つめると、悲しげに微笑みながら静かにドアを閉めた。
くじけるなアリス。実験はもう少しで終わりだ。……たぶん。

未来永劫の時を越える妄想の力で、エネルギー集積装置に∞幻視力(測定不能)がブチ込まれた。
装置が微妙に奇妙な軋みを上げているように思える。
ますます首をかしげる上海人形と蓬莱人形の横で、電球がチカチカと瞬き始めた。






「さあ、これでラストね」

どこか疲れた表情で、アリスは妹紅の部屋の前に立った。

「もう相当な量の幻視力が蓄積されているはずよ。これで彼女の一押しがあれば完璧ね。電球くらい余裕で点くはずよ」

パチュリーわくわく。公然と覗きが出来るのが嬉しくてたまらないようだ。

「この部屋からは特に攻撃的な気の流れを感じます。きっとたくさんの幻視力が発生していますよ」

美鈴も「もう帰りたいなあ」と思いつつも真面目に実験に付き合っている。

パチュリーは最後の幻視者、妹紅の部屋のドアを開けた――――


妹紅は不要なまでに良い姿勢で椅子に腰掛け、やたらと熱く燃えた瞳で虚空を睨んでいた。

「?」

頭上に疑問符を浮かべる三人。
そんな彼女らの前で、妹紅は重々しく口を開いた。

「弱P→弱P→中K→強P一段目でキャンセル→鳳翼天翔→めくりジャンプ強K→足払い一段目でキャンセル→ダウン追い討ち」

はて、何の呪文だろうか。首をかしげたパチュリーの前で、妹紅は難しそうな表情で呟いた。

「……どうも今ひとつ押しに欠けるわね。足払いよりもコマ投げに繋いだほうが良いかな」

華麗な即死コンボへの道は険しい。

「じゃあ、竹林端始動限定コンボなんてどうかな。私が竹林の端に背を向けた状態であると仮定して……
 しゃがみ弱P→しゃがみ弱K→しゃがみ強K一段目でキャンセル→月のいはかさの呪い→パゼストバイフェニックス。
 まあまあ悪くないけど、ちょっと地味だなあ……」

今までの面々のイカレた幻視に比べると、激しく地味だ。

「バックステップ中に素早く頭骨割り→ここで無の境地発動!」

なにげに別の作品が混ざっている。

「抵抗できない輝夜に強P→ザンギュラのスーパーウリアッ上。ここでインド人を右に!」

ガタン! と椅子を揺らして妹紅は立ち上がった。
彼女もいつまでも普通なままではいられなかったらしい。

「フジヤマヴォルケイノ! フジヤマヴォルケイノ!」

奇声を発しながらシャドーボクシングを始める妹紅。

「インペリ! インペリ! インペリシャブルシューティングっ! インペリシャブル……シャブル……うわ、エロっ!
 骨の髄まで輝夜をしゃぶる! ヒョウッ!」

盛り上がってきたようだ。あ、椅子を蹴倒した。

(そんな……この人なら最後まで真面目に幻視してくれると思ったのに! なんだろう、この裏切られたような気持ち)

美鈴は悲しげな表情を浮かべつつそう思い――弾かれたように顔を上げた。

「いけない、これは!」






――――ぱしん。

そんな小さな音をきっかけにして、混沌の地獄絵図は唐突に幕を開けた。






何やら慌てた様子で飛んできた人形たちの様子を見て、アリスはハッとしたように集積装置を見やった。
今、なにか音が聞こえたような……?
美鈴もひどく慌てているが、どうしたんだろう。

アリスの視線が、吹っ飛んで砕け散った電球をとらえた。

「あっ!」

覗きを黙々と続行しているパチュリーの肩を慌てて揺さぶる。

「たしかにシャブルってエロいわね……ん? どうしたのアリス」
「大変よ! 集積装置が…………」
「パチュリー様、幻視力がすごい勢いで臨界値を突破しました!」

二人の言葉に、「シャブル」で埋め尽くされていた彼女の脳が活動を再開した。
ふと集積装置を見てみる。


装置はドス黒いオーラに包まれ、ときおり紫電を放っている。
ガガだのジジジだの、何やら物騒な音まで聞こえてくるではないか。


「――――あ、なんかやばそうね」


パチュリーは呑気にそう言った。

「やばそうじゃなくて明らかにやばいわよ! 早くエネルギーを鎮めなきゃ」
「駄目だわ、気の流れでも抑えきれない……欲望の力が強すぎます!」
「な、なにか安全装置みたいなもの作ってなかったかしら。それを起動させて早く沈静化させましょう。このままじゃ危険だわ!」

