「~~の書」二章“暗雲”
かぽーん
「ぁぁああぁぁ…いい湯だ~ぜっと♪」
「ちょっと、何時まで湯船に入っているつもり?温まったのなら、さっさと交代しなさいよ。」
結局私は魔理沙と一緒に風呂に入る事に同意した。
湯を沸かす手間、これは下働き用に使っているゴーレムが沸かしてくれるので問題は無い。が、燃料と水量は有限。
一緒に入ってしまえば節約する事ができる。それに…
『シャンハ~~イ♪』
『ホラ~~イ♪』
この子達を洗ってあげなければならない。
二人ともここ最近洗ってあげてなかったし、その上蓬莱人形は魔理沙の口の中に突っ込んでしまった為、色々と目の当てられない状態になってしまっている。
さらに付け加えるならば、私とて年頃の娘。
いくら魔術実験や人形作りの為に、一日二日の風呂無し徹夜が珍しくないとは言え「臭う」とまで言われて風呂を後回しにする理由も無い。
「まぁそう言うなって、風呂の醍醐味ってのはだなぁ、やっぱりこう肩まで浸かって百数えて…文句があるなら一緒にはいれば良いじゃないか。」
「貴女の所の、温泉宿でも開けそうな大浴場でなら、大勢でふやけるまで浸かっていても問題無いでしょうけどね。残念ながら家のお風呂はそれほど広くないの。」
霧雨亭の“大浴場”と異べれば、家の風呂はせいぜいが“浴室”。
“ユニットバス”とやらよりは広いだろうが、洗い場は三人、浴槽は一人が足を伸ばして入れる程度でそれほど余裕は無い。
だから、魔理沙が言う様に二人で浴槽にはいってしまうと…その、色々と目も当てられないというか、毒と言うか…
ともかく絵的・精神的にとても不味い事になってしまうだろう。
「風呂場ぐらい広く作っておけば良いだろうに…」
「女の一人暮らしには、これで十分よ。これ以上広くても掃除に困るしね。」
蓬莱人形を洗ってやりながら、魔理沙の軽口に答える。
…そういえば、こいつは片付けだの掃除だのとは縁の無い女だった。
「魔理沙の家も、たまには掃除ぐらいしなさいよ。いい加減床が抜けるわよ?」
「アリスが手伝ってくれるなら考えておくよ、っていうかそろそろ片付けにきてくれると本気で有難いんだが…」
「あの魔窟の掃除?前人未踏の遺跡調査の方がまだ楽そうね…はい蓬莱、流すわよ。」
頭からお湯をかけられた蓬莱人形が、プルプルパタパタと髪・羽についたお湯をはらう。
上海人形は洗面桶の中で湯に浸かっている…たたんだハンカチを頭かぶせ、足をくんで鼻歌歌って…
上海、なんであんたそんなにオヤジくさいの?
