Coolier - 新生・東方創想話

小悪魔の一日

2006/04/24 05:01:40
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ある晴れた昼下がり。
昼間なのに窓一つ無い紅魔館の図書館は夜のように暗い。
そんな薄暗い図書館の中、小さなランプを片手に飛ぶ小悪魔の姿があった。
本棚の間に下りてはかごの中に入った魔道書を丁寧に取り出す。
背表紙に書かれたタイトルを確認し、本を傷めないように納める。
最後に胸ポケットに閉まってあるメモ帳に戻した確認のチェックをいれ、次の魔道書を戻すため本棚より舞い上がる。
何処までも何処まで行っても続く本棚を眼下に小悪魔は次の目的地に向かう。
まるで知識の全てがあるかのように広がる本棚と本を蔵するヴワル図書館。
初めて訪れた者なら間違いなく迷いそうな本の迷宮を軽やかに舞う。
右へ左へ確実にして丁寧に本を戻していく小悪魔。
司書の名に恥じぬ仕事振りである。

「これで、最後ですね。」

最後の錬金術に関する魔道書を戻しかごの中は空になった。
メモ帳の名前にも全てチェックが入り返却が完了した事を確認する。
仕事が一段落し、ポケットに入った時計を覗く。
時刻は二時半。
何時もより大分早く片付いてしまった小悪魔はしばし考えに耽る。
パッっと電球が頭の上に輝くように何かを思いついた小悪魔は空になったかごを片手に自室に向かうことにした。
ちょっと急ぎ足に向かうその顔はちょっぴり嬉しそうである。
先日、メイド長の咲夜から茶葉を頂いた事を思い出したのである。
多く買いすぎたからとお裾分けしてもらったヌワラエリヤという変わった銘柄の茶葉。
その名前とは裏腹にさわやかな香りとしっかりとした味わいを持つ紅茶。
すっかり気に入ってしまい今朝も二杯飲んでしまったほどである。
歌を口ずさみながら飛ぶ小悪魔。
その瞳に白い何かが飛び込んできた。
ぴたっと空中に静止し、右斜め前方の本棚の隙間に目を凝らす。

「あー、もう溜まってる。」

凝らした目に飛び込んできたのは白い毛玉の群れ。
窓の無い図書館は空気の循環が悪い。
どれくらい悪いかと言うと木製の床に白い絨毯が敷き詰められたみたいに見えるほど毛玉が溜まっていた。
掃いても掃いても何処から沸くのかすぐに群れる毛玉。
東を掃けば西に群れ、北を掃けば南に群れる。
掃除する小悪魔を翻弄するかのように何処からともなく沸いてくる白い毛玉の軍勢。
そんな忌々しい宿敵を見る目は司書の業務に燃えるようであった。
自室に向かうはずであった足を180度向きを変え、白き軍勢を退治する武器の保管場所へ向った。


数分後、身長の3倍はありそうな大きく無機質な箱の前に降り立つ小悪魔。
紅魔館のメイド達なら容易く100匹は詰め込めそうな程大きな鉄の箱は図書館には不釣合いであると感じさせる。
その表面には「小悪魔専用」と血文字で書かれている。
幾重にも鎖が巻かれ、無数の南京錠で完膚なきまでに拘束されている。
紅魔館のメイド達の間では、主人であるパチュリーや、紅い悪魔と恐れられるレミリアでさえ開けるのを躊躇う(ただ開けるのが面倒くさいだけ)と噂される、通称「小悪魔ちゃんのパンドラBOX」が悠然と佇んでいる。
強固に拘束された扉に金色の鈍い光を放つ南京錠の群れ。
怪しすぎるその箱を前に小悪魔は懐から一握りはあるであろうかという大量の鍵を、箱に向けて投擲した。
その手より放たれた無数の鍵が数多ある南京錠の口に寸分も狂いも無く突き刺さる。