必死にまくし立てる二人に押されるようにして、パチュリーは装置に歩み寄った。
もしもの時のために、安全装置をつけておいたのよね。頭脳派魔法使いの合作にぬかりは無いわ!
まあ何とかなるだろう、と装置の裏側を覗き込んだ彼女だったが、

「そうそう、ここに安全装置が……って、あら?」

どう見ても安全装置まで吹き飛んでいます。本当にありがとうございました。


三人は硬直した。


「は、早くなんとかしないと……もうどうしようも無いわ。スキマに捨ててもらいましょう!」
「でも今から彼女を呼んでる時間も無いわね。困った……」
「そうだ。咲夜さんにこの装置の時間を止めてもらって、それから処理しましょうよ!」

美鈴、ナイスアイディア。三人は咲夜の部屋に駆け寄ると、蹴破るようにしてドアを開けた。

「大変なんです咲夜さ――――」

咲夜は床の上で激しい痙攣を繰り返している。妄想しすぎて何かがブチ切れたようだ。

「ダメだわ、これじゃ話も出来そうにない。私たちで何とかするしかないわね」

急にキリッとした表情でそう言い放つと、パチュリーは装置に向かって歩み出した。
おっ、何やら頼れる気配。

恐る恐るといった感じで、アリスと美鈴がそれに続く。
状況は悪化の一途を辿っている。だが。
それでもパチュリーなら……パチュリーなら、きっと何とかしてくれる……!

パチュリーはキリリとした表情で、紫電を放つ装置をあれこれといじり始めた。
息を呑んでそれを見守る二人。

と、やけにさっぱりとした表情でパチュリーが二人に向き直った。

「どう? 直せそう?」
「どうですか? 鎮まりそうでしょうか」

期待を込めた瞳を向けてくる二人に対し、知識の魔女はひどく清々しい表情でこう言った――――


「もうだめかもわからんね」


紅魔館前広場は、妄想の炎に包まれた。












「う、う……ん……」

くらくらする頭を振りながら、アリスは上半身を起こした。咄嗟に抱え込んだ人形たちは無事なようだ。
周囲はあらゆるものが吹き飛び、惨憺たる有様である。
少し離れたところに、大の字になってのびている美鈴がいた。
アリスは慌てて彼女に這い寄った。

「門番さん、大丈夫!? しっかりして!」
「あはー良い気持ちだー……ちにゃ!」

がば、と起き上がる美鈴。流石は不死身の門番である。ちょっと爆発したくらいじゃ何ともないぜ!

「よかった、目が覚めたのね」
「うう、なんとか……パチュリー様はどこに?」

周囲を見渡す二人だったが、あたりは一面の瓦礫の山である。

「まさか生き埋めに!」

青ざめて立ち上がろうとしたところ、瓦礫の中で立ち上がる影があった。

「あっ、パチュ――――」

声をかけようとした彼女たちだったが、なにやら様子がおかしい。

ひとつ。ふたつ。みっつ――――

紫煙くすぶる廃墟の中に、次々と立ち上がる影がある。
爆発に巻き込まれてもなお、妄想を止めぬ兵たち……幻想郷屈指の幻視人たちだった。VISIONNERZとは関係ない。