「自分の家で命がけの宝探しができるんだぜ、やっぱり私こそが真のトレジャーハンターと言える訳だ。」
いや、部屋掃除ぐらいで賭けるなよ命。
「妙な事で威張らないの、大体その貧相な胸じゃ張ったところで虚しくなるだk『ざば』…あつ!あつ!あつ!あつつ!あつい~!」
顔は笑顔だが、額にはくっきり青筋浮かべた魔理沙。
なにも本当の事を言ったぐらいで熱湯をかける事もなかろうに。
…しかし本当に発育悪いな、この子は。
いっそ見事なまでの つるぺたすとーん、どこまでも すとーん。
子鬼と張れるプロポーションというのは涙を誘う。
うぅ、哀れな魔理沙。可愛そうな魔理沙。
「やかましい、巨大なお世話だぜ…って気の毒な人を見る目をするなぁっつ!」
あ、泣いた。
「うぅ、アリスだって人の事が言える程大層なプロポーションでも無い癖に。」
「大き過ぎず小さ過ぎず、重要なのは全体のバランスよ♪」
「ふん、二・三年も経てば立場は逆転だぜ。」
負け惜しみをぼやきながら魔理沙が上がってくる。
さて、私もお湯に浸かるとしますか。
「ちょっとまて、背中を流してやるって言っただろうが。」
「…本気だった訳ね。」
「おぅ、私は何時だって本気の真剣勝負だぜ。さぁ、とっとと背中を向けな。」
まぁたまには良いか。
「…変なことしないでよ。」
「いやいやアリス。真面目に勤めさせていただくぜ♪」
語尾の♪が限りなく胡散臭いが、観念して背中を向ける。
「じゃあお客さん、失礼しますよぉ♪」
ごしごし
あぁ、結構気持ちいい。
誰かに背中を流してもらうなんて久しぶり。
魔界を出て以来かなぁ。
ごしごしごし
ふぁ、こう気持ちよいと眠くなってきてしまう。
ごしごしごしごし
結局昨日は魔理沙の看病で、徹夜になってしまったし…
ごしごしごしもぃ
あぁ…気持ち良いなぁ
ごしごしむにむに
「・・・」
むにむにむに
「・・・・・・」
むにむにさわさwガッ!「おふっ!」
裏拳一閃、背中から前の方に手を伸ばしてきた変態を殴り飛ばす。
「だから変なことするなって言ってるでしょうが!!」
「ちっ、気付かれたか。」
「・・・下の方まで手を伸ばしてきてどうして気付かれないって思える訳?」
「そこはそれ、私の華麗なフィンガーテクで!」
「阿呆か!」
据わった目付きで、手をわきわきさせる魔理沙。
いかん、変なスイッチが入ってしまった。
身の危険!身のき~け~ん~!!
上海!蓬莱!何をぐずぐずしてるの!早く私を助けな・・・おぃ
『・・・シャンハーイ(どきどき)』
『・・・ホラーイ(わくわく)』
あぁ!何時の間にそんな『恥ずかしいから顔は隠すけど、興味はあるからつい指の間から覗いちゃう♪』な思考パターンを!
「へっへっへ、可愛いぜアリス。では・・・いっただっきまーす♪」
伝説のル○ンダイブ!こいつ本物の阿呆だ!!
「いぃかげんにしろぉっつ!!」
げしっ
跳びかかってくるケダモノを、ひねりの利いた前蹴りで撃墜。
そのまま振り上げた踵を即座に復活した魔理沙の脳天に落としてやる。
ごす
ばたん
KO!
「うにゃ~」
「人形使いは指が命、カポエラ・テコンドーは乙女の嗜みよ♪」
「うぅ、いい乙女が人前でスッパネリチャギなんかするもんじゃないぜ・・・ガクっ。」
『シャ、シャンハ~イ♪』
『ホラ、ホラ~イ♪』
あんた達も、後で膝詰め説教!
●
「いつつ、相変らず足癖の悪いやつだぜ。幻想卿で五本の指に入るんじゃないか?」
「手癖の悪さ幻想郷一位のあんたに言われたくは無いわね…ほらこっち来なさい、髪拭いてあげるから。」
「うにゃ、そのぐらい自分でできるぜ。」
「あんたの拭き方じゃあ、髪がぼさぼさになっちゃうでしょ。」
「素で綺麗な女はメイク要らずだぜ。」
「そんな事言ってると、二・三年経って後悔するわよ。」
折角素材が良いのだから、磨かないのは犯罪というものだろう。
嫌がる魔理沙を捕まえて、タオルで丁寧に水気を吸わせていく。
私より一回り小さい魔理沙をいじくりまわすのは、人形の手入れをしている様でなんとも気持ち良い。もし私に妹がいるとすれば、こんな感じなんだろうか?
「はい終り、ついでにブラシかけてあげるから、お人形さんは動いちゃ駄目よ。」
「うにゃ~」
柔らかなウェーブを描く金髪を、一房一房丹念に櫛とブラシで仕上げる。
「しかし綺麗な髪よね~。ねぇ魔理沙、一房くれない?」
「・・・好奇心から聞いてみるんだが、何に使うんだ?」
「もちろん人形用♪」
「断固として断る。人形魔法使いに乙女の命と残りの人生売り渡す程ぼけてはいないぜ。」
ちっ
「後ろはこれでよしっと、次は前髪よ。あら?」
なんだろう、ブラシになにか引っかかってる?