「回れ!」

右手を素早く目の前に構え術式を組み上げる。
赤く光る右手。
連動し南京錠に刺さるの鍵の表面が赤く光り輝き、一斉に半回転。
カチンという音と共に開錠される。
南京錠が鎖がばらばらと盛大な金属音をもって床にぶちまけられていく。
その積もり山となった南京錠と鎖の丘を踏みしめ、小悪魔は通称「小悪魔ちゃんパンドラBOX」に近づく。
まるで主人の戦を待ち望んでいたかのように通称「小悪魔(以下略)」はその重量感のある扉を重々しく開く。
中に詰まっているのは混沌に落とす絶望でも、奇跡を起こす希望の光でもない。
詰まっているのは数多のモップやらバケツやら大小様々の箒である。
箱の床には山のような純白の雑巾が敷き詰められていた。
その清掃道具の山から、今回の敵に立ち向かう先鋭達を選抜する。
敵の種類、布陣、勢力、地形、それらをあの一瞬で見極めた小悪魔。
来る日も来る日も果ての無い戦の中に身に付けた洞察力。
研究に研究を重ね、その全てに対応できるよう生み出され共に戦ってきた戦友を背に腰に手に素早く身に付ける。
その時間にして、僅か1秒。
完全武装を施し再び敵地へ舞い戻るため、翼を広げる小悪魔。
残された戦友達は、通称(以下略)の中で小悪魔の勝利を願っていた。


風の無い図書館で毛玉の軍勢がざわめく。
それはこれから始まる戦えの闘争ゆえか、それとも恐怖であるか。
長きに渡って彼らを葬ってきた怨敵の再来を意味していた。
毛玉の長はゆっくりとその上空を見つめる。
音も無く現した黒き悪魔の姿。
その両手には我らを滅するために生み出された神器。
鮮烈の紅い髪と金色の瞳を持つ、エクスキューショナーが図書館の闇より現われ我らを見つめる。

黒い旋風の如く敵地へ疾走する小悪魔。
まさに黒い弾丸。
幻想郷のモノクロを凌駕しえる速度を持ち疾駆する。
目標地点、敵地に向け飛翔する。
時間にして僅か数秒。
毛玉の群れを眼下に慣性を無視するかのようにその場で急停止。
前髪が乱れる。
しかし、額は汗一つかかず、涼しげな顔で眼下の敵を見る。
広がるのは白き毛玉の軍勢。
数にして数万、否、数億を超える軍勢を前に小悪魔は静かに目を閉じる。
――明鏡止水
心は澄み渡りわだかまりも無い。
冥界の剣豪も踏み込む隙を与えない無心の境地。

「は!!!」

金色の瞳を見開き黒き弾丸は風を切る。

白き毛玉の長は目の前で起こる現実を飲み込めずにいた。
瞬きする間に数千の軍勢が、息を呑めば数万の同胞が黒き悪魔に打ち滅ぼされていく。
黒き翼をたなびかせ舞うように両の得物を振るう。
敵ながら可憐かつ、優雅。
本棚と本の間に伏した尖兵達すら悪魔は見逃さない。
我らが同胞は反撃する余地無く散り逝く。
逃げ惑う毛玉、空に逃げようと飛ぼうとする毛玉に容赦なくその神器を振るう。
まさに黒き殺戮者。
まさに黒き排除者。
その思考を最後に白き毛玉の長は神器に絡め取られた。

