昼もなお薄暗い、紅魔館の図書館にて。
ぱらぱらと魔導書のページを捲る指先をふと止めて、アリスは向かいの席に腰掛けている魔女に語りかけた。
「ねえ、貴女……電気って知ってる?」
「電気? 聞いたことがあるような、ないような」
図書館の主はちょっと考える素振りをみせてから、そう返した。
魔女と人形遣い――パチュリーとアリスは、ぼんやりと本を読みながら世間話をしている。
図書館の常連と言うと元気良く押し入って颯爽と蔵書を略奪していく黒白魔法使いを思い浮かべるところだが、夏の宴会騒動をきっかけに知り合ったこの二人、共に「弾幕はブレイン」という思想に共感し合ったのか、いつの間にやら一緒に読書などする間柄になっていた。
常日頃、主にはもっと社交的になってほしいと願っているという司書の小悪魔はやけに喜んでいるらしい。
「この前、たまたま霊夢と一緒に古道具屋に行ったんだけれど……えっと、確か香霖堂といったかしら。そこで珍しいものを見たのよね」
「珍しいもの?」
「中くらいの箱状のもので、“冷蔵庫”という名前だと店主さんから教わったわ」
「冷蔵庫。聞いたことないわね」
「別に冷却系の術式をかけている訳でもないのに、そこに入れておいたものは冷たいままになるらしいの。外の世界から来た道具なんだって」
「外の世界の道具、ね。ちょっと興味あるわね」
「私も動いているところを見たかったんだけど、特殊な力がないと動かせないらしくて……」
「特殊な力? ああ、それが電気というものって事かしら」
流石はパチュリー、話が早い。アリスは頷くと、外の世界では電気とやらが重要なエネルギー源になっているらしい、と教わったことを語った。
「電気、ねえ。私たちの世界で言うところの魔法とか、式みたいなものかしら」
「たぶんそうじゃないかしら。外の世界には、電気の力で動く人形もあるって話よ」
この何気ない世間話が、後に多くの面々を巻き込む惨事に発展しようとは――この時のアリスには、知るよしも無かった。
さて、アリスと話をした数日後。
パチュリーは蔵書の山に埋もれながら、ぼんやりと電気の話を思い出していた。
(外の世界のエネルギーか……どんなものなのかしら)
様々な分野の本を読み漁ってきた彼女だが、流石に外の世界についてはあまり多くを知らない。
月の事件の後に、レミリアから「ロケットを作って月まで行けないかしら」と真顔で相談されたことがあった。
ロケットを作り、月へ行くのにどのような材料が必要となるかは調べ上げることが出来たが、そのロケットを月まで飛ばすのには膨大な量のエネルギーが必要になることがわかり、そこで月旅行計画は休止状態になっている。
(膨大な量のエネルギー…………そうだわ!)
ふと何かを思い付いたのか、本の山の中でパチュリーは上半身を起こした。
今日は体調も結構良いし、思い立ったが吉日。早速試してみましょう。
それからパチュリーは自室に篭り、何事かと陰から見守る小悪魔をよそに何やら怪しげな作業に没頭し始めた。
それから暫くして。
まったりと読書を楽しむアリスに、パチュリーがおもむろに話を持ちかけた。
「ねえ、アリス」
「何かしら?」
「この間、電気の話をしたわよね」
「ええ」
「もしかしたら、の話だけど。私たちにも電気みたいなものが作れるかもしれないわ」
「えっ!?」
思わず顔を上げるアリス。そんな彼女の反応が何気に嬉しくて、パチュリーはどことなく楽しげな表情で話を続けた。
「まだ構想の段階でしかないけれど、ちょっと作ってみたものがあるの」
そう言うと、彼女は懐から指輪を取り出しテーブルに置く。不思議な光を放つ小さな石が埋め込まれているのが見て取れた。
「この指輪は?」
「これは、嵌めた者の意識や想像力のエネルギーを変換する装置みたいなものなの。これを使って――」