「いたたた、乱暴だぜアリス。」
「何か髪に絡んでるみたいなのよ、毛玉かしら?」
少し複雑に絡んでいる様子。
私はこの手のものは解きほぐさずにはいられない性質だ。
「このこのこのっ!えぇいなんで解れ無いのよ!!」
「いたたたっ!痛いイタイ!アリス、ギブギブ!!!!」
「普段から手入れしてないあんたが悪いんでしょ!You gonna”give me” something? Give what ? C’mon !
What the Fuck are tyring to say !?」
「わ~!アリスが害人化してる~!!」
「あと少し・・・これでどうだぁっつ!!」
「い~た~い~っつ!?うわあっ!!!!」
バンッ
「きゃ!?」
ちゃりん
突然の閃光と破裂音。
思わず目を閉じ手を引いてしまう。
「あぁもう!いきなり何するのよ魔理沙!?」
「・・・・・・」
「魔理沙?」
「・・・・・・・・・・」
「ちょっと、魔理沙?」
「・・・あぁ悪いなアリス。ちょっと魔力が暴発しちまったみたいだ。」
「大丈夫なの?」
「問題なしだぜ、アリス?」
「何よ?」
「続きをしてくれないか?今みたいなのは勘弁だけど、さっきまでのは気持ちよかった。」
「今みたいのはこっちも遠慮しとくわ、心臓にわるいったら。だいたいあんたはねぇ・・・」
魔理沙と軽口を叩きあいながら、やさしく髪を梳く。
それはとてもやわらかで心地よい時間だった。
●
風呂から上がり、昼食をとった所で魔理沙が眠気を訴えた為、午後はゆっくりと休む事にした。
斯く言う私も眠くてしょうがないのだ。
魔理沙を客用の寝室に寝かしつけた後、私も自室に戻る。
今すぐにでもベッドに飛び込みたいのは山々なのだが、その前に少し考えを纏めなければならない。
入浴中、食事中、私は何回か魔理沙に何故森の中で倒れていたのか尋ねたのだが、一度もはっきりとした答えが返ってこない。
『よく覚えていないんだ、大方また実験に失敗して吹っ飛ばされたんだろうぜ。』
確かに今までも何回か実験に失敗した魔理沙が、黒焦げになって目を回しているのを発見した事はある。
しかし、今回はどうにも様子がおかしい。
一昨日の夜、私が感じたマスタースパークの魔力発動は二回。
一回は遠くにある霧雨亭付近から、そして二回目は私の家から少し離れた所にある泉のすぐ傍。
二射目の魔砲の餌食は、広場に残された痕跡からして魔獣。
恐らくは三頭の魔犬“ケルベロス”たしかに少し厄介な相手ではあるが、魔理沙の敵では無い。
マスタースパークを使うまでも無い格下の相手、だというのに二射目の魔砲の出力は一回目より格段に上がっていた。おそらくは、オリジナルである風見幽香のそれを大きく上回る程に。
魔理沙は他人の魔法を自分のものにする事に長けている。
今や魔理沙の代名詞ともなった恋の魔砲「マスタースパーク」
全周囲をなぎ払い、魔砲の欠点を埋める「ノンディレクショナルレーザー」
これらの魔法は、元来幽香やパチュリーの様に無尽蔵の魔力を持っていなければ使う事は難しい。
いくらミニ八卦炉やスペルカードの助けを借りるとはいえ、人間の体・魔力でそうおいそれと使う事のできる魔法では無いのだ。
それを魔理沙は、魔法の術式を解析・変更・再構成する事により、手足の様に使いこなす。
また、八卦炉や魔理沙愛用の飛行箒“ブレイジングスター”などといった魔宝具それ自体も、並大抵の術者では制御する事も適わない・・・私も以前魔理沙に頼み込んで箒を貸してもらった事があるのだが、ものの見事に振り落とされてしまった。
話がそれてしまったが、ともかくそれら魔理沙の力は、彼女が一つ一つ確実に自分のモノにしてきた血の滲む努力の過程だ。
常に魔法の研究に余念の無い魔理沙故に、個々の魔法の完成度は日々向上している。
だが、それは同時に極端な飛躍が無いという事でもある。