手から放たれた純白の雑巾は小悪魔の左右に本棚の上に落下していく。
最適な水分量を含んだ雑巾は毛玉を狩るため本棚の上に落ちる。
瞬間、表面に赤い術式が展開。
独りでに滑る雑巾は本棚の上にいた毛玉を一掃しようとする。
ある者が空に逃げようと舞った瞬間、何かに衝突し地に打ち落とされた。
小悪魔の魔力により無数の水球となった水が飛び立とうとした毛玉を打ち落としたのだ。
水球の直撃を受けた毛玉はその綿のような体に水分を孕み、重さに耐え切れず墜落する。
空への退路を絶たれた毛玉は迫り来る雑巾になすすべなく飲まれていった。
その光景に動揺する毛玉の前に降り立つ小悪魔。
両手には小さなはたき。
本棚の隙間や、天板の下に逃げようとする毛玉。
それよりも早く小悪魔は上空を一凪する。
両腰にあるソケットからはたきを目にも留まらぬ速度で変えながら毛玉の潜む隙間に潜らせていく。
毛玉は隙間から追い出され宙を舞う。
そこに待っていたのは魔力によって編まれた水球の群れ。
一つの水球が確実に一匹の毛玉を地に落とす。
その猛攻の前に地に伏す毛玉を待っていたのは、はたきをソケットに戻し二振りのモップに持ち替える小悪魔の姿。
突き出されたモップガ床を撫でる。
迫り来る攻撃を避ける術はない。
毛玉の上空には水球が彼らを警戒するかのように漂う。
吸着力の強い素材を施したモップは一撫でするだけで毛玉を絡めとり床の本来の輝きを取り戻す。
一群を絡め取ったモップの先を外しバケツに放り込む。
毛玉はバケツの底で小さくなり息絶える。
素早く背中にモップを戻す。
その動作で背中に備え付けられた純白の物へと換装を完了する。
そして、次の棚へと走る小悪魔。

白き軍勢はものの数分で全滅した。


 *


「ふぅ、こんなもんでしょうか。」

最後の列を掃き終え、モップの先端をバケツの中に放り込む。
掃除し終えた本棚を前に前髪を整える小悪魔。
その顔には疲れよりも充実感があった。

「うんうん。我ながら見事です。」

すぃっと上空から見下ろす本棚。
数分前とは見違えるほど綺麗になった図書館の光景が広がる。
いつもの日課となってしまった毛玉との戦いもすっかり板についてしまった。
でも、これで終わりでない事を小悪魔は知っている。
この広すぎる図書館の何処かで毛玉は増殖し、戦力を整えている事を。
そんな勝ち目のない戦を前にしても小悪魔は屈しない。
屈するわけにはいかないのだ。
このヴワル図書館、ただ一人の司書である小悪魔は新たな戦の訪れに備える。
戦友を休ませるため、飛び立とうとした瞬間

「マスタースパァァーク!!!」

と叫ぶ声と共に目の前の空間を白く染める。
その魔砲は本棚を本を盛大に吹っ飛ばす。
下に放置していた、バケツは倒れ毛玉の死骸と一緒に水を撒き散らす。

「魔理沙!今日と言う今日は許さないから!」

と主人の声が聞こえ吹き荒れる炎と氷の風。
無数の弾幕となり、本棚に直撃する。
その衝撃に耐えかねた本棚はその重い体を傾け隣の本棚へと衝突する。
その本棚が、隣の本棚を巻き込み将棋倒しのように次々と倒れていく。

「えぇ!?」

その突然の襲来。
毛玉の反撃ではなく、第三者の手によって図書館の平和が乱されていく。
その光景前に手にする戦友が虚しく落ちる。
カランと乾いた音を立てて床に落ちるモップの音は図書館の崩壊の音に掻き消される。

「一冊ぐらい借りたっていいだろ!」
「そう言って、今まで何冊持っていったのよ!」

罵声を飛ばし合いながら繰り広げられる弾幕の応酬。
その度に盛大な音を上げて倒れる本棚、本棚、本棚……。
先程まで小悪魔が戦っていた場所の本棚も倒れ、貴重な魔道書がばらばらと散乱していた。
小悪魔は思う。
繰り広げられる弾幕。
舞った毛玉が弾にあたり弾け、弾幕となって図書館の中に吹き荒れる。
加速度的に広がる被害を目の当たりにして沸き起こる感情。
胸の奥に沸々と沸き起こる感情は何なんだろうと。
それは憎悪なのか悲しみなのか。
自問しても答えの出ないメビウスの円環。
いつしか閉じた円環が開き爆発的なエネルギーとなって小悪魔の体を回る。
行き所を失ったエネルギーは体外へと出て空気を侵食する。
蒸気のように体から立ち昇る黒いオーラ。