話を続けようとした矢先、入り口の方から勢い良く扉の開く音がした。
「ここではお静かに」が基本の図書館に、こんなに堂々かつうるさく入ってくるような人物は彼女らが知る限り一人だ。
「よう。お邪魔するぜ」
ふう、と半ば諦め気味に溜息をつき、パチュリーとアリスは異口同音にこう零した。
「何よ、また来たの?」
「おう、また来たぜ」
まあ、これは彼女たちなりの挨拶のようなものだ。
「今日も有難く――っと、何だそれ?」
流石は蒐集家、実に目ざとい。侵入者・霧雨魔理沙はテーブルの上に置かれた小さな指輪を早速発見。
予想通りの反応に、二人は思わず苦笑した。
「別になんだって良いでしょ――と言いたいところだけど、まあ丁度良いわね。実はちょっと試してみたいことがあって……」
パチュリーとアリスが魔理沙に電気の話をしたところ、魔理沙も興味津々といった様子でそれに聞き入った。
こうして、「電気のようなものプロジェクト」は魔法使い三人の共同計画の様相を呈し始めた。
その日の晩に、パチュリーはレミリアに計画について話をすることにした。
「ちょっと試してみたいことがあって……紅魔館前の広場で実験をしてみたいんだけど、良いかしら?」
「あら、どうしたの改まって。別になんだって、気兼ねなくやっちゃって良いんじゃない?」
紅魔館の主・レミリアは申し出をあっさり承諾した。
傍らで紅茶を淹れていた咲夜が苦笑しながら言う。
「あら、よろしいんですかお嬢様? またいつぞやみたいな事になるかも知れませんよ」
「う、確かにあれは失敗だったわ……反省してる」
咲夜の言葉に、肩身の狭そうな表情をするパチュリー。
いつぞや、というのは月旅行計画の第一段階として、「フランドールのエネルギーでどこまで物体を飛ばせるか?」という実験をしたときの事である。計画タイトルからして非常にシンプルかつ危険な香りが漂っているが、そこは気にしてはいけない。
「今でも不思議に思いますが、よく美鈴は無事でしたね」
「あの時は本当にすまない事をしたわ」
ロケットを飛ばすには推進力、つまりストレートなエネルギーが大切だ。という訳で、ロケットを模した模型の中に一人が乗り込み、それを
フランドールがかっ飛ばしてみるという実験と呼ぶのもおこがましいような原始的な試みがなされたのである。
危険なミッションということで「誰がロケットもどきに乗るか?」という議題でメイド隊、門番隊、小悪魔による朝まで生討論が繰り広げられた。
なお、この適当な計画を思い付いたパチュリー(実はちょっと酔っぱらっていた)と傍観者であるレミリア、咲夜はひっそりと存在感を消し、物陰から様子を窺っていた。卑怯なやつらだ。
そういったシーンでとばっちりを受けるのは、大抵が美鈴である。根が優しくお人好しの彼女は、計画の全貌も知らされぬままに
「ロケットもどきに乗ります」という紙にサインをさせられてしまった。
翌日の晩、ロケットもどきの横に何故かフランドールが立っているのを見て不思議に思った美鈴が咲夜に事情を尋ね、そこで不幸な門番は計画の全貌を知ったのである。
「そ、そんな……! 私、そんな話聞いてません! ただロケットみたいなものに乗れば良いんですよって言われただけなのに」
「その話は誰から聞いたの?」
「門番隊の皆からですが」
咲夜は心の中で涙した。
「美鈴」
「はいなんでしょうかさくやさん」
「……無事に帰ってきてね」
「ぜぜぜぜんしょしますす」
混乱と恐怖のせいか、すでに台詞がおかしくなっている。
見守る皆の手前みっともなく騒ぐことも出来ず、泣きながらロケットもどきに乗り込む美鈴。
彼女を取り囲むように集まっている面々は、「やっぱりやめときましょうよ」などと言う事もなく、遠巻きにそれを見ているだけである。
ひどい。なぜ私がこんな目に……! これから私はひどい目に会うのに、他のみんなは見ているだけだなんて!