あの時、二射目のマスタースパークの魔力は、確実にその限度を超えている。
魔理沙の奥の手である最後の魔砲“ファイナルマスタースパーク”と比較してみても、まだ桁が違うだろう。
ましてや、魔理沙の魔力であの出力を出そうとするならば、自らの防御結界を解除するしかない。しかしそれは、魔砲の反動で彼女の体が吹き飛ぶ事を示している。
放てるはずの無い一撃。しかしあの時私が感じた魔力の波動は、確実に魔理沙のものだった。
森の中で魔理沙を発見した時こそ錯乱していた様ではあるが、今現在心身共にこれといった異常がある様にも見られない。
・・・異常は無い、だが嫌な感触がする。
これは勘だ。巫女のそれとは違う魔女の勘。
でも、分からない。
何がそんなに気に障るのか・・・
「ふぅ・・・」
胸に溜まった澱を吐き出すように息をつく。
一人で考え込んでも埒が明かない。
明日にでもパチュリーの所に相談にいってみよう。
魔理沙の看病や、風呂場でのドタバタがあったとはいえ、今日はなんだかとても疲れてしまった・・・まるで力が吸い取られてしまった様。
あれ?
急に
床が
横に?
どさっ
私、
倒れて?
あっ
駄・・・目・・・
意・識を・・・
保・・て・・・な・・・・・
魔・・・理・・・・・・沙・・・・・・・・・・・・
『うふふふ、ふふふふ』
かぽーん
「ぁぁああぁぁ…いい湯だ~ぜっと♪」
「ちょっと、何時まで湯船に入っているつもり?温まったのなら、さっさと交代しなさいよ。」
結局私は魔理沙と一緒に風呂に入る事に同意した。
湯を沸かす手間、これは下働き用に使っているゴーレムが沸かしてくれるので問題は無い。が、燃料と水量は有限。
一緒に入ってしまえば節約する事ができる。それに…
『シャンハ~~イ♪』
『ホラ~~イ♪』
この子達を洗ってあげなければならない。
二人ともここ最近洗ってあげてなかったし、その上蓬莱人形は魔理沙の口の中に突っ込んでしまった為、色々と目の当てられない状態になってしまっている。
さらに付け加えるならば、私とて年頃の娘。
いくら魔術実験や人形作りの為に、一日二日の風呂無し徹夜が珍しくないとは言え「臭う」とまで言われて風呂を後回しにする理由も無い。
「まぁそう言うなって、風呂の醍醐味ってのはだなぁ、やっぱりこう肩まで浸かって百数えて…文句があるなら一緒にはいれば良いじゃないか。」
「貴女の所の、温泉宿でも開けそうな大浴場でなら、大勢でふやけるまで浸かっていても問題無いでしょうけどね。残念ながら家のお風呂はそれほど広くないの。」
霧雨亭の“大浴場”と異べれば、家の風呂はせいぜいが“浴室”。
“ユニットバス”とやらよりは広いだろうが、洗い場は三人、浴槽は一人が足を伸ばして入れる程度でそれほど余裕は無い。
だから、魔理沙が言う様に二人で浴槽にはいってしまうと…その、色々と目も当てられないというか、毒と言うか…
ともかく絵的・精神的にとても不味い事になってしまうだろう。
「風呂場ぐらい広く作っておけば良いだろうに…」
「女の一人暮らしには、これで十分よ。これ以上広くても掃除に困るしね。」
蓬莱人形を洗ってやりながら、魔理沙の軽口に答える。
…そういえば、こいつは片付けだの掃除だのとは縁の無い女だった。
「魔理沙の家も、たまには掃除ぐらいしなさいよ。いい加減床が抜けるわよ?」
「アリスが手伝ってくれるなら考えておくよ、っていうかそろそろ片付けにきてくれると本気で有難いんだが…」
「あの魔窟の掃除?前人未踏の遺跡調査の方がまだ楽そうね…はい蓬莱、流すわよ。」
頭からお湯をかけられた蓬莱人形が、プルプルパタパタと髪・羽についたお湯をはらう。
上海人形は洗面桶の中で湯に浸かっている…たたんだハンカチを頭かぶせ、足をくんで鼻歌歌って…
上海、なんであんたそんなにオヤジくさいの?