あちこちが焦げた服を纏い、無重力の巫女は静かにこう言い放った。

「拝むとか拝まないとかはいい。賽銭を入れるんだ」


縮れた金髪をなびかせ、モノクロームの流星は言った。

「なに、霊夢の使用済みドロワーズだと! そいつをよこせ、わたしは かみに なるんだ!」


ぷすぷすと煙を上げる翼を広げ、夜の王はこう言った。

「霊夢のサラシ ころしてでも うばいとる!」


ボロ切れ同然のメイド服を身に纏い、白銀の従者は言った。

「性欲をもてあます」


まだ火が点いた黒髪をなびかせ、月の罪人は囁いた。

「妹紅と私は宿敵同士。どのようにして、その先入観を打ち破る事が出来るのか。本当に悩ましい」


燃える翼を背に負って、蓬莱人はこう言った。

「あれあれ? 怒らせていいんですか? 復活しますよ。リザレクション」


たとえ炎に包まれようと、欲望は死なない。幻視人は不死身だ。


「お、霊夢じゃないか」
「あら本当。どうしたの? 服が焦げてるわ」
「服のことはいいの。ねえ魔理沙、レミリア。お賽銭ちょうだい」
「お嬢様、翼が焦げていますよ。この咲夜が介抱して差し上げます。さあ。さあさあさあ!」
「ああっ、妹紅。会いたかったの! どうしても伝えたいことがあって――もちろん、性的な意味で」
「そうか! よし殺す!」


六人の兵はすぐさま揉み合いを始めた。


「(茫然自失)」
「し、しっかり! 私たちはパチュリー様を探さないと」

美鈴に励まされ、ようやくアリスは自我を取り戻した。

「そうね。急いで見つけないと」

身体の弱い彼女のこと、瓦礫に長時間埋もれていたらまずい。
二人が周囲の瓦礫をどけようと手を伸ばした、そのとき。

ぞくりとするような気配が、彼女たちを貫いた――

「! この気はいったい!?」
「尋常じゃない魔力を感じるわ……いったい誰!?」

周囲に視線を泳がせた二人は、同じ場所に目をやって硬直した。

月に照らされた、瓦礫の塔の頂上。

そこに、紫の修羅がいた。


「やってくれましたね、みなさん……
 よくわたしの幻視力発電への夢を見事に打ち砕いてくれました……
 集積装置の反応がありませんね……あなたたちが壊したんですか?
 どうやったのかは知りませんが、これはちょっと意外でしたよ……
 それにしても、あと一息のところで集積装置が鉄クズになってしまうとは……
 アリスには残念でしたが、わたしはもっとでしょうか……

 はじめてですよ……
 このわたしをここまでコケにしたおバカさん達は……
 まさかこんな結果になろうとは思いませんでした……

 ゆ……
 ゆるさん……

 ぜったいゆるさんぞ貧乳ども!!
 じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!
 ひとりたりとも逃がさんぞ覚悟しろ!!」


襤褸のような紫の衣をたなびかせ、パチュリー・ノーレッジは絶叫した。
いや、こうなったのには貴女も少なからず責任があると思うんですが、どうでしょうね。

「たとえパチュリー様でも、邪魔はさせませんわ! これからお嬢様は私とめくるめく快楽の、あっ なにをぱら」

咲夜はロイヤルフレアの直撃を受けて、炎の中に消えていった。






しばらく呆然とその様を見つめていたアリスと美鈴だったが、やがて無言のうちに顔を見合わせると異口同音にこう言った。

「逃げましょう」






その頃、紅魔館では。一人だけ置いていかれたといじけるフランドールを、小悪魔やメイドたちが必死になだめていた。
いや、良いんだ。君は行かなくて正解だったよ。






<エピローグ>

翌日は気持ちの良いくらいの晴れだった。空には雲ひとつ見当たらない。
アリスは館の前にいまだうず高く積もった瓦礫の山を見て嘆息すると、門へと向かう。

昨晩は美鈴と命からがら逃げて、それから館の前で別れた。
今にして思えば、まるで悪夢のような出来事であった。
まあ幻視力が電気にも勝るとも劣らぬエネルギー源になることは分かったが、その後がシャレになっていない。
装置の暴走やら人災やら、様々な要素が噛み合って生まれた悪夢ではあったが、やはり実験に一枚噛んでいた自分にも責任はある。
そう考えたアリスは、すぐに紅魔館を訪ねたのだった。

門の前で美鈴と顔を合わせる。

「こんにちは。昨晩は災難だったわね」
「あっ、どうも。いやいや、参ったわねー」
「みんなの様子はどう?」
「館の皆なら大丈夫。ちょっとやそっとで死んだりしないから」