憤懣やるかたない想いをせめてぶつけようと、美鈴は観衆に向けて叫んだ。
「ナズェミデルンディス!」
なかば錯乱していたせいか、発音が少しおかしくなってしまった。
滂沱の涙を流し、敬礼しながらそれを見送る紅魔館の住人たち。何故かレミリアまで敬礼している。
「よーし! いっくよー!!」
そんな住人たちの心境などお構いなしに、フランドールはこの上なく元気にロケットもどきに力を叩き付けた。
多少の力加減を覚えたとはいえ、その威力は推して知るべしである。
早速、部品のいくつかが吹き飛びメッキが剥がれ落ちた。
取り付けられた小窓から、号泣する美鈴の顔がちらりと見える。
「ああ、やだっ! やっぱりまだ死にたくない! 死にたくない死にたくない死にたくない、死にたわっ」
――それが、住人たちが聞いた美鈴の最期の言葉だった。
満月に吸い込まれるかのようにロケットもどき(だったもの)は猛スピードで飛行を続け、あっという間に点になって消え失せた。
泣きながら崩れ落ちる門番隊。
「見て、あの紅く輝く星を。あれが隊長の星よ」
「私たちを見守ってくれてるのね!」
「惜しい人を亡くした……」
「うぬこそ真のますらおであった!」
いや、隊長騙したのはお前らだろ。
門番長・紅美鈴、殉職。
……と思われたその日の明け方。紅魔館の門を叩くものがあった。
「どなたです? こんな時間に……いぃっ!?」
美鈴亡き後(既に死んだと思われていた)、リーダーの座を臨時で引き継いだ門番は我が目を疑った。
目の前に立っているのは夜空の星になったと思われていた紅美鈴、その人だったのである。
「たたたたた隊長っ!?」
「我回来了(゚∀゚)」
思わず彼女は、目の前にいる美鈴に足がついているか確認してしまった。
「ご無事だったんですね!」
「是不太安全的(爆)」
心身ともに多大なショックを受けたせいか、なにやら様子がおかしい。
「我回来了回来正下面(笑)」
「ちょ、ちょっと待ってて下さい。すぐに誰か呼んできますから!」
慌てて館へと走る彼女に一瞥もくれず、美鈴は空ろな瞳で何事かを呟き続けている。
しばらくして、臨時門番長は咲夜とともに戻ってきた。
「め、美鈴!!」
「愛惜空中落下(謎爆)」
「無事だったのね……さあ、早く館に戻りましょう!」
「ちょwww紅魔館wwwwwwうえっうぇwww」
二人に支えられ、壊れたロボットのように館へ歩みだす美鈴。何がどうなったのか分からないが、彼女は奇跡の生還を果たした。
これ以降、「紅魔館の門番は不死身」という噂が近隣でまことしやかに囁かれるようになったという。
後日、事の真相を知った美鈴が門番隊を袋叩きにした後に図書館に殴りこみ、とてもにこやかな表情でパチュリーの首を締め上げていたところを周囲が必死になって止めたりもしたのだが、それはまた別の話である。
その現場に居合わせた小悪魔は、「顔まで紫色だった」と文々。新聞の取材で語った。
「まあ、あの時は私も自業自得だったわね……」
苦い表情でその一件を思い出すパチュリー。
「でも今度は大丈夫よ。魔理沙とアリスも手伝ってくれるというし」
「人形遣いはともかく、アイツが絡むのはちょっと心配ね。平気なの?」
「心配しないで。前ほど危ない実験ではないし……それに、これが上手く行けばロケットの話もあながち夢ではなくなるわよ」
「えっ、本当?」
「あら、ロケット。それは楽しみですわね」
ロケットという単語が決め手となり、パチュリーは紅魔館前の広場で実験する許可をとりつける事が出来た。
さて、場所を確保した次は協力者の存在が重要である。
パチュリーは図書館を訪ねた魔理沙に実験成功には複数人数が必要であることを話し、知人友人に協力を募ってほしいと頼んだ。
魔理沙は顔が広いし、何人かはすぐに集まるはずだ。
その間にアリスと共にエネルギー集積装置の作成に取り掛かる。