「自分の家で命がけの宝探しができるんだぜ、やっぱり私こそが真のトレジャーハンターと言える訳だ。」
いや、部屋掃除ぐらいで賭けるなよ命。
「妙な事で威張らないの、大体その貧相な胸じゃ張ったところで虚しくなるだk『ざば』…あつ!あつ!あつ!あつつ!あつい~!」
顔は笑顔だが、額にはくっきり青筋浮かべた魔理沙。
なにも本当の事を言ったぐらいで熱湯をかける事もなかろうに。
…しかし本当に発育悪いな、この子は。
いっそ見事なまでの つるぺたすとーん、どこまでも すとーん。
子鬼と張れるプロポーションというのは涙を誘う。
うぅ、哀れな魔理沙。可愛そうな魔理沙。
「やかましい、巨大なお世話だぜ…って気の毒な人を見る目をするなぁっつ!」
あ、泣いた。
「うぅ、アリスだって人の事が言える程大層なプロポーションでも無い癖に。」
「大き過ぎず小さ過ぎず、重要なのは全体のバランスよ♪」
「ふん、二・三年も経てば立場は逆転だぜ。」
負け惜しみをぼやきながら魔理沙が上がってくる。
さて、私もお湯に浸かるとしますか。
「ちょっとまて、背中を流してやるって言っただろうが。」
「…本気だった訳ね。」
「おぅ、私は何時だって本気の真剣勝負だぜ。さぁ、とっとと背中を向けな。」
まぁたまには良いか。
「…変なことしないでよ。」
「いやいやアリス。真面目に勤めさせていただくぜ♪」
語尾の♪が限りなく胡散臭いが、観念して背中を向ける。
「じゃあお客さん、失礼しますよぉ♪」
ごしごし
あぁ、結構気持ちいい。
誰かに背中を流してもらうなんて久しぶり。
魔界を出て以来かなぁ。
ごしごしごし
ふぁ、こう気持ちよいと眠くなってきてしまう。
ごしごしごしごし
結局昨日は魔理沙の看病で、徹夜になってしまったし…
ごしごしごしもぃ
あぁ…気持ち良いなぁ
ごしごしむにむに
「・・・」
むにむにむに
「・・・・・・」
むにむにさわさwガッ!「おふっ!」
裏拳一閃、背中から前の方に手を伸ばしてきた変態を殴り飛ばす。
「だから変なことするなって言ってるでしょうが!!」
「ちっ、気付かれたか。」
「・・・下の方まで手を伸ばしてきてどうして気付かれないって思える訳?」
「そこはそれ、私の華麗なフィンガーテクで!」
「阿呆か!」
据わった目付きで、手をわきわきさせる魔理沙。
いかん、変なスイッチが入ってしまった。
身の危険!身のき~け~ん~!!
上海!蓬莱!何をぐずぐずしてるの!早く私を助けな・・・おぃ
『・・・シャンハーイ(どきどき)』
『・・・ホラーイ(わくわく)』
あぁ!何時の間にそんな『恥ずかしいから顔は隠すけど、興味はあるからつい指の間から覗いちゃう♪』な思考パターンを!
「へっへっへ、可愛いぜアリス。では・・・いっただっきまーす♪」
伝説のル○ンダイブ!こいつ本物の阿呆だ!!