「後で、返すって!」
「一冊も返してないくせに!」

小悪魔の異変に気付かず弾幕はさらに密度高め、それに比例して被害も拡大していく。
黒いオーラを背負い、ふるふると身を震わせる小悪魔の左右には普段の倍以上の数を展開する魔方陣。
その一つ一つが目標をロックする。
いつの間にか清掃道具の全てを外し蝙蝠の翼を広げる小悪魔。
その両手に充填済み魔力の塊。
つまり戦闘態勢である。

「いい加減にしてください!!」

その声を引き金に一斉に吐き出される大量の弾幕。
一直線にモノクロの魔法使いと紫の魔女を目指す。

「「え?」」

地を揺るがす程の魔力を感じ取った魔理沙とパチュリーが目にしたのは高速で飛来してくる弾幕。
1ドットの隙間も無く敷き詰められた弾幕に反則だと思う魔理沙。
自慢の弾避けもスペルを使う暇も無く迫り来る弾幕に散るのであった。


 *


何冊目か分からない本を本棚に戻し図書館の天井を見上げる。
そこにはぽっかりと開けられた大穴があった。

「なぁ、パチュリー。日の光って気持ちいいな。」
「現実逃避はいいから手を動かして。今日中に終わるか分からないんだから。」

眩しいほどの日の光につい現実を手放してしまいたい。
背中に越しに相方は現実主義らしく返事がそっけない。
周りには忙しなくメイド達。
瓦礫や本棚を直しをし、自分達が本の整理となっている。
一向に減らない本の山を直視しながら本棚に納めていく。
途中、一冊の魔道書に目が止まった。

「止めておきなさい。今度は殺されるわよ。」
「わ、分かったよ。」

条件反射的に懐に入れようとした手を辛うじて止め、本棚に戻す。
戻しても戻しても一向に終わりの見えない作業に何度目かのため息をついた。
ふと横を向いた先には小悪魔専用と血文字で書かれた大きな箱。
そのすこぶる怪しい箱の前でしゃがみこむ小悪魔の姿が見えた。
どうやら散らばる鎖を箱に巻きつけ南京錠で留めているようであった。
繋いでも繋いでも鎖の山が減っているように見えない。

「サボってないで手伝って。」

背中越しに相方の不満そうな声に作業に戻ることにした。
隣には天にそびえる本の山。
今日中には終わりそうにないなと思いながら再び鎖の山に目を向けた。
そこには鎖に絡まり動けなくなっている小悪魔の姿があった。

「………」

暫く、本の借り出しには気を付けようと肝に銘じる魔理沙であった。


どうもはじめまして、ク~にゃんです。
読み手としてひそひそとしてたク~です。
今回、友人の圧力の前に屈し書いてみました。
書き手としてはまだまだ未熟かと思いしますがちょこちょこと書いていくことにします。
キャラも文章が安定しませんがよろしくです。
ク~にゃん
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コメント



0.1410簡易評価
11.70名前が無い程度の能力削除
小悪魔のクナイ弾って南京錠の鍵だったんですね・・・
14.60名前が無い程度の能力削除
コァー! の掛け声と共にタウンページを投げるんだ! きっと強いお!
15.70CODEX削除
・・・これで初めて!?ク~にゃんさん、怖い子!
「小悪魔ちゃんのパンドラBOX」が素敵すぎ♪
33.100宵闇削除
こぁー(挨拶)
これはいい小悪魔ですね
初めての投稿とは思えません
37.100時空や空間を翔る程度の能力削除
小悪魔ちゃんを怒らせると怖いですね・・・