昨晩、ブチ切れたパチュリーvs幻視人連合軍の死闘はかなりの長期戦となり、興奮しすぎたパチュリーがいろんな穴から血を噴きだして倒れるまで続いた。
力尽きたパチュリーと、灰になる寸前だったレミリア・咲夜は館の住人たちによって保護され、すぐさま館へと運び込まれた。
霊夢と魔理沙、輝夜と妹紅は互いに激しく揉み合いながら、いずこかへ消えていったという。
まあ、無事だろう。根拠は無いが断言できる。

美鈴と別れたアリスは小悪魔の案内でレミリア・咲夜に見舞いの品を届け、図書館へと向かった。
なにやらパチュリーから伝言があるという。

「テーブルの上に置手紙をしているそうですよ。パチュリー様は、一番奥の部屋で寝ていらっしゃいます。それでは宜しくお願いしますね」



アリスは重い扉を開き、図書館へと踏み入った。
小悪魔の言葉通り、一番最初に目に付くテーブルに手紙が置かれている。横には湯気を立てる紅茶が置かれていた。

手紙を手に取り、文面に目を通す。いつもは几帳面な彼女の文字も、激闘のあとのせいかあちこちが不恰好に歪んでいる。
一枚目には騒動に巻き込んだことに対する謝罪と、まだ指輪を嵌めたままの幻視人たちに対する対処について簡潔に書かれていた。
指輪にかけていた術式は解除し、ただの指輪に戻しておいたとのことだ。
アリスも指輪については気になっていたが、これなら大丈夫だろう。
二枚目には、なんともう“幻視力発電・第二回実験計画”について書かれていた。
まったく懲りないんだから、と溜息をついた彼女の手元から、手紙に添付されていたと思しきメモがすぺり落ちた。




「アリス・マーガトロイド様へ

 やあ。ようこそ、ヴワル魔法図書館へ。
この紅茶はサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。

うん、「また」なの。御免なさいね。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていないわ。

でも、あの実験をしたとき、貴女は、きっと言葉では言い表せない
「充実感」みたいなものを感じてくれたと思う。
安穏とした幻想郷で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、あの実験を計画したのよ。

じゃあ、次の作戦を練りましょうか」



本当に懲りないやつだ。

まあ確かに、私が世間話で電気のことさえ話さなければあんな騒動にはならなかったんでしょうけど……

アリスはひとり苦笑すると、パチュリーのいる部屋に向かって歩き出した。






“Visionary Power Generation”is Melt Down.
「幻視力発電」、これにて完結です。
初めて書く作品ですので至らぬ点は多々あることと思いますが、すこしでも「くすっ」と笑って頂けたならば
この上ない喜びです。

幻想郷の住人たちには多面的な魅力があり、シリアス・ほのぼの・燃え・コメディなどなど色んな切り口があります。しかし、彼ら彼女らにはおバカな騒動で右往左往しているところが一番似合うなあ、なんて考えてしまうのは私だけでしょうか?


それでは、またご縁があったならばお会いしましょう。
当分、まとまって書く時間は取れないと思いますが……。皆さまと幻想郷に幸あれ!
しかばね
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コメント



0.7230簡易評価
1.807削除
そーいや、アレから20年と1日経ちましたね…
3.60与作削除
過程でのぶっ壊れとテンションの上がり方はかなりイイですな。
惜しむらくは、ちっとオチが弱い、というか、あっさりまとまり過ぎてるあたりか。感動系や教訓話に繋がないなら、もっと突き抜けて終わっても良かった気もします。個人的な好みかもしれないですが。
処女作ということですし、この先、期待しております。
6.70名前が無い程度の能力削除
フリーザ様キタコレ
絶対暗記してるよこの人
8.90名前が無い程度の能力削除
も、もこおおおおおお(つДT)
12.100じょにーず削除
わらいすぎておなかいたい
15.100削除
ネタノオンパレードデスネコレハ
腹痛いッスよこr
18.90はむすた削除
輝夜様のいかれっぷりにフジヤマがヴォルケイノしちゃう!
22.100名前が無い程度の能力削除
家族がいたから笑いをこらえるのに必死でしたw
GJ!!
24.70数を書き換える程度の能力削除
>「妄想特急、発進!」
とっても詳しいあらすじですね!'▽')