「いぃかげんにしろぉっつ!!」
げしっ
跳びかかってくるケダモノを、ひねりの利いた前蹴りで撃墜。
そのまま振り上げた踵を即座に復活した魔理沙の脳天に落としてやる。
ごす
ばたん
KO!
「うにゃ~」
「人形使いは指が命、カポエラ・テコンドーは乙女の嗜みよ♪」
「うぅ、いい乙女が人前でスッパネリチャギなんかするもんじゃないぜ・・・ガクっ。」
『シャ、シャンハ~イ♪』
『ホラ、ホラ~イ♪』
あんた達も、後で膝詰め説教!
●
「いつつ、相変らず足癖の悪いやつだぜ。幻想卿で五本の指に入るんじゃないか?」
「手癖の悪さ幻想郷一位のあんたに言われたくは無いわね…ほらこっち来なさい、髪拭いてあげるから。」
「うにゃ、そのぐらい自分でできるぜ。」
「あんたの拭き方じゃあ、髪がぼさぼさになっちゃうでしょ。」
「素で綺麗な女はメイク要らずだぜ。」
「そんな事言ってると、二・三年経って後悔するわよ。」
折角素材が良いのだから、磨かないのは犯罪というものだろう。
嫌がる魔理沙を捕まえて、タオルで丁寧に水気を吸わせていく。
私より一回り小さい魔理沙をいじくりまわすのは、人形の手入れをしている様でなんとも気持ち良い。もし私に妹がいるとすれば、こんな感じなんだろうか?
「はい終り、ついでにブラシかけてあげるから、お人形さんは動いちゃ駄目よ。」
「うにゃ~」
柔らかなウェーブを描く金髪を、一房一房丹念に櫛とブラシで仕上げる。
「しかし綺麗な髪よね~。ねぇ魔理沙、一房くれない?」
「・・・好奇心から聞いてみるんだが、何に使うんだ?」
「もちろん人形用♪」
「断固として断る。人形魔法使いに乙女の命と残りの人生売り渡す程ぼけてはいないぜ。」
ちっ
「後ろはこれでよしっと、次は前髪よ。あら?」
なんだろう、ブラシになにか引っかかってる?
「いたたた、乱暴だぜアリス。」
「何か髪に絡んでるみたいなのよ、毛玉かしら?」
少し複雑に絡んでいる様子。
私はこの手のものは解きほぐさずにはいられない性質だ。
「このこのこのっ!えぇいなんで解れ無いのよ!!」
「いたたたっ!痛いイタイ!アリス、ギブギブ!!!!」
「普段から手入れしてないあんたが悪いんでしょ!You gonna”give me” something? Give what ? C’mon !
What the Fuck are tyring to say !?」
「わ~!アリスが害人化してる~!!」
「あと少し・・・これでどうだぁっつ!!」
「い~た~い~っつ!?うわあっ!!!!」
バンッ
「きゃ!?」
ちゃりん
突然の閃光と破裂音。
思わず目を閉じ手を引いてしまう。
「あぁもう!いきなり何するのよ魔理沙!?」
「・・・・・・」
「魔理沙?」
「・・・・・・・・・・」
「ちょっと、魔理沙?」
「・・・あぁ悪いなアリス。ちょっと魔力が暴発しちまったみたいだ。」
「大丈夫なの?」
「問題なしだぜ、アリス?」
「何よ?」
「続きをしてくれないか?今みたいなのは勘弁だけど、さっきまでのは気持ちよかった。」
「今みたいのはこっちも遠慮しとくわ、心臓にわるいったら。だいたいあんたはねぇ・・・」
魔理沙と軽口を叩きあいながら、やさしく髪を梳く。
それはとてもやわらかで心地よい時間だった。
●
風呂から上がり、昼食をとった所で魔理沙が眠気を訴えた為、午後はゆっくりと休む事にした。
斯く言う私も眠くてしょうがないのだ。
魔理沙を客用の寝室に寝かしつけた後、私も自室に戻る。
今すぐにでもベッドに飛び込みたいのは山々なのだが、その前に少し考えを纏めなければならない。