いつもは本に囲まれているだけで幸せな彼女であったが、「こういうのも悪くないな」と感じるようになっていた。
さて、そうこうしている内に時間は流れ――
夜の紅魔館前広場に、協力者の面々が集まった。
「今日はわざわざありがとう。感謝します」
パチュリーは実験の話を聞いて集まった協力者たちに礼を述べた。
今回の実験に参加するのは以下の面々である。
博麗 霊夢、「実験に協力してくれれば報酬は出します」の言葉につられて参加。
霧雨 魔理沙、「せっかくだから、私は被験者っぽい方を選ぶぜ」と参加。
蓬莱山 輝夜、「退屈しのぎなら何だってOK」と参加。
藤原 妹紅、「てるよが行くなら私もいくよ」となんとなく参加。
レミリアと咲夜は、「なんか危なくなさそうだし、ついでに」と参加。
なお、マヨヒガと冥界の皆様はスキマ温泉旅行にお出かけのため不在であった。
「人を集めて実験なんて、珍しいわね。いったい何をやるの?」
霊夢が不思議そうに尋ねる。手伝うとは言ったものの、彼女らは詳細を知らない。
逆に言えば詳細を知りもしない怪しげな実験にホイホイと協力することになるが、そこは幻想郷のアバウトさで適当に流す。細かいことは気にしないのが一番だ。
よくぞ聞いてくれた、といった感じにパチュリーが答える。
「今回の実験は“幻視力発電”よ」
「なんか物騒な響きねぇ」
思わず突っ込む霊夢。
「これから皆にはこちらで用意したアイテムを装着してもらって……」
人数分の指輪を見せながら、パチュリーは説明を続ける。
「それぞれ個別のテーマをもとに“想像”をして欲しいの」
今回の実験の概要はこうである。
パチュリーが製作したマジックアイテムの指輪に、それを身に着けた各人が想像したイメージを流し込む。
指輪には想像力の強さをエネルギーに変換する術式が組み込まれており、そのエネルギーは各指輪から集積装置へと集められる。
集積装置に集められた想像力エネルギー=「幻視力」は内部にある動力炉に蓄積され、その目安は備え付けられたメーターに表示される。
なお、集積装置には香霖堂の提供による「電球」なる装置が取り付けられており、上手く行けばこの電球が光るはず――という寸法だ。
この装置は細かい部分が多く、手先の器用なアリスの協力なしに完成させることは難しかっただろう。
また、エネルギーのスムーズな伝達のために「気の流れ」の力を借りようと思い付いたパチュリーは、美鈴にも協力を願い出た。
実験、という単語を聞いただけで理性を失い震え始めた美鈴だったが、頭を下げたり必死になだめたりして、なんとか助力してもらったのである。
「なお、集めたエネルギーはこの二人が調整してくれます」
パチュリーの紹介を受けて、アリスと美鈴が登場。美鈴はまだ微かに震えており、アリスは心配そうにそれを見つめている。
初対面同士の挨拶なども済み、いよいよ実験開始とあいなった。
「じゃあ、仮設実験場に行きましょう」
パチュリーの案内で、一同は紅魔館前広場に急遽作られた実験場に入った。
「では、これから実験を開始します。指輪は着けてくれたかしら?」
どことなく神妙な面持ちで頷く六人。
「では、これから指定した個室に入ってもらいます。まず霊夢はそこの部屋ね」
「……なんで個室に?」
「まあ、変なことにはならないから安心して。宜しく頼んだわよ」
まず霊夢が左端の小部屋に入った。
「次は魔理沙とレミィ、霊夢の隣の部屋に入って」
「あー、吸血鬼と相部屋か? なかなかにスリリングだぜ」
「別にあんたの血は吸わないわよ」
「咲夜は二人が入った部屋の隣ね」
「了解です」
「で、あなたはこの部屋に」
「はいはい。あら、私は妹紅と相部屋じゃないのね。寂しいわー」
「はいはい、とっとと行け。私は別に寂しくない」
「では、あなたは最後の部屋に」
「あいよー」