どうせなら最後のエピローグまで突っぱしる方が個人的には好みですが、
内容とネタは中々でしたので満足でした。
次回作にも期待ということで+10点で。
30.80変身D削除
いや、この紅魔館はもう駄目ですね(w 美鈴以外壊れすぎて笑いました。
あと、ラストが意外に爽やかだったのが意外でしたねー。
非常に楽しいお話、堪能させて頂きました(礼
35.80王様になれない程度の能力削除
>すこしでも「くすっ」と笑って頂けたならば
いやいや、かなり笑わせていただきましたw
みんなのイカレっぷりが面白かったです。
43.90名前が無い程度の能力削除
ちょwwwバカスwww
45.70名前が無い程度の能力削除
てるよやばいよてるよ
46.70跳ね狐削除
途中から失速してしまったように感じますけど、存分に笑わせて頂きました。というか危うく椅子から転げ落ちるところでした。
ただまぁ最後は綺麗に終わらせるよりも、突っ走っちゃってもいいんじゃないかなぁ、と思いましたけど。

そしてフリーザ様なパチュリーがもうなんか懐かしさと爆笑の琴線に触れまくってもう……
47.100SETH削除
幻視力いざよいさくや ですねw
48.100名前が無い程度の能力削除
幻視力よ永遠にィィィィィ

妄想出力最大ッ!
49.無評価KOU削除
VISIONNERZワロタwwwwww
元ネタ知ってるから余計に笑えましたよ!
50.80KOU削除
点数入れ忘れorz
53.90名前が無い程度の能力削除
ク、クッソォゥ!キチガイだ!
死ぬほど笑わせていただきました。
55.90名前が無い程度の能力削除
やっぱり幻視力災害は恐ろしいですね…
後に、この原理を利用した幻視力爆弾により幻想郷に恐るべき喜劇が……
なんて事にならないようにこの技術は禁忌とすべきですな。
57.90名前が無い程度の能力削除
正気にては大業ならず
でも皆ハッスルし過ぎですよ
58.80名前が無い程度の能力削除
猛烈なネタの嵐に脱帽
おなかいたい
61.100名前が無い程度の能力削除
もう笑うしかない...
67.100名前が無い程度の能力削除
ちょwwwwwwwwwwwwwっをまwwwwwwwwwwwwwwwwww
68.100名前が無い程度の能力削除
いいよいいよ
71.無評価しかばね削除
拙作をお読み下さった皆様に、心より感謝申し上げます。
話の内容がかなりやりたい放題なので、軽やかにスルーされるんじゃないかと
内心ではビクビクしていたのですが……。
皆様から頂けたコメント・点数、ともに身に余る光栄と感じております。

もう一度お礼を述べさせて頂きます。本当にありがとうございました!
77.90ぐい井戸・御簾田削除
なにをぱら
102.90ハッピー削除
フリーザ様好きなパチュリーはどこかで見たような気がします。
そんなことは関係なく面白かったです。
107.80名前が無い程度の能力削除
妄想 を もてあます。
115.90名前が無い程度の能力削除
うわあああああ!
121.100名前が無い程度の能力削除
とてもよかった。性的な意味で。
124.80真十郎削除
一日に浴びていい幻視力の許容量は決まっているんですね!
126.90名前が無い程度の能力削除
テラバカスwwwwwwwwwwwww
133.90名前が無い程度の能力削除
復活しますよ。リザレクションで臨海突破w
139.100名前が無い程度の能力削除
なんという紫魔女。ここまでネタ満載だとは
妹様が加わっていたらどう見ても紅魔館の危機です本当に(r
144.90名前が無い程度の能力削除
は、腹痛え
これは、こ、これはもう
「もうだめかもわからんね」
150.90名前が無い程度の能力削除
ネタ満載ですな。
152.100名前が無い程度の能力削除
パチューザ様自重wwwあなたも貧乳ですwww
171.80名前が無い程度の能力削除
あのままめーさくに雪崩れ込んでもおもしろかったのにwww
オチがちょっと弱めでしたが充分楽しかったです!
196.100名前が無い程度の能力削除
こんなん笑うに決まってんだろw