入浴中、食事中、私は何回か魔理沙に何故森の中で倒れていたのか尋ねたのだが、一度もはっきりとした答えが返ってこない。
『よく覚えていないんだ、大方また実験に失敗して吹っ飛ばされたんだろうぜ。』
確かに今までも何回か実験に失敗した魔理沙が、黒焦げになって目を回しているのを発見した事はある。
しかし、今回はどうにも様子がおかしい。
一昨日の夜、私が感じたマスタースパークの魔力発動は二回。
一回は遠くにある霧雨亭付近から、そして二回目は私の家から少し離れた所にある泉のすぐ傍。
二射目の魔砲の餌食は、広場に残された痕跡からして魔獣。
恐らくは三頭の魔犬“ケルベロス”たしかに少し厄介な相手ではあるが、魔理沙の敵では無い。
マスタースパークを使うまでも無い格下の相手、だというのに二射目の魔砲の出力は一回目より格段に上がっていた。おそらくは、オリジナルである風見幽香のそれを大きく上回る程に。
魔理沙は他人の魔法を自分のものにする事に長けている。
今や魔理沙の代名詞ともなった恋の魔砲「マスタースパーク」
全周囲をなぎ払い、魔砲の欠点を埋める「ノンディレクショナルレーザー」
これらの魔法は、元来幽香やパチュリーの様に無尽蔵の魔力を持っていなければ使う事は難しい。
いくらミニ八卦炉やスペルカードの助けを借りるとはいえ、人間の体・魔力でそうおいそれと使う事のできる魔法では無いのだ。
それを魔理沙は、魔法の術式を解析・変更・再構成する事により、手足の様に使いこなす。
また、八卦炉や魔理沙愛用の飛行箒“ブレイジングスター”などといった魔宝具それ自体も、並大抵の術者では制御する事も適わない・・・私も以前魔理沙に頼み込んで箒を貸してもらった事があるのだが、ものの見事に振り落とされてしまった。
話がそれてしまったが、ともかくそれら魔理沙の力は、彼女が一つ一つ確実に自分のモノにしてきた血の滲む努力の過程だ。
常に魔法の研究に余念の無い魔理沙故に、個々の魔法の完成度は日々向上している。
だが、それは同時に極端な飛躍が無いという事でもある。
あの時、二射目のマスタースパークの魔力は、確実にその限度を超えている。
魔理沙の奥の手である最後の魔砲“ファイナルマスタースパーク”と比較してみても、まだ桁が違うだろう。
ましてや、魔理沙の魔力であの出力を出そうとするならば、自らの防御結界を解除するしかない。しかしそれは、魔砲の反動で彼女の体が吹き飛ぶ事を示している。
放てるはずの無い一撃。しかしあの時私が感じた魔力の波動は、確実に魔理沙のものだった。
森の中で魔理沙を発見した時こそ錯乱していた様ではあるが、今現在心身共にこれといった異常がある様にも見られない。
・・・異常は無い、だが嫌な感触がする。
これは勘だ。巫女のそれとは違う魔女の勘。
でも、分からない。
何がそんなに気に障るのか・・・
「ふぅ・・・」
胸に溜まった澱を吐き出すように息をつく。
一人で考え込んでも埒が明かない。
明日にでもパチュリーの所に相談にいってみよう。
魔理沙の看病や、風呂場でのドタバタがあったとはいえ、今日はなんだかとても疲れてしまった・・・まるで力が吸い取られてしまった様。
あれ?
急に
床が
横に?
どさっ
私、
倒れて?
あっ
駄・・・目・・・
意・識を・・・
保・・て・・・な・・・・・
魔・・・理・・・・・・沙・・・・・・・・・・・・
『うふふふ、ふふふふ』
期待させるオーラはプンプンなので今後に期待か
演出とはいえ少々しつこいかな……と
後にアリスが倒れるという演出は凄いと思います。