こうして、協力者全員が各部屋に入った。
「皆、聞こえるかしら? いよいよ実験を開始します。部屋の中に、それぞれの名前が書かれた封筒が置いてあるはずです。
相部屋の二人は互いに内容を見られないように気をつけて、他の皆は何も気にせずスパッと封筒の中身を見てちょうだい」
「まったく、妙な実験ね……と、何かしら?」
霊夢は訝しみながらも指示通りに封筒を開け、中身を取り出した。
折りたたまれた紙が入っており、そこには「あなたの幻視テーマ」と書かれている。几帳面な文字だ……パチュリーの直筆かもしれない。
霊夢は文面に目を通す。そこには以下のように書かれていた。
「こんばんは、博麗 霊夢さん。
あなたがお住まいの神社の賽銭箱、いつも中身が寂しいですね。そのせいで暮らしぶりも寂しいあなたを見ていると、私も寂しい。
さあ、思うがままに想像してみて下さい。箱が膨張するくらいに詰まっている賽銭を…… レッツ幻視!」
霊夢はしばらく硬直していた。賽銭箱が寂しいなんて、余計なお世話よ――などと一瞬考えたが。
賽銭箱。
賽銭。賽銭。――賽銭。
ああ、なんと抗い難い響き。小銭が入っていると思い、必死に手を伸ばして掴み取ったものがただの小石だったときのやるせなさ。
ふと覗き込んだ賽銭箱に、錆びた銅貨が入っているのを見つけた瞬間の、雷に打たれるかのような衝撃と喜び。
――賽銭。
指先が震え、涙が溢れる。
今ならば、五円玉の穴の向こうに極楽浄土を視ることも可能な自信がある。
さあ、約束の地へ――
博麗 霊夢の意識は、小銭の国へと旅立った。
「あー、ばっちり貢献してやるぜ」
魔理沙も指示通りに封筒を開け、中身を取り出した。
「なになに、“あなたの幻視テーマ”?」
「こんばんは、霧雨 魔理沙さん。
いつも中途半端にいろんな人妖とラブラブですね。ですが、そんなあなたが一番気になるのはやはり霊夢のことではないでしょうか。
そう――今、あなたの隣の部屋にいる彼女です。サラサラの黒髪が素敵にキューティクルでハハーンな彼女です。
いつぞやの飲み会では、あわやキスというところまで行ったのに惜しかったですね。ですが、彼女は貴女一人のものではありません。
多くの人妖に慕われています。例えば、そう……今あなたと同じ部屋にいるレミィとかに。
レミィも結構いろいろとアプローチしているみたいですよ? いつぞやは神社の縁側で押し倒すところまで行ったそうです。
さあ、ここまで読んで何も思わない貴女ではないでしょう。思う存分想像してみて下さい。
愛しの霊夢と○×$したり、☆@♀したりするところを―― レッツ幻視!」
(なにっ……! レミリア、私を差し置いて!)
思わず向かい合って腰掛けているレミリアを見てしまう。何故か彼女もこちらを見ていた。
「さて、何かしらね」
レミリアは素早く封を切ると、中の文面に目を通した。
「こんばんは、レミリア・スカーレットさん。
館の皆とは仲良くやっていますか? 霧の事件以降、新たな知人友人もできたようですね。ですが、あなたが一番気になるのはやはり
霊夢のことではないでしょうか。そう――今、あなたの隣の部屋にいる彼女です。
赤いリボンがお茶目で辛抱堪らん彼女です。この間、神社を訪ねたときは縁側で押し倒すところまで行ったのに惜しかったですね。
ですが、彼女は貴女一人のものではありません。多くの人妖に慕われています。例えば、そう……今あなたと同じ部屋にいる魔理沙とかに。
魔理沙も結構いろいろとアプローチしているみたいですよ? いつぞやは飲み会の席で、あわやキスというところまで行ったそうです。
さあ、ここまで読んで何も思わない貴女ではないでしょう。思う存分想像してみて下さい。
愛しの霊夢と○×$したり、☆@♀したりするところを―― レッツ幻視!」
(そんな……! 魔理沙、抜け駆けは良くないわ!)
思わず向かい合って腰掛けている魔理沙を見てしまう。何故か彼女もこちらを見ていた。
二人は異口同音にこう言った。
「こっちみんな」
「ちょっと非日常で、新鮮かも……」
館の雑事以外に関わるのもたまには悪くないな、と思いつつ、咲夜は中の文面に目を通した。
「こんばんは、十六夜 咲夜さん。
館の皆とは仲良くやっていますか? 霧の事件以降、新たな知人友人もできたようですね。ですが、あなたが一番気になるのはやはり
レミィのことではないでしょうか。そう――今、あなたの隣の部屋にいる彼女です。
背中の翼がなんともそそる彼女です。この間、寝ているところを起こすときにドサクサまぎれで胸を揉もうとしましたよね? お疲れ様です。
なんと、彼女には意中の人がいるらしいですよ。かなり積極的にアプローチしており、先日は押し倒すところまで行ったそうです。
このままではレミィを盗られてしまいますよ? そばにいた時間は、貴女のほうがずっと長いっていうのに。
さあ、ここまで読んで何も思わない貴女ではないでしょう。思う存分想像してみて下さい。
愛しのレミィと不夜城レッド。 レッツ幻視!」
「な、なによこの露骨な内容は。私がこんな妄言に惑わされると思って何ッお嬢様に意中の人が負けてられないわバッチリよ任せて!」
瀟洒さの欠片もない反応である。
なぜ先日、胸を揉もうとしたことがバレているのか。そんなことに疑いを抱く間もなく、咲夜の意識は紅色の幻想郷へと旅立った。
「さてさて、何かしら」
暇潰しなら何でもOK。ヒマな不死者、輝夜もまた封筒を開けた。
「こんばんは、蓬莱山 輝夜さん。
いつぞやの騒動ではうちの館のものが一暴れしたようで、ご迷惑をお掛けしました。まあそちらも月を隠していたわけだし、どっちもどっちでしょうか。
さて、あなたの相方である妹紅さんについて耳寄りな情報があります。そう――今、あなたの隣の部屋にいる彼女です。未来永劫もんぺな彼女です。日頃仲良く竹林で殺し愛を繰り広げているようですが、彼女はここ最近思うところがあるらしく、殺し愛の日々を卒業しようかなー、
などと思っているらしいですよ。
付き合いの長い友人の慧音さんによると、ここしばらくの口癖は“新しい生き方を見つけたい”だそうです。
残念ですね。気が遠くなるほど長い付き合いをしていた相手が、人生観をリザレクションさせようとしているようです。
一度、素直に話し合われたほうが良いのではありませんか? さあ、愛しい彼女を幻視しましょう。そして考えて下さい。
これからの二人について……
貴女のハートに、もこたんインしたお!」
輝夜はしばらくポカーンとしていた。
「何が書いてあるのかな……っと」
ヒマな不死者の相方。燃える蓬莱人、妹紅もまた封筒を開けた。
「こんばんは、藤原 妹紅さん。
うちの館のものが“肝試し”とやらで一暴れしたようで、ご迷惑をお掛けしました。災難でしたね。
さて、あなたの宿敵である輝夜さんについて耳寄りな情報があります。そう――今、あなたの隣の部屋にいる彼女です。光り輝く無職の彼女です。日頃から竹林で死闘を繰り広げているようですが、最近彼女の様子がおかしいとは思いませんか?
戦いを終えて一息ついている貴女に擦り寄るようにしてきたり、やけに近くに座ったり、手を繋ごうとしたり……
断言します。それらは全て、貴女を油断させるための罠です。
貴女に近寄ろうとする試みは、接近戦に持ち込んでより念入りに殺そうという意識の現れなのです。
付き合いの長い従者の永琳さんによると、ここしばらくの口癖は“元気があれば何でもできる”だそうです。
恐ろしいですね。初々しいところを見せるようなふりをして、貴女にプロレス技をかけようと企んでいるのですよ。
一度、バトルスタイルについて考え直したほうが良いのではありませんか? さあ、憎いあんちくしょうを幻視しましょう。
そして考えて下さい。華麗な即死コンボについて……」
(そ、そんな……! まだ殺したりないっていうの!? なんて奴!)
妹紅は、悲しいほどに素直な性格であった。
エネルギー集積装置をアリス、美鈴とともに調整しながら、パチュリーはふと思った。
……みんなに宛てた文面、ちょっとえげつなかったかしら。
( ゚д゚ )
すげえ爆発しそう……。
続きがすんごい気になります。
続き楽しみに待ってます。
あと、途中の「顔まで紫だった」に何故か吹きました。
後編、楽しみにしております(礼
美鈴が笑顔で首を絞める所と、その後の小悪魔の感想が最高に素敵。
なぜか、このセリフにときめいた。
北斗残悔拳ですね。わかります。